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審決分類 審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  D06F
審判 一部無効 2項進歩性  D06F
審判 一部無効 4項(134条6項)独立特許用件  D06F
管理番号 1308553
審判番号 無効2012-800030  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-03-16 
確定日 2012-12-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3751454号発明「上着の立体仕上げ装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項1に係る訂正及び明細書についてする訂正を認める。 特許第3751454号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第3751454号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)についての出願は、平成10年11月26日の出願であって、平成17年12月16日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
2.請求人 東信精機株式会社は、平成24年3月16日に本件特許無効審判を請求した。
3.被請求人 株式会社 三幸社は、平成24年6月4日に答弁書を提出するとともに、同日付けで明細書の訂正を請求した。
4.当審は、平成24年7月9日付けで両当事者に審理事項を通知した。
5.請求人は、平成24年8月29日付けで口頭審理陳述要領書を提出した。
6.被請求人は、平成24年9月3日付けで口頭審理陳述要領書を提出した。
7.請求人は、平成24年9月13日付けで口頭審理陳述要領書を提出した。
8.平成24年9月13日に第1回口頭審理を行った。
9.被請求人は平成24年9月18日付けで上申書を提出した。

第2 訂正請求
1.訂正の内容
被請求人により平成24年6月4日付けで請求された訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許発明の明細書(以下「特許明細書」という。)を平成24年6月4日付けで提出した訂正した明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、以下のとおりである。

(訂正事項1)
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1について、「起立状に設けられた人体型と、この人体型に着せた上着の前後の裾を押さえるため、人体型の前後の下部に、人体型に向かって進退動作自在に設けられた前側パッドと後側パッドとを備えてなる上着の立体仕上げ装置であって、上記の人体型が、反転動作自在に形成され、上記の後側パッドが、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、この押えパッドの両側に左右対称状に配設された、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成され、このサイドベンツを押さえるための押えパッドが、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成されたことを特徴とする上着の立体仕上げ装置。」とある記載を、
「起立状に設けられた人体型と、この人体型に着せた上着の前後の裾を押さえるため、人体型の前後の下部に、人体型に向かって進退動作自在に設けられた前側パッドと後側パッドとを備えてなる上着の立体仕上げ装置であって、上記の人体型が、反転動作自在に形成され、上記の後側パッドが、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、この押えパッドの両側に左右対称状に配設された、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成され、このサイドベンツを押さえるための押えパッドが、各押さえパッドごと設けられているエアシリンダで、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成されたことを特徴とする上着の立体仕上げ装置。」と訂正する。
(訂正事項2)
特許明細書の段落【0010】及び【0040】に「このサイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bが、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成」とある記載を、「このサイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bが、各押さえパッドごと設けられているエアシリンダで、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成」と訂正する。

2.訂正の適否について
(1)(訂正事項1)について
「各押さえパッドごと設けられているエアシリンダで、 」なる記載を追加する訂正は、サイドベンツを押さえるための押さえパッドが、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成されることについて、限定を付すものである。
また、当該記載事項については、特許明細書の段落【0031】に「又サイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bは、本発明では互いに接離動作して間隔が変更自在に形成されている。図5、図8において、23a、23bは、互いにロッドを反対側に向けて水平且つ平行状に、人体型1の後側の下部1aに配設されたエアシリンダである。一方のエアシリンダ23aはロッドの先端が、図5において、右側の押えパッド14bの支持部24の所定位置に枢着され、他方のエアシリンダ23bはロッドの先端が、左側の押えパッド14bの支持部25の所定位置に枢着されている。」と、また、特許明細書の段落【0034】に「なお押えパッド14bの間隔を変更する場合は、エアシリンダ23a、23bを駆動させ、ロッドを延伸させる。すると、図5において、各押えパッド14bは、サポート19、エアシリンダ20、支持部24、25等と共に、案内杆26に案内されて夫々側方に移動し、間隔が広げられる。」と記載されている。
そうすると、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、訂正事項1は特許明細書に記載した事項の範囲内でするものと認められる。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)(訂正事項2)について
訂正事項2は、訂正後の請求項1の記載と段落【0010】及び【0040】の記載とを整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、特許明細書に記載した事項の範囲内でするものと認められ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、訂正事項2は、訂正後の請求項1の記載と明細書の記載を整合させための訂正であるから請求項1に関連することが明らかな明細書の訂正であり、請求項1の訂正の許否判断と一体的にその許否を判断される。

(3)請求項2及び3について
請求項2は「請求項1記載の上着の立体仕上げ装置であって、後側パッドが、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成されるのに代え、横幅が、センターベンツと共に一方のサイドベンツを押さえる位置まで長く形成された一方側の押えパッドと、この一方側の押えパッドの傍らに配設されて他方のサイドベンツを押さえるための他方側の押えパッドとで形成され、上記一方側の押えパッドの、一方のサイドベンツに対応する側部が、垂直線を軸にして一方のサイドベンツに向かって湾曲自在に形成されたことを特徴とする上着の立体仕上げ装置。」である。
つまり、請求項2に係る発明は、引用する請求項1の「後側パッドが、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成される」ものに代え、「横幅が、センターベンツと共に一方のサイドベンツを押さえる位置まで長く形成された一方側の押えパッドと、この一方側の押えパッドの傍らに配設されて他方のサイドベンツを押さえるための他方側の押えパッドとで形成され、上記一方側の押えパッドの、一方のサイドベンツに対応する側部が、垂直線を軸にして一方のサイドベンツに向かって湾曲自在に形成された」ものであるから、請求項1記載のような「サイドベンツを押さえるための押えパッドが、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成された」ものではないため、引用する請求項1に「各押さえパッドごと設けられているエアシリンダで、 」との記載を追加しても、そのことによって実質的に訂正されるものではない。

請求項3は「請求項1記載の上着の立体仕上げ装置であって、後側パッドが、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成されるのに代え、裾の両側にわたって横長状に、且つ裾のサイドベンツに対応する位置が垂直線を軸にして各サイドベンツに向かって湾曲自在に形成されたことを特徴とする上着の立体仕上げ装置。」である。
つまり、請求項3に係る発明は、引用する請求項1の「後側パッドが、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成される」ものに代え、「裾の両側にわたって横長状に、且つ裾のサイドベンツに対応する位置が垂直線を軸にして各サイドベンツに向かって湾曲自在に形成された」ものであるから、請求項1記載のような「サイドベンツを押さえるための押えパッドが、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成された」ものではないため、引用する請求項1に「各押さえパッドごと設けられているエアシリンダで、 」との記載を追加しても、そのことによって実質的に訂正されるものではない。

したがって、請求項2及び3は実質的に訂正されない。

(4)請求項4について
請求項4は「請求項1乃至3の何れかに記載の上着の立体仕上げ装置であって、上着の両脇を緊張させるための脇パッドが、人体型の両脇に側方に進出動作自在に配設され、この脇パッドの進出位置が変更自在に形成されたことを特徴とする上着の立体仕上げ装置。」と、請求項4は請求項1を引用するものである。
したがって、訂正事項1により実質的に訂正されるものであって、(1)で述べた同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。そして、訂正事項1は特許明細書に記載した事項の範囲内でするものと認められ、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、請求項2?4は、無効審判請求がされている請求項ではないから、請求項2?4の訂正は一体不可分にその許否が判断される。

(5)小括
ア.請求項1及び明細書の段落【0010】及び【0040】についての訂正は、上記(1)及び(2)で述べたとおりであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成23年法律第63号)附則第2条第18項の規定によりなお従前の例によるものとされる、同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第134条の2第1項第1又は3号に該当し、同条第5項で読み替えて準用する同法第126条第3?5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
イ.請求項4についての訂正は、上記(4)で述べたとおりであるから、改正前特許法134条の2第1項第1号に該当し、同条第5項で準用する同法第126条第3及び4項の規定に適合する。
その場合、改正前特許法134条の2第5項で読み替えて準用する同法第126条第5項の規定により、訂正後における請求項4に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
訂正後の請求項4に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるか、そして請求項2?4についての訂正が認められるかについては、引用する請求項1が無効審判請求されているので、後に述べる。

第3 本件特許発明
前述のとおり、請求項1についての訂正請求は認められるから、本件特許発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「起立状に設けられた人体型と、この人体型に着せた上着の前後の裾を押さえるため、人体型の前後の下部に、人体型に向かって進退動作自在に設けられた前側パッドと後側パッドとを備えてなる上着の立体仕上げ装置であって、上記の人体型が、反転動作自在に形成され、上記の後側パッドが、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、この押えパッドの両側に左右対称状に配設された、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成され、このサイドベンツを押さえるための押えパッドが、各押さえパッドごと設けられているエアシリンダで、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成されたことを特徴とする上着の立体仕上げ装置。」

第4 請求人の主張
審判請求人は、概ね、本件特許発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、本件特許発明の特許は特許法第29条第2項の規定の規定に違反してされたから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張し、証拠方法として甲第1号証の1(欧州特許出願公開第0600296号明細書(1994))、甲第1号証の2(甲第1号証の1の翻訳文)及び甲第2号証(特開平7-303798号公報)を提出している。
また、訂正は認めるが、訂正後の請求項4に記載されている事項により特定される発明は特許出願の際独立して特許を受けることができたものではないとし、甲第3号証の1(欧州特許出願公開第0636733号明細書(1995))、甲第3号証の2(第3号証の1の翻訳文)及び甲第4号証(特公平3-44800号公報)を提出している。
そして、概略、以下のように主張している。
甲第1号証の1には「人体型が、反転動作自在に形成され」る以外の構成が記載されており、甲第2号証には「人体型が、反転動作自在に形成され」る構成が記載されているから、甲第1号証の1に記載の発明に、甲第2号証に記載の発明を組み合わせて本件特許発明のように構成することは容易である。

第5 被請求人の主張
審判被請求人は、訂正請求は認められるから本件特許発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。
そして、本件特許発明は、甲第1及び2号証に記載の発明から当業者が容易に発明をすることはできないから、無効理由はない旨主張し、証拠方法として、乙第1号証(実開昭59-148794号公報)、乙第3号証(甲第1号証の1を被請求人が翻訳した翻訳文)を提出し、参考資料として「『フォーマル専門店ノービアノービオ』のホームページの『http://www.novianovio.com/formal/formal_siz.html』の頁を2012年6月4日に印刷したものの写し」を提示している。
また、訂正請求により訂正された後の請求項4に係る発明の独立特許要件については、引用する請求項1に係る発明が容易に発明をすることができたものでないから、主張しないとした。
そして無効理由について、概略、以下のように主張している。
1.甲第1号証の1に記載の発明に関して
本件特許発明と甲第1号証の1に記載の発明とは人台が反転しないだけでなく、本件特許発明の押さえパッドは能動的に動き、サイドベンツをしっかり押さえスチ-ムを供給するのに対して、甲第1号証の1に記載の発明のサイドグリップ装置はテンションプレートの張り出しに連動して受動的に動くもので、アイロンがけする機械に付設し、裾をぴんと張る機能を持つにすぎないから、サイドグリップ装置(甲第1号証の1に記載の発明)とサイドベンツを抑える押さえパッド(本件特許発明)の構造、作用・効果が異なるとし、具体的に次のように主張する。
理由(1) 本件特許発明は、従来、乙第1号証に記載されるように広幅の一個の押さえパッドでセンターベンツ、サイドベンツの区別なく対応していて、サイドベンツ式上着の後ろ裾をしっかり押さえて仕上げることが難しかったものを、真後ろの押さえパッドとその左右のサイドベンツを押さえるための押さえパッドとの3本立てに形成することでセンターベンツ、サイドベンツの区別なく上着を緊張仕上げできるように形成したものである。

理由(2) 本件特許発明は、サイドベンツ用の押さえパッドが各押さえパッドごとに設けられるエアシリンダで、独自に、長い距離移動可能なので、サイズ違いでサイドベンツの位置が大きく異なっても柔軟に対応できる。
甲第1号証の1に記載の発明のサイドスリットグリップ装置12はテンションプレート10を張り出したとき連動して動く構造であって僅かな距離しか動くことができずサイドベンツを的確確実に押さえることができない。また、ばねで制限された動きしかとれない。
特に甲第1号証の1に記載の装置のテンションプロセス前の調節について、本件特許発明の押さえパッドのような事前の位置調節のための接離動作をしないとし、以下の理由を挙げている。
ア.人台に上着をかけた状態で事前の位置調節のためにグリップ装置をガイドロッドに沿って移動させると、裾の内側に配置されているグリップ装置のパッドが上着の裾の内側に当たり、サイドベンツのスリットを開かせ、裾を乱すからサイドベンツの位置に合わせてふさわしい位置に押さえパッドを事前に配置するという動きをとることはあり得ない。
イ.甲第1号証の2第4頁第12行目の「これが行なわれた後に、テンションプレート10が外側へ移動され」と記載され、「これ」とは各グリップ装置6、8、12が閉じることを意味するから、各グリップ装置6、8、12が開いている状態でのテンションプレート10の移動はなく、テンションプロセス前の事前の位置調節は当該記載に矛盾し、そのような位置調節はない。
ウ.サイドスリットグリップ装置12が、ガイドロッドに沿って事前に位置調節するために移動することの具体的な記載が甲第1号証の1にない。
エ.ア.?ウ.のことから甲第1号証の1に記載された装置のサイドスリットグリップ装置12は、事前の位置調節のための接離動作をしない。
オ.甲第1号証の2第4頁第12?14行に「これが行なわれた後に、テンションプレート10が外側へ移動されて(図1の矢印方向C)、ピストン-シリンダユニット11によって伸張され(図1b)、それによって裾2が隙間なしにぴんと張られる。」と記載され、各グリップ装置6、8、12で裾を固定し、テンションプロセスが完了する前にテンションプレート10が拡げられて裾2が隙間なしにぴんと張られると考えられるから、甲第1号証の2第3頁第6?8行の「テンションプロセスの前に、サイドスリットグリップ装置12がガイドロッド14ないし16上の所望の位置に移動される。」は「テンションプロセスが完了する前に、サイドスリットグリップ装置12がガイドロッド14ないし16上の所望の位置に移動される。」と読み替えて解釈すべきである。
カ.甲第1号証の2第4頁第10?11行の「次にサイドスリットグリップ装置12が-場合によっては正しく調節された後に-閉鎖される。」の「正しく調節され」とは、上記ア?オのとおり甲第1号証に記載の装置のグリップ装置がロッドに沿って事前に位置調節のために動くことがないから、シリンダの駆動を伴わない調節と解釈される。
キ.甲第1号証の2第2頁第30行の「ぴんと張るプロセスの前およびその際に」とは、上記ア?オのとおり甲第1号証に記載の装置のグリップ装置がロッドに沿って事前に位置調節のために動くことがないから、また甲第1号証の2第2頁末行?第3頁第2行に「そのテンションプレートは、ジャケット4の両側において裾2を、その端部がストッパ13に添接するまで、実質的に径方向外側へぴんと張らせる。」と記載され、各グリップ装置6、8、12で裾を固定し、テンションプロセスが完了する前にテンションプレート10が拡げられて裾2が隙間なしにぴんと張られると考えられるから、「ぴんと張るプロセスの完了の前および完了の際に」と読み替えて解釈すべきである。
ク.オ.?キ.のことから、甲第1号証の1に記載された装置のサイドスリットグリップ装置12は、事前の位置調節のための接離動作があると解釈できない。
ケ.本件特許発明の押パッドはサイドベンツの位置が違っても正確に押え、人体型が反転したり熱風やスチームにより裾が捲れて乱れることを防止するのに対し、甲第1号証の1に記載された装置のグリップ装置は裾をぴんと張るためのものであるから、その目的や効果が違い、接離動作も全く別のものであって、本件特許発明の接離動作は甲第1号証の1に開示されていない。

理由(3) 本件特許発明は人体型の下から上着の内部にスチームや熱風を供給して皺を除去するものであって、そのサイドベントの押さえパッドは上着の外側にあるのに対し、甲第1号証の1に記載の装置はアイロンがけマシーンに付設し裾をぴんと張るためであって、そのサイドグリップ装置12の支持クッション56は裾の内側に配置されるから、甲第1号証の1に記載の装置は、スチームが遮られ、皺を除去できない。また、甲第1号証の1に記載の装置の支持クッション56が外側にないからテンションプレート10を張り出させるとサイドベンツにずれを生じる。
本件特許発明の「上着の立体仕上げ装置」と甲第1号証の1に記載の装置のジャケットをアイロンがけする装置は、本件特許発明の押えパッドと甲第1号証の1に記載の装置のサイドグリップ装置12の機能が大きく異なるから、甲第1号証の1に記載の装置から本件特許発明を容易に考えつかない。

2.甲第2号証に記載の発明に関して
甲第2号証に記載の装置には前側及び後側の押えパッドがなく、本件特許発明は、甲第1号証の1に記載の発明はもとより、甲第2号証記載の発明に基づいても当業者が容易に発明をすることはできない。

第6 甲各号証及び乙各号証
1.甲第1号証の1
甲第1号証の1には、図1?4とともに以下の記載がある。なお、翻訳文は、乙第3号証による。また、ウムラウトは省略し、エスツエットは代用表記した。
(1)「Die Erfindung betrifft eine Vorrichtung an einer Bugelmaschine zum Spannen des unteren Saums eines auf eine Buste gehangten Sakkos, das beidseitig je einen von unten ausgehenden Seitenschlitz, insbesondere Ruckseitenschlitz, aufweist, mit Greifern, die die vorderen Enden des unteren Saums und einen Abschnitt des unteren Saums im mittleren Ruckenbereich des Sakkos von unten umfassen und festhalten, und mit Spannplatten, die den unteren Saum an beiden Seiten des Sakkos im wesentlichen radial nach aussen spannen.」(第1欄第1?11行、訳:本発明は、人台上に掛けられた、両側にそれぞれ下方から始まるサイドスリット、特に背面サイドスリットを有する背広上着の裾をぴんと張るためにアイロン機械に設けられる装置に関するものであって、背広上着の裾の前端部と背面中央領域内の裾の一部を下から把持して固定する把持部材と、背広上着の両側において裾を実質的に径方向外側へ張らせるテンションプレートとを有する。(乙第3号証第2頁第7?11行))及び
「denn die gestreckten Spannplatten 10 bilden, nachdem sie hindernisfrei gestreckt wurden, mit den Stutzkissen 56 einen praktisch geschlossenen Ring, der ein rundum gleichmassig glattes Finishen des Saums 2 gewahrleistet.」(第4欄第33?38行、訳:というのは、伸張されたテンションプレート10は、それが障害なしに伸張された後に、支持クッション56と共に実際に閉成されたリングを形成するからであって、そのリングが裾2の周囲の均一で滑らかな仕上がりを保証する。(乙第3号証第5頁第15?18行))
上記摘示した事項から、「人台上に掛けられた背広上着の裾をぴんと張るための、裾2の周囲の均一で滑らかな仕上がりを保証する、アイロン機械に設けられる装置」が記載されているといえる。
(2)「Die Vorrichtung dient an einer Bugelmaschine zum Spannen des unteren Saums 2 eines auf eine nicht dargestellte Buste gehangten Sakkos 4, das beidseitig je einen von unten ausgehenden Seitenschlitz, insbesondere Ruckenschlitz, aufweist. ・・・(中略)・・・ Zum Spannen des Saums dienen ein vorderer Greifer 6 und ein hinterer Greifer 8, die die vorderen unteren Saumenden und einen Abschnitt des unteren Saums 2 im mittleren Ruckenbereich des Sakkos 4 von unten umfassen und wahrend des Spannens festhalten, und mittels Kolben-Zylindereinheiten 11 entsprechend dem DB-GM 91 04 582 spreizbare Spannplatten 10, die den unteren Saum 2 an beiden Seiten des Sakkos 4 im wesentlichen radial nach aussen spannen, bis ihre Enden an Anschlagen 13 anstossen. Zwischen den Spannplatten 10 und dem hinteren Greifer 8 sind Seitenschlitz-Greifer 12 vorgesehen, die die unteren Saumenden beidseitig der (nicht dargestellten) Seitenschlitze von unten umfassen und wahrend des Spannens festhalten.」(第2欄第22?45行、訳:装置は、アイロン機械において、図示しない人台上に掛けられた、両側にそれぞれ下から始まるサイドスリット、特に背面スリットを有する、背広上着4の裾2をぴんと張るために用いられる。・・・(中略)・・・背広上着をぴんと張るために、前方の把持部材6と後方の把持部材8が用いられ、それらは背広上着4の前の裾と背面中央の裾2の一部を下から把持して、ぴんと張る間固定し、かつ、ピストンシリンダユニット11を用いてDB-GM9104582と同様に、背広上着4の両側において裾2を実質的に径方向外側へ張らせる、拡げることのできるテンションプレート10が、その端部がストッパ13に当接するまで拡げられる。テンションプレート10と後方の把持部材8の間に、サイドスリット把持部材12が設けられており、それが、(図示されない)サイドスリットの両側で裾端部を下から把持して、ぴんと張る間固定する。(乙第3号証第3頁第16?26行))
上記摘示した事項によると、
「背広上着4が掛けられる人台と、
背広上着4の前の裾と背面中央の裾2の一部を下から把持して、ぴんと張る間固定する、前方の把持部材6と後方の把持部材8と、背広上着4の両側でそれぞれ下から始まるサイドスリットの両側で裾端部を下から把持して、ぴんと張る間固定するサイドスリット把持部材12を備えている、装置」が記載されているといえる。
(3)「Jeder Seitenschlitz-Greifer 12 ist hinsichtlich seiner Greifelemente ebenso ausgebildet wie der vordere Greifer 6 und der hintere Greifer 8, so dass insoweit die Beschreibung eines Seitenschlitz-Greifers ausreicht. Die entsprechenden Bezugsziffern fur den vorderen Greifer 6 und den hinteren Greifer 8 sind in den Zeichnungen die gleichen.
Auf dem Bodenstuck 50 eines jeden Greifers befindet sich radial innerhalb des Sakkos 4 an einem Winkel 54 aussenseitig ein Stutzkissen 56. Zum Anklemmen des Saums 2 an das Stutzkissen 56 dient eine radial innenseitig mit einem Klemmkissen 58 belegte Klemmplatte 60, die mittels Federn 62, 64 an einem abgewinkelten Klemmarm 66 abgestutzt ist. Das freie Ende eines bei geoffnetem Greifer im wesentlichen waagerecht verlaufenden Abschnitts 68 des Klemmarms 66 ist an dem radial inneren Ende des Bodenstucks 50 angelenkt. An dem radial ausseren Ende des Bodenstucks 50 ist eine Stutze 70 fur ein Kolben-Zylinder-Aggregat 72 angesetzt, das an dem Klemmarm 66 angelenkt ist.」(第3欄第46行?第4欄第8行、訳:各サイドスリット把持部材12は、その把持部材に関して前方の把持部材6および後方の把持部材8と同様に形成されているので、その限りにおいてサイドスリット把持部材12の説明は、十分である。前方の把持部材6と後方の把持部材8のための該当する参照符号は、図面において同一である。
各把持部材の底片50上で、背広上着4の径方向内側においてアングル片54の外側に支持クッション56が設けられている。裾2を支持クッション56へ押し付けるために、径方向内側に締付けクッション58が貼られた締付けプレート60が用いられ、その締付けプレートがばね62、64によって、屈曲された締付けアーム66に支持されている。締付けアーム66の、把持部材が開放された場合に実質的に水平に延びる部分68の自由端部が、底片50の径方向内側の端部にリンク結合されている。底片50の径方向外側の端部には、ピストン-シリンダアグリゲート72のための支柱70が取り付けられており、ピストン-シリンダアグリゲートは、締付けアーム66にリンク結合されている。(乙第3号証第4頁第25行?第5頁第3行))
上記摘示した事項によると、
「前方の把持部材6、後方の把持部材8およびサイドスリット把持部材12は、
背広上着4の径方向内側に設けられている支持クッション56へ裾2を押し付けるために、背広上着4の径方向内側に締付けクッション58が貼られた締付けプレート60が締付けアーム66に支持され、締付けアーム66が径方向外側のピストン-シリンダアグリゲート72にリンク結合されるもの」といえる。
(4)「Die Spannplatten 10 befinden sich an Trageinrichtungen 18, die je durch einen Tragerblock 20 und eine diesen Tragerblock 20 mit der jeweiligen Spannplatte verbindende Tragleiste 22 gebildet sind. An dem in Fig. 1 linken Tragerblock 20 sind die Fuhrungsstangen 14 und an dem in Fig. 1 rechten Tragerblock die Fuhrungsstangen 16 befestigt. Die Fuhrungsstangen 14, 16 sind als Paare von ubereinanderliegenden Fuhrungsstangen 14 bzw. 16 in ihrer Langsrichtung verstellbar in einem an einem ortsfesten Gestell 24 ruckseitig des Sakkos befestigten, mehrteiligen Gleitfuhrungsblock 26 gefuhrt.
Zur Fuhrung sind in den Gleitfuhrungsblocken Kugelbuchsen 28 vorgesehen. Zur Verschiebung der Tragerblocke 20 und damit der Spannplatten 10 dienen pneumatische Kolben-Zylinder-Aggregate aus Zylindern 30 und Kolben an Kolbenstangen 32, die mit ihrem einen Ende an dem jeweiligen Tragerblock 20 und mit ihrem anderen Ende an dem Gleitfuhrungsblock 26 befestigt sind.
Auf den Fuhrungsstangen 14 bzw. 16 verschiebbare Tragersockel 34 der Seitenschlitz-Greifer 12 sind mit den auf ihrer Seite befindlichen Tragerblocken 20 durch Federn 36 verbunden, so dass bei einer Verschiebung der Tragerblocke 20 die Tragersockel 34 nachgiebig mitgezogen werden.」(第2欄第52行?第3欄第21行、訳:テンションプレート10は、支持装置18に設けられており、その支持装置は、それぞれ支持体ブロック20とこの支持体ブロック20をそれぞれのテンションプレート10と結合する支持バー22とによって形成されている。図1左の支持体ブロック20にはガイドロッド14が、図1右の支持体ブロックにはガイドロッド16が固定されている。ガイドロッド14、16は、重なり合ったガイドロッド14ないし16のペアとしてその長手方向に調節可能に、背広上着の後ろ側の固定位置の架台24に固定された、幾つかに分れた滑りガイドブロック26内で案内されている。
案内するために、滑りガイドブロック内にボールブッシュ28が設けられている。支持体ブロック20とそれに伴ってテンションプレート10を移動させるために、シリンダ30とピストンロッド32に設けられたピストンとからなる、空気式のピストン-シリンダアグリゲートが用いられ、そのピストンロッドの一方の端部がそれぞれの支持ブロック20に、その他方の端部が滑りガイドブロック26に固定されている。
ガイドロッド14ないし16上で摺動可能な、サイドスリット把持部材12の支持体ベース34が、その一方の側に設けられた支持体ブロック20とばね36によって結合されているので、支持体ブロック20が摺動する場合に支持体ベース34が曲りながら一緒に引っ張られる。(乙第3号証第3頁第30行?第4頁第11行))及び
「Nachdem dies geschehen ist, werden die Spannplatten 10 nach aussen verschoben (Pfeilrichtungen C in Fig. 1) und mittels der Kolben-Zylinder-Einheiten 11 gestreckt (Fig. 1b), wodurch der Saum 2 spaltfrei gespannt wird, ・・・(中略)・・・. Da die Seitenschlitz-Greifer 12 in der beschriebenen Weise beweglich sind, werden sie dabei durch den auf den Saum 2 ausgeubten Zug etwas nach aussen gezogen (in Fig. 1 der linke nach links, der rechte nach rechts gemass den Pfeilen D), so dass auch die Abschnitte des Saums 2 zwischen den Seitenschlitz-Greifern 12 und dem hinteren Greifer 8 gespannt werden.」(第4欄第29?45行、訳:これが行なわれた後に、テンションプレート10が外側へ移動されて(図1の矢印方向C)、ピストン-シリンダユニット11によって伸張され(図1b)、それによって裾2がすきまなしにぴんと張られる。・・・(中略)・・・サイドスリット把持部材12は、上述したように移動可能であるので、裾2へ加わる引張りによって少し外側へ引っ張られるので(図1において、矢印Dに従って左のものが左へ、右のものは右へ)、サイドスリット把持部材12と後方の把持部材8の間の裾の部分もぴんと張られる。(乙第3号証第5頁第13?21行))
上記摘示した事項によると、
「支持バー22によりそれぞれのテンションプレート10と結合するそれぞれの支持体ブロック20がそれぞれのガイドロッド14、16に固定され、
ガイドロッド14、16は、固定位置の架台24に固定された滑りガイドブロック26内で長手方向に調節可能に案内されており、
支持体ブロック20とそれに伴ってテンションプレート10を移動させるための、空気式のピストン-シリンダアグリゲートは、一方の端部がそれぞれの支持ブロック20に、他方の端部が滑りガイドブロック26に固定されており、
ガイドロッド14ないし16上で摺動可能な、サイドスリット把持部材12の支持体ベース34が、その側に設けられた支持体ブロック20とばね36によって結合されていて、
サイドスリット把持部材12はテンションプレート10が外側へ移動され、支持体ブロック20が摺動する場合にサイドスリット把持部材12の支持体ベース34が一緒に引っ張られ、裾2も少し外側へ引っ張られるもの」といえる。

また、以下の記載もある。
(5)「Um die Seitenschlitz-Greifer an die Form der Sakkos anpassen zu konnen, ist die Vorrichtung bevorzugt dadurch gekennzeichnet, dass jeder Seitenschlitz-Greifer an seinem Tragersockel im wesentlichen radial zum unteren Saum des Sakkos verstellbar und festsetzbar ist und/oder dass jeder Seitenschlitz-Greifer an seinem Tragersockel um eine im wesentlichen vertikale Achse verstellbar und feststellbar ist.
Um ein moglichst reibungsfreies Verschieben der Seitenschlitz-Greifer vor oder bei einem Spannvorgang zu ermoglichen, ist die Vorrichtung bevorzugt dadurch gekennzeichnet, dass die Tragersockel der Seitenschlitz-Greifer Kugelbuchsen enthalten, die langs der Fuhrungsstangen verschiebbar sind.」(第1欄第50行?第2欄第7行、訳:サイドスリット把持部材を背広上着の形状に適合させることができるようにするために、本装置は、好ましくは、各サイドスリット把持部材がその支持体ベースにおいて、背広上着の裾に対して実質的に径方向に変位可能かつ固定可能であり、かつ/または各サイドスリット把持部材がその支持体ベースにおいて、実質的に垂直の軸を中心に変位可能かつ固定可能であることを、特徴としている。
ぴんと張るプロセスの前あるいはその際に、サイドスリット把持部材のできるだけ摩擦のない摺動を可能にするために、本装置は、好ましくはサイドスリット把持部材の支持体ベースがボールブッシュを有しており、そのボールブッシュがガイドロットに沿って摺動可能であることを、特徴としている。(乙第3号証第2頁末行?第3頁第8行))、
「Diese Seitenschlitz-Greifer 12 sind auf Fuhrungsstangen 14 (fur den in Fig. 1 linken Seitenschlitz-Greifer 12) bzw. 16 (fur den in Fig. 1 rechten Seitenschlitz-Greifer 12) beschrankt verschiebbar. Vor einem Spannvorgang werden die Seitenschlitz-Greifer 12 auf den Fuhrungsstangen 14 bzw. 16 in gewunschte Stellungen geschoben.」(第2欄第45?51行、訳:このサイドスリット把持部材12は、ガイドロッド14(図1左のサイドスリット把持部材12用)ないし16(図1右のサイドスリット把持部材12用)上で制限されて摺動することができる。ぴんと張るプロセスの前に、サイドスリット把持部材12がガイドロッド14ないし16上で所望の位置へ移動される。(乙第3号証第3頁第26?29行))及び
「Die Tragersockel 34 der Seitenschlitz-Greifer 12 enthalten Kugelbuchsen 74, mittels denen sie langs der Fuhrungsstangen 14, 16 verstellbar sind.
Die Vorrichtung kann wie folgt betrieben werden:
Das Sakko wird auf die Buste gehangt, so dass sich sein Saum ungespannt zwischen den offenen Greifern befindet (Fig. 1a). ・・・(中略)・・・ Dann wird der hintere Greifer 8 geschlossen. Anschliessend werden die Seitenschlitz-Greifer 12 - gegebenenfalls, nachdem sie richtig eingestellt wurden - geschlossen. Schliesslich wird der vordere Greifer 6 geschlossen.」(第4欄第16?28行、訳:サイドスリット把持部材12の支持体ベース34は、ボールブッシュ74を有しており、そのボールブッシュによってガイドロッド14、16に沿って変位することができる。
本装置は、以下のように駆動することができる:
背広上着が人台上に掛けられるので、その裾は、ぴんと張られずに開放した把持部材の間に位置する(図1a)。・・・(中略)・・・その後、後方の把持部材8が閉鎖される。次に、サイドスリット把持部材12が、一場合によっては正しく調節された後に一閉鎖される。最後に、前方の把持部材6が閉鎖される。(乙第3号証第5頁第7?13行))
上記摘示した事項によると、
「サイドスリット把持部材を背広上着の形状に適合させることができるようにするために、ぴんと張るプロセスの前に、サイドスリット把持部材12が、
背広上着の裾に対して実質的に径方向にかつ/または垂直の軸を中心に変位可能かつ固定可能であるとともに、
ガイドロッド14ないし16上で制限されて摺動することで所望の位置へ移動されることで、
正しく調節される」ものであるといえる。

上記(1)?(4)で摘示し、検討した事項及び図1?4を総合すると、上記甲第1号証の1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「背広上着4が掛けられる人台と、
背広上着4の前の裾と背面中央の裾2の一部を下から把持して、ぴんと張る間固定する、前方の把持部材6と後方の把持部材8と、背広上着4の両側でそれぞれ下から始まるサイドスリットの両側で裾端部を下から把持して、ぴんと張る間固定するサイドスリット把持部材12を備えてなる
人台上に掛けられた背広上着の裾をぴんと張るための、裾2の周囲の均一で滑らかな仕上がりを保証する、アイロン機械に設けられる装置であって、
前方の把持部材6、後方の把持部材8およびサイドスリット把持部材12は、それぞれ、背広上着4の径方向内側に設けられている支持クッション56へ裾2を押し付けるために、背広上着4の径方向内側に締付けクッション58が貼られた締付けプレート60が締付けアーム66に支持され、締付けアーム66が径方向外側のピストン-シリンダアグリゲート72にリンク結合されるものであり、
支持バー22によりそれぞれのテンションプレート10と結合するそれぞれの支持体ブロック20がそれぞれのガイドロッド14、16に固定され、
ガイドロッド14、16は、固定位置の架台24に固定された滑りガイドブロック26内で長手方向に調節可能に案内されており、
支持体ブロック20とそれに伴ってテンションプレート10を移動させるための、空気式のピストン-シリンダアグリゲートは、一方の端部がそれぞれの支持ブロック20に、他方の端部が滑りガイドブロック26に固定されており、
ガイドロッド14ないし16上で摺動可能な、サイドスリット把持部材12の支持体ベース34が、その側に設けられた支持体ブロック20とばね36によって結合されていて、
サイドスリット把持部材12はテンションプレート10が外側へ移動され、支持体ブロック20が摺動する場合にサイドスリット把持部材12の支持体ベース34が一緒に引っ張られ、裾2も少し外側へ引っ張られる
人台上に掛けられた背広上着の裾をぴんと張るための、裾2の周囲の均一で滑らかな仕上がりを保証する、アイロン機械に設けられる装置。」

2.甲第2号証
甲第2号証には、図1?6とともに以下の記載がある。
(1)「人体胸部形状に形成され多数の空気孔を具備し金属材料からなるアイロン台本体の外周を布材により被覆してなる中空の人体型アイロン台をバキュームボード本体上に回転自在に支持し、前記人体型アイロン台内に対し空気の吸引あるいは吹出を選択的に行なうエア吸引・吹出手段を前記人体型アイロン台内と連通するように配設したことを特徴とするバキュームボード。」(請求項1)
(2)「本発明は、前述した従来のものにおける問題点を克服し、洋服の仕上げ加工のプレス工程において、欠点部を立体的に把握し、修正するのに適したバキュームボードを提供することを目的とする。」(段落【0018】)
(3)「図1に示したバキュームボードは、バキュームボード本体1の上面に人体型アイロン台2と2基のいわゆる袖ウマ3a,3bを搭載したものである。」(段落【0023】)
(4)「バキュームボード本体上面の前記吸吹孔5には回転台としての円環状のガイドリングを有するフランジ7が配設されており、フランジ7のガイドリングには、人体型アイロン台2の底部に一体形成された前記フランジ7とほぼ同径の被ガイドリング8が摺動回転可能に嵌合されている。」(段落【0025】)
(5)「まず、図4に示すように、人体型アイロン台2にアイロンプレスを供する洋服を着せ掛ける。そして作業者はバキュームボード正面側に位置しながら回転ハンドル11を掴持して回転用フランジ部分をもって人体型アイロン台2を回転させ(図5は人体型アイロン台2を半回転させた状態を示す)、洋服の胸部、肩部、衿部、背部等を立体的に確認しながら、スチームアイロン(スチーム、プレスの個別使用も可)によって仕上げ加工および欠点の修正を行なう。」(段落【0037】)

3.甲第3号証の1
甲第3号証の1には、「人台上に掛けられた衣類を処理する装置」に関して図1?3とともに以下の記載がある。なお、翻訳文は甲第3号証の2による。また、ウムラウトは省略し、エスツエットは代用表記した。
(1)「Die Vorrichtung nach dem Ausfuhrungsbeispiel weist eine hohenverstellbare Buse 2 auf, uber die Kleidungsstucke zu hangen sind. ・・・(中略)・・・ Die Aufnahme 6 ist an das obere Ende eines oberen Rohrs 8 angesetzt, das gegenuber einem unteren Rohr 10 teleskopierbar ist. Das obere Rohr 8 umschliesst eine vertikal verschiebbare Buchse 12. An einem Halter 14 unterhalb der Aufnahme 6 und an der Buchse 12 sind zwei Spreizscheren 16, 18 angelenkt, die in die Schultern eines Kleidungsstucks (mit nicht dargestellten Polsterstucken) eingreifen und durch Verschieben der Buchse 12 an unterschiedliche Schulterbreiten des Kleidungsstucks anpassbar sind. Um die Spreizscheren 16, 18 einfahren und ausfahren zu konnen, ist zwischen einer Abstutzplatte 20 an dem Halter 14 und einer Abstutzplatte 22 an der Buchse 12 eine pneumatisch zu betreibende Kolben-Zylinder-Einheit 24 vorgesehen.
Das untere Rohr 10 steht auf einer - gegebenenfalls drehbaren - Grundplatte 26. In der Grundplatte 26 sind um das untere Ende des unteren Rohrs 10 herum Austrittsoffnungen 28 fur Dampf und/oder Luft und/oder Heissluft vorgesehen.
・・・(中略)・・・
Um das utnre Ende eines auf der Buste 2 hangenden Kleidungsstucks festhalten zu konnen, sind an der Grundplatte 26 Andruckkissen 34 angelenkt, die mittels Kolben-Zylinder-Einheiten 36 an die unteren Enden des Kleidungsstucks zu drucken sind und das untere Ende an Widerlagerkissen 38 drucken, die sich nach dem Absenken des Kleidungsstucks, also nach dem Absenken der Buste 2, nachst der Innenseite des Kleidungsstucks im Bereich des unteren Randes des Kleidungsstucks befinden.
Die Grundplatte 26 ist auf eine Saule 40 aufgesetzt, die auf einem Gehause 42 steht.」(第2欄第26行?第3欄第13行、訳:実施例に基づく装置は、高さ調節可能な人台2を有しており、その人台を介して衣類をかけることができる。・・・(中略)・・・収容部6は、上方のパイプ8の上端部に取り付けられており、その上方のパイプは、下方のパイプ10に対して伸縮可能である。上方のパイプ8を、垂直に摺動可能なブッシュ12が包囲している。収容部6の下方ホルダ14とブッシュ12に、2つの拡張シザー16、18がリンク結合されており、それらが衣類(図示されないクッション片を有する)の肩内へ嵌入して、ブッシュ12が摺動することによって、衣類の様々な肩幅に適合することができる。拡張シザー16、18が出たり入ったりすることができるようにするために、ホルダ14の支持プレート20とブッシュ12の支持プレート22との間に圧縮空気で駆動すべきピストン-シリンダユニット24が設けられている
下方のパイプ10は、-場合によっては回転可能な-基礎プレート26上に立っている。基礎プレート26には、下方のパイプ10の下端部を取り巻く、蒸気および/または空気および/または高温空気用の流出開口部28が設けられている。
・・・(中略)・・・
人台2に掛かっている衣類の下端部を固定することができるようにするために、基礎プレート26に圧接クッション34がリンク結合されており、その圧接片がピストン-シリンダユニット36によって衣類の下端部に押圧され、かつ下端部をカウンタークッション38へ押圧し、そのカウンタークッションは、衣類の下降後、すなわち人台2の下降後に、衣類の下端縁の領域内で衣類の内側に最も近くなる。
基礎プレート26は、ハウジング42上に据えられた柱40上に取り付けられている。(甲第3号証の2第2頁第40行?第3頁第13行))
上記摘示した事項によると、上記甲第3号証の1には以下事項が記載されているといえる。
「衣類をかける人台を有する、蒸気および/または空気および/または高温空気用の流出開口部28を有する人台上に掛けられた衣類を処理する装置に関して、
垂直に摺動可能なブッシュ12にリンク結合された2つの拡張シザー16、18が、圧縮空気で駆動されるピストン-シリンダユニット24によりブッシュ12が摺動することで、出たり入ったりすることができることにより、衣類の肩内へ嵌入することによって、衣類の様々な肩幅に適合することができるようなすこと。」

4.乙第1号証
乙第1号証には、第1?3図とともに以下の記載がある。
(1)「人体部分を形どつた枠体の上に衣服を外被し、加圧蒸気ならびに加圧空気を前記衣服内部に噴射せしめ、前記衣服を膨張成型する仕上機であつて、前記蒸気噴射ヘツダーへ蒸気を送る蒸気管を常時保温又は加熱できるようにしたことを特徴とする人体形成型仕上機。」(実用新案登録請求の範囲))

第7 無効理由の検討
1.対比、判断
本件特許発明と引用発明とを対比すると、
後者の「背広上着4が掛けられる人台」は前者の「起立状に設けられた人体型」に相当し、後者の「人台上に掛けられた背広上着の裾をぴんと張るための、裾2の周囲の均一で滑らかな仕上がりを保証する、アイロン機械に設けられる装置」は前者の「上着の立体仕上げ装置」に相当する。

後者の「背広上着4の前の裾と背面中央の裾2の一部を下から把持して、ぴんと張る間固定する、前方の把持部材6と後方の把持部材8」と、
「背広上着4の両側でそれぞれ下から始まるサイドスリットの両側で裾端部を下から把持して、ぴんと張る間固定するサイドスリット把持部材12」は、
それぞれ、裾2の一部又は裾端部を下から把持するものであるから、背広上着4が掛けられる人台の前後の下部に備えられるものといえる。

また、後者の「前方の把持部材6、後方の把持部材8およびサイドスリット把持部材12」は、「それぞれ、背広上着4の径方向内側に設けられている支持クッション56へ裾2を押し付けるために、背広上着4の径方向内側に締付けクッション58が貼られた締付けプレート60が締付けアーム66に支持され、締付けアーム66が径方向外側のピストン-シリンダアグリゲート72にリンク結合されるものであ」るから、
前方の把持部材6、後方の把持部材8およびサイドスリット把持部材12の締付けクッション58は、人台に掛けられた背広上着4の裾2を押し付けるように、径方向外側のピストン-シリンダアグリゲート72により動作されるものといえるので、
後者の背広上着4の前の裾を下から把持する「前方の把持部材6」の「締付けクッション58」は、前者の「人体型に着せた上着の前」「の裾を押さえるため」の「人体型に向かって進退動作自在に設けられた前側パッド」に相当する。

後者の後方の把持部材8は、「背面中央の裾2の一部を下から把持」するものであり、サイドスリット把持部材12は、「背広上着4の両側でそれぞれ下から始まるサイドスリットの両側で裾端部を下から把持」するものであるから、後者の「後方の把持部材8およびサイドスリット把持部材12」の「締付けクッション58」は、前者の「人体型に着せた上着の」「後の裾を押さえるため」の「人体型に向かって進退動作自在に設けられた」「後側パッド」に相当する。そして上述のとおり、後者の前方の把持部材6と後方の把持部材8とサイドスリット把持部材12は、背広上着4が掛けられる人台の前後の下部に備えられるから、各把持部材6、8、11の締付けクッション58も背広上着4が掛けられる人台の前後の下部に備えられるので、前者の前側パッドと後側パッドが「人体型の前後の下部に」備えられることに対応している。

後者の「背面中央の裾2の一部を下から把持」する後方の把持部材8は、通常、センターベンツが上着の裾の背面中央にあるから、前者の「裾のセンターベンツを押さえるための押えパッド」と、上着の裾の背面中央を押さえる押えパッドである点で共通する。

後者のサイドスリット把持部材12は、「背広上着4の両側でそれぞれ下から始まるサイドスリットの両側で裾端部を下から把持」するものであり、通常、サイドスリットが背広上着4の背面中央から略同距離にあることから、サイドスリット把持部材12も後方の把持部材8の両側の略同距離にあるといえ、後者の「サイドスリット把持部材12の締付けクッション58」は前者の「この押えパッドの両側に左右対称状に配設された、サイドベンツを押さえるための押えパッド」に相当する。

後者の「支持バー22によりそれぞれのテンションプレート10と結合するそれぞれの支持体ブロック20がそれぞれのガイドロッド14、16に固定され、
ガイドロッド14、16は、固定位置の架台24に固定された滑りガイドブロック26内で長手方向に調節可能に案内されており、
支持体ブロック20とそれに伴ってテンションプレート10を移動させるための、空気式のピストン-シリンダアグリゲートは、一方の端部がそれぞれの支持ブロック20に、他方の端部が滑りガイドブロック26に固定されており、
ガイドロッド14ないし16上で摺動可能な、サイドスリット把持部材12の支持体ベース34が、その側に設けられた支持体ブロック20とばね36によって結合されていて、
サイドスリット把持部材12はテンションプレート10が外側へ移動され、支持体ブロック20が摺動する場合にサイドスリット把持部材12の支持体ベース34が一緒に引っ張られ、裾2も少し外側へ引っ張られる」とは、
それぞれのテンションプレート10と結合するそれぞれの支持体ブロック20が、ガイドロッド14、16の長手方向に、それぞれの空気式のピストン-シリンダアグリゲートによって外側へ移動され、それぞれの支持体ブロック20にばね36によって結合されているサイドスリット把持部材12の支持体ベース34が一緒に引っ張られ、裾2も少し外側へ引っ張られることであるから、サイドスリット把持部材12の締付けクッション58も同様に空気式のピストン-シリンダアグリゲートによって外側へ移動される、つまり互いに離れる方向へ移動するといえ、後者も、前者と同様に「サイドベンツを押さえるための押えパッドが、各押さえパッドごと設けられているエアシリンダで、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成され」ているといえる。後記3.(2)ア.でも述べるように、後者が、サイドスリット把持部材12の上記動作がぴんと張るプロセスの際のものであって、そのぴんと張るプロセスの前の動作でないとしても、前者は「エアシリンダで、互いに接離動作して間隔が変更自在に」とされているのみであるから、その構成は相違しない。

したがって、本件特許発明と引用発明とは、
「起立状に設けられた人体型と、この人体型に着せた上着の前後の裾を押さえるため、人体型の前後の下部に、人体型に向かって進退動作自在に設けられた前側パッドと後側パッドとを備えてなる上着の立体仕上げ装置であって、上記の後側パッドが、上着の裾の背面中央を押さえる押えパッドと、この押えパッドの両側に左右対称状に配設された、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成され、このサイドベンツを押さえるための押えパッドが、各押さえパッドごと設けられているエアシリンダで、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成された上着の立体仕上げ装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。
A:本件特許発明は、「人体型が、反転動作自在に形成され」ているのに対して、引用発明はそのようなものではない点
B:上着の裾の背面中央を押さえる押えパッドについて、本件特許発明は「裾のセンターベンツを押さえるための」ものであるのに対して、引用発明はそのようなものかどうか不明である点。

そこで、上記相違点について検討する。
ア.相違点Aについて
甲第2号証には、洋服の仕上げ加工のプレス工程において用いられる、人体胸部形状に形成されたアイロン台本体を、摺動回転可能とし、作業者はバキュームボード正面側に位置しながら人体型アイロン台2を回転させ、洋服を立体的に確認しながら、スチームアイロンによって仕上げ加工することが示されている。
引用発明も同じく人台を有し、掛けられた背広上着を仕上げするアイロン機械に設けられる装置であるから、上記甲第2号証に示された人体胸部形状に形成されたアイロン台本体を摺動回転可能とする事項を引用発明に適用して、相違点Aに係る本件特許発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことといえる。
そして、甲第2号証に記載のものも、洋服を着せ掛けるとともに、作業者は正面側に位置し人体型アイロン台2を回転させて作業を行うもので、作業性を向上させるものといえるから、衣服を着脱するときも作業性が向上できるという本件特許発明の効果についても、当業者が容易に想到し得たものといえる。
なお、甲第3号証の1に記載されるものも人台2は回転可能な基礎プレート26に立っており、当該技術分野においては周知であるともいえる。

イ.相違点Bについて
引用発明はサイドスリット把持部材12により「背広上着4の両側でそれぞれ下から始まるサイドスリット」を把持するものであるが、一般に、背広上着4には本件特許発明のサイドベンツにあたるサイドスリットのものと同時に、背面中央の裾2にセンターベンツのものが広く用いられていることは当業者にとって周知の事項である。
そうすると、引用発明の「背面中央の裾2の一部を下から把持して、ぴんと張る間固定する」「後方の把持部材8」がその位置からみてセンターベンツを把持できるものであって、そのような周知のセンターベンツの背広上着4にも適用できることも当業者が直ちに想定できたものといえる。
そして、引用発明は背広上着4の前の裾と背面中央の裾2をぴんと張る間固定するものであるから、上記周知のセンターベンツの背広上着4においてもぴんと張る間固定するものとなる。
したがって、相違点Bについては、その構成において、実質的に相違するものとはいえない。

ウ.まとめ
そして上記相違点A及びBを合わせ考えても、本件特許発明の効果が格別であるとはいえない。
以上のように、本件特許発明については、引用発明、甲第2号証記載の事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.被請求人の主張に対して
(1)「第5の1.の理由(1)」について
従来、センターベンツ、サイドベンツの区別なく広幅の一個の押さえパッドで押さえていたものを、本件特許発明が3本立てに形成することでセンターベンツ、サイドベンツの区別なく上着を緊張仕上げできるように形成したと主張しても、甲第1号証の1にはサイドベンツを押さえる2つのサイドスリット把持部材12と背面中央の裾2を押さえる後方の把持部材8からなる3本で把持することが示され、かつ、2.イ.でも述べたように、後方の把持部材8の締付けプレート60がセンターベンツを押さえることが容易になし得たことであるから、当該被請求人の主張は失当である。

(2)「第5の1.の理由(2)ア.?ク.」について
ア.被請求人の主張は、引用発明は、ぴんと張るプロセスの前に、サイドスリット把持部材12を、ガイドロッド14ないし16に沿って移動されるものではないというものである。
確かに、引用発明のサイドスリット把持部材12は、支持体ブロック20とそれに伴ってテンションプレート10を移動させる、ぴんと張るプロセスの前に、空気式のピストン-シリンダアグリゲートにより、ガイドロッド14ないし16に沿って移動されるものではない。
しかしながら、支持体ブロック20とそれに伴ってテンションプレート10を移動させる、ぴんと張るプロセスの際には、空気式のピストン-シリンダアグリゲートにより、「サイドスリット把持部材12はテンションプレート10が外側へ移動され、支持体ブロック20が摺動する場合にサイドスリット把持部材12の支持体ベース34が一緒に引っ張られ、裾2も少し外側へ引っ張られる」、つまりサイドスリット把持部材12が各サイドスリット把持部材12ごとに設けられている空気式のピストン-シリンダアグリゲートで、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成されているといえ、引用発明も、本件特許発明の「このサイドベンツを押さえるための押えパッドが、各押さえパッドごと設けられているエアシリンダで、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成された」との構成を備えており、その構成の限りにおいて差異はない。
そして、引用発明もサイドスリット把持部材12ごとに空気式のピストン-シリンダアグリゲートが設けられていて、本件特許発明と同様であるから、サイドスリットの位置が違っても、これに対応してサイドスリットを把持し裾2をぴんと張ることができるといえる。

イ.一方、引用発明は、ぴんと張るプロセスの前に、第6の1.(5)で摘示したように、
「サイドスリット把持部材を背広上着の形状に適合させることができるようにするために、ぴんと張るプロセスの前に、サイドスリット把持部材12が、
背広上着の裾に対して実質的に径方向にかつ/または垂直の軸を中心に変位可能かつ固定可能であるとともに、
ガイドロッド14ないし16上で制限されて摺動することで所望の位置へ移動されることで、
正しく調節される」ものである。
つまり、サイドスリット把持部材12は、
「実質的に径方向にかつ/または垂直の軸を中心に変位可能かつ固定可能」とすることで背広上着の形状に適合させるだけでなく、
「ガイドロッド14ないし16上で摺動可能な、サイドスリット把持部材12の支持体ベース34が、その側に設けられた支持体ブロック20とばね36によって結合されて」(引用発明)いることで、
空気式のピストン-シリンダアグリゲートによるものではないものの、
「ガイドロッド14ないし16上で制限されて摺動することで所望の位置へ移動されることで」も背広上着の形状に適合させるものであって、
背広上着の形状、つまりサイズやデザインに合わせて、より大きく・適切に調整するものといえる。
そして、サイドスリットの位置がサイズやデザインにより大きく異なることは当業者にとって周知のことであるから、背広上着の形状、サイズ・デザインに合わせて、より大きく・適切に、サイドスリット把持部材12のガイドロッド14ないし16上での位置を調節すべく、ばねにより制限された移動による調整を、ガイドロッド14ないし16に沿っての本来の移動手段である空気式のピストン-シリンダアグリゲートにより移動するようなすことは、当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことといえる。
したがって、仮に、本件特許発明が、ぴんと張るプロセスの前において、「エアシリンダで、互いに接離動作して間隔が変更自在に」されるものであるとしても、当業者が容易になし得たことといえる。
なお、テンションプレート10と支持体ブロック20のぴんと張る前の位置を、背広上着の形状、サイズ・デザインに合わせて調整することも、通常のことといえ、その場合においても、必然的にサイズに合わせて、サイドスリット把持部材12のガイドロッド14ないし16上での位置を調節されるものといえる。
また、理由(2)ア.で、被請求人は、事前の位置調節のためにサイドスリット把持部材12をガイドロッド14ないし16に沿って移動すると裾を乱すからそのような動きはあり得ないと主張しているが、上記のように引用発明は制限された範囲ではあるものの移動するものであり、かつ、ぴんと張るプロセスの前に移動され、その後にサイドスリットは把持すべくサイドスリット把持部材12が閉鎖されるものであるから、上記被請求人の主張は失当である。
さらに、理由(2)オ.及びキ.で、被請求人は、「テンションプロセスが完了する前」及び「ぴんと張るプロセスの完了の前」と読み替えて解釈すべきであると主張するが、被請求人の指摘する個所はいずれも「ぴんと張るプロセス」における説明である。そして、第6の1.(5)摘示し、検討したとおり、読み替えずに矛盾なく解釈できるものであるから、上記被請求人の主張は失当である。

ウ.上記ア.及びイ.で述べたとおりであるから、被請求人の「第5の1.の理由(2)ア.?ク.」における主張を参酌しても、本件特許発明について当業者が容易に発明をすることができないとはいえない。

(3)「第5の1.の理由(2)ケ.及び理由(3)」について
本件特許発明は「上着の立体仕上げ装置」というのみであって、「起立状に設けられた人体型」を有するものの人体型の下から上着の内部にスチームや熱風を供給して皺を除去するための構成は何ら特定されていない。そうすると、引用発明の「背広上着4が掛けられる人台」を有する「人台上に掛けられた背広上着の裾をぴんと張るための、裾2の周囲の均一で滑らかな仕上がりを保証する、アイロン機械に設けられる装置」とは実質的に相違していない。
また、引用発明の締付けクッション58は上着の外側にあって本件特許発明の押さえパッドと同様である。さらに本件特許発明も押さえパッドがセンターベンツやサイドベンツを押さえるには内側に対応する部材が必要であり、これらを含めて本件特許発明は何ら規定していない。
そうすると、被請求人の本件特許発明が人体型の下から上着の内部にスチームや熱風を供給して皺を除去するものであることを基本とする第5の1.の理由(2)ケ.及び理由(3)の主張は採用できない。
なお、スチームや熱風を供給する、人台を用いた仕上げ装置は甲第2号証や甲第3号証の1、乙第1号証に記載されるように周知であり、当該装置において上着の裾を把持しようとすることもよく知られたことであって、仮にそのような装置に用いるとしても、そのことに格別の困難性はないといわざるを得ない。

第8 訂正後の請求項4の独立特許要件及び請求項2?4についての訂正の適否について
訂正後の請求項4に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるかについて、検討する。
訂正後の請求項4に記載されている事項により特定される発明(以下「訂正発明4」という。)は、本件特許発明に、さらに請求項4に記載されている事項により限定されている。
まず、上記第7で検討したとおり、本件特許発明は、引用発明、甲第2号証に記載の事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
次に請求項4に記載されている事項について、甲第3号証の1には、「衣類をかける人台を有する、蒸気および/または空気および/または高温空気用の流出開口部28を有する人台上に掛けられた衣類を処理する装置に関して、
垂直に摺動可能なブッシュ12にリンク結合された2つの拡張シザー16、18が、圧縮空気で駆動されるピストン-シリンダユニット24によりブッシュ12が摺動することで、出たり入ったりすることができることにより、衣類の肩内へ嵌入することによって、衣類の様々な肩幅に適合することができるようなすこと」が記載されている(第6の3.参照。)。
「衣類をかける人台を有する、蒸気および/または空気および/または高温空気用の流出開口部28を有する人台上に掛けられた衣類を処理する装置」は、引用発明と同じく人台を用いた仕上げ装置といえる。
また、「垂直に摺動可能なブッシュ12にリンク結合された2つの拡張シザー16、18は、圧縮空気で駆動されるピストン-シリンダユニット24によりブッシュ12が摺動することで、出たり入ったりすることができることにより、衣類の肩内へ嵌入する」から、衣類の肩の方向である、人台の両脇の側方に進出動作自在に配設され、進出位置が変更自在に形成されるものである。
そして、2つの拡張シザー16、18は、衣類の肩内へ嵌入することによって、「衣類の様々な肩幅に適合することができる」ものであるから、上着の両脇を緊張させるための脇パットといえるものであって、その肩幅に適合するよう進出位置を変更できるものである。
甲第3号証の1に記載の装置は、引用発明と同じく人台を用いた仕上げ装置であり、引用発明もサイドスリット把持部材を背広上着の形状に適合させるものであるように種々の上着を仕上げするものであることから、衣類の様々な肩幅に適合することができるように、甲第3号証の1に記載の2つの拡張シザー16、18を用いて、訂正後の請求項4に記載された事項のようになすことは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことといえ、そのことによる格別の効果もない。
そして、訂正発明4を全体としてみても、その効果が格別とはいえない。
したがって、訂正発明4は、引用発明、甲第2号証及び甲第3号証の1に記載の事項並びに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると、訂正発明4は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないから、請求項2?4についての訂正は、改正前特許法134条の2第5項で読み替えて準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合しないので、当該訂正は認められない。

第9 むすび
上記第1及び第8で述べたとおりであるから、請求項1及び明細書の段落【0010】及び【0040】についての訂正は認める。
請求項2?4についての訂正は認められない。
また、上記第3?第7で述べたとおり、本件特許発明については、引用発明、甲第2号証記載の事項及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、改正前特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
上着の立体仕上げ装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 起立状に設けられた人体型と、この人体型に着せた上着の前後の裾を押さえるため、人体型の前後の下部に、人体型に向かって進退動作自在に設けられた前側パッドと後側パッドとを備えてなる上着の立体仕上げ装置であって、上記の人体型が、反転動作自在に形成され、上記の後側パッドが、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、この押えパッドの両側に左右対称状に配設された、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成され、このサイドベンツを押さえるための押えパッドが、各押えパッドごと設けられているエアシリンダで、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成されたことを特徴とする上着の立体仕上げ装置。
【請求項2】 請求項1記載の上着の立体仕上げ装置であって、後側パッドが、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成されるのに代え、横幅が、センターベンツと共に一方のサイドベンツを押さえる位置まで長く形成された一方側の押えパッドと、この一方側の押えパッドの傍らに配設されて他方のサイドベンツを押さえるための他方側の押えパッドとで形成され、上記一方側の押えパッドの、一方のサイドベンツに対応する側部が、垂直線を軸にして一方のサイドベンツに向かって湾曲自在に形成されたことを特徴とする上着の立体仕上げ装置。
【請求項3】 請求項1記載の上着の立体仕上げ装置であって、後側パッドが、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成されるのに代え、裾の両側にわたって横長状に、且つ裾のサイドベンツに対応する位置が垂直線を軸にして各サイドベンツに向かって湾曲自在に形成されたことを特徴とする上着の立体仕上げ装置。
【請求項4】 請求項1乃至3の何れかに記載の上着の立体仕上げ装置であって、上着の両脇を緊張させるための脇パッドが、人体型の両脇に側方に進出動作自在に配設され、この脇パッドの進出位置が変更自在に形成されたことを特徴とする上着の立体仕上げ装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、上着の立体仕上げ装置に関し、更に詳しくは人体型を備え、この人体型に着せた上着の内部に蒸気や熱風を供給して皺を除去し、平滑加工する上着の立体仕上げ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来この種の装置としては、起立状に設けた人体型と、この人体型に着せた上着の前後の裾を押さえるため、人体型の前後の下部に、人体型に向かって進退動作自在に設けた前側パッドと後側パッドとを備えてなるものがある(例えば実開昭59ー148794号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところでこの種装置は、人体型に上着を着せたり取り外す作業を伴うため、この種の作業を簡単、容易にできるよう形成されているのが望ましい。
【0004】
しかるに従来装置は、人体型が前向き状態で固定的に設けられていたから、従来装置を使用すると、作業者は、片手で上着を持ち、他方の手を例えば人体型の後方に回し上着を引き寄せて人体型に着せる必要があった。而して通常、この種装置の場合は、前裾を押さえるための押えパッドや、又各種のスイッチ類等が人体型の前側の下部に配設されるものである。従って従来装置によると、上着の装着作業等の際、作業者は、前傾姿勢をとって、手を人体型の後方に延ばし、上着を例えば持ち替える必要があったから、この種の作業が不便であっただけではなく、作業者に肉体的な負担を強いる、という問題点があった。
【0005】
而して、背広やジャケット等の上着は、通常、裾にセンターベンツ(裾の真後ろの切れ込み)、或いはサイドベンツ(裾の両側の切れ込み)を備えてなる。従って上着の立体仕上げ装置は、この種のセンターベンツ、サイドベンツの区別なく、一台で両方の上着に対処できるよう形成されているのが望ましい。
【0006】
しかるに従来、この種装置は、後側パッドを、人体型の後側の中央位置に設けてなるのが通例であった。従って従来、上着がサイドベンツ式の場合は、例えば洗濯挟み状の専用のクリップを用い、作業者は人体型の後側に手を伸ばし、体をかがめて固定作業を行なわなければならなかった。
【0007】
その結果従来装置を使用すると、サイドベンツの上着を仕上げる際、裾の押え作業が不便で煩わしく、又クリップの痕が裾に付いて綺麗に仕上げることができない、という問題点があった。
【0008】
本発明は、このような従来装置の問題点を解消しようとするものである。
従って本発明の技術的課題は、上着を人体型に着せたり脱がせたりする作業を、簡便且つ容易にでき、又サイドベンツ式上着の裾押えにかかる手間暇を一掃し、仕上がり状態が良好になるよう形成した上着の立体仕上げ装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような技術的手段を採る。
【0010】
即ち本発明は、図1に示されるように、起立状に設けられた人体型1と、この人体型1に着せた上着4の前後の裾を押さえるため人体型1の前後の下部1aに、人体型1に向かって進退動作自在に設けられた前側パッド10と後側パッド14とを備えてなる上着の立体仕上げ装置であって、上記の人体型1が、反転動作自在に形成され、上記の後側パッド14が、裾のセンターベンツ4aを押さえるための押えパッド14aと、この押えパッド14aの両側に左右対称状に配設された、サイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bとで形成され、このサイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bが、各押えパッド14bごと設けられているエアシリンダ23a、23bで、互いに接離動作して間隔が変更自在に形成されたことを特徴とする(請求項1)。
【0011】
ここで反転動作自在に、とは、人体型1を前向き、後向きに配置できる、ということを意味する。この場合本発明は、人体型1を180度、可逆回転自在に形成するのでも、或いは360度回転自在に形成することで反転動作を行なえるよう形成するのでも良い。
【0012】
本発明の場合は、上着4の大きさによってサイドベンツ4bの間隔が異なる場合でも柔軟に対応でき、使い勝手が一層良いものである。
【0013】
又本発明は、後側パッド14が、センターベンツ4aを押さえるための押えパッド14aと、サイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bとで形成されるのに代え、図12に示されるように、横幅Wが、センターベンツ4aと共に一方のサイドベンツ4bを押さえる位置まで長く形成された一方側の押えパッド14cと、この一方側の押えパッド14cの傍らに配設されて他方のサイドベンツ4bを押さえるための他方側の押えパッド14dとで形成され、上記一方側の押えパッド14cの、一方のサイドベンツ4bに対応する側部14c1が、垂直線を軸にして一方のサイドベンツ4bに向かって湾曲自在に形成されるのでも良い(請求項2)。
【0014】
図12Aは、センターベンツ4aを押さえる場合、同図Bはサイドベンツ4bを押さえるときの動作を示す。ここで一方側の押えパッド14cの、一方のサイドベンツ4bに対応する側部14c1が、垂直線を軸にして一方のサイドベンツ4bに向かって湾曲自在に形成される、とは、サイドベンツ4bを押さえる場合は一方のサイドベンツ4bに対応する側部14c1が湾曲し、一方のサイドベンツ4bに押し当て可能に形成される、ということを意味する。具体的には、細幅の板状部材29を縦にして相互に可動自在に並列状に連結し、且つ一方のサイドベンツ4bに対応する側部14c1の表側に、この側部14c1を進退動作させる動作機構30を配設することで達成される。動作機構30としては、エアシリンダやモータ等がある。
【0015】
又このような板状部材29を連結して形成するのに代え、例えば一方側の押えパッド14cの芯板を形状記憶合金で形成し、一方のサイドベンツ4bに対応する側部14c1を電気的に例えば加熱して湾曲動作させ、エアシリンダ等の動作機構30で一方のサイドベンツ4bに押し当てるよう形成するのでも良い。なお他方側の押えパッド14dは、エアシリンダ等の動作機構30で他方のサイドベンツ4bに進退動作自在に形成される。
【0016】
又本発明は、後側パッド14が、裾のセンターベンツ4aを押さえるための押えパッド14aと、サイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bとで形成されるのに代え、図13に示されるように、裾の両側にわたって横長状に、且つ裾のサイドベンツ4bに対応する位置4b1が垂直線を軸にして各サイドベンツ4bに向かって湾曲自在に形成されるのでも良い(請求項3)。
【0017】
なお同図Aは、センターベンツ4aを押さえる場合、同図Bはサイドベンツ4bを押さえるときの動作を示す。ここで裾のサイドベンツ4bに対応する位置4b1が垂直線を軸にして各サイドベンツ4bに向かって湾曲自在に形成される、とは、サイドベンツ4bを押さえる場合はサイドベンツ4bに対応する位置4b1だけが湾曲し、夫々のサイドベンツ4bに押し当て可能に形成される、ということを意味する。具体的には、請求項2記載の一方側の押えパッド14cの側部14c1の場合と同様、板状部材29を連結して形成したり、形状記憶合金の芯板を電気的に例えば加熱して湾曲させ、エアシリンダ等の動作機構30で押し当てるよう構成することで達成される。
【0018】
更に本発明は、上着4の両脇を緊張させるための脇パッド1c(図3等参照)が、人体型1の両脇に側方に進出動作自在に配設され、この脇パッド1cの進出位置が変更自在に形成されるのが好ましい(請求項4)。
【0019】
この場合は、脇パッド1cの突き出し位置を変更できるから、上着4の大きさに応じて脇を具合良く的確に張り出させることができ、その分、仕上がり状態を良好にできる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に従って説明する。
【0021】
図1等において、1は起立状に設けられた人体型である。この人体型1は、下部1aが台座2に係合され、この実施形態では人体型1を後ろ向きにするときは時計方向に、戻す場合は反時計方向に180度、手動で回転するよう形成されている。3は人体型1を回転操作する際に使用する取っ手であり、この取っ手3は人体型1の下部1aの周囲に複数設けられている。なお人体型1は、上着4の胴部を緊張するため側方に進出自在に形成された緊張部1bを備えてなる。
【0022】
又人体型1は、図3、図9等に示されるように、上着4の両脇を緊張させるための脇パッド1cを備えてなる。この脇パッド1cは、人体型1の両脇に、側方に進出動作自在に形成され、且つこの脇パッド1cの進出位置が変更自在に形成されている。
【0023】
この実施形態の場合は、図9に示されるように、具体的には人体型1の上部に、操作レバー5が前後方向に約90度回動操作自在に設けられ、この操作レバー5の回動操作でリンク機構6が拡縮することで脇パッド1cが進出動作するよう形成されている。7は、操作レバー5の回動操作で、支柱8に嵌挿されたリング9を昇降動作させる制御機構である。
【0024】
上記の制御機構7は、操作レバー5の手前側への回動動作に連動して装置の前側へ回動する爪7aと、この爪7aが係合する爪車7bと、爪7aの動作に連動して回転し、後端7c(図10、図11参照)の高さが変わる回転板7dと、この回転板7dの後端7cに、上端が枢着された左右一対状のリンク板7eとを備えて形成されている。爪車7bは、一方向クラッチ7fにより、装置の前側にだけ回転するよう形成されている。リンク板7eの下端は、リング9の側面に枢着されている。
【0025】
リンク機構6の内側の下端6aは、リング9の前側に枢着され、リンク機構6の内側の上端6bは、支柱8の上部に枢着されている。又リンク機構6の外側の上端6c及び下端6dは、脇パッド1cの内側に設けられた取り付け杆6eに夫々枢着されている。
【0026】
10(図2、図4等参照)は、人体型1に着せた上着4の前側の裾を押さえるための前側パッドである。この前側パッド10は、人体型1の前側の下部1aに、人体型1に対し進退動作自在に設けられている。10aは、前側パッド10のサポートである。このサポート10aは、その下部が人体型1の下部1aに枢着されている。又11は、ロッドを下向きにして、人体型1の前側の下部1aに傾斜状に配設されたエアシリンダである。このエアシリンダ11は、ロッドの先端がサポート10aの下部に枢着され、ロッドが延伸するとサポート10aが枢着軸12を中心にして人体型1に向かって回動し、収縮すると後退動作するよう形成されている。なお13は、前側パッド10を、人体型1に向かって平行移動させるためのリンクである。
【0027】
14(図1等参照)は、人体型1に着せた上着4の後側の裾を押さえるための後側パッドである。この後側パッド14は、人体型1の後側の下部1aに、人体型1に向かって進退動作自在に設けられている。又この後側パッド14は、裾のセンターベンツ4aを押さえるための押えパッド14aと、この押えパッド14aの両側に左右対称状に配設された、サイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bとで形成されている。
【0028】
センターベンツ4aを押さえるための押えパッド14aは、人体型1に対向する内面が凹湾曲状に形成されている。この押えパッド14aのサポート15の下部は、人体型1の下部1aに枢着されている。16(図5、図6等参照)は、ロッドを下向きにして人体型1の後側の下部1aに傾斜状に配設されたエアシリンダである。このエアシリンダ16は、ロッドの先端がサポート15の下部に枢着され、ロッドが延伸するとサポート15が枢着軸17を中心にして人体型1に向かって回動し、収縮すると後退動作するよう形成されている。なお18は、押えパッド14aを、人体型1に向かって平行移動させるためのリンクである。
【0029】
サイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bは、センターベンツ4aを押さえるための押えパッド14aと同様に、人体型1に対向する内面が凹湾曲状に形成されている。又この実施形態では、押えパッド14bを人体型1に対し進退動作させる機構も、同様に形成されている。
【0030】
即ち、図5、図7に示されるように、サポート19の下部が人体型1の下部1aに枢着され、ロッドを下向きにして人体型1の後側の下部1aに傾斜状に配設されたエアシリンダ20で制御されるよう形成されている。具体的にはエアシリンダ20のロッドの先端がサポート19の下部に枢着され、ロッドが延伸するとサポート19が枢着軸21を中心にして人体型1に向かって回動し、収縮すると後退動作するものである。なお22は、押えパッド14bを、人体型1に向かって平行移動させるためのリンクである。
【0031】
又サイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bは、本発明では互いに接離動作して間隔が変更自在に形成されている。図5、図8において、23a、23bは、互いにロッドを反対側に向けて水平且つ平行状に、人体型1の後側の下部1aに配設されたエアシリンダである。一方のエアシリンダ23aはロッドの先端が、図5において、右側の押えパッド14bの支持部24の所定位置に枢着され、他方のエアシリンダ23bはロッドの先端が、左側の押えパッド14bの支持部25の所定位置に枢着されている。26は、人体型1の後側の下部1aに、水平状に横架された上下一対状の案内杆である。サイドベンツ4bを押さえるための左右の押えパッド14bは、この案内杆26に案内されてスライドするよう形成されている。
【0032】
なお27(図1等参照)は、制御部である。この制御部27は、上面に、各押えパッド14a、14bの選択スイッチ、スチームの噴出時間等の設定スイッチ等が設けられている。又この制御部27の前面には、作業者が膝でオンオフ制御できる膝スイッチ28が設けられている。
【0033】
次に本発明の作用を説明する。
先ず作業者は、図1、図3に示されるように、人体型1が後向きの状態で、上着4を人体型1に着せる。上着4がセンターベンツ4aの場合は、センターベンツ4aを押さえるための押えパッド14aのスイッチを入れる。すると、エアシリンダ16のロッドが延伸し、サポート15が人体型1の側に回動する。その結果押えパッド14aが、人体型1に向かってリンク18の作用で平行移動し、センターベンツ4aを押さえる(図6参照)。
【0034】
又サイドベンツ4bの上着4の場合は、サイドベンツ4bを押さえるための押えパッド14bのスイッチを押す。すると、エアシリンダ20のロッドが延伸し、サポート19が人体型1の側に回動する。その結果押えパッド14bが、人体型1に向かってリンク22の作用で平行移動し、サイドベンツ4bを押さえるものである(図7参照)。なお押えパッド14bの間隔を変更する場合は、エアシリンダ23a、23bを駆動させ、ロッドを延伸させる。すると、図5において、各押えパッド14bは、サポート19、エアシリンダ20、支持部24、25等と共に、案内杆26に案内されて夫々側方に移動し、間隔が広げられる。
【0035】
而して後側の裾を固定した後、作業者は、取っ手3を利用して人体型1を反転させ、前向きにさせる(図4の状態参照)。そしてこの状態で上着4の前裾を整え、前側パッド10のスイッチを入れる。すると、エアシリンダ11のロッドが延伸し、サポート10aが人体型1の側に回動する。その結果前側パッド10が、人体型1に向かってリンク13の作用で平行移動し、前裾を押さえる。
【0036】
次に作業者は、図11に示されるように、操作レバー5を前側に倒し、上着4の肩幅に応じて脇パッド1cを側方に張り出させる。具体的には、操作レバー5を前側に倒し、爪7aを爪車7bに係合させる。爪車7bは一方向クラッチ7fにより後回転が防止されているため、爪7aは爪車7bに係止する。この場合、回転板7dが爪7aと連動して回転し、爪7aの係合位置に応じて後端7cの高さが変わる。
【0037】
具体的には、爪7aと爪車7bとの係合位置が前側になるほど、回転板7dの後端7cが高くなり、後側になるほど後端7cが低くなる。従ってこの回転板7dの後端7cに上端が枢着されたリンク板7eが、それに応じてリング9を支柱8に沿って上下動させる。このリング9には、リンク機構6の内側の下端6aが枢着されているため、リンク機構6は、リング9の高さに応じて伸縮し、脇パッド1cを側方に張り出させる。
【0038】
なお操作レバー5を起立状に立てると、回転板7dの後端7cが下降する。従ってリンク板7eを介してリング9が下降する。その結果リンク機構6の内側の下端6aが下降するためリンク機構6が収縮し、脇パッド1cが引き寄せられる。
【0039】
而して脇パッド1cを張り出させた状態で、図3、図4に示されるように、緊張部1bが緊張する。そしてスチームが所定時間噴出して上着4を蒸らし、その後、熱風を内部から上着4に吹き付け、その風圧と熱で乾燥し皺を除去する。なお一連の処理が終了したら、前側パッド10、後側パッド14が復帰し、裾が解放される。従って作業者は、この状態で例えば人体型1を後向きにし、上着4を取り外す。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように本発明は、上着の立体仕上げ装置であって、人体型を、反転動作自在に形成し、後側パッドを、裾のセンターベンツを押さえるための押えパッドと、この押えパッドの両側に左右対称状に配設した、サイドベンツを押さえるための押えパッドとで形成し、このサイドベンツを押さえるための押えパッドを、各押えパッドごと設けられているエアシリンダで、互いに接離動作させて間隔を変更自在に形成したものである。
【0041】
従って本発明を使用すると、人体型を後向きにし、上着を両手で持って、手を持ち替えることなく人体型に着せたり脱がせたりできるから、この種の作業を簡便且つ容易に、楽にできる。
【0042】
又本発明の場合は、サイドベンツ式の上着の場合でも、専用のクリップ等を用いることなく簡単に裾を押さえることができる。従ってこれによれば、センターベンツ、サイドベンツの区別なく対処でき、又クリップ痕を裾に付けることもないから、仕上がり状態を良好にできる、という効果がある。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-10-04 
結審通知日 2012-10-10 
審決日 2012-10-26 
出願番号 特願平10-336399
審決分類 P 1 123・ 856- ZA (D06F)
P 1 123・ 121- ZA (D06F)
P 1 123・ 851- ZA (D06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中川 隆司  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 長浜 義憲
森川 元嗣
登録日 2005-12-16 
登録番号 特許第3751454号(P3751454)
発明の名称 上着の立体仕上げ装置  
代理人 田辺 良徳  
代理人 平野 玄陽  
代理人 平野 玄陽  

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