• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1303727
審判番号 不服2014-2908  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-17 
確定日 2015-07-29 
事件の表示 特願2011-514142「ソフトパイロットシンボルを用いる無線信号を処理するための受信機および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月14日国際公開、WO2010/004389、平成23年10月 6日国内公表、特表2011-526435〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2009年6月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年6月17日 米国,2008年9月29日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成25年11月22日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成26年2月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付で手続補正書が提出されたものである。



第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年2月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
平成25年11月1日付け手続補正は同年11月22日付けで却下されたから,平成26年2月17日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成25年7月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された,

「 送信されるシンボルの系列を含む受信無線信号のパラメータを推定するための無線受信機における方法であって:
送信されるシンボルの前記系列の第1の部分は,前記系列の第2の部分よりもより高い信頼性で送信されることと;
より高い信頼性で送信される前記第1の部分のシンボルをまず復調し,ソフトパイロットシンボルを形成するステップと;
前記ソフトパイロットシンボルを既知のシンボルとして利用し,前記受信無線信号のパラメータを推定するステップと;
送信されるシンボルの前記系列の前記第1の部分および前記第2の部分の両方からデータを抽出するステップと;
を含む方法。」

という発明(以下,「本願発明」という。)を, 本件補正の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された,

「 送信されるシンボルの系列を含む受信無線信号のパラメータを推定するための無線受信機における方法であって:
送信されるシンボルの前記系列の第1の部分は,前記系列の第2の部分よりもより高い信頼性で送信されることと;
前記第1の部分は,前記第2の部分について利用されるより高次の変調法よりも,より低次の変調法を有することと;
より高い信頼性で送信される前記第1の部分のシンボルをまず復調し,ソフトパイロットシンボルを形成するステップと;
前記ソフトパイロットシンボルを既知のシンボルとして利用し,前記受信無線信号のパラメータを推定するステップと;
送信されるシンボルの前記系列の前記第1の部分および前記第2の部分の両方からデータを抽出するステップと;
を含む方法。」(下線は,請求人が手続補正書において補正箇所を示すものとして付加したものを援用したものである。)

という発明(以下,「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。


2.補正の適否
(1)新規事項の有無,補正の目的要件,シフト補正の有無
上記補正の内容は,「送信されるシンボルの前記系列の第1の部分」と「前記系列の第2の部分」に関して,「前記第1の部分は,前記第2の部分について利用されるより高次の変調法よりも,より低次の変調法を有すること」を特定するものであり,平成26年2月17日付け審判請求書(「3.補正の説明」の欄参照)において審判請求人も主張しているように,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。
そして,上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされた補正であるから,上記補正は,特許法第17条の2第3項(新規事項),及び同法第17条の2第5項(補正の目的)の規定に適合しており,また同法第17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反しないことも明らかである。


(2)独立特許要件
上記補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,補正後の発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて,以下に検討する。

[補正後の発明]
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項において,「補正後の発明」として認定したとおりである。

[引用発明]
原査定の拒絶理由に引用された文献であり,本願優先日前に公開された特開2004-207995号公報(以下,「引用例」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0012】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1に係わる無線通信システムの構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように,本発明の実施の形態1に係わる無線通信システムは,第一の通信装置(送信装置)100と第二の通信装置(受信装置)200とを具備する。
【0013】
前記無線通信システムは,前記第一の通信装置100と前記第二の通信装置200との間でディジタル変調により無線通信を行い,第一の通信装置100は,誤り訂正符号化部101とデータ書換え部102と信号点配置部103と既知シンボル生成部104とバースト生成部105と送信処理部106とを具備する。
【0014】
データ書換え部102の入力端子は,誤り訂正符号化部101の出力端子に接続されている。
【0015】
信号点配置部103の入力端子は,データ書換え部102の出力端子に接続されている。
【0016】
バースト生成部105の入力端子は,信号点配置部104と既知シンボル生成部104の出力端子に接続されている。
【0017】
送信処理部106の入力端子はバースト生成部105の出力端子に接続されている。
【0018】
前記第二の通信装置200は,受信処理部201と分割部202と擬似パイロットシンボル判定部203と歪推定部204と歪補償部205とデータシンボル判定部206と受信データ列生成部207と誤り訂正部208とを具備する。
【0019】
分割部202の入力端子は,受信処理部201の出力端子に接続されている。
【0020】
擬似パイロットシンボル判定部203の入力端子は,分割部202の出力端子に接続されている。
【0021】
歪推定部204の入力端子は,分割部202と擬似パイロットシンボル判定部203の出力端子に接続されている。
【0022】
歪補償部205の入力端子は,分割部202と歪推定部204の出力端子に接続されている。
【0023】
データシンボル判定部206の入力端子は,歪補償部205の出力端子に接続されている。
【0024】
受信データ列生成部207の入力端子は歪推定部202と歪補償部203の出力端子に接続されている。
【0025】
誤り訂正部208の入力端子は受信データ列生成部207の出力端子に接続されている。
【0026】
以上の構成により誤り訂正符号化後の送信データに対して所定の位置のデータを所定の既知のデータに書換えることにより,前記所定の位置のデータを書換えた送信データを擬似的にパイロットシンボルとして使用し,振幅,位相の歪補償精度を向上しバーストエラーの発生を抑え,また前記疑似パイロットシンボルは誤り訂正を行うことにより元のデータを復元されるため,結果としてビット誤り率特性を改善する。」(6?7頁)

ロ.「【0027】
以下では,具体的な例として変調方式に16値QAMを用いる場合について説明する。
【0028】
誤り訂正符号化部101は,ビットデータ列s1を入力とし,前記ビットデータ列s1に誤り訂正符号化処理を施し,誤り訂正符号化後のビットデータ列s2を出力するものである。本発明の実施の形態1では,一例として誤り訂正符号に畳込み符号を用い,復号には最尤復号を用いるものとする。
【0029】
データ書換え部102は,前記誤り訂正後のビットデータ列s2に対して,所定の位置のデータを既知のデータに書換え,データ書換え後のビットデータ列s3を出力するものである。ここで所定の位置とは,例えば送信バーストを図2に示すように2個のパイロットシンボル(P)の中間の位置に疑似パイロットシンボル(P´)を配置するように構成するものとし,この場合の前記誤り訂正符号化後のビットデータ列s2において前記疑似パイロットシンボルの位置に相当する位置のことである。具体的には16値QAM変調では,1シンボルを4ビットで構成するので,前記誤り訂正後のビットデータ列s2において,疑似パイロットシンボル(P´)の位置に相当する4ビットのうち下位2ビットを既知データ(0,0)に書換えるものとする。なお本実施の形態ではデータを書換えることにより平均で1ビットの誤りを付加してしまうことになるが,これは第二の通信装置200の誤り訂正部205により訂正されるものとする。また本実施の形態では下位2ビットを既知データ(0,0)に書き換える構成としたが,本発明はこれに限るものではない。例えば下位2ビットを書換えるのではなく4ビットすべてを既知データとして(0,0,0,0)に書換える構成としても良い。
【0030】
信号点配置部103は,前記データ書換え後のビットデータ列s3を入力とし,前記ビットデータ列s3に対して16値QAM変調方式に準じた信号点配置を行う。本実施の形態では,信号点配置の際に一例としてグレイ符号化を施すものとする。このとき16値QAM変調信号のIQ平面上での信号点配置は図3のようになる。図3のような信号点配置の16値QAM変調信号の場合,上位2ビットで象限が決まり,下位2ビットで象限内の位置が決定するので,前記データ書換え後のビットデータ列s3に対して信号点配置を行う場合,例えば前記データ書換え部102においてビットデータ(0,0,1,1)の下位2ビットを既知データ(0,0)に書換えた場合,前記ビットデータは(0,0,0,0)となり,本来図4の6の点に配置に配置されるはずであったが,下位2ビットのデータを書換えたことにより1の点の位置に配置される。同様に図4の第2象限内に配置されるビットデータの下位2ビットを既知データ(0,0)に書換えると,2の点の位置に配置されることになる。このようにデータ書換え部102においてビットデータの下位2ビットを(0,0)に書換えられたビットデータは,本来配置されるはずであった信号点の位置と同一象限内で最大振幅を持つ信号点位置に配置される。このことにより,データを書換えられたビットデータは図4の1,2,3,4のいずれかの位置に信号点配置され,これを擬似的にパイロットシンボルとして扱うことが可能となる。本実施の形態ではこれを擬似パイロットシンボルs5と呼んでいる。またその他のビットデータは本来の位置に信号点配置される。本実施の形態ではこれをデータシンボルs4と呼んでいる。このようにして信号点配置部104は前記2種類のシンボルs4とs5を出力する。
【0031】
既知シンボル生成部104は,既知のシンボルs6を生成しバースト生成部105に出力するものである。本実施の形態では一例として既知シンボルs6を(0,0,0,0)とし,図4に示すIQ平面上の1の信号点位置に配置するものとする。この既知シンボルをパイロットシンボルと呼んでいる。なお本実施の形態ではパイロットシンボルを(0,0,0,0)としたが本発明はこれに限るものではなく,パイロットシンボルは受信機で受信信号の振幅,位相の歪補償を行う際に基準となるシンボルとして使用できればどのようなデータにしても良い。
【0032】
バースト生成部105は,前記データシンボルs4と前記擬似パイロットシンボルs5と前記パイロットシンボルs6とを入力とし,前記データシンボルs4と前記擬似パイロットシンボルs5と前記パイロットシンボルs6とをあらかじめ決められた規則に従い配置することで送信バーストs7を構成し,送信処理部106に出力するものである。本実施の形態では,一例として図2に示すように前記送信バーストs7に32シンボル間隔で前記パイロットシンボル(P)s6を挿入し,更に前記擬似パイロットシンボル(P´)s5を前記パイロットシンボル(P)s6の中間の位置に挿入し,その他の部分には前記データシンボルs4を挿入する構成とする。なお本実施の形態では送信バーストs7に対して32シンボル間隔でパイロットシンボルs6を挿入し,更にその中間の位置に擬似パイロットシンボルs5を挿入する構成としたが,本発明はこの間隔や数に限定されるものではない。例えばパイロットシンボルs6は16シンボル間隔で挿入し,擬似パイロットシンボルs5はその中間の位置に挿入しても良いし,パイロットシンボルs6の間隔を3等分する位置に挿入する構成としても良い。
【0033】
送信処理部106は,送信バーストs7を入力とし,所定の送信処理を施すものであり,信号s8を出力するものである。なお本発明ではその詳細な構成は限定されるものではない。」(7?9頁)

ハ.「【0034】
受信処理部201は,信号s8を入力とし,直交復調処理,同期処理等を施すことにより,受信したバースト信号s9を出力するものである。
【0035】
分割部202は,受信したバースト信号s9を入力とし,前記受信したバースト信号s9を例えば図2に示す3種類のシンボルの位置に応じて分割し,データシンボルs10,パイロットシンボルs11,擬似パイロットシンボルs12を出力するものである。
【0036】
擬似パイロットシンボル判定部203は,擬似パイロットシンボルs12を入力とし,前記擬似パイロットシンボルs12に対して,例えば図5に示すI軸,Q軸を用いて象限判定し,前記擬似パイロットシンボルs12がIQ平面上のどの象限内に位置しているかを判定し,象限判定後の擬似パイロットシンボルs13を出力するものである。
【0037】
歪推定部204は,前記パイロットシンボルs11と前記象限判定後の擬似パイロットシンボルs13とを入力とし,パイロットシンボルs11に対しては,送信側で図4の1の位置に配置されているはずなので,図4の1のベクトル位置の信号点と比較することにより,受信したパイロットシンボルの振幅,位相の歪量を推定し,擬似パイロットシンボルに対しては,前記象限と同一象限内にある最大振幅を持つ信号点と比較することにより(本実施の形態では前記受信した擬似パイロットシンボルは図4の1,2,3,4のいずれかの信号点と比較することになる),受信した擬似パイロットシンボルの振幅,位相の歪量を推定し,歪量s14を出力する。
【0038】
歪補償部205は,前記歪量s14を用いて受信した区間のIQベクトルの振幅,位相の歪量を推定し,前記推定結果を用いて前記受信したデータシンボルs10に対して歪補償を行い,歪補償後のデータシンボルs15を出力するものである。ここで,歪量の推定には例えばベクトル補間処理が用いられる。
【0039】
データシンボル判定部206は,前記歪補償後のデータシンボルs15に対して,例えば図5に示すI軸,Q軸,thr_i及びthr_rを用いて閾値判定することによりシンボル判定結果s16を出力する。
【0040】
受信データ列生成部207は,前記2種類のシンボル判定結果s13とs16を入力とし前記2種類のシンボル判定結果を所定の順列に配置して受信データ列s17を出力するものである。所定の順列とは,例えば図2に示すように構成されているバーストに配置されているデータシンボル(D)と疑似パイロットシンボル(P´)の配置順と同じ順列である。
【0041】
誤り訂正部208は,前記受信データ列s17を入力とし誤り訂正処理を施し,通信路誤りや前記データ書換え部102によって既知データに書換えたデータを訂正し,誤り訂正後の受信データ列s18を出力するものである。なお本実施の形態では誤り訂正に畳込み符号を用いており,擬似パイロットシンボルの位置の既知データに書換えられたデータに対しては尤度を下げて復号することにより,誤り訂正能力を向上させる構成としても良い。また本実施の形態では誤り訂正符号化に畳込み符号を用いたが,本発明はこれに限るものではない。例えば,ターボ符号等を用いても良い。
【0042】
以上のように,本実施の形態によれば,データ書換え部102において誤り訂正符号化された送信データの一部を既知のデータに書換えることにより,前記書換えたデータを疑似的にパイロットシンボルとして扱うことで受信信号の振幅,位相の歪補償精度を向上し,バースト誤りを低減し,また,書換えたデータは誤り訂正部205で訂正することにより,結果としてビット誤り率特性を改善することができる。」(9?10頁)


上記摘記事項の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,

a.上記摘記事項イ.の【0012】段落の記載及び図1の記載によれば,引用例に記載されたものは第一の通信装置(送信装置)100と第二の通信装置(受信装置)200とを具備する無線通信システムに係るものであり,その第二の通信装置(受信装置)200の動作に関して,上記摘記事項ハ.の【0037】【0038】段落の記載によれば,第二の通信装置(受信装置)200は第一の通信装置から送信されてくる擬似パイロットシンボルの振幅,位相の歪量を推定し,少なくとも当該歪量に基づいて受信した区間のIQベクトルの振幅,位相の歪量を推定し,第一の通信装置から受信したデータシンボルに対して歪補償を行うことが記載されている。
そうしてみると,引用例には第二の通信装置において行われる,第一の通信装置から無線送信され第二の通信装置で受信される疑似パイロットシンボル及びデータシンボルを含む信号の振幅,位相の歪量を推定するための方法が記載されているといえる。

b.上記摘記事項ロ.の【0029】?【0030】段落の記載及び図2の記載によれば,引用例に記載されたものにおいては,送信バーストは16値QAM変調されるが,その際,疑似パイロットシンボルの部分では4ビットのうち下位2ビットを既知データ(0,0)に書換えられ,16値QAM変調方式に準じた変調が行われるが,データシンボルの部分では4ビットのデータはそのまま変調され,データシンボルとなって送信される。
したがって,引用例は,送信バーストの疑似パイロットシンボルの部分では16値QAM変調される4ビットのうち下位2ビットが既知データ(0,0)に書換えられ,送信バーストのデータシンボルの部分では書換えられずに4ビットによる16値QAM変調により変調されて送信されるものといえる。

c.上記摘記事項ハ.の【0034】?【0035】段落の記載によれば,受信処理部201が,擬似パイロットシンボルを含み第一の通信装置から送信されてくるバースト信号に対して,直交復調処理,同期処理等を施し,さらに分割部202が,データシンボル,パイロットシンボル,擬似パイロットシンボルに分割して出力する。
したがって,引用例は,送信されてくる擬似パイロットシンボルを含むバースト信号を直交復調処理,同期処理,分割処理して,擬似パイロットシンボルを形成するステップを有しているといえる。

d.上記摘記事項ハ.の【0036】?【0038】段落の記載によれば,擬似パイロットシンボル判定部203と歪推定部204からなる構成により,擬似パイロットシンボルを,当該疑似パイロットシンボル入力と同一象限内にある最大振幅を持つ信号点と比較することにより,受信した擬似パイロットシンボルの振幅,位相の歪量を推定し,さらに少なくとも当該歪量を用いて歪補償部205によりデータシンボルの歪量の推定を行っているものといえる。
したがって,引用例は,擬似パイロットシンボルを利用して,疑似パイロットシンボルとデータシンボルの歪量を推定するステップを有しているといえる。

e.上記摘記事項ハ.の【0039】?【0042】段落の記載及び図1の記載によれば,誤り訂正部208には,データシンボルの部分に対応するシンボル判定結果と,疑似パイロットシンボルの部分に対応するシンボル判定結果とを含む受信データ列が入力され,下2ビットを既知データに書き換えられた疑似パイロットシンボルについても誤り訂正部で訂正処理が施されることが記載されている。
したがって,引用例は,送信されるシンボルの疑似パイロットシンボルの部分と,データシンボルの部分とからデータを抽出するステップを有しているということができる。

したがって,摘記した引用例の記載及び図面を総合すると,引用例には以下のような発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明)
「 第一の通信装置から無線送信され第二の通信装置で受信される疑似パイロットシンボル及びデータシンボルを含む信号の振幅,位相の歪量を推定するための前記第二の通信装置において行われる方法であって,
送信バーストの疑似パイロットシンボルの部分では,16値QAM変調される4ビットのうち下位2ビットは既知データ(0,0)に書換えられ,送信バーストのデータシンボルの部分では書き換えられずに4ビットによる16値QAM変調により変調されて送信されることと,
送信されてくる擬似パイロットシンボルを含む信号を直交復調処理,同期処理,分割処理して,擬似パイロットシンボルを形成するステップと,
前記擬似パイロットシンボルを利用して,疑似パイロットシンボルとデータシンボルの歪量を推定するステップと
送信されるシンボルの疑似パイロットシンボルの部分と,データシンボルの部分とからデータを抽出するステップと,
を含む方法。」


[対比]
補正後の発明を引用発明と対比すると,

a.引用発明の「第二の通信装置」は,補正後の発明の「無線受信機」に相当する。

b.引用発明の「振幅,位相の歪量」は,受信される信号から伝送路の特性を表すものとして推定されたものであり,これをもとに補償を行うものである。一方,補正後の発明の「パラメータ」は本願発明の詳細な説明の【0015】段落に「ソフトパイロットシンボルを利用して、チャネルタップおよび相関行列等の信号パラメータの初期推定値を得る。」と記載されていることから「チャネルタップおよび相関行列等の信号パラメータ」が具体的には想定されていると考えられるものの,特許請求の範囲には「パラメータ」に関して「無線受信信号」のものであることしか特定されておらず,また発明の詳細な説明の【0003】段落に「デジタル通信システムでは、受信側は、送信されたデータを正確に復調するためにいくつかのパラメータを推定しなければならない。」と記載され「データを正確に復調するためのパラメータ」という程度の意味で使われていることに鑑みれば,補正後の発明の「パラメータ」も,「チャネルタップおよび相関行列等」の具体的なパラメータではなく,データを正確に復調するためのものという程度に解するのが相当である。そうしてみると,引用発明の「振幅,位相の歪量」も正確な復調を行うために用いられるものといえるから,補正後の発明の「パラメータ」に相当する。そして,引用発明の「第一の通信装置から無線送信され第二の通信装置で受信される疑似パイロットシンボル及びデータシンボルを含む信号」は,補正後の発明の「パラメータ」に相当する「振幅,位相の歪量」が推定される信号であるから,補正後の発明の「送信されるシンボルの系列を含む受信無線信号」に相当する。

c.引用発明の「送信バーストの疑似パイロットシンボルの部分」及び「送信バーストのデータシンボルの部分」は,「送信されるシンボルの前記系列の第1の部分」及び「前記系列の第2の部分」と称することができる。

d.引用発明の「送信されてくる擬似パイロットシンボルを含む信号を直交復調処理,同期処理,分割処理して,擬似パイロットシンボルを形成するステップ」は,「送信されてくる擬似パイロットシンボルを含む信号」から「擬似パイロットシンボル」を取り出しているから復調をしているということができる。ここで,補正後の発明の「ソフトパイロットシンボル」は,通常のデータの一部を既知のビットパターンで置き換えることによりパイロットとしたものであるから,引用発明の「疑似パイロットシンボル」は,補正後の発明の「ソフトパイロットシンボル」に相当する。引用発明では「擬似パイロットシンボルを含む信号」を「まず」復調するのか,そして引用発明の「擬似パイロットシンボルを含む信号」がより高い信頼性で送信されるのかどうかは明示されていないものの,引用発明と補正後の発明とは「送信される前記第1の部分のシンボルを復調し,ソフトパイロットシンボルを形成するステップ」を有している点では共通する。

e.引用発明の「前記擬似パイロットシンボルを利用して,疑似パイロットシンボルとデータシンボルの歪量を推定するステップ」は,擬似パイロットシンボルは4ビットのうちの下二桁が「00」に書き換えられていることから,同一象限内にある最大振幅を持つ信号点と比較することにより、受信した擬似パイロットシンボルの振幅、位相の歪量を推定しているものである。すなわち上二桁により定まる象限内の最大振幅を持つ信号であるという既知のシンボルとして推定を行うものである。したがって,補正後の発明の「前記ソフトパイロットシンボルを既知のシンボルとして利用し,前記受信無線信号のパラメータを推定するステップ」に対応する。

f.引用発明の「送信されるシンボルの疑似パイロットシンボルの部分と,データシンボルの部分とからデータを抽出するステップ」では,疑似パイロットシンボルの部分と,データシンボルの部分の両方からデータを抽出しているから,補正後の発明の「送信されるシンボルの前記系列の前記第1の部分および前記第2の部分の両方からデータを抽出するステップ」に相当する。


したがって,両者は以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「 送信されるシンボルの系列を含む受信無線信号のパラメータを推定するための無線受信機における方法であって:
送信されるシンボルは,少なくとも第1の部分と第2の部分からなることと;
前記第1の部分のシンボルを復調し,ソフトパイロットシンボルを形成するステップと;
前記ソフトパイロットシンボルを既知のシンボルとして利用し,前記受信無線信号のパラメータを推定するステップと;
送信されるシンボルの前記系列の前記第1の部分および前記第2の部分の両方からデータを抽出するステップと;
を含む方法。」

(相違点1)補正後の発明は,「送信されるシンボルの前記系列の第1の部分は,前記系列の第2の部分よりもより高い信頼性で送信され」,さらに「前記第1の部分は,前記第2の部分について利用されるより高次の変調法よりも,より低次の変調法を有する」のに対して,引用発明では当該構成を有するか明確ではない点。

(相違点2)補正後の発明では「第1の部分のシンボルをまず復調し」ているのに対して,引用発明では対応する構成を有するか明確ではない点。


[判断]
上記相違点1について検討する。
引用発明において,疑似パイロットシンボルの部分は,16値QAM変調される4ビットのうち下位2ビットを既知データ(0,0)に書き換えて送信している。したがって,16値QAM変調コンステレーションの四隅に位置する配置点のみにマッピングされるから,隣り合う配置点と受信側で混同して誤ることがなくなることは当業者に明らかである。よって,既知データに書換えない送信バーストのデータシンボル部分に比較してより高い信頼性で送信されているということができる。
また,このように4ビットのうち下位2ビットを既知データ(0,0)に書き換えて16値QAM変調方式に準じた信号点配置を行う変調方式は,実質的にQPSK変調されるものであって,16値QAM変調に対して低次の変調法ということができる。
なお,仮に,上述した4ビットのうち下位2ビットを既知データ(0,0)に書き換えて16値QAM変調方式に準じた信号点配置を行う変調方式は,形式的には16値QAM変調の形式を採っているものであるから,16値QAM変調と較べて低次の変調法ではないと言えたとしても,上述したように実質的にはQPSK変調しているものと同じであるから,この部分に通常のQPSK変調を採用するようにすることは当業者が必要に応じて適宜なし得た程度の事項にすぎない。

次に,上記相違点2について検討する。
上記摘記事項ハ.の記載によれば,第二の通信装置(受信装置)では,擬似パイロットシンボルから推定した歪量を用いて受信したデータシンボルに対して歪補償を行っていることから,少なくとも,データシンボルに対する歪補償より前に擬似パイロットシンボルを復調していなければならず,これを補正後の発明のように,擬似パイロットシンボルをまず復調する構成とすることも格別困難な事項とはいえない。

そして,補正後の発明が奏する効果も,引用発明に及び技術常識により到達した構成から,当業者が容易に予測できる範囲内のものである。

よって,補正後の発明は,引用発明及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定によって,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。


3.結語
以上のとおり,本件補正は,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
したがって,本件補正は,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年2月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりのものである。

2.引用発明
引用発明は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で引用発明として認定したとおりである。

3.対比・判断
上記「第2 補正却下の決定」の「(1)新規事項の有無,補正の目的要件」で検討したように,本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するから,本願発明は実質的に補正後の発明から,特許請求の範囲の減縮を目的とした本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり,引用発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-02 
結審通知日 2015-03-03 
審決日 2015-03-16 
出願番号 特願2011-514142(P2011-514142)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04L)
P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 彦田 克文  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 萩原 義則
山本 章裕
発明の名称 ソフトパイロットシンボルを用いる無線信号を処理するための受信機および方法  
代理人 亀谷 美明  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ