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審決分類 審判 一部無効 特29条の2  G01C
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  G01C
審判 一部無効 2項進歩性  G01C
管理番号 1306819
審判番号 無効2014-800146  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-09-04 
確定日 2015-10-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第4852187号発明「電子機器及びプログラム」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第4852187号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件に係る特許第4852187号についての手続の経緯の概要は,次のとおりである。
・平成22年 6月18日: 特許出願(特願2010-139828号。特願2009-168233号に基づく優先権の主張を伴うもの。)
・平成23年10月28日: 特許権の設定登録(特許第4852187号)
・平成26年 9月 4日: 本件特許無効審判請求(無効2014-800146号)〈請求人〉
・平成26年12月 5日: 答弁書の提出〈被請求人〉
・平成27年 1月27日: 審理事項の通知〈審判長〉
・平成27年 2月26日: 口頭審理陳述要領書の提出〈請求人〉
・平成27年 3月19日: 口頭審理陳述要領書の提出〈被請求人〉
・平成27年 3月19日: 第1回口頭審理
・平成27年 5月25日 審決の予告
なお,審決の予告に対する応答はなかった。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下,「本件特許発明」と言う。)は,次のとおりに特定されるものである。
「現在位置を取得するための位置取得手段と,
目的物の位置情報を記憶する記憶手段と,
報知手段と,
前記取得手段によって取得した現在位置と前記記憶手段によって記憶された目的物の位置情報との接近関係に基づいて当該目的物の設置位置に関する情報の報知を前記報知手段から報知させる制御を行う制御手段とを備える電子機器において,
現在の移動速度を取得するための速度取得手段を備え,
前記記憶手段は,前記目的物の位置情報として現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置情報を記憶し,
前記制御手段は,前記位置取得手段によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,前記速度取得手段によって現在の速度が取得できない状態である場合に,現在の推定速度を決定し,前記記憶手段に記憶された現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置へ前記推定速度で進行しているものとして当該目的物との前記接近関係を判定すること
を特徴とする電子機器。」

第3 無効理由についての当事者の主張
1 請求人が主張する無効理由の概要
(1)無効理由1
本件特許発明は,甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であるから,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件特許発明は,甲第2号証に記載された発明と同一であるか,少なくとも当業者であれば甲第2号証に記載された発明に基づき容易に想到することができた発明であるから,特許法第29条第1項第3号ないし同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(3)無効理由3
本件特許発明は,甲第3号証に記載された発明と同一であるか,少なくとも当業者であれば甲第3号証に記載された発明に基づき容易に想到することができた発明であるから,特許法第29条第1項第3号ないし同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
2 被請求人の主張の概要
(1)無効理由1
甲第1号証に開示された発明は,本件特許発明の構成要件である「前記制御手段は,前記位置取得手段によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,前記速度取得手段によって現在の速度が取得できない状態である場合に,現在の推定速度を決定し,」を備えておらず,本件特許発明と同一であるとは言えない。
(2)無効理由2
本件特許発明は,甲第2号証に開示された発明と以下の点で異なることから,特許法第29条第1項第3号に違反するものではなく,また,同法第29条第2項に違反するものでもない。
・ 本件特許発明の制御手段は,取得手段によって取得した現在位置と記憶手段によって記憶された目的物の位置情報との接近関係に基づいて当該目的物の設置位置に関する情報の報知を報知手段から報知させる制御を行う制御手段であるのに対して,甲2発明の制御手段は,ガイダンス実行ポイントに到達したか否かを判断してガイダンスポイントノードに関する音声ガイダンスを音声出力手段220から報知させる制御を行う制御手段であること(相違点2a)。
・ 本件特許発明の制御手段は,位置取得手段によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,速度取得手段によって現在の速度が取得できない状態であるか否かを基準としているのに対して,甲2発明の制御手段は,リンクの属性情報としてGPS測位ができないガイダンスポイントノードか否か及びリンクの属性情報としてGPS測位ができないガイダンス実行ポイントであるか否かを基準としていること(相違点2b)。
・ 本件特許発明の制御手段は,位置取得手段によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,速度取得手段によって現在の速度が取得できない状態である場合に,現在の推定速度を決定するものであるのに対し,甲2発明の制御手段は,リンクの属性情報としてGPS測位ができないガイダンスポイントノードまたはガイダンス実行ポイントであると判定された場合にVICSシステムなどの交通監視センターが運用するサーバから走行中のリンクにおけるリアルタイムの走行速度情報を取得するものであること(相違点2c)。
(3)無効理由3
本件特許発明は,甲第3号証に開示された発明と以下の点で異なることから,特許法第29条第1項第3号に違反するものではなく,また,同法第29条第2項に違反するものでもない。
・ 本件特許発明の制御手段は,取得手段によって取得した現在位置と記憶手段によって記憶された目的物の位置情報との接近関係に基づいて当該目的物の位置情報に関する情報の報知を報知手段から報知させる制御を行う制御手段であるのに対して,甲3発明の制御手段は,案内ポイントに到達してか否かを判断してノードの設定位置に関する音声案内を音声処回路及びスピーカ6から報知させる制御を行う制御手段であること(相違点3a)。
・ 本件特許発明の記憶手段は,目的物の位置情報として現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置情報を記憶しているのに対し,甲3発明の記憶手段は交差点ノード2の位置情報として現在位置が取得できない箇所にある交差点ノード2の位置情報を記憶されていないこと(相違点3b)。

第4 当審の判断
1 無効理由1
(1)甲第1号証(特開2010-203881号公報)
ア 甲第1号証は,特願2009-48987号の公開公報であり,特願2009-48987号の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面を掲載したものである。
特願2009-48987号の出願の日は,平成21年3月3日であって,これは,本件に係る特許出願である特願2010-139828号の出願の日である平成22年6月18日よりも前の日であり,また,その当該特願2010-139828号の優先権主張の基礎となった特願2009-168233号の出願の日である平成21年7月16日よりも前の日である。
甲第1号証の頒布日,すなわち特願2009-48987号の公開日は,平成22年9月16日であって,これは,本件に係る特願2010-139828号の出願の日及び当該特願2010-139828号の優先権主張の基礎となった特願2009-168233号の出願の日よりも後の日である。また,本件特許発明の発明者は,甲第1号証に係る特願2009-48987号の発明者と同一ではないし,本件特許発明についての特許出願の時にその出願人と甲第1号証に係る特願2009-48987号の出願人とが同一でもない。
イ 甲第1号証には,図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
道路交通情報を自動車において受信し,前記受信の受信内容や受信状況に応じて運転者に報知する道路交通情報の受信装置であって,前記自動車の位置と前記自動車の速度を演算するGPSモジュールと,位置に対応した道路交通情報を登録している位置登録データメモリと,前記GPSモジュールから位置および速度データを受信し前記位置登録データメモリから現在位置に対応した道路交通情報を得て制御を行うCPUと,前記道路交通情報を聴覚的または視覚的に運転者に報知する報知部と,を備えた道路交通情報の受信装置において,
前記位置登録データメモリの中にトンネル情報であるトンネルの位置・出口までの距離・方向のデータを登録し,
加速度センサを備え,
前記CPUが,前記GPSモジュールから受信しなくなったら前記トンネル情報と前記加速度センサからの加速度データを用いて自車の位置と車速を算出し,自車がトンネル内の取締機に近づきかつ制限速度超過のとき減速を促す警告をすることを特徴とする道路交通情報受信装置。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は,自動車の制限速度を遵守させるため,GPSモジュールにより現在の走行速度と道路の制限速度を比較してその旨を自動車の運転手に報知して速度遵守を促す機能を備えた道路交通情報受信装置に関し,特にGPSモジュールが機能しないトンネル内での取締機に対応できることで交通事故の低減に寄与することのできる交通情報受信装置に関する。」
(ウ)「【0004】
図4は公知の道路交通情報受信装置のブロック図である。
図において,300は本発明に係る受信装置,110はソーラバッテリー,111は電源制御部,112は自動車のエンジンで発電機を回転させて発電した電気エネルギを充電する充電式電池である。120はGPSモジュールで,GPS受信器121と位置検出/速度演算部122から成り,GPS受信器121の受信信号が位置検出/速度演算部122で処理されて,その結果を距離・位置・速度データ受信部130に送信する。主制御部(CPU)130では,距離・位置・速度データ受信部140と,演算部および位置・登録データメモリ150が信号の授受を行なっている。位置・登録データメモリ150は,日本全国の緯度・経度に対応した位置における道路交通情報と,高速道/一般道データ,各道路の制限速度データ150aを記憶している。
【0005】
また,ここで言う「道路交通情報」とは,上述のスピード違反取締機(オービス)として,固定式のレーダー式,速度計測機(計測用カメラ),速度警告板,計測センサーとしてカメラとループセンサーを備えたループコイル式のもの,「NHシステム」,ステルス型,光電管式や赤外線式の計測センサーを使用して車が一定区間を通過する時間を計測して車速を割り出すもの,移動式のものにはパトロールカーの屋根に積載されるレーダー式の取締り機等の信号および設置位置を示す情報を言う。」
(エ)「【0009】
主制御部130は,聴覚的警報信号をアナウンス・音声出力部191へ出力し,スピーカ192で知らせる。また,視覚的警報信号をワーニングランプ・設定状態LED表示部193へ出力する。
【0010】
次に,図4の受信装置の動作について図5のフローチャートを用いて説明する。
受信装置が動作開始すると,主制御部(CPU)130は,GPSモジュール120から現在位置と自動車の現在の車速データを受け取り(ステップ41),ステップ42で位置登録データメモリから受け取ったスピード違反取締機の設置位置情報を基に進行方向にスピード違反取締機があるかどうかを調べ,なければステップ41へ戻り,スピード違反取締機があればステップ44へ進む。
ステップ44では,位置登録データメモリから受け取った位置対制限速度データを基に,現在の車速が現在地の制限速度を超えているか調べ,超えていなければ通常の報知,例えば「取締機が近くにある」という事実だけを運転者に報知して(ステップ46),運転者にこれから加速しないようにさせて,ステップ41へ戻る。
一方,車速が現在地の制限速度を超えていれば,「取締機が近くにある」という報知だけではなくて,車速が制限速度を超えているのでスピードを落とすように警告をする。さらにその警告の際にその制限速度が一般道か高速道かの報知をも行って(ステップ46),運転者に速度を落とすべきかどうかの最終判断を委ねるようにしている。
【0011】
このように,スピード違反取締機の設置位置および全国の高速道を含む道路を緯度・経度に対応づけてその制限速度を位置登録データメモリに記憶させているので,GPSモジュール120から受ける現在位置情報からスピード違反取締機が近傍にあるかどうかが判りかつ道路の制限速度が判り,この制限速度とGPSモジュール120から受ける自動車の走行速度を比較することで,制限速度違反かどうかが制限速度の異なる道路においても判ることになる。」
(オ)「【0013】
〈従来の受信装置の弱点〉
最近,トンネル内での事故防止からトンネル内にもスピード違反取締機が設置されるようになった。従来の受信装置は上記のようにGPSモジュールから位置を得ているので,GPSからの電波が受信できる場所ではスピードを落とすように警告することができたが,トンネル内では衛星からのGPS電波が受信できないので,GPSモジュールが機能しなくなり未測位状態となってトンネル内の取締機については警告できなかった。
【0014】
〈ジャイロセンサを使えば可能〉
そこでトンネル内の取締機についても警告できるようにするには,カーナビゲーションで採用されている「ジャイロセンサと加速度センサ,あるいは車速情報(車からの速度信号)」を利用したトンネル内位置推定システム(以下,「ジャイロセンサ等のシステム」と言う。)を採用すれば比較的高精度なシステムが可能である。
しかしながら,このようなトンネル内位置推定システムは高価なジャイロセンサを用いているので高価となってしまい,安価に製造する課題を負っている受信装置には高価なジャイロセンサ等のシステムを搭載することができなかった。
【0015】
〈本発明の目的〉
そこで,本発明はかかる欠点を解決するためになされたもので,高価なジャイロセンサ等のシステムを用いずに安価な加速度センサだけで,トンネル内の取締機に対応できる受信装置を提供することを目的としている。」
(カ)「【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため,第1の発明は,道路交通情報を自動車において受信し,前記受信の受信内容や受信状況に応じて運転者に報知する道路交通情報の受信装置であって,前記自動車の位置と前記自動車の速度を演算するGPSモジュールと,位置に対応した道路交通情報を登録している位置登録データメモリと,前記GPSモジュールから位置および速度データを受信し前記位置登録データメモリから現在位置に対応した道路交通情報を得て制御を行うCPUと,前記道路交通情報を聴覚的または視覚的に運転者に報知する報知部と,を備えた道路交通情報の受信装置において,前記位置登録データメモリの中にトンネル情報であるトンネルの位置・出口までの距離・方向のデータを登録し,加速度センサを備え,前記CPUが,前記GPSモジュールから受信しなくなったら前記トンネル情報と前記加速度センサからの加速度データを用いて自車の位置と車速を算出し,自車がトンネル内の取締機に近づきかつ制限速度超過のとき減速を促す警告をすることを特徴としている。」
(キ)「【発明の効果】
【0023】
以上の第1の発明により,従来は高価なジャイロセンサ等のシステムを用いなくてはトンネル内の取締機に対して対応できなかったが,本発明ではジャイロセンサ等のシステムを用いなくても「加速度センサだけ」でトンネル内の取締機に対して対応する受信装置の実用化が可能となる。」
(ク)「【発明を実施するための形態】
【0025】
従来の受信装置ではトンネル内の取締機に対して対応できなかったが,本発明ではジャイロセンサ等のシステムを用いずに加速度センサだけトンネル内の取締機に対して対応できるようになったので,以下,本発明に係る受信装置について説明する。
【0026】
〈本発明の装置が従来装置と異なる点〉
図1は本発明に係る受信装置のブロック図の1例である。
図において,100は本発明に係る受信装置である。受信装置本体100の内部構成が前述の従来装置320と同じ部分については重複説明は省略する。
本発明の受信装置100が従来の受信装置300と異なる点は2つある。 1つは,速度・左右折・停止の各情報を得ることができる加速度センサ50を受信装置100内に設けたことである。高価なジャイロセンサ等のシステムはもちろん搭載していない。
2つ目は,位置・登録データメモリ150に「トンネル情報」(150b)を加えたことである。
「トンネル情報」とは,(1)トンネル入口の位置(緯度・経度),(2)出口までの距離,(3)出口までの方向についての情報である。」
(ケ)「【0029】
〈加速度センサから速度の求め方〉
重力加速度(単位:G[ジー]。1G=9.80665m/s2)から速度への変換は,
1G≒35km/h/s
で与えられる。
本発明の受信装置は0.1秒単位で加速度データを得ているので,その周期で車の進行方向であるx方向(なお,y方向は車の左右方向,z方向は上下方向)の加速度を時間積分すれば速度が算出される。」
【0030】
〈実際の加速度センサには誤差が多い〉
しかしながら,各種の調査および実験において,加速度センサの出力結果に多くの誤差が含まれているために,結果をそのまま使用することができないため,これまで加速度センサによる速度算出は困難とされ,開発も停滞しており,カーナビゲーション等ではもっぱらジャイロセンサ等のシステムが使用されていた。
【0031】
〈本発明による補正処理1?6〉
本発明では次のような補正処理を行うことにより「加速度センサのみによる」トンネル内使用が可能となった。」
(コ)「【0039】
図3は以上説明した補正処理1?6を実行する本発明に係る受信装置のメインルーチンを表している。
〈メインルーチンの概要〉
図3において,メインルーチンは大きく(イ)?(ハ)に分かれる。
(イ)は0.1秒毎処理で,0.1秒毎に速度(x軸加速度)・角度(y軸加速度)と停止判定(z軸方向加速度)を読込む。0.1秒はループ又はタイマー割込み等で実現している。
(ロ)は1秒毎処理で,1秒毎にGPS若しくは加速度データのどちらかを使用して,警告判定を行う。
(ハ)は1.5秒毎処理で,1.5秒毎に停止判定を行う。
【0040】
〈メインルーチンの説明〉
そこで,メインルーチンがスタートすると,ステップ21でイニシャル処理をしたあと,ステップ22で「0.1秒毎か」調べ,No(0.1秒未満)であればステップ25へ飛び,「1秒カウンタが1秒か」調べ,No(1秒未満)であれば,さらにステップ44へ飛び,「1.5秒カウンタが1.5秒か」調べ,No(1.5秒未満)であれば,ステップ22へ戻る。これを繰り返すうちにステップ22で0.1秒毎がYes(0.1秒毎)となる。
ステップ22でYesとなるとステップ23へ進み,「加速度センサ速度データ読取処理」を行なう。
【0041】
《加速度センサ速度データ読取処理》
加速度センサ速度データ読取処理では,
(イ)X軸の加速度データに単位時間(10.1秒)と前記(1)式で求めたフイルタによる減衰補正の係数を乗じて,メモリに格納している。
(ロ)次ぎに,所定時間(10秒?50秒)以上連続走行していれば,連続走行用の補正値(0.1倍)による補正を実施する。
(ハ)さらに,車両が停止状態から走行開始した以後の加速度はハイパスフイルタの影響で符号が反転してしまい不確実な状態になるので,これの対策として,走行開始から最大加速度値(ピークホールド値)を取得した後の所定時間(10秒?50秒)は加速度センサのデータを使用せずにピークホールド値にて補正を行なうようにしている。
(ニ)そして,y軸加速度により右折・左折を判定する角度を読込む。
以上の(イ)?(ニ)処理を行った後,メインルーチンのステップ24に戻る。
【0042】
《加速度センサ停止判定データ読取処理》
ステップ24の処理は0.1秒毎に上下方向(z軸方向)の加速度を読込む。
メインルーチンでは,これを15回分(1.5秒)完了(図3のステップ44でYes)後,停止判定処理にて判定処理(図3のステップ45)を行なう。
ステップ24の加速度センサ停止判定データ読取処理を行なったら,ステップ25で1秒カウンタが1秒か調べ,No(1秒未満)であればステップ44へ飛び,Yes(1秒)であればステップ26でGPSアンテナデータ読取処理を行なう。
【0043】
《GPSアンテナデータ読取処理》
加速度データで緯度・経度を求めるためには以前の位置(緯度・経度)と進行方向を基点として算出する必要があるので,ステップ26のGPSアンテナデータ読取処理は,そのためのGPSデータを記録保持するステップである。緯度,経度,方位,速度の各テーブルを用意し,そこにGPS測位があればその値を各テーブルに記録保持している。
【0044】
《加速度データ算出処理》
ステップ27の加速度データ算出処理では,加速度データから1秒分の移動距離を求め,これと前回のGPS緯度・経度・方位とから加速度の緯度・経度を求めている。また,1秒毎の角度が30度以上であれば「曲がった」と判断する。
【0045】
《測位状態判定処理》
ステップ28の測位状態判定処理は,GPSの測位/未測位状態で,どのデータ(緯度・経度)を使用するのかの判断モジュールである。結果は「測位状態スイッチ(SW)」テーブルに3?0のどれかの値を出力する。
数字の意味は以下の通りとする。
(イ)測位状態SW=3:
GPS測位中を意味する。GPSの緯度・経度データを使用する。これと同時に,予めメモリーに記憶してあるトンネルポイントと位置比較する。
(ロ)測位状態SW=2:
トンネルポイント通過後のGPS未測位状態を表わす。加速度センサーにて位置算出する状態とする。
(ハ)測位状態SW=1:
トンネルポイント以外でGPS未測位状態を表わす。加速度センサーにて位置算出する状態とする。
このように,SW=1と2の違いは2は受信装置が予定していたトンネルでのGPS未測位状態となったとき,1はそれ以外(すなわち警告対象外)のトンネルでのGPS未測位状態となったときである。
(ニ)測位状態SW=0:
位置算出不可の状態。復帰はGPS測位するまでは,この状態を保持する(警告処理不可能状態)
【0046】
《不可判定0となる場合》
また,不可判定は次のようにしている。
(1)SW=2の場合は,トンネルポイントから出口迄の距離を通過した以降にGPS測位しなければ0とする。
(2)SW=1の場合は,トンネル距離を500mとしてセットし,その距離通過後にGPS測位しなければ0とする。
(3)SW=1の場合が10秒経過した後に,曲がったか(30度以上)若しくは2回停止判定した場合に0とする。
【0047】
《測位状態判定処理の結果》
以上のステップ28の測位状態判定を行った結果,ステップ29で測位状態スイッチが3(GPS測位中)か,2又は1(加速度補間中)か,0(未測位で加速度補間不可)かを調べる。
結果が3であればステップ33へ,2又は1であればステップ31へ,0であればステップ30へ進む。
ステップ30では,緯度・経度はGPS結果を保持することとして,ステップ43へ進む。
ステップ31では,緯度・経度は加速度センサ結果を使用し,その後ステップ41へ進む。
ステップ33では,緯度・経度はGPS結果を使用し,その後ステップ41へ進む。
ステップ41では警告するポイントか調べ,No(警告なし)であればステップ44へ進み,Yes(警告ポイント)であればその後ステップ42へ進んで,警告処理をした後,ステップ43へ進み,ステップ43で1秒カウンタを0にしてステップ44へ進む。ステップ44で1.5秒カウンタが1.5秒となったか調べ,No(1.5秒未満)であればステップ22へ戻り,Yes(1.5秒)であればステップ45で停止判定処理を行なう。
【0048】
《停止判定処理》
ステップ45の停止判定処理は,所定の時間(1秒?10秒)の80%?90%以上の間にz軸(上下方向)加速度の値が10mG以下ならば,車両は停止したと判断する処理である。そして停止していなければ,所定時間20秒?1分の間連続走行しているかチェックを行った後,メインルーチンへ戻る
ステップ45で停止判定処理を行なった後は,ステップ46で1.5秒カウンタを0にしてステップ22へ戻る。
【0049】
以上のように,従来は高価なジャイロセンサ等のシステムを用いなくてはトンネル内の取締機に対して対応できなかったが,本発明では上記のような各種の補正処理を行わせることによって,ドリフトの問題をハイパス・フィルタで解決し,ハイパス・フィルタを接続したことの弊害を一定時間加速度のピークホールド値を用いることと,全体のレベルダウン問題を[前回GPSの速度/x軸加速度センサによる速度]の補正で解決し,また連続走行時の加速と停止からの加速との相違の問題を走行開始から一定時間経過後に加速度データの値に所定の係数(例えば,0.05?0.5のうちのいずれかの値)を乗じることで解決し,またy方向の加速度とz方向の加速度も有効利用することで,ジャイロセンサ等のシステムを用いなくても「加速度センサだけ」でトンネル内の取締機に対して対応する受信装置の実用化が可能となった。」
イ これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第1号証には,次の発明(以下,「甲1発明」と言う。)が記載されているものと認められる。
「GPS受信器(121)及び位置検出/速度演算部(122)からなるGPSモジュール(120)と,
位置登録データメモリ(150)と,
アナウンス・音声出力部(191)及びスピーカ(192)と,
前記GPSモジュール(120)によって取得した現在位置と前記位置登録データメモリ(150)によって記憶されたスピード違反取締機が接近している場合,「取締機が近くにある」という事実の報知を前記アナウンス・音声出力部(191)及びスピーカ(192)から報知させる制御を行う主制御部(CPU)(130)とを備える道路交通情報受信装置において,
加速度センサ(50)を備え,
前記位置登録データメモリ(150)は,前記スピード違反取締機の位置情報として現在位置が取得できないトンネル内のスピード違反取締機の位置情報を記憶し,
前記主制御部(CPU)(130)は,前記GPSモジュール(120)によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,前記GPSモジュール(120)によって現在の速度が取得できない状態である場合に,トンネル情報と加速度センサ(50)からの加速度データを用いて自車の位置と車速を算出し,自車がトンネル内のスピード違反取締機に近づきかつ制限速度違反のとき減速を促す警告をする道路交通情報受信装置。」
(2)対比
本件特許発明(以下,「前者」と言うことがある。)と甲1発明(以下,「後者」と言うことがある。)とを対比する。
ア 後者の「GPS受信器(121)及び位置検出/速度演算部(122)からなるGPSモジュール(120)」は,明らかに位置検出を行う部分を含んでいることから,前者の「現在位置を取得するための位置取得手段」に相当し,また,明らかに速度演算を行う部分を含んでいることから,前者の「現在の移動速度を取得するための速度取得手段」にも相当する。
したがって,後者と前者は,いずれも「現在位置を取得するための位置取得手段」と「現在の移動速度を取得するための速度取得手段」を備えているという点で一致する。
イ 後者の「スピード違反取締機」は,前者の「目的物」に相当するから,後者の「スピード違反取締機の位置情報」は,前者の「目的物の位置情報」に相当する。そうすると,後者の「位置登録データメモリ(150)」は,「スピード違反取締機の位置情報」を記憶するものであるから,前者の「目的物の位置情報を記憶する記憶手段」に相当する。
また,後者の「位置登録データメモリ(150)は,前記スピード違反取締機の位置情報として現在位置が取得できないトンネル内のスピード違反取締機の位置情報を記憶し, 」と言う態様は,前者の「前記目的物の位置情報として現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置情報を記憶し,」と言う態様に相当する。
ウ 後者の「アナウンス・音声出力部(191)及びスピーカ(192)」は,前者の「報知手段」に相当する。
エ 後者の「前記GPSモジュール(120)によって取得した現在位置と前記位置登録データメモリ(150)によって記憶されたスピード違反取締機が接近している場合,「取締機が近くにある」という事実の報知を前記アナウンス・音声出力部(191)及びスピーカ(192)から報知させる制御を行う」態様は,前者の「前記取得手段によって取得した現在位置と前記記憶手段によって記憶された目的物の位置情報との接近関係に基づいて当該目的物の設置位置に関する情報の報知を前記報知手段から報知させる制御を行う」態様に相当するから,後者の「主制御部(CPU)(130)」は,前者の「制御手段」に相当する。
オ 後者の「道路交通情報受信装置」は,前者の「電子機器」に相当する。カ 後者の「前記GPSモジュール(120)によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,前記GPSモジュール(120)によって現在の速度が取得できない状態である場合」は,前者の「前記位置取得手段によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,前記速度取得手段によって現在の速度が取得できない状態である場合」に相当する。
キ 後者における「加速度センサ」は,GPSモジュールによって現在位置が取得できない状態であり,かつ,当該GPSモジュールによって現在の速度が取得できない状態である場合に,それから得られる加速度データに基づいて自車の位置と車速を算出するために用いるものである。
この「加速度センサ」から算出される車速は,後者を開示する甲第1号証の記載(「(1)ア(ケ)」の段落【0030】【0031】等参照)からすれば,本来誤差が多いものを補正処理を講じることで実用的に用いられる値としたものと理解される。後者における「トンネル情報と加速度センサ(50)からの加速度データを用いて」「算出」される「車速」は,このこととGPSモジュールによって現在の速度が取得できない状態のときにGPSモジュールによる現在の速度の替わりに用いるものであることを考えれば,“現在の推定速度”と評価することができる。そして,そのような“推定”の速度の“算出”行為は,“決定”と観念することもできる。
また,「加速度センサ」を用いての車速の算出は,随時可能であり,加速度センサに由来する車速とは,時々刻々と変化していく値と理解できるが,前者の「現在の推定速度を決定し,」という事項は,時々刻々と現在の推定速度を決定していくような態様が排除されたものとは解せない。
そうしてみると,後者の「トンネル情報と加速度センサ(50)からの加速度データを用いて自車の位置と車速を算出し,」と言う態様は,前者の「現在の推定速度を決定し,」と言う態様に相当する。
さらに,後者の「自車がトンネル内のスピード違反取締機に近づきかつ制限速度違反のとき減速を促す警告をする」と言う態様は,前者の「前記記憶手段に記憶された現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置へ前記推定速度で進行しているものとして当該目的物との前記接近関係を判定する」と言う態様に相当する。
ク 以上を総合すると,本件特許発明と甲1発明とは,発明特定事項において異なるところがなく,本件特許発明は,甲1発明と実質的に同一であると評価できる。
(3)小括
本件特許発明は,甲第1号証に係る特願2009-48987号の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された発明(甲1発明)と同一である。
したがって,本件特許発明は,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は,特許法第123条第1項第2号に該当する。
よって,請求人が主張する無効理由1は,採用できる。

2 無効理由2
(1)甲第2号証(特開2007-101379号公報)
ア 甲第2号証は,本件に係る特許出願の優先日前に日本国内で頒布されたものであって,図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
出発地と目的地を含む経路探索条件に基づいて探索用ネットワークデータを参照して前記出発地から目的地までの案内経路を探索する経路探索手段と,当該案内経路におけるガイダンスポイントノードを設定した案内経路データを作成する案内経路データ作成手段と,を備え,前記案内経路データを端末装置に配信する経路探索サーバと,前記経路探索サーバにネットワークを介して接続され,前記案内経路データに基づいて,ガイダンスポイントノードごとに当該ガイダンスポイントノードの手前の予め定められた複数のガイダンス実行ポイントに到達するごとに所定のガイダンスを出力するガイダンス出力手段と,GPS測位手段と,を備えた端末装置と,を備えたナビゲーションシステムにおいて,
前記探索用ネットワークデータは,GPSによる測位が可能であるか否かを示す属性情報をリンクごとに含むリンクデータを備え,前記案内経路データ作成手段は案内経路における各リンクの属性情報を案内経路データに付加し,
前記端末装置はガイダンス実行ポイント制御手段を備え,前記リンクの属性データに基づいて前記ガイダンスポイントノードおよび当該ガイダンスポイントノードに対するガイダンス実行ポイントがGPSによる測位が不可能な位置にあるか否かを判定し,ガイダンス実行ポイントがGPSによる測位が不可能な位置にある場合,前記ガイダンス実行ポイント制御手段は,ガイダンス実行ポイントを調整し,調整されたガイダンス実行ポイントにおいて前記ガイダンスを実行することを特徴とするナビゲーションシステム。」
(イ)「【請求項6】
前記ガイダンス実行ポイント制御手段は,走行中リンクの移動速度データを取得して,当該リンクにおける現在位置を推定する現在位置推定手段を含み,当該現在位置推定手段が推定した現在位置によってガイダンス実行ポイントにおけるガイダンスを実行する制御を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載のナビゲーションシステム。」
(ウ)「【技術分野】
【0001】
本発明は,GPS測位手段を備えた携帯電話などの端末装置を用いた通信型のナビゲーションシステム,経路探索サーバおよび端末装置に関するものであり,特に,自動車の助手席に同乗した利用者が端末装置を使用してナビゲーションサービスを受ける場合に,GPS測位手段が現在位置の測位をすることができない経路上のガイダンス実行ポイントにおけるガイダンスを適切に実行することができるように構成したナビゲーションシステム,経路探索サーバおよび端末装置に関するものである。」
(エ)「【0012】
通信型のナビゲーションシステムにおいて,案内経路やガイダンスポイントおよびガイダンスデータ(音声データ等)の配信方法は種々の形態をとり得るが,例えば,下記の特許文献3(特開2005-134209号公報)に開示された「経路案内システム」は,経路探索サーバが携帯端末から送信された経路探索条件に従って案内経路を探索し,経路作成手段がガイダンスポイントノードを設定した案内経路データを作成し,出発地から目的地までの案内経路を一括して携帯端末に送信し,地図データは携帯端末からの地図要求に基づいて地図情報送信手段が携帯端末に送信するように構成している。
【0013】
すなわち,上記特許文献3に開示されたナビゲーションシステムにおいては,経路探索サーバから携帯端末に経路データと地図データを別々に配信し,携帯端末は地図表示に必要な地図データに不足が生じた場合に,経路データから当該経路を含む単位地図の配信を経路探索サーバに要求することができる。通常,地図データは現在位置を含むメッシュ状の単位地図データを中心として上下左右の9つのメッシュ状単位の地図データが携帯端末に配信される。
【0014】
このように案内経路データと地図データとを別にして携帯端末に配信する構成によれば,携帯端末は案内経路のデータから案内経路全体を知ることができ,携帯端末の移動に伴って地図データが不足する場合,進行方向にそった不足地図のみをサーバに要求することができ,経路探索サーバと携帯端末間での地図データ配信に伴う通信負荷を増大させることなく,ガイドポイントにおける案内が可能になる。
【0015】
一般に携帯電話を通信型のナビゲーションシステムの端末装置として用いる場合,測位手段としてGPS受信機を備え,GPS衛星信号を受信して端末装置の現在位置(緯度・経度)を算出する。車載用のナビゲーション装置においては加速度センサ,舵角センサ,車速センサ,磁気コンパスなどの各種センサを備えた自律航法手段を備えており,GPS衛星信号を受信できないトンネル内や地下道路あるいは高層ビルが立て込みマルチパスの影響で測位精度が低下する場所においても自律航法手段により現在位置を測位することができる。
【0016】
しかしながら,携帯電話などの端末装置は自律航法手段を備えていないものが殆どであり,トンネル内,地下道路などGPSによる測位手段が機能しない場所においては現在位置を測位することができない。ガイダンスの実行ポイントや経路探索サーバから配信を受ける地図の範囲は,端末装置が測位した現在位置を基準にしている。このため,GPSによる測位ができない地点では,現在位置が把握できなくなるため,ガイダンスの実行や地図の受信に障害を来す。同様の問題は端末装置が通信圏外に位置し,経路探索サーバとの通信が不能になるような場合にも生じる。
【0017】
このような問題に対応するため,例えば下記の特許文献4(特開2004-364223号公報)には,ナビゲーションシステムなどにおいて定期的に端末装置の現在位置を収集し,端末装置が通信圏外になることを予め報知する通信圏外予告サーバを備えた移動通信システムが開示されている。」
(オ)「【発明が解決しようとする課題】
【0020】
さきに述べたように車載型のナビゲーションシステムにおいては自律航法手段を備えており,GPS測位が不能な場所であっても自律航法手段で現在位置を推定することができる。しかしながら携帯電話などの端末装置は自律航法手段を備えていないものが殆どであり,トンネル内,地下道路などGPSによる測位手段が機能しない場所においては現在位置を測位することができない。GPS測位ができない環境としては,上記のトンネル内や地下道路の他に建築施設の道路やビルに囲まれた幅員の狭い道路などがある。
【0021】
経路探索の結果,案内経路のデータとともに配信されたガイダンスポイントのノードに接近してガイダンス実行ポイントに到達する都度,音声案内などにより右折や左折のガイダンスを受ける場合,測位手段によって測位した現在位置がガイダンス実行ポイントに到達したか否かによってガイダンスが実行される。このため,トンネル内や地下道路などGPSによる測位が不能な道路上にガイダンス実行ポイントがある場合にはガイダンスを実行できないという問題点が生じる。端末装置において不足した地図データの配信を受ける場合にも同様の問題が生じる。
【0022】
図12はこのような問題が生ずる案内経路を模式的に示す図である。図12においてリンクL0は端末装置が移動中(助手席ナビゲーションを受け走行中)のリンクであり,リンクL0はノードN0から点線で示すトンネル区間TのリンクL1に続いている。そしてトンネル区間T内に分岐ノードN1があり,右方向のリンクL3に進行するか,左方向のリンクL2に進行するかを案内するガイダンスが必要なポイント,すなわち,ガイダンスポイントノードGPN1として設定されている。リンクL0とノードL1の左側にはガイダンスポイントノードGPN1の手前の所定距離の地点GP1?GP3が複数示されており,この地点GP1?GP3(ガイダンス実行ポイント)に端末装置が到達した時に音声案内などの手段で右折または左折のガイダンスが実行される。
【0023】
ガイダンス実行ポイントは,走行中の道路(リンク)が高速道路であるか,一般道路であるか,その道路属性によって定められており,高速道路ではガイダンスポイントノードの手前5km,2km,1km,700mがガイダンス実行ポイントとして設定されている。同様に国道においては,次のガイダンスポイントノードの手前2km,1km,500m,300mがガイダンス実行ポイントとして設定され,一般道路においては,2km,1km,500m,200mがガイダンス実行ポイントとして設定されている。
【0024】
トンネル区間Tに入る前の2km地点のガイダンス実行ポイントGP1では現在位置が取得できるので端末装置はガイダンスを実行することができる。しかし,トンネル区間T内ではGPS測位手段による現在位置情報が取得できないため,トンネル区間T内に入ると現在位置がわからず,端末装置は1km地点のガイダンス実行ポイントGP2,500m地点のガイダンス実行ポイントGP3に到達したか否かを判断できず,ガイダンスを実行することができなくなるという問題点を生ずる。
【0025】
2km地点のガイダンス実行ポイントGP1では,例えば「2km先,分岐左方向です」という音声案内が出力される。1km地点のガイダンス実行ポイントGP2では同様に「1km先分岐左方向です」,500m地点のガイダンス実行ポイントGP3では「まもなく分岐左方向です」というガイダンスの実行が設定されているが,ガイダンス実行ポイントGP2,GP3では音声案内を出力することができない。
【0026】
しかしながら上記特許文献4,特許文献5などに開示されたナビゲーションシステムでは端末装置が通信圏外になることを検出し,広範囲の地図情報などを予め受信しておくよう配慮しているものの,GPSによる現在位置が取得できない場合について考慮されたものでなく,上記の問題点を解消することはできないシステムであった。
【0027】
本願の発明者は上記の問題点を解消すべく種々検討を重ねた結果,リンクデータにリンクごとにGPS測位が可能なリンクであるか,不可能なリンクであるかを示す属性情報を付加しておき,この属性情報に基づいてガイダンスポイントが設定されたノードおよび当該ガイダンスポイントノードにおけるガイダンス実行ポイントがGPS測位可能な位置か否かを判定し,ガイダンス実行ポイントを移動し,もしくは,GPS測位手段によらず現在位置を推定してガイダンスを実行するように構成すれば上記問題点を解消し得ることに想到し本発明を完成するに至ったものである。
【0028】
すなわち,本発明は前述の問題点を解消することを課題とし,GPS測位手段が現在位置の測位をすることができない経路上のガイダンス実行ポイントにおけるガイダンスを適切に実行することができるように構成したナビゲーションシステム,経路探索サーバおよび端末装置を提供することを目的とするものである。」
(カ)「【発明の効果】
【0045】
請求項1にかかる発明においては,経路探索サーバはGPSによる測位が可能であるか否かを示す属性情報をリンクごとに含むリンクデータを備え,案内経路データに属性情報を付加して端末装置に配信する。端末装置はガイダンス実行ポイント制御手段を備え,前記リンクの属性データに基づいて前記ガイダンスポイントノードおよび当該ガイダンスポイントノードに対するガイダンス実行ポイントがGPSによる測位が不可能な位置にあるか否かを判定し,ガイダンス実行ポイントがGPSによる測位が不可能な位置にある場合,前記ガイダンス実行ポイント制御手段は,ガイダンス実行ポイントを調整し,調整されたガイダンス実行ポイントにおいて前記ガイダンスを実行する。
これによって,GPS測位手段から現在位置を取得できなくても予定されたガイダンス実行ポイントを調整し経路の案内を実行することができるようになる。」
(キ)「【0050】
また,請求項6にかかる発明においては,請求項1ないし請求項3の何れかにかかるナビゲーションシステムにおいて,ガイダンス実行ポイント制御手段は,走行中リンクの移動速度データを取得して,当該リンクにおける現在位置を推定する現在位置推定手段を含み,当該現在位置推定手段が推定した現在位置によってガイダンス実行ポイントにおけるガイダンスを実行する制御を行う。これによって予定されたガイダンス実行ポイントがGPS測位不可能な場所であった場合に,外部から取得したリンク走行速度から走行距離を推定し,その位置を推定して予定されたガイダンス実行ポイントにおいてガイダンスを実行することができるようになる。」
(ク)「【実施例1】
【0057】
本発明の実施例1にかかるナビゲーションシステム10は,図1に示すように,インターネットなどのネットワーク12を介して接続される端末装置20と経路探索サーバ30を備えて構成されている。経路探索サーバ30は端末装置20から要求された経路探索条件(出発地,目的地)をもとに最適経路を探索する。そして探索した案内経路と交差点などに設定したガイダンスポイントにおける音声ガイダンスを端末装置20に提供するため,音声データを蓄積した音声データ(DB)のデータベース318を備えている。」
(ケ)「【0062】
一方,端末装置20は例えば携帯電話などの携帯端末装置であり,制御手段211,GPS測位手段212,リンク属性判定手段213,ガイダンス実行ポイント制御手段214,経路探索要求手段215,ガイダンスデータ要求手段216,通信手段218,配信データ記憶手段219,スピーカなどからなる音声出力手段220,ガイダンス編集手段221,表示手段222,液晶表示パネルなどからなる操作・入力手段223などを備えて構成されている。」
(コ)「【0065】
経路探索要求手段215は,入力された経路探索条件を経路探索サーバ30に送信するデータに編集し,通信手段218を介して経路探索サーバ30に送信する。経路探索サーバ30から配信された案内経路,地図,ガイダンスデータなどの配信データは配信データ記憶手段219に一時記憶される。これらの配信データは必要に応じて配信データ記憶手段219から読み出され,表示手段222に表示される。表示に際しては,GPS測位手段212が測位した現在位置が地図上に案内経路などとともに現在位置マークとして重ね合わせて表示される。」
(サ)「【0067】
経路探索サーバ30は端末装置20に地図データ,案内経路データを配信する際,案内経路の交差点などガイダンスを行うノードをガイダンスポイントノードとして設定し,各ガイダンスポイントノードごとに,そのガイダンスポイントノードにおいてガイダンスとして出力する音声データを配信する際,音声データそのものでなく単位音声データごとの識別ID(識別符号)を配信する。ガイダンスが実行されるポイントは先に説明したようにガイダンスポイントノードの手前の所定距離ごとに複数箇所の実行ポイントが設定されている。経路探索サーバ30から端末装置20に配信されたデータは配信データ記憶手段218に記憶される。
【0068】
端末装置20は案内経路のデータとともに配信されるすべての単位音声データの識別IDを一時記憶しておき,当該ガイダンスポイントノードに接近しガイダンス実行ポイントに到達した時点で必要になる識別IDを経路探索サーバ30に送り該当する単位音声データの配信要求を行い,単位音声データそのもののダウンロードを行い,その音声データを再生する。従って,案内経路データ配信の際には音声データそのものを配信せず識別IDを配信するだけであるからネットワークの通信負荷を増大させることがない。」
(シ)「【0074】
端末装置20に配信される最適経路のデータは,案内経路データ作成手段314によって経路の順にノード,リンク(リンクの属性情報を含む)を並べた案内経路データが作成され,配信データ編集手段313においてガイダンスの必要なノードにはガイダンスポイントが設定され,当該ガイダンスポイントノードごとに残り距離,右折や左折を案内するガイダンスデータ(前述の音声案内のデータなど)が付加されて端末装置20に配信される。
【0075】
従って端末装置20は,次に接近するガイダンスポイントノードの前後のリンクの属性を調べることによって,ガイダンスポイントノードがGPS測位可能な位置にあるか,いてGPS測位不可能な位置にあるか,および,ガイダンス実行ポイントの地点がGPS測位可能な位置にあるか,いてGPS測位不可能な位置にあるかを予め知ることができる。
【0076】
本実施例1においては,図12において示した経路のように,ガイダンスポイントノードとして設定されたノードN1に接続している入りリンクL1属性がGPS測位不能なリンクであることがわかったら,ガイダンス実行ポイントを設定された地点より手前,GPS測位可能な地点に移動してガイダンスを実行するように制御する。図12の場合,図4に示すようにトンネル区間Tに入る手前の地点,すなわちリンクL0の終端であるノードN0の手前にガンダンス実行ポイントを移動する制御を行う。」
(ス)「【0107】
以上,説明した本発明の実施例1にかかるナビゲーションシステム10においては,リンクの属性情報からガイダンスポイントノードあるいはガイダンス実行ポイントがGPS測位不能のリンク上にあるか否かを判定し,現在位置測位の有無にかかわらず,適切な位置でガイダンスを実行するようにガイダンス実行ポイントを制御する例を説明したが,VICSシステムなど交通監視センターが運用するサーバから各道路におけるリアルタイムの走行速度情報が得られる場合には,これを端末装置20の移動速度として走行中のリンクにおける推定速度として現在位置を算出(推定現在位置)することができる。以下に本発明の実施例2としてこの推定現在位置に基づいてガイダスン実行ポイントを制御するナビゲーションシステムについて説明する。」
(セ)「【実施例2】
【0108】
図10は,本発明の実施例2にかかるナビゲーションシステム10の構成を示すブロック図である。図10に示すナビゲーションシステム10の構成は基本的には図1に示すナビゲーションシステム10と同様である。図10において図1と同様の構成要素には同一の参照符号を付している。図10に示すナビゲーションシステム10においてはガイダンス実行ポイント制御手段214が現在位置推定手段214Aを含んで構成されている点が図1におけるナビゲーションシステム10と異なる点である。
【0109】
端末装置20は,ガイダンスポイントとして設定されたノードへの接近を検出をすると,実施例1の場合と同様にリンク属性判定手段213によりガイダンスポイントノードの前後のリンクの属性情報から,ガイダンスポイントノード,ガイダンス実行ポイントがGPS測位手段212による現在位置取得が不能な位置にあるか否かを判定する。
【0110】
そして上記の判定条件に合致する場合,ガイダンス実行ポイント制御手段214は,現在位置情報をGPS測位手段212から取得せず,現在位置推定手段214Aから取得するように制御を切り換える。現在位置推定手段214Aは,前述したように,VICSシステムなど交通監視センターが運用するサーバから走行中の道路(リンク)におけるリアルタイムの走行速度情報を得て,当該速度情報に基づいて走行距離を推定して時刻ごとの現在位置を推定する。
【0111】
そしてガイダンス実行ポイント制御手段214は現在位置推定手段214Aが推定する現在位置が通常のガイダンス実行ポイントになると,ガイダンス編集手段221にガイダンス編集指示を行い,実施例1と同様の編集を行わせ,編集されたガイダンスが音声出力手段220によって出力される。
【0112】
図11は,以上の処理手順を示すフローチャートである。先ず,ステップS40の処理においてGPS測位手段212が測位した現在位置の情報を取得する。次いでステップS41の処理において現在位置が目的地に到達したか否かが判定される。現在位置に到達していれば処理を終了し,現在位置が目的地に到達していなければステップS42の処理に進む。
【0113】
ステップS42の処理においては,ガイダンスポイントが設定されたノード(図4におけるN1,図5におけるN3など)に現在位置が接近したか否かが判定される。ガイダンスポイントが設定されたノードに接近していなければステップS40の現在位置取得の処理に戻り,ガイダンスポイントノードに接近していればステップS43の処理に進む。
【0114】
ステップS43の処理においては,リンク属性判定手段213が接近したガイダンスポイントノードの手前のリンクや先のリンク(図4のL0,L1,L2,L3や図5のリンクL6,L7,L8,L9)の属性情報を調べ,ガイダンスポイントノードが特定の属性条件であるか否かが判定される。具体的には,ガイダンスポイントノードがGPS測位可能な位置にあるか,GPS測位不可能な位置にあるかが判定される。
【0115】
ガイダンスポイントノードがGPS測位不可能な位置にある場合はステップS44の処理に進み,GPS測位可能な位置にある場合はステップS47の処理に進む。ステップS44の処理においては,当該ガイダンスポイントノードにおける複数のガイダンス実行ポイントの何れかが特定の属性のリンク上,すなわち,複数のガイダンス実行ポイントの何れかがGPS測位不可能なリンク上であるか否かが判定され,ガイダンス実行ポイントの全てがGPS測位可能なリンク上であればステップS50に進み各ガイダンス実行ポイントにおいてガイダンスが実行される。
【0116】
ステップS44の判定処理において,ガイダンスポイントノードにおけるガイダンス実行ポイントの何れかがGPS測位不可能なリンク上であると判定されるとステップS45の処理においてガイダンスを編集する。そしてステップS46の処理において,現在位置推定手段214AがVICSシステムなどのサーバから各道路におけるリアルタイムの走行速度情報から走行中のリンクの走行速度を得て,端末装置20の移動距離を推定し現在位置の推定を行う。走行中リンクの走行速度は記憶手段に一時記憶し,当該GPS測位不能のリンクにおける走行中の位置推定に使用される。推定された現在位置がガイダンス実行ポイントに到達するとステップS50の処理においてそのガイダンス実行ポイントにおけるガイダンスが実行される。この間の処理は図4において説明した処理である。」
イ これらの事項を図11を伴って説明される実施例2及び請求項1を引用する請求項6を中心にまとめ,本件特許発明の表現にならって整理すると,甲第2号証には,次の発明(以下,「甲2発明」と言う。)が記載されているものと認められる。
「 GPS測位手段(212)と,
配信データ記憶手段(219)と,
音声出力手段(220)と,
前記GPS測位手段(212)によって取得した現在位置と前記配信データ記憶手段(219)によって記憶されたガイダンスポイントノード手前の所定距離ごとに複数箇所設定されたガイダンス実行ポイントに到達したか否かを判断して当該ガイダンスポイントノードの設置位置に関する音声ガイダンスを音声出力手段(220)から報知させる制御を行うガイダンス実行ポイント制御手段(214)とを備えるナビゲーションシステムの端末装置(20)において,
前記配信データ記憶手段(219)は,GPSによる測位が可能であるか否かを示す属性情報をリンクごとに含むリンクデータを記憶し,
前記ガイダンス実行ポイント制御手段(214)は,前記リンクの属性情報に基づいて前記ガイダンスポイントノードおよび当該ガイダンスポイントノードに対するガイダンス実行ポイントがGPSによる測位が不可能な位置にあるか否かを判定し,ガイダンス実行ポイントがGPSによる測位が不可能な位置にある場合,現在位置推定手段(214A)により,VICSシステムなど交通監視センターが運用するサーバから走行中リンクの移動速度データを取得して,当該リンクにおける現在位置を推定して,配信データ記憶手段(218)に記憶されたGPSによる測位が不可能な位置にあるガイダンス実行ポイントに到達したか否かを判定する
ナビゲーションシステムの端末装置。」
(2)対比
本件特許発明(以下,「前者」と言うことがある。)と甲2発明(以下,「後者」と言うことがある。)とを対比する。
ア 後者の「GPS測位手段(212)」は,現在位置を取得する機能を備えているから,前者の「現在位置を取得するための位置取得手段」に相当する。
イ 前者の「目的物」について,本件に係る特許明細書(以下,「本件特許明細書」と言う。)の段落【0050】では「こうした目的物としては,固定式速度測定装置(レーダーのようにレーダー波(マイクロ波)を発する速度測定装置やループコイルのように,レーダー波を発しない速度測定装置を含む),制限速度切替りポイント,取締エリア,検問エリア,駐禁監視エリア,Nシステム,交通監視システム,交差点監視ポイント,信号無視抑止システム,警察署,事故多発エリア,車上狙い多発エリア,急/連続カーブ(高速道),分岐/合流ポイント(高速道),ETCレーン事前案内(高速道),サービスエリア(高速道),パーキングエリア(高速道),パーキングエリア(高速道),ハイウェイオアシス(高速道),スマートインターチェンジ(高速道),PA/SA内 ガソリンスタンド(高速道),トンネル(高速道),ハイウェイラジオ受信エリア(高速道),県境告知,道の駅,ビューポイントパーキング等があり,これらの目的物の位置を示す緯度経度情報と目的物の種別情報と表示部5に表示する模式図または写真のデータとスピーカ20から出力する音声の音声データとを対応付けてデータベース19に記憶している。」と説明されている。これからすると,本件特許発明に係る電子機器は,「目的物」が「固定式速度測定装置」に限られるものと解釈すること,すなわち,速度違反防止機能に特化したものと解釈することは適切でない。
また,後者の「ガイダンスポイントノード」は,交差点等のガイダンスが行われるべきノードのことである(甲第2号証の段落【0022】,【0067】等を参照。)。
そうしてみると,後者の「ガイダンスポイント」とは,交差点等のガイダンスの対象となる物を念頭に置いたものと言えるから,それ自体が前者の「目的物」に相当するものであるし,さらに,後者の「ガイダンスポイントノード」についても,「ガイダンスポイント」をデータ処理のために「ノード」としてとらえたものと言えるから,かかる「ガイダンスポイントノード」も前者の「目的物」に相当するものである。
ウ 後者の「配信データ記憶手段(219)」が記憶する「GPSによる測位が可能であるか否かを示す属性情報をリンクごとに含むリンクデータ」は,ガイダンス実行ポイント制御手段(214)で現在位置がガイダンスポイントノードに対するガイダンス実行ポイントの位置に到達したか否かの判定に用いられるものである。したがって,「配信データ記憶手段(219)」が記憶する当該リンクデータには,「ガイダンスポイントノード」の位置情報が実質的に含まれていると言うべきである。そして,前述したように,後者の「ガイダンスポイントノード」は,前者の「目的物」に相当するから,後者の「配信データ記憶手段(219)」は,前者の「目的物の位置情報を記憶する記憶手段」に相当する。
また,後者の「配信データ記憶手段(219)」が記憶する「リンクデータ」は,「GPSによる測位が可能であるか否かを示す属性情報」を含むものであり,“GPSによる測位が可能でない”とは,現在位置が取得できないと解せる。
そうすると,前者の「目的物の位置情報を記憶する記憶手段」に相当する後者の「配信データ記憶手段(219)」が記憶する「リンクデータ」には,前者の「目的物の位置情報として現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置情報」が含まれていると言える。
エ 後者の「音声出力手段(220)」は,前者の「報知手段」に相当する。
オ 後者の「ガイダンス実行ポイント制御手段(214)」は,GPS測位手段(212)によって取得した現在位置が「配信データ記憶手段(219)によって記憶されたガイダンスポイントノード手前の所定距離ごとに複数箇所設定されたガイダンス実行ポイントに到達したか否かを判断」している。この判断は,直接的には「ガイダンス実行ポイント」に到達したか否かを判断するものであるが,「ガイダンス実行ポイント」自体が「ガイダンスポイントノード手前の所定距離ごとに複数箇所設定され」るものであるから,「現在位置と記憶手段によって記憶された目的物の位置情報との接近関係」を判断するものと言うことができる。
また,後者の「ガイダンスポイントノードの設置位置に関する音声ガイダンスを音声出力手段(220)から報知させる」態様は,前者の「目的物の設置位置に関する情報の報知を前記報知手段から報知させる」態様に相当する。
そうすると,後者の「前記GPS測位手段(212)によって取得した現在位置と前記配信データ記憶手段(219)によって記憶されたガイダンスポイントノード手前の所定距離ごとに複数箇所設定されたガイダンス実行ポイントに到達したか否かを判断して当該ガイダンスポイントノードの設置位置に関する音声ガイダンスを音声出力手段(220)から報知させる制御を行うガイダンス実行ポイント制御手段(214)」は,後者の「前記取得手段によって取得した現在位置と前記記憶手段によって記憶された目的物の位置情報との接近関係に基づいて当該目的物の設置位置に関する情報の報知を前記報知手段から報知させる制御を行う制御手段」に相当する。
カ 既に「イ」で述べたように,本件特許発明に係る電子機器は,速度違反防止機能に限定されたものとは解し得ず,ナビゲーションシステムにおける機器を排除したものとは言えないから,後者の「ナビゲーションシステムの端末装置」は,本件特許発明(前者)の「電子機器」に相当する。
キ 後者の「前記リンクの属性データに基づいて前記ガイダンスポイントノードおよび当該ガイダンスポイントノードに対するガイダンス実行ポイントがGPSによる測位が不可能な位置にあるか否かを判定し,ガイダンス実行ポイントがGPSによる測位が不可能な位置にある場合」と前者の「前記位置取得手段によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,前記速度取得手段によって現在の速度が取得できない状態である場合」は,いずれも,「所定の場合」と言うことができる。
また,後者の「前記リンクの属性データに基づいて前記ガイダンスポイントノードおよび当該ガイダンスポイントノードに対するガイダンス実行ポイントがGPSによる測位が不可能な位置にあるか否かを判定し,ガイダンス実行ポイントがGPSによる測位が不可能な位置にある」態様は,前者の「前記位置取得手段によって現在位置が取得できない状態であ」る態様に相当する。
ク 後者の「現在位置推定手段(214A)により,VICSシステムなど交通監視センターが運用するサーバから走行中リンクの移動速度データを取得」する態様により得られる“移動速度データ”は,直接的にはいわば走行リンクの現在速度であるが,後者においてはこれを“現在の推定速度”として用いるものと理解することができる。そして,そのような“推定速度”の取得行為は,“決定”と観念することもできる。
そうすると,後者の「現在位置推定手段(214A)により,VICSシステムなど交通監視センターが運用するサーバから走行中リンクの移動速度データを取得」する態様は,前者の「現在の推定速度を決定する」態様に相当する。
そして,後者の「当該リンクにおける現在位置を推定して,配信データ記憶手段(218)に記憶されたGPSによる測位が不可能な位置にあるガイダンス実行ポイントに到達したか否かを判定する」態様は,前者の「前記記憶手段に記憶された現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置へ前記推定速度で進行しているものとして当該目的物との前記接近関係を判定する」態様に相当する。
ケ したがって,両者は,
「現在位置を取得するための位置取得手段と,
目的物の位置情報を記憶する記憶手段と,
報知手段と,
前記取得手段によって取得した現在位置と前記記憶手段によって記憶された目的物の位置情報との接近関係に基づいて当該目的物の設置位置に関する情報の報知を前記報知手段から報知させる制御を行う制御手段とを備える電子機器において,
前記記憶手段は,前記目的物の位置情報として現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置情報を記憶し,
前記制御手段は,所定の場合に,現在の推定速度を決定して,前記記憶手段に記憶された現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置へ前記推定速度で進行しているものとして当該目的物との前記接近関係を判定する
電子機器。」
である点で一致し,以下の点で相違する。
[相違点2]
本件特許発明では,現在の移動速度を取得するための速度取得手段を備え,制御手段は,位置取得手段によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,前記速度取得手段によって現在の速度が取得できない状態である場合に,現在の推定速度を決定し,記憶手段に記憶された現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置へ前記推定速度で進行しているものとして当該目的物との接近関係を判定するものであるのに対して,甲2発明では,制御手段(ガイダンス実行ポイント制御手段)は,位置取得手段によって現在位置が取得できない状態である場合に,現在の推定速度を決定し,記憶手段に記憶された現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置へ前記推定速度で進行しているものとして当該目的物との接近関係を判定するものである点。
(3)判断
上記相違点2について検討する。
ア 本件特許発明も甲2発明も,目的物との接近関係を判定することを前提としたものであって,所定の場合に「推定速度」を用いて当該接近関係を判定するという点で軌を一にしていると言える。
しかし,本件特許発明は,あくまで,位置取得手段によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,速度取得手段によって現在の速度が取得できない状態である場合に,記憶手段に記憶された現在位置が取得できない箇所にある目的物との接近関係を判定するものであるのに対して,甲2発明は,そもそも,現在の速度が取得できない状態であるか否かについての認識に基づくものではない。
したがって,相違点2は,あくまで実質的な相違点なのであって,本件特許発明は,甲2発明と同一と評価し得るものではない。
イ 請求人が主張する無効理由2は,実質的に,“本件特許発明は,甲2発明と同一である”と言うことにとどまるのだが,さらに進んで,本件特許発明が甲2発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたかという点についても,審判合議体の見解を述べておく。
甲2発明が属するナビゲーションの技術分野において,現在の移動速度を取得する手段を設けること自体は,あえて例示を要するまでもなく,当業者に採用され得る技術的事項であると言うことができる。
しかし,甲2発明は,「配信データ記憶手段(218)に記憶されたGPSによる測位が不可能な位置にあるガイダンス実行ポイントに到達したか否かを判定する」ためにわざわざ「現在位置推定手段(214A)により,VICSシステムなど交通監視センターが運用するサーバから走行中リンクの移動速度データを取得して,当該リンクにおける現在位置を推定」する手段を講じたものであるから,甲2発明において,ガイダンス実行ポイントの位置がGPSによる測位が可能である場合にまで現在の移動速度を取得する必要があるものではない。
したがって,本件特許発明は,甲2発明に基づいて当業者にとって容易に想到し得たものとは言えない。
(4)小括
本件特許発明は,甲2発明と同一であるとは言えないから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものではなく,本件特許発明に係る特許は,特許法第123条第1項第2号に該当するものではない。
また,請求人の主張及び請求人が提示した証拠方法によっては,本件特許発明は,甲2発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものとも言えないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく,本件特許発明に係る特許は,特許法第123条第1項第2号に該当するものではない。
よって,請求人が主張する無効理由2は,採用できない。

3 無効理由3
(1)甲第3号証(特開2001-272237号公報)
ア 甲第3号証は,本件に係る特許出願の優先日前に日本国内で頒布されたものであって,図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 GPS衛星からの信号を受信して現在位置を測定し,測定した現在位置を地図と共に画面表示すると共に,目的地までの経路を設定し,所定のポイント毎に案内報知するナビゲーション装置において,GPS衛星からの信号を受信できないとき,現在位置が案内経路上であれば所定速度で案内経路上を移動するように現在位置を表示し,該現在位置に応じて案内報知することを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】 GPS衛星からの信号を受信して現在位置を測定し,測定した現在位置を地図と共に画面表示すると共に,目的地までの経路を設定し,所定のポイント毎に案内報知するナビゲーション装置において,トンネルの起点を検出したとき,現在位置が案内経路上であれば所定速度で案内経路上を移動するように現在位置を表示し,該現在位置に応じて案内報知することを特徴とするナビゲーション装置。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,自動車等の走行位置をGPS(Global Positioning System)から得た情報に基づいて地図上に表示するナビゲーション装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年,GPSから得られた情報により現在位置を測定して該現在位置を含む地図データをCD-ROM等から読み出し,現在位置を中心とする地図画像を表示するナビゲーション装置が急速に普及している。
【0003】このナビゲーション装置は,単に現在位置を地図上に表示するだけに留まらず,例えば特開平11-344355号公報に開示されているように,出発地から目的地までの最適経路を演算し,そして,現在位置に応じて順次音声或いは表示にて経路案内するようにしている。
【0004】この案内形態としては,現在の道路リンクに対し,次の曲がる予定の道路リンクの方向・角度・交差点までの距離を判定し,交差点の手前の所定ポイントになると,例えば「およそ300メートル先ななめ左方向です」「まもなく左方向です。注意してください。」をスピーカにて再生するようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記構成では,例えばトンネルに入りGPS衛星からの信号を受信できなくなると,現在位置を測定できないために,音声案内するポイントを判定できなくなり,上記の如き音声案内をすることができなくなる。特に,トンネルの出口付近に案内経路上の高速道路の出口がある場合,音声案内がないためにそのまま,その高速道路の出口を通り過ぎでしまうこともあった。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明のナビゲーション装置は,上記点に鑑み,GPS衛星からの信号を受信できないとき,現在位置が案内経路上であれば所定速度で案内経路上を移動するように現在位置を表示し,該現在位置に応じて案内報知するようにしたものである。
【0007】また,本発明の他のナビゲーション装置は,トンネルの起点を検出したとき,現在位置が案内経路上であれば所定速度で案内経路上を移動するように現在位置を表示し,該現在位置に応じて案内報知するようにしたものである。」
(ウ)「【0008】
【発明の実施の形態】以下,本発明のナビーゲション装置の実施の形態にについて図面を参照して説明する。図1は,本発明のナビゲーション装置のブロック図を示し,図中1はGPS受信機で,GPSアンテナ2で受信された地球周回軌道を回るGPS衛星からの信号に基づいて三角測量を行い,自車の緯度,経度を演算し求めるものである。3はCD-ROMドライブ装置であり,地図データが記録されたCD-ROM4から地図データを読み出すものである。5は液晶ディスプレイで,現在位置や地図を表示するものである。6は音声案内を行うためのスピーカ,7は装置の前面に配置された操作キーで,表示地図の拡大・縮小を指示するためのキー,経路探索を指示するためのキー,経路探索において出発地・目的地を指示するためのキー等を含むものであ。8はCPUで,ROM9に書き込まれたプログラムに従って各種の演算を行い,その演算結果,例えばCD-ROMドライブ装置3からの地図データやGPS受信機1からの現在位置データ等をRAM10に書き込むものである。11はCPU8により演算処理された地図データや現在位置データに基づいて表示画像を形成し,液晶ディスプレイ5にその表示画像を表示するための信号を生成する画像処理回路,12はCPU8からの指示に基づき音声メッセージを生成し,スピーカ6を駆動する音声処理回路である。
【0009】CD-ROM4には,日本全国の地形図を緯度・経度によって分割した単位地図毎に背景データ,道路データ等が書き込まれている。背景データは,道路,施設等を描画するためのデータからなる。道路データは,交差点を含む道路を記述する座標点(ノード)と線(リンク)に関するデータ,例えば,ノードのノード番号,緯度・経度,リンクのリンク番号,リンク距離等のデータからなる。」
(エ)「【0012】さて,CPU8は,案内経路を算出すると,液晶ディスプレイ5の地図上に案内経路を赤色で表示するように画像処理回路11に指示し,GPS受信機1から得られる現在位置が案内経路上を進むように経路案内することになる。
【0013】経路案内は,例えば図2の矢印の方向である,リンク2からリンク7に進む場合,交差点のノードであるノード2とノード5の座標を比較してリンク2からリンク7への方向・角度を算出すると共に,現在位置からノード2までの距離を算出し,音声メッセージを決定する。現在位置からノード2までの距離が300mになると,例えば,「およそ300m先,ななめ左方向です。」との音声メッセージを再生するように音声処理回路12に指示し,また現在位置からノード2までの距離が100mになると,例えば,「まもなく,ななめ左方向です。注意して下さい。」との音声メッセージを再生するように音声処理回路12に指示する。」
(オ)「【0014】図3は,経路案内に関しROM9に書き込まれた要部のプログラムのフローチャートを示し,上記経路案内について詳細に説明する。
【0015】まず,CPU8は,GPS受信機1がGPS衛星からの信号を受信しているか否かを判定する(S1)。GPS受信機1がGPS衛星からの信号を受信している場合,GPS受信機1からの信号に基づいて現在位置を算出すると共に,現在位置を含む地図データをCD-ROMドライブ装置3を介してCD-ROM4から読み出し,液晶ディスプレイ5上に地図と現在位置を表示する(S2)。またこのとき,案内経路は,赤色で表示する。GPS受信機1がGPS衛星からの信号を継続的に受信しているときは,ステップS1,S2の処理により,その受信により算出される現在位置が液晶ディスプレイ5上に時々刻々と表示される。そして,案内経路上を移動し,上述したように,音声案内ポイントになると,分岐点までの距離,曲がる方向,角度に応じて適切な音声メッセージをスピーカ6より再生するように音声処理回路12に指示する(S3,4)。
【0016】而して,トンネル等を移動している場合の如く,GPS受信機1がGPS衛星からの信号を受信していないことを検出すると(S1のN),CPU8は,受信できなくなる直前の現在位置が案内経路上に位置していたか否かを判定する(S5)。案内経路上に位置していなければ,案内経路上を移動していないと判断し,ステップS1に移行する(S5のN)。かかる場合,再度GPS衛星からの信号を受信できるようになるまで,受信できなくなる直前の液晶ディスプレイ5の表示状態を保持することになる。案内経路上であれば,受信できなくなる直前の移動速度を算出し,この移動速度で案内経路上を仮想的に現在位置が移動するように液晶ディスプレイ5に地図・現在位置を表示する(S6,7)。そして,この仮想的な移動において,音声案内ポイントになると,この場合においても,分岐点までの距離,曲がる方向,角度に応じて適切な音声メッセージをスピーカ6より再生するように音声処理回路12に指示する(S8,9)。この仮想的な移動状態において,GPS衛星からの信号を受信できるようになると,ステップS2に移行し,GPS受信機1からの信号に基づく現在位置を液晶ディスプレイ5に表示することになる。
【0017】従って,案内経路を移動している場合,トンネルに入っても音声メッセージによる経路案内をすることができることになる。
【0018】なお,上記第1の実施例では,GPS受信機1がGPS衛星からの信号を受信しているか否かを判定し,GPS衛星からの信号を受信していない場合で且つ案内経路上を移動している場合に仮想的な現在位置の移動処理を行うようにしたが,ノードに属性を付加し,例えばトンネルの起点・終点を属性に格納したCD-ROMを使用する場合は,移動中,ノードの属性を判定してトンネルの起点を検出した場合で且つ案内経路上を移動している場合に仮想的な現在位置の移動処理を行うようにしても良い。」
(カ)「【0019】図4は当該第2の実施例を示すフローチャートで,これに基づいて動作を説明する。
【0020】まず,CPU8は,GPS受信機1がGPS衛星からの信号を受信しているか否かを判定する(S11)。GPS受信機1がGPS衛星からの信号を受信していない場合は,そのときの液晶ディスプレイ5の表示状態をGPS衛星からの信号を受信できるようになるまで保持する。GPS受信機1がGPS衛星からの信号を受信している場合,GPS受信機1からの信号に基づいて現在位置を算出すると共に,現在位置を含む地図データをCD-ROMドライブ装置3を介してCD-ROM4から読み出し,液晶ディスプレイ5上に地図と現在位置を表示する(S12)。またこのとき,案内経路は,赤色で表示する。GPS受信機1がGPS衛星からの信号を継続的に受信しているときは,ステップS11,S12の処理により,その受信により算出される現在位置が液晶ディスプレイ5上に時々刻々と表示される。そして,案内経路上を移動し,トンネル以外で音声案内ポイントを検出すると,上述したように,分岐点までの距離,曲がる方向,角度に応じて適切な音声メッセージをスピーカ6より再生するように音声処理回路12に指示する(S13,14,15)。
【0021】ところで,ステップS13において,ノードの属性がトンネルの起点であることを判定すると,CPU8は,現在位置が案内経路上に位置しているか否かを判定する(S13,16)。案内経路上に位置していなければ,案内経路上を移動していないと判断し,ステップS11に移行する(S16のN)。案内経路上であれば,トンネルの起点前の移動速度を算出し,この移動速度で案内経路上を仮想的に現在位置が移動するように液晶ディスプレイ5に地図・現在位置を表示する(S17,18)。そして,この仮想的な移動において,音声案内ポイントになると,この場合においても,分岐点までの距離,曲がる方向,角度に応じて適切な音声メッセージをスピーカ6より再生するように音声処理回路12に指示する(S19,20)。この仮想的な移動状態において,ノードの属性がトンネルの終点であることを検出すると,ステップS11に移行し,GPS受信機1からの信号に基づく現在位置を液晶ディスプレイ5に表示することになる。
【0022】ところで,上記第2の実施例では,ノードの属性がトンネルの終点であることを検出すると,ステップ11に移行するようにしたが,GPS受信機1の能力やトンネルの終点付近の環境状況により,即座にGPS衛星からの信号を受信して現在位置を判定できない場合がある。この判定できない間に,音声案内ポイントに達した場合は,音声案内することができなくなるので,図5のフローチャート(第3の実施例)の如く,ステップ21でトンネルの終点と判定しても,GPS受信機1がGPS衛星からの信号を受信し,現在位置を判定できるまで(S22)は仮想的な移動処理を行うことが好ましい。」
(キ)「【0023】
【発明の効果】本発明は,上記のように構成したものであるから,現在位置を判定できない場合でも適切な音声案内を行うことができる。」
イ 図4,5を伴って説明される第2,3の実施例についての記載事項からすると,ポイントのノードにトンネルの起点・終点の属性を付加しておき,当該ポイントのノードの属性がトンネルの起点である場合又はポイントのノードの属性がトンネルの終点である場合であってもGPS受信機によって現在位置が即座に判定できない状態であるときに,現在位置が案内経路上であれば,GPSアンテナ(2)で信号を受信できなくなる直前の移動速度を算出し,仮想的な移動処理を行うことが理解できる。
ウ 段落【0016】(「(1)ア(オ)参照」)には,第1の実施例について「トンネル等を移動している場合の如く,GPS受信機1がGPS衛星からの信号を受信していないことを検出すると(S1のN),CPU8は,受信できなくなる直前の現在位置が案内経路上に位置していたか否かを判定する(S5)。案内経路上に位置していなければ,案内経路上を移動していないと判断し,ステップS1に移行する(S5のN)。かかる場合,再度GPS衛星からの信号を受信できるようになるまで,受信できなくなる直前の液晶ディスプレイ5の表示状態を保持することになる。案内経路上であれば,受信できなくなる直前の移動速度を算出し,この移動速度で案内経路上を仮想的に現在位置が移動するように液晶ディスプレイ5に地図・現在位置を表示する(S6,7)。」との説明がある。これから,GPS衛星からの信号により“現在の移動速度”を取得する手段を備えているものと理解することができる。
そして,このことは,他の実施例等にも当てはまるものと考えられる。
エ これらの事項を図4を伴って説明される第2の実施例を中心にまとめ,本件特許発明の表現にならって整理すると,甲第3号証には,次の発明(以下,「甲3発明」と言う。)が記載されているものと認められる。
「 GPSアンテナ(2)で受信された信号から現在位置を測定するGPS受信機(1)と,
交差点等のポイントのノード(座標点)等に関するデータを記録するCD-ROM(4)と,
音声案内を行うためのスピーカ(6)と,
前記GPS受信機(1)によって取得した現在位置と,前記CD-ROM(4)に記憶された交差点等のポイントのノードが所定の距離になると,当該ノードの位置に関する音声案内をスピーカ(6)から報知させる制御を行うCPU(8)を備えるナビゲーション装置において,
GPSアンテナ(2)で受信された信号から現在の移動速度を取得し,
前記CD-ROM(4)は,前記ポイントのノードにトンネルの起点・終点の属性を付加して記憶し,
前記CPU(8)は,ポイントのノードの属性がトンネルの起点である場合又はポイントのノードの属性がトンネルの終点である場合であってもGPS受信機によって現在位置が即座に判定できない状態であるときに,現在位置が案内経路上であれば,GPSアンテナ(2)で信号を受信できなくなる直前の移動速度を算出し,前記CD-ROM(4)に記憶されたポイントのノードの位置へ前記移動速度で仮想的に移動しているものとして,当該ポイントとの前記所定の距離を判定する
ナビゲーション装置。」
(2)対比
本件特許発明(以下,「前者」と言うことがある。)と甲3発明(以下,「後者」と言うことがある。)とを対比する。
ア 後者の「GPSアンテナ(2)で受信された信号から現在位置を測定する」態様は,前者の「現在位置を取得する」態様に相当し,後者の「GPS受信機(1)」は,前者の「位置取得手段」に相当する。
イ 後者の「交差点等のポイント」は,前者の「目的物」に相当し,後者の「ノード(座標点)に関するデータ」は,前者の「位置情報」に相当するから,後者の「CD-ROM(4)」は,前者の「記憶手段」に相当する。
ウ 後者の「音声案内を行うためのスピーカ(6)」は,前者の「報知手段」に相当する。
エ 後者の「前記GPS受信機(1)によって取得した現在位置と,前記CD-ROM(4)に記憶された交差点等のポイントのノードが所定の距離になると,」と言う態様は,前者の「前記取得手段によって取得した現在位置と前記記憶手段によって記憶された目的物の位置情報との接近関係に基づいて」と言う態様に相当する。後者の「当該ノードの位置に関する音声案内」は,前者の「当該目的物の設置位置に関する情報の報知」に相当する。
したがって,後者の「前記GPS受信機(1)によって取得した現在位置と,前記CD-ROM(4)に記憶された交差点等のポイントのノードが所定の距離になると,当該ノードの位置に関する音声案内をスピーカ(6)から報知させる制御を行うCPU(8)」は,前者の「前記取得手段によって取得した現在位置と前記記憶手段によって記憶された目的物の位置情報との接近関係に基づいて当該目的物の設置位置に関する情報の報知を前記報知手段から報知させる制御を行う制御手段」に相当する。
オ 既に「2 無効理由2(2)」の「イ」,「カ」で述べたように,本件特許発明に係る電子機器は,速度違反防止機能に限定されたものとは解し得ず,ナビゲーション装置を排除したものとは言えないから,後者の「ナビゲーション装置」は,本件特許発明(前者)の「電子機器」に相当する。
カ 後者の「GPSアンテナ(2)で受信された信号から現在の移動速度を取得し,」と言う態様は,前者の「現在の移動速度を取得するための速度取得手段を備え,」と言う態様に相当する。
キ 後者における「トンネル」は,GPS受信機(1)によって現在位置が取得できない位置と解せる。後者において,「トンネルの起点・終点」は,厳密な意味ではGPS受信機(1)によって現在位置が取得し得ないとまでは言えないが,後者を開示する甲第3号証の段落【0022】(「(1)ア(カ)参照」)には「ところで,上記第2の実施例では,ノードの属性がトンネルの終点であることを検出すると,ステップ11に移行するようにしたが,GPS受信機1の能力やトンネルの終点付近の環境状況により,即座にGPS衛星からの信号を受信して現在位置を判定できない場合がある。この判定できない間に,音声案内ポイントに達した場合は,音声案内することができなくなるので,図5のフローチャート(第3の実施例)の如く,ステップ21でトンネルの終点と判定しても,GPS受信機1がGPS衛星からの信号を受信し,現在位置を判定できるまで(S22)は仮想的な移動処理を行うことが好ましい。」と記載されている。この記載事項によれば,トンネルの終点でも,GPSアンテナ(2)で信号を受信できなくなる直前の移動速度を算出しておき,前記CD-ROM(4)に記憶されたポイントのノードの位置へ前記移動速度で仮想的に移動しているものとして,当該ポイントとの前記所定の距離を判定するものである。
このことからすると,後者の技術的内容を考える上で,トンネルの終点も,現在位置が取得し得ない位置と同視できる。
そして,後者は,そのようなトンネルの終点に目的物(ポイント)を設定することも含むものである。
そうしてみると,後者においては,目的物(ポイント)のノードにトンネルの起点・終点の属性を付加して記憶していることにより,現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置情報を記録しているとも言えるから,後者の「前記CD-ROM(4)は,前記ポイントのノードにトンネルの起点・終点の属性を付加して記憶し,」と言う態様は,前者の「前記記憶手段は,前記目的物の位置情報として現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置情報を記憶し,」と言う態様に相当する。
ク 後者において,「GPS受信機によって現在位置が即座に判定できない状態であるとき」は,同時に現在の速度が取得できない状態でもあるから,後者の「GPS受信機によって現在位置が即座に判定できない状態であるとき」は,前者の「前記位置取得手段によって現在位置が取得できない状態であり,かつ,前記速度取得手段によって現在の速度が取得できない状態である場合」に相当する。
ケ 後者の「GPSアンテナ(2)で信号を受信できなくなる直前の移動速度を算出し,」と言う態様は,前者の「現在の推定速度を決定し,」と言う態様に相当する。
コ 後者では現在位置が案内経路上であることも条件として目的物との接近関係を判定しているが,前者でも案内経路を前提としたものも当然含まれるのであって現在位置が案内経路上であることも条件として「推定速度」を用いて当該接近関係を判定する内容が排除されたものとは解せない。
サ 後者の「現在位置が案内経路上であれば,前記CD-ROM(4)に記憶されたポイントのノードの位置へ前記移動速度で仮想的に移動しているものとして,当該ポイントとの前記所定の距離を判定する」態様は,前者の「前記記憶手段に記憶された現在位置が取得できない箇所にある目的物の位置へ前記推定速度で進行しているものとして当該目的物との前記接近関係を判定する」態様に相当する。
シ 以上を総合すると,本件特許発明と甲3発明とは,発明特定事項において異なるところがない。
すなわち,本件特許発明は,本件に係る特許出願の優先日前に日本国内で頒布された甲第3号証に記載された発明と同一と評価することができる。
(3)小括
本件特許発明は,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないから,本件特許発明に係る特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
よって,請求人が主張する無効理由3は,採用できる。

第5 むすび
1 本件特許発明は,甲第1号証に係る特願2009-48987号の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された発明と同一である。
したがって,本件特許発明に係る特許は,特許法第29条の2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当する。すなわち,本件特許発明に係る特許は,請求人が主張する無効理由1によって無効にすべきである。
2 本件特許発明は,甲第2号証に記載された発明と同一ではなく,さらに,請求人の主張及び請求人が提示した証拠方法の限りでは,本件特許発明が甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明し得たと言うこともできない。
したがって,本件特許発明に係る特許は,請求人が主張する無効理由2によって無効にすることはできない。
3 本件特許発明は,甲第3号証に記載された発明と同一である。
したがって,本件特許発明に係る特許は,特許法29条1項3号の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当する。すなわち,本件特許発明に係る特許は,請求人が主張する無効理由3によって無効にすべきである。
4 審判に関する費用については,特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
5 よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-19 
結審通知日 2015-08-21 
審決日 2015-09-01 
出願番号 特願2010-139828(P2010-139828)
審決分類 P 1 123・ 121- Z (G01C)
P 1 123・ 16- Z (G01C)
P 1 123・ 113- Z (G01C)
最終処分 成立  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 藤井 昇
新海 岳
登録日 2011-10-28 
登録番号 特許第4852187号(P4852187)
発明の名称 電子機器及びプログラム  
代理人 松井 伸一  
代理人 清水 紘武  
代理人 隈部 泰正  
代理人 北島 健次  
代理人 森山 航洋  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 伊藤 真  
代理人 平井 佑希  

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