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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1308597
審判番号 不服2014-16214  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-15 
確定日 2015-12-16 
事件の表示 特願2012-247250「ビデオチャネルを通して多数のビデオストリームを送信する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月14日出願公開、特開2013- 51733〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、2006年(平成18年)7月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005年7月28日、米国)を国際出願日とする出願である特願2008-524260号の一部を平成24年11月9日に新たな特許出願としたものであって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成25年12月 2日(起案日)
手続補正 :平成26年 3月10日
拒絶査定 :平成26年 4月 4日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成26年 8月15日
手続補正 :平成26年 8月15日
前置審査報告 :平成26年10月20日
上申書 :平成27年 1月 8日

第2.平成26年8月15日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年8月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、請求項1に係る次の補正事項を含むものである(アンダーラインは補正箇所)。

(補正前の請求項1)
「複数の番組に対応する複数のストリームを符号化する装置であって、
通信チャネルを通しての送信のため、前記複数のストリームを符号化するエンコーダと、
前記複数のストリームを送信するため、前記エンコーダと信号通信する送信機とを備え、
前記エンコーダは、前記複数のストリームに対応する個々のストリームの遅延の要件を満たすため、前記複数の番組のうちでイントラ符号化されたフレームが前記複数の番組において異なる時間で生じるように、前記イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課し、
前記相対的な位置合わせは、全体のチャネル帯域幅に関して全ての前記複数のストリームに課されるジョイントビットレート制御と共に実現され、前記ジョイントビットレート制御についてのピクチャタイプは、フレーム位置と番組の番号との関数として決定される、装置。」
とあるのを、
(補正後の請求項1)
「複数の番組に対応する複数のストリームを符号化する装置であって、
通信チャネルを通しての送信のため、前記複数のストリームを符号化するエンコーダと、
前記複数のストリームを送信するため、前記エンコーダと信号通信する送信機とを備え、
前記エンコーダは、前記複数のストリームに対応する個々のストリームの遅延の要件を満たすため、前記複数の番組のうちでイントラ符号化されたフレームが前記複数の番組において異なる時間で生じるように、各フレームの複雑さの測度を考慮することにより、前記イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課し、
前記相対的な位置合わせは、全体のチャネル帯域幅に関して全ての前記複数のストリームに課されるジョイントビットレート制御と共に実現され、前記ジョイントビットレート制御についてのピクチャタイプは、フレーム位置と番組の番号との関数として決定される、装置。」
と補正する。

2.補正の適合性
(1)補正の範囲
上記補正事項は、「前記イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課」すことが、「各フレームの複雑さの測度を考慮することにより」行われるということを規定している。
ここで、当該補正事項が、願書に最初に添付した明細書の記載に基づくものであるか否かについて、以下に検討する。

ア.明細書の記載事項
本願の願書に最初に添付した明細書には、次の記載がある。

「【0025】
本発明の原理を説明する例示的な実施の形態に関する説明が以下に与えられ、図4に関してその更なる説明が続く。
【0026】
先に述べたように、特定のチャネル帯域幅について共に符号化されるL個の番組が存在することが仮定される。それぞれのフレームのターゲットとなるビット割り当てを決定するため、ビット割り当てアルゴリズムは、階層的なやり方で動作する。はじめに、スーパーGOPが形成され、このGOPは、それぞれの番組からのGOPを含む。例示的な目的について、それぞれのストリームのGOPサイズはNであることが仮定される。つぎに、それぞれのスーパーフレームについてである、ターゲットとなるビット割り当てT(n)は、以下のように計算される(この場合、それぞれのスーパーフレームは、同じ時間の瞬間(すなわち同じ時間インデックスを有する)でとられるL個の番組のそれぞれからのフレームを含むフレームのセットであり、スーパーフレームに含まれるフレームのそれぞれは、対応するスーパーグループオブピクチャに含まれる)。
【0027】
【数1】

以下の定義が当てはまる。Iは番組の数(1?L)、nはGOP(0?N-1)におけるフレームの位置、tはピクチャタイプ{I,P,B}であり、nとIの関数、すなわちt=t(n,I)であり、C(I,n,t)はフレームnの複雑さの測度、K(I,n,t)はピクチャタイプの補償ファクタ{K(I),K(P),K(B)}であり、N(I,I),N(I,P),N(I,B)は、I,P,Bピクチャの残りの数、T(r)は残りのビットの数である。
【0028】
以下の式を介して、ある番組についてターゲットとなるビット割り当てを計算すること
ができる。
【0029】
【数2】

このケースでは、レートコントローラは、フレームについて符号化モードt(I,n)を選択する。特にIフレームは、多数のIフレームが特定のスーパーフレームで遭遇しないように、時間的に広がり、高品質の低い遅延の結果が更に容易に達成される。t(I,n)の1つの可能性のある実施の形態は、IBPBPBの系列を有するGOPの以下の例示的なアルゴリズムである。
【0030】
(外1)

ここでm(I)はそれぞれの番組のスタートアップオフセットである。たとえばN=2Lの場合、以下が当てはまる。
【0031】
(外2)

勿論、本発明の原理の範囲を維持しつつ、Nが正確にLの倍数であるか又はLの倍数でないとき、他の分散が選択されることが理解される。」

この記載によれば、願書に最初に添付した明細書には、次のa.b.の事項が開示されていることが理解される。

a.「ターゲットとなるビット割り当て:T(n)及びT(I,n)」は、「フレームnの複雑さの測度:C(I,n,t)」を考慮して決定される(段落【0026】?【0029】)。
より詳細には、「スーパーフレームnのターゲットとなるビット割り当て:T(n)」は式(1)により、「ある番組Iのフレームnについてターゲットとなるビット割り当て:T(I,n)」は式(2)によって、「フレームnの複雑さの測度:C(I,n,t)」を考慮して決定される。
なお、「フレームの複雑さの測度」は、「ピクチャタイプ{I,P,B}:t」に依存する指標である。

b.「ある番組Iのあるフレームnのピクチャタイプ:t(I,n)」は、段落【0030】に記載されるアルゴリズムに従い「それぞれの番組Iのスタートアップオフセット:m(I)」に基づいて決められる。
そして、「それぞれの番組Iのスタートアップオフセット:m(I)」が、例えば段落【0031】に記載されるような異なる値をとることにより、それぞれの番組IのIフレームが、多数のIフレームが特定のスーパーフレームで遭遇しないように、時間的に分散されて配置されることとなる。

イ.補正事項の検討
ここで、補正後の請求項1に記載される「ジョイントビットレート制御」という用語に関し、明細書の段落【0003】の「ジョイントレート制御により、全ての番組を通しての全体のビットレートがチャネル帯域幅の制限に合致するように、ビットが割り当てられる。」などの記載によれば、ビットの割り当てを行う制御のことを「ジョイントレート制御」と表記しているといえる。
そして、上記aの事項から、補正後の請求項1に記載される「ジョイントビットレート制御」は、「各フレームの複雑さの測度を考慮」しているものと認められる。

一方、補正後の請求項1に記載される「イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課」すことに関し、明細書の段落【0035】の「さらに、別の利点/特徴は、先に記載されたビデオエンコーダであり、イントラ符号化されたフレームでの相対的な位置合わせは、イントラ符号化フレームが複数の番組における異なる時間で生じるように行われる。」などの記載によれば、各番組のIフレームを時間的に分散配置することが、補正後の請求項1に記載される「イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課」すことに対応しているといえる。
そして、上記bの事項のように、各番組のIフレームの分散配置は、「それぞれの番組Iのスタートアップオフセット:m(I)」に基づいて決められるものであるから、各番組のIフレームは、スタートアップオフセットによるGOP内の予め定められた位置に配置されるのであって、「各フレームの複雑さの測度を考慮」して決定されるものではない。

以上のことから、「各フレームの複雑さの測度を考慮することにより、前記イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課」すことは、本願の願書に最初に添付した明細書に記載されていない事項であると認められ、さらに、当業者にとって自明なこととも認められない。

また、当該補正事項は、その他の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のいずれにも記載されていない。

したがって、上記補正は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり、特許法第17条の2第3項に規定される願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。

(2)むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

(3)予備的検討
ア.特許請求の範囲の記載の検討
以上により、本件補正は上記補正却下の決定のとおり結論すべきであるが、補正後の請求項1に「前記相対的な位置合わせは、全体のチャネル帯域幅に関して全ての前記複数のストリームに課されるジョイントビットレート制御と共に実現され」と記載されていること、及び、上記(1)ア.に示した段落【0026】?【0029】の記載によれば、ターゲットとなるビット割り当て」を求める式(ジョイントビットレート制御に相当)の一部に、スタートアップオフセットに基づくIフレームの時間的分散配置(相対的な位置合わせに相当)が組み込まれていることを考慮すると、出願人は、「相対的な位置合わせ」をその演算過程の一部に含む「ジョイントビットレート制御」が「各フレームの複雑さの測度を考慮する」という技術を、「相対的な位置合わせ」が「各フレームの複雑さの測度を考慮する」という技術と誤認しているものと考えられる。
以上のことを考慮し、仮に、上記補正事項が、「相対的な位置合わせ」と共に実現される「ジョイントビットレート制御」において、「各フレームの複雑さの測度を考慮する」ものであることを規定しているものと認定し、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたものであると仮定すると、上記補正事項は、「相対的な位置合わせ」と共に実現される「ジョイントビットレート制御」の制御内容を限定するものといえるから、特許請求の範囲の減縮であって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合するといえる。
したがって、上記仮定に基づき、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定された特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に予備的に検討する。

イ.本願補正発明
本件補正後の請求項に係る発明は、平成26年8月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、次のとおりのものである。なお、本願補正発明の各構成の符号は便宜的に当審で付したものである。

(本願補正発明)
(A)複数の番組に対応する複数のストリームを符号化する装置であって、
(B)通信チャネルを通しての送信のため、前記複数のストリームを符号化するエンコーダと、
(C)前記複数のストリームを送信するため、前記エンコーダと信号通信する送信機とを備え、
(D)前記エンコーダは、前記複数のストリームに対応する個々のストリームの遅延の要件を満たすため、前記複数の番組のうちでイントラ符号化されたフレームが前記複数の番組において異なる時間で生じるように、各フレームの複雑さの測度を考慮することにより、前記イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課し、
(E)前記相対的な位置合わせは、全体のチャネル帯域幅に関して全ての前記複数のストリームに課されるジョイントビットレート制御と共に実現され、
(F)前記ジョイントビットレート制御についてのピクチャタイプは、フレーム位置と番組の番号との関数として決定される、装置。

ウ.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1である国際公開2004/047444号には、「METHOD AND SYSTEM FOR STAGGERED STATISTICAL MULTIPLEXING」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(なお、括弧内に当審で作成した日本語仮訳を添付する)。

(ア)「SUMMARY OF INVENTION
The invention is a method and apparatus for us in a multi-channel video transmission system in which channel video segments are operated on by corresponding channel video encoders to encode the video segments into a plurality of frames organized into frame types having defined frame patterns. The frame transmission alignment is then arranged among a plurality of channels concurrently transmitted via a common transmission medium. A specified frame type is arranged for transmission in each channel so as to avoid temporal alignment with other ones of the same specified frame type in other channels.」(第2頁第26行?第3頁第2行)
(発明の概要
本発明は、各チャンネル・ビデオ・セグメントが、対応する各チャンネル・ビデオ・エンコーダにより処理されて、定義されたフレーム・パターンを有する各フレーム・タイプに構成された複数のフレームに符号化されるマルチ・チャンネル・ビデオ伝送システムに於いて使用される装置と方法である。共通伝送媒体を介して同時に伝送される複数のチャンネル間で、フレーム伝送整列が調整される。規定フレーム・タイプが、各チャンネルの伝送の間で調整されて、他のチャンネル内の同じ規定フレーム・タイプと時間的に整列しないようにされる。)

(イ)「In effect, the invention synchronizes multiple video transmission and encoding channels and then staggers the compressed frame types to distribute the bit allocations evenly.
In one preferred embodiment, based on use of MPEG coding/compression of the video signals, the Intra-coded (I) frames are temporally displaced so as to avoid a temporal alignment of I frames among a selected group of channels sharing a common transmission medium.」(第3頁第3?8行)
(実際に、本発明は、複数のビデオ伝送/符号化チャンネルを同期化して、各圧縮フレーム・タイプをスタガー配列して、ビット割り当てを均等に配分する。
ビデオ信号のMPEG符号化/圧縮の使用に基づく一推奨実施例では、イントラ符号化(I)フレームを時間的に相互にずらして、共通伝送媒体を共用する選択されたグループの各チャンネル間で、Iフレームが時間的に整列しないようにする。)

(ウ)「A block diagram of a broadcast video transmission system is shown in Figure 1, the system being composed of N input video channels. Each video channel is frame synchronized (by Frame Sync 101) to a common video clock (to establish a frame period, among other timing functions). Therefore, all of the Video Encoders 103 are locked to the same video frame rate. A complexity measure is created from each encoder and delivered to the Stat Mux Controller 105. The Stat Mux Controller allocates the total available bit rate among the N Encoders 103. Based on signals from the Stat Mux Controller, statistical multiplexing is applied to the N video channels by Mux 107, with the output of Mux 107 provided as an input to Modulator 109. In the instant exemplary embodiment, the stat mux algorithm allocates new bit budgets for each channel for each frame period.」(第4頁第9?18行)
(図1には、N個の入力ビデオ・チャンネルで構成された放送ビデオ伝送システムのブロック図が示されている。各ビデオ・チャンネルは、共通ビデオ・クロック信号に(フレーム同期装置101により)フレーム同期化される(その他のタイミング機能の間で、フレーム期間が設定される)。従って、ビデオ・エンコーダ103の全てが、同じビデオ・フレーム・レートに固定される。複雑さの測度が各エンコーダにより生成され、統計的多重化コントローラ105に送られる。この統計的多重化コントローラは、トータルな利用可能ビット・レートを、N個のエンコーダ103の間で、割り当てる。統計的多重化コントローラからの信号に基づいて、多重化装置107により、N個のビデオ・チャンネルに統計的多重化が適用され、多重化装置107の出力が、変調器109の入力として供給される。本実施例では、統計的多重化アルゴリズムが、新たなビット予算を、各フレーム期間の各チャンネルに割り当てる。)

(エ)「GOP sequences for a similar 4 channel video broadcast system with synchronized frame periods is shown in Figure 4, but here the I frames have been staggered, in accordance with the principles of the present invention. Note that the frame sequences depicted by solid lines in Figure 4 are intended to represent the GOPs for each channel at start up of the frame staggering method of the present invention. However, to also illustrate the repeating pattern of the GOPs over time, the frames that would appear in each frame position preceding the I frame for each channel in subsequent processing intervals are shown in the figure by dotted lines. With the I frames staggered as illustrated in the figure, the stat mux controller is now given much more flexibility when allocating bits for each frame period. When allocating bits for the first frame period, it can give priority to the channel 1 Intra frame, then channel 4's P frame, then channel's 2 and 3 B frames. If not enough bits are available for this time slot, the B frames can be degraded with minor negative results (since the B frames are not anchor frames).」(第5頁第22行?第6頁第2行)
(図4には、各フレーム期間が同期化された同様な4チャンネル・ビデオ放送システムについてのGOPシーケンスが示されている。しかし、ここでは、本発明の原理に従って、各Iフレームがスタガー配列されている。図4中、実線で示す各フレーム・シーケンスが、本発明のフレーム・スタガー配列法の開始時点に於ける各チャンネルについての各GOPを表している。また、この図では、時間に伴う各GOPの繰り返しパターンを例示するため、各処理期間に於ける各チャンネルについてのIフレームに先立つ各フレーム位置に於いて現れる各フレームを点線で示している。各Iフレームが図示の例の如くスタガー配列されているので、統計的多重化コントローラは、各フレーム期間にビットを割り当てる際、格段に大きな自由度が与えられる。統計的多重化コントローラは、最初のフレーム期間についてビットを割り当てる際、優先権を、先ずチャンネル1のイントラ・フレーム、次にチャンネル4のPフレーム、その後チャンネル2と3のBフレームに与えることが出来る。若しこのタイム・スロットで十分なビットが得られない場合、上記各Bフレームは、(アンカー・フレームでないので)品質を低下させることが出来る。)

(オ)「One particularly important advantage of the frame stagger methodology of the invention is that it avoids the need for the overall stat mux algorithm to use a complexity measure in determining the allocation of bits among the channels. As will be well understood by those of skill in the art, stat mux algorithms typically measure GOP complexity and then assign a number of bits per GOP per channel. By staggering the high priority frames in the multi-channel GOPs, in accordance with the principles of the present invention, the need for that complexity measure is eliminated. It should also be understood in this regard that the staggering methodology of the present invention could otherwise be combined with the known stat mux algorithms (along with removal of the complexity measure functionality). It should be apparent, as well, that static constraints -- such as giving a sports channel more bits than a movie channel -- can still be used with the present invention.」(第6頁第8?18行)
(本発明のフレーム・スタガー配列法の特に重要な利点の一つは、全統計的多重化アルゴリズムが、各チャンネル間でのビットの割り当てを決める際に、複雑さの測度を使用しなくて済むことである。当業者であれば十分理解できるように、統計的多重化アルゴリズムは、一般に、GOPの複雑さを測定して、各チャンネルについての各GOPに一定数のビットを割り当てる。本発明の原理に従えば、マルチ・チャンネルの各GOP内の優先度の高い各フレームをスタガー配列することにより、そのような複雑さの測定の必要が無くなる。また、本発明のスタガー配列法を(複雑さの測定機能を取り除くことに加えて)既知の統計的多重化アルゴリズムと組み合わせることも可能であることは理解されるべきである。また、統計的な制約条件(例えば、スポーツのチャンネルには映画のチャンネルよりも多くのビットを与えること等)は、本発明と共に使用可能であることは同様に明らかである。)

(カ)「Yet another benefit of staggering is that the average bit budget per frame period is more uniform. That is, there is not a large I-frame spike as in the non-staggered case. A more uniform bit allocation per frame period helps the channel multiplexer achieve a low delay between the video compression encoders and the modulation, and ultimately the receiver. Another way to view this advantage is that the multiplexer does not need as much buffering to smooth out the peak bit rates coming from the encoders.」(第6頁第19?24行)
(スタガー配列法の更に別の利点は、1フレーム期間当たりの平均ビット予算が、より均一になることである。即ち、非スタガー配列の場合に於けるような大きなIフレーム・スパイクは無い。1フレーム期間当たりのビット割り当てがより均一になることにより、チャンネル多重化装置は、各ビデオ圧縮エンコーダと変調器との間、最終的に受信機との間の遅延を小さくできる。この利点の見方を変えると、多重化装置は、各エンコーダから入力される各ピーク・ビット・レートを平滑化するために、それ程多くのバッファリングを必要としない。)

(キ)「In order to stagger the I-frames (and succeeding frames in a GOP) for the channel encoders, a simple register delay line may be implemented that delays the encoder reset signal by the frame rate clock. However, this will result in a shared reset for all encoders. Such an approach could be problematic in a multi-channel broadcast system because, in practice, an encoder must occasionally be upgraded or reset, but the service provider will not want to reset all the channels simultaneously each time this operation is carried out.
Accordingly, for a preferred embodiment of the invention, the frame-stagger approach is to create a frame rate counter and a register based comparator for each encoder. The output of the comparator gives the correct phase for the reset for each encoder. In this way, each encoder can be individually reset. An exemplary architecture for implementing this preferred approach is schematically depicted in Figure 7. With reference to the figure, Frame Rate Counter 701 is driven by a frame rate clock and would normally be implemented as a digital counter. The Frame Rate Counter operates to synchronize the reset signals for the Video Encoders 709. Each encoder will be reset on a different frame boundary in order to start its sequence at the appropriate time to enable the staggered I frame start time, in accordance with the principles of the present invention. To achieve that end, each Encoder Phase Register 703 is loaded with a frame offset for its corresponding video encoder. The timing diagram of the figure shows the frame offsets of the phase registers for illustrative phases of 4,7,10, and 13. The Comparator 705, which receives as inputs the outputs of the frame rate counter and the appropriate encoder phase register, provides an output that is active high when the frame rate counter value and the phase register offsets are equal. This comparator output signal is then gated by the reset signal (shown in the timing diagram) with AND Gate 707. Therefore, when an encoder reset signal, at output of the corresponding AND gate, is driven high, the encoder will be reset on its appropriate phase at the frame offset established for that encoder in accordance with the frame stagger principles of the present invention.」(第9頁第9行?第10頁第2行)
(各チャンネル・エンコーダにおいて各Iフレーム(およびGOP内の後続の各フレーム)をスタガー配列する目的で、エンコーダ・リセット信号をフレーム・レート・クロック分だけ遅延させる簡単なレジスタ遅延線を設けてもよい。しかし、この結果、エンコーダ全てについてリセットが共有される。このようなアプローチは、マルチ・チャンネル放送システムでは問題がある。即ち、実際上、エンコーダは時折アップグレード或いはリセットする必要があるが、サービス・プロバイダは、この作業が実行される度に、全てのチャンネルを同時にリセットするような事はしたくない。
従って、本発明の推奨実施例では、フレーム・スタガー配列アプローチでは、各エンコーダについて、フレーム・レート・カウンタとレジスタに基づく比較器とを設ける。比較器の出力により、各エンコーダに対するリセットについての正確な位相が得られる。このようにして、各エンコーダは、個々に、リセットできる。図7に、この推奨アプローチを実施するためのアーキテクチャの例を簡略的に示す。この図を参照すると、フレーム・レート・カウンタ701が、フレーム・レート・クロックにより駆動され、通常、ディジタル・カウンタとして実施される。フレーム・レート・カウンタは、各ビデオ・エンコーダ709についてのリセット信号を同期化するように動作する。各エンコーダは、本発明の原理に従って、スタガー配列されたIフレームの開始時点を実現する適切な時点で、そのシーケンスを開始させるために、異なるフレーム境界でリセットされる。この目的を達成する為に、各エンコーダ位相レジスタ703には、それに対応するビデオ・エンコーダについてのフレーム・オフセットが設定されている。図7のタイミング図には、位相例4、7、10および13についての各位相レジスタのフレーム・オフセットが示されている。比較器705が、フレーム・レート・カウンタの出力と適切なエンコーダ位相レジスタの出力とを各入力として受信し、フレーム・レート・カウンタ値と位相レジスタのオフセットとが等しい時に「アクティブハイ」になる出力を供給する。この比較器出力信号は、ANDゲート707で、リセット信号(図7のタイミング図に示す)によりゲートされる。従って、エンコーダ・リセット信号が、対応するANDゲート707の出力端子に於いて、「ハイ」になった時に、エンコーダは、本発明のフレーム・スタガー配列原理に従って、そのエンコーダについて設定されたフレーム・オフセットにより、その適切な位相で、リセットされる。)

エ.刊行物1に記載された発明
a.符号化装置
刊行物1の(ア)、(ウ)の記載によれば、刊行物1には、各チャンネル・ビデオ・セグメントが、対応する各チャンネル・ビデオ・エンコーダにより処理されて、定義されたフレーム・パターンを有する各フレーム・タイプに構成された複数のフレームに符号化されるマルチ・チャンネル・ビデオ伝送システムに於いて使用される装置であって、N個の入力ビデオ・チャンネルに対応するN個のエンコーダを有し、各エンコーダにより生成される複雑さの測度が統計的多重化コントローラに送られ、統計的多重化コントローラは、トータルな利用可能ビット・レートをN個のエンコーダに割り当て、統計的多重化コントローラからの信号に基づいて、多重化装置が、N個のビデオ・チャンネルを統計的多重化し、その出力を変調器109に供給する装置が記載されている。
すなわち、刊行物1には、「N個のチャンネル・ビデオ・セグメントを符号化する装置」に関する発明が記載されており、当該装置は、「符号化の後に多重化され変調器に出力されるN個のチャンネル・ビデオ・セグメントを符号化するN個のエンコーダ」及び「符号化及び多重化されたN個のチャンネル・ビデオ・セグメントが入力される変調器」を備えているものである。

b.イントラ符号化フレームのスタガー配列
刊行物1の(イ)、(エ)の記載によれば、刊行物1の「装置」は、「各チャンネル・ビデオ・セグメントのGOPシーケンスにおいてイントラ符号化フレームをスタガー配列させ、イントラ符号化フレームが各チャンネル間で時間的に整列しないように」している。
そして、(カ)の記載によれば、イントラ符号化フレームをスタガー配列することにより、チャンネル多重化装置が各ビデオ圧縮エンコーダと変調器との間の遅延を小さくできるのであるから、「イントラ符号化フレームをスタガー配列することは、各チャンネル・ビデオ・セグメントの遅延を小さくするため」に行われるものといえる。
また、(キ)の記載によれば、イントラ符号化フレームのスタガー配列は、各エンコーダにフレーム・レート・カウンタとフレーム・オフセットが設定された位相レジスタに基づく比較器を設け、比較器の出力により各エンコーダを個々にリセットすることにより実現されるものである。
すなわち、イントラ符号化フレームのスタガー配列は、各エンコーダにおいて行われる。
以上のことから、刊行物1の「エンコーダ」は、「各チャンネル・ビデオ・セグメントの遅延を小さくするため、イントラ符号化フレームが各チャンネル間で時間的に整列しないように、各チャンネル・ビデオ・セグメントのGOPシーケンスにおいてイントラ符号化フレームをスタガー配列させ」るものである。

c.スタガー配列と統計的多重化アルゴリズムの関係
刊行物1の(ウ)ないし(オ)の記載によれば、刊行物1に記載される技術は、統計的多重化アルゴリズムに関して、一般にGOPの複雑さを測定してビット割り当てを行っているものを、イントラ符号化フレームのスタガー配列を行うことにより定まるGOPの各フレームの優先度(優先度は、イントラ・フレーム、Pフレーム、Bフレームの順)に基づいてビット割り当てを行うものに置き換えるという技術である。
すなわち、統計的多重化アルゴリズムの一部として、イントラ符号化フレームのスタガー配列を行うものであるから、イントラ符号化フレームのスタガー配列は、統計的多重化アルゴリズムと共に実現されるものである。
また、(ウ)の記載によれば、統計的多重化アルゴリズムは、利用可能ビット・レートを、N個のエンコーダ、すなわちN個のチャンネル・ビデオ・セグメントに割り当てるものである。
以上のことから、刊行物1の「装置」において、「イントラ符号化フレームのスタガー配列は、トータルの利用可能ビット・レートをN個のチャンネル・ビデオ・セグメントに割り当てる統計的多重化アルゴリズムと共に実現され」るものである。

d.ピクチャタイプ
上記c.において検討したように、刊行物1には、統計的多重化アルゴリズムに関して、GOPの各フレームの優先度(優先度は、イントラ・フレーム、Pフレーム、Bフレームの順)に基づいてビット割り当てを行うことを含むものが記載されている。
すなわち、刊行物1には、統計的多重化アルゴリズムにI,P,Bのピクチャタイプが利用されることが記載されている。
また、刊行物1の図2?4に示されるように、刊行物1においては、各チャンネル・ビデオ・セグメントのGOPは予め定められており、INTRA,B0,B1,PRED5,B3,B4,PRED8,B6,B7の構造を有するGOPとなっていある。
そして、刊行物1の(キ)の記載によれば、各チャンネルのエンコーダにフレーム・レート・カウンタとフレーム・オフセットが設定された位相レジスタに基づく比較器を設け、比較器の出力により各エンコーダを個々にリセットし、そのリセット・タイミングによりGOPを開始させる。
以上のことから、刊行物1の「装置」において、「統計的多重化アルゴリズムに利用される各チャンネル・ビデオ・セグメントのI,P,Bのピクチャタイプ」は、「各チャンネルに設定されたリセット・タイミングと、そのリセット・タイミングで開始される予め定められたGOPにより決定される」ものである。

e.まとめ
以上によれば、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。

(引用発明)
(a)N個のチャンネル・ビデオ・セグメントを符号化する装置であって、
(b)符号化の後に多重化され変調器に出力されるN個のチャンネル・ビデオ・セグメントを符号化するN個のエンコーダと、
(c)符号化及び多重化されたN個のチャンネル・ビデオ・セグメントが入力される変調器とを備え、
(d)エンコーダは、各チャンネル・ビデオ・セグメントの遅延を小さくするため、イントラ符号化フレームが各チャンネル間で時間的に整列しないように、各チャンネル・ビデオ・セグメントのGOPシーケンスにおいてイントラ符号化フレームをスタガー配列させ、
(e)イントラ符号化フレームのスタガー配列は、トータルの利用可能ビット・レートをN個のチャンネル・ビデオ・セグメントに割り当てる統計的多重化アルゴリズムと共に実現され、
(f)統計的多重化アルゴリズムに利用される各チャンネル・ビデオ・セグメントのI,P,Bのピクチャタイプは、各チャンネルに設定されたリセット・タイミングと、そのリセット・タイミングで開始される予め定められたGOPにより決定される、装置。

オ.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

a.本願補正発明の構成(A)と、引用発明の構成(a)の対比
引用発明の構成(a)である「N個のチャンネル・ビデオ・セグメントを符号化する装置」について、「N個のチャンネル・ビデオ・セグメント」は、N個のチャンネルに対応するチャンネル・ビデオ・セグメントであり、N個のチャンネルは複数の番組に相当し、チャンネル・ビデオ・セグメントは番組のストリームといえるから、「複数の番組に対応する複数のストリームを符号化する装置」である点で、本願補正発明の構成(A)と相違しない。

b.本願補正発明の構成(B)と、引用発明の構成(b)の対比
引用発明の構成(b)である「符号化の後に多重化され変調器に出力されるN個のチャンネル・ビデオ・セグメントを符号化するN個のエンコーダ」に関し、「変調器」は通信チャネルを通して信号を送信するための機器といえ、上記a.において検討したように「N個のチャンネル・ビデオ・セグメント」は「複数の番組に対応する複数のストリーム」に相当するものであるから、引用発明の構成(b)は、「通信チャネルを通しての送信のため、前記複数のストリームを符号化するエンコーダ」である点で、本願補正発明の構成(B)と相違しない。

c.本願補正発明の構成(C)と、引用発明の構成(c)の対比
引用発明の構成(c)である「符号化及び多重化されたN個のチャンネル・ビデオ・セグメントが入力される変調器」に関し、上記b.において検討したように、「変調器」は通信チャネルを通して信号を送信するための機器であるから、本願補正発明の「送信機」に対応するものといえる。そして、「N個のチャンネル・ビデオ・セグメント」は「前記複数のストリーム」に相当するので、「変調器」は、「前記複数のストリームを送信するための送信機」といえる。
また、「変調器」は、「エンコーダ」からの符号化されたチャンネル・ビデオ・セグメントが入力されるから、「エンコーダ」と信号通信するものといえる。
したがって、引用発明の構成(c)は、「前記複数のストリームを送信するため、前記エンコーダと信号通信する送信機」である点で、本願補正発明の構成(C)と相違しない。

d.本願補正発明の構成(D)と、引用発明の構成(d)の対比
引用発明の構成(d)の「エンコーダは、各チャンネル・ビデオ・セグメントの遅延を小さくするため」に関し、「各チャンネル・ビデオ・セグメント」は、上記a.における検討を考慮すると、「複数の番組に対応する複数のストリーム」のうちの各ストリームであるから、本願補正発明の「複数のストリームに対応する個々のストリーム」といえる。
そして、本願補正発明の「個々のストリームの遅延の要件を満たすため」とは、本願明細書の段落【0019】に「イントラ符号化された(I)ピクチャ/フレームは、低い遅延の要件に適合するのを助けるため」と記載されるように、遅延を低くすることに関する要件である。
そうすると、引用発明と本願補正発明は、「前記エンコーダは、前記複数のストリームに対応する個々のストリームの遅延を低くするため」というものである点で一致する。
ただし、個々のストリームの「遅延を低くする」ことに関し、本願補正発明では、「遅延の要件を満たす」ことを条件とするのに対し、引用発明ではそのような特定はされていない点で相違する。

次に、引用発明の構成(d)の「エンコーダ」は、「イントラ符号化フレームが各チャンネル間で時間的に整列しないように、各チャンネル・ビデオ・セグメントのGOPシーケンスにおいてイントラ符号化フレームをスタガー配列させ」ることに関し、「各チャンネル」は本願補正発明の「複数の番組」に相当し、「時間的に整列しないように」とは「異なる時間で生じる」ことといえるから、引用発明の「イントラ符号化フレームが各チャンネル間で時間的に整列しないように」は、本願補正発明の「前記複数の番組のうちでイントラ符号化されたフレームが前記複数の番組において異なる時間で生じるように」と一致するものといえる。
そうすると、引用発明の「各チャンネル・ビデオ・セグメントのGOPシーケンスにおいてイントラ符号化フレームをスタガー配列させ」ることは、上述したように「前記複数の番組のうちでイントラ符号化されたフレームが前記複数の番組において異なる時間で生じるように」するために行うことであって、イントラ符号化フレームをスタガー配列させることは、イントラ符号化されたフレームの位置を定めることであるから、本願補正発明の「イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課」すことに相当するといえる。
すなわち、引用発明の構成(d)の「エンコーダ」は、「イントラ符号化フレームが各チャンネル間で時間的に整列しないように、各チャンネル・ビデオ・セグメントのGOPシーケンスにおいてイントラ符号化フレームをスタガー配列させ」ることは、本願補正発明の「前記エンコーダ」は、「前記複数の番組のうちでイントラ符号化されたフレームが前記複数の番組において異なる時間で生じるように、前記イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課」すことと一致する。

なお、本願補正発明の構成(D)の「各フレームの複雑さの測度を考慮することにより」に関しては、上記(3)ア.において言及したように、相対的な位置合わせと共に実現されるジョイントビットレート制御において、「各フレームの複雑さの測度を考慮する」ものであることを規定したものと仮定したので、次のe.において、本願補正発明の構成(E)と共に検討する。

e.本願補正発明の構成(E)と、引用発明の構成(e)の対比
上記d.において検討したように、引用発明の構成(e)の「イントラ符号化フレームのスタガー配列」は、本願補正発明の「イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課」すこと、すなわち「相対的な位置合わせ」に相当する。
引用発明の構成(e)の「トータルの利用可能ビット・レートをN個のチャンネル・ビデオ・セグメントに割り当てる統計的多重化アルゴリズム」に関して、「トータルの利用可能ビット・レート」は、N個のチャンネル・ビデオ・セグメントが利用できるビット・レートであり、本願補正発明の「全体のチャネル帯域幅」に相当するものといえる。そして、「N個のチャンネル・ビデオ・セグメント」は、本願補正発明の「全ての前記複数のストリーム」に相当する。そうすると、引用発明の「統計的多重化アルゴリズム」は、「全体のチャネル帯域幅」を「全ての前記複数のストリーム」に割り当てる制御を行うものであることから、本願補正発明の「ジョイントビットレート制御」に相当するものである。
したがって、引用発明の構成(e)の『「イントラ符号化フレームのスタガー配列」は、「トータルの利用可能ビット・レートをN個のチャンネル・ビデオ・セグメントに割り当てる統計的多重化アルゴリズムと共に実現され」』ということは、本願補正発明と「前記相対的な位置合わせは、全体のチャネル帯域幅に関して全ての前記複数のストリームに課されるジョイントビットレート制御と共に実現され」というものである点において共通するものである。
ただし、上記(3)ア.において言及したように、本願補正発明は、相対的な位置合わせと共に実現されるジョイントビットレート制御において、「各フレームの複雑さの測度を考慮する」ものであることを規定したものと仮定しているところ、本願補正発明の「ジョイントビットレート制御」に相当する引用発明の「統計的多重化アルゴリズム」においては、「各フレームの複雑さの測度を考慮する」という特定がされていない点で、本願補正発明と相違する。
すなわち、本願補正発明では、相対的な位置合わせと共に実現されるジョイントビットレート制御において、「各フレームの複雑さの測度を考慮する」ものであるところ、引用発明では、そのような特定がされていない点で両者は相違する。

f.本願補正発明の構成(F)と、引用発明の構成(f)の対比
引用発明の構成(f)の「統計的多重化アルゴリズムに利用される各チャンネル・ビデオ・セグメントのI,P,Bのピクチャタイプ」は、上記e.において検討したように、引用発明の「統計的多重化アルゴリズム」は本願補正発明の「ジョイントビットレート制御」に相当するから、「ジョイントビットレート制御についてのピクチャタイプ」であるといえる。
また、引用発明の構成(f)の「ピクチャタイプは、各チャンネルに設定されたリセット・タイミングと、そのリセット・タイミングで開始される予め定められたGOPにより決定される」ことに関し、各チャンネルは本願補正発明の「番組」に相当するから、「各チャンネルに設定されたリセット・タイミング」は、「番組により定まる」ものであり、また、そのタイミングで開始されるGOPのフレームの位置によりI,P,Bのピクチャタイプが決定されるのであるから、引用発明は「ピクチャタイプは、番組とフレーム位置により決定される」ものということができ、そうすると、引用発明と本願補正発明は、「ジョイントビットレート制御についてのピクチャタイプは、フレーム位置と番組により決定される、装置」というものである点で一致するものといえる。
ただし、ピクチャタイプは「フレーム位置と番組より」決定されることに関し、本願補正発明では、「フレーム位置と番組の番号との関数として」決定されるものであるのに対し、引用発明では、「各チャンネルに設定されたリセット・タイミングと、そのリセット・タイミングで開始される予め定められたGOPにより」決定されるものである点で相違する。

g.まとめ(一致点・相違点)
上記aないしfの対比結果をまとめると、本願補正発明と引用発明との[一致点]と[相違点]は以下のとおりである。

[一致点]
複数の番組に対応する複数のストリームを符号化する装置であって、
通信チャネルを通しての送信のため、前記複数のストリームを符号化するエンコーダと、
前記複数のストリームを送信するため、前記エンコーダと信号通信する送信機とを備え、
前記エンコーダは、前記複数のストリームに対応する個々のストリームの遅延を低くするため、前記複数の番組のうちでイントラ符号化されたフレームが前記複数の番組において異なる時間で生じるように、前記イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課し、
前記相対的な位置合わせは、全体のチャネル帯域幅に関して全ての前記複数のストリームに課されるジョイントビットレート制御と共に実現され、前記ジョイントビットレート制御についてのピクチャタイプは、フレーム位置と番組により決定される、装置。

[相違点1]
個々のストリームの「遅延を低くする」ことに関し、本願補正発明では、「遅延の要件を満たす」ことを条件とするのに対し、引用発明ではそのような特定はされていない点。

[相違点2]
本願補正発明は、相対的な位置合わせと共に実現されるジョイントビットレート制御において、「各フレームの複雑さの測度を考慮する」ものであるところ、引用発明では、そのような特定がされていない点。

[相違点3]
ピクチャタイプは「フレーム位置と番組より」決定されることに関し、本願補正発明では、「フレーム位置と番組の番号との関数として」決定されるものであるのに対し、引用発明では、「各チャンネルに設定されたリセット・タイミングと、そのリセット・タイミングで開始される予め定められたGOPにより」決定されるものである点。

カ.相違点の判断
a.相違点1について
ストリームの遅延を低くしようとする際に、どの程度まで低くするのかという判断基準を設けることは、当業者が適宜なし得る技術事項に過ぎず、引用発明において、個々のストリームの「遅延を低くする」際に、相違点1にかかる「遅延の要件を満たす」ことを条件とすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。

b.相違点2について
一般に、統計的多重化アルゴリズムにおいて、「各フレームの複雑さの測度を考慮する」ことは周知の技術である。
例えば、特開平6-62393号公報(以下「周知例1」という)には、「多重化装置のビット・レート制御において、各チャンネルのピクチャの複雑さに応じて、動的にレート割当てを行う技術」(段落【0010】?【0014】等)が記載され、特表2003-517743号公報(以下「周知例2」という)には、「個別フレームの複雑さを使用して、スーパーGOPのビット数をスーパーフレームに分配し、次に個別フレームに分配する統計的多重化アルゴリズム」(段落【0074】?【0080】,【0093】?【0111】,【0119】?【0120】等)が記載されている。
そして、引用発明の統計的多重化アルゴリズムは、上記エ.c.において検討したように、GOPの複雑さを測定する代わりに、GOPの各フレームの優先度(優先度は、イントラ・フレーム、Pフレーム、Bフレームの順)に基づいてビット割り当てを行うものではあるが、上述したように統計的多重化アルゴリズムにおいて、「各フレームの複雑さの測度を考慮する」ことは周知の技術であることから、I,P,Bのピクチャタイプによりビット割当てを行うことに加え、I,P,Bの各ピクチャの複雑さの測度をさらにビット割当ての判断基準に追加し、より適したビット割当てを行うものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、引用発明に当該周知技術を適用し、相対的な位置合わせと共に実現されるジョイントビットレート制御において、相違点2にかかる「各フレームの複雑さの測度を考慮する」ものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

c.相違点3について
引用発明の、ピクチャタイプを「各チャンネルに設定されたリセット・タイミングと、そのリセット・タイミングで開始される予め定められたGOPにより」決定することは、フレーム位置と番組によりI,P,Bのピクチャタイプを決定するための一つの方法であり、ピクチャタイプをフレーム位置と番組により決定する方法は様々な方法が採用可能であって、フレーム位置と番組の番号の関数により決定する方法も、当業者が容易に想到し得る方法である。
よって、ピクチャタイプを「フレーム位置と番組より」決定することを、相違点3にかかる「フレーム位置と番組の番号との関数として」決定するものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

キ.効果等について
本願補正発明の構成は、上記のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願補正発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える顕著なものではない。

ク.まとめ
以上のように、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ケ.むすび(予備的検討)
以上のとおり、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたものと仮定したとしても、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について

1.本願発明
平成26年8月15日付けの手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成26年3月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載した事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりのものである。

(本願発明)
複数の番組に対応する複数のストリームを符号化する装置であって、
通信チャネルを通しての送信のため、前記複数のストリームを符号化するエンコーダと、
前記複数のストリームを送信するため、前記エンコーダと信号通信する送信機とを備え、
前記エンコーダは、前記複数のストリームに対応する個々のストリームの遅延の要件を満たすため、前記複数の番組のうちでイントラ符号化されたフレームが前記複数の番組において異なる時間で生じるように、前記イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課し、
前記相対的な位置合わせは、全体のチャネル帯域幅に関して全ての前記複数のストリームに課されるジョイントビットレート制御と共に実現され、前記ジョイントビットレート制御についてのピクチャタイプは、フレーム位置と番組の番号との関数として決定される、装置。

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1の記載事項は、前記第2.2.(3)ウ.に記載したとおりである。

3.刊行物1に記載された発明
上記刊行物1には、上記第2.2.(3)エ.に示した、引用発明が記載されている。

4.対比
上記第2.2.(3)オ.の対比を援用すると、本願発明と引用発明との[一致点]・[相違点]は、以下のとおりである。

[一致点]
複数の番組に対応する複数のストリームを符号化する装置であって、
通信チャネルを通しての送信のため、前記複数のストリームを符号化するエンコーダと、
前記複数のストリームを送信するため、前記エンコーダと信号通信する送信機とを備え、
前記エンコーダは、前記複数のストリームに対応する個々のストリームの遅延を低くするため、前記複数の番組のうちでイントラ符号化されたフレームが前記複数の番組において異なる時間で生じるように、前記イントラ符号化されたフレームに相対的な位置合わせを課し、
前記相対的な位置合わせは、全体のチャネル帯域幅に関して全ての前記複数のストリームに課されるジョイントビットレート制御と共に実現され、前記ジョイントビットレート制御についてのピクチャタイプは、フレーム位置と番組により決定される、装置。

[相違点1]
個々のストリームの「遅延を低くする」ことに関し、本願補正発明では、「遅延の要件を満たす」ことを条件とするのに対し、引用発明ではそのような特定をしていない点。

[相違点2]
ピクチャタイプは「フレーム位置と番組より」決定されることに関し、本願発明では、「フレーム位置と番組の番号との関数として」決定されるものであるのに対し、引用発明では、「各チャンネルに設定されたリセット・タイミングと、そのリセット・タイミングで開始される予め定められたGOPにより」決定されるものである点。

5.判断
上記相違点1及び相違点2は、上記第2.2.(3)オ.対比において示した相違点1及び相違点3であり、上記第2.2.(3)カ.判断における相違点1及び相違点3に関する判断を援用すると、上記相違点1及び相違点2は、引用発明から当業者が容易に想到し得ることである。

6.平成27年1月8日付けの上申書について
出願人は、平成27年1月8日付けの上申書において、補正の用意があるとして補正案を提示しているが、その補正案における補正事項の「前記複数の番組のスーパーグループオブピクチャにおけるスーパーフレームのターゲットとなるビット割り当てを決定すること」、「前記ターゲットとなるビット割り当ては、前記スーパーフレームにおける各フレームの複雑さの測度を使用して決定され」等は、上記2.2.(3)カ.b.において提示した周知例2に記載される周知の技術に過ぎず、当該補正案によっても拒絶理由は解消しない。

第4.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-15 
結審通知日 2015-07-21 
審決日 2015-08-04 
出願番号 特願2012-247250(P2012-247250)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
P 1 8・ 561- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 小池 正彦
清水 正一
発明の名称 ビデオチャネルを通して多数のビデオストリームを送信する方法及び装置  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  

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