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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02G
管理番号 1303541
審判番号 不服2014-12898  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-03 
確定日 2015-07-22 
事件の表示 特願2010-549036「排ガス流からエネルギーを獲得する方法及び自動車」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月11日国際公開、WO2009/109311、平成23年 7月 7日国内公表、特表2011-519398〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年2月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年3月6日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成22年9月3日に特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出され、同年10月28日に特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成24年10月30日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月7日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月12日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年10月22日に意見書が提出されたが、平成26年3月6日付けで拒絶査定がされ、同年7月3日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、平成25年2月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、平成22年10月28日に提出された明細書の翻訳文及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項2】
内燃機関(10)からの排ガス流からエネルギーを獲得する方法であって、排ガス流がエバポレータ(16)に供給され、該エバポレータ内で排ガス流からの間接的な熱伝達により作動流体が液体状態から気体状態に移行され、気体状の作動流体が膨張機械(18)に供給され、該膨張機械がエネルギーを獲得し、さらに気体状の作動流体がコンデンサ(22)に供給され、該コンデンサ内で気体状態から再び液体状態へ移行され、さらに液体状の作動流体がポンプ(14)を使用して再び前記エバポレータ(16)に供給され、前記ポンプの搬送出力が、前記エバポレータ(16)内において、現在の排ガス流によって時間当たり伝達される熱エネルギーを決める少なくとも1つの量に依存して制御され、
前記ポンプの搬送出力の調節が制御装置の制御信号によって行われ、前記制御装置がアクセルペダル位置(30)を示す信号の信号元(28)と連結されており、アクセルペダル位置(30)を示す信号に基づき前記制御信号が生成される方法。」

第3 引用文献の記載、引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2004-52738号公報(以下、「引用文献」という。)には、「ランキンサイクル装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、「記載1a」及び「記載1b」という。)。

1a 「【0011】
図1に示すように、車両のエンジン11の排気ガスの熱エネルギーを回収するためのランキンサイクル装置は、エンジン11の排気ガスで液相作動媒体(水)を加熱して高温高圧の気相作動媒体(蒸気)を発生させる蒸発器12と、蒸発器12で発生した高温高圧の蒸気の熱エネルギーを機械エネルギーに変換する容積型の膨張機13と、膨張機13から排出された蒸気を冷却して水に凝縮させる凝縮器14と、凝縮器14から排出された水を貯留するタンク15と、タンク15内の水を吸引する給水ポンプ16と、給水ポンプ16で吸引した水を蒸発器12に噴射するインジェクタ17とを閉回路上に配置してなる。
【0012】
膨張機13に接続されたモータ・ジェネレータ18は例えばエンジン11と駆動輪との間に配置されており、モータ・ジェネレータ18をモータとして機能させてエンジン11の出力をアシストするとともに、車両の減速時にモータ・ジェネレータ18をジェネレータとして機能させて車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収することができる。尚、モータ・ジェネレータ18は膨張機13に単体で接続されて電気エネルギーの発生機能のみを有するものでも良い。そして本発明では、モータ・ジェネレータ18の負荷(発電量)を調整することで、モータ・ジェネレータ18から膨張機13に加わる負荷を調整して該膨張機13の回転数を制御する。エンジン11の運転状態、つまりエンジン回転数Ne、吸気負圧Pb、排気ガス温度Tgおよび空燃比A/Fと、蒸気温度センサ19で検出した蒸発器12の出口での蒸気温度Tが入力されるコントローラ20は、インジェクタ17の水供給量(あるいは給水ポンプ16の回転数)と、モータ・ジェネレータ18が発生する負荷、つまり膨張機13の回転数とを制御する。
【0013】
次に、膨張機13の回転数を調整することで蒸発器12の出口での蒸気温度を制御できる理由について説明する。
【0014】
図2(A)は蒸発器12の構造を模式的に示すもので、蒸発器12のケーシング21の内部に配置された伝熱管22は、インジェクタ17に連なる水入口22aと膨張機13に連なる蒸気出口22bとを備えており、ケーシング21は蒸気出口22b側に排気ガス入口21aを備えるとともに水入口22a側に排気ガス出口21bを備える。従って、作動媒体および排気ガスは相互に逆方向に流れることになる。
【0015】
図2(B)に示すように、伝熱管22の水入口22aに供給された水は液相状態で次第に温度上昇し、a点において飽和温度に達すると水および蒸気が共存する湿り飽和蒸気(二相状態)になって飽和温度に維持され。b点において水が全て気相状態の過熱蒸気になって該蒸気の温度は飽和温度から上昇する。膨張機13への蒸気の供給量を一定に保持したまま、図3に示すように、モータ・ジェネレータ18の負荷を低減して膨張機13の回転数をステップ状に増加させると蒸気圧力が減少し、水の気化潜熱および膨張熱によって一時的に蒸気温度が低下する。つまり、図2(C)に示すように、飽和温度が低下してa点およびb点が水入口22a側にシフトし、蒸気出口22bから排出される蒸気温度が一時的に低下する。この蒸気温度の低下速度は蒸気圧力の低下速度に比例するもので数秒のオーダーである。その後、図2(D)に示すように、伝熱管22内の作動媒体は排気ガスの熱エネルギーを受け続けて温度上昇し、図3に示すように、膨張機13の回転数を増加させる前の温度に復帰する。この温度変化は蒸発器12のヒートマスの影響を受けるため、数十秒?数百秒のオーダーとなる。このように、膨張機13の回転数を増減させることで、蒸発器12の出口での蒸気温度を、一時的にではあるが応答性良く制御することができる。」(段落【0011】ないし【0015】)

1b 「【0017】
次に、上記作用を図5?図7のフローチャートに基づいて更に説明する。
【0018】
先ずステップS1で蒸気温度センサ19により蒸発器12の出口での蒸気温度Tを検出し、ステップS2でエンジン11の運転状態、つまりエンジン回転数Ne、吸気負圧Pb、排気ガス温度Tgおよび空燃比A/Fを検出し、ステップS3で給水量フィードフォワード値Q_(FF)をNe,Pb,Tg,A/Fに基づいて算出する。
【0019】
図6は前記ステップS3のサブルーチンを示すもので、ステップS11でエンジン回転数Neおよび吸気負圧Pbを図8のマップに適用してエンジン11の燃料流量G_(F)を検索する。燃料流量G_(F)はエンジン回転数Neが大きいほど、また吸気負圧Pbが高いほど大きくなる。尚、吸気負圧Pbが高い領域で燃料流量G_(F)が急激に増加するのは、エンジン11の高負荷時に燃料がリッチになるためである。続くステップS12で排気ガス流量G_(gas)を空燃比A/Fおよび燃料流量G_(F)を用いて、(A/F+1)×G_(F)により算出する。そしてステップS13で排気ガス流量G_(gas)および排気ガス温度Tgを図9のマップに適用して給水量フィードフォワード値Q_(FF)を検索する。給水量フィードフォワード値Q_(FF)は、排気ガス流量G_(gas)が大きいほど、また排気ガス温度Tgが高いほど大きくなる。尚、給水量フィードフォワード値Q_(FF)は、目標蒸気温度T_(0)の上昇に応じて僅かに増加するように補正される。
【0020】
このようにして給水量フィードフォワード値Q_(FF)が算出されると、図5のフローチャートに戻り、ステップS4でインジェクタ17の給水指令値、つまりインジェクタ17の開度指令値Tiを給水量フィードフォワード値Q_(FF)から算出する。尚、給水量は給水ポンプ16の回転数に応じて変化することから、前記ステップS4に代えて、ステップS4′でインジェクタ17の給水指令値、つまり給水ポンプ16の回転数Npを給水量フィードフォワード値Q_(FF)から算出しても良い。
【0021】
続くステップS5で蒸気温度Tを目標蒸気温度T_(0)に制御するための膨張機13の目標回転数N_(exp)を算出する。図7は前記ステップS5のサブルーチンを示すもので、ステップS21で蒸気温度Tが目標蒸気温度T_(0)を越えていれば、ステップS22で目標膨張機回転数N_(exp)に回転数増減量ΔN_(exp)を加算し、逆に蒸気温度Tが目標蒸気温度T_(0)以下であれば、ステップS23で目標膨張機回転数N_(exp)から回転数増減量ΔN_(exp)を減算する。そして図5のフローチャートのステップS6で目標膨張機回転数N_(exp)を指令値として出力し、モータ・ジェネレータ18が発生する負荷を変化させて膨張機13の回転数を制御する。」(段落【0017】ないし【0021】)

2 引用文献の記載事項
記載1a及び1b並びに図面から、引用文献には、次の事項が記載されていると認める(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2d」という。)。

2a 記載1aの「図1に示すように、車両のエンジン11の排気ガスの熱エネルギーを回収するためのランキンサイクル装置」(段落【0011】)及び図1によると、引用文献には、エンジン11の排気ガスからエネルギーを回収する方法が記載されている。

2b 記載1aの「図1に示すように、車両のエンジン11の排気ガスの熱エネルギーを回収するためのランキンサイクル装置は、エンジン11の排気ガスで液相作動媒体(水)を加熱して高温高圧の気相作動媒体(蒸気)を発生させる蒸発器12と、蒸発器12で発生した高温高圧の蒸気の熱エネルギーを機械エネルギーに変換する容積型の膨張機13と、膨張機13から排出された蒸気を冷却して水に凝縮させる凝縮器14と、凝縮器14から排出された水を貯留するタンク15と、タンク15内の水を吸引する給水ポンプ16と、給水ポンプ16で吸引した水を蒸発器12に噴射するインジェクタ17とを閉回路上に配置してなる。」(段落【0011】)及び「図2(A)は蒸発器12の構造を模式的に示すもので、蒸発器12のケーシング21の内部に配置された伝熱管22は、インジェクタ17に連なる水入口22aと膨張機13に連なる蒸気出口22bとを備えており、ケーシング21は蒸気出口22b側に排気ガス入口21aを備えるとともに水入口22a側に排気ガス出口21bを備える。従って、作動媒体および排気ガスは相互に逆方向に流れることになる。」(段落【0014】)、図1及び2並びに記載事項2aによると、引用文献には、排気ガスが蒸発器12に供給(「供給」という用語の記載はないが、排気ガスが「供給」されていることは明らかである。)され、該蒸発器12内で排気ガスからの間接的な熱伝達(「間接的な熱伝達」という用語の記載はないが、「間接的な熱伝達」が行われていることは明らかである。)により作動媒体が液相作動媒体(水)から気相作動媒体(蒸気)に移行(「移行」という用語の記載はないが、液相から気相になる以上、「移行」されていることは明らかである。)され、気相作動媒体(蒸気)が膨張機13に供給(「供給」という用語の記載はないが、気相又は液層の作動媒体が「供給」されていることは明らかである。)され、該膨張機13が熱エネルギーを機械エネルギーに変換して機械エネルギーとして回収し、さらに気相作動媒体(蒸気)が凝縮器14に供給され、該凝縮器14内で気相作動媒体(蒸気)を再び液相作動媒体(水)に移行させ、さらに液相作動媒体(水)が給水ポンプ16を使用して再び前記蒸発器12に供給されることが記載されている。

2c 記載1aの「エンジン11の運転状態、つまりエンジン回転数Ne、吸気負圧Pb、排気ガス温度Tgおよび空燃比A/Fと、蒸気温度センサ19で検出した蒸発器12の出口での蒸気温度Tが入力されるコントローラ20は、インジェクタ17の水供給量(あるいは給水ポンプ16の回転数)と、モータ・ジェネレータ18が発生する負荷、つまり膨張機13の回転数とを制御する。」(段落【0012】)、記載1bの「【0018】
先ずステップS1で蒸気温度センサ19により蒸発器12の出口での蒸気温度Tを検出し、ステップS2でエンジン11の運転状態、つまりエンジン回転数Ne、吸気負圧Pb、排気ガス温度Tgおよび空燃比A/Fを検出し、ステップS3で給水量フィードフォワード値Q_(FF)をNe,Pb,Tg,A/Fに基づいて算出する。
【0019】
図6は前記ステップS3のサブルーチンを示すもので、ステップS11でエンジン回転数Neおよび吸気負圧Pbを図8のマップに適用してエンジン11の燃料流量G_(F)を検索する。燃料流量G_(F)はエンジン回転数Neが大きいほど、また吸気負圧Pbが高いほど大きくなる。尚、吸気負圧Pbが高い領域で燃料流量G_(F)が急激に増加するのは、エンジン11の高負荷時に燃料がリッチになるためである。続くステップS12で排気ガス流量G_(gas)を空燃比A/Fおよび燃料流量G_(F)を用いて、(A/F+1)×G_(F)により算出する。そしてステップS13で排気ガス流量G_(gas)および排気ガス温度Tgを図9のマップに適用して給水量フィードフォワード値Q_(FF)を検索する。給水量フィードフォワード値Q_(FF)は、排気ガス流量G_(gas)が大きいほど、また排気ガス温度Tgが高いほど大きくなる。尚、給水量フィードフォワード値Q_(FF)は、目標蒸気温度T_(0)の上昇に応じて僅かに増加するように補正される。
【0020】
このようにして給水量フィードフォワード値Q_(FF)が算出されると、図5のフローチャートに戻り、ステップS4でインジェクタ17の給水指令値、つまりインジェクタ17の開度指令値Tiを給水量フィードフォワード値Q_(FF)から算出する。尚、給水量は給水ポンプ16の回転数に応じて変化することから、前記ステップS4に代えて、ステップS4′でインジェクタ17の給水指令値、つまり給水ポンプ16の回転数Npを給水量フィードフォワード値Q_(FF)から算出しても良い。」(段落【0018】ないし【0020】)、図5ないし9並びに記載事項2a及び2bによると、引用文献には、給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Npが、空燃比A/Fおよび燃料流量G_(F)を用いて算出する排気ガス流量G_(gas)に依存して制御されることが記載されている。

2d 記載1aの「コントローラ20は、インジェクタ17の水供給量(あるいは給水ポンプ16の回転数)と、モータ・ジェネレータ18が発生する負荷、つまり膨張機13の回転数とを制御する。」(段落【0012】)、図1及び記載事項2aないし2cによると、引用文献には、給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Npがコントローラ20により制御されることが記載されている。

3 引用発明
記載1a及び1b、記載事項2aないし2d並びに図面の記載を整理すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「エンジン11の排気ガスからエネルギーを回収する方法であって、排気ガスが蒸発器12に供給され、該蒸発器12内で排気ガスからの間接的な熱伝達により作動媒体が液相作動媒体(水)から気相作動媒体(蒸気)に移行され、気相作動媒体(蒸気)が膨張機13に供給され、該膨張機13が熱エネルギーを機械エネルギーに変換して機械エネルギーとして回収し、さらに気相作動媒体(蒸気)が凝縮器14に供給され、該凝縮器14内で気相作動媒体(蒸気)を冷却して再び液相作動媒体(水)に移行させ、さらに液相作動媒体(水)が給水ポンプ16を使用して再び前記蒸発器12に供給され、前記給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Npが、空燃比A/Fおよび燃料流量G_(F)を用いて算出する排気ガス流量G_(gas)に依存して制御され、
前記給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Npがコントローラ20により制御される方法。」

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。

引用発明における「エンジン11」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「内燃機関(10)」に相当し、以下、同様に、「排気ガス」は「排ガス流」に、「回収する」は「獲得する」に、「蒸発器12」は「エバポレータ(16)」に、「作動媒体」は「作動流体」に、「液相作動媒体(水)」は「液体状態」及び「液体状の作動流体」に、「気相作動媒体(蒸気)」は「気体状態」及び「気体状の作動流体」に、「膨張機13」は「膨張機械(18)」に、「熱エネルギーを機械エネルギーに変換して機械エネルギーとして回収し」は「エネルギーを獲得し」に、「凝縮器14」は「コンデンサ(22)」に、「吸水ポンプ16」は「ポンプ(14)」に、「コントローラ20」は「制御装置」に、それぞれ、相当する。
また、引用発明における「給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)」は、記載1bの「尚、給水量は給水ポンプ16の回転数に応じて変化することから、前記ステップS4に代えて、ステップS4′でインジェクタ17の給水指令値、つまり給水ポンプ16の回転数Npを給水量フィードフォワード値Q_(FF)から算出しても良い。」(段落【0020】)によると、「給水ポンプ16の回転数Np」と同等のものであり、「給水ポンプ16の回転数Np」は「給水ポンプ16」により給水される水量を定めるもの、即ち「給水ポンプ16」の搬送出力といえるから、引用発明における「給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Np」は、本願発明における「ポンプの搬送出力」に相当する。
さらに、引用発明における「前記給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Npがコントローラ20により制御され」は、「コントローラ20」による制御が、制御信号によって行われるもので、「前記給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Np」の調節であることは明らかであるから、本願発明における「前記ポンプの搬送出力の調節が制御装置の制御信号によって行われ」に相当する。
そして、本願の特許請求の範囲の請求項3の「前記ポンプの搬送出力が少なくとも排ガス質量流量に依存して調節される、請求項2に記載の方法。」及び本願の明細書の翻訳文の段落【0016】の「ここで所与の排ガス質量流量及び所与の排ガス温度により、この条件下においてエバポレータ16内で気化されることが可能な、作動流体の最大質量流量を求めることができる。・・・(略)・・・このことは、本願では排ガス質量流量及び排ガス温度という量(パラメータ)に依存する。・・・(略)・・・アクセルペダル位置30に基づいて排ガス質量流量が計算され、排ガス流温度がセンサー26によって算出される場合に、これは実用可能な解決策である。」という記載によると、本願発明における「前記エバポレータ(16)内において、現在の排ガス流によって時間当たり伝達される熱エネルギーを決める少なくとも1つの量」は、「排ガス質量流量」であるから、上記相当関係を踏まえると、引用発明における「前記給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Npが、空燃比A/Fおよび燃料流量G_(F)を用いて算出する排気ガス流量G_(gas)に依存して制御され、
前記給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Npがコントローラ20により制御される」は、本願発明における「前記ポンプの搬送出力が、前記エバポレータ(16)内において、現在の排ガス流によって時間当たり伝達される熱エネルギーを決める少なくとも1つの量に依存して制御され、
前記ポンプの搬送出力の調節が制御装置の制御信号によって行われ、前記制御装置がアクセルペダル位置(30)を示す信号の信号元(28)と連結されており、アクセルペダル位置(30)を示す信号に基づき前記制御信号が生成される」と、「前記ポンプの搬送出力が、前記エバポレータ内において、現在の排ガス流によって時間当たり伝達される熱エネルギーを決める少なくとも1つの量に依存して制御され、
前記ポンプの搬送出力の調節が制御装置の制御信号によって行われる」という限りにおいて、一致する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。

「内燃機関からの排ガス流からエネルギーを獲得する方法であって、排ガス流がエバポレータに供給され、該エバポレータ内で排ガス流からの間接的な熱伝達により作動流体が液体状態から気体状態に移行され、気体状の作動流体が膨張機械に供給され、該膨張機械がエネルギーを獲得し、さらに気体状の作動流体がコンデンサに供給され、該コンデンサ内で気体状態から再び液体状態へ移行され、さらに液体状の作動流体がポンプを使用して再び前記エバポレータに供給され、前記ポンプの搬送出力が、前記エバポレータ内において、現在の排ガス流によって時間当たり伝達される熱エネルギーを決める少なくとも1つの量に依存して制御され、
前記ポンプの搬送出力の調節が制御装置の制御信号によって行われる方法。」

そして、以下の点で相違する。
<相違点>
「前記ポンプの搬送出力が、前記エバポレータ内において、現在の排ガス流によって時間当たり伝達される熱エネルギーを決める少なくとも1つの量に依存して制御され、
前記ポンプの搬送出力の調節が制御装置の制御信号によって行われる」に関して、本願発明においては、「前記ポンプの搬送出力が、前記エバポレータ(16)内において、現在の排ガス流によって時間当たり伝達される熱エネルギーを決める少なくとも1つの量に依存して制御され、
前記ポンプの搬送出力の調節が制御装置の制御信号によって行われ、前記制御装置がアクセルペダル位置(30)を示す信号の信号元(28)と連結されており、アクセルペダル位置(30)を示す信号に基づき前記制御信号が生成される」であるのに対し、引用発明においては、「前記給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Npが、空燃比A/Fおよび燃料流量G_(F)を用いて算出する排気ガス流量G_(gas)に依存して制御され、
前記給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Npがコントローラ20により制御される」である点(以下、「相違点」という。)。

第5 相違点についての判断
そこで、相違点について、以下に検討する。

引用発明は、「前記給水ポンプ16の給水量フィードフォワード値Q_(FF)又は給水ポンプ16の回転数Np」が、「空燃比A/Fおよび燃料流量G_(F)を用いて算出する」「排気ガス流量G_(gas)」に依存して制御されるものである。
他方、アクセルペダル位置を示すアクセルペダルセンサの信号が、空燃比や燃料流量と関係するパラメータであることは、周知である(必要であれば、下記1ないし6を参照。以下、「周知技術」という。)。
したがって、引用発明において、周知技術を適用し、「コントローラ20」を、アクセルペダル位置を示す信号の信号元であるアクセルペダルセンサと連結し、「コントローラ20」が、アクセルペダル位置を示す信号に基づいて、「空燃比A/Fおよび燃料流量G_(F)」を算出し、算出した「空燃比A/Fおよび燃料流量G_(F)」を用いて、「排気ガス流量G_(gas)」を算出して、それに依存して制御信号を生成するようにして、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、アクセルペダル位置を示す信号の信号元であるアクセルペダルセンサのアクセルペダル位置を示す信号に基づいて、直接、排気ガス流量を算出することも、周知であり(必要であれば、下記7を参照。)、このことを鑑みても、引用発明において、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明が、引用発明及び周知技術からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。

なお、請求人は、審判請求書において、引用文献には、本願発明における課題を解決するにあたって、ポンプ回転数の制御をアクセルペダル位置信号で行おうとする動機付けに関する記載は、一切存在しない旨主張するが、コスト低減のために、部品点数の削減や装置の簡素化を図ることは、当業者であれば当然考慮すべきことであるから、引用発明において、「空燃比A/F」、「燃料流量G_(F)」及び「排気ガス流量G_(gas)」を求めるに際し、それぞれ毎にセンサを設けることをせずに、アクセルペダル位置を示す信号の信号元であるアクセルペダルセンサのアクセルペダル位置を示す信号に基づいて算出する動機付け、即ちポンプ回転数の制御をアクセルペダル位置信号で行おうとする動機付けはあるというべきであり、請求人の上記主張は採用できない。

1 特開2002-227636号公報の記載
特開2002-227636号公報には、「内燃機関の排気浄化装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(なお、下線は当審で付したものである。他の文献も同様。)。

「【0116】燃料噴射量を決定する場合は、CPU351は、RAM353に記憶されている機関回転数とアクセル開度センサ36の出力信号(アクセル開度)とを読み出す。CPU351は、燃料噴射量制御マップへアクセスし、前記機関回転数及び前記アクセル開度に対応した基本燃料燃料噴射量(基本燃料噴射時間)を算出する。CPU351は、エアフローメータ11、吸気温度センサ12、水温センサ34等の出力信号値等に基づいて前記基本燃料噴射時間を補正し、最終的な燃料噴射時間を決定する。」(段落【0116】)

2 特開2005-2817号公報の記載
特開2005-2817号公報には、「ディーゼルエンジンの排気浄化装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある

「【0017】
アクセル開度センサ24、エンジン回転速度とクランク角度を検出するセンサ22、水温センサ31からの信号が入力されるコントロールユニット21では、エンジン回転速度とアクセル開度に応じて燃料噴射量を算出し、算出した燃料噴射量に対応して三方弁15のON時間を制御するほか、三方弁15のONへの切換時期を制御することで、運転条件に応じた所定の噴射開始時期(噴射時期)を得るようにしている。」(段落【0017】)

3 特開2006-223068号公報の記載
特開2006-223068号公報には、「ハイブリッド車両の駆動力制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある

「【0017】
前記エンジンEはいわゆる直列四気筒エンジンであり、前記エンジンEの吸気管13にはエンジンECU(FI-ECU)(図示せず)で制御される電子制御スロットル12が設けられている。また、図示しないアクセルペダル(AP)の操作量を検知するアクセル開度センサは前記エンジンECUに接続されている。
ここで、前記エンジンECUは、アクセルペダルの操作量等から燃料噴射量を算出し、電子制御スロットル12に対して燃料噴射量の制御信号を出力している。」(段落【0017】)

4 特開2007-170355号公報の記載
特開2007-170355号公報には、「筒内直噴内燃機関の制御装置および運転方法」に関して、図面とともに概ね次の記載がある

「【0032】
ECU7は、筒内直噴内燃機関1-1を運転制御することで、この内燃機関1-1を運転するものである。このECU7は、内燃機関1-1が搭載された車両の各所に取り付けられたセンサから、各種入力信号が入力される。具体的には、クランクシャフト35に取り付けられたクランク角度センサ39により検出されたクランク角度、エアフロメータ52により検出された吸入空気量、アクセルペダルセンサ8により検出されたアクセル開度、A/Fセンサ63により検出された空燃比、温度センサ64により検出された触媒温度Tなどがある。
【0033】
このECU7は、これら入力信号および記憶部73に格納されている吸入空気量およびアクセル開度に基づいた燃料噴射量マップなどの各種マップに基づいて各種出力信号を出力する。具体的には、燃料噴射弁21の燃料噴射制御を行う噴射信号、点火プラグ36の点火制御を行う点火信号、スロットルバルブ53のスロットルバルブ開度制御を行うスロットルバルブ開度信号、高圧燃料ポンプ24の圧力制御を行う圧力制御信号などの出力信号などがある。」(段落【0032】及び【0033】)

5 特開2008-14194号公報の記載
特開2008-14194号公報には、「エンジン制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

「【0028】
本実施形態のエンジン負荷検出手段は、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ27とクランク角センサ26とで構成され、エンジン制御装置6は、クランク角センサ26の検出値から算出したエンジン回転速度とアクセル開度センサ27の検出値を基に燃料噴射量を算出し、その燃料噴射量をエンジン負荷として用いる。」(段落【0028】)

6 特開2007-231834号公報の記載
特開2007-231834号公報には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

「【0019】
前記EGR制御バルブ9は、例えば、ステップモータを用いた電子制御式のものであり、その開度に応じて吸気側に還流する排気の量、すなわち、エンジン本体に吸入されるEGR量を制御する。
エンジン運転状態を検出するセンサ類として、ドライバにより操作されるアクセル開度を検出するアクセル開度センサ61、エンジン回転数を検出する回転数センサ62、実圧縮比を検出する圧縮比センサ63、エンジン冷却水温度を検出する水温センサ64、排気通路5内の排気の空燃比を検出する空燃比センサ65、触媒4を通過した後の排気温度を検出する排気温度センサ66などが設けられ、これらセンサ類からの検出信号は、エンジンコントロールユニット(ECU)71に入力される。
・・・(略)・・・
【0021】
また、図7に示すように、内燃機関の制御装置は、可変圧縮比制御手段81、可変圧縮比機構82、壁温検出手段83、目標空燃比補正量算出手段84、目標空燃比算出手段85、空燃比補正手段86、空燃比検出手段87、空燃比制御手段88及び燃料噴射装置89を含んで構成されている。
可変圧縮比制御手段81は、エンジン4の運転条件であるエンジン回転数と、エンジン負荷(例えばアクセル開度センサ61により検出されたアクセル開度)とに基づいて、後述する目標圧縮比算出マップを用いて、圧縮比制御アクチュエータ10を含む可変圧縮比機構82の目標圧縮比を設定する。これにより、制御リンク40の他端(小径部42b)の位置をエンジン本体に対して変位させ、圧縮比を目標値に変更する。
・・・(略)・・・
【0023】
目標空燃比補正量算出手段84は、可変圧縮比制御手段により設定された目標圧縮比と、壁温検出手段83により検出(または推定)された壁温とに基づいて目標空燃比補正量(補正係数)を算出する。
目標空燃比算出手段85は、エンジン4の運転条件、ここではエンジン回転数及び負荷(例えばアクセル開度センサ61により検出されたアクセル開度)に基づいて排気の目標空燃比を算出する。
【0024】
空燃比補正手段86は、目標空燃比補正量と目標空燃比とに基づいて空燃比の補正を行う。空燃比の補正の詳細は後述する。
空燃比検出手段87は、空燃比センサ65の出力信号に基づいて排気空燃比を検出する。
空燃比制御手段88は、空燃比検出手段87により検出された排気空燃比が、空燃比補正手段により補正された後の空燃比と一致するように、燃料噴射装置89の燃料噴射弁47から噴射される燃料量を制御する。」(段落【0019】ないし【0024】)

7 特開2006-200493号公報の記載
特開2006-200493号公報には、「ランキンサイクル装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

「【0017】
図1には本発明が適用されるランキンサイクル装置Rの全体構成が示される。エンジンEの排気ガスの熱エネルギーを回収して機械エネルギーに変換するランキンサイクル装置Rは、エンジンEが排出する排気ガスで水を加熱して高温・高圧蒸気を発生させる蒸発器11と、蒸発器11で発生した高温・高圧蒸気により作動して機械エネルギーを発生する膨張機12と、膨張機12で仕事を終えた降温・降圧蒸気を冷却して水に戻す凝縮器13と、凝縮器13から排出された水を加圧して再度蒸発器11に供給する給水ポンプ14とを備える。
【0018】
図2に示すように、予測流量演算手段M1は、従来は蒸発器11からから膨張機12に供給される蒸気の流量を直接検出するか、あるいは蒸発器11に対する給水量から推定していた蒸気の流量を応答遅れなく推定するためのもので、排気ガス流量演算手段M2と、排気ガスエネルギー演算手段M3と、蒸気流量演算手段M4とを備える。
【0019】
排気ガス流量演算手段M2は、アクセル開度AP(つまりスロットル開度TH)およびエンジン回転数Neを、図3(A)に示すマップに適用して排気ガス流量Qgを演算する。図3(A)のi部分でアクセル開度APの増加に対する排気ガス流量Qgの増加率が減少するのは、エンジン回転数Neが大きいときには燃料噴射量が増加して空燃比A/Fが小さくなるためである。
・・・(略)・・・
【0025】
上述した制御の結果を図5に示すタイムチャートに基づいて纏めると、アクセルペダルを踏み込んでアクセル開度をステップ状に増加させると、スロットル開度がステップ状に増加してエンジン出力もステップ状に増加する。このエンジン出力の増加(つまりアクセル開度あるいはスロットル開度の増加)に基づいて蒸発器11から膨張機12に供給される将来の蒸気の予測流量Qsを演算し、この予測流量Qsに基づいて膨張機12の目標回転数を演算するので、エンジン出力が増加してから実際に蒸気流量が増加するまでのタイムラグの影響を受けることなく、エンジン出力の増加すると同時に膨張機12の回転数を目標回転数に制御することができる(g部分参照)。」(段落【0017】ないし【0025】)

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-23 
結審通知日 2015-02-24 
審決日 2015-03-09 
出願番号 特願2010-549036(P2010-549036)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石黒 雄一  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 加藤 友也
佐々木 訓
発明の名称 排ガス流からエネルギーを獲得する方法及び自動車  
代理人 赤澤 日出夫  

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