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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01D
管理番号 1306363
審判番号 不服2014-17638  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-04 
確定日 2015-10-07 
事件の表示 特願2012-539138「長さおよび角度測定のための誘導測定デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月26日国際公開、WO2011/060465、平成25年 4月 4日国内公表、特表2013-511701〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)11月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年11月18日、オーストリア国)を国際出願日とする出願であって、平成25年10月8日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月27日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成26年4月30日付けで拒絶査定がなされ(送達日:平成26年5月7日)、これに対して平成26年9月4日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成26年3月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
平面コイル構造体としてのセンサユニットと、測定経路に沿って可変磁気抵抗または導電性のエリアを有するスケールとから構成される絶対位置測定のための測定デバイスであって、測定長さ内の前記絶対位置を測定するために、ビット毎に非周期的に符号化される、各ビット形成毎に全体的な測定デバイス(N)の一部としてのコイルエレメント(S2)に異なる影響を与える、少なくとも2つの並行目盛り(T1、T2)が供給される測定デバイスにおいて、
各コイルエレメントはオフセット配置されて平衡状態にあり、かつビット走査毎にエミッタコイル(E)およびレシーバコイル(R)用の擬似密閉巻線を有し、前記コイル(E、R)自体が指定された個々のビット形成にしか機能しないことと、コイルエレメントは、1つまたは複数の巻線実施形態において多層技術で製造され、
センサ構造体は、個々のビットの形成に必要である前記コイルエレメントのエミッタ巻線(E)に加えて、オフセット状態の出力信号または振幅を補償するために単独で電磁場を補償すべく機能する追加的なエミッタ巻線または導体トラックを有することを特徴とする測定デバイス。」

3 引用例の記載事項
(1)引用例1
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日(パリ条約による優先権主張の基礎とされた出願の出願日)前に頒布された刊行物である、特開平10-213406号公報(平成10年8月11日出願公開。以下「引用例1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審にて付与したものである。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、電子的絶対位置トランスジューサに係り、特に複数の誘導結合巻線を用いた絶対位置トランスジューサに関する。」

「【0021】スケール部材は、これに沿って所定の第1及び第2の間隔で配置された所定形状の第1及び第2の磁束変調器の組を有する。磁束変調器は、磁束減衰器(fluxdisrupter)又は磁束拡大器(flux enhancer)のいずれかであって、磁束領域内に配置される。磁束減衰器は導体により形成され、これが磁束領域に配置されると磁束は渦電流を生成し、これが磁束を減衰させる方向に作用する。」

「【0027】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、この発明の実施例を説明する。簡単化と明確化のため、動作原理,設計ファクタ及びトランスジューサ巻線のレイアウトは、図1?図3に示すノギスに適用したインクリメンタル型トランスジューサを参照して説明する。インクリメンタル型トランスジューサ巻線の動作の基本説明は、この発明の絶対型トランスジューサに用いられる要素巻線の理解と設計に適用可能である。」

「【0034】スライダ組立体120はまた、ベース140に搭載されてビーム102上に位置するピックオフ組立体160を有する。従って、ベース140とピックオフ組立体160は一体として動く。ピックオフ組立体160は、通常のプリント回路基板のような基板162を有する。この基板162は、その下の面に誘導型読み出しヘッド164を持つ。基板162の上の面には信号処理及び表示の電気回路166が搭載されている。カバー139と基板162の間には弾性のシール163を圧縮された状態で介在させており、これにより電気回路166の汚染が防止されるようになっている。図2に示すように、読み出しヘッド164は、薄く、耐久性がある絶縁性のコーティング167で覆われている。コーティング167の厚みは好ましくは、50μm 程度である。
【0035】スケール104は、一次変換要素としての細長いプリント配線基板168を有する。図1に示すように、このプリント配線基板168に沿って、周期パターンをもって1組の減衰器170が互いに離れて形成されている。減衰器170は好ましくは銅であり、通常のプリント配線技術を利用して作られる。但し他の方法で作ることもできる。図2に示すように、減衰器170は保護絶縁層172(好ましくは、100μm 厚)により覆う。保護層172は図1に示すようにマーキングを有するものとすることができる。
【0036】スライダ組立体120は、絶縁コーティング167と172の間に形成されるエアギャップ171によりビーム102から僅かに離れた状態で読み出しヘッド164を運ぶ。エアギャップ171は好ましくは、0.5mmオーダーとする。読み出しヘッド164と減衰器170によって誘導型トランスジューサが構成される。この誘導型トランスジューサと関連する回路は、米国特許出願第08/441,769号に開示された適当なものを用いることができる。ノギス100は、例えば米国分割出願第60/015,707号(1996年4月17日出願)に開示されたような低電力電気回路を用いることもできる。」

「【0049】ノギス100の第1の好ましい実施例において、第1の受信巻線178のループ191は、好ましくは送信巻線180の内側の所定領域内に配置される。発明者等の実験によれば、送信巻線はその導体からの距離の関数で急速に強度が減衰する磁界を発生する。しかしまた発明者等の実験によれば、送信巻線180の内部領域では、磁界が、送信巻線導体から所定距離を越えたところで一定値となる傾向があることも明らかになっている。上記所定距離は、比較的均一磁界が得られる領域の周囲を規定することになる。この磁界が均一になる距離は、送信巻線の幾何学的関数である。従ってこの発明による誘導型トランスジューサの精度を改善するためには、ループ191,192は送信巻線180から上記所定距離だけ離して配置することが好ましい。より好ましくは、第1及び第2の受信巻線178及び179のループ191及び192は、比較的均一な磁界内に全てが配置されるようにする。」

「【0151】図23に示すように、密トランスジューサ410の受信巻線414と416の対は、先の実施例における受信巻線214と216の対,及び234と236の対と同様である。受信巻線414と416は測定軸300に沿って延びる。受信巻線414は複数の極性が変化するループ191を形成する。第2の受信巻線416も同様に複数の極性が変化するループ192を形成する。受信巻線414,416の変化する部分は、トランスジューサ400の読み出しヘッド402を構成するプリント回路基板の異なる層に形成される。」

「【0167】図28?図30は、この発明の誘導型絶対位置トランスジューサ400の第4の実施例である。この第4の実施例では、図28に示すように、バイナリコードトランスジューサ450は、8個の平衡ループ対457を有する。これらの平衡ループ対457は、受信巻線414,416を取り囲む送信巻線412とは独立に設けられた送信巻線452により取り囲まれる。これは、送信巻線を共有した第2及び第3の実施例と異なる点である。各平衡ループ対457は、第2及び第3の実施例と同様に、正極性ループ454と負極性ループ456を持つが、これらは先の実施例のように測定軸300方向に沿ってではなく、測定軸300と直交する方向に配置されている。
【0168】この実施例のバイナリコードトランスジューサ450は、スケール部材404上に形成された二つの平行な部分からなるスケール要素174を有する。バイナリコードスケール458は、測定軸300に沿って配列された上部459と下部459′を持つ。これらの上部459及び下部459′はそれぞれ、磁束変調器170とスペース172を含む複数のスケール要素174を有する。各スケール要素174の長さは、エッジ-エッジ間距離308に等しい。
【0169】この実施例では、正極性電圧が論理“1”に、負極性電圧が論理“0”に対応する。図30は、この実施例での出力対コード対位置のチャート434を示している。図示のように、正極性ループ454がスペース172上に位置し、負極性ループ456が磁束減衰器170上に位置するとき、平衡ループ対457は正極性信号(即ち、論理“1”)を出力する。また、正極性ループ454が磁束減衰器170上に位置し、負極性ループ456がスペース172上に位置するとき、平衡ループ対457は負極性信号(即ち、論理“0”)を出力する。従って、論理“1”と“0”の間の電圧差は、先のバイナリコードトランスジューサ420の場合の2倍あり、論理“1”,“0”間の差別化能力が改善されている。
【0170】またこの第4の実施例では、第3の実施例と同様に、正信号と負信号が同じ論理値を出力しない。従ってこの実施例でも、磁束変調器170が磁束減衰器であるとしたとき、スペース172を磁束拡大器で置換することができる。この場合、平衡ループ対457により得られる正負信号の振幅は、スペース172を用いた場合に比べてより大きくなる。これは、論理“1”,“0”間の電圧差をより大きくし、論理“1”,“0”間の差別化能力を一層改善する。
【0171】小さいエッジ-エッジ間距離308に対しては、このバイナリコードトランスジューサ450は、磁束変調器170をより均一性よく例えば矩形に形成することができるから、好ましい。これは、第2及び第3の実施例におけるバイナリコードトランスジューサ420及び440により長い変調器170が用いられているのと対照的である。この様に、バイナリコードトランスジューサ450における、均一性がよくポテンシャル的に大きい変調器170の寸法は、一般により容易に製造することができる。
【0172】小さいエッジ-エッジ間距離308と共に、この実施例のバイナリコードトランスジューサ450は、読み出しヘッド402とスケール部材404の間の所定ギャップ171に対しても、先のバイナリコードトランスジューサ420及び440に比べてより大きい受信信号を出力することが可能である。しかし、第3及び第4の実施例のバイナリコードトランスジューサ440及び450は、強い出力信号を出す。即ち、各平衡ループ対447或いは457は、速やかに識別できる正又は負信号を出力し、バイナリコードに対して強い基準を与える。
【0173】上述のように、平衡ループ対のコード検出巻線を含む受信巻線に誘導される信号は、磁束変調器170の磁束変調効果のために、送信巻線により発生される送信磁界に比べて小さい。従って送信磁界効果のバランスをとることは、信号対ノイズ比を改善し、また送信巻線と受信巻線の間の望ましくない“不平衡”クロストークを除去し或いは低減する上で重要である。この様なクロストークは、巻線の入出力端子や巻線のエッジとエッジで多く生じる。従って端子は巻線からできるだけ離して配置する。また送信巻線の終端部が、測定軸300に沿って受信巻線より少なくとも1波長193分外側に来るように形成することが望ましい。これにより、不平衡エッジ効果をより低減することができる。」

「【0272】上に述べられた種々のセンサ要素に加えて、この発明は、しきい値検出回路に接続された一つのループを用いてバイナリコードスケール内の磁束変調器を検出するようにしたセンサ要素を用いることもできる。この場合、磁束変調器はエッジ-エッジ間距離と等しい長さをもつ。またこの発明は、2個或いはそれ以上の送信巻線を用いた例を説明したが、実質的に全ての受信巻線と全てのセンサ要素を囲むようにした一つの送信巻線を用いてもよい。更に、バイナリコードトラックは好ましい実施例として、各コードトラック受信巻線がバイナリコード語の1ビットを出力するようにしたが、当業者であれば、コードトラック受信巻線からより高分解能測定が可能であることが分かる。この場合、各磁束変調器のサイズは種々のサイズの組から選択することができる。即ち、コードトラック受信巻線に対応する各コード語要素は、3或いはそれ以上の状態の一つを示すことができる。更に、“平衡”巻線がコードトラック受信巻線として用いられたが、簡単な不平衡ループもいくつかの条件下で用い得る。
【0273】
【発明の効果】以上述べたようにこの発明による誘導型絶対位置トランスジューサは、高精度の位置信号を出力することができ、プリント回路基板技術を利用して安価に製造することができ、磁性体やオイル,水その他の粒子の汚染に対して強く、ほとんどの仕事場において汚染防止のための複雑高価なシールを必要としない、といった利点を有する。」

イ 上記記載から、引用例1には、次の技術事項が記載されている。
(ア)段落【0167】より、「バイナリコードトランスジューサ450は、誘導型絶対位置トランスジューサ400の実施例である。」との技術事項が読み取れる。

(イ)段落【0172】より、「バイナリコードトランスジューサ450は、読み出しヘッド402とスケール部材404」とから構成されることが読み取れる。

(ウ)段落【0168】より、「バイナリコードトランスジューサ450は、スケール部材404上に形成された二つの平行な部分からなるスケール要素174を有し、バイナリコードスケール458は、測定軸300に沿って配列された上部459と下部459′を持ち、これらの上部459及び下部459′はそれぞれ、磁束変調器170とスペース172を含む複数のスケール要素174を有し、各スケール要素174の長さは、エッジ-エッジ間距離308に等しい。」との技術事項が読み取れる。

(エ)段落【0021】より、「磁束変調器は、磁束減衰器又は磁束拡大器のいずれかであって、磁束減衰器は導体により形成される。」との技術事項が読み取れる。

(オ)段落【0170】より「磁束変調器170が磁束減衰器であるとしたとき、スペース172を磁束拡大器で置換することができる。」との技術事項が読み取れる。

(カ)段落【0272】より、「 バイナリコードトラックは、各コードトラック受信巻線がバイナリコード語の1ビットを出力するようにした。」との技術事項が読み取れる。

(キ)段落【0167】より、「バイナリコードトランスジューサ450は、8個の平衡ループ対457を有し、これらの平衡ループ対457は、送信巻線452により取り囲まれ、各平衡ループ対457は、正極性ループ454と負極性ループ456を持つが、これらは測定軸300と直交する方向に配置されている。」との技術事項が読み取れる。

(ク)図28より、「読み出しヘッド402は、8個の平衡ループ対457からなる受信巻線と送信巻線452とを有する。」との構成を読み取ることができる。

ウ これらのことから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「バイナリコードトランスジューサ450は、誘導型絶対位置トランスジューサ400の実施例であって、バイナリコードトランスジューサ450は、読み出しヘッド402とスケール部材404とから構成され、
バイナリコードトランスジューサ450は、スケール部材404上に形成された二つの平行な部分からなるスケール要素174を有し、バイナリコードスケール458は、測定軸300に沿って配列された上部459と下部459′を持ち、これらの上部459及び下部459′はそれぞれ、磁束変調器170とスペース172を含む複数のスケール要素174を有し、各スケール要素174の長さは、エッジ-エッジ間距離308に等しく、
磁束変調器は、磁束減衰器又は磁束拡大器のいずれかであって、磁束減衰器は導体により形成され、磁束変調器170が磁束減衰器であるとしたとき、スペース172を磁束拡大器で置換することができ、
バイナリコードトラックは、各コードトラック受信巻線がバイナリコード語の1ビットを出力するようにし、
読み出しヘッド402は、8個の平衡ループ対457からなる受信巻線と送信巻線452とを有し、
バイナリコードトランスジューサ450は、8個の平衡ループ対457を有し、これらの平衡ループ対457は、送信巻線452により取り囲まれ、各平衡ループ対457は、正極性ループ454と負極性ループ456を持つが、これらは測定軸300と直交する方向に配置されている、
バイナリコードトランスジューサ450。」

(2)引用例2
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2002-39793号公報(平成14年2月6日出願公開。以下「引用例2」という。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線は当審にて付与したものである。)。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 コイル構造体と、可変の磁気抵抗または導電性の少なくとも1つの目盛りを有する標準器とからなる、位置検出のための誘導形測定装置において、コイル構造体が、ほとんど閉じた巻線の形の輪郭を有する、コイルの組み合わせとしての多層構造であり、コイル構造体が複数の対のレシーバを備え、各々の対が差動接続された2個のレシーバ要素を備え、このレシーバ要素が少なくとも2つの測定チャンネルの各々のための信号発生のために相互接続可能であり、少なくとも1個のエミッタ要素が設けられ、このエミッタ要素が測定方向における標準器と相対的な位置に依存してレシーバ要素に誘導結合され、オフセットおよびまたは正弦形状およびまたは振幅を補償した少なくとも1つの出力信号を発生することを特徴とする測定装置。」

「【請求項5】 エミッタが複数のコイルからなり、少なくとも1つの付加的な補償エミッタが設けられ、この補償エミッタが測定方向にまたはエミッタに対して平行な平面内に配置され、レシーバ平面内に補償された均一な励磁場分布を生じることを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の測定装置。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、周期的に変化する磁気抵抗の目盛りと、直線に配置されたコイルシステムとを備えたスケールを走査することによって、位置に関する情報またはスケールと相対的なコイルシステムの移動を検出することができる、誘導形測長システムに関する。」

「【0002】
【従来の技術】
・・・(省略)・・・
【0011】ドイツ連邦共和国特許出願公開第19803249号公報(会社ミツトヨ)には、絶対的に作用する誘導形位置トランスデューサが記載されている。この機器は主としてスライドゲージのためのものである。絶対的な変位検出のために、互いに平行に配置された複数の測定コイルが走査される。測定装置は、スライドゲージの本体に埋め込まれた金属構造体のスケールと、原理的に差動式に作動するコイル構造体とからなっている。このスケール内には、それに対して正確に案内されるキャリッジが収納されている。増分式トラック(微細な測定トラック)を考慮するときにのみ、周期的な金属目盛りがコイルサブシステムによって走査される。この偏平なシステムは主として、励磁コイルと、2個のレシーバコイルチャンネルからなっている。このレシーバコイルチャンネルは励磁コイルに誘導的に結合され、相対運動時に測定目盛りを介して位置を検出することができる。2つのレシーバコイルチャンネルは移動方向を認識するために、互いに位相をずらして配置されている(幾何学的に互いにずれている)。
【0012】励磁コイルの巻線は構造体平面内でレシーバコイルを取り囲んでいる。このレシーバコイルは各々のチャンネルのために、差動接続された複数の個々の巻線からなっている。励磁コイルによって発生した磁場は、内側のコイル範囲全体にわたって均一に分配されず、巻線の近くにおいて非常に強く、コイル中心の方に向かって弱まる。この作用により、同じ磁場形状と磁場強さの差動式のずらされた2つのコイルをエミッタ枠内に配置することは幾何学的に不可能である。これは、2つの測定エッジの少なくとも一方について、互いに接続された2個よりも多い差動式レシーバコイル(簡略化されて示してある)が接続され、エミッタ枠に対して対称に配置されておらず、異なる強さの磁場が流通することを意味する。それによって、測定装置がスケールと相対的に移動する場合に、誘導電圧の差を求めた後で、変調された有効信号が“零”だけ振動しないで、3つのレシーバ面内の静的な磁場の強さの差に比例する値だけ変動する。信号オフセットと呼ばれるこの値は、後続の電子評価装置において完全に調整することはほとんど不可能である。なぜなら、その振幅の一部がコイルとスケールの間隔または相対的な傾動のような運動の二次作用によって影響を受け、それによって測定過程全体で一定でないからである。
【0013】この特許の明細書の作成者は、問題を認識しており(第10頁、25段落)、構造的な提案は有効ではない。なぜなら、非対称の対のレシーバ巻線をエミッタ巻線から離してエミッタコイルの中央に配置し、しかも励磁場とその勾配が弱まる範囲に、エミッタコイルを配置しなければならないからである。励起磁場とその勾配が弱まることにより、誘導された有効信号も弱まるので、信号オフセットに対する有効信号の比は不所望のままである。」

「【0045】他の例では、マルチエミッタ構造体が図9に象徴的に示すように考慮される。この実施の形態では、各々のレシーバチャンネルがエミッタコイルによって励磁される。全体の原理については、エミッタチャンネルが複数のコイルグループからなり、各々のグループがその2つの差動コイル要素と共に固有のエミッタによって励磁されるかまたは更に拡張されて各々の単一要素がその固有のエミッタに結合されているときと全く同じことが当てはまる。
【0046】この構造の場合、2個のエミッタE1,E2の一方だけに給電するときには、対応するレシーバチャンネルが、対称および同じ巻線数によって、オフセットのない信号を生じる。しかし、機能に従って両誘導方向(図9cの同じ方向、図9dの反対方向)に交互に作用することによって両エミッタが働くと、要素コイル平面Bs+≠Bs-,Bc+≠Bc-内に異なる誘導が発生し、それによってオフセット含む信号が発生する。更に、2つのチャンネルから1つのエミッタへの混合コイル要素についても、他の各々の組み合わせが解決策をもたらさないことが明らかである。
【0047】4エミッタ形式の拡張されたマルチエミッタ構造体が図10に示してある。この場合にも、同じ誘導方向(図10a)と反対の誘導方向(図10b)について、センサ構造体全体の両端エミッタの影響が不均一な磁場強さ分布を生じる。これは多数のエミッタを備えたマルチエミッタ構造体についても当てはまる。」

「【0056】図15にはマルチエミッタ構造体が示してある。個々のエミッタ磁場を連鎖することにより、既に述べたように、等しくない全体磁場分布が生じる。ここで説明する第1の補償方式は、補償レシーバ(Ck+,Ck-およびSk+,Sk-)に結合された付加的な補償エミッタEK1,EK2を備えている。この補償エミッタと補償レシーバは他の類似のエミッタおよびレシーバとその面積および(または)巻線数、場合によって巻線方向が異なっている。この違いにより、相互接続された要素を有する全体構造体内で、この補償信号の反作用によって、その偏差が抑制される。
【0057】簡単化した形を示す、この構造体の2つの変形では、付加的なエミッタ(図16)または付加的なレシーバ(17)が補償要素として使用される。上記と類似の方法では、この補償要素を備えていないときに存在する信号オフセット値が補償される。」

「【0072】他の考察のために、コイル構造体は交互に設けられた金属(MET)と絶縁層(ISO)からなっていると仮定する。絶縁層はメッキされたスルーホール(Vias)を備えている。このスルーホールは電気的な中間層端子を実現する。この多層装置全体は、技術的な観点から決定される基板上に形成され、適当な接点を介して給電ユニットおよび電子評価装置に接続されている。このような多層装置は公知の技術によって、印刷回路の場合に類似してあるいはフォトリソグラフィ薄層技術で実現可能である。」

イ 上記【請求項5】、段落【0045】ないし【0047】及び段落【0056】ないし【0057】の記載から、引用例2には、次の技術(以下、「引用例2に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「マルチエミッタ構造体において、少なくとも1つの付加的な補償エミッタが設けられ、この補償エミッタが測定方向にまたはエミッタに対して平行な平面内に配置され、レシーバ平面内に補償された均一な励磁場分布を生じる技術。」

4 引用発明との対比
ア 本願発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「読み出しヘッド402」は、「8個の平衡ループ対457からなる受信巻線と送信巻線452とを有し」ているから、本願発明の「平面コイル構造体としてのセンサユニット」とは、「コイル構造体としてのセンサユニット」の点で共通する。
(イ)引用発明1の「バイナリコードスケール458」は、「測定軸300方向に沿って配列された上部459と下部459′を持ち、これらの上部459及び下部459′はそれぞれ、磁束変調器170とスペース172を含む複数のスケール要素174を有し」、「磁束変調器は、磁束減衰器又は磁束拡大器のいずれかであって、磁束減衰器は導体により形成され、磁束変調器170が磁束減衰器であるとしたとき、スペース172を磁束拡大器で置換することができ」るから、本願発明の「測定経路に沿って可変磁気抵抗または導電性のエリアを有するスケール」に相当する。
(ウ)引用発明1の「読み出しヘッド402とスケール部材404とから構成され」る「バイナリコードトランスジューサ450」は、「誘導型絶対位置トランスジューサ400の実施例」であるから、本願発明の「絶対位置測定のための測定デバイス」に相当する。
(エ)引用発明1における「各スケール要素174の長さ」は、「エッジ-エッジ間距離308に等し」いから、引用発明1において、「誘導型絶対位置トランスジューサ400」の実施例である「バイナリコードトランスジューサ450」を用い、「エッジ-エッジ間距離308に等し」い「スケール要素174」により「絶対位置」を測定することが、本願発明の「測定長さ内の前記絶対位置を測定する」ことに相当する。また、引用発明1における「誘導型絶対位置トランスジューサ400」の実施例である「バイナリコードスケール458」が、「絶対位置」を測定するために供給されていることは明らかである。
(オ)引用発明1における「8個の平衡ループ対457」と「送信巻線452」とが、本願発明の「全体的な測定デバイス(N)の一部としてのコイルエレメント(S2)」に相当する。
(カ)引用発明1における「バイナリコードスケール458」は、「測定軸300に沿って配列された上部459と下部459′を持」っており、「バイナリコードトラックは、各コードトラック受信巻線がバイナリコード語の1ビットを出力するようにし」ているから、本願発明の「ビット毎に非周期的に符号化される、各ビット形成毎に全体的な測定デバイス(N)の一部としてのコイルエレメント(S2)に異なる影響を与える、少なくとも2つの並行目盛り(T1、T2)」に相当する。
(キ)引用発明1における「送信巻線452」が、本願発明の「エミッタコイル(E)」に相当する。
(ク)引用発明1における「平衡ループ対457からなる受信巻線」が、本願発明の「レシーバコイル(R)」に相当する。
(ケ)引用発明1における「読み出しヘッド402は、8個の平衡ループ対457からなる受信巻線と送信巻線452とを有し」、「これらの平衡ループ対457は、送信巻線452により取り囲まれ、各平衡ループ対457は、正極性ループ454と負極性ループ456を持つが、これらは測定軸300と直交する方向に配置されて」おり、「バイナリコードトラックは、各コードトラック受信巻線がバイナリコード語の1ビットを出力するように」していることと、本願発明の「各コイルエレメントはオフセット配置されて平衡状態にあり、かつビット走査毎にエミッタコイル(E)およびレシーバコイル(R)用の擬似密閉巻線を有し、前記コイル(E、R)自体が指定された個々のビット形成にしか機能しない」こととは、「レシーバコイル(R)はオフセット配置されて平衡状態にあり、かつビット走査毎にレシーバコイル(R)用の擬似密閉巻線を有し、前記コイル(R)自体が指定された個々のビット形成にしか機能しない」点で共通する。

イ 以上のことから、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「コイル構造体としてのセンサユニットと、測定経路に沿って可変磁気抵抗または導電性のエリアを有するスケールとから構成される絶対位置測定のための測定デバイスであって、測定長さ内の前記絶対位置を測定するために、ビット毎に非周期的に符号化される、各ビット形成毎に全体的な測定デバイス(N)の一部としてのコイルエレメント(S2)に異なる影響を与える、少なくとも2つの並行目盛り(T1、T2)が供給される測定デバイスにおいて、
レシーバコイル(R)はオフセット配置されて平衡状態にあり、かつビット走査毎にレシーバコイル(R)用の擬似密閉巻線を有し、前記コイル(R)自体が指定された個々のビット形成にしか機能しないことを特徴とする測定デバイス。」

【相違点1】
本願発明では、「コイル構造体」が「平面コイル構造体」であって、「コイルエレメントは、1つまたは複数の巻線実施形態において多層技術で製造され」ているのに対し、引用発明では、「各平衡ループ対457」及び「送信巻線452」(本願発明の「コイルエレメント」に相当する。以下、同様。)が「平面」コイル構造体であることは明記されておらず、また、「平衡ループ対457」及び「送信巻線452」(コイルエレメント)が多層技術で製造されることも示されていない点。

【相違点2】
本願発明では、「各コイルエレメントはオフセット配置されて平衡状態にあり、かつビット走査毎にエミッタコイル(E)およびレシーバコイル(R)用の擬似密閉巻線を有し、前記コイル(E、R)自体が指定された個々のビット形成にしか機能しない」ものであって、「センサ構造体は、個々のビットの形成に必要である前記コイルエレメントのエミッタ巻線(E)に加えて、オフセット状態の出力信号または振幅を補償するために単独で電磁場を補償すべく機能する追加的なエミッタ巻線または導体トラックを有する」のに対し、引用発明1では、「8個の平衡ループ対457」を取り囲む「送信巻線452」を用いることは示されているものの、「バイナリコード語の1ビットを出力する」「各コードトラック受信巻線」、つまり「各平衡ループ対457」(レシーバコイル(R))が各々「送信巻線452により取り囲まれ」て、測定軸300と直交する方向に配置している(「オフセット配置されて平衡状態にあ」る「各コイルエレメント」が、「ビット走査毎にエミッタコイル(E)およびレシーバコイル(R)用の擬似密閉巻線を有」している)点は示されておらず、また、「送信巻線452」が、本願発明のような「オフセット状態の出力信号または振幅を補償するために単独で電磁場を補償すべく機能する追加的なエミッタ巻線または導体トラックを有する」ことも示されていない点。

5 判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
例えば、引用例1の段落【0151】に「受信巻線414は複数の極性が変化するループ191を形成する。第2の受信巻線416も同様に複数の極性が変化するループ192を形成する。受信巻線414,416の変化する部分は、トランスジューサ400の読み出しヘッド402を構成するプリント回路基板の異なる層に形成される。」と記載され、また、引用例2の段落【0072】に「他の考察のために、コイル構造体は交互に設けられた金属(MET)と絶縁層(ISO)からなっていると仮定する。絶縁層はメッキされたスルーホール(Vias)を備えている。このスルーホールは電気的な中間層端子を実現する。この多層装置全体は、技術的な観点から決定される基板上に形成され、適当な接点を介して給電ユニットおよび電子評価装置に接続されている。このような多層装置は公知の技術によって、印刷回路の場合に類似してあるいはフォトリソグラフィ薄層技術で実現可能である。」と記載されているように、巻線を多層技術により形成し、平面コイル構造体とすることは、本願の優先日前に周知の事項である。
よって、引用発明1において、「各平衡ループ対457」及び「送信巻線452」(コイルエレメント)を、上記周知の事項を用いて多層技術により形成して、平面コイル構造体とし、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
引用例1の段落【0049】には「ノギス100の第1の好ましい実施例において、第1の受信巻線178のループ191は、好ましくは送信巻線180の内側の所定領域内に配置される。発明者等の実験によれば、送信巻線はその導体からの距離の関数で急速に強度が減衰する磁界を発生する。しかしまた発明者等の実験によれば、送信巻線180の内部領域では、磁界が、送信巻線導体から所定距離を越えたところで一定値となる傾向があることも明らかになっている。上記所定距離は、比較的均一磁界が得られる領域の周囲を規定することになる。この磁界が均一になる距離は、送信巻線の幾何学的関数である。従ってこの発明による誘導型トランスジューサの精度を改善するためには、ループ191,192は送信巻線180から上記所定距離だけ離して配置することが好ましい。より好ましくは、第1及び第2の受信巻線178及び179のループ191及び192は、比較的均一な磁界内に全てが配置されるようにする。」(下線は当審で付与した。)と記載されている。
また、引用例1の段落【0173】には「上述のように、平衡ループ対のコード検出巻線を含む受信巻線に誘導される信号は、磁束変調器170の磁束変調効果のために、送信巻線により発生される送信磁界に比べて小さい。従って送信磁界効果のバランスをとることは、信号対ノイズ比を改善し、また送信巻線と受信巻線の間の望ましくない“不平衡”クロストークを除去し或いは低減する上で重要である。」(下線は当審で付与した。)と記載されている。
すると、引用例1には、送信巻線によって「比較的均一磁界が得られる」ようにすること、つまり「送信磁界効果のバランスをとる」ことが、「平衡ループ対のコード検出巻線を含む受信巻線」を有する誘導型トランスジューサの精度改善にとっても重要であることが示唆されているといえる。
そこで検討すると、引用例2の段落【0011】ないし【0013】には、引用例1のパテントファミリーである「ドイツ連邦共和国特許出願公開第19803249号公報(会社ミツトヨ)」について記載され、引用例2の段落【0012】において「【0012】励磁コイルの巻線は構造体平面内でレシーバコイルを取り囲んでいる。このレシーバコイルは各々のチャンネルのために、差動接続された複数の個々の巻線からなっている。励磁コイルによって発生した磁場は、内側のコイル範囲全体にわたって均一に分配されず、巻線の近くにおいて非常に強く、コイル中心の方に向かって弱まる。この作用により、同じ磁場形状と磁場強さの差動式のずらされた2つのコイルをエミッタ枠内に配置することは幾何学的に不可能である。」(下線は当審で付与した。)と、引用発明1の上記問題点についての言及がなされている。
そして、その解決策として、引用例2では、まず、「2つの差動コイル要素と共に固有のエミッタによって励磁される」「マルチエミッタ構造体」の採用が考察されるが(引用例2段落【0045】ないし【0047】)、それでも「センサ構造体全体の両端エミッタの影響が不均一な磁場強さ分布を生じる」(引用例2段落【0047】)ことから、「レシーバ平面内に補償された均一な励磁場分布を生じる」ように、さらに「マルチエミッタ構造体において、少なくとも1つの付加的な補償エミッタが設けられ、この補償エミッタが測定方向にまたはエミッタに対して平行な平面内に配置」(引用例2に記載された技術)すべきことが教示されている。
以上の点を総合的に判断すれば、引用発明1に、引用例2に記載された上記一連の改善技術を適用し、引用発明1において、「8個の平衡ループ対457」を取り囲む「送信巻線452」を用いることに代え、「送信巻線452」を、「各平衡ループ対457」のそれぞれを励磁する固有の送信巻線を有する「マルチエミッタ構造体」とし、さらに、「マルチエミッタ構造体」に「少なくとも1つの付加的な補償エミッタが設けられ、この補償エミッタが測定方向にまたはエミッタに対して平行な平面内に配置され」、「8個の平衡ループ対457」に「補償された均一な励磁場分布を生じ」るようにして、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ そして、これらの相違点を総合的勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明1、引用例2に記載された技術及び周知の事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ よって、本願発明は、引用発明1、引用例2に記載された技術及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-07 
結審通知日 2015-05-12 
審決日 2015-05-28 
出願番号 特願2012-539138(P2012-539138)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞岩 久恵  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 関根 洋之
清水 稔
発明の名称 長さおよび角度測定のための誘導測定デバイス  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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