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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1305015
審判番号 不服2014-9305  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-20 
確定日 2015-08-24 
事件の表示 特願2011-23175「(メタ)アクリル酸エステルおよびその原料化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年7月14日出願公開、特開2011-137163〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成16年10月28日(優先権主張 平成15年10月31日)に出願された特許出願である特願2004-314525号の一部を新たな特許出願として平成23年2月4日に出願された特許出願であって、平成23年2月7日に手続補正書が提出され、平成25年5月28日付けで拒絶理由が通知され、同年8月22日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成26年2月21日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年5月20日に拒絶査定不服審判請求がなされたものである。



第2 本願発明

本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年8月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりの、以下のとおりのものである。

「下記式(2a)?(2j)のいずれかで表される(メタ)アクリル酸エステル。
【化2】

(式中(2a)?(2i)中、Rは水素原子、またはメチル基を表す。)」



第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由3は、本願の請求項1?5に係る各発明は、その原出願の優先日前の日を出願日とする特許出願であって、その優先日後に出願公開がされた引用先願3(特願2003-137840号)の特許出願の出願日における特許請求の範囲又は明細書(以下、併せて「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないというものである。



第4 先願明細書の記載事項

特願2003-137840号の特許出願は、本願の原出願の優先日である平成15年10月31日より前の平成15年5月15日に、発明者を佐藤健一郎とし、出願人を富士写真フイルム株式会社としてなされた特許出願であって、本願の原出願の優先日後である平成16年12月2日に特開2004-341247号として出願公開がされたものであるところ、先願明細書には、次の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体による。

摘示ア 「【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含有する、酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解速度が増大する樹脂(A1)、
下記一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する、酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解速度が増大する樹脂(A2)、
活性光線又は放射線の照射により酸を発生する化合物(B)、及び
溶剤(C)
を含有するポジ型レジスト組成物。
【化1】

式(1)および式(2)において、
R_(1)は水素原子またはメチル基を表す。
R_(2)は置換基を有していてもよいメチル基を表す。
R_(3)は炭素数2?10のアルキル基を表す。
Zは、炭素原子と共に脂環式炭化水素基を形成するのに必要な原子団を表す。」(特許請求の範囲請求項1)

摘示イ 「【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、遠紫外光、とくにArFエキシマレーザー光を使用する上記ミクロフォトファブリケ-ション本来の性能向上技術における課題を解決するポジ型フォトレジスト組成物を提供することにあり、特に露光マージンを向上した遠紫外線露光用ポジ型フォトレジスト組成物を提供することにある。」(段落0009)

摘示ウ 「〔1〕酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解速度が増加する樹脂(樹脂(A1)および樹脂(A2)または樹脂(A))
本発明のレジスト組成物が含有する、酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解速度が増加する樹脂(酸分解性樹脂)は、一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する。一般式(1)で表される繰り返し単位と一般式(2)で表される繰り返し単位とは、別々の樹脂に含まれていても良いし、同じ樹脂に含まれていても良い。

【化5】

式(1)および式(2)において、
R_(1)は水素原子またはメチル基を表す。
R_(2)は置換基を有していてもよいメチル基を表す。
R_(3)は炭素数2?10のアルキル基を表す。
Zは、炭素原子と共に脂環式炭化水素基を形成するのに必要な原子団を表す。
R_(2)のメチル基は置換基を有していてもよい。
R_(3)の炭素数2?10のアルキル基は、直鎖型、分岐型または環状のいずれであってもよいが、直鎖型もしくは分岐型が好ましい。また、置換基を有していてもよい。R_(3)は、エチル基、プロピル基またはブチル基であることが好ましい。
R_(2)のメチル基およびR_(3)の炭素数2?10のアルキル基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、-COOR_(4)(R_(4)は炭素数1?10の直鎖、分岐または環状アルキル基を示す)で表される基等があげられる。
Zと炭素原子が形成する脂環式炭化水素基としては、単環式でも、多環式でもよい。具体的には、炭素数5以上のモノシクロ、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ構造等を有する基を挙げることができる。その炭素数は6?30個が好ましく、特に炭素数7?25個が好ましい。これらの脂環式炭化水素基は置換基を有していてもよい。
以下に、脂環式炭化水素基のうち、脂環式部分の構造例を示す。

【化7】


本発明においては、上記脂環式部分の好ましいものとしては、アダマンチル基、ノルアダマンチル基、デカリン残基、トリシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、ノルボルニル基、セドロール基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデカニル基、シクロドデカニル基を挙げることができる。より好ましくは、アダマンチル基、デカリン残基、ノルボルニル基、セドロール基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデカニル基、シクロドデカニル基、トリシクロデカニル基である。」(段落0019?0028)

摘示エ 「以下、一般式(1)で示される繰り返し単位に相当するモノマーの好ましい具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。

【化14】

」(段落0030?0036)



第5 先願明細書に記載された発明

先願明細書の上記記載から、「遠紫外光、とくにArFエキシマレーザー光を使用する上記ミクロフォトファブリケ-ション本来の性能向上技術における課題を解決するポジ型フォトレジスト組成物を提供する」、「特に露光マージンを向上した遠紫外線露光用ポジ型フォトレジスト組成物を提供する」(摘示イ)に際し、一般式(1)で表される繰り返し単位を含有する、酸の作用によりアルカリ現像液に対する溶解速度が増大する樹脂(A1)が記載されており、かかる樹脂(A1)の一般式(1)で示される繰り返し単位に相当するモノマーの好ましい具体例の中の一つとして、

という構造を有するモノマーが記載されている。
そうすると、先願明細書には、摘示ア?エの記載を総合すると、以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。



という構造で表されるモノマー。」



第6 対比及び判断

本願発明と先願発明とを対比する。
先願発明における「モノマー」は、その構造からみて、メタクリル酸エステルであって、本願発明における「(メタ)アクリル酸エステル」に相当することは明らかである。
そして、先願発明における(メタ)アクリル酸エステルのアルコール残基部分の構造は、本願発明における式(2b)で表される(メタ)アクリル酸エステルのアルコール残基部分の構造と完全に一致することは明らかである。
そうすると、両者は一致しており、相違点はない。



第7 請求人の主張の検討

請求人は、平成25年8月22日に提出された意見書において、「引用先願3には、確かに、審査官殿がご指摘のように、化学構造式として、本願請求項2?3に記載の式に相当する単量体または構成単位を開示しておりますが、その製法については何ら開示も示唆もされておらず、実施例においての使用例も全くありません。
すなわち、引用先願3は、適当に構造を組み立てることにより本願請求項2?3に記載の式に相当する単量体または構成単位を記載したにすぎず、本願出願時において公知化合物でないものと思量します。
なお、審査基準によれば、『また、ある発明が、当業者が当該刊行物の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、物の発明の場合はその物を作れ、また方法の発明の場合はその方法を使用できるものであることが明らかであるように刊行物に記載されていないときは、その発明を『引用発明』とすることができない。したがって、例えば、刊行物に化学物質名又は化学構造式によりその化学物質が示されている場合において、当業者が本願出願時の技術常識を参酌しても、当該化学物質を製造できることが明らかであるように記載されていないときは、当該化学物質は『引用発明』とはならない。』とされております。」と主張し、平成26年5月20日に提出された審判請求書において、「先願3で具体的に例示されている合成例は、本願請求項に係るモノマーとはその構造が異なるものです。モノマーは構造によりその合成方法は多種多様に異なるものですので、単なる構造式の例示のみでは、『出願時における技術常識に基づいて、物の発明の場合はその物を作れることが明らかであるように記載されている』とは言えないものと思料します。
よって、ポリマーの重合(合成)反応例の記載から、その原料となるモノマーを作れるように記載されているとは言えず、当業者といえども、ポリマーの原料となるモノマーを作るための製法に到達するためには過度の試行錯誤を奏するものであり、単なる設計事項とは言えないものと思料します。」と主張している。

しかしながら、上記第5で述べたとおり、先願明細書には、上記のとおりの先願発明が記載されているといえ、ここで、下記の構造式

を有する化合物(以下、「化合物X」という。)に接した当業者であれば、化合物Xを合成するに際して、本願の原出願の優先日における技術常識(例えば、特開2002-30116号公報、特開2000-235263号公報及び特開平11-212265号公報)からみて、2-シアノメチル-2-アダマンタノール(以下、「アルコールY」という。)とメタクリル酸ハライドとのエステル化により合成することができると理解するものと解される。
そして、アルコールYは、2-アダマンタノールの2位にシアノメチル基が置換した構造を有するものであるところ、特公昭35-4961号公報(平成25年5月28日付け拒絶理由通知書の引用例1)には、脂環式ケトンとアセトニトリルとの縮合反応により、β,β-ジ置換-β-ハイドロキシプロピルニトリル、例えば、1-ハイドロキシ-シクロへキシル-アセトニトリルを合成することが記載されていることに鑑みれば、当業者であれば、2-アダマンタノンとアセトニトリルとの縮合反応により、アルコールYを合成することができると理解するものと解される。
そうすると、化合物Xに接した当業者であれば、本願の原出願の優先日における技術常識に基づいて、2-アダマンタノンとアセトニトリルとの縮合反応によりアルコールYを合成し、次いで、アルコールYとメタクリル酸ハライドとのエステル化により化合物Xを合成することができると理解するものと解されることから、請求人の主張は採用することができない。



第8 まとめ

したがって、本願発明は、先願発明、すなわち、その出願の原出願の優先日前の日を出願日とする特許出願であって、その原出願の優先日後に出願公開がされた特許出願の出願日における特許請求の範囲又は明細書に記載された発明と同一である。
そして、先願発明をした者が本願発明の発明者と同一の者ではなく、また、本願の出願の時に本願の出願人と先願発明に係る出願人とが同一の者でもない。
よって、本願発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。



第9 むすび

以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないと判断される。
原査定の理由は妥当なものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-23 
結審通知日 2015-06-25 
審決日 2015-07-08 
出願番号 特願2011-23175(P2011-23175)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 爾見 武志  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 前田 寛之
小野寺 務
発明の名称 (メタ)アクリル酸エステルおよびその原料化合物  

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