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審決分類 審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1307179
審判番号 不服2014-17037  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-27 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 特願2012-126300「パチンコ遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日出願公開、特開2012-196482〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年11月21日に出願された特願2006-313677号の一部を平成21年6月26日に特願2009-151817号として新たな特許出願として出願され、さらにその一部を平成24年6月1日に新たな特許出願として出願されたものであって、平成25年7月26日に提出された手続補正書に対し、平成25年10月4日付けで最後の拒絶理由通知がなされ、平成25年12月4日に手続補正書が提出されたが、平成26年5月21日付けで補正却下の決定とともに拒絶査定(発送日:平成26年5月27日)がなされ、これに対し、平成26年8月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.平成26年5月21日付けの補正却下の決定の適否について
審判請求人は請求書において、補正却下の決定に不服がある旨の主張をしているので、まず、この点について検討する。

(1)補正の内容について
平成25年7月26日に提出された手続補正書の請求項1の記載及び平成25年12月4日に提出された手続補正書の請求項1の記載はそれぞれ次のとおりである(以下、「補正前」、「補正後」として区別する。なお、補正前の請求項1についての下線は補正箇所を示すものであって、当審が付与したものであり、また、補正後の請求項1についての下線は補正箇所として請求人が付与したものである。)。

(補正前)
【請求項1】
所定の乱数取得条件を充足した場合に取得された乱数に基づき、遊技者に有利な特別遊技の移行抽選を実行し、当否抽選に当選した場合に特別遊技を実行する遊技機であって、特別遊技として第一の特別遊技と小当りとなる第二の特別遊技とが少なくとも存在し、第一の特別遊技に関する当否抽選の確率に関する状態として、予め定められた第一の確率である第一状態と当該第一の確率よりも高い確率である第二状態とが存在する状況下、第一の特別遊技は当該第一の特別遊技の実行前と実行後における当否抽選の確率に関する状態が変わり得る特別遊技であり、第二の特別遊技は当該第二の特別遊技の実行前と実行後における当否抽選の確率に関する状態が変わり得ない特別遊技であり、更に、第一始動口に遊技球が入球したことを契機として第一乱数を取得し、当否抽選を当該第一乱数に基づき実行し得るよう構成されていると共に、第一始動口とは異なる第二始動口に遊技球が入球したことを契機として第二乱数を取得し、当否抽選を当該第二乱数に基づき実行し得るよう構成されていることに加え、第二始動口には開放状態と閉鎖状態を採り得る部材であって開放状態の際は第二始動口に遊技球が入球可能又は閉鎖状態と比較して入球容易であると共に閉鎖状態の際は第二始動口に遊技球が入球不能又は開放状態と比較して入球困難に構成されている可変部材が取り付けられている状況下、当該第一乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率と当該第二乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率とが異なるよう構成されており、且つ、第一の特別遊技と第二の特別遊技とでは期待獲得賞球数が異なるよう構成されていることに加え、第一の特別遊技に関する当否抽選にて当選した場合には、期待獲得賞球数が所定数となる第一の高利益特別遊技及び期待獲得賞球数が当該所定数よりも少ない第一の低利益特別遊技のいずれかが選択され得るよう構成されている状況下、第一の低利益特別遊技は、当該第一乱数に基づく第一の特別遊技に関する当否抽選に当選した場合にのみ選択され、且つ、賞球獲得契機となる可変入賞口における開放態様が、第一の低利益特別遊技と第二の特別遊技とで略同一となることを特徴とするぱちんこ遊技機。

(補正後)
【請求項1】
所定の乱数取得条件を充足した場合に取得された乱数に基づき、遊技者に有利な特別遊技の移行抽選を実行し、当否抽選に当選した場合に特別遊技を実行する遊技機であって、特別遊技として第一の特別遊技と小当りとなる第二の特別遊技とが少なくとも存在し、第一の特別遊技に関する当否抽選の確率に関する状態として、予め定められた第一の確率である第一状態と当該第一の確率よりも高い確率である第二状態とが存在する状況下、第一の特別遊技は当該第一の特別遊技の実行前と実行後における当否抽選の確率に関する状態が変わり得る特別遊技であり、第二の特別遊技は当該第二の特別遊技の実行前と実行後における当否抽選の確率に関する状態が変わり得ない特別遊技であり、更に、第一始動口に遊技球が入球したことを契機として第一乱数を取得し、当否抽選を当該第一乱数に基づき実行し得るよう構成されていると共に、第一始動口とは異なる第二始動口に遊技球が入球したことを契機として第二乱数を取得し、当否抽選を当該第二乱数に基づき実行し得るよう構成されていることに加え、第二始動口には開放状態と閉鎖状態を採り得る部材であって開放状態の際は第二始動口に遊技球が入球可能又は閉鎖状態と比較して入球容易であると共に閉鎖状態の際は第二始動口に遊技球が入球不能又は開放状態と比較して入球困難に構成されている可変部材が取り付けられている状況下、少なくとも当該第一乱数に基づく当否抽選に当選した場合には第二の特別遊技が実行され得るよう構成されており、且つ、第一の特別遊技と第二の特別遊技とでは期待獲得賞球数が異なるよう構成されていることに加え、第一の特別遊技に関する当否抽選にて当選した場合には、期待獲得賞球数が所定数となる第一の高利益特別遊技及び期待獲得賞球数が当該所定数よりも少ない第一の低利益特別遊技のいずれかが選択され得るよう構成されている状況下、第一の低利益特別遊技は、当該第一乱数に基づく第一の特別遊技に関する当否抽選に当選した場合にのみ選択され、且つ、第一始動口と第二始動口とは遊技者が打ち分け可能な位置に配置されていることを特徴とするぱちんこ遊技機。

(2)平成26年5月21日付けの補正却下の決定の概要
原審による平成26年5月21日付けの補正却下の決定の理由は以下のとおりである。なお、理由の中で使用している(1)、(2)については、それぞれA.、B.に置き換えた。

「平成25年12月4日付け手続補正書において請求項1は、
補正前「当該第一乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率と当該第二乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率とが異なるよう構成されており」と特定されていた事項が、「少なくとも当該第一乱数に基づく当否抽選に当選した場合には第二の特別遊技が実行され得るよう構成されており」と補正され(以下「補正事項1」という。)、補正前「賞球獲得契機となる可変入賞口における開放態様が、第一の低利益特別遊技と第二の特別遊技とで略同一となる」と特定されていた事項が、「第一始動口と第二始動口とは遊技者が打ち分け可能な位置に配置されている」と補正されることとなった(以下「補正事項2」と
いう。)。
ここでそれぞれの補正事項について検討する。
A.補正事項1について
補正前は「第一乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率」と「第二乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率」とが異なることが特定されていたものの、補正後は、単に「少なくとも当該第一乱数に基づく当否抽選に当選した場合には第二の特別遊技が実行され得る」と特定されるに留まっているのであるから、少なくとも「第一乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率」と「第二乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率」とが同じものも包含することとなっており範囲が拡張しており、限定的減縮には該当しないし、明りょうでない記載の釈明、誤記の訂正、請求項の削除に該当しないことも明らかである。
B.補正事項2について
「賞球獲得契機となる可変入賞口における開放態様が、第一の低利益特別遊技と第二の特別遊技とで略同一となる」との特定事項を削除し「第一始動口と第二始動口とは遊技者が打ち分け可能な位置に配置されている」との特定事項を追加することは、限定的減縮には該当しないし、明りょうでない記載の釈明、誤記の訂正、請求項の削除に該当しないことも明らかである。
したがって、この補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
よって、この補正は同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により上記結論のとおり決定する。」

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書第3?5頁において以下の主張をしている。

「(3-1-2)補正事項1、補正事項2として認定された補正事項に基づく根拠について
はじめに、平成26年5月27日付け発送の補正の却下の決定において、<補正事項1>及び<補正事項2>として特定された補正事項が、共に補正の却下の対象となっているが、今回の審査では、夫々の補正事項についての経緯を鑑みることなく、上記<理由>(17条の2第5項違反)を必要以上に形式的に適用されたと考えられる。以下、この点について詳述する。
まず、<補正事項1>に関しては、親出願{特願2009-151817(特許第5137260号)}の最後の拒絶理由時において、『小当りについても第一の始動口と第二の始動口においてその発生確率を異ならせることは、当業者の通常の創作能力を発揮してなし得ることといえ、効果についても予測の範囲内である』として認定された事項(特別な技術的特徴ではないと認定された事項)に対して行った補正であり、この補正を加えたとしても権利範囲は実質的に同一である(親出願が特許査定となった決め手となる「第一の特別遊技に関する当否抽選にて当選した場合には、期待獲得賞球数が所定数となる第一の高利益特別遊技及び期待獲得賞球数が当該所定数よりも少ない第一の低利益特別遊技のいずれかが選択され得るよう構成されている状況下、第一の低利益特別遊技は、当該第一乱数に基づく第一の特別遊技に関する当否抽選に当選した場合にのみ選択され」との構成に関与しない)と理解できることから、この<補正事項1>に関しては、上記<理由>(17条の2第5項違反)を必要以上に形式的に適用すべきでない補正事項であるといえる点において、不当な審査が行われたといえるものと思料する。
次に、<補正事項2>に関しては、まず、本願の最後の拒絶理由時において、「賞球獲得契機となる可変入賞口における開放態様が、第一の低利益特別遊技と第二の特別遊技とで略同一となる」との事項は周知技術であり、『当該周知技術を本願の請求項1に係る発明から削除すること、出願1の請求項1に係る発明に付加すること、によって新たな効果は奏さない』(出願1は親出願である)と認定された事項(特別な技術的特徴ではないと認定された事項)を削除している。即ち、この事項を削除したとしても権利範囲は実質的に同一であるとのご認定に基づき削除したものである。
その上で、「第一始動口と第二始動口とは遊技者が打ち分け可能な位置に配置されている」との発明特定事項を付し、親出願が特許査定となった決め手となる「第一の特別遊技に関する当否抽選にて当選した場合には、期待獲得賞球数が所定数となる第一の高利益特別遊技及び期待獲得賞球数が当該所定数よりも少ない第一の低利益特別遊技のいずれかが選択され得るよう構成されている状況下、第一の低利益特別遊技は、当該第一乱数に基づく第一の特別遊技に関する当否抽選に当選した場合にのみ選択され」との構成に関与する事項によって、権利範囲が限定的に減縮されている。
即ち、この<補正事項2>に関しては、上記した二つの補正事項を纏めて、実質的には権利範囲が限定的に減縮されているものであり、これまでに行われた審査結果を有効に活用して審査を迅速に行うことができる場合に相当するものであると考えられ、この<補正事項2>に関しても、上記<理由>(17条の2第5項違反)を必要以上に形式的に適用すべきでない補正事項であるといえる点において、不当な審査が行われたといえるものと思料する。」

(4)当審の判断
A.補正事項1について
請求人は、前記のとおり、「『小当りについても第一の始動口と第二の始動口においてその発生確率を異ならせることは、当業者の通常の創作能力を発揮してなし得ることといえ、効果についても予測の範囲内である』として認定された事項(特別な技術的特徴ではないと認定された事項)に対して行った補正であり、この補正を加えたとしても権利範囲は実質的に同一である」旨の主張をしており、主張の意図と補正内容を整理すると、補正前の「第一乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率と当該第二乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率とが異なる」という発明特定事項を削除しても請求項1の権利範囲は実質的に同一であるということである。
しかしながら、前記発明特定事項を削除するとともに、「少なくとも当該第一乱数に基づく当否抽選に当選した場合には第二の特別遊技が実行され得る」という発明特定事項を加えた補正後の請求項1に係る発明は「第一乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率」と「当該第二乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率」とが同じものも含むものとなり、しかも、第二乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選が行われるか否か不明となり、したがって、特許請求の範囲の拡張になり、当該補正は特許請求の範囲の減縮には該当しない。また、当該補正が明りょうでない記載の釈明、誤記の訂正、請求項の削除に該当しないことも明らかである。
なお、「少なくとも当該第一乱数に基づく当否抽選に当選した場合には第二の特別遊技が実行され得る」という構成を加えたことについて、そもそも、補正前に「第一乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率と当該第二乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率とが異なる」とされていたように、当否抽選の確率がゼロの場合を含まない限り第一乱数、第二乱数に基づいて第二の特別遊技の実行はされ得るものであるから、当該補正は特許請求の範囲の減縮には該当しない。

B.補正事項2について
請求人は、前記のとおり、「賞球獲得契機となる可変入賞口における開放態様が、第一の低利益特別遊技と第二の特別遊技とで略同一となる」との事項は周知技術であり、この事項を削除したとしても権利範囲は実質的に同一であり、「第一始動口と第二始動口とは遊技者が打ち分け可能な位置に配置されている」との発明特定事項により権利範囲が限定的に減縮されている。」旨の主張をしている。
確かに、「第一始動口と第二始動口とは遊技者が打ち分け可能な位置に配置されている」との発明特定事項は請求項1の発明特定事項を限定したといえる。しかし、「賞球獲得契機となる可変入賞口における開放態様が、第一の低利益特別遊技と第二の特別遊技とで略同一となる」という発明特定事項を削除することは、補正後の請求項1に係る発明は「賞球獲得契機となる可変入賞口における開放態様が、第一の低利益特別遊技と第二の特別遊技」とが略同一でないものも含むものとなるから、当該補正は特許請求の範囲の拡張になることは明らかである。
したがって、補正事項2は、特許請求の範囲の減縮には該当しないし、明りょうでない記載の釈明、誤記の訂正、請求項の削除に該当しないことも明らかである。

C.まとめ
したがって、この補正は、特許法第17条の2第4項(平成19年4月1日以降の出願については特許法第17条の2第5項であるが、本願は遡及出願であるので、適用条文は変更した。)の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
よって、この補正は同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により上記のとおり決定するべきものであって、原審の補正却下の決定に誤りはない。

D.付言
審判請求人は、原審の審査手続き等においても審判請求書において主張しているので、これらについても検討する。

(a)既になされた審査結果の有効活用
審判請求人は、請求書の第2、3頁において以下の主張をしている。
「本願は、既に特許査定となっている親出願{特願2009-151817(特許第5137260号)}の構成を維持して更なる構成を加えるための補正を行い、新たな発明とするための分割出願となっている。即ち、審査上は、この親出願において既になされた審査結果を有効に活用して迅速な権利付与が可能となる出願である。このような出願に対して、上記<理由>(17条の2第5項違反)を必要以上に形式的に適用することは、審査基準上(第9部 審査の進め方 6.2.1却下の対象となる補正(3)目的外の補正に係る留意事項)の記載に反すると認められるところ、今回の審査では、この審査基準上の記載が勘案されていないと考えられる点において、不当な審査が行われたといえるものと思料する。」

しかし、審査基準上(第9部 審査の進め方 6.2.1却下の対象となる補正(3)目的外の補正に係る留意事項)の記載における「既になされた審査結果を有効に活用して」というのは、本件出願の既になされた審査結果を有効に活用することであって、分割等他の関連出願のことを意図しているものではない。
そして、当該審査基準の考え方は迅速な権利付与及び出願間の公平の確保の観点に基づいたものであり、目的外補正についての検討を無視、軽視しても良いことを許容しているわけではない。したがって、上記「既になされた審査結果を有効に活用して」というのは、目的外補正か否かの判断は微妙であるが、他の引用発明と比べ本願発明は明らかに特許性があることが明確な場合に前記基準の留意事項を考慮すべきであり、請求人のいう「不当な審査」が行われたということはできない。

(b)上申書について
審判請求人は、請求書の第3頁において以下の主張をしている。
「また、本願の出願時において(平成24年6月1日付けで)上申書を提出しており、近日中に補正を予定している旨(特許査定となっている親出願の構成を維持して更なる構成を加えるための補正である)を陳情申し上げていたところ、この補正が行われるよりも前に審査が開始され拒絶理由が通知されている。即ち、本願出願人にとっては、上記<理由>に縛られない補正の機会が1回失われている点において不利となっており、この観点からも、平成25年12月4日付け提出の手続補正書でした特許請求の範囲に係る補正に対して、上記<理由>(17条の2第5項違反)を必要以上に形式的に適用することは、本願出願人にとって酷であるといえる。」

請求人は審査請求とともに上申書を平成24年6月1日に提出している。上申書には確かに近日中に補正を予定している旨が記載されているが、その後約1年間、補正書は提出されず、上申書提出から約1年後の平成25年5月28日に拒絶理由通知は発送され、その後、補正書は平成25年7月26日に提出されている。結局、上申書から1年経過し、そして拒絶理由通知を契機に補正書は提出されたことになる。
ところで、審査請求から、最初の拒絶理由通知等の発送までの期間をFA期間と呼び、当時FA期間が11ヶ月前後であることは、知財関係者(当業者)であれば広く知られているところである。したっがって、審査請求から約12ヶ月後に拒絶理由通知を発送したことが、早すぎて請求人に補正の機会を与えなかったことにつながるということはできず、むしろ、「近日中に補正を予定している」旨の記載をしながら、その後の約1年間補正書の提出がなかったこと自体、不自然な対応といわざるを得ない。
よって、請求人の主張には合理的理由は見当たらない。

3.本願発明
平成25年12月4日に提出された手続補正書による手続補正は却下すべきものであるので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は平成25年7月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は前記2.(1)で前述した次のとおりのものである。

「【請求項1】
所定の乱数取得条件を充足した場合に取得された乱数に基づき、遊技者に有利な特別遊技の移行抽選を実行し、当否抽選に当選した場合に特別遊技を実行する遊技機であって、特別遊技として第一の特別遊技と小当りとなる第二の特別遊技とが少なくとも存在し、第一の特別遊技に関する当否抽選の確率に関する状態として、予め定められた第一の確率である第一状態と当該第一の確率よりも高い確率である第二状態とが存在する状況下、第一の特別遊技は当該第一の特別遊技の実行前と実行後における当否抽選の確率に関する状態が変わり得る特別遊技であり、第二の特別遊技は当該第二の特別遊技の実行前と実行後における当否抽選の確率に関する状態が変わり得ない特別遊技であり、更に、第一始動口に遊技球が入球したことを契機として第一乱数を取得し、当否抽選を当該第一乱数に基づき実行し得るよう構成されていると共に、第一始動口とは異なる第二始動口に遊技球が入球したことを契機として第二乱数を取得し、当否抽選を当該第二乱数に基づき実行し得るよう構成されていることに加え、第二始動口には開放状態と閉鎖状態を採り得る部材であって開放状態の際は第二始動口に遊技球が入球可能又は閉鎖状態と比較して入球容易であると共に閉鎖状態の際は第二始動口に遊技球が入球不能又は開放状態と比較して入球困難に構成されている可変部材が取り付けられている状況下、当該第一乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率と当該第二乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率とが異なるよう構成されており、且つ、第一の特別遊技と第二の特別遊技とでは期待獲得賞球数が異なるよう構成されていることに加え、第一の特別遊技に関する当否抽選にて当選した場合には、期待獲得賞球数が所定数となる第一の高利益特別遊技及び期待獲得賞球数が当該所定数よりも少ない第一の低利益特別遊技のいずれかが選択され得るよう構成されている状況下、第一の低利益特別遊技は、当該第一乱数に基づく第一の特別遊技に関する当否抽選に当選した場合にのみ選択され、且つ、賞球獲得契機となる可変入賞口における開放態様が、第一の低利益特別遊技と第二の特別遊技とで略同一となることを特徴とするぱちんこ遊技機。」

4.原出願の発明
原査定の拒絶の理由で引用した本願の原出願に係る特願2009-151817号(特許第5137260号公報)の請求項1に係る発明(以下、「原出願発明」という。)は、その掲載公報の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
所定の乱数取得条件を充足した場合に取得された乱数に基づき、遊技者に有利な特別遊技の移行抽選を実行し、当否抽選に当選した場合に特別遊技を実行する遊技機であって、特別遊技として第一の特別遊技と小当りとなる第二の特別遊技とが少なくとも存在し、第一の特別遊技に関する当否抽選の確率に関する状態として、予め定められた第一の確率である第一状態と当該第一の確率よりも高い確率である第二状態とが存在する状況下、第一の特別遊技は当該第一の特別遊技の実行前と実行後における当否抽選の確率に関する状態が変わり得る特別遊技であり、第二の特別遊技は当該第二の特別遊技の実行前と実行後における当否抽選の確率に関する状態が変わり得ない特別遊技であり、更に、第一始動口に遊技球が入球したことを契機として第一乱数を取得し、当否抽選を当該第一乱数に基づき実行し得るよう構成されていると共に、第一始動口とは異なる第二始動口に遊技球が入球したことを契機として第二乱数を取得し、当否抽選を当該第二乱数に基づき実行し得るよう構成されていることに加え、第二始動口には開放状態と閉鎖状態を採り得る部材であって開放状態の際は第二始動口に遊技球が入球可能又は閉鎖状態と比較して入球容易であると共に閉鎖状態の際は第二始動口に遊技球が入球不能又は開放状態と比較して入球困難に構成されている可変部材が取り付けられている状況下、当該第一乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率と当該第二乱数に基づく第二の特別遊技に関する当否抽選の確率とが異なるよう構成されており、且つ、第一の特別遊技と第二の特別遊技とでは期待獲得賞球数が異なるよう構成されていることに加え、第一の特別遊技に関する当否抽選にて当選した場合には、期待獲得賞球数が所定数となる第一の高利益特別遊技及び期待獲得賞球数が当該所定数よりも少ない第一の低利益特別遊技のいずれかが選択され得るよう構成されている状況下、第一の低利益特別遊技は、当該第一乱数に基づく第一の特別遊技に関する当否抽選に当選した場合にのみ選択されることを特徴とするぱちんこ遊技機。」

5.対比・判断
本願発明と原出願発明を対比すると、本願発明は、「且つ、賞球獲得契機となる可変入賞口における開放態様が、第一の低利益特別遊技と第二の特別遊技とで略同一となる」という発明特定事項を備えているが、原出願発明は、そのような発明特定事項を備えていない点で一応相違し、残余の点で一致する。

上記相違点について検討する。本願明細書によれば、「第一の低利益特別遊技」に相当する2ラウンド当たりの場合には、0.5秒の開放が2回(ラウンド)繰り返されること(例えば、【0080】)が記載されている。一方、「小当りとなる第二の特別遊技」が、このような短期間の開放と類似した開放となるようにし、「第一の低利益特別遊技」と「小当りとなる第二の特別遊技」を見分けにくくすることは本願の遡及日前に周知のことである。そして、このことは請求人も、平成25年7月26日提出の意見書で述べているとおりである。そうすると、「且つ、賞球獲得契機となる可変入賞口における開放態様が、第一の低利益特別遊技と第二の特別遊技とで略同一となる」という発明特定事項を本願発明から削除すること、あるいは、原出願発明に付加することによって技術的意義は変わることがなく、前記相違点は実質的な相違点とはいえない。
以上のとおりであるから、本願発明と原出願発明とは、どちらの発明に注目しても他の発明と実質的に同一であるといえるから、同日出願の両発明は互いに実質的に同一である。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は原出願発明と同一であり、かつ、原出願発明は既に特許されており協議を行うことはできないから、本願発明は特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-25 
結審通知日 2015-09-01 
審決日 2015-09-14 
出願番号 特願2012-126300(P2012-126300)
審決分類 P 1 8・ 4- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 真治  
特許庁審判長 長崎 洋一
特許庁審判官 関 博文
本郷 徹
発明の名称 パチンコ遊技機  
代理人 伊藤 温  

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