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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
管理番号 1304306
審判番号 不服2014-3380  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-24 
確定日 2015-08-12 
事件の表示 特願2010-544283「多気筒エンジン内の燃焼の制御方法及び多気筒エンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月30日国際公開、WO2009/094026、平成23年 8月25日国内公表、特表2011-523989〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年1月24日を国際出願日とする出願であって、平成22年7月23日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年9月2日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文並びに同法第184条の8第1項に規定する条約34条補正の翻訳文が提出され、平成24年5月14日付けで拒絶理由が通知され、同年8月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月19日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成25年4月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月15日付けで同年4月25日付け手続補正書でした補正を却下する補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされ、平成26年2月24日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに同時に手続補正書が提出され、その後、当審において同年10月7日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成27年2月13日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明は、平成27年2月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに平成22年9月2日に提出された明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項7に係る発明は、次のとおりである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項7】
複数のシリンダと、
前記複数のシリンダのそれぞれに対応付けられた燃料噴射装置と、前記複数のシリンダの少なくとも一つに吸気を導入する吸気ラインと、前記複数のシリンダの少なくとも一つのシリンダからの排気をEGRシステムに送る排気ラインと、EGR弁の開閉により少なくとも一つのシリンダにEGRガスを導入するEGRと、
燃料噴射パラメータとして燃料噴射タイミング、燃料噴射量及び燃料噴射圧力を前記シリンダごとに個別に制御して、各シリンダの所望の排気組成を生成するものであって、前記複数のシリンダにおいて、少なくとも2つのシリンダ間の排気組成の差を低減するように、構成される制御装置とを含む、多気筒エンジン。」

第3 引用文献の記載、引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献の記載
当審拒絶理由で引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-161145号公報(以下、「引用文献」という。)には、「多気筒エンジンの燃料噴射制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、順に、「記載1a」ないし「記載1c」という。)。

1a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ディーゼルエンジンなどにおいて、NOxの排出量を低減するために、排気ガスの一部を吸気側に還流するEGRを備えた多気筒エンジンの燃料噴射制御装置に関するものである。
【0002】より詳細には、多気筒エンジンの各気筒(シリンダ)間のEGR率の不均等によって発生する黒煙を、燃料噴射量を制御することにより抑制する多気筒エンジンの燃料噴射制御装置に関する。」(段落【0001】及び【0002】)

1b 「【0026】
【発明の実施の形態】以下、図面を用いて、本発明に係る多気筒エンジンの噴射燃料量制御装置の実施の形態を説明する。図1に、本発明に係る多気筒エンジンの噴射燃料量制御装置のシステム図を示すが、エンジン1の吸気マニホールド3へ至る吸気通路8と排気マニホールド2との間をEGR通路6で接続し、排気系から排気ガスGの一部であるEGRガスGeを、EGR通路6を経由して吸気通路8の新気Aに混入して吸気マニホールド3へ還流させてEGRを行うように構成される。
【0027】また、このEGR通路6には、このEGR通路6の開閉と通過するEGRガスGeの量を調整するためのEGR弁4を設け、更に、EGRクーラー5を設けて、この冷却水通路7に冷却水を循環させてEGRガスGeを冷却するように構成される。
【0028】そして、このEGR弁4の弁開度の調整及び開閉の操作を行うために、エンジン1の回転速度NE、負荷LOAD等の運転状態を示すデータを図示しない各種センサから入力して、予め入力されたEGR用データマップやプログラムにより、運転状態に応じたEGR率を演算して、このEGR率になるように操作信号をEGR弁4のアクチュエータに出力してEGR弁4の弁開度を調整をするEGR制御手段を備えて構成する。
【0029】このEGR制御手段は、通常はエンジン運転制御全体を受け持っているエンジンコントローラユニット(ECU)と呼ばれるコントローラ(制御装置)9の一部に組込まれて構成される。
【0030】そして、各気筒の吸気温度(Ti=T1?T4)を検出するための吸気温度センサ11を、吸気通路8の吸気マニホールド3の下流側の各吸気枝通路10、即ち、吸気ポート直前の吸気枝通路10内の吸気ポートの上流近傍に設ける。この吸気温度センサ11には熱電対などを使用することができる。
【0031】そして、図2に示すように、この吸気温度センサ11の検出値Tiをコントローラ9に入力し、このコントローラ9内に、検出値である吸気温度TiからEGR率αiを演算するEGR率算出手段91を設け、更に、この算出されたEGR率αiから、予め入力されたマップデータM1から各気筒の空気過剰率λiを算出する空気過剰率算出手段92を設ける。
【0032】更に、この算出された空気過剰率λiを所定の判定値λcと比較する比較手段93と、この比較手段93において、空気過剰率λiが所定の判定値λcより低下した時に、燃料噴射量Qを低減する燃料量低減手段94とを備えて構成する。
【0033】この燃料噴射量Qの低減は、コモンレール式の噴射系であれば、各気筒毎に低減することが可能であるので、空気過剰率λiが所定の判定値λcより低下した気筒のみに対してを燃料噴射量Qiの低減を行なうように構成する。
【0034】これらのEGR率算出手段91、空気過剰率算出手段92、比較手段93、燃料量低減手段94は、上述のEGR制御手段と同様に通常はエンジン1の運転やEGR弁4等を制御するコントローラ9の一部に含まれて構成される。」(段落【0026】ないし【0034】)

1c 「【0047】
【発明の効果】以上の説明のように、本発明の多気筒エンジンの噴射燃料量制御装置によれば、各気筒の吸気温度センサにより検出した吸気温度から各気筒のEGR率、空気過剰率を算定して、空気過剰率が所定の判定値より低下して黒煙の発生が予測される状態になった時に、噴射燃料量を低減して空気過剰率を大きくしてEGR率の大きい気筒の燃焼悪化を防止することにより、黒煙の増加を防止できる。
【0048】特に、EGR率の算定に吸気温度を使用したので、噴射系の気筒間の噴射量、タイミング、噴射率等のバラツキによる燃焼のバラツキの影響を受けないというメリットがある。
【0049】また、各気筒毎に噴射燃料量を低減可能に構成して、空気過剰率が判定値より小さくなった気筒に対してのみ、噴射燃料量を低減することにより、エンジン出力の低下を最小限度に抑えながら、黒煙の発生を抑制できる。」(段落【0047】ないし【0049】)

2 引用文献の記載事項
記載1aないし1c及び図面の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていると認める(以下、順に、「記載事項2a」ないし「記載事項2e」という。)。

2a 記載1aの「各気筒(シリンダ)」(段落【0002】)を踏まえると、図1から、4つのシリンダが看取される。

2b 記載1aの「多気筒エンジンの燃料噴射制御装置に関するものである。」(段落【0001】)、記載1bの「以下、図面を用いて、本発明に係る多気筒エンジンの噴射燃料量制御装置の実施の形態を説明する。」(段落【0026】)、図面及び記載事項2aによると、引用文献には、4つのシリンダを含む多気筒エンジンが記載されている。

2c 図2から、4つの燃料噴射ノズル12が看取される。

2d 記載1bの「図1に、本発明に係る多気筒エンジンの噴射燃料量制御装置のシステム図を示すが、エンジン1の吸気マニホールド3へ至る吸気通路8と排気マニホールド2との間をEGR通路6で接続し、排気系から排気ガスGの一部であるEGRガスGeを、EGR通路6を経由して吸気通路8の新気Aに混入して吸気マニホールド3へ還流させてEGRを行うように構成される。」(段落【0026】)、「このEGR通路6には、このEGR通路6の開閉と通過するEGRガスGeの量を調整するためのEGR弁4を設け、更に、EGRクーラー5を設けて、この冷却水通路7に冷却水を循環させてEGRガスGeを冷却するように構成される。」(段落【0027】)、「EGR弁4の弁開度を調整をするEGR制御手段を備えて構成する。」(段落【0028】)及び「この燃料噴射量Qの低減は、コモンレール式の噴射系であれば、各気筒毎に低減することが可能であるので、空気過剰率λiが所定の判定値λcより低下した気筒のみに対してを燃料噴射量Qiの低減を行なうように構成する。」(段落【0033】)、図面並びに記載事項2aないし2cによると、引用文献には、4つのシリンダのそれぞれに対応付けられた燃料噴射ノズル12と、4つのシリンダの全てに吸気を導入する吸気通路8及び吸気マニホールド3と、4つのシリンダの全てのシリンダからの排気をEGR弁4を設けたEGR通路6に送る排気マニホールド2と、EGR弁4の開閉により全てのシリンダにEGRガスGeを導入するEGR弁4を設けたEGR通路6、EGRクーラー5及びEGR制御手段を備えたEGR装置(便宜上、このように表現する。)が記載されている。

2e 記載1aの「多気筒エンジンの各気筒(シリンダ)間のEGR率の不均等によって発生する黒煙を、燃料噴射量を制御することにより抑制する多気筒エンジンの燃料噴射制御装置に関する。」(段落【0002】)、記載1bの「この燃料噴射量Qの低減は、コモンレール式の噴射系であれば、各気筒毎に低減することが可能であるので、空気過剰率λiが所定の判定値λcより低下した気筒のみに対してを燃料噴射量Qiの低減を行なうように構成する。」(段落【0033】)、記載1cの「噴射燃料量を低減して空気過剰率を大きくしてEGR率の大きい気筒の燃焼悪化を防止することにより、黒煙の増加を防止できる。」(段落【0047】)及び「各気筒毎に噴射燃料量を低減可能に構成して、空気過剰率が判定値より小さくなった気筒に対してのみ、噴射燃料量を低減することにより、エンジン出力の低下を最小限度に抑えながら、黒煙の発生を抑制できる。」(段落【0049】)、図面並びに記載事項2aないし2dによると、引用文献には、燃料噴射量をシリンダごとに個別に制御して、各シリンダの黒煙の発生を抑制するように、構成される制御装置が記載されている。

3 引用発明
記載1aないし1c、記載事項2aないし2e及び図面の記載を整理すると、引用文献には、次の発明が記載されていると認める(以下、「引用発明」という。)。

「4つのシリンダと、
前記4つのシリンダのそれぞれに対応付けられた燃料噴射ノズル12と、前記4つのシリンダの全てに吸気を導入する吸気通路8及び吸気マニホールド3と、前記4つのシリンダの全てのシリンダからの排気をEGR弁4を設けたEGR通路6に送る排気マニホールド2と、EGR弁4の開閉により全てのシリンダにEGRガスGeを導入するEGR弁4を設けたEGR通路6、EGRクーラー5及びEGR制御手段を備えたEGR装置と、
燃料噴射量をシリンダごとに個別に制御して、各シリンダの黒煙の発生を抑制するように、構成される制御装置とを含む、多気筒エンジン。」

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。

引用発明における「4つのシリンダ」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「複数のシリンダ」に相当し、以下、同様に、「燃料噴射ノズル12」は「燃料噴射装置」に、「前記4つのシリンダの全て」は「前記複数のシリンダの少なくとも一つ」に、「吸気通路8及び吸気マニホールド3」は「吸気ライン」に、「EGR弁4を設けたEGR通路6」は「EGRシステム」に、「排気マニホールド2」は「排気ライン」に、「EGR弁4」は「EGR弁」に、「全てのシリンダ」は「少なくとも一つのシリンダ」に、「EGRガスGe」は「EGRガス」に、「EGR弁4を設けたEGR通路6、EGRクーラー5及びEGR制御手段を備えたEGR装置」は「EGR」に、それぞれ、相当する。
また、引用発明における「燃料噴射量をシリンダごとに個別に制御して、各シリンダの黒煙の発生を抑制するように、構成される制御装置」において、「燃料噴射量」が燃料噴射パラメータであること及び「シリンダの黒煙の発生を抑制」することが所望の排気組成を生成することであることは明らかであるから、引用発明における「燃料噴射量をシリンダごとに個別に制御して、各シリンダの黒煙の発生を抑制するように、構成される制御装置」は、本願発明における「燃料噴射パラメータとして燃料噴射タイミング、燃料噴射量及び燃料噴射圧力を前記シリンダごとに個別に制御して、各シリンダの所望の排気組成を生成するものであって、前記複数のシリンダにおいて、少なくとも2つのシリンダ間の排気組成の差を低減するように、構成される制御装置」と、「燃料噴射パラメータとして燃料噴射量を前記シリンダごとに個別に制御して、各シリンダの所望の排気組成を生成するように、構成される制御装置」という限りにおいて、一致する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。

「複数のシリンダと、
前記複数のシリンダのそれぞれに対応付けられた燃料噴射装置と、前記複数のシリンダの少なくとも一つに吸気を導入する吸気ラインと、前記複数のシリンダの少なくとも一つのシリンダからの排気をEGRシステムに送る排気ラインと、EGR弁の開閉により少なくとも一つのシリンダにEGRガスを導入するEGRと、
燃料噴射パラメータとして燃料噴射量を前記シリンダごとに個別に制御して、各シリンダの所望の排気組成を生成するように、構成される制御装置とを含む、多気筒エンジン。」

そして、以下の点で相違する。
<相違点>
「燃料噴射パラメータとして燃料噴射量を前記シリンダごとに個別に制御して、各シリンダの所望の排気組成を生成するように、構成される制御装置」に関して、本願発明においては、「燃料噴射パラメータとして燃料噴射タイミング、燃料噴射量及び燃料噴射圧力を前記シリンダごとに個別に制御して、各シリンダの所望の排気組成を生成するものであって、前記複数のシリンダにおいて、少なくとも2つのシリンダ間の排気組成の差を低減するように、構成される制御装置」であるのに対し、引用発明においては、「燃料噴射量をシリンダごとに個別に制御して、各シリンダの黒煙の発生を抑制するように、構成される制御装置」である点(以下、「相違点」という。)。

第5 相違点に対する判断
そこで、相違点について、以下に検討する。

記載1cの「空気過剰率が所定の判定値より低下して黒煙の発生が予測される状態になった時に、噴射燃料量を低減して空気過剰率を大きくしてEGR率の大きい気筒の燃焼悪化を防止することにより、黒煙の増加を防止できる。」(段落【0047】)及び「各気筒毎に噴射燃料量を低減可能に構成して、空気過剰率が判定値より小さくなった気筒に対してのみ、噴射燃料量を低減することにより、エンジン出力の低下を最小限度に抑えながら、黒煙の発生を抑制できる。」(段落【0049】)によると、引用発明においては、全てのシリンダについて、黒煙の発生を抑制するものであり、その結果、4つのシリンダにおいて、全てのシリンダの排気組成が所望のものとなり、その差が低減されることは明らかである。
また、排気組成を所望のものとするために、燃焼パラメータとして、燃料噴射タイミング及び燃料噴射圧力を制御することは周知である(必要であれば、下記1ないし5を参照。下記1には、排気組成の差を低減するために燃料噴射タイミングを制御することに相当する事項が記載され、下記2には、シリンダ間の燃料噴射量のバラツキを低減するために、燃料噴射圧力を制御することに相当する事項が記載され、下記3には、燃料噴射量、燃料噴射タイミング及び燃料噴射圧力を制御することに相当する事項が記載され、下記4には、排気性状向上のために燃料噴射タイミング及び燃料噴射圧力を制御することに相当する事項が記載され、下記5には、黒煙を低減するために燃料噴射圧力を制御することに相当する事項が記載されている。以下、「周知技術」という。)。

したがって、引用発明において、周知技術を適用し、燃焼パラメータとして、燃料噴射タイミング、燃料噴射量及び燃料噴射圧力をシリンダごとに個別に制御して、全てのシリンダに所望の排気組成を生成し、全てのシリンダ間の排気組成の差を低減するように、構成されるようにして、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明が、引用発明並びに周知技術からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。

1 特開平4-58031号公報の記載
当審拒絶理由で引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平4-58031号公報には、「内燃機関の燃料噴射装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(なお、下線は他の文献も含め当審で付したものである。)。

・「また、各気筒に壁流燃料センサを設けて、気筒毎に最適な噴射時期の補正制御を行えば、気筒間の燃費、排気性状のばらつきをなくすことかできる。」(第4ページ右上欄第16ないし19行)

2 特開平10-274131号公報の記載
当審拒絶理由で引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-274131号公報には、「単筒型ポンプ付き筒内噴射内燃機関」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「【0049】しかし、本ポンプ51の場合には、曲線L3で示すように、ポンプ51の脈動周期と燃料噴射弁21からの燃料噴射周期とが同期しているので、例え燃料圧力が大きく変動しても、燃料噴射時には燃料噴射圧力が各気筒で常に略同レベルにあり、したがって、各気筒で同期間だけ燃料噴射弁21を開駆動すれば、各気筒で殆ど同量の燃料が噴射されるようになり、燃料噴射量の気筒間バラツキ(最大偏差)は、0.3%程度と僅かに抑えられる。」(段落【0049】)

3 特開2005-337104号公報の記載
当審拒絶理由で引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2005-337104号公報には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「【0049】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について、図1?図5を参照して説明する。 図1に示すように、車両には、内燃機関としてガソリンエンジン(以下、単にエンジンという)11が搭載されている。エンジン11は、複数の気筒(シリンダ)12を有するシリンダブロック13を備えている。各シリンダ12内にはピストン14が往復動可能に収容されている。各ピストン14は、コネクティングロッド(図示略)を介し、エンジン11の出力軸であるクランクシャフト15に連結されている。そのため、各ピストン14が往復動すると、その動きはコネクティングロッドによって回転運動に変換された後、クランクシャフト15に伝達される。なお、図1では、クランクシャフト15は説明の便宜上、他の部材に対し90度回転させた状態で描かれている。
・・・(略)・・・
【0053】
車両には、両燃料噴射弁21,22に燃料を供給するための燃料供給装置24が設けられている。燃料供給装置24は、低圧燃料ポンプ25及び高圧燃料ポンプ26を備えている。低圧燃料ポンプ25は、電動モータ(図示略)によって駆動され、燃料タンク27内の燃料28を、フィルタ29を通じて吸引し吐出する。この吐出された燃料は、吸気管噴射用燃料噴射弁21及び高圧燃料ポンプ26へそれぞれ圧送される。
【0054】
高圧燃料ポンプ26内では、プランジャがエンジン11のカムシャフト(図示略)によって往復動されて、燃料が吸入及び加圧(圧送)される。また、電磁弁が加圧(圧送)行程中の最適なタイミングで閉じられることにより、必要な燃料が吐出されてデリバリパイプ23へ圧送される。燃料の吐出量の調整は、電磁弁の閉弁時期を制御することによって行われる。そして、この調整によりデリバリパイプ23内の燃料圧力(燃圧)、すなわち筒内噴射用燃料噴射弁22の燃料噴射圧(筒内燃料噴射圧FPd)が調節される。
【0055】
なお、図1中の31は、低圧燃料ポンプ25から吐出された燃料の圧力が所定値以上になると開弁して、その燃料を燃料タンク27に戻すための圧力調節弁である。
そして、前記のようにして燃料が供給された各燃料噴射弁21,22に対する通電を制御してこれらを開弁させることにより、吸気管噴射用燃料噴射弁21のみから、又はそれに加えて筒内噴射用燃料噴射弁22から燃料が噴射される。各燃焼室16に噴射供給される燃料量(燃料噴射量)は、基本的には各燃料噴射弁21,22の通電時間、すなわち開弁時間によって決まる。
・・・(略)・・・
【0066】
また、上記燃料噴射制御では、エンジン11の運転状態に応じて各燃料噴射弁21,22が制御されることにより燃料の噴射量及び噴射時期が調整される。また、高圧燃料ポンプ26が制御されることにより筒内噴射用燃料噴射弁22から噴射される燃料の噴射圧が調整される。」(段落【0049】ないし【0066】)

4 特開2003-214237号公報の記載
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-214237号公報には、「エンジンの燃焼制御方法及び装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「【0016】図1は、かかる燃焼制御方法の実施に直接使用する燃焼制御装置を備えたディーゼルエンジンの全体構成を示す。ディーゼルエンジン10には、ピストン11が摺動可能に嵌合されるシリンダ12が設けられる。ピストン11の冠面には、燃焼室の一部を形成するキャビティ13が陥凹形成される。また、シリンダヘッド14には、吸気ポート及び排気ポートを開閉する吸気弁15及び排気弁16が夫々介装される。そして、吸気弁15及び排気弁16には、少なくとも排気上死点で強制的に吸気ポート及び排気ポートを閉弁すべく、吸気弁15及び排気弁16のバルブタイミングを変更するバルブタイミング可変機構17,18が夫々配設される。
・・・(略)・・・
【0021】ステップ3では、図3のタイムチャートに示すように、ディーゼルエンジン10の排気上死点近傍にて、吸気弁15及び排気弁16を夫々閉弁させるようにバルブタイミング機構17,18を制御すると共に、ピストン11の冠面に形成されたキャビティ13に向けて液体燃料を噴射供給するように燃料噴射弁19Cが制御される。このとき、図示しない予混合圧縮着火燃焼マップにより、燃料噴射時期,噴射圧力及びバルブタイミングが夫々最適化されることが望ましい。ここで、ステップ3における処理が、夫々、開弁制御手段及び第1の燃料供給制御手段に該当する。
【0022】ステップ4では、ディーゼルエンジン10の圧縮上死点近傍にて、液体燃料を燃焼室内に噴射供給するように燃料噴射弁19Cが制御される、従来からの通常燃焼制御が行われる。このとき、図示しない通常燃焼マップにより、燃料噴射時期,噴射圧力及びバルブタイミングが夫々最適化される。なお、ディーゼルエンジン10の通常燃焼では、圧縮上死点近傍で燃焼室内に液体燃料を噴射供給すると、燃焼用空気が高温かつ高圧であるために、液体燃料が自然着火して拡散燃焼する。ここで、ステップ4における処理が、第2の燃料供給制御手段に該当する。
・・・(略)・・・
【0025】一方、ディーゼルエンジン10が予混合圧縮着火燃焼を行う所定運転状態にないとき、即ち、通常燃焼を行うときには、圧縮上死点近傍にて、液体燃料が燃焼室内に噴射供給される。このため、ディーゼルエンジン10の優れた特徴を活かしつつ、予混合圧縮着火方式の問題点を解消することができる。なお、本発明は、ディーゼルエンジンだけではなく、シリンダ内にガソリンを直接噴射供給するガソリンエンジンなどにも適用可能であることはいうまでもない。
【0026】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1又は請求項3に係る発明によれば、空気と燃料との混合気形成時間を十分に確保しつつ、シリンダ内壁面に燃料が付着することを確実に防止することができる。そして、シリンダ内壁面への燃料付着が防止されることで、排気性状の向上及び潤滑油劣化を抑制することができる。」(段落【0016】ないし【0026】)

5 特開平6-299895号公報の記載
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-299895号公報には、「ディーゼル機関の燃料噴射制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、図1にその概念的な全体構成を示されているように、負荷に応じて燃料噴射圧力を制御する燃料噴射圧力制御手段(210) と、所定負荷上昇率以上でEGR量を減少するように制御するEGR制御手段(220) とを備えた蓄圧型燃料噴射ポンプ(110) を用いたディーゼル機関(100) の燃料噴射制御装置(200) において、その燃料噴射圧力制御手段(210) が所定負荷上昇率以上において燃料噴射圧力を所定期間高めに所定量補正する補正手段(211) を有するように構成される。
【0007】また、燃料噴射圧力制御手段(210) は高められた燃料噴射圧力をなましつつ定常の燃料噴射圧力に復帰させる復帰手段(212) を有するように構成される。
【0008】
【作用】このように構成された本発明によるディーゼル機関の燃料噴射制御装置においては、急加速時のEGR過多に対して、燃料噴射圧力を一時的に高めることにより、燃料噴霧の微小化、到達距離の増大化を導き、それにより空気の取り込み量を増大させて、不完全燃焼成分である黒煙を低減することができる。」(段落【0006】ないし【0008】)

なお、請求人は、平成27年2月13日に提出した意見書において、「引用文献8に記載の発明は、EGR率から各気筒の空気過剰率を算出し、この空気過剰率が所定値より低下した時は、それに合わせて燃料噴射量を少なくして燃焼状態の悪化による黒鉛(当審注:「黒鉛」は「黒煙」の誤記と認める。)の増加を防止するものであって、請求項1及び7に係る発明とは、その目的及び構成が相違しております。」旨主張するが、記載1cによれば、引用発明は、全ての気筒について、黒煙の発生を抑制することを目的とするものであり、全ての気筒の黒煙の発生が抑制されれば、シリンダ間の排気組成の差が低減することは明らかであるので、本願発明と目的が相違しているとはいえないし、構成の相違については、上記のとおり、当業者が容易に想到し得たものであるので、請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-19 
結審通知日 2015-03-24 
審決日 2015-03-30 
出願番号 特願2010-544283(P2010-544283)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀川 泰宏星名 真幸  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 加藤 友也
金澤 俊郎
発明の名称 多気筒エンジン内の燃焼の制御方法及び多気筒エンジン  
代理人 高木 祐一  
代理人 清水 英雄  
代理人 秋庭 英樹  
代理人 重信 和男  
代理人 堅田 多恵子  
代理人 溝渕 良一  

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