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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1304681
審判番号 不服2013-25478  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-25 
確定日 2015-08-19 
事件の表示 特願2006-338747「検知対象光伝搬」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月 5日出願公開、特開2007-171179〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18年12月15日(パリ条約による優先権主張2005年12月22日、米国)の出願であって、平成24年1月13日付けで拒絶理由が通知され、同年4月13日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年10月25日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月29日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、同年8月27日付けで同手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成25年12月25日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成25年12月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。


[理由]

1 本件補正について

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成24年4月13日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「 一種類又は複数種類の刺激に反応して、波長に関する情報が経時的に変化する光を出射する刺激波長コンバータと、
透過構造の入射面上で一方向又は多方向沿いに拡がるよう刺激波長コンバータからの光を拡散させる拡散部材と、
拡散部材を介しその入射面にて刺激波長コンバータから受光するとともに、その出射面から光を出射する透過構造であって、その光子エネルギ透過特性が入射面沿いに横変している透過構造と、
透過構造から出射された光を受光する複数の検知位置が設けられるとともに、検知位置にて検知した光子量を示す電気信号を出力する、光子検知部材と、
光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路であって、光子検知部材を備え、異なる光子検知部材から出力された電気信号に基づいた、光子量の差を表す差分信号を出力する回路と、
を備え、
透過構造の入射面上で光が拡がる方向が、透過構造の光子エネルギ透過特性の横変方向と直交していない方向を含むこととなるよう構成された装置。」


「 一種類又は複数種類の刺激に反応して、波長に関する情報が経時的に変化する光を出射する刺激波長コンバータと、
透過構造の入射面上で一方向又は多方向沿いに拡がるよう刺激波長コンバータからの光を拡散させる拡散部材と、
拡散部材を介しその入射面にて刺激波長コンバータから受光するとともに、その出射面から光を出射する透過構造であって、その入射面は、複数の面と、隣接する面同士を繋ぐ段差状の勾配とが設けられるように形成され、その光子エネルギ透過特性が複数の面間で入射面沿いに横変している透過構造と、
透過構造の第1の面から出射された第1の波長を有する光を受光する第1の複数の検知位置と、透過構造の第2の面から出射された第2の波長を有する光を受光する第2の複数の検知位置とが設けられるとともに、第1の複数の検知位置及び第2の複数の検知位置のそれぞれにて検知した光子量を示す電気信号を出力する、光子検知部材と、
光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路であって、光子検知部材を備え、第1の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第1の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号を演算処理して第1の波長に関する信号を取得するとともに、第2の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第2の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号を演算処理して第2の波長に関する信号を取得し、それぞれ取得した第1の波長に関する信号及び第2の波長に関する信号に基づいた、光子量の差を表す差分信号を出力する回路と、
を備え、
透過構造の入射面上で光が拡がる方向が、透過構造の光子エネルギ透過特性の横変方向と直交していない方向を含むこととなるよう構成された装置。」
と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、
請求項1に記載された発明特定事項である「透過構造」について、「その入射面は、複数の面と、隣接する面同士を繋ぐ段差状の勾配とが設けられるように形成され」るとの限定を付加すると共に、光子エネルギ透過特性の入射面沿いの横変が「複数の面間で」生じているとの限定を付加し、
同じく「光子検知部材」について、「複数の検知位置」が「透過構造の第1の面から出射された第1の波長を有する光を受光する第1の複数の検知位置と、透過構造の第2の面から出射された第2の波長を有する光を受光する第2の複数の検知位置」であるとの限定を付加し、それに伴い、出力する「検知した光子量を示す電気信号」が「第1の複数の検知位置及び第2の複数の検知位置のそれぞれ」におけるものであることを明確化し、
同じく「光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路」が出力する「異なる光子検知部材から出力された電気信号に基づいた、光子量の差を表す差分信号」について、「第1の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第1の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号を演算処理して第1の波長に関する信号を取得するとともに、第2の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第2の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号を演算処理して第2の波長に関する信号を取得し、それぞれ取得した第1の波長に関する信号及び第2の波長に関する信号に基づいた」ものであるとの限定を付加するものであり、
本件補正における請求項1に係る発明の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮)を目的とするものである。

2 独立特許要件についての検討

(1)そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)引用例

ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-252214号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は複数の波長の解析に使用するのに好適な任意波長選択フィルタおよびこの任意波長選択フィルタを使用して波長の監視等のモニタを行うマルチチャネルモニタならびに血糖値等の測定を行う生体検査装置に係わり、特に簡易な測定に使用可能な任意波長選択フィルタ、マルチチャネルモニタおよび生体検査装置に関する。」

(イ)「【0008】
図37は、後者の特許文献2に示された血糖値測定装置の概要を示したものである。被験者の指101には第1および第2の半導体レーザ(LD)102、103からそれぞれ第1の波長λ_(1)(680nm)と第2の波長λ_(2)(830nm)の2種類の波長の光104、105が照射される。これらの光104、105は指101を透過した後、それぞれに対応した第1または第2の受光素子(PD)106、107で受光される。第1および第2の受光素子106、107の出力はメモリ108に入力されて、その時点での測定結果として記憶されるようになっている。
【0009】
血糖値の測定は、被験者の空腹時に初回が行われ、その後は一定時間間隔でグルコース糖を規定量飲んでは測定を繰り返す。これにより、グルコース糖による血糖値が増加していき、その様子がそれぞれの測定結果としてメモリ108に記憶される。所定回数の測定が終了すると、制御部109はメモリ108からそれぞれの測定結果を読み出して演算部111に与え、所定の演算を行わせる。演算結果112は制御部109の制御によって判断部113に渡されて糖尿病の有無の判断が行われるようになっている。
【0010】
図38は、この提案による波長と吸光度との関係を表わしたものである。横軸は波長を、縦軸は吸光度を表わしている。曲線121は血液中のヘモグロビンが還元ヘモグロビンだけの時の吸光度特性を示している。また、曲線122は血液中のヘモグロビンが酸化ヘモグロビンだけの時の吸光度特性を示している。実際の生体の血液のヘモグロビンは、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンが混在した状態となっている。そこで、実際の血液の吸光度を第1の波長λ_(1)と第2の波長λ_(2)の光を使用して測定して、これらの波長λ_(1)、λ_(2)の吸光度の差d_(1)、d_(2)を取ることで、測定血液の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンの割合を判別するようにしている。」

(ウ)「【0052】
図1は本発明の第1の実施例の任意波長選択フィルタを構成するそれぞれの任意波長選択フィルタ部材を示したものである。第1?第5の任意波長選択フィルタ部材201?205は、それぞれ幅1.95mm(ミリメートル)で長さが9.95mm、厚さが1mmの帯状をしている。第1の任意波長選択フィルタ部材201は、透明基板の上に膜厚が連続的に異なる傾斜フィルタを形成したもので、傾斜フィルタは短波長側が400nm(ナノメートル)から長波長側が459.7nmまでの波長を選択的に透過することができる。第2の任意波長選択フィルタ部材202は、同じく透明基板の上に膜厚が連続的に異なる傾斜フィルタを形成したもので、短波長側が460.3nmから長波長側が519.7nmまでの波長を選択的に透過することができる。第3の任意波長選択フィルタ部材203は、以上と同一構造で、短波長側が520.3nmから長波長側が579.7nmまでの波長を選択的に透過することができる。第4の任意波長選択フィルタ部材204は、以上と同一構造で、短波長側が580.3nmから長波長側が639.7nmまでの波長を選択的に透過することができる。最後に第5の任意波長選択フィルタ部材205は、以上と同一構造で、短波長側が640.3nmから長波長側が699.7nmまでの波長を選択的に透過することができる。
【0053】
第1?第5の任意波長選択フィルタ部材201?205は、それぞれ図示しない透明基板上に形成されたものであり、上記した寸法に短冊状に切断されて得られる。このとき、短冊の長手方向が膜厚勾配を有する方向となる。これらのフィルタ部材同士に0.6nmずつの波長の抜けがあるのは、切断時にこれらの部分が切除されたからである。このような製法を採ることにより、これら第1?第5の任意波長選択フィルタ部材201?205の製造コストを下げることができる。もちろん、第1?第5の任意波長選択フィルタ部材201?205を波長の抜けのないものとして製造することは可能である。これら第1?第5の任意波長選択フィルタ部材201?205は、対向する側面同士を図示しない接着剤で接着し同一平面のフィルタが完成する。接着剤には、使用波長範囲で透明なUV硬化型あるいは熱硬化型の光学接着剤が用いられる。接着剤を使用する代わりに、図示しない治具で第1?第5の任意波長選択フィルタ部材201?205を密着した状態で固定してもよい。
【0054】
図2は、この完成した任意波長選択フィルタを示したものである。張り合わされた側の辺としての短辺が9.75mmで長辺が9.95mmの任意波長選択フィルタ211が完成する。」

(エ)「【0056】
図3は、本実施例で使用される任意波長選択フィルタ部材の原理的な構成を示したものである。ここでは第1の任意波長選択フィルタ部材201を示しているが、第2?第5の任意波長選択フィルタ部材202?205も基本的に同様の構成となっている。第1の任意波長選択フィルタ部材201は、透明な基板221とこの基板221上に形成され、図で左端側から右端側に向けて位置に応じて一様に厚さが変化する透明な第1の誘電体薄膜222と、この第1の誘電体薄膜222の上に形成され、同じく図で左端側から右端側に向けて位置に応じて一様に厚さが変化する透明な第2の誘電体薄膜223とから構成されている。第1の誘電体薄膜222と第2の誘電体薄膜223は、それぞれ異なる誘電体物質H、Lで構成されている。なお、この図では図示を簡略化するために第1および第2の誘電体薄膜222、223がペアとして1回ずつ層形成されたものとして示している。」

(オ)「【0090】
図12は任意波長選択フィルタと2次元イメージセンサの配置関係を表わしたものである。任意波長選択フィルタ305は第1の実施例の任意波長選択フィルタ211と基本的に同一のものであるが、波長範囲の互いに異なる第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320によって構成されている。これら任意波長選択フィルタ部材311?320は、それぞれ幅1mmで長さが10mmのサイズとなっており、対向する側面同士を図示しない接着剤で固着している。2次元イメージセンサ307は任意波長選択フィルタ305よりもわずかに大きなサイズとなっている。この第2の実施例では1/2インチ(12.7mm×12.7mm)のSi-CCD(Charged Coupled Device)受光素子を使用した。任意波長選択フィルタ305にたとえば光線入射角10度で入射する反射光304は、少なくとも任意波長選択フィルタ305の全域を照射することを要する。
【0091】
任意波長選択フィルタ305を構成する第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320には、可視域から赤外域まで広範囲の波長域に対して透明で安定な誘電体を使用する。この第2の実施例では第1の実施例の場合と同様に第1の誘電体薄膜としてNb_(2)O_(5)を使用し、第2の誘電体薄膜としてSiO_(2)を使用している。第1の誘電体薄膜のNb_(2)O_(5)は屈折率分散を有し、波長範囲の400nmから1100nmで相対波数が2.3から2.2の値を示す。第2の誘電体薄膜として使用されているSiO_(2)はNb_(2)O_(5)よりも小さな屈折率分散を有し、波長範囲の400nmから1100nmで相対波数が1.48から1.46の値を示す。第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320の基板には第1の実施例の場合と同様に、ショット(SCHOTT)社の商品名「BK7」のガラス基板(屈折率1.5)を使用している。この場合の膜構造は先に示した表現構造(6)で表わされる。
【0092】
次の表1は、第1?第10の任意波長選択フィルタ部材における波長可変範囲を示している。この表1に示すように第2の実施例の第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320の場合には、第1の実施例の場合と異なり400nmから1100nmの範囲で波長の抜けは生じていない。
【0093】
【表1】



(カ)「【0101】
図27は、図11に示したマルチチャネルモニタをより具体的に表わしたものである。マルチチャネルモニタ300の白色光源350から出力される400nmから1100nmまでの波長範囲を包含する光は第1の光ファイバ351によって第1のコリメータレンズ352まで導かれ、コリメートされた光は波長のモニタの対象となるサンプル353に照射される。サンプル353を中心として第1のコリメータレンズ352と対称の位置には第2のコリメータレンズ354が配置されており、サンプル353を透過した光が集光されて第2の光ファイバ355の一端に結合するようになっている。第2の光ファイバ355の他端には拡大レンズ356が配置されている。拡大レンズ356によって拡大されたビーム径は第3のコリメータレンズ357に入射して平行な広帯域光302とされ、図23に示したバンド反射ミラー301にたとえば入射角10度で入射する。そして、その反射光304_(1)?304_(10)が任意波長選択フィルタ305の第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320(図12参照)の対応するものに照射される。そして、この任意波長選択フィルタ305によって波長ごとに分解された光が2次元イメージセンサ307に入射して、それぞれの波長の光の強度に応じたデータ308が駆動・分析部309に入力されて、波長ごとのモニタが行われる。
【0102】
図28は、2次元イメージセンサの一部を表わしたものである。2次元イメージセンサ307は、X軸方向およびY軸方向に隙間なく配置された多数の升目状のピクセル359から構成されている。第1の任意波長選択フィルタ部材311は、その長手方向がX軸方向と一致して配置されており、Y軸方向のn個ずつのピクセル(この図ではnは“3”)と対応している。第1の任意波長選択フィルタ部材311は、X軸方向に400nmから450nmまで選択波長を連続的に変化させているので、2次元イメージセンサ307における第1の任意波長選択フィルタ部材311に対応した領域では、それぞれのピクセル359はX軸方向の位置に対応して400nmから450nmまでの波長の光を選択的に受光することになる。
【0103】
図12に示した第2?第10の任意波長選択フィルタ部材312?320も図28には示していないが、第1の任意波長選択フィルタ部材311と同様にX軸方向を長手方向として配置され、Y軸方向のn個ずつのピクセルと対応している。したがって、これらについてもそれぞれ表1に示した波長範囲でX軸方向の位置に対応した波長の光を選択的に受光することになる。
【0104】
図29は、駆動・分析部の回路構成の概要を示したものである。駆動・分析部309は、図27に示した2次元イメージセンサ307の駆動を行う駆動信号361を出力するイメージセンサ駆動部362と、このイメージセンサ駆動部362が生成した2次元イメージセンサ307の読み取り開始を示すスタート信号363とライン同期信号364および1ラインにおける画素クロック365を入力するカウンタ回路366と、このカウンタ回路366が出力するピクセル単位の読み取りのための読取クロック367を一方の入力端子に入力するゲート回路368と、2次元イメージセンサ307から出力されるデータ369のA/D(アナログ/ディジタル)変換を行いその結果を読取データ371としてゲート回路368の他方の入力端子に入力するA/D変換器372と、読取クロック367をゲートの開閉制御に使用してゲート回路368から出力される波長別光強度信号374を書き込む分析結果メモリ375から構成されている。
【0105】
ここで、カウンタ回路366はスタート信号363を入力されるとライン同期信号364をカウントする。そして、たとえば第1の任意波長選択フィルタ部材311によって分光した400nmから450nmの波長の光については第2ラインのピクセル群の信号を分析結果として採用する場合には、ライン同期信号364が2回カウントされた時点で次のライン同期信号364がカウントされるまで画素クロック365を1ライン分連続して読取クロック367として出力する。」

(キ)「【0107】
ところで、第2の任意波長選択フィルタ部材312が仮に図28に示した2次元イメージセンサ307でY軸方向に4番目から6番目までのピクセル359に対応していたとする。この場合、カウンタ回路366はスタート信号363が入力されてライン同期信号364がたとえば5回カウントされた時点で更に次のライン同期信号364がカウントされるまで画素クロック365を1ライン分連続して読取クロック367として出力することになる。以下同様にしてカウンタ回路366は第3?第10の任意波長選択フィルタ部材313?320にそれぞれ対応する1ラインずつの期間に読取クロック367を出力することになる。カウンタ回路366はライン同期信号364が何回カウントされたときに画素クロック365を1ライン分連続して読取クロック367として出力するかを表わした数値を、図示しないメモリに記憶している。」

(ク)【図1】




(ケ)【図2】




(コ)【図3】




(サ)【図12】




(シ)【図27】




(ス)【図28】




(セ)【図38】




(ソ)上記摘記事項(ウ)によれば、任意波長選択フィルタ部材は長手方向に膜厚勾配を有するものであるから、引用例1の図3に記載された任意波長選択フィルタ部材201の左端及び右端が、それぞれ任意波長選択フィルタ部材201の長手方向の一端及び他端に対応することは明らかである。

(タ)上記摘記事項(オ)の【表1】には、第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320のそれぞれに対応する透過波長が、第1の任意波長選択フィルタ部材311から第10の任意波長選択フィルタ部材320の順に長くなっており、第6の任意波長選択フィルタ部材316の波長可変範囲が680?760nm、第7の任意波長選択フィルタ部材317の波長可変範囲が760?840nmであることが示されている。

(チ)上記摘記事項(カ)及び(キ)から、駆動・分析部309は、第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320のそれぞれに対応する3ライン分のピクセル群の信号のうち、第2ラインのピクセル群の信号を分析結果として採用することが把握できる。

(ツ)上記摘記事項(サ)の【図12】には、第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320が、第1の任意波長選択フィルタ部材311から第10の任意波長選択フィルタ部材320の順に並んでいることが把握できる。

イ 引用例1に記載された発明の認定

上記ア(ア)ないし(ツ)を含む引用例1全体の記載を総合すると、引用例1には、

「 白色光源350から出力される400nmから1100nmまでの波長範囲を包含する光を第1の光ファイバ351によって第1のコリメータレンズ352まで導き、コリメートされた光が波長のモニタの対象となるサンプル353に照射され、サンプル353を透過した光が、サンプル353を中心として第1のコリメータレンズ352と対称の位置に配置された第2のコリメータレンズ354により集光されて第2の光ファイバ355の一端に結合するようになっており、第2の光ファイバ355の他端に配置された拡大レンズ356によって拡大されたビーム径は第3のコリメータレンズ357に入射して平行な広帯域光302とされてバンド反射ミラー301に入射し、その反射光304_(1)?304_(10)が任意波長選択フィルタ305の第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320の対応するものに照射され、この任意波長選択フィルタ305によって波長ごとに分解された光が2次元イメージセンサ307に入射して、それぞれの波長の光の強度に応じたデータ308が駆動・分析部309に入力されて、波長ごとのモニタが行われるマルチチャネルモニタ300であって、
任意波長選択フィルタ305は、波長範囲が互いに異なる第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320によって構成されており、これら任意波長選択フィルタ部材311?320は、それぞれ幅1mmで長さが10mmのサイズであり、透明な基板221と、この基板221上に形成され、長手方向の一端から他端側に向けて位置に応じて一様に厚さが変化するNb_(2)O_(5)を使用した透明な第1の誘電体薄膜222と、この第1の誘電体薄膜222の上に形成され、同じく長手方向の一端から他端側に向けて位置に応じて一様に厚さが変化するSiO_(2)を使用した透明な第2の誘電体薄膜223とから構成されて長手方向に膜厚勾配を有し、第1の任意波長選択フィルタ部材311から第10の任意波長選択フィルタ部材320の順に透過波長が長くなっていて、第6の任意波長選択フィルタ部材316の波長可変範囲は680?760nm、第7の任意波長選択フィルタ部材317の波長可変範囲は760?840nmであり、第1の任意波長選択フィルタ部材311から第10の任意波長選択フィルタ部材320の順に並べられて対向する側面同士が接着剤で固着されており、
2次元イメージセンサ307は、X軸方向及びY軸方向に隙間なく配置された多数の升目状のピクセル359から構成されていて、第1の任意波長選択フィルタ部材311は、その長手方向がX軸方向と一致して配置され、Y軸方向の3個ずつのピクセルと対応しており、2次元イメージセンサ307における第1の任意波長選択フィルタ部材311に対応した領域では、それぞれのピクセル359はX軸方向の位置に対応して400nmから450nmまでの波長の光を選択的に受光し、第2?第10の任意波長選択フィルタ部材312?320も第1の任意波長選択フィルタ部材311と同様にX軸方向を長手方向として配置され、Y軸方向の3個ずつのピクセルと対応していて、これらのピクセルもそれぞれの波長範囲でX軸方向の位置に対応した波長の光を選択的に受光し、
駆動・分析部309は、回路で構成され、第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320のそれぞれに対応する3ライン分のピクセル群の信号のうち、第2ラインのピクセル群の信号を分析結果として採用するように構成されている、
マルチチャネルモニタ300。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 当審において新たに引用する、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-212073号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである。)。

(ア)「【0006】また、励起光を照射された生体組織から発せられる蛍光は微弱なものであり、上記従来例ではその微弱な蛍光から、モザイクフィルタの各帯域フィルタを透過した蛍光の光強度を各画素毎に検出している。このため、各画素に蓄積される信号電荷が小さく、ノイズの影響を受け易い。一般に、このように各画素に蓄積される信号電荷が小さく、S/Nの劣化が大きい場合には、ビニング(Binning)読み出しにより、ノイズの影響を低減できる。このビニング読み出しとは、複数の画素における信号電荷を加算した後に読み出す方法であり、信号電荷を加算してから読み出すことにより、読み出しに要する時間が短くなり、信号電荷の読み出しに伴うノイズの混入を抑えることができる。」

(イ)「【0014】前記撮像装置は、前記撮像素子の複数個の画素の信号電荷を加算して読み出すビニング制御手段を備え、該ビニング制御手段としては、同一の波長帯域を透過させる帯域フィルタが設けられた画素の信号電荷を加算するものが好適である。」

(ウ)「【0043】CCD撮像素子125 では、蛍光L4は、各画素で光電変換され、光の強弱に応じた信号電荷として蓄積され、所定時間毎に、CCDドライバ126 の駆動によりビニング読み出しにより読み出される。CCD撮像素子125 の部分拡大模式図である図5を参照してCCD撮像素子125 からの信号電荷の読み出し動作の詳細を説明する。
【0044】図5の斜線部に配置された画素24には、帯域フィルタ123aを透過した蛍光が入射し、その他の部分に配置された画素25には、帯域フィルタ123bを透過した蛍光が入射する。CCD撮像素子125 では、各画素に蓄積された信号電荷は、一定時間後に、一斉に水平シフトレジスタ22の水平転送CCD26に順次送り込まれる。
【0045】水平シフトレジスタ22では、まず横1ラインの画素の信号電荷が入ると、次の横1ラインの画素の信号電荷が入るのを待ち、横2ライン分の信号電荷が、水平シフトレジスタ22に転送された後、信号を水平方向に転送し、左端に設けられた出力回路23を介して、出力する。水平転送CCD26の信号電荷がすべて出力されると、次のラインとその次のラインの信号電荷が、画素から転送される。このような動作を繰り返すことにより、撮像面21の最下段のラインの画素の信号電荷とその上のラインの画素の信号電荷が加算され、左から右方向へ順次読み出される。
【0046】例えば、1ラインと2ラインの信号電荷が加算されて読み出されると、次にその上の3ラインと4ラインの信号電荷が加算され加算され読み出され、順番に移動して、全画素、1画面の信号が読み出される。
【0047】各CCD撮像素子125 の画素に蓄積された電気信号は、このようなビニング読み出しにより、上下2つの画素の信号電荷が加算された後読み出される。すなわち上下の同一波長帯域のフィルタを透過した蛍光が入射する画素に蓄積された信号電荷が、加算されて信号処理回路131 に出力される。」

(エ)【図5】




エ 引用例2に記載された技術の認定

上記ウ(ア)ないし(エ)を含む引用例2全体の記載を総合すると、引用例2には、以下の技術が記載されている。

「撮像素子の複数個の画素のうち、同一の波長帯域を透過させる帯域フィルタが設けられた2つの画素の信号電荷を加算して出力する技術。」
(以下「引用例2技術」という。)

(3)本願補正発明と引用発明との対比

ア 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)
a 引用発明の「白色光源350から出力される400nmから1100nmまでの波長範囲を包含する光」は、「サンプル353」に照射されることから、「サンプル353」を刺激するものであり、光が波長により異なる特性を有していることは技術常識であるから、「サンプル353」に対して複数種類の刺激を与えるものといえる。また、少なくとも、「光」という一種類の刺激を与えるものである。

b 引用発明の「サンプル353」は、照射された光に応じて光を「透過」させるものであるから、照射された光に反応して光を出射するものといえる。

c 引用発明の「サンプル353」は、上記摘記事項(2)ア(イ)に記載される一定時間間隔で行われる血糖値測定を受ける被験者の指を包含するものである。そして、一定時間間隔で行われる血糖値測定において、検出対象波長における透過光強度が経時的に変化することは技術常識である。

d 以上のことから、引用発明の「白色光源350から出力される400nmから1100nmまでの波長範囲を包含する光」が「照射され」て、光を「透過」させる「サンプル353」は、本願補正発明の「一種類又は複数種類の刺激に反応して、波長に関する情報が経時的に変化する光を出射する刺激波長コンバータ」に相当する。

(イ)引用発明の「拡大レンズ356」、「任意波長選択フィルタ305」、「2次元イメージセンサ307」及び「マルチチャネルモニタ300」は、その機能において、それぞれ本願補正発明の「拡散部材」、「透過構造」、「光子検知部材」及び「装置」に相当する。

(ウ)引用発明の「拡大レンズ356」は「サンプル353を透過した光」を「拡大」させ、「拡大されたビーム」が「第3のコリメータレンズ357」及び「バンド反射ミラー301」を介して「任意波長選択フィルタ305」に照射されることから、引用発明の「拡大レンズ356」が、「任意波長選択フィルタ305」に照射される光を多方向沿いに広がるようにするためのものであることは明らかである。
よって、引用発明の「サンプル353を透過した光」を「拡大」させる「拡大レンズ356」は、本願補正発明の「透過構造の入射面上で一方向又は多方向沿いに拡がるよう刺激波長コンバータからの光を拡散させる拡散部材」に相当する。

(エ)
a 引用発明の「任意波長選択フィルタ305」を構成する「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320」は、「透明な基板221」上に「第1の誘電体薄膜222」と「第2の誘電体薄膜223」とを順に形成したものであるから、最上層の「第2の誘電体薄膜223」が入射面を、最下層の「透明な基板221」が出射面を、それぞれ形成しているといえる。

b 引用発明の「任意波長選択フィルタ305」は、「波長範囲が互いに異なる第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320」の「対向する側面同士」を「接着剤で固着」させたものであるから、「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320」に対応した10個の入射面を有している。

c 「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320」は透過させる光の「波長範囲が互いに異な」り、波長範囲の違いは「Nb_(2)O_(5)を使用した透明な第1の誘電体薄膜222と、この第1の誘電体薄膜222の上に形成され」る「SiO_(2)を使用した透明な第2の誘電体薄膜223」との合計の膜厚の違いによってもたらされるものであるから、「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320」の入射面の高さが異なっていることは明らかである。

d 「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320」は「透過波長が長くなってい」く順番である「第1の任意波長選択フィルタ部材311から第10の任意波長選択フィルタ部材320の順に並べられて対向する側面同士が接着剤で固着され」ていることから、引用発明の「任意波長選択フィルタ305」の入射面は、第1の任意波長選択フィルタ部材311から第10の任意波長選択フィルタ部材320にかけて段差状の勾配を有し、「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320」が並べられた方向に「透過波長」が変化するものである。

e そして、引用発明の「透過波長」は、本願補正発明の「光子エネルギ透過特性」に相当する。

f 以上のことから、引用発明の「サンプル353を透過した光が」「拡大レンズ356によって拡大され」て「照射され」る「任意波長選択フィルタ305」であって、それぞれ「透明な基板221と、この基板221上に形成され」、「Nb_(2)O_(5)を使用した透明な第1の誘電体薄膜222と、この第1の誘電体薄膜222の上に形成され」た「SiO_(2)を使用した透明な第2の誘電体薄膜223とから構成され」る「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320」を、「透過波長が長くなってい」く「第1の任意波長選択フィルタ部材311から第10の任意波長選択フィルタ部材320の順に並べ」て「対向する側面同士」を「接着剤で固着」した「任意波長選択フィルタ305」は、本願補正発明の「拡散部材を介しその入射面にて刺激波長コンバータから受光するとともに、その出射面から光を出射する透過構造であって、その入射面は、複数の面と、隣接する面同士を繋ぐ段差状の勾配とが設けられるように形成され、その光子エネルギ透過特性が複数の面間で入射面沿いに横変している透過構造」に相当する。

(オ)
a 引用発明の「2次元イメージセンサ307は、X軸方向及びY軸方向に隙間なく配置された多数の升目状のピクセル359から構成されていて、第1の任意波長選択フィルタ部材311は、その長手方向がX軸方向と一致して配置され、Y軸方向の3個ずつのピクセルと対応しており、2次元イメージセンサ307における第1の任意波長選択フィルタ部材311に対応した領域では、それぞれのピクセル359はX軸方向の位置に対応して400nmから450nmまでの波長の光を選択的に受光し、第2?第10の任意波長選択フィルタ部材312?320も第1の任意波長選択フィルタ部材311と同様にX軸方向を長手方向として配置され、Y軸方向の3個ずつのピクセルと対応していて、これらのピクセルもそれぞれの波長範囲でX軸方向の位置に対応した波長の光を選択的に受光」するものであるから、「2次元イメージセンサ307」の「多数の升目状のピクセル359」には、第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320それぞれの同じX軸方向位置を透過した光、すなわち同じ波長を有する光を受光するY軸方向の位置が異なる3個のピクセルが存在している。

b よって、引用発明の「2次元イメージセンサ307」には、第6の任意波長選択フィルタ部材316の透過波長が680nmであるX軸方向位置に、波長680nmの透過光を受光するY軸方向位置の異なる3個のピクセルが存在し、第7の任意波長選択フィルタ部材317の透過波長が830nmであるX軸方向位置に、Y軸方向位置の異なる波長830nmの透過光を受光する3個のピクセルが存在している。

c してみると、引用発明における「第6の任意波長選択フィルタ部材316」の透過波長680nmであるX軸方向位置を透過した光を受光する「3個のピクセル」の位置及び「第7の任意波長選択フィルタ部材317」の透過波長830nmであるX軸方向位置を透過した光を受光する「3個のピクセル」の位置は、それぞれ本願補正発明の「透過構造の第1の面から出射された第1の波長を有する光を受光する第1の複数の検知位置」及び「透過構造の第2の面から出射された第2の波長を有する光を受光する第2の複数の検知位置」に相当する。

d また、「任意波長選択フィルタ305によって波長ごとに分解された光が2次元イメージセンサ307に入射して、それぞれの波長の光の強度に応じたデータ308が駆動・分析部309に入力され」ることから、「2次元イメージセンサ307」の各「ピクセル359」は、受光した「それぞれの波長の光の強度に応じた」電気信号を出力するものといえる。

e 以上のことから、引用発明の「第6の任意波長選択フィルタ部材316」の透過波長680nmであるX軸方向位置を透過した光を受光するY軸方向位置の異なる「3個のピクセル」及び「第7の任意波長選択フィルタ部材317」の透過波長830nmであるX軸方向位置を透過した光を受光するY軸方向位置の異なる「3個のピクセル」であって、「それぞれの波長の光の強度に応じたデータ308」を「駆動・分析部309に入力」する「2次元イメージセンサ307」の6個の「ピクセル」は、本願補正発明の「透過構造の第1の面から出射された第1の波長を有する光を受光する第1の複数の検知位置と、透過構造の第2の面から出射された第2の波長を有する光を受光する第2の複数の検知位置とが設けられるとともに、第1の複数の検知位置及び第2の複数の検知位置のそれぞれにて検知した光子量を示す電気信号を出力する、光子検知部材」に相当する。

(カ)
a 引用発明の「駆動・分析部309」は、「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320のそれぞれに対応する3ライン分のピクセル群の信号のうち、第2ラインのピクセル群の信号を分析結果として採用する」ものであるから、引用発明の「駆動・分析部309」が、「第6の任意波長選択フィルタ部材316」の透過波長680nmであるX軸方向位置を透過した光及び「第7の任意波長選択フィルタ部材317」の透過波長830nmであるX軸方向位置を透過した光のそれぞれに対しても、第2ラインに相当するピクセルの信号を分析結果として採用することは明らかである。

b 引用発明の「駆動・分析部309」が、「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320のそれぞれに対応する3ライン分のピクセル群の信号のうち、第2ラインのピクセル群の信号を分析結果として採用する」ことは、同じ波長の透過光を受光するY軸方向の位置が異なる3個のピクセルから出力される電気信号のうち、Y軸方向の2番目のピクセルから出力される電気信号を選択することにより、その透過光の波長に関する信号として取得することにほかならず、同じ波長の透過光を受光するY軸方向の位置が異なるY軸方向の2番目のピクセル及び3番目のピクセルから出力される電気信号のうち、Y軸方向の2番目のピクセルから出力される電気信号を選択することにより、その透過光の波長に関する信号として取得することといえる。

c 上記(オ)cを踏まえると、引用発明の「第6の任意波長選択フィルタ部材316」の透過波長680nmであるX軸方向位置を透過した光を受光するY軸方向位置の異なる「3個のピクセル」のうち、Y軸方向の2番目のピクセル及び3番目のピクセルは、それぞれ本願補正発明の「第1の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材」及び「第1の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材」に相当する。
同様に、引用発明の「第7の任意波長選択フィルタ部材317」の透過波長830nmであるX軸方向位置を透過した光を受光するY軸方向位置の異なる「3個のピクセル」のうち、Y軸方向の2番目のピクセル及び3番目のピクセルは、それぞれ本願補正発明の「第2の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材」及び「第2の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材」に相当する。

d 引用発明の「駆動・分析部309」が「第2ラインのピクセル群の信号を分析結果として採用する」ことは、波長に関する情報を決定することであるから、引用発明の「駆動・分析部309」は、「光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路」である。

e してみると、引用発明の「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320のそれぞれに対応する3ライン分のピクセル群の信号のうち、第2ラインのピクセル群の信号を分析結果として採用するように構成されている」「駆動・分析部309」と、本願補正発明の「光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路であって、光子検知部材を備え、第1の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第1の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号を演算処理して第1の波長に関する信号を取得するとともに、第2の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第2の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号を演算処理して第2の波長に関する信号を取得し、それぞれ取得した第1の波長に関する信号及び第2の波長に関する信号に基づいた、光子量の差を表す差分信号を出力する回路」とは、「光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路であって、第1の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第1の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号より第1の波長に関する信号を取得するとともに、第2の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第2の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号より第2の波長に関する信号を取得する回路」である点において共通する。


(キ)上記(ウ)及び(エ)を踏まえると、引用発明において、「サンプル353を透過した光」が「拡大レンズ356」によって「任意波長選択フィルタ305」の入射面上で拡大される方向が、「任意波長選択フィルタ305」における「第1?第10の任意波長選択フィルタ部材311?320」が並べられる方向、すなわち、透過させる光の波長が横変する方向、と直交していない方向を含むことは明らかである。

イ 一致点

よって、本願補正発明と引用発明とは、

「 一種類又は複数種類の刺激に反応して、波長に関する情報が経時的に変化する光を出射する刺激波長コンバータと、
透過構造の入射面上で一方向又は多方向沿いに拡がるよう刺激波長コンバータからの光を拡散させる拡散部材と、
拡散部材を介しその入射面にて刺激波長コンバータから受光するとともに、その出射面から光を出射する透過構造であって、その入射面は、複数の面と、隣接する面同士を繋ぐ段差状の勾配とが設けられるように形成され、その光子エネルギ透過特性が複数の面間で入射面沿いに横変している透過構造と、
透過構造の第1の面から出射された第1の波長を有する光を受光する第1の複数の検知位置と、透過構造の第2の面から出射された第2の波長を有する光を受光する第2の複数の検知位置とが設けられるとともに、第1の複数の検知位置及び第2の複数の検知位置のそれぞれにて検知した光子量を示す電気信号を出力する、光子検知部材と、
光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路であって、第1の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第1の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号より第1の波長に関する信号を取得するとともに、第2の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第2の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号より第2の波長に関する信号を取得する回路と、
を備え、
透過構造の入射面上で光が拡がる方向が、透過構造の光子エネルギ透過特性の横変方向と直交していない方向を含むこととなるよう構成された装置。」

の発明である点で一致し、次の3点で相違する。

ウ 相違点

(ア)相違点1
第1の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第1の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号より第1の波長に関する信号を取得するとともに、第2の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第2の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号より第2の波長に関する信号を取得するに際して、本願補正発明は、検知位置の一つに対応する光子検知部材と検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから「出力されたそれぞれの電気信号を演算処理」するのに対し、引用発明は、検知位置の一つに対応する光子検知部材といえるY軸方向の2番目のピクセルと、検知位置の他の一つに対応する光子検知部材といえるY軸方向の3番目のピクセルとから出力されたそれぞれの電気信号のうち、検知位置の一つに対応する光子検知部材といえるY軸方向の2番目のピクセルから「出力された電気信号を選択」する点。

(イ)相違点2
光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路が、本願補正発明は、「第1の波長に関する信号及び第2の波長に関する信号に基づいた、光子量の差を表す差分信号を出力する」のに対し、引用発明は、その点が特定されていない点。

(ウ)相違点3
「光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路」と「光子検知部材」との相互関係に関して、本願補正発明は、「光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路」が「光子検知部材を備え」るのに対し、引用発明は、「光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路」(駆動・分析部309)が「光子検知部材」(2次元イメージセンサ307の6個のピクセル)を備えているか不明である点。

(4)当審の判断

ア 上記各相違点について検討する。

(ア)相違点1について

測定技術一般において、複数のデータを演算処理することによって測定結果の確からしさを向上させることは常とう手段である。

引用例2には、上記(2)エのとおり、「撮像素子の複数個の画素のうち、同一の波長帯域を透過させる帯域フィルタが設けられた2つの画素の信号電荷を加算して出力する技術。」である引用例2技術が記載されている。

相違点1に係る本願補正発明の構成と引用例2技術とを対比すると、引用例2技術の「同一の波長帯域を透過させる帯域フィルタが設けられた2つの画素」は、本願補正発明の「検知位置の一つに対応する光子検知部材と検知位置の他の一つに対応する光子検知部材」に相当し、引用例2技術の「2つの画素の信号電荷を加算」することは、本願補正発明の「出力されたそれぞれの電気信号を演算処理」することに相当する。

よって、相違点1に係る本願補正発明の構成と引用例2技術とは一致する。

そして、引用発明と引用例2技術とは、いずれも波長ごとの光強度を検出するという共通する技術に関するものである。

してみると、引用発明おいて、測定結果の確からしさを向上させるべく引用例2技術を採用し、第1及び第2の波長に関する信号を取得するに際して、検知位置の一つに対応する光子検知部材といえるY軸方向の2番目のピクセルから「出力された電気信号を選択」することに代えて、同一の波長帯域を透過させる帯域フィルタが設けられた2つの画素に相当する、検知位置の一つに対応する光子検知部材といえるY軸方向の2番目のピクセルと、検知位置の他の一つに対応する光子検知部材といえるY軸方向の3番目のピクセルとから「出力されたそれぞれの電気信号を加算」するようにし、すなわち、検知位置の一つに対応する光子検知部材と検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから「出力されたそれぞれの電気信号を演算処理」するものとして、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ)相違点2について

引用例1には、血糖値測定の従来技術に関して、「被験者の指101には第1および第2の半導体レーザ(LD)102、103からそれぞれ第1の波長λ_(1)(680nm)と第2の波長λ_(2)(830nm)の2種類の波長の光104、105が照射される。・・・実際の血液の吸光度を第1の波長λ_(1)と第2の波長λ_(2)の光を使用して測定して、これらの波長λ_(1)、λ_(2)の吸光度の差d_(1)、d_(2)を取ることで、測定血液の還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンの割合を判別するようにしている。」(上記摘記事項(2)ア(イ))との記載がある。
ここで、引用例1の図38には、λ_(1)のにおける還元ヘモグロビンの吸光度と酸化ヘモグロビンの吸光度との差がd_(1)であり、λ_(2)における酸化ヘモグロビンの吸光度と還元ヘモグロビンの吸光度との差がd_(2)であることが記載されているが、実際の血液の吸光度の測定からそのようなd_(1)及びd_(2)が得られないことは技術常識から明らかである。
よって、引用例1に接した当業者であれば、上記摘記事項(2)ア(イ)の「実際の血液の吸光度を第1の波長λ_(1)と第2の波長λ_(2)の光を使用して測定して、これらの波長λ_(1)、λ_(2)の吸光度の差d_(1)、d_(2)を取ること」は、「実際の血液の吸光度を第1の波長λ_(1)と第2の波長λ_(2)の光を使用して測定して、これらの波長λ_(1)、λ_(2)の吸光度の差を取ること」、又は、「実際の血液の吸光度を第1の波長λ_(1)と第2の波長λ_(2)の光を使用して測定して、これらの波長λ_(1)、λ_(2)の吸光度d_(1)、d_(2)の差を取ること」の誤記であると理解するのが自然である。

また、引用発明を引用例1に記載された血糖値測定に用いることは、極めて自然な発想である。

してみると、引用発明において、血糖値測定に役立つように、波長680nmにおける吸光度と波長830nmにおける吸光度との差を取るべく、波長680nmの透過光を受光するピクセルからの信号と波長830nmの透過光を受光するピクセルからの信号との差を求めて出力するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、この場合の「波長680nmの透過光を受光するピクセルからの信号」及び「波長830nmの透過光を受光するピクセルからの信号」、並びに、これらのピクセルからの信号の「差」は、それぞれ上記相違点2に係る本願補正発明の構成である「第1の波長に関する信号」及び「第2の波長に関する信号」、並びに、「第1の波長に関する信号及び第2の波長に関する信号に基づいた、光子量の差を表す差分信号」に相当する。

よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)相違点3について

引用発明において、「駆動・分析部309」と「2次元イメージセンサ307」との相互関係をどのように構成するかは、「マルチチャネルモニタ300」の全体構成等を考慮して決定し得る設計事項にすぎず、「駆動・分析部309」と「2次元イメージセンサ307」との間で電気信号が伝達されるものであるから、「駆動・分析部309」が「2次元イメージセンサ307」のピクセルを備えるように構成することに、格別の技術的困難性も特段の阻害要因もない。

してみると、引用発明おいて、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果

本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び引用例2技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ

以上のとおりであり、本願補正発明は、引用発明及び引用例2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)補正の却下の決定のむすび

したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成25年12月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年4月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記第2[理由]1の記載参照。)

2 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項及び引用発明については、上記第2[理由]2の(2)引用例に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本願補正発明から、「透過構造」が「その入射面は、複数の面と、隣接する面同士を繋ぐ段差状の勾配とが設けられるように形成され」るとの限定事項及び光子エネルギ透過特性の入射面沿いの横変が「複数の面間で」生じているとの限定事項を削除し、「光子検知部材」の「複数の検知位置」が「透過構造の第1の面から出射された第1の波長を有する光を受光する第1の複数の検知位置と、透過構造の第2の面から出射された第2の波長を有する光を受光する第2の複数の検知位置」であることに係る限定事項を削除し、「異なる光子検知部材から出力された電気信号に基づいた、光子量の差を表す差分信号」が、「第1の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第1の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号を演算処理して第1の波長に関する信号を取得するとともに、第2の複数の検知位置の一つに対応する光子検知部材と第2の複数の検知位置の他の一つに対応する光子検知部材とから出力されたそれぞれの電気信号を演算処理して第2の波長に関する信号を取得し、それぞれ取得した第1の波長に関する信号及び第2の波長に関する信号に基づいた」ものであることに係る限定事項を削除したものに相当する。

よって、本願発明と引用発明とを対比すると、上記第2[理由]2(3)の「ア 対比」において記載したのと同様の対比の手法及び結果により、本願発明と引用発明とは、
「 一種類又は複数種類の刺激に反応して、波長に関する情報が経時的に変化する光を出射する刺激波長コンバータと、
透過構造の入射面上で一方向又は多方向沿いに拡がるよう刺激波長コンバータからの光を拡散させる拡散部材と、
拡散部材を介しその入射面にて刺激波長コンバータから受光するとともに、その出射面から光を出射する透過構造であって、その光子エネルギ透過特性が入射面沿いに横変している透過構造と、
透過構造から出射された光を受光する複数の検知位置が設けられるとともに、検知位置にて検知した光子量を示す電気信号を出力する、光子検知部材と、
光の波長帯域における波長偏倚を検知するための回路と、
を備え、
透過構造の入射面上で光が拡がる方向が、透過構造の光子エネルギ透過特性の横変方向と直交していない方向を含むこととなるよう構成された装置。」
の発明である点において一致し、実質的に上記第2[理由]2(3)の「ウ 相違点」における「(イ)相違点2」及び「(ウ)相違点3」に相当する2つの相違点(すなわち、上記各相違点において「本願補正発明」を「本願発明」と置き換え、上記相違点2において波長に関する特定を排除したもの)においてのみ相違する。

そして、上記相違点2及び3については、上記第2[理由]2(4)アの「(イ)相違点2について」及び「(ウ)相違点3について」で検討したとおりであり、また、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものであることから、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-19 
結審通知日 2015-03-24 
審決日 2015-04-07 
出願番号 特願2006-338747(P2006-338747)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田嶋 亮介波多江 進  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 渡戸 正義
信田 昌男
発明の名称 検知対象光伝搬  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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