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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1303868
審判番号 不服2013-6827  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-15 
確定日 2015-08-06 
事件の表示 特願2010-523545「ブラウザを備える方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月22日国際公開、WO2009/063121、平成23年 1月13日国内公表、特表2011-501830〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2007年11月13日(受理国,フィンランド国)を国際出願日とする出願であって,平成22年3月9日付けで特許法第184条の5第1項に規定される書面,及び特許法第184条の4第1項の規定による国際出願日における明細書,請求の範囲,図面(図面の中の説明に限る。)及び要約の翻訳文が提出されるとともに,同日付けで審査請求及び手続補正がなされ,平成24年6月11日付けで拒絶理由通知(同年6月18日発送)がなされ,同年8月6日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされ,同年9月24日付けで最後の拒絶理由通知(同年9月28日発送)がなされ,同年10月30日付けで意見書が提出されたが,平成25年1月4日付けで拒絶査定(同年1月16日謄本送達)がなされたものである。
これに対して,「原査定を取り消す、本願は特許をすべきものであるとの審決を求める」ことを請求の趣旨として,平成25年4月15日付けで本件審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされた。
そして,平成25年5月24日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされ,同年10月4日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋(同年10月15日発送)がなされ,同年12月4日付けで回答書の提出がなされ,平成26年7月18日付けで当審により拒絶理由通知(同年7月23日発送)がなされ,同年9月16日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされ,同年11月19日付けで最後の拒絶理由通知(同年11月21日発送)がなされ,平成27年1月16日付けで意見書が提出された。


第2 当審による拒絶理由通知書

1 平成26年7月18日付け拒絶理由通知書

上記平成26年7月18日付けで当審により通知した拒絶理由の概要は,

本願の請求項1ないし14に係る発明は,本願の出願前に頒布された,特開2002-312726号公報,特開2001-307042号公報及び国際公開第2007/058241号に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,

というものを含むものである。

2 平成26年11月19日付け拒絶理由通知書

上記平成26年11月19日付けで当審により通知した最後の拒絶理由の概要は,以下のとおりである。

『この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1に記載されている「前記近接範囲通信モジュールを通じて読み取る同じ情報に対して前記ブラウザが実行する動作が前記更新の前後で異なる」に関して、

「前記ブラウザが実行する動作が前記更新の前後で異なる」という記載が、具体的にどのような動作を意味しているのか不明りょうであることから、請求項1に係る発明が不明確なものとなっている。

この点に関し、発明の詳細な説明を参酌すると、段落【0043】に「本発明のある実施形態によると、例えば、近距離通信タグから読み取られた情報は、ブラウザの構成に基づいて異なって解釈可能であり、初期構成では、ブラウザは、情報の読み取り時に第1の動作を実行し、ブラウザの更新後に、第1の動作とは異なる第2の動作を、情報の読み取り時にブラウザにより実行することが可能である」と記載されているにすぎず、当該実施形態が、具体的にどのような状況(場面)を想定しているのか不明であり、また、段落【0008】に記載されている「本発明の目的は、アプリケーションと近接範囲通信との間の便利なインターフェースを装置に提供することにある」との関係も不明りょうである。

仮に、上記補正が、単に字句通りの内容であると解釈した場合、ブラウザが更新されて内容が変更された場合(異なるブラウザになった場合)に、同じ入力情報に対して、ブラウザの動作が異なることは、引用文献等を提示するまでもなく、当該技術分野において、普通に行われている態様にすぎない。』


第3 請求人による主張

請求人は,上記平成27年1月16日付けで提出された意見書において,下記のとおり主張している。

『「前記近接範囲通信モジュールを通じて読み取る同じ情報に対して前記ブラウザが実行する動作が前記更新の前後で異なる」は、日本語として意味不明では全くないと考えます。例えば明細書の段落0043に記載のように、「例えば、近距離通信タグから読み取られた情報は、ブラウザの構成に基づいて異なって解釈可能であり、初期構成では、ブラウザは、情報の読み取り時に第1の動作を実行し、ブラウザの更新後に、第1の動作とは異なる第2の動作を、情報の読み取り時にブラウザにより実行することが可能である」のように実施することができます。
・・・(中略)・・・
本願請求項に係る発明は、本願明細書段落0042に記載のように、ブラウザ・アプリケーションの更新を容易に行うことができます。ブラウザが、少なくともスクリプトプログラミング情報を含む情報をフェッチするだけで、近距離通信タグまたは任意の他の近接通信エンティティから読み取られた情報を解釈するために必要な情報を更新することが可能であり、それに基づいてブラウザを自動的に再構成することができます。このような効果により、段落0008に記載の目的である、「アプリケーションと近接範囲通信との間の便利なインターフェースを提供する」が達成されます。』

第4 当審の判断

上記平成27年1月16日付けで提出された意見書を参酌しても,上記平成26年9月16日付け手続補正書の請求項1に記載された「前記近接範囲通信モジュールを通じて読み取る同じ情報に対して前記ブラウザが実行する動作が前記更新の前後で異なる」態様が,具体的にどのような状況(場面)を想定しているのか依然として不明ではあるが,当該意見書において,請求人が「日本語として意味不明では全くない」と主張していることから,当該請求項の記載を字句通りのものとして解釈して,上記平成26年9月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)が,本願出願前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能とされた文献に基いて,容易に発明をすることができたものであるか検討する。

1 本願発明

本願発明は,上記平成26年9月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「プロセッサと、
前記プロセッサに接続される近接範囲通信モジュールと、
少なくともスクリプトプログラミング情報を含む情報をフェッチし、さらに、前記フェッチしたスクリプトプログラミング情報に基づいて更新されうるように構成されるブラウザと、
を備え、前記近接範囲通信モジュールを通じて読み取る同じ情報に対して前記ブラウザが実行する動作が前記更新の前後で異なる、装置。」

2 引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

ア 本願の出願前に頒布され,上記平成26年7月18日付けの当審による拒絶理由通知において引用された文献である,特開2002-312726号公報(平成14年10月25日出願公開,以下、「引用文献」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0012】
【発明の実施の形態】[第1の実施の形態]以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態となるICカード制御システムの構成を示すブロック図である。本実施の形態は、接触型ICカードの情報を読み書きする例を示すものである。
【0013】図1において、1は接触型ICカード、2はICカード1の情報を読み書きするリーダライタ(以下、接触型ICカードR/Wと記す)、3はICカード1を所持する利用者にサービスを提供するサーバ端末装置、4はサーバ端末装置3に接続された表示装置である。サーバ端末装置3には、HTTP(HyperText Transfer Protocol )サーバ31、ブラウザ32、制御関数33の各ソフトウエアが格納されている。制御関数33は、接触型ICカードR/W2を制御するデバイスドライバソフトや、接触型ICカード1へのコマンドを送信するライブラリなどからなる。」

B 「【0014】次に、以上のようなICカード制御システムの動作を説明する。図2は接触型ICカード1からの情報読出方法を示すシーケンス図である。まず、サーバ端末装置3のHTTPサーバ31は、接触型ICカードR/W2を制御してICカード1から情報を読み出すべく、例えばジャバスクリプト(JavaScript)で記述された制御スクリプトをブラウザ32に送信すると共に(ステップ101)、Webページを表示させるためのHTML(Hyper Text MarkupLanguage)文書をブラウザ32に送信する(ステップ102)。制御スクリプトは、制御関数33を呼び出して実行する手順が記述されたものである。
・・・(中略)・・・
【0016】一方、Webページの表示と並行して、ブラウザ32にダウンロードされた制御スクリプトが起動する。制御スクリプトは、制御関数33を呼び出して、ICカード1からの情報読出要求を制御関数33に送る(ステップ103)。なお、制御スクリプトが起動しても、この制御スクリプトが表示装置4の画面には表示されることはない。制御スクリプトの要求に応じて、制御関数33は、情報読み出しを指示するコマンドを接触型ICカードR/W2を介してICカード1に送信する(ステップ104)。
【0017】受信したコマンドに応じてICカード1は、内部に記録されている情報を読み出して、接触型ICカードR/W2を介して制御関数33に送り返す(ステップ105)。制御関数33は、ICカード1から受信した情報をブラウザ32の制御スクリプトへ渡す(ステップ106)。以上の手順により、接触型ICカード1から情報を読み出すことができる。」

C 「【0046】[第4の実施の形態]第1、第2の実施の形態の場合、接触型ICカード1と接触型ICカードR/W2,2aを用いているが、非接触型ICカードとこの非接触型ICカードの情報を読み書きするリーダライタ(以下、非接触型ICカードR/Wと記す)を用いてもよい。」

D 「【0051】なお、第1?第5の実施の形態で説明したサーバ端末装置3,3a,3b及びサービス端末装置5,5bは、それぞれコンピュータで実現することができる。このコンピュータは、中央処理装置(CPU)、リードオンリメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、表示装置4やキーボードあるいは外部記憶装置とのインタフェースをとるための回路などを備えた周知の構成のものでよい。
【0052】CPUは、ROM若しくはRAMに記憶されたプログラム、又はキーボードから入力されたコマンドに従って処理を実行する。また、CPUは、外部記憶装置にデータを書き込んだり、外部記憶装置からデータを読み出したりすることができる。このようなコンピュータにおいて、本発明のICカード制御方法を実現させるためのICカード制御プログラムは、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM、メモリカード等の記録媒体に記録された状態で提供される。この記録媒体を外部記憶装置に挿入すると、記録媒体に書き込まれたプログラムが読み取られ、コンピュータに転送される。そして、CPUは、読み込んだプログラムをRAM等に書き込む。こうして、CPUは、第1?第5の実施の形態で説明したような処理を実行する。」

イ ここで,上記引用文献に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Aの「図1は本発明の第1の実施の形態となるICカード制御システムの構成を示すブロック図・・・図1において・・・2はICカード1の情報を読み書きするリーダライタ(以下、接触型ICカードR/Wと記す)、3はICカード1を所持する利用者にサービスを提供するサーバ端末装置・・・サーバ端末装置3には・・・ブラウザ32・・・が格納されている」との記載,そして,接触型ICカードR/Wが,サーバ端末装置に接続されるものであることは,引用文献の図1からも明らかであることから,引用文献には,
“サーバ端末装置と,
前記サーバ端末装置に接続される接触型ICカードR/Wと,
ブラウザと,
を備えるICカード制御システム”
が記載されていると解される。

(イ)上記Dの「第1?第5の実施の形態で説明したサーバ端末装置3・・・は、それぞれコンピュータで実現することができる。このコンピュータは、中央処理装置(CPU)・・・を備えた周知の構成のものでよい」との記載からすると,引用文献には,上記(ア)で検討した「サーバ端末装置」が,
“中央処理装置(CPU)を備えたサーバ端末装置”
である態様が記載されている。

(ウ)上記Cの「第1、第2の実施の形態の場合、接触型ICカード1と接触型ICカードR/W2,2aを用いているが、非接触型ICカードとこの非接触型ICカードの情報を読み書きするリーダライタ(以下、非接触型ICカードR/Wと記す)を用いてもよい」との記載からすると,引用文献には,上記(ア)で検討した「接触型ICカードR/W」に替えて,「非接触型ICカードR/W」を用いる態様も記載されている。

(エ)上記Bの「ブラウザ32にダウンロードされた制御スクリプトが起動する。制御スクリプトは、制御関数33を呼び出して、ICカード1からの情報読出要求を制御関数33に送る・・・制御スクリプトの要求に応じて、制御関数33は、情報読み出しを指示するコマンドを接触型ICカードR/W2を介してICカード1に送信する・・・受信したコマンドに応じてICカード1は、内部に記録されている情報を読み出して、接触型ICカードR/W2を介して制御関数33に送り返す・・・制御関数33は、ICカード1から受信した情報をブラウザ32の制御スクリプトへ渡す」との記載からすると,引用文献には,
“制御スクリプトをダウンロードして起動し,当該制御スクリプトが,前記非接触型ICカードR/Wを介して情報を受信するように構成されるブラウザ”
が記載されていると解される。

ウ 以上,(ア)ないし(エ)で指摘した事項を踏まえると,引用文献には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「中央処理装置(CPU)を備えたサーバ端末装置と,
前記サーバ端末装置に接続される非接触型ICカードR/Wと,
制御スクリプトをダウンロードして起動し,当該制御スクリプトが,前記非接触型ICカードR/Wを介して情報を受信するように構成されるブラウザと,
を備えるICカード制御システム。」

3 参考文献

本願の出願前に頒布された文献である,特開2000-322383号公報(平成12年11月24日出願公開,以下、「参考文献」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

E 「【0014】インターネット9には、種々のサービスに関連するホームページを格納しておりそれらを提供する多数のウェブサーバ11a、11b、11c、…(以下、サーバ11)が存在する。また、それらサービスを受けるための端末装置(以下、クライアント)5が、随時に又は常時、インターネット9に接続される。クライアント5は、ICカードリーダライタ(以下、リーダライタ)3を備え、それには、所定のサイトから所定のサービスを受ける場合に最初に閲覧すべきホームページのURLと、そのサービスを受けるための認証で用いるユーザIDやパスワード等の個人認証情報が記録されているICカード1がセットされる。尚、上記最初に閲覧すべきホームページとは、典型的には、上記認証のために個人認証情報を入力するのに用いる個人認証情報入力用ページである。
・・・(中略)・・・
【0016】サーバ11は、上記個人認証情報入力用ページを、ウェブブラウザの種類別に有している。例えば、サーバ11は、キーボード入力が可能なクライアント(例えばパソコン)のブラウザに対しては、キーボードで個人認証情報を入力するかICカード1から個人認証情報を読み込むかを選択できる個人認証情報入力用ページを有し、また、キー入力ができないようなタイプのクライアントに対しては、例えば、一律にICカード1から個人認証情報を読み込む個人認証情報入力用ページを有する。サーバ11は、クライアント5からURL及びブラウザ情報を受信したら、そのブラウザ情報からブラウザの種類を識別してそれに対応する個人認証情報入力用ホームページを選択し、それをクライアント5に送信する。サーバ11は、クライアント5から個人認証情報を受信したら、それの正当性を判断し、正当であれば所望されるサービス(ホームページ)を選択してそれをクライアント5に送信する。
【0017】尚、この実施形態では、複数のサービスを利用するユーザは、例えば、利用するサービスの数と同数のICカードを所持する。ユーザは、現在利用中のサービスから別のサービスに切り替える場合は、リーダライタ3に別のICカードをセットする。しかし、必ずしもそうする必要はなく、1枚のICカード1に複数のサービスのURLと個人認証情報を登録しておき、それをユーザが選択して使うことも可能である。ICカード1は、カーナビ、パソコン、又はPDA等の各種装置の全てに共通して使用する。これにより、異種端末間でのICカードの共用が可能になり、異種端末間でも同一の形態でウェブアクセスすることが図れる。」

4 対比

(1)対比

本願発明と引用発明とを対比する。


(ア)引用発明の「中央処理装置(CPU)」,「非接触型ICカードR/W」,「ブラウザ」は,それぞれ,本願発明の「プロセッサ」,「近接範囲通信モジュール」,「ブラウザ」に相当する。
(イ)そして,「中央処理装置(CPU)」と「非接触型ICカードR/W」と「ブラウザ」を備える引用発明の「ICカード制御システム」は,「プロセッサ」と「近接範囲通信モジュール」と「ブラウザ」を備える本願発明の「装置」に対応するといえる。


(ア)引用発明の「制御スクリプト」は,上記Bに「例えばジャバスクリプト(JavaScript)で記述された制御スクリプト」と記載されていることから,本願発明の「スクリプトプログラミング情報」に相当する。(なお,本願明細書の段落【0033】に「スクリプトプログラミング情報の例として,スクリプトプログラミング言語が挙げられる」と記載され,段落【0036】に「本発明のいくつかの実施形態は,JavaScriptを使用する。JavaScriptは,スクリプトプログラミング言語の一例である」と記載されている。)
(イ)そして,本願明細書の段落【0024】に「ダウンロードされたスクリプト」と記載されていることから,引用発明の「制御スクリプトをダウンロード」することは,本願発明の「スクリプトプログラミング情報を含む情報をフェッチ」することに相当するといえる。
(ウ)そうすると,引用発明と本願発明とは,“少なくともスクリプトプログラミング情報を含む情報をフェッチするように構成されるブラウザ”を備える点で共通するといえる。


(ア)引用発明の「当該制御スクリプトが,前記非接触型ICカードR/Wを介して情報を受信する」とは,ダウンロードした制御スクリプトに基づいて,ブラウザにおける処理を行っていることに他ならない。
(イ)そして,本願発明の「前記フェッチしたスクリプトプログラミング情報に基づいて更新されうる」とは,フェッチしたスクリプトプログラミング情報に基づいて,ブラウザにおける処理を行っていることに他ならない。
(ウ)してみると,引用発明と本願発明とは,“フェッチしたスクリプトプログラミング情報に基づいて処理を行うように構成されるブラウザ”を備える点で共通するといえる。

(2)一致点及び相違点

以上から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)

「プロセッサと、
前記プロセッサに接続される近接範囲通信モジュールと、
少なくともスクリプトプログラミング情報を含む情報をフェッチし,さらに,フェッチしたスクリプトプログラミング情報に基づいて処理を行うように構成されるブラウザと,
を備える、装置。」

(相違点1)

スクリプトプログラミング情報に基づいて行う処理に関して,本願発明が,ブラウザが「更新」されうるものであるのに対して,引用発明は,制御スクリプトが行う処理としてブラウザが更新されうることまでは明記されていない点。

(相違点2)

本願発明が,「前記近接範囲通信モジュールを通じて読み取る同じ情報に対して前記ブラウザが実行する動作が前記更新の前後で異なる」ものであるのに対して,引用発明は,非接触型ICカードR/Wを介して情報を受信するものではあるが,受信する情報に対するブラウザの動作がどのようなものか明記されていない点。

5 判断

(1)相違点1について

ダウンロード(フェッチ)したスクリプトをブラウザ上で実行する際に,当該スクリプトに基づいてブラウザが更新されうるように構成することは,引用文献等を提示するまでもなく,当該技術分野において,通常行われていることにすぎない。
してみると,引用発明においても,ダウンロードした制御スクリプトに基づいてブラウザを更新されうるように構成すること,すなわち,上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について

ア 上記平成26年11月19日付け最後の拒絶理由通知書においても説示したように,当該技術分野において,ブラウザが更新されて内容が変更された場合(異なるブラウザになった場合)に,同じ入力情報に対して,ブラウザの動作が異なることは,当該技術分野において,普通に行われている態様にすぎない。

イ 例えば,上記参考文献(上記E等参照)に記載されるように,ICカードに登録された複数のサービス(ホームページ)のURLと個人認証情報をリーダライタを通じて読み込んで使うことで,利用するサービス(ホームページ)を切り替える技術は,本願の出願前に,周知技術であったが,当該技術において,現在利用中のサービスから別のサービスにURLが変更されてブラウザが更新された際に,リーダライタを通じて読み取る同じ個人認証情報に対して,当該ブラウザが異なる動作をすることは,当業者には自明の事項である。

ウ してみると,引用発明においても,ブラウザが更新された際に,非接触型ICカードR/Wを介して受信した同じ情報に対して,当該ブラウザの動作が異なるように構成することは,当業者が適宜なし得たことである。

(3)小括

上記で検討したごとく、相違点1及び相違点2は、いずれも格別のものではなく、そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって,本願発明は,上記引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-05 
結審通知日 2015-03-10 
審決日 2015-03-24 
出願番号 特願2010-523545(P2010-523545)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 亮前田 浩塚田 肇  
特許庁審判長 山崎 達也
特許庁審判官 田中 秀人
小林 大介
発明の名称 ブラウザを備える方法および装置  
代理人 川守田 光紀  

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