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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B82B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B82B
管理番号 1307697
審判番号 不服2014-13166  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-07 
確定日 2015-11-12 
事件の表示 特願2007-527285「ディップペンナノリソグラフィにおけるデポジションの熱的制御」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月 6日国際公開、WO2006/036217、平成20年 4月17日国内公表、特表2008-511451〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年5月10日(パリ条約による優先権主張 2004年8月18日 米国、2004年9月29日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年5月23日付けで拒絶理由が通知され、同年9月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成24年4月25日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年11月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年5月2日付けで、平成24年11月9日付け手続補正書による補正の却下の決定がなされるとともに、最後の拒絶理由が通知され、平成25年11月15日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成26年2月24日付けで、平成25年11月15日付け手続補正書による補正の却下の決定がなされるとともに、拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年7月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に手続補正書が提出され、平成26年9月5日付けで、審判請求書に係る手続補正書が提出され、同年11月27日付けで上申書が提出されたものである。

第2 平成26年7月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年7月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、下記(1)を、下記(2)と補正するものである(下線は、補正箇所。)。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「少なくとも一つのパターニング配合物でコーティングできる走査プローブ顕微鏡チップと、該チップに作動的に接続した温度制御装置とを有し、パターニング配合物の融解温度が約25℃以上であり、温度制御装置が、パターニング配合物の温度をチップの周囲の平均温度より高く変えることを特徴とする熱制御装置。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「少なくとも一つのパターニング配合物でコーティングされた走査プローブ顕微鏡チップと、該チップに作動的に接続した温度制御装置とを有し、パターニング配合物の融解温度が約25℃以上であり、チップが片持ちばりの末端部に形成され、また温度制御装置が片持ちばりと一体の抵抗素子、圧電抵抗素子又は冷却素子であり、パターニング配合物の温度をチップの周囲の平均温度より高く変えるように構成したことを特徴とする熱制御装置。」

2.新規事項の有無及び補正の目的要件
本件補正は、「走査プローブ顕微鏡」について、「少なくとも一つのパターニング配合物でコーティングできる」ものを「少なくとも一つのパターニング配合物でコーティングされた」ものと限定し、「チップ」について「片持ちばりの末端部に形成され」る点を限定し、さらに、「温度制御装置が片持ちばりと一体の抵抗素子、圧電抵抗素子又は冷却素子であ」る点を限定するものを含み、これらは、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、「当初明細書」という。)の請求項9、10、15及び【0024】等の記載からみて、当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であって、上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)を、進歩性(特許法第29条第2項)について検討する。

3.本件補正発明の進歩性について
(1)本件補正発明
本件補正発明は、平成26年7月7日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める(上記「1.(1)」参照)。

(2)引用文献の記載(下線は当審が付与した。)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に国際公開された国際公開第2004/044552号(以下、「引用文献」という。)には、「METHODS AND APPARATUS FOR INK DELIVERY TO NANOLITHOGRAPHIC PROBE SYSTEMS(ナノリソグラフィープローブシステムにおけるインクを放出するための方法及び装置)」(発明の名称。括弧内の日本語は当審訳。)について、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
(引1ア)「Recent advances have been made wherein tips are used to apply inks to surfaces at both the microscopic and nanoscopic scale. For example, tips can be non-hollow and coated with the ink on the tip surface before application of the ink to the surface.
(最近の進歩により、ミクロスケールやナノスケールで、先端部がインクを表面につけるために用いられるようになった。例えば、先端部は、非中空であり、インクの表面につける前に、先端部の外面にインクが被覆されている。)」(明細書1頁10?12行)

(引1イ)「The present invention generally relates to methods and devices for the delivery of one or more inks to systems capable of at least one type of deposition nanolithography, including DIP PEN NANOLITHOGRAPHY^(TM) printing (DPN^(TM) printing) (trademarks of Nanolnk, Inc., Chicago, IL).
(この発明は、概ね、ディップペンナノリソグラフィー(登録商標)印刷(DPN(登録商標)印刷)を含む、堆積によるナノリソグラフィーの少なくとも一つのタイプに用いることができるシステムにおいて、一つ以上のインクを放出するための方法と素子に関連する(イリノイ州シカゴの株式会社ナノインクの登録商標)。)(同8頁2?5行)

(引1ウ)「Deposition nanolithography includes a plurality of techniques in which one or more inks may be transferred from the nanolithography device to a substrate in the form of a predetermined pattern. Ink deposition leads to: (1) the formation of a thin or thick film on the sample; or (2) the modification of the substrate (i.e., by reaction of the ink with the substrate, the surrounding ambient, or both).
(堆積によるナノリソグラフィーは、一つ以上のインクが、予め決められたパターンで、ナノリソグラフィー素子から基板に移行させるための複数の技術を包含している。インクの堆積は、(1)標本上の薄い又は厚い薄膜の形成、(2)基板の修正(すなわち、基板か周囲の雰囲気と、又はその両方と、インクとの反応によるもの)をもたらす。)(同11頁14?18行)」

(引1エ)「Examples of deposition nanolithography described herein include, but are not limited to, Scanning-Probe Microscopy-based and in particular Atomic Force Microscopy-based techniques (such as DIP PEN^(TM) nanolithographic printing, meniscus nanografting and NanoPen Reader- Writer), as well as other methods based on the use of a stamp or mold as the nanometer-scale templating element.
(堆積によるナノリソグラフィーの例には、制限されるわけではないが、ここでは、走査型プローブ顕微鏡を利用したもの、特に、原子間力顕微鏡を利用した技術(たとえば、デップペン(登録商標)ナノリソグラフィー印刷、メニスカスナノグラフティング、ナノペン読み書き)と、ナノスケールの鋳型素子としての打印器、型)を含む。」(同14頁13?17行)

(引1オ)
「The nanolithography device may comprise, among other devices: (1) a tip, i.e., a sharp protrusion, which may be part of, or attached to, a holding and/or manipulation system; (2) the extremity of a sharpened wire or a scanning tunneling microscope tip; (3) the extremity of an optical fiber (coated or not, cantilevered or not); (4) the extremity of a micropipette, needle, capillary tube or other hollow device; (5) a sharp crystalline fragment, such as a diamond shard mounted on a cantilever; or (6) a micro fabricated device, such as: (a) a cantilevered device, e.g., an atomic microscopy probe; (b) a non-cantilevered microfabricated device, including, but not limited to, whisker-shaped, membrane-shaped, or beam-shaped designs, (c) an actuated device, of the cantilevered or non-cantilevered design, (d) a nanofluidic or microfluidic delivery device (actuated or not, cantilevered or not), for example a hollow cantilever or a FLB-milled AFM cantilever, or (e) a more complex micromechanical / nanoelectromechanical system (MEMS / NEMS), such as arrays of passive or actuated cantilevers or tips [Zhang, Bullen, Chung, Hong, Ryu, Fan, Mirkin, Liu, Nanotechnology 13, 212 (2002), which is hereby incorporated by reference as well as references therein].
(ナノリソグラフィー装置は、特に、次の素子を構成に備えている。
(1)先端、すなわち、尖った突出部、これは、保持及び/又は操作システムの一部分であるか、それに接続されている。
(2)尖ったワイヤ又は走査トンネル顕微鏡の末端部。
(3)光学ファイバーの末端部(被覆されているか、又はそうではないか、片持ちにされているか、又はそうではないか)。
(4)マイクロピペット、針、毛細管又は他の中空素子の末端部。
(5)尖った結晶の断片
(6)微小加工された素子、例えば:(a)片持ちされている素子、例 原子間力顕微鏡のプローブ;(b)制限されるものではないが、髭形状、膜形状又は梁形状の、片持ちされていない微小加工された素子;(c)片持ち形式か又は非片持ち形式に設計された駆動される素子;(d)ナノ又はマイクロサイズの流体放出素子(駆動されているか、されていないか、片持ちされているか、されていないか)。例えば、中空の片持ち梁、又は、FLB(集束イオンビーム)で加工されたAFM(原子間力顕微鏡)の片持ち梁;(e)受動的又駆動された片持ち梁又は先端を配列した、さらに複雑なマイクロ機構/ナノ機構を有するシステム(MEMS/NEMS)[文献:Zhang, Bullen, Chung, Hong, Ryu, Fan, Mirkin, Liu, Nanotechnology 13, 212 (2002)。これは、参照されるとともに、参照として取り込まれる。)

The tip(s) may be integrated (fabricated concurrently) with a holding system. Further, the holding system may be associated with microelectronic circuits, mesoscopic-scale translation and scanning mechanisms, such as a MEMS actuated flexure stage, and/or microfluidic and electrical interconnection devices. In addition, the holding system may be generally associated with a combination of control hardware and software. To measure, regulate, and control the spatial position and motion of the tip(s), feedback loops can be provided; the feedback loops may include piezoelectric actuators, sensors (such as photodiode position- sensitive detectors capable of tracking the deflection of the cantilever), and control electronics, such as those found in scanning probe microscopes.
(先端部は、保持システムと一体化される(同時に作成される)。さらに、保持システムは、微小電子回路、MEMS駆動された湾曲台のような、メゾスコピックの大きさを有する変換及び走査機構、及び/又は、マイクロサイズの流体的・電気的連結機構とともに用いられる。さらに、保持システムは、たいてい、制御装置及び制御ソフトウエアと組み合わされる。先端の空間的位置や動きを、測定し、調整し、制御するために、フィードバックループが提供される。フィードバックループは、圧電素子アクチュエーター、センサー(例、片持ち梁の撓みを追跡できるフォトダイオード位置感知検出素子)と、走査プローブや顕微鏡に用いられる制御電子装置を有している。)(同14頁1?23行)」

(引1カ)「DPN^(TM) printing is a direct-write lithography technique based upon the transport of mobile chemical materials (also referred to herein as an ink or patterning compound) from (a) sharp probe(s) or tip(s) (the pen(s)) onto a surface of interest (i.e., the paper), in some embodiments, the tip may be coated with a patterning compound and the coated tip may be contacted with the substrate so that the patterning compound may be applied to the substrate. Further, the probe motion may be controlled so that desired patterns with submicrometer dimensions may be produced. For example, octadecanethiol (ODT) may be applied to an AFM tip. When the tip is brought into contact with a gold-coated substrate, the ODT molecules may be transferred to, and self-assemble on, the gold surface; the tip may be moved across the surface, affording nanometer-scale patterns of ODT, which may be used to protect the surface locally during a subsequent etching step, affording, e.g., gold nanostructures.
(DPN(登録商標)印刷は、可動の化学物質(ここでは、”インク”や”パターニング配合物”とも呼ぶ)を、尖ったプローブか先端部(”ペン”)から、対象物(すなわち、”紙”)の表面に移動させることに基づく、直接書き込みのリソグラフイー技術である。ある形態では、先端部がパターニング配合物によって被覆されていて、被覆された先端部が基板と接触して、パターニング配合物が基板に塗布される。さらに、プローブの動きは制御されていて、ミクロン以下の単位で、所望のパターンを形成することができるようになっている。例えば、オクタデカンチオール(”ODT”)は、AFN(原子間力顕微鏡)の先端部に付着していて、その先端部が、金で被覆された基板に接触すると、そのODTの分子が、金で被覆された基板に移行し、その表面で自己集合する。その先端部は、基板の表面を移動することで、ナノメータースケールのODTのパターンが可能となり、これは、後のエッチング工程において局所的に基板を保護するために用いられ、金のナノ構造物を可能とする。)」(同16頁4?15行)

(引1キ)「Ink delivery by way of sublimation or ablation
Inks insoluble in convenient solvents may be delivered directly from the solid state by means of controlled thermal sublimation. Potential applications include the delivery of high- molecular-weight substances, such as oligothiophenes, pentacene or parylene and other compounds of interest in the field of conductive polymers or molecular electronics.
(昇華又は溶融・蒸発を用いたインク放出
適切な溶媒に不溶なインクは、制御された熱的昇華を用いて、固体状態から直接放出させることができる。応用可能なものとしては、導電性高分子又は、分子エレクトロニクスにおいて、オリゴチオフェン、ペンタセン、パリレンといった、高分子、高質量の物質の放出を含む。)」(同25頁3?7行)

(引1ク)「Reactive ink delivery
Compounds with nanolithography-unfavorable physicochemical properties, such as unstable or reactive compounds, or inks that may not be delivered by other means, may be created in situ on the probe by (electro)chemical reaction or physical transformation. For example, Muller et al., Applied Physics, A 66, S453-S456, 1998, discloses copper deposition using a scanning ion conductance microscope, which is hereby incororated by reference.
(不安定か又は反応性の化合物、インクであって、他の方法では放出できないような、ナノリソグラフィー向きではない物理化学的性質を有する化合物は、(電気的)化学的反応又は物理的な変換によって、プローブ上で製造することができる。たとえば、文献:Muller et al., Applied Physics, A 66, S453-S456, 1998には、イオンコンダクタンス顕微鏡を用いて銅を堆積することが開示され、参照として組み込まれる。)

For example, gaseous or low-boiling point compounds may be delivered to the tip using a microvalved needle placed near the tip. Reaction of the emitted gas with an appropriate precursor on the tip may form the appropriate ink. High-melting-point compounds may be deposited using one of the methods previously described before being heated (using a probe- integrated heating element) to a temperature at which significant diffusion of the ink from the tip to the surface may occur.
(たとえば、ガス状又は低沸点の化合物は、先端部の近くに配置された微小弁を有する針を用いて、先端部に放出される。先端部の適切な前駆体と放出されたガスとの反応によって、適切なインクが形成される。高融点化合物は、加熱されて(プローブに組み込まれた加熱素子を用いて)、多くの量のインクが、先端部から表面に放散される温度になる前に、先端部から既に述べられた方法の一つを用いて堆積が行われる。)」(同27頁末行?28頁11行)

(3)引用文献に記載された発明
引用文献に記載された、溶媒に不溶なインクである「高融点化合物」の先端部からの放出は、「制御された熱的昇華」によって行われていることから、該「制御された熱的昇華」が「制御装置」を有する「加熱手段」によって、該「先端部」の該「高融点化合物」の温度は、先端部の周囲の平均温度より高く、しかも、該「高融点化合物」の融解温度よりも高くなるように加熱することで行われることは、当業者にとって明らかである。
また、引用文献には、「ナノリソグラフィープローブシステム」によるインクの堆積が、どのような雰囲気温度の雰囲気下で行われるかについての特段の規定はないことから、当業者の技術常識に照らして、引用文献の「ナノリソグラフィープローブシステム」によるインク堆積は、常温の雰囲気下で行われるものといえる。

そうすると、引用文献には、「溶媒に不溶な一つ以上の高融点化合物がインクとして被覆された、片持ちされている原子間力顕微鏡のプローブに一体化された先端部と、該高融点化合物を、予め決められたパターンで先端部から基板に移行させて堆積を行うナノリソグラフィープローブシステムにおいて、該高融点化合物を先端部の周囲の平均温度より高く、しかも、該高融点化合物の融解温度よりも高くなるように加熱する、制御された熱的昇華を行う加熱手段を備えた制御装置を有し、常温の雰囲気下で、制御された熱的昇華によって該堆積を行うナノリソグラフィープローブシステム。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(4)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明では、「溶媒に不溶な一つ以上の高融点化合物」を、「予め決められたパターンで基板に移行させる」から、引用発明の「高融点化合物」は、本件補正発明の「パターニング配合物」に相当し、引用発明の「溶媒に不溶な一つ以上の高融点化合物」は、本件補正発明の「少なくとも一つのパターンニング配合物」に相当する。
イ 引用発明の「常温の雰囲気下で、制御された熱的昇華によって堆積を行うナノリソグラフィープローブシステム」、「先端部」、「被覆」、「原子間力顕微鏡」、「片持ちされている原子間力顕微鏡のプローブ」及び「片持ちされている原子間力顕微鏡のプローブに一体化された先端部」は、本件補正発明の「熱制御装置」、「チップ」、「コーティング」、「走査プローブ顕微鏡」、「片持ちばり」及び「片持ちばりの末端部」にそれぞれ相当し、引用発明の「溶媒に不溶な一つ以上の高融点化合物が被覆された、片持ちされている原子間力顕微鏡のプローブに一体化された先端部」は、本件補正発明の「少なくとも一つのパターニング配合物でコーティングされた走査プローブ顕微鏡チップ」に相当する。
ウ 引用発明の「加熱手段を備えた制御装置」は、本件補正発明の「温度制御装置」に相当し、引用発明では、「先端部」の「高融点化合物」を「加熱して」「昇華」させているのであるから、該「加熱手段を備えた制御装置」は、「先端部に作動的接続した」ものである。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
「少なくとも一つのパターニング配合物でコーティングされた走査プローブ顕微鏡チップと、該チップに作動的に接続した温度制御装置とを有し、チップが片持ちばりの末端部に形成され、パターニング配合物の温度をチップの周囲の平均温度より高く変えるように構成した熱制御装置。」である点で一致し、次の相違点1及び2で相違する。

(相違点1)
「パターニング配合物」の「融解温度」について、本件補正発明では、「約25℃以上」であるのに対し、引用発明の「高融点化合物」の「融解温度」は、不明な点。
(相違点2)
本件補正発明では、「温度制御装置が片持ちばりと一体の抵抗素子、圧電抵抗素子又は冷却素子」であるのに対し、引用発明では、「片持ちされている原子間力顕微鏡のプローブに一体化された先端部」に設けられた「加熱手段を備えた制御装置」の「加熱手段」の具体的な構成は不明な点。

相違点について検討する。
(相違点1について)
引用発明の「高融点化合物を、予め決められたパターンで先端部から基板に移行させ」る「堆積」は、常温で行われていることから、引用発明の「高融点化合物」は、常温では固体であり、その融解温度が25℃以上であることは明らかであって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。
また、実質的な相違点であるとしても、引用発明では、制御された熱的昇華によって堆積を行うものであるから、融解温度が25℃未満の高融点化合物を用いた場合、制御された熱的昇華が行えなくなることは当業者が容易に予測し得ることであるから、引用発明の「高融点化合物」の「融解温度」を25℃以上とし、本件補正発明の上記相違点1に係る発明特定事項を備えることは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
引用発明の「片持ちされている原子間力顕微鏡のプローブに一体化された先端部」に「加熱手段」を設ける際に、該「片持ちされている原子間力顕微鏡のプローブ」と一体的に設けるか、別体的に設けるかは、加熱手段の種類によって、当業者が適宜選択すればいいものであるし、また、「加熱手段」として、「抵抗素子」は周知のありふれたものであるところ、「加熱手段」として「抵抗素子」を用いるに際して、「片持ちされている原子間力顕微鏡のプローブ」と、わざわざ、別体的に「抵抗素子」を設ける特段の理由は見当たらないことから、引用発明において、「片持ちされている原子間力顕微鏡のプローブ」と一体化された「加熱手段」である「抵抗素子」を設け、本件補正発明の上記相違点2に係る発明特定事項を備えることは、当業者が容易になし得たことである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
(1)本願発明
平成26年7月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本願の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める(上記「第2 1.(1)」参照。)。

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記「第2 3.(2)、(3)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本件補正発明において、「走査プローブ顕微鏡」について、「少なくとも一つのパターニング配合物でコーティングされた」ものを「少なくとも一つのパターニング配合物でコーティングできる」ものと拡張し、「チップ」について「片持ちばりの末端部に形成され」る点を削除し、「温度制御装置が片持ちばりと一体の抵抗素子、圧電抵抗素子又は冷却素子であ」る点を削除し、さらに、「パターニング配合物の温度をチップの周囲の平均温度より高く変えるように構成した」を「パターニング配合物の温度をチップの周囲の平均温度より高く変える」と表現を変えたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明の範囲を拡張した本件補正発明が、前記「第2 3.」に記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-10 
結審通知日 2015-06-17 
審決日 2015-06-30 
出願番号 特願2007-527285(P2007-527285)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B82B)
P 1 8・ 121- Z (B82B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 真一  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 井口 猶二
川端 修
発明の名称 ディップペンナノリソグラフィにおけるデポジションの熱的制御  
代理人 浜野 孝雄  

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