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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1305008
審判番号 不服2013-22276  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-13 
確定日 2015-08-24 
事件の表示 特願2011-509004「2,3,3,3‐トリフルオロプロペンの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月19日国際公開、WO2009/138764、平成23年7月21日国内公表、特表2011-520856〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2009年5月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年5月15日(GB)英国)を国際出願日とする出願であって、平成23年1月14日に手続補正書が提出され、平成25年2月8日付けで拒絶理由が通知され、同年5月13日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月11日付けで拒絶査定され、これに対して同年11月13日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成25年11月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「(a)水素化触媒の存在下で1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロペン(1216)を水素と接触させて1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(236ea)を生成すること、
(b)236eaを脱フッ化水素して1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(1225ye)を生成すること、
(c)水素化触媒の存在下で1225yeを水素と接触させて1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(245eb)を生成すること、および
(d)245ebを脱フッ化水素して1234yfを生成すること
を含んでなり、
工程(a)および(c)が同一の反応器で同時に行われ、かつ、工程(a)?(d)の各々が、腐食に抵抗性である1種以上の材料で作製された装置において行われる、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(1234yf)の製造方法。」

第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成25年2月8日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由1であり、その概要は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願の日前の外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、その出願後に国際公開がされた引用出願2の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)、というものである。そして、その引用出願2は、特願2011-501316号(特表2011-515457号)(以下「先願」という。)である。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、先願の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 先願明細書の記載事項
先願(特願2011-501316号)は、この出願の優先権主張の日(2008年5月15日)前である2008年3月28日を優先日として、この出願の出願日前の2009年3月27日に国際出願され、この出願の優先権主張の日後に国際公開(国際公開第2009/118632号)され、その後、特許法第184条の4第1項に規定する翻訳文が提出された、国際特許出願であるPCT/IB2009/005095号が、国内移行されたものである。先願の、国際出願日における国際出願の明細書(以下「先願明細書」という。)には、以下の事項が記載されている(以下、記載箇所は、先願明細書における記載箇所と、上記先願の翻訳文が記載されている特表2011-515457号公報(以下「公表公報」という。)における記載箇所の両方を示す。)。訳文により示す。
そして、以下の事項は、先願における優先権主張の基礎出願であるフランス国出願08/01727号(2008年3月28日出願)の出願当初明細書にも記載されている。
(A)「1.(i)ヘキサフルオロプロピレンを1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンに水素化し;
(ii)前記工程で得られた1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペンへと脱フッ化水素化し;
(iii)前記工程で得られた1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペンを1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンに水素化し;
(iv)前記工程で得られた1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンを2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンに脱フッ化水素化する
工程を含んでなる、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンの連続気相製造法。
・・・・・・・・・・・・・・・
10.水素化工程(i)及び(iii)を同一反応器中で、好ましくは同一触媒を用いて行い、分離工程が任意的に存在する請求項1?9のいずれか1項に記載の方法。」(20頁3行?15行、21頁28?32行、請求の範囲の請求項1、10;公表公報の1頁)
(B)「水素化(hydrogenation)工程は、当業者に知られた常法で行う。当業者ならば、反応が実質的に定量的となるように操作条件を選択することができる。
これらの反応において使用できる触媒は、この目的で周知のものである。特に、第VIII族金属又はレニウムを基材とする触媒が挙げられる。この触媒は、例えば木炭、アルミナ、フッ化アルミニウムなどに担持させてもよいし、させなくてもよい(例えばラネーニッケル)。金属としては、白金又はパラジウム、特にパラジウム、有利には木炭又はアルミナに担持させたものを使用することが可能である。この金属は別の金属、例えば銀、銅、金、テルル、亜鉛、クロム、モリブデン又はタリウムと組み合わせることもできる。これらの水素化触媒は周知である。」(5頁23?37行;公表公報の段落【0018】?【0019】)
(C)「脱フッ化水素化(dehydrofluorination)反応は、当業者に知られた常法でも行われる。
・・・・・・・・・・・・・・・
反応は、ハロゲンを含む反応に使用される1つ又はそれ以上の反応器中で行う。このような反応器は当業者に知られており、例えばHastelloy(登録商標)、Inconel(登録商標)、Monel(登録商標)又はフルオロポリマーを基材とするライニングを含むことができる。反応器は、必要に応じて熱交換手段を含むこともできる。」(6頁34?35行、10頁19?25行;公表公報の段落【0026】、【0045】)
(D)「このように、本発明に係るプロセスにおいては、考えられる分離の必要性に応じて、生成物流を制御することが可能である。形成されたHFは、各脱フッ化水素化反応後に、これら2つの反応の間に、又はプロセスの最後においてのみ、分離させることができる。HFは、洗浄又は蒸留によって分離させることができる。形成される可能性があるHFとの共沸混合物もまた、それらが形成された工程の後に、又は次の工程の後に、又はプロセスの最後に分離させることができる。このように、これらの分離工程は、種々の要求に応じて、プロセス中に配置する。一部の分離化合物のみ(例えば未反応236ea)を循還させ且つ他の分離成分を他のプロセスへと送り出すことを想定することも可能である。」(14頁15?28行;公表公報の段落【0061】)
(E)「水素化工程(i)及び(iii)を同一反応器中で、好ましくは同一触媒を用いて行うこと、並びに/又は脱フッ化水素化工程(ii)及び(iv)を同一反応器中で、好ましくは同一触媒を用いて行うことも、本プロセスにおいて考えられる。WO2007/117391は、236ea及び245ebの同時脱フッ化水素化による1225zeと1234yfの混合物の製造を記載しているが、これら2種の化合物は、そのプロセス後に分離されない。」(15頁33行?16頁3行;公表公報の段落【0066】)
(F)「同時水素化は第1の反応器中で行い、第1の反応器の出口流は236ea及び245ebを含む。出口流を分離し、236eaは第1の脱フッ化水素化反応器に送り、245ebは第2の脱フッ化水素化反応器に送る。第1の脱フッ化水素化反応器からの出口流は主に1225ye及び、任意的に、未反応236eaを含む。第1の脱フッ化水素化反応器からの出口流は、水素化反応器に送って、この1225yeから化合物245ebを生成させることができる。分離させた236eaは、任意的に、この脱フッ化水素化反応器の頂部に循還させることができる。」(16頁4?15行;公表公報の段落【0067】)
(G)「実施例1.HFPの236eaへの水素化
触媒10gを16cm^(3) の固定床の形態で含む反応器を用いる。触媒は2%Pd/Cペレット型の触媒である。圧力は1バールとする。
以下の結果が得られる(MRはモル比を意味する)。

」(17頁18?25行;公表公報の段落【0071】?【0073】)
(H)「実施例2.236eaの1225yeへの脱フッ化水素化
脱フッ化水素化触媒の調製
使用する触媒はNi-Cr/AlF_(3) 触媒であり、これを以下のようにして調製する。
先行する工程においてGrace HSAアルミナのフッ素化によって得られた担体343gを、約280℃において空気及びフッ化水素酸(空気中のこの酸の容積濃度は5?10%)を用いて固定床としてロータリーエバポレーター中に入れる。Grace HSA出発アルミナは以下の物理化学的特性を有する:
-形態 :直径0.5?2mmのビーズ
-BET表面積 :220m^(2)/g
-気孔容積 :1.3cm^(3)/g
これとは別に、以下の2種の水溶液を調製する:
(a)以下:
-三塩化クロム : 55g
-塩化ニッケル六水和物 :130g
-水 : 63g
を含む塩化ニッケル補充クロム溶液
(b)以下:
-メタノール : 81g
-水 : 8g
を含むメタノール溶液。
これら2種の溶液を温度40℃で大気圧において約2時間にわたって、撹拌しながら担体上に同時に投入する。窒素下における熟成工程後、触媒を窒素下で、次いで真空下で65℃において、次いで約90℃において6時間乾燥させる。
含浸された固体500gをインコネル(Inconel)管型反応器中に入れる。触媒を最初に、大気圧において窒素流下で低温で、次いで320℃までの温度で乾燥させる。次いで、触媒を、フッ化水素酸/窒素混合物(窒素中のこの酸の容積濃度は5?10%)の存在下で320℃において、次いで390℃までの温度においてフッ素化させる。その後、HFの供給を停止させる。窒素によるフラッシュを390℃において15分間続けてから、触媒を窒素流下で60℃まで冷却する。
活性化後の触媒の特性は以下の通りである:
-BET表面積 :40m^(2)/g
-気孔容積 :0.4cm^(3)/g
-化学組成 :
・Al:25重量%
・F :58重量%
・Cr:5.3重量%
・Ni:6.4重量%.
触媒20gを23cm^(3) 固定床の形態で含む反応器を用いる。圧力は1バールとする。
以下の結果が得られる(MRはモル比を意味する)。

」(17頁26行?19頁6行;公表公報の段落【0074】?【0080】)
(I)「実施例3:1225yeの245ebへの水素化
触媒10g(実施例1に用いたのと同一)を16cm^(3) 固定床の形態で含む反応器を用いる。圧力は1バールとする。
以下の結果が得られる(MRはモル比を意味する)。

」(19頁7?14行;公表公報の段落【0081】?【0083】)
(J)「実施例4:245ebの1234yfへの脱フッ化水素化
触媒10g(実施例2に用いたのと同一)を12cm^(3) 固定床の形態で含む反応器を用いる。圧力は1バールとする。
以下の結果が得られる(MRはモル比を意味する)。

」(19頁15?22行;公表公報の段落【0084】?【0086】)

2 周知技術について

(1)周知技術を示す文献
文献1:特開平8-169851号公報
文献2:特開平8-165256号公報
文献3:特表平8-510739号公報
文献4:国際公開第2008/030440号

(2)周知技術を示す文献の記載事項

ア 文献1は、特開平8-169851号公報(公開日1996年7月2日)であり、以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロペンと水素とをパラジウム触媒の存在下にガス状態で反応させて1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを製造するに際し、前記パラジウム触媒を活性炭に担持する、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1b)「【0013】この水素添加反応では、反応温度を制御することにより、通常98%以上の高い選択率で目的の1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンが得られるが、このとき副反応として炭素-フッ素結合の還元反応が進行し、結果としてHFが発生する。このHFは、通常パラジウム触媒の担体として知られているアルミナやシリカ、チタニア、ジルコニアを変質させてしまう。このため、これらアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアに担持されたパラジウム触媒は、長時間の反応において触媒活性を低下させてしまう。」
(1c)「【0108】実施例1
中央に目皿を備え、熱電対温度計用の内管を備えた内径20mm、長さ400mmのSUS316製反応管に、活性炭に3%濃度で担持されたパラジウム触媒5.12gを充填し、窒素を40cc/minで2時間流通させた。
【0109】その後、窒素を水素に変え、同流量で流しながら、電気炉にて200℃に加熱し、2時間保持した。その後、水素を流しながら室温まで冷却し、外部加熱装置を取り除き、反応管を風冷できるようにした。
【0110】水素60cc/min、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロペン37cc/minを反応管に流通させた。
【0111】生成ガスは、水洗後、ガスクロマトグラフィにより分析を行った。5時間後の結果は、転化率100%、選択率99.5%であり、1000時間反応後も転化率、選択率共に変化なかった。」
(1d)「【0113】実施例2
中央に目皿を備え、熱電対温度計用の内管を備えた内径20mm、長さ400mmのSUS316製反応管に、活性炭に3%濃度で担持されたパラジウム触媒5.12gを充填し、窒素を40cc/minで2時間流通させた。
【0114】その後、窒素を水素に変え、同流量で流しながら、電気炉にて200℃に加熱し、2時間保持した。その後、水素を流しながら室温まで冷却し、外部加熱装置を取り除き、反応管を風冷できるようにした。
【0115】水素40cc/min、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロペン37cc/minを大気圧下で反応管に流通させた。流通開始に伴い、反応温度が上昇し、125℃で安定した。
【0116】大気圧下の反応管出口ガスを、ガスクロマトグラフィにより分析を行った結果は、転化率100%、選択率99.5%であった。」

イ 文献2は、特開平8-165256号公報(公開日1996年6月25日)であり、以下の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロペンを、硫酸バリウム及び/又は活性炭からなる担体に担持したパラジウム触媒の存在下に液相中で水素と反応させる、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(2b)「【0015】実施例1
硫酸バリウム粉末に5%の濃度で担持されたパラジウム触媒(3g)と、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロペン(60g)とを100mlのSUS316製オートクレーブに仕込み、攪拌しながら水素ガスを室温で10kg/cm^(2)Gまで導入した。水素ガスが消費される毎に水素ガスを追加し、水素がもはや消費されなくなるまで反応を続けた。
【0016】反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析を行った。原料の転化率は100%であり、目的とする1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの選択率は99%であった。」
(2c)「【0017】実施例2
活性炭粉末に5%濃度で担持されたパラジウム触媒(0.6g)と、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロペン(60g)とを100mlのSUS316製オートクレーブに仕込み、攪拌しながら水素ガスを室温で10kg/cm^(2)Gまで導入した。水素ガスが消費される毎に水素ガスを追加し、水素がもはや消費されなくなるまで反応を続けた。
【0018】反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィーにより分析を行った。原料の転化率は100%であり、目的とする1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの選択率は98%であった。」

ウ 文献3は、特表平8-510739号公報(公開日1996年11月12日)であり、以下の事項が記載されている。
(3a)「1.高められた温度で気相中でフッ化アルミニウム、フッ素化アルミナ、フッ化アルミニウム上の金属、フッ素化アルミナ上の金属及びこれらの混合物から成る群から選ばれた触媒上でCF_(3)CHFCHF_(2) を脱ハロゲン化水素させて、CF_(3)CF=CHF及びHFを含む生成物を生成させるステップ、並びに
気相中の前記CF_(3)CF=CHFを水素化触媒上でHFの存在下で水素と反応させてCF_(3)CHFCH_(2)Fを生成させるステップ
を含んで成る、CF_(3)CHFCH_(2)Fを製造するための方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1)
(3b)「水素化及び脱フッ化水素反応は、任意の適切な反応器、例えば固定及び流動床反応器中で実施することができる。反応容器は、フッ化水素の腐食効果に耐える材料例えばInconel^(TM) ニッケル合金及びHastelloy^(TM) ニッケル合金で作らなければならない。」(6頁13?16行)
(3c)「実施例1
・・・・・・・・・・・・・・・
C.HFC-1225eyの水素化
1インチ(2.54cm)のMonel^(TM) ニッケル合金圧縮継手を反応器として使用した(1.91cmx6.99cmの内部空洞寸法)。この反応器を酸洗浄炭素上の0.5%Pd(5.41g、15mL)で充填した。反応器を153℃に加熱し、そして上で述べたB(CF_(3)CHFCHF_(2) の脱フッ化水素)からの反応器流出物(CF_(3)CF=CHF及びHFの両方を含む)を反応器中に導入した。これと共に、30sccm(5.0x10^(-7)m^(3)/s)のH_(2) を添加した。この反応からのガス状生成物は、CF_(3)CHFCF_(3)(HFC-227ea)、0.2%;CF_(3)CF=CHF(HFC-1225ey)、0.1%;CF_(3)CHFCHF_(2)(HFC-236ea)、6.3%;CF_(3)CHFCH_(3)(HFC-254eb)、7.2%;CF_(3)CHFCH_(2)F(HFC-245eb)、85.3%と分析された。
これは、94%の転化率、及びHFC-236eaからHFC-245ebへの91%の選択率に相当する。」(6頁末行?7頁下から2行)
(3d)「実施例2
・・・・・・・・・・・・・・・
C.HFC-1225eyの水素化
1インチ(2.54cm)のMonel^(TM) ニッケル合金圧縮継手を反応器として使用した(1.91cmx6.99cmの内部空洞寸法)。この反応器を酸洗浄炭素上の0.5%Pd(5.61g、15cc)で充填した。反応器を153℃に加熱し、そして上で述べたB(HFC-236eaの脱フッ化水素)からの反応器流出物(CF_(3)CF=CHF及びHFの両方を含む)を反応器中に導入した。これと共に、45sccm(7.5x10^(-7)m^(3)/s)のH_(2) を添加した。この反応からのガス状生成物は、CF_(3)CHFCHF_(2)(HFC-236ea)、3.6%;CF_(3)CHFCH_(3)(HFC-254eb)、14.8%;CF_(3)CHFCH_(2)F(HFC-245eb)、80.9%と分析された。その他の痕跡の不純物もまた観察された。これは、96%の転化率、及びHFC-236eaからHFC-245ebへの84%の選択率に相当する。」(7頁末行?9頁4行)

エ 文献4は、国際公開第2008/030440号(公開日2008年3月13日)であり、以下の事項が記載されている。訳文により示す。
(4a)「1.以下の工程を含むCF_(3)CF=CH_(2) を製造する方法:
(a)水素化触媒を含有する反応容器に水素及びCF_(3)CF=CHFを加え;
(b)当該CF_(3)CF=CHFと水素とを当該水素化触媒上で反応させてCF_(3)CHFCH_(2)Fを製造し;そして
(c)CF_(3)CHFCH_(2)Fを下記のグループから選択された触媒上で気相にて脱ハロゲン化水素化してCF_(3)CF=CH_(2) を製造する。
フッ化アルミニウム;ガンマアルミナ、フッ化アルミナ;フッ化アルミニウム上の金属;フッ素化されたアルミナ上の金属;マグネシウムの酸化物、フッ化物、及び酸化フッ素化物;亜鉛及びマグネシウムと亜鉛の混合物及び/又はアルミニウム;酸化ランタン及びフッ素化ランタン酸化物;酸化クロム、フッ素化酸化クロム、コバルトで置換された酸化クロム及び立方晶三フッ化クロム;炭素、酸で洗浄した炭素、活性炭、三次元マトリックス炭素質材料;及び炭素上に支持された金属」(26頁、請求の範囲の請求項1)
(4b)「反応器、蒸留塔、及びそれらの関連供給ライン、流出物ライン、及び本発明の方法を適用するために用いられる関連ユニットは、フッ化水素及び塩化水素に耐性の材料で構成されるべきである。フッ素化技術に周知の構造の典型的な材料は、ステンレス鋼、特にオーステナイト型のもの;周知の高ニッケル合金、特にモネル(商標)ニッケル-銅合金、ハステロイ(商標)ニッケルベース合金、インコネル(商標)ニッケルクロム合金、及び銅被覆鋼を含む。
凡例
HFC-245ebはCF_(3)CHFCH_(2)Fを表す。
HFC-254ebはCF_(3)CHFCH_(3) を表す。
HFC-1225yeはE-又はZ-CF_(3)CF=CHFを表す。
HFC-1234yfはCF_(3)CF=CH_(2) を表す。
HFC-1234zeはE-又はZ-CF_(3)CH=CHFを表す。」(19頁8?20行)
(4c)「例1
例1は、HFC-1225yeの水素化を実証する。
インコネル管(外径5/8インチ(1.59cm))を酸で洗浄した活性炭(6×10メッシュ)上の0.5%パラジウム16cc(14.45グラム)で充填した。触媒を20sccm(3.33×10^(-7) 立方メートル/秒)の窒素流通下で400℃で7分間加熱して、次いで100℃に下げて13分間維持した。40sccm(6.67×10^(-7) 立方メートル/秒)の窒素流通下で45分かけて温度を200℃に上昇させた。窒素の流量は20sccm(3.33×10^(-7) 立方メートル/秒)に下げ、そして60分間水素を10sccm(1.67×10^(-7) 立方メートル/秒)導入した。同じ窒素の流量を維持しながら、水素を20sccm(3.33×10^(-7) 立方メートル/秒)に増加させた。水素の流量を維持しながら、60分間窒素の流量は10sccm(1.67×10^(-7) 立方メートル/秒)に下げた。窒素を遮断し、水素を40sccm(6.67×10^(-7) 立方メートル/秒)に増加し130分間維持した。
反応器の温度を85℃まで下げ、HFC-1225yeを61sccm(1.02×10^(-6) 立方メートル/秒)、水素を85sccm(1.42×10^(-6) 立方メートル/秒)供給した。反応器の流出物は、GCMSにより分析した結果、92%のHFC-245ebと8%のHFC-254ebを含んでいた。」(19頁26行?20頁11行)

3 先願明細書に記載された発明
先願明細書には、請求項1及び請求項10に係る発明として、それぞれ、
「(i)ヘキサフルオロプロピレンを1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンに水素化し;
(ii)前記工程で得られた1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペンへと脱フッ化水素化し;
(iii)前記工程で得られた1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペンを1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンに水素化し;
(iv)前記工程で得られた1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンを2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンに脱フッ化水素化する
工程を含んでなる、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンの連続気相製造法。」
及び
「水素化工程(i)及び(iii)を同一反応器中で、好ましくは同一触媒を用いて行い、分離工程が任意的に存在する請求項1?9のいずれか1項に記載の方法。」
の発明が記載されている(摘示(A))。また、水素化(hydrogenation)工程について「当業者に知られた常法で行う。・・・これらの反応において使用できる触媒は、この目的で周知のものである。・・・これらの水素化触媒は周知である」こと(摘示(B))、及び、脱フッ化水素化(dehydrofluorination)反応について「反応は、ハロゲンを含む反応に使用される1つ又はそれ以上の反応器中で行う。このような反応器は当業者に知られており、例えばHastelloy(登録商標)、Inconel(登録商標)、Monel(登録商標)又はフルオロポリマーを基材とするライニングを含むことができる」こと(摘示(C))が記載されている。
してみると、先願明細書には、
「(i)水素化触媒の存在下でヘキサフルオロプロピレンを1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンに水素化し;
(ii)前記工程で得られた1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンを1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペンへと脱フッ化水素化し;
(iii)水素化触媒の存在下で前記工程で得られた1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペンを1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンに水素化し;
(iv)前記工程で得られた1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパンを2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンに脱フッ化水素化する
工程を含んでなり、
水素化工程(i)及び(iii)を同一反応器中で、同一水素化触媒を用いて行い、脱フッ化水素化反応をHastelloy(登録商標)、Inconel(登録商標)、Monel(登録商標)又はフルオロポリマーを基材とするライニングなどの、ハロゲンを含む反応に使用される1つ又はそれ以上の反応器中で行う、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンの連続気相製造法」
の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているといえる。

4 対比
本願発明と先願発明とを対比すると、先願発明の「ヘキサフルオロプロピレン」、「1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン」、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペン」、「1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン」及び「2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン」は、それぞれ、本願発明の「1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロペン(1216)」、「1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(236ea)」、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(1225ye)」、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(245eb)」及び「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(1234yf)」に相当する。
また、先願発明において、「水素化触媒の存在下でヘキサフルオロプロピレンを1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンに水素化」する際には、ヘキサフルオロプロピレンを水素と接触させていることは明らかである。
そうすると、先願発明の「(i)」、「(ii)」、「(iii)」、及び「(iv)」の工程は、それぞれ、本願発明の「(a)」、「(b)」、「(c)」、及び「(d)」の工程に相当する。
そして、先願発明における「フッ化水素化反応をHastelloy(登録商標)、Inconel(登録商標)、Monel(登録商標)又はフルオロポリマーを基材とするライニングなどの、ハロゲンを含む反応に使用される1つ又はそれ以上の反応器中で行う」は、Hastelloy(登録商標)やInconel(登録商標)はフッ化水素化反応などの腐食に抵抗性である材料である(例えば摘示(3b)及び(4b))から、本願発明の「腐食に抵抗性である材料で作製された装置において行われる」に相当し、また、フッ化水素化反応は先願発明の工程(ii)及び工程(iv)(審決注:本願発明の工程(b)及び(d)に対応する。)にて行われるものである。
以上によれば、本願発明と先願発明とは、
「(a)水素化触媒の存在下で1,1,2,3,3,3‐ヘキサフルオロプロペン(1216)を水素と接触させて1,1,2,3,3,3‐ヘキサフルオロプロパン(236ea)を生成すること、
(b)236eaを脱フッ化水素して1,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロペン(1225ye)を生成すること、
(c)水素化触媒の存在下で1225yeを水素と接触させて1,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロパン(245eb)を生成すること、および
(d)245ebを脱フッ化水素して1234yfを生成すること
を含んでなり、
工程(a)および(c)が同一の反応器で同時に行われ、かつ、工程(b)および(d)が、腐食に抵抗性である材料で作製された装置において行われる、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(1234yf)の製造方法」
である点で一致し、装置について、本願発明では「工程(a)?(d)の各々が、腐食に抵抗性である1種以上の材料で作製された装置において行われる」と特定されているのに対し、先願発明では、工程(b)及び(d)に対応する工程が、「腐食に抵抗性である材料で作製された装置において行われる」ことは記載されているものの、工程(a)及び(c)に対応する工程が、「腐食に抵抗性である材料で作製された装置において行われる」ことは特に明らかにされていない点でのみ、一応相違する。

5 一応の相違点についての検討
先願明細書には、工程(a)及び(c)に対応する工程が腐食に抵抗性である材料で作製された装置において行われることは特に記載されていないが、工程(a)及び(c)に対応する工程が腐食に抵抗性である材料で作製された装置において行われることは、以下に示すように、先願明細書に記載されているに等しい事項であると認められるから、上記相違点は実質的な相違点には当たらない。

(1)化学反応工程において、腐食に抵抗性である材料で作製された装置を用いることは、先願発明においても工程(b)及び(d)に対応する工程でそのような材料の装置が用いられているように、普通に行われている。「工程(a)及び(c)が、腐食に抵抗性である材料で作製された装置において行われる」ことは、先願発明の発明特定事項である「装置」における事実上の選択肢の一つであるから、先願明細書に記載されているに等しい事項であると認められる。
したがって、上記相違点は実質的な相違点には当たらない。

(2)先願明細書には、「第1の脱フッ化水素化反応器からの出口流は、水素化反応器に送って、この1225yeから化合物245ebを生成させることができる」(摘示(F))と記載されているところ、「形成されたHFは・・・プロセスの最後においてのみ、分離させることができる」(摘示(D))という態様が記載されている。形成されたHFをプロセスの最後においてのみ分離させる場合には、形成されたフッ化水素(HF)は、工程(a)及び(c)に対応する工程が同一の反応器で同時に行われる際に、当該反応器中に含まれることになる。
そして、先願明細書には「反応は、ハロゲンを含む反応に使用される1つ又はそれ以上の反応器中で行う。このような反応器は当業者に知られており、例えばHastelloy(登録商標)、Inconel(登録商標)、Monel(登録商標)又はフルオロポリマーを基材とするライニングを含むことができる」(摘示(C))ことが記載されているから、フッ化水素(HF)を含む反応は、「例えばHastelloy(登録商標)、Inconel(登録商標)、Monel(登録商標)又はフルオロポリマーを基材とするライニング」のような「腐食に抵抗性である材料で作製された装置において行われる」ことが必要とされるのは明らかである。
してみると、先願発明は、工程(a)及び(c)に対応する工程においてフッ化水素の存在下で反応を行う態様を包含しているから、「工程(a)及び(c)が腐食に抵抗性である材料で作製された装置において行われる」ことは、先願明細書に記載されているに等しい事項であると認められる。
したがって、上記相違点は実質的な相違点には当たらない。

(3)先願明細書においては、工程(i)(本願発明の工程(a)に対応する。)で、水素化触媒であるパラジウム触媒の存在下でHFP(1216)を水素と接触させて236eaを製造している(摘示(G))が、当該製造方法においては副反応として炭素-フッ素結合の還元反応が進行し、結果としてフッ化水素(HF)が発生することが周知である(摘示(1b))。
また、本願発明の工程(a)及び(c)と同じ反応を、腐食に抵抗性である材料で作製された装置を用いて行うことは、周知であり、例えば、工程(a)に対応する工程について、摘示(1a)(1c)(1d)、摘示(2a)?(2c)に示され、工程(c)に対応する工程について、摘示(3a)?(3d)、摘示(4a)?(4c)に示されるように、ごく普通に行われている。
してみると、工程(a)及び(c)に対応する工程が腐食に抵抗性である材料で作製された装置において行われることは、先願明細書に記載されているに等しい事項であると認められる。
したがって、上記相違点は実質的な相違点には当たらない。

6 まとめ
以上のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者が先願明細書に記載された発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないので、本願発明は、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第184条の13の規定により読み替えて適用される特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-01 
結審通知日 2015-04-02 
審決日 2015-04-14 
出願番号 特願2011-509004(P2011-509004)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神野 将志福井 悟  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 中田 とし子
木村 敏康
発明の名称 2,3,3,3‐トリフルオロプロペンの製造方法  
代理人 高村 雅晴  
代理人 加島 広基  

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