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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1308151
審判番号 不服2013-24233  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-09 
確定日 2015-12-07 
事件の表示 特願2009-554528「非晶質薬物の経皮系、製造方法、および安定化」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月25日国際公開、WO2008/115371、平成22年 6月24日国内公表、特表2010-521525〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2008年3月11日(パリ条約による優先権主張 2007年3月16日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成25年1月10日付け拒絶理由通知書に対してその指定期間内の同年7月18日に手続補正書が提出されたが,同年8月6日付けで拒絶査定がなされたのに対して,同年12月9日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 平成25年12月9日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年12月9日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成25年12月9日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の記載を補正するものであって,その内容は請求項1の記載については,補正前の記載(すなわち,同年年7月18日付け手続補正書の請求項1の記載)である
「【請求項1】
a)バッキング層と,
b)接着剤マトリックス層であって,前記接着剤マトリックス層中で実質的に非晶質形にある少なくとも1つの活性物質を含み,前記活性物質が過飽和濃度で前記接着剤マトリックスを含む接着剤材料に溶解または分散されている,接着剤マトリックス層と,
c)剥離ライナーとを含む経皮送達デバイス。」
を,
「【請求項1】
a)非晶質化誘導性バッキング層であって,結晶化核もしくは結晶化種粒子を実質的に含んでいないバッキング層と,
b)接着剤マトリックス層であって,前記接着剤マトリックス層中で実質的に非晶質形にある少なくとも1つの活性物質(テラゾシン及びロチゴチンを除く)を含み,前記活性物質が過飽和濃度で前記接着剤マトリックスを含む接着剤材料に溶解または分散されている,接着剤マトリックス層と,
c)フルオロポリマーコーティングもしくはフルオロシリコーンコーティングを備える剥離ライナーと
を含む経皮送達デバイス。」
と補正しようとするものである。
2.本件補正の目的について
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1については,以下の事項を含むものである。
(ア)補正前の「バッキング層」を,「非晶質化誘導性バッキング層であって,結晶化核もしくは結晶化種粒子を実質的に含んでいない」と限定すること。
(イ)補正前の「活性物質」を,「活性物質(テラゾシン及びロチゴチンを除く)」と限定すること。
(ウ)補正前の「剥離ライナー」を,「フルオロポリマーコーティングもしくはフルオロシリコーンコーティングを備える」と限定すること。
これら事項は,何れも発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,特許法第17条の2第4項第2号でいう特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるといえる。
そこで,上記補正後の請求項1に係る発明について,特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(すなわち,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満足するものであるか否か)について以下検討する。
3.独立特許要件
(1)補正後の請求項1に係る発明について
補正後の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明」という。)は,補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「a)非晶質化誘導性バッキング層であって,結晶化核もしくは結晶化種粒子を実質的に含んでいないバッキング層と,
b)接着剤マトリックス層であって,前記接着剤マトリックス層中で実質的に非晶質形にある少なくとも1つの活性物質(テラゾシン及びロチゴチンを除く)を含み,前記活性物質が過飽和濃度で前記接着剤マトリックスを含む接着剤材料に溶解または分散されている,接着剤マトリックス層と,
c)フルオロポリマーコーティングもしくはフルオロシリコーンコーティングを備える剥離ライナーと
を含む経皮送達デバイス。」
(2)刊行物及び刊行物の記載事項
刊行物A:特表2002-504070号公報(原審での引用例3)
本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物Aには,以下の事項が記載されている。
(A-1)第2頁1?13行
「【特許請求の範囲】
1.経皮薬物輸送手段に組み込まれる過飽和薬物レザバーを調製する方法であって,
(a)薬物・ポリマー混合物を形成させるために,ポリマー物質と,それに適合する薬物製剤とを混合する段階,
(b)薬物・ポリマー混合物の低下した融解温度を評価する段階,
(c)段階(a)で調製された混合物を,ポリマー物質中に薬物を溶解させるのに有効な,段階(b)で計算された低下した融解温度よりも高い,予め決定した温度まで加熱する段階,および
(d)薬物レザバーを形成させるため,段階(c)で調製された加熱済み混合物を冷却する段階を含み,
薬物とポリマー物質との相対的量が,薬物レザバーが0.1wt.%?20wt.%程度の薬物を含むものである,方法。」
(A-2)第10頁下から3行?第11頁3行)
「本明細書で使用される「過飽和」薬物レザバーは,室温においてレザバー物質における薬物の溶解度を上回る濃度でそこに分子的に拡散している量の薬物を含む,レザバーを意味する。この文脈における「分子的に拡散」という用語は,薬物がレザバー物質中に固相で存在するのではなく「溶解して」いることを意味する;典型的には,本発明技術を用いて提供されるレザバー物質における薬物の分子的拡散は,薬物とレザバー物質との単一の層である。」
(A-3)第12頁6行?第13頁5行)
「レザバーの成分には,ポリマー物質,好ましくは感圧性の接着物質であるポリマー物質と,薬物製剤が含まれる。下記で説明するように,さらに別の成分も含まれる場合がある。選択されたポリマー物質と薬物製剤の状態図を,従来の方法,すなわち示差走査熱量測定(DSC)またはホットステージ偏光光学顕微鏡を用いて作製し,それからポリマー・薬物組成物の低下した融解温度を計算する。基本的に,薬物濃度の範囲である一連の試料を,各試料の低下した融解温度を測定することにより評価する。低下した融解温度とは,薬物がすべてポリマー相に溶解する温度である;本質的に,これは温度の関数として溶解度を決定することと同等である。
したがって,任意の特定のポリマー・薬物混合物の低下した融解温度は,薬物がポリマー相に完全に溶解し単一の相の溶液が形成される温度である。複数のポリマー物質が使用される場合には,この温度は薬物が各々のポリマー物質と単一の相を形成する温度である。
その後,ポリマーと薬物の混合物を,計算による低下した融解温度よりも少し高い温度で,かつレザバー成分のいずれにも化学変化または分解が起こらないような温度まで加熱する。一般的にこの温度は,低下した融解温度よりも約40℃高い温度よりは低く,より典型的には低下した融解温度よりも約10℃高い温度よりは低く,最も典型的には低下した融解温度よりも約5℃高い温度よりは低い。加熱は,薬物がすべて選択したポリマー物質に溶解するのが観察されるまで続ける。1分または2分(またはそれ未満)でも十分な場合もある;しかし,システムによっては最高で約数時間が必要な場合もある。加熱後に混合物を冷却すると,過飽和した薬物レザバーが生成される。
本明細書において「方法A」と呼ばれることもある上述の方法は,選択された薬物がポリマー物質に対して比較的高い溶解度を有する場合,すなわち薬物の融解温度において,典型的には約10wt.%以上,好ましくは約20wt.%以上を有する場合,システムに特に有用である。これは,特にアクリル接着剤およびポリウレタンのような,いくつかのポリマー物質にあてはまる。しかし,個々の薬物・ポリマー製剤は,この基準で別々に評価する必要がある。」
(A-4)第13頁下から6行?第14頁13行
「薬物レザバーに適当なポリマー物質は,投与する薬物ならびに採用する担体および媒体と物理的および化学的に適合する感圧性の接着剤である。そのような接着剤には,例えば,ポリシロキサン,ポリイソブチレン,ポリアクリレート,ポリウレタン,可塑化エチレン酢酸ビニル共重合体,低分子量ポリエーテルアミドブロックポリマー(例,PEBAX),ポリイソブテンのような粘着ゴム,ポリスチレンイソプレン共重合体,ポリスチレンブタジエン共重合体,およびその混合物が含まれる。レザバー層として使用するために現在のところ好ましい接着性物質は,アクリレート,シリコン,およびポリイソブチレンである。レザバー層として使用するために現在のところ好ましい接着性物質は,アクリレート,シリコン,およびポリイソブチレンである。また,Chiangらに共通に付与された米国特許第5,252,334号に記載されているレザバー物質,すなわち,アクリル酢酸共重合体(たとえばMonsanto Chemical社からGELVA(登録商標)737およびGELVA(登録商標)788の商標で入手できるもの)と,ポリビニルアルコール,ゼラチン,ポリアクリル酸,ポリアクリル酸ナトリウム,メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,ポリビニルピロリドン,アカシアゴム,トラガカントゴム,カラゲーナン,およびグアールゴム,特にポリビニルピロリドンのような水溶性で吸水性のポリマーとの組み合わせも好ましい。しかし,上記に説明したように,方法Aが使用される場合は,レザバー物質として好ましい物質はアクリル接着剤およびポリウレタンであり,方法Bが使用される場合は,上述のように,好ましい接着剤は一般的にシリコンおよびポリイソブチレンである。」
(A-5)第14頁下から2行?第15頁19行)
「本技術を用いて経皮システムに取り込まれうる薬物には:鎮痛性セロトニン様作用薬;麻薬性作用薬および拮抗薬;抗ヒスタミン剤;NSAIDS(非ステロイド系抗炎症薬),ベンゾジアゼピン,ドーパミン作用薬および拮抗薬を含む抗炎症薬;ホルモン,特にステロイド,およびホルモン拮抗薬;ならびに抗精神病薬が含まれるが,これらに限定されるわけではない。
ステロイドは,本製造技術に使用できる薬物の1つの種類となっている。本明細書で有用なステロイド薬物の例には:酢酸フルロゲストン,ヒドロキシプロゲステロン,酢酸ヒドロキシプロゲステロン,カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン,酢酸メドロキシプロゲステロン,ノルエチンドロン,酢酸ノルエチンドロン,ノルエチステロン,ノルエチノドレル,デソゲストレル,3-ケトデソゲストレル,ゲスタデン,およびレボノルゲストレルのようなプロゲストゲン;エストラジオールおよびそのエステル(例,安息香酸エストラジオール,吉草酸エストラジオール,エストラジオールキプリオネート,デカン酸エストラジオール,酢酸エストラジオール),エチニルエストラジオール,エストリオール,エストロン,およびメストラノールのようなエストロゲン;ベタメタゾン,酢酸ベタメタゾン,コルチゾン,ヒドロコルチゾン,酢酸ヒドロコルチゾン,コルチコステロン,フルオシノロンアセトニド,プレドニゾロン,プレドニゾン,およびトリアムシノロンのようなコルチコステロイド;ならびにアルドステロン,アンドロステロン,テストステロン,およびメチルテストステロンのようなアンドロゲンおよび同化作用薬が含まれる。」
(A-6)第16頁下から5行?第18頁2行
「好ましい薬物製剤,すなわち,薬物レザバーに入れる薬物を含む組成物は,典型的には約0.1wt.%?20wt.%,好ましくは約1wt.%?10wt.%程度の薬物を含み,製剤の残りの部分は促進剤,媒体などのような他の成分である。本技術を使用して製造できる経皮システムの1つのタイプを図1に示す。一般的に10と示されている複合体は,裏打ち層(11),薬物(12a)で過飽和したレザバー層(12),および放出ライナー(13)を含む。このような構造は,レザバー層が手段を皮膚に固定する接着剤の役割も果たすため,一般的に「モノリシックな」経皮システムと呼ばれている。
裏打ち層(11)は手段の主要な構造要素として機能し,手段に高い柔軟性,覆い,および好ましくは密封性を提供する。裏打ち層に使用される材料は不活性で,手段内に含まれる薬物,促進剤または薬学的組成物の他の成分を吸収しないものでなくてはならない。裏打ちは好ましくは,手段の上面からの伝搬による薬物および/または媒体の損失を防ぐための保護覆いとして機能し,好ましくは手段を適用した際に覆われる皮膚領域が水和するように手段にある程度の密封性を付与する,柔軟で弾性のある材料の1枚または複数のシートまたはフィルムで構成される。裏打ち層に使用される材料は,手段が皮膚の曲線に沿い,関節または他の屈曲点のような,通常,機械的な変形を受ける部分で,皮膚と手段の柔軟性または弾性の差のために手段が皮膚から剥がれる可能性が少ないかまたはその可能性がなく,快適に装着できるようなものでなくてはならない。裏打ち層に有用な材料の例は,ポリエステル,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリウレタン,およびポリエーテルアミドである。この層は,好ましくは厚さが約15ミクロンから約250ミクロンの範囲で,必要に応じて,着色,金属化,または書き込みに適するようつや消し仕上げをしてもよい。
図1のレザバー層(12)は,薬物を含有する手段として,および使用中に手段を皮膚に固定するための接着剤としての2つの役割を果たす。すなわち,放出ライナー(13)は手段を皮膚に適用する前に除去されるため,レザバー層(12)は,皮膚に接着する手段の基底面の役割を果たす。レザバー層(12)は上述のように接着物質を含んでおり,厚さは一般的に約10ミクロンから300ミクロンの範囲で,好ましくは75ミクロンに近い。
放出ライナー(13)は,適用前に手段を保護するためにのみ機能する使い捨て要素である。典型的には,放出ライナーは,薬物,媒体および接着剤が不透過で,接触性接着剤から簡単にはがすことのできる物質で形成されている。典型的には,放出ライナーにはシリコンまたはフルオロカーボン処理を施す。現在のところ,シリコンコートしたポリエステルが好ましい。」
(A-7)第19頁5行?第22頁下から6行
「実験
材料および方法:
微紛にした半水エストラジオール,USPグレードをDiosynth社から入手した。DURO-TAK(登録商標)87-2287はNational Starch and Chemical社が製造するアクリル感圧性接着剤で,50wt.%の酢酸エチルを含むが,これは試料調製中に除去される。シリコン4201接着剤はDow Corning社が製造するもので,35wt.%ヘプタンを含む。PIB混合物はHMW PIB(Exxon社Vistanex(登録商標)MML-100,M.W.1,060,000?1,440,000):LMW PIB(Exxon社Vistanex(登録商標)LM-MS-LC,M.W.42,600?46,100):ポリブテン(Amoco社Indopol(登録商標)H-1900,M.W.2300)を1:5:4の比で含み,60%ヘキサンの溶液で調製する。Scotchpak(登録商標)1022(3M社)および3-EST-A 242M(Release International社)フィルムは,接着剤が放出側に接触する場合には放出ライナーとして,接着剤が非放出側に接触する場合には裏打ち材料として使用した。流量試験に使用した膜はDow Corning社の非補強医療グレードシリコンゴムSilastic(登録商標)の,0.010”NRV(通常10milの厚さ)であった。
すべての流量実験は三連で行い,報告する値は3つのセルの平均および標準偏差を表す。
インビトロ皮膚透過:
皮膚の調製:透過試験にはヒトの死体の皮膚を使用した。冷凍した皮膚を解凍し,完全な厚さの皮膚を60℃の水に2分間浸して表皮層(角質層および生きた表皮)を分離した。この表皮はただちに流量試験に使用するか,後の試験のために-20℃で保存した。
媒体からの皮膚透過:薬物輸送のための媒体の透過性を評価するために,修正したフランツ拡散セルを使用した。レシーバー区画はpH7の緩衝液7.5mlを充填した。その後,薬物で飽和した選択された媒体200μlをドナー区画に入れて皮膚の流量実験を開始した。拡散セルの内容物の温度は,32℃±1℃に維持した。予め決定しておいた時間に,レシーバー区画の内容物1mlを採取し,新しい緩衝液で置き換えた。試料はHPLCによって測定した。
プロトタイプからの皮膚の透過:薬物輸送のためのプロトタイプシステムを評価するために,修正したフランツ拡散セルを使用した。プロトタイプシステムはポリエステルの放出ライナーをはがし,薬物接着層を角質層に向けて表皮の上に置いた。薬物接着層と角質層とが完全に接触するように,静かに圧力をかけた。その後,プロトタイプシステムを付けた皮膚膜を,ドナー区画とレシーバー区画との間に注意深く取り付けた。レシーバー区画をpH7の緩衝液で満たし,実験期間を通して,温度を32℃±1℃に維持した。レシーバー区画の内容物1mlを採取し,新しい緩衝液で置き換えた。試料はHPLCによって測定した。
流量の決定:皮膚を透過した薬物の累積量を時間に対してグラフに表し,その定常状態の傾きから,皮膚の流量(μg/cm^(2)/hr)を決定した。定常状態が画定した後,グラフの直線部分を用いて,傾きから流量を計算した。各製剤について三連で実施し,報告する値は3つのセルの平均および標準偏差を表す。
実施例1
以下のようにして,5,10,20,40,および80wt.%エストラジオール(エストラジオールおよび接着性固体に基づく)を含む薄層を調製した。所望の濃度のエストラジオールを有する接着性固体を調製するために,酢酸エチルを含むDURO-TAK(登録商標)87-2287に,適当量の微紛化した半水エストラジオールを添加した。混合を促進させるよう湿った試料の粘性を低下させるために,より高濃度の試料には,さらに酢酸エチル(半水エストラジオールの量の倍まで)を追加した。試料は回転手段上で一晩混合させた。得られた混合物はすべて,湿った接着剤中に拡散した結晶性エストラジオールを含んでいた。ナイフを用いて,1022フィルムの放出側に湿った状態で15milの薄層を形成した。70℃のオーブンで1.5時間乾燥させて溶媒を除去した。薄層の保管のために,第2層目の1022フィルムを,放出側が接着剤に接触するようにして接着剤上に重ねた。ナイフで薬物/接着剤試料(19?22mg)を薄層から切り取り,両方の放出ライナーフィルムを除去し,示差走査熱量測定のために,大容量のステンレス製カプセル(Perkin Elmer社)に移した。
DURO-TAK(登録商標)87-2287中のエストラジオールの状態図は,示差走査熱量測定計(Perkin Elmer社DSC 7)上で加熱走査時の融解熱を測定して決定した。加熱走査は10℃/minの速度で行った。エストラジオール濃度の関数として融解温度を評価する(表1参照)ことにより状態図を作製し,図3に示す。40wt.%エストラジオールおよびこれ以下の試料は,純粋なエストラジオールよりも有意に低い融解温度を有する。これらの試料をその融解温度以上に加熱すると,試料の外見が透明になって分かるように,接着剤中に薬物が溶解した単一の相になる。80wt.%の試料は,実験誤差内で,純粋の薬物と同一の融解温度を示した。このような試料は融解温度以上に加熱しても濁っており,高濃度のエストラジオールの液相がポリマー相から分離したことを示す。
表1.DURO-TAK(登録商標)2287中のエストラジオールの融解温度

実施例2
DURO-TAK(登録商標)87-2287中に5wt.%エストラジオールを含む薄層を実施例1の方法と同様の方法で調製し,3-EST-A 242Mフィルムの放出側にコートした。70℃のオーブンで1時間乾燥させ溶媒を除去した。2枚目の3-EST-A 242Mフィルムの非放出側を接着剤に重ね,裏打ち材料とした。5wt.%薄層の一部を,140℃±10℃で1時間熱処理した。この温度は,実施例1における5wt.%試料の融解温度より高く,純粋な薬物の融解温度よりもかなり低い。
打ち抜き型を使って薄層のディスクを打ち出した(熱処理試料は3/8”,非熱処理試料は5/8”)。さらに,Silastic(登録商標)膜用の5/8”ディスクも打ち抜き型を使って打ち出した。試料から放出ライナーを除去し,Silastic(登録商標)膜に薄く重ねた。レシーバー溶液(0.9% NaClおよび0.01% NaN_(3))が組成物のSilastic(登録商標)膜側に接触するようにして,この組成物を拡散セル上に取り付けた。適当なサンプリング時点で,レシーバー溶液全体を除去し,新しい溶液と交換した。レシーバー溶液中のエストラジオール濃度を,標準的なHPLC法によって測定した。Silastic(登録商標)膜を通して輸送されたエストラジオールの累積量を図4に示す。熱処理した5wt.%試料は,熱処理をしなかった5wt.%試料と比較して,8時間後には2倍のエストラジオールを輸送した。
実施例3
実施例1の20wt.%エストラジオールを含むDURO-TAK(登録商標)87-2287の一部を,以下の流量試験に使用した。重ねられている1022フィルムのうち,放出側が接着剤に接触している方を除去した。もう1方の1022フィルムは,非放出側を介して接着剤に重ねられており,裏打ち材料となっている。この薄層の一部を185℃±10℃のオーブンで30分間熱処理し,その後オーブンから取り出して室温に急冷した。表1から結論されるように,この試料の融解温度は低下しており,したがって,熱処理後には単一相の溶液となった。
打ち抜き型を使って,熱処理および非熱処理の薄層(3/8")のディスクを打ち出した。さらに,Silastic(登録商標)膜用の5/8"ディスクも打ち抜き型を使って打ち出した。試料をSilastic(登録商標)膜に薄く重ね,実施例2と同じ方法で流量実験を行った。Silastic(登録商標)膜を通して輸送されたエストラジオールの累積量の比較を図5に示す。この場合,熱処理によって,Silastic(登録商標)膜を通して輸送されるエストラジオールの量が4倍に増加することが分かった。」
(A-8)【図1】



(3)刊行物に記載の発明
ア 刊行物Aの「実験」の「材料および方法」及び「実施例1」?「実施例3」の記載(摘示(A-7))を,特許請求の範囲1の記載(摘示(A-1))に照らすと,「実験」におけるこれらの記載は,特許請求の範囲1の記載に沿って行われたものと理解される。
すなわち,
(1)実施例1で薬物・ポリマー混合物の融解温度を評価して,
(2)実施例2及び実施例3では,実施例1で測定された融解温度に基づいた温度まで加熱し,その後冷却する,
という流れに沿った操作が行われていて,これは特許請求の範囲1の(a)?(d)の各段階に沿うものである。
イ また,同様に,刊行物Aの摘示(A-3)の記載に照らすと「方法A」に沿うものとも理解される。
ウ そこで,特に実施例3において使用されている各物質及び操作を,特許請求の範囲における記載と対比すると次のように対応するものである。
(i)実施例3の「エストラジオール」は,刊行物Aの摘示(A-5)にも「本発明で有用なステロイド薬物の例」として挙げられているものであって,特許請求の範囲の「薬物」に相当するし,また,「DURO-TAK(登録商標)87-2287」は,刊行物Aの「材料および方法」(摘示(A-7))に照らすとアクリル感圧接着剤であって,これは刊行物Aの摘示(A-4)に「薬物レザバに適当なポリマー物質」として挙げられている「アクリレート」及び方法Aの場合の「レザバー物質として好ましい物質」として挙げられている「アクリル接着剤」に相当するものである。
(ii)実施例3の「この薄層の一部を185℃±10℃のオーブンで30分間熱処理し,その後オーブンから取り出して室温に急冷した。」という操作は,特許請求の範囲1の(c)段階及び(d)段階に相当する。したがって,このような操作後の「薄層」は,「(経皮薬物送達手段に組み込まれる)過飽和薬物レザバー」に相当する。
エ そこで,この(i)及び(ii)を踏まえて,刊行物Aの実施例3を解釈すると,次の発明が記載されているものといえる。
「経皮薬物送達手段に組み込まれる過飽和薬物レザバーが20wt.%のエストラジオールを含むアクリル感圧接着剤であるDURO-TAK(登録商標)87-2287であって,裏打ち材料がScotchpak(登録商標)1022フィルムを非放出側を介して接着剤に重ねられたものである,経皮薬物送達手段。」(以下,「引用発明」という。)
(4)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「裏打ち材料」が本願発明の「バッキング層」に対応するものであることは明らかである。
イ 引用発明の「エストラジオール」は,そもそも『薬物』と使用されている上,本願明細書にも「活性物質」の例として挙げられている(【0069】)ものであることから,本願発明の「活性物質」に該当する。
ウ 引用発明の「薬物レザバー」は,薬物を含むアクリル感圧接着剤であって,該接着剤に関しては,刊行物Aの摘示(A-6)に,「図1のレザバー層(12)は,薬物を含有する手段として,・・・の役割を果たす。」とも記載されていることから,本願発明の「(活性物質を含む)接着剤マトリックス層」に対応するものといえる。
エ さらに,引用発明の「薬物レザバー」に関しては,刊行物Aの摘示 (A-2) によれば,
「本明細書で使用される「過飽和」薬物レザバーは,室温においてレザバー物質における薬物の溶解度を上回る濃度でそこに分子的に拡散している量の薬物を含む,レザバーを意味する。この文脈における「分子的に拡散」という用語は,薬物がレザバー物質中に固相で存在するのではなく「溶解して」いることを意味する;典型的には,本発明技術を用いて提供されるレザバー物質における薬物の分子的拡散は,薬物とレザバー物質との単一の層である。」
と記載されていることから,過飽和の薬物が「溶解して」いるといえるし,また該レザバーには薬物が「分子的に」「溶解して」いるというのであるから,本願発明でいう「(活性物質が)非晶質形にある」にも該当するといえる。
オ 引用発明の「経皮薬物送達手段」は本願発明の「経皮送達デバイス」に該当する。
カ そうすると,両発明は,
「a)バッキング層と,
b)接着剤マトリックス層であって,前記接着剤マトリックス層中で実質的に非晶質形にある少なくとも1つの活性物質(テラゾシン及びロチゴチンを除く)を含み,前記活性物質が過飽和濃度で前記接着剤マトリックスを含む接着剤材料に溶解または分散されている,接着剤マトリックス層と,
を含む経皮送達デバイス。」
という点で一致し,次の点で相違しているといえる。
[相違点1]
本願発明のバッキング層は,『非晶質化誘導性』であって,『結晶化核もしくは結晶化種粒子を実質的に含んでいない』とされているのに対して,引用発明の裏打ち材料はそのような記載がない点。
[相違点2]
本願発明では,「フルオロポリマーコーティングもしくはフルオロシリコーンコーティングを備える剥離ライナー」を有するのに対して,引用発明では,そのような剥離ライナーがない点。
(5)判断
以下,[相違点1]及び[相違点2]について順次検討する。
(5-1)[相違点1]について
ア 本願発明の「非晶質化誘導性」及び「結晶化核もしくは結晶化種粒子を実質的に含んでいない」なる表現に関して,本願明細書の記載を検討する。
イ 明細書【0053】には,以下の記載がある。
「好ましくは,バッキング層は,実質的に非晶質化促進性であって結晶化核を含んでいない材料から構成される。そのようなバッキング層は,結晶形成を防止することによって接着剤マトリックス内非晶質薬物の貯蔵に役立つ。バッキング層が構成されてよい材料の例には,ポリエチレンテレフタレート,様々なナイロン,ポリプロピレン,ポリエステル,ポリエステル/エチレン-ビニルアセテート,金属化ポリエステルフィルム,塩化ポリビニリデン,例えばアルミニウム箔などの金属フィルム,フッ化ポリビニリデンフィルム,またはそれらの混合物もしくはコポリマーが含まれる。」
ウ すなわち,バッキング層が「非晶質化促進性」(「非晶質化誘導性」とほぼ同義と解せられる。)であること,或いは,「結晶化核を含んでいない」ことや「結晶形成を防止すること」といった事項は,バッキング層を構成する材料に依存する旨,ここには記載されており,そのような材料としてポリエステルも例示されているものである。
エ また,種々のフィルムをバッキング層として用いた実施例に関する記載である,明細書【0121】?【0122】には,次の記載がある。
「【0121】
表4は,Gurley 4340デンソメーターを用いて測定したバッキングフィルム表面平滑性のデータを含む。表4は,様々なバッキングフィルム表面の相違する化学組成をさらに示している。本発明の発明者らは,シリコーン接着剤マトリックス内非晶質オキシブチニン塩基は,マトリックスがより平滑なMediflex(登録商標)1200ポリエステル側とScotchpak(商標)1022との間に挟まれている場合は結晶化しないことを見いだした。しかし,同一の接着剤マトリックス内非晶質オキシブチニン塩基が,より表面の粗いMediflex(登録商標)1000ポリオレフィン/EVAコポリマー側とScotchpak(商標)1022との間に挟まれている場合は,結晶が形成された。
【図5A】

【図5B】

【0122】
表5は,ライナーもしくはフィルムの表面化学組成が結晶化に影響を及ぼすことを示しているデータを含む。ポリエステルバッキングフィルム(Mediflex(登録商標)1200およびMediflex(登録商標)1201)がいかに粗くても,ポリエステルバッキングフィルムとScotchpak(商標)1022剥離ライナーとの間に挟まれた接着剤マトリックス内非晶質薬物上では結晶化は発生しなかった。しかしポリオレフィンフィルムもしくはポリエチレンバッキングフィルム(Mediflex(登録商標)1000および3M Cotran(商標)9722)がいかに平滑であっても,ポリオレフィンバッキングフィルムとScotchpak(商標)1022剥離ライナーとの間に挟まれた接着剤マトリックス内非晶質オキシブチニン塩基では結晶が形成された。したがって,試験の結果は,ポリエステルバッキングフィルムはオキシブチニン塩基の結晶化を開始させるために適正な核もしくは種粒子を有していないことを示している。しかしポリオレフィンおよびオレフィン/低レベルEVAコポリマーバッキングフィルムは,オキシブチニンの結晶化を開始させるために適正な核を有している。」
オ これら【0121】?【0122】の記載では,バッキング層に関しては,Mediflex(登録商標)1200ポリエステル側ならば「いかに粗くても」結晶化が発生しないとされている一方で,ポリオレフィン等の他の材料では結晶が形成するとされているものである。
カ したがって,このような実施例に関する記載とともに,上記明細書【0053】の記載を併せると,ポリエステル製フィルムならば,本願発明でいう「非晶質化誘導性」及び「結晶化核もしくは結晶化種粒子を実質的に含んでいない」に該当すると解釈されるものである。
キ この点を踏まえて,引用発明における裏打ち材料(本願発明の「バッキング層」に相当する。)について検討する。
ク 引用発明では「裏打ち材料がScotchpak(登録商標)1022フィルムを非放出側を介して接着剤に重ねられた」(以下,「Scotchpak(登録商標)1022フィルム」を単に「1022フィルム」という。)とされているものである。
ここで使用されている1022フィルムは,(本願実施例でも剥離ライナーとして使用されているものであるが),例えば,参考文献1に記載されているように,一方の表面がフルオロカーボンで処理されたポリエステル薄膜であり,引用発明における「非放出側」というのは易剥離性を付与するための処理であるフルオロカーボン処理がなされていない側のことを意味し,逆に「放出側」というのはフルオロカーボン処理がなされている側を意味するものと解される。
○参考文献1:特表2000-511921号公報(第9頁第6?8行)
「当業者に公知の剥ぎ取り式保護薄膜のうちでは,好適な選択肢は,一側面がフルオロカーボンで処理されたScotchpak(商品名)1022(3MHealth Care Limited)のようなポリエステル薄膜,・・・」
そうすると,引用発明の「裏打ち材料が1022フィルムを非放出側を介して接着剤に重ねられた」というのは,すなわち1022フィルムのポリエステル面が接着剤層に接触していることになり,このことは上記した本願明細書における解釈を踏まえると「非晶質化誘導性」及び「結晶化核もしくは結晶化種粒子を実質的に含んでいない」に該当するものというべきものである。
したがって,上記相違点1は実質的な相違点とはいえないものである。
(5-2)[相違点2]について
引用発明を認定した実施例3では,熱処理に先立ち,
「重ねられている1022フィルムのうち,放出側が接着剤に接触している方を除去した。」(刊行物Aの摘示(A-7))
とされていることから,過飽和薬物レザバーが形成された段階では剥離ライナー(刊行物Aでいう「放出ライナー」に相当。)を有していないものである。しかしながら,熱処理前の段階では,本願明細書の実施例,例えば【表5A】及び【表5B】などで,「結晶が形成しない」とされている剥離ライナーと同じ1022フィルムのフルオロカーボン処理面が接着剤に接触して設けられていたものであることに加えて,例えば,刊行物Aの実施例2では,加熱処理の段階でも剥離ライナーはそのままにして行われており,このような態様で加熱処理することも,刊行物Aの記載においては想定されているものと解せられる。
そして,そもそも剥離ライナーとは,皮膚への適用前の任意の時点で除去されるものといえるから,引用発明において,フルオロポリマーコーティングを備える剥離ライナーをそのままにして過飽和薬物レザバーを形成させることは当業者が容易になし得るものというべきである。
そして,このことにより当業者が予期し得ない格別の効果が奏されるものとすることもできない。
(6)小括
したがって,本件補正発明は,刊行物Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4.むすび
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
上記記載のとおり,平成25年12月9日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項に係る発明は,同年7月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?42に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項1は次のとおりである。
「a)バッキング層と,
b)接着剤マトリックス層であって,前記接着剤マトリックス層中で実質的に非晶質形にある少なくとも1つの活性物質を含み,前記活性物質が過飽和濃度で前記接着剤マトリックスを含む接着剤材料に溶解または分散されている,接着剤マトリックス層と,
c)剥離ライナーとを含む経皮送達デバイス。」(以下,「本願発明」という。)
2.当審の判断
本願発明は,上記「第2 平成25年12月9日付け手続補正についての補正の却下の決定」の「3.独立特許要件」で検討した本件補正発明と比較すると,以下の3点で相違するのみである。
(ア)「バッキング層」が,本件補正発明では「非晶質化誘導性バッキング層であって,結晶化核もしくは結晶化種粒子を実質的に含んでいない」と限定されているのに対して,そのような限定がなくなっていること。
(イ)「活性物質」が,本件補正発明では「活性物質(テラゾシン及びロチゴチンを除く)」と限定されているのに対して,単に「活性物質」となっていること。
(ウ)「剥離ライナー」が,本件補正発明では「フルオロポリマーコーティングもしくはフルオロシリコーンコーティングを備える」と限定されているのに対して,そのような限定がなくなっていること。
しかしながら,本願発明と本件補正発明のこのような差異によっては,上記「第2」の「3.独立特許要件」で示した[相違点1]及び[相違点2]のうち,[相違点1]については相違点ではなくなるし,また,[相違点2]の判断は,この差異によって影響されるものではないことは明らかであるから,やはり同様な理由により当業者にとって容易に想到し得たといえるものである。
したがって,本願発明は,刊行物Aに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず,拒絶をすべきものであるから,他の請求項に係る発明を検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-14 
結審通知日 2015-07-17 
審決日 2015-07-28 
出願番号 特願2009-554528(P2009-554528)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 関 美祝
冨永 保
発明の名称 非晶質薬物の経皮系、製造方法、および安定化  
代理人 有原 幸一  
代理人 河村 英文  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 中村 綾子  

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