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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1307201
審判番号 不服2014-24769  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-04 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 特願2011-519413「電極基体」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月29日国際公開、WO2010/150351〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年6月23日を国際出願日とする出願であって、平成25年3月25日付けで拒絶理由が通知され、同年5月30日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに同年12月10日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月17日付けで意見書が提出されたが、同年9月1日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年12月4日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、平成25年5月30日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
ガラス基板と、
前記ガラス基板の表面上に接合され、第1の材料より構成される第1の電極部と、
前記第1電極部と電気的に接続され、第2の材料より構成され、外部への信号の取り出し及び外部からの信号と取り入れのうち、少なくとも一方の外部信号伝達機能を有する第2の電極部とを備え、
前記第1の材料は前記第2の材料に比べ、前記ガラス基板の表面における超音波接合方法による接合特性が優れることを特徴する、
電極基体。
【請求項2】
請求項1記載の電極基体であって、
前記第2の材料は前記第1の材料に比べ導電性が優れた特性を有することを特徴とする、
電極基体。
【請求項3】
請求項2記載の電極基体であって、
前記第1の材料はアルミ材を含み、
前記第2の材料は銅材を含む、
電極基体。
【請求項4】
請求項1記載の電極基体であって、
前記第2の材料は前記第1の材料に比べ剛性が高い特性を有することを特徴とする、
電極基体。
【請求項5】
請求項4記載の電極基体であって、
前記第1の材料は軟質アルミ材を含み、
前記第2の材料は硬質アルミ材を含む、
電極基体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうち、いずれか1項に記載の電極基体であって、
前記第2の電極部は前記第1の電極部の一部上に接合される、
電極基体。
【請求項7】
請求項4あるいは請求項5記載の電極基体であって、
前記第1及び第2の電極部は互いに一体形成される、
電極基体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のうち、いずれか1項に記載の電極基体であって、
前記ガラス基板は板厚が2mm以下のガラス基板を含む、
電極基体。」
(以下、本願発明1ないし本願発明8を総称して、「本願発明」という。)

第3 原審の拒絶の理由の概要
1 この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1に記載された「前記第1の材料は前記第2の材料に比べ、前記ガラス基板の表面における超音波接合方法による接合特性が優れる」という事項は不明確である。
上記では「接合特性」という用語が用いられているものの、この用語がどのような特性を意味するものであるのか(接合後の接着強度を示しているのか、接合に要する時間の短さ(接合の容易性)を示しているのか、それとも他のことを意味しているのか)が不明であるため、本願発明を明確に把握することができない。請求項1を引用する請求項2?8についても同様である。
よって、本願発明は明確でない。

2 この出願は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

本願発明は、「前記第1の材料は前記第2の材料に比べ、前記ガラス基板の表面における超音波接合方法による接合特性が優れる」(請求項1)という事項を備えたものであって、発明の詳細な説明の段落【0033】、【0045】、【0057】には、前記発明特定事項に関する効果として、リード線をガラス基板の表面上に精度良く形成することができる、と記載されている。
そして、上記【理由1】に示すとおり、本願発明の「接合特性」とはどのような特性を意味するものであるのかは不明であるが、仮に、接合に要する時間の短さ(接合の容易性)に関する特性を意味するものであるならば、第1の材料のガラス基板の表面における超音波接合方法による接合特性が優れることによって、発明の詳細な説明に記載された、リード線をガラス基板の表面上に精度良く形成することができる、という効果を期待することができる。
しかしながら、上記効果は、第1の材料とガラス基板の表面における接合特性が絶対的に優れることでもたらされるものであって、第2の材料との相対的な比較によってもたらされるものではないということは、当業者にとって明らかである(例えば、ガラス基板の表面における接合特性が、第2の材料では極めて悪く、第1の材料は第2の材料よりも良くとも依然として悪い場合は、上記効果を奏し得ない)から、本願発明は、発明の詳細な説明の段落【0033】、【0045】、【0057】に記載された上記効果を奏するものではない。
そして、本願の発明の詳細な説明の記載から、当業者が上記発明特定事項の技術上の意義を理解することはできない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、本願発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。

第4 当審の判断
1 特許法第36条第6項第2号について
(1)特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るから、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)請求項1に記載された「特性」とは、「特殊な性質。他と異なった性質。」であるから(広辞苑、昭和33年7月15日第一版第五刷発行、「特性」の項)、接合「特性」とは、特段の理由がない限り、接合に関する「特殊な性質。他と異なった性質。」という広汎な意味を有する用語と解することが自然である。そして、願書に添付した明細書及び図面には、ガラス基板の表面における超音波接合方法による接合「特性」について、定義、説明及び実施例の記載が一切なく、上記自然な意味以外に解釈すべき特段の理由がないから、請求項1に記載にされたとおりの、上記広汎な意味を有する用語と解するのが相当である。
また、当業者の出願当時における技術常識について検討してみるに、願書に添付した明細書に、先行特許文献として記載された特開2005-254323号公報によれば、超音波接合とは、超音波振動するアルミニウム系材と鋼材との間に摩擦力により発熱が生じることにより接合界面にて原子の移動が促進され、Fe原子のアルミニウム系材への拡散が生じ、鋼材とアルミニウム系材との接合界面にて、アルミニウム系材と鋼材とが固相接合される異種金属間の接合であると理解できる。そうすると、異種金属間の固相接合であれば、「剥離接合強度」のような接合「特性」が得られることが当業者の出願当時における技術常識であるとも考えられる(特開2005-254323号公報の【0001】、【0019】及び【0028】)。
もっとも、当該「剥離接合強度」は、異種金属間の固相接合を前提としているところ、本願発明では、異種金属間の固相接合を前提としていない。すなわち、本願発明では、ガラス基板と第1の材料(金属)の超音波接合(つまり、ガラスと金属の超音波接合)が前提となっているから、本願発明の接合「特性」が「剥離接合強度」そのものだと解することは合理的ではない。
また、接合「特性」と言ってみても、接合後の剥離強度、接合に要する時間の短さ(接合の容易性、生産性の向上)(特開2005-252138号公報の【0012】及び【0039】)、超音波接合のチップの先端形状を適切なものとすることによる接合の安定性(特開2005-254323号公報の【0025】)、接合温度(特開2000-74887号公報の【請求項5】、特開平11-201949号公報の【0001】及び【0038】)等があり、広汎に渡っているから、結局、接合「特性」がどのような特性か第三者が予測することが出来るとはいえない。
してみれば、接合「特性」という用語をもって、当業者が出願当時における技術常識に基づき如何なる特性かを理解できるとはいえない。
なお、請求人は、「請求項1記載の『ガラス基板の表面における超音波接合方法による接合特性が優れる』ことは、『超音波接合方法によってガラス基板の表面上への直接接合がより行い易い性質を有している』ことを意味している」と主張するが(審判請求書第3頁)、接合「特性」を単に「接合がより行い易い性質」と一般的な日本語に言い換えたにとどまり、「より行い易い性質」の内実が明らかにされていないから採用できない。
したがって、単に接合「特性」と特定するだけでは、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすといえる。
よって、本願発明は明確でない。

2 特許法第36条第4項第1号について
(1)「経済産業省令で定めるところにより・・・記載したものであること。」との要件(以下、「委任省令要件」という。)は、出願時の技術水準に照らして当該発明がどのような技術上の意義を有するかを理解できるように記載すること、すなわち、どのような技術分野において、どのような未解決の課題があり、それをどのように解決したかを発明の詳細な説明中に記載することと解される。
その趣旨は、当業者が当該発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載すること(以下、「実施可能要件」という。)を実質的に確保することにある。
ところで、物の発明における発明の実施とは、その物を作ることができ、その物を使用することができることをいうから(特許法第2条第3項第1号)、発明の詳細な説明にはその物を作ることができ、その物を使用することができるような記載が必要であり、そのような記載がない場合は、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を作ることができ、その物を使用することができることが、実施可能要件を満たすために必要であると解される。
そうすると、委任省令要件を充足するためには、実施可能要件を実質的に確保すべく、どのような技術分野において、どのような未解決の課題があり、それをどのように解決したかを発明の詳細な説明中に記載することにより、その物を作ることができ、その物を使用することができるような記載になっていることが必要であり、その物を作ることができ、その物を使用することができるような記載がない場合は、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を作ることができ、その物を使用することができるような記載になっていることが必要であると解される。

(2)本件では、「超音波接合法によってガラス基板等の基体の表面上に電極が接合された構造を有する電極基体」(段落【0001】)という技術分野において、超音波接合による接合特性が良好で、かつ良好な外部信号伝達機能が発揮できる電極を薄膜基体の表面に有する電極基体を提供するとの未解決の課題があり(段落【0006】及び段落【0007】)、それを「ガラス基板と、ガラス基板の表面上に接合され、第1の材料より構成される第1の電極部と、前記第1電極部と電気的に接続され、第2の材料より構成され、外部への信号の取り出し及び外部からの信号と取り入れのうち、少なくとも一方の外部信号伝達機能を有する第2の電極部とを備え、前記第1の材料は前記第2の材料に比べ、前記ガラス基板の表面における超音波接合方法による接合特性が優れること」(段落【0008】)により解決したことが発明の詳細な説明中に記載されている。
しかし、上記「第4」の「1」で説示したとおり、接合「特性」が良好とは如何なる課題であるか明らかでないから、ガラス基板の表面における超音波接合方法による接合「特性」が優れる電極基体を提供するという課題解決手段もまた明らかでない。そうすると、課題が明らかでないから、当該課題を解決した電極基体を作ることができ、電極基体を使用することができるような記載になっていないし、上記「第4」の「1」で説示したとおり、接合「特性」は、出願当時の技術常識であるともいえないから、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づいたとしても当業者がその物を作ることができ、その物を使用することができるとはいえない。
したがって、委任省令要件を満たしていないし、委任省令要件を満たしていないことにより、実施可能要件も実質的に満たしていない。
よって、発明の詳細な説明は、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

第5 むすび
以上のとおり、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-18 
結審通知日 2015-08-25 
審決日 2015-09-07 
出願番号 特願2011-519413(P2011-519413)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H05K)
P 1 8・ 537- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯星 潤耶  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 大内 俊彦
小柳 健悟
発明の名称 電極基体  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 有田 貴弘  

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