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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04F
管理番号 1307135
審判番号 無効2013-800229  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-12-16 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第5342062号発明「フリーアクセスフロア構成部材の製造方法およびフリーアクセスフロア構成部材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5342062号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年12月28日 本件出願(特願2012-289078)
平成25年 8月16日 設定登録(特許第5342062号)
平成25年12月16日 本件無効審判請求
平成26年 3月10日 審判事件答弁書提出
平成26年 5月21日 審理事項通知(起案日)
平成26年 6月17日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成26年 6月24日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成26年 7月 8日 口頭審理
平成26年 7月22日 被請求人より上申書提出
平成26年 8月11日 請求人より上申書提出
平成26年 8月26日 請求人より上申書提出
平成27年 2月17日 審決の予告(起案日)
平成27年 8月17日 審理終結通知(起案日)

なお、上記審決の予告において、期間を指定して被請求人に訂正を請求する機会を与えたが、訂正の請求がなされることなく、上記期間が経過した。


第2 本件に係る発明
本件特許の請求項1、2に係る発明は、明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
金属製のフリーアクセスフロア構成部材の製造方法であって、
金属素材により前記フリーアクセスフロア構成部材を加工してネジ切り加工した後に、当該フリーアクセスフロア構成部材に、5?150μmの所定膜厚の溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とするフリーアクセスフロア構成部材の製造方法。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】
請求項1に記載のフリーアクセスフロア構成部材の製造方法により溶融亜鉛めっきが施された金属製のフリーアクセスフロア構成部材。」(以下、「本件発明2」という。)


第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、特許第5342062号発明の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲第1号証ないし甲第16号証を提出している。

(理由)
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきである。

[具体的主張]
請求人は、審判請求書において本件発明1、2を下記のようにA?Cに分節し、次の(1)?(4)の主張をしている。
「(請求項1)
A.金属製のフリーアクセスフロア構成部材の製造方法であって、
B.金属素材により前記フリーアクセスフロア構成部材を加工してネジ切り加工した後に、当該フリーアクセスフロア構成部材に、5?150μmの所定膜厚の溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とするフリーアクセスフロア構成部材の製造方法。
(請求項2)
C.請求項1に記載のフリーアクセスフロア構成部材の製造方法により溶融亜鉛めっきが施された金属製のフリーアクセスフロア構成部材。」

(1)甲第1号証?甲第7号証について
(注:丸数字は○1、○2、・・・のように表示する。以下同様。)
「○2先行技術発明が存在する事実及び証拠の説明
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(実公平6-9225公報、平成6年3月9日発行)の第2頁第3欄第50行?第4欄第7行、第3頁第5欄第14行?第15行には、本件請求項1の構成中、Aに相当する構成が記載されている。
すなわち、同号証は揚床の支持装置に関するものであり、その第2頁第3欄第50行?第4欄第7行には『ボルトなどからなる柱状の支持部本体3と、この支持部本体3の所定高さ位置に形成されたねじ溝に螺合される固定ナット4ならびに高さ調整ナット5と、前記支持部本体3をコンクリート製の床6に直立支持させるための固定部材7と、前記高さ調整ナット5に溶接などの手段により固着されてその上面に重ねた揚床1を保持する揚床保持板8とから構成される。』と記載され、第3貞第5欄第14行?第15行には『支持部本体3として通常市販されているボルトをそのまま用いることができる。』と記載されている。
さらに、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開昭62-17416公報、昭和62年1月26日発行)の第2頁左上欄第6行?第9行、第10行には本件請求項1中、Bに相当する構成が記載されている。
すなわち、同号証第2頁左上欄第6行?第9行には、『一般的にはボルト等へ耐蝕めっきを施す場合には、ボルトの脚部へねじ山を切削、転造等により形成し、このボルトを溶融亜鉛浴の中へ浸漬して亜鉛めっきを行っている。』と記載され、その効果として第2頁左上欄第10行には、この亜鉛めっきは耐蝕性に優れている』との記載がなされている。
さらに、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開平8-105422公報、平成8年4月23日発行)の第2頁第2欄第37行?第43行には、本件請求項1中、Bに相当する構成が記載されている。
すなわち、同号証第2頁第2欄第37行?第43行には、『溶融亜鉛めっきの付着量自体は、JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)に規定されていて、例えば、HDZ35では350g/m^(2) 以上、HDZ55では550g/m^(2)以上となっている。従って、付着量350?550g/m^(2) のとき、亜鉛がボルト全体にわたって均等に付着すれば、めっき層の厚さは50?80μmとなる。』と記載されている。
さらに、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開2008-156846公報、平成20年7月10日発行)の第2頁第28行には、本件請求項1中、Aに相当する構成が記載され、第8頁第24行?第28行には、本件請求項2中、Bに相当する構成が記載されている。
すなわち、同号証第2頁第28行には、『本発明は、・・・フリーアクセスフロアに関する。』と記載され、第8頁第24行?第28行には『受け部22を金属製としたが、導電性を有する材料で形成されていればよく、溶融亜鉛メッキ材・・・によって形成されていてもよい。・・・ネジ部材24を金属製としたが、導電性を有する材料で形成されていればよく、溶融亜鉛メッキ材・・・によって形成されていてもよい。』と記載されている。
さらに、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開2000-8593公報、平成12年1月11日発行)の第2頁第1欄第47行?第49行には、本件請求項1中、Aに相当する構成が記載され、第4頁第5欄第22行?第24行には、本件謂求項1中、Bに相当する構成が記載されている。
すなわち、同号証第2頁第1欄第47行?第49行には、『本発明はパイプ式ターンバックス胴を用いてなる床荷重支持具およびその製造方法に関する。』と記載され、第4頁第5欄第22行?第24行には、『所定長さに切断されているパイプ本体10およびナット体20は、事前に溶融亜鉛めっきが施されていてもよい。』と記載されている。
また、参考として、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証(戸建住宅用金属建材カタログ、平成17年6月1日発行)に住宅用鋼製束の耐久性の欄(提出書類の2頁日)に『表面処理は『溶融亜鉛めっき』を施し、長期に渡り優れた耐久性を維持します。』と記載されている。
さらに、本件特許の出願日前と思われる甲第7号証(インターネットに掲載されている)JEITAのウィスカに閔するQ&A(提出書類の2頁目)には『床下OAフロア支持脚やボルト類に電気めっきを施す仕様としています。電気めっきの上から塗装を施すのは効果がないとのことですが、ウィスカ対策として○1溶融亜鉛めっき・・・などを代案として考えてます。これらの選択肢にウィスカ対策の効果が期待できるのかどうかをご教示下さい。』と記載され、その答えに『質問の案の中では○1溶融亜鉛めっきが有効と考えられます。』と記載されている。
尚、JEITAの記載は、『http://it.jeita.or.ip/infosys/info/whisker/』の『ウィスカに関するQ&A』に記載されており、一番上の『亜鉛のヒゲ注意』は2003年6月2日に掲示され、二番目の『ウィスカにご注意ください』は2002年1月16日に掲示されていることから、三番目にあたる『ウィスカに関するQ&A』は二番目の2002年1月16日以前であることは明らかである。」(審判請求書6.(4)○2)

(2)甲第8号証?甲第10号証について
「追記参考として甲第6号証及び第7号証を添付すると共に、その他の情報として甲第8号証乃至甲第10号証を添付する。」(審判請求書7.(1))

(3)甲第11号証?甲第15号証について
「甲11号証に「従来の鋼製束にあっては、その防錆目的のために、溶融亜鉛メッキが施される(【0010】参照)」との開示があり、「ベース部材と長軸螺子棒との構成部材並び天板と長軸螺子棒との構成部材においても、溶融亜鉛メッキを施す際に、長軸螺子棒の雄ネジ部での目詰まりにより、その機能が失われるので、メッキは最小限に留めなければならず(【0014】参照)」との開示されていることから、溶融亜鉛めっきで、耐食性を目的とすると共に、螺合関係の最適化を目的として上限値を設定していることは明らかである。
更に、溶融亜鉛めっきではないが、ネジ切り加工した部分に被覆する際に上限を設定しているものが例えば下記のように多々存在する。
甲12号証に「ボルト本体のネジ部にモリブデン、クロム、タングステン等の体心立方格子構造を有する金属または合金の10?150μmの厚さの溶射層を設けたものである。(2頁上右欄14行?18行)」との開示、「150μmを超えるとコストアップとなるだけでなく、ナットとの螺合に支障を来たすことがあり好ましくない。(2頁上左欄15行?18行参照)」との開示があり、螺合関係の最適化を目的に上限を設定している。
甲13号証に「アルマイト層の厚さは1?25μmの範囲とすることが好ましい。1μmよりも薄いと耐食性・耐傷性が不十分であり、25μmよりも厚いと締結時に割れや剥離を生じるためである。(【0018】参照)との開示があり、耐食性と螺合関係(締結時の割れや剥離)の最適化とを両立させる目的で下限、上限を設定している。
甲14号証に「部材を結合するボルトナットの螺子部は本来のネジ機能を確保するためコーティングの膜厚は100μmを超えることができない(【0003】参照)」との開示があり、これも螺合関係の最適化を目的として、上限を設定している。
甲15号証に「コーティングの厚みは、1μm以上20μm未満であることが好ましい。
コーティングの厚みが1μm未満では、十分な耐食性を得ることが難しい。一方、コーティングの厚みが20μm以上であっても耐食性に大きな変化がなく、むしろ、コーティングが厚くなることで部品の寸法精度に影響を与える虞がある。(【0026】参照)」との開示があり、「コーティングの厚みが25μmのマグネシウム合金ボルトは、ナットに締め付けることができなかった。これは、コーティングの厚みが増すことで、その分ボルトの寸法(外径)が大きくなり、ボルトをナットに螺合することができなくなったことが原因と考えられる。(【0055】参照。)」との開示があり、これも耐食性と螺合関係の最適化とを両立させる目的で下限、上限を設定している。」(口頭審理陳述要領書4.4-3)

(4)公知技術と周知技術の組み合わせについて
ア 「本件請求項1に係る特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者は、金属製のフリーアクセスフロア構成部材である点で共通し、請求項1に係る特許発明は、フリーアクセスフロア構成部材を加工してネジ切りしたのちに、当該フリーアクセスフロア構成部材に、5?150μmの所定膜厚の溶融亜鉛めっきを施しているのに対して、甲第1号証には、支持部材として通常市販しているボルトを使用しているとの記載だけであり、めっきの有無や膜厚に関して記載がない点で、両者は相違する。
しかしながら、一般的なボルトとして甲第2号証にはねじ山を形成した後に溶融亜鉛めっきを施す技術が開示されており、甲第3号証にはボルトの溶融亜鉛めっきを施す際のJIS規格として、膜厚50μm 以上、或いは膜厚80μm 以上を施すことが記峨されている。
以上を考慮すると、通常市販されているボルトをフリーアクセスフロアの構成部材である支持部材に使用することは甲第1号証に開示されており、通常市販されているボルトとして甲第2号証にねじ山を形成した後に溶融亜鉛めっきを施す技術、及び溶融亜鉛めっきを施すことにより、耐蝕性が高まる効果が開示され、さらに甲第3号証に膜厚を50μm以上とする技術が開示されていることから、甲第1号証の支持部材のボルトを甲第2号証及び甲第3号証のボルトにすること自体、その発明に属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に推考し得るものである。
換言すれば、フリーアクセスフロアの構成部材である支持部材を作り出そうとすると、市販されているボルトを使用した結果、本件発明が完成してしまうこととなるのである。
また、これらの容易性を根拠付ける証拠として、甲第4号証及び甲第5号証にフリーアクセスフロアの構成部材に溶融亜鉛めっきを施すこと自体は開示されており、膜厚は甲第3号証に記載の通りJIS規格で決まっていることからもその発明に属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に推考し得るものであることが言える。
尚、甲第6号証に住宅用鋼製束の表面処理を溶融亜鉛めっきにし、長期に渡り優れた耐久性を維持する記載や、甲第7号証のJEITAにはOAフロア支持客に溶融亜鉛めっきを施すことがウィスカ対策として有効である記載がなされている点も追記しておく。」(審判請求書6.(4)○3)

イ 「甲2及び甲3号証が耐食性を目的にネジ切り部分にめっきを施しており、ネジ部分を止めた後にめっきを施していない限り、ネジとして機能を有する程度にめっきを施すことは当然のことであり、本件特許の上限値である150μmが被請求人が主張するように「螺合関係の適正化」にあるのであれば、当然甲2及び甲3号証も150μm以下に設定しているものと言える。
換言すれば、螺合関係が適正に行われないのであれば、ネジ部品としての機能を発揮しないからである。
このことは、次に記載する周知技術である甲11号証から甲14号証(口頭審理において甲15号証に修正)からも明らかである。」(口頭審理陳述要領書4.4-3)

ウ 「甲1号証に防錆に関して説明がなかったとしても、一般的に二重床の構成部材に関しては防錆処理を施していることは明らかである。
更に、甲1号証の揚床の支持装置は、支持体本体と高さ調整ナットを螺合することにより高さ調整することは明らかであり、当然螺合の適正化を図る必要性がある。
以上から、甲1号証の揚床の支持装置も当然のことならが、防錆処理が施された通常市販されているボルトをそのまま用い、且つボルトであることから螺合の適正化を図ることも当然であり、これらを理由に十分な動機づけとなる。」(口頭審理陳述要領書4.4-4)

エ 「甲11号証?甲14号証に開示されているように、ネジ切り部に被覆するものの膜厚の上限を設定することは周知であり、上記(B)に記載の「膜厚の最適化」という技術的思想が開示された証拠となる。」(口頭審理陳述要領書4.4-5)

[証拠方法]
甲第1号証:実公平6-9225号公報
甲第2号証:特開昭62-17416号公報
甲第3号証:特開平8-105422号公報
甲第4号証:特開2008-156846号公報
甲第5号証:特開2000-8593号公報
甲第6号証:戸建住宅用金属建材カタログの写し
甲第7号証:JEITA(一般社団法人 電子情報技術産業協会)のHPに掲載されている「ウイスカに関するQ&A」(http://it.jeita.or.jp/infosys/info/whisker/qa.html)の写し
甲第8号証:特開2010-592号公報
甲第9号証:特開平2-80805号公報
甲第10号証:ねじ総合カタログ 2008年版 233頁の写し
甲第11号証:特開2012-241349号公報
甲第12号証:特開平3-41207号公報
甲第13号証:特開2008-232366号公報
甲第14号証:特開2008-185091号公報
甲第15号証:特開2011-6778号公報
甲第16号証:実願平3-83364号(実開平5-35950号)のCD-ROM

2 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、平成26年3月10日付け答弁書、平成26年6月24日付け口頭審理陳述要領書、同年7月22日付け上申書において、請求人の主張する無効理由にはいずれも理由がない旨主張しており、具体的には次の(1)?(8)のとおりである。また、証拠方法として乙第1-11号証を提出している。

[具体的主張]
(1)「しかしながら、本件特許は、請求項1に『5?150μmの所定膜厚』と記載されるように、耐食性と螺合関係の適正化とを両立させる目的で膜厚を所定範囲に規定したことに特許性が認められている。
一方、請求人から提示された各証拠(甲1?甲10)には、溶融亜鉛めっきの膜厚について、特に上限を特定する根拠は認められない。膜厚の上限は本件特許の課題である螺合関係の適正化に影響する重要な要素である。」(答弁書3頁7-12頁)

(2)「以上の通り、請求人から提示されたいずれの証拠(甲1?甲10)にも、耐食性と螺合関係の適正化とを両立させる目的で溶融亜鉛めっきの膜厚の上限を特定する記載は無いばかりか、膜厚の上限に関する示唆も無い。
そのため、各証拠(甲1?甲10)から本件特許の請求項1の膜厚の上限を特定する論理付けをすることはできない。」(答弁書6頁16-20行)

(3)「上記(3)(イ)○5の通り、請求人から提出されたいずれの証拠(甲1?甲10)にも、溶融亜鉛めっきの膜厚の上限を特定する記載は無い。そのため、当然に、請求人から提出されたいずれの証拠(甲1?甲10)にも、螺合関係の適正化という課題を解決するために溶融亜鉛めっきの膜厚の上限を特定するという技術的思想は開示されてはいない。」(答弁書8頁15-19行)

(4)「従って、溶融亜鉛めっきの膜厚の最適範囲を特定し、雄ネジと雌ネジとの螺合関係の適正化という課題を解決している本件特許の請求項1及び2は、当業者が容易に発明をできたものではないので、特許法第29条2項の規定に該当するものではない。」(答弁書10頁1-4行)

(5)「ここで、本件特許の被膜の素材である亜鉛と甲12号証から甲15号証までに記載されるめっきの素材とは異なり、その被膜の硬さ、表面粗さ、又は摩擦係数などの特性が異なるので、甲12号証から甲15号証までの記載を本件発明の溶融亜鉛めっきの膜厚の上限値の参考とすることはできない。これは、甲12号証から甲15号証に記載の膜厚の数値範囲が互いに異なっていることからも明らかである。そのため、溶融亜鉛めっきの膜厚の上限値を設定することについての記載は、請求人から提出された証拠の中にはみつけられない。従って、溶融亜鉛めっきの膜厚の上限が150μmに設定されることが当然であるとの請求人の主張は誤りである。」(口頭審理陳述要領書6頁3?11行)

(6)「○1 まず、本審判事件において、請求人から提出された証拠(甲1?5)の内で、溶融亜鉛めっきの膜厚数値について記載されているのは1つの証拠(甲3)のみである。その証拠(甲3)の記載は、審判事件答弁書(平成26年3月10日付け)の4頁5行?4頁14行に記載した通り、溶融亜鉛めっきの膜厚の下限を特定するものであり、上限を特定するものではない。
○2 そのため、請求人から提出された証拠(甲1?5)には、そもそもフリーアクセスフロア構成部材のネジ切り部の溶融亜鉛めっきの膜厚の上限値が記載されていないことになり、上限値の特定を行う動機が生じ得ない。」(上申書2頁9-16行)

(7)「請求人から提出された証拠(甲1?5)には、本件特許の目的である螺合関係の適正化を目的として、フリーアクセスフロア構成部材のネジ切り部の溶融亜鉛めっきの膜厚を特定するという記載も示唆も無い。そのため、数値を特定する目的が、本件特許と請求人から提出された証拠(甲1?5)とで異なるので、臨界的意義の検討をせずとも、溶融亜鉛めっきの膜厚の上限を150μmに特定することの進歩性は否定されない。」(上申書4頁10-15行)

(8)「請求人が提出した証拠(甲11)では、「メッキは最小限に留めなければならず」と開示されるに留まり、メッキの膜厚が具体的にどの程度まで許容されるかについての記載は一切無い。」(上申書6頁4-6行)

[証拠方法]
乙第1号証:JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)の写し
乙第2号証:知財高裁判決 平成17年(行ケ)第10445号の判決文の写し
乙第3号証:特開平7-308728号公報
乙第4号証:特開平8-90138号公報
乙第5号証:特開平9-295100号公報
乙第6号証:特開2004-36133号公報
乙第7号証:特開2005-299218号公報
乙第8号証:特開2010-53516号公報
乙第9号証:平成6年(行ケ)第30号審決取消請求事件の判決文の写し
乙第10号証:特公平4-43980号公報
乙第11号証:平成17年(行ケ)第10222号特許取消決定取消請求事件の判決文の写し


第4 甲各号証に記載された事項
1 各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、揚床の支持装置に関して、図面と共に次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与。)

ア 「【請求項1】 頂面に回転操作溝を有しているとともに底部には床に載置される膨出した台部を有している柱状の支持部本体の所定の高さ位置にねじ溝が形成され、このねじ溝に固定用の固定ナットと揚床支持用の高さ調整ナットが上下に螺合されている支持部材と、床面への固定部ならびにその上方に配置されて前記支持部材をその台部上方において回動可能に嵌装させる支持部からなり前記支持部材を床に直立支持させるための固定部材と、前記調整ナットが固着されているとともにその上面に重ねた揚床の下面に係止する位置決め用の突起を有する揚床保持板とからなることを特徴とする揚床の支持装置。」

イ 「【考案の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本考案は揚床の支持装置、殊に施工が簡単であるとともに、取付け後に揚床の上面から簡単な操作で揚床の高さ位置調整や弛みを修正することが可能な揚床の支持装置に関するものである。」(1頁1欄13行?2欄3行)

ウ 「[実施例]
次に本考案の実施例を図面に基づいて説明する。
第1図乃至第5図は本考案の一実施例を示すものであり、揚床1の支持装置2は、主として例えばボルトなどからなる柱状の支持部本体3と、この支持部本体3の所定の高さ位置に形成されたねじ溝31に螺合される固定ナット4ならびに高さ調整ナット5と、前記支持部本体3をコンクリート製の床6に直立支持させるための固定部材7と、前記高さ調整ナット5に溶接などの手段により固着されてその上面に重ねた揚床1を保持する揚床保持板8とから構成される。」(2頁3欄47行?4欄7行)

エ 「更にまた、本実施例は支持部本体3として通常市販されているボルトをそのまま用いることができるため、きわめて経済的である。」(3頁5欄14?16行)

オ ボルトは一般的態様として金属製であるので、金属製のボルトといえる。

上記アないしオの記載事項から、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「ボルトなどからなる柱状の支持部本体3と、この支持部本体3の所定高さ位置に形成されたねじ溝に螺合される固定ナット4ならびに高さ調整ナット5と、前記支持部本体3をコンクリート製の床6に直立支持させるための固定部材7と、前記高さ調整ナット5に溶接などの手段により固着されてその上面に重ねた揚床1を保持する揚床保持板8とから構成される揚床の支持装置において、支持部本体3に用いる通常市販されている金属製のボルト」(以下「甲1発明」という。)


(2)甲第2号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、ねじ山製品製作方法に関して、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「一般的にはボルト等へ耐蝕めっきを施す場合には、ボルトの脚部へねじ山を切削、転造等により形成し、このボルトを溶融亜鉛浴の中へ浸漬して亜鉛めっきを行っている。
この亜鉛めっきは耐食性に優れているが、めっき被膜が不均一で厚いため、場合によってはナットと螺合することができず、その外形を切削して適当な寸法値に合せる作業が必要になる。」(第2頁左上欄6?13行)

(3)甲第3号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、トルシア形ボルトに関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】最近、構造物の防錆という観点からボルトに溶融亜鉛めっきを施したものが使用されているが、上記トルシア形ボルトにおいても溶融亜鉛めっきを施すことが要望されている。
【0005】しかし、従来のトルシア形ボルトに溶融亜鉛めっきを施した場合、めっき層の形成によってボルトの寸法が全体的に大きくなり、締付機のインナースリーブがピンテールに嵌まらなくなることがある。
【0006】すなわち、溶融亜鉛めっきの付着量自体は、JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)に規定されていて、例えば、HDZ35では350g/m^(2) 以上、HDZ55では550g/m^(2) 以上となっている。従って、付着量350?550g/m^(2 )のとき、亜鉛がボルト全体にわたって均等に付着すれば、めっき層の厚さは50?80μmとなる。この場合、上記ピンテールとインナースリーブとの間には寸法的に余裕がもたせてあるため、この両者の嵌合に支障がないはずである。しかし、実際には、上記付着量にばらつきがあり、また、JIS規格に則ってめっきを行なう場合でもその下限値よりも多めの付着量となるようにされるのが通常であるから、めっきが部分的に厚いものになり易く、上記ピンテールとインナースリーブとの嵌合性が悪くなる。」

(4)甲第4号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、フリーアクセスフロアに関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0004】
フロアパネル202は、四隅で躯体208の床面に置かれた金属製の支持脚210に支持されて、躯体208の床面とフロアパネル202の間に電気配線等のための空間を形成している。」
イ 「【0051】
支持脚16のフロアパネル支持面には金属製の受け部22が設けられている。この受け部22付近の拡大図である図4、5に示すように、固定手段としての金属製のネジ部材24が貫通する貫通孔26がフロアパネル12の上面から下面に形成されている。そして、受け部22に設けられた雌ネジ部28にネジ部材24が螺合されて、受け部22にフロアパネル12が固定されている。また、この状態でフロアパネル12の上面に設けられた溶融亜鉛メッキ鋼板20にネジ部材24の頭部が接している。
【0052】
このような構造により、ネジ部材24を締め付けることによって、受け部22にフロアパネル12の下面に設けられた溶融亜鉛メッキ鋼板20が圧着され、フロアパネル12の上面に設けられた溶融亜鉛メッキ鋼板20にネジ部材24の頭部が圧着される。」
ウ 「【0070】
また、ネジ部材24を金属製としたが、導電性を有する材料で形成されていればよく、溶融亜鉛メッキ材、アルミダイキャスト等によって形成されてもよい。」

(5)甲第5号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、床荷重支持部およびその製造方法に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】従来より、図9および図10に示すように厚肉パイプpの両端部に絞り加工を施し、ついで一方の絞り部内面に、例えば右ねじmをタップにより形成し、他方の絞り部内面に前記と反対の左ねじnをタップにより形成してなるパイプ式ターンバックル胴aの一端に床受け部材bを螺着し、他端に底部部材cを螺着してなる鋼製束dが知られている。」

(6)甲第6号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、住宅用鋼製束に関して、次の事項が記載されている。
ア 「住宅用鋼製束 サンサポート
(中略)
2 パワーアップ
・・・
・各部材はすべてスチール製のため、アリや腐巧菌等による劣化の心配がありません。
3 耐久性
・表面処理は「溶融亜鉛めっき」を施し、長期に渡り優れた耐久性を維持します。」

(7)甲第7号証の記載内容
本件特許出願前にインターネットを通じて公衆に閲覧可能になった甲第7号証には、ウイスカに関するQ&Aに関して、次の事項が記載されている。
ア 「 ■ ■ ■ ウイスカ問題に関する質問と回答 ■ ■ ■
(中略)
対策が必要な対象としては、コンピュータルームの空調、電源、耐震固定、フリーアクセスフロア、などすべての構成要素が対象になるのでしょうか?
対象になるのは電気亜鉛メッキを施した材料です。詳細に付いては、コンピュータ各社にお問い合わせをお願い致します。
(中略)
床下OAフロア支持脚やボルト類に電気めっきを施す仕様としています。電気めっきの上から塗装を施すのは効果がないとのことですが、ウイスカ対策として○1溶融亜鉛めっき、○2錆止めの上、溶剤の少ない水性塗装、○3クロメートめっき、○4ニッケルめっき、などを代案として考えてます。これらの選択肢にウイスカ対策の効果が期待できるのかどうかをご教示ください。
質問の案の中では○1溶融亜鉛めっきが有効と考えられます。○2?○4については明確な答えは持っておりません。ただし、ウイスカが発生する部材の選択は極力さけてください。 」

(8)甲第8号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、溶融亜鉛めっきナットに関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
溶融亜鉛めっき(以下、溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛-アルミニウム系合金など溶融金属めっきの総称として溶融亜鉛めっきを使う)したボルトに、溶融亜鉛めっきしたナットを組合せて使う場合、おねじとめねじの間に、めっき代分の隙間を予め設けておき、めっきする必要がある。この隙間は、ボルトのねじを基準より小さくしたり(アンダサイズ)、ナットのねじを大きくしたり(オーバサイズ)して作る。」

(9)甲第9号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には、ドリルねじの製造方法に関して、次の事項が記載されている。
ア 「すなわち請求項第1の発明は、シャンクの先端のドリル部を鍛造又は切削にて成形し、前記シャンクにねじ山を形成し、次いで浸炭焼入れ又は浸炭窒化焼入れ処理したのち焼戻し処理を行うようにしたドリルねじの製造方法において、前記焼戻し処理したあと、少なくともねじ山及びドリル部の表面に亜鉛を被覆し、次いで加熱処理を行うことを特徴とするドリルねじの製造方法である。
この場合、ねじ山及びドリル部の表面に対する亜鉛の被覆手段としては、請求項2に記載したような亜鉛の電気鍍金や、或いは熔融した亜鉛浴への浸漬することによる熔融鍍金、又はねじ山及びドリル部の表面に亜鉛を溶射鍍金する等の手段が採用される。」(2頁右下欄16行?3頁左上欄9行)

(10)甲第10号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第10号証には、溶融亜鉛めっきに関して、次の事項が記載されている。
ア 「溶融亜鉛めっき(JISH8641:1999)の種類、品質は付着量及び硫酸銅試験回数により表のとおりとなる。・・・」(233頁下段)
イ 当該表中には、「種類」が「2種35」及び「記号」が「HDZ35」の行において、「付着量g/m^(2)」が「350以上」、「適用例(参考)」が「厚さ1mm以上2mm以下の鋼材・鋼製品、直径12mm以上のボルト・ナット及び厚さ2.3mmを超える座金類」と記載されている。

(11)甲第11号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第11号証には、鋼製束に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0010】
従来の鋼製束におていは、ベース部材51と下方の長軸螺子棒52とが溶接されて一つの構成部材とされ、同様に、天板56と上方の長軸螺子棒54とが溶接されて一つの構成部材とされ、中央のターンバックルパイプ53とにより3つの構成部材から形成されている。
この従来の鋼製束にあっては、その防錆目的のために、溶融亜鉛メッキが施されるのであるが、このメッキにおいては50μ程度の膜厚が要求され、螺子のはめ合い規格基準に加えて、特に雌ネジ側でオーバータップを施しており、これも上記浮き上がりの一つの原因にもなっている。」
イ 「【0014】
他方、ベース部材と長軸螺子棒との構成部材並びに天板と長軸螺子棒との構成部材においても、溶融亜鉛メッキを施す際に、長軸螺子棒の雄ネジ部での目詰まりにより、その機能が失われるので、メッキは最小限に留めなければならず、その結果、ベース部材及び天板のメッキが不十分となり、防錆効果の点で問題が生じることとなる。
本発明では、このようなメッキ効果に問題が生じないようにすることもその課題となるのである。」

(12)甲第12号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第12号証には、ボルトに関して、次の事項が記載されている。
ア 「また、溶射層4の厚さは、上記のごとく10?150μmが適当であり、10gm未満ではナット螺合時に溶射層4が破壊されることがあり、150μmを超えるとコストアップとなるだけでなく、ナット5との螺合に支障を来たすことがあり好ましくない。」(2頁右上欄13?18行)

(13)甲第13号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第13号証には、締結具及びこれを用いた締結方法に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0018】
このアルマイト層の厚さは1?25μmの範囲とすることが好ましい。1μmよりも薄いと耐食性・耐傷性が不十分であり、25μmよりも厚いと締結時に割れや剥離を生じるためである。」

(14)甲第14号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第14号証には、ボルトナットの防食と緩み止め防止方法及びその際に用いるレンチに関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0003】
構造物そのものの防食は上記の熱可塑性ポリエチレンテレフタレート系重合体の粉体塗料を塗布することで良好な防食が得られるのであるが、部材を結合するボルトナットの螺子部は本来のネジ機能を確保するためコーティングの膜厚は100μmを越えることができないため、この部分の防食性に不安が残る。100μm以下の被膜であると完全にピンホールを排除することが困難であり、小さな金属露出面が生じてしまう。この部分から腐食が始まり広がってゆく進行性腐食の問題である。とりわけ塩害が起こりやすい海岸線の鉄道ビーム(架線を支持すために線路両側の電柱間に渡された梁)等で60年の耐候性が求められる場合、ビーム部材を結合するボルトナットのナットから突出したボルトの先端部分のピンホールから進行する腐食や、螺合部分に雨水が浸入してそこでのピンホールから進行する酸化腐食が懸念される。」

(15)甲第15号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第15号証には、マグネシウム合金の線状体及びボルト、ナット並びにワッシャーに関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0026】
コーティングの厚みは、1μm以上20μm未満であることが好ましい。コーティングの厚みが1μm未満では、十分な耐食性を得ることが難しい。一方、コーティングの厚みが20μm以上であっても耐食性に大きな変化がなく、むしろ、コーティングが厚くなることで部品の寸法精度に影響を与える虞がある。」
イ 「【0055】
表4の結果から、コーティングを施したマグネシウム合金ボルトは、塩水腐食環境下で2000時間以上変色が発生せず、コーティングを施していないマグネシウム合金ボルト(コーティングの厚みが0)に比較して、耐食性に優れていることが分かる。ただし、コーティングの厚みが25μmのマグネシウム合金ボルトは、ナットに締め付けることができなかった。これは、コーティングの厚みが増すことで、その分ボルトの寸法(外径)が大きくなり、ボルトをナットに螺合することができなくなったことが原因と考えられる。」

(16)甲第16号証の記載内容
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第16号証には、床パネルの支持脚に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0003】
しかして、上記フリーアクセスフロア(以下フロアという)8を形成するため、床パネル7の四隅を載置する支持脚は、図3に示すように、適当な厚さで所要の面積を有する正方形の鋼板よりなる基板1に外面にねじを有する支持棒2を溶接1aにより垂直に固着して設け、この支持棒2に、床パネル7を載置可能な上面3aを形成した調整台3を螺合して設けたものである。なお9は調整台3を調整位置に固定するためのロックナットである。」


第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、
甲1発明の「支持部本体3として用いる通常市販される金属製のボルト」は、支持部本体3が揚床の支持装置を構成するから、本件発明1の「金属製のフリーアクセスフロア構成部材」に相当する。

そうすると、両者は以下の点で一致する。
(一致点)
「金属製のフリーアクセスフロア構成部材」

また、以下の点で相違している。

(相違点1)
本件発明1は「金属素材により前記フリーアクセスフロア構成部材を加工してネジ切り加工した後に、当該フリーアクセスフロア構成部材に、5?150μmの所定膜厚の溶融亜鉛めっきを施す」のに対し、甲1発明はそのような構成がない点。

(相違点2)
本件発明1は「金属製のフリーアクセスフロア構成部材の製造方法」であるのに対し、甲1発明は、支持部本体3として通常市販されている金属製のボルトそのものである点で相違する。

(2)相違点の判断
ア 相違点1について
[ネジ切り加工した後に、溶融亜鉛めっきを施す点に関して]
(ア)甲第2号証には、ねじ山製品製作方法に関して、「一般的にはボルト等へ耐蝕めっきを施す場合には、ボルトの脚部へねじ山を切削、転造等により形成し、このボルトを溶融亜鉛浴の中へ浸漬して亜鉛めっきを行っている。」と記載されており、甲1発明の金属製のボルトも含めて、ネジ切り加工を施した後に、溶融亜鉛めっきを施す製造方法でねじ山製品を製造することは、一般的なことと(他にも、甲第9号証にも記載され、周知技術とも)いえる。
そして、甲1発明の揚床の支持装置(本件発明1の「フリーアクセスフロア」に相当)の金属製のボルトは「通常市販されている金属製のボルト」であるので、当該ボルトを甲第2号証記載の一般的な、若しくは周知のネジ切り加工を施した後に、溶融亜鉛めっきを施す製造方法で製造したものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(イ)なお、フリーアクセスフロア構成部材に対して、防錆や耐久性向上のために溶融亜鉛めっきを施すことは自体も、周知(例えば、甲第6号証、甲第7号証、甲11号証等参照。)であって、上記(ア)のフリーアクセスフロアが、溶融亜鉛めっきを施すことを意図しないようなものとはいえない。

(ウ)また、甲第1号証には、「揚床上に例えば大型のOA機器などのような重量物を載置すること」(2頁3列10、11行)と記載されており、甲1発明の支持部本体3は、OA機器を備えた環境下で使用することを想定したものと認められるところ、例えば、甲第7号証には、OA機器を備えたフロアの支持脚やボルト類は、鋼材の防錆のために電気亜鉛めっきを施すと、ウイスカの発生によりOA機器にトラブルを生じる問題があり、溶融亜鉛めっきを施すとウイスカ対策に有効であると記載されているように、用途の観点からも、甲1発明の金属製のボルトに対して電気亜鉛めっきを施すことは望ましいことと認識されるものであり、甲1発明のボルトに対しての溶融亜鉛めっきの適用は、望ましいことと認識され、そのような当業者に望ましいと認識される態様を用いることに困難性は認められない。

[5?150μmの所定膜厚に関して]
(エ)溶融亜鉛めっきの膜厚は、防錆という性質上所定以上の厚みを施すことが必要である。一方、ボルトに対しめっきを施すに際しては、ボルトとナットとの螺合に支障をきたすことのないようにめっき膜厚を調整することが必要であることは技術常識である(例えば、甲第2号証、甲第3号証、甲第11?第15号証)。

(オ)そして、金属製のボルトに溶融亜鉛めっきを施すに際して、防錆及び螺合の観点に基づき、防錆に必要な最小限の膜厚と、螺合に支障のない最大限の膜厚の範囲内に調整する必要があると考えることは自然であるので、防錆および螺合性を考慮して「5?150μmの所定膜厚」のような膜厚を採用することは当業者が適宜なし得る設計上の選択事項である。

[まとめ]
(カ)そうすると、上記(ア)の甲1発明の「通常市販されている金属製のボルト」を、甲第2号証記載のネジ切り加工を施した後に、溶融亜鉛めっきを施す製造方法で製造したものとするとともに、ボルトに要求される防錆および螺合性に応じて「5?150μmの所定膜厚」のような膜厚のものを採用して本件発明1の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。

イ 相違点2について
上記アにおいて、甲1発明の「通常市販されている金属製のボルト」を、甲第2号証記載のネジ切り加工を施した後に、溶融亜鉛めっきを施す製造方法で製造したものとすることは、製造に着目すると金属製のボルト(本件発明1の「金属製のフリーアクセスフロア構成部材」に相当)の製造方法ともいえるものである。
そうすると、上記ア(ア)の甲1発明の「通常市販されている金属製のボルト」を、甲第2号証記載のネジ切り加工を施した後に、溶融亜鉛めっきを施す製造方法で製造したものとすることにともない、本件発明1の相違点2に係る構成とすることも当業者が容易になし得ることである。

ウ 被請求人の主張2(1)?(8)についての検討。
被請求人の主張は、要約すると、耐食性と螺合関係の適正化とを両立させる目的で溶融亜鉛めっきの膜厚の上限を特定する記載はなく、膜厚の上限に関する示唆も無いから、溶融亜鉛めっきの膜厚の上限値である150μmに設定することは当業者が容易に想到し得るものではないとの主旨と解される。
しかし、上記ア(エ)に記載のように、耐食性と螺合関係の適正化とを両立させる目的でめっきを施すことは技術常識であり、溶融亜鉛めっきを施すにしても、ボルトとナットとの螺合に支障をきたすことのないようにめっき膜厚の調整が必要であることは自明である。
また、上記ア(オ)に記載したように、螺合に支障をきたさぬように、めっき膜厚の上限値を設定することも自然である。
そうすると、ボルトに溶融亜鉛めっきを施すに際し、防錆のために必要となる膜厚と、螺合に支障のきたさない膜厚の範囲内に溶融亜鉛めっきの膜厚を設定することは、当業者が通常有する創作能力の発揮にすぎず、ボルトの太さやネジ溝の深さ等の螺合性に応じて、溶融亜鉛めっきの膜厚の上限値を設定することは、当業者が適宜設計し得る程度のものといえる。
よって、被請求人の主張は採用できない。

エ 総合判断
本件発明1の作用効果は、甲1発明、甲2号証記載の事項、及び周知事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本件発明1は、甲1発明、甲2号証記載の事項、及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)小括
したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件発明1に係る特許は無効である。

2 本件発明2について
(1)対比
本件発明2と甲1発明を対比すると、
甲1発明の「支持部本体3として用いる通常市販される金属製のボルト」は、支持部本体3が揚床の支持装置を構成するから、本件発明2の「金属製のフリーアクセスフロア構成部材」に相当する。

そして、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含んでおり、本件発明2と甲1発明とは以下の点で一致する。
(一致点)
「金属製のフリーアクセスフロア構成部材」

そして、上記1(2)に記載した相違点1、相違点2、及び次の点で相違している。

(相違点3)
金属製のフリーアクセスフロア構成部材に関し、本件発明2は「請求項1に記載のフリーアクセスフロア構成部材の製造方法により溶融亜鉛めっきが施された」構成であるのに対し、甲1発明は、通常市販されている金属製のボルトであり、そのような特定がない点で相違する。

(2)相違点の判断
ア 相違点1及び相違点2について
相違点1及び相違点2については、上記1(2)ア及びイで検討したとおり、当業者が容易になし得ることである。

イ 相違点3について
上記1(2)で検討したように、請求項1に記載のフリーアクセスフロア構成部材の製造方法は、甲1発明、甲2号証記載の事項、及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
そうすると、相違点3の「請求項1に記載のフリーアクセスフロア構成部材の製造方法により溶融亜鉛めっきが施された」構成となすことも、上記1(2)と同様に甲1発明、甲2号証記載の事項、及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

ウ 小括
したがって、本件発明2は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件発明2に係る特許は無効である。


第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項、及び周知事項に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-17 
結審通知日 2015-08-19 
審決日 2015-09-18 
出願番号 特願2012-289078(P2012-289078)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (E04F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小林 俊久  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 小野 忠悦
住田 秀弘
登録日 2013-08-16 
登録番号 特許第5342062号(P5342062)
発明の名称 フリーアクセスフロア構成部材の製造方法およびフリーアクセスフロア構成部材  
代理人 特許業務法人しんめいセンチュリー  

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