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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C30B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C30B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1309537
審判番号 不服2014-18714  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-19 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 特願2012-123227「歪み、反り、及びTTVが少ない75ミリメートル炭化珪素ウェハ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 8日出願公開、特開2012-214376〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯の概要
本願は、平成18年4月7日(パリ条約による優先権主張 2005年4月7日 米国)を国際出願日とする特願2008-505666号の一部を、平成24年5月30日に新たな特許出願としたものであって、
平成25年11月19日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月16日付けで拒絶査定がされ、同年9月19日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、同年10月22日付けで特許法第164条第3項の報告書が起案され、同年12月25日付けで上申書が提出されたものである。

第2 平成26年9月19日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年9月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
I.補正の内容
平成26年9月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、同年2月21日付けで手続補正がされた特許請求の範囲の請求項1,6を以下のように補正することを含むものである。
(本件補正前)
「【請求項1】
種結晶使用昇華システムにおいて炭化珪素(SiC)のバルク単結晶を生産する方法において、
直径が少なくとも75ミリメートル(3インチ)のSiCブールを成長させるステップと、
前記SiCブールを薄切りにして少なくとも1つのウェハを得るステップと、
その後、表面及び内層面損傷が前記ウェハの各側において実質的に同一となり、かつ、前記ウェハにおける歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲となるように、前記ウェハを曲げないように下方への力を制限しつつ前記ウェハをラッピングするステップと
から成ることを特徴とする方法。
【請求項6】
単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハであって、
直径が少なくとも75ミリメートル(3インチ)であり、
前記ウェハの歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲であり、
表面及び内層面損傷が前記ウェハの各側において実質的に同一であって、前記反りが特異な損傷によりもたらされたものではない
ことを特徴とするウェハ。」

(本件補正後)
「【請求項1】
種結晶使用昇華システムにおいて炭化珪素(SiC)のバルク単結晶を生産し、かつ該SiCの単結晶から高品質SiCウェハを生産する方法において、
直径が少なくとも75ミリメートル(3インチ)のSiCブールを成長させるステップと、
前記SiCブールを薄切りにして厚さ600μmの少なくとも1つのウェハを得るステップと、
その後、表面及び内層面損傷が前記ウェハの各側において実質的に同一となり、かつ、前記ウェハにおける歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲となるように、前記ウェハを曲げないように下方への力を約200g以下に制限しつつ前記ウェハをラッピングするステップと
から成ることを特徴とする方法。
【請求項6】
高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハであって、
直径が少なくとも75ミリメートル(3インチ)で厚さが600μmであり、
前記ウェハの歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲であり、
表面及び内層面損傷が前記ウェハの各側において実質的に同一であって、前記反りが特異な損傷によりもたらされたものではない
ことを特徴とするウェハ。」(審決注:下線は補正箇所をしめす。)

II.補正の適否
(一)目的要件
上記請求項6についての補正は、補正前の請求項6に記載した発明を特定するために必要な事項である「ウェハ」を「高品質の」と限定するとともに、「厚さが600μmで」と限定するものである。
また、上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「単結晶を生産する方法」を、補正前に「薄切り」による「SiC」の「ウェハ」を得ていたことから、さらに「単結晶を生産し、かつ該SiCの単結晶から高品質SiCウェハを生産する方法」と限定するとともに、「ウェハ」を「厚さが600μm」と限定し、「下方への力」を「約200g以下」に限定するものである。
そして、補正前の請求項1,6に記載された発明と、補正後の請求項1,6に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題がそれぞれ同一であると認められるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(二)独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1,6に記載されている事項により特定される発明(以下、それぞれ「本件補正発明1」、「本件補正発明6」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(請求項1,6についての補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであるか否か)を検討する。

A.本件補正発明6について
1.特許法第36条第4項第1号について
本件補正発明6は、高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハであって以下の特定事項からなる発明である。

「高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハであって、
a 直径が少なくとも75ミリメートル(3インチ)で厚さが600μmで あり、
x 前記ウェハの歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μ m?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲であり、
c 表面及び内層面損傷が前記ウェハの各側において実質的に同一であって 、前記反りが特異な損傷によりもたらされたものではない
ことを特徴とするウェハ。」

ただし、a、x、cの分節は当審によるもので、a、xの発明特定事項を、以下、それぞれ「発明特定事項a」、「発明特定事項x」という。

しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、少なくとも発明特定事項xを有する炭化珪素(SiC)ウェハをどのように製造するのかが記載されておらず、当業者は、そのウェハを製造するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があるから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである、ということはできない。以下、詳述する。

ア 本願の発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明には、発明特定事項xを有するSiCウェハの製造のための操作・処理、及びそれら操作・処理のための装置や条件に関して、以下の記載がある。

(ア)【背景技術】の欄【0005】ないし【0008】
「【0005】
単結晶炭化珪素は、多くの場合、種結晶使用昇華成長プロセス(seeded sublimation growth process)によって生産される。典型的な炭化珪素成長技法では、種結晶及びソース・パウダ双方を反応坩堝に入れ、反応坩堝をソースの昇華温度まで、そしてソースと周辺の温度が低い種結晶との間に熱的勾配が発生するように加熱する。ソース・パウダは、種結晶と同様、炭化珪素である。坩堝は垂直に向けられ、ソース・パウダが下位部分にあり、種結晶が最上部の、通例、種結晶保持部上に位置する。米国特許第4,866,005号(Re34,861号として再発行された)を参照のこと。これらの情報源は、最新の種結晶使用昇華成長技法の説明の一例であり、限定ではない。
【0006】
バルク成長に続いて、結晶を、所定の形状を有するブロックに切断し、周辺を研磨し、次いでスライサ内にセットすることが多い。スライサにおいて、結晶ブロックを、高速回転ブレードによって、所定の厚さを有するウェハに薄切りにする。
通例、スライシング・ブレードは、代表的には、内径鋸(inner diameter saw)であり、薄い鋼板を環状に切断し、Niめっき層を堆積することによって準備する。Niめっき層の中では、環状の鋼板の内縁上にダイアモンドの研ぎ粉が埋め込まれている。
【0007】
このように結晶インゴットを薄切りにすることによって得られたウェハは、スライシング・ブレードにかけられる張力、ダイアモンド研ぎ粉のブレード内縁への接着、そしてスライサの回転軸の寸法精度のような、種々の条件により、厚さ及び平面性に逸脱が生ずる可能性が高い。薄切りにするときの条件が適切でないと、表面から延びる工作損傷層が発生し、薄切りにしたウェハの内部深くまで達することになる。
また、この薄切り動作は、ワイヤ・ソーの使用によって遂行することができ、ワイヤが切断ブレードの代わりに用いられる。この場合、研ぎ粉は、ワイヤ内に埋め込まれるか、又はスラリに含有し薄切り動作の直前に、スラリをワイヤ上に噴霧する。この場合、同様の厚さ及び平面性のばらつきが観察されている。
【0008】
これらの薄切りによって生ずる好ましくないばらつきは、薄切りにしたウェハをラップ(lap)することによって低減することができる。
図1(a)及び図1(b)を参照すると、従来のラッピング方法では、複数のウェハ2をキャリア4内にセットし、ウェハ2を下位ラッピング・プレート6上に配置し、ウェハ2が下位ラッピング・プレート6上に均一に分散されるようにする。上位ラッピング・プレート8を下降させてウェア2と接触させて、研ぎ粉を、下位ラッピング・プレート6と上位ラッピング・プレート8との間の隙間に供給し、ウェハ2を自転及び回転させる(rotated and revolved)。自転及び回転の間、研ぎ粉によってウェハ2を研磨する。一般によく用いられるスラリを準備するには、ダイアモンド又は窒化硼素粒子を、約10μmの粒子サイズを有する研ぎ粉として、適量の水又はその他の溶剤の中に懸濁させる。」

(イ)【発明が解決しようとする課題】の欄【0009】、【0010】
【課題を解決するための手段】の欄【0011】
「【0009】
従来のラッピング及びスライシング技法の欠点の1つは、薄切りしたウェハに歪み、反り、そして全厚さ変動(TTV:total thickness variations)が生ずることである。・・・
【0010】
歪み、反り及びTTVが大きいウェハは、色々な理由から望ましくない場合がある。・・・
したがって、種結晶使用昇華システムにおいて形成される結晶から薄切りされるウェハにおいて、歪み、反り及びTTVレベルが低く、大型の高品質炭化珪素を生産することは、相変わらず技術及び商業的な目標である。」
「【0011】
一態様において、本発明は、直径が少なくとも約75ミリメートル(3インチ)であり、歪みが約5μm未満であり、反りが約5μm未満であり、TTVが約2.0μm未満である、SiCの高品質単結晶ウェハである。・・・」

(ウ)【発明を実施するための最良の形態】の欄の【0021】ないし【0026】
「【0021】
図4は、炭化珪素の種結晶使用昇華成長のための昇華システムの断面模式図である。このシステムを全体的に20で示す。殆どの典型的なシステムにおけると同様、システム20は、グラファイト製サセプタ22と、複数の誘導コイル24とを含み、コイル24を通じて電流が印加されるとサセプタ22を加熱する。あるいは、システムによっては、抵抗性加熱を組み込む場合もある。尚、これらの結晶成長技法に精通する者には、本システムは、例えば、水冷クオーツ製ベッセルのような、ある状況内に密閉される可能性もあることは言外であろう。加えて、サセプタ22と連通する少なくとも1つのガス入口及び出口(図示せず)も、種結晶使用昇華システム20には含まれている。サセプタ22は、通例、絶縁体26で包囲されており、そのいくつかの部分が図4に示されている。サセプタ22は、炭化珪素パウダ源28を収容する1つ以上の部分を含む。このようなパウダ源28は、炭化珪素用の種結晶使用昇華成長技法では最も広く用いられているが、これだけに限られるのではない。炭化珪素種結晶は30で示されており、通例サセプタ22の上位部分に置かれる。種結晶30は、好ましくは、単結晶SiC種結晶であり、直径が少なくとも約75ミリメートル(3インチ)、歪みが約0.5μm、反りが約0.5μm、そしてTTVが約1.0μmである。種結晶使用昇華成長の間に、成長する結晶34が種結晶30上に堆積する。通例、種結晶保持部32が種結晶30を適所に保持し、種結晶保持部32はしかるべき様式でサセプタ22に取り付けられている。これは、当業者には周知の種々の構成を含むことができる。
【0022】
・・・本発明は、種結晶使用昇華システムにおいて炭化珪素の高品質バルク単結晶を生産する方法であり、その改良には、直径が少なくとも約75ミリメートル(3インチ)のSiCブールを成長させ、その後、好ましくは機械的に、SiCブールを薄切りにしてウェハ状とすることを含む。各ウェハの歪みは約0.5μm未満であり、反りは約0.5μm未満であり、TTVは表面上において約1.0μm未満である。好ましくは、ウェハの厚さは約0.5mmである。
【0023】
好適な実施形態では、薄切りにしたウェハを処理し、各側における表面及び内層面の損傷レベルが、既に論じたラッパ(lapper)によって誘発される損傷レベルと同等となるようにする。両面ラッパ上において、ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力を用いて、ラッピング・プロセスを開始する。例えば、直径75ミリメートル(3インチ)、厚さ600μmのウェハには、約200gに等しい力が適している可能性が高い。得られたウェハには、反りが誘発されているが、特異な損傷(differential damage)によるものではなく、標準的な両面又は単面研磨によって処理し、歪み、反り及びTTVが低いウェハを生産することができる。
【0024】
次いで、SiCウェハを研磨しエッチングすることが好ましい場合もある。好ましい研磨は、化学機械的研磨であり、好ましいエッチングは、溶融KOHエッチング(molten KOH etch)である。エッチングは、表面上の欠陥を強調するための品質制御技法として遂行し、更なるSiC又はIII-V成長への先駆ステップとしては不要である(そして、望ましくない)。つまり、成長は、エッチングされていない研磨された種結晶上で遂行するのが通例である。
【0025】
当技術分野では周知のように、SiCブールは、種結晶使用昇華システムにおいて成長させることが好ましい。ブールを薄切りにしてウェハ状とした後、次にこれらのウェハを、炭化珪素の単結晶の種結晶使用昇華成長において種結晶として用いることもできる。
本明細書の背景の部分で注記したように、炭化珪素の種結晶使用昇華成長の一般的な態様は、長年にわたり総合的に確立している。更に、所与の技法の詳細は、通常故意に、取り巻く状況に応じて変化することは、特に炭化珪素のような困難な材料径における結晶成長に精通する者には認められよう。したがって、ここに示す記載は、一般的及び概略的な意味で捕らえることが最も適切であり、当業者であれば、過度な実験を行わなくても、この開示に基づいて、本発明の改善を遂行できることは認められるであろう。
【0026】
本発明の記載にあたり、多数の技法が開示されることは理解できるであろう。これらの各々は、個々の便益を有し、各々は、その他の開示した技法の1つ以上、又は場合によっては全てと共に用いることもできる。したがって、明確化のために、この記載では、個々のステップに可能なあらゆる組み合わせを不要に繰り返すことは、控えることにする。しかしながら、本明細書及び特許請求の範囲を読む際には、このような組み合わせも全て発明の範囲及び特許請求の範囲に該当するように理解することは言うまでもない。」

(エ)実施例
「【0032】
実施例
本発明にしたがって、直径3インチ、厚さ約1ミリメートルの一連のSiCウェハを形成した。これらのウェハの歪み、反り及びTTVを以下の表1に示す。



イ 本願の発明の詳細な説明に記載されたSiCウェハの製造方法
(ア)本願の発明の課題
上記アの【背景技術】の記載によれば、従来のSiCウェハの製造方法において「薄切りによって生ずる好ましくないばらつきは、薄切りにしたウェハをラップ(lap)することによって低減」(【0008】)されていたこと、しかし、「従来のラッピング及びスライシング技法」では、「薄切りしたウェハに歪み、反り、そして全厚さ変動(TTV:total thickness variations)が生ずる」(【0009】)という欠点があったこと、この「歪み、反り及びTTVが大きいウェハは、色々な理由から望ましくない場合がある」ため、「歪み、反り及びTTVレベルが低く、大型の高品質炭化珪素を生産する」(【0010】)ことが望まれていたことが示されている。
そして、「歪み、反り及びTTVレベルが低く」なるための【課題を解決するための手段】として、「SiCの高品質単結晶ウェハ」において「直径が少なくとも約75ミリメートル(3インチ)であり、歪みが約5μm未満であり、反りが約5μm未満であり、TTVが約2.0μm未満」(【0011】)とすることが記載され、さらに詳細に当初【請求項9】に「請求項1記載のSiCウェハであって、該ウェハは4Hポリタイプを有し、前記ウェハは、歪みが約0.05μm及び約5μmの間であり、反りが約0.05μm及び約5μmの間であり、TTVが約0.5及び2.0μmの間であることを特徴とするSiCウェハ。」と記載されているから、本願の発明の課題は、「歪み、反り及びTTVレベルが低く、大型の高品質炭化珪素を生産する」ことを含み、そこにおける「歪み、反り及びTTVレベルが低」いとは、具体的には、上記の発明特定事項xのレベルであると認められる。

(イ)従来のSiCウェハの製造方法における改良
【発明を実施するための最良の形態】の欄には、本願の発明に係るSiCウェハ自体やその製造方法、そのウェハを用いたデバイスなどについての記載があり、SiCウェハの製造方法については【0021】ないし【0026】に記載されている。
そして、【0021】には種結晶使用昇華成長の技法について記載され、【0022】には「歪み、反り及びTTVレベル」の一態様についての記載があり、【0025】及び【0026】には、一般的な製造方法に関する記載があり、種結晶使用昇華成長において種結晶についての他には、SiCウェハの製造のための具体的な操作・処理についての記載はない。
よって、本願の発明の課題を解決するための従来の製造方法における改良についての本願の発明の詳細な説明における記載は、【発明を実施するための最良の形態】の【0023】及び【0024】の記載事項であり、これに加えて「ラッピング」の具体的方法を記載する【0008】も合わせたものといえる。
すると、【0023】には、図1(a)、(b)に記載されるような「両面ラッピング機械」に、「ダイアモンド又は窒化硼素粒子」を、「約10μmの粒子サイズを有する研ぎ粉」として、「適量の水又はその他の溶剤の中に懸濁させ」た「スラリ」を供給して、【0008】に記載されるように「ラッピング」処理を行うことにより、「薄切りによって生ずる好ましくないばらつきは・・・低減」(【0008】)し、「各側における表面及び内層面の損傷レベル」を、「ラッパ(lapper)によって誘発される損傷レベルと同等となるようにする」ことが記載されていると認められる。
そして、【0023】には、この「ラッピング」処理において、「両面ラッパ上において、ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力を用いて、ラッピング・プロセスを開始する」こと、その「ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力」について、「例えば、直径75ミリメートル(3インチ)、厚さ600μmのウェハには、約200gに等しい力が適している可能性が高い」ことが記載されている。
そうすると、この「ラッピング」処理を「両面ラッパ上において、ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力(例えば、直径75ミリメートル(3インチ)、厚さ600μmのウェハには、約200gに等しい力が適している可能性が高い)を用いて、ラッピング・プロセスを開始する」ことは、本願の発明の課題を解決するための従来の製造方法における改良の一つであると認められる。
さらに、【0023】には、この「ラッピング」処理をして得られたウェハには、「反りが誘発されているが、特異な損傷(differential damage)によるものではな」いこと、「標準的な両面又は単面研磨によって処理」して、「歪み、反り及びTTVが低いウェハを生産することができる」ことが記載されている。
したがって、この「標準的な両面又は単面研磨」処理は、「歪み、反り及びTTVが低いウェハ」を製造するために必要な処理であると認められ、本願の発明の課題を解決するための従来の製造方法における改良の一つであると認められる。
しかし、この「標準的な両面又は単面研磨」処理とは、どのような装置において、どのような「研ぎ粉」を用い、どのような条件でそのように研磨する処理をいうのか、本願の発明の詳細な説明には記載されてはいない。
また、出願当時の技術常識を参酌しても、「標準的な両面又は単面研磨」処理といえるような、特定の装置・条件で行う研磨処理は知られていない。
したがって、「標準的な両面又は単面研磨」がどのような装置・条件で行う研磨処理であるのかは、不明である。
なお、続く【0024】には、「次いで、SiCウェハを研磨しエッチングすることが好ましい場合もある。好ましい研磨は、化学機械的研磨であ」ること、「SiC又はIII-V成長」は「エッチングされていない研磨された種結晶上で遂行するのが通例である」こと、が記載されている。この記載における「研磨」処理は、「好ましい場合もある」とされているうえ、この「研磨」処理とウェハの反り及びTTVとの関係についても触れられていないことから、本願の発明の課題を解決するための従来の製造方法における改良の一つであるとは認められず、また、「次いで」とあることから「化学機械的研磨」は「標準的な両面又は単面研磨」の後工程で行われるものであって、「標準的な両面又は単面研磨」が「化学機械的研磨」を意味するものとも考え難い。

(ウ)本願の発明の詳細な説明に記載されたSiCウェハの製造方法
以上の検討によれば、本願の発明の課題を解決するための従来の製造方法を改良した製造方法として本願の発明の詳細な説明に記載された製造方法は、
『「両面ラッパ上において、ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力(例えば、直径75ミリメートル(3インチ)、厚さ600μmのウェハには、約200gに等しい力が適している可能性が高い)を用いて、ラッピング・プロセスを開始する」ラッピング処理を行うこと、及び「標準的な両面又は単面研磨」を行うことで、「歪み、反り及びTTVが低いウェハ」を製造する方法。』(以下、「改良製造方法」という。)
であるということができる。

ウ 「改良製造方法」は、本件補正発明6のウェハを製造することができる方法か
上記発明の詳細な説明に記載された「改良製造方法」は、少なくとも発明特定事項xを有する高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハを製造することができる方法といえるかについて検討する。

(ア)「ラッピング」処理と「標準的な両面又は単面研磨」処理との関係についての観点からの検討
上記アの「(ア)【背景技術】の欄【0005】ないし【0008】」によれば、従来方法によっても「薄切りによって生ずる好ましくないばらつきは、薄切りにしたウェハをラップ(lap)することによって低減することができ」てはいたものの、従来の「ラッピング」処理によっては、得られたウェハの「歪み、反り及びTTV」は未だ十分低い値ではなく、発明特定事項xのレベルは達成できなかったものであると認められる。
そして、上記「改良製造方法」によれば、「両面ラッパ上において、ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力(・・・)を用いて、ラッピング・プロセスを開始」し、かつ、「ラッピング」処理後のウェハを「標準的な両面又は単面研磨」処理をすると、「歪み、反り及びTTVが低いウェハ」を製造することができる、とされる。
しかし、「両面ラッパ上において、ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力(・・・)を用いて、ラッピング・プロセスを開始」するという、ラッピング・プロセス開始時点という特定の時点における両面ラッパ上の下方力を特定以下の力とするラップ処理が、その時点においてそれを超える下方力とした場合に比し、どのような作用効果等における差異を生じるのかについてや、さらにその作用効果等の差異と、「標準的な両面又は単面研磨」処理後に「歪み、反り及びTTVが低いウェハ」が得られること、との間に因果関係があることについては、本願の発明の詳細な説明に何らの説明も裏付けもされてはいない。
そして、ラッピング・プロセスの特定時点において特定以下の下方力とする「ラッピング」処理と、「標準的な両面又は単面研磨」処理後に「歪み、反り及びTTVが低いウェハ」が得られることとの間に因果関係があるという技術常識も認められない。
そうすると、当業者は、「改良製造方法」によれば、少なくとも発明特定事項xを有する高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハを製造することができるとは認識し得ない。
たとえ、「両面ラッパ上において、ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力(・・・)を用いて、ラッピング・プロセスを開始」することが、開始時のみならず開始後の「下方力」も「ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力」であるような「ラッピング」処理であると解しても、その「ラッピング」処理によって、それを超える下方力とした場合に比し、ウェハが割れにくくなるとか、ウェハの削れる速度が遅くなるという作用効果における差異が生じることは認識できるとしても、その作用効果の差異と、「標準的な両面又は単面研磨」処理後に「歪み、反り及びTTVが低いウェハ」が得られること、との間に因果関係があるという技術常識は認められない。
よって、「ラッピング」処理条件を上記のように「ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力」を用いるものと解したとしても、当業者は、発明特定事項xを有する高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハを製造することができるとは認識し得ない。
よって、本願の発明の詳細な説明に記載された「改良製造方法」は、発明特定事項xを有する高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハを製造することができる方法とはいえない。

(イ)他の観点からの検討
上記方法は、発明特定事項xを有する高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハを製造できる方法といえないことは、以下の点からもいえる。

(イ-1)「標準的な両面又は単面研磨」処理の内容についての観点からの検討
【0023】よれば、「ラッピング・プロセス」後に反りが誘発されていると認められる。そして、その後の「標準的な両面又は単面研磨」において、何らかの工夫をしてその反りを解消する必要があると認められるところ、その工夫について何らの記載も無い。
上記イ(イ)のとおり、「標準的な両面又は単面研磨」処理は、どのような装置・条件の研磨処理であるかすら不明な処理であって、このような研磨処理においてこの反りを解消するためにどのような工夫をして、発明特定事項xを有するウェハとするのか、不明である。

(イ-2)ウェハとして使用するための観点からの検討
また、「標準的な両面又は単面研磨」処理により、本件補正発明6の発明特定事項x「前記ウェハの歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲」が達成されたとしても、本件補正発明6の「ウェハ」として使用するためには以下の問題が知られている。
すなわち、審査において引用した特開2004-131328号公報には次の記載がある。
「【0018】
しかしながら、片面研磨プロセスでは、研磨処理を完了してポリッシングブロックからウェハを取り剥す際に、研磨面が大きく反り、表平坦度が著しく劣化する現象が発生する。すなわち、研磨プロセス完了後、ポリッシングブロックから取り剥す前のウェハは、1μm以下の極めて良好な表面平坦度を有しているが、取り剥し後に研磨面側が大きく凹面化し、研磨直後の良好な表面平坦度が大きく劣化する。
【0019】
発明者らの詳しい調査によれば、この平坦度の劣化は、特に本材料のSiC単結晶ウェハの場合に著しく大きく、また、ウェハ口径や厚さにも依存することが明らかになった。たとえば厚さ700μmの口径76mmSiC単結晶ウェハの場合、取り剥し後のウェハの表面平坦度は、最大約50μmを大きく超える場合があることが明らかになった。」
上記の記載から、「片面研磨プロセス」(「単面研磨処理」といえる。)が終了して、ウェハを取り剥し後に、研磨面側が大きく凹面化し、表面平坦度が大きく劣化することが示されており、本件補正発明6の発明特定事項aの「直径75ミリメートル(3インチ)、厚さ600μm」の「単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハ」では、上記【0019】の記載に倣えば、ウェハの厚さが薄いので剛性がより小さいことから、「最大約50μmを大きく超える」反りよりもさらに大きな反りとなる場合があり得るという問題が知られているといえる。
すると、「標準的な・・・単面研磨」処理後に研磨装置から取り外されて得られたウェハにおいても、このような大きな反りが生じると認められるが、このような大きな反りを解消するために、本願明細書に記載された上記「改良製造方法」において、どのような工夫をして、発明特定事項xを有するウェハとするのか、不明である。

(イ-3)研磨処理によって生成する加工変質層の観点からの検討
さらに、「標準的な両面又は単面研磨」処理により、本件補正発明6の発明特定事項x「前記ウェハの歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲」が達成されたとしても、「標準的な両面又は単面研磨」処理面には以下の問題があることが知られている。
すなわち、特開2001-205555号公報には次の記載がある。
「【0004】SiCの鏡面加工は、ダイヤモンド砥粒で表面を研磨して平滑化する方法が一般的である。これは、SiC(被研磨材料)よりも硬い材料の砥粒(ダイヤモンド)を使って表面を削る機械的な表面加工方法である。ここで、砥粒径を小さくするほど、表面は平滑になる(面粗度が向上する)が、加工による欠陥(加工変質層)の発生を抑止することはできない。従って、研磨後にドライエッチングする、または熱酸化で酸化膜を成長させた後にフッ酸でウェットエッチングするなどの加工変質層を除去する工程を研磨の後工程として行わなければならないといった問題があった。
【0006】被研磨材料よりも硬度が小さい材料を砥粒とした研磨ならば、加工面にダメージの少ない加工ができるが、直接砥粒が被研磨材料を削る機械的な加工はできない。被研磨材料の表面に機械的に脆い反応生成物(酸化物、化合物など)を形成して、これを軟質砥粒で剥ぎ取る研磨方法、いわゆるメカノケミカル研磨(化学的機械研磨;MCP)ができればよい。しかし、SiCは化学的に安定な材料であるために、反応生成物の形成が困難である。
【0008】また・・・SiCの表面平坦度を良くする方法が提案されている。これらの方法は、被研磨材料と砥粒の接触点におけるメカノケミカル現象で、両者の直接的な固相反応で生じた反応層を砥粒の摩擦作用により除去する研磨方法である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、固相反応を生じさせるためには、被研磨材料と砥粒の接点において、きわめて高圧で両者を接触させることが重要であると推察される。・・・高い加工圧力が必要になると、大口径のウェハを研磨するときには、ポリシング定盤にきわめて高い圧力がかかることになる。また、同じポリシング定盤上で複数のウェハを同時に研磨する場合については、さらに高圧がかかることになる。従って、研磨装置には従来にない高い剛性が必要となるといった問題があった。
【0011】また、加工圧力は、砥粒との接触点であるウェハ表面だけでなくSiCウェハ全体に加わることになり、結晶歪や欠陥の発生、既存の欠陥の進行、さらには不均一に力が加わった場合にはウェハが割れるといった問題が生じる。しかし、低い加工圧力では固相反応が起こらない、また反応が生じてもその速度、すなわち研磨速度が遅くなり、研磨時間が長くなるといった問題があった。」
上記の記載から、SiCの表面研摩処理により、「表面は平滑になる(面粗度が向上する)が、加工による欠陥(加工変質層)」が発生するので、当該「加工変質層」を除去する後処理が必要であったり、「研磨装置」を改良したりする必要のある等の問題が知られているといえる。
よって、「標準的な両面又は単面研磨」処理後においても「加工変質層」が生成し、その処理が必要であると認められる。
そして、「加工変質層」は「砥粒で表面を研磨」することで生成するものであり、これは原理的に見て「表面」に機械的に剪断力を及ぼす加工といえるから、加工後の表面に残留応力の生じることは当然であり、「加工変質層」の生成により残留応力が存在すればSiCウェハに反り等の欠陥が発生し、また、SiCウェハとして使用するためには加工変質層の処理が必要と認められるが、これらの欠陥を解消するために、「改良製造方法」においてどのような工夫をして、発明特定事項xを有するウェハとするのか、不明である。

(イ-4)ここまでのまとめ
以上によれば、「改良製造方法」によっては、本件補正発明6の発明特定事項xを有するウェハを製造することができるとはいえない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件補正発明6の発明特定事項xを有するウェハを製造するために、「改良製造方法」における砥粒の材質形状、研磨液の組成、研磨装置の研磨速度、研磨圧力等の操作・処理及びそれらの装置・条件などの様々な要素を好適化するなど、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要がある。

エ 実施例の記載からの検討
もっとも、本願の発明の詳細な説明に記載された「改良製造方法」によって発明特定事項xを有するウェハが得られることが理論や技術常識から認識できるものではないとしても、具体的操作・処理及び装置条件を明らかにした製造方法によって、発明特定事項xを有するウェハが得られたことが具体例の記載によって認められれば、当業者は、そのウェハを製造するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要なく、発明特定事項xを有する高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハを製造することができるといえる。
そこで、本願の発明の詳細な説明の「実施例」の記載についてみるに、上記アに示すとおり、「実施例」として、「本発明にしたがって、直径3インチ、厚さ約1ミリメートルの一連のSiCウェハを形成した。これらのウェハの歪み、反り及びTTVを以下の表1に示す。」として、「直径3インチ、厚さ約1ミリメートル」のSiCウェハ3例の歪み、反り及びTTVの値が示されている。
しかしながら、本件補正発明6の「ウェハ」は「厚さが600μm」であるのに対して、上記「実施例」に記載のSiCウェハ3例は「厚さ約1ミリメートル」で、それらの厚さは相違するから、上記「実施例」は本件補正発明6の実施例には相当しない。
また、「ウェハ」の「厚さ」の点を別にしても以下のとおりである。
すなわち、これら3例のウェハの歪み、反り及びTTVの値は、発明特定事項xの範囲内であると認められる(審決注:「反り」は絶対値で評価した。)。
しかし、これらのウェハは「本発明にしたがって」(本願明細書【0032】)形成したと記載されるだけで、具体的にどのような装置・条件の操作・処理によって形成されたものであるのか等、その具体的な製造方法は不明である。
さらに、これら3例のSiCウェハの歪み、反り及びTTVに差異が認められるが、それらの差異が何に起因するものか、例えば、操作・処理及び/又は装置及び/又は条件のどの差異によるものか、について、何らの示唆を与えるものでもない。
そうすると、このような「実施例」の記載では、具体的操作・処理及び装置条件を明らかにした製造方法によって、発明特定事項xを有するウェハが得られたことは認められず、当業者は、発明特定事項xを有する高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハを製造するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要がある。

オ 特許法第36条第4項第1号についてのまとめ
以上によれば、本願の発明の詳細な説明には、少なくとも発明特定事項xを有する高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハをどのように製造するのかが記載されているとはいえず、当業者は、そのウェハを製造するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要がある。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである、ということはできないから、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

2.特許法第36条第6項第1号について
上記のとおり、本願の発明の詳細な説明には、少なくとも発明特定事項xを有する高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハを製造する製造方法は記載されているということはできない。
そして、「実施例」に記載される発明特定事項xを有するウェハは「厚さ約1ミリメートル」であるから、発明特定事項aの厚さが600μmの本件補正発明6のウェハが得られたことは「実施例」に記載されてはいない。
そこで関連する記載をみると、本願明細書【0023】には「例えば、直径75ミリメートル(3インチ)、厚さ600μmのウェハには、約200gに等しい力が適している可能性が高い。得られたウェハには、反りが誘発されているが、特異な損傷(differential damage)によるものではなく、標準的な両面又は単面研磨によって処理し、歪み、反り及びTTVが低いウェハを生産することができる。」と記載されている。
しかしながら、「ウェハ」の「歪み、反り及びTTVが低い」とのみ記載されるだけであり、上記で論じてきたように「標準的な両面又は単面研磨」による処理自体がどのようなものであるのか不明なのだから、「標準的な両面又は単面研磨」による処理により、「約200gに等しい力」の「ラッピング」により「誘発」された「反り」が修正されて、同「ウェハ」の「歪み、反り及びTTV」が、発明特定事項xに相当するものとなるかは明らかでない。
そうすると、本願の発明の詳細な説明には、厚さが600μmであり発明特定事項xを有する高品質の単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハの発明は記載されているとはいえないから、本件補正発明6は、本願の発明の詳細な説明に記載したものということはできない。
よって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

3.平成26年12月25日付け上申書の主張について
審判請求人は、平成26年12月25日付け上申書において、
「本願明細書には、米国特許出願番号を含んだ種々の従来技術文献が記載されており、また、実施例として、直径が約75mm、歪みが約0.5μm、反りが約0.5μm、TTVが約1.0μの種結晶30を成長させて直径が約75mmのSiCブールを成長させ、該SiCブールを薄切りにして、厚さが約0.5mm、直径が約75mm(3インチ)、歪みが約0.5μm未満、反りが約0.5μm未満、TTVが約1.0μmのウェハを形成し、該ウェハを折り曲げるに必要な下方への力又は約200gの下方への力を用いて対ウェハをラッピング処理することにより、SiCウェハを製造することが記載されている。したがって、本明細書に記載された従来技術文献に記載された技術内容及び本発明の実施例に関する記載を参照すれば、当業者が請求項1に係る発明を実施することができることは明らかである。」
と主張する。
この主張において、「本明細書に記載された従来技術文献に記載された技術内容及び本発明の実施例に関する記載」が具体的に示されていないので、その主張内容は不明と判断せざるを得ない。
なお、本願の発明の詳細な説明の【0001】に記載された従来技術文献は、「米国特許出願第20050145164号、第20050022734号、第20050022727号、第20050164482号、第20060032434号、及び第20050126471号」(なお、「出願」は「出願公開」の誤記であり、「第20050022734号」は、「第20050022724号」の誤記であると認められる。)及び同【0005】に記載の「米国特許第4,866,005号(Re34,861号として再発行された)」のみである。
これらの文献には、ウェハの表面処理により「ウェハ」の「歪み」「反り」「TTV」について一定範囲とすることに関する記載は認められない。
そうすると、上記の判断は、「本明細書に記載された従来技術文献に記載された技術内容」を参照しても、左右されない。
また、「実施例」の記載については、既に示したとおり発明特定事項xを有するウェハがどのように製造されたのかが不明なものであるし、そこに記載されるウェハは「厚さ約1ミリメートル」であるから、発明特定事項aの厚さが600μmのウェハが得られたかは記載されてはいない。
そうすると、上記の判断は、「本発明の実施例に関する記載」を参照しても、左右されない。
よって、請求人の上記主張は、上記判断を左右するものではない。

B.本件補正発明1について
ア 本件補正発明1は、SiCブールを薄切りにしたウェハを以下の特定事項のとおりラッピングするステップcc、xx、ddを含む発明である。

cc 「表面及び内層面損傷が前記ウェハの各側において実質的に同一となり」、かつ、
xx 「前記ウェハにおける歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲となるように」、
dd 「前記ウェハを曲げないように下方への力を約200g以下に制限しつつ」
(xxの発明特定事項を、以下、「発明特定事項xx」という。)

発明特定事項xxにおける「ウェハにおける歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲」は、本件補正発明6における発明特定事項xと同じである。

イ 本願の発明の詳細な説明に記載されたSiCウェハの製造方法は、「第2 II(二)A 1.イ(ウ)」に記載されたとおりの「改良製造方法」、すなわち、
『「両面ラッパ上において、ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力(例えば、直径75ミリメートル(3インチ)、厚さ600μmのウェハには、約200gに等しい力が適している可能性が高い)を用いて、ラッピング・プロセスを開始する」ラッピング処理を行うこと、及び「標準的な両面又は単面研磨」を行うことで、「歪み、反り及びTTVが低いウェハ」を製造する方法。』である。
しかし、この「改良製造方法」は、発明特定事項xxを有するSiCウェハを製造できる製造方法といえないことは、「第2 II(二)A 1.ウ」に述べたとおりである。

ウ 本願補正発明1の方法は、「改良製造方法」における「標準的な両面又は単面研磨」を行う」工程を必須としていないものである。
そうすると、「標準的な両面又は単面研磨」を行う」工程を含んだ製造方法ですら発明特定事項xxを有するSiCウェハを製造できるとはいえないのであるから、まして、「標準的な両面又は単面研磨」を行う」工程を含まない場合も包含するものである本願発明1の方法は、発明特定事項xxを有するSiCウェハを製造できる方法であるとはいえない。

エ したがって、本願補正発明1は、少なくとも発明特定事項xxのSiCウェハを製造する方法として、発明の詳細な説明に記載したものということはできない。
よって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

C.本件補正発明1,6の記載不備についてのまとめ
以上によれば、本件補正発明6に関して、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、また、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
また、本件補正発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
したがって、本件補正発明1,6は、特許出願の際独立してできるものではないから、請求項1,6についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものではない。

D.独立特許要件についてのむすび
以上のとおり、請求項1,6についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものではないから、その余について検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記「第2」のとおり却下されたので、本願の特許を受けようとする発明は、平成26年2月21日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、それぞれの発明を、項番項に従い、「本願発明1」、「本願発明2」などという。)。

「 【請求項1】
種結晶使用昇華システムにおいて炭化珪素(SiC)のバルク単結晶を生産する方法において、
直径が少なくとも75ミリメートル(3インチ)のSiCブールを成長させるステップと、
前記SiCブールを薄切りにして少なくとも1つのウェハを得るステップと、
その後、表面及び内層面損傷が前記ウェハの各側において実質的に同一となり、かつ、前記ウェハにおける歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲となるように、前記ウェハを曲げないように下方への力を制限しつつ前記ウェハをラッピングするステップと
から成ることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、該方法はさらに、前記ウェハを研磨するステップを備えていることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法において、SiCブールを成長させるステップは、SiCの種結晶使用昇華成長から成ることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、前記SiCの種結晶使用昇華成長は、単結晶ポリタイプの種結晶使用昇華成長から成ることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法において、前記単結晶ポリタイプは、3C、4H、6H、2H、及び15Rポリタイプから成るグループから選択されることを特徴とする方法。
【請求項6】
単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハであって、
直径が少なくとも75ミリメートル(3インチ)であり、
前記ウェハの歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲であり、
表面及び内層面損傷が前記ウェハの各側において実質的に同一であって、前記反りが特異な損傷によりもたらされたものではない
ことを特徴とするウェハ。
【請求項7】
請求項6記載のウェハにおいて、該ウェハは、3C、4H、6H、2H、及び15Rポリタイプから成るグループから選択されたポリタイプを有することを特徴とするウェハ。
【請求項8】
請求項7記載のウェハにおいて、該ウェハはさらに、該ウェハの表面上に少なくとも1つのエピタキシャル層を備え、該エピタキシャル層はIII族窒化物及び炭化珪素からなるグループから選択された材料で構成されていることを特徴とするウェハ。
【請求項9】
請求項8記載のウェハにおいて、前記III族窒化物は、GaN、AlGaN、AlN、AlInGaN、InN、AlInN、及びこれら組み合わせから成るグループから選択されることを特徴とするウェハ。
【請求項10】
請求項7?9いずれかに記載のウェハにおいて、該ウェハは、基板上に設けられた複数のデバイスを備え、該デバイスの各々は、
エピタキシャル層であって、該エピタキシャル層を第1導電型にするのに適したドーパント原子濃度と、ソース、チャネル、及びドレイン部分のそれぞれとを有する、エピタキシャル層と、
前記チャネル部分上にある金属酸化物層と、
前記金属酸化物層上にある金属ゲート・コンタクトであって、該金属ゲート・コンタクトにバイアスが印加されたときにアクティブ・チャネルを形成するための金属ゲート・コンタクトと、
を備えていることを特徴とするウェハ。
【請求項11】
請求項7?9いずれかに記載のウェハにおいて、該ウェハは、基板上に設けられた複数のデバイスを備え、該デバイスの各々は、
前記基板上にある導電性チャネルと、
前記導電性チャネル上にあるソース及びドレインと、
前記導電性チャネル上の前記ソース及び前記ドレインの間にある金属ゲート・コンタクトであって、該金属ゲート・コンタクトにバイアスが印加されたときにアクティブ・チャネルを形成するための金属ゲート・コンタクトと、
を備えていることを特徴とするウェハ。
【請求項12】
請求項7記載のウェハにおいて、該ウェハは、単結晶炭化珪素基板上に配置された複数の接合型電界効果トランジスタを備えていることを特徴とするウェハ。
【請求項13】
請求項7記載のウェハにおいて、該ウェハは、単結晶炭化珪素基板上に配置された複数のヘテロ電界効果トランジスタを備えていることを特徴とするウェハ。
【請求項14】
請求項7記載のウェハにおいて、該ウェハは、単結晶炭化珪素基板上に配置された複数のダイオードを備えていることを特徴とするウェハ。」

第4 原査定の拒絶の理由の概要
原査定は、「この出願については、平成25年11月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由1および2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、それらの「理由1および2」は、
「理由1
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」
である。

第5 当審の判断
当審は、原査定の上記理由のとおり、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本願は特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない、と判断する。
その理由は以下のとおりである。

1.特許法第36条第4項第1号について
(1)本願発明6について
本願発明6は、「第2 II(一)」で示すとおり、本件補正発明6の「高品質で」及び「厚さが600μmで」の事項がないものに相当する。
そうすると、本願発明6も、本件補正発明6における発明特定事項xを含むものといえる。
そして、「第2 II(二)A 1.」に述べたとおり、本願の発明の詳細な説明には、少なくとも発明特定事項xを有する単結晶の炭化珪素(SiC)ウェハをどのように製造するのかが記載されておらず、当業者は、そのウェハを製造するために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があるから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである、ということはできない。
そうすると、本願発明6についても本件補正発明6と同じ理由で、発明の詳細な説明は、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである、ということはできない。

(2)本願発明7ないし14について
本願発明7ないし14は、本願発明6を直接又は間接的に引用するものであって、いずれも発明特定事項xを含むものである。
したがって、本願発明7ないし14についても本願発明6と同じ理由で、発明の詳細な説明は、当業者がそれらの発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである、ということはできない。

(3)特許法第36条第4項第1号についてのまとめ
よって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

2.特許法第36条第6項第1号について
(1)本願発明1について
ア 本願発明1は、「第3」のとおりの方法の発明であり、SiCブールを薄切りにしたウェハを以下の特定事項のとおりラッピングするステップc’、x’、dを含む発明である。

c’「表面及び内層面損傷が前記ウェハの各側において実質的に同一となり」、かつ、
x’「前記ウェハにおける歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲となるように」、
d 「前記ウェハを曲げないように下方への力を制限しつつ」
(x’の発明特定事項を、以下、「発明特定事項x’」という。)

発明特定事項x’における「ウェハにおける歪みが0.05μm?5μmの範囲で、反りが0.05μm?5μmの範囲で、TTVが0.5μm?2μmの範囲」は、本件補正発明6における発明特定事項xと同じである。

イ 本願の発明の詳細な説明に記載されたSiCウェハの製造方法は、「第2 II(二)A 1.イ(ウ)」に記載されたとおりの「改良製造方法」、すなわち、
『「両面ラッパ上において、ウェハを折り曲げるのに必要な下方力よりも小さい下方力(例えば、直径75ミリメートル(3インチ)、厚さ600μmのウェハには、約200gに等しい力が適している可能性が高い)を用いて、ラッピング・プロセスを開始する」ラッピング処理を行うこと、及び「標準的な両面又は単面研磨」を行うことで、「歪み、反り及びTTVが低いウェハ」を製造する方法。』である。
しかし、この「改良製造方法」は、発明特定事項x’を有するSiCウェハを製造できる製造方法といえないことは、「第2 II(二)A 1.ウ」に述べたとおりである。

ウ 本願発明1の方法は、「改良製造方法」における「標準的な両面又は単面研磨」を行う」工程を必須としていないものである。
そうすると、「標準的な両面又は単面研磨」を行う」工程を含んだ製造方法ですら発明特定事項x’を有するSiCウェハを製造できるとはいえないのであるから、まして、「標準的な両面又は単面研磨」を行う」工程を含まない場合も包含するものである本願発明1の方法は、発明特定事項x’を有するSiCウェハを製造できる方法であるとはいえない。
したがって、本願発明1は、少なくとも発明特定事項x’のSiCウェハを製造する方法として、発明の詳細な説明に記載したものということはできない。

(2)本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は、本願発明1を直接又は間接的に引用するものであって、いずれも発明特定事項x’を含むものである。
したがって、本願発明2ないし5も、少なくとも発明特定事項x’のSiCウェハを製造する方法として、発明の詳細な説明に記載したものということはできない。

(3)特許法第36条第6項第1号についてのまとめ
よって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第6 本審決のむすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たすものではないから、同法第49条第1項第4号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-05 
結審通知日 2015-08-06 
審決日 2015-08-24 
出願番号 特願2012-123227(P2012-123227)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C30B)
P 1 8・ 575- Z (C30B)
P 1 8・ 536- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 若土 雅之  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 真々田 忠博
中澤 登
発明の名称 歪み、反り、及びTTVが少ない75ミリメートル炭化珪素ウェハ  
代理人 小林 泰  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 大塚 住江  
代理人 竹内 茂雄  

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