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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M
管理番号 1307339
審判番号 不服2014-13772  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-15 
確定日 2015-11-04 
事件の表示 特願2009-232628「通信端末」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日出願公開、特開2011- 82754〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成21年10月6日の出願であって,平成25年8月21日付けで拒絶理由が通知され,同年9月19日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,平成26年5月30日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付で手続補正がなされたものである。



第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年7月15日付けの手続補正を却下する。


[理由]
1.本願発明と補正後の発明
平成26年7月15日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成25年9月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項9に記載された,

「 【請求項9】
通信端末が通信セル内に存在することを示す通知を受信する通知受信手段と,
前記通知受信手段が通知を受信しない場合は,前記通信端末は通信圏外にあると判断し,前記通信圏外の通信端末へ他の通信端末から着信があった旨の履歴を記憶する履歴手段と,
前記通知受信手段が通知を受信した場合は,前記通信端末は通信圏内にあると判断し,前記通信圏内の通信端末へ前記履歴手段で記憶した履歴を送信した後に,前記理由受信手段で受信した情報以外の履歴を消去する消去手段と,を備えることを特徴とする基地局。」

という発明(以下,「本願発明」という。)を,本件補正の手続補正書の特許請求の範囲の請求項8に記載された,

「 【請求項8】
通信端末が通信セル内に存在することを示す通知を受信する通知受信手段と,
前記通知受信手段が通知を受信しない場合は,前記通信端末は通信圏外にあると判断し,前記通信圏外の通信端末へ他の通信端末から着信があった旨の履歴を記憶する履歴手段と,
不通の理由を送信する対象となる,予め限定された他の通信端末の情報を受信する理由受信手段と,
前記通知受信手段が通知を受信した場合は,前記通信端末は通信圏内にあると判断し,前記通信圏内の通信端末へ前記履歴手段で記憶した履歴を送信した後に,前記理由受信手段で受信した情報以外の履歴を消去する消去手段と,を備えることを特徴とする基地局。」(下線は,請求人が手続補正書において補正箇所を示すものとして付加したものを援用したものである。)

という発明(以下,「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。


2.補正の適否
(1)新規事項・シフト補正の有無について
上記補正の内容は,「基地局」の構成要素として「不通の理由を送信する対象となる,予め限定された他の通信端末の情報を受信する理由受信手段」を付加するものである。
そこで,願書に最初に添付された明細書をみると,【0026】段落に「理由受信手段25-1は,不通の理由を送信する対象となる他の通信端末の情報を受信する。不通の理由を送信する対象となる他の通信端末を限定することで,個人情報の漏洩を防ぐことができる。」と記載されていることからみて,上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされた補正であるから,特許法第17条の2第3項(新規事項)の規定に適合し,また,同法第17条の2第4項(シフト補正)の規定に適合することも明らかである。

(2)補正の目的について
上記補正は,上記(1)で検討したように,「基地局」の構成要素として新たに「理由受信手段」を付加するものであるから,構成の外的付加に該当し,本件補正前の請求項9の構成の一部を限定的に減縮しているものということはできないし,また,請求項の削除,誤記の訂正,及び明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。
したがって,上記補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)独立特許要件について
前記「(2)補正の目的について」において判断したように,上記補正はいわゆる目的外の補正を含むものであり,特許法の規定に違反するものであるが,仮に上記補正が,請求人が審判請求書において主張するように,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,適法な補正であるとした場合についても検討する。
上記補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとして,補正後の発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて,以下に検討する。

[補正後の発明]
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項において,「補正後の発明」として認定したとおりである。

[引用発明]
原査定の拒絶理由に引用された文献であり,本願出願日前に公開された特開平8-23577号公報(以下,「引用例1」という。)には,「自動車電話システム」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

「【0019】
【実施例】本発明の実施例を以下に詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施例の構成を示すブロック図である。ここでは,自動車電話システムを例として説明する。1は移動通信交換機,2は基地局,3は記録手段,4は位置登録検出手段,5は記録情報検索手段,6aは第1の発呼手段,7は移動局,8は移動局に備えられた表示部である。
【0020】第1の実施例の動作を図4のフローチャートを用いて説明する。A1において発信者は,公衆電話網より移動通信交換機1,基地局2を介して移動局7に対して呼び出しを行う。A2においては,移動局7が着信可能かどうかの判断を行う。着信可能の場合は,移動局7は,基地局2,移動通信交換機1を介し,公衆電話網に接続され,A4に示すように通話して終了A10となる。ここで,A2の判断において,移動局7が圏外にいるか,電源が入っていない状態などで,着信不能である場合は,A3に示すように,移動通信交換機1は,着信不能である旨のメッセージを発信者に対し通知を行う。その後,発信者に対し,A5に示すように,移動局7に対して送るメッセージを登録するかどうかの判断を行う。ここで,発信者がメッセージ登録を行わない場合はそのまま終了A10となる。A5の判断において,発信者が移動局7に対してメッセージの登録を行うとした場合は,発信者は移動通信交換機1に接続されている記録手段3に対し,メッセージ登録を行う。このとき,記録手段3は,移動局7の呼び出し番号も同時に記録する。その後,発信者は回線を切断する。位置登録検出手段4は,A7に示すように移動局7からの位置登録があるか無いかの判断を行う。A7の判断において,移動局7からの位置登録が検出された場合は,A8に示すように記録情報検索手段5において,位置登録を行った移動局の呼び出し番号と,記録手段3に記録されている移動局の呼び出し番号とを比較することで,移動局7に対応するメッセージを検索する。記録情報検索手段5においてメッセージが検出された場合は,A9に示すように,第1の発呼手段6aにおいて,移動局7を呼び出し,その後,記録手段3に登録されているメッセージを送出して終了A10となる。これにより,移動局7の着信者は,着信可能になると,直ちに着信不能状態に電話があったことを認識することができ,発信者のメッセージを受け取る,あるいは発信者に折り返し電話をすることが可能となる。ここで記録手段3に記録されるメッセージの形態は,音声情報でも良いし,移動局7に備えられた表示部8に発信者の電話番号を含む文字で表示できる文字情報であっても良い。」(4頁5?6欄,下線は当審で付加した。)

上記摘記事項の記載及び図1,図4並びにこの分野における技術常識を考慮すると,

a.上記摘記事項の記載によれば,A7(移動局位置登録あり)において,メッセージの送出にあたり位置登録検出手段4が移動局7からの位置登録があるか無いかの判断を行っているから,引用例1に記載されたものは,位置登録検出手段4が移動局7からの位置登録を受信しているということができる。
そして,当該位置登録の有無によりメッセージを送出するか否かを決めていることからみて,位置登録は移動局7が着信可能になると「位置登録検出手段4」に登録されるものであり,いわゆる移動体通信システムにおけるホームロケーションレジスタに登録される位置情報にあたることは当業者にとって明らかである。そして,位置登録があれば移動局7は通信セル内に存在することは明らかであるから,引用例1記載のものは,移動局7が通信セル内に存在することを示す位置登録を受信する位置登録検出手段4を有しているといえる。

b.ところで,発信者からの発呼があった際の動作であるA2(着信可能)においては,移動局7が着信可能となっているか否かの判断が行われるが,これが何に基づいて行われるかは明記されていない。しかしながら,上記a.で述べたように,位置登録検出手段4は移動局7から受信した位置登録の有無を判断しており,これから移動局7の着信可能の可否が判断できること,そして,他に着信可能の可否を判断する情報を有していないことから,A2においても,位置登録検出手段4が位置登録を受信したか否かに基づいて,移動局7の着信可能の可否が判断されると考えるのが自然である。
そうすると,上記摘記事項によれば,発信者が発呼した際,移動局7が着信不能である場合は,移動通信交換機1が着信不能である旨のメッセージを発信者に対して通知していることから,引用例1のものは位置登録検出手段4が位置登録を受信しない場合は,発信者に対して着信不能である旨のメッセージを通知する移動通信交換機1を有しているということができる。
さらに,上記摘記事項によれば,その後,発信者は記録手段3に対してメッセージ登録を行っている。すなわち,位置登録検出手段4が位置登録を受信しない場合は,移動局7への発信者からのメッセージを登録する記録手段3を有しているということができる。

c.上記摘記事項によれば,位置登録検出手段4が移動局7からの位置登録を検出した場合は,第1の発呼手段6aにおいて移動局7を呼び出し,記録手段3に登録されているメッセージを送出している。

したがって,摘記した引用例1の記載及び図面を総合すると,引用例1には以下のような発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明)
「 移動局7が通信セル内に存在することを示す位置登録を受信する位置登録検出手段4と,
前記位置登録検出手段4が位置登録を受信しない場合は,発信者に対して着信不能である旨のメッセージを通知する移動通信交換機1と,
前記位置登録検出手段4が位置登録を受信しない場合は,前記移動局7への前記発信者からのメッセージを登録する記録手段3と,
前記位置登録検出手段4が前記移動局7からの位置登録を検出した場合は,前記移動局7へ前記記録手段3に登録されているメッセージを送出する第1の発呼手段6aと,
を有している自動車電話システム。」


[技術事項]
また,原査定の拒絶理由に引用された文献であり,本願出願日前に公開された特開2004-32696号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の着信情報格納通知システムは、呼が留守番電話装置に転送されると発呼者のメッセージが録音されたか否かにかかわらず着呼側携帯電話機への着信日時を記憶する記憶手段と、前記着信日時を前記着呼側携帯電話機に無線で送信する無線送信手段とを有することを特徴とする。また、本発明の携帯電話機は、位置登録要求に関する第一の信号を基地局に送信する無線送信手段と、前記第一の信号に応答して送られてくる第二の信号であって、発呼者メッセージが留守番電話装置に録音されたか否かにかかわらず記憶される着信日時に関する前記第二の信号を受信する無線受信手段とを有することを特徴とする。」(3頁15?23行)

イ.「【0023】
続いて,これらの着信情報を文字情報によって着信側の携帯電話11に送信し,着信側の携帯電話11が正常に受信できれば該当する着信情報を消去する。・・・」(5頁39?41行)

ウ.「【0026】
(第3の実施の形態)
次に、図面に基づき本発明の第3の実施の形態を図5を参照して説明する。なお、上記実施の形態において既に記述したものと同一の部分については、同一符号を付し、重複した説明は省略する。図5は、本発明の第3の実施の形態に係る着信情報格納通知システムを説明するための機能ブロック図である。図5において、10は発信側の携帯電話、11は着信側の携帯電話、20,21は発信側の基地局、22,23は着信側の基地局、30は発信側の交換機、31は着信側の交換機、40はネットワーク、50は着信情報格納通知サーバ、60は留守番電話装置、70はHLR(Home Location Register:加入者の情報を管理するデータベース)、100は着信情報格納通知システムを示している。
【0027】
図5を参照すると、本実施の形態の着信情報格納通知システム100は、発信側の携帯電話10と、着信側の携帯電話11と、発信側の基地局20,21と、着信側の基地局22,23と、発信側の交換機30と、着信側の交換機31と、ネットワーク40と、着信情報格納通知サーバ50と、留守番電話装置60と、HLR70を備えている。
【0028】
次に,第3の実施の形態の全体の動作を図5を参照して詳細に説明する。図5を参照すると,本実施の形態では,まず,発信者側が発信側の携帯電話10を用いて着信側の携帯電話11に対して発信するが,このときに着信側の携帯電話11がサービスエリア外,着信側の携帯電話11の電源OFFあるいは通話中で呼び出せない場合,着信情報格納通知サーバ50に発信側の携帯電話10の電話番号,着信側の携帯電話11の電話番号および着信日時を記憶すると同時に,留守番電話装置60に転送された場合にはメッセージの録音時間も併せて記憶する。
【0029】
その後,着信側の携帯電話11が呼び出し可能な状態になり,HLR70(Home Location Register:加入者の情報を管理するデータベース)に位置登録要求信号が送信されるとすぐに,HLR70は着信側の携帯電話11が呼び出し可能になったことを着信情報格納通知サーバ50に対して通知する。
【0030】
当該通知を受けた着信情報格納通知サーバ50は,着信側の携帯電話11に対して格納された着信情報を送信する。
【0031】
これらの手順を実行することによって,着信側の携帯電話11は呼び出し不可能であったときの着信履歴を知ることができる。」(6頁5?39行)

上記摘記事項ア.及びウ.は,携帯電話のシステムにおいて,着信側の携帯電話11が呼び出せない場合の対応について記載されたものであり,引用例2には以下のような事項(以下,「技術事項1」という。)が記載されているものと認められる。

(技術事項1)
「発信者側の発呼に対して着信側の携帯電話が呼び出せない場合,メッセージの録音の有無にかかわらず,発信者の電話番号や着信日時を含む着信情報を記憶しておき,着信側の携帯電話が呼び出し可能な状態になると,着信側の携帯電話に対して前記着信情報を送信すること。」

また,上記摘記事項イ.によれば,引用例2には以下のような事項(以下,「技術事項2」という。)が記載されているものと認められる。

(技術事項2)
「着信情報を携帯電話に送信し,着信側の携帯電話が正常に受信できれば該当する着信情報を消去すること。」


また,原査定の拒絶理由に引用された文献であり,本願出願日前に公開された国際公開第02/063859号(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

エ.「【技術分野】
本発明は,着信が行われる携帯電話端末や固定電話端末(以下「着信側電話端末」という。)において様々な事情で着信不能である場合に,発信が行われた携帯電話端末や固定電話端末(以下「発信側電話端末」という。)において着信不能な理由及び着信不能な時間帯の案内が可能な,着信不能案内システム及び方法に関する。」(明細書1頁5?10行)

オ.「 従って,着信側携帯電話端末10により入力された告知条件に基づいて,着信不能理由及び着信不能時間帯の告知が行われるので,無差別に告知を行うのではなく,例えばプライバシーに関する理由や時間帯等については告知を行わないようにすることができる。・・・」(明細書11頁8?11行)

カ.「 また第2実施形態に係る着信不能案内システム1では,D120で「設定しない」を選択する操作が行われると,着信側携帯電話端末10から無線基地局2を経由して留守番電話センタ3に対して,着信側携帯電話端末10のRAMに一時的に記憶されている着信不能理由及び着信不能時間帯が通信され,それらがコンピュータ6のハードディスクに記憶される。
ここで発信側携帯電話端末20から着信側携帯電話端末10宛に電話がかけられると,該電話がかけられた時刻(例えば10:30)が着信不能時間帯の範囲内であり,かつ前記告知条件が設定されていない場合に,留守番電話センタ3から無線基地局2を経由して発信側携帯電話端末20に対して,コンピュータ6のハードディスクに記憶されている着信不能理由及び着信不能時間帯が通信されて告知される。ここで該告知を受信した発信側携帯電話端末20においては,それらが自動音声にて告知されると共に,それらが図1のD211に示すように表示画面21に表示されて文字情報にて告知される。
なお第1又は第2の両実施形態に係る着信不能案内システム1で,前記告知条件が設定されている場合には,発信側携帯電話端末20から着信側携帯電話端末10宛に電話ががかけられた時刻(例えば10:30)が着信不能時間帯の範囲内であっても,着信不能理由及び着信不能時間帯の告知が直ちに行われることはない。
例えば告知条件として「電話番号がメモリされている場合」が設定されていると,発信側携帯電話端末20の電話番号が着信側携帯電話端末10にメモリされている場合には,発信側携帯電話端末20に対して,着信不能理由及び着信不能時間帯が自動音声にて告知されると共に,それらが図1のD211に示すように表示画面21に表示されて文字情報にて告知されるが,電話番号がメモリされていない場合には,それらの告知は行われず,発信側携帯電話端末20に対して,単に「電話に出られません。」というメッセージが自動音声にて流されると共に,該メッセージが表示画面21に表示される。なお電話番号がメモリされていない場合に,「電話に出られません。」というメッセージが表示されず,次に説明する「暗証番号が入力された場合」が設定されている場合と同様の処理が行われるように構成することも可能である。」(明細書15頁13行?16頁18行)

上記摘記事項エ.?カ.は,携帯電話のシステムにおいて,着信側の携帯電話11が呼び出せない場合の対応について記載されたものであり,引用例3には以下のような事項(以下,「技術事項3」という。)が記載されているものと認められる。

(技術事項3)
「着信不能理由を予め無線基地局側のコンピュータに送信しておき,着信側携帯電話端末が着信不能な場合,無線基地局側で,プライバシーに配慮して,発信側の電話番号が着信側携帯電話端末にメモリされているという告知条件を満たすときのみ,発信側携帯電話端末に対して着信不能理由を告知すること。」


[対比]
補正後の発明を引用発明と対比すると,

a.引用発明の「移動局7」,「発信者」は,補正後の発明の「通信端末」「他の通信端末」にそれぞれ相当する。
そして,上記「[引用発明]a.」の項で述べたように,引用発明の「位置登録」は,いわゆる自動車電話システムにおけるホームロケーションレジスタに登録される位置情報にあたり,補正後の発明の「通信端末が通信セル内に存在することを示す通知」に相当する。
さらに,引用発明の「移動局7が通信セル内に存在することを示す位置登録を受信する位置登録検出手段4」は,補正後の発明において「通信端末が通信セル内に存在することを示す通知を受信する通知受信手段」に対応する。

b.引用発明において「前記位置登録検出手段4が位置登録を受信しない場合」とは,補正後の発明の「前記通知受信手段が通知を受信しない場合」に相当する。
そして,引用発明の「記録手段3」は,「位置登録検出手段4が位置登録を受信しない場合は,移動局7への発信者からのメッセージを登録」しているのに対して,補正後の発明の「履歴手段」は,「発信者からのメッセージ」ではなく「他の通信端末からの着信があった旨の履歴」を記憶している点では異なるものの,他の通信端末からの発呼に係る情報を記憶する手段であるという点では,両者は共通する。

c.引用発明は「前記位置登録検出手段4が前記移動局7からの位置登録を検出した場合」に「前記移動局7へ前記記録手段3に登録したメッセージを送出する第1の発呼手段6a」を有するのに対して,補正後の発明は「前記通知受信手段が通知を受信した場合」に「前記通信圏内の通信端末へ前記履歴手段で記憶した履歴を送信」する「消去手段」を有しており,当該「第1の発呼手段6a」と「消去手段」とは,「メッセージを送出する」か「履歴を送信」するかという点,及び後述するように消去をするか否かという点で相違はするものの,他の通信端末からの発呼に係る情報を送信する手段であるという点では両者は共通する。

d.引用発明は,「自動車電話システム」であるのに対して,補正後の発明は「基地局」に係る発明ではあるが,ともに「通信システム」を構成しているという点では共通している。

したがって,両者は以下の点で一致ないし相違する。


(一致点)
「 通信端末が通信セル内に存在することを示す通知を受信する通知受信手段と,
前記通知受信手段が通知を受信しない場合は,前記通信端末へ他の通信端末からの発呼に係る情報を記憶する手段と,
前記通知受信手段が通知を受信した場合は,前記通信端末へ前記記憶する手段で記憶した他の通信端末からの発呼に係る情報を送信する手段と,を備えることを特徴とする通信システム。」


(相違点1)
「記憶する手段」に関し,補正後の発明では「前記通知受信手段が通知を受信しない場合は,前記通信端末は通信圏外にある」との「判断」も行っているのに対して,引用発明の「記録手段3」は同様の判断をしているか明らかではない点。

(相違点2)
「他の通信端末からの発呼に係る情報」に関し,補正後の発明では「前記通信圏外の通信端末へ他の通信端末から着信があった旨の履歴」であるのに対して,引用発明では「前記移動局7への前記発信者からのメッセージ」である点。

(相違点3)
引用発明は「前記位置登録検出手段4が位置登録を受信しない場合は,発信者に対して着信不能である旨のメッセージを通知する移動通信交換機1」を有するものの,補正後の発明の「不通の理由を送信する対象となる,予め限定された他の通信端末の情報を受信する理由受信手段」を有していない点。

(相違点4)
「送信する手段」に関し,補正後の発明では「前記通知受信手段が通知を受信した場合は,前記通信端末は通信圏内にあると判断し」ているのに対して,引用発明の第1の発呼手段6aは同様の判断をしているか明らかではない点。

(相違点5)
「送信する手段」に関し,補正後の発明では「前記理由受信手段で受信した情報以外の履歴を消去」しているのに対して,引用発明の第1の発呼手段6aは同様の動作を行うのか明らかではない点。

(相違点6)
「通信システム」に関して,補正後の発明は「基地局」であるのに対して,引用発明は「位置登録検出手段4」,「移動通信交換機1」,「記録手段3」,及び「第1の発呼手段6a」とを有する「自動車電話システム」である点。


[判断]
上記相違点1について検討する。
引用発明において,「位置登録検出手段4が位置登録を受信しない場合」には,移動局7が着信不能であり,通信できないのであるから,この状態を移動局7が通信圏外にあると判断することは,当業者が適宜なし得る事項にすぎない。また,当該判断に基づいて,記録手段3がメッセージを登録していることから,当該判断の結果を利用する記録手段3自身が,通信圏外にあると判断することについても行うようにすることは,当業者が格別な創意工夫を要することなく容易になし得る程度の事項にすぎない。

上記相違点2について検討する。
上記技術事項1としたように,「発信者側の発呼に対して着信側の携帯電話が呼び出せない場合,メッセージの録音の有無にかかわらず,発信者の電話番号や着信日時を含む着信情報を記憶しておき,着信側の携帯電話が呼び出し可能な状態になると,着信側の携帯電話に対して前記着信情報を送信すること。」は公知の技術である。
そうしてみると,当該技術を適用して,引用発明においても,メッセージに替え,もしくはメッセージとともに,移動局が着信不能の場合には着信情報を記憶し,呼び出し可能な状態になると移動局に対して送信するような構成とすることは当業者が容易に想到できた事項にすぎない。また,着信情報は発信者の電話番号や着信日時を含むものであるから,これを履歴と称することは任意である。
したがって相違点2とした補正後の発明の構成は,当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

上記相違点3について検討する。
上記技術事項3としたように,「着信側携帯電話端末が着信不能な場合,無線基地局側で,プライバシーに配慮して,発信側の電話番号が着信側携帯電話端末にメモリされているという告知条件を満たすときのみ,発信側携帯電話端末に対して着信不能理由を告知すること」は公知の技術である。そうしてみると,発信者からの発呼があった際に,移動局7が着信不能であれば,着信不能である旨のメッセージを発信者に対し通知する引用発明においても,プライバシーに配慮して,発信側の電話番号が着信側携帯電話端末にメモリされているという告知条件を満たす場合にのみ告知するように構成を変更することは,上記技術事項3を参酌して当業者が適宜なし得る程度の事項である。そして,技術事項3では着信不能理由は予め無線基地局側に送信されており,また無線基地局側において告知条件に基づき着信不能理由の告知を行っていることから,告知条件である着信側携帯電話端末にメモリされている発信側の電話番号のリストも,着信不能理由とともに,無線基地局側に置く構成とすることも格別な事項ではない(同様に,ネットワーク側で条件に従って着信不能を示すメッセージを送出する技術は特開2007-306191号公報にも記載されている。)。このように構成すれば,無線基地局側に告知条件である発信側の電話番号のリストを端末局から受信する構成が必要となることは明らかであるから,相違点3に係る構成である「不通の理由を送信する対象となる,予め限定された他の通信端末の情報を受信する理由受信手段」を設けるようにすることは,当業者が容易に発明できたものである。

上記相違点4について検討する。
引用発明において「位置登録検出手段4が移動局7からの位置登録を検出した場合」には,移動局7が通信圏内に存在することは明らかであるから,この状態を移動局7が通信圏内にあると判断することは,適宜なし得る事項にすぎず,また,判断の結果,第1の発呼手段6aがメッセージを送出していることを踏まえると,第1の発呼手段6a自身が移動局7が通信圏内にあると判断する構成にすることは当業者が格別な創意工夫を要することなく容易になし得る程度の事項にすぎない。
したがって相違点4とした補正後の発明の構成は,当業者が容易に想到できた事項にすぎない。


上記相違点5について検討する。
情報を利用した後,必要なくなればこれを消去することは技術常識にすぎず,また上記技術事項2としたように「着信情報を携帯電話に送信し,着信側の携帯電話が正常に受信できれば該当する着信情報を消去すること。」は公知の技術である。そうしてみると,引用発明においてメッセージを送出した後,送出し終えたメッセージは必要のない情報であるから,これを削除するように構成することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
また,相違点3について検討したように,引用発明に技術事項3を適用して「理由受信手段」を付加した態様とした場合において,「理由受信手段で受信した情報」は不通の理由を送信する対象を特定するための情報であり,発信者から再び発呼があった場合に必要となる情報であるから,これをメッセージを送出した後も消去しないようにすることは適宜なし得る程度の事項にすぎない。
したがって相違点5とした補正後の発明の構成は,当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

上記相違点6について検討する。
引用発明の「自動車電話システム」を構成する,「位置登録検出手段4」,「移動通信交換機1」,「記録手段3」,及び「第1の発呼手段6a」は,いずれも移動局に対して基地局側に存在する構成であり,これらを基地局の内部の構成として実現することは当業者にとって格別な事項ではなく,必要に応じて容易に想到できた程度の事項にすぎない。

そして,補正後の発明が奏する効果も,引用発明,引用例2,3に記載された技術事項,及び技術常識から,容易に予測できる範囲内のものである。

よって,補正後の発明は,引用発明,引用例2,3に記載された技術事項,及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定によって,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。


3.結語
以上のとおり,本件補正は,目的外の補正を含むものであるから,特許法第17条の2第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。仮に,請求人が審判請求書において主張するように,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり適法な補正であると仮定しても,補正後の発明は,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年7月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本

願発明は上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりのものである。


2.引用発明
引用発明,及び引用例2,3に記載された技術事項は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「(3)独立特許要件について」の項で引用発明,及び引用例2,3に記載された技術事項として認定したとおりである。


3.対比・判断
上記「第2 補正却下の決定」の「(1)新規事項・シフト補正の有無について」で検討したように,本件補正は「基地局」の構成要素として「不通の理由を送信する対象となる,予め限定された他の通信端末の情報を受信する理由受信手段」に係る構成を付加するものである。
そうすると,本願発明は補正後の発明から「・・・理由受信手段」の構成を除いたものであり,本願発明の構成に本件補正に係る構成を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「(3)独立特許要件について」の項で検討したとおり,引用発明,引用例2,3に記載された技術事項,及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由(ただし,「理由受信手段」についての判断を除く)により当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,引用例2,3に記載された技術事項,及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-05 
結審通知日 2015-06-09 
審決日 2015-06-24 
出願番号 特願2009-232628(P2009-232628)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丸山 高政小林 勝広  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 山本 章裕
林 毅
発明の名称 通信端末  
代理人 丸山 隆夫  

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