• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特38条共同出願  B65D
管理番号 1307378
審判番号 無効2014-800186  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-11-17 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第4619344号発明「エアゾール装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.請求及び答弁の趣旨
審理の全趣旨から見て、請求人は、特許第4619344号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、被請求人は、上記結論と同旨の審決を求めている。


第2.手続の経緯
主な手続の経緯を示す。
平成18年11月10日 本件特許出願
平成22年11月 5日 設定登録(特許第4619344号)
平成26年11月14日付 審判請求書
平成26年12月26日付 証人尋問申出書、尋問事項書
平成27年 1月22日付 審理事項通知
平成27年 2月 9日付 被請求人・口頭審理陳述要領書
平成27年 2月19日 第1回口頭審理、証拠調べ(本人尋問)
平成27年 3月 4日付 上申書(請求人)
平成27年 4月 7日差出 答弁書
平成27年 6月 1日付 審理事項通知
平成27年 6月 5日付 被請求人・口頭審理陳述要領書
平成27年 6月 5日付 請求人・口頭審理陳述要領書
平成27年 6月10日付 審理事項通知(2)
平成27年 6月23日付 被請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成27年 6月23日付 請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成27年 6月23日 第2回口頭審理


第3.本件特許発明
本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明(以下、本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明を、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、特許請求の範囲に記載された以下のとおりである。

《本件発明1》
エンジンの中を洗浄するためのエアゾール装置であって、エアゾール缶本体と注人管とからなり、エアゾール缶本体は、中空容器であって、内部に洗浄液が入った該容器の上端に、洗浄液を噴出するためのノズルを有する構造となっており、注人管は、その全てもしくは一部が透明もしくは半透明であって、少なくとも全長1メートル以上の長さを有するとともに、その一端は前記ノズルに接続され、他端周辺には周方向において異なる位置に、少なくとも2箇所以上の噴霧用穴が洗浄液の進行方向と直交する方向に設けられていることを特徴とするエアゾール装置。
《本件発明2》
前記エアゾール装置において、前記ノズルが一度押すとその状態で保持される構造であるとともに、5分から20分間連続して洗浄液を噴出することが可能であることを特徴とする請求頂1に記載のエアゾール装置。
《本件発明3》
前記噴霧用穴において、噴霧角が30度から120度の範囲内で洗浄液が噴霧されるように設けられていることを特徴とする請求頂1から請求項2のいずれかに記載のエアゾール装置。


第4.当事者の主張の要旨及び証拠方法
1.請求人の主張の要旨及び証拠方法
(1)請求人の主張の要旨
請求人は、本件特許にかかる発明は、請求人と被請求人が共同して発明したものであるにもかかわらず、被請求人が単独で出願したものであるから、特許法第38条の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張している。(審判請求書(以下、「請求書」という。)6.(3)、第2回口頭審理調書の両当事者欄1)

(2)証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
ここで、甲第1号証ないし甲第5号証は、審判請求時に、甲第6号証ないし甲第16号証は、その後提出されたものである。
また、請求人は、請求人佐々木勉の当事者尋問を申し出ている。

甲第1号証:意見書(発送番号416107)の写し
甲第2号証:請求人による2008年9月7日付メールの写し
甲第3号証:意見書小川_改の写し
甲第4号証:被請求人による2008年9月7日付メールの写し
甲第5号証:被請求人による2008年9月8日付メールの写し
甲第6号証:履歴事項全部証明書の写し
甲第7号証:退職年金支払開始通知書の写し
甲第8号証:契約終了確認書の写し
甲第9号証:日本インテグレーテッドワークス株式会社定款の写し
甲第10号証:被請求人による2007年9月28日付メールの写し
甲第11号証:見積書の写し
甲第12号証:領収書の写し
甲第13号証:第1期勘定元帳の写し
甲第14号証:第2期勘定元帳の写し
甲第15号証:エンジンクリーニングシステム実施要領書(案)の写し
甲第16号証:「燃焼室クリーナーの販売」と題するメモの写し

(3)主張の要点
請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
なお、行数は、空行を含まない。また、以下、丸数字は、「(丸1)」等と表記する。

ア.請求書
(ア)本件特許の開発経緯(請求書第3頁第28行ないし第4頁第2行)
「請求人と被請求人は、役員を務める日本インテグレーテッドワークス株式会社の設立前から、同社の商品となるエンジンクリーナーの開発を進めていたが、主な製品開発は請求人が行い、特許庁への申請手続や弁理士との連絡については被請求人が担っていた。
被請求人は、本件特許について請求人らに無断で、自己を権利者として平成18年11月10日に特許出願を行った。同出願は平成20年7月10日に拒絶され、その後に補正書及び意見書の提出、審判等を経て特許が認められた。
これらの経過において提出された意見書(甲第1号証)の起案については、被請求人の求めに応じて請求人が大幅な加筆修正を加えたものであり(甲第2号証乃至甲第5号証)、本件特許の発明においては、被請求人のみならず、請求人の寄与するところが極めて大きい。
したがって、本件各特許は、請求人と被請求人の両名の発明よるものである。」

(イ)被請求人名義での特許登録(請求書第4頁第4行ないし第9行)
「しかしながら、請求人が本件特許の特許登録申請手続について代表取締役であった被請求人に一任していたところ、請求人の了解を得ることなく、本件特許について、被請求人単独を発明者、申請者及び権特許権者とした特許登録がされた。
この特許登録は特許法第38条に反するものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」

イ.口頭審理陳述要領書(平成27年6月5日付)(以下、「請求人要領書(1)」という。)
(ア)開発の経緯について(請求人要領書(1)第2頁第7行ないし第3頁第11行)
「1(1)請求人、被請求人及び遠藤泰之氏は、本件特許出願日以前から、後に設立する日本インテグレーテッドワークス株式会社の商品となるエンジンクリーナーの開発及び製品化を進めていた。
(2)日本インテグレーテッドワークス株式会社における前記3名の、エンジンクリーナーの開発における役割分担について、以下の通り付言する。
ア.請求人について
請求人については、実験データの採取及びエンジンクリーナーを製品化するにあたり必要不可欠となる洗浄剤の成分の配合につき、特許出願の前後を通じて、被請求人からアドバイスを求められる度に、自らの化学メーカー勤務時に培った知識をもとに各種アドバイスを与えていた。
なお、本件特許は単体では商品化が不可能であったため、請求人は、独自にノズル製造方法の開発を進めた。また、ノズルの製造に使用する機械についても、請求人が設計・開発を行っている。これにより初めて、請求人らが設立した日本インテグレーテッドワークス株式会社は、日本オイルサービス株式会社の関連会社を通じての取引が可能となった。
イ.被請求人について
被請求人については、本件特許の出願手続き及び実験データの採取等を行っていた。
ウ.遠藤氏について
遠藤氏については、営業的事項及び部品調達のみならず、実験データの採取等も行っていた。
また、日本インテグレーテッドワークス株式会社に参画する以前に、塗装・コーティングの専門会社に勤務し、モータースポーツのピストンや燃料電池のコーティング等の製品開発に携わり、エアゾール等の商品を扱っていたことから、市場に出ている既存製品の知識を豊富に有していた。
このため、本件特許に関しても、スプレー缶のトリガーを引くとロックされる既存商品があることを提示し、本件特許に取り入れる契機を作っている。
(3)請求人は、平成16年1月頃から本件特許出願時においてもデュポン株式会社の技術顧問をしていたが、日本インテグレーテッドワークス株式会社の設立及び本件特許を含む、エンジンクリーナーの開発のために、毎月1回程度は遠藤氏及び被請求人と打ち合わせをしていたほか、メールのやり取り等を通じて開発に携わっていた。」

(イ)本件請求項1に係る発明について
a.エアゾール缶を用いることについて(請求人要領書(1)第3頁第19行ないし第27行)
「当初、被請求人は白煙除去のフィルターを排気管に取り付ける装置を作成したが、これに関してはホンダ側から却下された。
このため、新たなクリーニング装置について遠藤氏と被請求人が話している際に、大がかりな機械装置に代わるアイデアの一つとしてエアゾール缶のアイデアが出た次第である。
その後、遠藤氏が前職の伝手により、エンジンクリーナーとしてスプレー缶を製造することの可否の確認、検討及び試作品の作成等を繰り返し行ったことにより、エンジンクリーナーにエアゾール缶を用いることとなった。」
b.注入管が少なくとも全長1メートル以上の長さを有することについて(請求人要領書(1)第3頁第30行ないし第4頁第5行)
「本件特許に関しては、エンジンを運転させながらエンジンルーム内のクリーニングを行うため、内容物に可燃性のあるスプレー缶を用いる以上、高温となるエンジンから適度な距離を保つため、必然的に1メートル以上という距離が導き出されたものである。・・・2メートル程度とすることが想定されたが、第三者が別途同様の特許申請等をすることを考慮し、「少なくとも全長1メートル」との限定を付したに過ぎない。
なお、これに関しては、遠藤氏、請求人及び被請求人で話し合いをしている際に出てきたものである。」
c.噴霧用穴について(請求人要領書(1)第4頁第7行ないし第11行)
「注入管の噴霧用穴が進行方向と直行する方向に2か所以上の噴霧穴を設けることについては、他の既存の注入管との差異を出すために限定した。
これに関しても、遠藤氏、請求人及び被請求人で話し合いをしている際に出てきたものである。」

(ウ)本件請求項2に係る発明について(請求人要領書(1)第4頁第13行ないし第20行)
「・・・ノズルを押すとロックがかかり、ノズルを押し続けずとも内容物を長時間噴霧し続けられる構造を有したノズルが商品化され、すでに市場に存在していた。
遠藤氏が、前職でエアゾール缶等を取り扱っており、このようなノズルの存在を知っていたため、当該システムを本件特許に活用することを提案したものである。」

(エ)本件請求項3に係る発明について(請求人要領書(1)第4頁第22行ないし第4頁第26行)
「噴霧用穴の角度についても、製品として実用化できるまでのノズルか未完成であったため、洗浄剤を行き渡らせるために必要と一般的に想定される角度を記載したものである。
これに関しても、遠藤氏、請求人及び被請求人で話し合いをしている際に出てきたものである。」

(オ)その他(請求人要領書(1)第4頁第28行ないし第5頁第12行)
「本件特許については、いずれの請求項に関しても既存の技術を合わせたものではあるが、請求人が被請求人に対して、開発途中から申請後の意見書作成に至るまで、技術面及び洗浄剤成分に関するアドバイスを行うことなくして完成することはなかったものである。
また、請求人は、請求人、被請求人及び遠藤氏の3名で設立した日本インテグレーテッドワークス株式会社においてエンジンクリーナーを商品化するために本件特許を含め、エンジンクリーナーの開発を進めてきた。このため、請求人としては、申請時においては権利の帰属について特段の注意を払うことはなく、早期に会社の事業を軌道に乗せるため、製品開発に注力していたものである。
また、本件特許の申請に際して、被請求人は自らが申請することで特許申請にかかる経費が抑えられる等の説明をして、請求人及び遠藤氏の明確な同意を得ないまま申請を行う一方、費用については設立後の日本インテグレーテッドワークス株式会社から支出している。
このことからも、本件特許については、請求人のみに帰属するものではないことが明らかである。」

ウ.口頭審理陳述要領書(平成27年6月23日付)(以下、「請求人要領書(2)」という。)
(ア)本件特許の開発経緯について(請求人要領書(2)第2頁第10行ないし第24行)
「・・・ホンダが開発依頼をした時点で、すでに三菱自動車がエンジンクリーニングシステムの試験販売を行っており、ホンダも開発に際して三菱自動車が作成した実施要領書(甲15)をメーカーに提示していた。
平成17年10月に提示された上記実施要領書(甲15)には、注入装置として、洗浄剤の入った缶に圧力調整弁、注入用のホースを接続して使用するなど、本件特許におけるのと酷似したシステムが、すでに提示されていた。また、使用の際にも、注入装置をボンネットに吊り下げて、高温となるエンジンから洗浄剤の入った缶を離して使用するなど、後に注入管を一定程度長くする基本的発想についても、写真として提示されていた。
この実施要領書は、遠藤氏がメーカーを通じて入手し、平成17年10月ころに、請求人及び被請求人にも提示していたもので、被請求人は、当初、本件特許と無関係の、白煙除去フィルターの開発を進めたものである。」

(イ)本件請求項1に係る発明について
a.エアゾール缶を用いることについて(請求人要領書(2)第2頁第27行ないし第3頁第2行)
「ホンダが提示した、三菱自動車のエンジンクリーニングシステムの実施要領書(甲15)において、洗浄剤が入れられた注入装置を、本件特許においてはエアゾール缶に置き換えている。
これは、ホンダから提示された資料を検討している際に、遠藤氏及び被請求人が話している際に、エアゾール缶が代替案として出てきたものであるが、その後、遠藤氏が前職の伝手により、エンジンクリーナーとしてスプレー缶を製造することの可否の確認、検討及び試作品の作成等を繰り返し行ったことにより、エンジンクリーナーにエアゾール缶を用いることとなった。」
b.注入管が少なくとも全長1メートル以上の長さを有することについて(請求人要領書(2)第3頁第4行ないし第19行)
「注入管の長さについては、本件特許開発の契機となる前記実施要領書(甲15)においても、エンジンを動かしながらクリーニング作業を行うため、注入装置をボンネットに吊るして熱源となるエンジンから離していることが明らかである。
エアゾール缶が高温になることの危険性から、エアゾール缶とエンジンの距離を確保するために注入管の長さも一定程度必要となることについては、請求人、被請求人、遠藤氏の3名において話し合いをしている際に必然的に導き出されたものである。
なお、被請求人は注入管の長さについて、管の内部抵抗を利用して内容物の噴出量の安定化を図る目的があったとするが、本件特許の開発前後を通じて、注入管に噴出口を設けただけの構造では、内容物を安定した霧状で噴出できないことは開発途中の実験において明らかとなっており、これを受けて請求人が、本件特許とは別途、流量を調整し、内容物を霧状に安定して噴出することが可能となるゲート構造を有したノズルの開発を行っている。
このため、被請求人の述べる事由は、後付けに過ぎない。」

(ウ)本件請求項2に係る発明について(請求人要領書(2)第3頁第21行ないし第28行)
「本件特許発明2の、ノズルを一度押すとロックされ、内容物を連続して噴射し続ける構造については、すでに市販されていたノズルを、遠藤氏が開発当初から提示し、採用されたものである。
また、噴出時間として5分から20分間とされているのは、本件特許開発当初に使用を想定し、また試作品に用いていた、スプレー缶ロング缶(容量約820ml)の内容物をすべて噴出しきるのに要する時間に、外気温や使用条件により多少の差異が生じるため、幅を持たせた時間を定めたものである。」

(エ)本件請求項3に係る発明について(請求人要領書(2)第3頁第30行ないし第4頁第3行)
「注入管の噴射用穴の角度についても、本件特許の開発当初においては、90度に穴を開けたもので実験を繰り返していたが、製品として実用化できるまでのノズルが未完成であった。また、開発当初において、洗浄剤を行き渡らせるために必要と一般的に想定される角度を記載したものである。
これに関しても、遠藤氏、請求人及び被請求人で話し合いをしている際に出てきたものである。」

(オ)本件発明の完成時期(請求人要領書(2)第4頁第5行ないし第8行)
「平成18年4月24日頃には、すでに遠藤氏が本件特許であるエアゾール装置を用いたエンジンクリーナーを無限に対して営業をかけており(甲16)、同時点において本件特許はほぼ完成していたものである。」

エ.第2回口頭審理調書の請求人欄
3 エアゾール缶を用いることについて、甲第15号証の2)a)に基本的構造が記載されている。ただし、エアゾール缶を用いること自体は記載されていない。


2.被請求人の主張の要旨及び証拠方法
(1)被請求人の主張の要旨
被請求人は、本件の請求項1ないし3に係る発明についての特許には、無効理由はないと主張している。

(2)証拠
被請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。

乙第1号証:平成25年9月3日付ファクシミリの写し
乙第2号証:平成25年9月3日付内容証明郵便の写し
乙第3号証:平成26年9月24日付内容証明郵便の写し
乙第4号証:特許原簿の写し
乙第5号証:無効2014-800186号事件「証人等の陳述を記録した書面」の写し
乙第6号証:被請求人から請求人にあてたメール(2006年10月25日付)の写し
乙第7号証:被請求人から請求人にあてたメール(2007年2月12日付)の写し
乙第8号証:被請求人から請求人にあてたメール(2007年2月13日付)の写し
乙第9-1号証:燃焼室クリーナーのラベルの写し
乙第9-2号証:宅配便業者の送付状の写し
乙第9-3号証:住鉱潤滑剤株式会社から被請求人にあてたメール(2006年11月13日)の写し
乙第10号証:被請求人の手帳(平成18年8月5日付)の写し
乙第11号証:本件特許に係る審査段階において、平成21年2月18日付け手続補正書の写し
乙第12号証:実験データ(平成18年10月24日付)の写し
乙第13号証:無効2014-800187号無効審判事件の審判請求書の写し
乙第14号証:本無効審判に係る特許(特許第4619344号)の特許願(特願2006-304691号)に係る公開公報の写し
乙第15号証:被請求人の手帳(平成18年9月15日付)の写し

(3)主張の要点
被請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
ア.口頭審理陳述要領書(平成27年2月9日付)(以下、「被請求人要領書(1)」という。)
(ア)審判請求書の請求の理由及び証拠について(被請求人要領書(1)第2頁第5行ないし第14行)
「本件審判請求では、請求人から提出された審判請求書及び証拠を拝見したところ、請求の理由を立証するには、明らかに的を得ていない証拠や、不十分な証拠の提出しかされておらず、・・・特許法第38条の規定に違反する旨の無効理由を主張するのであれば、被請求人以外の誰に「特許を受ける権利」が帰属していたのか、まずこれを明確に特定した上で、それを立証する適切な証拠を提出することが必要であります。
ところが、提出された証拠(甲1号証?甲5号証)によれば、全て出願の日後の資料であり、係る資料によって無効の立証が出来ない事は明らかであります。・・・」

イ.答弁書
(ア)特許を受ける権利の承継について(答弁書第4頁第17行ないし第19行)
「なお、本件特許に係る真の発明者である被請求人は、自己の有していた特許を受ける権利の持分を誰にも承継することなく特許出願をしているため、共同出願違反はありえない。」

(イ)請求人は本件特許発明に係る発明者に該当しない理由(答弁書第4頁第25行ないし第6頁第9行)
「その理由は、請求人が、本件審判に係る本人尋問において以下のような発言しているからである(段落番号「0055」から「0056」)・・・
(i) 係る上記の発言は、本件特許発明の特定要件のうち、1m以上とする数値限定をした技術的理由を述べずに、エアゾール缶の取り扱いとして、加熱による一般的な危険性を説いただけに過ぎず、・・・1m以上という数値限定を定める技術的な理由とはなっていない。
(ii) もし、自ら実験等の創作活動に携わっていたならば、このような一般論のみの発言しかしないということはありえず、発明の要部となり得る事項について述べるはずである。
(iii) 係る数値限定をした本来の理由は、出願当初明細書の【0022】にも記載した通り、「・・・注入管3の先端を内燃機関内部まで到達させるため」であって、より具体的な説明をすると、スロットルバルブの直前まで注入管を到達させることを目的としている。更に詳しくは、出願当初明細書の段落【0031】にも書かれているように、「・・・スロットルバルブのおおよそ5cm手前まで差し込む」ために必要な最低寸法に基づくものである。終局的には、霧状のまま洗浄剤を内燃機関内部に到達させたいという意図によるものであった。」

(ウ)請求人と被請求人の間に本件特許の発明における実質的協力関係がなかったこと(答弁書第6頁第20行ないし第8頁第22行)
「本件審判に係る本人尋問における・・・の段落番号「0060」から「0067」にはこのような発言がある。
「0060」
・・・
「0061」
・・・
これらの回答からは、実質的共同関係があった旨は示されていない。また、出願前における被請求人の特許発明に係る開発に関与した事実も示されていない。
また、請求人は次のようなことを述べている。
「0063」
・・・
「0134」
・・・
上記、請求人が2回にわたり陳述している通り、本件特許発明に係る要部を構成する「スプレー缶」を採用したのは被請求人であることを認めた内容であり、被請求人が本件発明を着想し、着想と同時に具体化し完成したことを認めている。

「0064」
・・・
自ら発明者として関与した者であれば、自己が関与した技術的事項を主張するはずである。ところが、請求人は、審判請求書及び、上記のとおり本人尋問においても、自らが発明者として関与したことを示す証拠を提出していない。
従って請求人は、本件特許発明の創作者には当たらず、特許を受ける権利を有することもなく、係る関与では補助者にも該当しない。」

(エ)請求人が主張する被請求人が無断で出願したとする主張について(答弁書第9頁第15行ないし第11頁第1行)
「請求人が「無断で」という主張は明らかに事実と異なる。
以下、その理由について証拠に基づいて反論する。
・・・乙第6号証は、2006年10月25日に被請求人から請求人に対して、送付したメールを写真で表わしたものである。・・・
・・・乙第7号証は2007年2月12日に被請求人から請求人に対して、送付したメールを写真で表わしたものである。・・・
・・・乙第7号証は2007年2月13日に被請求人から請求人に対して、送付したメールを写真で表わしたものである。・・・同メールは、前日に被請求人が請求人宛に送付したメールにおいて、被請求人が特許出願書類のデータをメールに添付することに失敗したため、2007年2月13日に出願当初明細書をMicrosoft Word形式のデータとして作成し、送信したものである(6乃至20ページ目)。
・・・これらのメールのやり取りから見ても、本件特許出願の日前後において、被請求人は請求人に対して本件特許の出願に関する情報を密接に連絡をとり、無断で出願したとする請求人の主張は、明らかに失当である。更に付言するならば、意見書や手続補正書の手続きの途中でも、出願人名義変更手続きを被請求人に求める主張は十分に可能であったはずである。
・・・なお、本件無効審判における本人尋問の中で、請求人は、段落番号「0022」において「出願の前段階で・・・この資料を出したよ・・・いろいろと何か話した記憶はあります。」との発言に表れているように、出願前の話を質問されると、あやふやな回答や、記憶の曖昧な回答しかしていない。
「0025」
・・・と発言しており、出願前から被請求人が一人で出願することを認識していた。
従って、係る「無断で」とする主張は認められるものではない。」

ウ.口頭審理陳述要領書(平成27年6月5日付)(以下、「被請求人要領書(2)」という。)
(ア)エンジンクリーナーの開発及び製品化の経緯、3名の主な役割分担について(被請求人要領書(2)第3頁第8行ないし第4頁第5行)
「出願前に、すでに製品としてのエンジンクリーナー(商品名「燃焼室クリーナー」)は完成しており、製品化も被請求人が行ったものである。
係る事実を立証すべく、乙第9-1号証?乙第9-3号証を添付する。
・・・
ア.請求人について
請求人は、前記エンジンクリーナーについての技術開発を行っていない。イ.被請求人について
被請求人は、係るエンジンクリーナーについて、「本件特許の出願、取得手続及び技術開発(エアゾール缶の利用、試作品の試験等)」のみならず、「着想、具体化、研究、製品開発、試験、量産技術開発、製品デザイン、施工方法の開発、販路開拓」についても担っていた。
ウ.遠藤氏について
遠藤氏は、被請求人の指示した仕様に基づくエンジンクリーナー(商品名:燃焼室クリーナー)について、住鉱潤滑株式会社への委託製造の連絡役を担っていた。」

(イ)本件請求項1に係る発明について
a.エアゾール缶を用いることについて(被請求人要領書(2)第4頁第17行ないし第5頁第13行)
「「エアゾール缶を用いる」ことは、被請求人が発案したものである。
この点については、乙第5号証(無効2014-800186号事件「証人等の陳述を記載した書面」段落番号(0134))による。
すなわち、エアゾール缶を用いるという発案時期については、遅くとも平成18年8月5日の段階で本件特許に係る製品は完成していたものであります。これを立証するために乙第9-1号証から乙第9-3号証、及び乙第10号証を提出致します。
なお、乙第10号証は、別事件である無効2014-800187号事件の答弁書において、添付して提出した乙第10号証と同一のものの写しであります。係る答弁書に提出した乙第10号証の説明にある通り、被請求人の手帳に示された日時により前記発案時期を特定するための根拠とするものであります。
また、乙第14号証及び乙第15号証を提出し、係る本件特許に係る発明の成立していた時期について、平成18年9月15日に日産自動車製のスカイラインGT?R(RB26)、翌日の16日には、本田技研工業製のインテグラ(B18C)等の実験を行っており、更に第12号証に示すように、本件発明の構成を採用した製品が完成していた日時を証明するものであります。係る証拠の左最上段の「POWERTest」の下の段に示されたDATAとある日時の欄に記載されたとおり、平成18年10月24日に、ガレージ北関東(株)(栃木県鹿沼市茂呂)に於いて行ったことが示されております。なお、係る試験はHONDA製ステップワゴンを用いて、出力グラフと圧縮圧力のデータを測定したものであり、本件に係る特許製品の効果を使用前使用後で比較検証したものであります。
即ち、遅くともこの日時においても本件特許に係るエアゾール缶を用いた構成の製品化が完了していたものであります。」

b.注入管が少なくとも全長1メートル以上の長さを有することについて(被請求人要領書(2)第5頁第16行ないし第6頁第7行)
「 請求人は、注入管を1m以上とした理由につき、先日の本人尋問において、「爆発の可能性等からエンジンルームには置けない」という危険性の回避を理由とした陳述を行っている。
しかしながら、これらのエアゾール缶等の圧力容器を高温物に接触させれば危険が生じることは、自動車関係の当業者でなくても容易に理解できる一般的な内容である。
本件特許発明において、1m以上とした真の理由はこれらの安全性確保という側面から当然に満たさなければならないもの等であって、本件発明では、以下のような技術的効果を得ることに基づいて定められたものである。
まず第1の理由として、本件特許に係るエアゾール装置の技術的効果を発揮するために、注入管の先端をエンジンのスロットルバルブの手前約5センチメートルの位置に到達させる必要があった。
さらに、エアゾール缶の圧力は、連続噴霧によって圧力低下を伴うため、より長時間安定した噴霧を可能とするために、被請求人は、種々の経験や実験を通じて、注入管の内部抵抗を利用することによって、より長い連続噴霧時間を確保し、単位時間当たりの噴出量の安定化を図ることを見出した。
即ち、係る1mという注入管の長さは、単なる安全のみならず、上記のような技術的要素によって定められたものであり、本願発明を創作した者であれば、この重要な事項について認識しているはずである。しかしながら、請求人は前述したとおり、先の本人尋問において、係る1mという注入管の長さを定めたことについて技術的な事項は何ら意味を有していることを述べていない。これは即ち、請求人が特許を受ける権利を有していないこと、換言すれば、発明者ではないことを表わしていると思量する。」

c.噴霧用穴について(被請求人要領書(2)第6頁第12行ないし第8頁第2行)
「 この点については・・・進行方向に対し噴出する構成を採用すると、霧がスロットルバルブに衝突して付着し、液化してしまうというデメリットがあった。
そこで、この問題を回避するために、被請求人は、注入管に噴出孔を形成することを考案し、先ずその前提として先端部分の開口穴を閉塞し、加工上最も問題となる進行方向に対し直交方向の孔部分の加工方法に独創的な加工方法を思いつき、これを採用したことによって誰でも容易に、且つ安価に量産できる種々の技術開発を前記の時期までに独自に行っていた。
・・・
そして最も問題となったのは、進行方向に対し直交方向に穿孔する方法であった。被請求人は通常当業者が採用し得ないステップラーを用いて穿孔するという独創的な手法を取り入れた解決手段を採用するに至っていた。
また、平成21年2月19日付で提出した手続補正書の5ページにしめされた表にあるように、被請求人は、噴霧用穴が洗浄液の進行方向と直交する方向に設けた方法を用いることで、多気筒エンジンの各気筒へ洗浄液量の偏りという問題を解決することが出来たことを示している。
・・・しかしながら、被請求人は、前記の期日以前に、係る加工の困難性という課題を解決しており、その技術は当業者が予想しえないような特異なアイディアによるもので実現していた。
具体的にはステップラーという文房具を用いて実用化したものであり、コストを掛けずに簡単に誰でも穿孔することが出来るものであった。・・・
このステップラーを用いた噴霧用穴の形成方法については、「無効2014?800187号の審判請求書の(丸3)本件特許の開発経緯」において請求人も「被請求人はステップラーのような方法で・・・」と述べている通り、被請求人が係る技術を既に用いていたことは認識している。この事実については、乙第13号証を提出して立証する。
更に、ステップラーを使った穴あけ方法によって得られたノズル管を用いて、被請求人は、多種多様な自動車について実験を行っていた。
前述と重複する部分もあるが、係る実験を行っていた日時の特定については、乙第10号証、乙第12号証、乙第15号証を提出する。上記のアの実施の説明における被請求人の手帳の記述(乙第10号証)によれば、製品の材料の到達とともに、遅くとも8月に、ステップラーをつかって量産する技術等の開発等を開始していた。正確な日時についての特定は難しいが、乙第15号証の手帳に記載のとおり平成18年9月15日に日産RB26型直列六気筒エンジンを、遅くとも同年9月16日には本田技研工業製インテグラに搭載された1.8Lエンジンで実験を行ったことが示されており、乙第12号証にしめすように、同年10月24日に本田技研工業製STEPWGNを計測対象として、ガレージ北関東(株)殿所有のシャーシダイナモの設備を借用し、本願特許に係る製品の施工による効果について検証を行っている。従って、噴霧用穴を洗浄液の進行方向に直交する方向に備えた注入管については、被請求人により遅くとも係る時期までに開発を完了させていたことを示すものである。」

(ウ)本件請求項2に係る発明について(被請求人要領書(2)第8頁第6行ないし第18行)
「 上記の点について、ワンプッシュで5分から20分間連続して出力させるためには、圧力の変化や流体摩擦による流量の制限、更には、エアゾール缶内の圧力、管路の内径や長さを考慮したことにより、各種の条件を調整することで得られる効果である。
なお、長時間の噴霧を必要とする理由は、・・・エンジンの燃焼室を形成する面積(体積ではない)の大小と、エアゾール缶の容積を考慮した時間が請求項2に記載の時間である。なお、係る長時間に渡る洗浄液の浸透を確保し、より作業時間が長くなると、作業者の労力負担もこれに伴って大きくなってしまうため、安定した噴霧を実現するためにワンプッシュで連続噴霧状態を維持する構成を採用したものである。」

(エ)本件請求項3に係る発明について(被請求人要領書(2)第8頁第22行ないし第9頁第1行)
「 上記の点については、請求項3に記載の噴射角を30度から120度とすることで、良好な噴霧状態を得られることを、被請求人が種々の条件を変化させた多数の実験によって得たものであり、乙第11号証の手続補正書の5ページ目中段の表「噴射量テストの表」に示したような洗浄液量の偏りによる不具合を生じないようにすることを目的として設定したものである。
・・・なお、日時については、乙第14号証の願書に記載のデータを取得した乙第15号証明の手帳記載の日付等から、平成18年9月15日には特定していたものである。更に、乙第10号証の実験データからは、遅くとも平成18年10月24日には、係る噴霧特性について特定できていたものである。」

エ.口頭審理陳述要領書(平成27年6月23日付)(以下、「被請求人要領書(3)」という。)
(ア)「出願前に、既に製品としてのエンジンクリーナー(商品名「燃焼室クリーナー」)は完成しており、製品化も被請求人が行ったものである。」との主張の趣旨(被請求人要領書(3)第2頁第21行ないし第3頁第2行)
「 具体的には、「燃焼室クリーナー」は、特許発明の技術的範囲に属するものであり、係る実施品の研究開発に被請求人が着想から具体化までの創作全般に寄与したものであること、及び、その完成の時期を特定するために乙第9-1号証から乙第15号証を提出したものである。即ち、被請求人が請求人とは無関係にその創作を完成させたことを主張・立証する趣旨で提出したものである。
これに対し、本件無効審判では、審判請求人が出願前に本件特許発明についての特許を受ける権利を有していたことについて立証責任があると考えられるところ、出願時において請求人が特許を受ける権利を有していたことを客観的に判断できる証拠の提出が見当らない。
なお、「燃焼室クリーナー」という名称は、本件特許発明の実施品に係る商品名であり、概念上は、最も広義な「エンジンクリーナー」という一般的に表現されるものに含まれるものである。」

(イ)乙第9-1号証?乙第15号証の立証趣旨(被請求人要領書(3)第3頁第10行ないし第4頁第30行)
「 即ち、乙第10号証の手帳に記載された8月5日の欄には、「カーボンクリーナー」を受け取った記載があり、この欄に「#13ケトン系」とある。そして、「北関東へ1本」との記載もある。更に、乙第15号証の手帳の記載によれば、係る約一ヶ月後となる9月15日にRB26(エンジン形式)、9月16日及び17日にインテグラ(車種名)でテストを行なった旨の記載がある。さらに乙第12号証によればステップワゴン、K20Aについて10月24日に試験を行なった結果が残っている。係る乙第12号証のグラフの右側中段には「#13」との記載が残っており、これは乙第10号証の8月5日の欄に記載されているカーボンクリーナー「#13」ケトン系が用いられていることが時期的関連性から連続性があるものとして、係る試験に用いられたものが商品名「燃焼室クリーナー」(手帳の記載では、当時の試作品の名称「カーボンクリーナー」と記載)を用いていたことを立証するものである。
次に、乙第11号証を提出した趣旨について述べる。
係る証拠の7ページ上部に記載されている写真による図は、前記の試験に使われた商品名:「燃焼室クリーナー」のノズルの噴霧状態を示すものであり、写真に表したものと、更に解りやすくするためにこれを図解したものである。これによって上記(1)ウ「注入管の他端周辺において、異なる位置に、少なくとも2個以上の噴霧用穴が洗浄液の進行方向と直交する方向に設けられていること」という構成要素を採用している事を立証するための参考資料として提出したものである。
次に、乙第13号証を提出した趣旨について述べる。
別事件(無効2014-800187号)の審判請求書第3ページ(丸3)本件特許の開発経緯に記載された[・・・ステープラーのように差し込む方法で・・・」の記載から、請求人は、被請求人が『ステープラーを用いて穴を開けるという製造方法』を採用したことを自ら認めており、本件特許発明の請求項1に記載された「注入管の他端周辺において、異なる位置に、少なくとも2個以上の噴霧用穴が洗浄液の進行方向と直交する方向に設けられていること」という構成要素を被請求人が導入したことを請求人自身が認めていることに相違ない。
また、この点について審理事項通知書(2)では、「本件特許発明の創作に寄与したことを示すものではないのではないか」との指摘を頂きましたが、本件発明は、各構成要素単独で発揮するものではなく、エアゾール缶という限られた圧力容器から、洗浄液を良好な霧状態で安定して長時間噴射するために、エアゾール缶からの注入管の長さや、噴出ノズル口の穴の穿孔場所、等を特定することによって、全体構成からはじめて発揮されたものである。
しかしながら、「注入管の他端周辺において、異なる位置に、少なくとも2個以上の噴霧用穴が洗浄液の進行方向と直交する方向に」設けることは、商品として流通させるためには、加工の難易度やコストもかかる等の問題を残していた。そこで、被請求人は係る製造方法を導入することで、生産性等の問題までをも解決したものである。従ってステープラーを用いて穴を開ける方法自体は、完成していた本件特許発明を、その後の商品化まで被請求人が開発し、携わっていたことを立証する趣旨である。」

オ.第2回口頭審理調書の被請求人欄
4 エアゾール缶を用いることについて、甲第15号証の1)に「工場エア供給」とあるとおり、甲第15号証はエアゾール缶を用いるものではない。


第5.請求人の証言
請求人佐々木勉は、平成27年2月19日、特許庁審判廷において宣誓の上、以下のとおり述べた。なお、段落番号は、反訳書面による。

1.請求人代理人による尋問
(1)
0006 今の話を伺うと、事業を行うに当たって化学的なシステムとか、機器の開発のシステムが必要になってくると思うんですけれども、その会社設立までの間に、あなたがインテグレーテッドワークスに関与する前に、どういった仕事をされていたんですか。
私はデュポンで開発等をやっておりました。
0007 デュポンというと、あの……
化学会社です。総合化学の会社です。
0008 そうすると、あなた個人の経歴としては、十分な化学的な知識もあって、技術開発もかなり経験されていたということですか。
一応そういうふうに認識していました。

(2)
0013 ・・・。
・・・。それを遠藤が持ってきて小川さんのほうと話をされたときに、「じゃ、スプレー缶を使ってできないか」というのが出てきたというふうに聞いております。

0014 その段階では、まだあなたは開発にはかかわっていないということですか。
その話については聞いておりましたので、準備段階でしたので、会社設立の前大体1年弱だと思いますけど、以前からそういう話は聞いておりましたので、承知しております。
・・・
0016 じゃ、あなたがエアゾール装置の話に参加し始めたときというのは、まだ具体的に技術としていろいろ実験をしたりだとか、試作品作るだとかといった段階には、まだ至っていなかったということですね。
そうですね。ただ、ある程度早い時期から、今その時点で入手できるスプレー缶とかで、・・・一応洗浄剤といいますと、そう変わらないんです。ですから、それに準じた形でのスプレー缶をつくってみたということになろうかと思います。それを全部用意して、スプレー缶としてサンプルとしてつくりあげたのが遠藤さんです。

0017 あなたは、具体的にはどういった形で……
私はそのときにちょっといろいろ聞かれたんですが、各社ともケトン類を入れたりとかという、要するに汚れを落としやすくするためのものを入れているところが多いんですが、そういうアルコールケトン、そういったものは、車、エンジンの中に使われているいろんなシール剤とかそういったものを、ちょっとこれに差しかえるのは問題もあるということで・・・それともう一つ、私としては材料を昔会社で扱っていた関係で、麻取に引っかかる、麻薬等取締に引っかかるような材料は余り使いたくないと。それは、やっぱり吸い込んだらまずいことになりますので、それはやめたほうがいいというのは2人に対し申し上げました。

0018 そうすると、あなたは洗浄剤に使う成分とかをアドバイスして、どういったスプレー缶を用いるかということが初めて決まったということですか。
実際にビジネスを意識してそういうスプレー缶の内容を最終的に判断したのは、多分出願した後になると思います。

2.被請求人代理人による尋問
(1)
0057 それから、先ほどは黒煙が出てきたということなんですけど、これ、使ったのはガソリンエンジンですか、ディーゼルエンジンですか。
その辺の詳しいことじゃ、多分ガソリンだと思いますけど。ただ、黒煙が出るというのは、エンジンのクリーニング装置を使ってクリーニングをしているときに、黒煙がすごかったというふうに聞いてます。
・・・

0063 この発明の着想は、だれがやったのですか。
私が聞いている範囲では、何十万もするようなエンジンクリーニング装置というのは幾つかあるんですけれども、そういう形でやっているときに、契機となったのは、ホンダから、エンジンのクリーナー装置をつくりなさいと言われたメーカーさんがつくったエンジンクリーニング機を使ってやったらば黒煙がすごかったので、「黒煙を何とかしてくれ。フィルターをつくってくれというような話が入ってきたということで、それを小川さんに相談したと。
そのときに、「スプレー缶使えないか」という最初のアイデアが出たということですね。ただ、その時点ではまだ、どうしよう、ああしようというものまでは決まってはいなかったと思うんですけど、あのばかでかい装置からスプレー缶化にとんと落とすことだけで大分いいんじゃないかという話に展開していったというふうに聞いています。

0064 聞いていますということは、長さを1m以上にするとか、ノズルの穴を側方、外向き方向にあけるとか、そういう細かいことに、全体の構成を決めたのはだれですか。
詳細を詰める実験ではなくて、サポーターのノズルの長さを1m以上にしたほうがいい、先端のノズルは真ん中ではなくて横にやったほうがいい、そういう個別具体的な技術的な最初の発想は、誰が考えたんですか。
それは、多分話し合いの中で生まれてきたんじゃないかと思います。明確に本人が「こうだ、こうだ、こうだ」というふうに我々に言ってきて、我々もそれについて了解したというようなやり方ではなかったと思います。ですから、それは明確に私からは言えません。

0065 具体化に協力したということですか。
具体化に助言をしたということでしょうか。
それはどういうふうに言うべきかわからないんですが、3人で「ああだ、こうだ」やっているときというのは、そういうことなのかなとは思いますけれども、少なくともその時点では3人とも非常に協力関係にありましたので、いろんな話を具体的に話をしたと。
・・・

0068 御自分が発明者だと、特許という権利を有しているということで、審判請求をされているんですよね。
基本的には、これは個人の話をしていいのかどうかわからないんですけど、個人的には「会社で事業を成功させるために特許が必要だよ」とか、「頑張るんだ」ということでは、発明者はだれでもいいというのが僕の考えです。ただ、権利者は会社のあれでいくという考え方です。

3.合議体による尋問
(1)
0119 それから、いろいろ実際に試したということなんですが、製品化されるまでにですね。その試験というか、テストというか、そういうのはいつごろどういう形で行ったか御記憶ありますか。
特に借りてやったと言えば、いろんなところの、例えば整備工場さんのところに小川さんが行って、そこで「何か、これクリーニングテストしたいんだけど」ということでされて、そのときに、そこに??データを取りに行ったりとか、それから、もしくは「スプレー缶を作るに当たってどうしたらいいんだ」ということで遠藤さんのほうがスプレー缶をやっているようなところと交渉して、内容について「まず、これでやってみましょうか。」というところからスタートできるような環境作りを全部してくれて、実際に物もサンプルとして作って、それを持ち寄ってきて、で、そういう過程の中で「ちょっとこれ問題ない?」と聞かれて、僕はそれに対して何か助言するという形で……。当時私も結構忙しくしていたのですが、それでも時間を割いて言ったという記憶があります。
・・・
0122 先ほど整備工場に行ってテストもしたというお話でしたが、実際整備工場へ行って試した回数なり頻度とか、そういうのというのは御記憶ありますか。
全部はわからないんですけれども、僕自身はそんなに頻度は高くなくて……

0123 僕自身はということは、実際立ち会いなり、実際行ってみずからおやりになったということですか。
「そういうところでテストできるんだよ」ということで連れて行かれたことはあります。
・・・
0126 わかりました。じゃ、データ取られたときには、どういうデータを取られたんでしょうか。例えば温度の変化を見たとか、具体的なデータとしてはどういうものを取られていたんですか。
基本的には、スプレー缶から液を、洗浄を出す時間を、これは遠藤のお客さんとの話し合いを集めてくると、遠藤さんのほうの協力でいろいろ集めていただくと、例えば20分程度で洗浄し出すのが一番いいと。そうしますと、私としては、スプレー缶自体というのは、ただストレートのチューブをつけて穴をあけて出しちゃいますと、最初だけばかっと出るんですけど、その後どんどん落ちてくる。というのは、内圧がどんどん下がっていくんですね。
そのために、内圧を下げるのに20分間ホールドして、極力余り大きく落ちないでホールドして、そこですぽんととまるような形にしたいということで、2番目の特許になる技術を開発しました。
・・・
0130 それから、先ほど、「これが一番いいということがわかった」というお言葉がありましたが、一番いいという評価は、どういうデータを基準にやったんでしょうか。
一番……。

0131 一番いいと評価したのは、例えば空調で言えば、人間が快適に感じる温度は20何度がいいとかですね、要するに、何のデータを基準に一番いいという評価をしたのかと。
霧が安定して20分間、極めて安定して、その間に特に突出して流量が多くなったり少なくなったりということがなくて、当初、目論んでいたきちんとしたデータ取りができるような構造になっていったということです。

(2)
0134 なるほど、わかりました。
あと、今までのお話しの中で、開発は3人でああだ、こうだ言いながらやってきたという説明があったかと思うんですけれども、スプレー缶を使おうかというふうに一番最初に発案されたのって、どなたか覚えていらっしゃいますか。
恐らく「スプレー缶でどうだろうか」と言ったのは、小川さんじゃないかなと私は思っています。

0135 なるほど、わかりました。
それで、チューブとか噴射口の向きだとかというところを、いろいろ考えていったんだと思うんですけれども、それぞれのアイデアというのは、誰が出したかというのを覚えていらっしゃいますか。
多分チューブ自体は、スプレー缶をつくったところからチューブをもらったというふうに聞いています。ただそれは、チューブの材質がポリエチレンなので、ポリエチレンチューブというのは非常によく使われているチューブで、安価で加工しやすいというのがありますので、多分必然的にそこに行き着いたと思います。あとは長さの問題とか、それぞれ、これスプレー缶となって、それから、スプレー缶の引き金といいますか、普通ボタンをずっと押していれば、押している間しか出ないというのが一般なんですけど、一応、専門家筋ではぐっと押したらロックするというタイプなんですね。それを遠藤さんが見つけてきて、これでできるんじゃないかという話になっていったと……。

0136 チューブの長さ、これを長くしなきゃというふうに思われた、それをぱっと発案されたというのは、どなたか憶えていますか。
いや私は、長さが1mというのは私じゃないような気がします。

0137 私ではないと。
はい。ただ、そのとき3人で共通して認識していたのは、スプレー缶は、私自身は熱にちょっと困るので、爆発しちゃう可能性があるんで、「エンジンルームには置けないね」ということで、距離を置かなきゃいけないというのは、みんな認識していたと思います。それにプラスして、あとはエンジンの構造上1mなのか50cmなのかは、突っ込まなきゃいけないというのは容易に想定できると思います。


第6.無効理由についての当審の判断
無効理由である本件発明1ないし3の特許法第38条違反(共同出願違反)について判断するに先立ち、まず、共同発明者の解釈について確認をしておく。
共同発明者とは、課題を解決するための着想及びその具体化の過程において、複数の者がともに発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した場合における複数の者をいう(例えば、知財高裁平成19年(行ケ)第10278号)。
そこで上記の観点から、本件各発明の特徴的部分は何かを検討し、そして請求人が本件各発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したといえるか否かについて検討を行う。

1.本件発明1ないし本件発明3の特徴的部分について
本件発明1ないし本件発明3は、本件特許明細書の段落[0002]ないし[0007]に記載された、「既存のエアゾール装置」、「既存の内燃機関の燃焼室洗浄装置」の問題点を前提とした、段落[0008]に記載された課題を解決するために、発明されたものである。
したがって、平成27年6月1日付け審理事項通知の第3.2.で指摘したとおり、本件発明1における特徴的部分は、「エアゾール缶を用いること」、「注入管が少なくとも全長1メートル以上の長さを有すること」、「注入管の他端周辺において異なる位置に、少なくとも2箇所以上の噴霧用穴が洗浄液の進行方向と直交する方向に設けられること」の3つである。
また、本件発明2の特徴的部分は、「ノズルが一度押すとその状態で保持される構造であるとともに、5分から20分間連続して洗浄液を噴出することが可能であること」である。
さらに、本件発明3の特徴的部分は、「噴射用穴において、噴射角が30度から120度の範囲内で洗浄液が噴射されるように設けられていること」である。

2.本件発明1の特徴的部分の完成への請求人の創作的寄与について
本件発明1の上記3つの特徴的部分の完成へ、請求人が創作的に寄与したかについて検討する。
(1)「エアゾール缶を用いること」(以下、「特徴的部分1の(1)」という。)について
請求人は、特徴的部分1の(1)は、被請求人と遠藤氏が話している際に出てきた旨を主張している(第4.1.(3)イ.(イ)a.及び第4.1.(3)ウ.(イ)a.)。
また、平成27年2月19日に行われた証拠調べ(本人尋問)(以下、「本人尋問」という。)では、「0063 この発明の着想は、だれがやったのですか。」との質問に対し、「・・・それを遠藤が持ってきて小川さんのほうと話をされたときに、「じゃ、スプレー缶を使ってできないか」というのが出てきたというふうに聞いております。」(第5.1.(2)を参照)と証言し、また、「0134 ・・・スプレー缶を使おうかというふうに一番最初に発案されたのって、どなたか覚えていらっしゃいますか。」との質問に対し、「恐らく「スプレー缶でどうだろうか」と言ったのは、小川さんじゃないかなと私は思っています。」(第5.3.(2)を参照)と証言しており、スプレー缶、すなわち、エアゾール缶を用いることについて、請求人が、何らかの具体的アドバイス等を与えた旨は証言していない。
そして、上記証言は、かえって、被請求人たる小川氏がエアゾール缶を用いることの発案者であることを裏付け得るものの、請求人が特徴的部分1の(1)の完成に創作的に寄与したというべき根拠にはならないことが明らかである。
次に、甲第1号証ないし甲第16号証に基づき、請求人が特徴的部分1の(1)の完成に創作的に寄与したといえるかについても検討する。
甲第1号証ないし甲第5号証からは、請求人が本件特許の出願後の手続きにおいて、被請求人の求めに応じて、意見書等の書き方のアドバイスをしていたことが伺えるが、これらの証拠は、出願後のものであるから、本件特許の出願前に、請求人が特徴的部分1の(1)に関する何らかの具体的アドバイスを与えたこと等の自らの創作的な寄与の存在を直接または間接的に示すものではない。
甲第6号証は日本インテグレーテッドワークス株式会社の設立時期に関するものであり、甲第7号証、甲第8号証は請求人のデュポン株式会社退社時期等に関するものであり、甲第9号証は日本インテグレーテッドワークス株式会社における発明の取り扱いに関する規定の有無に関するものであり、甲第10号証ないし甲第14号証は本件特許の申請費用等に関するものであり、甲第15号証は本件特許の開発の契機に関するものであり、甲第16号証は本件特許の完成時期に関するものであるが、これらの証拠も、特徴的部分1の(1)について、本件特許の出願前に、請求人が何らかの具体的アドバイスを与えたこと等の、自らの創作的な寄与の存在を直接または間接的に示すものではない。
ゆえに、甲第1号証ないし甲第16号証からは、請求人が特徴的部分1の(1)の完成に創作的に寄与したというべき事実はみいだせない。
したがって、特徴的部分1の(1)の完成には、請求人の創作的寄与はなかったものと認められる。

(2)「注入管が少なくとも全長1メートル以上の長さを有すること」(以下、「特徴的部分1の(2)」という。)について
請求人は、特徴的部分1の(2)は、遠藤氏、請求人及び被請求人で話し合いをしている際に出てきた旨を主張している(第4.1.(3)イ.(イ)b.及び第4.1.(3)ウ.(イ)b.)。
また、平成27年2月19日に行われた本人尋問では、「0136 チューブの長さ、これを長くしなきゃというふうに思われた、それをぱっと発案されたというのは、どなたか憶えていますか。」との質問に対し、「いや私は、長さが1mというのは私じゃないような気がします。」と証言しており(第5.3.(2)を参照)、注入管の長さについて、請求人が、何らかの具体的アドバイス等を与えた旨は証言していない。
そして、上記証言は、請求人が特徴的部分1の(2)の完成に創作的に寄与したというべき根拠にはならないことが明らかである。
さらに、甲第1号証ないし甲第16号証は、上記の「遠藤氏、請求人及び被請求人で話し合い」の具体的内容を示すものでもなければ、特徴的部分1の(2)について、本件特許の出願前に、請求人が何らかの具体的アドバイスを与えたこと等の、自らの創作的な寄与の存在を直接または間接的に示すものではない。
ゆえに、甲第1号証ないし甲第16号証からは、請求人が特徴的部分1の(2)の完成に創作的に寄与したというべき事実はみいだせない。
したがって、特徴的部分1の(2)の完成には、請求人の創作的寄与はなかったものと認められる。

(3)「注入管の他端周辺において異なる位置に、少なくとも2箇所以上の噴霧用穴が洗浄液の進行方向と直交する方向に設けられること」(以下、「特徴的部分1の(3)」という。)について
請求人は、特徴的部分1の(3)も、遠藤氏、請求人及び被請求人で話し合いをしている際に出てきた旨を主張している(第4.1.(3)イ.(イ)c.)。
また、平成27年2月19日に行われた本人尋問では、「0064 ・・・長さを1m以上にするとか、ノズルの穴を側方、外向き方向にあけるとか、そういう細かいことに、全体の構成を決めたのはだれですか。・・・ノズルの長さを1m以上にしたほうがいい、先端のノズルは真ん中ではなくて横にやったほうがいい、そういう個別具体的な技術的な最初の発想は、誰が考えたんですか。」との質問に対して、「それは、多分話し合いの中で生まれてきたんじゃないかと思います。明確に本人が「こうだ、こうだ、こうだ」というふうに我々に言ってきて、我々もそれについて了解したというようなやり方ではなかったと思います。ですから、それは明確に私からは言えません。」と証言しており(第5.2.(1)を参照)、噴霧用穴を設ける位置について、請求人が、何らかの具体的アドバイス等を与えた旨は証言していない。
そして、上記証言は、請求人が特徴的部分1の(3)の完成に創作的に寄与したというべき根拠にはならないことが明らかである。
さらに、甲第1号証ないし甲第16号証は、上記の「遠藤氏、請求人及び被請求人で話し合い」の具体的内容を示すものでもなければ、特徴的部分1の(3)について、本件特許の出願前に、請求人が何らかの具体的アドバイスを与えたこと等の、自らの創作的な寄与の存在を直接または間接的に示すものではない。
ゆえに、甲第1号証ないし甲第16号証からは、請求人が特徴的部分1の(3)の完成に創作的に寄与したというべき事実はみいだせない。
したがって、特徴的部分1の(3)の完成には、請求人の創作的寄与はなかったものと認められる。

(4)小括
よって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。

3.本件発明2の特徴的部分の完成への請求人の創作的寄与について
本件発明2の特徴的部分は、上記したとおり「ノズルが一度押すとその状態で保持される構造であるとともに、5分から20分間連続して洗浄液を噴出することが可能であること」(以下、「特徴的部分2」という。)である。
請求人は、特徴的部分2は、遠藤氏の提案によるものであり、一度押すとロックされ、内容物を連続して噴射し続けるノズルは、既に市販されていた旨を主張している(第4.1.(3)イ.(ウ)及び第4.1.(3)ウ.(ウ))。
また、平成27年2月19日に行われた本人尋問では、「0135 ・・・チューブとか噴射口の向きだとかというところを、いろいろ考えていったんだと思うんですけれども、それぞれのアイデアというのは、誰が出したかというのを覚えていらっしゃいますか。」との質問に対して、「・・・それから、スプレー缶の引き金といいますか、普通ボタンをずっと押していれば、押している間しか出ないというのが一般なんですけど、一応、専門家筋ではぐっと押したらロックするというタイプなんですね。それを遠藤さんが見つけてきて、これでできるんじゃないかという話になっていったと……。」と証言しており(第5.3.(2)を参照)、上記特徴的部分2について、請求人が、何らかの具体的アドバイス等を与えた旨は証言していない。
そして、上記証言は、遠藤氏が、一度押すとロックされ、内容物を連続して噴射し続けるノズルを用いることの提案者であることを裏付け得るものの、請求人が特徴的部分2の完成に創作的に寄与したというべき根拠にはならないことが明らかである。
さらに、甲第1号証ないし甲第16号証は、特徴的部分2について、本件特許の出願前に、請求人が何らかの具体的アドバイスを与えたこと等の、自らの創作的な寄与の存在を直接または間接的に示すものではない。
ゆえに、甲第1号証ないし甲第16号証からは、請求人が特徴的部分2の完成に創作的に寄与したというべき事実はみいだせない。
したがって、特徴的部分2の完成には、請求人の創作的寄与はなかったものと認められる。
よって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明2に係る特許を無効にすることはできない。

4.本件発明3の特徴的部分の完成への請求人の創作的寄与について
本件発明3の特徴的部分は、上記したとおり「噴射用穴において、噴射角が30度から120度の範囲内で洗浄液が噴射されるように設けられていること」(以下、「特徴的部分3」という。)である。
請求人は、特徴的部分3は、遠藤氏、請求人及び被請求人で話し合いをしている際に出てきた旨を主張している(第4.1.(3)イ.(エ)及び第4.1.(3)ウ.(エ))。
また、平成27年2月19日に行われた本人尋問では、上記特徴的部分3について、請求人が、何らかの具体的アドバイス等を与えた旨は証言していない。
さらに、甲第1号証ないし甲第16号証は、特徴的部分3について、本件特許の出願前に、請求人が何らかの具体的アドバイスを与えたこと等の、自らの創作的な寄与の存在を直接または間接的に示すものではない。
ゆえに、甲第1号証ないし甲第16号証からは、請求人が特徴的部分3の完成に創作的に寄与したというべき事実はみいだせない。
したがって、特徴的部分3の完成には、請求人の創作的寄与はなかったものと認められる。
よって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明3に係る特許を無効にすることはできない。

5.本件発明1ないし本件発明3に関する製品開発への請求人の関わり方について
請求人は、「本件特許については、請求人が被請求人に対して、開発途中から申請後の意見書作成に至るまで、技術面及び洗浄剤成分に関するアドバイスを行うことなくして完成することはなかった」旨(第4.1.(3)イ.(オ))を主張している。
ここで、上記洗浄剤成分に関するアドバイスについては、甲第7号証及び甲第8号証の記載や、請求人の証言(第5.1.(1)を参照)から、請求人は、本件特許の出願前から、デュポン株式会社に勤務し、化学的な知識に基づく助言を行っていたことが推認される。
しかしながら、上記洗浄剤成分は、本件発明1ないし本件発明3の特徴的部分とは無関係のものである。
そして、上記洗浄剤成分以外のアドバイスについては、アドバイスの具体的な内容を示す証言はしておらず、上記アドバイスの具体的な内容を示す証拠も提出していない。
しかも、本件発明1ないし本件発明3の特徴的部分については、例えば、「それを遠藤が持ってきて小川さんのほうと話をされたときに、「じゃ、スプレー缶を使ってできないか」というのが出てきたというふうに聞いております。」(第5.1.(2)を参照)、「・・・多分ガソリンだと思いますけど。ただ、黒煙が出るというのは、エンジンのクリーニング装置を使ってクリーニングをしているときに、黒煙がすごかったというふうに聞いてます。」(第5.2.(2)を参照)、「・・・ただ、その時点ではまだ、どうしよう、ああしようというものまでは決まってはいなかったと思うんですけど、あのばかでかい装置からスプレー缶化にとんと落とすことだけで大分いいんじゃないかという話に展開していったというふうに聞いています。」(第5.2.(2)を参照)のように伝聞形式の証言が目立ち、本件発明1ないし本件発明3の特徴的部分の創作に、請求人が積極的に関与し、貢献したと認めるに足る根拠は、どこにもみいだせない。
一方、被請求人については、乙第10号証及び乙第15号証の被請求人の手帳、乙第12号証の実験データ等の証拠を提示し、本件特許の出願前に自らが本件発明1ないし本件発明3の特徴的部分の創作に寄与していたことを主張しているところ、請求人からは、これらの主張を覆す主張はなく証拠も提示されていない。
したがって、本件発明1ないし本件発明3に関する製品開発への請求人の関わり方は、せいぜい洗浄剤成分等の化学的な知識に基づく助言が主なものであり、その余の事項については、話し合い等には参加していたが、本件発明1ないし本件発明3の特徴的部分に創作的寄与をするような関わり方ではなかったと認めざるを得ない。

6.その他の請求人の主張について
なお、請求人の「請求人が本件特許の特許登録申請手続について代表取締役であった被請求人に一任していたところ、請求人の了解を得ることなく、本件特許について、被請求人単独を発明者、申請者及び特許権者とした特許登録がされた。」旨(第3.1.(3)ア.(イ))、「請求人は、申請時においては権利の帰属について特段の注意を払うことはなく、早期に会社の事業を軌道に乗せるため、製品開発に注力していたところ、被請求人は自らが申請することで特許申請にかかる経費が抑えられる等の説明をして、請求人及び遠藤氏の明確な同意を得ないまま申請を行う一方、費用については設立後の日本インテグレーテッドワークス株式会社から支出している。」旨(第4.1.(3)イ.(オ))の記載は、「本件特許の特許権者は、日本インテグレーテッドワークス株式会社である」ことを主張する趣旨であるようにも思われる(以下、「その他主張」という。)。
しかしながら、本件の無効理由は、第4.1.(1)に示したとおり「本件特許にかかる発明は、請求人と被請求人が共同して発明したものであるにもかかわらず、被請求人が単独で出願したものであるから、特許法第38条の規定により特許を受けることができない」というものであるところ、上記「その他主張」は、本件の無効理由とは無関係の主張であり、失当である。
したがって、上記「その他主張」は採用できない。


第6.むすび
以上のとおり、請求人は、本件発明1ないし3の特徴的部分のいずれについても、その共同発明者であると認めることはできないから、本件発明1ないし3について請求人が主張する無効理由には、理由がない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-19 
結審通知日 2015-08-21 
審決日 2015-09-16 
出願番号 特願2006-304691(P2006-304691)
審決分類 P 1 113・ 151- Y (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 直村山 達也  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 渡邊 豊英
渡邊 真
登録日 2010-11-05 
登録番号 特許第4619344号(P4619344)
発明の名称 エアゾール装置  
代理人 新田 裕子  
代理人 眞鍋 涼介  
代理人 武智 裕子  
代理人 海老原 輝  
代理人 上吉原 宏  
代理人 加藤 怜  
代理人 澤田 雄二  
代理人 田村 信彦  
代理人 介川 康史  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ