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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1306840
審判番号 不服2014-3367  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-24 
確定日 2015-10-14 
事件の表示 特願2011-198587「ピアツーピアシステム,呼を確立する方法及びコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月12日出願公開,特開2012- 10402〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,2004年7月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年7月16日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2006-520034号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成23年9月12日に新たな特許出願としたものであって,
平成23年10月3日付けで特許法第36条の2第2項の規定による外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文が提出されると共に同日付けで審査請求並びに手続補正がなされ,平成25年3月1日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成25年6月5日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成25年10月17日付けで審査官により拒絶査定がなされ(発送;平成25年10月22日),これに対して平成26年2月24日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,平成26年4月23日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされたものである。

第2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下,これを「本願発明」という)は,平成26年2月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものである。

「ピアツーピアシステムであって,
VoIP通信経路を介するVoIP呼を支援するために複数の許可されたエンドユーザ装置を相互接続する実質的に分散型のピアツーピア通信構造を含むVoIPピアツーピアシステムを有し,上記複数の許可されたエンドユーザ装置は許可された発呼側エンドユーザ装置及び許可された被呼側エンドユーザ装置を含み,
上記ピアツーピア通信構造は,上記複数の許可されたエンドユーザ装置のそれぞれに各自のユーザ名を関連付けることにより,許可されたエンドユーザの識別を行い,上記ユーザ名は上記ピアツーピア通信構造における電話番号として使用可能であり,
上記ピアツーピア通信構造は管理ノードを含み,上記管理ノードは,上記複数の許可されたエンドユーザ装置のそれぞれに認可証明書を発行して上記ピアツーピア通信構造における許可されたアクセスの証明を支援することにより,上記ピアツーピア通信構造の無許可の不正な使用を回避するように形成され,
上記複数の許可されたエンドユーザ装置は,許可されたアクセスの証明が存在しない場合,上記ピアツーピア通信構造を介するVoIP呼を受理することを拒否するように形成され,
上記許可された発呼側エンドユーザ装置は,上記許可された被呼側エンドユーザ装置のアドレスに関する情報を受信し,VoIP呼の開始前に,上記許可された被呼側エンドユーザ装置によって提供された認可証明書を検証するように形成され,上記認可証明書を検証することによりピアツーピア通信構造へのアクセスを可能にし,上記VoIP通信経路を介する上記許可された被呼側エンドユーザ装置への呼を確立し,
上記許可された発呼側エンドユーザ装置は,上記認可証明書を発行する責務を有する上記管理ノードと通信する必要なしに,上記許可された被呼側エンドユーザ装置からの認可証明書を検証して上記VoIP呼を確立するように形成されている,ピアツーピアシステム。」

第3.引用刊行物に記載の発明
一方,原審が,平成25年3月1日付けの拒絶理由(以下,これを「原審拒絶理由」という)に引用した,本願の原出願の第1国出願前に既に公知である,特開2003-158553号公報(2003年5月30日公開,以下,これを「引用刊行物1」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

A.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,IP(Internet Protocol)電話装置およびIP電話装置検索方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】当節,VoIP(Voice over Internet Protocol)を利用したIP電話装置によって,IPネットワークを介した音声通信が盛んに行われている。VoIPシステムでは,IP電話装置はこれに割り当てられたIPアドレスによって識別されるため,呼接続を行うには,相手の電話装置のIPアドレスが必要である。一方,発呼の際にIP電話装置から入力されるのは,相手のIP電話装置の電話番号である。したがって,呼接続を実行するためには,電話番号をIPアドレスに変換する工程が必要となる。」

B.「【0014】図10は本発明によるIP電話装置を用いたIP電話装置検索システムの実施例を示す構成図である。システム8はIP電話装置10A,10B,10C,10Dを含む。通常は多数の電話装置が含まれるが,本実施例では,説明の複雑化を避けるため,4台としてある。これらはいずれも共通の構成を有し,IPネットワーク20を介して呼接続を行う本発明に係る装置である。」

C.「【0019】呼接続部22はピアツーピア(peer-to-peer)通信装置24を含む。ピアツーピア通信装置24は,本発明の中核をなす装置であり,1つ以上の相手方IP電話装置に対してピアツーピア方式で情報を送受信する装置である。ピアツーピアとは,一般的に,相手方IP電話装置と対等にという意味である。しかし,本発明にいうピアツーピアとは,より正確には,相手方と通信するにあたり,何ら仲介者を要しないという意味である。従来,IP電話装置は,ゲートキーパに相手方IP電話装置の電話番号を渡し,対応するIPアドレスを得て呼接続を実行していた。しかし,本発明によるIP電話装置は,そのような手続きを必要としない。ゲートキーパによる中央集権的な手続きによらず,通話を行う双方のIP電話装置自体が,呼接続を行うべき相手か否かを判定する。いわば個々のIP電話装置の自律分散的な手続きによって呼接続を行う点が,本発明の特徴である。」

D.「【0030】本実施例では,装置10Aは装置10B,10C,10Dのいずれとも通話したことがあると仮定する。その場合,IPアドレス記憶装置28には,装置10B,10C,10DのIPアドレスが格納されている。以上のような仮定の下で,IP電話装置10Aが装置10Cに電話をかける場合,まず,オペレータは,ステップ70において,キーボード15から装置10Cの電話番号を入力する。電話番号38はピアツーピア通信装置24の制御装置26に入力される。制御装置26はIPアドレス記憶装置28にアクセスし,過去に通話したことのあるIP電話装置10B,10C,10DのIPアドレスを取得する。制御装置26は,これらのIPアドレスごとに,相手方情報記録装置30にアカウント32,34,36を作成し,各IPアドレスを格納する。そしてIPアドレスごとにピアツーピア接続を要求するIPパケットを作成し,各IPアドレスを有する装置10B,10C,10Dに送信する。これがステップ72に示す一対多ピアツーピア接続である。このように,一対多のピアツーピア接続は,これまでに接続したことのあるすべての相手方IP電話装置に対して行われる。
【0031】相手方とのピアツーピア接続が完了すると,ステップ74に示すように,電話番号をIPパケット化し,検索キーとして相手方に送信する。その結果,いずれかの相手方が自己のIPアドレスを返信してきた場合は,ステップ76において,目的のIP電話装置が発見されたことを意味する。その場合は,ステップ78に示すように,当該目的IPアドレスを受信する。本動作例の場合は,目的のIP電話装置10Cから,装置10C自体のIPアドレスが送られてくる。したがって,装置10CのIPアドレスを受信するのは,装置10Cとのピアツーピア通信を担当しているアカウント34である。
【0032】このように目的IP電話装置10CからのIPアドレスを受信したアカウント34は,当該IPアドレス40を制御装置26に送信する。制御装置26はそのIPアドレス52をIPインタフェース50の音声接続装置54に転送する。音声接続装置54は音声/IPパケット変換装置56で生成されるパケットにIPヘッダとしてIPアドレス60を付与し,完成したIPパケット48が目的IP電話装置10Cに送信されるようにする。こうして,ステップ80に示す音声接続の設定が実行される。
【0033】音声接続の設定が完了すると,ステップ82に示すように,ピアツーピア通信装置24が行っていた一対多のピアツーピア接続はすべて切断される。したがって,これ以降,目的IP電話装置10CからのIPパケット48を受信するのは,すべてIPインタフェース50となり,正常に通話が開始される。
【0034】仮に,IP電話装置10Aが電話をかける相手が,装置10B,10C,10Dのいずれでもない場合には,ステップ84に示すように,ピアツーピア通信装置24は,いずれの装置10B,10C,10Dからも接続不可を示すIPパケットを受信することとなる。その場合は,ステップ82に示すように各ピアツーピア接続は切断され,目的IP電話装置が発見されないままで呼接続動作は終了することになる。」

E.「【0051】図8は,本発明によるIP電話装置検索システムを,公衆電話網の電話番号検索サービスに適用した構成図である。今までの実施例は,電話番号を検索キーとして,目的のIP電話装置のIPアドレスを取得するものであった。しかし,本発明による検索システムでは,電話番号以外の何らかの個人情報を検索キーとしてもよく,取得される情報もIPアドレスに限らなくてよい。
【0052】図8に示すサービス133では,各人物131B,131Cに,それぞれ,個人管理単位130B,130Cが割り当てられている。個人管理単位130B,130Cはそれぞれ,本発明によるIP電話装置10B,10Cを構成するパソコン14B,14Cおよびヘッドセット12B,12Cと,PBX(Private Branch Exchange)132を介して公衆電話網134に接続された従来の電話機136B,136Cとを含む。そして,発呼者131Bは被呼者131Cに公衆電話網134を介した電話をかけたいと思っているが,被呼者131Cに割り当てられている電話機136Cの電話番号が分からない。しかし,発呼者131Bは,例えば被呼者131Cに固有の名前や社員番号など,被呼者131Cを識別するための個人情報を有している。」

1.上記Aの「本発明は,IP(Internet Protocol)電話装置およびIP電話装置検索方法に関する」という記載,及び,同じく,上記Aの「VoIP(Voice over Internet Protocol)を利用したIP電話装置によって,IPネットワークを介した音声通信が盛んに行われている」という記載から,引用刊行物1は,
“VoIP(Voice over Internet Protocol)を利用したIP(Internet Protocol)電話装置に関する”ものであることが読み取れる。

2.上記Bの「本発明によるIP電話装置を用いたIP電話装置検索システムの実施例を示す構成図である。システム8はIP電話装置10A,10B,10C,10Dを含む。通常は多数の電話装置が含まれるが,本実施例では,説明の複雑化を避けるため,4台としてある」という記載から,引用刊行物1においては,
“IP電話装置システムは,多数のIP電話装置を含むものである”ことが読み取れ,上記1.において検討した点も踏まえると,引用刊行物1は,
“VoIP(Voice over Internet Protocol)を利用したIP(Internet Protocol)電話装置システムに関するものであって,前記IP電話装置システムは,多数のIP電話装置を含むものである”ことが読み取れる。

3.上記Cの「呼接続部22はピアツーピア(peer-to-peer)通信装置24を含む」という記載,同じく,上記Cの「1つ以上の相手方IP電話装置に対してピアツーピア方式で情報を送受信する装置である」という記載,及び,同じく,上記Cの「本発明にいうピアツーピアとは,より正確には,相手方と通信するにあたり,何ら仲介者を要しないという意味である」という記載から,引用刊行物1においては,
“IP電話装置に含まれるピアツーピア通信装置は,何ら仲介者を要することなく,相手方IP電話装置に対してピアツーピア方式で情報を通信する装置である”ことが読み取れる。

4.上記Dの「IP電話装置10Aが装置10Cに電話をかける場合,まず,オペレータは,ステップ70において,キーボード15から装置10Cの電話番号を入力する」という記載,同じく,上記Dの「過去に通話したことのあるIP電話装置10B,10C,10DのIPアドレスを取得する」という記載,同じく,上記Dの「IPアドレスごとにピアツーピア接続を要求するIPパケットを作成し,各IPアドレスを有する装置10B,10C,10Dに送信する」という記載,同じく,上記Dの「ピアツーピア接続は,これまでに接続したことのあるすべての相手方IP電話装置に対して行われる」という記載から,引用刊行物1においては,
“発呼側のIP電話装置において,電話番号が入力されると,前記IP電話装置が,これまでに接続したことのある全ての相手方IP電話装置に対して,前記IP電話装置のIPアドレスごとにピアツーピア接続を要求するIPパケットを送信する”ことが読み取れる。

5.上記Dの「相手方とのピアツーピア接続が完了すると」という記載,同じく,上記Dの「電話番号をIPパケット化し,検索キーとして相手方に送信する」という記載,及び,同じく,上記Dの「いずれかの相手方が自己のIPアドレスを返信してきた場合は,ステップ76において,目的のIP電話装置が発見されたことを意味する。その場合は,ステップ78に示すように,当該目的IPアドレスを受信する」という記載,並びに,同じく,上記Dの「IP電話装置10Aが電話をかける相手が,装置10B,10C,10Dのいずれでもない場合には,ステップ84に示すように,ピアツーピア通信装置24は,いずれの装置10B,10C,10Dからも接続不可を示すIPパケットを受信することとなる」という記載と,上記4.において検討した事項から,引用刊行物1においては,
“相手方IP電話装置とのピアツーピア接続が完成すると,電話番号を検索キーとして相手方IP電話装置に送信し,前記相手方IP電話装置のいずれもが前記電話番号を有するIP電話装置ではない場合には,前記いずれの相手方IP電話装置からも接続不可を示すIPパケットを受信し,いずれかの前記相手方IP電話装置が自己のIPアドレスを返信してきた場合は,前記返信されてきたIPアドレスを,前記電話番号を有する相手方IP電話装置のIPアドレスとして受信する”ものであることが読み取れる。

6.上記Dの「目的IP電話装置10CからのIPアドレスを受信したアカウント34は」という記載,同じく,上記Dの「パケットにIPヘッダとしてIPアドレス60を付与し,完成したIPパケット48が目的IP電話装置10Cに送信されるようにする。こうして,ステップ80に示す音声接続の設定が実行される」という記載,及び,同じく,上記Dの「音声接続の設定が完了すると,ステップ82に示すように,ピアツーピア通信装置24が行っていた一対多のピアツーピア接続はすべて切断される」という記載と,上記5.において検討した事項から,引用刊行物1においては,
“電話番号を有するIP電話装置からのIPアドレスを受信した場合に,音声接続の設定が実行され,前記音声接続の設定が完了すると,複数のIP電話装置とのピアツーピア接続はすべて切断される”ものであることが読み取れ,
上記1.において検討した事項を考慮すると,引用刊行物1における「音声接続」とは,「VoIP接続」に他ならないから,引用刊行物1においては,
“電話番号を有するIP電話装置からのIPアドレスを受信した場合に,VoIP接続の設定が実行され,前記VoIP接続の設定が完了すると,複数のIP電話装置とのピアツーピア接続はすべて切断される”ものであることが読み取れる。

7.上記Eの「今までの実施例は,電話番号を検索キーとして,目的のIP電話装置のIPアドレスを取得するものであった。しかし,本発明による検索システムでは,電話番号以外の何らかの個人情報を検索キーとしてもよく」という記載,及び,同じく,上記Eの「発呼者131Bは,例えば被呼者131Cに固有の名前や社員番号など,被呼者131Cを識別するための個人情報を有している」という記載から,引用刊行物1における「電話番号」は,“固有の名前や社員番号など個人情報”でも良いことが読み取れる。

以上,1.?7.において検討した事項から,引用刊行物1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が,記載されているものと認める。

VoIP(Voice over Internet Protocol)を利用したIP(Internet Protocol)電話装置システムであって,
前記IP電話装置システムは,多数のIP電話装置を含み,
前記IP電話装置に含まれるピアツーピア通信装置は,何ら仲介者を要することなく,相手方IP電話装置に対してピアツーピア方式で情報を通信する装置であり,
発呼側のIP電話装置において,電話番号が入力されると,前記IP電話装置が,これまでに接続したことのある全ての相手方IP電話装置に対して,前記IP電話装置のIPアドレスごとにピアツーピア接続を要求するIPパケットを送信し,
前記相手方IP電話装置とのピアツーピア接続が完成すると,電話番号を検索キーとして前記相手方IP電話装置に送信し,
前記相手方IP電話装置のいずれもが前記電話番号を有するIP電話装置ではない場合には,前記いずれの相手方IP電話装置からも接続不可を示すIPパケットを受信し,
いずれかの前記相手方IP電話装置が自己のIPアドレスを返信してきた場合は,前記返信されてきたIPアドレスを,前記電話番号を有する相手方IP電話装置のIPアドレスとして受信し,
電話番号を有するIP電話装置からのIPアドレスを受信した場合に,VoIP接続の設定が実行され,前記VoIP接続の設定が完了すると,複数のIP電話装置とのピアツーピア接続はすべて切断される,システムであって,
前記電話番号は,固有の名前や社員番号など個人情報でも良い,VoIP電話装置システム。

第4.本願発明と引用発明との対比
1.引用発明における「IP電話装置システム」に含まれる,個々の「IP電話装置」は,「ピアツーピア通信装置」を含むものであるから,引用発明における「IP電話装置システム」は,「ピアツーピア通信装置システム」とも言い得るものである。
よって,引用発明における「VoIP(Voice over Internet Protocol)を利用したIP(Internet Protocol)電話装置システム」が,
本願発明における「ピアツーピアシステム」に相当する。

2.引用発明における「IP電話装置システム」は,「多数のIP電話装置」を含むものであり,該「システム」内の個々の「IP電話装置」は,それぞれ「発呼側のIP電話装置」,「相手方IP電話装置」になり得るものであることは明らかであり,また,上記1.においても指摘したとおり,個々の「IP電話装置」は,「ピアツーピア通信装置」を有していることから,引用発明における個々の「IP電話装置」は,結果として,相互に接続された分散的なピアツーピア接続網を構築していることも明らかである。
そして,引用発明における「IP電話装置システム」は,「VoIP」を利用するものであるから,
引用発明における「IP電話装置」,「発呼側のIP電話装置」,及び,「相手方IP電話装置」と,本願発明における「許可されたエンドユーザ装置」,「許可された発呼側エンドユーザ装置」,及び,「許可された被呼側エンドユーザ装置」とは,
“エンドユーザ装置”,“発呼側エンドユーザ装置”,及び,“被呼側エンドユーザ装置”である点で共通し,
引用発明において,「VoIP」接続は,「ピアツーピア接続」が確立されたことを利用して設定されるものであるから,引用発明においても,「ピアツーピア接続」は,「VoIP」を支援するものであることは明らかであって,
上記1.において検討したとおり,引用発明における「VoIPを利用したIP電話装置システム」は,「ピアツーピア通信装置」を内包するものであるから,本願発明における「VoIPピアツーピアシステム」に相当する。
したがって,引用発明における「前記IP電話装置システムは,多数のIP電話装置を含み,前記IP電話装置に含まれるピアツーピア通信装置は,何ら仲介者を要することなく,相手方IP電話装置に対してピアツーピア方式で情報を通信する装置であり」と,
本願発明における「VoIP通信経路を介するVoIP呼を支援するための複数の許可されたエンドユーザ装置を相互接続する実質的に分散型のピアツーピア通信構造を含むVoIPピアツーピアシステムを有し,上記複数の許可されたエンドユーザ装置は許可された発呼側エンドユーザ装置及び許可された被呼側エンドユーザ装置を含み」とは,
“VoIP通信経路を介するVoIP呼を支援するためのエンドユーザ装置を相互接続する実質的に分散型のピアツーピア通信構造を含むVoIPピアツーピアシステムを有し,前記複数のエンドユーザ装置は,発呼側エンドユーザ装置及び被呼側エンドユーザ装置を含”むものである点で共通する。

3.引用発明において,「IP電話装置」は,それぞれ「電話番号」を有し,該「電話番号」は,「固有の名前や社員番号など個人情報」でも良いものであって,引用発明において,電話番号に換えて,「固有の名前」を採用した場合は,当該,「固有の名前」は,本願発明における「ユーザ名」に相当するものである。
したがって,引用発明において,“固有の名前でも良い,電話番号を,IP電話装置に割り当てる”ことが,
本願発明における「ピアツーピア通信機構は,上記複数の許可されたエンドユーザ装置のそれぞれに各自のユーザ名を関連付ける」ことに相当し,
引用発明における「固有の名前や社員番号など個人情報でも良い」「電話番号」は,「IP電話装置」を識別するためのものであることは明らかであるから,
引用発明における「前記電話番号は,固有の名前や社員番号など個人情報でも良い」と,
本願発明における「上記ピアツーピア通信構造は,上記複数の許可されたエンドユーザ装置のそれぞれに各自のユーザ名を関連付けることにより,許可されたエンドユーザの識別を行い,上記ユーザ名は上記ピアツーピア通信構造における電話番号として使用可能であり」とは,
“複数のエンドユーザ装置のそれぞれに各自のユーザ名を関連付けることにより,エンドユーザ装置の識別を行い,前記ユーザ名は電話番号として使用可能であ”る点で共通する。

4.引用発明においては,「いずれかの前記相手方IP電話装置が自己のIPアドレスを返信してきた場合は・・・VoIP接続の設定が実行され,前記VoIP接続の設定が完了する」ものであるから,
本願発明における「上記許可された発呼側エンドユーザ装置は,上記許可された被呼側エンドユーザ装置のアドレスに関する情報を受信し,VoIP呼の開始前に,上記許可された被呼側エンドユーザ装置によって提供された認可証明書を検証するように形成され,上記認可証明書を検証することによりピアツーピア通信構造へのアクセスを可能にし,上記VoIP通信経路を介する上記許可された被呼側エンドユーザ装置への呼を確立」することとは,
“発呼側エンドユーザ装置は,被呼側エンドユーザ装置のアドレスに関する情報を受信し,被呼側エンドユーザ装置へのVoIP呼を確立する”ものである点で共通する。

5.引用発明においては,「前記IP電話装置に含まれるピアツーピア通信装置は,何ら仲介者を要することなく,相手方IP電話装置に対してピアツーピア方式で情報を通信する」ものであるから,
本願発明における「許可された発呼側エンドユーザ装置は,上記認可証明書を発行する責務を有する上記管理ノードと通信する必要なしに,上記許可された被呼側エンドユーザ装置からの認可証明書を検証して上記VoIP呼を確立するように形成されている」とは,
“発呼側エンドユーザ装置は,被呼側エンドユーザ装置以外と通信する必要なしに,被呼側エンドユーザ装置とのVoIP呼を確立するように形成されている”ものである点で共通する。

以上1.?5.において検討した事項から,本願発明と,引用発明との,一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
ピアツーピアシステムであって,
VoIP通信経路を介するVoIP呼を支援するためのエンドユーザ装置を相互接続する実質的に分散型のピアツーピア通信構造を含むVoIPピアツーピアシステムを有し,複数の前記エンドユーザ装置は,発呼側エンドユーザ装置及び被呼側エンドユーザ装置を含み,
前記複数のエンドユーザ装置のそれぞれに各自のユーザ名を関連付けることにより,前記エンドユーザ装置の識別を行い,前記ユーザ名は電話番号として使用可能であり,
前記複数のエンドユーザ装置のそれぞれに各自のユーザ名を関連付けることにより,エンドユーザ装置の識別を行い,前記ユーザ名は電話番号として使用可能であり,
前記発呼側エンドユーザ装置は,前記被呼側エンドユーザ装置のアドレスに関する情報を受信し,前記被呼側エンドユーザ装置へのVoIP呼を確立するものであって,
前記発呼側エンドユーザ装置は,前記被呼側エンドユーザ装置以外と通信する必要なしに,前記被呼側エンドユーザ装置とのVoIP呼を確立するように形成されている,ピアツーピアシステム。

[相違点1]
“エンドユーザ装置”,“発呼側エンドユーザ装置”,及び,“被呼側エンドユーザ装置”に関して,
本願発明においては,「許可されたエンドユーザ装置」,「許可された発呼側エンドユーザ装置」,及び,「許可された被呼側エンドユーザ装置」であるのに対して,
引用発明における「IP電話装置」が,何らかの「許可された」ものであるかは,不明である点。

[相違点2]
本願発明においては,「ピアツーピア通信構造は管理ノードを含み,上記管理ノードは,上記複数の許可されたエンドユーザ装置のそれぞれに認可証明書を発行して上記ピアツーピア通信構造における許可されたアクセスの証明を支援することにより,上記ピアツーピア通信構造の無許可の不正な使用を回避するように形成され,上記複数の許可されたエンドユーザ装置は,許可されたアクセスの証明が存在しない場合,上記ピアツーピア通信構造を介するVoIP呼を受理することを拒否するように形成され」ているのに対して,
引用発明においては,「管理ノード」,及び,「許可証明書」とその「発行」並びに,「アクセスの証明」に基づく「VoIP呼」の確立の可否に関しては,言及されていない点。

[相違点3]
“VoIP呼の確立”に関して,
本願発明においては,「VoIP呼の開始前に,上記許可された被呼側エンドユーザ装置によって提供された認可証明書を検証するように形成され,上記認可証明書を検証することによりピアツーピア通信構造へのアクセスを可能にし,上記VoIP通信経路を介する上記許可された被呼側エンドユーザ装置への呼を確立」するものであるのに対して,
引用発明においては,「許可証明書」の「検証」,及び,それに基づく「呼」の「確立」については,言及されていない点。

[相違点4]
“被呼側エンドユーザ装置以外と通信する必要なしに”に関して,
本願発明においては,「認可証明書を発行する責務を有する上記管理ノードと通信する必要なしに」であるのに対して,
引用発明においては,通信先が,「管理ノード」である点に関しては,言及されていない点。

第5.相違点についての当審の判断
[相違点1]?[相違点4]について
本願発明における「許可されたエンドユーザ装置」とは,本願の請求項1に記載の内容に従えば,「管理ノード」によって,「許可証明書」を発行された「エンドユーザ装置」を指すものであると解される。
そして,前記「許可証明書」とは,同じく,本願の請求項1に記載の内容に従えば,「許可された発呼側エンドユーザ装置」が,「許可された被呼側エンドユーザ装置」の正当性を検証するためのものであると解される。
この点に関して,原審拒絶理由に引用された,本願の原出願の第1国出願前に既に公知である,特開2002-091300号公報(2002年3月27日公開,以下,これを「引用刊行物2」という)に,

F.「【0002】
【従来の技術】図1は従来技術による代表的な認証通信端末装置と被認証通信端末装置の構成である。認証通信端末装置100 は認証部120と認証部120を使用するアプリケーション110より構成され,認証部120はチャレンジ作成部121と署名検証部122と記憶部123とユーザ入出力部124とから構成される。被認証通信端末装置200は被認証部220と被認証部220を使用するアプリケーション210より構成され,被認証部220は署名部221と記憶部222とより構成され,記憶部222には被認証通信端末装置200 の公開鍵PK2と秘密鍵SK2と,公証局から得た公開鍵証明書SK3(PK2)とが保持されている。認証通信端末装置100と被認証通信端末装置200は通信手段51により互いに通信する。」

G.「【0004】例えば,認証通信端末装置100 が被認証通信端末装置200 と通信する際に被認証通信端末装置が確かに意図する通信相手であるか否かを検証する場合,被認証通信端末装置200 は公証局300 が秘密鍵SK3 を使って被認証通信端末装置の保有する公開鍵PK2 に署名して発光する公開鍵証明書SK3(PK2)を事前に得ておく(ステップS0)。通信時の認証処理に際しては,認証通信端末装置100 の認証部120 は被認証通信端末装置200 の被認証部220 より当該公開鍵証明書SK3(PK2)の提示を受け(ステップS1),署名検証部122 により,公証局300 の公開鍵PK3 を使用して当該公開鍵証明書SK3(PK2)に対しPK3(SK3(PK2))がPK2と一致するかを検証する(ステップS2)。これにより公開鍵PK2 が正当なものであるかが検証される。正当であれば,チャレンジ作成部121 を使用して作成したランダム情報Rを被認証通信端末装置200 の被認証部220 に送信する(ステップS3)。
【0005】被認証通信端末装置200 の被認証部220 は署名部221 により秘密鍵SK2 を使用して当該ランダム情報に対する電子署名SK2(R)を作成し(ステップS4),当該電子署名SK2(R)を認証通信端末装置100 の認証部120 に対して送信する(ステップS5)。認証通信端末装置100 の認証部120 は前記公開鍵証明書SK3(PK2)により検証した被認証通信端末装置200 の公開鍵PK2 を使用して署名検証部122 により当該電子署名SK2(R)に対しPK2(SK2(R))=Rが成立するかを検証する(ステップS6)ことで通信相手である被認証通信端末装置200 の正当性を検証する。認証通信端末装置100 上のアプリケーション110 と被認証通信端末装置200 上のアプリケーション210 が通信を行う場合には前記の認証過程を経て通信手段51により通信を行うことができる。」

という記載が存在していて,上記Fの段落【0002】に記載された,「認証通信端末装置」,「被認証通信端末装置」は,同じく,上記Fの段落【0002】に記載された,「公証局」から,「公開鍵証明書」を発行されており,当該「公開鍵証明書」は,「認証通信端末装置」が,「被認証通信端末装置」の正当性を検証するために用いられていることは,明らかである。そうすると,「公証局」から,「公開鍵証明書」を発行された,「認証通信端末装置」,及び,「被認証通信端末装置」は,それぞれ,“許可された通信端末装置”と言い得るものであって,引用刊行物2に記載されているように,
“通信要求側の端末装置が,被通信要求側の端末装置を,通信を確立する前に,証明書を用いて検証し,その結果に基づいて,通信の確立を行う”ことは,本願の原出願の第1国出願前に,当業者には広く知られた技術事項である。
引用発明は,VoIP呼が確立する前段階において,ピアツーピア接続を行っていて,接続先に相当する「個別の名前」等を有する「IP電話装置」が存在しない場合には,「VoIP呼」が確立できないというものあるが,引用発明も,引用刊行物2に係る発明も,“2つの通信機器間での接続の確立技術”である点で共通するので,
引用発明において,「相手方IP電話装置」が,「個別の名前」を返してきた場合であって,該「相手方IP電話装置」の正当性を検証する必要が生じた場合に,引用刊行物2に係る発明の手法を用いて,当該正当性を確認する構成を採用することは,当業者が適宜なし得たものである。
よって,相違点1?相違点4は,格別のものではない。
そして,本願発明の構成によってもたらされる効果も,引用発明,及び,引用刊行物2に係る発明から,当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって,格別のものとはいえない。

第6.むすび
したがって,本願発明は,本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-21 
結審通知日 2015-04-28 
審決日 2015-06-04 
出願番号 特願2011-198587(P2011-198587)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 義仁  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 石井 茂和
木村 貴俊
発明の名称 ピアツーピアシステム、呼を確立する方法及びコンピュータプログラム  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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