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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J |
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管理番号 | 1304341 |
審判番号 | 不服2013-24901 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-12-18 |
確定日 | 2015-08-13 |
事件の表示 | 特願2010-515837号「マイクロカプセル、マイクロカプセルの製造方法及びマイクロカプセルを含む飲食品」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月10日国際公開、WO2009/147973〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成21年5月26日(優先日:平成20年6月2日、出願番号:特願2008-144885号)を国際出願日にする出願であって、平成25年4月3日付けの拒絶理由の通知に対して、同年5月8日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年12月18日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正書が提出され、特許法第164条第3項に基づく平成26年2月6日付けの報告の後、同年6月13日付けで上申書が提出されたものである。 2.平成25年12月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成25年12月18日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (2-1)本件補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に係る補正を含むものであり、補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。 (補正前) 「【請求項1】 脂溶性物質と、アルギン酸ナトリウム水溶液とを混合し、前記脂溶性物質からなる平均粒径800nm以下の乳化粒子が分散された乳化液を得る乳化工程と、 前記乳化液をカルシウムイオン含有溶液に噴霧し、前記乳化粒子を内包するマイクロカプセルを得る噴霧工程と、を備え、 前記乳化工程において前記乳化粒子が5MPa以上の加圧下で分散され、 前記噴霧工程において前記カルシウムイオン含有溶液のカルシウムイオンの濃度が0.5?20質量%である、マイクロカプセルの製造方法。」 (補正後) 「【請求項1】 脂溶性物質と、アルギン酸ナトリウム水溶液とを混合し、前記脂溶性物質からなる平均粒径800nm以下の乳化粒子が分散された乳化液を得る乳化工程と、 前記乳化液をカルシウムイオン含有溶液の液面に噴霧し、前記乳化粒子を内包するマイクロカプセルを得る噴霧工程と、を備え、 前記乳化工程において前記乳化粒子が5MPa以上の加圧下で分散され、 前記噴霧工程において前記カルシウムイオン含有溶液のカルシウムイオンの濃度が0.5?20質量%である、マイクロカプセルの製造方法。」(当審注:下線部は補正箇所を示している。) (2-2)本件補正の適否 本件補正における請求項1に係る補正は、補正前の「カルシウムイオン含有溶液に噴霧し」を、補正後の「カルシウムイオン含有溶液の液面に噴霧し」とするものであり、これは、どこに向けて噴霧されるかを「カルシウムイオン含有溶液の液面」に限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正における請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、願書に最初に添付した明細書および図面(以下、「当初明細書等」という。)の段落【0029】には、 「<噴霧工程> 次に、図1(c)に示すように、乳化液5をカルシウムイオン含有溶液15中にノズル7を通して霧状に噴霧し、脂溶性物質1からなる乳化粒子10がアルギン酸カルシウムゲル20で内包されたマイクロカプセル100を作製する。すなわち、乳化液5の液滴がカルシウムイオン含有溶液15と接触することにより、マイクロカプセル100が得られる。」との記載があり、また、【図1】(c)には、液面から離れたノズル7の先端から液面に対して噴霧することの図示があることから、本件補正における請求項1に係る補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、特許法第17条の2第3項の規定を満足するものである。 (2-3)独立特許要件について そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2-3-1)引用例の記載事項 原査定の拒絶理由において引用文献1として引用した特開2007-290997号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。 (ア)「【発明の効果】 【0008】 本発明の製造方法及び装置によれば、医薬品もしくは健康食品として使用される脂溶性物質が内包された顆粒を、工業的に優位な方法で生産することが出来る。本製造方法によって得られる顆粒は、脂溶性物質が微粒子として、顆粒中に分散していることから、体内における吸収性の向上が期待できる。」 (イ)「【0013】 本発明で使用される脂溶性物質は、経口投与可能で何らかの生理活性を有するものであれば特に制限されないが、例えばユビキノンなどの補酵素Q類、レチノール、レチノイン酸、レチノイド、カロチンなどのビタミンA類、コレカルシフェロール、エルゴカルシフェロールなどのビタミンD類、トコフェロール、酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、トコトリエノールなどのビタミンE類、フィトナジオン、メナテトレノン等のビタミンK類、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、フコキサンチン、βカロチンなどが挙げられ、これらを単独で或いは2種以上組み合わせて使用できる。」 (ウ)「【0018】 本発明では、水溶性アルギン酸誘導体などの水溶性高分子溶液100重量部に対して、所望する顆粒の性質によって異なるが、脂溶性物質を0.1?70重量部加え、または必要に応じて、上記乳化剤や油脂類を添加し、O/Wエマルションを形成させ、第1煙霧体状溶液の主剤とする。エマルションを形成する手段としてはホモミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ポリトロン等を使用することができる。」 (エ)「【0019】 上記エマルション状態の溶液において、エマルションの安定性や目的とする顆粒が服用時にすみやかに吸収されるために、分散している脂溶性物質の分散粒子(乳化粒子)の平均粒径が5μm以下であることが望ましく、さらに好ましくは1μm以下である。なお、エマルション(乳化粒子)の平均粒径はメジアン粒径(50%粒径)であり、例えば動的光散乱式粒径分布測定装置(堀場製作所製LB-550)で測定することが出来る。」 (オ)「【0020】 本発明で使用されるゲル化剤(凝固剤)としては、前記水溶性高分子をゲル化させる性質を有する物質であれば良いが、水溶性高分子として水溶性アルギン酸誘導体や低メトキシルペクチンを選択した場合は、多価金属塩水溶液により物理ゲルを形成するため、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、または塩化バリウムの水溶液が好適に使用される。また、水溶性高分子は単独または2種以上組み合わせてもよく、対応するゲル化剤を単独または2種以上混合して使用する。」 (カ)「【0025】 なお、本発明においては、脂溶性物質と水溶性高分子溶液を含有する第1煙霧体状溶液が気相から液相に浸入する際の衝撃で不定形化するのを抑制する観点から、気相中で完全にゲル化を完了しておくことが望ましく、水相の液面から、噴霧あるいは滴下位置の間にある程度の高さが必要である。前記における水相の液面からの、噴霧あるいは滴下位置の最低高さは、1.0m以上が好ましく、更には1.5m以上がより好ましい。水相の液面からの噴霧あるいは滴下位置の最高高さには特に制限はないが、設備コストの面から20m以下であることが好ましく、更には5.5m以下であることがより好ましい。凝固室の頂部には前記の脂溶性物質含有水溶性高分子溶液を液滴として分散させるための噴霧手段2とゲル化剤噴霧手段3が設けられている。また、凝固室の壁面に生成したゲルが付着するのを回避するために、壁面に水を供給するための流下水供給手段4が設けられる。具体的には、多数の孔を側壁に向けて開けた円筒形パイプが使用され、連続的に水が供給される。凝固室内で生成されたゲルは、重力に従って落下し、粒子状態になった後、水懸濁液として回収される。」 (キ)「【0028】 脂溶性物質含有乳化液の作製 (調製例1) 脂溶性物質のモデル薬物として、コエンザイムQ10を使用した。 「カネカ・コエンザイムQ10」(カネカ製)20gを60℃まで加熱して融解させ、その溶解液を、あらかじめ60℃に調製したアルギン酸ナトリウム(キミカ製IL6-G)20g含む水溶液1リットルに分散し、ホモジナイザーを用いて15000rpm、10分間の条件で乳化した。この均一になったエマルション中のコエンザイムQ10含有乳化粒径を動的光散乱式粒径分布測定装置(堀場製作所製LB-550)にて粒度分布を測定したところ、メジアン粒径は3.30μmであった。」 (ク)「【0030】 (調製例3) 調製例1の組成にデカグリセリンモノオレイン酸エステル(理研ビタミン製J-0381V)を20g、中鎖脂肪酸トリグリセライド(理研ビタミン製アクターM-2)を10g加えた以外は同じ製法で乳化液を作製した。 乳化粒径を動的光散乱式粒径分布測定装置(堀場製作所製LB-550)にて粒度分布を測定したところ、メジアン粒径は0.20μmであった。」 (ケ)「【0031】 (実施例1)コエンザイムQ10含有顆粒の作製 調製例1から3で得られたコエンザイムQ10含有乳化液を、内径45cm、全高約5mの円筒状凝固室の塔頂部より、噴霧手段として二流体ノズル(霧のいけうち製BIMJ2004)を用いて体積平均液滴径が150μm、供給量150g/minの条件で噴霧した。それと同時に30重量%濃度の塩化カルシウム水溶液を塩化カルシウム固形分が乳化液100重量部に対して5?15重量部になるように二流体ノズル(スプレイングシステムズ社製1/4JシリーズSU13A)にて空気と混合しながら体積平均液滴径0.1?10μmで噴霧した。また、塔頂部より噴霧したコエンザイムQ10乳化液が凝固室の壁面へ付着するのを防止するために、内径約20mmのパイプに2mmφの孔を多数側壁に向けて開けたものを用い、25℃の蒸留水を6L/minの条件で連続的に供給した。凝固室を落下し、ゲル化したコエンザイムQ10含有乳化物は、ゲル化して粒子状態となった後、塔底部より水懸濁液として回収された。回収された懸濁液を定法により脱水、乾燥して顆粒を作製した。電子顕微鏡により、調製例1から3のいずれの乳化液を用いた場合においても、体積平均粒径約50μmの顆粒が作製されていることを確認した。図2に調製例2の組成でゲルを作製し、乾燥して得られた顆粒の電子顕微鏡写真を示す。」 (2-3-2)引用例に記載された発明 (A)コエンザイムQ10がユビキノンである(例えば、特開2007-308445号公報の特に【請求項3】参照)こと、デカグリセリンモノオレイン酸エステルが乳化における界面活性剤である(例えば、特開2007-326829号公報の特に【0052】【0053】参照)こと、中鎖脂肪酸トリグリセライドが植物性油脂である(例えば、特開2008-104458号公報の特に【請求項2】参照)ことが従前よりの技術常識であり、この技術常識と上記(ア)ないし(ケ)からして、引用例(調整例3に基く実施例1)には、「『コエンザイムQ10(ユビキノン)および中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)』とアルギン酸ナトリウム水溶液とを混合し、『コエンザイムQ10(ユビキノン)および中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)』からなる、動的光散乱式粒径分布測定装置(堀場製作所製LB-550)による測定から得られたメジアン粒径が0.2μm(200nm)の乳化粒子が分散された乳化液を得る乳化工程」、「乳化液を『乳化液と塩化カルシウム水溶液と流下水(蒸留水)の混合液』の液面に噴霧し、『コエンザイムQ10(ユビキノン)および中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)』からなる乳化粒子を内包する顆粒を得る噴霧工程」および「乳化工程において乳化粒子がホモジナイザーを用いて分散される」ことが記載されているということができる。 (B)引用例(調整例3に基く実施例1)には、「30重量%濃度の塩化カルシウム水溶液」(上記(ケ))との記載があり、この塩化カルシウム水溶液におけるカルシウムイオン濃度を算出すると11重量%となり、また、上記(A)で示したように、「乳化液を『乳化液と塩化カルシウム水溶液と流下水(蒸留水)の混合液』の液面に噴霧し、『コエンザイムQ10(ユビキノン)および中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)』からなる乳化粒子を内包する顆粒を得る噴霧工程」が記載されているということができ、この混合液(塩化カルシウム水溶液を含むもの)におけるカルシウムイオン濃度が塩化カルシウム水溶液におけるカルシウムイオン濃度よりも小さい値になることは当然の技術的事項であるので、引用例(調整例3に基く実施例1)には、「『乳化液と塩化カルシウム水溶液と流下水(蒸留水)の混合液』」におけるカルシウムイオン濃度が11重量%よりも小さい値である」ことが記載されているということができる。 上記(ア)ないし(ケ)の記載事項、および、同(A)(B)の検討事項より、引用例には、 「『コエンザイムQ10(ユビキノン)および中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)』とアルギン酸ナトリウム水溶液とを混合し、『コエンザイムQ10(ユビキノン)および中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)』からなる、動的光散乱式粒径分布測定装置による測定から得られたメジアン粒径が0.2μm(200nm)の乳化粒子が分散された乳化液を得る乳化工程と、乳化液を『乳化液と塩化カルシウム水溶液と流下水(蒸留水)の混合液』の液面に噴霧し、『コエンザイムQ10(ユビキノン)および中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)』からなる乳化粒子を内包する顆粒を得る噴霧工程と、を備え、乳化工程において乳化粒子がホモジナイザーを用いて分散され、噴霧工程において『乳化液と塩化カルシウム水溶液と流下水(蒸留水)の混合液』のカルシウムイオン濃度が11重量%よりも小さい値である、顆粒の製造方法。」(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されているものと認める。 (2-3-3)対比・判断 ○引用例記載の発明の「『乳化液と塩化カルシウム水溶液と流下水(蒸留水)の混合液』」、「顆粒」は、本願補正発明の「カルシウムイオン含有溶液」、「マイクロカプセル」のそれぞれに相当する。 ○引用例記載の発明の「『コエンザイムQ10(ユビキノン)および中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)』」について、コエンザイムQ10(ユビキノン)が脂溶性物質であることは自明の技術的事項であり、そして、中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)は油脂であることから、これも脂溶性物質であるということができるので、引用例記載の発明の「『コエンザイムQ10(ユビキノン)および中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)』」は、本願補正発明の「脂溶性物質」に相当する。 ○引用例記載の発明の「乳化粒子」と「『コエンザイムQ10(ユビキノン)および中鎖脂肪酸トリグリセライド(植物性油脂)』からなる乳化粒子」は、本願補正発明の「乳化粒子」に相当する。 ○引用例記載の発明の「動的光散乱式粒径分布測定装置による測定から得られたメジアン粒径が0.2μm(200nm)の乳化粒子」と、本願補正発明の「平均粒径800nm以下の乳化粒子」とは、「所定粒径を有する乳化粒子」という点で重複する。 ○引用例記載の発明の「乳化工程において乳化粒子がホモジナイザーを用いて分散され」と、本願補正発明の「乳化工程において乳化粒子が5MPa以上の加圧下で分散され」とは、「乳化工程において乳化粒子が分散され」という点で重複する。 ○引用例記載の発明の「噴霧工程において『乳化液と塩化カルシウム水溶液と流下水(蒸留水)の混合液』(カルシウムイオン含有溶液)のカルシウムイオン濃度が11重量%よりも小さい値である」と、本願補正発明の「噴霧工程においてカルシウムイオン含有溶液のカルシウムイオン濃度が0.5?20質量%である」とは、「噴霧工程においてカルシウムイオン含有溶液のカルシウムイオン濃度が所定値である」という点で重複する。 上記より、本願補正発明と引用例記載の発明とは、「脂溶性物質と、アルギン酸ナトリウム水溶液とを混合し、前記脂溶性物質からなる所定粒径を有する乳化粒子が分散された乳化液を得る乳化工程と、前記乳化液をカルシウムイオン含有溶液の液面に噴霧し、前記乳化粒子を内包するマイクロカプセルを得る噴霧工程と、を備え、前記乳化工程において前記乳化粒子が分散され、噴霧工程においてカルシウムイオン含有溶液のカルシウムイオン濃度が所定値である、マイクロカプセルの製造方法。」という点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 本願補正発明では、「平均粒径800nm以下の乳化粒子」であるのに対して、引用例記載の発明では、「動的光散乱式粒径分布測定装置による測定から得られたメジアン粒径が0.2μm(200nm)の乳化粒子」である点。 <相違点2> 本願補正発明では、乳化工程において乳化粒子が「5MPa以上の加圧下で分散され」るのに対して、引用例記載の発明では、モジナイザーを用いた乳化工程において乳化粒子が分散されるものの、「5MPa以上の加圧下で分散され」るかどうか明らかでない点。 <相違点3> 本願補正発明では、「噴霧工程においてカルシウムイオン含有溶液のカルシウムイオンの濃度が0.5?20質量%である」のに対して、引用例記載の発明では、「噴霧工程において『乳化液と塩化カルシウム水溶液と流下水(蒸留水)の混合液』(カルシウムイオン含有溶液)のカルシウムイオン濃度が11重量%よりも小さい値である」点。 以下、上記各相違点について検討する。 <相違点1>について 本願明細書には、「なお、乳化粒子10の平均粒径は、動的光散乱分布計を用いて測定することができ、重量平均粒子径をいう。」(【0023】)との記載があり、これからして、本願補正発明の「平均粒径800nm以下の乳化粒子」は、「動的光散乱分布計による測定から得られた重量平均粒径が800nm以下の乳化粒子」であるというべきであり、一方、引用例記載の発明は、「動的光散乱式粒径分布測定装置による測定から得られたメジアン粒径が0.2μm(200nm)の乳化粒子」であり、両者は、動的光散乱に基く粒径分布測定装置による測定から粒径を得るという点で同じである。 また、一般に、メジアン粒径が重量平均粒径よりも小さい値になることは、先行技術文献を示すまでもなく、極めて当然の技術的事項であることからして、本願補正発明の「動的光散乱分布計による測定から得られた重量平均粒径が800nm以下の乳化粒子」は、「動的光散乱分布計による測定から得られたメジアン粒径が800nmよりも小さい(800nm未満の)乳化粒子」であるということができる。 そうすると、引用例記載の発明の「動的光散乱式粒径分布測定装置(動的光散乱に基く粒径分布測定装置)による測定から得られたメジアン粒径が0.2μm(200nm)の乳化粒子」と、本願補正発明の「動的光散乱分布計(動的光散乱に基く粒径分布測定装置)による測定から得られた重量平均粒径が800nm以下の(メジアン粒径が800nm未満の)乳化粒子」とは、「動的光散乱に基く式粒径分布測定装置による測定から得られたメジアン粒径が0.2μm(200nm)の乳化粒子」という点で重複する。 したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。 <相違点2>について 一般に、ホモジナイザーを用いた乳化工程においてメジアン粒径が800nm以下の乳化粒子を分散させるとき、10?30MPaの加圧下で分散させることは、従前よりの周知技術(例えば、再公表特許第2004/080208号公報の下記※参照)であり、一方、引用例記載の発明では、ホモジナイザーを用いた乳化工程においてメジアン粒径(動的光散乱式粒径分布測定装置による測定から得られたメジアン粒径)が200nmの乳化粒子を分散させており、両者は、ホモジナイザーを用いた乳化工程においてメジアン粒径が200nmレベルの乳化粒子を分散させるという点で軌を一にしている。 そうすると、引用例記載の発明の「ホモジナイザーを用い」た「乳化工程において」「メジアン粒径(動的光散乱式粒径分布測定装置による測定から得られたメジアン粒径)が」「200nmの乳化粒子」を「分散さ」せることについて、上記の点で軌を一にする従前よりの周知技術からすると、10?30MPaの加圧下で分散されている蓋然性が高く、そうでないとしても、10?30MPaの加圧下で分散させようとすること、つまり、乳化工程において乳化粒子が「10MPa以上(30MPa以下)の加圧下で」分散されるようにすることは、当業者であれば容易に設定し得ることである。 したがって、相違点2は、実質的な相違点ではなく、そうでないとしても、相違点2に係る本願補正発明の技術的事項を構成することは、引用例記載の発明および従前よりの周知技術に基いて当業者であれば容易になし得ることである。 <相違点3>について 引用例記載の発明の「噴霧工程において『乳化液と塩化カルシウム水溶液と流下水(蒸留水)の混合液』(カルシウムイオン含有溶液)のカルシウムイオン濃度が11重量(質量)%よりも小さい値である」ことについて、引用例の上記(ウ)(キ)(ク)および同(オ)の「本発明で使用されるゲル化剤(凝固剤)としては、前記水溶性高分子をゲル化させる性質を有する物質であれば良いが、水溶性高分子として水溶性アルギン酸誘導体や低メトキシルペクチンを選択した場合は、多価金属塩水溶液により物理ゲルを形成するため、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、または塩化バリウムの水溶液が好適に使用される。」との記載からして、水溶性高分子のゲル化を達成するカルシウムイオン濃度になっていることは明らかであり、この濃度は、「『乳化液と塩化カルシウム水溶液と流下水(蒸留水)の混合液』」(カルシウムイオン含有溶液)中の乳化液の配分量(乳化液に含まれる水溶性高分子の量)等に応じて当業者が適宜決定する設定事項であるというべきである。 したがって、相違点3に係る本願補正発明の技術的事項を構成することは、引用例記載の発明に基いて当業者であれば容易になし得ることである。 そして、引用例記載の発明は、「(調製例3)・・・乳化粒径を動的光散乱式粒径分布測定装置(堀場製作所製LB-550)にて粒度分布を測定したところ、メジアン粒径は0.20μmであった。」(上記(ク))および「脂溶性物質と水溶性高分子溶液を含有する第1煙霧体状溶液が気相から液相に浸入する際の衝撃で不定形化するのを抑制する観点から、気相中で完全にゲル化を完了しておくことが望ましく」(上記(カ))との記載からして、粒径が0.20μm(小さな粒径)であり、かつ、気相から液相に浸入する際の衝撃による不定形化が抑制されたものであるということができるので、本願補正発明の「粒径が小さく且つ球形のマイクロカプセルを提供する」等の作用効果は、引用例記載の発明から当業者であれば十分に予測し得るものである。 よって、本願補正発明は、引用例記載の発明および従前よりの周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである ※再公表特許第2004/080208号公報の【発明の開示】 「この際、有機酸モノグリセリドと乳蛋白質からなる複合体により乳化された脂肪球のメジアン径が0.8ミクロン以下になるようにホモジナイザーによる均質化圧力を設定することが好ましい。脂肪球のメジアン径が0.8ミクロンを超えると、数日?2週間程度で脂肪球が浮上してクリーミングしてしまう場合がる。又、長期保存可能期間を1ヶ月以上とする為には、0.6ミクロン以下にする事が更に好ましい。脂肪球のメジアン径の下限は特に限定しないが、系によって安定性が異なり、製造上の限界がある。また、製造時の均質化は、殺菌・滅菌工程の前後に行う方が、より乳化した脂肪球の安定性が高まる傾向にあったが、特別に高圧力を必要とせず、10?30MPaで充分な性能が得られる。なお、脂肪球のメジアン径は、通常使用されるレーザー回折式粒度分布測定装置などにより測定できる。」(5頁5?14行) (2-3-4)まとめ 上記からして、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について (3-1)本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年5月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記2.(2-1)の(補正前)で示したものである。 (3-2)拒絶査定の拒絶理由 拒絶査定の拒絶理由は、「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された特開2007-290997号公報(引用文献1)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」旨を理由の一つにするものである。 (3-3)引用例の記載事項 原査定の拒絶理由において引用文献1として引用した特開2007-290997号公報(引用例)の記載事項は、上記2.(2-3-1)で示したとおりである。 (3-4)対比・判断 上記2.(2-2)で示したように、本件補正における請求項1に係る補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであることから、本願発明は、本願補正発明を包含している。 そうすると、本願補正発明が、上記2.(2-3-3)で示したように、引用例記載の発明および従前よりの周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願補正発明を包含する本願発明も同じく、引用例記載の発明および従前よりの周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができる。 (3-5)むすび したがって、本願発明は、引用例記載の発明および従前よりの周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 それゆえ、請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-06-15 |
結審通知日 | 2015-06-16 |
審決日 | 2015-06-29 |
出願番号 | 特願2010-515837(P2010-515837) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B01J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 近野 光知、加藤 幹 |
特許庁審判長 |
國島 明弘 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 豊永 茂弘 |
発明の名称 | マイクロカプセル、マイクロカプセルの製造方法及びマイクロカプセルを含む飲食品 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 古下 智也 |
代理人 | 古下 智也 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 清水 義憲 |