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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F17C
審判 一部無効 2項進歩性  F17C
管理番号 1309584
審判番号 無効2015-800031  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-02-19 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第2954528号発明「圧力感知安全装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成 8年 4月23日 本件出願(特願平8-126389)
平成11年 7月16日 設定登録(特許第2954528号)
平成26年11月26日 訂正審判請求(訂正2014-390181)
平成26年12月25日付 審決(訂正認容)
平成27年 2月19日 本件無効審判請求
平成27年 5月 8日付 答弁書
平成27年 5月20日付 審理事項通知(1)
平成27年 6月23日付 請求人・口頭審理陳述要領書(1)
平成27年 6月24日付 被請求人・口頭審理陳述要領書(1)
平成27年 6月26日付 請求人・上申書
平成27年 6月30日付 審理事項通知(2)
平成27年 7月 8日付 請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成27年 7月 9日付 被請求人・口頭審理陳述要領書(2)
平成27年 7月15日 口頭審理
平成27年 7月28日付 請求人・上申書
平成27年 8月 5日付 被請求人・上申書
平成27年 8月20日付 請求人・上申書
平成27年 8月27日付 審尋
平成27年10月 1日付 両者・回答書

以下、口頭審理陳述要領書を、「要領書」と略記する。

第2.本件発明
訂正審判(乙1)により訂正された本件特許の請求項1、2、4、5に係る発明(以下「本件発明1、2、4、5」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
ガス容器の装着時にそのノズル弁を押し込んで開弁可能な逆止弁を有し、
ガス容器の内圧の異常上昇によって移動可能なピストンを第1のシール手段を介して圧力感知室に組み込んだ構成を有し、ピストンには第2のシール手段が固定されている
圧力感知安全装置であって、
ガス容器のノズル弁の先端に接する逆止弁と圧力感知室に組み込まれたピストンとを一体的に移動可能に配置するとともに、
ピストンを逆止弁との接触方向へ加圧するばね手段を設け、
ガス容器の装着時にノズル弁で押される逆止弁の動きをピストンに伝え、圧力感知室の内面に接している第1のシール手段をピストンとともに摺動させるようにし、
第2のシール手段は、O-リングであり、ガス容器の内圧が異常上昇したときには、圧力感知室の内周面を構成するシール面に接触してガス流を遮断するようにしたことを特徴とする圧力感知安全装置。
【請求項2】
逆止弁、ピストンは同一軸線上を移動可能に配置されており、その逆止弁側から装着するノズル弁に対抗してピストンをばね手段で押し返すように構成された請求項第1項記載の圧力感知安全装置。
【請求項4】
第2のシール手段はO-リングであり、圧力感知室の内周面を構成する先細状のシール面に接触してガス流を遮断するようにした請求項第1項または第3項記載圧力感知安全装置。
【請求項5】
ばね手段はコイルばねであり、圧力感知室の外方からピストンを弾圧するように構成された請求項1項記載の圧力感知安全装置。」

第3.請求人の主張
1.主張の要点
請求人は、以下の理由により、本件発明1、2、4、5に係る特許は、特許法(以下、特記なきは特許法である。)第123条第1項第2号、第4号に該当し、無効とするとの審決を求めている。

(1)29条2項
理由1-1:本件発明1、2、4、5に対し、甲1による進歩性欠如。第2のシール手段により遮断する点は甲2?4のいずれか、第1のシール手段の配設位置は甲2、5?7により周知。
理由1-2:本件発明1、2、4、5に対し、甲2による進歩性欠如。逆止弁は甲3。
(請求書7.(2)、(3))

(2)36条6項1号
理由2:本件発明1、2、4、5に対し、本件発明は「支持体」が不可欠であるのに、請求項に「支持体」が特定されていない。
(請求書7.(4))

(3)36条6項2号
理由3:本件発明1、2、4、5に対し、「一体的」なる記載は不明確、「支持体」が特定されていない。
(請求書7.(5))

2.証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。以下、「甲第1号証」を「甲1」のように略記する。
ここで、甲1?8は審判請求時に、甲9?14はその後、提出されたものである。

甲1 特開昭53-38476号公報
甲2 実公昭57-36912号公報
甲3 特公平5-38203号公報
甲4 実開平7-2750号公報
甲5 実開平7-22248号公報
甲6 実開平7-22241号公報
甲7 実開平5-90099号公報
甲8 「JIS カセットこんろ JIS S 2147:1998」
甲9 「簡易こんろ検定規程」財団法人日本ガス機器検査協会、第36ページ
甲10 液化石油ガス器具等の技術上の基準等に関する省令
甲11 「JIS カセットこんろ用燃料容器 JIS S 2148:1998」
甲12 「JIS カセットこんろ用燃料容器 JIS S 2148:2013」
甲13 「簡易こんろ検定規程」財団法人日本ガス機器検査協会、第41?42ページ
甲14 新村出編「広辞苑」第四版机上版、1991年11月15日、岩波書店、第159ページ

第4.被請求人の主張
1.主張の要点
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。
(答弁書第6及び第7)

2.証拠
被請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。

乙1 訂正2014-390181の審決

以下、事案に鑑み、第36条第6項第1号第36条第6項第2号第29条第2項の順に検討する。

第5.第36条第6項第1号(理由2)についての判断
第36条第6項第1号は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」というものである。
また、第36条第5項は、「特許請求の範囲には、・・・特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない」というものである。
これらは、特許請求の範囲には「特許を受けようとする発明」、すなわち保護を求める範囲を、出願人の自由意思により特定した上で、その発明が、発明の詳細な説明に記載されていることを規定するものである。

請求人は、発明の詳細な説明、図面の記載をもとに、本件発明1、2、4、5には「支持体」が不可欠と主張する。
しかし、本件が適用される特許法の規定は、上記のとおり、出願人の自由意思により発明を特定するものであり、平成7年7月1日前(平成6年改正法前)の特許法のように、特許請求の範囲に「発明の構成に欠くことのできない事項」を記載するというものではない。いかなる構成要件を不可欠とするかは、審査官・審判官、第三者が定めるものではなく、出願人が定めるものである。
発明は「技術的思想の創作」(第2条)であるから、「技術的思想の創作」としての発明を特定する必要があるが、特許法は、実施例、設計図面と同程度に、作動に必要な部材を特定しなければならない旨を規定するものではない。
本件発明1、2、4、5のいずれにも「支持体」は特定されておらず、「特許を受けようとする発明」において「支持体」は不可欠とはされていない。
「支持体」が不可欠であることを前提とした請求人の主張は、その前提において誤りであるから、採用できない。

訂正2014-390181により訂正された本件特許明細書には、以下の記載がある。

「【0006】
【発明の実施の形態】本発明に係る圧力感知安全装置は、ガス容器Bの装着時に、そのノズル弁Nを押し込んで開弁可能な逆止弁11を有し、ガス容器Bの内圧の異常上昇によって移動可能なピストン12を第1、第2のシール手段16、13を介して圧力感知室14に組み込んだ構成を有する。
【0007】圧力感知室14は、ガス容器Bから噴出したガスの圧力をピストン12によって感知可能にするための手段である。噴出ガスの圧力が支配する領域の上流側はガス容器Bのノズル弁Nの接続口であり、下流側はピストン12の先端側である。気密を保持するため上流側にシール手段15が設けられる。第1のシール手段16は下流側のシール手段を兼ねる。
【0008】図示実施例の場合、本体10にそれを貫通した空洞部分が設けてある。空洞部分はノズル弁Nの装着方向の軸線上にあり、その一端開口17が接続口になっており、他端開口18にはピストンの先端部が配置される。一端開口17の内方には、接続口に挿し込まれるノズル弁Nに対抗的に当接する逆止弁11が配置される。
【0009】本発明における逆止弁11は、ノズル弁Nをその内蔵ばね(図示せず。)に抗して押し込むものである。即ち逆止弁11は、装着の初期にはノズル弁Nで押されて移動し、支持体21に接触するとノズル弁Nを逆に押し返して開弁させるように作用する。
【0010】図示実施例の場合、逆止弁11は支持体21に対して前記の軸線方向へ移動可能に設けてある。支持体21はその外周縁部を空洞部分に設けられた係止段部22に係止させて本体10に固定される。また逆止弁11の先端部は支持体中央の通過口23から先方へ突出しピストン12と接触可能になっている。しかし逆止弁11とピストン12とは同一方向へ移動可能であることを必要とするが、同一軸線上でなければならないものでもない。
【0011】24は支持体21に形成したガス流を導入する孔である。ガス流は一旦支持体21で受け止められ、導入孔24から圧力感知室14へ流入する。
【0012】ピストン12は圧力感知室14内において、そこへ導入されたガスの圧力が正常値の範囲にある間はそのガスを下流へ流し、異常に上昇したときはその圧力によって移動し、ガスの流れを遮断する。即ち、ピストン12は感圧手段であると同時にガス流の開閉手段としても作動する。
【0013】この開閉手段のために設けられているのが第2のシール手段13である。図示実施例の場合、ピストン12は圧力感知室14内に配置される円筒状部を有し、その上流側(逆止弁側)の外周面に凹溝を形成しそこに第2のシール手段13を嵌めて固定している。各々のシール手段はO-リングで良い。
【0014】第2のシール手段13が接触、離間することによりガス流を遮断或いは通過させる相手として、シール面25を圧力感知室14の内周面に形成している。・・・。」

「【0019】このような本発明に係る装置において、ガス容器のノズル弁Nを接続口に挿し込むとノズル弁Nは逆止弁11に当たり、ピストン12は逆止弁11に押されて一定量移動する。このときピストン12に設けられている第1のシール手段16も圧力感知室14の内面に対して移動するので、それまで固着状態にあったとしても直ちに解除される。
【0020】正常なガス容器の接続により、ノズル弁Nが開弁しガスが噴出する。図1の下半分の状態であり、逆止弁11はその支持体21に接するまで前進し、ピストン12も一体に前進するが第2のシール手段13はシール面25に未だ接しない状態にある。故にガスは通孔26から下流へ流れ、本減圧器を装備したガス器具を正常に使用することができる。
【0021】ガス容器の内圧が異常に上昇し、安全と認められた圧力値の上限を越えたときは、その異常な高圧力をピストン12が感知し、ばね手段19に抗して軸方向へ移動することにより第2のシール手段13がシール面25に密接し、ガスの流れを遮断する。図2の上半分から下半分へ到る状態である。」

さらに、図1の上半分には接続前の状態、図1の下半分、図2の上半分には正常接続時の状態、図2の下半分には内圧異常上昇時の状態が記載されている。
上記のとおり、本件発明1、2、4、5のノズル弁、逆止弁、ピストン、第1、第2のシール手段は、発明の詳細な説明にその作動とともに記載されている。
本件発明1、2、4、5は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

よって、本件発明1、2、4、5に係る発明の特許が、第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとすることはできない。

なお、請求人は、「支持体」が特定されていないと、本件発明が適切に動作しない旨、主張するが、かかる主張は、特許法第36条第4項第1号についての主張と解され、請求書に「無効理由」として記載された第36条第6項第1、2号についての主張ではない。
念のため、第36条第4項第1号の主張であるとして検討するに、第36条第4項第1号の規定は、「発明」を「・・・その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載」することを求めるものである。そして、「発明」は、上記のとおり、出願人の自由意思により特定された「技術的思想の創作」としての「発明」である。
特許法は、最善の実施例や設計図面を、特許請求の範囲に特定することを求めるものではない。
さらに、被請求人要領書(1)の7ページの「5」に記載されるとおり、「支持体」がなくとも、発明は動作可能であるから、本件発明1、2、4、5は、実施可能と認められる。
請求人の主張は採用できない。

第6.第36条第6項第2号(理由3)についての判断
1.「一体的」について
請求人の主張は、請求項1の「ガス容器のノズル弁の先端に接する逆止弁と圧力感知室に組み込まれたピストンとを一体的に移動可能に配置する」における「一体的」は明確でないというものである。
ピストンと逆止弁について、訂正された本件特許明細書には、以下の記載がある。下線は当審で付した。

「【0005】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため本発明は、ガス容器のノズル弁の先端に接する逆止弁と圧力感知室に組み込まれたピストンとを一体的に移動可能に配置するとともに、ピストンを逆止弁との接触方向へ加圧するばね手段を設け、ガス容器の装着時にノズル弁で押される逆止弁の動きをピストンに伝え、圧力感知室の内面に接しているシール手段をピストンとともに摺動させ、異常圧力の感知を確実にするという手段を講じたものである。」

「【0010】・・・。また逆止弁11の先端部は支持体中央の通過口23から先方へ突出しピストン12と接触可能になっている。・・・。」

「【0019】このような本発明に係る装置において、ガス容器のノズル弁Nを接続口に挿し込むとノズル弁Nは逆止弁11に当たり、ピストン12は逆止弁11に押されて一定量移動する。・・・。
【0020】正常なガス容器の接続により、ノズル弁Nが開弁しガスが噴出する。図1の下半分の状態であり、逆止弁11はその支持体21に接するまで前進し、ピストン12も一体に前進する・・・。
【0021】ガス容器の内圧が異常に上昇し、安全と認められた圧力値の上限を越えたときは、その異常な高圧力をピストン12が感知し、ばね手段19に抗して軸方向へ移動することにより第2のシール手段13がシール面25に密接し、ガスの流れを遮断する。・・・。」

図1、図2を併せ見ると、接続前(図1の上半分)、及び正常接続時(図1の下半分)の状態では、ピストン12と逆止弁11は接しており、内圧異常上昇時(図1の下半分)の状態では、ピストン12と逆止弁11は離間している。
すなわち、ピストン12と逆止弁11とは隣接する別部材であり、一体に動くことも別々に動くことも可能である。これにより、接続前、正常接続時、内圧異常上昇時の各時点での所望の機能を実現している。
発明の詳細な説明、図面のいずれにも、ピストン12と逆止弁11とが「一体」、すなわち一部材であることを示唆する記載はない。
「一体的」とは、「複数のものが一つに、または不可分になっているさま。一体となっている様子」(実用日本語表現辞典(HPのweblio辞書)、被請求人回答書3ページ)を意味する日本語の用語で、「複数のもの」を前提としており、本件発明1における「複数のもの」であるピストン12と逆止弁11との関係と整合している。
したがって、本件発明1、2、4、5における「一体的」なる記載を不明確とすることはできない。

2.「支持体」について
第36条第6項第2号は、「特許を受けようとする発明が明確であること」というものである。上記第5.(第36条第6項第1号)で検討したとおり、「特許を受けようとする発明」は、出願人の自由意思により、特許請求の範囲に記載される。
本件発明1、2、4、5のいずれにも「支持体」は特定されておらず、「特許を受けようとする発明」において「支持体」は不可欠とはされていない。
「支持体」が不可欠であることを前提とした請求人の主張は、その前提において誤りであるから、採用できない。

本件発明のノズル弁、逆止弁、ピストン、第1、第2のシール手段は、第2.のとおり、他の構成要件との関係を含め、請求項1、2、4、5に明確に記載されている。

3.小括
よって、本件発明1、2、4、5に係る発明の特許が、第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたとすることはできない。

第7.甲1に基づく第29条第2項(理由1-1)についての判断
1.本件発明
本件発明1、2、4、5は、上記第2.のとおりと認められる。

2.証拠記載事項
(1)甲1
甲1には、以下の記載がある。

(1ページ右下欄13?20行)
「本発明は、ガスボンベ組込み型コンロのボンベとバーナとを連結するガス通路に介在させるガバナに関し、ボンベの内圧がバーナからの熱伝達等によって異常に昇圧するときに、ボンベが爆発する危険のある高圧に達する前に、バーナへのガスの供給を停止させるため、ボンベの注出弁を閉弁させる爆発防止装置を減圧弁の一次室に設けたものを提供する。」

(2ページ左下欄6行?3ページ右上欄3行)
「接合穴13にボンベ5を嵌着したとき、上記閉弁位置に押出された注出管16は挿通穴15を通つて、その先端が一次室10内に突出する。
一次室10内には、その注出管16に対向して進退するピストン17が内嵌してある。このピストン17のヘツド中央部はその周囲部よりも突出させ、注出管16の先端に接離する押圧具18にしてある。
ピストン17のスカート部19の中空部には一次室10の前端壁20に受け止められているバネ座21に一端を支えられた開弁バネ22が挿入してある。この開弁バネ22で後側に押出されるピストン17の受圧面23の周囲部にはOリングからなる元栓弁体24が設けてあり、ボンベ5を取付けないときには、この弁体24を一次室10の後端壁12の内面に形成した元栓弁座面25に開弁バネ22で弾圧することにより、-次室10から接合穴13を通つてガスが漏出しないようにしてある。
ピストン17のスカート部19の外周面には、ボンベ5の注出管16で押されて退行するピストン17を開弁位置に位置決めするためのテーパ面42が形成してある。ボンベ5をガバナ6に取付けたときに、ピストン17は注出管16に押されて退行し、このテーパ面42が位置止めボール28に受け止められる。位置止めボール28は一次室10の周壁に透設した穴28′内に挿入した圧力設定用圧縮バネ29によりピストン17に弾圧されている。このボール28で受け止められるテーパ面42を介して、ピストン17に働く上記圧縮バネ29の力と開弁バネ22の力とでピストン17が開弁位置からさらに退行することが制限される。ボンベ5は、このピストン17の退行が制限された状態で、さらに接合穴13の底面にボンベ5の先端部14の先端面が受け止められるまで押し込まれる。このときピストン17の退行が開弁バネ22と圧縮バネ29とで制限されているので、注出管16が閉弁位置から開弁位置までボンベ5内に退行し、注出弁が開かれてボンベ5内から注出管16を経て一次室10内にガスが供給される。符号26は押圧具18の先端面に凹設したガス案内溝である。
ガスボンベ5の内圧が平常使用圧(4kg/cm^(2))以下のときには、第2図に示すように、ピストン17が開弁位置に保持されて、ボンベ5から一次室10へのガスの供給が連続的に行なわれる。ボンベ5の内圧が異常上昇し、爆発の危険が生じる異常高圧(6kg/cm^(2))よりも低い所定の圧力に達したときに、ピストン17の受圧面23に作用する力が圧縮バネ29の力に勝り、ボール28がテーパ面42を昇るとともにピストン17が開弁位置からさらに退行する。ボール28がテーパ面42を昇りきると、圧縮バネ29のピストン17の退行を制限する力がピストン17に作用しなくなり、ピストン17は急激に退行する。このピストン17の退行により、ボンベ5の注出管16が開弁位置から閉弁位置に自動的に進出し、注出弁が閉じられてボンベ5からのガスの供給が遮断される。」

甲1の第2図において、ガバナケース8の一次室10には、進退するピストン17が内嵌され、両者間には、符号17の引き出し線が通る部分に、「断面円形でハッチングされている部材」がある。
甲1においては、ガスボンベ5の嵌着により、ガスボンベ5からのガスは、抽出管16、一次室10、弁通路34を経て二次室11に供給される。このとき、供給経路のいずれかにおいてガスが漏れると、二次室11への供給に支障がある。
また、ガスボンベ5の内圧の異常上昇時においては、ピストン17は一次室の内圧を受け、ピストン17は退行する。
かかる機能からみて、ガバナケース8の一次室10内において、ピストン17は進退するが、ガバナケース8の一次室10とピストン17との間から、ガスが漏れることを防止する必要があることは明らかである。
甲1において、「Oリングからなる元栓弁体」である部材「24」も、「断面円形でハッチング」おり、同様な図面表記とされている。
また、空間内に移動する部材があり、両者間に気密性を要するとき、両者間にシール部材を設け、図面上、断面円形として表記することは周知である(例えば、甲2の密閉リング24?26、甲3のシール部材9、シールリング18、甲4のOリング8、9、13、甲5のシール部材19、25)。
以上から、甲1の第2図における、ガバナケース8とピストン17との間であって、符号17の引き出し線が通る部分にある「断面円形でハッチングされている部材」は「シール手段」であると認める。
被請求人は、「断面円形でハッチングされている部材」は「シール手段」とは認められない旨、主張する(要領書(1)3ページ、要領書(2)3ページ)が、甲1の構造、機能、技術常識に照らすと、上記のとおり、被請求人の主張は採用できない。

かかる記載等を整理すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ガスボンベ5の嵌着時にその注出管16で押されて開弁位置に位置決めされるピストン17を有し、
ガスボンベ5の内圧の異常上昇によって退行するピストン17をシール手段を介して一次室10に内嵌した構成を有する
爆発防止装置であって、
ガスボンベ5の注出管16の先端に接するとともに一次室10に内嵌されたピストン17を進退可能に配置するとともに、
ピストン17を注出管16との接触方向へ弾圧する開弁バネ22を設け、
ガスボンベ5の装着時に注出管16でピストン17が押され、一次室10の内面に配置されているシール手段の内方をピストン17が摺動させるようにし、
ガスボンベ5の内圧が異常上昇したときには、ピストン17の退行により注出管16が閉弁位置に進出しガスの供給が遮断される
爆発防止装置。」

(2)甲2
甲2は、ガスボンベを備えたこんろにおける安全装置に関し、ボンベ3内のガス圧が異常上昇したときは、スプリング32に抗してガス遮断棒19が押され、密閉リング24が径大孔22と軸孔21との接続段部21’に当って微少間隙を閉じ、ガスの流出を遮断し、火が消えるものである(第4欄7?14行等)。
ガス遮断棒19には、軸孔21の内面に接する密閉リング25,26が設けられ、密閉リング25,26はピストンとともに摺動する(第2図等)。

(3)甲3
甲3は、ガスボンベを使用するこんろなどのガス器具における安全装置に関し、逆止弁3が受け口11から通路5へ到るガス流を開閉制御し、弁前部の取付溝14に嵌着したO-リングの如きシール部材9を有し、弁室内が異常圧になると、逆止弁3が移動して、バルブノズル2が突出し、ガスボンベからのガスが停止すると同時に、シール部材9の後座面16への着座により、ガス通路5が遮断されるものである(第3欄7?12行、第4欄1?8行等)。

(4)甲4
甲4は、カセットこんろ等、燃焼機器の安全装置に関し、ボンベからのガス圧が異常な高圧になった場合に、弁筒体内部の閉止弁20が移動し、その外周に嵌着した弁シート21が弁座15に着座されることにより、ガス排出口7へのガスの供給を遮断するものである(段落0009、0020、図2、図3等)。

(5)甲5
甲5は、ピストン部材15に、摺動室24の内面に接するシール部材19,25を設け、シール部材19,25がピストン部材15とともに摺動する、ガス器具用安全装置である(段落0008、図1、図2等)。

(6)甲6
甲6は、カセットこんろの安全装置に関し、ボンベ1の挿入に伴い移動する弁体6が移動するものである(段落0011?0013、図4?図6)。

(7)甲7
甲7は、簡易ガスこんろの安全装置に関し、パッキンリング24を外周に有するピストン7が、ピストン収納孔3内を移動するものである(段落0014、0019、図2等)。

3.本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「ガスボンベ5」は本件発明1の「ガス容器」に相当し、同様に「嵌着」は「装着」に、「注出管16」は「ノズル弁」に、「退行する」は「移動可能な」に、「シール手段」は「第1のシール手段」に、「一次室10」は「圧力感知室」に、「内嵌した」は「組み込んだ」に、「爆発防止装置」は「圧力感知安全装置」に、「弾圧する」は「加圧する」に、「開弁バネ22」は「ばね手段」に、それぞれ相当する。
本件発明1の「逆止弁」と「ピストン」は「一体的に移動可能」であるから、両者を合わせて「ピストンユニット」とみることができる。
甲1発明の「注出管16で押されて開弁位置に位置決めされるピストン17」と、本件発明1の「ノズル弁を押し込んで開弁可能な逆止弁」とは、「ノズル弁を押し込んで開弁可能なピストンユニット」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「先端に接するとともに一次室10に内嵌されたピストン17を進退可能」と、本件発明1の「先端に接する逆止弁と圧力感知室に組み込まれたピストンとを一体的に移動可能」とは、「ガス容器のノズル弁の先端に接するとともに圧力感知室に組み込まれたピストンユニットを移動可能」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「ピストン17を注出管16との接触方向へ弾圧する」と、本件発明1の「ピストンを逆止弁との接触方向へ加圧する」とは、「ピストンユニットをノズル弁方向へ加圧する」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「注出管16でピストン17が押され、一次室10の内面に配置されているシール手段の内方をピストン17が摺動させる」と、本件発明1の「ノズル弁で押される逆止弁の動きをピストンに伝え、圧力感知室の内面に接している第1のシール手段をピストンとともに摺動させる」とは、「ノズル弁でピストンユニットが押され」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「ピストン17の退行により注出管16が閉弁位置に進出しガスの供給が遮断される」と、本件発明1の「第2のシール手段は、O-リングであり」、「圧力感知室の内周面を構成するシール面に接触してガス流を遮断する」とは、「ガス流を遮断する」である限りにおいて一致する。
したがって、甲1発明と本件発明1とは、以下の点で一致する。

「ガス容器の装着時にそのノズル弁を押し込んで開弁可能なピストンユニットを有し、
ガス容器の内圧の異常上昇によって移動可能なピストンユニットを第1のシール手段を介して圧力感知室に組み込んだ構成を有する
圧力感知安全装置であって、
ガス容器のノズル弁の先端に接するとともに圧力感知室に組み込まれたピストンユニットを移動可能に配置するとともに、
ピストンユニットをノズル弁方向へ加圧するばね手段を設け、
ガス容器の装着時にノズル弁でピストンユニットが押され、
ガス容器の内圧が異常上昇したときには、ガス流を遮断するようにした
圧力感知安全装置。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1の1
第1のシール手段について、本件発明1では「ピストンとともに」摺動するが、甲1発明では「圧力感知室(一次室10)の内面に配置され」摺動しないものである点。

相違点1の2
ピストンユニットについて、本件発明1では「逆止弁とピストン」という別部材が「一体的」に移動可能であり、ガス容器の装着時に「逆止弁の動きをピストンに伝え」るものであるが、甲1発明では「ピストン」という一部材である点。

相違点1の3
内圧が異常上昇したときに、ガス流を遮断することについて、本件発明1では、「ピストンには第2のシール手段が固定されて」おり、「第2のシール手段はOリング」であり、Oリングが「圧力感知室の内周面を構成するシール面に接触」して遮断するが、甲1発明では、第2のシール手段を有さず、「ピストンの退行によりノズル弁(注出管16)が閉弁位置に進出し」て遮断する点。

4.相違点の判断
相違点1の1について検討する。
甲1発明の第1のシール手段は、固定側である「圧力感知室(一次室10)の内面」に設けられているが、その技術的意義は、上記2.(1)のとおり、圧力感知室の内面と、ガス容器の装着時に移動するピストンとの間から、ガスが漏れることを防止するためのものである。
かかる機能は、第1のシール手段を、固定側である「圧力感知室の内面」、移動側である「ピストン」のいずれの側に設けても実現しうる。
また、ガスボンベを装着するガス器具において、「シール手段」を、移動側である「ピストン」に設けたものは、上記2.の(2)甲2、(5)甲5、(7)甲7にみられるごとく周知である。
してみると、「シール手段」を、移動側である「ピストン」に設けることを試みることは、加工、組み付けのしやすさ等を勘案して、適宜選択すべき設計的事項にすぎない。
よって、相違点1の1は容易想到というべきである。

相違点1の2について検討する。
部材点数の削減は、製造工数・費用の観点から、一般的課題である。
「ピストンユニット」は、甲1発明では「ピストン」という一部材である。甲1発明の「ピストン」を、「逆止弁とピストン」という別部材とすることは、一般的課題に反するから、特別の動機が必要である。
しかしながら、甲1には特別の動機についての記載はなく、かかる特別の動機が周知であるとも認められない。

請求人は、甲1において、安全装置作動状態でボンベを取り外した時は、一次室のガスが漏れるという課題があるから、ピストンと逆止弁の別部材とすることは容易想到と主張する(請求人回答書の1ページ(1))。
しかしながら、甲1発明において、安全性向上は当然のことであるとしても、通常使用状態において安全装置が作動することは稀であり、その状態でのボンベ取外し時に一次室のガスが漏れることがあるとしても、漏れ量は少量にすぎないから、ガスが漏れるという課題が当業者が当然考慮すべき喫緊のものとして周知であるとまでは言えない。
さらに、課題解決のための手段としては、甲2にみられる手段を含む種々の手段が想定されるところ、ピストンと逆止弁を別部材とすることが常套手段であるとも認められない。
よって、請求人の主張は採用できない。

なお、被請求人は、本件発明1は、「ピストンユニット」が一部材のものを含むから、相違点1の2は、相違点でない旨、主張する(被請求人要領書(1)4ページのウ)。
しかし、上記第6.の1.で検討したとおり、被請求人の主張は採用できない。

相違点1の3について検討する。
甲1発明は、ガス容器の内圧が異常上昇したときに、ガス容器側においてガス流を遮断する圧力感知安全装置に関するものである。
甲2記載のものは、上記2.(2)のとおり、ガスボンベを装着するガス器具において、ガス容器の内圧が異常上昇したときに、ピストンに設けられたシール手段がピストン収容室内周面のシール面に接触することにより、ガス容器が装着される側においてガス流を遮断する安全装置に関するものである。
すなわち、甲1発明、甲2記載のものは、いずれも、ガスボンベを装着するガス器具において、ガス容器の内圧が異常上昇したときに、ガス流を遮断するものであるが、そのための安全手段を、甲1発明では「ガス容器側」に設けており、甲2記載のものでは「ガス容器が装着される側」に設けている。
安全装置においては、安全性向上のため、安全手段を複数設け、一の安全手段に不具合が生じても、他の安全手段の作動により安全を確保することが、常套手段である。
甲1発明においても、ガスを扱うものである以上、安全性向上は当然の課題である(例えば、甲6の要約、段落0005、甲3の4欄1?8行)から、ガス容器の内圧が異常上昇したときにガス流を遮断するため、甲1発明の「ガス容器側」の安全手段に加え、甲2記載のものが有する「ガス容器が装着される側」の安全手段である「ピストンに設けられたシール手段がピストン収容室内周面のシール面に接触する」ことを付加することは、必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。
その際、ピストンに設けるシール手段として、Oリングはごく自然なもの(例えば、甲3のシール部材9)であるから、相違点1の3は、容易想到というべきである。

被請求人は、甲1発明に重ねて別のガス流遮断機構を設ける必要性はない、甲1と甲2は技術的に両立しない(答弁者7ページ、要領書(2)6ページ、平成27年8月5日付け上申書2ページ)旨、主張する。
被請求人の主張は、甲1発明のガス流遮断機構が、常に正常作動することを前提とするものであるところ、上記のとおり、安全装置においては、一の安全手段に不具合が生じても、他の安全手段の作動により安全を確保することが常套手段である。
甲1発明に甲2記載のものを付加することは、請求人の平成27年7月28日付け上申書記載のとおり、実現可能である。
被請求人の主張は、採用できない。

以上、相違点1の2が容易想到ではないことから、本件発明1を、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることはできない。

5.本件発明2、4、5
本件発明2、4、5は、上記第2.のとおり、本件発明1をさらに限定したものである。
よって、本件発明1が、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることはできない以上、本件発明2、4、5についても、同様の理由により、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることはできない。

第8.甲2に基づく第29条第2項(理由1-2)についての判断
1.本件発明
本件発明1、2、4、5は、上記第2.のとおりと認められる。

2.証拠記載事項
(1)甲2
甲2には、以下の記載がある。

(1欄35?36行)
「本考案はガスボンベを備えたこんろにおける安全装置に関する。」

(3欄8?30行)
「ガス遮断棒19は図から分るようにピストンロッド状をなし、かつ基端面には切溝29を有して軸孔21との間にガス通路としての微小間隙20を有するとともに前記径大孔22と径大溝23内に位置するところにガス遮断用密閉リング24を嵌着してあり、また、ガス通路28よりも先の位置には軸孔21と密着する密閉リング25,26を嵌着してガスがこの方向に漏出しないようになつている。・・・。前記径小部27にはスプリング32を巻装し、一端は当て板30に、他端は径大部側に弾接させ、ガス遮断棒19を第2図において右方に押している。このスプリング32の力は、ガスボンベ3内の圧力が危険なある一定値(具体的には3?5kgの圧力)になつたときのガス圧により遮断棒19により押返される程度に設定しておく。
なお、・・・。また36はガス通孔37を有する第2の承口で、この第2承口36にガス遮断棒19の端部が当つている。」

(3欄44行?4欄14行)
「しかして、前記構成によると、ボンベ収納室4にガスボンベ3をセツトするとバルブ軸10が第2承口36に当りコイルバネ12に抗して押戻され、小通孔15が開いて、ボンベ内の液化ガスは、ガス通孔37、ガス遮断棒19の切溝29、径大孔22、径大溝23、微小間隙20、ガス通路28、調整室17を経て火口2にガスが供給される。
次に周囲の温度上昇によりボンベ3内のガス圧が異常に上昇し安全限界圧よりも高くなり、それに伴なつてより強い圧力でボンベ3からガスが噴出したときはスプリング32に抗してガス遮断棒19が押され、密閉リング24が径大孔22と軸孔21との接続段部21′に当つて微小間隙20を閉じ、ガスの流出を遮断し、したがつて火口2の火が消える。」

(第2図)
軸孔21に組み込まれたガス遮断棒19の端部が第2承口36に当たるようにされていることが看取できる。

ここで、第2承口36は、構造上移動できない。よって、ガスボンベ3のセット時に、バルブ軸10から受ける力をガス遮断棒19に伝えることはなく、ガス遮断棒19は移動しない。
また、密閉リング24は「リング」であるから「Oリング」であることは明らかである。

かかる記載等を整理すると、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
なお、甲2発明の認定について、両者間に争いはない(請求人要領書(1)7ページ、被請求人要領書(1)6ページ、審理事項通知(2)の第3.)

「ガスボンベ3のセット時にそのバルブ軸10が第2承口36に当たり押し戻されることで小通孔15が開き、
ガスボンベ3のガス圧の異常上昇によって作動可能なガス遮断棒19を密閉リング25、26を介して軸孔21に組み込んだ構成を有し、ガス遮断棒19にはガス遮断用密閉リング24が嵌着されている
安全装置であって、
ガスボンベ3のバルブ軸10の先端に当たる第2承口36と軸孔21に組み込まれたガス遮断棒19の端部とが当たるように配置するとともに、
ガス遮断棒19を第2承口36へ当たる方向へ加圧するスプリング32を設け、
ガスボンベ3のセット時にバルブ軸10が第2承口36に当接するが、ガス遮断棒19は移動することなく、
密閉リング24はOリングであり、ガスボンベ3の内圧が異常上昇したときには、密閉リング24が径大孔22と軸孔21との接続段部21‘に当たって、ガスの流出を遮断する
安全装置。」

(2)甲3
甲3には、以下の記載がある。

(1欄16?17行)
「本発明はガスボンベを使用するこんろなどのガス器具に於る安全装置に関するものである。」

(2欄24行?3欄12行)
「以下図面を参照して説明すると、ガスボンベ1は内蔵ばねにより突出方向へ付勢されたバルブノズル2を先端に有し、このバルブノズル2が挿込まれる受け口11はガス器具12のガバナー13に付設された弁室4の前部に開口している。
弁室4はその奥に組込まれた異常圧で反転可能な皿ばね7によつて区画されており、そこに進退可能に嵌挿された逆止弁3の後端は前記皿ばね7に接し、かつばね6によつて閉弁方向に付勢されている。さらに弁室4は奥に近くガスの通路5が開口している。
逆止弁3は受け口11から通路5へ到るガス流を開閉制御するもので、弁前部の取付溝14に嵌着したO-リングの如きシール部材9を有し、これが弁室4の内面に形成された拡大溝15に位置し、前記ばね6によつて拡大溝15の前部に形成されたテーパ状の座面10に当接する。」

(3欄28行?4欄8行)
「以上の構成に於てガスボンベ11の姿勢を確認しながらバルブノズル2を受け口11に接近させ(第3図a)、正しくセツトすると同図bに示すようにバルブノズル2はばね6と皿ばね7で支えられた逆止弁3により押されてガスを吐出する状態となり、逆止弁3も拡大溝15の前部の座面10からシール部材9が離れるので通路5へのガスの流入が可能な状態となる。これが通常使用状態でありボンベフランジ22は磁気によりヨーク24の端部に吸着する。
今異常な使用法によりガスボンベ1又は装置周辺が過度に加熱され、弁室内が異常圧になると、皿ばね7は圧力差により押されて弾性変形し反転する(同図c)。その結果逆止弁3も皿ばね7方向へ移動するのでバルブノズル2が突出し、ガスボンベ1からのガス吐出が停止すると同時に、シール部材9の後座面16への着座により、ガス通路5が遮断される。」

(第3図)
ガスボンベセット前の状態が(a)として、正しくセットされた状態が(b)として、異常圧状態が(c)として、図示されている。

3.本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の「ガスボンベ3」は本件発明1の「ガス容器」に相当し、同様に「セット時」は「装着時」に、「バルブ軸10」は「ノズル弁」に、「ガス圧」は「内圧」に、「ガス遮断棒19」は「ピストン」に、「密閉リング25、26」は「第1のシール手段」に、「軸孔21」は「圧力感知室」に、「密閉リング24」は「第2のシール手段」に、「安全装置」は「圧力感知安全装置」に、「スプリング32」は「ばね手段」に、「径大孔22と軸孔21との接続段部21‘」は「圧力感知室の内周面を構成するシール面」に、「当たって」は「接触して」に、それぞれ相当する。
甲2発明の「第2承口36」と、本件発明1の「逆止弁」とは、「ノズル弁を押し込んで開弁可能な中間部材」である限りにおいて一致する。
甲2発明の「バルブ軸10の先端に当たる第2承口36」と、本件発明1の「ノズル弁の先端に接する逆止弁」とは、「ノズル弁の先端に接する中間部材」である限りにおいて一致する。

したがって、甲2発明と本件発明1とは、以下の点で一致する。
「ガス容器の装着時にそのノズル弁を押し込んで開弁可能な中間部材を有し、
ガス容器の内圧の異常上昇によって移動可能なピストンを第1のシール手段を介して圧力感知室に組み込んだ構成を有し、ピストンには第2のシール手段が固定されている
圧力感知安全装置であって、
ガス容器のノズル弁の先端に接する中間部材と圧力感知室に組み込まれたピストンとを配置するとともに、
ピストンを中間部材との接触方向へ加圧するばね手段を設け、
第2のシール手段はOリングであり、ガス容器の内圧が異常上昇したときには、圧力感知室の内周面を構成するシール面に接触してガス流を遮断するようにした
圧力感知安全装置。」

そして、以下の点で相違する。
相違点2
ガス容器の装着時における「中間部材」について、本件発明1では、「ノズル弁を押し込んで開弁可能な逆止弁」であり、逆止弁とピストンとが「一体的に移動可能」に配置され、「ノズル弁で押される逆止弁の動きをピストンに伝え、圧力感知室の内面に接している第1のシール手段をピストンとともに摺動させるようにし」ているが、甲2発明では、逆止弁を有さず、「ノズル弁(バルブ軸10)が第2承口36に当たり押し戻されることで小通孔15が開」き、「ノズル弁(バルブ軸10)が第2承口36に当接するが、ピストン(ガス遮断棒19)は移動することがない」ものである点。

4.相違点の判断
相違点2について検討する。
相違点2は、ガス圧の異常上昇時における「ガス容器が装着される側」の安全手段に関するものであるところ、同様に、ガス圧の異常上昇時における安全手段として、甲3には、以下の点が記載されている。
「ガスボンベを使用するこんろなどのガス器具における安全装置に関し、逆止弁3がその前部の取付溝14に嵌着したシール部材9を有し、ガスボンベ1のセット時に、バルブノズル2が皿ばね7で支えられた逆止弁3により押され、受け口11から通路5へのガスの流入が可能になり、弁室内が異常圧になると、皿ばね7が反転し逆止弁3が移動して、シール部材9の後座面16への着座により、ガス通路5が遮断されるとともに、バルブノズル2が突出し、ガスボンベからのガスが停止するもの。」

甲3記載のものの逆止弁3は、端部にシール部材9を有し、ガスボンベ1の装着時にバルブノズル2を押し、異常圧時に、シール部材9により、ガス通路5を遮断するものである。
甲2発明においては、ガス容器の装着時にバルブ軸10を押すものは「第2承口36」であり、異常圧時にガス流を遮断するものは、「ピストン(ガス遮断棒19)」である。
すなわち、甲3記載のものの逆止弁3は、甲2発明の「ピストン」と「第2承口36」の両機能を兼ね備えたものと言える。

そこで、第1に、部材点数、製造工数・費用の削減という一般的課題を踏まえ、甲2発明の「ピストン」と「第2承口36」の両機能実現手段を、甲3記載のものの逆止弁3に置き換えることを検討する。
甲2発明の「ピストン」と「第2承口36」を、甲3記載のものの「逆止弁3」に置き換えたものは、「ピストン」と「第2承口36」が「逆止弁3」という一部材になる。
そのため、本件発明1の「ピストン」と「逆止弁」という2部材とはならず、相違点2に係る構成とはならない。

第2に、異常圧時のガス流遮断機能に着目し、甲2発明の「ピストン」を、甲3記載のものの逆止弁3に置き換えることを検討する。
これについては、そもそも置き換える動機を見いだすことができない。
仮に、置き換えたとしても、甲2発明の「第2承口36」については、変更する必要性はなく、「逆止弁(第2承口36)」は固定状態のままである。そのため「逆止弁(第2承口36)」は「一体的に移動可能」ではなく、「ノズル弁で押される逆止弁の動きをピストンに伝え」ることもない。
よって、相違点2に係る構成とはならない。

第3に、装着時のバルブ軸押圧機能に着目し、甲2発明の「第2承口36」を、甲3記載のものの逆止弁3に置き換えることを検討する。
これについては、そもそも置き換える動機を見いだすことができない。
仮に、置き換えたとしても、甲2発明の「第2承口36」は、ガス容器の装着時にバルブ軸10を押すものであり、そのために固定状態とされている。他方、甲3記載のものの逆止弁3は、移動可能であり、ガス容器の装着時にバルブノズル2を押すために、皿ばね7を有している。
甲2発明の「第2承口36」は、固定状態のため、確実にバルブ軸10を押すことができるところ、甲3記載のものの逆止弁3は、移動可能なため不確実性があり、かつ皿ばね7を必要とするから、甲3記載のものの逆止弁3に置き換えることはない。

以上から、相違点2に係る構成を容易想到とすることはできない。

請求人は、甲2発明には逆止弁がないから、甲3記載のものの逆止弁3を適用する動機がある旨、主張する(請求書24ページのウ、25ページのエ)。
しかし、上記のとおり、甲2発明の「ピストン」は、異常圧時にガス流を遮断するという逆止弁の機能を有するものであるから、請求人の主張は採用できない。

以上、本件発明1を、甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることはできない。

5.本件発明2、4、5
本件発明2、4、5は、上記第3.のとおり、本件発明1をさらに限定したものである。
よって、本件発明1が、甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることはできない以上、本件発明2、4、5についても、同様の理由により、甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることはできない。

第7.むすび
以上、請求人の主張する理由、証拠によっては、本件発明1、2、4、5についての特許を無効とすることはできない。
また、他に、本件発明1、2、4、5についての特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-09 
結審通知日 2015-11-12 
審決日 2015-11-25 
出願番号 特願平8-126389
審決分類 P 1 123・ 537- Y (F17C)
P 1 123・ 121- Y (F17C)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 熊倉 強
千葉 成就
登録日 1999-07-16 
登録番号 特許第2954528号(P2954528)
発明の名称 圧力感知安全装置  
代理人 細野 真史  
代理人 河野 英仁  
代理人 平野 惠稔  
代理人 山口 建章  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 茂木 鉄平  
代理人 高見 憲  
代理人 古庄 俊哉  

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