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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
管理番号 1303871
審判番号 不服2013-25013  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-19 
確定日 2015-08-06 
事件の表示 特願2009-524115「容器の周囲側面に印刷を行うための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月21日国際公開、WO2008/019829、平成22年 1月 7日国内公表、特表2010-500250〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成19年8月15日の国際出願(パリ条約による優先権主張2006年8月16日、ドイツ連邦共和国)であって、平成25年7月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年12月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成26年9月9日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は、平成26年11月14日に意見書を提出した。
なお、上記意見書における「2.これに対して、本意見書と同時提出の手続補正書により明細書を補正し、その進歩性とする点を明確にしたので、前記の拒絶理由は全て解消したものと考える。」は、正しくは、「2.これに対して、本意見書により本発明の進歩性とする点を明確にしたので、前記の拒絶理由は全て解消したものと考える。」である。(平成27年1月30日応対記録参照。)


第2.平成26年9月9日付け拒絶理由の概要
当審において平成26年9月9日付けで通知した拒絶理由のうち、本願請求項1に係る発明に関する部分の概要は以下のとおりである。

理由.本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (刊行物については刊行物等一覧参照)
・請求項 1
・刊行物 1?4
・備考
(省略)
刊行物2に記載された技術や刊行物3,4にも記載された周知技術を踏まえ、刊行物1に記載された発明において、「XY座標系に基づく位置情報」に代えて、「容器(被プリント体)の中心軸線を中心にして形成される弧の角度に対応するように360°から分割した角度目盛」を採用し、本願の請求項1に係る発明のごとく発明を構成することは、当業者にとって容易である。

(省略)

刊 行 物 等 一 覧
1.特開平8-300741号公報
2.特表2001-519742号公報
3.特開2006-175709号公報
4.特表2006-509316号公報
(省略)


第3.本願発明
1.本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成25年12月19日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「容器(1)の周囲側面に印刷を行うための方法、特にボトル(1)の全周に印刷を行うための方法であって、各容器(1)と少なくとも1つの印刷ヘッド(4)とを互いに対して相対移動させ、かつ、容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータであるアートワーク(3)に基づいた印刷画像を前記容器(1)に施す方法において、
アートワーク(3)を、容器の周囲方向(U)の延在範囲に関して、印刷時に前記相対移動を制御するために、容器の周囲長を容器の中心軸線を中心にして形成される弧の角度に対応するように360°から分割した角度目盛(9)を用いて形成し、
アートワーク(3)を制御ユニット(7)に格納し、かつアートワークに前記角度目盛(9)を具備し、印刷を行う際に、容器の回転運動と容器の周りを回転する印刷ヘッドに関する、容器(1)と少なくとも1つの印刷ヘッド(4)との間における回転相対移動を制御するために角度目盛を用いることを特徴とする方法。」

2.引用刊行物
当審の拒絶の理由に引用した特開平8-300741号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「プリント装置およびプリントシステム」の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 画像情報を入力する画像情報入力部と、
被プリント物のプリント面の起伏形状に関する情報を入力する形状情報入力部と、
前記形状情報入力部から入力した情報に基づいて前記画像情報入力部から入力した画像情報を演算処理し、被プリント物のプリント面の起伏形状に応じたプリントデータを作成する処理手段と、
前記処理手段によって作成されたプリントデータに基づいて被プリント物のプリント面にプリントを行うプリント手段とを備えてなることを特徴とするプリント装置。」
(2)「【請求項2】 前記処理手段は、被プリント物のプリント面の起伏形状に応じて、プリントすべき画素の間隔を補正するためのプリントデータを作成することを特徴とする請求項1に記載のプリント装置。」
(3)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、被プリント物の起伏するプリント面に対してプリントを行うプリント装置およびプリントシステムに関するものである。
【0002】その被プリント物としては、例えば、球体や円筒体等の軸対象物を挙げることができ、・・・。
また、円筒体の周面に対するプリントの例としては、缶ビール等の飲料品に限定ロゴや記念ロゴなどをプリントする例を挙げることができる。・・・。」
(4)「【0008】一方、円筒体としての缶製品に、例えば、缶飲料の限定ロゴ、記念ロゴ等を印刷する場合には、缶の外周全体に印刷を行うために、缶の外周長と高さに合わせた印刷原板を製作して用いている。しかし、このような方法では、外径サイズが異なる円筒体に同一内容の印刷を施す場合にも、外径サイズが異なる円筒体毎に原板を作り直さなければならず、やはり印刷コストの低減の妨げになっている。」
(5)「【0009】本発明の目的は、球体や円筒体等の被プリント物の起伏するプリント面に、その起伏形状に応じた高品質な画像を簡易にプリントすることができるプリント装置およびプリントシステムを提供することにある。」
(6)「【0028】データ処理装置1は、プリントすべき画像情報と共に、球体Wの形状に関する情報としての外径寸法をプリント装置10に転送する。その画像情報は、プリント面が平面である場合には、それをプリントデータとして利用できるものである。しかし仮に、それをプリントデータして、球体Wの表面にプリントを行った場合には、歪んで見える画像がプリントされてしまうことになる。そこで、プリント装置10は、後述するように、データ処理装置1から転送された画像情報を演算処理してプリントデータを作成してから、そのプリントデータに基づいて、次のように球体Wにプリントをする。
【0029】まず、センサ120が円板71のスリットを検出する時の球体Wの回転位置をプリント開始位置として定める。それから、キャリッジモータ118によってキャリッジ22と共にプリントヘッド29を矢印A1、A2方向に移動して、1行分の画像をプリントしてから、送りモータ119によって保持ジグ63、64と共に球体Wを軸線Oを中心として、1行のプリント幅分だけ回転させ、以下、同様の動作を繰り返す。球体Wの回転は、送りモータ119としてのパルスモータの駆動パルスを基準として制御され、同様に、プリントヘッド29の移動は、キャリッジモータ118としてのパルスモータの駆動パルスを基準として制御される。また、プリントヘッド29のプリント方式は、矢印A1、A2方向の一方の走査時にプリントを行う一方向プリント、あるいは矢印A1、A2方向の双方の操作時にプリントを行う双方向プリントのいずれであってもよい。このようにして、軸線Oを中心とする球体Wの周方向において所定幅W1(図4参照)のプリント範囲に所定の画像をプリントする。」
(7)「【0036】(第2の実施例)次に、被プリント物としての円筒体の周面にプリントを行う場合について説明する。
【0037】まず、保持ユニット40を円筒体保持用のものと交換して、円筒体の中心軸を軸線Oと一致させ、その円筒体を軸線Oを中心として回転させることによって、前述した実施例と同様にプリントを実施する。その際、プリント装置10は、データ処理装置1から転送された画像情報を円筒体の大きさに応じたプリントデータを作成する。
【0038】すなわち、CPU111は、データ処理装置1から転送される円筒体の外径寸法やプリント範囲の大きさなどの関連情報に基づいて、データ処理装置1から転送されてくる画像情報を加工し、その画像情報の画素の形成位置を下式(3)、(4)を用いて変換する。ここで、データ処理装置1から転送されてくる画像情報は、高さH0、周長R0の基準円筒体に対してプリントされる情報であり、本例では、その画像情報によって高さH1、周長R1の円筒体に対するプリントデータを作成する。(X,Y)は変換前の画素の形成位置、(X′、Y′)は変換後の画素の形成位置であり、X、X′は、円筒体の軸線O方向つまり円筒体の高さ方向における位置であり、Y、Y′は円筒体の周方向における位置である。
【0039】
【数3】X′=H1/H0×X ・・・(3)
Y′=R1/R0×Y ・・・(4)
図7は、このようなデータ変換を模式的に示す図であり、変換前のプリントデータつまりデータ処理装置1から転送されてくる画像情報に基づく画像形成範囲を同図(a)のように展開して現した場合、変換後のプリントデータに基づく画像形成範囲は同図(b)のように展開して現される。同図(a)において、画素P2の位置は(X(p2),Y(p2))であり、同図(b)における画素P2の位置は(X′(p2),Y′(p2))となる。なお、図7(a)、(b)は、円筒体の全周面を画像形成範囲とした場合の例であり、それらの画像形成範囲の図中左上の角を基点として画素の位置を現している。」

以上を踏まえ、上記事項を、本願発明に照らして整理すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「缶飲料等の円筒体である被プリント物の外周全体に印刷を行うための方法であって、データ処理装置から転送された画像情報を演算処理してプリントデータを作成し、そのプリントデータに基づいて、プリントヘッドを矢印A1、A2方向に移動するとともに被プリント物を前記矢印A1、A2方向に沿う軸線Oを中心として回転させ、被プリント物にプリントする方法において、高さH0、周長R0の基準円筒体に対してプリントされる情報である画像情報の画素の形成位置(X,Y)(ここで、Xは円筒体の軸線O方向つまり円筒体の高さ方向における位置であり、Yは円筒体の周方向における位置である。)を、「X′=H1/H0×X」及び「Y′=R1/R0×Y」なる式を用いて変換し、変換後の画素の形成位置(X′、Y′)を得て、高さH1、周長R1の円筒体に対するプリントデータを作成し、そのプリントデータに基づいて、プリントヘッドを矢印A1、A2方向に移動するとともに被プリント物を前記矢印A1、A2方向に沿う軸線Oを中心として回転させ、被プリント物にプリントする方法。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明における「容器(1)の周囲側面に印刷を行うための方法、特にボトル(1)の全周に印刷を行うための方法」は、特にボトル(1)である容器(1)の周囲側面の全周に印刷を行うための方法といえる。
引用発明における「缶飲料等の円筒体である被プリント物」は、本願発明における「容器(1)」に相当し、引用発明における「外周全体」は、前記「缶飲料等の円筒体である被プリント物」の周囲側面の全周といえる。
ゆえに、引用発明における「缶飲料等の円筒体である被プリント物の外周全体に印刷を行うための方法であって」は、本願発明における「容器(1)の周囲側面に印刷を行うための方法、特にボトル(1)の全周に印刷を行うための方法であって」に相当する。

引用発明における「プリントヘッド」は、本願発明における「印刷ヘッド(4)」に相当する。
引用発明において、「データ処理装置から転送された画像情報」は、演算処理されてプリントデータが作成され、そのプリントデータに基づいて、被プリント物へのプリントがなされるのであるから、前記「データ処理装置から転送された画像情報」は、被プリント物へプリントされる画像の元になるデータ、すなわち、容器上に形成される印刷画像の元になるデータであるといえる。
ゆえに、引用発明における「データ処理装置から転送された画像情報」は、「容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータ」という限りにおいて、本願発明における「アートワーク(3)」に相当する。
また、引用発明における「プリントヘッドを矢印A1、A2方向に移動するとともに被プリント物を前記矢印A1、A2方向に沿う軸線Oを中心として回転させ」は、被プリント物とプリントヘッドとを相対的に移動させることを意味することが明らかであるから、本願発明における「各容器(1)と少なくとも1つの印刷ヘッド(4)とを互いに対して相対移動させ」に相当する。
したがって、引用発明における「データ処理装置から転送された画像情報を演算処理してプリントデータを作成し、そのプリントデータに基づいて、プリントヘッドを矢印A1、A2方向に移動するとともに被プリント物を前記矢印A1、A2方向に沿う軸線Oを中心として回転させ、被プリント物にプリントする方法」は、
「各容器と少なくとも1つの印刷ヘッドとを互いに対して相対移動させ、かつ、容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータに基づいた印刷画像を前記容器に施す方法」という限りにおいて、
本願発明における「各容器(1)と少なくとも1つの印刷ヘッド(4)とを互いに対して相対移動させ、かつ、容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータであるアートワーク(3)に基づいた印刷画像を前記容器(1)に施す方法」に相当する。

ここで、引用発明における「高さH0、周長R0の基準円筒体に対してプリントされる情報である画像情報」は、「画素の形成位置(X,Y)(ここで、Xは円筒体の軸線O方向つまり円筒体の高さ方向における位置であり、Yは円筒体の周方向における位置である。)」を具備したデータであるといえる。
また、引用発明における「画像情報」は、「データ処理装置から転送され」る前に、予め形成され、前記「データ処理装置」に格納されることが明らかである。
そして、引用発明における「プリントデータ」は、「容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータ」を用いて作られるデータであり、また、引用発明における「プリントヘッドを矢印A1、A2方向に移動するとともに被プリント物を前記矢印A1、A2方向に沿う軸線Oを中心として回転させ」は、被プリント物とプリントヘッドとの間の回転相対移動を制御することに他ならない。
してみると、引用発明における「高さH0、周長R0の基準円筒体に対してプリントされる情報である画像情報の画素の形成位置(X,Y)(ここで、Xは円筒体の軸線O方向つまり円筒体の高さ方向における位置であり、Yは円筒体の周方向における位置である。)を、「X′=H1/H0×X」及び「Y′=R1/R0×Y」なる式を用いて変換し、変換後の画素の形成位置(X′、Y′)を得て、高さH1、周長R1の円筒体に対するプリントデータを作成し、そのプリントデータに基づいて、プリントヘッドを矢印A1、A2方向に移動するとともに被プリント物を前記矢印A1、A2方向に沿う軸線Oを中心として回転させ、被プリント物にプリントする」ことは、
「容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータを形成し、
前記元になるデータを制御ユニットに格納し、印刷を行う際に、容器と少なくとも1つの印刷ヘッドとの間における回転相対移動を制御するために前記元になるデータを用いる」という限りにおいて、
本願発明における「アートワーク(3)を、容器の周囲方向(U)の延在範囲に関して、印刷時に前記相対移動を制御するために、容器の周囲長を容器の中心軸線を中心にして形成される弧の角度に対応するように360°から分割した角度目盛(9)を用いて形成し、
アートワーク(3)を制御ユニット(7)に格納し、かつアートワークに前記角度目盛(9)を具備し、印刷を行う際に、容器の回転運動と容器の周りを回転する印刷ヘッドに関する、容器(1)と少なくとも1つの印刷ヘッド(4)との間における回転相対移動を制御するために角度目盛を用いる」ことに相当する。

してみれば、両者の一致点および相違点は以下のとおりである。

《一致点》
「容器の周囲側面に印刷を行うための方法、特にボトルの全周に印刷を行うための方法であって、各容器と少なくとも1つの印刷ヘッドとを互いに対して相対移動させ、かつ、容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータに基づいた印刷画像を前記容器に施す方法において、
容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータを形成し、
前記元になるデータを制御ユニットに格納し、印刷を行う際に、容器と少なくとも1つの印刷ヘッドとの間における回転相対移動を制御するために前記元になるデータを用いる方法。」

《相違点》
「容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータを形成し、
前記元になるデータを制御ユニットに格納し、印刷を行う際に、容器と少なくとも1つの印刷ヘッドとの間における回転相対移動を制御するために前記元になるデータを用いる」ことが、
本願発明では、「アートワーク(3)を、容器の周囲方向(U)の延在範囲に関して、印刷時に前記相対移動を制御するために、容器の周囲長を容器の中心軸線を中心にして形成される弧の角度に対応するように360°から分割した角度目盛(9)を用いて形成し、
アートワーク(3)を制御ユニット(7)に格納し、かつアートワークに前記角度目盛(9)を具備し、印刷を行う際に、容器の回転運動と容器の周りを回転する印刷ヘッドに関する、容器(1)と少なくとも1つの印刷ヘッド(4)との間における回転相対移動を制御するために角度目盛を用いる」ことであるのに対し、
引用発明では、「高さH0、周長R0の基準円筒体に対してプリントされる情報である画像情報の画素の形成位置(X,Y)(ここで、Xは円筒体の軸線O方向つまり円筒体の高さ方向における位置であり、Yは円筒体の周方向における位置である。)を、「X′=H1/H0×X」及び「Y′=R1/R0×Y」なる式を用いて変換し、変換後の画素の形成位置(X′、Y′)を得て、高さH1、周長R1の円筒体に対するプリントデータを作成し、そのプリントデータに基づいて、プリントヘッドを矢印A1、A2方向に移動するとともに被プリント物を前記矢印A1、A2方向に沿う軸線Oを中心として回転させ、被プリント物にプリントする」ことである点

4.判断
《相違点》について検討する。
本願発明において、容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータが、「容器の周囲方向(U)の延在範囲に関して、印刷時に前記相対移動を制御するために、容器の周囲長を容器の中心軸線を中心にして形成される弧の角度に対応するように360°から分割した角度目盛(9)を用いて形成」され、「前記角度目盛り(9)が具備」される「アートワーク(3)」としたことの技術的意義は、本願の明細書の段落[0002]、[0010]、[0016]、[0019]、[0020]等の記載からみて、アートワーク(3)、すなわち、容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータの個々の画素の位置を、容器の周囲長を容器の中心軸線を中心にして形成される弧の角度に対応するように360°から分割した角度目盛(9)を用いた座標系で規定し、印刷を行う際に、容器と少なくとも1つの印刷ヘッドとの間における回転相対移動を制御するために、この角度目盛(9)を用いることで、直径の異なる容器においても常に同じ角度位置で印刷されるようにすることにより、同一のアートワークを異なった形状の容器に付着させ得るようにすることにあると解される。
一方、引用発明における「画素の形成位置(X,Y)(ここで、Xは円筒体の軸線O方向つまり円筒体の高さ方向における位置であり、Yは円筒体の周方向における位置である。)」は、画像情報、すなわち、容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータの個々の画素の位置を、直交するX軸とY軸で規定されるX座標とY座標を用いた座標系である直交座標系(デカルト座標系)で表記したものである。
そして、引用発明は、「高さH0、周長R0の基準円筒体に対してプリントされる情報である画像情報」の「画素の形成位置(X,Y)」を、「X′=H1/H0×X」及び「Y′=R1/R0×Y」なる式を用いて変換し、変換後の画素の形成位置(X′、Y′)を得て、高さH1、周長R1の円筒体に対するプリントデータを作成し、そのプリントデータを用い」ることで、同一の画像情報で、直径の異なる被プリント物へのプリントを実現している。
以上を踏まえると、上記《相違点》は、要すれば、
(ア)印刷を行う際に、容器と少なくとも1つの印刷ヘッドとの間における回転相対移動を制御するために、容器に印刷される画像等の元となるデータの個々の画素の位置を、角度目盛りを用いた座標系で作成し、その角度目盛りを直接用いる(本願発明)か、直交座標系(デカルト座標系)で作成し、演算(式を用いて変換)して用いる(引用発明)かの違い、及び、
(イ)上記回転相対移動が、容器の回転運動と容器の周りを回転する印刷ヘッドに関するものである(本願発明)か、プリントヘッドを矢印A1、A2方向に移動するとともに被プリント物を前記矢印A1、A2方向に沿う軸線Oを中心として回転させることである(引用発明)かの違い
であるといえる。

そして、上記(ア)及び(イ)の違いは、以下に述べるように、いずれも格別なことではない。

(ア)について
例えば、以下の(ウ)、(エ)の刊行物の記載からも明らかなように、径の異なる円周上に画素が存在する画像を印刷する場合に、<1>当該画像の印刷位置データを、直交座標系(デカルト座標系)を用いて作成・利用することと、極座標系等の角度目盛りを有する座標系を用いて作成・利用することは相互に置換可能であること、及び、<2>極座標系等の角度目盛りを有する座標系を用いて作成されたデータは直接印刷位置の制御に用いることができるが、直交座標系(デカルト座標系)を用いて作成されたデータは、極座標系のデータに変換して用いることができることは、本願の優先日前に周知の技術である。
そして、特に上記<1>が周知技術であることを踏まえると、本願の優先日前において、径の異なる円周上に画素が存在する画像を印刷する場合に、前記画像等の元となるデータの個々の画素の位置を、角度目盛りを用いた座標系で作成し、その角度目盛りを直接用いるか、直交座標系(デカルト座標系)で作成し、演算(式を用いて変換)して用いるかは、当業者が適宜決定し得た程度のことというべきである。
(ウ)特開2006-175709号公報(刊行物3)の段落[0041]に「この画像データは、極座標系のデータであって、所定の角度でデータにしたがいそのままサーマルヘッド11を駆動すればよいビットマップデータである。 なお、キャラクタデータを受け取ってドライブ内部でデータパターンを生成したり、直交座標のデータを受け取ってドライブ内部で極座標データに変換したりする構成にすることもできる。」との記載。
(エ)特表2006-509316号公報(刊行物4)の段落[0032]に「図3に示すような円形の画像301が表示手段102に表示されるべきである場合を考える。当該画像301は、有利にも極座標を持つ画像面に配置された、複数の画像データ(即ち画素)から成る。」と記載され、[0039]に「前記画像データは、極座標か又はデカルト座標(この場合には極座標を得るために処理手段が必要とされる)かのいずれかを利用して保存されても良い。」との記載。

(イ)について
円筒状の容器と少なくとも1つの印刷ヘッドとの間における回転相対移動の態様は、<1>引用発明のように、「プリントヘッドを矢印A1、A2方向に移動するとともに被プリント物を前記矢印A1、A2方向に沿う軸線Oを中心として回転させ」ること、すなわち、容器を回転するとともに、印刷ヘッドを前記回転軸回りに対して固定する態様、<2>容器を固定するとともに、印刷ヘッドを前記容器の回りに回転させる態様、<3>容器を回転するとともに、印刷ヘッドも前記容器の回りに回転させる態様、の三つの態様しかないことは明らかであり、この三つの態様の内のいずれを選択するかは、当業者が適宜決定し得た程度のことというべきである。

したがって、引用発明において、
(ア‘-1)容器上に形成される印刷画像を生成するための元になるデータが「画素の形成位置(X,Y)(ここで、Xは円筒体の軸線O方向つまり円筒体の高さ方向における位置であり、Yは円筒体の周方向における位置である。)」を具備した「高さH0、周長R0の基準円筒体に対してプリントされる情報である画像情報」であることに代えて、「容器の周囲長を容器の中心軸線を中心にして形成される弧の角度に対応するように360°から分割した角度目盛を用いて形成され、前記角度目盛りが具備されるデータ(アートワーク)」とし、
(イ‘)容器と印刷ヘッドとの間における回転相対移動について「プリントヘッドを矢印A1、A2方向に移動するとともに被プリント物を前記矢印A1、A2方向に沿う軸線Oを中心として回転させ」ることに加え、前記プリントヘッドを前記軸線Oを中心として回転させるようにするとともに、
(ア‘-2)前記回転相対移動を制御するために、「画像情報」の「画素の形成位置(X,Y)を、「X′=H1/H0×X」及び「Y′=R1/R0×Y」なる式を用いて変換し、変換後の画素の形成位置(X′、Y′)を得て、高さH1、周長R1の円筒体に対するプリントデータを作成し、そのプリントデータを用い」ることに代えて、前記「角度目盛りが具備されるデータ(アートワーク)」の「角度目盛りを用いる」ように、
その構成を変更することは、当業者にとって容易である。

ところで、請求人は、平成26年11月14日に提出された意見書の4.において、「[2]アートワーク(3)を、容器の周囲方向(U)の延在範囲に関して、印刷時に前記相対移動を制御するために、容器の周囲長を容器の中心軸線を中心にして形成される弧の角度に対応するように360°から分割した角度目盛(9)を用いて形成すること。[3]アートワーク(3)を制御ユニット(7)に格納し、かつアートワークに前記角度目盛(9)を具備すること。[4]印刷を行う際に、容器の回転運動と容器の周りを回転する印刷ヘッドに関する、容器(1)と少なくとも1つの印刷ヘッド(4)との間における回転相対移動を制御するために角度目盛を用いること。」という構成は、刊行物1?4には記載されていないし、前記構成を備えることにより「直径許容差を考慮しながら異なった容器に適合させることで、常に、同じ体裁及び同じバランスが実現される。」という作用効果が奏される旨を主張している。
しかしながら、上記[2]?[4]の構成は、例えば、刊行物3、4にも例示される周知技術から容易に導かれる事項であることは上記したとおりであり、また、上記請求人が主張する作用効果は、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る程度のものでしかない。
したがって、上記主張は、上記相違点の判断を左右するものではない。


5.小括
以上を踏まえると、本願発明は、引用発明及び刊行物3、4にも例示されるような周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-10 
結審通知日 2015-03-11 
審決日 2015-03-24 
出願番号 特願2009-524115(P2009-524115)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白川 敬寛  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 渡邊 豊英
渡邊 真
発明の名称 容器の周囲側面に印刷を行うための方法  
代理人 篠原 淳司  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 清田 栄章  
代理人 江崎 光史  

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