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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1308591 |
審判番号 | 不服2014-12711 |
総通号数 | 194 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-07-02 |
確定日 | 2015-12-16 |
事件の表示 | 特願2011-255687「免疫源性ペプチドの標的特異的同定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月12日出願公開、特開2012- 72167〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成18年9月8日(パリ条約による優先権主張 2005年9月8日、米国)を国際出願日とする特願2008-530244号の一部を平成23年11月24日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成25年 7月10日付け 拒絶理由通知書 平成26年 1月16日 意見書及び手続補正書 平成26年 2月27日付け 拒絶査定 平成26年 7月 2日 審判請求書及び手続補正書 第2 平成26年7月2日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年7月2日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 請求項1に係る補正の不備について 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の 「【請求項1】 免疫系により認識されるためのエピトープを提示させて免疫反応を生じさせるin vitroの方法であって、 未使用かつ免疫反応性を有するT細胞のプールにより認識されるタンパク質断片を同定するステップと、 前記タンパク質断片を、抗体結合相互作用に関与するペプチド配列を同定するアルゴリズムにより解析するステップと、 前記タンパク質断片中に存在する、免疫原性を有し、抗体結合相互作用に関与する1つ以上のペプチド配列を同定するステップと、 抗体結合相互作用に関与する前記1つ以上のペプチド配列に対応する少なくとも1つの免疫原性ペプチドを合成するステップと、 患者を前記免疫原性ペプチドで処理し、免疫反応を生じさせるステップを含んでなる方法。」 を、 「【請求項1】 自己タンパク質から少なくとも1つの免疫原性ペプチドを合成するin vitroの方法であって、 前記少なくとも1つの免疫原性ペプチドは抗体との結合相互作用に関与し、前記抗体と組み合わせて用いられ、 前記方法は、 未使用かつ免疫反応性を有するT細胞のプールにより認識される自己タンパク質のタンパク質断片を同定するステップと、 前記タンパク質断片を、抗体結合相互作用に関与するペプチド配列を同定するアルゴリズムにより解析するステップと、 前記タンパク質断片中に存在する、免疫原性を有し、抗体結合相互作用に関与する1つ以上のペプチド配列を同定するステップと、 抗体結合相互作用に関与する前記1つ以上のペプチド配列に対応する少なくとも1つの免疫原性ペプチドを合成するステップであって、前記少なくとも1つの免疫原性ペプチドは前記抗体との併用療法で用いられるステップを含んでなる方法。」 (下線は補正箇所を示す。)とする補正を含むものである。 補正後の請求項1に係る補正は、「免疫系により認識されるためのエピトープを提示させて免疫反応を生じさせるin vitroの方法」に係る発明を「自己タンパク質から少なくとも1つの免疫原性ペプチドを合成するin vitroの方法」に係る発明に補正するものであるから、同じ方法のカテゴリーに属する発明の間の補正ではあるものの、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、単に「改正前」という。)の特許法第17条の2第4項に規定されたいずれの事項を目的とするものでもない。 ここで、補正前の特許請求の範囲には、方法のカテゴリーに属する発明として、他に請求項14および24の「患者を治療する方法」に係る発明が記載されているが、これらの発明も補正後の請求項1に係る発明と改正前の特許法第17条の2第4項に規定された要件を満たすものではない。 したがって、補正後の請求項1に係る補正が改正前の特許法第17条の2第4項に規定されたいずれの事項を目的とするものでもないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により平成26年7月2日付けの手続補正は却下されるべきものである。 2 請求項1に係る補正が「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであると仮定した場合の予備的検討 審判請求書において、請求項1に係る補正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とする旨を請求人が主張しているので、予備的に、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか)について、以下に検討する。 (1)特許法第36条第6項第2号違反 本願補正発明は、「免疫原性ペプチドを合成するin vitroの方法」に係る発明、すなわち、「物を生産する方法」に係る発明であるにもかかわらず、「前記少なくとも1つの免疫原性ペプチドは前記抗体との併用療法で用いられるステップ」を含んでなることが記載されているが、「物を生産する方法」に「併用療法で用いられるステップ」がどのように関与しているのかが技術的に不明であり、本願補正発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (2)特許法第36条第4項第1号および第6項第1号違反 本願の発明の詳細な説明には、「疾患状態及び免疫治療(抗体ワクチンとしてそれ単独で用いてもよく、あるいは他の分子又は抗体との組み合わせで用いてもよい)において有用である。」(段落【0043】)および「当該ペプチドは抗体の存在下で特異的に発現誘導することができ、それにより新規な併用療法が可能となる。」(段落【0036】)という記載があるものの、本願補正発明として「前記少なくとも1つの免疫原性ペプチドは抗体との結合相互作用に関与し、前記抗体と組み合わせて用いられ、」および「前記少なくとも1つの免疫原性ペプチドは前記抗体との併用療法で用いられる」と記載されるように、免疫原性ペプチドと、当該ペプチドとの結合相互作用に関与する抗体との組み合わせや併用療法を明示的に記載するものではなく、ましてや本願の発明の詳細な説明にはそのような組み合わせや併用療法について具体的な記載はなされていない。 そして、免疫原性ペプチドと当該ペプチドに対する抗体を組み合わせて併用療法に用いることが、本出願時の技術常識であったとも認められない。 したがって、本願の発明の詳細な説明は、本願補正発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、また、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものでもない。 よって、本願は、特許法第36条第4項第1号および第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3)まとめ 請求人が審判請求書において主張するように、請求項1に係る補正が「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものであると仮定した場合においても、本願は、特許法第36条第4項第1号並びに第6項第1号および第2号に規定するいずれの要件も満足せず、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により平成26年7月2日付けの手続補正は却下されるべきものである。 なお、免疫原性ペプチドと当該ペプチドに対する抗体を組み合わせた併用療法に係る発明は、分割出願に係る本出願の際に、特許請求の範囲に追加されたものであるが、当該併用療法に係る発明が含まれる補正前の請求項8?27に係る発明は、特許法第37条に規定する要件を満たしていないことから、特許法第37条以外の要件について審査は行われていない。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成26年7月2日付けの手続補正は、上記のとおり却下されることになったので、本願の請求項1?27に係る発明は、平成26年1月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?27に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、請求項1?27に係る発明をそれぞれ「本願発明1」?「本願発明27」といい、請求項1?27に係る発明をまとめて「本願発明」ということがある。) 【請求項1】 免疫系により認識されるためのエピトープを提示させて免疫反応を生じさせるin vitroの方法であって、 未使用かつ免疫反応性を有するT細胞のプールにより認識されるタンパク質断片を同定するステップと、 前記タンパク質断片を、抗体結合相互作用に関与するペプチド配列を同定するアルゴリズムにより解析するステップと、 前記タンパク質断片中に存在する、免疫原性を有し、抗体結合相互作用に関与する1つ以上のペプチド配列を同定するステップと、 抗体結合相互作用に関与する前記1つ以上のペプチド配列に対応する少なくとも1つの免疫原性ペプチドを合成するステップと、 患者を前記免疫原性ペプチドで処理し、免疫反応を生じさせるステップを含んでなる方法。 【請求項2】 タンパク質と結合する抗体を産生させることを更に含んでなる、請求項1記載の方法。 【請求項3】 請求項1記載の方法により同定される免疫原性ペプチド。 【請求項4】 請求項3記載の免疫原性ペプチドを含有するワクチン。 【請求項5】 請求項4記載の免疫原性ペプチドと反応する抗体を含有するワクチン。 【請求項6】 前記タンパク質断片は、自己タンパク質に由来する請求項1記載の方法。 【請求項7】 前記タンパク質断片は、HER-2/neuタンパク質である請求項6記載の方法。 【請求項8】 治療的に有効な組成物であって、Her2/neu抗原の配列の一部を示し、配列番号:2(E75=KIFGSLAFL)の配列を含むペプチドを含み、更に、前記抗原の免疫原性領域に結合する抗体を含む組成物。 【請求項9】 前記ペプチドの配列は、実質的に前記抗体の結合部位の免疫原性領域内である請求項8記載の組成物。 【請求項10】 前記抗体はトラスツズマブである請求項9に記載の組成物。 【請求項11】 請求項10記載の組成物を含むワクチンであって、癌治療に治療効果のあるワクチン。 【請求項12】 前記癌は乳癌である請求項11記載のワクチン。 【請求項13】 癌治療に用いられる医薬組成物であって、Her2/neu抗原の配列の一部を示すペプチドを含み、前記ペプチドは配列番号:2(E75=KIFGSLAFL)の配列を含み、更に、前記抗原の免疫原性領域に結合する抗体を含み、前記抗体はトラスツズマブである医薬組成物。 【請求項14】 患者を治療する方法であって、以下の工程(ただし工程の順序は問わない)を含む方法。 (a)治療的有効量の抗体を前記患者に投与する工程であって、前記抗体はトラスツズマブである工程、及び (b)治療的有効量のペプチドを前記患者に投与する工程であって、前記ペプチドはHer2/neu抗原の配列の一部を示し、配列番号:2(E75=KIFGSLAFL)の配列を含む工程。 【請求項15】 前記ペプチドは、前記抗体の投与前又は投与後又は投与と同時に投与される請求項14記載の方法。 【請求項16】 前記ペプチドの投与及び前記抗体の投与は、前記患者に対し相乗効果を有する請求項15記載の方法。 【請求項17】 前記患者は乳癌患者である請求項16記載の方法。 【請求項18】 治療的に有効な組成物であって、Her2/neu抗原の配列の一部を示し、配列番号:17(GP2=IISAVVGIL)又は配列番号:18(GP2’=IVSAVVGIL)の配列を含むペプチドを含み、更に、前記抗原の免疫原性領域に結合する抗体を含む組成物。 【請求項19】 前記ペプチドの配列は、実質的に前記抗体の結合部位の免疫原性領域内である請求項18記載の組成物。 【請求項20】 前記抗体はトラスツズマブである請求項19記載の組成物。 【請求項21】 請求項20記載の組成物を含むワクチンであって、癌治療に治療効果のあるワクチン。 【請求項22】 前記癌は乳癌である請求項21記載のワクチン。 【請求項23】 癌治療に用いられる医薬組成物であって、Her2/neu抗原の配列の一部を示すペプチドを含み、前記ペプチドは配列番号:17(GP2=IISAVVGIL)又は配列番号:18(GP2’=IVSAVVGIL)の配列を含み、更に、前記抗原の免疫原性領域に結合する抗体を含み、前記抗体はトラスツズマブである医薬組成物。 【請求項24】 患者を治療する方法であって、以下の工程(ただし工程の順序は問わない)を含む方法。 (a)治療的有効量の抗体を前記患者に投与する工程であって、前記抗体はトラスツズマブである工程、及び (b)治療的有効量のペプチドを前記患者に投与する工程であって、前記ペプチドはHer2/neu抗原の配列の一部を示し、配列番号:17(GP2=IISAVVGIL)又は配列番号:18(GP2’=IVSAVVGIL)の配列を含む工程。 【請求項25】 前記ペプチドは、前記抗体の投与前又は投与後又は投与と同時に投与される請求項24記載の方法。 【請求項26】 前記ペプチドの投与及び前記抗体の投与は、前記患者に対し相乗効果を有する請求項25記載の方法。 【請求項27】 前記患者は乳癌患者である請求項26記載の方法。 2 特許法第37条違反 (1)拒絶査定の理由 特許法第37条違反について、原審における平成26年2月27日付け拒絶査定の理由Aにおいて以下のように記載している。 「[理由Aについて] ・請求項 8-27 ・備考 出願人は平成26年1月16日付けで手続補正書を提出したが、先に通知した理由Aで指摘した請求項を補正せず、かつ同日付けの意見書において、本願請求項8-27に係る発明が理由Aに該当しない旨を何ら主張しなかった。 1.特別な技術的特徴に基づく審査対象の決定 本願請求項8に係る発明は、本願請求項1に係る発明と、「免疫原性ペプチド」という共通の技術的特徴を有しているが、当該共通の技術的特徴は先行技術に対する貢献をもたらすものではないから、特別な技術的特徴であるとはいえない。また、本願請求項1に係る発明と、本願請求項8に係る発明との間に、他に同一の又は対応する特別な技術的特徴は存在しない。 2.審査の効率性に基づく審査対象の決定 本願請求項8に係る発明は、本願請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明ではない。そして、本願請求項8に係る発明は、特別な技術的特徴に基づいて審査対象とされた発明を審査した結果、実質的に追加的な先行技術調査や判断を必要とすることなく審査を行うことが可能である発明ではなく、当該発明とまとめて審査を行うことが効率的であるといえる他の事情も無い。 したがって、本願請求項8-12に係る発明は、発明の単一性の要件以外の要件についての審査対象とならず、また本願請求項13-27についても同様である。 よって、この出願は依然として特許法第37条の規定を満たしていない。」 (2)当審の判断 平成25年7月10日付け拒絶理由通知書の理由Aで指摘した特許法第37条違反に対しては、請求人は、平成26年1月16日付け意見書において、一切反論を行っていない。 また、審判請求書においても、 「5 理由Aについて 補正後の本願において、拒絶査定の指摘に係る補正前の請求項8?27は削除されており、理由Aに係る拒絶理由は該当しないものと思料します。」と主張し、特許法第37条違反の拒絶理由に対する反論はなかった。 そして、特許庁が統一的な運用を目指して作成した審査基準の「特別な技術的特徴に基づく審査対象の決定」および「審査の効率性に基づく審査対象の決定」の観点からも、原審の判断は妥当であると認められる。 よって、本願発明8?27は、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。 3 特許法第29条第2項違反 (1)拒絶査定の理由 特許法第29条第1項第3号および第2項違反について、原審における平成26年2月27日付け拒絶査定の理由C、Dにおいて以下のように記載している。 「[理由C、Dについて] ・請求項 1-7 ・引用文献等 1 ・備考 出願人は配列番号2のペプチドについて補正を行わず、かつ本願が分割の要件を満たす旨の主張も行わなかったため、本分割出願の出願日は遡及せず、現実の出願日に出願がなされたものとする。 したがって、本願請求項1-7に係る発明は、依然として文献1(原出願の公表公報)に記載されたものである。」 (2)当審の判断 ア 分割要件違反 平成25年7月10日付け拒絶理由通知書で指摘した分割要件違反に対しては、請求人は、平成26年1月16日付け意見書において、以下のように主張している。 「『配列番号2のペプチド』とは、HER-2/neuタンパク質の断片であり、HER-2/neuタンパク質については、原出願の明細書の段落[0040]に言及されています。したがって、配列番号2のペプチドについては原出願の明細書に記載されているに等しいため、本分割出願は原出願の時になされたものとみなすことができると思料します。」 しかしながら、HER-2/neuタンパク質の全長のアミノ酸配列が公知であっても、段落【0040】を含め原出願の明細書には、「治療的に有効な」「T細胞のプールにより認識されるタンパク質断片」についての具体的な記載はなく、ましてや「配列番号2のペプチド」の配列情報の記載はない。 そして、「配列番号2のペプチド」の配列情報は、出願時の技術常識を考慮しても原出願の明細書の記載から自明な事項とはいえない。 また、審判請求書においても、 「6 理由C及びDについて (1)引用文献1について 補正後の本願発明は、配列番号2のペプチドに関する発明は含まれておらず、本願の原出願である引用文献1に基づく拒絶理由は該当しないものと思料します。」と主張するのみである。 してみると、審判請求書の主張の根拠となる本件補正が却下された以上、本願発明8、13、14に記載された「配列番号:2(E75=KIFGSLAFL)の配列」は、原出願に係る特願2008-530244号の出願当初の外国語書面の明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内のものではなく、本願の原出願の出願日(平成18年9月8日)への遡及は認められない。 なお、拒絶理由通知書には明示的に記載されていないものの、本願発明18、23、24に記載された「配列番号:17(GP2=IISAVVGIL)又は配列番号:18(GP2’=IVSAVVGIL)の配列」についても同様の不備がある。 イ 引用文献1の記載事項 本願の現実の出願日(平成23年11月24日)前に公表された原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2009-508113号公報)は、原出願の公表公報であって、引用文献1には、以下の記載がある。下線は当審が付した。 (原a)「【請求項7】 免疫系により認識されるためのエピトープを提示させて免疫反応を生じさせる方法であって、未使用かつ免疫反応性を有するT細胞のプールにより認識されるタンパク質断片を同定するするステップと、前記タンパク質断片をアルゴリズムにより解析するステップと、前記タンパク質断片中に存在する、免疫原性を有する1つ以上の特異的な配列を同定するステップと、前記配列に対応する少なくとも1つの免疫原性ペプチドを合成するステップと、患者を前記免疫原性ペプチドで処理し、免疫反応を生じさせるステップを含んでなる方法。」(特許請求の範囲の請求項7) (原b)「【0018】 タンパク質配列中のアミノ酸の生化学特性を利用してデータのソーティングを行い、T細胞エピトープを探索するための、コンピュータ制御によるアルゴリズムが考案されている。これらのアルゴリズムは通常、提供されたタンパク質のアミノ酸配列中を、免疫原性ペプチドに共通に存在するとして公知の特徴を元に検索する用途に用いられている。場合によっては、それらを用いて細胞免疫反応を誘発すると予想される領域の位置をin vitroで決定することも可能である。・・・」(段落【0018】) (原c)「【0020】 タンパク質抗原の範囲内におけるT細胞エピトープの同定は、伝統的に様々な方法を使用して行われてきた。これらの方法の例として、天然若しくは組換え抗原性タンパク質の全部及び断片の使用、並びに一般的に使用されている「オーバーラッピングペプチド」法の使用により、タンパク質抗原中のT細胞エピトープを同定することが挙げられ、当該方法では提供されたタンパク質の全ての配列にわたる、相互に重なり合う(オーバーラップする)ペプチドの合成が行われる。次に当該ペプチドを、in vitroにおいてT細胞による細胞障害反応又は増殖反応を刺激する能力に関して試験する。」(段落【0020】) (原d)「【0040】 好ましい一実施形態では、HER-2/neuのユニークな免疫原性領域を同定する。HER-2/neuは過剰発現される発癌性タンパク質である。通常免疫した患者にとり効果的な従来のワクチンストラテジーが、「自己タンパク質」(例えばHER-2/neu)では機能しない。自己タンパク質に対する許容とは、タンパク質中の主要なエピトープのみに対するものであり、タンパク質全体に対するものではないと考えられる。したがって、特異的なタンパク質断片のみ(タンパク質全体ではない)による免疫により、この種の問題が軽減される。この特異的なタンパク質断片は、配列中に存在する、抗体結合相互作用に直接関与する部位、又はその付近の領域に存在する。」(段落【0040】) (原e)「【0041】 この限定的な短いペプチド配列を確認した後、当該配列をアルゴリズムを使用して解析し、機能的に活性を有すると考えられる(又は標的とする)配列若しくは領域を同定する。このセグメントをアルゴリズムで解析することにより、全部のセグメントの場合とは対照的に、ワクチン開発の候補として試験するペプチドセットの準備が容易になる。従来、コンピュータを用いた試験は全ての配列に関して行われていたため、多くの時間、費用及び労力を要していた。当該アルゴリズムは、in vitroで特徴的な免疫反応を示したアミノ酸配列に関して検索するものである。エピトープを含むことが確認されたタンパク質の領域はワクチンとして有用であると考えられる。」(段落【0041】) (原f)「【0048】 好ましい例では、免疫反応性T細胞の大きなプールを用いる。それらは既に存在してもよく、又は後発的に生じてもよい。それらは上記の不活性な/天然に存在しないエピトープと反応することができる。しかしながら、これらのエピトープは通常天然には生じないため、それらのT細胞は利用されず、「不要」であると考えられている。これにより、未使用のT細胞プールを、治療用途への有効利用の道へと導くことが可能となる。再びコンピュータによるアルゴリズム解析を行う。抗体結合相互作用に関与するペプチド配列の同定後、これらのペプチドを用いて動物及び/又は患者に免疫し、当該タンパク質と結合する特異的抗体を産生させ、次の免疫認識及び反応のために、これらの新規なペプチドを生じさせる。」(段落【0048】) (原g)「【0049】 本発明の他の実施態様は、1つ以上の抗体をタンパク質分子及び/又はポリペプチド領域に直接結合させ、これらの結合した及び未結合/天然の複合体を、ex vivo又はin vitroで全ての形態のプロテアソーム機構に供する方法の提供に関する。タンパク質分解又は切断による生成物を生じさせ、ペプチドの時間経過に伴う収量を観察し、それによりワクチン開発に役立てるというものである。・・・」(段落【0049】) ウ 対比 (ア)引用文献1に記載された発明 引用文献1には、摘示(原a)に記載されているように、 「免疫系により認識されるためのエピトープを提示させて免疫反応を生じさせる方法であって、 未使用かつ免疫反応性を有するT細胞のプールにより認識されるタンパク質断片を同定するするステップと、 前記タンパク質断片をアルゴリズムにより解析するステップと、 前記タンパク質断片中に存在する、免疫原性を有する1つ以上の特異的な配列を同定するステップと、 前記配列に対応する少なくとも1つの免疫原性ペプチドを合成するステップと、 患者を前記免疫原性ペプチドで処理し、免疫反応を生じさせるステップを含んでなる方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (イ)本願発明1と引用発明の対比 本願発明1と引用発明の間には、以下の一致点及び相違点1?2が存在する。 (一致点) 免疫系により認識されるためのエピトープを提示させて免疫反応を生じさせる方法であって、 未使用かつ免疫反応性を有するT細胞のプールにより認識されるタンパク質断片を同定するするステップと、 前記タンパク質断片をアルゴリズムにより解析するステップと、 前記タンパク質断片中に存在する、免疫原性を有する1つ以上の特異的なペプチド配列を同定するステップと、 前記配列に対応する少なくとも1つの免疫原性ペプチドを合成するステップと、 患者を前記免疫原性ペプチドで処理し、免疫反応を生じさせるステップを含んでなる方法。 (相違点1) 本願発明1では、「in vitroの方法」であるのに対して、引用発明では、そのような限定がない点。 (相違点2) 本願発明1では、「抗体結合相互作用に関与する」ペプチド配列と記載されているのに対して、引用発明では、そのことが明らかでない点。 そこで、これらの相違点について、以下に検討する。 エ 判断 (ア)相違点1について 引用文献1の摘示(原b)(原c)(原e)(原g)には、本願発明を「in vitro」で実施することができることが記載されており、当業者であれば、引用発明を「in vitroの方法」に限定することは容易に想到し得るものである。 なお、請求人は、平成26年1月16日付け意見書において、「本願明細書の段落[0049]に基づき、補正前の請求項1の方法が「in vitroの方法」である点を特定しました。」と主張しているので、念のため、「プロテアソーム機構に供する方法」に係る摘示(原g)も含めている。 (イ)相違点2について 引用文献1の摘示(原d)(原f)にも記載されているように、免疫原性ペプチドが「抗体結合相互作用に関与する」「エピトープ」を含むことは、技術常識から当業者にとって明らかなことである。 なお、請求人が平成26年1月16日付け意見書において「本願明細書の段落[0040]、[0048]に基づき、補正前の請求項1に記載された各ステップにおける同定対象が「抗体結合相互作用に関与するペプチド配列」である点を特定しました。」と主張していることとも整合している。 (ウ)本願発明1の効果について 本願発明1が原出願の明細書である引用文献1の記載との比較において、格別に顕著な効果を奏するものとは認められない。 (エ)まとめ したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明8?27は、特許法第37条に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-07-14 |
結審通知日 | 2015-07-21 |
審決日 | 2015-08-03 |
出願番号 | 特願2011-255687(P2011-255687) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
P 1 8・ 57- Z (A61K) P 1 8・ 65- Z (A61K) P 1 8・ 575- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 光本 美奈子、小堀 麻子 |
特許庁審判長 |
大宅 郁治 |
特許庁審判官 |
田村 明照 大久保 元浩 |
発明の名称 | 免疫源性ペプチドの標的特異的同定方法 |
代理人 | 藤田 和子 |