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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
管理番号 1304904
審判番号 不服2012-24843  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-14 
確定日 2015-09-04 
事件の表示 特願2008-557767「有害節足動物、腹足類及び線虫類を駆除するための殺虫剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月20日国際公開、WO2007/104720、平成21年 8月20日国内公表、特表2009-529515〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2007年3月9日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年3月10日(US)米国〕を国際出願日とする出願であって、
平成20年10月2日付けで特許法第184条の8第1項の規定による補正書の翻訳文の提出がなされ、
平成23年10月14日付けの拒絶理由通知に対して、平成24年4月18日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成24年8月10日付けの拒絶査定に対して、平成24年12月14日付けで審判請求がなされ、
平成26年1月23日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年7月28日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成26年9月12日付けの拒絶理由通知に対して、平成27年3月16日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。

第2 平成27年3月16日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成27年3月16日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成27年3月16日付け手続補正(以下「第4補正」という。)は、
補正前の請求項1における「i)0.001?10重量%の少なくとも1種の有機殺虫剤化合物、ii)80?99.999重量%の少なくとも1種の顆粒状超吸収性ポリマー、及びiii)水を含有する吸水性顆粒状物質の形態の殺虫剤組成物であって、重量%は水を除く組成物の全重量を基準とし、前記成分i)及びii)は水を除く組成物の少なくとも90重量%を占め、前記吸水性顆粒状物質は超吸収性ポリマー顆粒を少なくとも1種の有機殺虫剤化合物を含有する液体水性組成物で流動層スプレーコーティングすることを含む方法により得ることができ、超吸収性ポリマーが、エチレン性不飽和モノマーMの架橋コポリマーであって、モノマーMが、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAまたはその塩と少なくとも1種のモノエチレン性不飽和酸のアミドAMとの混合物を、モノマーMの全重量に基づいて少なくとも90重量%含む前記架橋コポリマー、及びエチレン性不飽和モノマーMの架橋コポリマーであって、モノマーMが、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAと少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAのアルカリ金属塩との混合物を、モノマーMの全重量に基づいて少なくとも90重量%含む前記架橋コポリマーから選択される、前記殺虫剤組成物。」との記載を、
補正後の請求項1における「i)0.005?8重量%の少なくとも1種の有機殺虫剤化合物、ii)90?99.995重量%の少なくとも1種の顆粒状超吸収性ポリマー、及びiii)水を含有する吸水性顆粒状物質の形態の殺虫剤組成物であって、重量%は水を除く組成物の全重量を基準とし、前記成分i)及びii)は水を除く組成物の少なくとも90重量%を占め、水の量は、超吸収性ポリマーの重量に基づいて0.1?15重量%であり、前記吸水性顆粒状物質は、超吸収性ポリマー顆粒を少なくとも1種の有機殺虫剤化合物を含有する液体水性組成物で流動層スプレーコーティングすることである方法により得られ、流動層スプレーコーティングにおいて、超吸収性ポリマー顆粒の流動状態が、超吸収性ポリマー顆粒にキャリヤーガスを導入することによって達成され、超吸収性ポリマーが、エチレン性不飽和モノマーMの架橋コポリマーであって、モノマーMが、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAまたはその塩と少なくとも1種のモノエチレン性不飽和酸のアミドAMとの混合物を、モノマーMの全重量に基づいて少なくとも90重量%含む前記架橋コポリマー、及びエチレン性不飽和モノマーMの架橋コポリマーであって、モノマーMが、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAと少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAのアルカリ金属塩との混合物を、モノマーMの全重量に基づいて少なくとも90重量%含む前記架橋コポリマーから選択される、前記殺虫剤組成物。」との記載に改める補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)補正の目的
上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1における「i)0.001?10重量%の少なくとも1種の有機殺虫剤化合物」という発明特定事項を、補正後の請求項1において「i)0.005?8重量%の少なくとも1種の有機殺虫剤化合物」に改めることにより、有機殺虫剤化合物の含有量の数値範囲を補正前の「0.001?10重量%」から補正後の「0.005?8重量%」に限定的に減縮する補正を含むものである。
してみると、上記請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
上記請求項1についての補正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正であることから、補正後の請求項1に記載されている発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

ア.引用刊行物及びその記載事項
(ア)刊行物1:特開平10-291901号公報
平成26年9月12日付けの拒絶理由通知書において「刊行物1」として引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特開平10-291901号公報」には、次の記載がある。

摘記1a:請求項6
「【請求項6】 吸液性ポリマーの粒状体の表面に害虫防除剤を含む溶液を処理・乾燥して少なくとも表面に害虫防除剤を保持した吸液性ポリマー粒状体とし、該吸液性ポリマー粒状体に少なくとも誘引成分を含む液を吸収させることで膨潤させ、粒状体とすることを特徴とするアリ用ベイト剤の製造方法。」

摘記1b:段落0002、0010?0012及び0018
「【0002】…従来から、アリを防除するために殺蟻剤と誘引物質とを含む各種のタイプのアリ用防除製剤が知られている。その中でも粉状剤や顆粒状剤はベイト剤としてアリの活動域や巣の周囲、さらには家屋の周囲に散布したり、容器などに納めた状態で設置しておくだけでアリを誘引し防除することができることから、使用が簡単であり広く用いられている。…
【0010】…殺蟻剤としては、本発明に使用する吸液性ポリマーの表面によく被覆させることができるが、ポリマーの表面を殺蟻剤を含む溶液で処理し、例えば塗布、乾燥して殺蟻剤を保持せしめた後、吸液性ポリマーを水を含むことのある液に浸漬させて吸液性ポリマーを膨潤させた場合に、吸液性ポリマー内部にはほとんど移行しないでその多くが表面に存在するような性状を有するものを選択使用することが好ましい。その理由としては、その作用からいって害虫防除剤が表面にあれば目的は十分達せられるもので、表面にあれば害虫が摂取し易く、使用する薬量が少なくてすむという利点がある。
【0011】本発明に使用する吸液性ポリマーとしては、澱粉-アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、澱粉-アクリル酸ソーダグラフト重合体の架橋物、ポリアクリル酸ソーダの架橋物、イソブチレン-マレイン酸共重合体の架橋物及びその塩、ポリビニルアルコールアクリル酸ソーダグラフト重合体の架橋物、ポリ酢酸ビニル-エチレン系不飽和カルボン酸共重合体の鹸化物の架橋物の塩、長鎖アルキルアクリレート架橋重合体、ポリソルボルネン、アルキルスチレン-ジビニルベンゼン共重合体、メタクレート系架橋重合体などが示され、好ましくはイソブチレン-マレイン酸共重合体の架橋物及びその塩を挙げることができる。…ポリマーの有する吸液能に対して一杯の状態で使用すると、時間の経過に伴い内部にある液が表面に浮いてきたり、製剤自体が崩壊しやすいなどの欠陥があるので、それよりも吸液能一杯に満たない状態のものを使用することが好ましい。
【0012】…前記殺蟻剤を前記吸液性ポリマーに処理するには、その例として殺蟻剤はアルコール類(多価アルコール類を含む)、ケトン類、エステル類、エーテル類(グリコールエーテル類など)などの有機溶媒あるいは水、及びこれらの混合溶媒に溶解した液として塗布し、80℃以下で乾燥する。塗布方法としては、噴霧による吹きつけ法、浸漬法などが挙げられる。…
【0018】…本発明の粒状体のアリ用ベイト剤は、侵入口を設けた容器に入れた形態でも、また容器に入れない場合でも環境の変化による影響を受けにくく、アリの通路や巣の近傍に置くような態様でも使用できる。容器に入れない場合でもまた環境変化を受けにくいことから、長期にわたって優れた誘引性と喫食性を維持できるものである。」

摘記1c:段落0020
「【0020】実施例1
A.球状ゼリー状アリ用ベイト剤の製造
球状ゼリー状アリ用ベイト剤の製造方法を図1を用いて説明する。先ず、殺蟻剤であるフィプロニル(2g)をエタノール(98g)に溶解させてフィプロニル2%含有するエタノール溶液とする。吸水性ポリマーとしてイソブチレン-無水マレイン酸共重合体の架橋物であるKIゲル-201K-G2(クラレ社製、以下「KIゲル」という)の32メッシュパス(平均粒径が500μm)の粒状体を使用し、前記フィプロニル2%含有するエタノール溶液10gを前記KIゲル100gと混ぜ合わせることによりその表面に保持させ、約50?80℃で乾燥する。別に下記第1表に示す組成の誘引剤を含む浸漬用薬液を準備し、この浸漬用薬液40部中に前記殺蟻剤で処理した吸水性ポリマー1部を添加し30分間吸収させ、球状ゼリー状アリ用ベイト剤を得る。」

摘記1d:段落0026
「【0026】実施例2
E.球状ゼリー状アリ用ベイト剤の製造
殺蟻剤であるフィプロニル(0.003g)をエタノール(1g)とポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO-60)(5g)と混合した後、加熱してエタノールを除去したものを水500gと混合してフィプロニルの水分散液を得る。一方、ブドウ糖(300g)、ソルビン酸カリウム(1g)、安息香酸デナトリウム(0.02g)、色素(微量)、水(174g)を混合して誘引成分溶液を調製し、これを前記のフィプロニルの水分散液と混合する。吸水性ポリマーとしてイソブチレン-無水マレイン酸共重合体の架橋物であるKIゲルの32メッシュパス(平均粒径が500μm)を使用し、前記の混合液(100g)を前記KIゲル2.5gと混ぜ合わせ、30分間吸液させ、球状ゼリー状アリ用ベイト剤を得た。」

摘記1e:図1




(イ)刊行物2:特開平1-199902号公報
平成26年9月12日付けの拒絶理由通知書において「刊行物2」として引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特開平1-199902号公報」には、次の記載がある。

摘記2a:請求項1、15?16、及び21
「(1)親水性ポリマー顆粒に1種以上の活性成分を含有する水性エマルションを添加し、次いで所望の顆粒を得るために乾燥させることによって製造されることを特徴とする顆粒。…
(15)害虫駆除剤がピレスリノイドであることを特徴とする特許請求の範囲第14項記載の顆粒。
(16)ピレスリノイドがδ-メスリンであることを特徴とする特許請求の範囲第15項記載の顆粒。…
(21)特許請求の範囲第2?19項のいずれかに記載の顆粒を土壌の上に散布することを特徴とする、植物衛生処理方法。」

摘記2b:第2頁右下欄第3?16行
『本発明の顆粒のための媒体として用いられるポリマーは公知の製品である。…これら顆粒のあるものは、例えば商品名「アクアソルブ(AQUASORB)」(登録商標名、アクリル酸とアクリルアミドとの50/50コポリマー)の下で市販されている。これは、粒径2?3mmのアクアソルブPR3005タイプA若しくはPR005タイプA又は粒径1mmのアクアソルブPR3005タイプB若しくはPR005タイプBでよい。』

摘記2c:第2頁右下欄第17行?第3頁左上欄第1行
「乾燥は、好ましくはタルクを用いて実施される。このタルクは、例えば、乾燥剤及び滑剤の両方として作用するルゼナク(LUZENAC)タルク又は顆粒の流動性を促進する他の任意の物質であってよい。」

摘記2d:第3頁右下欄第9?19行
「本発明の顆粒は、例えば用いられる活性成分に対して感性の寄生虫を駆除するのに有用である。それらは、作用の持続性及び活性の規則性を改善する。それらは特に昆虫、ダニ及び線虫の有効な駆除を可能にする。
植物衛生分野において用いられる場合、本発明の顆粒は農業用機械によって土壌の上に散布し、次いで土の中に混合させることができる。
また、顆粒は天然(雨)又は人工の種々の灌漑系の下に配置させる。ここで、それらは水を貯蔵する。」

摘記2e:第4頁左上欄第16行?右下欄第18行
「例1:顆粒の製造
下記のようにして顆粒を製造した。
次の成分:
・δ-メスリン: 30g
・フタル酸ジメチル: 270g
・アグリムルDMF 539
(アルキルエーテルホスフェート): 50g
・エチルヒドロキシエチルセルロース
(EHEC): 5g
を含有する溶液と次の成分:
・モウィオール(MOWIOL)30/88
(登録商標名): 65g
・1.2-プロパンジオール: 160g
・くえん酸: 1g
・軟化水: 419g
を含有する溶液とを混合し、次いで得られた溶液に水200gを添加し、次いで得られた懸濁液を溶液の均質な吸収が得られるようにアクアソルブ顆粒300g上に噴霧した。
こうして得られた顆粒に次いでタルク120gを添加し、混合した後に所望の顆粒が得られた。…
生物学的試験
a)例1の顆粒は、昆虫スコチア・セジェッム(SCOTIA SEGETUM)に対するδ-メスリンの作用の持続性を極めて明確に改善するということがわかった。」

(ウ)刊行物4:特開2001-181106号公報
平成26年9月12日付けの拒絶理由通知書において「刊行物4」として引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特開2001-181106号公報」には、次の記載がある。

摘記4a:請求項2
「【請求項2】 基材として吸水性ポリマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の害虫防除用ベイト剤。」

摘記4b:段落0010及び0024
「【0010】アリ等の野外に生息する害虫を対象とするときは、基材としては例えば吸水性ポリマーを用いるとよい。…使用する吸水性ポリマーとしては、自重の10倍以上、好ましくは100倍以上の吸水率のものがよい。そのような高い吸水率を持つものとしては、例えば、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸塩系ポリマー…等が挙げられる。中でも、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体は、担体として使用した場合、太陽光等が原因の変質を防ぐのに有効であり、野外での使用に特に適している。…
【0024】…本発明の害虫防除用ベイト剤は、長期間設置されても変質が少なく、薬効を長時間保つことができる。そのため、各種害虫の防除に使用できる。特にアリ等の野外に生息する害虫に対して使用するのに適している。」

(エ)刊行物5:特公昭63-26721号公報
平成26年9月12日付けの拒絶理由通知書において「刊行物5」として引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特公昭63-26721号公報」には、次の記載がある。

摘記5a:請求項1
「吸水倍率が10倍以上である高吸水性ポリマーを配合してなることを特徴とする害虫防除用ベイト剤組成物。」

摘記5b:第1頁左欄第6?17行
「本発明は吸水倍率が10倍以上である高吸水性ポリマーを配合してなることを特徴とする害虫防除用ベイト剤組成物に係る。
さらに詳しくは、本発明は従来の害虫防除用ベイト剤に吸水倍率が10倍以上である高吸水性ポリマーを配合することにより、野外において降雨、撒水、夜つゆ、土壌水分などを吸水保持し、晴天などの乾燥条件下において水分を蒸散しつつ、長時間にわたり周辺よりも高水準の水分を保持することによつて、すぐれた誘引性と喫食性を発揮させることを目的とする害虫防除用ベイト剤組成物である。」

摘記5c:第5頁右欄第13?24行
「実施例2 ベイト剤の調製方法
1-ナフチル N-メチルカーバメート5部、小麦粉25部、米ぬか25部、糖蜜6部およびカルボキシメチルセルロース0.5部に高吸水性ポリマースミカゲル(まるR)S-50またはポリアクリル酸ソーダ架橋体(メチレンビスアクリルアミド0.1%を添加して架橋したもので、吸水倍率500倍)を0.3部、1部、3部の各段階に配合し、さらに残部にクレーを加えて100部としたのち水を加えて攪拌練合したものを押出し造粒後乾燥して各々の粒剤状ベイト剤を得る。」

(オ)参考例A:特開昭63-117068号公報
高吸水性ポリマーに含まれる水分量の通常の数値範囲を示すための参考資料として提示する本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特開昭63-117068号公報」には、次の記載がある。

摘記A1:第2頁左上欄第3?10行及び左下欄第6?7行
「高吸水性樹脂とは、公知のもので、例えば、クラレイソプレンケミカル社製のKIゲル(商品名)…などが挙げられる。…
KIゲル 201K(含水量:3%,粒径8μ)10.0重量部」

摘記A2:第1頁左下欄第18?20行並びに第3頁右上欄第17行?左下欄第3行及び同欄第12?15行
『高吸水性樹脂に含まれている水分が原因で「発泡」「表面肌」及び「シルバーストリーク」などが発生していたのである。…
高吸水性樹脂の自重の50?1000g/gの水を吸収するため、該高吸水性樹脂に含まれているわずかな水分は、単なる熱風乾燥によっては乾燥しにくいが、本発明に用いられる金属酸化物を混合することにより、水分は該金属酸化物に吸着されることが判る。…
金属酸化物を混合することによって、高吸水性樹脂に含まれている水分が吸収され「発泡」が解消されたのである。』

(カ)参考例B:特開平5-194762号公報
高吸水性ポリマーに含まれる水分量の通常の数値範囲を示すための参考資料として提示する本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特開平5-194762号公報」には、次の記載がある。

摘記B1:段落0006及び0011
「【0006】…超吸収剤製造業者から購入した時(含水量約2?7重量%又はそれ以下)、本発明の熱処理にかける前に、超吸収材料を好ましく一回乾燥させる。…
【0011】試験した特定の超吸収剤は以下のものである:…DRYTECH 534(架橋ポリ(アクリル酸)の部分ナトリウム塩、Dow Chemical Company、ミッドランド、ミシガン州);…KIゲル(イソブチレン/無水マレイン酸コポリマー、Kuraray Co.,Ltd.,東京、日本」

(キ)参考例C:特開平4-308543号公報
エタノール溶媒に含まれる水分量の通常の数値範囲を示すための参考資料として提示する本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特開平4-308543号公報」には、次の記載がある。

摘記C1:段落0002?0003
「【0002】…エタノールの製造法としては、発酵法および合成法が知られているが、得られるエタノールには高濃度の水分等の不純物が含まれているため濃縮工程が必要である。
【0003】濃縮工程には従来から蒸留法が汎用されているが、エタノールに水が4重量%含まれたものは共沸混合物となるため、エタノールを96重量%以上に濃縮することは通常の蒸溜では不可能である。」

(ク)参考例D:特開平11-310509号公報
エタノール溶媒に含まれる水分量の通常の数値範囲を示すための参考資料として提示する本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特開平11-310509号公報」には、次の記載がある。

摘記D1:段落0012
「【0012】本発明で用いるエタノールは化学合成品、発酵生産品等いずれでも良い。また、多少の水分を含んでいても良いが、純度が95%以上、特に98%以上のものを用いるのが好ましい。」

(ケ)参考例E:特開2000-63205号公報
農薬の顆粒を得るための一般的な噴霧装置を示すための参考資料として提示する本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特開2000-63205号公報」には、次の記載がある。

摘記E1:段落0006、0016及び0029?0030
「【0006】…本発明において使用できる農薬成分としては、主として殺虫…の作用を有するものを挙げることができる。…
【0016】本発明農薬粒子の粒径は…好ましくは0.7?5.0mmである。…
【0029】本発明の被覆農薬粒剤の製造方法は、本発明の農薬粒子を流動状態とし、該農薬粒子の表面に樹脂を含有する被膜材を噴霧することにより被膜を形成させる製造方法である。…流動状態の中でも、噴流状態であれば噴霧された被覆液が安定的に粒子表面へ到達し、完全被覆を達成し易いので好ましい。
【0030】…この噴流層は、転動または流動状態にある農薬粒子3に対し、被膜材の溶解液(被覆液)は配管5経由で輸送され、スプレーノズル2により噴霧され、農薬粒子3の表面に吹き付けられて、該表面を被覆すると同時並行的に、高温気体を噴流塔1の下部からガイド管6へ向けて流入させ、該高速熱風流によって、該粒体表面に付着している混合溶解液中の溶媒を瞬時に蒸発乾燥させるものである。」

摘記E2:第11頁の図1




(コ)参考例F:特開2003-1090号公報
農薬の顆粒を得るための一般的な噴霧装置を示すための参考資料として提示する本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特開2003-1090号公報」には、次の記載がある。

摘記F1:段落0001?0003及び0005
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、医薬品、農薬、食品等の細粒、顆粒等を製造する際に用いられる流動層装置に関する。
【0002】【従来の技術】流動層装置は、一般に、処理容器の底部から導入した流動化空気によって、処理容器内に粉粒体粒子の流動層を形成しつつ、スプレーガンからスプレー液(結合液、膜剤液等)のミストを噴霧して造粒又はコーティング処理を行うものである。…
【0003】図5は、粉粒体粒子の噴流を伴う複合型流動層装置の一構造例(通称「ワースター」)を例示している。…
【0005】この流動層装置によれば、コーティングゾーンに大量の粉粒体粒子を高速で送り込むことができるので、いわゆるスプレードライ現象(スプレー液のミストが粉粒体粒子に付着せずに乾燥して粉塵化する現象)や粒子同士の二次凝集が起こりにくく、微粒子に対して収率の良いコーティング処理が可能である。」

摘記F2:第7頁の図5




(サ)参考例G:特開2001-70779号公報
殺虫剤顆粒を得るための一般的な噴霧装置を示すための参考資料として提示する本願優先日前に頒布された刊行物である上記「特開平11-310509号公報」には、次の記載がある。

摘記G1:段落0006、0075及び0120?0121
「【0006】洗剤、肥料、触媒、殺虫剤および染料を含めて多くの化学品が顆粒状で求められている。…
【0075】さらに本発明の方法による造粒は、1段階の結合工程で実施することができ、造粒に続いて、好ましくは造粒に使用される装置と同一または類似の装置の中で、被覆段階または乾燥段階を実施する。…
【0120】最終乾燥段階なしで2.5%の水分を有する所望の造粒物が得られ、この型の生成物について妥当な極大値3%の水分の要件を満たすものであった。
【0121】実施例8 炭酸ナトリウムを使用して数回のテストを実施した。造粒液として30w/w%の水溶液を使用して満足な自由流動性の非ダスト発生生成物が得られた。」

摘記G2:第10頁の図1




イ.刊行物1に記載された発明
摘記1aの「吸液性ポリマーの粒状体の表面に害虫防除剤を含む溶液を処理・乾燥して少なくとも表面に害虫防除剤を保持した吸液性ポリマー粒状体」との記載、
摘記1bの「本発明に使用する吸液性ポリマーとしては…好ましくはイソブチレン-マレイン酸共重合体の架橋物及びその塩を挙げることができる。…前記殺蟻剤を前記吸液性ポリマーに処理するには、その例として殺蟻剤はアルコール類…などの有機溶媒あるいは水、及びこれらの混合溶媒に溶解した液として塗布し、80℃以下で乾燥する。塗布方法としては、噴霧による吹きつけ法、浸漬法などが挙げられる。」との記載、
摘記1cの「実施例1…殺蟻剤であるフィプロニル(2g)をエタノール(98g)に溶解させてフィプロニル2%含有するエタノール溶液とする。吸水性ポリマーとしてイソブチレン-無水マレイン酸共重合体の架橋物であるKIゲル-201K-G2(クラレ社製、以下「KIゲル」という)の32メッシュパス(平均粒径が500μm)の粒状体を使用し、前記フィプロニル2%含有するエタノール溶液10gを前記KIゲル100gと混ぜ合わせることによりその表面に保持させ、約50?80℃で乾燥する。」との記載、及び
摘記1eの「殺蟻剤を被覆した吸水性ポリマー」についての図面の記載からみて、刊行物1には、
『吸水性ポリマー(イソブチレン-無水マレイン酸共重合体の架橋物)の粒状体(平均粒径500μm)100gの表面に害虫防除剤(フィプロニル)2%を含有するエタノール溶液10gを処理・乾燥して少なくとも表面に害虫防除剤を保持した吸水性ポリマー粒状体。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されている。

ウ.対比
補正発明と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「吸水性ポリマー(イソブチレン-無水マレイン酸共重合体の架橋物)」について、刊行物1の「実施例1」で使用された「イソブチレン-無水マレイン酸共重合体の架橋物であるKIゲル-201K-G2」は、摘記4bの「吸水性ポリマー…高い吸水率を持つもの…イソブチレン-無水マレイン酸共重合体」との記載(及び、例えば、摘記A1の「高吸水性樹脂…KIゲル 201K」との記載)にあるように、高い吸収率を有する「超吸水性ポリマー」として知られているものであって、補正発明の『エチレン性不飽和モノマーMの架橋コポリマーであって、モノマーMが、モノエチレン性不飽和カルボン酸CA(無水マレイン酸)を含む架橋コポリマー』に相当する。
そして、刊1発明の「吸水性ポリマー(イソブチレン-無水マレイン酸共重合体の架橋物)の粒状体(平均粒径500μm)」は、本願明細書の段落0041の「超吸収性ポリマー顆粒の平均粒子サイズは0.1?5mm」との記載にある平均粒子サイズを満たしているから、補正発明の「顆粒状超吸収性ポリマー」及び「超吸収性ポリマー顆粒」に相当し、刊1発明の「表面に害虫防除剤を保持した吸液性ポリマー粒状体」は、殺虫剤(害虫防除剤)を保持した顆粒状物質の形態にある組成物といえるから、補正発明の「吸水性顆粒状物質の形態の殺虫剤組成物」に相当する。

次に、刊1発明の「害虫防除剤(フィプロニル)2%を含有するエタノール溶液10g」について、その「害虫防除剤(フィプロニル)」は、本願明細書の段落0146の「殺虫剤製剤P1:20重量%のフィプロニル…を含有するフィプロニルの水性懸濁製剤」との記載にある殺虫剤成分と合致するものであって、補正発明の「有機殺虫剤化合物」に相当する。
そして、例えば、摘記C1の「エタノールには高濃度の水分等の不純物が含まれている」との記載、及び摘記D1の「エタノールは…多少の水分を含んで…純度が95%以上」との記載にあるように、有機溶媒として汎用される「エタノール」は、非常に水に溶けやすい性質(水性)の液体として普通に知られているところ、刊1発明の「害虫防除剤(フィプロニル)2%を含有するエタノール溶液10g」は、補正発明の「有機殺虫剤化合物を含有する液体水性組成物」に相当する。

さらに、刊1発明の「吸水性ポリマー…の粒状体…100gの表面に害虫防除剤(フィプロニル)2%を含有するエタノール溶液10gを処理・乾燥…した吸水性ポリマー粒状体」の「処理・乾燥」した後における『吸水性ポリマーの粒状体』及び『害虫防除剤』の含有量について計算すると、
その「害虫防除剤(フィプロニル)2%」の重量は0.2gとなり、補正発明の「重量%は水を除く組成物の全重量を基準」として換算すると、溶媒のエタノールが刊1発明の「処理・乾燥」の工程により0重量%となっている場合において0.2÷(100+0.2)=0.20重量%(吸水性ポリマーは残部の99.80重量%)となり、溶媒のエタノールが全く乾燥されない場合において0.2÷(100+10)=0.18重量%(吸水性ポリマーは100÷(100+10)=90.9重量%)となる。
してみると、刊1発明の『吸水性ポリマーの粒状体』及び『害虫防除剤』の含有量は、補正発明の「重量%は水を除く組成物の全重量を基準」とした場合の「ii)90?99.995重量%の少なくとも1種の顆粒状超吸収性ポリマー」及び「i)0.005?8重量%の少なくとも1種の有機殺虫剤化合物」の条件を満たし、なおかつ、補正発明の「前記成分i)及びii)は水を除く組成物の少なくとも90重量%を占め」という条件を満たすことが明らかである。

また、刊1発明の「処理・乾燥して少なくとも表面に害虫防除剤を保持した」について、その「処理」の具体的な内容は、摘記1bの「殺蟻剤としては、本発明に使用する吸液性ポリマーの表面によく被覆させることができる…前記殺蟻剤を前記吸液性ポリマーに処理する…塗布方法としては、噴霧による吹きつけ法、浸漬法などが挙げられる」との記載にあるとおりの被覆又は塗布方法(コーティング処理)において、摘記1cの「実施例1…混ぜ合わせることによりその表面に保持させ」との記載にあるとおりの「噴霧による吹きつけ法」ではない「混ぜ合わせ」によるコーティングが、その「実施例1」において行われている。
してみると、刊1発明の「処理・乾燥して少なくとも表面に害虫防除剤を保持した」と補正発明の「前記吸水性顆粒状物質は、超吸収性ポリマー顆粒を少なくとも1種の有機殺虫剤化合物を含有する液体水性組成物で流動層スプレーコーティングすることである方法により得られ」は、両者とも「吸水性顆粒状物質は、超吸収性ポリマー顆粒を少なくとも1種の有機殺虫剤化合物を含有する液体水性組成物でコーティングすることである方法により得られ」という点において共通する。

なお、刊1発明の「害虫防除剤を保持した吸水性ポリマー粒状体」という殺虫剤組成物は、その後に「誘引成分を含む液を吸収させることで膨潤」させているところ、本願明細書の段落0136の「本発明の組成物を活性化するためには水を存在させなければならない。組成物中の超吸収性ポリマーに基づいて…特に100重量%を超えるときに有効性が増加する。組成物中の超吸収性ポリマーの膨潤性のために、乾燥組成物は水を添加するか、或いは大気または土壌から湿気を吸収することにより活性化され得る。」との記載にあるように、補正発明の殺虫剤組成物も水を存在させなければ活性化しないので、この点について両者に実質的な差異はない。

以上のことから、補正発明と刊1発明は『i)0.005?8重量%の少なくとも1種の有機殺虫剤化合物、及びii)90?99.995重量%の少なくとも1種の顆粒状超吸収性ポリマーを含有する吸水性顆粒状物質の形態の殺虫剤組成物であって、重量%は水を除く組成物の全重量を基準とし、前記成分i)及びii)は水を除く組成物の少なくとも90重量%を占め、前記吸水性顆粒状物質は、超吸収性ポリマー顆粒を少なくとも1種の有機殺虫剤化合物を含有する液体水性組成物でコーティングすることである方法により得られ、超吸収性ポリマーが、エチレン性不飽和モノマーMの架橋コポリマーである、前記殺虫剤組成物。』という点において一致し、
(α)殺虫剤組成物に含まれる水の量が、補正発明においては『超吸収性ポリマーの重量に基づいて0.1?15重量%』の量の「iii)水」として存在するのに対して、刊1発明においては「処理・乾燥」をした後の「iii)水」の有無及び量が明らかにされていない点、
(β)殺虫剤を含有する液体組成物のコーティング方法が、補正発明においては「超吸収性ポリマー顆粒の流動状態が、超吸収性ポリマー顆粒にキャリヤーガスを導入することによって達成」される「流動層スプレーコーティング」であるのに対して、刊1発明においては「混ぜ合わせ」によるコーティングである点、及び
(γ)エチレン性不飽和モノマーMの架橋コポリマーが、補正発明においては「モノマーMが、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAまたはその塩と少なくとも1種のモノエチレン性不飽和酸のアミドAMとの混合物を、モノマーMの全重量に基づいて少なくとも90重量%含む前記架橋コポリマー、及びエチレン性不飽和モノマーMの架橋コポリマーであって、モノマーMが、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAと少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAのアルカリ金属塩との混合物を、モノマーMの全重量に基づいて少なくとも90重量%含む前記架橋コポリマーから選択される」のに対して、刊1発明においては「イソブチレン-無水マレイン酸共重合体の架橋物」であって、そのモノマーの配合割合などの詳細が明らかにされていない点、
の3つの点において相違している。

エ.判断
(ア)上記(α)?(γ)の相違点についての検討
a.相違点(α)について
摘記A1の「KIゲル 201K(含水量3%」との記載、及び摘記B1の「超吸収剤製造業者から購入した時(含水量約2?7重量%又はそれ以下)…KIゲル(イソブチレン/無水マレイン酸コポリマー」との記載にあるように、刊行物1の実施例1(摘記1c)で使用された「イソブチレン-無水マレイン酸共重合体の架橋物であるKIゲル-201K-G2」に含まれる水分量は多くて7重量%未満であることが知られている。そして、摘記C1の「エタノールには高濃度の水分等の不純物が含まれている」との記載や摘記D1の「エタノールは…多少の水分を含んでいて…純度が95%以上」との記載にあるように、一般的な「エタノール」に通常5%未満の水分が混入していることが普通に知られているところ、刊行物1の実施例1(摘記1c)で使用された「エタノール」に通常含まれる5重量%未満の水分を考慮したとしても、刊1発明における「処理・乾燥」をした後の超吸収性ポリマーの重量に基づく含水量が補正発明の上限値である「15重量%」を超えるとは解せない。
また、摘記A1の「KIゲル 201K(含水量3%」との記載にあるように、刊行物1の実施例1(摘記1c)で使用された「イソブチレン-無水マレイン酸共重合体の架橋物であるKIゲル-201K-G2」に含まれる水分量は当該架橋物の重量に基づいて3重量%程度であることが知られている。そして、摘記A2の「高吸水性樹脂に含まれているわずかな水分は、単なる熱風乾燥によっては乾燥しにくい」との記載にあるように、高吸水性ポリマーに含まれている僅かな水分は、単なる熱風乾燥ではゼロにならないことが知られている。してみると、刊行物1の実施例1(摘記1c)における「約50?80℃で乾燥」という乾燥条件によっては、刊1発明における「処理・乾燥」をした後の超吸収性ポリマーの重量に基づく含水量が補正発明の下限値である「0.1重量%」を下回るまでに乾燥されるとは解せない。
したがって、相違点(α)について、補正発明と刊1発明とに実質的な差異があるとは認められない。

b.相違点(β)について
摘記1bの「前記殺蟻剤を前記吸液性ポリマーに処理するには…塗布方法としては、噴霧による吹きつけ法…が挙げられる。」との記載にあるように、刊行物1には、刊1発明の被覆又は塗布のため「処理」として「噴霧による吹きつけ法」を採用できることが記載されている。
そして、摘記E1の「流動状態にある農薬粒子3に対し、被膜材の溶解液…スプレーノズル2により噴霧され、農薬粒子3の…表面を被覆すると同時並行的に、高温気体を噴流塔1の下部から…流入させ、該高速熱風流によって…乾燥させる」との記載、及び摘記E2の図面の記載、
摘記F1の「農薬…等の…顆粒等を製造する際に用いられる流動層装置…一般に、処理容器の底部から導入した流動化空気によって、処理容器内に粉粒体粒子の流動層を形成しつつ、スプレーガンからスプレー液…を噴霧して…コーティング処理を行う」との記載、及び摘記F2の図面の記載、並びに
摘記G1の「殺虫剤…を含めて多くの化学品が顆粒状で求められている。…造粒に使用される装置と同一…の装置の中で、被覆段階または乾燥段階を実施する。…満足な自由流動性の非ダスト発生生成物が得られた」との記載、及び摘記G2の図面の記載にあるように、
農薬粒子のコーティング処理を「顆粒の流動状態が、顆粒にキャリヤーガスを導入することによって達成」された装置で行うことは、本願優先日当時の技術水準において当業者にとって「通常の知識」の範囲内の周知慣用手段になっていたものと認められる。
してみると、刊1発明の「処理・乾燥」を、参考例E?Gに記載された「超吸収性ポリマー顆粒の流動状態が、超吸収性ポリマー顆粒にキャリヤーガスを導入することによって達成」される「流動層スプレーコーティング」という周知慣用手段によって行うようにしてみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。
したがって、相違点(β)について、当業者にとって格別の創意工夫を要したとは認められない。

c.相違点(γ)について
摘記2bの『本発明の顆粒のための媒体として用いられるポリマーは公知の製品である。…例えば商品名「アクアソルブ(AQUASORB)」(登録商標名、アクリル酸とアクリルアミドとの50/50コポリマー)の下で市販されている。』との記載にあるコポリマーは、本願明細書の段落0143の「アクリル酸カリウムとアクリルアミドの架橋コポリマーの顆粒(…Aquasorb 3005 K2)」との記載にある架橋コポリマーと一致する商品名のポリマーであって、モノマーMが、モノエチレン性不飽和カルボン酸CAまたはその塩に相当する「アクリル酸」の50部と、モノエチレン性不飽和酸アミドAMに相当する「アクリルアミド」の50部との混合物から専らなる架橋コポリマーであるから、補正発明の「エチレン性不飽和モノマーMの架橋コポリマーであって、モノマーMが、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAまたはその塩と少なくとも1種のモノエチレン性不飽和酸のアミドAMとの混合物を、モノマーMの全重量に基づいて少なくとも90重量%含む前記架橋コポリマー」の場合の「超吸収性ポリマー」に相当する。そして、摘記2dの「本発明の顆粒は…寄生虫を駆除するのに有用である。…顆粒は天然(雨)…の灌漑系の下に配置させ…水を貯蔵する。」との記載にあるように、刊行物2には、害虫駆除用の顆粒の吸水性ポリマーとして当該「アクアソルブ」という商品名のコポリマーを用いる技術が記載されている。
また、摘記1bの「本発明に使用する吸液性ポリマーとしては…ポリアクリル酸ソーダの架橋物、イソブチレン-マレイン酸共重合体の架橋物及びその塩…などが示され」との記載にあるように、刊行物1には、吸水性ポリマーとして「ポリアクリル酸ソーダの架橋物」や「イソブチレン-マレイン酸共重合体の架橋物の塩」などの他の吸水性ポリマーも採用できることが記載されているところ、摘記1bの「ポリアクリル酸ソーダの架橋物」や摘記4bの「ポリアクリル酸塩系ポリマー」や摘記5cの「ポリアクリル酸ソーダ架橋体」は、一般にアクリル酸の一部を水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属塩で部分中和したモノマーと少量の架橋剤とを重合してなるポリマーであるから、補正発明の「エチレン性不飽和モノマーMの架橋コポリマーであって、モノマーMが、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAと少なくとも1種のモノエチレン性不飽和カルボン酸CAのアルカリ金属塩との混合物を、モノマーMの全重量に基づいて少なくとも90重量%含む前記架橋コポリマー」の場合の「超吸収性ポリマー」に相当する。そして、刊行物1、4及び5に記載された技術は、いずれも害虫防除用ベイト剤に関するものである。
してみると、刊1発明の「吸水性ポリマー」の種類を、刊行物2に記載された「アクリル酸とアクリルアミドとの50/50コポリマー」や刊行物4に記載された「ポリアクリル酸塩系ポリマー」などのベイト剤の技術分野で普通に知られた吸水性ポリマーに置き換えること、或いは刊行物1に記載された「ポリアクリル酸ソーダの架橋物」又は「イソブチレン-マレイン酸共重合体の架橋物及びその塩」に置き換えて、そのモノマーの配合割合や塩の割合の数値範囲を適宜設定してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内である。
したがって、相違点(γ)について、当業者にとって格別の創意工夫を要したとは認められない。

(イ)補正発明の効果についての検討
本願明細書の段落0009の発明の目的に関する記載、同段落0018及び0086の記載、並びに同段落0164?0168の試験例1?4についての記載を参酌すると、補正発明の効果は、公知技術に比べて、容易に施用でき、有害生物に対して持続作用を与え、環境条件が殺虫剤の有効性に対して悪影響を及ぼさず、防除に必要な殺虫剤化合物の量が少なく、顆粒が機械的に安定であり、長期間にわたり貯蔵可能であることにあると認められる。

しかしながら、摘記1bの「粉状剤や顆粒状剤はベイト剤として…使用が簡単であり広く用いられている」との記載にあるように、公知技術のベイト剤が「容易に施用」できる効果を有することは普通に知られている。
そして、摘記4aの「基材として吸水性ポリマーを含むことを特徴とする…害虫防除用ベイト剤」との記載、及び摘記4bの「中でも、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体は…変質を防ぐのに有効であり、野外での使用に特に適している…本発明の害虫防除用ベイト剤は、長期間設置されても変質が少なく、薬効を長時間保つことができる。…野外に生息する害虫に対して使用するのに適している。」との記載、並びに摘記1bの「本発明の粒状体のアリ用ベイト剤は…環境変化を受けにくいことから、長期にわたって優れた誘引性と喫食性を維持できる」との記載にあるように、吸水性ポリマーを含むベイト剤が「有害生物に対して持続作用」を与え、野外で使用できるなど「環境条件が殺虫剤の有効性に悪影響を及ぼさない」という効果を有することも知られている。
また、摘記1bの「害虫防除剤が表面にあれば…使用する薬量が少なくてすむという利点がある」との記載にあるように、刊1発明は「防除に必要な殺虫剤化合物の量が少ない」という効果を奏するものである。
さらに、摘記1bの「ポリマーの有する吸液能に対して一杯の状態で使用すると…製剤自体が崩壊しやすいなどの欠陥がある」との記載にあるように、吸水性ポリマーに含まれる水分が多すぎると「製剤自体が崩壊」するなどの問題が生じることは普通に知られているので、補正発明の「顆粒が機械的に安定であり、長期間にわたり貯蔵可能である」という効果は、当業者にとって格別予想外のものではない。
したがって、補正発明に当業者にとって格別予想外の顕著な効果があるとは認められない。

なお、平成27年3月16日付けの意見書の第5頁第2?16行では「本願発明の顆粒状物質は、その製造方法に特徴」があり「本願発明の顆粒状物質において、埃っぽい物質が少ないこと、自由流動性であることや殺虫剤化合物が均一に分布していること等の有利な特性が得られる」との主張がなされている。
しかしながら、摘記E1の「農薬粒子を流動状態とし、該農薬粒子の表面に…被膜材を噴霧することにより被膜を形成させる製造方法…噴霧された被覆液が安定的に粒子表面へ到達し、完全被覆を達成し易い」との記載、
摘記F1の「農薬…の…顆粒等を製造する際に用いられる流動層装置…流動化空気によって、処理容器内に粉粒体粒子の流動層を形成しつつ、スプレーガンからスプレー液…を噴霧して…コーティング処理を行う…いわゆるスプレードライ現象(スプレー液のミストが粉粒体粒子に付着せずに乾燥して粉塵化する現象)や粒子同士の二次凝集が起こりにくく、微粒子に対して収率の良いコーティング処理が可能である」との記載、及び
摘記G1の「殺虫剤…を含めて多くの化学品が顆粒状で求められ…満足な自由流動性の非ダスト発生生成物が得られた」との記載からみて、
刊1発明の「処理・乾燥」を、参考例E?Gに記載された「流動層スプレーコーティング」という周知慣用手段により行った場合に、噴霧された被覆液が満遍なく粒子表面に到達して『被覆材が粒子表面に均一に分布する』という効果が得られ、粉塵化する現象が起こりにくく『埃っぽい物質が少なくなる』という効果が得られ、非ダスト発生の『自由流動性』の顆粒状物質が得られるという効果が得られることは、本願優先日当時の技術水準において当業者が容易に予測可能なことである。
したがって、請求人が主張する効果が当業者にとって格別予想外の顕著な効果であるとは認められない。

(ウ)相違点及び効果に関する判断のまとめ
以上のとおりであるから、補正発明は、刊行物1、2、4及び5に記載された発明並びに本願優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.補正の却下の決定のむすび
以上総括するに、上記請求項1についての補正は、独立特許要件違反があるという点において特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。このため、その余のことを検討するまでもなく、第4補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記〔補正の却下の決定の結論〕のとおり、決定する。

第3 本願発明
第4補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?16に係る発明は、平成26年7月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

第4 平成26年9月12日付けの拒絶理由通知の概要
平成26年9月12日付け拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)においては、その理由2として「この出願の請求項1?16に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?7に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示されている。
そして、その理由2の「下記の刊行物1?7」のうちの刊行物1、2、4及び5は、上記『第2 2.(2)ア.(ア)?(エ)』に示したとおりである。

第5 当審の判断
刊行物1、2、4及び5の記載事項は、上記『第2 2.(2)ア.(ア)?(エ)』に示したとおりであり、刊行物1には、上記『第2 2.(2)イ.』に示したとおりの「刊1発明」が記載されている。
そして、本願請求項1に係る発明は、上記『第2 2.(2)』の項で検討した「補正発明」において、
補正発明における「i)0.005?8重量%の少なくとも1種の有機殺虫剤化合物」及び「ii)90?99.995重量%の少なくとも1種の顆粒状超吸収性ポリマー」という配合量の数値範囲が、本願請求項1に係る発明において「i)0.001?10重量%の少なくとも1種の有機殺虫剤化合物」及び「ii)80?99.999重量%の少なくとも1種の顆粒状超吸収性ポリマー」にまで拡張され、
補正発明における「水の量は、超吸収性ポリマーの重量に基づいて0.1?15重量%であり」という発明特定事項が、本願請求項1に係る発明において発明特定事項として含まれず、
補正発明における「流動層スプレーコーティングにおいて、超吸収性ポリマー顆粒の流動状態が、超吸収性ポリマー顆粒にキャリヤーガスを導入することによって達成され」という発明特定事項が、本願請求項1に係る発明において発明特定事項として含まれないものであるから、
本願請求項1に係る発明は、補正発明を包含するものである。

してみると、上記『第2 2.(2)ウ.?エ.』において検討したのと同様な理由により、本願請求項1に係る発明は、刊行物1、2、4及び5に記載された発明並びに本願優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-02 
結審通知日 2015-04-07 
審決日 2015-04-20 
出願番号 特願2008-557767(P2008-557767)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (A01N)
P 1 8・ 121- WZ (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 木村 敏康
齊藤 真由美
発明の名称 有害節足動物、腹足類及び線虫類を駆除するための殺虫剤組成物  
代理人 田中 夏夫  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  
代理人 新井 栄一  

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