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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1306361
審判番号 不服2014-14938  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-30 
確定日 2015-10-07 
事件の表示 特願2011-516501「発光ダイオードにおいて使用するための表面にテクスチャが施されたカプセル」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月30日国際公開,WO2009/158313,平成23年 9月29日国内公表,特表2011-526083〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2009年6月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年6月27日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成25年11月15日付けで拒絶理由が通知され,平成26年2月18日に手続補正がされるとともに同時に意見書が提出され,同年4月9日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年7月30日に審判請求がされるとともに同時に手続補正がされ,平成27年1月28日に上申書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年7月30日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであり,本件補正の前後で特許請求の範囲のうち請求項1は以下のとおりである。

〈補正前〉
「【請求項1】
発光ダイオードと,
前記発光ダイオードの上に形成され,光を抽出するように構成された表面のテクスチャを有しているカプセルと,
を備え,
前記表面のテクスチャは,光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている発光ダイオード装置。」

〈補正後〉
「【請求項1】
発光ダイオードと,
複数の領域を備えたカプセルであって,前記カプセルは前記発光ダイオードを覆い,前記カプセルの各領域は光を抽出するように構成された異なる表面のテクスチャを有している前記カプセルと,を備え,
各表面のテクスチャは光抽出の特徴を複数備え,前記光抽出の特徴は変化する寸法を有する発光ダイオード装置。」

2 補正事項の整理
本件補正のうち,請求項1についての補正を整理すると以下のとおりとなる。
(1)補正事項1
補正前の請求項1の「前記発光ダイオードの上に形成され,光を抽出するように構成された表面のテクスチャを有しているカプセル」を,補正後の請求項1の「複数の領域を備えたカプセルであって,前記カプセルは前記発光ダイオードを覆い,前記カプセルの各領域は光を抽出するように構成された異なる表面のテクスチャを有している前記カプセル」と補正すること。

(2)補正事項2
補正前の請求項1の「前記表面のテクスチャは,光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている」を,補正後の請求項1の「各表面のテクスチャは光抽出の特徴を複数備え,前記光抽出の特徴は変化する寸法を有する」と補正すること。

3 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
(1)補正事項1について
補正前の「前記発光ダイオードの上に形成され」を,補正後の「前記発光ダイオードを覆い」とすることは明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。また,「前記発光ダイオードを覆」う「カプセル」は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の図2ないし図6に示されている。
補正前の「光を抽出するように構成された表面のテクスチャを有しているカプセル」を,補正後の「複数の領域を備えたカプセルであって,」「前記カプセルの各領域は光を抽出するように構成された異なる表面のテクスチャを有している前記カプセル」とすることについて,当該補正後の事項は,当初明細書等の段落【0029】?【0031】及び図6に示されている。しかしながら,当該補正は,補正前の「カプセル」について「複数の領域を備えた」という発明特定事項を追加するものであるから,補正前の請求項1の発明特定事項を限定するものとはいえない。それゆえ,当該補正を含む補正事項1は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(特許第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものではない。また,上記発明特定事項を追加する補正を含む補正事項1が,同法第17条の2第5項第1号,第3号及び第4号に掲げる請求項の削除,誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである。

(2)補正事項2について
補正後の「各表面のテクスチャは光抽出の特徴を複数備え,前記光抽出の特徴は変化する寸法を有する」ことは,当初明細書等の段落【0021】?【0026】,段落【0029】?【0031】,並びに図4及び6に示されている。しかしながら,「表面のテクスチャ」について,補正前の「光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている」を,補正後の「光抽出の特徴を複数備え,前記光抽出の特徴は変化する寸法を有する」と補正することは,補正前の「光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている」という発明特定事項を削除するものである。
その理由は以下のとおりである。
本件の審判請求書の「(1)補正の根拠の明示」では,「『各表面のテクスチャは光抽出の特徴を複数備え』る構成,『各幾何学的特徴は光抽出の特徴を複数備え』る構成は,図2-図6において,カプセルの表面のテクスチャそれぞれが,複数の半球や円錐,ピラミッド状などの幾何学的な特徴を備えていることから明らかです。さらに,『前記光抽出の特徴は変化する寸法を有する』構成は,段落『0023』の記載に基づきます。」としている。 また,平成26年2月18日にされた手続補正により「光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている」と補正したことについて,同時に提出された意見書の「1.補正の根拠の明示」では,「(1)補正後の請求項1における下線部は,補正によって追加された事項ですが,この内容は,図6及び出願当初の明細書の段落『0028』及び『0031』の記載に基づきます。」としている。
ここで,当初明細書等の段落【0028】及び【0031】の記載を参照すると,「光を抽出するように構成された非周期の特徴」の記載は見出せないものの,図6を参照すると,同図において第2の領域610及び第3の領域612においては規則的な(すなわち周期的な)幾何学的形状が示されているのに対して,第1の領域608においては無作為な幾何学的形状が示されている。それゆえ,補正前の「光を抽出するように構成された非周期の特徴」は,前述の無作為な幾何学的形状を指すのものとするのが相当である。
なお,前記意見書の「3.本願発明と引用発明との対比」においては,各引用文献に記載された事項と本件補正前の請求項1に係る発明とを対比しているが,当初明細書等の段落【0023】に記載された「幾何学的特徴または形状が変化する寸法を有してもよいこと」については全く言及されていない。
一方,当初明細書等の記載(特に段落【0021】?【0026】)を参照すると,補正後の「光抽出の特徴は変化する寸法を有する」ことが,無作為な幾何学的形状のみならず,半球や,円錐,及びピラミッド等の幾何学的形状について「変化する寸法を有する」ものも対象としていることは明らかである。
したがって,補正後の「光抽出の特徴は変化する寸法を有する」とは,補正前の「光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている」との特定事項により特定される範囲を超える範囲を包含するものであるから,両者は同等の発明特定事項とはいえない。
以上のとおりであるから,補正前の「光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている」を,補正後の「光抽出の特徴を複数備え,前記光抽出の特徴は変化する寸法を有する」と補正することは,補正前の「光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている」という発明特定事項を削除するものである。
よって,補正前の「光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている」という発明特定事項を削除する補正を含む補正事項2は,特許法第17条の2第5項第1号ないし第4号に掲げる請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである

(3)補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項各号に掲げる,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当せず,特許法第17条の2第5項の規定を満たしていない。

上記のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定を満たしていないが,以下においては,仮に,本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものとして,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかについても一応検討する。

4 独立特許要件についての検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は,請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(再掲。以下「本願補正発明」という。)。
「【請求項1】
発光ダイオードと,
複数の領域を備えたカプセルであって,前記カプセルは前記発光ダイオードを覆い,前記カプセルの各領域は光を抽出するように構成された異なる表面のテクスチャを有している前記カプセルと,を備え,
各表面のテクスチャは光抽出の特徴を複数備え,前記光抽出の特徴は変化する寸法を有する発光ダイオード装置。」

(2)刊行物等に記載された発明
ア 実願昭60-158377号(実開昭62-65855号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を記録したマイクロフィルム
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された上記刊行物(以下「引用例1」という。)には,第1図及び第2図とともに,以下の記載がある(下線は当審において付加。以下同様。)。

(ア)「<産業上の利用分野>
本考案は,均一な照明を必要とする装置,特にファクシミリや複写機の画像検出として用いられるリニアイメージセンサの原稿照明用光源に適用して有効な発光ダイオード装置に関する。
<考案の概要>
本考案は,リードフレームに発光ダイオードチップを搭載し,封止樹脂により外囲器を形成してなる発光ダイオード装置において,光量を低下させることなく均一の照度が得られるように,上記封止外囲器の表面に,発光中心部において密であり周辺部において粗となるように突起若しくは溝を設けたものである。」(明細書1ページ12行?2ページ4行)

(イ)「<問題点を解決するための手段>
本考案は上記の問題点を解決するためになされたもので,発光ダイオードチップからの発光を樹脂中の光散乱剤によって散乱させるのではなく,外囲器の表面に微小の突起若しくは溝を設けることによるプリズム効果によって光を散乱させる。さらに,外囲器の表面に設けられる突起若しくは溝は,外囲器の表面の発光中心部において密であり,周辺部において粗となるように形成されていることを特徴とするものである。
<作用>
本考案は上記構成により,樹脂中に光散乱剤を含ませる必要がないため,光経路でのロスがなくなり,光量が確保でき,且つ,均一な照明を達成できる。」(明細書4ページ7行?5ページ1行)

(ウ)「<実施例>
以下,本考案に係る発光ダイオード装置の実施例について図面を参照しつつ説明する。
第1図は本考案に係る発光ダイオード装置の一実施例の断面図である。発光ダイオードチップ6は,リードフレーム10の先端部に設けた凹状のチップ搭載部10aに搭載され,リードフレーム10’と金線9により電気的に接続される。この後,その外部周辺を透光性樹脂により封止して外囲器11が形成される。そしてこの封止時,同時に外囲器11の表面に突起11aを形成する。突起11aの密度は光量の多い光軸部で密とし,周辺部において粗とする。また,その配置は必要とする照明範囲に基づき,同心円状,格子状,ストライプ状,ランダムパターン等が選択される。
この実施例は発光ダイオードチップ6の発光をリードフレーム10のチップ搭載部10a内側壁面で前方に反射するとともに,外囲器11に発光方向に対しテーパ状の広がり角度を設けることによって光を全反射させ光の損失を防いでいる。導かれた光は外囲器11表面の突起11aによって屈折されて外部へ均一に放射される。又,突起11aの代わりに溝を設けることによっても同様な効果が得られる。
この他の実施例を第2図に示す。この実施例では,反射性のケース5によって光量の確保を行なっている。突起11aの密度は中心部が密で周辺部が粗としているが,場合によっては光の集中している箇所に偏在させることも可能である。また,密度は一定であるが,突起の形状を箇所によって変えることによっても行える。
尚,以上の実施例では,リニアイメージセンサの原稿照明用ライン光源として適用した場合について説明したが,それに限定されるものではなく,例えば,照光スイッチや液晶のバック照明等の均一照度,大面積照明が必要なものに対しても適用可能である。」(明細書5ページ2行?6ページ18行)

(エ)第1図は次のものである。

ここで,上記(ウ)に記載された「また,密度は一定であるが,突起の形状を箇所によって変えることによっても行える。」との事項が,第1図に示されたものについてもいえ,この際,光量を低下させることなく均一の照度が得られるように,上記封止外囲器の表面に,発光中心部における突起の形状と,周辺部における突起の形状とが異なるものとなるように突起を設けたものとなることは明らかである。
また,第1図を参照すると,「発光中心部」においても「周辺部」においても突起は複数個形成されていることが見て取れる。

以上から,「密度は一定であるが,突起の形状を箇所によって変えたもの」に注目すると,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「リードフレームに発光ダイオードチップを搭載し,封止樹脂により外囲器を形成してなる発光ダイオード装置において,光量を低下させることなく均一の照度が得られるように,上記封止樹脂により形成した外囲器の表面に,密度は一定であるが,発光中心部における突起の形状と,周辺部における突起の形状とが異なるものとなるように,発光中心部及び周辺部のそれぞれに複数個の突起を設けて,プリズム効果によって光を散乱させるものである,発光ダイオード装置。」

イ 特開2003-234509号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-234509号公報(以下「引用例2」という。)には,図1及び図2とともに,以下の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,発光素子を樹脂体で封止した発光ダイオードにあって,特に広角な指向性を備えた発光ダイオードに関するものである。」

(イ)「【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために,本発明の請求項1に係る発光ダイオードは,電極が形成された基板の上面に発光素子を載置し,該発光素子と前記電極とを電気的に接続すると共に,該発光素子を樹脂体で封止してなる発光ダイオードにおいて,前記樹脂体の表面に凹凸状の光散乱部を設けたことを特徴とする。
【0008】この発明によれば,樹脂体の表面に凹凸状の光散乱部を設けたことで,発光素子から発する光が前記光散乱部で屈折して広範囲に光を散乱させることができる。また,このような発光素子から直接外部に向けて発する光の他に,樹脂体内部に反射された光によって樹脂体内部での散乱現象を引き起こし,発光の均一化と共に,全体的な発光輝度も向上する。」

(ウ)「【0011】
【発明の実施の形態】以下,添付図面に基づいて本発明に係る発光ダイオードの実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の発光ダイオードの全体形状を示す斜視図,図2は前記発光ダイオードの断面図である。
【0012】
・・・(中略)・・・
また,樹脂体26は,発光素子24を中心にして基板22上に形成された略直方体形状の封止体であり,透光性を備えたエポキシ系の樹脂材を金型等に充填することによって形成される。そして,前記発光素子24及びボンディングワイヤ25を封止すると共に,発光素子24から発した光を透過する。
【0013】この実施形態において,樹脂体26の上面は前記発光素子24の上面と対向する発光射出面27として構成され,この発光射出面27に凹凸状の光散乱部30が形成されている。この光散乱部30は,前記発光射出面27の全域に設けられた凹凸面であり,前記発光素子24から上方に向けて放射された光を多数の凸部や凹部の傾斜角に応じて外部に広角度に散乱させている。光散乱部30の凹凸形状は,樹脂体26を金型によって成形する際,半硬化した樹脂体26の上面をエッチング加工によって凹凸状にしたり,凹凸模様が形成された加工冶具を樹脂体26の上面に押圧することによって加工することができる。さらに,前記樹脂体26を完全に硬化させた後に,その上面を切削して所定の深さや傾斜角の凹凸を設けてもよい。前記光散乱部30を構成する各凸部や凹部の深さ及び傾斜角は,発光ダイオード21の使用目的や発光仕様に応じて設定されるが,光の散乱効果を大きくするには,各凸部及び凹部を深く形成するのが好ましい。本実施形態では,樹脂体26の厚み400μmに対して,前記凸部及び凹部の深さを4μm以上,傾斜角を1?45度の範囲で設定することで,大きな光散乱効果を得ることができた。なお,前記光散乱部30の各凸部及び凹部の深さ及び傾斜角は均一でなく,ある程度バラツキを持たせた方が光の屈折及び反射が不規則になり,散乱効果が大きくなる。
【0014】次に,上記構造からなる発光ダイオード21の発光作用を図2に基づいて説明する。この発光ダイオード21は周知のように,基板22に形成された電極23a,23bに電流を流すことによって発光素子24が励起されて光を発する。そして,その光は発光素子24と対向する樹脂体26の発光射出面27に向けて進み,さらにこの発光射出面27に形成された凹凸状の光散乱部30で屈折されて様々な角度で外部に放射される。このような光の屈折は凹凸の深さや傾斜角によって変化し,樹脂体26の上面から放射するものや,大きく屈折して樹脂体26の側面から放射する光もある。また,発光素子24から発せられた光が前記光散乱部30によって,逆に樹脂体26内部に反射したのち再度外部に放射される場合もある。このような光の屈折及び反射が樹脂体26の内部及び外表面に連続して発生するため,発光射出面27を直視したときの輝度と,発光射出面27を斜め側方にずれた角度から見た輝度に差が生じず,広角発光すると共に全体的な輝度の向上効果も得られることになる。」

以上の記載から,引用例2には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「電極が形成された基板の上面に発光素子を載置し,該発光素子と前記電極とを電気的に接続すると共に,該発光素子を樹脂体で封止してなる発光ダイオードにおいて,
前記樹脂体の表面に凹凸状の光散乱部を設けて,発光素子から発する光が前記光散乱部で屈折して広範囲に光を散乱させるとともに,発光の均一化及び全体的な発光輝度を向上することができるものであって,
前記光散乱部の各凸部及び凹部の深さ及び傾斜角は均一でなく,ある程度バラツキを持つものであり,これにより光の屈折及び反射が不規則になり,散乱効果が大きなものである,
発光ダイオード。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「発光ダイオードチップ」は,本願補正発明の「発光ダイオードチップ」に相当する。
イ 引用発明1の,「封止樹脂により形成した外囲器」は,本願補正発明の「カプセルであって,前記カプセルは前記発光ダイオードを覆」うものに相当する。
ウ 引用発明1の「封止樹脂により形成した外囲器」であって,その「表面」に,「光量を低下させることなく均一の照度が得られるように,上記封止して形成した外囲器の表面に,密度は一定であるが,発光中心部における突起の形状と,周辺部における突起の形状とが異なるものとなるように,発光中心部及び周辺部のそれぞれに複数個の突起を設け」たものについて,「発光中心部」と「周辺部」は異なる領域といえるから,引用発明1の「封止樹脂により形成した外囲器」であって,「発光中心部」と「周辺部」を備えるものは,本願補正発明の「複数の領域を備えたカプセル」に相当する。
エ 引用発明1の,「発光中心部」と「周辺部」における「突起の形状」は異なるものであって,上記のとおり突起を設けることにより「プリズム効果によって光を散乱させる」から,「発光中心部及び周辺部のそれぞれに」設けられた「複数個の突起を設け」ることは本願補正発明の「光抽出の特徴を複数備え」ることに相当する。
オ そして,引用発明1における「発光中心部」と「周辺部」には,それぞれ形状が異なる「複数個の突起」が設けられているから,引用発明1に係る「発光中心部及び周辺部のそれぞれに」形状が異なる「複数個の突起を設け」ていることは,本願補正発明に係る「各領域は光を抽出するように構成された異なる表面のテクスチャを有している」ことに相当する構成を備えているといえる。
カ 引用発明1の「発光ダイオード装置」は,本願補正発明の「発光ダイオード装置」に相当する。

したがって,引用発明1と本願補正発明とは,
「発光ダイオードと,
複数の領域を備えたカプセルであって,前記カプセルは前記発光ダイオードを覆い,前記カプセルの各領域は光を抽出するように構成された異なる表面のテクスチャを有している前記カプセルと,を備え,
各表面のテクスチャは光抽出の特徴を複数備え,前記光抽出の特徴は変化する寸法を有する発光ダイオード装置。」
である点で一致する。

一方,両者は,以下の点で相違する。
《相違点1》
本願補正発明は,「前記光抽出の特徴は変化する寸法を有する」構成を備えるが,引用発明1は,そのような構成を備えない点。

(4)検討
上記相異点について検討する。
発光ダイオードチップを封止する樹脂の表面に凹凸状の光散乱部を設けて,広範囲に光を散乱させるとともに,発光の均一化を図る技術において,
前記光散乱部の各凸部及び凹部の深さ及び傾斜角は均一でなく,ある程度バラツキを持つものとすることは,前記引用発明2として,本願の優先権主張の日前に公知の技術である。
引用発明1は,「光量を低下させることなく均一の照度が得られるように,上記封止外囲器の表面に,発光中心部における突起の形状と,周辺部における突起の形状とが異なるものとなるように突起を設けたものであ」るところ,当該「突起」の具体的形状については定められていないものである。
一方,引用発明2は,「発光素子から発する光が前記光散乱部で屈折して広範囲に光を散乱させるとともに,発光の均一化及び全体的な発光輝度を向上することができるもの」とするものであって,「前記光散乱部の各凸部及び凹部の深さ及び傾斜角は均一でなく,ある程度バラツキを持つものもの」であるから,引用発明1において,前記「突起」の具体的形状として,「各凸部及び凹部の深さ及び傾斜角は均一でなく,ある程度バラツキを持つもの」とすることは,当業者が適宜になし得たことである。
そして,前記「突起」の具体的形状として,「各凸部及び凹部の深さ及び傾斜角は均一でなく,ある程度バラツキを持つもの」とすることにより,相違点1に係る「前記光抽出の特徴は変化する寸法を有する」構成を備えることになることは明らかである。

(5)小括
よって,本願補正発明は,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 まとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定を満たしていないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また,本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定を満たしているか否かにかかわらず,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年7月30日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成26年2月18日にされた手続補正により補正された請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】
発光ダイオードと,
前記発光ダイオードの上に形成され,光を抽出するように構成された表面のテクスチャを有しているカプセルと,
を備え,
前記表面のテクスチャは,光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている発光ダイオード装置。」

2 刊行物等に記載された発明
(1)特開2007-227919号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2007-227919号公報(以下「引用例3」という。)には,図1とともに,以下の記載がある。

ア「【請求項1】
上面に溝部が形成され少なくとも前記溝部の底面に電極構造が形成されたコップ型パッケージ構造物を備える段階と,
発光ダイオードチップの端子が前記電極構造に電気的に連結されるよう前記発光ダイオードチップを前記溝部底面に実装する段階と,
前記パッケージ構造物の溝部に液状透明樹脂を投入する段階と,
前記液状透明樹脂が完全硬化される前に,前記液状透明樹脂の上面に微細構造の凸凹が刻印されたスタンプを適用させる段階と,
前記スタンプが適用された状態で前記液状透明樹脂を硬化させることにより樹脂包装部を形成する段階と,
前記樹脂包装部から前記スタンプを除去する段階と,
を含む発光ダイオードパッケージの製造方法。」

イ「【0001】
本発明は,発光ダイオードパッケージの製造方法に関するものであって,特に,発光ダイオードの光抽出効率を改善するための微細構造を形成する発光ダイオードパッケージの製造方法に関する。」

ウ「【0002】
発光ダイオードは,電気エネルギーを光エネルギーに変換する半導体素子として,エネルギーバンドギャップによる特定波長の光を出す化合物半導体で構成される。最近,発光ダイオードは光通信及びディスプレイなど様々な分野で使用されている。
【0003】
発光ダイオードは,使用目的及び要求される形態に応じてパッケージ形態で提供される。一般に,発光ダイオードパッケージは,発光ダイオードチップを電極パターンが形成された基板またはリードフレーム上に実装した後に上記チップの端子と電極パターン(またはリード)を電気的に連結し,その上部にエポキシ,シリコン樹脂またはその組み合わせ等を使用して樹脂包装部を形成する方式で製造される。
【0004】
図1には,従来の発光ダイオードパッケージの一例が図示されている。図1を参照すると,上記発光ダイオードパッケージ10は,2個の電極パターン12a,12bが形成された下部パッケージ基板11aと溝部が設けられた上部パッケージ基板11bを含む。上記溝部の底面には,接着層14などを用いて発光ダイオードチップ15が実装される。上記発光ダイオードチップ15の両電極端子(図示せず)は,各々上記 リードフレーム12a,12bの上端にワイヤで連結される。
【0005】
上記発光ダイオードチップ15は,樹脂包装部16によって囲われる。上記樹脂包装部は,発光ダイオードパッケージ10の発光効率に影響を与える非常に重要な要素となる。即ち,上記発光ダイオードチップ15から発光された光は,樹脂包装部16の構成物質の光学的特性(特に,屈折率)及びその形状によって実質的に外部へ抽出される量が大きく異なることがあり得る。
【0006】
特に,樹脂包装部16を構成するエポキシ樹脂またはシリコン樹脂のような透明樹脂は,外部大気よりやや高い屈折率(例,エポキシ樹脂:1.5)を有するため,これによる光抽出臨界角によって実質的に抽出される光量が制限される。従って,複雑な光経路を有することになり,樹脂包装部16内部で臨界角範囲から外れた多くの光は,内部へ全反射されて外部へ抽出出来なくなったりする。これによって,光抽出効率が低くなる問題がある。」

エ「【0008】
本発明は,上記のような問題点を解決するためのものであって,その目的は,溝部に提供された樹脂包装部の上面に微細凸凹構造を効果的に形成することが出来る新たな発光ダイオードパッケージの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の技術的課題を実現すべく,本発明は,上面に溝部が形成され少なくとも上記溝部の底面に電極構造が形成されたコップ型パッケージ構造物を備える段階と,発光ダイオードチップの端子が上記電極構造に電気的に連結されるよう上記発光ダイオードチップを上記溝部底面に実装する段階と,上記パッケージ構造物の溝部に液状透明樹脂を投入する段階と,上記液状透明樹脂が完全硬化される前に,上記液状透明樹脂の上面に微細構造の凸凹が刻印されたスタンプを適用させる段階と,上記スタンプが適用された状態で上記液状透明樹脂を硬化させることにより樹脂包装部を形成する段階と,上記樹脂包装部から上記スタンプを除去する段階とを含む発光ダイオードの製造方法を提供する。
【0010】
・・・(中略)・・・
【0013】
上記スタンプは,一面に微細凸凹パターンが陰刻された平板構造物であることが好ましい。この場合,スタンプが適用された樹脂包装部の上面は,液状透明樹脂の湿潤性による曲面が全体的に平坦化されることが出来る。
【0014】
上記スタンプに陰刻された微細凸凹は,規則或いは不規則なパターンのように様々な形態で採用されることが出来る。例えば,上記陰刻された微細凸凹は,一方向に沿って配列された複数の三角柱形態であることができ,行と列方向によって一定に配列された複数の四角錘形態であることが出来る。
【0015】
好ましく,スタンプ分離工程が容易であるよう,上記スタンプを適用させる前に,上記スタンプの透明樹脂との接触面に離型剤,異形剤を塗布する段階をさらに含むことが出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明の発光ダイオードパッケージの製造方法によると,発光ダイオードの光抽出効率の増大のため,樹脂包装部の表面に凸凹パターンをより簡単な工程で形成することが出来ると共に,溝部に適用された樹脂包装部において液状樹脂の湿潤性により形成され得る曲面を効果的に解消して光学的に不利な現象を低減させることが出来る。」

オ「【0032】
本発明は,上述の実施形態及び添付の図面により限定されず,添付の請求範囲によって限定される。従って,請求範囲に記載された本発明の技術的思想を外れない範囲内で当技術分野の通常の知識を有している者により様々な形態の置換,変形及び変更が可能で,これもまた本発明の範囲に属する。」

カ ここで,段落【0014】に記載されたとおり,「スタンプに陰刻された微細凸凹」が「規則或いは不規則なパターン」とされたときは,完成した「発光ダイオード」の「樹脂包装部」の上面には「規則或いは不規則なパターン」が設けられることは明らかである。

オ 上記各記載に表された「発光ダイオードの製造方法」により製造された「発光ダイオード」に注目すると,引用例3には,次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「上面に溝部が形成され少なくとも上記溝部の底面に電極構造が形成されたコップ型パッケージ構造物を備え,発光ダイオードチップの端子が上記電極構造に電気的に連結されるよう上記発光ダイオードチップを上記溝部底面に実装され,上記パッケージ構造物の溝部に,発光ダイオードの光抽出効率の増大のため,微細構造の凸凹が刻印されたスタンプを適用され硬化された液状透明樹脂により形成された,前記微細構造の凸凹が設けられた樹脂包装部とを含む発光ダイオードであって,
上記微細構造の凸凹は,規則或いは不規則なパターンのように様々な形態で採用されることが出来るものである,発光ダイオード。」

(2)特開2007-42320号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2007-42320号公報(以下「引用例4」という。)には,図1ないし図8とともに,以下の記載がある。

ア「【0001】
本発明は,面状光源装置,及び,係る面状光源装置を備えたカラー液晶表示装置組立体に関する。」

イ「【0053】
以下,図面を参照して,実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0054】
実施例1は,本発明の第1の態様に係る面状光源装置及びカラー液晶表示装置組立体に関する。図1の(A)及び(B)に,実施例1の面状光源装置の一部分の模式的な一部端面図を示し,実施例1の被覆部材の拡大された模式的な一部断面図を図2に示し,発光素子の模式的な断面図を図3の(A),図3の(B)あるいは図5の(A)に示し,発光素子を組み立てた後の面状光源装置の一部分の概念図を図4の(A),図4の(B)あるいは図5の(B)に示し,面状光源装置における発光素子の配置,配列状態を図6の(A)に模式的に示し,面状光源装置及びカラー液晶表示装置組立体の模式的な一部断面図を図6の(B)に示し,カラー液晶表示装置組立体の模式的な一部断面図を図7に示し,被覆部材の一部分の概念図を図8に示す。
【0055】
・・・(中略)・・・
【0057】
各発光素子20の発光部中心を頂点とし,第1頂面領域34の内部に位置する頂面の部分と交わる仮想円錐を想定したとき,各発光素子20の発光部中心から射出されたと想定した仮想の光の内,仮想円錐の外側に存在する光は,第1頂面領域34あるいは第2頂面領域35によって,一旦,反射され,被覆部材30の内部を反射しながら伝播し,最終的に,被覆部材30の頂面から射出される。より具体的には,各発光素子20の発光部中心から射出されたと想定した仮想の光の内,仮想円錐の外側に存在し,且つ,第1頂面領域34に直接入射する光は,第1頂面領域34によって,一旦,全反射される。一方,仮想円錐の内側に存在し,且つ,第1頂面領域34に直接入射する光は,第1頂面領域34を経由して外部に射出される。また,各発光素子20の発光部中心から射出されたと想定した仮想の光の内,第2頂面領域35に直接入射する光は,第2頂面領域35によって,一旦,全反射され,また,場合によっては,第2頂面領域35から外部に射出される。
【0058】
図1の(A)及び(B)に示す面状光源装置1,1Aにあっては,被覆部材30の第2頂面領域35の表面は,面状光源装置1,1Aから射出される光を拡散させるといった観点から,サンドブラスト法によって凹凸が設けられている。また,発光素子20が取り付けられていない基板10の部分の上には,シート基材上に,銀反射膜,低屈折率膜,高屈折率膜が順に積層された構造を有する銀増反射膜から成る光反射層11が配されている。具体的には,光反射層11が,接着剤を用いて基板10に取り付けられている。尚,光反射層11の表面(基板10と接していない面)は,平滑であってもよいし,例えばピラミッド状の凹凸が設けられていてもよい。」

ウ 以上から,引用例4には,以下の事項が記載されているといえる。
「面状光源装置から射出される光を拡散させるといった観点から,光が出射される被覆部材30の第2頂面領域35の表面には,サンドブラスト法によって凹凸が設けられること。」

3 対比
(1)本願発明と引用発明3とを対比する。
ア 引用発明3の「発光ダイオードチップ」は,本願発明の「発光ダイオード」に相当する。
イ 引用発明3においては,「上面に溝部が形成され少なくとも上記溝部の底面に電極構造が形成されたコップ型パッケージ構造物を備え,」「上記パッケージ構造物の溝部に,発光ダイオードの光抽出効率の増大のため,微細構造の凸凹が刻印されたスタンプを適用され硬化された液状透明樹脂により形成された,前記微細構造の凸凹が設けられた樹脂包装部」を備える。また,「発光ダイオードチップを上記溝部底面に実装され,」「上記パッケージ構造物の溝部に,・・・樹脂包装部とを含む」から,当該樹脂包装部が発光ダイオードチップ上に形成されていることは明らかである。それゆえ,引用発明3の「発光ダイオードの光抽出効率の増大のため,微細構造の凸凹が刻印されたスタンプを適用され硬化された液状透明樹脂により形成された,前記微細構造の凸凹が設けられた樹脂包装部」は,本願発明の「前記発光ダイオードの上に形成され,光を抽出するように構成された表面のテクスチャを有しているカプセル」に相当する。
ウ 引用発明3の「前記微細構造の凸凹が設けられた樹脂包装部」における「前記微細構造の凹凸」の各々と,本願発明の「光を抽出するように構成された非周期の特徴」とは,「光を抽出するように構成された特徴」である点で一致する。
エ 引用発明3の「発光ダイオード」は,本願発明の「発光ダイオード装置」に相当する。

(2)したがって,引用発明3と本願発明とは,
「発光ダイオードと,
前記発光ダイオードの上に形成され,光を抽出するように構成された表面のテクスチャを有しているカプセルと,
を備え,
前記表面のテクスチャは,光を抽出するように構成された特徴を備えている発光ダイオード装置。」
である点で一致する。

(3)一方,両者は,以下の点で相違する。
《相違点2》
本願発明は,「前記表面のテクスチャは,光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている」のに対して,引用発明3は,前記表面のテクスチャは,光を抽出するように構成された特徴を備えている」ことに対応する構成を備え,また,「微細構造の凸凹は,規則或いは不規則なパターンのように様々な形態で採用されることが出来るもの」ではあるが,本願発明に係る「非周期の特徴を備えている」ことは明らかでない点。

4 検討
引用発明3は,「微細構造の凸凹は,規則或いは不規則なパターンのように様々な形態で採用されることが出来るもの」であるところ,「不規則なパターン」として,周期性でないパターンを用いて,光取り出しの効率を向上させる技術は,以下の周知例にも示されているように,従来より周知の技術である。

周知例: 特開2006-24615号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-24615号公報には,図6?図16とともに以下の記載がある。
「【0047】
(実施形態1)
図6および図7を参照しながら,本発明の実施形態に係るLED照明光源について説明する。
【0048】
図6は,本実施形態のLED照明光源100の構成を模式的に示している。LED照明光源100は,基板11上に実装されたLEDチップ12と,LEDチップ12を覆う蛍光体樹脂部13と,蛍光体樹脂部13を覆う透光性樹脂部20とから構成されている。透光性樹脂部20の上面には,凹凸21が形成されている。また,蛍光体樹脂部13は,LEDチップ12から出射された光を当該光の波長よりも長い波長の光に変換する蛍光体(蛍光物質)と,蛍光体を分散させる樹脂とから構成されている。
【0049】
本実施形態においては,透光性樹脂部20の凹凸21が形成された部分を除いた形状と,蛍光体樹脂部13の形状とは,略相似形であり,図6に示した例では,透光性樹脂部20および蛍光体樹脂部13のそれぞれの形状は,円柱形状または略円柱形状である。また,LEDチップ12は,ベアチップLEDであり,基板11にフィリップチップ実装されている。
・・・(中略)・・・
【0052】
本実施形態のLED照明光源100によれば,透光性樹脂部20の上面に形成された凹凸21が,LEDチップ12及び蛍光体樹脂部13から発せられる光の脱出確率を高める機能を有している。換言すると,凹凸21によって,蛍光体樹脂部13から出射された臨界角入射の確率を増やすことができ,その結果,光の取り出し効率を向上して外部量子効率を高くすることができる。また,外部量子効率を高くできることにより,外部放射されずに熱に変換されてしまっていた量を減らすことができ,それゆえ,熱による樹脂の劣化を緩和することにも役に立っている。
【0053】
さらに,光の脱出確率を高める上で,蛍光体樹脂部13に凹凸を設けずに,その上に形成された透光性樹脂部20に凹凸21を設けることによって,蛍光体樹脂部の形状変化による色ムラの発生を防止することができる。
・・・(中略)・・・
【0055】
透光性樹脂部20は,例えば,シリコーン樹脂から構成されている。シリコーン樹脂は,エポキシ樹脂等よりも耐熱性に優れており,LEDチップ12からの熱の影響に耐えることができる点で好ましい。また,シリコーン樹脂製の透光性樹脂部20を介在させることによって,レンズ22が高熱で変性(着色)する場合において,レンズ22の熱的変性を緩和できる効果も有している。透光性樹脂部20の厚さは,例えば,10μm?1mmにすることができる。
【0056】
透光性樹脂部20の上面に形成される凹凸21は,蛍光体樹脂部13から発せられる光の脱出確率を向上させる形状であれば,その形態は特に限定されず,例えば,図6および図7に示したような,断面が三角形の形状を挙げることができる。また,幾何学的形状(例えば,二等辺三角形,ノコギリ波形状,台形形状,略半円形状など)をパターン化して連続して形成したものの他,透光性樹脂部20の上面を粗面化して,ランダムな凹凸21を形成することも可能である。さらに,図6及び図7に示したように透光性樹脂部20の上面すべてに凹凸21を形成しなくても,光の取り出し効率を向上できる効果を得られる程度の領域(例えば半分以上の領域)に凹凸21を形成することも可能であるし,また,上面に限らず,側面にも凹凸21を形成することも可能である。
【0057】
図6および図7に示した例では,LEDチップ12の寸法が約0.3mm×約0.3mmのときに,蛍光体樹脂部13の直径は約0.7mm?約0.9mm(例えば,0.8mm)であり,その際,透光性樹脂部20の厚さは,例えば,20μm?200μmである。また,凹凸21の高さ(谷から山の間の距離)は,例えば,5μm?100μmである。
・・・(中略)・・・
【0078】
上述の構成例では,断面を三角形にした凹凸21(または凸部21’)について説明したが,凹凸21によって,LEDチップ12及び蛍光体樹脂部13から発せられる光の脱出確率を高めることができる形状であれば,それに限定されず,例えば,図15に示すように断面が半円形状の凹凸21でもよいし,図16に示すように断面が台形状の凹凸21であってもよい。また,上述したように,幾何学的に同一なパターンを規則的に配列させた場合に限らず,不規則に配列されてもよいし,あるいは,ランダムなパターンを透光性樹脂部20の上面に形成してもよい。」

ここで,上記段落【0078】に記載された,「幾何学的に同一なパターンを」「不規則に配列さ」せたものは,「規則的に配列させた」ものではないものであって,周期性でないパターンであるといえる。
それゆえ,引用発明3に係る「不規則なパターン」としては,周期性でないパターンをも包含することは当業者に明らかであって,引用発明3は本願発明に係る「前記表面のテクスチャは,光を抽出するように構成された非周期の特徴を備えている」ものも含むといえるから,相違点2は実質的な相違点ではない。

また,仮に,相違点2が実質的な相違点であるとしても,以下の理由により,引用発明3において相違点2に係る構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。
前記第3 2(2)ウに記載したとおり,引用例4には「面状光源装置から射出される光を拡散させるといった観点から,光が出射される被覆部材30の第2頂面領域35の表面には,サンドブラスト法によって凹凸が設けられること」が記載されており,「サンドブラスト法によって」設けられた「凹凸」によっても「光が拡散され」て光取り出しがされることは明らかであり,また,「サンドブラスト法によって」設けられた「凹凸」が周期的なものではない,「非周期の特徴を備えている」ことも明らかである。
そして,引用発明3においては,「発光ダイオードの光抽出効率の増大のため」に「上記微細構造の凸凹は,規則或いは不規則なパターンのように様々な形態で採用されることが出来るもの」である構成を備えるところ,「規則或いは不規則なパターン」の具体的形状は特定されていない。一方,上述のとおり,「サンドブラスト法によって」設けられた「凹凸」が「非周期の特徴を備えている」ものにより光取り出しがされることが明らかである。また,当該「サンドブラスト法によって」設けられた「凹凸」は,引用例3に係る「不規則なパターン」にあたるものともいえる。
それゆえ,引用発明3において,「微細構造の凸凹が刻印されたスタンプ」について「サンドブラスト法によって」設けられた「凹凸」が刻印されたものとし,このスタンプが適用され硬化された液状透明樹脂により形成された樹脂包装部が,「サンドブラスト法によって」設けられた「凹凸」であって「非周期の特徴を備えている」ものとなるようにして,相違点2に係る構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。

5 まとめ
よって,本願発明は,引用発明3であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,仮にそうでないとしても,引用発明3及び引用例4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-28 
結審通知日 2015-05-12 
審決日 2015-05-25 
出願番号 特願2011-516501(P2011-516501)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金高 敏康  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
発明の名称 発光ダイオードにおいて使用するための表面にテクスチャが施されたカプセル  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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