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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1303883
審判番号 不服2014-9928  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-28 
確定日 2015-08-06 
事件の表示 特願2009-194244「反射防止フィルム、偏光板、および表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月10日出願公開、特開2011- 48000〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成21年 8月25日 出願
平成25年 7月 3日付け 拒絶理由通知
平成25年 9月 6日(提出日) 意見書及び手続補正書(この手続補
正書による補正を、以下「本件補正
前の補正」という。)
平成25年11月29日付け 拒絶理由通知
平成26年 1月30日(提出日) 意見書及び手続補正書
平成26年 2月24日付け 平成26年 1月30日提出の手続
補正書でした補正の却下の決定及び
拒絶査定
平成26年 5月28日(提出日) 審判請求書及び手続補正書(この手
続補正書による補正を、以下「本件
補正」という。)
平成26年 9月 1日(提出日) 上申書



第2 補正の却下の決定
本件補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理 由]
1 本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の補正により補正された特許請求の範囲の請求項(以下「本件補正前の請求項」という。)1を、以下のとおりに補正しようとする事項を含むものである。

(1)本件補正前の請求項1
「【請求項1】
光透過性基板と、前記光透過性基板上に形成され、紫外線硬化性樹脂からなり、かつ表面に可視光領域の波長以下の周期で形成された凹凸形状を有する反射防止層と、を有する反射防止フィルムであって、
前記反射防止層に紫外線吸収剤が含まれており、かつ前記光透過性基板が実質的に紫外線を吸収する性質を有さないものであり、
前記光透過性基板および前記反射防止層の間に実質的に紫外線を吸収する性質を有さないハードコート層を有するものであり、
前記反射防止層にのみ前記紫外線吸収剤が含まれることを特徴とする、反射防止フィルム。」(なお、上記の下線は、本件補正によって補正された箇所に対応する箇所を示す。)

(2)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
光透過性基板と、前記光透過性基板上に形成され、紫外線硬化性樹脂からなり、かつ表面に可視光領域の波長以下の周期で形成された凹凸形状を有する反射防止層と、を有する反射防止フィルムであって、
前記紫外線硬化性樹脂が硬化される紫外線の波長が200nm?350nmの範囲内であり、
前記反射防止層に紫外線吸収剤が含まれており、
前記光透過性基板が実質的に紫外線を吸収する性質を有さないものであり、
前記反射防止フィルムは、前記光透過性基板および前記反射防止層の間に実質的に紫外線を吸収する性質を有さないハードコート層を有するものであり、
前記反射防止フィルムを構成する前記光透過性基板と、前記ハードコート層と、前記反射防止層とのうち、前記反射防止層にのみ前記紫外線吸収剤が含まれ、
前記反射防止フィルムの、波長250nmの光に対する紫外線透過率が、80.5%以下であることを特徴とする、反射防止フィルム。」(なお、上記の下線は、本件補正による補正箇所を示す。)


2 補正の目的の適否及び新規事項の有無
上記請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1において特定された紫外線硬化性樹脂について、本願の出願当初明細書の【0033】の記載に基づき、「硬化される紫外線の波長が200nm?350nmの範囲内」であることを限定的に減縮し、反射防止フィルムについて、本願の出願当初明細書の【0081】の記載等に基づき、「波長250nmの光に対する紫外線透過率が、80.5%以下である」ことを限定的に減縮し、さらに、明りようでない記載の釈明を目的として、ハードコート層を有するのが「反射防止フィルム」であることを明確にするとともに、紫外線吸収剤が含まれる反射防止層が「前記反射防止フィルムを構成する前記光透過性基板と、前記ハードコート層と、前記反射防止層とのうち」の反射防止層であることを明確にすることで、これを新たな請求項1とするものであるから、本願の出願当初明細書に記載された事項の範囲内においてなされた補正であることは明らかであり、また、本件補正の前後において、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることも明らかである。
よって、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たし、特許法17条の2第5項2号及び4号に掲げる事項を目的とするものである。
上記のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とした補正を含むことから、以下、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定を満たすか)否かについて、請求項1に係る発明について検討する。


3 独立特許要件を満たすか否かの検討
(1)本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)
本願補正発明は、上記「1(2)本件補正後の請求項1」に記載のとおりである。

(2)引用する刊行物とその記載事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第2009/054513号(以下、「引用文献1」という。)」には、「スタンパとその製造方法、成形体の製造方法、およびスタンパ用のアルミニウム原型」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)

(ア)「[0005] 本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、転写面にマクロな凹凸や色ムラを生じさせることのない、表面に陽極酸化アルミナが形成されたスタンパとその製造方法、さらには、このようなスタンパを用いて、転写面にマクロな凹凸や色ムラのない成形体を製造する方法の提供を課題とする。」

(イ)「[0008]・・・(略)・・・
本発明において、成形体の好ましい具体例としては、反射防止膜(反射防止フィルム、反射防止シートを含む)などの反射防止物品が挙げられる。」

(ウ)「[0037][成形体]
以上説明した表面に陽極酸化アルミナが形成されたスタンパを用いることによって、このスタンパの微細凹凸構造が転写された転写面を有する成形体を製造できる。
例えば、このスタンパと透明基材との間に活性エネルギー線硬化性組成物(以下、硬化性組成物という場合もある)を配し、この硬化性組成物がスタンパに接触した状態で、この硬化性組成物に活性エネルギー線を照射して、これを硬化する。その後、スタンパを剥離する。その結果、透明基材の表面に、硬化性組成物の硬化物からなる微細凹凸構造が形成された成形体が得られる。
[0038] より具体的には、スタンパと透明基材とを対向させ、これらの間に硬化性組成物を充填、配置する。この際、スタンパの微細凹凸構造が形成された側の面(スタンパ表面)が、透明基材と対向するようにする。ついで、充填された硬化性組成物に、透明基材を介して活性エネルギー線(可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、赤外線等の熱線)を例えば高圧水銀ランプやメタルハライドランプにより照射して、硬化性組成物を硬化する。なお、その際には、硬化性組成物がスタンパに接触した状態で、この硬化性組成物に活性エネルギー線を照射する。その後、スタンパを剥離する。その結果、透明基材の表面に、硬化性組成物の硬化物からなる微細凹凸構造が形成された成形体が得られる。この際、必要に応じて、剥離後に再度活性エネルギー線を照射してもよい。また、照射量は、硬化が進行するエネルギー量であればよいが、通常、100?10000mJ/cm^(2)である。
あるいは、透明基材上に固体状の未硬化の活性エネルギー線硬化性組成物をコーティングしておき、この硬化性組成物に対してロール型のスタンパを圧接して微細凹凸構造を転写し、スタンパを剥離した後、未硬化の硬化性組成物に活性エネルギー線を照射して硬化する方法によっても、同様に本発明の成形体が得られる。
[0039] ここで使用される透明基材としては、活性エネルギー線の照射を著しく阻害しないものであればよいが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、メチルメタクリレート(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、メチルメタクリレート-スチレン共重合体、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマー、ガラス、石英、水晶などが挙げられる。
透明基材の形状には特に制限はなく、製造する成形体に応じて適宜選択できるが、例えば成形体が反射防止膜などである場合には、シート状またはフィルム状が好ましい。また、硬化性組成物との密着性や、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性などの改良のために、透明基材の表面には例えば各種コーティングやコロナ放電処理が施されていてもよい。」

(エ)「[0040] 活性エネルギー線硬化性組成物は、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマーを適宜含有するものであり、非反応性のポリマーを含有するものでもよい。また、活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物を使用したものであってもよい。
・・・(略)・・・
[0043] 活性エネルギー線硬化性組成物は、通常、硬化のための重合性開始剤を含有する。重合性開始剤としては特に限定されず、公知のものが使用できる。
・・・(略)・・・
[0047] また、活性エネルギー線硬化性組成物には、上述したもの以外に、帯電防止剤、離型剤、レベリング剤、スリップ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、防汚性を向上させるためのフッ素化合物などの添加剤、微粒子、少量の溶剤などが添加されていてもよい。」

(オ)「[0051]・・・(略)・・・
<実施例1>
純度99.99%のアルミニウムインゴットを製造例2に従って鍛造処理を施して325℃で2時間熱処理を行った。得られたアルミニウム原型を直径75mm、厚さ2mmに切断した表面が算術平均粗さRa0.02μmである平均結晶粒径170μmの円板状アルミニウム原型に羽布研磨処理を施した後、これを過塩素酸、エタノール混合溶液中(体積比 1:4)で電解研磨した。
ついで、上記アルミニウム原型を、0.3Mシュウ酸水溶液中で、浴温16℃において直流40Vの条件下で30分間陽極酸化を行い、厚さ3μmの酸化皮膜を形成した(工程(a))。形成された酸化皮膜を、6質量%のリン酸と1.8質量%のクロム酸混合水溶液中で一旦溶解除去した(工程(b))後、再び工程(a)と同1条件下において、30秒間陽極酸化を行い、酸化皮膜を形成した(工程(c))。その後、5質量%リン酸水溶液(30℃)中に8分間浸漬して、酸化皮膜の細孔を拡径する孔径拡大処理(工程(d))を施した。
さらに工程(c)と工程(d)を繰り返し、これらを合計で5回追加実施することで(工程(e))、図2に示すように、周期p:100nm、深さD_(ep):190nm、細孔底部径:40nmの略円錐形状のテーパー状細孔が形成され、微細凹凸構造を備えたスタンパを得た。
このスタンパ表面の微細凹凸構造を目視確認したところ、結晶粒界のマクロな凹凸は確認できなかった。
[0052] ついで、離形剤である信越化学社製 商品名「KBM-7803」の0.5質量%メタノール溶液にスタンパを30分間ディッピングし、1時間風乾した後、120℃で2時間熱処理した。
そして、このように離形処理したスタンパ表面上に、下記の組成の活性エネルギー線硬化組成物を配置し、さらにその上に透明基材として東洋紡社製PETフィルム 商品名「A4300」を積層し、硬化性組成物がスタンパに接触した状態で、このPETフィルムを介して3200mJ/cm^(2)のエネルギーで紫外線を照射し、硬化組成物を硬化させた。
その後、透明基材と硬化物からなる成形体をスタンパから剥離した。
得られた成形体の硬化物の表面には、周期100nm、高さ170nmの凸部が形成され、スタンパ表面の微細凹凸構造が良好に転写された微細凹凸構造が形成されていた。また、この成形体の表面の微細凹凸構造を目視確認したところ、スタンパの結晶粒界に起因するようなマクロな凹凸は確認できなかった。
そして、この成形体について反射率を測定したところ、波長380nm?780nmの範囲で0.17?0.84%であり、反射防止物品として良好な性能を備えていた。
得られた転写フィルムの外観評価結果等を表1に示す。
[0053](硬化性組成物)
トリメチロールエタンアクリル酸・無水コハク酸縮合エステル:45質量部
ヘキサンジオールジアクリレート:45質量部
信越化学社製 商品名「x-22-1602」:10質量部
チバ・スペシャリティケミカルズ社製 商品名「イルガキュア184」:2.7質量部
チバ・スペシャリティケミカルズ社製 商品名「イルガキュア819」:0.18質量部」

(カ)上記(オ)における「活性エネルギー線硬化組成物」及び「硬化組成物」は、それぞれ「活性エネルギー線硬化性組成物」及び「硬化性組成物」を意味することは明らかである。また、上記(ウ)から、「硬化性組成物」は「活性エネルギー線硬化性組成物」を意味する用語として用いられている。よって、これらの用語を統一的に「活性エネルギー線硬化性組成物」と表記することにすると、上記(ア)ないし(オ)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「反射防止膜(反射防止フィルム、反射防止シートを含む)などの反射防止物品として用いる成形体であって、
スタンパの微細凹凸構造が形成された側の面(スタンパ表面)が、透明基材と対向するようにスタンパと透明基材とを対向させ、これらの間に活性エネルギー線硬化性組成物を充填、配置し、
ついで、充填された活性エネルギー線硬化性組成物がスタンパに接触した状態で、この活性エネルギー線硬化性組成物に、透明基材を介して活性エネルギー線(可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、赤外線等の熱線)を照射して、活性エネルギー線硬化性組成物を硬化し、
その後スタンパを剥離することで得られる、透明基材の表面に活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物からなる微細凹凸構造が形成された成形体であり、
上記透明基材としては、活性エネルギー線の照射を著しく阻害しないものであればよく、また、透明基材の表面には、活性エネルギー線硬化性組成物との密着性や、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性などの改良のために、各種コーティングやコロナ放電処理が施されていてもよく、
上記活性エネルギー線硬化性組成物は、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマーを適宜含有し、硬化のための重合性開始剤を含有し、これ以外に帯電防止剤、離型剤、レベリング剤、スリップ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、防汚性を向上させるためのフッ素化合物などの添加剤、微粒子、少量の溶剤などが添加されていてもよく、
上記成形体は、
周期p:100nm、深さD_(ep):190nm、細孔底部径:40nmの略円錐形状のテーパー状細孔が形成され、微細凹凸構造を備えたスタンパ表面上に、下記の組成の活性エネルギー線硬化性組成物を配置し、さらにその上に透明基材として東洋紡社製PETフィルム 商品名「A4300」を積層し、活性エネルギー線硬化性組成物がスタンパに接触した状態で、このPETフィルムを介して3200mJ/cm^(2)のエネルギーで紫外線を照射し、活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させ、その後、透明基材と硬化物からなる成形体をスタンパから剥離したものであって、
得られた成形体の硬化物の表面には、周期100nm、高さ170nmの凸部が形成され、スタンパ表面の微細凹凸構造が良好に転写された微細凹凸構造が形成されており、反射率は、波長380nm?780nmの範囲で0.17?0.84%であり、反射防止物品として良好な性能を備えている成形体。
(活性エネルギー線硬化性組成物)
トリメチロールエタンアクリル酸・無水コハク酸縮合エステル:45質量部
ヘキサンジオールジアクリレート:45質量部
信越化学社製 商品名「x-22-1602」:10質量部
チバ・スペシャリティケミカルズ社製 商品名「イルガキュア184」:2.7質量部
チバ・スペシャリティケミカルズ社製 商品名「イルガキュア819」:0.18質量部」


イ ハードコート層に関する周知技術について
(ア)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-97371号公報(以下、「周知例1」という。)には、「フッ素含有樹脂組成物及び光学物品、並びにそれを用いた画像表示装置」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性及び耐汚染性に優れた周期的微細凹凸構造を効率よく形成することができるフッ素含有樹脂組成物、及び反射防止膜、反射防止フィルム、光導波路、レリーフホログラム、レンズ、光カード、光ディスク、偏光分離素子等の種々の光学的用途に好適に用いられる光学物品、並びに該光学物品を用いた画像表示装置に関する。」

b 「【0122】
-反射防止フィルム-
本発明の光学物品としての反射防止フィルムは、支持体と、該支持体上に前記フッ素含有樹脂組成物から形成される微細凹凸構造層(反射防止層)を設けたものであり、更に必要に応じてハードコート層、防湿層、帯電防止層、下塗り層等の層を設けてもよい。」

c 「【0130】
前記ハードコート層は、支持体に耐傷性を付与するために設けられ、支持体とその上の層との接着を強化する機能をも有する。
・・・(略)・・・」

(イ)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-92099号公報(以下、「周知例2」という。)には、「硬化性樹脂組成物、及び光学物品、並びにそれを用いた画像表示装置」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性及び耐傷性に優れた周期的微細凹凸構造を効率よく形成することができる硬化性樹脂組成物、及び反射防止膜、反射防止フィルム、光導波路、レリーフホログラム、レンズ、光カード、光ディスク、偏光分離素子等の種々の光学的用途に好適に用いられる光学物品、並びに該光学物品を用いた画像表示装置に関する。」

b 「【0092】
-反射防止フィルム-
本発明の光学物品としての反射防止フィルムは、支持体と、該支持体上に前記硬化性樹脂組成物から形成される微細凹凸構造層(反射防止層)を設けたものであり、更に必要に応じてハードコート層、防湿層、帯電防止層、下塗り層等の層を設けてもよい。」

c 「【0100】
前記ハードコート層は、支持体に耐傷性を付与するために設けられ、支持体とその上の層との接着を強化する機能をも有する。
・・・(略)・・・」

(ウ)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-189914号公報(以下、「周知例3」という。)には、「成形体およびその製造方法」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。

a 「【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に微細な凸部が形成された硬化膜を有する成形体およびその製造方法に関する。」

b 「【0017】
<成形体>
本発明の成形体は、図1に示すような、突起が2つ以上集合してなる凸部(集合体)が表面に形成された硬化膜を有する成形体である。凸部は、成形体の一部の面に形成されていてもよく、全表面に形成されていてもよい。」

c 「【0023】
凸部の形状は、本発明の成形体を反射防止部材として用いる場合、高さ方向と直交する方向の凸部断面積が最表面から深さ方向に連続的に増加する形状、すなわち、凸部の高さ方向の断面形状が、三角形、台形、釣鐘型等の形状が好ましい。」

d 「【0026】
硬化膜は、透明基材の表面に設けられていてもよい。透明基材としては、前記透明基材が挙げられる。
硬化膜の屈折率と透明基材の屈折率との差は、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下が特に好ましい。屈折率差が0.2を超えると、硬化膜と透明基材との界面の反射が大きくなり、反射防止部材として用いたとき、Moth-Eye構造によって硬化膜と空気との界面での反射を低く抑えたとしても、反射防止部材全体としての反射率が十分に低くならない。
【0027】
本発明の成形体は、反射防止フィルム、反射防止膜、反射防止物品、光導波路、レリーフホログラム、レンズ、偏光分離素子、光取り出し効率向上フィルム、1/2波長板、ローパスフィルター、水晶デバイス、太陽電池等の光学物品;細胞培養シート、超撥水性フィルム、超親水性フィルム等としての用途展開が期待でき、特に、反射防止部材(反射防止フィルム、反射防止膜、反射防止物品)としての用途に適している。
反射防止部材としては、例えば、画像表示装置(液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、陰極管表示装置等。)、自動車メーターカバー、レンズ、ショーウィンドー、眼鏡、1/2波長板、ローパスフィルター等の表面に設けられる反射防止膜、反射防止フィルム、反射防止シート等が挙げられる。
画像表示装置に用いる場合は、最表面上に反射防止膜を貼り付けてもよく、直接最表面を形成する材料上に反射防止膜を形成してもよく、画像表示装置の前面板に反射防止膜を設けてもよい。」

e 「【0059】
塗布方法としては、ローラーコート法、バーコート法、エアーナイフコート法等が挙げられる。
透明基材24としては、活性エネルギー線を透過できる基材、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等)、ポリオレフィン、脂環式ポリオレフィン、水晶、ガラス等が挙げられる。
透明基材24の形状としては、フィルム、シート、射出成形品、プレス成形品等の溶融成形品等が挙げられる。
透明基材24の表面には、密着性を上げるための層、ハードコート層が形成されていてもよい。」

(エ)上記周知例1?3の記載事項(ア)?(ウ)から、本願の出願前に、「支持体と、該支持体上に形成される反射防止層とを設けた反射防止フィルムにおいて、耐傷性を付与したり、支持体とその上の層との接着を強化するために、ハードコート層を設けること」が周知(以下「周知技術1」という。)であったことが認められる。


(3)対比
ア 本願補正発明と引用発明との対比
(ア)引用発明の「反射防止膜(反射防止フィルム、反射防止シートを含む)などの反射防止物品に用いる成形体」及び「成形体」並びに、「透明基材」及び透明基材として用いられる「PETフィルム」は、それぞれ本願補正発明の「反射防止フィルム」及び「光透過性基板」に相当する。

(イ)引用発明の「活性エネルギー線」は、紫外線が用いられていることから、本願補正発明の「紫外線」に相当する。
したがって、引用発明の「モノマー、オリゴマー、反応性ポリマーを適宜含有する」「活性エネルギー線硬化性組成物」は、本願補正発明の「紫外線硬化性樹脂」に相当するから、これらの点を踏まえると、引用発明の「活性エネルギー線硬化性組成物」は、本願補正発明の「紫外線硬化性樹脂」に相当する。

(ウ)引用発明の「硬化物」は、紫外線硬化性樹脂(活性エネルギー線硬化性組成物)を硬化させ、当該「硬化物の表面には、周期100nm、高さ170nmの凸部が形成され、スタンパ表面の微細凹凸構造が良好に転写された微細凹凸構造が形成されており、反射率は、波長380nm?780nmの範囲で0.17?0.84%であり、反射防止物品として良好な性能を備えている」ものであり、ここで、「周期100nm」は、可視光領域の波長以下の周期であることは明らかである。
したがって、引用発明の、その「表面には、周期100nm、高さ170nmの凸部が形成され、スタンパ表面の微細凹凸構造が良好に転写された微細凹凸構造が形成されており、反射率は、波長380nm?780nmの範囲で0.17?0.84%であり、反射防止物品として良好な性能を備えている」「硬化物」は、本願補正発明の「紫外線硬化性樹脂からなり、かつ表面に可視光領域の波長以下の周期で形成された凹凸形状を有する反射防止層」に相当する。

(エ)上記(ア)?(ウ)を踏まえると、引用発明の「透明基材の表面に活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物からなる微細凹凸構造が形成された成形体」は、光透過性基板(透明基材)の上に反射防止層(硬化物)が形成され、光透過性基板(透明基材)側とは反対側の面である反射防止層(硬化物)の表面に、微細凹凸構造が形成されているものであるから、本願補正発明の「光透過性基板と、前記光透過性基板上に形成され、紫外線硬化性樹脂からなり、かつ表面に可視光領域の波長以下の周期で形成された凹凸形状を有する反射防止層と、を有する反射防止フィルム」に相当する。

(オ)引用発明の「紫外線硬化性樹脂(活性エネルギー線硬化性組成物)」の成分である、「イルガキュア184」及び「イルガキュア819」は、いずれも、光重合開始剤として含有されていることは当業者にとって明らかであり、また、イルガキュア184は、硬化のための重合を開始させる吸収波長帯域として、200nm以上380nm未満の波長域の光を用いることも当業者にとって明らかである(特開2008-133367号公報の【0010】には、イルガキュア184が「短波長200nm以上380nm未満の吸収波長域を有する」ことが記載され、特開平11-333370号公報の【0023】及び図2には、イルガキュア184が少なくとも250nm?390nmで吸収を示し、260nm以下と310?350nmに高い吸収波長域があることが記載されている。また、本願の出願当初明細書の【0079】の実施例において、光重合開始剤としてイルガキュア184が用いられている。)から、「イルガキュア184」及び「イルガキュア819」を「紫外線硬化性樹脂(活性エネルギー線硬化性組成物)」の成分として含有している引用発明の「紫外線硬化性樹脂」が硬化されるために照射される「紫外線」の波長は、本願補正発明の「紫外線硬化性樹脂が硬化される紫外線の波長が200nm?350nmの範囲内」に相当する。

(カ)引用発明の「反射防止層(硬化物)」は、紫外線硬化性樹脂(活性エネルギー線硬化性組成物)を硬化させて形成するものであり、当該紫外線硬化性樹脂(活性エネルギー線硬化性組成物)は、「帯電防止剤、離型剤、レベリング剤、スリップ剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、防汚性を向上させるためのフッ素化合物などの添加剤、微粒子、少量の溶剤などが添加されていて」もよい組成物であるから、引用発明の「反射防止層(硬化物)」と、本願補正発明の「反射防止層」とは、「紫外線吸収剤等が含まれて」いる点で一致する。

(キ)引用発明の「光透過性基板(「透明基材」及び透明基材として用いられる「PETフィルム」)」は、「透明基材としては、活性エネルギー線の照射を著しく阻害しないもの」であり、一方、「紫外線吸収剤」を当該基板に含有させることは記載されておらず、また、含有させることが慣用的であって、「紫外線吸収剤」に言及されていなければ当該基板に含有されているに等しいとの技術的根拠もない。
一方、本願補正発明における「光透過性基板が実質的に紫外線を吸収する性質を有さないもの」との発明特定事項に関して、本願の出願当初明細書の【0044】には、「本発明に用いられる光透過性基板は実質的に紫外線を吸収する性質を有さないことと特徴とするものであるところ、『実質的に紫外線を吸収する性質を有さない』とは、上記光透過性基板に、紫外線の透過を阻害する材料が用いられていないことを意味するものである。より具体的には、上記光透過性基板に紫外線吸収剤などの紫外線を吸収する性質を有する材料が含まれないことを意味するものである。」と定義されており、また、光透過性基板を構成する材料として【0047】に、「本発明に用いられる光透過性基板を構成する材料としては、例えば、・・(略)・・ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂、・・(略)・・等を挙げることができる。本発明においてはこれらのいずれの材料からなる光透過性基板であっても好適に用いることできる・・(略)・・」と記載されており、ポリエチレンテレフタレートが光透過性基板を構成する材料の一例として挙げられている。
したがって、引用発明の「光透過性基板(「透明基材」及び透明基材として用いられる「PETフィルム」)」は、「活性エネルギー線の照射を著しく阻害しないもの」であり、且つ「紫外線吸収剤」を含有させることが特定されていないものであるから、本願補正発明の「光透過性基板が実質的に紫外線を吸収する性質を有さないもの」に相当する。

(ク)引用発明の「反射防止フィルム(成形体)」を構成する「光透過性基板(「透明基材」及び透明基材として用いられる「PETフィルム」)」の表面には、「活性エネルギー線硬化性組成物との密着性や、帯電防止性、耐擦傷性、耐候性などの改良のために、各種コーティングやコロナ放電処理が施されていてもよ」いものであるから、引用発明の「反射防止フィルム(成形体)」と、本願補正発明の「反射防止フィルムは、前記光透過性基板および前記反射防止層の間に実質的に紫外線を吸収する性質を有さないハードコート層を有するもの」とは、「反射防止フィルムは、前記光透過性基板および前記反射防止層の間にコーティング層が施されているもの」である点で一致する。

(ケ)上記(カ)及び(ク)を踏まえると、引用発明の「反射防止フィルム(成形体)」と本願補正発明の「反射防止フィルムを構成する前記光透過性基板と、前記ハードコート層と、前記反射防止層とのうち、前記反射防止層にのみ前記紫外線吸収剤が含まれ」とは、「反射防止フィルムを構成する前記光透過性基板と、前記コーティング層と、前記反射防止層とのうち、前記反射防止層に前記紫外線吸収剤等が含まれ」ている点で一致する。

(コ)引用発明の「光透過性基板(「透明基材」及び透明基材として用いられる「PETフィルム」)」は、上記(キ)のように、「活性エネルギー線の照射を著しく阻害しないもの」であり、且つ「紫外線吸収剤」を含有させることが特定されていない「PETフィルム」からなるものであり、具体的には、商品名「A4300」である東洋紡社製PETフィルムが用いられている。
上記「活性エネルギー線」は、「光透過性基板(「透明基材」及び透明基材として用いられる「PETフィルム」)」を介して活性エネルギー線硬化性組成物に照射され、当該活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させるものであり、当該「活性エネルギー線」は、上記(オ)のように、200nm?350nmの波長範囲内のものであるから、引用発明の「活性エネルギー線の照射を著しく阻害しない」「光透過性基板(「透明基材」及び透明基材として用いられる「PETフィルム」)」は、200nm?350nmの波長範囲内であって、実際の硬化に用いる「活性エネルギー線」の波長領域において「照射を著しく阻害しない」程度に吸収が少ないことは明らかである。
そして、特開2005-148283号公報の【0090】には「紫外線吸収フィルタとして図3のDに示す分光特性を有するポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(A4300:商品名、東洋紡績(株)製)を用いた」と記載されており、図3には、「A4300」の分光特性Dとして、波長250nmを含む波長300nm以下の光に対する光線透過率がほぼ0%であり、300?330nm程度で光線透過率が急激に大きくなり330nm以上の波長では85?90%程度の光線透過率となっていることが示されており、200nm?350nmの波長範囲内である330nm以上の範囲において引用発明の「活性エネルギー線の照射を著しく阻害しない」ものに適合し矛盾するところはない。
また、引用発明では、「A4300」に限定されず、「活性エネルギー線の照射を著しく阻害しない」「透明基材」として用いられる「PETフィルム」が「光透過性基板」として用いられるところ、一般的なPETフィルムにおいても、例えば、特開平5-5216号公報の【0005】には「PETは紫外線を吸収することが知られている。図1にPETフィルムの光の波長に対する透過率を示す。330nm付近から短波長に行くに従って紫外線に対する透過率は急激に低下し、310nmあたりでほぼ透過率は0%となる。」と記載されており、特開平1-270971号公報の2頁右上欄8行?12行には「まず紫外線透過性フィルムにおける紫外線の透過率について述べると、一般に用いられているポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)フィルムで厚さ100μmのものに対する可視紫外線吸収スペクトルを第1図に示す。」と記載され、第1図にはおよそ300nm?310nmより短波長の光で透過率がほぼ0%になることが示されていることから、一般的なPETフィルムは、およそ300nm?310nmより短波長の光に対して透過率がほぼ0%であることは周知である。
したがって、波長250nmを含む波長300nm以下の光に対する光線透過率がほぼ0%である「A4300」或いは一般的なPETフィルムを「光透過性基板(「透明基材」及び透明基材として用いられる「PETフィルム」)」として用いた引用発明の「反射防止フィルム(成形体)」は、本願補正発明の「波長250nmの光に対する紫外線透過率が、80.5%以下である」「反射防止フィルム」に相当する。

イ 一致点及び相違点
上記アから、本願補正発明と引用発明とは、
「光透過性基板と、前記光透過性基板上に形成され、紫外線硬化性樹脂からなり、かつ表面に可視光領域の波長以下の周期で形成された凹凸形状を有する反射防止層と、を有する反射防止フィルムであって、
前記紫外線硬化性樹脂が硬化される紫外線の波長が200nm?350nmの範囲内であり、
前記反射防止層に紫外線吸収剤等が含まれており、
前記光透過性基板が実質的に紫外線を吸収する性質を有さないものであり、
前記反射防止フィルムは、前記光透過性基板および前記反射防止層の間にコーティング層が施されているものであり、
反射防止フィルムを構成する前記光透過性基板と、前記コーティング層と、前記反射防止層とのうち、前記反射防止層に前記紫外線吸収剤等が含まれ、
前記反射防止フィルムの、波長250nmの光に対する紫外線透過率が、80.5%以下である、反射防止フィルム。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:反射防止層に、本願補正発明では、「紫外線吸収剤」が含まれているのに対し、引用発明では、紫外線吸収剤を含むことが限定されていない点

相違点2:光透過性基板および反射防止層の間の層が、本願補正発明では、「実質的に紫外線を吸収する性質を有さないハードコート層」であるのに対し、引用発明では、そのような限定がなされていない点。

相違点3:「前記反射防止フィルムを構成する前記光透過性基板と、前記コーティング層と、前記反射防止層とのうち」、本願補正発明では、「反射防止層にのみ前記紫外線吸収剤が含まれ」ることが特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。


(4)相違点の判断

ア 相違点1について
引用発明において、紫外線硬化性樹脂(活性エネルギー線硬化性組成物)に添加される添加物として「紫外線吸収剤」が例示されていることから、紫外線硬化性樹脂に紫外線吸収剤を添加することで、反射防止層(硬化物)が紫外線吸収剤を含むようにし、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得たものである。

イ 相違点2及び3について
(ア)上記(2)イ(エ)で認定したように、「支持体と、該支持体上に形成される反射防止層とを設けた反射防止フィルムにおいて、耐傷性を付与したり、支持体とその上の層との接着を強化するために、ハードコート層を設けること」(周知技術1)は周知である。

(イ)引用発明では、紫外線硬化性樹脂(活性エネルギー線硬化性組成物)との密着性や、耐擦傷性の改良のために、光透過性基板および反射防止層の間にコーティング層が施されているものであるから、紫外線硬化性樹脂との密着性や耐擦傷性の改良のために、引用発明に上記周知技術1を適用し、光透過性基板および反射防止層の間のコーティング層としてハードコート層を設けることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(ウ)そして、引用発明に上記周知技術1を適用し、光透過性基板(「透明基材」及び透明基材として用いられる「PETフィルム」)および反射防止層(硬化物)の間にハードコート層を設けることとした際には、紫外線硬化性樹脂(活性エネルギー線硬化性組成物)を硬化させて反射防止層(硬化物)とするための紫外線の照射は、光透過性基板およびハードコート層を介してなされることになる。引用発明では、光透過性基板を介して紫外線を照射するために、光透過性基板として紫外線(活性エネルギー線)の照射を著しく阻害しないものを用いていることから、ハードコート層についても、紫外線(活性エネルギー線)の照射を著しく阻害しないように、すなわち実質的に紫外線を吸収する性質を有さないように構成するとともに、反射防止フィルムを構成する光透過性基板と、ハードコート層と、反射防止層とのうち、光透過性基板およびハードコート層には紫外線吸収剤が含まれないように構成する、言い換えれば反射防止層にのみ紫外線吸収剤が含まれるように構成することは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(エ)上記(ア)?(ウ)から、引用発明に上記周知技術1を適用し、上記相違点2及び3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。


(5)効果について
相違点1ないし3に係る本願補正発明の発明特定事項により奏される効果について、格別顕著な点は見いだせない。


(6)まとめ
以上のとおり、引用発明において、上記各相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できたものであり、本願補正発明は、引用文献1に記載された引用発明及び周知例1?3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。



4 補正の却下の決定の結論
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。




第3 本願発明
1 上記「第2 補正の却下の決定」での検討のとおり、平成26年 5月28日に提出された手続補正書による本件補正は却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、本件補正前の請求項1?6に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
光透過性基板と、前記光透過性基板上に形成され、紫外線硬化性樹脂からなり、かつ表面に可視光領域の波長以下の周期で形成された凹凸形状を有する反射防止層と、を有する反射防止フィルムであって、
前記反射防止層に紫外線吸収剤が含まれており、かつ前記光透過性基板が実質的に紫外線を吸収する性質を有さないものであり、
前記光透過性基板および前記反射防止層の間に実質的に紫外線を吸収する性質を有さないハードコート層を有するものであり、
前記反射防止層にのみ前記紫外線吸収剤が含まれることを特徴とする、反射防止フィルム。」


2 刊行物の記載事項
引用文献1の記載事項及び周知例1?3の記載事項については、前記「第2 3 (2)引用する刊行物とその記載事項」のとおりである。


3 対比・判断
前記「第2 1 本件補正の内容」及び「第2 2 補正の目的の適否及び新規事項の有無」で検討したように、本願補正発明は、補正前の請求項1に係る発明に、「前記紫外線硬化性樹脂が硬化される紫外線の波長が200nm?350nmの範囲内」という構成を追加し、「前記反射防止フィルムの、波長250nmの光に対する紫外線透過率が、80.5%以下である」という構成を追加するとともに、「反射防止フィルム」がハードコート層を有することを特定し、「前記反射防止フィルムを構成する前記光透過性基板と、前記ハードコート層と、前記反射防止層とのうち」反射防止層にのみ紫外線吸収剤が含まれることを特定したものである。

そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、前記「第2 3 独立特許要件を満たすか否かの検討」において検討したとおり、引用文献1に記載された引用発明及び周知例1?3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用文献1に記載された引用発明及び周知例1?3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。




第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された引用発明及び周知例1?3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-08 
結審通知日 2015-06-09 
審決日 2015-06-22 
出願番号 特願2009-194244(P2009-194244)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 最首 祐樹  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 佐竹 政彦
清水 康司
発明の名称 反射防止フィルム、偏光板、および表示装置  
代理人 山下 昭彦  

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