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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1304916
審判番号 不服2014-7319  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-21 
確定日 2015-09-03 
事件の表示 特願2009-152185「半導体装置の製造方法及び半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月27日出願公開,特開2010-118640〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年4月23日(優先権主張平成20年10月16日)に出願した特願2009-105605号の一部を,平成21年6月26日に新たな特許出願としたものであって,平成25年2月7日付けで拒絶理由の通知がされ,同年4月15日に手続補正書が提出され,平成26年1月15日付けで拒絶査定がなされ,同年4月21日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年4月21日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成26年4月21日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1-7を補正して,補正後の請求項1-7とするものであって,補正前後の請求項1は各々次のとおりである。

<補正前>
「【請求項1】
半導体素子と,支持部材と,を接着する半導体装置の製造方法であって,
(a)接着フィルム付き半導体素子を準備する工程と,
(b)前記接着フィルム付き半導体素子を前記支持部材に熱圧着して,前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる半導体部品を得る熱圧着工程と,
(c)前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を,加圧流体を用いて加熱,加圧し,接着フィルムの硬化を進行させる加圧キュア工程と,
を前記工程(a),(b),(c)の順で行い,
前記加圧キュア工程(c)における加圧力が0.1MPa以上,10MPa以下であって,
前記加圧キュア工程(c)において,圧力容器を用いて,該圧力容器内に前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を設置し,前記加圧流体により加熱,加圧を行い,
前記加圧流体が加圧空気であって,
前記加圧キュア工程(c)における加熱,加圧条件が,加熱温度80℃以上であり,加圧時間が1分以上,480分以下であることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

<補正後>
「【請求項1】
半導体素子と,支持部材と,を接着する半導体装置の製造方法であって,
(a)接着フィルム付き半導体素子を準備する工程と,
(b)前記接着フィルム付き半導体素子を前記支持部材に熱圧着して,前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる半導体部品を得る熱圧着工程と,
(c)前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を,加圧流体を用いて加熱,加圧し,接着フィルムの硬化を進行させる加圧キュア工程と,
を前記工程(a),(b),(c)の順で行い,
前記加圧キュア工程(c)における加圧力が0.1MPa以上,10MPa以下であって,
前記加圧キュア工程(c)において,圧力容器を用いて,該圧力容器内に前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を設置し,前記加圧流体により加熱,加圧を行い,
前記加圧流体が加圧空気であって,
前記加圧キュア工程(c)における加熱,加圧条件が,加熱温度80℃以上であり,加圧時間が1分以上,480分以下であり,
前記接着フィルムを構成する樹脂組成物が,(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「前記加圧キュア工程(c)における加熱,加圧条件が,加熱温度80℃以上であり,加圧時間が1分以上,480分以下であること」を補正して,補正後の請求項1の「前記加圧キュア工程(c)における加熱,加圧条件が,加熱温度80℃以上であり,加圧時間が1分以上,480分以下であり,前記接着フィルムを構成する樹脂組成物が,(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを含むこと」とすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項6の「前記接着フィルムを構成する樹脂組成物が,(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを含む」を補正して,補正後の請求項6の「前記接着フィルムを構成する樹脂組成物が,(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含むことを特徴とする」とすること。

3 新規事項追加の有無,発明の特別な技術的特徴の変更の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1,2について
補正事項1,2により補正された部分は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。また,本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載されているものと認められるから,補正事項1-2は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって,補正事項1,2は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
また,補正事項1,2は,発明の特別な技術的特徴を変更するものではないと認められるから,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものといえる。
さらに,補正事項1,2は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(2)新規事項追加の有無,発明の特別な技術的特徴の変更の有無,及び,補正の目的の適否についてのむすび
以上検討したとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項,第4項,及び,第5項に規定する要件を満たす。

4 独立特許要件についての検討
本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定によって,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることを要する。
そこで,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて,請求項1に係る発明について,更に検討を行う。

(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
以下,再掲する。

「【請求項1】
半導体素子と,支持部材と,を接着する半導体装置の製造方法であって,
(a)接着フィルム付き半導体素子を準備する工程と,
(b)前記接着フィルム付き半導体素子を前記支持部材に熱圧着して,前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる半導体部品を得る熱圧着工程と,
(c)前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を,加圧流体を用いて加熱,加圧し,接着フィルムの硬化を進行させる加圧キュア工程と,
を前記工程(a),(b),(c)の順で行い,
前記加圧キュア工程(c)における加圧力が0.1MPa以上,10MPa以下であって,
前記加圧キュア工程(c)において,圧力容器を用いて,該圧力容器内に前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を設置し,前記加圧流体により加熱,加圧を行い,
前記加圧流体が加圧空気であって,
前記加圧キュア工程(c)における加熱,加圧条件が,加熱温度80℃以上であり,加圧時間が1分以上,480分以下であり,
前記接着フィルムを構成する樹脂組成物が,(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
拒絶査定の理由で引用した,本願のもとの特許出願の優先権の主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用例1には,図面とともに次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:特開2008-98608号公報
(1a)「【請求項1】
チップと未硬化の接着剤層とが積層された配線基板を加熱して,前記未硬化の接着剤層を硬化させて半導体装置を製造する方法であって,
前記硬化前に,前記チップと未硬化の接着剤層とが積層された配線基板を常圧に対し0.05MPa以上の静圧により加圧する静圧加圧工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記静圧加圧工程による加圧状態のまま,前記チップと未硬化の接着剤層とが積層された配線基板を加熱して前記未硬化の接着剤層を硬化する熱硬化工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。」

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液状またはフィルム状の接着剤を用いた場合,上記の方法によりボイドを減らせるが,低粘度あるいは低弾性率化すると,ダイボンド時にチップ端面へ接着剤がはみ出す不具合が発生する。特に近年の薄型化されたチップにおいては,そのはみ出した接着剤がチップ回路面に巻き上がり,ワイヤーパッドを汚染して,ワイヤー接合強度を低下させるという問題がある。
【0005】
また,特にフィルム状の接着剤を用いた場合,上記界面に存在するボイドの発生については,基板デザインにも依存する。このため,基板デザインが変更になるたびに配合変更による粘度コントロールや弾性率の低下,あるいはダイボンド条件の見直し,最適化を行わなければならず,その扱いも困難である。特に近年の高密度な配線基板においては,凹凸の段差が大きく,その段差を埋めるべくダイボンドを行うのはかなり困難である。
【0006】
したがって,本発明の目的は,基板デザインに依存せず,ボイドのない半導体装置が簡便に製造できる方法を提供することであり,さらに,この際に接着剤の巻き上がりも見られない半導体装置が製造できる方法を提供することにある。」

(1c)「【発明の効果】
【0009】
本発明に係る半導体装置の製造方法によれば,チップと配線基板とを未硬化の接着剤層により積層する際は,通常通りの条件で行うことができ,その後の静圧加圧工程により基板デザインに依存せず簡便にボイドを消滅できる。また,この静圧加圧工程においては静圧により加圧するため,接着剤の巻き上がりも起こらない。」

(1d)「【0012】
未硬化の接着剤層3は,フィルム状または液状の接着剤から形成される。好ましくはフィルム状の接着剤から形成される。本発明に用いられる接着剤は熱硬化性の接着剤であり,熱硬化性樹脂を含んでいればよい。熱硬化性樹脂は,たとえば,エポキシ,フェノキシ,フェノール,レゾルシノール,ユリア,メラミン,フラン,不飽和ポリエステル,シリコーンなどであり,適当な硬化剤及び必要に応じて添加される硬化促進剤と組み合わせて用いられる。このような熱硬化性樹脂は種々知られており,本発明においては特に制限されることなく公知の様々な熱硬化性樹脂が用いられる。また,熱硬化性の接着剤としては,常温で粘着性を有する粘接着剤であってもよい。粘接着剤とは,初期状態において常温で粘着性を示し,加熱のようなトリガーにより硬化し強固な接着性を示す接着剤をいう。常温で粘着性を有する粘接着剤としては,たとえば常温で感圧接着性を有するバインダー樹脂と,上記のような熱硬化性樹脂との混合物が挙げられる。常温で感圧接着性を有するバインダー樹脂としては,たとえばアクリル樹脂,ポリエステル樹脂,ポリビニルエーテル,ウレタン樹脂,ポリアミド等が挙げられる。」

(1e)「【0015】
また,本発明において接着剤層3として液状の接着剤を使用する場合は,例えば,前述したフィルム状の接着剤層の組成からバインダー樹脂を除いた熱硬化性樹脂とその硬化剤からなる配合の液状(ペースト状)接着剤が用いられる。」

(1f)「【0016】
次に,本発明の半導体装置の製造方法について,ダイシング・ダイボンディングシート(フィルム状の接着剤)を使用した場合の具体例について説明する。
本発明において,ダイシング・ダイボンディングシートを使用する場合,例えば,(1)ダイシング工程,(2)ダイボンド工程,(3)静圧加圧工程,(4)熱硬化工程,(5)組立工程の各工程を経て半導体装置が製造される。
【0017】
(1)ダイシング工程は,シリコン等からなるウェハにダイシング・ダイボンディングシートを貼着して,ウェハと未硬化の接着剤層をともにダイシングする工程である。この工程により,片面に未硬化の接着剤層を有するチップが得られる。ダイシング・ダイボンディングシートがエネルギー線硬化性を有する場合は,ダイシング工程前あるいはダイシング工程後にエネルギー線を照射し,基材フィルムとの密着性を低下させておく。ダイシング・ダイボンディングシートを貼着する条件によっては,チップと未硬化の接着剤層との界面にボイドが形成される場合がある。
【0018】
(2)ダイボンド工程は,ダイシング・ダイボンディングシートの基材フィルムと未硬化の接着剤層3の界面で剥離(ピックアップ)を行い,分離された未硬化の接着剤層を有するチップを配線基板のチップ搭載部に積層(ダイボンド)する工程である。この工程により,チップ2と未硬化の接着剤層3とが積層された配線基板1が得られる。ダイボンドの条件(圧力,温度,時間等)によっては,未硬化の接着剤層3と配線基板4との界面にボイド6が形成される場合がある(図1)。
【0019】
(3)静圧加圧工程は,未硬化の接着剤層が充分に硬化される前に,ダイボンドされた配線基板の全方位から均等に加圧(静圧加圧)を行う工程である(図1,I)。本発明における加圧条件は,常圧に対し0.05MPa以上であり,好ましくは常圧に対し0.1?1.0MPaである。すなわち,常圧に比較して0.05MPa以上大きな圧力,好ましくは0.1?1.0MPa大きな圧力を印加する。
【0020】
静圧加圧工程には,具体的には,以下のような態様が挙げられる。まず,未硬化状態の接着剤層3がダイボンドされた配線基板1を上記静圧により加圧する(図1,I)。この静圧による加圧により,接着剤層3とチップ2との間に発生したボイド(図示せず)または接着剤層3と配線基板4との間に発生したボイド6が消滅する。配線基板4が微細で高低差が大きな回路デザインであったとしても,この静圧加圧工程を行えば,接着剤層3と配線基板4との界面に生じたボイド6も消滅させられる。このように,チップ2と配線基板4とを未硬化の接着剤層3により積層する際の条件を特別に制御することなく,簡便にボイド6を消滅できる。また,この静圧加圧工程においては静圧による加圧であるため,接着剤層のみが加圧されず,接着剤の巻き上がりも起こらない。
【0021】
印加する圧力が上記範囲にあると,効率的にボイドの消滅が促されるとともに,汎用の加圧装置,耐圧防爆設備が使用でき,生産ラインをコンパクトにできる。また,設定圧力までの時間をほとんど要しない点で好ましい。
【0022】
また,圧力を印加する時間は,好ましくは1?120分,より好ましくは5?90分である。
静圧加圧装置としては,ダイボンドされた配線基板1に静圧が印加できれば特に制限されないが,好ましくは,オートクレーブ(コンプレッサー付き耐圧容器)などにより行われる。ところで,オートクレーブなど一定容積内で圧力が加えられると雰囲気温度の上昇が起こる。半導体装置の安定生産を行うためには温度を一定に保つことが好ましいため,未硬化の接着剤層3が硬化しない程度の温度に制御してもよい。また,温度を上げることにより,接着剤層が流動化して発生したボイドが動きやすくなり,消滅しやすくなることも期待できる。このような温度としては,接着剤層3を形成する接着剤の組成によって適宜設定されるが,例えば,30?120℃程度である。
【0023】
(4)熱硬化工程は,ダイボンドされた配線基板1の接着剤層3を加熱して未硬化状態から充分な硬化状態にする工程である(図1,II)。なお,本明細書において,未硬化状態とは,接着剤の硬化反応が進行していない状態にあることをいう。充分な硬化状態,すなわち,硬化が完了した状態とは,反応が進行し,接着剤が変形できない状態にあることをいう。(3)静圧加圧工程でボイドが消滅したダイボンドされた配線基板1を加圧装置から開放し,大気圧下で使用する加熱装置に投入する。これにより,未硬化の接着剤層3を硬化させて硬化した接着剤層8とし,半導体装置のダイボンド用接着剤として必要な接着性能が与えられる。この状態におけるダイボンドされた配線基板は,(3)静圧加圧工程の状態を維持しており,接着剤層8の両側の界面にはボイドが存在せず,チップ2と配線基板4とが強固に接着されている。
【0024】
加熱温度及び加熱時間は,接着剤層が充分に硬化できれば特に制限されず,接着剤組成に依存する。加熱温度は,好ましくは,100?200℃,より好ましくは120?160℃であり,加熱時間は,好ましくは15?300分,より好ましくは30?180分である。
【0025】
熱硬化を行うための加熱装置としては,特に制限はなく,従来使用される熱硬化装置(オーブン)がそのまま使用できる。
(5)組立工程は,接着剤層の熱硬化が行われたダイボンドされた配線基板を半導体装置に組立加工する工程である。例えば,図1に示す工程のようにワイヤー9を結線するワイヤーボンディング工程,封止樹脂11を用いたモールディング工程などが行われる(図1,III,IV)。このようにして半導体装置10が製造される。本発明の製造方法によって得られた半導体装置10は,接着剤層の界面にボイドが存在しないため,信頼性評価においてパッケージクラックが生じない。
【0026】
以上,(3)静圧加圧工程の後に常圧に戻してから(4)熱硬化工程を行う半導体装置を製造する方法について説明したが,本発明に係る半導体装置の製造方法は,(3)静圧加圧工程において,静圧加圧状態のまま,上記未硬化の接着剤層3を加熱して硬化する熱硬化工程を行う製造方法でもよい。
【0027】
具体的には,静圧加圧工程を行ってボイドを消滅させるとともに,加圧下におきながら熱硬化工程を行って接着剤層3を充分に硬化させた後に,静圧加圧工程と熱硬化工程とを同時に終了する態様であってもよい。この場合は,熱硬化が行われるような高温で発生すると考えられる接着剤層中のボイドを,発生すると同時に静圧加圧により消滅させられると考えられるので好ましい。最終的に,半導体装置は接着剤層中にも界面にもボイドが存在せず,充分に接着剤が硬化した状態となり,チップと配線基板とが強固に接着される。
【0028】
本態様における加圧条件は,常圧に対し0.05MPa以上,好ましくは0.1?1.0MPaであり,加熱温度は,接着剤層が充分に硬化できれば特に制限されないが,好ましくは,100?200℃,より好ましくは120?160℃である。
【0029】
また,加圧および加熱時間は,ボイドが消滅でき,接着剤層が充分に硬化できれば特に制限されないが,好ましくは15?300分,より好ましくは30?180分である。
また,熱硬化工程を2段階に分けて,第1段階を接着剤層を硬化させない加熱条件とし,第2段階を接着剤層を硬化させる加熱条件とする態様であっても良い。この場合,第1段階の加熱条件は,例えば,加熱温度が30?120℃程度であり,加熱時間は,好ましくは1?120分,より好ましくは5?90分である。また,第2段階の加熱条件は,例えば,加熱温度が120?200℃であり,加熱時間は,好ましくは15?300分,より好ましくは30?180分である。」

(1g)「【0036】
[実施例1]
(1)ダイシング工程
ダミーのシリコンウェハ(200mm径,厚さ150μm)に,ダイシング・ダイボンディングシート(リンテック社製,Adwill LE-5003)をテープマウンター(リンテック社製,Adwill RAD2500 m/8)を用いて貼付し,同時にリングフレームに固定した。その後,UV照射装置(リンテック社製Adwill RAD2000 m/8)を用いて基材面から紫外線を照射した。次に,ダイシング装置(ディスコ社製,DFD651)を使用し8mm×8mmのサイズのチップにダイシングした。ダイシングの際の切り込み量は,ダイシング・ダイボンディングシートの基材フィルムに対して20μm切り込むようにした。
(2)ダイボンド工程
チップをダイボンドする配線基板として,銅箔張り積層板(三菱ガス化学社製,CCL-HL830)の銅箔に回路パターンが形成され,パターン上にソルダーレジスト(太陽インキ社製,PSR-4000 AUS5)を有している基板 (ちの技研社製) を用いた。(1)で得られたシリコンチップを粘接着剤層(未硬化の接着剤層)ごとピックアップし,該配線基板上に粘接着剤層を介して載置した後,100℃,300gf,1秒間の条件で圧着(ダイボンド)した。
(3)静圧加圧工程
続いて,(2)で得られたチップがダイボンドされた配線基板を加熱加圧装置(栗原製作所製オートクレーブ)に投入し,常圧よりも0.5MPa大きい静圧下で,100℃,30分加熱し,粘接着剤層に出現するボイドの除去を行った。
(4)熱硬化工程
加熱加圧装置よりダイボンドされた配線基板を取り出した後,常圧のオーブンにて120℃,1時間,続いて140℃,1時間の条件で加熱し,粘接着剤層を硬化させた。
(5)組立工程
封止装置(アピックヤマダ株式会社製MPC-06M Trial Press)により,(3)で得られたダイボンドされた配線基板をモールド樹脂(京セラケミカル株式会社製KE-1100AS3)で封止厚400μmになるように封止した。次いで,175℃,5時間で封止樹脂を硬化させた。さらに,封止した配線基板をダイシングテープ(リンテック社製Adwill D-510T)に貼付し,ダイシング装置(ディスコ社製,DFD651)により12mm×12mmサイズにダイシングしてダミーチップによるワイヤーなしの模擬的な半導体装置を得た。」

イ 引用発明
引用例1の上記摘記(1a)-(1g)の記載から,引用例1には,引用例1の特許請求の範囲に記載された,請求項1を引用する請求項2に係る発明の「具体例」として,以下に示す発明(以下「引用発明」という。)が開示されていることが認められる。
「(1)シリコン等からなるウェハにダイシング・ダイボンディングシートを貼着して,ウェハと未硬化の接着剤層をともにダイシングする工程であって,この工程により,片面に未硬化の接着剤層を有するチップを得る,ダイシング工程と,
(2)ダイシング・ダイボンディングシートの基材フィルムと未硬化の接着剤層3の界面で剥離(ピックアップ)を行い,分離された未硬化の接着剤層を有するチップを配線基板のチップ搭載部に積層(ダイボンド)する工程であって,この工程により,チップ2と未硬化の接着剤層3とが積層された配線基板1を得る,ダイボンド工程と,
(3)静圧加圧工程において,静圧加圧状態のまま,上記未硬化の接着剤層3を加熱して硬化する熱硬化工程であって,具体的には,静圧加圧工程を行ってボイドを消滅させるとともに,加圧下におきながら熱硬化工程を行って接着剤層3を充分に硬化させた後に,静圧加圧工程と熱硬化工程とを同時に終了する態様であり,この場合は,熱硬化が行われるような高温で発生すると考えられる接着剤層中のボイドを,発生すると同時に静圧加圧により消滅させられると考えられるので好ましく,最終的に,半導体装置は接着剤層中にも界面にもボイドが存在せず,充分に接着剤が硬化した状態となり,チップと配線基板とが強固に接着されるものであり,本態様における加圧条件は,好ましくは0.1?1.0MPaであり,加熱温度は,接着剤層が充分に硬化できれば特に制限されないが,好ましくは,100?200℃,より好ましくは120?160℃であり,また,加圧および加熱時間は,ボイドが消滅でき,接着剤層が充分に硬化できれば特に制限されないが,好ましくは15?300分,より好ましくは30?180分である,熱硬化工程と,
を前記工程(1),(2),(3)の順で行う,
チップと未硬化の接着剤層とが積層された配線基板を加熱して,前記未硬化の接着剤層を硬化させて半導体装置を製造する方法。」

(3)本願補正発明1の進歩性についての検討
ア 本願補正発明1と引用発明との対比
(ア)引用発明における「チップ」及び「配線基板」は,それぞれ,本願補正発明1の「半導体素子」及び「支持部材」に相当するといえる。
そして,本願補正発明1の「接着フィルム」は「加圧キュア工程」で硬化が進行されるから,本願補正発明1の「接着フィルム」と引用発明における「未硬化の接着剤層」とは,後述する相違点(相違点3)に係る構成を除き,「接着フィルム」である点で共通するといえる。
また,本願補正発明1の「(a)接着フィルム付き半導体素子を準備する工程」と,引用発明における「(1)シリコン等からなるウェハにダイシング・ダイボンディングシートを貼着して,ウェハと未硬化の接着剤層をともにダイシングする工程であって,この工程により,チップ2と未硬化の接着剤層3とが積層された配線基板を得る,ダイボンド工程」とは,後述する相違点(相違点3)に係る構成を除き,「接着フィルム付き半導体素子を準備する工程」である点で共通するといえる。

(イ)本願補正発明1の「(b)前記接着フィルム付き半導体素子を前記支持部材に熱圧着して,前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる半導体部品を得る熱圧着工程」と,引用発明における「ダイシング・ダイボンディングシートの基材フィルムと未硬化の接着剤層3の界面で剥離(ピックアップ)を行い,分離された未硬化の接着剤層を有するチップを配線基板のチップ搭載部に積層(ダイボンド)する工程であって,この工程により,チップ2と未硬化の接着剤層3とが積層された配線基板を得る,ダイボンド工程」とは,後述する相違点(相違点1及び3)に係る構成を除き,「接着フィルム付き半導体素子を支持部材に積層して,前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる半導体部品を得る工程」との点で共通するといえる。

(ウ)引用発明における「熱硬化工程」は,「静圧加圧工程において,静圧加圧状態のまま,上記未硬化の接着剤層3を加熱して硬化する熱硬化工程であって,具体的には,静圧加圧工程を行ってボイドを消滅させるとともに,加圧下におきながら熱硬化工程を行って接着剤層3を充分に硬化させた後に,静圧加圧工程と熱硬化工程とを同時に終了する態様であり,この場合は,熱硬化が行われるような高温で発生すると考えられる接着剤層中のボイドを,発生すると同時に静圧加圧により消滅させられると考えられるので好ましく,最終的に,半導体装置は接着剤層中にも界面にもボイドが存在せず,充分に接着剤が硬化した状態となり,チップと配線基板とが強固に接着される」ものであるから,本願補正発明1の「加圧キュア工程」と引用発明における「熱硬化工程」とは,後述する相違点(相違点2及び3)に係る構成を除き,「前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を,加圧流体を用いて加熱,加圧し,接着フィルムの硬化を進行させる工程」との点で共通するといえる。
そして,引用発明における「熱硬化工程」の「本態様における加圧条件は,好ましくは0.1?1.0MPaであり,加熱温度は,接着剤層が充分に硬化できれば特に制限されないが,好ましくは,100?200℃,より好ましくは120?160℃であり,また,加圧および加熱時間は,ボイドが消滅でき,接着剤層が充分に硬化できれば特に制限されないが,好ましくは15?300分,より好ましくは30?180分である」という条件は,本願補正発明1の「前記加圧キュア工程(c)における加圧力が0.1MPa以上,10MPa以下であって」,及び,「前記加圧キュア工程(c)における加熱,加圧条件が,加熱温度80℃以上であり,加圧時間が1分以上,480分以下であり」という条件の範囲に含まれるから,本願補正発明1の「加圧キュア工程」と引用発明における「熱硬化工程」とは,後述する相違点(相違点2及び3)に係る構成を除き,「加圧力が0.1MPa以上,10MPa以下であって」,「加熱,加圧条件が,加熱温度80℃以上であり,加圧時間が1分以上,480分以下であり」との条件を満たしている点で共通するといえる。

(エ)したがって,上記(ア)-(ウ)の対応関係から,本願補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「半導体素子と,支持部材と,を接着する半導体装置の製造方法であって,
(a)接着フィルム付き半導体素子を準備する工程と,
(b)前記接着フィルム付き半導体素子を前記支持部材に積層して,前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる半導体部品を得る工程と,
(c)前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を,加熱,加圧し,接着フィルムの硬化を進行させる工程と,
を前記工程(a),(b),(c)の順で行い,
前記工程(c)における加圧力が0.1MPa以上,10MPa以下であって,
前記工程(c)における加熱,加圧条件が,加熱温度80℃以上であり,加圧時間が1分以上,480分以下である,
半導体装置の製造方法。」

<相違点>
・相違点1:一致点に係る構成の工程(b)における「前記接着フィルム付き半導体素子を前記支持部材に積層」する点について,本願補正発明1では,「前記接着フィルム付き半導体素子を前記支持部材に熱圧着」しているのに対し,引用発明では,「分離された未硬化の接着剤層を有するチップを配線基板のチップ搭載部に積層(ダイボンド)する」ことについて具体的な方法は明記されていない点。

・相違点2:一致点に係る構成の工程(c)について,本願補正発明1における「加圧キュア工程」は,「圧力容器を用いて,該圧力容器内に前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を設置し,前記加圧流体により加熱,加圧を行」うものであって,かつ,「前記加圧流体が加圧空気」であるのに対し,引用発明における「熱硬化工程」について上記の特定はされていない点。

・相違点3:一致点に係る構成における「接着フィルム」について,本願補正発明1では「前記接着フィルムを構成する樹脂組成物が,(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを含む」ことが特定されているのに対し,引用発明における「未硬化の接着剤層」について上記の特定はされていない点。

イ 本願補正発明1と引用発明との相違点についての判断
・相違点1について
引用例1の上記摘記(1g)には,[実施例1]として,以下の記載がある。
「(2)ダイボンド工程
チップをダイボンドする配線基板として,銅箔張り積層板(三菱ガス化学社製,CCL-HL830)の銅箔に回路パターンが形成され,パターン上にソルダーレジスト(太陽インキ社製,PSR-4000 AUS5)を有している基板 (ちの技研社製) を用いた。(1)で得られたシリコンチップを粘接着剤層(未硬化の接着剤層)ごとピックアップし,該配線基板上に粘接着剤層を介して載置した後,100℃,300gf,1秒間の条件で圧着(ダイボンド)した。」
そして,引用例1に,引用発明における「分離された未硬化の接着剤層を有するチップを配線基板のチップ搭載部に積層(ダイボンド)する」ことの具体的な方法が明記されていなくても,引用例1の[実施例1]に記載された,シリコンチップを配線基板上に粘接着剤層(未硬化の接着剤層)を介して載置した後,100℃,300gf,1秒間の条件で圧着(ダイボンド)するとの方法が用いられ得ることは,引用例1の記載に接した当業者には自明と認められる。
また,「100℃,300gf,1秒間の条件で圧着(ダイボンド)する」との記載から,引用例1の[実施例1]に記載の上記の方法は「熱圧着」ということができる。
そうすると,引用発明において,「分離された未硬化の接着剤層を有するチップを配線基板のチップ搭載部に積層(ダイボンド)する」ことを「熱圧着」により行うことは,引用例1に実質的に記載されていると認められるから,相違点1は,実質的な相違点であるとはいえない。
また,仮にそうでないとしても,引用発明において,相違点1に係る構成とすることは,引用例1における上記[実施例1]の記載より当業者が適宜なし得たものと認められる。
以上から,本願補正発明1と引用発明との相違点1は,実質的な相違点であるとはいえず,また,仮にそうでないとしても,当業者が適宜なし得たものである。
そして,本願補正発明1における,相違点1に係る構成による作用効果も,当業者が容易に予測し得る範囲内のものである。

・相違点2について
以下の周知例からも明らかなように,「加熱,加圧」する方法として,「圧力容器を用いて,該圧力容器内に被処理部材を設置し,加圧流体により加熱,加圧」するもの,かつ,「前記加圧流体が加圧空気」であるものは,周知といえる。

・周知例1:特開平10-107048号公報
(周1a)「本発明の静水圧によるマルチチップ実装法によれば,密閉容器内の圧力は一定であるので,多数枚のMCMを同時に処理可能なため量産効果が高い。また気体や液体での媒体加熱であるため高価な金型が不要であり,媒体の種類により,熱,湿気,嫌気性などの各種接着剤の適用が可能である。また接着剤の硬化に長時間が必要な場合も,一度の操作で多数作製可能である。」(【0011】)

(周1b)「実施例8
実施例1と同様であるが,接続時の加熱加圧の手段として静水圧による方法とした。ガラスエポキシ基板に接着剤付チップを配置し,CCDカメラによる電極の位置あわせ後のチップ仮付け基板を,圧力釜にいれて120℃,20kg/cm^(2),30分間の空気圧処理後に室温に冷却しとりだした。本実施例では,各チップの高さに関係なく均等な圧力がかかるので,実施例1で用いたような緩衝材を用いる必要がない。また圧力釜の容量に応じて多数のMCMを同時に大量に処理することが可能である。」(【0022】)

・周知例2:特開2008-159820号公報
(周2a)「またさらに,加圧工程においては,圧力媒体として,複数の電子部品及び樹脂の周囲を覆う気体又は液体(液状体を含む)を用いると,複数の電子部品を確実に等方的に加圧して一様な圧着状態をより一層実現し易くなるので,より好ましい。具体的には,例えば,複数の電子部品が載置された未硬化状態の樹脂を,気体(雰囲気ガス)又は液体が収容された加圧容器に封入し,容器内部を加圧する方法を挙げることができる。この場合,容器内部の気体又は液体を適宜の温度勾配で加熱することにより,その気体又は液体を介して樹脂に熱が印加されるので,加圧工程と加熱工程とを電子部品と樹脂に対して同時に実施することが容易となる。」(【0016】)

(周2b)「次に,この複数の半導体装置220が未硬化状態の一の樹脂層212上に一旦仮置きされた状態のものを,加圧加温装置3の容器31内に収容し,支持台S上に静置する(図6)。加圧加温装置3は,コンプレッサーといった圧縮装置を有する加圧機32,及び電熱ヒーター等の加熱機33が接続された容器31の内部に収容されたものを,容器31の内部気体Gを媒体として加圧及び加熱できるものである。」(【0039】)

(周2c)「ここで,加圧加温装置3における加圧条件及び加熱条件は,樹脂層212の種類や性状,半導体装置220の種類や寸法形状,加圧加温装置3の容量や特性等によって,適宜選択することができ,特に制限されないものの,加圧・加熱条件としては,例えば,半導体装置220が載置された未硬化状態の樹脂層212を,室温又はある程度昇温した容器31内に収容しておき,大気圧から適宜の圧力勾配で0.5MPaまで昇圧し,その圧力を保持した状態で,適宜の温度勾配で樹脂層212の樹脂の融点付近(例えば,60℃?100℃)まで昇温し,半導体装置220を未硬化状態の樹脂層212と完全密着させる。その後加圧状態を保持したまま,熱硬化性樹脂である樹脂層212の硬化開始温度以上の温度(例えば130℃?180℃)まで再昇温させ,樹脂層212が固化するまでの適宜の時間(例えば数分?数十分)その温度を保持した後,適宜の温度・圧力勾配で室温・大気圧等の所定温度・圧力まで降温・降圧させる。」(【0041】)

(周2d)「〈実施例1〉
平板状の基体上に,未硬化状態の樹脂を60μmの厚さでシート状に塗布し,その上に,複数の縦5mm×横5mm×厚さ50μmのベアチップ状態の半導体IC(電子部品としての半導体装置)を,その裏面(バンプが形成されていない面)が樹脂と当接するように,ダイボンダーを用いて順次載置して,図5に示す状態と同様に未硬化状態の樹脂層上に複数の半導体装置が仮置きされた状態のものを製作した。次に,これを,加圧加温槽に収容し,空気を圧力媒体として所定の条件で加圧且つ加熱することにより,半導体ICを等方的に加圧して未硬化状態の樹脂層に圧着させながら樹脂層を硬化させ,半導体ICが樹脂層(絶縁層)上に固定された実装品を得た。なお,加熱と加圧は,先述した加熱条件及び加圧条件の範囲内で行った。」(【0086】)

・周知例3:特開平10-50930号公報
(周3a)「図2は,電極の位置合わせを終了したチップの電極と基板の電極を,静水圧に耐えることが可能な密閉容器6の内部に入れて加熱加圧し,同一基板に複数個のチップの電気的接続を得る。密閉容器5としては,圧力鍋,プレッシャクッカ,オ-トクレ-ブ等がある。密閉容器6には吸排気孔7を設けることにより,加圧減圧の操作が簡単であり,圧力制御も可能なことから好ましい。また図示してないが試料の出し入れ口を設けてもよい。」(【0006】)

(周3b)「チップの仮付け基板を,プレッシャ-クッカ試験機の圧力釜に入れて,120℃,20kgf/mm^(2 ),10分間空気圧で処理後に室温に冷却して取出した。」(【0012】)

一方,引用例1の上記摘記(1f)には,「静圧加圧装置としては,ダイボンドされた配線基板1に静圧が印加できれば特に制限されないが,好ましくは,オートクレーブ(コンプレッサー付き耐圧容器)などにより行われる。」(【0022】)と記載されている。
してみれば,上記周知例1-3の記載された周知技術,及び,引用例1の上記摘記(1f)の上記記載事項に基づいて,引用発明の「熱硬化工程」を,「圧力容器を用いて,該圧力容器内に前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を設置し,前記加圧流体により加熱,加圧」するものとなし,かつ,「前記加圧流体が加圧空気」であるものとすること,すなわち,相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。また,相違点2を,本願補正発明1において特定される事項としたことによる効果は,当業者が予測する範囲内のものといえる。

・相違点3について
(ア)上記相違点1で検討したとおり,引用発明における「分離された未硬化の接着剤層を有するチップを配線基板のチップ搭載部に積層(ダイボンド)する」ことについて,引用例1の[実施例1]に記載された,シリコンチップを配線基板上に粘接着剤層(未硬化の接着剤層)を介して載置した後,100℃,300gf,1秒間の条件で圧着(ダイボンド)する方法が採用され得ることは,引用例1に実質的に記載されていると認められ,また,仮にそうでないとしても,引用例1における上記[実施例1]の記載より当業者が適宜なし得たものと認められる。

(イ)そして,引用例1の上記摘記(1d)には,「本発明に用いられる接着剤」について,以下の記載がある。
「未硬化の接着剤層3は,フィルム状または液状の接着剤から形成される。好ましくはフィルム状の接着剤から形成される。本発明に用いられる接着剤は熱硬化性の接着剤であり,熱硬化性樹脂を含んでいればよい。熱硬化性樹脂は,たとえば,エポキシ,フェノキシ,フェノール,レゾルシノール,ユリア,メラミン,フラン,不飽和ポリエステル,シリコーンなどであり,適当な硬化剤及び必要に応じて添加される硬化促進剤と組み合わせて用いられる。このような熱硬化性樹脂は種々知られており,本発明においては特に制限されることなく公知の様々な熱硬化性樹脂が用いられる。また,熱硬化性の接着剤としては,常温で粘着性を有する粘接着剤であってもよい。粘接着剤とは,初期状態において常温で粘着性を示し,加熱のようなトリガーにより硬化し強固な接着性を示す接着剤をいう。常温で粘着性を有する粘接着剤としては,たとえば常温で感圧接着性を有するバインダー樹脂と,上記のような熱硬化性樹脂との混合物が挙げられる。常温で感圧接着性を有するバインダー樹脂としては,たとえばアクリル樹脂,ポリエステル樹脂,ポリビニルエーテル,ウレタン樹脂,ポリアミド等が挙げられる。」
そうすると,上記記載から,「粘接着剤層」,すなわち,「常温で粘着性を有する粘接着剤」として,「たとえば常温で感圧接着性を有するバインダー樹脂と,上記のような熱硬化性樹脂との混合物」を用いることが理解できる。

(ウ)さらに,引用例1の上記摘記(1d)には,「常温で感圧接着性を有するバインダー樹脂」として,「たとえばアクリル樹脂,ポリエステル樹脂,ポリビニルエーテル,ウレタン樹脂,ポリアミド等」が挙げられており,また,「上記のような熱硬化性樹脂」として,「たとえば,エポキシ,フェノキシ,フェノール,レゾルシノール,ユリア,メラミン,フラン,不飽和ポリエステル,シリコーンなど」が挙げられている。
ここで,「アクリル樹脂」,及び,「エポキシ」は,前記の「常温で感圧接着性を有するバインダー樹脂」,及び,「上記のような熱硬化性樹脂」として例示されている材料において,筆頭に位置するものである。

(エ)しかも,接着フィルムを構成する樹脂組成物として,「(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを含む」ものは,下記の周知例からも明らかなように,周知といえる。

・周知例4:特開2004-281751号公報
(周4a)「【請求項1】フィルム状接着剤を60℃でウエハー裏面に貼り付けた時のウエハーとフィルム状接着剤とのピール強度が50g/25mm以上であることを特徴とするダイボンディング用フィルム状接着剤。
【請求項2】フィルム状接着剤を構成する樹脂組成物のガラス転移温度が-30℃以上60℃以下である請求項1記載のダイボンディング用フィルム状接着剤。
【請求項3】フィルム状接着剤を構成する樹脂組成物が,ガラス転移温度が-30℃以上60℃以下であるアクリル酸共重合体,及びエポキシ樹脂を含んでなる請求項1又は2記載のダイボンディング用フィルム状接着剤。」(【特許請求の範囲】)

(周4b)「本発明に用いるアクリル酸共重合体としてはアクリル酸,アクリル酸エステル,メタクリル酸エステル,アクリルニトリルのうち少なくとも1つをモノマー成分とした共重合体が挙げられ,中でもグリシジルエーテル基を有するグリシジルメタクリレート,水酸基を有するヒドロキシメタクリレート,カルボキシル基を有するカルボキシメタクリレートを含む共重合体が好ましい。」(【0010】)

・周知例5:特開2008-143967号公報
(周5a)「請求項1】
水酸基を有する熱可塑性樹脂およびイソシアネート化合物を含む第1樹脂組成物で構成される粘着層と,アクリル系樹脂を含む第2樹脂組成物で構成される接着層と,を有する半導体用接着フィルムの製造方法であって,前記粘着層中のイソシアネート残基を10%以下とした後に,該粘着層と前記接着層とを接合する接合工程を有することを特徴とする半導体用接着フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第2樹脂組成物は,さらにエポキシ樹脂を含むものである請求項1に記載の半導体用接着フィルムの製造方法。」(【特許請求の範囲】)

(周5b)「(接着層)
前記接着層は,アクリル系樹脂(アクリル酸エステル共重合体)を含む第2樹脂組成物で構成されている。これにより,接着性を付与することができる。前記アクリル系樹脂は,例えばアクリル酸,メタクリル酸,これらのエステル,その他の誘導体をモノマーとして含む重合体のことを意味し,具体的にはアクリル酸,メタクリル酸,アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,メタクリル酸メチル,メタクリル酸エチル等が挙げられる。また,アクリロニトリルのようなアクリル系モノマー以外の他のモノマーと,アクリル系モノマーとの共重合体もアクリル系樹脂に含まれる。」(【0023】)

(周5c)「前記第2樹脂組成物は,特に限定されないが,熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。前記熱硬化性樹脂としては,例えばビスフェノールAエポキシ樹脂,ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂,フェノールノボラックエポキシ樹脂,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂,ビフェニル型エポキシ樹脂,スチルベン型エポキシ樹脂,トリフェノールメタン型エポキシ樹脂,アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂,トリアジン核含有エポキシ樹脂,ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂等が挙げられる。」(【0026】)

(周5d)「4)半導体装置の作製
得られた半導体用接着フィルムを6インチ,200μmウエハーの裏面に60℃で貼り付けし,半導体用接着フィルム付きウエハーを得た。その半導体用接着フィルム付きウエハーを,ダイシングソーを用いて,スピンドル回転数30,000rpm,切断速度50mm/secで5mm×5mm角の半導体素子にダイシング(個片化)し,粘着層と接着層との間で剥離して接着層付き半導体素子をピックアップした(剥離工程)。次に,ピックアップした接着層付き半導体素子をビスマレイミド-トリアジン樹脂基板に,130℃,1MPa,1.0秒間圧着して,接合した(接合工程)。そして180℃,1時間で加熱した後,周囲を封止樹脂で封止して半導体装置を得た。このようにして,10個の半導体装置を作製した。」(【0052】)

(オ)してみれば,引用発明において,「未硬化の接着剤層」として,「(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを含む」ものを用いること,すなわち,相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。また,相違点3を,本願補正発明1において特定される事項としたことによる効果は,当業者が予測する範囲内のものといえる。

(カ)なお,審判請求人は,審判請求書において,以下の主張をする。
「また,引用文献1には,接着剤に用いられる樹脂組成物に関し,熱硬化性樹脂の一例として『エポキシ』が開示され,さらに,熱硬化性樹脂の混合物の一例として,常温で感圧接着性を有するバインダー樹脂としての『アクリル樹脂』が開示されています。しかしながら,引用文献1全体の記載をみても,エポキシ樹脂とアクリル樹脂と組み合わせること,より具体的には『(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂』とを組み合わせて含有する接着剤については記載も示唆もされていません。そして,かかる接着剤に用いられる樹脂の例示は,いずれも並列に挙げられているのみで,これらの中から『(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂』とを組み合わせる動機づけも見あたりません。」
しかしながら,引用例1の上記摘記(1d)に,「熱硬化性の接着剤としては,常温で粘着性を有する粘接着剤であってもよい。粘接着剤とは,初期状態において常温で粘着性を示し,加熱のようなトリガーにより硬化し強固な接着性を示す接着剤をいう。常温で粘着性を有する粘接着剤としては,たとえば常温で感圧接着性を有するバインダー樹脂と,上記のような熱硬化性樹脂との混合物が挙げられる。」と記載され,さらに,引用例1の上記摘記(1d)に,「常温で感圧接着性を有するバインダー樹脂としては,たとえばアクリル樹脂,ポリエステル樹脂,ポリビニルエーテル,ウレタン樹脂,ポリアミド等が挙げられる。」,及び,「熱硬化性樹脂は,たとえば,エポキシ」と記載されているのであるから,引用発明の接着剤に用いられる樹脂組成物として,アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを組み合わせることは,当業者が容易に想到し得たことと認められる。

また,審判請求人は,「加えて,接着剤に用いられる樹脂組成物に関する公知技術は,世の中に数限りなく存在するものであり,密着性,成膜性,硬化性など様々な要求に応じて,密着性,成膜性,硬化性などの特性に優れたことを特徴とする接着剤も数限りなく存在するといえます。したがいまして,そのような多数の接着剤の中から,『(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂』を組み合わせて含有した接着剤を選択することは,当業者に過大な試行錯誤を強いることとなります。」とも主張する。
しかしながら,上記(エ)で検討したように,接着フィルムを構成する樹脂組成物として,「(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを含む」ものは,上記の周知例からも明らかなように,周知といえるから,「(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂」を組み合わせて含有した接着剤を選択することは,当業者が容易になし得たことと認められる。

さらに,審判請求人は,以下のようにも主張する。
「これに対し,本願発明は,接着フィルムと半導体素子との界面に発生するボイドに着目し,かかるボイドの発生に対し,接着フィルムの材料を特定することによって抑制しようとするものです。本願発明は,(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを含む接着フィルムを用いることで,『(メタ)アクリル系樹脂は,ガラス転移温度が低いため,樹脂組成物中に配合することにより,初期密着性を向上することができる。』(本件出願明細書段落0053)ため,接着フィルムを半導体素子に接着した際の密着性を良好にできるという作用効果を奏するものです。そして,このような接着フィルム付き半導体素子を用いて,工程(b),(c)を経ることで,接着フィルム内部のボイドの発生を抑え,かつ,接着フィルムと半導体素子との界面,及び接着フィルムと支持部材との界面の隙間を埋めることができる半導体装置の製造方法を実現するものです。」
しかしながら,本願の発明の詳細な説明,及び,図面には,「接着フィルムの材料を特定すること」によって,「接着フィルムと半導体素子との界面に発生するボイド」が,どの程度抑制されたかについての具体的な主張は記載されておらず,また,本願の発明の詳細な説明に記載された,(実施例1),(比較例1),及び,(比較例2)は,そのいずれもが,同じ組成の「(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂」を組み合わせて含有した接着剤を使用していることに照らして,本願の発明の詳細な説明の記載からは,(メタ)アクリル系樹脂とエポキシ樹脂とを含む接着フィルムを用いたことによる顕著な効果を認めることはできない。したがって,審判請求人の当該主張についても採用することができない。

(4)むすび
相違点1-3については,以上のとおりであるから,本願補正発明1は,引用例1に記載された発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年4月21日に提出された手続補正書による補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-7に係る発明は,平成25年4月15日に提出された手続補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-7に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
半導体素子と,支持部材と,を接着する半導体装置の製造方法であって,
(a)接着フィルム付き半導体素子を準備する工程と,
(b)前記接着フィルム付き半導体素子を前記支持部材に熱圧着して,前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる半導体部品を得る熱圧着工程と,
(c)前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を,加圧流体を用いて加熱,加圧し,接着フィルムの硬化を進行させる加圧キュア工程と,
を前記工程(a),(b),(c)の順で行い,
前記加圧キュア工程(c)における加圧力が0.1MPa以上,10MPa以下であって,
前記加圧キュア工程(c)において,圧力容器を用いて,該圧力容器内に前記接着フィルム付き半導体素子と前記支持部材とからなる前記半導体部品を設置し,前記加圧流体により加熱,加圧を行い,
前記加圧流体が加圧空気であって,
前記加圧キュア工程(c)における加熱,加圧条件が,加熱温度80℃以上であり,加圧時間が1分以上,480分以下であることを特徴とする半導体装置の製造方法。」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願のもとの特許出願の優先権の主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1及び周知技術に記載されている事項は,上記「第2 4 (2)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明1を限定したものである本願補正発明1が,前記「第2 4 (3)本願補正発明1の進歩性についての検討」で判断したとおり,引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと判断されることから,本願発明1も同様に,引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-03 
結審通知日 2015-07-07 
審決日 2015-07-22 
出願番号 特願2009-152185(P2009-152185)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小田 浩水野 浩之  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 飯田 清司
加藤 浩一
発明の名称 半導体装置の製造方法及び半導体装置  
代理人 速水 進治  

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