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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1303638
審判番号 不服2014-4761  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-12 
確定日 2015-07-28 
事件の表示 特願2008-558592「生体分子に結合する活性化ポリマー」拒絶査定不服審判事件〔平成19年9月20日国際公開、WO2007/104107、平成21年8月20日国内公表、特表2009-529589〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成19年3月15日(パリ条約による優先権主張 2006年3月15日 オーストラリア連邦(AU))を国際出願日とする特許出願であって、平成24年8月9日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月21日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年11月5日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成26年3月12日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年3月14日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年5月14日付けで前置報告がなされたものである。



第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年3月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの、以下のとおりのものである。

「機能的生体分子との直接的な共有結合により機能化されたポリマー基質であって、前記生体分子への前記直接的な共有結合が可能となるように活性化された親水性表面と、前記表面下1nmから300nmに位置する複数の架橋領域を含む内層面とを含むポリマー基質。」



第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由3は、本願の請求項1-20に係る各発明は、その優先日前の日を優先日とする外国語特許出願であって、その優先日後に国際公開がされた引用先願2(特願2008-527057号)の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、併せて「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないというものである。



第4 先願明細書の記載事項

特願2008-527057号の外国語特許出願の国際出願であるPCT/US2006/031817号は、本願の優先日である2006年3月15日より前の2005(平成17)年8月18日及び同年9月15日を優先日として、発明者をコンデュリン アレクセイ及びマイツ マンフレット フランツとし、出願人をボストン サイエンティフィック リミテッドとして特許協力条約に基づいてなされた国際出願であって、本願の優先日後である2007(平成19)年2月22日に国際公開第2007/022174号として国際公開がされたものであるところ、先願明細書には、次の事項が記載されている。なお、以下の摘示は、ファミリー文献である特表2009-504330号に依った(下線は、当合議体によるものを含む。)。

摘示ア 「【請求項1】
ePTFE表面を修飾する方法であって、
プラズマ処理に適したチャンバ内にePTFE材料を準備し、
前記試料に連続低エネルギー・プラズマ放電を加え、
短時間幅の高電圧パルスを印加してプラズマ放電からの高エネルギー・イオン束を形成し、前記ePTFE材料の前記表面上に、該表面の下の分子及び/又は物理構造を変化させることなしにフリーラジカルを形成して修飾ePTFE表面を画定する、イオンを生成する、
ステップを含むことを特徴とする方法。
・・・
【請求項20】
付着生物活性剤を前記修飾ePTFE表面に共有結合させるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項39】
結節及び小繊維構造を有し、前記結節及び小繊維構造を破壊せずにプラズマ浸漬イオン注入により形成された浸炭表面を有し、前記小繊維に付着する及び/又はスペーサ基に付着する種細胞及び/又は蛋白質を有し、親水性アクリルアミド基及び/又は多糖ヒドロキシエチルスターチ基が前記小繊維に共有結合していることが好ましい、ePTFEを含むことを特徴とする表面修飾ePTFE。
・・・
【請求項43】
前記浸炭表面は約30nmから約500nmまでの深さを有することを特徴とする、請求項39に記載の表面修飾ePTFE。」(特許請求の範囲請求の範囲1、20、39及び43)

摘示イ 「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、その化学的安定性、生物学的安定性及び生物学的不活性により埋め込み可能な医療用具に普通に用いられる。これはまた、高度に疎水性である。機械的に伸びた発泡形(ePTFE)は、微視的には多孔質であり、PTFEの安定性及び不活性の特性を有する。」(国際公開2ページ20?23行、公表公報段落【0006】)

摘示ウ 「本発明の1つの態様において、プラズマ浸漬イオン注入によりePTFE表面を修飾する方法は、プラズマ処理に適したチャンバ内の試料ホルダーの上にePTFE材料を準備し、試料に連続低エネルギー・プラズマ放電を加え、試料ホルダーに短時間幅の短い負の高電圧パルスを印加してプラズマ放電からの高エネルギー・イオン束を形成してePTFE材料に向ける、ステップを含む。ePTFE材料の表面上に、表面の下の分子及び/又は物理構造を変えることなく生成したフリーラジカルが修飾ePTFE表面を画定する。ePTFE材料は結節及び小繊維構造を有し、高電圧パルスを印加するステップがePTFEの表面をエッチング及び/又は浸炭するときでも、高電圧パルスを印加するステップは結節及び小繊維構造を破壊することなくePTFEの表面を修飾する。修飾表面は約30nmから約500nmまでの深さを有することができる。イオンは約10^(13)イオン/cm^(2)から約10^(16)イオン/cm^(2)の濃度又はドーズ量でePTFE試料に投与することが望ましい。
連続低エネルギー・プラズマ放電を試料に加えるステップは、約13.56MHz又は約2.45GHzのラジオ周波数でプラズマ放電を生成するステップをさらに含む。これらのラジオ周波数は非限定的であり、他のラジオ周波数を適切に用いることができる。連続低エネルギー・プラズマ放電を試料に加えるステップはまた、プラズマを生成する気体源を準備するステップをさらに含むことができるが、ここで気体は、窒素、酸素、アルゴン及びそれらの組合せ、から成る群から選択される。
短時間、高電圧パルスを印加してプラズマ放電からのイオン束を形成するステップは、約-0.5kVから約-40kVまでの電圧を印加するステップをさらに含むことができる。短時間、高電圧パルスを印加してプラズマ放電からのイオン束を形成するステップはまた、約-0.5kVから約-20kVまでの電圧を印加するステップをさらに含むことができる。短時間、高電圧パルスを印加してプラズマ放電からのイオン束を形成するステップはまた、0.2Hzから200Hzまでの周波数で電圧を印加するステップをさらに含むことができる。電圧は、約1ミリ秒から約10ミリ秒までの間、望ましくは約5ミリ秒の間印加することができる。
本発明によるプラズマ放電を生成する出力は50ワットから500ワットまで変化し得る。チャンバ内の圧力は、約0.1Paから約1.0Paの圧力まで減圧することができる。」(国際公開4ページ7行?5ページ6行、公表公報段落【0012】?【0015】)

摘示エ 「本発明は、窒素、酸素及び/又はアルゴンのイオンのプラズマ浸漬イオン注入(PIII)によるePTFEへのイオン注入、及びそれに続く表面の化学的機能化に向けられる。
プラズマ浸漬イオン注入は、ePTFEのようなポリマーの表面修飾を、高エネルギー・イオンのポリマー内への浸透、高分子の原子との衝突のカスケード、及び浸透したイオンの運動エネルギーの、ポリマー高分子の原子及び電子への移動、により変化させる。移動したエネルギーは、高分子内の化学結合を切断するのに十分に高く、放出された原子及び電子は近接した高分子との新しい衝突を起すのに十分な運動エネルギーをもって飛行する。その結果、化学結合の化学的切断、イオン化、フリーラジカルの生成、電子及び光子による高分子の励起が起こる。ポリマーのそのような激烈な構造変化の範囲は、イオン・トラックと呼ばれ、イオン・トラックの大きさは、イオン・エネルギー、イオン及びポリマーの種類に依存する。これらの反応は、ポリマーへのイオン・ビーム注入の第1段階において10^(-9)秒から10^(-6)秒の間に起こる。
イオン浸透後、ポリマーのトラック範囲は、非常に高濃度のフリーラジカル、高分子のイオン化及び高励起部分を有するが、これがポリマーのこの破壊された範囲に多くの化学反応を誘起する。その生成物はアモルファス炭素、芳香族凝縮構造体、安定又は部分的安定なフリーラジカル構造体である。フリーラジカルは初めの高分子からの水素切断の連鎖反応を引き起し、修飾範囲はイオンのトラックよりも著しく深くなる。本明細書で用いる「浸炭」という用語及びその変形は、ePTFEのようなポリマーの表面内部における、アモルファス炭素、芳香族凝縮構造体、安定又は部分的安定なフリーラジカル構造体の形成を意味する。構造変換の第2段階の持続時間は第1段階よりも遥かに長い。イオン・ビーム注入後のポリマー表面の特性は殆どこの第2段階に関係する。空気の存在下での第2の構造変換段階の間、修飾されたポリマー層のフリーラジカル反応は大気の酸素を巻き込み、安定な酸素含有基がポリマー内に出現する。ポリマー表面層におけるこれらの構造変換は、医療用具を含む種々の用途に用いることができる。浸炭表面は約30nmから約500nmまでの深さを有することが望ましく、約50nmから約150nmまでの深さであることがより望ましく、約100nmの深さであることが好ましい。
プラズマ浸漬イオン注入において、ポリマー試料のような試料、例えばePTFEは、ホルダー上で連続低エネルギー・プラズマ放電内に置かれ、そして高電圧パルスが短時間印加されてプラズマ雲からのイオン束が形成される。
ポリマー表面はプラズマ処理により機能化されるが、プラズマ浸漬イオン注入とは対照的に、プラズマ処理は普通、修飾された分子がポリマーのバルク中に移動しやすいので、比較的短時間の効果のみを有する。しかし、プラズマ浸漬イオン注入により、ポリマー、例えばePTFEは、表面の浸炭を誘起する高エネルギー・イオンで処理される。ポリマー表面の浸炭は、この表面の再形成、即ちポリマー・バルクへの移動を防ぐ。
プラズマ浸漬イオン注入によるポリマーへのイオン注入は、ポリマー表面にダングリング・ボンド及びフリーラジカルの形成をもたらす可能性がある。・・・
・・・
本発明による、プラズマ浸漬イオン注入によりePTFE表面を修飾する方法は、プラズマ処理に適したチャンバ内にePTFE材料を準備し、試料に連続低エネルギー・プラズマ放電を加え、短時間に高電圧パルスを印加してプラズマ放電からの高エネルギー・イオン束を形成し、ePTFE材料の表面上に、表面の下の分子及び/又は物理構造を変えることなくフリーラジカルを形成して修飾ePTFE表面を画定するイオンを生成する、ステップを含む。高電圧パルスを印加するステップは、ePTFEの結節及び小繊維構造を破壊せずにePTFEの表面を修飾するように制御する。電圧パルスのエネルギー及び周波数もまた、結節及び小繊維構造を破壊せずにePTFEの表面をエッチング及び/又は浸炭化するように制御する。連続低エネルギー・プラズマ放電は、約13.56MHz又は約2.45GHzのラジオ周波数でプラズマ放電を生成することによりもたらされる。これらのラジオ周波数は非限定的であり、他のラジオ周波数を適切に用いることができる。プラズマを生成する気体源は、窒素、酸素,アルゴン及びそれらの組合せを含むことができる。分子の被覆をePTFE表面上に堆積させるだけの従来技術の方法に比較して、本発明の方法においては、これらの気体のイオンをePTFEの表面を浸炭化するために用いることが望ましい。
約-0.5kVから約-40kVまでの短時間高電圧パルスを試料又は試料ホルダーに印加してプラズマからのイオンを試料に向けて加速する。約-0.5kVから約-30kVまでの電圧、約-0.5kVから約-20kVまでの電圧、約-5kVから約-40kVまでの電圧、約-10kVから約-30kVまでの電圧、及び約-20kVから約-30kVまでの電圧、もまた有用である。電圧は、約0.2Hzから約200Hzまでの周波数で印加することができる。電圧はまた、約1マイクロ秒から約10マイクロ秒までの時間、望ましくは約5マイクロ秒間、印加することができる。
プラズマ放電を生成する出力は、約50ワットから約500ワットまで、望ましくは約50ワットから約400ワットまでであった。プラズマ浸漬イオン注入により、チャンバは、非限定的であるが、約0.1Paから約1.0Paまでの減圧力において作動する。イオンは、約10^(13)イオン/cm^(2)から約10^(16)イオン/cm^(2)までのドーズ量でePTFE表面に投与することが望ましい。
この方法はePTFE表面を浸炭化する。ePTFE表面の浸炭化後、ePTFE上のフリーラジカル又はePTFE表面上のフリーラジカルの一部分は、ePTFE材料を酸化環境、例えば空気に曝して酸化することが望ましい。
フリーラジカル・サイト又は酸化されたフリーラジカル・サイトはスペーサ分子又は材料により機能化することができる。従来技術の被覆法とは異なり、スペーサ分子又は材料はePTFEに共有結合する。有用な、しかし非源的な、スペーサ分子又は材料は、上記の親水性アクリルアミド基、多糖ヒドロキシエチルスターチ基及びそれらの組合せを含む。
さらに、生物活性剤を修飾ePTFE表面に、又はスペーサ分子、即ち、親水性アクリルアミド基、多糖ヒドロキシエチルスターチ基及びそれらの組合せに、共有結合させることができる。有用な、しかし非限定的な、生物活性剤には、抗血栓症剤(例えばヘパリン、ヘパリン誘導体、ヒルジン、アセチルサリチル酸、ウロキナーゼ、及びPPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)など)、増殖抑制剤(例えばエノキサプリン、アンギオペプチン、又は、平滑筋細胞の増殖をブロックできるモノクローナル抗体、ヒルジン、及びアセチルサリチル酸など)、抗炎症剤(例えばデキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジン、及びメサラミンなど)、抗腫瘍/抗増殖/抗有糸分裂剤(例えばパクリタクセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンギオスタチン及びチミジンキナーゼ抑制剤)、麻酔剤(例えばリドカイン、ブピバカイン、及びロピバカインなど)、抗凝血剤(例えばD-Phe-Pro-Argクロロメチルケトン、ヘパリン、抗トロンビン化合物、血小板レセプタ拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板レセプタ抗体、アスピリン、プロスタグランジン抑制剤、血小板抑制剤およびダニ抗血小板ペプチドなど)、脈管細胞成長促進剤(例えば成長因子抑制剤、成長因子レセプタ拮抗剤、転写活性化因子、及び翻訳促進剤など)、脈管細胞成長抑制剤(例えば、成長因子抑制剤、成長因子レセプタ拮抗剤、転写抑制因子、翻訳抑制因子、複製抑制剤、阻害抗体、成長因子に対する抗体、成長因子及び細胞毒素からなる二官能性分子、抗体及び細胞毒素からなる二官能性分子など)、コレステロール降下剤、血管拡張剤、内因性血管収縮拡張機構を妨げる薬剤、接着因子(例えば、RGD配列含有化合物、リジン、ポリL-リジン、内皮細胞マーカ及び/又はそれらの前駆細胞/幹細胞に対する抗体、及びエラスチンなど)、及びそれらの組合せが含まれる。」(国際公開9ページ30行?14ページ18行、公表公報段落【0022】?【0035】)

摘示オ 「本発明の1つの態様において、ePTFE表面をプラズマ浸漬イオン注入により修飾する方法は、プラズマ処理に適したチャンバ内にePTFE材料を準備し、試料に連続低エネルギー・プラズマ放電を加え、短時間、高電圧パルスを印加してプラズマ放電からの高エネルギー・イオン束を形成し、ePTFE材料の表面上に、表面の下の分子及び/又は物理構造を変えることなくフリーラジカルを形成して修飾ePTFE表面を画定するイオンを生成する、ステップを含む。ePTFE材料は結節及び小繊維構造を有し、高電圧パルスを印加するステップがePTFEの表面をエッチング又は浸炭化するときでも、高電圧パルスを印加するステップは結節及び小繊維構造を破壊することなくePTFEの表面を修飾する。修飾された表面は約30nmから約500nmまでの深さを有することができる。イオンは約10^(13)イオン/cm^(2)から約10^(16)イオン/cm^(2)までの濃度又はドーズ量でePTFE試料に投与することが望ましい。
連続低エネルギー・プラズマ放電を試料に加えるステップは、約13.56MHz又は約2.45GHzのラジオ周波数でプラズマ放電を生成するステップをさらに含む。これらの有用なラジオ周波数は非限定的であり、他のラジオ周波数を適切に用いることができる。連続低エネルギー・プラズマ放電を試料に加えるステップは、プラズマを生成する気体源を準備するステップをさらに含むことができ、その気体は、窒素、酸素、アルゴン及びそれらの組合せから成る群から選択される。
短時間、高電圧パルスを印加してプラズマ放電からのイオン束を形成するステップは、約-0.5kVから約-40kVまでの電圧を印加するステップをさらに含むことができる。短時間、高電圧パルスを印加してプラズマ放電からのイオン束を形成するステップはまた、約-0.5kVから約-20kVまでの電圧を印加するステップをさらに含むことができる。短時間、高電圧パルスを印加してプラズマ放電からのイオン束を形成するステップはまた、0.2Hzから200Hzまでの周波数で電圧を印加するステップをさらに含むことができる。電圧は、約1ミリ秒から約10ミリ秒までの時間、望ましくは約5ミリ秒間、印加することができる。
本発明によるプラズマ放電を生成する出力は50ワットから500ワットまで変化し得る。チャンバ内の圧力は、約0.1Paから約1.0Paの圧力まで減圧することができる。
ePTFE表面を修飾する方法は、フリーラジカルの少なくとも一部分を酸化し、フリーラジカル・サイトを、ePTFEに共有結合したスペーサ分子又は材料により機能化し、フリーラジカル・サイトを親水性アクリルアミド基により機能化し、修飾ePTFE表面に親水性アクリルアミド基を共有結合させ、フリーラジカル・サイトを多糖ヒドロキシエチルスターチ基により機能化し、修飾ePTFE表面に多糖ヒドロキシエチルスターチ基を共有結合させ、修飾ePTFE表面に付着生物活性剤を共有結合させ、修飾ePTFE表面に共有結合している親水性アクリルアミド基に付着生物活性剤を共有結合させ、修飾ePTFE表面に共有結合している多糖ヒドロキシエチルスターチ基に付着生物活性剤を共有結合させるステップ、又はこれらの組合せ、のうちの1つのステップ又は複数のステップをさらに含むことができる。有用な生物活性剤には、抗血栓症剤(例えばヘパリン、ヘパリン誘導体、ヒルジン、アセチルサリチル酸、ウロキナーゼ、及びPPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)など)、増殖抑制剤(例えばエノキサプリン、アンギオペプチン、又は、平滑筋細胞の増殖をブロックできるモノクローナル抗体、ヒルジン、及びアセチルサリチル酸など)、抗炎症剤(例えばデキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジン、及びメサラミンなど)、抗腫瘍/抗増殖/抗有糸分裂剤(例えばパクリタクセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンギオスタチン及びチミジンキナーゼ抑制剤)、麻酔剤(例えばリドカイン、ブピバカイン、及びロピバカインなど)、抗凝血剤(例えばD-Phe-Pro-Argクロロメチルケトン、ヘパリン、抗トロンビン化合物、血小板レセプタ拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板レセプタ抗体、アスピリン、プロスタグランジン抑制剤、血小板抑制剤およびダニ抗血小板ペプチドなど)、脈管細胞成長促進剤(例えば成長因子抑制剤、成長因子レセプタ拮抗剤、転写活性化因子、及び翻訳促進剤など)、脈管細胞成長抑制剤(例えば、成長因子抑制剤、成長因子レセプタ拮抗剤、転写抑制因子、翻訳抑制因子、複製抑制剤、阻害抗体、成長因子に対する抗体、成長因子及び細胞毒素からなる二官能性分子、抗体及び細胞毒素からなる二官能性分子など)、コレステロール降下剤、血管拡張剤、内因性血管収縮拡張機構を妨げる薬剤、接着因子(例えば、RGD配列含有化合物、リジン、ポリL-リジン、内皮細胞マーカ及び/又はそれらの前駆細胞/幹細胞に対する抗体、及びエラスチンなど)、及びそれらの組合せが含まれる。」(国際公開16ページ31行?18ページ28行、公表公報段落【0041】?【0045】)

摘示カ 「以下の非限定的な実施例は、本発明をさらに説明するためのものである。
【実施例1】
種々のエネルギー及び処理の種々の実施法による窒素、酸素及びアルゴンのイオンのプラズマ浸漬イオン注入を用いて、ePTFEのシート、PTFE薄膜及び低密度ポリエチレン(LDPE)膜の修飾を行った。PTFE及びLDPE試料を、分析を支持するための付随試料として用いた。
材料及び方法
材料
Boston Scientific SCIMIDから供給されたePTFEを用いて、プラズマ浸漬イオン注入処理、構造解析及び細胞培養実験を行った。20μmのPTFE膜及び50μmのLDPE膜を用いて、プラズマ浸漬イオン注入処理及び構造解析を行った。PTFE及びLDPE膜はプラズマ浸漬イオン注入の前にアルコールで洗浄した。ePTFE試料はプラズマ浸漬イオン注入の前にアルコールで洗浄しなかったが、試料の表面は梱包を除去した後触れなかった。
プラズマ浸漬イオン注入
殆どの修飾は、ドイツ、ドレスデン所在のForschungszentrum Rossendorf(FZR)の装置を用いて行った。残留空気の圧力は10^(-3)Paであり、放電時の作業圧力は10^(-1)Paであった。プラズマ放電には窒素、酸素及びアルゴン気体を用いた。プラズマは13.56MHzのラジオ周波数発生器により生成した。プラズマ出力は50-400Wの範囲に調節した。プラズマ開始後、0.5-1分後の安定プラズマ放電時に、高電圧パルスを試料ホルダーに印加した。高電圧パルスは5μsの時間幅を有し、20kV、10kV、1kV及び0.5kVのピーク電圧を用いた。0.2Hzから200Hzまでのパルスの繰返し周波数を用いた。プラズマ浸漬イオン注入処理の間、パルス周波数を調節して温度を制御した。プラズマ浸漬イオン注入処理は、ePTFE、PTFE及びLDPE試料に対して10^(13)イオン/cm^(2)から10^(16)イオン/cm^(2)までのドーズ量で行った。
付加的に、幾つかの試料をライプチッヒ所在のInstitute of Surface Modificationにおいて処理した。この場合は、20keVのエネルギーで窒素イオンだけを用いた。処理のドーズ量は10^(13)、10^(14)、10^(15)及び10^(16)cm^(-2)であった。
プラズマ浸漬イオン注入処理のドーズ量は、ラングミュア・プローブによるプラズマ密度の直接測定により、及びLDPEの付随試料のフフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを周知の以前のデータと比較することにより、計算した。ラングミュア・プローブによりプラズマ密度の安定度を決定し、ドーズ処理量の平均値からの偏差は10%と見積った。例えば、窒素プラズマ放電のプラズマ密度の、作業気体の圧力及びプラズマ出力に依存した挙動は図4A及び図4Bに示す。プラズマ密度はチャンバ圧力及びプラズマ生成に用いた出力の関数である。プラズマ密度はこれら変数の両方の増加に伴って増加する。
ePTFE、PTFE及びLDPEの処理に用いたプラズマ浸漬イオン注入実施法の一覧を表1に示す。

化学的後処理
修飾試料を、アクリルアミドの10%水溶液、修飾多糖ヒドロキシエチルスターチの10%水溶液(HAES無菌10%、Fresenius AG)により処理した。後処理は、プラズマ浸漬イオン注入の直後、及び20日後、並びに、促進経時劣化処置後の異なる時間に行った。試料は室温において2時間、溶液中に完全に浸した。後処理の後、試料は脱イオン水で洗浄し空気乾燥した。これらの試料の濡れ角度測定は、ポリマー表面上の残留水の影響を除外するために翌日に行った。」(国際公開20ページ28行?23ページ2行、公表公報段落【0051】?【0055】)

摘示キ 「 プラズマ浸漬イオン注入処理表面の経時劣化
プラズマ浸漬イオン注入後の修飾表面の安定性を分析するために経時劣化試験を行った。表面の安定性は、熱経時劣化後、並びに経時劣化及びHAES処理後、の水滴の接触角測定によって見積った。第2の場合には、濡れ性だけでなく、経時劣化の間に処理表面が化学的活性を保持する機能をも試験した。
実験においては、PTFE及びePTFEの試料をプラズマ浸漬イオン注入により、3通りの異なるドーズ量、即ち、示されるように10^(14)イオン/cm^(2)、10^(15)イオン/cm^(2)及び10^(16)イオン/cm^(2)、で処理し、次に高温で処理したが、これは経時劣化過程(時間と温度の重ね合わせ)のモデルとして用いた。熱処理後、ePTFEの接触角は大抵の場合変化しなかった(図13A)。経時劣化反応速度は、処理PTFEの親水性は少なくとも数ヶ月間保持できることを示す。」(国際公開30ページ11?23行、公表公報段落【0074】)

摘示ク 「

」(国際公開 FIG.13A、公表公報【図13A】)



第5 先願明細書に記載された発明

付着生物活性剤について、先願明細書の記載をみると、「【請求項20】付着生物活性剤を前記修飾ePTFE表面に共有結合させるステップをさらに含む」との記載(摘示ア)から、付着生物活性剤を修飾ePTFE表面に共有結合させることが記載されており、その具体的な態様として、「生物活性剤を修飾ePTFE表面に、又はスペーサ分子、即ち、親水性アクリルアミド基、多糖ヒドロキシエチルスターチ基及びそれらの組合せに、共有結合させることができる」との記載(摘示エ)、あるいは、「ePTFE表面を修飾する方法は、・・・修飾ePTFE表面に付着生物活性剤を共有結合させ、修飾ePTFE表面に共有結合している親水性アクリルアミド基に付着生物活性剤を共有結合させ、修飾ePTFE表面に共有結合している多糖ヒドロキシエチルスターチ基に付着生物活性剤を共有結合させるステップ、又はこれらの組合せ、のうちの1つのステップ又は複数のステップをさらに含むことができる。」との記載(摘示オ)から、生物活性剤を、修飾ePTFE表面に、(親水性アクリルアミド基、多糖ヒドロキシエチルスターチ基などの)スペーサ分子を介して、あるいは介さずに共有結合させるものであるといえるから、その具体的な態様の1つとして、付着生物活性剤が修飾ePTFE表面にスペーサ分子を介さずに共有結合している態様を包含するものであるといえる。
そうすると、先願明細書には、摘示ア?オの記載を総合すると、以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。

「結節及び小繊維構造を有し、前記結節及び小繊維構造を破壊せずにプラズマ浸漬イオン注入により形成された、酸化されたフリーラジカル・サイト表面及び30nmから500nmまでの深さを有する浸炭表面を有し、前記小繊維に付着する生物活性剤を有し、当該生物活性剤が修飾ePTFE(機械的に伸びた発泡形ポリテトラフルオロエチレン)表面にスペーサ分子を介さずに共有結合している、ePTFEを含む表面修飾ePTFE」



第6 対比

本願発明と先願発明とを対比する。
先願発明における「結節及び小繊維構造を有」する「ePTFE」は、本願明細書の請求項3に「前記ポリマー基質が、ブロック、シート、フィルム、ストランド、繊維、小片または粒子、粉末、造形品、織布、あるいはシートにプレスされた密集繊維である」と記載されており、同じく請求項7に「前記ポリマーが、1つまたは複数の・・・ポリテトラ-フルオロエチレン(PTFE)・・・を含む」と記載されていることからみて、本願発明における「ポリマー基質」に相当することは明らかである。
先願発明における「生物活性剤」は、摘示エ?オの記載と本願明細書の「用語『機能的』は、該分子が、生体系において通常示すと考えられる少なくともいくつかの活性を示すことができることを伝えるものとする。例えば、活性は、抗原/抗体結合、受容体/薬物結合などの結合相互作用に寄与する能力の維持、またはたとえ生体系において通常のレベルよりも低いレベルではあっても、生体反応を触媒するか、または生体反応に寄与する能力の維持を含み得る。・・・
用語『生体分子』とは、生物源に由来するか、生体系に存在する分子の合成的に製造された複製物であるか、生体系に存在する分子の活性を模倣する分子であるか、またはその他の形で生物学的活性を示す任意の分子を包含するものとする。生体分子の例としては、限定はしないが、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸(DNAおよび RNAなど)、脂質および炭水化物、ならびにそれらの活性断片が挙げられる。好ましい生体分子としては、タンパク質および薬物または薬物標的が挙げられる。特に好ましい生体分子としては、抗体および免疫グロブリン、受容体、酵素、神経伝達物質または他の細胞シグナル伝達物質、サイトカイン、ホルモンおよび相補性決定タンパク質、ならびにそれらの活性断片が挙げられる。」(段落0023?0024)との記載とを対比すれば、本願発明における「機能的生体分子」に相当することは明らかである。
そして、先願発明における「生物活性剤」は、プラズマ浸漬イオン注入により形成された、酸化されたフリーラジカル・サイト表面を機能化するものであって(摘示エ)、「修飾ePTFE(機械的に伸びた発泡形ポリテトラフルオロエチレン)表面にスペーサ分子を介さずに共有結合している」のであるから、本願発明における「機能的生体分子との直接的な共有結合により機能化されたポリマー基質」に相当することは明らかである。
また、先願発明における「酸化されたフリーラジカル・サイト表面」は、本願明細書の「理論に拘泥するものではないが、本発明によるポリマー表面の活性化により、生体分子の化学基または生体分子に結合するリンカーに対する化学結合、多くの場合は共有結合を形成することが可能であると考えられる。生体分子の化学基は、該分子の外部に位置することなどによって結合相互作用に接近できることが好ましい。ポリマー表面の活性化は、酸素(例えば、空気から)へのPIIIプラズマ処理表面の曝露後に生じ、次いで、アミン基など、生体分子上の反応性種に対する結合部位として利用できる、荷電酸素原子および反応性カルボニルなどの反応性酸素種ならびにカルボン酸部分の生成を含むと考えられる。」(段落0021)との記載からみて、本願発明における「前記生体分子への前記直接的な共有結合が可能となるように活性化された親水性表面」に相当することは明らかである。
そうすると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点1で一応相違するものである。

<一致点>
機能的生体分子との直接的な共有結合により機能化されたポリマー基質であって、前記生体分子への前記直接的な共有結合が可能となるように活性化された親水性表面を含むポリマー基質

<相違点1>
本願発明においては、「前記表面下1nmから300nmに位置する複数の架橋領域を含む内層面とを含む」と特定しているのに対し、先願発明においては、「30nmから500nmまでの深さを有する浸炭表面を有」すると特定している点



第7 判断

先願発明における「浸炭表面」について検討すると、摘示エには、「『浸炭』という用語及びその変形は、ePTFEのようなポリマーの表面内部における、アモルファス炭素、芳香族凝縮構造体、安定又は部分的安定なフリーラジカル構造体の形成を意味する。」と記載されているのであるから、当該浸炭表面とは上記ポリマーの表面内部の一部に、芳香族凝縮構造体、すなわちポリマーの架橋構造を形成するものであることを意味することがみてとれる。
そして、本願明細書の記載(段落0028)を参酌すれば、「内層面」とはPIII(プラズマ浸漬イオン注入)条件下プラズマ処理に供される表面下約1nmと約300nmとの間であるポリマー領域を包含するものであって、ポリマーの内層面へエネルギー性イオンが貫入し、基質内層面においてポリマー架橋領域が生じるものであることがみてとれる。
そして、先願発明の「浸炭表面」の深さ(30nmから500nmまで)と本願発明の「内層面」の位置(表面下1nmから300nm)とは重複一致する範囲を包含するものである。
そうすると、先願発明の「浸炭表面」と本願発明の「複数の架橋領域を含む内層面」とは、ともにプラズマ浸漬イオン注入条件下でのポリマーの内層面へエネルギー性イオンが貫入することにより形成するポリマー架橋領域を含む点で共通するものであるといえ、しかもその深さも一致するものであることから、両者は同じものであるといえる。
してみると、相違点1は、実質的な相違点ではない。

したがって、本願発明は、先願発明、すなわち、その出願の優先日前の日を優先日とする外国語特許出願であって、その優先日後に国際公開がされた外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一である。
そして、先願発明をした者が本願発明の発明者と同一の者ではなく、また、本願の出願の時に本願の出願人と先願発明に係る出願人とが同一の者でもない。
よって、本願発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。



第8 請求人の主張の検討

請求人は、以下のとおり主張しているが、以下に述べるとおり、何れも受け入れられるものではない。

1.架橋領域の生成について
請求人は、先願明細書には修飾ePTFEに表面架橋の生成を生ずることに関して記載も示唆もなく、「表面下1nmから300nmに位置する複数の架橋領域」の生成を、採用された処理が生成することについて記載も示唆もない旨主張している。

しかしながら、上記第6で述べたとおり、先願明細書には、「30nmから500nmまでの深さを有する浸炭表面を有」する先願発明が記載されているといえ、上記第7で述べたとおり、当該「浸炭表面」は、本願発明の「複数の架橋領域を含む内層面」と同じものであるといえる。
そして、プラズマ浸漬イオン注入条件について、先願明細書の摘示ウ?カの記載と本願明細書の段落0034?0035の記載とを比較しても、両者間に特に差異はないといわざるを得ない。

2.発明の課題について
請求人は、先願明細書には、本願発明の課題としている「疎水性回復の遅延」について何の記載もない旨主張している。

しかしながら、摘示キ?クに記載されているとおり、熱処理後、ePTFEの接触角は大抵の場合変化せず、経時劣化反応速度は、処理PTFEの親水性は少なくとも数ヶ月間保持できることがみてとれる。
そうすると、処理PTFEの親水性が長期間(少なくとも数ヶ月間)保持できることが示されており、これは本願発明における疎水性回復を遅延していることと同義であるといえる。
したがって、請求人の発明の課題についての主張は失当である。



第9 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-24 
結審通知日 2015-03-02 
審決日 2015-03-17 
出願番号 特願2008-558592(P2008-558592)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中尾 奈穂子  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 大島 祥吾
小野寺 務
発明の名称 生体分子に結合する活性化ポリマー  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  
代理人 実広 信哉  

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