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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 C07B 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 C07B 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C07B |
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管理番号 | 1307598 |
審判番号 | 無効2013-800241 |
総通号数 | 193 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-01-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2013-12-25 |
確定日 | 2015-05-07 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3746315号発明「分離剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第3746315号(以下「本件特許」という。)は、平成7年7月6日(優先権主張;平成6年7月7日 日本国、平成6年8月22日 日本国)を出願日として出願されたものであって、平成17年12月2日にその設定登録がなされ、その後、当審において、以下の手続を経たものである。 無効審判請求書提出 平成25年12月25日 審判事件答弁書提出 平成26年3月31日 審理事項通知 平成26年5月12日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成26年6月24日 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成26年6月24日 上申書(請求人)提出 平成26年7月8日 上申書(被請求人)提出 平成26年7月8日 口頭審理 平成26年7月8日 審決の予告 平成26年9月1日 訂正請求 平成26年10月31日 上申書(被請求人)提出 平成26年10月31日 審判事件弁駁書提出 平成26年12月26日 第2 平成26年10月31日付け訂正請求による訂正について 平成26年10月31日付け訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)について、特許法第134条の2の規定に違反しない適法なものであるか否かを検討する。 1 訂正請求の趣旨 特許第3746315号の明細書及び特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求める。 2 本件訂正請求の内容 (1)訂正事項1 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「多糖誘導体」の記載をすべて「アミロース誘導体」へと訂正するものである。 (2)訂正事項2(訂正事項2-1及び訂正事項2-2) 訂正事項2は、訂正前の請求項2の「多糖誘導体がエステル誘導体またはカルバメート誘導体である」との記載を「アミロース誘導体がカルバメート誘導体であり、」と訂正する(訂正事項2-1)とともに、「前記アミロース誘導体の重量平均分子量が159,300?500,000(ポリスチレン換算)である」の事項を加える訂正をする(訂正事項2-2)ものである。 (3)訂正事項3(訂正事項3-1及び訂正事項3-2) 訂正事項3は、訂正前の請求項3の「担体が粒径1μm?10mm、孔径10Å?100μmのシリカゲルである」との記載を「担体が粒径1μm?10mm、孔径10Å?100μmのシリカゲルであり、前記アミロース誘導体がアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)であり、」と訂正する(訂正事項3-1)とともに、「前記アミロース誘導体の重量平均分子量が159,300?500,000(ポリスチレン換算)である」の事項を加える訂正をする(訂正事項3-2)ものである。 (4)訂正事項4(訂正事項4-1及び訂正事項4-2) 訂正事項4は、訂正前の請求項4の「液体クロマトグラフィーに用いられる」との記載を「前記アミロース誘導体がアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)であり、」の事項(訂正事項4-1)、及び「前記アミロース誘導体の重量平均分子量が159,300?500,000(ポリスチレン換算)であり、」の事項(訂正事項4-2)を加えて、「前記アミロース誘導体がアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)であり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が159,300?500,000(ポリスチレン換算)であり、液体クロマトグラフィーに用いられる」と訂正するものである。 (5)訂正事項5 願書に添付した明細書の段落【0001】、段落【0002】第3文から段落【0010】まで、並びに段落【0012】、段落【0013】、段落【0016】、段落【0018】、段落【0021】及び段落【0023】にそれぞれ記載される「多糖」の記載をすべて「アミロース」へと訂正するものである。 (6)訂正事項6 願書に添付した明細書の段落【0004】に記載される「例示すれば、β-1,4 -グルカン(セルロース)、α-1,4 -グルカン(アミロース、アミロペクチン)、α-1,6 -グルカン(デキストラン)、β-1,6 -グルカン(プスッラン)、β-1,3 -グルカン(カードラン、シゾフィラン)、α-1,3 -グルカン、β-1,2 -グルカン(Crown Gall多糖)、β-1,4 -ガラクタン、β-1,4 -マンナン、α-1,6 -マンナン、β-1,2 -フラクタン(イヌリン)、β-2,6 -フラクタン(レバン)、β-1,4 -キシラン、β-1,3 -キシラン、β-1,4 -キトサン、β-1,4 -N-アセチルキトサン(キチン)、プルラン、アガロース、アルギン酸、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンなどであり、アミロースを含有する澱粉等も含まれる。この中、好ましいものは、高純度の多糖を容易に得ることのできるセルロース、アミロース、β-1,4 -キトサン、キチン、β-1,4 -マンナン、β-1,4 -キシラン、イヌリン、カードランなどであり、さらに好ましくは、セルロース、アミロースである。」の記載を削除する。 3 本件訂正請求の適法性(特許法第134条の2の規定に違反しないか)についての判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は請求項1の「多糖誘導体」の「多糖」を「アミロース」に訂正する訂正事項である。これは、「多糖」を、その下位概念である「アミロース」に限定するものであるから、特許法134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、また、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」に該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 また、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には段落【0004】において、 「本発明における多糖とは、・・・ものである。例示すれば、・・・などであり、アミロースを含有する澱粉等も含まれる。この中、好ましいものは、・・・などであり、さらに好ましくは、セルロース、アミロースである。」(下線は当審において付したものである。) と記載されていることから、訂正事項1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2-1について 訂正事項2-1は、上記「(1)訂正事項1について」において述べたところの、訂正事項1で「多糖誘導体」を訂正(減縮)した「アミロース誘導体」について、誘導体の種類として選択的に記載されていた「『エステル誘導体』または『カルバメート誘導体』」の内の「エステル誘導体」を削除して「カルバメート誘導体」のみに限定する訂正をするものであるから、特許法134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、また、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」に該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 また、訂正事項2-1が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかであり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 イ 訂正事項2-2について 訂正事項2-1は、上記「(1)訂正事項1について」において述べたところの、訂正事項1で「多糖誘導体」を訂正(減縮)した「アミロース誘導体」について、その重量平均分子量を「159,300?500,000(ポリスチレン換算)」と特定するものであるから、特許法134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 また、多糖誘導体の重量平均分子量の数値範囲を特定することは、願書に添付した(訂正前の)特許請求の範囲の請求項1や明細書の段落【0006】において記載されていた事項であることから、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」に該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 また、「159,300?500,000(ポリスチレン換算)」の下限値「159,300」は、願書に添付した明細書の段落【0018】の 「実施例1と同様にしてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=1.47、Mw=159,300(いずれもポリスチレン換算)であった。」 の記載を根拠にするものであり、上限値の「500,000」は、願書に添付した(訂正前の)特許請求の範囲の請求項1や明細書の段落【0006】の 「本発明における多糖誘導体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、1,000?500,000 が好ましく、更に好ましくは20,000?500,000 である。」 の記載を根拠にするものといえるから、訂正事項2-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 (3)訂正事項3について ア 訂正事項3-1について 訂正事項3-1は、上記「(1)訂正事項1について」において述べたところの、訂正事項1で「多糖誘導体」を訂正(減縮)した「アミロース誘導体」について、さらに、当該「アミロース誘導体」がその下位概念である「アミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)」であることを特定する訂正であるから、特許法134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、また、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」に該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 また、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には段落【0012】(及び【0016】、【0018】、【0021】)において 「アミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。」 と記載されていることから、訂正事項3-1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 イ 訂正事項3-2について 訂正事項3-2は、実質的に訂正事項2-2と同じ訂正事項であり、上記「(2)訂正事項2について」の「イ 訂正事項2-2について」において述べた理由と同じ理由により、特許法134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、また、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」に該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項の規定に適合し、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 (4)訂正事項4について ア 訂正事項4-1について 訂正事項4-1は、実質的に訂正事項3-1と同じ訂正事項であり、上記「(3)訂正事項3について」の「イ 訂正事項3-2について」において述べた理由と同じ理由により、特許法134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、また、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」に該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項の規定に適合し、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 イ 訂正事項4-2について 訂正事項4-2は、実質的に訂正事項2-2と同じ訂正事項であり、上記「(2)訂正事項2について」の「イ 訂正事項2-2について」において述べた理由と同じ理由により、特許法134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、また、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」に該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項の規定に適合し、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 (5)訂正事項5及び訂正事項6について 訂正事項5及び訂正事項6は、いずれも、訂正事項1の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合を図るために行った訂正であるから、上記「(1)訂正事項1について」において述べた理由と同様の理由により、特許法134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であり、また、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」に該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項の規定に適合し、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。 (6)一群の請求項ごとにした訂正請求であることについて 請求項2ないし請求項4は、いずれも、請求項1を引用する請求項であるから、請求項1ないし請求項4で一群の請求項を構成するものである。 そして、本件訂正請求は、その請求の趣旨において、一群の請求項ごとに訂正を求めるものであって、訂正事項1ないし訂正事項4によって、当該一群の請求項全体(一群の請求項ごと)の訂正を請求しているといえるから、本件訂正請求が、特許法第134条の2第3項の規定に違反するものでないことは明らかである。 (7)結論 以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第134条の2の規定に違反するものでなく、本件訂正請求を認める。 第3 本件特許発明 上記のとおり本件訂正請求は適法なものであるから、本審決の予告が特許無効についての判断の対象とする発明は、本件訂正請求により訂正された請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)である。 本件発明1ないし本件発明4は、それぞれ、本件の訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3のアミロース誘導体からなり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が54,300?500,000(ポリスチレン換算)であり、前記アミロース誘導体が担体に担持されている光学異性体用分離剤。 【請求項2】 前記アミロース誘導体がカルバメート誘導体であり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が159,300?500,000(ポリスチレン換算)である請求項1記載の分離剤。 【請求項3】 担体が粒径1μm?10mm、孔径10Å?100μmのシリカゲルであり、前記アミロース誘導体がアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)であり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が159,300?500,000(ポリスチレン換算)である請求項1記載の分離剤。 【請求項4】 前記アミロース誘導体がアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)であり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が159,300?500,000(ポリスチレン換算)であり、液体クロマトグラフィーに用いられる請求項1記載の分離剤。」 第4 当事者の主張 1 請求人の主張の概要 請求人は、本件発明1ないし4についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲第1号証ないし甲第36号証を提出し(なお、甲第14号証ないし甲第26号証は、当審における審理事項通知での要請に応じて口頭審理陳述要領書に添付して追加された証拠であり、また、甲第27号証ないし甲第36号証は、平成26年12月26日付けで提出された審判事件弁駁書に添付して追加された証拠である。)、以下のとおり主張している。 (1)無効理由1 ア 進歩性欠如の理由1 本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載された発明及び周知、慣用技術(甲第2号証ないし甲第12号証)に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。なお、周知、慣用技術を間接的に裏付ける証拠として、甲第14号証ないし甲第18号証及び甲第27号証ないし甲第36号証を提示する。 よって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 イ 進歩性欠如の理由2 本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載された事項(発明の目的)を勘案すると、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて、又は、甲第3ないし12号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (2)無効理由2 本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし4を実施できる程度に十分かつ明確に記載されたものでないから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成14年改正前特許法」という。)第36条第4項に規定する要件を満たしていないものであり、その特許は、平成14年改正前特許法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 そして、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし4を実施できる程度に十分かつ明確に記載されたものでないとする理由は、本件発明1の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法及び測定条件が発明の詳細な説明に記載されておらず、当該測定のために当業者に過度の試行錯誤を強いるものとなるからであるとする。 詳述すると、当該測定方法として、GPC法が一般的には知られているとしても、そのGPC法による測定は、測定の日時、場所、実験者、測定機械、測定条件によって大きなばらつきが生じる。一方で、GPC法は測定に信頼性があるものである。そうすると、同じ多糖誘導体についても、測定の日時、場所、実験者、測定機械、測定条件によって、MwやMw/Mnの値は、一定のばららつきをもって複数個存在することになり、本件発明1ないし4を実施するには、無数の測定を行う必要があり、よって、上記のように当業者に過度の試行錯誤を強いるものとなるといえる。 (3)無効理由3 本件発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載したものではないから特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、その特許は、平成14年改正前特許法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 そして、本件発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載したものではないとする理由の概要は、本件発明1ないし4それぞれにおいて特定された「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn」の数値範囲及び「アミロース誘導体の重量平均分子量Mw」の数値範囲によって規定される領域に、本件発明1ないし4の効果が奏されるか否かについて具体的開示がない領域が含まれるから、本件発明1ないし4が発明の詳細な説明の記載によってサポートされていないとするものである。 2 甲第1?36号証 請求人が提出した証拠方法(甲第1?36号証)は、次のとおりである。 (1)甲第1号証:特開昭62-195395号公報 (2)甲第2号証:J.Am.Chem.Soc.;106, p.5357-5359, 1984 (3)甲第3号証:特公昭63-12850号公報 (4)甲第4号証:特開昭60-108751号公報 (5)甲第5号証:特開平2-289601号公報 (6)甲第6号証:特開平4-202141号公報 (7)甲第7号証:CHEMISTRY LETTERS; p.1857-1860, 1987 (8)甲第8号証:特開平1-216943号公報 (9)甲第9号証:特開平5-70599号公報 (10)甲第10号証:特開平5-85947号公報 (11)甲第11号証:特開平5-180818号公報 (12)甲第12号証:特開平5-249093号公報 (13)甲第13号証:高分子論文集;Vol.48, No.8, p.507-515,1991 (14)甲第14号証:「総合論文;多糖誘導体をキラル固定相に用いる液体クロマトグラフィーによる光学分割」,『有機合成化学協会誌』第51巻第1号(1993),p.59-71 (侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の乙第17号証) (15)甲第15号証:CHEMISTRY LETTERS, p.739-742, 1984, (侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の乙第20号証) (16)甲第16号証:Journal of Chromatography, 363(1986), p.173-186, (侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の乙第21号証) (17)甲第17号証:Journal of Chromatography, 389(1987), p.95-102, (侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の乙第22号証) (18)甲第18号証:CHEMISTRY LETTERS, p.909-912, 1990, (侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の乙第23号証) (19)甲第19号証:『液体クロマトグラフィーとその応用』(1974),(侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の乙第18号証) (20)甲第20号証:「クロマトグラフィー」第5版,(昭和31年),(侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の乙第19号証) (21)甲第21号証:侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の被告第1準備書面 (22)甲第22号証:侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の被告第2準備書面 (23)甲第23号証:侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の被告証拠説明書(乙1?6) (24)甲第24号証:侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の被告証拠説明書(乙7?14) (25)甲第25号証:侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の被告証拠説明書(乙15?29) (26)甲第26号証:侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の「準備書面(原告その1)」 (27)甲第27号証:特開平6-63310号公報 (28)甲第28号証:特開平6-7612号公報 (29)甲第29号証:特開平5-232099号公報 (30)甲第30号証:特開平5-163192号公報 (31)甲第31号証:特開平6-170111号公報 (32)甲第32号証:特開平5-51327号公報 (33)甲第33号証:特開平6-157358号公報 (34)甲第34号証:CHIRALCEL OD-H カラム 取扱説明書 (35)甲第35号証:CHIRALPAK AD-H カラム 取扱説明書 (36)甲第36号証:有機合成化学協会誌 Vol.54(1996) p.344-353 3 被請求人の主張の概要 これに対して被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として乙第1号証ないし乙第20号証及び参考資料1ないし5を提出し(なお、乙第11号証ないし乙第14号証は平成26年7月8日提出の上申書に添付して提出されたものであり、また、乙第15号証ないし乙第20号証及び参考資料1ないし5は、平成26年10月31日付けで提出された上申書に添付して追加された証拠及び参考資料である。)、以下のとおり主張している。 (1)無効理由1 について 本件発明1ないし4は、甲第1号証ないし甲第12号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、請求人の主張する進歩性欠如の理由1及び進歩性欠如の理由2はいずれも理由がない。したがって、本件特許は、無効とされるべきものではない。 (2)無効理由2について 本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし4を実施できる程度に十分かつ明確に記載されたものであるから、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものであり、本件特許は、無効とされるべきものではない。 そして、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は当業者が本件発明1ないし4を実施できる程度に十分かつ明確に記載されたものであるとする理由の概要は、GPC法は本件出願時に分子量測定法として確立された汎用的な方法であり、GPC測定において当業者は測定目的・測定対象に応じて適切な測定条件を設定するべきであることは当然であり、かつ、当該適切な条件の選択のしかたについては乙第6号証ないし乙第8号証にも示されているように公知の事項であるから、発明の詳細な説明におけるGPC測定における測定条件等の記載は不要であるというものである。 (3)無効理由3について 本件発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載したものであるから特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、本件特許は、無効とされるべきものではない。 その理由は、要するに、サポート要件を満たすためには、特許請求の範囲に記載された発明が、「発明の詳細な説明として記載されたもの」であり、「発明の詳細な説明の記載」と「出願時の技術常識」に基づいて、当業者が「当該発明の課題を解決できると認識できる発明」であるかどうかであって、請求項の全範囲をカバーする具体例が要求される訳ではない、というものである。 4 乙第1?20号証及び参考資料1?5 被請求人が提出した証拠方法(乙第1?20号証及び参考資料1?5)は、次のとおりである。 (1)乙第1号証:医薬品とキラリテイー(原昭二 外2 編,「<化学増刊123>モレキュラー・キラリティー」,株式会社化学同人,1993, p.157-158) (2)乙第2号証:CHRALPAK AD InstructionManual, 1992 (3)乙第3号証:Wako, Analytical Circle No.20, 2001 (4)乙第4号証:光学分割用カラム取扱説明書(ダイセル化学工業株式会社) (5)乙第5号証:Journal of Chromatography, 363(1986), p.173-186 (6)乙第6号証:高分子分析ハンドブック(日本分析化学高分子分析研究懇談会編,株式会社朝倉書店,p.24-29,1985) (7)乙第7号証:カラム充填剤の選択と使い方(武藤義一編,株式会社講談社,1983,p.202-209) (8)乙第8号証:サイズ排除クロマトグラフィー(森定雄編,共立出版株式会社,1992,p.84-87,134-137,152-153) (9)乙第9号証:実験報告書(株式会社ダイセル CPIカンパニー ライフサイエンス開発センター,大西敦,2014.3.31) (10)乙第10号証:実験報告書(2)(株式会社ダイセル CPIカンパニー ライフサイエンス開発センター,大西敦,2014.3.31) (11)乙第11号証:第28回HPLC研究談話会要旨集(平成3年1月7日),p.24-27 (12)乙第12号証:Chromatographia, Vol.19, 1984, p.280-284 (13)乙第13号証:Cell.Commun, Vol.1, No.1, 1994, p.20-24 (14)乙第14号証:YMC最新情報「第27回インターフェックスジャパン 展示品紹介」,2014.6.20 (15)乙第15号証:岡本教授意見書 (16)乙第16号証:磯貝教授意見書 (17)乙第17号証:原書23版 ハーパー・生化学 平成5年9月25日発行 発行所 丸善株式会社 (18)乙第18号証:モリソン ボイド 有機化学(下)第5版 1992年6月10日発行 発行所 株式会社東京化学同人 (19)乙第19号証:高分子化学 第4版 1993年4月25日発行 発行所 共立出版株式会社 (20)乙第20号証:実験報告書 (21)参考資料1:柴田氏宣誓供述書 (22)参考資料2:岡本教授氏宣誓供述書 (23)参考資料3:村上氏宣誓供述書 (24)参考資料4:欧州特許第718625号に関する、異議決定に対する不服の審判についての技術審判部の審決(DECISION of Technical Board of appeal) (25)参考資料5:異議決定にかかるクレーム 第5 証拠の記載事項 1 甲各号証の記載事項 (1)甲第1号証 甲第1号証には次の事項が記載されている。(下線は当審において付したものである。) 〔1-1a〕「2.特許請求の範囲 酸性水溶液中加熱して低分子量化したセルロースを分子量が変化しない温和な条件で誘導体化した後、含水もしくは無水有機溶媒中で再沈殿させて分子量の異なる成分を分別することを特徴とする重合度が5乃至400で、数平均分子量/重量平均分子量の比が3以下の分子量分布の狭い低分子量セルロース誘導体の製法。」(第1ページ左下欄第5?12行) 〔1-1b〕「3.発明の詳細な説明 (産業上の利用分野) 本発明はセルロースを酸性水溶液中加熱して低分子量化したセルロースを誘導体化し、低分子量で分子量分布が狭いセルロース誘導体を得る方法に関する。低分子量でしかも分子量分布の狭いセルロース誘導体は粘度が低い、溶解性が高い、分子鎖の長さが均一であるなどのため優れた物性を持つことから、その用途範囲が広く、例えばシリカゲルなどの担体に吸着あるいは化学結合させた場合に、製造が容易でしかも品質安定性の優れた分離用充填剤が得られる。また、高分子液晶とした場合には優れた性能が期待される。」(第1ページ左下欄第13行?右下欄8行) 〔1-1c〕「(従来技術と問題点) 従来、このような低分子量セルロース誘導体の製法としては、アセチル化セルロースを酸によって解重合させる方法があるが、分子量分布は必ずしも狭まくなく、また、他の誘導体に変換する場合には脱アセチル化する必要があった。 一方、酸性水溶液中加熱して低分子量化したセルロースとしてはI型セルロースである微結晶セルロース(商品名アビセル等)および、II型セルロースを酸性水溶液中で低分子量化したレベルオフセルロースが知られている。本発明者らは、セルロースを酸性水溶液中加熱して得られるこれら低分子量セルロースを分子量が変化しない温和な条件で誘導体化を行った後、これをゲル・バミュエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって分析すると、単一ピークではなく少なくとも二つ以上の分子量の異なる成分の混合物であることを見出し、更にこれらの成分を分別する方法を鋭意検討した結果、再沈殿によって完全に分別する方法を見出して本発明を完成するに至った。」(第1ページ右下欄第9行?第2ページ左上欄第8行) 〔1-1d〕「(問題点を解決するための手段) 即ち、本発明は酸性水溶液中加熱し低分子量化したセルロースを温和な条件で誘導体化した後、含水もしくは無水有機溶媒中で再沈殿させて分子量の異なる成分を分別することを特徴とする低分子量で分子量分布が狭いセルロース誘導体の製法に関する。本発明に於いて用いられる原料のセルロースはいかなるものでもよく、普通に綿もしくはパルプから得られるものやレーヨンのような再生セルロース等を使用すればよい。」(第2ページ左上欄第9?18行) 〔1-1e〕「こうして得られた分子量分布の狭いセルロース誘導体の単分散性は好ましくは数平均分子量/重量平均分子量(MW/MN)の比が3以下である。このようにして得られた低分子量セルロースカルバメート誘導体及びアシル化セルロース及びセルロースエーテル類は溶解度が高く、低粘度であるためシリカゲルなどの担体に坦持させ易く、品質が高く均一な分離用充填剤が得られると期待される、また、高分子液晶としても優れた性能が期待される。また、これらセルロース誘導体から元のセルロースに容易に再変換できる場合は、重合度が低く、分子量分布の狭いセルロースが得られる。」(第3ページ左下欄第15行?右下欄第7行) 〔1-1f〕「(実施例) 以下、実施例をもって、本発明を詳述するが、本発明がこれに限定されるものでないことは言うまでもない。尚、実施例中分子量は標準ポリスチレンに対する較正曲線を用いてGPC法により求めた。GPCカラムはTSK G4000HXL と Shodex KF-803を連結し、溶媒にはテトラヒドロフランを使用した。 実施例1 アルセル化したセルロース(II型セルロース)を希塩酸中30分間90℃に加熱する。冷却後、濾(当審注;原文においては簡易字体、以下同様)過し、続いて水およびメタノールで洗浄する。得られた低分子量セルロースをよく乾燥し、16.2gをはかり取る。これに乾燥ピリジン324mlを加え、ゆっくり加熱しながらフェニルイソシアナート81gを滴下する。その後反応温度を100℃に上げ7時間反応する。反応終了後15℃に冷却し一晩放置した後、メタノール30mlをゆっくり滴下する。、メタノール・水(2:1)混合溶媒3l中に移し沈殿させる。得られた租生成物は濾過し、さらにメタノール・水(2:1)混合溶媒500mlで洗浄した後、乾燥する。得られた淡褐色固体は、Mw/Mn=2.37であった。これをアセトン310mlに溶解し、エタノール900ml中移して沈殿させる。沈殿部をもう一度アセトン200mlに溶解した後、メタノール1l中に移し沈殿させる。沈殿した白色固体は濾別して乾燥すると18.7g(収率44%)であった。この白色固体は、IRスペクトル、NMRスペクトルより、セルローストリスフェニルカルバメートであることを確認した。 IRスペクトル;3500cm νNH, 3300cmνNH, 1700cm νC=0 , 1530cmνNH NMRスペクトル;18H broad singlet δ7, 7H multipulets δ6.0-3.0 元素分析 測定値;C;60.93%, H;4.68%, N;7.93% 理論値;C;62.42%, H;4.85%, N;8.09% [(C_(27)H_(25)N_(3)O_(8))_(n)として] 得られたセルローストリスフェニルカルバメートの分子量は次の通りであった。 MN=25900,MW/MN=1.35(重合度50) 得られたセルローストリスフェニルカルバメートのTHFからえられたドープは肉眼で観察すると見かけ上濁っており、また玉虫色及びまたは真珠様を呈していた。また、直交偏光顕微鏡での観察ではTHF中のドープは少なくとも試料の一部分を光が透過した。」(第3ページ右下欄第16行?第4ページ右上欄末行) 〔1-1g〕「実施例2 レーヨン(II型セルロース)を希塩酸中、1時間半90℃に加熱する冷却後、ろ過し、続いて水およびメタノールで洗浄する。得られた低分子量セルロースをよく乾燥し、1.5gをはかり取る。これに乾燥ピリジン50mlを加えさらに乾燥トリエチルアミン11.6mlを加えて攪拌しながら桂皮酸クロリド10.5gをベンゼン5gに溶解したものを滴下する。その後反応温度を85℃に1.5時間、さらに100℃に上げ3時間反応する。反応終了後15℃に冷却しメタノールに滴下し沈殿させる。租生成物はろ過し、さらにメタノールで洗浄した後、乾燥する。収量は5.0gであった。得られた淡褐色固体は、IRスペクトル、NMRスペクトルより、セルローストリシンナメートであることを確認した。 IRスペクトル;3050cm^(-1)付近、オレフィン性C=H 伸縮振動、 1640cm^(-1)C=C,伸縮振動 1585,1500,1460cm^(-1)、ベンゼン環内炭素と炭素間の伸縮によ る骨格振動, 1250cm^(-1)、エステルのC-0 伸縮振動, 1040-1160cm^(-1)セルロースのC-0-Cの伸縮振動。 990cm^(-1)オレフィン性C-H変角振動, 875-900cm^(-1)ベンゼン環の面外変角振動 (塩化メチレンに溶解後、食塩に塗布し、乾燥したものを測定した。) セルロースのOH基に基ずく3450cm^(-1)付近の吸収はほとんど認められずほぼ三置換体であることを示した。 NMRスペクトル; 5.9-7.9ppm 桂皮酸の部分のプロトン 3.2-5.5ppm セルロースのグルコース環及び6位のメチ レンのプロトン (これらの吸収の強度比は3:1であった)。 元素分析 測定値;C;60.93% H;4.68% N;7.93% 理論値;C;62.42% h;4.85% N;8.09% [(C_(27)H_(25)N_(3)0_(8))_(n)として] このセルローストリシンナメートの分子量は次の通りであった。 MN=7200,MW/MN=1.53(重合度13)」 〔1-1h〕「実施例4 微結晶セルロース(E.Merck製Avicel)をよく乾燥し、25gをはかり取る。これに乾燥ピリジン500mlを加え、ゆっくり加熱しなからp-トリルイソシアナート100gを滴下するその後反応温度を110℃に上げ7時間反応する。反応終了後15℃に冷却しメタノール20mlをゆっくり滴下する。一晩放置した後、メタノール3.2lと水1.6lの混合溶媒中に移し沈殿させる。得られた租生成物は濾過し、さらにメタノール200mlで洗浄した後、乾燥する。得られた淡褐色固体はMW/MN=9.2であった。これをアセトン500mlに溶解した後、再びエタノール4l中に移し沈殿させる。沈殿した白色固体は濾(当審注;原文は略字体、以下同じ)別して乾燥させると81gあった。得られた白色固体はIRスペクトルおよびNMRスペクトルよりセルローストリス-p-トリルカルバメートであることを確認した。分子量は次の通りであった。 MN=5100, MW/MN=1.59(重合度91) 得られたセルローストリス-p-トリルカルバメートのTHFからえられたドープは肉眼で観察すると見かけ上濁っており、また玉虫色及びまたは真珠様を呈していた。また、直交偏光顕微鏡での観察ではTHF中のドープは少なくとも試料の一部分を光が透過した。」(第5ページ右上欄第11行?左下欄末行) 〔1-1j〕「実施例5 微結晶セルロース(E.Merck製Avicel)をよく乾燥し、21.7gをはかり取る。これに乾燥ピリジン434mlを加え、ゆっくり加熱しなからp-クロロフェニルイソシアナート100gを滴下するその後反応温度を100℃に上げ、9時間反応する。反応終了後15℃に冷却しメタノール70mlをゆっくり滴下する。一晩放置した後、メタノール-水(1:1)混合溶媒6l中に移し沈殿させる。得られた租生成物は濾過し、さらにメタノール-水(1:1)混合溶媒1lで洗浄した後乾燥する、この粗生成物はMW/MN=9.95であった。これを再び、アセトン500mlに溶解し、エタノール-水(10:1)混合溶媒3.85lに沈殿させる。沈殿物は濾過し、乾燥させると均一なポリマーが56g得られた。 分子量は次の通りであった。 MN=45900, MW/MN=1.73(重合度74)」(第5ページ右下欄第1行?末行) 〔1-1k〕「実施例6 微結晶セルロース(E.Merck製Avicel)をよく乾燥し、15.8gをはかり取る。これに乾燥ピリジン300mlを加え、ゆっくり加熱しなから3,5-キシリルイソシアナート65gを滴下するその後反応温度を95℃に上げ5時間反応する。反応終了後15℃に冷却しメタノール130mlをゆっくり滴下する。一晩装置した後、メタノール5l中に移し沈殿させる。得られた組成生成物は濾過し、さらにメタノール1lで洗浄した後、乾燥する。再び、アセトン500mlに溶解し、エタノール3lに加えて沈殿させる。沈殿物は濾過し、乾燥させると均一なポリマーが45.6g得られた。一方、濾液を留去して得られる固形物は5.7gであった。 分子型は次の通りであった。 MN=38300,MW/MN=2.20(重合度64)」(第6ページ左上欄第1?16行) (2)甲第2号証 甲第2号証には次の事項が記載されている。(請求人による日本語訳を記載する。) 〔1-2a〕「本稿では、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)用であるセルロース(1)、アミロース(2)、キトサン(3)、キシラン(4)、カードラン(5)、デキストラン(6)、及びイヌリン(7)の様々な多糖類のフェニルカルバメートから調整された高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)用である光学異性体用充填剤を、報告する。」(第5358ページ左欄第7?11行) 〔1-2b〕「前回の報告に加え、今回の結果は、特にシリカゲルに塗布した場合に、多糖誘導体が光学異性体用充填剤として有用であることを示す。」(第5359ページ左欄第15?17行) (3)甲第3号証 甲第3号証には次の事項が記載されている。 〔1-3a〕「本発明は芳香族環を含むセルロース誘導体を物質の分離剤として使用することに関するものである。分離する物質としては通常の低分子化合物以外に特に従来直接分離することが非常に困難であつた光学異性体を主な分離の対象とするものである。」(第1ページ左欄第7行?右欄第2行) 〔1-3b〕「クロマト法による光学異性体の分離の研究は以前より行われている。例えばセルロースまたは一部のセルロース誘導体はカラムクロマトグラフイー用分離剤として光学分割に用いられている。」(第2ページ左欄第3?6行) 〔1-3c〕「芳香族環を含むセルロース誘導体の未反応の水酸基は、本発明の芳香族環を含むセルロース誘導体の異性体分離能を損なわない範囲で、さらにエステル化、カルバメート化、エーテル化を行うことができる。」(第2ページ左欄第33?37行) 〔1-3d〕「本発明の芳香族環を含むセルロース誘導体を主たる構成要素とする分離剤を化合物分離の目的に使用するにはクロマト法が好適である。クロマト法としては、液体クロマト法や薄層クロマト法やガスクロマト法が良い。」(第3ページ左欄第3?6行) 〔1-3e〕「適当な担体の大きさは、使用するカラムやプレートの大きさにより変るが、一般に1μm?10mmであり、好ましくは1μm?300μmである。担体は多孔質であることが好ましく、平均孔径は10Å?100μmであり、好ましくは50Å?50000Åである。」(第3ページ左欄第24?29行) (4)甲第4号証 甲第4号証には次の事項が記載されている。 〔1-4a〕「本発明はセルロース誘導体であるセルロースフエニルカルバメートを物質の分離剤として使用することに関するものである。」(第1ページ左欄第8?10行) 〔1-4b〕「クロマト法による光学異性体の分離の研究は以前より行なわれている。例えば、セルロースまたは1部のセルロース誘導体はカラムクロマトグラフイー用分離剤として光学分割剤に用いられている。」(第1ページ右欄第4?8行) 〔1-4c〕「適当な担体の大きさは使用するカラムやプレートの大きさにより変わるが、一般に1μm?10mmであり、好ましくは1μm?300μmである。担体は多孔質であることが好ましく、平均孔径は10Å?100μmであり、好ましくは、50Å?50000Åである。」(第2ページ右上欄第17行?左下欄第3行) 〔1-4d〕「合成例-2で調製した担持シリカゲルを長さ25cm内径0.46cmのステンレスカラムにスラリー法で充填した。高速液体クロマトグラフは日本分光工業(株)製のTRIROTAR-IIを、検出器にはUVIDEC-IIIおよびDIP-181旋光計を用いた。」(第3ページ左下欄第18行?右下欄第3行) (5)甲第5号証 甲第5号証には次の事項が記載されている。 〔1-5a〕「本発明は、例えば光学分割を行う機能材料として極めて有用な、新規な多糖誘導体に関する。詳細には不斉炭素をもった原子団を有する新規な多糖誘導体であり、又該誘導体からなる分離剤に関する。」(第1ページ右欄第第1?5行) 〔1-5b〕「本発明の多糖のエステル誘導体をなすカルボニル基は前述の一般式(1)で示され、」(第3ページ右上欄第8?9行) 〔1-5c〕「本発明の多糖のカルバメート誘導体をなすカルバモイル基は前述の一般式(2)で示され、」(第3ページ左下欄第4?5行) 〔1-5d〕「本発明の誘導体を分離剤として液体クロマトグラフィー法に応用するには、その粉体としてカラムに充填する方法が簡便である。」(第4ページ左上欄第4?6行) 〔1-5e〕「粉体として用いる場合の粒子の大きさおよび担体の大きさは使用するカラムの大きさによって異なるが、1μm?1mmであり、好ましくは1μm?300μmである。担体は多孔質であることが好ましく、その平均孔径は10Å?100μmであり、好ましくは、50Å?50000Åである。」(第4ページ左上欄第13?17行) (6)甲第6号証 甲第6号証には次の事項が記載されている。 〔1-6a〕「従来から、多糖類、例えばデンプン、デキストラン、セルロースや、セルロース誘導体等が特異的な光学分割能を有していることはよく知られているところであり、なかでも、セルロースそのものよりも、セルロースの水酸基をエステル化等した誘導体、例えばセルローストリアセテート等の化学修飾型セルロースの方が、一般的に光学分割性能か高いことが認められている。 ところで、液体クロマトグラフィーによる光学異性体の直接分割に際し、上記のような光学分割能を有する物質をそのまま液体クロマトグラフィーの充填剤として使用した場合においては、耐圧性面や使用溶媒による膨潤・収縮の面から、使用条件幅が狭く、そのため、そのような問題の発生しない担体に上記物質を担持させて用いる方法か一般的には考えられる。」(第1ページ右下欄第14行?第2ページ左上欄第9行) (7)甲第7号証 甲第7号証には次の事項が記載されている。(請求人による日本語訳を記載する。) 〔1-7a〕「我々は、セルロース、アミロース、キトサン、キシラン、カードラン、及び、イヌリン等の様々な多糖類のフェニルカルバメート誘導体が、シリカゲルに担持された場合、HPLCの固定相として特異的な光学認識能を示すことを、報告した。」(第1ページ第8?9行) (8)甲第8号証 甲第8号証には次の事項が記載されている。 〔1-8a〕「一方、クロマト法による光学分割は、近年のガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、特に高速液体クロマトグラフィーの発達に伴い比較的簡便に短時間で処理できるところから活発にその研究、開発が進められている。 天然物である多糖類及びその誘導体や光学活性なポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアミノ酸等の合成高分子物質は、それ自体に光学分割能のあることが知られており、クロマトグラフィー用の分離剤として使用可能であるが、分離能力や耐圧性、耐久性に問題があり、また、溶媒交換時に分離剤の膨潤、収縮が起こるため、それ自体で使用するには限界があるのが実情であった。 (発明が解決しようとする課題) この問題点を解決する手段として、-数的なクロマトグラフィー用担体に光学分割能を有する多糖類や合成高分子物質を担持させ光学分割用としてのクロマトグラフィー用充填剤とする技術が知られている。」(第1ページ右下欄第11行?第2ページ左上欄第10行) (9)甲第9号証 甲第9号証には次の事項が記載されている。 〔1-9a〕「【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】多糖のエステルおよびカルバメートをシリカゲルに担持して固定相とする液体クロマトグラフィー充填剤が優れた光学分割能力を有することは既に知られている(特開平2-289601号公報)。」 (10)甲第10号証 甲第10号証には次の事項が記載されている。 〔1-10a〕「【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】多糖誘導体、あるいはこれをシリカゲルなどの担体に担持した分離剤は、液体クロマトグラフィー用固定相として光学異性体をはじめとする様々の構造的に類似した化合物(ジアステレオマーなどの立体異性体、位置異性体、幾何異性体、不飽和度の異なる化合物、ホモローグに属する化合物など)の分離において、優れた特性を示すことが明らかになっている(第28回HPLC研究談話会要旨集、p25、26引用)。」 (11)甲第11号証 甲第11号証には次の事項が記載されている。 〔1-11a〕「【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】多糖誘導体あるいはこれをシリカゲルなどの担体に担持した分離剤は液体クロマトグラフィー用固定相として光学異性体をはじめとする様々の構造的に類似した化合物(ジアステレオマーなどの立体異性体、位置異性体、幾何異性体、不飽和度の異なる化合物、ホモローグに属する化合物など)の分離において優れた特性を示すことが明らかになっている(平成3年1月7日, 第28回HPLC研究談話会要旨集, p25-26)。」 (12)甲第12号証 甲第12号証には次の事項が記載されている。 〔1-12a〕「【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】これまで多糖誘導体をシリカゲルにコーティングした充填剤を用いた光学分割剤は、岡本らにより既に報告されている(特公昭63-12850 号公報)。」 (13)甲第13号証 甲第13号証には次の事項が記載されている。 〔1-13a〕「ラジカル重合によって得られたポリスチレン試料について同一の手順を用いたGPCの共同測定が21研究室によって行われ、得られた平均分子量のばらつきが詳しく検討された。数平均、重量平均、及びz-平均分子量の平均変動係数(標準偏差値を平均値で割った値)はそれぞれ11.0,11.3,及び21.1%である。計算法、検出器の種類及びクロマトグラムの分割数は得られる平均分子量に著しい影響を与えない。同一カラムを用いる異なる研究室にって得られた計均分子量は20%を超える変動を示す。平均変動係数を10%以下に減らすには、カラムの分解能、溶媒の流量などの操作条件のわずかな変化に十分注意を払う必要がある。」(第507ページ要旨部分) 〔1-13b〕「GPCによる分子量測定は相対的な方法であり、しかもクロマトグラムはカラムの性能、温度、試料濃度、溶媒の種類、溶媒の流量などによって変化し、それらの変化が算出される平均分子量及び分子量分布曲線に著しい影響を及ぼすことはよく知られている。」(第507ページ左欄第6?10行) (14)甲第14号証 甲第14号証には次の事項が記載されている。 〔1-14a〕「ここでは、著者らがこれまでに研究してきた高分子キラル固定相の中から、もっとも広範囲なラセミ化合物の分割に利用できる多糖のセルロース(1),アミロース(2)誘導体を用いたキラル固定相を中心に解説する。 2.セルロースエステル セルロース(1,R=H)やアミロース(2,R=H)は、もっとも入手が容易な天然に存在する光学活性高分子である。これらは、そのままでもある程度の光学分割能を示すが、実用的なCSPにはならない。しかし、適当な誘導体に導くと高い不斉識別能を示す有用なCSPになる。」(第59ページ右欄第3?下から第2行) 〔1-14b〕「8.おわりに 以上、セルロース、アミロース等の多糖のエステル、カルバメート誘導体をキラル固定相に用いた光学分割について述べてきた。これらのキラル固定相のうち、市販されているものを表4にまとめた。」(第68ページ右欄第13?17行) 〔1-14c〕「 」(第68ページ) (15)甲第15号証 甲第15号証には次の事項が記載されている。(請求人による日本語訳を記載する。) 〔1-15a〕「マクロ多孔質シリカゲルにコーティングしたセルローストリアセテートおよびトリベンゾエートは、種々の鏡像異性体の高速液体クロマトグラフィー分離用の充填剤として、優れたキラル認識能を示した。」(第739ページsummary(要旨部分)1?4行) 〔1-15b〕「Hesse氏及びHagel氏により、不均一アセチル化によって調製された微結晶性セルローストリアセテートは、溶液から回収したセルローストリアセテートよりも優れた分解能を有することが発見されて以来、芳香族化合物の液体クロマトグラフィー分離能に、前者のトリアセテートがよく用いられるようになった。当レポートでは、シリカゲルにコーティングしたセルローストリアセテート(1)およびトリベンゾエート(2)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による、鏡像異性体の分離について報告する。これらのキラル固定相は、前記微結晶性セルローストリアセテートのものとは全く異なる高分離能を示した」(第739ページ9?17行) (16)甲第16号証 甲第16号証には次の事項が記載されている。(請求人による日本語訳を記載する。) 〔1-16a〕「セルローストリフェニルカルバメート、ならびにその18種類の一置換または二置換誘導体をシリカゲルに吸着させ、高速体クロマトグラフィー用固定相としてのこれらのキラル認識能を調べた。」(第173ページSUMMARY(要旨部分)1?3行) (17)甲第17号証 甲第17号証には次の事項が記載されている。(請求人による日本語訳を記載する。) 〔1-17a〕「セルローストリベンゾエート、ならびにその10種類のフェニル基置換誘導体をシリカゲルに吸着させ、ヘキサンと2-プロパノールの混合液を溶離液として用いて、高速液体クロマトグラフィー用固定相としてのこれらのキラル認識能を調べた。」(第95ページSUMMARY(要旨部分)1?4行) (18)甲第18号証 甲第18号証には次の事項が記載されている。(請求人による日本語訳を記載する。) 〔1-18a〕「セルロースおよびアミロースの(R)-,(S),および(RS)-1-フェニルエチルカルバメートを合成し、高速液体クロマトグラフィー用キラル固定相として使用した。」(第909ページSUMMARY(要旨部分)1?4行) (19)甲第19号証 甲第19号証には次の事項が記載されている。 〔1-19a〕「8.3 異常の発見ならびに対策 多くの異常は実験前の予備操作、慣らし運転中に発見することができるが、ときには実際に試料を注入して実験が進行しているさいちゅうに起こることも少なくない。また、異常といっても単に流動セルに気ほうがはいったり、汚染された程度のものから、電気回路たとえばダイオードの劣化や、光学系の光路のずれなどのように複雑なものまでいろいろな原因がある。これらはもちろん筋道を立てて点検すれば、少し装置に慣れた人ならば、ほとんど実験者が自分で対策を立てることができるものである。以下、日常遭遇する異常な現象に対する原因の発見ならびに対策のめやすとなりそうなことがらを列挙する。対策を講ずる場合は異常が起こる前に修繕、手直しなどを行なった個所が原因になっていることが多い。 8.3.1 移動相の流れ、圧力の異常 (中略) 8.3.2 ベースラインの異常 A.ときどき鋭いスパイクがはいる 気ほうがセル内を通過していないか。溶媒は十分脱気されているか。 B.ベースラインが徐々に上がるまたは下がる(こう配溶出法の場合を除く) 1) セルが徐々に汚染しているのではないか。 2) 気ほうがセル内に徐々にたまっていないか。 3) 示唆屈折計の場合は温度の変化の影響 4) 電源電圧の変動 5) 記録計の対照電池の劣化 6) 固定相物質の溶出あるいは脱離 C.ベースラインの不規則なノイズ (中略) D.ベースラインのふらつき (中略) E.ベースラインがまったく合わせられない場合 (後略)」(第272ページ下から第4行?第275ページ第10行) (20)甲第20号証 甲第20号証には次の事項が記載されている。 〔1-20a〕「クロマトグラフ吸着法が目的の試料に対してうまく行くかどうかの鍵は、吸着剤と溶剤との選定如何にあるといってよい。これが巧みに組合わされたとき、本法はその力を始めて強力に発揮し得るのである。 (中略) 吸着剤としては吸着能の強いばかりが能ではなく、溶剤との組み合せが著しく関係すること勿論ではあるが、問題は溶質の分散能にある。」(第34ページ第2?17行) (21)甲第21?26号証 甲第21?26号証は、審理事項通知において請求人に対してなされた「侵害訴訟事件(東京地47平成25(ワ)26179)においてなされた無効抗弁の主張内容がわかる書類の写しを提出して下さい。」という要請に応じて請求人から提出された、侵害訴訟事件[東京地47平成25(ワ)26179]の「被告準備書面」、「被告証拠説明書」および「原告準備書面」の写しである。具体的内容の記載は省略する。 (22)甲第27号証 甲第27号証には次の事項が記載されている。 〔1-27a〕「【0025】この充填剤としては、各種の公知の異性体分離用充填剤を使用することができる。例えば、光学異性体分離用充填剤として、光学活性な高分子化合物、および光学分割能を有する低分子化合物を利用した光学分割用充填剤を挙げることができる。前記光学活性な高分子化合物としては、例えば多糖誘導体(セルロースやアミロースのエステルあるいはカルバメート等)、ポリアクリレート誘導体、あるいはポリアミド誘導体をシリカゲルに担持させた充填剤、またはシリカゲルを使用せずに前記ポリマーそのものを粒状にした充填剤を挙げることができる。また、光学分割能を有する低分子化合物としては、例えばクラウンエーテルあるいはその誘導体やシクロデキストリンあるいはその誘導体を挙げることができる。これら低分子化合物は、通常シリカゲル等の担体に担持して使用される。」 (23)甲第28号証 甲第28号証には次の事項が記載されている。 〔1-28a〕「【0013】-充填剤の種類等- また、各単位充填床には、分離するべき成分を吸着することのできる充填剤が収容される。この充填剤としては、例えば、光学異性体混合物を分離する場合、光学活性な高分子化合物、および光学分割能を有する低分子化合物を利用した光学分割用充填剤を挙げることができる。前記光学活性な高分子化合物としては、例えば多糖誘導体(セルロースやアミロースのエステルあるいはカルバメート等)、ポリアクリレート誘導体、あるいはポリアミド誘導体をシリカゲルに担持させた充填剤、またはシリカゲルを使用せずに前記ポリマーそのものを粒状にした充填剤を挙げることができる。また、光学分割能を有する低分子化合物としては、例えばクラウンエーテルあるいはその誘導体やシクロデキストリンあるいはその誘導体を挙げることができる。これら低分子化合物は、通常シリカゲル等の担体に担持して使用される。」 (24)甲第29号証 甲第29号証には次の事項が記載されている。 〔1-29a〕「【0006】多糖誘導体としては、多糖を誘導化して得られるものを挙げることができる。上記多糖としては、光学活性を有するものであれば特に限定はなく、例えば、合成多糖、天然多糖および天然物変成多糖等を挙げることができる。特に好ましくは、結合様式の規則性が高いものである。 【0007】上記多糖としては、例えば、β-1,4グルカン(セルロース)、α-1,4-グルカン(アミロース、アミロペクチン)、α-1,6-グルカン(デキストラン)、β-1,6-グルカン(ブスツラン)、β-1,3-ダルカン(例えば、カードラン、シゾフィラン等)、α-1,3-グルカン、β-1,2-グルカン(Crown Gall多糖)、β-1,4-ガラクタン、β-1,4-マンナン、α-1、6-マンナン、β-1,2-フラクタン(イヌリン)、β-2、6-フラクタン(レバン)、β-1,4-キシラン、β-1,3-キシラン、β-1,4-キトサン、β-1,4-N-アセチルキトサン(キチン)、プルラン、アガロース、アルギン酸、アミロースを含有する澱粉等を挙げることができる。」 (25)甲第30号証 甲第30号証には次の事項が記載されている。 〔1-30a〕「【0005】本発明に用いる分離剤は多糖またはその誘導体を有効成分とするものである。ここでいう多糖とは合成多糖、天然多糖、天然物変成多糖のいずれかを問わず、光学活性であればいかなるものでも良い。例えば、セルロース、アミロース、β-1,4 -キトサン、キチン、β-1,4 -マンナン、β-1,4 -キシラン、イヌリン、α-1,3 -グルカン、β-1,3 -グルカン(カードラン、シゾフィラン)、プルラン、デキストラン、グルコマンナン、アミロペクチン、アガロース、シクロデキストリン(α、β、γを含む)、シクロソフォロース等を例示することができるが、好ましくは高純度の多糖を容易に得ることの出来るセルロース、アミロース、β-1,4 -キシラン、β-1,3 -グルカン、シクロデキストリン等である。多糖の誘導体とは、上記多糖の有する水酸基上の水素原子の一部あるいは全部、好ましくは85%以上を他の原子団で置換したものである。」 (26)甲第31号証 甲第31号証には次の事項が記載されている。 〔1-31a〕「【0029】前記光学異性体分離用充填剤としては、例えば、光学活性な化合物、光学分割能を有する低分子化合物、又は蛋白質若しくはその誘導体等を、シリカゲル等の担体に担持させた固体吸着剤、あるいはシリカゲル等の担体を使用せずにこれらをそのまま粒状にした固体吸着剤を挙げることができる。 【0030】前記光学活性な化合物としては、例えば、多糖エステル誘導体、多糖カルバメート誘導体、ポリアクリレート誘導体、又はポリアミド誘導体を挙げることができる。 【0031】前記多糖エステル誘導体及び多糖カルバメート誘導体における多糖としては、天然多糖、天然物変性多糖及び合成多糖、又はオリゴ糖のいずれかを問わず、光学活性であれば特に制限がない。 【0032】前記多糖の具体例としては、α-1,4-グルカン(アミロース、アミノペクチン)、β-1,4-グルカン(セルロース)、α-1,6-グルカン(デキストラン)、β-1,3-グルカン(カードラン、ジソフィランなど)、α-1,3-グルカン、β-1,2-グルカン(Crawn Gall多糖)、α-1,6-マンナン、β-1,4-マンナン、β-1,2-フラクタン(イヌリン)、β-2,6-フラクタン(レバン)、β-1,4-キシラン、β-1,3-キシラン、β-1,4-キトサン、β-1,4-N-アセチルキトサン(キチン)、プルラン、アガロース、アルギン酸等を挙げることができる。」 (27)甲第32号証 甲第32号証には次の事項が記載されている。 〔1-32a〕「【0008】本発明における多糖とは、天然多糖、天然物変性多糖、及び合成多糖、またオリゴ糖のいずれかを問わず、光学活性であれば如何なるものでも良い。例示すれば、α-1,4-グルカン(アミロース、アミノペクチン)、β-1,4-グルカン(セルロース)、α-1,6-グルカン(デキストラン)、β-1,3-グルカン(例えば、カードラン、シゾフィランなど)、α-1,3-グルカン、β-1,2-グルカン(CrownGall多糖)、β-1,4-マンナン、α-1,6-マンナン、β-1,2-フラクタン(イヌリン)、β-2,6-フラクタン(レバン)、β-1,4-キシラン、β-1,3-キシラン、β-1,4-キトサン、β-1,4-N-アセチルキトサン(キチン)、プルラン、アガロース、アルギン酸、マルトース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、イソマルトース、エルロース、パラチノース、マルチトール、マルトトリイトール、マルトテトライトール、イソマルチトール、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等である。」 (28)甲第33号証 甲第33号証には次の事項が記載されている。 〔1-33a〕「【0023】図1に示す擬似移動床では、3基の単位カラム毎に溶離液導入口、エクストラクト抜き出し口、ラセミ体含有液導入口およびラフィネート抜き出し口が設けられている。これらの導入口および抜き出し口を間欠的に逐次移動するには、例えばロータリーバルブ、電磁弁等が使用される。 B.光学分割用充填剤 また、各単位カラムには、光学分割用充填剤が収容される。この光学分割用充填剤は、ベータ遮断薬のラセミ体を光学分割することができるのであれば、特に制限なく様々の充填剤を使用することができる。この発明において好ましい光学分割用充填剤としては、多糖エステル誘導体の粒子、多糖カルバメート誘導体の粒子、及び多糖エステル誘導体及び/または多糖カルバメート誘導体を担体に担持してなる粒子よりなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。 【0024】前記多糖エステル誘導体及び多糖カルバメート誘導体における多糖としては、天然多糖、天然物変性多糖及び合成多糖、またはオリゴ糖のいずれかを問わず、光学活性であれば特に制限がない。 【0025】多糖の具体例としては、α-1,4-グルカン(アミロース、アミノペクチン)、β-1,4-グルカン(セルロース)、α-1,6-グルカン(デキストラン)、β-1,3-グルカン(カードラン、ジソフィランなど)、α-1,3-グルカン、β-1,2-グルカン(Crawn Gall多糖)、α-1,6-マンナン、β-1,4-マンナン、β-1,2-フラクタン(イヌリン)、β-2,6-フラクタン(レバン)、β-1,4-キシラン、β-1,3-キシラン、β-1,4-キトサン、β-1,4-N-アセチルキトサン(キチン)、プルラン、アガロース、アルギン酸等を挙げることができる。」 (29)甲第34号証及び甲第35号証 甲第34号証は、セルロース誘導体を用いた光学異性体分離用カラムの取扱説明書であり、甲第35号証は、アミロース誘導体を用いた光学異性体分離用カラムの取扱説明書である。甲第34号証と甲第35号証の記載を対比することから、セルロース誘導体を用いた光学異性体分離用カラムとアミロース誘導体を用いた光学異性体分離用カラムにおいて、その使用条件に関する取扱説明書の記載が全く同じであることが認められる。その具体的記載は省略する。 (30)甲第36号証 甲第36号証の図6の記載から、セルロース誘導体を用いたカラムとアミロース誘導体を用いたカラムが同列に扱われ、最適カラムを選択する上で特段の差異がないことが見て取れる。 2 乙各号証の記載事項 (1)乙第1号証 乙第1号証には次の事項が記載されている。 〔2-1a〕「キラリティーに関するFDAの見解 キラルな薬物に関してFDAの最初のガイドラインが出たのは1987年のことである。これにより、(1)理想的には各異性体を分離または個別に合成し、それぞれの理化学的性質を明らかにすること、(2)それぞれの薬理学的ならびに毒性学的諸性質を調べること、(3)対掌体の比率を測定するための試験法を確立すること、などをはじめてメーカーに指示した。」(第157ページ右欄第6?14行) 〔2-1b〕「1992年の6月になってようやく懸案のFDAガイドラインが発表された。それはこれまでの中間的な見解に示されていたとおり、ラセミ医薬品の開発を容認する柔軟な内容となっているが、さまざまな制約のあることは当然である。いずれにせよ、立体異性医薬品を開発する場合、本ガイドラインは今後世界的な基準となるものと思われる。要点として、 (1)両方の対掌体の薬理作用、代謝にほとんど差がない場合はラセミ体で開発してもよい。 (2)一方の対掌体が薬理的に活発で、他方は不活性である場合でも、毒性が不活性な対掌体に基づくこともありうるので注意を要する。」(第158ページ左欄第4?15行) (2)乙第2号証 乙第2号証は、1枚のシートからなるマニュアルで、次の事項が記載されている。 〔2-2a〕「CHIRALPAK AD InstructionMannual」(第1行) 〔2-2b〕“Recomended Operating Procedure (中略) -Suitable Mobile Phases include; -Hexane/2-Propanol(100/0?(当審注:原文においては二重の波型の線、本摘記事項内において以下同じ)0/100 v/v) Typical Mobile Phase Used is Hexan/2-Propanol(90/0 v/v). -Hexane/Ethanol(100/0?85/15 v/v),(40/60?0/100 v/v) (NOTE:The range 85/15?40/60(v/v) may adversely affect baseline stability.)”(第18?24行) (仮訳) 「推奨使用条件 (中略) -適正な移動相成分 -ヘキサン/2-プロパノール(100/0?0/100 v/v) 通常の移動相の使用量はヘキサン/2-プロパノール(90/10 v/v)」 -ヘキサン/エタノール(100/0?85/15 v/v),(40/60?0/100 v/v) (注;85/15?40/60(v/v) の範囲にはベースラインの安定性を損なう可能性がある。)」 (3)乙第3号証 乙第3号証は、和光純薬工業株式会社が発行する宣伝パンフレットであり、充填剤「CHIRALPAK AD-H」が掲載されている。 (4)乙第4号証 乙第4号証には次の事項が記載されている。 〔2-4a〕「CHIRALPAK AD-H <0.46cmφ×25cmL> 1.使用条件 溶離液及び試料溶媒(使用可能溶媒は以下の範囲です。): n-ヘキサン/2-プロパノール=100/0?0/100(v/v) n-ヘキサン/エタノール =100/0?0/100(v/v)」(該当ページ第1?6行) (5)乙第5号証 乙第5号証には次の事項が記載されている。 〔2-5a〕“XI*. CONTROLLED CHIRAL RECOGNITION OF CELLULOSE TRIPHENYLCARBAMATE DERIVATIVES SUPPOTED ON SILICA GEL”(第173ページ表題部) (仮訳) 「XI*. シリカゲル上に担持されたセルローストリフェニルカルバメート誘導体のコントロールされたキラル認識」 〔2-5b〕“The gel permeation chromatogram of compound 4 showed a peak at Mn = 1.08・10^(5), Mw/Mn = 4.46 (where Mn is the number-average molecular weight and Mw the weight-average molecular weight).”(第174ページ第19?22行) (仮訳) 「化合物4のゲル浸透クロマトグラムは、Mn=1.08・10^(5),Mw/Mn = 4.46 においてピークを示す(ここで、Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量である)。」 (6)乙第6号証 乙第6号証には次の事項が記載されている。 〔2-6a〕「b.移動相 カラムに使用できる溶媒は制限される。充填剤と親和性があり(たとえば、ポリスチレンゲルでは架橋していないポリスチレンを溶解する溶媒)、粘性が低く反応性が低い溶媒が望ましい。カラムに使用できる溶媒で、試料を溶解する溶媒が移動相として用いられる。 移動相は使用前に必ず脱気と濾過をする。濾過には孔径0.5μm程度のメンブランフィルターを用いる。」(第25ページ第13?18行) 〔2-6b〕「e.測定相の注意 SECでは保持容量の再現性が最も重要である。定量性のよいポンプを用いても流量のチェックがときどき必要である。これは10mlのメスフラスコを用いて容易に、かつ正確に測定できる。サイホンカウンターなどは使用しない方がよい。常に同1条件で測定することが必要で、下記の条件が変わるときには較正曲線のつくり直しが必要となる。使用溶媒、移動相流量、試料注入量、試料濃度、カラム温度、これらはいずれも保持容量の変動の要因となる。ただし、較正曲線作成用試料の濃度は被測定試料の濃度の1/2とし、分子量100万以上ではさらにその1/2としてもよい。」(第25ページ第28?34行) (7)乙第7号証 乙第7号証には次の事項が記載されている。 〔2-7a〕「分子中にイミド結合やアミド結合などを含有している耐熱性樹脂あるいはメチロールメラミン樹脂などの中には、ジメチルホルムアミド(DMF)系溶媒に可溶なものもあり、これらの溶媒を溶離液としたGPCが試みられている。さらにDMF系溶媒の粘度および極性を下げて、常温付近で測定ができるように工夫された混合溶媒系GPCも試みられている。しかしDMF系溶媒中でのGPCでは、極端な場合、明らかに分子量分布を試料を注入しても全く単一ピークしか示さない例すらある。このようにDMF系溶媒によるGPCを行なう場合には、再現性のよいGPCモードでの分離が起こらないこともあるので、注意が必要である。これらの問題解決には臭化リチウムや塩化リチウムなどを少量添加した溶離液を使用することが有効な場合がある。」(第205ページ末行?第206ページ第9行) (8)乙第8号証 乙第8号証には次の事項が記載されている。 〔2-8a〕「c.ポリアクリロニトリルとポリビニルピロリドン これらのポリマーはTHFやクロロホルムには溶解しない。ポリアクリロニトリル(PAN)はジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、ポリビニルピロリドン(PVP)はDMFのほか、水にも溶解する。PSゲルカラムを用い、DMFを移動相としたSECでは、図6.1(a),(c)に示されているように、排除限界より前に溶出し、かなり分子量の大きい部分が存在するようにみえる。移動相に臭化リチウムを添加するとこの部分は消失し、正しいと推定されるクロマトグラムを示す。」(第85ページ第4?10行) 「図6.1 」 〔2-8b〕「セルロースをピリジン、DMF、あるいはDMSO中でフェニルイソシアナートを反応させることにより、トリカルバニル化セルロースとし、THFを移動相としてSECが行われている。」(第137ページ第5?8行) (9)乙第9号証 乙第9号証は、実験報告書であり、「実験日・場所・実験者」「目的」「方法」「使用装置、試薬類」が記載され、「実験解析結果データ」が添付されると共に、「結果」として次の事項が記載されている。 〔2-9a〕「5.結果 添付クロマトグラム及び解析結果(面積パーセント(%))に示されるように、ベースラインが水平であるクロマトグラム1では、面積%比率がほぼ50:50であるのに対して、ベースラインが変動し傾いたクロマトグラム2の面積%は約3%の偏りが見られた。」 (10)乙第10号証 乙第10号証は、実験報告書であり、「実験日・場所・実験者」「目的」「方法」「使用装置、試薬類」が記載され、「実験解析結果データ」が添付されると共に、「結果」として次の事項が記載されている。 〔2-10a〕「5.結果 添付クロマトグラム及び解析結果(面積パーセント(%))に示されるように、ベースラインが水平であるクロマトグラム3では、面積%比率が重量比率仕込みに近い92.31:7.69であるのに対して、ベースラインが変動し傾いたクロマトグラム4の面積%は約90.82:9.18と、約2%の偏りが見られた。対掌体がより微量である場合は、検出が難しくなると考えられる。」 (11)乙第11号証 乙第11号証には次の事項が記載されている。 〔2-11a〕「1.はじめに 我々は、セルロースのカルボン酸、カルバミン酸エステルをキラルセレクターとする液体クロマトグラフィー用光学異性体分離カラム(CHIRALCEL 0 シリーズ、CHIRAKPAK A シリーズ)を開発上市した。これらのカラムの特徴が光学異性体の分離にあることは言うまでもないが、今回、ジアステレオマーなどの立体異性体、位置異性体、幾何異性体、不飽和度の異なる化合物、ホモローグ(CH_(2)数の異なる化合物)などの構造的に類似した化合物の分離においても、通常用いられるシリカゲルやODSなどの固定相に比べて優れた識別能を示すことを見い出したので報告する。」(第25ページ第4?10行) (12)乙第12号証 乙第12号証には次の事項が記載されている。(被請求人による日本語訳を記載する。) 〔2-12a〕「セルロース誘導体のHPLCでのエオンチオマー分離」(第280ページ第1行) 〔2-12b〕「2.2 芳香族化合物への親和性(Fig1) CAT-Iは、芳香族基質に対して高い親和性を持つことが知られている。吸着剤の親和性は、概ね、セルローストリフェニルカルバメート(OC)、トリベンジルエステル(OE)、トリアセテート(OA)、トリベンゾエート(OB)、トリシンナメート(OK)の順で上がっている。k’値は芳香族環の分子量の増加に伴い大きくなっているが、増加の程度は吸着剤の相違により異なっている。セルローストリフェニルカルバメート(OC)の場合、同じ分子量にもかかわらず、アセトラン(14)はフェナンスレン(13)よりもかなりk’値が小さい。幾何学的配置(ジオメトリー)はk’値に重要な影響を与える。」(第281ページ右欄第1?12行) 〔2-12c〕「Fig1 」 (13)乙第13号証 乙第13号証には次の事項が記載されている。 〔2-13a〕「ついでながら、キラル分離能が強調されるあまり、通常の分離についてはあまり注目されないが、構造、物性のよく似た化合物の分離においても、しばしばシリカゲルやODSなどに比べ、特異性で優れた分解能を示す。」(第22ページ右欄第5?10行) (14)乙第14号証 乙第14号証は、宣伝パンフレットで、「光学異性体用分離カラム/充填剤 YMC CHIRAL 多糖シリーズ」の欄に次の事項が記載されている。 〔2-14a〕「また、cis-trans異性体や位置異性体の分離にも有効です。」(第4行) (15)乙第15号証及び乙第16号証 乙第15号証及び乙第16号証は、それぞれ、光学活性高分子材料の技術分野における有識者の意見書であり、セルロースとアミロースの溶解性は大きく異なり、セルロースは水に不溶であるがアミロースは水に溶け、したがって、その誘導体であるセルロース誘導体とアミロース誘導体の溶解性も異なることが述べられている。 (16)乙第17号証 乙第17号証には次の事項が記載されている。 〔2-17a〕「多糖類の中には,次のような生理的に重要な糖質がある. デンプンはα-グルコシド結合からなっている.加水分解によってグルコースだけを生じるこのような化合物は,グルコサン(glucosan)あるいはグルカン(glucan)と呼ばれるホモポリマーである.これは糖質の中で最も重要な食物源であり,殻類,イモ類,豆類,その他種々の野菜中に存在する.主な2種の成分は,構造的に枝鎖がないアミロース(amylose,15?20%)と,直鎖部分では1→4結合で,分岐点では1→6結合で連なる20?30グルコース残基からなる枝鎖構造をもつアミロペクチン(amylopectin,80?85%)である(図15・14).」(149ページ左欄3?15行) 〔2-17b〕「セルロースは植物の構造の主な構成成分であり,溶媒に溶けない.β(1→4)結合で連なるβ-グルコピラノースの長い直鎖からできていて,交差結合した水素結合によって強固な構造をとっている.ヒトなど多くの哺乳動物は,β結合を切る加水分解酵素をもたないのでセルロースを消化できない.そこでセルロースは食事の量を増やすときに重要である.反すう動物や他の草食動物では,腸内にβ結合を分解する微生物をもっているので,セルロースが重要なカロリー源となる.ただし,これはヒトの腸内でも限られた範囲で起こり得る.」(149ページ右欄1行?150ページ右欄1行) (17)乙第18号証 乙第18号証には次の事項が記載されている。 〔2-18a〕「アミロースでは各D-グルコース単位がそれぞれ他のD-グルコース単位2個と結合している.つまり1個とはC-1位で,もう1個とはC-4位で結合している.」(1658ページ11?12行) 〔2-18b〕「セルロースはD-グルコース単位の鎖からできており,各単位はグリコシド結合で隣接単位とC-4位で結合している.」(1666ページ16?17行) (18)乙第19号証 乙第19号証には次の事項が記載されている。 〔2-19a〕「セルロースはβ-1,4-D-グルカンで,アミロースはα-1,4-D-グルカンである。ともにD-グルコースが1,4結合した鎖状の重合体であるにもかかわらず,きわめて対照的な性質を示す。たとえば,セルロースには単独の溶媒はないが,アミロースは水に溶け,また各種の異分子化合物との間で種々の分子間付加化合物をつくる。これら性質の差は,グルコシド結合がαであるかβであるかによる分子構造と結晶構造の差によると考えられる。」(305ページ6?10行) (19)乙第20号証 乙第20号証は、アミロースの希塩酸処理に関する実験報告書であり、次の事項が記載されている。 〔2-20a〕「1.試験目的 甲第1号証(特開昭62-195395号公報)の実施例2でセルロースに適用された処理条件をアミロースに適用し、同様の効果が得られることを確認する。」(2ページ1?3行) 〔2-20b〕「4.実験 4-1.アミロースの希塩酸処理 アミロース300mgに10%塩酸(希塩酸)20mlを加え、90℃で1時間半撹拌した。 4-2.希塩酸処理する前後のアミロースの重量平均分子量の測定(プルラン標準サンプルで較正したGPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)測定 (1)測定サンプルの調整 ・・・省略・・・ (2)GPC測定及び結果 ・・・省略・・・ 希塩酸処理の前後のアミロースのGPC測定結果を表4にまとめた。 希塩酸処理前のアミロースの重量平均分子量は約30000であり、希塩酸処理後のアミロースの重量平均分子量は約130であった。また、グルコース環の2量体であるマルトースの溶出時間が30.520分であったのに対して、希塩酸処理後のアミロースの溶出時間は30.772分と2量体よりも遅い溶出時間であった。したがって、希塩酸処理後のアミロースは2量体以下まで分解されたと考えられる。 表4 重量平均分子量 | 重量平均分子量 希塩酸処理前のアミロース | 29646 希塩酸処理後のアミロース | 134 」(2ページ14行(中央辺り)?3ページ末行) 〔2-20c〕「5.結論 希塩酸処理後のアミロースのGPCクロマトから,希塩酸処理によりアミロースはマルトース(二糖;分子量342)程度以下まで分解されたと考えられる。」(4ページ下から3?1行) 第6 当審の判断 1 無効理由1の進歩性欠如の理由1について (1)無効理由1の進歩性欠如の理由1は、本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載された発明及び周知、慣用技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとするものである。 (2)甲第1号証に記載された発明の認定 上記「第4 証拠の記載事項」の「1 甲各号証の記載事項」の「(1)甲第1号証」における摘記事項〔1-1a〕には「数平均分子量/重量平均分子量の比が3以下の分子量分布の狭い」と記載され、〔1-1e〕には「分子量分布の狭いセルロース誘導体の単分散性は好ましくは数平均分子量/重量平均分子量(MW/MN)の比が3以下である」と記載されているが、上記〔1-1a〕及び〔1-1e〕における「数平均分子量/重量平均分子量の比」が、分子量分布(単分散性)を表すパラメータであること、及び〔1-1e〕ないし〔1-1k〕には同じパラメータを「MW/MN」で記載されていることに鑑みれば、「数平均分子量/重量平均分子量の比」は、「数平均分子量と重量平均分子量の比」又は「重量平均分子量/数平均分子量の比」の誤記であることは明らかである。 上記の点も踏まえると、甲第1号証には、 「数平均分子量と重量平均分子量の比(MW/MN)が3以下である分子量分布の狭いセルロース誘導体。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 (3)本件発明1と甲1発明の対比・一致点 ここで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、 数平均分子量と重量平均分子量の比(MW/MN)は最も小さい値をとる場合(単一の分子量である場合)で1となることから、甲1発明の「数平均分子量と重量平均分子量の比(MW/MN)が3以下である」は「数平均分子量と重量平均分子量の比(MW/MN)が1以上3以下である」ことを意味する。 また、甲1発明の「セルロース誘導体」と本件発明1の「アミロース誘導体」は「多糖誘導体」である点で共通する。 よって、甲1発明の「数平均分子量と重量平均分子量の比(MW/MN)が3以下である分子量分布の狭いセルロース誘導体」と、本件発明1の「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算)が1?3のアミロース誘導体」とは、「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算)が1?3の多糖誘導体」である点で共通するから、本件発明1と甲1発明とは、 「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算)が1?3の多糖誘導体。」 の発明である点で一致し、次の各相違点で相違する。 (4)相違点 ア 相違点1 本件発明1が、多糖(アミロース)誘導体の用途及び当該用途で用いる場合の形態を特定し、「多糖(アミロース)誘導体が担体に担持されている光学異性体用分離剤」の発明としているのに対し、甲1発明のセルロース誘導体においては、そのような用途及び形態の特定がない点。 イ 相違点2 多糖誘導体の具体的種類及びその重量平均分子量に関して、本件発明1が、多糖誘導体が「アミロース誘導体」であって、その重量平均分子量が「54,300?500,000(ポリスチレン換算)」であるのに対し、甲1発明においては、多糖誘導体が「セルロース誘導体」であって、その重量平均分子量について、上記の「54,300?500,000(ポリスチレン換算)」の範囲であるという特定はない点。 (5)相違点についての検討 ア 相違点1について (ア)甲第1号証の記載による示唆 甲第1号証の摘記事項〔1-1b〕には「低分子量でしかも分子量分布の狭いセルロース誘導体は」、「その用途範囲が広く、例えばシリカゲルなどの担体に吸着あるいは化学結合させた場合に、製造が容易でしかも品質安定性の優れた分離用充填剤が得られる。」と記載されていることから、甲第1号証には、セルロース誘導体の発明である甲1発明に関して「シリカゲルなどの担体」に担持させて「分離用充填剤」として用いることが示唆されているといえる。 (イ)甲第2ないし12号証及び間接証拠である甲第14ないし18号証による周知技術 また、摘記事項〔1-2b〕〔1-3b〕〔1-4b〕〔1-5a〕〔1-6a〕〔1-7a〕〔1-8a〕〔1-9a〕〔1-10a〕〔1-11a〕〔1-12a〕の記載内容から、セルロース誘導体を含む多糖誘導体を、シリカゲルなどの担体に担持して光学異性体用分離剤として用いることは、甲第2ないし12号証に記載されている周知技術であるといえる。 また、摘記事項〔1-14a〕〔1-14b〕〔1-14c〕〔1-15a〕〔1-15b〕〔1-16a〕〔1-17a〕〔1-18a〕の記載内容から、多糖誘導体を高速液体クロマトグラフィーのキラル固定相として用いキラル認識能(光学分割能)を調査検討していることがそれぞれ読み取れるから、甲第14ないし18号証から、多糖誘導体を、光学異性体用分離剤として用いることは周知技術であるといえる。 (ウ)甲1発明に対する周知技術の適用について 甲1発明に接した当業者であれば、上記(ア)の「甲第1号証の記載による示唆」に照らし、セルロース誘導体を「シリカゲルなどの担体」に担持させて「分離用充填剤」として用いる構成とすることは当然想定でき、かつ上記のように、セルロース誘導体(を含む多糖誘導体)の周知の用途である「光学異性体の分離剤」として用いることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、その周知の用途への適用が容易になし得たものであることは、甲第14号証ないし甲第18号証の記載によっても推認されるものである。 イ 相違点2について (ア)甲第1号証の記載から見出される甲1発明の技術的意義 甲第1号証に関する摘記事項〔1-1c〕及び〔1-1d〕の記載から(「第5 証拠の記載事項」の「1 甲各号証の記載事項」の「(1)甲第1号証」参照)、甲第1号証は、「酸性水溶液中加熱して低分子量化したセルロースを温和な条件で誘導体化」して得られた低分子量セルロース誘導体が、従来のものにおいては「単一ピークではなく少なくとも二つ以上の分子量の異なる成分の混合物である」ことを見出し、当該低分子量セルロース誘導体を「含水もしくは無水有機溶媒中で再沈殿させて分子量の異なる成分を分別する」ことにより「低分子量で分子量分布が狭いセルロース誘導体」を得ることができるとするものである。すなわち、甲1発明は、セルロースから甲1号証に記載の製造方法に基づいて得られたセルロース誘導体についての発明であり、あくまでセルロースを用いて製造されたセルロース誘導体が対象とされた、セルロース誘導体に特有の発明であって、セルロース誘導体以外の他の物質については全く意識されていない発明であるといえる。 (イ)甲1発明においてセルロース誘導体に換えてアミロース誘導体を適用することについて a 上記(1)で述べたように、甲1発明が、セルロースを用いて製造されたセルロース誘導体が対象とされた、セルロース誘導体に特有の発明であることから、当然のことながら、セルロース(及びセルロース誘導体)の特性を踏まえて設定されたセルロース誘導体の製造方法が意識されたものである。 したがって、甲1発明の、セルロースを用いて製造されたセルロース誘導体に、他の物質を適用することが可能か否か、あるいは、甲1発明の、セルロースを用いて製造されたセルロース誘導体に換えて、他の物質を適用する動機付けがあるかについては、当該物質が当該製造方法を適用する上での、セルロース及びセルロース誘導体と同等の特性を有するか否かによるといえる。 具体的な検討項目を例示すると、 (i)甲第1号証に記載の、従来の低分子量化したセルロース誘導体においては、「単一ピークではなく少なくとも二つ以上の分子量の異なる成分の混合物である」という技術課題を有したものであったが、甲第1号証の発明を適用しようとする当該他の物質がそのような技術課題を有するものか。 (ii)甲第1号証の製造方法を適用したときに、甲第1号証のセルロース誘導体の製造方法と同様な工程(反応経路)を経て、同様な特性の物質が得られるか。 などについて検討する必要があるといえる。 b そこで、仮に、甲1発明においてセルロース誘導体に換えてアミロース誘導体を適用することを検討する場合、上記(i)の点については、アミロース誘導体について、上記の低分子量化したセルロース誘導体における技術課題である「単一ピークではなく少なくとも二つ以上の分子量の異なる成分の混合物である」ものがあることについては何らの証拠も示されておらず、その意味において、甲1発明のセルロース誘導体と同様の課題がアミロース誘導体においても存在するとはいえない。 次に(ii)の点については、乙第17号証ないし乙第19号証から、アミロースとセルロースでは、「グルコシド結合がαであるかβであるかによる分子構造と結晶構造の差」(乙第19号証)によって、各種の溶媒に対する溶解性等に関して「セルロースには単独の溶媒はないが,アミロースは水に溶け」(乙第19号証)るというように、両者はきわめて対照的な性質を示すものである。そうすると、甲第1号証に記載の、セルロースを「酸性水溶液中加熱して」低分子量化することを、アミロースに適用することによって、アミロースにおいてもセルロースと同様な程度の低分子量化をすることができるとは、当業者は通常期待しないものというべきである。したがって、その意味において、甲1発明においてセルロース誘導体に代えてアミロース誘導体を適用することが当業者にとって明らかとはいえない。 さらに、乙第20号証の「実験報告書」の記載から、実際に甲第1号証に記載の具体的製造方法の処理条件(実施例2に記載の製造方法)を、アミロースの製造に適用してみたところ、アミロースにおいては、「希塩酸処理によりアミロースはマルトース(二糖;分子量342)程度以下まで分解され」(乙第20号証)てしまい、もはや、甲第1号証においてセルロース誘導体の分子量(例えば、実施例2において数平均分子量=7200)程度のもの、あるいはそれ以上の分子量のものを得ることは困難であったことが認められる。 以上のことに鑑みると、甲1発明のセルロース誘導体に代えてアミロース誘導体を適用することが困難であったというべきであるから、甲1発明のセルロース誘導体にアミロース誘導体を適用することに阻害要因があるといえる。 また、本件発明1において特定される範囲の分子量を考慮すると、なおさら、甲1発明のセルロース誘導体にアミロース誘導体を適用し、その重量平均分子量を「54,300?500,000(ポリスチレン換算)」の範囲とすることが容易であるということはできない。 c したがって、上記aの(i)の観点からも、(ii)の観点からも、甲1発明においてセルロース誘導体に換えてアミロース誘導体を適用する動機付けはないといわざるを得ない。 (6)結論 以上のとおりであり、例え、甲第2号証から甲第36号証からセルロース誘導体と同様にアミロース誘導体が光学異性体分離剤に用いられていることが周知の技術的事項であるとしても、甲1発明に当該周知の技術的事項を適用して、すなわち、甲1発明においてセルロース誘導体に換えてアミロース誘導体を適用して、本件発明1を得ることが当業者にとって容易であるということはできない。すなわち、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 そして、本件発明1が甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明1の発明特定事項を含み、さらに限定した本件発明2ないし4についても、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、請求人が主張する無効理由1の進歩性欠如の理由1は、理由がない。 2 無効理由1の進歩性欠如の理由2について (1)無効理由1の進歩性欠如の理由2は、本件発明1ないし4は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて、又は、甲第3ないし12号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)甲第2号証に記載された発明の認定 上記「第4 証拠の記載事項」の「1 甲各号証の記載事項」の「(2)甲第2号証」における摘記事項〔1-2a〕及び〔1-2b〕から、甲第2号証には、 「アミロースのフェニルカルバメートから調整された高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)用である光学異性体用充填剤であり、 上記アミロースのフェニルカルバメートをシリカゲルに塗布した光学異性体用充填剤。」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。 (3)本件発明1と甲2発明の対比・一致点・相違点 本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「アミロースのフェニルカルバメート」が本件発明1の「アミロース誘導体」に相当し、また、甲2発明の「上記アミロースのフェニルカルバメートをシリカゲルに塗布した」ことが本件発明1の「前記アミロース誘導体が担体に担持されている」ことに相当するから、両者は、 「アミロース誘導体からなり、前記アミロース誘導体が担体に担持されている光学異性体用分離剤。」 の発明である点で一致し、次の各相違点で相違する。 <相違点> アミロース誘導体について、本件発明1においては、「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3」であり、また、「重量平均分子量が54,300?500,000(ポリスチレン換算)」あるのに対し、甲2発明においては、アミロースのフェニルカルバメートについて「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn」や「重量平均分子量」の特定がない点。 (4)相違点についての検討 上記相違点である「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3」であり、また、「重量平均分子量が54,300?500,000(ポリスチレン換算)」ある「アミロース誘導体」については、請求人が提示した甲第1号証において(及び他の甲第3ないし36号証のいずれの証拠においても)開示されていない。 そして、当該相違点に基づいて、本件発明1は、「低分子量の多糖誘導体の溶出がなく、カラム操作時のベースラインの安定性がよく、溶離液として使用できる溶媒の範囲が広いような分離剤を提供する」という本件訂正明細書に記載の技術課題を解決し得るものである。 なお、甲第1号証には、「セルロース誘導体」について「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn」が「1?3」であることが記載されており、また「重量平均分子量」が「54,300?500,000(ポリスチレン換算)」の範囲内に含まれる「セルロース誘導体」が記載されるが、それをもって、「アミロース誘導体」について「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3」であり、また、「重量平均分子量が54,300?500,000(ポリスチレン換算)」あることが容易に導かれるものではないことは、上記「1 無効理由1の進歩性欠如の理由1について」の「(5)相違点についての検討」の「イ 相違点2について」の「(イ)甲1発明においてセルロース誘導体に換えてアミロース誘導体を適用することについて」において述べたとおりである。 (5)結論 以上のとおりであり、甲2発明に甲1発明を適用して、本件発明1を得ることが当業者にとって容易であるということはできない。 また、「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3」であり、また、「重量平均分子量が54,300?500,000(ポリスチレン換算)」ある「アミロース誘導体」については、請求人が提示した甲第3号証ないし甲第12号証のいずれの証拠においても開示されていないのであるから、甲2発明に甲1発明を適用することが容易でないのと同様に、甲第3号証ないし甲第12号証に記載の光学異性体用分離剤に甲1発明を適用することについても、当業者にとって容易であるということはできない。 そして、本件発明1が甲2発明に甲1発明を適用して当業者が容易に発明をすることができたものではなく、かつ、甲第3号証ないし甲第12号証に記載の光学異性体用分離剤に甲1発明を適用して当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明1の発明特定事項を含み、さらに限定した本件発明2ないし4についても、甲2発明に甲1発明を適用して当業者が容易に発明をすることができたものではなく、かつ、甲第3号証ないし甲第12号証に記載の光学異性体用分離剤に甲1発明を適用して当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、請求人が主張する無効理由1の進歩性欠如の理由2は、理由がない。 3 無効理由2について (1)無効理由2は、分子量測定方法として、GPC法が一般的には知られているとしても、そのGPC法による測定は、測定の日時、場所、実験者、測定機械、測定条件によって大きなばらつきが生じることから、本件発明1ないし4のMwやMw/Mnの値は、一定のばららつきをもって複数個存在することになり、本件発明1ないし4を実施するには、無数の測定を行う必要があり、よって、当業者に過度の試行錯誤を強いるものとなるといえるとするものであるから、GPC法について検討し、その検討内容を踏まえて当審の判断をする。 (2)GPC法について GPC法は、被請求人が提出した乙第6号証ないし乙第8号証に記載されている他、請求人が提出した甲第1号証においても分子量を「ゲル・バミュエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって分析する」(〔1-1c〕)ことが記載されていることからも、本件特許出願の優先日に汎用されていた周知の分子量測定法であったといえる。 そして、乙第6号証においては、「測定相の注意」として「常に同1条件で測定することが必要で」、「使用溶媒、移動相流量、試料注入量、試料濃度、カラム温度、これらはいずれも保持容量の変動の要因となる。」(〔2-6b〕)と記載され、また、乙第7号証には「再現性のよいGPCモードでの分離が起こらないこともあるので、注意が必要である。これらの問題解決には臭化リチウムや塩化リチウムなどを少量添加した溶離液を使用することが有効な場合がある。」(〔2-7a〕)と記載されていることなどから、GPC法において測定対象物等に応じて測定条件を設定することについても本件特許出願の優先日に周知の技術的事項であったといえる。 (3)当審の判断 上記のように、分子量測定において、GPC法は本件特許出願時に汎用されていた周知の分子量測定法であり、また、GPC法において測定対象物等に応じて測定条件を設定することについても本件特許出願時に周知の技術的事項であったのであるから、本件発明1ないし4の実施においても、当該測定物に応じて最適な測定条件等を設定することは、当業者にとって当然の事項にすぎず、それが明細書の発明の詳細な説明に記載されていないことをもって、当業者が本件発明1ないし4を実施できる程度に十分かつ明確に記載されたものでないということはできない。 (4)結論 よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、平成14年改正前特許法特許法第36条第4項の規定に違反するものではないから、無効理由2には理由がない。 4 無効理由3について (1)無効理由3の概要 無効理由3は、本件発明1ないし4それぞれにおいて特定された「(アミロース誘導体の)分子量分布の程度を示す値Mw/Mn」の数値範囲及び「アミロース誘導体の重量平均分子量」の数値範囲によって規定される領域に、本件発明1ないし4の効果が奏されるか否かについて具体的開示がない領域が含まれるから、本件発明1ないし4が発明の詳細な説明の記載によってサポートされていないとするものである。 (2)明細書のサポート要件(知財高裁大合議判決の判示事項) ア 明細書のサポート要件については、知財高判平17.11.11(平成17年(行ケ)10042号審決取消請求事件において判示されているとおり、 「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」 である。 すなわち、特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かを検討するには、「発明の詳細な説明」の記載を精査し、「発明の詳細な説明」の記載により、特許請求の範囲に記載された発明が、当該発明の課題が解決できると認識できる範囲のものであるといえるか否かを検討する必要があるといえる。 イ また、同判決において、いわゆるパラメータ発明のサポート要件について、 「このような発明において,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明は,その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である。」 と判示されていることから、発明の詳細な説明において、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が具体例を開示して記載されているか等についての検討が必要であるといえる。 (3)本件発明1ないし4の課題及び当該課題を解決する手段、並びに、発明の効果について ア 訂正明細書の記載 本件発明1ないし4の課題及び当該課題を解決する手段、並びに、発明の効果について、本件訂正明細書には、次の事項が記載されている。 a 「【0002】 【従来の技術および発明が解決しようとする課題】 多糖誘導体からなる充填剤は、光学異性体用分離剤として有用であることは、従来から知られている(Y.OKAMOTO, M.KAWASHIMA and K.HATADA, J. Am. Chem.Soc.;106, 53 ?57, 1984、特公昭63-12850 号公報など)。この多糖誘導体は、通常、シリカゲル担体に担持させて用いられ、ラセミ体に対する光学分割能が非常に高く、光学異性体の分析や分取に広く使われている。しかしながら、用いるアミロース誘導体の分子量分布の巾が広いため、カラムから低分子量のアミロース誘導体の溶出があり、カラム操作時のベースラインの安定性に欠ける、溶離液として使用できる溶媒の範囲が狭いなどの問題があった。 したがって、本発明の目的は、アミロース誘導体からなる分離剤において、低分子量のアミロース誘導体の溶出がなく、カラム操作時のベースラインの安定性がよく、溶離液として使用できる溶媒の範囲が広いような分離剤を提供することにある。」 b 「【0003】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、アミロース誘導体のもつ有用な性質を最大限に発揮でき、かつ上記の問題を克服した分離剤について鋭意研究した結果、本発明に到達した。 即ち、本発明は、分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3のアミロース誘導体からなり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が54,300?500,000(ポリスチレン換算)であり、前記多糖誘導体が担体に担持されている光学異性体用分離剤を提供するものである。」 c 「【0006】 高分子物質は、一般に重合同族列の混合物で、重合度または分子量の異なる多数の分子からなる。分子量の広がりを分子量分布といい、広がり具合は分子量分布曲線で示される。平均分子量には、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)があり、その比率Mw/Mnは分子量分布が広い範囲にわたるとき、大きい値を示すので、この数値は、分子量分布の程度を示す。単分散に近い程、Mw/Mnは1に近づく。単位体積中に、Miなる分子量の分子がNi個存在するものとすれば、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は次式で定義される。 Mw=Σ(Mi^(2) ・Ni)/Σ(Mi・Ni) Mn=Σ(Mi・Ni)/Σ(Ni) 本発明におけるアミロースの平均重合度(1分子中に含まれるピラノース又はフラノース環の平均数)は5以上、好ましくは10以上であり、特に上限はないが、500 以下であることが取り扱いの容易さにおいて好ましい。 本発明におけるアミロース誘導体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、1,000 ?500,000 が好ましく、更に好ましくは20,000?500,000 である。 d 「【0007】 本発明におけるアミロース誘導体は、分子量分布の巾が狭いことが特徴で、Mw/Mnの値が1?3であることが必要である。この範囲にあれば、光学異性体分離用液体クロマトグラフィーカラムの充填剤に用いたとき、低分子量のアミロース誘導体の溶出がなく、本発明の目的が達せられる。 本発明におけるアミロース誘導体を得るための具体的方法としては、原料として単分散のアミロースを用いて製造する方法が挙げられる。このような単分散のアミロースは酵素法合成により得ることができる。天然アミロースは分子量分布の巾が広く、高度の分別精製が必要である。」 e 「【0008】 本発明におけるアミロース誘導体を液体クロマト用充填剤として使用するには、これをそのままカラムに充填するか、担体に担持させてから充填する。 そのままカラムに充填するときは、充填剤は粒状であることが好ましいことから、アミロース誘導体を破砕するか、ビーズ状にすることが好ましい。粒子の大きさは、使用するカラムの大きさによって異なるが、1μm ?10mmであり、好ましくは1μm ?300 μm で、粒子は多孔質であることが好ましい。」 f 「【0009】 さらに、分離剤の耐圧能力の向上、収縮の防止、理論段数の向上のために、本発明におけるアミロース誘導体は、担体に担持させることが好ましい。適当な担体の大きさは、一般に粒径1μm ?10mmであり、好ましくは1μm ?300 μm である。担体は多孔質であることが好ましく、平均孔径は10Å?100 μm であり、好ましくは50Å?50,000Åである。担体材質としては、シリカゲル、アルミナなどの無機物質、ポリスチレン、ポリアクリルアミドなどの有機物質が挙げられるが、好ましくはシリカゲルである。」 g 「【0010】 【発明の効果】 本発明のアミロース誘導体からなる分離剤は、低分子量のアミロース誘導体の溶出がなく、カラム操作時のベースラインの安定性に優れ、即ちベースラインの安定化時間が短く、操作時間が非常に短縮される。また、溶離液に使用できる溶媒の範囲が、従来ヘキサン、エタノール、プロパノールなどに限られていたのが、他の溶媒も使用可能となった。」 イ 訂正明細書の記載による本件発明1ないし4の課題及び当該課題を解決する手段について 上記アのa(段落【0002】)の摘記事項から、本件発明1ないし4の課題が「アミロース誘導体からなる分離剤において、低分子量のアミロース誘導体の溶出がなく、カラム操作時のベースラインの安定性がよく、溶離液として使用できる溶媒の範囲が広いような分離剤を提供すること」であることは明らかである。 そして、その課題の解決手段について、光学異性体用分離剤の構成要件として、b(段落【0003】)には、 (i)分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3のアミロース誘導体からなること、 (ii)前記アミロース誘導体の重量平均分子量が54,300?500,000(ポリスチレン換算)であること、及び (iii)前記多糖誘導体が担体に担持されていること の3つの要件が挙げられている。 上記bの段落【0003】は、課題の解決手段として、本件発明1の発明特定事項を記載したものと認められるが、通常、請求項の発明特定事項は、その全てが発明の課題解決に直結した特徴を示すものとは限らず、発明の前提となる事項(例えば、従来技術に含まれる事項や、いわゆる、おいて書きに記載される特定事項など)や、発明の課題解決に直結した特徴とはいえないものの、さらに好ましい態様を示す事項など、当該発明に対して種々の位置付けにあるものが含まれる。 そして、上記(i)?(iii)の事項の当該発明に対する位置付けに関して、発明の詳細な説明を参酌すれば、dの段落【0007】から、「本発明におけるアミロース誘導体は、分子量分布の巾が狭いことが特徴」で、「Mw/Mnの値が1?3」であり、「この範囲にあれば」、「低分子量の多糖誘導体の溶出がなく、本発明の目的が達せられる。」のであるから、上記の(i)?(iii)の事項のうち、(i)の「分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3のアミロース誘導体からなる」ことが、発明の課題解決に直結した特徴を示すものであるといえる。 これに対して、(ii)前記アミロース誘導体の重量平均分子量が54,300?500,000(ポリスチレン換算)であること、については、cの段落【0006】の「本発明におけるアミロース誘導体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、1,000 ?500,000 が好ましく、更に好ましくは20,000?500,000 である。」の記載から、重量平均分子量が54,300?500,000以外の、例えば、1,000 ?54,300であっても、必ずしも課題が解決し得ないものでなく、分子量分布の程度を示すMw/Mnの値が1?3であれば、作用効果を奏するものといえる。すなわち、重量平均分子量(ポリスチレン換算)の好ましい範囲である「1,000 ?500,000」又は「20,000?500,000」をさらに限定したものに過ぎない特定事項であるものと認められる。 また、(iii)前記多糖誘導体が担体に担持されていること、については、そもそも、パラメータには関係なくサポート要件を満たしている事項であることは明らかといえる。 したがって、本件発明1の特定事項の「(i)分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3のアミロース誘導体からなること」がサポートされていれば、サポート要件に適合するものというべきである。 (4)本件発明1ないし4の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かについての検討 ア 検討事項 そうすると、上記「(2)明細書のサポート要件(知財高裁大合議判決の判示事項)」の「ア」より、本件発明1ないし4の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かについて判断するには、「発明の詳細な説明」の記載により、特許請求の範囲に記載された発明が、当該発明の課題が解決できると認識できる範囲のものであるといえるか否かを検討すればよいのであるから、上記「(i)分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3のアミロース誘導体からなること」で特定される「アミロース誘導体」が「Mw/Mnが1?3」の範囲にあれば発明の課題が解決できると、「発明の詳細な説明」により認識できるかを検討すればよいことになる。 すなわち、「発明の詳細な説明」には「アミロース誘導体」が「Mw/Mnが1?3」の範囲にあれば、発明の課題が解決できるといえる作用効果を奏していることを示す具体例(実施例)が開示されているかについて検討すればよいといえる。 イ 訂正明細書の発明の詳細な説明における実施例の記載事項 そこで、訂正明細書の発明の詳細な説明における実施例の記載をみると、当該実施例には次の事項が記載されている。 h 「【0011】 【実施例】 以下に本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0012】 実施例1 <アミロース誘導体の合成> 合成単分散アミロース(Mw/Mn<1.1 、Mw=24,848(光散乱法・超遠心沈降平衡法から算出))2gをピリジン中で、3,5 -ジメチルフェニルイソシアネート17gと30時間加熱反応させた。反応生成物をメタノール攪拌下に注ぎ込んで沈澱させ、G4グラスフィルターで濾取して、メタノールで2回洗浄した後、80℃で5時間真空乾燥した。得られた生成物にクロロホルムとジメチルアセトアミドを加え完溶させて、再び、メタノール攪拌下に注ぎ込み沈澱させ、G4グラスフィルターで濾取して、メタノールで2回洗浄した後、80℃で5時間真空乾燥し、精製された生成物アミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=1.22、Mw=55,500(いずれもポリスチレン換算)であった。 【0013】 <アミロース誘導体をシリカゲルへ担持させた分離剤の調製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をクロロホルム/ジメチルアセトアミドに溶解し、この溶液を、カルバモイル処理を施したシリカゲルに均一にふりかけた後、溶媒を留去してアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲル(ダイソー製、粒径7μm 、孔径1,000 Å)へ担持させた。 【0014】 <光学分割カラムの作製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を、長さ25cm、内径0.46cmのステンレススチール製カラムにスラリー充填法で充填して光学分割カラムを作製した。 【0015】 <光学分割カラムの性能評価> 上記の光学分割カラムを用いて、標準化合物トランススチルベンオキシドの光学分割実験を行った。性能評価には日本分光製JASCO 875-UVを使用し、溶離液はヘキサン/2-プロパノール=90/10(v/v)、流速は 1.0ml/min 、温度は25℃の条件下で行った。結果を表1に示す。 なお、表中における用語の定義は次の通りである。 分離係数(α): より強く吸着される対掌体の容量比/より弱く吸着される対掌体の容量比分離度(Rs): 2×(より強く吸着される対掌体とより弱く吸着される対掌体の両ピーク間の 距離)/両ピークのバンド巾の合計 ベースラインの安定化時間: UV検出器の感度を0.16、レコーダーのフルスケールを10mVにして、ベースライ ンが30分間水平になったときを安定したとみなして、それまでに要する時間。 例えば、溶離液を通液し始めて30分後からベースラインが水平になったときは、安定化時間は1時間とする。 溶出量: 溶離液ヘキサン/エタノール=75/25(v/v)、流速 1.0ml/min 、温度40℃の条件下で、10時間通液したときの排出液を全量濃縮した残渣の量。」 i 「【0016】 実施例2 <アミロース誘導体の合成> 合成単分散アミロース(Mw/Mn<1.1 、Mw=27,603(光散乱法・超遠心沈降平衡法から算出))を用いて、実施例1と同様にしてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=1.25、Mw=54,300(いずれもポリスチレン換算)であった。 <アミロース誘導体をシリカゲルへ担持させた分離剤の調製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を用いて、実施例1と同様にして、シリカゲルへ担持させた分離剤を調製した。 【0017】 <光学分割カラムの作製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、実施例1と同様にして、光学分割カラムを作製した。 <光学分割カラムの性能評価> 上記の光学分割カラムを用いて、実施例1と同様にして、標準化合物トランススチルベンオキシドの光学分割実験を行った。結果を表1に示す。」 j 「【0018】 実施例3 <アミロース誘導体の合成> 合成単分散アミロース(Mw/Mn<1.1 、Mw=52,268(光散乱法・超遠心沈降平衡法から算出))を用いて、実施例1と同様にしてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=1.47、Mw=159,300(いずれもポリスチレン換算)であった。 <アミロース誘導体をシリカゲルへ担持させた分離剤の調製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を用いて、実施例1と同様にして、シリカゲルへ担持させた分離剤を調製した。 【0019】 <光学分割カラムの作製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、実施例1と同様にして、光学分割カラムを作製した。 <光学分割カラムの性能評価> 上記の光学分割カラムを用いて、実施例1と同様にして、標準化合物トランススチルベンオキシドの光学分割実験を行った。結果を表1に示す。 【0020】 <溶出量の実験> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、長さ25cm、内径1.0cm のステンレススチール製カラムにスラリー充填法で充填して光学分割カラムを作製した。この光学分割カラムを用いて、前記の要領にて溶出量の実験を行った。結果を表1に示す。」 k 「【0021】 実施例4 <アミロース誘導体の合成> 合成単分散アミロース(Mw/Mn<1.1 、Mw=74,510(光散乱法・超遠心沈降平衡法から算出))を用いて、実施例1と同様にしてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=2.21、Mw=367,600(いずれもポリスチレン換算)であった。 <アミロース誘導体をシリカゲルへ担持させた分離剤の調製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を用いて、実施例1と同様にして、シリカゲルへ担持させた分離剤を調製した。 【0022】 <光学分割カラムの作製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、実施例1と同様にして、光学分割カラムを作製した。 <光学分割カラムの性能評価> 上記の光学分割カラムを用いて、実施例1と同様にして、標準化合物トランススチルベンオキシドの光学分割実験を行った。結果を表1に示す。」 m 「【0023】 比較例1 <アミロース誘導体の合成> 分子量分布の広い天然アミロースを用いて、実施例1と同様にしてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=5.29、Mw=272,700(いずれもポリスチレン換算)であった。 <アミロース誘導体をシリカゲルへ担持させた分離剤の調製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を用いて、実施例1と同様にして、シリカゲルへ担持させた分離剤を調製した。 【0024】 <光学分割カラムの作製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、実施例1と同様にして、光学分割カラムを作製した。 <光学分割カラムの性能評価> 上記の光学分割カラムを用いて、実施例1と同様にして、標準化合物トランススチルベンオキシドの光学分割実験を行った。結果を表1に示す。 【0025】 <溶出量の実験> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、長さ25cm、内径1.0cm のステンレススチール製カラムにスラリー充填法で充填して光学分割カラムを作製した。この光学分割カラムを用いて、前記の要領にて溶出量の実験を行った。結果を表1に示す。」 n 「【0026】 」 ウ 当審の判断 上記訂正明細書の発明の詳細な説明の段落【0011】?【0026】において、Mw/Mn=1.22(実施例1)、Mw/Mn=1.25(実施例2)、Mw/Mn=1.47(実施例3)、Mw/Mn=2.21(実施例4)及びMw/Mn=5.29(比較例)についての、作用効果が、【0026】の【表1】にまとめられている。 当該表によれば、実施例1ないし4のMw/Mn=1.22、Mw/Mn=1.25、Mw/Mn=1.47、Mw/Mn=2.21及び比較例Mw/Mn=5.29の場合のベースラインの安定化時間は、それぞれ、3.5(hr)、3.5(hr)、2.5(hr)、2.0(hr)、26.0(hr)であり、Mw/Mnが1?3の範囲にある実施例1?4のものが、当該範囲を外れる比較例のものに比して格段に優れた作用効果を奏することは一目瞭然である。また、実施例1?4によって、Mw/Mnの値として、1.22,1.25,1.47及び2.21と、1?3の範囲において十分な領域をカバーする範囲にわたってサンプリングされ、その作用効果が確認されているということができる。 そうすると、それらの実施例1?4の各Mw/Mnの値に対してベースラインの安定化時間が短いという効果が示されているのだから、上記の「(i)分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3のアミロース誘導体からなること」の特定事項を含む本件発明1ないし4が、「本発明のアミロース誘導体からなる分離剤は、低分子量のアミロース誘導体の溶出がなく、カラム操作時のベースラインの安定性に優れ、即ちベースラインの安定化時間が短く、操作時間が非常に短縮される。」(上記「(3)」の「ア」のg)という本件の訂正明細書の発明の詳細な説明に記載の作用効果を奏することが、本件明細書の発明の詳細な説明によって十分にサポートされているといえる。 エ 請求人の主張 当該サポート要件につき、請求人は、審判請求書及び口頭審理陳述要領書において、 「重要なことは「Mw/Mnが1?3」(構成要件A)、「Mwが54,300?500,00(ポリスチレン換算)」(構成要件B」という数値限定をともに満たす多糖誘導体(図4の赤の点線で囲まれた領域に属する多糖誘導体)が、必ずしも「低分子量の多糖誘導体を含まない」ということを意味しないということである。 すなわち、多糖誘導体は、分子鎖の長さが異なる分子の集合体であるところ、Mwは、各分子の分子量に各分子の重量を掛け合わせた上で全て足し合わせたものをその全量で割ったものを表すので、あくまで平均値であり、「低分子量の多糖誘導体を含まない」ということを意味しない。例えば、Mwが54,300の多糖誘導体が分子量10,000未満の多糖誘導体を含むことも充分にあり得るのである。 また、Mw/Mnは、各分子の分子量がどのように分布しているかを示すものであって、この範囲が狭いことは各分子の分子量がばらついていないことを示すにとどまり、「低分子量の多糖誘導体を含まない」ということを意味しない。 したがって、「Mw/Mnが1?3」(構成要件A)、「Mwが54,300?500,000(ポリスチレン換算)」(構成要件B)の両方を満たす多糖誘導体であっても、一定以上の低分子量の多糖誘導体を含むことは充分にあり得るのである。 低分子量の多糖誘導体の分子量がどの程度かは不明であるが、仮に10,000未満だとすると、mWが54,300、mW/Mnが3の多糖誘導体であれば、相当程度の「低分子量の多糖誘導体」を含むことになる。」(審判請求書第44ページ第2行?第45ページ第8行、口頭審理陳述要領書第42ページ第2行?第43ページ第7行) と主張する。 しかしながら、まず、第1に、上記「(3)」の「イ」で述べたように、上記の構成要件B(「Mwが54,300?500,000(ポリスチレン換算)」)については、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌する限り、必ずしも、課題解決に直結した特定事項であるということはできず、発明の前提事項として挙げられた重量平均分子量(ポリスチレン換算)の好ましい範囲である「1,000 ?500,000」又は「20,000?500,000」をさらに限定したものに過ぎない特定事項であるから、この構成の全範囲についての作用効果がサポートされていることを検討する必要はない事項と認める。これに対して、上記の構成要件A(「Mw/Mnが1?3」)は、発明の課題解決に直結した特徴を示すものである。すなわち、構成要件Aの範囲にあるものの作用効果が発明の詳細な説明によりサポートされていれば、本件発明1ないし4は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるのだから、訂正明細書のサポート要件を満たすことになるのである。 よって、明細書のサポート要件を満たすには、構成要件Aの範囲及び構成要件Bの範囲の両者についてのサポート要件を満たす必要があるとすることを前提とする、上記請求人の主張は認められない。 次に、構成要件A(「Mw/Mnが1?3」)の範囲に関し、明細書のサポート要件を満たすために、当該範囲の全範囲をカバーする具体例が要求されるというものではなく、出願時の技術常識を踏まえて訂正明細書の具体例の記載から、上記構成要件Aの範囲にあれば上記の訂正明細書の段落【0010】に記載の作用効果を奏するものであることが推認されれば足るものと認められる。本件訂正明細書においては、上記「ウ」で述べたように、実施例1?4によって、Mw/Mnの値として、1.22,1.25,1.47及び2.21と、1?3の範囲において十分な領域をカバーする範囲にわたった値で作用効果の確認が行われ、そして、当該実施例1?4のものが、当該範囲を外れる比較例(Mw/Mn=5.29)のものに比して格段に優れた作用効果を奏することが開示されているのだから、上記構成要件Aの範囲にあれば上記の訂正明細書の段落【0010】に記載の作用効果を奏するものであることが推認できるといえる。そして、構成要件A(「Mw/Mnが1?3」)の範囲にあっても、上記の訂正明細書の段落【0010】に記載の作用効果を奏しない具体例が存在するという証拠が請求人から示されていることもない。 よって、構成要件A(「Mw/Mnが1?3」)に関し、明細書のサポート要件が満たされないとする、上記請求人の主張は採用することができない。 オ 結論 以上のとおりであり、本件訂正明細書の記載は、本件発明1ないし4のサポート要件(知財高裁大合議判決の判示事項)を満たすものであって、本件発明1ないし4の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものということはできない。 第7 まとめ 以上のとおり、無効理由1の進歩性欠如の理由1、無効理由1の進歩性欠如の理由2、無効理由2及び無効理由3には、いずれについても理由がなく、本件特許第3746315号は、請求項1ないし4に係るいずれの発明についても、上記の無効理由1の進歩性欠如の理由1、無効理由1の進歩性欠如の理由2、無効理由2及び無効理由3のいずれの理由によっても無効とすべきものではない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 分離剤 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3のアミロース誘導体からなり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が54,300?500,000(ポリスチレン換算)であり、前記アミロース誘導体が担体に担持されている光学異性体用分離剤。 【請求項2】 前記アミロース誘導体がカルバメート誘導体であり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が159,300?500,000(ポリスチレン換算)である請求項1記載の分離剤。 【請求項3】 担体が粒径1μm?10mm、孔径10Å?100μmのシリカゲルであり、前記アミロース誘導体がアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)であり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が159,300?500,000(ポリスチレン換算)である請求項1記載の分離剤。 【請求項4】 前記アミロース誘導体がアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)であり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が159,300?500,000(ポリスチレン換算)であり、液体クロマトグラフィーに用いられる請求項1記載の分離剤。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は分離剤に関し、特に分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3のアミロース誘導体からなる、ラセミ体の光学分割に有用な分離剤に関するものである。 【0002】 【従来の技術および発明が解決しようとする課題】 多糖誘導体からなる充填剤は、光学異性体用分離剤として有用であることは、従来から知られている(Y.OKAMOTO,M.KAWASHIMA and K.HATADA,J.Am.Chem.Soc.;106,53?57,1984、特公昭63-12850号公報など)。この多糖誘導体は、通常、シリカゲル担体に担持させて用いられ、ラセミ体に対する光学分割能が非常に高く、光学異性体の分析や分取に広く使われている。しかしながら、用いるアミロース誘導体の分子量分布の巾が広いため、カラムから低分子量のアミロース誘導体の溶出があり、カラム操作時のベースラインの安定性に欠ける、溶離液として使用できる溶媒の範囲が狭いなどの問題があった。 したがって、本発明の目的は、アミロース誘導体からなる分離剤において、低分子量のアミロース誘導体の溶出がなく、カラム操作時のベースラインの安定性がよく、溶離液として使用できる溶媒の範囲が広いような分離剤を提供することにある。 【0003】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、アミロース誘導体のもつ有用な性質を最大限に発揮でき、かつ上記の問題を克服した分離剤について鋭意研究した結果、本発明に到達した。 即ち、本発明は、分子量分布の程度を示す値Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量(ポリスチレン換算))が1?3のアミロース誘導体からなり、前記アミロース誘導体の重量平均分子量が54,300?500,000(ポリスチレン換算)であり、前記アミロース誘導体が担体に担持されている光学異性体用分離剤を提供するものである。 【0004】 本発明におけるアミロースとは、合成アミロース、天然アミロース、及び天然物変性アミロースのいずれかを問わず、光学活性であればいかなるものでもよいが、好ましくは結合様式の規則性の高いものである。 【0005】 本発明におけるアミロース誘導体とは、アミロースの水酸基に、該水酸基と反応し得る官能基を有する化合物を、公知の方法で、エステル結合、ウレタン結合などにより結合させ、誘導体化したものである。ここで、水酸基と反応し得る官能基を有する化合物とは、脂肪族、脂環族、芳香族、ヘテロ芳香族などのイソシアン酸誘導体、カルボン酸、エステル、酸ハライド、酸アミド、ハロゲン化物、エポキシド、アルデヒド、アルコール、その他脱離基を有する化合物などである。 アミロース誘導体として特に好ましいものは、エステル誘導体またはカルバメート誘導体である。 【0006】 高分子物質は、一般に重合同族列の混合物で、重合度または分子量の異なる多数の分子からなる。分子量の広がりを分子量分布といい、広がり具合は分子量分布曲線で示される。平均分子量には、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)があり、その比率Mw/Mnは分子量分布が広い範囲にわたるとき、大きい値を示すので、この数値は、分子量分布の程度を示す。単分散に近い程、Mw/Mnは1に近づく。単位体積中に、Miなる分子量の分子がNi個存在するものとすれば、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は次式で定義される。 Mw=Σ(Mi^(2)・Ni)/Σ(Mi・Ni) Mn=Σ(Mi・Ni)/Σ(Ni) 本発明におけるアミロースの平均重合度(1分子中に含まれるピラノース又はフラノース環の平均数)は5以上、好ましくは10以上であり、特に上限はないが、500以下であることが取り扱いの容易さにおいて好ましい。 本発明におけるアミロース誘導体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、1,000?500,000が好ましく、更に好ましくは20,000?500,000である。 【0007】 本発明におけるアミロース誘導体は、分子量分布の巾が狭いことが特徴で、Mw/Mnの値が1?3であることが必要である。この範囲にあれば、光学異性体分離用液体クロマトグラフィーカラムの充填剤に用いたとき、低分子量のアミロース誘導体の溶出がなく、本発明の目的が達せられる。 本発明におけるアミロース誘導体を得るための具体的方法としては、原料として単分散のアミロースを用いて製造する方法が挙げられる。このような単分散のアミロースは酵素法合成により得ることができる。天然アミロースは分子量分布の巾が広く、高度の分別精製が必要である。 【0008】 本発明におけるアミロース誘導体を液体クロマト用充填剤として使用するには、これをそのままカラムに充填するか、担体に担持させてから充填する。 そのままカラムに充填するときは、充填剤は粒状であることが好ましいことから、アミロース誘導体を破砕するか、ビーズ状にすることが好ましい。粒子の大きさは、使用するカラムの大きさによって異なるが、1μm?10mmであり、好ましくは1μm?300μmで、粒子は多孔質であることが好ましい。 【0009】 さらに、分離剤の耐圧能力の向上、収縮の防止、理論段数の向上のために、本発明におけるアミロース誘導体は、担体に担持させることが好ましい。適当な担体の大きさは、一般に粒径1μm?10mmであり、好ましくは1μm?300μmである。担体は多孔質であることが好ましく、平均孔径は10Å?100μmであり、好ましくは50Å?50,000Åである。担体材質としては、シリカゲル、アルミナなどの無機物質、ポリスチレン、ポリアクリルアミドなどの有機物質が挙げられるが、好ましくはシリカゲルである。 【0010】 【発明の効果】 本発明のアミロース誘導体からなる分離剤は、低分子量のアミロース誘導体の溶出がなく、カラム操作時のベースラインの安定性に優れ、即ちベースラインの安定化時間が短く、操作時間が非常に短縮される。また、溶離液に使用できる溶媒の範囲が、従来ヘキサン、エタノール、プロパノールなどに限られていたのが、他の溶媒も使用可能となった。 【0011】 【実施例】 以下に本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0012】 実施例1 <アミロース誘導体の合成> 合成単分散アミロース(Mw/Mn<1.1、Mw=24,848(光散乱法・超遠心沈降平衡法から算出))2gをピリジン中で、3,5-ジメチルフェニルイソシアネート17gと30時間加熱反応させた。反応生成物をメタノール攪拌下に注ぎ込んで沈澱させ、G4グラスフィルターで濾取して、メタノールで2回洗浄した後、80℃で5時間真空乾燥した。得られた生成物にクロロホルムとジメチルアセトアミドを加え完溶させて、再び、メタノール攪拌下に注ぎ込み沈澱させ、G4グラスフィルターで濾取して、メタノールで2回洗浄した後、80℃で5時間真空乾燥し、精製された生成物アミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=1.22、Mw=55,500(いずれもポリスチレン換算)であった。 【0013】 <アミロース誘導体をシリカゲルへ担持させた分離剤の調製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をクロロホルム/ジメチルアセトアミドに溶解し、この溶液を、カルバモイル処理を施したシリカゲルに均一にふりかけた後、溶媒を留去してアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲル(ダイソー製、粒径7μm、孔径1,000Å)へ担持させた。 【0014】 <光学分割カラムの作製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を、長さ25cm、内径0.46cmのステンレススチール製カラムにスラリー充填法で充填して光学分割カラムを作製した。 【0015】 <光学分割カラムの性能評価> 上記の光学分割カラムを用いて、標準化合物トランススチルベンオキシドの光学分割実験を行った。性能評価には日本分光製JASCO 875-UVを使用し、溶離液はヘキサン/2-プロパノール=90/10(v/v)、流速は1.0ml/min、温度は25℃の条件下で行った。結果を表1に示す。 なお、表中における用語の定義は次の通りである。 分離係数(α): より強く吸着される対掌体の容量比/より弱く吸着される対掌体の容量比 分離度(Rs): 2×(より強く吸着される対掌体とより弱く吸着される対掌体の両ピーク間の距離)/両ピークのバンド巾の合計 ベースラインの安定化時間: UV検出器の感度を0.16、レコーダーのフルスケールを10mVにして、ベースラインが30分間水平になったときを安定したとみなして、それまでに要する時間。例えば、溶離液を通液し始めて30分後からベースラインが水平になったときは、安定化時間は1時間とする。 溶出量: 溶離液ヘキサン/エタノール=75/25(v/v)、流速1.0ml/min、温度40℃の条件下で、10時間通液したときの排出液を全量濃縮した残渣の量。 【0016】 実施例2 <アミロース誘導体の合成> 合成単分散アミロース(Mw/Mn<1.1、Mw=27,603(光散乱法・超遠心沈降平衡法から算出))を用いて、実施例1と同様にしてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=1.25、Mw=54,300(いずれもポリスチレン換算)であった。 <アミロース誘導体をシリカゲルへ担持させた分離剤の調製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を用いて、実施例1と同様にして、シリカゲルへ担持させた分離剤を調製した。 【0017】 <光学分割カラムの作製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、実施例1と同様にして、光学分割カラムを作製した。 <光学分割カラムの性能評価> 上記の光学分割カラムを用いて、実施例1と同様にして、標準化合物トランススチルベンオキシドの光学分割実験を行った。結果を表1に示す。 【0018】 実施例3 <アミロース誘導体の合成> 合成単分散アミロース(Mw/Mn<1.1、Mw=52,268(光散乱法・超遠心沈降平衡法から算出))を用いて、実施例1と同様にしてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=1.47、Mw=159,300(いずれもポリスチレン換算)であった。 <アミロース誘導体をシリカゲルへ担持させた分離剤の調製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を用いて、実施例1と同様にして、シリカゲルへ担持させた分離剤を調製した。 【0019】 <光学分割カラムの作製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、実施例1と同様にして、光学分割カラムを作製した。 <光学分割カラムの性能評価> 上記の光学分割カラムを用いて、実施例1と同様にして、標準化合物トランススチルベンオキシドの光学分割実験を行った。結果を表1に示す。 【0020】 <溶出量の実験> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、長さ25cm、内径1.0cmのステンレススチール製カラムにスラリー充填法で充填して光学分割カラムを作製した。この光学分割カラムを用いて、前記の要領にて溶出量の実験を行った。結果を表1に示す。 【0021】 実施例4 <アミロース誘導体の合成> 合成単分散アミロース(Mw/Mn<1.1、Mw=74,510(光散乱法・超遠心沈降平衡法から算出))を用いて、実施例1と同様にしてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=2.21、Mw=367,600(いずれもポリスチレン換算)であった。 <アミロース誘導体をシリカゲルへ把持させた分離剤の調製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を用いて、実施例1と同様にして、シリカゲルへ担持させた分離剤を調製した。 【0022】 <光学分割カラムの作製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、実施例1と同様にして、光学分割カラムを作製した。 <光学分割カラムの性能評価> 上記の光学分割カラムを用いて、実施例1と同様にして、標準化合物トランススチルベンオキシドの光学分割実験を行った。結果を表1に示す。 【0023】 比較例1 <アミロース誘導体の合成> 分子量分布の広い天然アミロースを用いて、実施例1と同様にしてアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を得た。Mw/Mn=5.29、Mw=272,700(いずれもポリスチレン換算)であった。 <アミロース誘導体をシリカゲルへ担持させた分離剤の調製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を用いて、実施例1と同様にして、シリカゲルへ担持させた分離剤を調製した。 【0024】 <光学分割カラムの作製> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、実施例1と同様にして、光学分割カラムを作製した。 <光学分割カラムの性能評価> 上記の光学分割カラムを用いて、実施例1と同様にして、標準化合物トランススチルベンオキシドの光学分割実験を行った。結果を表1に示す。 【0025】 <溶出量の実験> 上記のアミローストリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカゲルへ担持させた分離剤を用いて、長さ25cm、内径1.0cmのステンレススチール製カラムにスラリー充填法で充填して光学分割カラムを作製した。この光学分割カラムを用いて、前記の要領にて溶出量の実験を行った。結果を表1に示す。 【0026】 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2015-03-09 |
結審通知日 | 2015-03-11 |
審決日 | 2015-03-25 |
出願番号 | 特願平7-170760 |
審決分類 |
P
1
113・
536-
YAA
(C07B)
P 1 113・ 121- YAA (C07B) P 1 113・ 537- YAA (C07B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 品川 陽子 |
特許庁審判長 |
尾崎 淳史 |
特許庁審判官 |
三崎 仁 森林 克郎 |
登録日 | 2005-12-02 |
登録番号 | 特許第3746315号(P3746315) |
発明の名称 | 分離剤 |
代理人 | 鈴木 秀和 |
代理人 | 辻丸 光一郎 |
代理人 | 中山 ゆみ |
代理人 | 伊藤 武泰 |
代理人 | 紺野 昭男 |
代理人 | 紺野 昭男 |
代理人 | 井波 実 |
代理人 | 山上 和則 |
代理人 | 伊藤 武泰 |
代理人 | 野中 啓孝 |
代理人 | 叶野 徹 |
代理人 | 伊佐治 創 |
代理人 | 吉澤 敬夫 |
代理人 | 吉澤 敬夫 |
代理人 | 井波 実 |
代理人 | 南野 研人 |