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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q |
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管理番号 | 1304931 |
審判番号 | 不服2014-13779 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-07-15 |
確定日 | 2015-09-03 |
事件の表示 | 特願2012-214601「物品」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月28日出願公開、特開2013- 42518〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2008年7月2日を国際出願日として出願した特願2009-521647号(優先権主張2007年7月4日,2007年9月19日,2008年4月14日,日本国)の一部を平成24年9月27日に新たな特許出願としたものであって,平成25年12月12日付けで拒絶理由が通知され,平成26年2月13日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,同年5月8日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成26年7月15日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。 [理由] 1.本願発明と補正後の発明 平成26年7月15日に提出された手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成26年2月13日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された, 「 無線ICと, 物品の一部を構成し,物品が本来的に備える,所定の広がりを有する導電部と, を備える物品であって, 前記無線ICと前記導電部とは,ループ状電極を介して接続されており, 前記ループ状電極は,前記導電部の縁端部に電磁界結合するように,前記導電部の縁端部に近接配置され, 前記導電部は,放射体として作用することを特徴とする物品。」 という発明(以下,「本願発明」という。)を,本件補正に係る手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された, 「 無線ICと, 物品の一部を構成し,物品が本来的に備える,所定の広がりを有する導電部と, を備える物品であって, 前記無線ICに接続されたループ状電極を備え, 前記ループ状電極は,前記ループ状電極のループ開口が前記導電部の外縁端部の外側に位置するように,且つ,前記導電部の外縁端部に電磁界結合するように,前記導電部の外縁端部に近接配置され, 前記導電部は,放射体として作用することを特徴とする物品。」(下線は,請求人が手続補正書において補正箇所を示すものとして付加したものを援用したものである。) という発明(以下,「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。 2.補正の適否 (1)新規事項の有無,補正の目的要件,シフト補正の有無 上記補正の内容は,以下の補正事項a.?c.のとおりである。 a.「無線IC」が「ループ状電極」に接続されていることを特定する補正。 b.「ループ状電極のループ開口が前記導電部の外縁端部の外側に位置する」ことを特定する補正。 c.「縁端部」を「外縁端部」に特定する補正。 そこで,上記補正事項について検討すると,補正事項aは,無線ICとループ状電極との接続関係をさらに特定する補正であり,補正事項b.は,ループ状電極に関し,そのループ開口と外縁端部との位置関係を特定する補正である。そして,補正事項c.は,「縁端部」を「外縁端部」に特定する補正である。したがって,補正事項a.?c.は,いずれも願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたことは明らかであり,構成をさらに特定する補正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し,特許法第17条の2第3項(新規事項),及び同法第17条の2第5項第2号(補正の目的)の規定に適合している。また,特許法第17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反しないことも明らかである。 (2)独立特許要件 上記補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,補正後の発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて,以下に検討する。 [補正後の発明] 上記「1.本願発明と補正後の発明」の項において,「補正後の発明」として認定したとおりである。 [引用発明] 原査定の拒絶理由に引用された特開平11-25244号公報(以下,「引用例1」という。)には,「非接触データキャリアパッケージ」に関して,図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,非接触形のデータキャリアパッケージに関する。 【0002】 【従来の技術】非接触データキャリアシステムは,物品等に取り付けられる非接触デーキャリアと呼ばれる応答器と,ホスト側に接続される質問器とで構成され,これら応答器と質問器との間で,磁気,誘導電磁界,マイクロ波(電波)等の伝送媒体を介して非接触で交信を行う点を特徴とする。」(2頁1欄) ロ.「【0011】本発明はこのような事情を鑑みてなされたもので,コイルアンテナの大径化に拠らずに交信距離を飛躍的に引き延ばすことのできる非接触データキャリアパッケージの提供を目的としている。」(2頁2欄) ハ.「【0018】これらの図において,1は非接触データキャリアの内部部品であり,この内部部品1は例えば樹脂被覆の施された銅線等からなるアンテナコイル2と,図5に示した応答器(非接触データキャリア)20の各機能部(送受信アンテナを除く)を内蔵したICチップが実装された基板3から構成される。この非接触データキャリアの内部部品1は,樹脂製フィルム4によって全面被覆が施された導電性シート5と重ね合わされ,さらに外装樹脂6によって全体を包囲するように一体化されている。」(3頁3欄) ニ.「【0026】(実施例1)図3,図4に示すように,直径0.07mmの銅線を用いて,内径10mm,外形18mm,厚さ1.2mmの円形コイルを作製しアンテナコイル2とした。次に,アンテナコイル2の両端を,記憶素子などの回路素子を実装した8mm角の基板3の端子にはんだ付けし,アンテナコイル2と回路素子を電気的,物理的に接合した。 【0027】一方,電気伝導性のあるシートとして,厚さ0.05mmのアルミ箔を46×76mmの長方形状に加工した後,一つのコーナから16×16mmの位置を中心とする半径6mmの円形の穴(第1の切欠部5a)を開け,さらにそのコーナから16×16mmの正方形部分を切り取って(第2の切欠部5b),こうして製作された導電性シート5をポリエチレンフィルム4により包囲した。 【0028】次に,アンテナコイル2の放射面の中心部を含む一部が円形穴(第1の切欠部5a)から露出するように両者を重ね合わせた後,全体を塩化ビニールシート6により包囲し,非接触データキャリアパッケージとした。 【0029】そして導電性シートを設けない点を除いて同1条件で作製された非接触データキャリアパッケージと本実施例の非接触データキャリアパッケージとで交信距離を比較したところ,導電性シートのパッケージの交信距離は210mmであったのに対して,本実施例のパッケージの交信距離は260mmまで交信距離が伸びた。」(3頁4欄) 上記摘記事項の記載及び図3,4,並びにこの分野における技術常識を考慮すると, a.上記摘記事項イ.によれば,引用例1には物品等に取り付けられる非接触デーキャリアについて記載されている。 b.上記摘記事項ニ.及び図3,4によれば,引用例1に記載されたものは,基板3に実装された記憶素子などの回路素子と,当該回路素子と接続された,内径10mmの円形コイルであるアンテナコイル2を有している。また,【0027】【0028】段落によれば,引用例1に記載されたものは,導電性シート5を有しており,当該導電性シート5には,図3も参酌すれば,その縁に連続するように半径6mmの円形の穴が形成されている。 そして,図3とともに,断面図である図4も参照すると,導電性シート5に形成された半径6mm(すなわち,直径12mm)の穴の内側に,これよりも径の小さいアンテナコイル2の内径(10mm)が収まるように,アンテナコイル2と導電性シート5に形成された穴とが重ね合わされていると理解するのが自然である。また,アンテナコイル2と導電性シート5とが近接配置されていることは明らかである。そして,アンテナコイル2と導電性シート5とが近接配置されていることから,アンテナコイル2と導電性シート5に形成された穴の周辺部分とは電磁界的に影響を及ぼし合うことは自明であり,アンテナコイル2は導電性シート5に形成された穴の周辺部分と電磁界結合されているということができる。 c.基板3に実装された回路素子に関して,上記摘記事項ハ.には,図3,4とは別の実施例に係る図1,2に関する記述ではあるものの,「図5に示した応答器(非接触データキャリア)20の各機能部(送受信アンテナを除く)を内蔵したICチップが実装された基板3」と記載され,基板3には回路素子としてICチップが実装されていることが記載されている。ここで,上記摘記事項ニ.及び図3,4に記載された実施例における回路素子も,非接触データキャリアとして動作するのであるから,同様のICチップであると考えるのが自然であり,ICチップがアンテナコイル2に接続されているということができる。 d.上記b.で検討したように,アンテナコイル2と導電性シート5とは電磁界結合されており,上記摘記事項ロ.に記載されているように「交信距離を飛躍的に引き延ばす」ものであることを踏まえれば,「導電性シート5」は放射体として作用していると考えるのが自然である。 したがって,摘記した引用例1の記載及び図面を総合すると,引用例1には以下のような発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 (引用発明) 「ICチップと, 導電性シートと, を有する非接触データキャリアパッケージであって, 前記ICチップに接続されたアンテナコイルを有し, 前記アンテナコイルは,前記導電性シートの縁に連続するように形成された円形の穴の内側に,前記アンテナコイルの内径が収まるように,前記アンテナコイルと前記導電性シートに形成された穴とが重ね合わされるように配置され,かつ,前記導電性シートに形成された穴の周辺部分に電磁界結合されるように近接配置されており, 前記導電性シートは放射体として作用する 非接触データキャリアパッケージ。」 [技術事項] 原査定の拒絶理由に引用された特開2004-172919号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は携帯端末に関し,特に折り畳み式の無線携帯端末のアンテナの改良に関するものである。」(3頁9?12行) ロ.「【0034】 次に,本発明の動作について説明する。本発明の内蔵アンテナは,上部筐体前面部3と下部筐体回路部11との間に,給電線路13を用いて給電を行うことにより,上部筐体前面部3と下部筐体回路部11とを放射素子として構成されるようになっている。上部筐体1と下部筐体2間に給電を行う構成のために,ダイポールアンテナと同じ特性が得られることになる。」(6頁34?39行) また,原査定の拒絶理由に引用された特開2002-335180号公報(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。 ハ.「【請求項1】 ヒンジ部を介して結合された第1および第2のケースを含む折り畳み可能な携帯電話機であって, それぞれ前記第1および第2のケース内に設けられた第1および第2の電子回路部,およびそれぞれ前記第1および第2の電子回路部をシールドするための第1および第2のシールド部材を備え, 前記第1および第2のシールド部材のうちの少なくとも一方は前記携帯電話機のアンテナを兼ねている,携帯電話機。」(2頁1欄) 上記摘記事項イ.?ハ.の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると, 引用例2には,導電体で構成される「上部筐体前面部3」と「下部筐体回路部11」を,その本来的な用途である筐体や回路部として使うとともに,アンテナとして使用されることが記載されている。 また,引用例3には,電子回路部をシールドするための導電体で構成されるシールド部材を,その本来的な用途の他に携帯電話機のアンテナとして兼用することが記載されている。 そうしてみると,上記引用例2,3によれば,以下のような事項(以下,「技術事項」という。)が公知技術であると認められる。 (技術事項) 「導電体で構成される部材を,その本来的な用途に加えてアンテナとしても利用する技術。」 [対比] 補正後の発明を引用発明と対比すると, a.引用発明の「ICチップ」は,「アンテナコイル」に接続され,非接触データキャリアとしての動作を行うものであるから,無線用のICであることは明らかであり,補正後の発明の「無線IC」に相当する。 b.引用発明の「導電性シート」は,補正後の発明の「導電部」のように,「物品の一部を構成し,物品が本来的に備える,所定の広がりを有」するか明らかではないものの,その一部が「アンテナコイル」と電磁界結合する導電性を有する部位であるという点では,補正後の発明の「導電部」に対応する。 c.引用発明の「アンテナコイル」はループ形状を有し,ICチップに接続され,導電性シートに電磁界結合するものであるから,補正後の発明の「ループ状電極」に対応する。 d.補正後の発明の「前記ループ状電極のループ開口が前記導電部の外縁端部の外側に位置する」とは,ループ状の開口部を形成するループの内側部分が,導電部の外縁端部,すなわち,外側の輪郭を形成する縁の部分よりも外側に位置する意と解される。これに対して,引用発明は「前記導電性シートの縁に連続するように形成された円形の穴の内側に,前記アンテナコイルの内径が収まるように,前記アンテナコイルと前記導電性シートに形成された穴とが重ね合わされ」るものであるが,このように構成すれば,アンテナコイルの内側部分は導電性シートの縁に連続するように形成された円形の穴の内側に位置するから,アンテナコイルの内側部分は,導電性シートの輪郭の外側に位置することになる。したがって,この点で引用発明は補正後の発明と格別相違しない。 e.引用発明の「前記導電性シートに形成された穴の周辺部分に電磁界結合されるように近接配置され」る構成は,補正後の発明の「前記導電部の外縁端部に電磁界結合するように,前記導電部の外縁端部に近接配置され」る構成に相当する。 f.引用発明の「非接触データキャリアパッケージ」は物品ということもできるから,補正後の発明の「物品」に対応する。 したがって,両者は以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「 無線ICと, 導電部と, を備える物品であって, 前記無線ICに接続されたループ状電極を備え, 前記ループ状電極は,前記ループ状電極のループ開口が前記導電部の外縁端部の外側に位置するように,且つ,前記導電部の外縁端部に電磁界結合するように,前記導電部の外縁端部に近接配置され, 前記導電部は,放射体として作用することを特徴とする物品。」 (相違点) 「導電部」に関して,補正後の発明では「物品の一部を構成し,物品が本来的に備える,所定の広がりを有する」のに対して,引用発明では明らかではない点。 [判断] 上記「技術事項」の欄で示したように,「導電体で構成される部材を,その本来的な用途に加えてアンテナとしても利用する技術」が知られている。そして,当該技術は構成を兼用することによって小型化が期待でき,またアンテナを大きくできることから高感度化につながるから,小型化,高感度化という周知の課題に対応する技術であることは明らかである。そうしてみると,引用発明においても,周知の課題を解決するために上記技術事項を適用することは,当業者が格別の創意工夫を必要とせずになし得た程度の事項にすぎない。 そして,引用発明に上記技術事項を適用すれば,導電性シートとして,他の用途で利用されている導体を兼用して使用することになるから,導電性シートは,本来的に備える元々の用途にために必要な所定の広がりを有することになる。 したがって,導電部を「物品の一部を構成し,物品が本来的に備える,所定の広がりを有する導電部」とすることは,当業者が容易に想到できた事項にすぎない。 そして,補正後の発明が奏する効果も,引用発明,引用例2,3に記載された技術事項,並びに周知技術から,容易に予測できる範囲内のものである。 よって,補正後の発明は,引用発明,引用例2,3に記載された技術事項,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定によって,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。 3.結語 以上のとおり,本件補正は,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合していない。 したがって,本件補正は,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成26年7月15日に提出された手続補正書による手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりのものである。 2.引用発明及び技術事項 引用発明,引用例2,3に記載された技術事項及び周知技術は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で引用発明,引用例2,3に記載された技術事項及び周知技術として認定したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。 そうすると,本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり,引用発明,引用例2,3に記載された技術事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例2,3に記載された技術事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-06-26 |
結審通知日 | 2015-06-30 |
審決日 | 2015-07-21 |
出願番号 | 特願2012-214601(P2012-214601) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01Q)
P 1 8・ 121- Z (H01Q) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中木 努、高橋 宣博 |
特許庁審判長 |
新川 圭二 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 中野 浩昌 |
発明の名称 | 物品 |
代理人 | 特許業務法人 楓国際特許事務所 |