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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1304673
審判番号 不服2013-21806  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-07 
確定日 2015-08-19 
事件の表示 特願2011-80734「転移を阻害する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年7月7日出願公開、特開2011-132260〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成12年11月15日(パリ条約による優先権主張 1999年11月24日、2000年8月14日 いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2001-540115号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成23年3月31日に新たな特許出願として分割したものである。
以降の手続は次のとおりである。

平成23年 3月31日 上申書
平成24年10月25日付け 拒絶理由通知書
平成25年 4月26日 意見書
平成25年 7月 4日付け 拒絶査定
平成25年11月 7日 審判請求書

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】 明細書に記載の発明。」

3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、請求項1の記載は明細書の記載を代用しているため発明の範囲を不明確とするものであり、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものを包含する。

4 特許法第36条第6項第2号に関連する裁判例について
(1)平成13年(行ケ)第346号判決
東京高等裁判所は、旧特許法36条5項2号の規定について、平成13年(行ケ)第346号判決において次のとおり判示した。
「上記規定は、発明の詳細な説明に多面的に記載されている発明のうち、どの発明について特許を受けようとしているのかを、出願人の意思により、特許請求の範囲に明示すべきことを要求しているものであり、これにより、一つの請求項に基づいて、特許を受けようとする発明が、まとまりのある一つの技術的思想として明確に把握できることになるのである。そのためには、明細書の特許請求の範囲には、『特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項』を明確に記載する必要があるのであり、特許発明の構成に欠くことができない事項を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず、殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して特許請求の範囲を記載し、特許発明に欠くことができない構成を不明確なものとするようなことが許されないのは、当然のことというべきである。
このことは、特許法70条1項が、『特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。』と規定し、特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を定めることを規定していることからも当然のことである。すなわち、特許請求の範囲を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず、殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して記載することが許されるとすれば、特許発明の技術的範囲を明確に確定することができなくなるおそれが生じ、特許権が行使される対象となる範囲が不明確となって、社会一般に対しあるいは競業者に対し、特許権が行使される範囲の外延を明示するとの、特許請求の範囲が果たすべき、本来の機能を果たすことができなくなる結果を招来するのである。」

この判決は、旧特許法第36条第5項第2号の規定についてのものであるが、特許請求の範囲の記載を明確に記載する必要があるということに関する判示事項については、「特許を受けようとする発明が明確であること。」と規定している特許法第36条第6項第2号の判断において参照し得ることは明らかであって、しかも、特許法第36条第6項第2号について判断した下記の平成20年(行ケ)第10107号判決および平成21年(行ケ)第10434号判決の判示事項と反するところもない。

(2)平成20年(行ケ)第10107号判決
知的財産高等裁判所は、特許法第36条第6項第2号の規定について、平成20年(行ケ)第10107号判決において、次のとおり判示した。
「特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載において、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許発明の技術的範囲、すなわち、特許によって付与された独占の範囲が不明となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。」

(3)平成21年(行ケ)第10434号判決
知的財産高等裁判所は、特許法第36条第6項第2号の規定について、平成21年(行ケ)第10434号判決において、次のとおり判示した。
「法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。」

5 本願明細書の記載事項
本願明細書には、以下のような記載があり、
「例えば、本発明は以下の項目を提供する。
・(項目1) 細胞の転移を阻害する方法であって、当該方法は、
当該細胞上のケモカインレセプターのシグナル伝達をブロックする工程
を包含する、方法。
・(項目2) 上記転移が器官特異的である、項目1に記載の方法。
・(項目3) 上記転移が、リンパ節、骨髄、または皮膚への転移である、項目1に記載の方法。
・(項目4) 上記転移がリンパ節への転移である、項目3に記載の方法。
・(項目5) 上記細胞が、乳房、頭部および頸部、黒色腫、または前立腺の癌細胞が挙げられる、癌細胞である、項目1に記載の方法。
・(項目6) 上記癌細胞が、乳房または黒色腫の癌細胞である、項目1に記載の方法。
・(項目7) 上記ケモカインレセプターがCCR7、CXCR4、またはCCR10である、項目1に記載の方法。
・(項目8) 当該シグナル伝達のブロックが、上記ケモカインレセプターに対する抗体を用いる、項目7に記載の方法。
・(項目9) 項目7に記載の方法であって、上記ケモカインレセプターがCCR7であり、そして上記ブロックが、
a)FSECに対する抗体、CKβ9に対する抗体、またはCKβ11に対する抗体;
あるいは
b)FSECのアンタゴニストムテイン、CKβ9のアンタゴニストムテイン、またはCKβ11のアンタゴニストムテイン
を用いる、方法。
・(項目10) 項目7に記載の方法であって、上記ケモカインレセプターがCXCR4であり、そして上記ブロックが
a)SDF-1に対する抗体;または
b)SDF-1のアンタゴニストムテイン
を用いる、方法。
・(項目11) 項目7に記載の方法であって、上記ケモカインレセプターがGPR2であり、そして上記ブロックが
a)CTACKに対する抗体もしくはVicに対する抗体;または
b)CTACKのアンタゴニストムテインもしくはVicのアンタゴニストムテイン
を用いる、方法。
・(項目12) 項目1に記載の方法であって、上記シグナル伝達のブロックが、
a)上記ケモカインレセプターに対する抗体;または
b)百日咳毒素が挙げられる、上記ケモカインレセプターのシグナル伝達を阻害する薬物
を用いる、方法。
・(項目13) 癌のための別の処置と組み合わせた、項目1に記載の方法。
・(項目14) 上記処置が、化学療法、放射線療法、免疫療法、および手術から選択される、項目13に記載の方法。
・(項目15) 上記処置が上記ブロックの前に行われる、項目13に記載の方法。
・(項目16) 原発性腫瘍または転移性細胞上のケモカインレセプターについてスクリーニングするための方法であって、
どのケモカインレセプターが当該細胞上で発現されるか同定する工程
を包含する、方法。
・(項目17) 項目16に記載の方法であって、上記同定する工程が、
a)抗体標識、リガンド試験、もしくはPCR分析であるか;あるいは
b)治療処置の決定を生じる、
方法。
・(項目18) 抗腫瘍剤と、
a)ケモカインレセプターアンタゴニスト;または
b)ケモカインレセプターに標的化された毒性結合体;
とを含む、組成物。
・(項目19) 項目18に記載の組成物であって、上記アンタゴニストまたは毒性結合体が、
a)FSECに対する抗体、CKβ9に対する抗体またはCKβ11に対する抗体;
b)FSECのアンタゴニストムテイン、CKβ9のアンタゴニストムテインまたはCKβ11のアンタゴニストムテイン;
c)SDF-1に対する抗体;
d)SDF-1のアンタゴニストムテイン;
e)CTACKに対する抗体またはVicに対する抗体;
f)CTACKのアンタゴニストムテインまたはVicのアンタゴニストムテイン;
g)上記ケモカインレセプターに対する抗体;あるいは
h)百日咳毒素が挙げられる、上記ケモカインレセプターのシグナル伝達を阻害する薬物;
から選択される、組成物。
・(項目20) 動物における癌を処置するための方法であって、
項目18に記載の組成物の有効量を当該動物に投与する工程
を包含する、方法。」(段落【0014】)
この記載から、本願明細書には、多種多様な発明が記載されていることが理解できる。

6 当審の判断
前記5に述べたように、本願明細書中には、多種多様な発明が記載されている。
そして、本願明細書に記載の多種多様な発明は、いずれのものも特許請求の範囲に記載することが可能なものであって、それを本願の特許請求の範囲に記載できないような事情は見いだせない。
平成13年(行ケ)第346号判決の「上記規定は、発明の詳細な説明に多面的に記載されている発明のうち、どの発明について特許を受けようとしているのかを、出願人の意思により、特許請求の範囲に明示すべきことを要求しているもの」であると判示事項に照らせば、本願特許請求の範囲の記載は、本願明細書中の発明のうち、どの発明について特許を受けようとしているのか不明であって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことは明白である。
また、平成20年(行ケ)第10107号判決及び平成21年(行ケ)第10434号判決の観点からも検討を加えると、前記したように本願明細書中の発明のうち何が本願の特許請求の範囲に含まれるのか明確でないから、特許発明の技術的範囲を明確に確定することができなくなるおそれが生じ、特許権が行使される対象となる範囲が不明確となることは明らかである。
よって、本願の特許請求の範囲の記載に、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎としても、本願の特許請求の範囲の記載は、「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である」といえ、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

7 結語
以上のことから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-18 
結審通知日 2015-03-24 
審決日 2015-04-07 
出願番号 特願2011-80734(P2011-80734)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関 景輔宮坂 隆  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 内藤 伸一
田村 明照
発明の名称 転移を阻害する方法  
代理人 金山 賢教  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 小野 誠  
代理人 坪倉 道明  
代理人 城山 康文  
代理人 安藤 健司  
代理人 重森 一輝  

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