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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1303431
審判番号 不服2012-24728  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-13 
確定日 2015-07-24 
事件の表示 特願2001-577898「オキシブチニン治療に関連した有害な経験の最小化」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月 1日国際公開、WO01/80796、平成15年10月21日国内公表、特表2003-531157〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成13年 4月24日(パリ条約による優先権主張2000年 4月26日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年 8月 9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年12月13日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がなされ、その後、当審からなされた平成26年10月31日付け拒絶理由通知に対して、平成27年 2月 4日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、平成27年 2月 4日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
過活動性膀胱または尿失禁のための経皮用医薬組成物であって、ここで、該経皮用医薬組成物はマトリックスパッチの形態であり、該経皮用医薬組成物はオキシブチニン治療に伴う薬物副作用を小さくするために用いられ、
(a)該薬物副作用が、抗コリン作用性の副作用、抗ムスカリン作用性の副作用およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、
(b)該マトリックスパッチが、13cm^(2)?39cm^(2)のサイズであり、かつ裏当てフィルムおよび粘着マトリックスを含み、ここで、該粘着マトリックスが、
(i)オキシブチニン塩酸塩、
(ii)アクリルコポリマー接着剤、および
(iii)脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、乳酸またはグリコール酸の脂肪酸エステル、グリセロールトリ-、ジ-およびモノ-エステル、トリアセチン、短鎖アルコール、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される浸透増強剤、
を含み、
(c)該組成物は、1回の4日間の適用期間で、
(i) オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比を0.8:1?1.5:1とすること、
(ii) (R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比を0.5:1?1.3:1とすること、および
(iii) N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度を5ng/ml未満とすること、
ができる、上記経皮用医薬組成物。」

3 当審から通知された拒絶理由3及び拒絶理由5
一方、当審から平成26年10月31日付けで通知された拒絶理由のうち、拒絶理由3及び拒絶理由5の概要は、次のとおりである。
「3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(中略)
5.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
(中略)
・理由 3、5
・請求項 1?23
請求項1?23に係る発明は、(1),(2)で特定するAUCの比率を実現するための手段が発明の詳細な説明を検討しても不明である。
したがって、請求項1?23に係る発明は、発明の詳細な説明において、当業者が過度の試行錯誤を伴うことなく、実施し得る程度に記載されていないし、それゆえ、発明の詳細な説明に記載された発明であるとも言えない。
なお、単に「オキシブチニン、接着剤および浸透増強剤」を含むだけで、実施例で採用された組成物以外に、本願発明に包含される全ての場合に亘って(拡張して)、過度の試行錯誤を伴うことなく(1),(2)で特定するAUCの比率が実現できると理解できる理由は見いだせない。
また、浸透増強剤は、オキシブチニンの浸透透過量を増加するものであり、AUCの比率を制御できる理由は説明されていないし、自明でもなく、むしろ、制御できる要因ではないと理解する方が自然である。
(後略)」

4 当審の判断
(1)特許法第36条第4項に規定する要件(いわゆる実施可能要件)の検討
本願発明は、上述のとおり、過活動性膀胱または尿失禁のための経皮用医薬組成物の発明であるから、特許法第2条第3項第1号にいう物の発明である。そして、物の発明における発明の実施には、その物を生産、使用をする行為が含まれる(特許法第2条第3項第1号)。そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本願出願時における当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるためには、本願明細書の発明の詳細な説明に本願発明に係る組成物を製造する方法についての具体的な記載があるか、あるいはそのような記載がなくても、本願明細書の記載および本願出願時の技術常識に基づき当業者が本願発明に係る組成物を製造することができる必要がある。

そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するに、該発明の詳細な説明には、
「過活動性膀胱または尿失禁のための経皮用医薬組成物であって、ここで、該経皮用医薬組成物はマトリックスパッチの形態であり、該経皮用医薬組成物はオキシブチニン治療に伴う薬物副作用を小さくするために用いられ、
(a)該薬物副作用が、抗コリン作用性の副作用、抗ムスカリン作用性の副作用およびこれらの組み合わせからなる群より選択され、
(b)該マトリックスパッチが、13cm^(2)?39cm^(2)のサイズであり、かつ裏当てフィルムおよび粘着マトリックスを含み、ここで、該粘着マトリックスが、
(i)オキシブチニン塩酸塩、
(ii)アクリルコポリマー接着剤、および
(iii)脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、乳酸またはグリコール酸の脂肪酸エステル、グリセロールトリ-、ジ-およびモノ-エステル、トリアセチン、短鎖アルコール、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される浸透増強剤、
を含み、
(c)該組成物は、1回の4日間の適用期間で、
(i) オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比を0.8:1?1.5:1とすること、
(ii) (R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比を0.5:1?1.3:1とすること、および
(iii) N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度を5ng/ml未満とすること、
ができる、上記経皮用医薬組成物。」に関連して、以下の(ア)?(ク)の記載がある。

(ア)「【0016】
“オキシブチニン”は、α-シクロヘキシル-α-ヒドロキシ-ベンゼン酢酸4-(ジエチルアミノ)-2-ブチニルエステル;α-フェニルシクロヘキサングリコール酸4-(ジエチルアミノ)-2-ブチニルエステル;及び4-ジエチルアミノ-2-ブチニルフェニルシクロヘキシルグリコレート等の幾つかのIUPAC名によって周知の化合物を指す。オキシブチニン付加塩であるオキシブチニンHClは、メルクインデックス、登録番号7089、1193ページ、第12版、(1996)(Merck Index, entry no.,7089, at page 1193, 12th ed., (1996))に記載されている。本明細書において使用する“オキシブチニン”は、オキシブチニン遊離塩基、その酸付加塩の例えばオキシブチニンHCl、その類似体及び関連化合物、その異性体、多形体、及びプロドラッグを含む。オキシブチニンが、(R)-及び(S)-異性体として周知のその異性体形態のうちの一方若しくは両方、またはこうした2種の異性体の混合物として存在できることは一般に周知である。こうした異性体形態及びその混合物は、本発明の範囲内にある。」

(イ)「【0028】
“マトリックス”、“マトリックスシステム”、または“マトリックスパッチ”という用語によって、ポリマー相中に溶解または分散した有効な量の薬物を含む組成物を意味し、またこれは、他の成分の例えば浸透増強剤及び他の所望による成分も含んでよい。この定義は、このようなポリマー相を感圧接着剤に積層するかまたは上塗り接着剤内に使用する実施例を含むことを意味する。
【0029】
マトリックスシステムはまた、遠位表面の上に付着させた不浸透性フィルム裏当てと経皮適用の前には接着剤の近位表面の剥離ライナーとを有する接着剤層を備えてよい。フィルム裏当ては、マトリックスパッチのポリマー相を保護し、薬物及び/または所望による成分の環境への放出を防ぐ。剥離ライナーは不浸透性裏当てと同様に機能するが、上記に定義したように、パッチを皮膚に適用する前にマトリックスパッチから除去される。上記に説明した一般的な特性を有するマトリックスパッチは、経皮送達の従来技術において周知である。例えば、米国特許第5,985,317号、同第5,783,208号、同第5,626,866号、同第5,227,169号を参照されたい(参考のためにその全体を引用する)。」

(ウ)「【0034】
オキシブチニン治療に関連した有害な経験の大部分は、抗コリン作用性及び/または抗ムスカリン作用性として分類してよい。オキシブチニンに関連した特定の有害な経験は、とりわけ、心臓血管の経験、胃腸/尿生殖器の経験、皮膚科学的経験、神経系の経験、及び眼科的経験としてPhysician's Desk Reference中に分類されている。
【0035】
心臓血管の有害な経験の例としては、動悸、頻脈、血管拡張、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。皮膚科学的な有害な経験の例としては、発汗の減少、発疹、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。胃腸/尿生殖器の有害な経験の例としては、便秘、胃腸運動の減少、口内乾燥症、悪心、排尿躊躇及び尿閉、並びにこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。神経系の有害な経験の例としては、無力症、めまい、嗜眠状態、幻覚、不眠症、不穏状態、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。眼科的な有害な経験の例としては、弱視、毛様体筋麻痺、流涙の減少、散瞳、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。他の有害な経験の例としては、勃起不能及び乳汁分泌の抑制が挙げられるが、これらに限定されるものではない。有害な経験のより包括的な一覧は、監督官庁によって提供されるオキシブチニン製剤のラベル表示中に見い出すことができる。」

(エ)「 【0038】
“薬物血漿中濃度時間曲線下面積”という句または同様の用語は、薬学技術において周知である。こうした値は、与えられた薬物またはその代謝物の血漿中濃度から得られたデータを時間の関数として作図することで計算され、X軸は一般に時間を表し、Y軸は一般に血漿中濃度を表す。様々なデータポイントを結んで形成した曲線の下の面積を次に積分して数値にする。例えば、Milo Gibaldi & Donald Perrier, PharmacoKinetics, 2nd ed. (1982)を参照されたい。測定した物質のクリアランスまたは全身クリアランス(CL)をAUCに掛けると、測定した物質(薬物またはその代謝物のうちの1種以上)の全量または用量の推定が与えられる。血漿中濃度、AUC、及びCLは、様々な製剤及び/または組成物中のオキシブチニン等の医薬品の投与の最中に個々の対象中に存在する生理学的及び/または環境要素による対象間及び対象内変動の影響を受けることがある。従って、個々の値及び平均値はばらつきの影響を受けることがあるが、全般的な傾向及び関係は保持され、再現性もある。」

(オ)「【0041】
B.発明
上記に説明したように、本発明は、オキシブチニンを投与するための組成物及び方法を提供する。本組成物及び方法は、オキシブチニン投与に関連した有害な経験の発生率及び/または重症度を最小化すると同時に、治療上の利益を与えるのに十分なオキシブチニンを提供することが示される。いかなる特定の理論によっても束縛されることを意図するものではないが、従来の経口投与と比較した場合、有害な経験の最小化は、本組成物及び方法によるN-デスエチルオキシブチニン等のオキシブチニンの代謝物の血漿中濃度の低下が部分的には理由となっていると考えられている。“従来の経口投与”という句は、上記に定義した通りの経口製剤を含むことを意味し、例えば、オキシブチニンを含む即時放出または持続放出経口錠剤を含む。1つのこのような従来の経口製剤は、5mg即時放出経口錠剤として利用可能である。
【0042】
1)全薬物及び代謝物の血漿中濃度に関連した薬動学的態様
オキシブチニン代謝物の血漿中濃度の低下等の所望の薬動学的特性を、とりわけ下記によって実現できる:1)投与するオキシブチニンの量を低減すること、2)オキシブチニンが身体の代謝に利用できるようになる速度を低下させること、及び/または3)オキシブチニンの初回通過肝臓及び/または腸代謝を避けるかまたは最小化すること。非経口投与経路を使用することは、こうした目的のうちの1つ以上を実現する1方法である。他に、経口剤形を、非経口投与を模倣するように設計して、本明細書において説明する血漿中濃度及び他の薬動学的データを実現できる可能性がある。
【0043】
本発明の1実施例を証明するために、臨床研究を実行した。16人の健康な志願者において交差臨床研究を行って、オキシブチニン及びその代謝物のうちの1つであるN-デスエチルオキシブチニン、並びにそのそれぞれの(R)-及び(S)-エナンチオマー成分の血漿中濃度及び薬動学を比較した。
【0044】
本研究において使用する5mgオキシブチニン錠剤等のオキシブチニンの従来の経口剤形は、親薬物と比較してかなり高い血漿中濃度を有するN-デスエチルオキシブチニン等のオキシブチニン代謝物を生じる(図1を参照されたい)。代謝物対オキシブチニンの濃度の平均AUC比は、ほとんどの場合に約10:1であり、一般に約5:1を超える。
【0045】
これに反して、オキシブチニンを本発明の経皮組成物実施例等の非経口徐放性組成物として投与した場合、代謝物(N-デスエチルオキシブチニン)対オキシブチニンの平均AUC比は、はるかに低い。一般に、オキシブチニン代謝物(N-デスエチルオキシブチニン)対オキシブチニンの平均AUC比は約2:1未満である。さらに、ほとんどの場合に比は約1.2:1未満であり、しばしば比は約0.9:1である(図3を参照されたい)。
【0046】
加えて、平均N-デスエチルオキシブチニン血漿中濃度は一般に約8ng/ml未満であり、ほとんどの場合に約5ng/ml未満である。しばしば平均は約3ng/ml未満である。
【0047】
2)異性体の薬動学的態様
本願発明者らはさらに、上記に説明した態様を研究し、本製剤及び方法は、特定のオキシブチニン代謝物の個々の異性体のレベルのかなりの低下を提供することと、代謝物異性体のこうしたレベルの低下は、上記に説明した最小化された薬物による有害な経験と相関することとを発見した。
【0048】
オキシブチニンは、(R)-若しくは(S)-異性体またはこれらの組合せとして存在することが一般に周知である。特に、(R)-オキシブチニンは、2種の異性体のうちでより活性が高いと考えられてきており、これは、単離された組織を使用した動物薬理学的研究によって示されている。例えば、Kachur JF, Peterson JS, Carter JP, et al. J. Pharm Exper. Ther. 1988; 247:867-872;及びNoronha-Blob L, Kachur JF. J. Pharm Exper. Ther. 1990; 256:56-567を参照されたい。そのようなものとして、代謝物の全量のうちのより活性が高い成分である(R)-N-デスエチルオキシブチニンは、より活性が低い(S)-N-デスエチルオキシブチニンよりも、抗コリン作用性の有害作用等の薬物による有害な経験に大きく寄与することがある。例えば、米国特許第5,677,346号を参照されたい(参考のためにその全体を引用する)。
【0049】
従って、上述の臨床研究の最中に、(R)-及び(S)-オキシブチニン並びにその代謝物のうちの1つであるN-デスエチルオキシブチニンの対応する異性体の両方に関して血漿中濃度を測定した。実行した試験は、本発明は、従来の経口剤形及び投与方法と比較して、かなり低い(R)-N-デスエチルオキシブチニン血漿中濃度をもたらすことを明らかにした。
【0050】
図6は、従来の5mgオキシブチニン経口錠剤から得られた血漿中濃度プロフィールを示す。図から分かるように、(R)-N-デスエチルオキシブチニンは最高濃度で存在し、(R)-及び(S)-オキシブチニンの両方の濃度の数倍である。2種の最も活性が高い異性体である(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(R)-オキシブチニンの経口投与後の平均AUC比は約17:1である。加えて、(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンの平均AUC比は約1.5:1であり、(R)-オキシブチニン対(S)-オキシブチニンの平均AUC比は約0.6:1である。AUCのこうした比は一貫して、経口投与オキシブチニンは、ラセミオキシブチニンの大きな全用量を考えると、比較的に少量の治療上活性な(R)-オキシブチニンをもたらすことを示す。さらに、経口投与は、比較的に多量の(R)-N-デスエチルオキシブチニンをもたらし、この部分は恐らく、薬物による有害な経験の幾つかまたは多くを引き起こす原因である。
【0051】
これに反して、図7は、非経口で送達したオキシブチニンによって臨床研究の最中に実現した、本発明の(R)-及び(S)-異性体血漿プロフィールを示す。(R)-オキシブチニン対(S)-オキシブチニンの平均AUC比は約0.7:1であり、(R)-オキシブチニンの持続血漿中濃度は、経口投与に続いて得られるピーク濃度と同様である。治療上活性な(R)-オキシブチニン部分にこのように同等にさらされることは、本発明と矛盾しない。
【0052】
従って、経皮投与を用いて、以下の点が発見された:(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(R)-オキシブチニンの平均AUC比は低下し、オキシブチニンの活性代謝物の量の大きな低減をもたらし、同時に治療上有効な量のオキシブチニンを提供する。
【0053】
図4、5、及び7を比較することで、従来の経口製剤と比較して、本方法及び組成物はオキシブチニン投与に関連した有害な経験を最小化し、同時に治療上十分な濃度の(R)-オキシブチニンを維持してオキシブチニン治療の利益を提供するような、(R)-N-デスエチルオキシブチニン等の代謝物対オキシブチニンの血漿中濃度の最適比を、本組成物及び方法が提供することが明らかになる。上記に示したように、本組成物及び方法は、オキシブチニン治療におけるかなりの進歩を提供する。
【0054】
3)治療上の態様
非経口投与オキシブチニンに関連した、薬物による有害な経験の発生率及び重症度の効果並びに最小化に関する臨床研究を、過活動性膀胱を有する72人のヒトの対象(患者)に行った。患者の約半分に、経口投与製剤中の塩酸オキシブチニンを投与した。残りの患者には、経皮粘着マトリックスパッチ等の非経口送達経路を使用して、約6週間にわたってオキシブチニンを投与した。結果を図4及び5のグラフに示す。
【0055】
本発明の非経口持続放出組成物を、その治療効果に関して、オキシブチニンの従来の5mg経口錠剤と比較した。多数の日にわたる患者の尿に関する日誌から得た1日当りに経験した失禁の症状の発現の平均回数を、所望の治療効果の指標として使用した。データは、本発明の非経口方法によって治療した個人の失禁の症状の発現の回数は、経口製剤を用いて治療した個人の回数とほぼ同一であることを示す(図4を参照されたい)。
【0056】
次に、本発明の非経口持続放出製剤を、薬物による有害な経験の発生率及び重症度に関して、従来の即時放出経口錠剤と比較した。有害な経験として口内乾燥症をこの実験の指標として選択した。図から分かるように、従来の経口オキシブチニン錠剤の投与を受けた参加者の6%のみが、口内乾燥症の影響が無いと報告した。反対に、この参加者の94%が、若干の口内乾燥症を経験していることを報告した。
【0057】
これに反して、本発明の経皮粘着マトリックスパッチを用いて治療した参加者の62%が、口内乾燥症の影響が無いと報告した。従って、この参加者の38%のみが、若干の口内乾燥症を経験していることを報告し、口内乾燥症が耐えられない程度と格付けした人はいなかった。
【0058】
こうしたデータは、オキシブチニン代謝物対オキシブチニンのAUCの最適比が得られるようにオキシブチニンを投与することで、オキシブチニン投与に関連した有害な経験をかなり最小化でき、同時にオキシブチニンの治療効果を十分に保持できることを示す。
【0059】
4)発明の薬動学的態様の要約
上記に説明した薬動学的データから、本発明の以下の態様を提示できる。1態様においては、オキシブチニン代謝物の平均ピーク血漿中濃度は約8ng/ml未満である。別の態様においては、代謝物の平均ピーク血漿中濃度は約0.5ng/ml?約8ng/mlであり;さらに別の態様においては、濃度は約5ng/ml未満であり;さらに別の態様においては、濃度は約1.0ng/ml?約3ng/mlである。ある態様においては、オキシブチニンの代謝物はN-デスエチルオキシブチニンである。
【0060】
ある態様においては、平均オキシブチニン代謝物のAUCは、比で約2:1よりもオキシブチニンのAUCを超えない量にまで低下する。ある態様においては、平均オキシブチニン代謝物のAUCは約0.9:1ng/ml未満に低下する。
【0061】
ある態様においては、本発明は、オキシブチニン対オキシブチニン代謝物の平均AUC比が約0.5:1?約5:1になるように、オキシブチニンを対象に投与するための組成物及び方法を提供する。ある態様においては、比は約0.5:1?約4:1であり;ある他の態様においては、比は約1:1?5:1であり;さらに他の態様においては、比は約0.8:1?約2.5:1であり;さらにある他の態様においては、比は約0.8:1?約1.5:1である。全ての上記の態様においては、代謝物は、N-デスエチルオキシブチニンとしてよい。
【0062】
本発明の方法を特徴付ける別の方法は、治療開始に続いて特定の時間間隔でオキシブチニン及び代謝物の濃度に関して個々の血漿中濃度を特定することによる。従って、1態様においては、オキシブチニンの血漿中濃度は、オキシブチニン治療開始後約6時間で約2.0ng/ml未満である。別の態様においては、代謝物の血漿中濃度もまた、治療開始後約6時間で約2.0ng/ml未満である。
【0063】
さらに別の態様においては、オキシブチニン及びその代謝物の血漿中濃度は、最初のオキシブチニンの投与後約24時間で約8ng/ml未満である。さらに、平均定常状態のオキシブチニン及びその代謝物の血漿中濃度は、オキシブチニン治療の継続期間中、約8ng/ml未満である。
【0064】
1態様においては、(R)-N-デスエチルオキシブチニンの平均ピーク及び平均AUCは、ほぼ(S)-N-デスエチルオキシブチニンの平均ピーク及び平均AUC以下である。別の態様においては、(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンの平均AUC比は約0.9:1である。さらに別の態様においては、(R)-オキシブチニンの平均ピーク及び平均AUCは、(R)-N-デスエチルオキシブチニンにほぼ等しい。別の態様においては、(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンの比は約1:1である。
【0065】
さらなる態様においては、(R)-N-デスエチルオキシブチニンは、平均ピーク血漿中濃度約4ng/ml未満を有する。別の態様においては、(R)-N-デスエチルオキシブチニンは、平均ピーク血漿中濃度約0.25?約4ng/ml及び約1.5ng/mlを有する。
【0066】
1態様においては、(R)-N-デスエチルオキシブチニンは、平均AUC約100ng×hr/mlを有する。別の態様においては、(R)-N-デスエチルオキシブチニンは、平均AUC約30ng×hr/ml?約170ng×hr/mlを有する。
【0067】
さらに別の態様においては、(R)-N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度は、オキシブチニン投与の開始後約6時間で約1ng/ml未満である。さらなる態様においては、(R)-N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度は、オキシブチニン投与の開始後約24時間で約2ng/ml未満である。
【0068】
治療上のオキシブチニン血漿中濃度は、失禁の重症度に基づいて変化する。一般に、治療上の結果は、0.5ng/mlもの低さのオキシブチニン血漿中濃度から得ることができる。治療上の血中レベルを、本発明の方法を使用して治療開始後3時間もの短時間で実現でき、約24時間でピークオキシブチニン血漿中濃度に達する。しかしながら、こうした一般的なパラメータは、所望の血漿中レベルを実現できる方法に対する限定ではない。様々なパラメータを生じる製剤を用いることで、様々な送達方法、速度、及び量を使用して、所望の血漿中濃度を達成できる。」

(カ)「【0073】
オキシブチニン経皮投与製剤の例としては、1)局所製剤の例えば軟膏剤、ローション剤、ゲル、パスタ、ムース、エアロゾル、及び皮膚クリーム;2)経皮パッチの例えば粘着マトリックスパッチ及び液体リザーバシステムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。他の非経口例としては、経粘膜錠剤の例えばバッカル錠、舌下錠またはロゼンジ、及び坐剤が挙げられる。
【0074】
所望の量のオキシブチニンに加えて、経皮オキシブチニン製剤は浸透増強剤または浸透増強剤の混合物も含んで、皮膚に対するオキシブチニンの浸透性を増大させてよい。浸透増強剤の包括的な索引は、David W. Osborne and Jill J. Henkeが、Skin Penetration Enhancers Cited in the Technical Literatureと称するインターネット出版物中に開示しており、これは、アドレスがpharmtech.com/technical/osborne/osborne.htmとして知られているワールドワイドウェブに見い出される(本明細書において、参考のために引用する)。
【0075】
より詳細には、オキシブチニンの送達を増強することが周知の浸透増強剤としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、乳酸またはグリコール酸の脂肪酸エステル、グリセロールトリ-、ジ-及びモノ-エステル、トリアセチン、短鎖アルコール、並びにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。当業者であれば、特定の化学種または化学種の組合せを上記に列記したクラスの化合物から選択して、用いる個々のオキシブチニン組成物の増強を最適化できよう。
【0076】
本発明の経皮製剤は、経皮パッチ等の密封装置の形態を取ってよい。このような経皮パッチは、粘着マトリックスパッチ、液体リザーバシステム型パッチ、バッカル錠、ロゼンジ、またはその他同様なものとしてよい。接着剤、賦形剤、裏当てフィルム等の所望による成分及び各々の必要な量は、所望のパッチのタイプに依存して大きく変化しようし、当業者であれば必要に応じて決定できよう。上記に説明した特性を有する経皮製剤を製造及び投与するための方法は、従来技術において周知である。例えば、米国特許第5,862,555号、同第5,762,953号、及び同第5,152,997号を参照されたい(参考のためにその全体を引用する)。
【0077】
しかしながら、こうした一般的なパラメータは、所望の血漿中レベルを実現できる方法に対する限定ではない。様々なパラメータを生じる製剤を用いることで、様々な送達方法、速度、及び量を使用して、所望の血漿中レベルを達成できる。」

(キ)「【0079】
本発明において使用する材料を、次の通りに示す特定の源から得た。材料が様々な市販源から入手可能な場合には、特定の源は示していない。オキシブチニン遊離塩基を、セレス・ケミカルCo.Inc.、ホワイトプレーンズ、NY(USA)(Ceres Chemical Co. Inc., White Plains, NY (USA))から得た。オキシブチニンのエナンチオマー、すなわち、(R)-及び(S)-異性体を、セプラコー.セプラコー、マールバロ、MA(USA)(Sepracor. Sepracor, Marlborough, MA (USA))から得た。
【0080】
実施例1:オキシブチニン粘着マトリックスパッチの製造
上記に言及した臨床研究において使用する非経口オキシブチニン送達装置は、13及び/または39cm2の経皮粘着マトリックスパッチだった。経皮粘着マトリックスパッチを製造する一般法は、5,227,169及び5,212,199によって説明されている(参考のためにその全体を引用する)。この一般法に従って、本発明のオキシブチニンパッチを次の通り製造した:
オキシブチニン遊離塩基、トリアセチン(イーストマン・ケミカルCo.、キングスポート、NY(Eastman Chemical Co., Kingsport, NY))及び87-2888アクリルコポリマー接着剤(ナショナル・スターチ・アンド・ケミカルCo.、ブリッジウォーター、NJ(National Starch and Chemical Co., Bridgewater, NJ))を混合して均一な溶液にし、2帯域コーティング/乾燥/積層オーブン(クレーマー・コーティング、レークウッド、NJ(Kraemer Koating, Lakewood, NJ))を使用して、シリコーン処理済みポリエステル剥離ライナー(レクサム・リリース、シカゴ、IL(Rexham Release, Chicago, IL))の上に6mg/cm^(2)(乾燥体重)でコーティングして、それぞれ15.4重量%、9.0重量%、及び75.6重量%のオキシブチニン、トリアセチン、及びアクリルコポリマー接着剤を含む最終オキシブチニン粘着マトリックスを提供した。それに続いて厚さ50ミクロンのポリエチレン裏当てフィルム(3M、セントポール、MN(3M, St. Paul, MN))を、オキシブチニン含有粘着マトリックスの乾燥済み粘着表面の上に積層し、最終積層構造を打抜いて、サイズが13cm^(2)?39cm^(2)の範囲にわたるパッチを与えた。」

(ク)「【0084】
実施例4:ラセミオキシブチニンの経口投与後のオキシブチニン、N-デスエチルオキシブチニン、並びにそのそれぞれの(R)-及び(S)-異性体の薬動学を決定するために、経皮投与ラセミオキシブチニンと比較した臨床研究
16人の健康な志願者における臨床研究は、交差様式で、オキシブチニン、N-デスエチルオキシブチニン、並びにそのそれぞれの(R)-及び(S)-エナンチオマー成分の比較血漿中濃度及び薬動学を比較した。
【0085】
健康な志願者を局所的な集団から集め、これは19?45才の範囲にわたる年齢の男女を含んだ。全ての志願者が健康な状態であることを確認した予備研究調査に続いて、各対象は2つの研究期間に参加し、この間、4日間適用する経皮オキシブチニンシステム投与またはオキシブチニンの単一の5mg経口即時放出投与である試験投薬を行った。血液試料を、研究期間の間中定期的に集めた。血漿を標準法に従い試料から集めた。血漿試料中の(R)-及び(S)-オキシブチニン並びに(R)-及び(S)-N-デスエチルオキシブチニンの量を、個々の成分の液体クロマトグラフ分離を組み合わせた実証済みの質量分析法を利用して測定した。パーキンエルマー高速液体クロマトグラフ用ポンプを、クロム・テック AGP 150.2(Chrom Tech AGP 150.2)クロマトカラムと共に使用した。質量分析機器は、エレクトロスプレイイオン化を用いMRMスキャンモードで使用したAPI 300だった。被検体の定量の線形応答性は標準溶液で確認し、分析の性能は、品質管理試料を研究試料と共に分析して管理した。全ての被検体に関して、直線性の範囲は0.5?75ng/mlであり、線形相関係数は0.99を超えた。
【0086】
図1、2、3、6、及び7で、こうしたデータをグラフに示す。図1においては、5mg即時放出経口投与塩酸オキシブチニン錠剤であるジトロパン(登録商標)、アルザ・コーポレーション(Ditropan(登録商標), Alza Corporation)の投与後のオキシブチニン及びN-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度を示す。こうした錠剤は市販のものを入手し、様々な一般的な製造業者から得ることができる。血漿中濃度を縦軸に示し、時間を横軸に示す。図から分かるように、N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度は、オキシブチニンの血漿中濃度よりもかなり高い。N-デスエチルオキシブチニン対オキシブチニンの平均AUC比は約10:1である。
【0087】
図3は、経皮システムの適用の最中及び適用後のオキシブチニン及びN-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度プロフィールを示す。図から分かるように、粘着マトリックスパッチ実施例の場合のN-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度は、本発明によって規定されるパラメータの範囲に十分入る。N-デスエチルオキシブチニン対オキシブチニンの平均AUC比は約0.9:1であり、N-デスエチルオキシブチニンの平均血漿中濃度は約2.5ng/ml未満である。
【0088】
図6及び7は、上記に説明した臨床試験の最中に測定したオキシブチニン及びN-デスエチルオキシブチニンの個々の異性体の血漿中濃度を示す。図6から分かるように、オキシブチニンの経口投与は、比較的に高い濃度の(R)-N-デスエチルオキシブチニンをもたらす。この活性代謝物部分は最高濃度で存在し、(R)-及び(S)-オキシブチニンの両方の濃度の数倍である。(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(R)-オキシブチニンのAUCの平均比は約17:1であり、(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンの平均AUC比は約1.5:1である。
【0089】
経皮オキシブチニンシステムの適用後には、活性部分である(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(R)-オキシブチニンの平均AUC比は約1:1であり、経口投与後よりもかなり低い。加えて、(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンの平均AUC比は約0.9:1であり、これは、活性(R)-オキシブチニンから(R)-N-デスエチルオキシブチニンへのかなり低い代謝的初回通過転換と一致する。(R)-対(S)-オキシブチニンの平均AUC比は約0.7:1であり、経口投与後に存在するものと同様である。
【0090】
オキシブチニンの経皮送達の最中に送達されるオキシブチニンのより低い総量を、未使用の経皮システム中で測定した量から4日間の適用期間の後に経皮システム中に残存しているオキシブチニンの残留量を引くことに基づいて推定した。4日間にわたって送達された平均量は、約12mgまたは平均約3mg/日だった。研究において投与したオキシブチニンの経口用量は5mgであり、この用量を、製品の治療上の使用の最中に12時間毎にまたは1日2回投与することができる。これは、経口治療の場合の12時間毎の用量約5mgと経皮治療の場合の12時間毎の約1.5mgとの比較を可能にする。
【0091】
以上のことをまとめると、経皮非経口オキシブチニン投与の薬動学は、オキシブチニン投与の持続するより低い速度及び投与するオキシブチニンのより低い用量または総量に関する本発明の態様を示す。
【0092】
実施例5:従来の経口錠剤製剤及び本発明の経皮製剤の抗コリン作用性の副作用(主として口内乾燥症)の治療効果並びに発生率及び重症度の比較分析
副作用の効果及び発生率の臨床研究を、過活動性膀胱を有する72人の患者に行った。こうした患者を、米国の様々な領域の独立した臨床研究者が集めた。患者の約半分に、即時放出経口投与製剤中の塩酸オキシブチニンを投与した。残りの患者には、各患者に1枚以上の13cm^(2)オキシブチニン含有経皮粘着マトリックスパッチを使用して、オキシブチニンを投与した。こうした治療群の各々において、投薬は、治療のマッチングするプラセボ形態の同時投与によって、盲検で行った。実薬経口治療の場合には、活性薬物であるオキシブチニンを除いて実薬経皮システムの全ての成分を含むプラセボ経皮システムを患者に適用した。同様に、実薬経皮治療群には、活性オキシブチニン成分を有しないマッチングする経口製剤を投与した。
【0093】
この研究においては、患者は男性及び女性の両方を含み、大部分は平均年齢63?64才の女性だった。全ての患者は、過活動性膀胱に関連した尿失禁の病歴を有し、失禁の薬物療法を使用しなかったウォッシュアウト期間中に、1日当り平均で少なくとも3回の失禁の症状の発現を証明した。
【0094】
治療効果は、多数の日にわたる患者の尿に関する日誌から得た1日当りに経験した失禁の症状の発現の平均回数に基づいた。データを図4のグラフに示す。
図から分かるように、本発明の非経口方法によって治療した個人の失禁の症状の発現の回数は、経口製剤を用いて治療した個人の回数とほぼ同一である。このことは、本方法及び組成物は、尿失禁及び過活動性膀胱の治療上有効な処置に対処したものであり、5mg経口オキシブチニン錠剤等の従来の経口製剤に匹敵することを明確に示す。
【0095】
薬物による有害な経験の発生率及び/または重症度をまた、上記のように投与したオキシブチニンの従来の経口錠剤製剤と経皮製剤との間で比較した。抗コリン作用性の有害な経験、例えば口内乾燥症の発生率及び重症度を、どちらの製剤の投与にでも関連することがあり、抗コリン作用性の副作用を表す有害な経験の指標として使用した。臨床研究の参加者は、この経験を標準化されたアンケートに従って報告するように求められた。アンケートから得たデータを、図5のグラフに示す。口内乾燥症を報告した参加者のパーセンテージを縦軸に示し、口内乾燥症の重症度を横軸に示す。
【0096】
図から分かるように、経口剤形の投与を受けた参加者の6%のみが、口内乾燥症の影響が無いと報告した。反対に、この参加者の94%が、若干の口内乾燥症を経験していることを報告した。これに反して、13cm2経皮粘着マトリックスパッチを用いて治療した参加者の62%が、口内乾燥症の影響が無いと報告した。従って、この参加者の38%のみが、若干の口内乾燥症を経験していることを報告した。従って、臨床データは、本発明の方法のマトリックスパッチ実施例は、過活動性膀胱の治療を提供して、経口剤形とほぼ同一の治療上の有効性を実現し、同時にオキシブチニン投与に関連した有害な経験の発生率及び/または重症度をかなり最小化することを示す。
【0097】
図7は、(R)-N-デスエチルオキシブチニン濃度は(S)-N-デスエチルオキシブチニン濃度よりも低く、さらに、(R)-オキシブチニンの濃度は徐々に上昇し、パッチ適用期間の間中ほぼ一定のレベルに維持されることを示す。図4及び5によって示されるように、(R)-N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度の低下は、口内乾燥症等の薬物による有害な経験の発生率及び重症度の最小化に寄与したようであり、同時に(R)-オキシブチニンの血漿中濃度は治療上の有効性を保持する。」

これらの記載(特に(キ)および(ク)の記載)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、
マトリックスパッチの形態の経皮用医薬組成物であって、該マトリックスパッチが13cm^(2)?39cm^(2)のサイズであり、かつ裏当てフィルムおよび粘着マトリックスを含み、ここで、該粘着マトリックスが、
(i)オキシブチニン遊離塩基15.4重量%、
(ii)アクリルコポリマー接着剤75.6重量%、および
(iii)トリアセチン9.0重量%
を含む組成物であれば、
(c)該組成物は、1回の4日間の適用期間で、
(i) オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比を0.8:1?1.5:1とすること、
(ii) (R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比を0.5:1?1.3:1とすること、および
(iii) N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度を5ng/ml未満とすること、
ができることが記載されているといえる。
しかし、本願発明は、オキシブチニン遊離塩基ではなくオキシブチニン塩酸塩を粘着マトリックスに含むものであるところ、オキシブチニン遊離塩基はオキシブチニン塩酸塩に比して皮膚透過性の良いことが技術常識であり(平成26年10月31日付け拒絶理由通知における引用文献2(深澤一郎、外6名,臨床薬理,1998年 3月,Vol.29,No.1,2,p.251-252)を参照)、オキシブチニン遊離塩基をオキシブチニン塩酸塩に変更すればその皮膚透過性の違いにより、オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比、およびN-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度が変化すると認められる。
また、例えば、オキシブチニン塩酸塩の含有量、浸透増強剤の種類および含有量ならびにアクリルコポリマー接着剤のポリマー組成および共重合比によってオキシブチニン塩酸塩の皮膚透過量は変化し、それによってもオキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比、およびN-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度は変化するし、オキシブチニン塩酸塩の(R)体と(S)体の比および含有量によって(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比が変化すると認められるから、本願発明にいう
(c)該組成物は、1回の4日間の適用期間で、
(i) オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比を0.8:1?1.5:1とすること、
(ii) (R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比を0.5:1?1.3:1とすること、および
(iii) N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度を5ng/ml未満とすること、
ができる経皮用医薬組成物を製造するためには、それら可変要因全てを決定した上で製造する必要がある。
それにもかかわらず、本願明細書の発明の詳細な説明には、それら可変要因全てをどのように決定するかについて具体的な記載はなく、本願明細書の記載および本願出願時の技術常識に基づけば当業者がそれら可変要因全てを、当業者に通常期待される程度の試行錯誤で決定できるといえる、格別の事情も見出せない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願出願時における当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえない。


(2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)の検討
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により本願出願時における当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても本願出願時における当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のいわゆるサポート要件については、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。
ここで、本願発明は、前記「2 本願発明」に示すとおりの経皮用医薬組成物の発明であって、その課題は、過活動性膀胱または尿失禁のための経皮用医薬組成物によるオキシブチニン治療に伴う、抗コリン作用性の副作用、抗ムスカリン作用性の副作用およびこれらの組み合わせからなる群より選択される薬物副作用を小さくすることにほかならない。

そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するに、該発明の詳細な説明には、
み、ここで、該粘着マトリックスが、
(i)オキシブチニン塩酸塩、
(ii)アクリルコポリマー接着剤、および
(iii)脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、乳酸またはグリコール酸の脂肪酸エステル、グリセロールトリ-、ジ-およびモノ-エステル、トリアセチン、短鎖アルコール、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される浸透増強剤、
を含み、
(c)該組成物は、1回の4日間の適用期間で、
(i) オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比を0.8:1?1.5:1とすること、
(ii) (R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比を0.5:1?1.3:1とすること、および
(iii) N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度を5ng/ml未満とすること、
ができる、上記経皮用医薬組成物。」に関連して、上記(ア)?(ク)の記載がある。
これらの記載(特に(オ)および(ク)の記載)によれば、本願発明に係る組成物は、
(c)該組成物は、1回の4日間の適用期間で、
(i) オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比を0.8:1?1.5:1とすること、
(ii) (R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比を0.5:1?1.3:1とすること、および
(iii) N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度を5ng/ml未満とすること、
により、オキシブチニン治療に伴う、抗コリン作用性の副作用、抗ムスカリン作用性の副作用およびこれらの組み合わせからなる群より選択される薬物副作用を小さくすることができるものであって、
これらの記載(特に(キ)および(ク)の記載)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、
マトリックスパッチの形態の経皮用医薬組成物であって、該マトリックスパッチが13cm^(2)?39cm^(2)のサイズであり、かつ裏当てフィルムおよび粘着マトリックスを含み、ここで、該粘着マトリックスが、
(i)オキシブチニン遊離塩基15.4重量%、
(ii)アクリルコポリマー接着剤75.6重量%、および
(iii)トリアセチン9.0重量%
を含む組成物であれば、
(c)該組成物は、1回の4日間の適用期間で、
(i) オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比を0.8:1?1.5:1とすること、
(ii) (R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比を0.5:1?1.3:1とすること、および
(iii) N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度を5ng/ml未満とすること、
ができることが記載されているといえる。
しかし、本願発明は、オキシブチニン遊離塩基ではなくオキシブチニン塩酸塩を粘着マトリックスに含むものであるところ、オキシブチニン遊離塩基はオキシブチニン塩酸塩に比して皮膚透過性の良いことが技術常識であり(平成26年10月31日付け拒絶理由通知における引用文献2(深澤一郎、外6名,臨床薬理,1998年 3月,Vol.29,No.1,2,p.251-252)を参照)、オキシブチニン遊離塩基をオキシブチニン塩酸塩に変更すればその皮膚透過性の違いにより、オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比、およびN-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度が変化すると認められることから、オキシブチニン塩酸塩基をオキシブチニン塩酸塩と同視することはできず、これはオキシブチニン塩酸塩を用いる本願発明の技術的裏付けになるものとはいえない。
また、例えば、オキシブチニン塩酸塩の含有量、浸透増強剤の種類および含有量ならびにアクリルコポリマー接着剤のポリマー組成および共重合比によってオキシブチニン塩酸塩の皮膚透過量は変化し、それによってもオキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比、およびN-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度は変化するし、オキシブチニン塩酸塩の(R)体と(S)体の比および含有量によって(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比が変化すると認められるから、本願発明にいう
(c)該組成物は、1回の4日間の適用期間で、
(i) オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比を0.8:1?1.5:1とすること、
(ii) (R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比を0.5:1?1.3:1とすること、および
(iii) N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度を5ng/ml未満とすること、
ができる経皮用医薬組成物を製造するためには、それら可変要因全てを決定した上で製造する必要がある。
それにもかかわらず、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明において、オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比、(R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比、およびN-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度のそれぞれの値を調整するためには何を行えばよいのかについて、何らの記載もない。
そうすると、
「(b)該マトリックスパッチが、13cm^(2)?39cm^(2)のサイズであり、かつ裏当てフィルムおよび粘着マトリックスを含み、ここで、該粘着マトリックスが、
(i)オキシブチニン塩酸塩、
(ii)アクリルコポリマー接着剤、および
(iii)脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、乳酸またはグリコール酸の脂肪酸エステル、グリセロールトリ-、ジ-およびモノ-エステル、トリアセチン、短鎖アルコール、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される浸透増強剤、
を含」むものであっても、多数の可変要因を調整しなくては、
「 (c)該組成物は、1回の4日間の適用期間で、
(i) オキシブチニン対N-デスエチルオキシブチニンの薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)比を0.8:1?1.5:1とすること、
(ii) (R)-N-デスエチルオキシブチニン対(S)-N-デスエチルオキシブチニンのAUC比を0.5:1?1.3:1とすること、および
(iii) N-デスエチルオキシブチニンの血漿中濃度を5ng/ml未満とすること、」ができるようにならず、それによるオキシブチニン治療に伴う、抗コリン作用性の副作用、抗ムスカリン作用性の副作用およびこれらの組み合わせからなる群より選択される薬物副作用を小さくすることもできるようにならず、本願発明についての技術的裏付けが、発明の詳細な説明に記載されているということはできない。また、そうである以上、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された事項及び本願出願時の技術常識に基づき、当業者が本願発明の前記課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。
したがって、本願発明に係る特許請求の範囲の記載は、いわゆるサポート要件に適合したものとはいえない。

(3)上記(1)及び(2)に関する審判請求人の主張についての検討

審判請求人は、平成27年 2月 4日提出の意見書において
「(3)実施可能要件、サポート要件および明確性要件について
拒絶理由通知書において『請求項1の「・・・副作用を小さくするための、・・・医薬組成物であって、」とは、医薬組成物が疾病を治療する薬であるのか否か不明瞭であり、その結果、発明の詳細な説明に記載された発明と認められない』などとのご指摘を受けました。
上記補正により、請求項1の冒頭を「過活動性膀胱または尿失禁のための経皮用医薬組成物であって」との記載に変更しましたので、「別途に治療剤があるかの如き記載のように理解できる」とのご指摘を受けた点は解消しているものと思料します。
(4)実施可能要件および明確性要件について
上記補正により、不明確とのご指摘を受けた「1回の投与で4日にわたって」との記載を、明細書の記載に対応する「1回の4日間の適用期間で」との記載に補正しました。
「1回の投与で」との記載を修正し、請求項1において、マトリックスパッチのサイズや構成成分をさらに具体的に特定していますので、当業者であれば発明の詳細な説明に基づいて請求項1に記載の発明を実施できるものと思料します。また、補正後の「1回の4日間の適用期間で」との投与方法に関する記載は、当業者にとって請求項1の記載の本願発明の範囲を理解できないほど不明確にする記載であるとも考えられません。」
などと述べるものの、上記3に示した、当審から通知された拒絶理由3及び拒絶理由5には何ら実質的な主張をしていない。

(4)上記(1)及び(3)の検討の結果、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。また、上記(2)及び(3)の検討の結果、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないので、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5 むすび
したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-02 
結審通知日 2015-03-03 
審決日 2015-03-16 
出願番号 特願2001-577898(P2001-577898)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
P 1 8・ 536- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三輪 繁  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 渕野 留香
増山 淳子
発明の名称 オキシブチニン治療に関連した有害な経験の最小化  
代理人 富田 博行  
代理人 吉田 樹里  
代理人 小野 新次郎  
代理人 寺地 拓己  
代理人 小林 泰  
代理人 星野 修  

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