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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C08L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1309853
審判番号 無効2014-800141  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-08-28 
確定日 2015-11-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4587606号発明「ポリカーボネート系難燃性樹脂組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 1 訂正請求書に添付された訂正した明細書及び特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める。 2 本件審判の請求は,成り立たない。 3 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 請求
特許第4587606号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。

第2 主な手続の経緯等
1 被請求人は,発明の名称を「ポリカーボネート系難燃性樹脂組成物」とする特許第4587606号(請求項の数は7。以下「本件特許」という。)の特許権者である。また本件特許は,平成13年6月27日にされた特許出願(特願2001-194654号)に係るものであり,平成22年9月17日に設定登録されたものである。

2(1) 請求人は,平成26年8月28日,本件特許の請求項1?7に係る発明についての特許(以下,順に「本件特許1」?「本件特許7」という。)に対し特許無効審判を請求し,これに対して被請求人は,同年11月17日に答弁書を提出するとともに訂正請求書を提出して,本件特許に係る特許請求の範囲及び明細書の訂正を請求した。これに対し,請求人は,平成27年1月5日,審判事件弁駁書を提出した。
(2) 審判長は,平成27年2月3日付けで両当事者に対し口頭審理における審理事項を通知し(審理事項通知書),これを受けて,請求人は同年3月13日に口頭審理陳述要領書(同月27日付け上申書により補正されている。)を,被請求人は同日に口頭審理陳述要領書をそれぞれ提出した。
(3) 平成27年3月27日,請求人代理人ら,被請求人代理人らの出頭のもと,第1回口頭審理が行われた。

3 平成27年4月15日付けで特許法164条の2第1項所定の審決の予告がされた。

4(1) 被請求人は,平成27年6月22日,上申書を提出するとともに,訂正請求書を提出して本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。なお,本件訂正により,先にした訂正の請求(平成26年11月17日付け訂正請求書によるもの。)は,取り下げられたものとみなされる(特許法134条の2第6項)。
(2) 審判長は,請求人に対し,平成27年6月29日付けで,本件訂正の請求に対する意見の有無を確認したところ,請求人は,同年7月30日,審判事件弁駁書を提出した。

第3 本件訂正の可否
1 被請求人の請求の趣旨
結論第1項に同旨である。すなわち,願書に添付した明細書及び特許請求の範囲について,訂正請求書に添付された訂正した明細書及び特許請求の範囲のとおりに一群の請求項ごとに訂正することを求める。

2 訂正の要旨
訂正請求書の記載によれば,被請求人の求める訂正は,実質,以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
請求項1を以下のとおり訂正する。
・ 訂正前
「(A)ポリカーボネート系樹脂100重量部,(B)ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合してえられるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1?4.5重量部,(C)フッ素系樹脂0.05?1重量部および(D)酸化防止剤0?2重量部からなる樹脂組成物であって,該樹脂組成物全量100重量%に対してケイ素含有量が0.3?1.5重量%であるポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。」
・ 訂正後
「(A)ポリカーボネート系樹脂100重量部,(B)ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合してえられるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1?3重量部,(C)フッ素系樹脂0.05?1重量部および(D)酸化防止剤0?2重量部からなる樹脂組成物であって,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmであり,該樹脂組成物全量100重量%に対してケイ素含有量が0.7?1.5重量%であるポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。」

(2) 訂正事項2
請求項2を以下のとおり訂正する。
・ 訂正前
「ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmである請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。」
・ 訂正後
「ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmであり,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)40?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)60?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。」

(3) 訂正事項3
請求項4を以下のとおり訂正する。
・ 訂正前
「ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)40?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)60?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1または2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。」
・ 訂正後
「ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)60?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)40?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1または2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。」

(4) 訂正事項4
請求項1の記載を引用する請求項2?7,請求項2の記載を引用する請求項3?5及び7並びに請求項4の記載を引用する請求項5及び7について,上記訂正事項1?3と同様に訂正する。

(5) 訂正事項5
明細書の段落【0009】を以下のとおり訂正する。
・ 訂正前
「すなわち,本発明は,
(A)ポリカーボネート系樹脂100重量部,(B)ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合してえられるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1?4.5重量部,(C)フッ素系樹脂0.05?1重量部および(D)酸化防止剤0?2重量部からなる樹脂組成物であって,該樹脂組成物全量100重量%に対してケイ素含有量が0.3?1.5重量%であるポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項1),
ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmである請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項2),
ポリオルガノシロキサン粒子の変動係数が10?70%である請求項1又は2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項3),
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)40?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)60?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1または2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項4),
ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)がラテックス状である請求項1,2または4記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項5),
ビニル系単量体(b-2)が該ビニル系単量体の重合体の溶解度パラメータ9.15?10.15(cal/cm^(3))^(1/2)である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項6)及び
ビニル系単量体(b-2)が芳香族ビニル系単量体,シアン化ビニル系単量体,(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基含有ビニル系単量体よりなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体である請求項1,2,4または5記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項7)に関する。」
・ 訂正後
「すなわち,本発明は,
(A)ポリカーボネート系樹脂100重量部,(B)ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合してえられるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1?3重量部,(C)フッ素系樹脂0.05?1重量部および(D)酸化防止剤0?2重量部からなる樹脂組成物であって,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmであり,該樹脂組成物全量100重量%に対してケイ素含有量が0.7?1.5重量%であるポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項1),
ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmであり,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)40?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)60?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項2),
ポリオルガノシロキサン粒子の変動係数が10?70%である請求項1又は2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項3),
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)60?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)40?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1または2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項4),
ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)がラテックス状である請求項1,2または4記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項5),
ビニル系単量体(b-2)が該ビニル系単量体の重合体の溶解度パラメータ9.15?10.15(cal/cm^(3))^(1/2)である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項6)及び
ビニル系単量体(b-2)が芳香族ビニル系単量体,シアン化ビニル系単量体,(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基含有ビニル系単量体よりなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体である請求項1,2,4または5記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項7)に関する。」

(6) 訂正事項6
明細書の段落【0076】を以下のとおり訂正する。
・ 訂正前
「結果を表3に示す。」
・ 訂正後
「結果を表3に示す。なお,実施例6は参考例である。」

3 本件訂正の可否についての判断
(1) 訂正事項1について
ア この訂正は,請求項1に係る発明を特定する事項である「ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)」について,本件訂正前に特定がなかった平均粒子径を「0.008?0.6μm」と限定し,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(B)の配合量について,本件訂正前に「1?4.5重量部」とあるものを「1?3重量部」と限定し,さらに樹脂組成物全量100重量%に対するケイ素含有量の配合割合について,本件訂正前に「0.3?1.5重量%」とあるものを「0.7?1.5重量%」と限定するものであるから,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。しかも,その数値範囲については,例えば願書に添付した特許請求の範囲の請求項2や明細書の【0059】に記載がある。
イ よって,訂正事項1の訂正は,特許請求の範囲を減縮することを目的とし,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないといえる。

(2) 訂正事項2について
ア この訂正は,請求項2が引用する請求項1に係る発明を特定する事項である「ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体」について,「ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)40?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)60?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である」との限定を付加するものであるから,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。しかも,このような限定事項に係る構成については,例えば願書に添付した明細書の【0040】等に記載がある。
イ よって,訂正事項2の訂正は,特許請求の範囲を減縮することを目的とし,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないといえる。

(3) 訂正事項3について
ア この訂正は,請求項4に係る発明を特定する事項である「ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)」の使用量(質量%)の下限値を「40」から「60」に,「ビニル系単量体(b-2)」の使用量(質量%)の上限値を「60」から「40」にそれぞれ減縮するものであるから,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。しかも,このような限定事項に係る構成については,例えば願書に添付した明細書の【0040】等に記載がある。
イ よって,訂正事項3の訂正は,特許請求の範囲を減縮することを目的とし,願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり,また実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないといえる。

(4) 訂正事項4について
上記(1)?(3)で検討したことと同様の理由により,この訂正は特許法134条の2第1項ただし書き1号に掲げる事項を目的とするものであり,しかも同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に違反するものでもないといえる。

(5) 訂正事項5及び6について
この訂正は,明細書の【0009】及び【0076】の記載について,特許請求の範囲の記載との整合を図るためのものであり,明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。しかも,この訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,また実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないのは明らかである。

(6) 小括
上記(1)?(5)のとおり,上記訂正事項1?6に係る訂正は,特許法134条の2第1項ただし書き1号又は3号に掲げる事項を目的とするものであり,しかも同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に違反するものでもない。
よって,結論の第1項のとおり,本件訂正を認める。

第4 本件各発明の要旨
上記第3のとおり本件訂正は認容されるから,審決が判断の対象とすべき特許に係る発明は本件訂正後のものである。そして,その要旨は,その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を「本件訂正発明1」などといい,これらを併せて「本件訂正発明」という場合がある。)。
「【請求項1】
(A)ポリカーボネート系樹脂100重量部,(B)ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合してえられるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1?3重量部,(C)フッ素系樹脂0.05?1重量部および(D)酸化防止剤0?2重量部からなる樹脂組成物であって,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmであり,該樹脂組成物全量100重量%に対してケイ素含有量が0.7?1.5重量%であるポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmであり,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)40?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)60?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオルガノシロキサン粒子の変動係数が10?70%である請求項1又は2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)60?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)40?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1または2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)がラテックス状である請求項1,2または4記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
ビニル系単量体(b-2)が該ビニル系単量体の重合体の溶解度パラメータ9.15?10.15(cal/cm^(3))^(1/2)である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
ビニル系単量体(b-2)が芳香族ビニル系単量体,シアン化ビニル系単量体,(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基含有ビニル系単量体よりなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体である請求項1,2,4または5記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。」

第5 請求の理由の補正許否の決定と当事者の主張
1 補正許否の決定
請求人が求める平成27年7月30日付け審判事件弁駁書による請求の理由の補正(いわゆる実施可能要件違反及びサポート要件違反の無効理由を追加する主張。8?12頁)については,許可しない(特許法131条の2第2項)。

2 無効理由に係る請求人の主張
審理事項通知書で整理のとおり,甲1を主引例とするいわゆる新規性又は進歩性に係る無効理由を「無効理由1」,甲5を主引例とする新規性又は進歩性に係る無効理由を「無効理由2」,いわゆる実施可能要件に係る無効理由を「無効理由3」,いわゆるサポート要件に係る無効理由を「無効理由4」としたとき,本件特許1?7には下記(1)?(2)のとおりの無効理由2があるから,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
なお,無効理由1,3及び4に係る主張は,撤回する(第1回口頭審理調書及び主張の全趣旨)。
また,証拠方法として書証を申出,下記(3)のとおりの文書(甲5?14)を提出する。なお,甲1?4の証拠を撤回する(第1回口頭審理調書)。
(審決注:請求人は,無効理由2として新規性の欠如(29条1項3号該当性)並びに進歩性の欠如(同条2項の要件充足性)を併せて主張するところ,以下,審決の便宜のため,新規性に係る無効理由を「無効理由2A」,進歩性に係る無効理由を「無効理由2B」と整理する。)

(1) 無効理由2A(新規性欠如について)
本件訂正発明1?7は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない発明である。すなわち,本件訂正発明1?7は,甲5に記載された発明である。

(2) 無効理由2B(進歩性欠如について)
仮に,上記無効理由2Aに理由がないといえるとしても,本件訂正発明1?7は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である。すなわち,本件訂正発明1?7は,甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3) 証拠方法
・甲5 特開平8-259791号公報
・甲6 三菱レイヨン株式会社 大竹研究所樹脂開発センター副主任研究員 上木創平作成の実験成績証明書2○(審決注:「○」は,その前の数字が丸数字であることを表す。以下同じ。),平成26年3月11日
・甲7 特開平9-286911号公報
・甲8 特開平10-130484号公報
・甲9 特開平11-349796号公報
・甲10 三菱レイヨン株式会社 大竹研究所樹脂開発センター研究員 藤川祐一郎作成の実験成績証明書3○,平成27年3月11日
・甲11 三菱レイヨン株式会社 大竹研究所樹脂開発センター研究員 藤川祐一郎作成の実験成績証明書4○,平成27年3月25日
・甲12 吉本馨編,「プラスチックガイド/原材料・副材料編」,株式会社工業調査会,1974年11月15日
・甲13 西沢仁,武田邦彦監修,「難燃材料活用便覧=難燃化の課題と実際技術=」,テクノネット社,2002年5月25日
・甲14 三菱レイヨン株式会社 大竹研究所樹脂開発センター研究員 藤川祐一郎作成の実験成績証明書5○,平成27年7月30日

3 被請求人の主張
本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求める。請求人主張の無効理由2A及び2Bは,いずれも理由がない。
なお,上記1に係る請求人の主張の撤回を承諾する(第1回口頭審理調書)。

第6 当合議体の判断
当合議体は,本件特許について,以下述べるように,無効理由2A及び2Bにはいずれも理由はないと解する。

1 本件訂正発明について
(1) 本件訂正発明の要旨
上記第4で認定のとおりである。

(2) 本件訂正発明の解決課題や技術的意義など
ア 独立請求項に係る発明である本件訂正発明1について,訂正後の明細書には,次の記載がある。(下線は,審決で付記。以下同じ。)
「【従来の技術】
ポリカーボネート系樹脂は,優れた耐衝撃性,耐熱性,電気的特性などにより,電気・電子部品,OA機器,家庭用品あるいは建築材料として広く用いられている。ポリカーボネート系樹脂は,ポリスチレン系樹脂などに比べると高い難燃性を有しているが,電気・電子部品,OA機器などの分野を中心に,高い難燃性を要求される分野については,そのままでは難燃性が不十分で,各種難燃剤の添加により,その改善が図られている。例えば,有機ハロゲン系化合物や有機リン系化合物の添加が従来広く行なわれている。しかし,有機ハロゲン系化合物や有機リン系化合物の多くは毒性の面で問題があり,特に有機ハロゲン系化合物は,燃焼時に腐食性ガスを発生するという問題があった。このようなことから,近年,非ハロゲン・非リン系難燃剤による難燃化の要求が高まりつつある。
非ハロゲン・非リン系難燃剤としては,ポリオルガノシロキサン系化合物(シリコーンともいう)の利用が提案されている。…
最近,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が,前記シリコーン樹脂などより高い難燃性付与効果があるとして,注目されている。…」(【0002】?【0004】)
「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら前記公報記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物では,ポリカーボネート系樹脂100重量部にポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を5重量部以上配合しないと高い難燃性が得られない。このため,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を多量に使用することで難燃性組成物のコストが上昇するとともに,成形加工性なども悪くなるという問題があった。」(【0007】)
「【課題を解決するための手段】
本発明者らは,上記問題について鋭意検討を重ねた結果,ポリカーボネート系樹脂,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体,フッ素系樹脂および酸化防止剤からなる樹脂組成物において,該樹脂組成物中のケイ素含有量を特定量になるようにすれば,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体量が従来よりも少ない量で高い難燃性を発現し,コスト・成形加工性に有利なポリカーボネート系難燃性樹脂組成物がえられることを見出し本発明を完成するに至った。」(【0008】)
「前記ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(B)は,難燃剤として用いる成分であり,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合して得られる。
前記ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(B)に使用される前記ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)は,難燃性の発現の点から,光散乱法または電子顕微鏡観察から求められる平均粒子径が0.008?0.6μm,さらには0.008?0.2μm,さらには0.01?0.15μm,とくには,0.01?0.1μmであることが好ましい。該平均粒子径が0.008μm未満のものをうることは困難な傾向にあり,0.6μmをこえるばあいには,難燃性が悪くなる傾向にある。該ポリオルガノシロキサン粒子の粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/平均粒子径)(%)は,本発明の難燃剤を配合した樹脂組成物の成形体表面外観が良好という点で,好ましくは10?70%,さらには好ましくは20?60%,とくに好ましくは20?50%に制御するのが望ましい。
なお,本発明における,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)は,ポリオルガノシロキサンのみからなる粒子だけでなく,他の(共)重合体を5%以下を含んだ変性ポリオルガノシロキサンであってもよい。すなわち,ポリオルガノシロキサン粒子は,粒子中に,たとえば,ポリアクリル酸ブチル,アクリル酸ブチル-スチレン共重合体などを5%以下含有してもよい。」(【0012】?【0014】)
「前記グラフト重合は,通常のシード乳化重合が適用でき,ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)のラテックス中で前記ビニル系単量体(b-2)のラジカル重合を行なえばよい。また,ビニル系単量体(b-2)は,1段階で重合させてもよく2段階以上で重合させてもよい。」(【0043】)
「前記フッ素系樹脂(C)は,フッ素原子を有する重合体樹脂であり,燃焼時の滴下防止剤として使用される成分である。…」(【0057】)
「前記酸化防止剤(D)は,本発明においては,成形時の樹脂の酸化分解を抑制することを目的とするだけでなく,難燃性を向上させることも目的とする成分である。…」(【0058】)
「本発明のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物は,前記ポリカーボネート系樹脂(A)100部に対して,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(B)1?4.5部,好ましくは2?3部,フッ素系樹脂(C)0.05?1部,好ましくは0.1?0.5部,酸化防止剤(D)0?2部,好ましくは0.1?1部を配合することにより得られる。但し,組成物全量100%に対して,ケイ素含有量が0.3?1.5%,好ましくは0.7?1.4%になるようにポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の組成を調整する必要がある。ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(B)の使用量が少なすぎると,組成物中のケイ素含有量が少なくなりすぎ難燃性が低下する傾向にあり,また多すぎると組成物中のケイ素含有量が多くなりすぎ,成形加工性が悪くなる傾向にあるばかりでなく,コストアップにつながり市場での価値が低くなる傾向にある。なお,ケイ素含有量の分析的な確認は元素分析法により行なうことができる。また,フッ素系樹脂(C)の使用量が少なすぎると難燃性が低下する傾向にあり,多すぎると成形体の表面が荒れやすくなる傾向にある。また,酸化防止剤(D)の使用量が少なすぎると難燃性の向上作用が小さくなり,多すぎると成形性が低下する傾向にある。」(【0059】)
「このとき,通常使用される配合剤,すなわち可塑剤,安定剤,滑剤,紫外線吸収剤,顔料,ガラス繊維,充填剤,高分子加工助剤,高分子滑剤,耐衝撃性改良剤などを配合することができる。高分子加工助剤の好ましい具体例は,メタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル共重合体などのメタクリレート系(共)重合体があげられ,耐衝撃性改良剤の好ましい具体例は,ブタジエンゴム系耐衝撃性改良剤(MBS樹脂),アクリル酸ブチルゴム系耐衝撃性改良剤,アクリル酸ブチルゴム/シリコーンゴムの複合ゴム系耐衝撃性改良剤などがあげられる。また,他の難燃剤も併用してもよい。たとえば,併用する難燃剤の好ましい具体例は,トリフェニルホスフェート,縮合リン酸エステル,安定化赤リンなどのリン系化合物,シアヌル酸,シアヌル酸メラミンなどのトリアジン系化合物,酸化ホウ素,ホウ酸亜鉛などのホウ素系化合物などがあげられる。これらの配合剤の好ましい使用量は,効果-コストのバランスの点から熱可塑性樹脂100部に対して,0.1?20部,さらには0.2?10部,とくには0.3?5部である。」(【0061】)
「[平均粒子径]
ポリオルガノシロキサン粒子およびグラフト共重合体の平均粒子径をラテックスの状態で測定した。測定装置として,リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いて,光散乱法により数平均粒子径(μm)および粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/数平均粒子径)(%)を測定した。
[ケイ素含有量]
仕込みおよび重合転化率から,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体中のケイ素含有量を求め,これと配合組成割合から,組成物中のケイ素含有量を求めた。…」(【0066】)
イ 上記アの摘記から,本件訂正発明(特に本件訂正発明1)について,概ね次のことがいえる。
(ア) ポリカーボネート系樹脂において,近年,非ハロゲン・非リン系難燃剤による難燃化の要求が高まり,ポリオルガノシロキサン系化合物(シリコーン)の利用が提案され,最近,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が前記シリコーン樹脂などより高い難燃性付与効果があるとして注目されているが,通常,ポリカーボネート系樹脂100重量部にポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を5重量部以上配合しないと高い難燃性が得られないため,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を多量に使用することで難燃性組成物のコストが上昇するとともに,成形加工性なども悪くなるという問題があった。
(イ) 本件訂正発明1の樹脂組成物は,ポリカーボネート系樹脂,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体,フッ素系樹脂及び酸化防止剤からなる樹脂組成物において,上記ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の含有割合を1?3重量部としても,樹脂組成物中のケイ素含有量を組成物全量100重量%に対して0.7?1.5重量%になるように組成を調整したポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を用いることで,上記(ア)で述べた課題を解決するもの,すなわちポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体量が従来より少ない量でも高い難燃性を発現させ,コスト・成形加工性に有利なポリカーボネート系難燃性樹脂組成物を得るというものである。
また,本件訂正発明1のフッ素系樹脂は,燃焼時の滴下防止剤として使用される成分であって,使用量が少なすぎると難燃性が低下し,多すぎると成形体の表面が荒れやすくなる傾向にあるとの知見のもと,ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して0.05?1重量部配合したものである。
さらに,本件訂正発明1は,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を難燃剤として用いるものであるところ,当該ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体に使用されるポリオルガノシロキサン粒子については,平均粒子径が0.008μm未満のものをうることは困難であり,0.6μmを超えると難燃性が悪くなる傾向にあることから,当該ポリオルガノシロキサン粒子の平均粒子径を0.008?0.6μmとするものである。
(ウ) また,本件訂正発明1の樹脂組成物は,明細書の【0061】などの記載を参酌すれば,任意成分としてのトリフェニルホスフェートなどのリン系化合物が添加されるものを排除していないといえる。
(エ) なお,本件訂正発明1は,上述のとおり,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の含有割合を1?3重量部としても,樹脂組成物中のケイ素含有量を組成物全量100重量%に対して0.7?1.5重量%になるように組成を調整したポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を用いることで課題解決を図るものであるが,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の含有割合を1?3重量部と特定すること自体については,訂正後の明細書の記載を参酌しても,その上限値及び下限値に臨界的意義を見いだすことができない。実施例1?5と比較例1?7との対比から,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の含有割合が「0.5重量部」(比較例1?5)のときには難燃性に問題があり,「6重量部」(比較例6)のときには成形加工性に問題があることが一応理解できるものの,これら比較例については,本件訂正発明1の特定事項である樹脂組成物中のケイ素含有量「0.7?1.5重量%」も満足しないものである。

2 証拠について
(1) 甲5の記載
本件特許に係る出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲5には,次の記載がある。
「【請求項1】(A)ポリカーボネート樹脂100重量部に対して,(B)リン酸エステル系化合物1?20重量部および(C)ポリオルガノシロキサン成分30?99重量%とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分70?1重量%とからなり,かつポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との合計量が100重量%である複合ゴムに1種または2種以上のビニル系単量体を,グラフト重合して得られる複合ゴム系グラフト共重合体0.1?50重量部を含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。」(【特許請求の範囲】)
「【課題を解決するための手段】本発明者らは,上述した如き現状に鑑み,薄い厚さに成形されても,耐衝撃性に優れ,かつ優れた難燃性を有するポリカーボネート樹脂系樹脂組成物を得ることを目的として鋭意検討した結果,ポリカーボネート樹脂に,特定のリン酸エステル系化合物および複合ゴム系グラフト共重合体を配合することにより,上記の目的が達成されることを見い出し本発明を完成した。」(【0004】)
「次に,本発明で使用される複合ゴム系グラフト共重合体(C)は,ポリオルガノシロキサン成分30?99重量%とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分99?30重量%(各成分の合計量が100重量%)から構成される複合ゴムに,1種または2種以上のビニル系単量体がグラフト重合された共重合体である。」(【0013】)
「上記複合ゴムの平均粒子径は0.01?0.6μmの範囲にあることが好ましい。平均粒子径が0.01μm未満になると樹脂組成物から得られる成形物の耐衝撃性が悪化し,また平均粒子径が0.6μmを超えると,得られる樹脂組成物からの成形物の耐衝撃性が低下すると共に,成形表面外観が悪化する。このような平均粒子径を有する複合ゴムを製造するには乳化重合法が最適であり,まずポリオルガノシロキサンのラテックスを調製し,次にアルキル(メタ)アクリレートゴムの合成用単量体をポリオルガノシロキサンラテックスの粒子に含浸させてから前記合成用単量体を重合するのが好ましい。」(【0015】)
「ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の重合は,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,炭酸ナトリウム等のアルカリの水溶液の添加により中和されたポリオルガノシロキサン成分のラテックス中へ上記アルキル(メタ)アクリレート,架橋剤およびグラフト交叉剤を添加し,ポリオルガノシロキサン粒子へ含浸させた後,通常のラジカル重合開始剤を作用させて行う。重合の進行と共にポリオルガノシロキサンの架橋網目に相互に絡んだポリアルキル(メタ)アクリレートゴムの架橋網目が形成され,実質上分離できないポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との複合ゴムのラテックスが得られる。なお本発明の実施に際しては,この複合ゴムとしてポリオルガノシロキサン成分の主骨格がジメチルシロキサンの繰り返し単位を有し,ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の主骨格がn-ブチルアクリレートの繰り返し単位を有する複合ゴムが好ましく用いられる。」(【0031】)
「この複合ゴムにグラフト重合させるビニル系単量体としては,スチレン,α-メチルスチレン,ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート,2-エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート,エチルアクリレート,n-ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリロニトリル,メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物等の各種のビニル系単量体が挙げられ,これらは1種または2種以上組み合わせて用いられる。これらビニル系単量体のうちメタクリル酸エステルが好ましく,メチルメタクリレートが特に好ましい。
グラフト共重合体における上記複合ゴムと上記ビニル系単量体の割合は,このグラフト共重合体の重量を基準にして複合ゴム30?95重量%,好ましくは40?90重量%およびビニル系単量体5?70重量%,好ましくは10?60重量%が好ましい。ビニル系単量体が5重量%未満では樹脂組成物中でのグラフト共重合体の分散が十分でなく,また70重量%を超えると衝撃強度発現性が低下するので好ましくない。」(【0033】?【0034】)
「成分(C)は,成分(A)100重量部に対して0.1?50重量部,好ましくは0.5?20重量部使用する。上記の範囲より少ないと本発明の効果が十分発揮されない。」(【0036】)
「本発明の樹脂組成物には,さらに滴下防止剤を含むことができる。そのような滴下防止剤として使用することができるフッ素化ポリオレフィンは,商業的にも入手でき,あるいは公知の方法によって製造することもできる。…フッ素化ポリオレフィンは,成分(A)100重量部に対して,好ましくは0.01?2重量部,より好ましくは0.05?1.0重量部使用する。」(【0037】)
「本発明の樹脂組成物には,また,その物性を損なわない限りにおいて,その目的に応じて樹脂の混合時,成形時に,慣用の他の添加剤,例えば顔料,染料,補強剤(ガラス繊維,炭素繊維等),充填剤(カーボンブラック,シリカ,酸化チタン等),耐熱剤,酸化劣化防止剤,耐候剤,滑材,離型剤,結晶核剤,可塑剤,流動性改良剤,帯電防止剤等を添加することができる。」(【0039】)
「(参考例1) ポリオルガノシロキサンラテックス(L-1)の製造
テトラエトキシシラン2部,γ-メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン0.5部およびオクタメチルシクロテトラシロキサン97.5部を混合し,シロキサン混合物100部を得た。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸をそれぞれ1部を溶解した蒸留水200部に上記混合シロキサン100部を加え,ホモミキサーにて10,000rpmで予備攪拌した後,ホモジナイザーにより300kg/cm^(2)の圧力で乳化,分散させ,オルガノシロキサンラテックスを得た。この混合液をコンデンサーおよび攪拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し,混合攪拌しながら80℃で5時間加熱した後20℃で放置し,48時間後に水酸化ナトリウム水溶液でこのラテックスのpHを7.4に中和し,重合を完結しポリオルガノシロキサンラテックスを得た。得られたポリオルガノシロキサンの重合率は89.5%であり,ポリオルガノシロキサンの平均粒子径は0.16μmであった。
(参考例2) 複合ゴム系グラフト共重合体(C-1)の製造
上記ポリオルガノシロキサンラテックス(L-1)を33.5部採取し攪拌機を備えたセパラブルフラスコにいれ,蒸留水123.2部を加え,窒素置換をしてから50℃に昇温し,n-ブチルアクリレート73.5部,アリルメタクリレート1.5部およびtert-ブチルヒドロペルオキシド0.56部の混合液を仕込み30分間攪拌し,この混合液をポリオルガノシロキサン粒子に浸透させた。次いで,硫酸第1鉄0.002部,エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部,ロンガリット0.26部および蒸留水5部の混合液を仕込みラジカル重合を開始させ,その後内温70℃で2時間保持し重合を完了して複合ゴムラテックスを得た。このラテックスを一部採取し,複合ゴムの平均粒子径を測定したところ0.22μmであった。また,このラテックスを乾燥し固形物を得,トルエンで90℃,12時間抽出し,ゲル含量を測定したところ97.3重量%であった。
この複合ゴムラテックスに,tert-ブチルヒドロペルオキシド0.06部とメチルメタクリレート15部との混合液を70℃にて15分間にわたり滴下し,その後70℃で4時間保持し,複合ゴムへのグラフト重合を完了した。メチルメタクリレートの重合率は,96.4%であった。得られたグラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウム1.5重量%の熱水200部中に滴下し,凝固,分離し洗浄した後75℃で16時間乾燥し,粉末状の複合ゴム系グラフト共重合体を96.9部得た。」(【0045】?【0047】)
「(参考例4) 複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の製造
参考例1におけるポリオルガノシロキサンラテックス(L-1)を167.5部,蒸留水を27.5部,n-ブチルアクリレートを24.5部,アリルメタクリレートを0.5部およびtert-ブチルヒドロペルオキシドを0.19部にかえて複合ゴムラテックスを重合した以外は参考例1(審決注:「参考例2」の誤記と解する。)と同様にして複合ゴム系グラフト共重合体を得た。」(【0049】)
「(実施例1?3,比較例1?2(審決注:「実施例1?6,比較例1?4」の誤記と解する。)) 表1に示す割合で各成分を混合した後,この混合物を280℃,100rpmに設定した1軸押出機(スクリュー径65mmφ)にかけて溶融・混練してペレット化した。次いでこのペレットを射出成形して(設定温度280℃,金型温度80℃)成形品を製造した。得られた成形品についてアイゾット衝撃強度の測定および難燃性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。」(【0050】)
「【表1】

」(【0051】)

(2) 甲5に記載された発明
上記(1),特に【特許請求の範囲】,【0037】及び【0049】に記載された複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)を用いた実施例4についての摘記から,甲5には,次のとおりの発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「ポリカーボネート樹脂100重量部に対して,リン酸エステル系化合物1?20重量部と,ポリオルガノシロキサン成分30?99重量%とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分70?1重量%とからなりかつポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との合計量が100重量%である複合ゴムに1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合して得られる複合ゴム系グラフト共重合体0.1?50重量部と,滴下防止剤であるフッ素化ポリオレフィン0.05?1.0重量部とを含有する難燃性樹脂組成物の具体的な実施態様であって,
上記ポリカーボネート樹脂として日本GEプラスチック(株)製,レキサン,固有粘度0.5dl/g(塩化メチレン中,25℃)100重量部,
上記リン酸エステル系化合物としてトリフェニルホスフェート11重量部,
上記フッ素化ポリオレフィンとしてポリテトラフルオロエチレン(三井デュポンフロロケミカル社製)0.3重量部及び
上記複合ゴム系グラフト共重合体として下記工程a?dを経て製造された複合ゴム系グラフト共重合体(以下「複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)」という。)5重量部からなる難燃性樹脂組成物。
a テトラエトキシシラン2部,γ-メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン0.5部及びオクタメチルシクロテトラシロキサン97.5部を混合してシロキサン混合物を得る工程。
b ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸をそれぞれ1部を溶解した蒸留水200部に上記シロキサン混合物100部を加え,ホモミキサーにて10,000rpmで予備攪拌した後,ホモジナイザーにより300kg/cm^(2)の圧力で乳化,分散させ,オルガノシロキサンラテックスを得て,この混合液をコンデンサーおよび攪拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し,混合攪拌しながら80℃で5時間加熱した後20℃で放置し,48時間後に水酸化ナトリウム水溶液でこのラテックスのpHを7.4に中和し,重合を完結し,重合率89.5%,平均粒子径0.16μmのポリオルガノシロキサンラテックスを得る工程。
c 上記ポリオルガノシロキサンラテックスを167.5部採取し攪拌機を備えたセパラブルフラスコにいれ,蒸留水27.5部を加え,窒素置換をしてから50℃に昇温し,n-ブチルアクリレート24.5部,アリルメタクリレート0.5部及びtert-ブチルヒドロペルオキシド0.19部の混合液を仕込み30分間攪拌し,この混合液をポリオルガノシロキサン粒子に浸透させ,次いで,硫酸第1鉄0.002部,エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部,ロンガリット0.26部および蒸留水5部の混合液を仕込みラジカル重合を開始させ,その後内温70℃で2時間保持し重合を完了して複合ゴムラテックスを得る工程。
d 上記複合ゴムラテックスに,tert-ブチルヒドロペルオキシド0.06部とメチルメタクリレート15部との混合液を70℃にて15分間にわたり滴下し,その後70℃で4時間保持し,複合ゴムラテックスへのグラフト重合(メチルメタクリレートの重合率96.4%)を完了させ,次いで,得られたグラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウム1.5重量%の熱水200部中に滴下し,凝固,分離し洗浄した後75℃で16時間乾燥し,粉末状の複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)を得る工程。」

3 無効理由2A(新規性欠如)について
(1) 本件訂正発明1について
ア 一致点及び相違点
本件訂正発明1と甲5発明とを対比すると,甲5発明の複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の製造工程cで得られる「複合ゴムラテックス」は本件訂正発明1の「ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)」に,同工程dにおける「メチルメタクリレート」は「ビニル系単量体(b-2)」にそれぞれ相当するから,甲5発明の「複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)」は,本件訂正発明1の「ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合してえられるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体」に相当するといえる。
また,甲5発明の滴下防止剤であるフッ素化ポリオレフィンとしての「ポリテトラフルオロエチレン(三井デュポンフロロケミカル社製)」は,本件訂正発明1の「フッ素系樹脂」に相当する。
さらに,甲11から,甲5発明の複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の製造工程cで得られる複合ゴムラテックス(ポリオルガノシロキサン粒子(b-1))の平均粒子径が0.18μmである事実が認められ,この値は本件訂正発明1の「ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μm」を満足する。
ところで,甲5の実施例4に基づき認定した甲5発明における難燃性樹脂組成物全量100重量%に対するケイ素含有量は,「0.89重量%」と算出され(導出式は,甲6の記載に倣う。),この値は本件訂正発明1の「樹脂組成物全量100重量%に対してケイ素含有量が0.7?1.5重量%」を一応満足するが,後記4(1)イ(イ)で述べるように,甲5発明は,難燃性樹脂組成物全量100重量%に対するケイ素含有量が「0.7?1.5重量%」の範囲内にあるという条件と,複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)のポリカーボネート系樹脂100重量部あたりの含有量が「1?3重量部」の範囲内にあるという条件とを同時に満たすことができないものである。
なお,甲5発明は,リン酸エステル系化合物(トリフェニルホスフェート)を必須成分として含有するものであるが,上記1(2)イ(ウ)で述べたように,本件訂正発明1はリン酸エステル系化合物が添加されたものを排除していないといえるから,この点は,本件訂正発明1と甲5発明との相違点とはならない。
そうすると,本件訂正発明1と甲5発明との一致点及び相違点(相違点1)はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
ポリカーボネート系樹脂100重量部,ポリオルガノシロキサン粒子の存在下にビニル系単量体を重合してえられるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体及びフッ素系樹脂0.05?1重量部からなる樹脂組成物であって,ポリオルガノシロキサン粒子の平均粒子径が0.008?0.6μmの範囲にあるポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
・ 相違点1
本件訂正発明1はポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(複合ゴム系グラフト共重合体(C-3))のポリカーボネート系樹脂100重量部あたりの含有量を「1?3重量部」,樹脂組成物全量100重量%に対するケイ素含有量を「0.7?1.5重量%」と特定するのに対し,甲5発明は対応するそれぞれの値が「5重量部」,「0.89重量%」である点。
イ 相違点1についての検討
(ア) 本件訂正発明1と甲5発明とは,上述のとおり,少なくともポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の含有量の点で実質的に相違するから,両者は同一であるとはいえない。
(イ) 請求人は,甲5には,複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の含有量として「0.5?5重量部」の範囲のものが開示されているから,本件訂正発明1は甲5に記載された発明である旨主張する(口頭審理陳述要領書7頁)。
しかし,請求人が主張する如くの数値範囲は,複合ゴム系グラフト共重合体の含有量についての甲5の記載の中から任意の数値を恣意的に抽出して設定した範囲にすぎず,その設定には合理性を欠く。また,甲5発明が,難燃性樹脂組成物全量100重量%に対するケイ素含有量が「0.7?1.5重量%」の範囲内にあるという条件と,複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)のポリカーボネート系樹脂100重量部あたりの含有量が「1?3重量部」の範囲内にあるという条件を同時に満たすことができないものであるのは,上記アで述べたとおりである。
請求人の上記主張は,採用できない。
ウ 小括
以上のとおりであるから,本件訂正発明1は,甲5に記載された発明であるということはできない。

(2) 本件訂正発明2?7について
請求項2?7の記載は,請求項1を直接的又は間接的に引用するものである。そして,請求項1に係る本件訂正発明1が甲5に記載された発明であるといえないのは上述のとおりであるから,請求項2?7に係る本件訂正発明2?7についても同様に,甲5に記載された発明であるということはできない。

(3) まとめ
以上のとおりであるから,請求人の主張に係る無効理由2Aには,理由がない。

4 無効理由2B(進歩性欠如)について
(1) 本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲5発明との一致点及び相違点(相違点1)は,上記3(1)アで認定のとおりである。
イ 相違点1について検討する。
(ア) 甲5発明は,上記2(2)でも認定のとおり,「ポリカーボネート樹脂100重量部に対して,リン酸エステル系化合物1?20重量部と,ポリオルガノシロキサン成分30?99重量%とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分70?1重量%とからなりかつポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との合計量が100重量%である複合ゴムに1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合して得られる複合ゴム系グラフト共重合体0.1?50重量部と,滴下防止剤であるフッ素化ポリオレフィン0.05?1.0重量部とを含有する難燃性樹脂組成物」の具体的な実施態様(すなわち,甲5の実施例4で使用される難燃性樹脂組成物)をその発明とするものであって,複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の含有量については,「0.1?50重量部」の数値範囲から「5重量部」を選択したものである。
(イ) ところで,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(複合ゴム系グラフト共重合体(C-3))のポリカーボネート系樹脂100重量部あたりの含有量が「5重量部」である甲5発明において,難燃性樹脂組成物全量100重量%に対するケイ素含有量は,甲6記載の導出式に倣うと,0.89重量%と算出されるところ(上記3(1)),甲5発明において複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)のポリカーボネート系樹脂100重量部あたりの含有量を「3重量部」としたとき,甲6から,上記ケイ素含有量は0.54重量%と算出される。すなわち,甲5発明の複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)のポリカーボネート系樹脂100重量部あたりの含有量を,本件訂正発明1が特定する範囲である「1?3重量部」としたときには,上記ケイ素含有量は0.54重量%よりも小さい値となり,本件訂正発明1の特定事項である「樹脂組成物全量100重量%に対してケイ素含有量が0.7?1.5重量%」をもはや満たさないものとなる。
そうすると,甲5発明において,難燃性樹脂組成物全量100重量%に対するケイ素含有量を「0.7?1.5重量%」の範囲としつつ,複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)のポリカーボネート系樹脂100重量部あたりの含有量を「1?3重量部」とすることはできないのであるから,甲5発明から相違点1に係る構成を想到することが容易であるということはできない。
さらに,本件訂正発明1は,上記1(2)イで述べたように,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の含有割合を1?3重量部としても,樹脂組成物中のケイ素含有量を組成物全量100重量%に対して0.7?1.5重量%になるように組成を調整したポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を用いることで,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体量が少ない量(1?3重量部)でも高い難燃性を発現させ,コスト・成形加工性に有利なポリカーボネート系難燃性樹脂組成物を得ることを解決課題とするものであるところ,甲5を含めた証拠からは,樹脂組成物全量に対するケイ素含有量に着目し,当該含有量を適宜設定することで本件訂正発明1と同様の課題が解決できることが本件の出願時に当業者に自明であると認めることができない。さすれば,甲5発明の複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)について,その組成を適宜調整して,難燃性樹脂組成物全量100重量%に対するケイ素含有量が「0.7?1.5重量%」の範囲内にあるという条件と,複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)のポリカーボネート系樹脂100重量部あたりの含有量が「1?3重量部」の範囲内にあるという条件とを同時に満たすようにすることは,もはや後知恵といわざるを得ない。
(ウ) また,相違点1に係る構成は,以下述べることからも想到容易であるということはできない。
甲10は,甲5の実施例4(すなわち甲5発明の樹脂組成物を使用して成形された成形品)及び同実施例4における複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の配合量を3部,4.5部及び6部に変更した以外は同様にして製造された成形品の難燃性,耐衝撃性及び成形加工性を測定することを実験の目的とするものであるところ,甲10の実験結果(表1)によれば,試験3(甲5の実施例4に相当。配合量:5重量部)と試験2(配合量:4.5重量部)の間に,難燃性(燃焼時間)及び耐衝撃性の点で大きな相違は認められないものの,他方で,試験1(配合量:3重量部)は,試験3に比し,難燃性(燃焼時間)及び耐衝撃性が大きく劣るものであることが認められる。
そうすると,甲5発明は,甲5の【0004】にも記載があるように,耐衝撃性に優れかつ優れた難燃性を有するポリカーボネート樹脂系樹脂組成物を得ることを解決課題とするものであることを踏まえると,ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(複合ゴム系グラフト共重合体(C-3))のポリカーボネート系樹脂100重量部あたりの含有量が「5重量部」である甲5発明において,上記含有量を「4.5重量部」(審決注:甲6から,このときの上記ケイ素含有量は0.81重量%と算出される。)に変更することは当業者であれば想到容易であるといえるものの,その含有量を「3重量部」ないしはそれ以下の値に変更することは,難燃性(燃焼時間)及び耐衝撃性という効果を減じてしまうことになるため,阻害要因があると判断される。
すなわち,甲5には,確かに複合ゴム系グラフト共重合体の含有量について,「0.1?50重量部」の数値範囲を採用しうる旨の記載はあるが,特定の複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)を用いてなる甲5発明(難燃性樹脂組成物)において,その含有量を「0.1?50重量部」の数値範囲で設定しようとする当業者は,「3重量部」ないしはそれ以下の値に設定したときに難燃性(燃焼時間)及び耐衝撃性が大きく劣るものとなることを甲10と同様の実験などから容易に理解するはずであり,しかも上述のとおり,甲5発明は耐衝撃性に優れかつ優れた難燃性を有するポリカーボネート樹脂系樹脂組成物を得ることを解決課題とするものであるから,当業者は,難燃性(燃焼時間)及び耐衝撃性という効果を減じてしまうことになるような範囲は選択しないというべきである。
(エ) 請求人は,一般に難燃剤は耐衝撃性を低下させることが知られていること(甲12?13),甲5発明からトリフェニルホスフェート(リン酸エステル系化合物)を除きかつ複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の含有量を「3重量部」としたものは,甲5発明に比して耐衝撃性の低下がないこと(甲14),を根拠に,耐衝撃性の低下はリン酸エステル系化合物の存在によるものであって,複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の含有量の変更に起因するものではないから,甲5発明における複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の含有量を「5重量部」から「3重量部」に変更することに阻害事由はない旨主張する(平成27年7月30日付け審判事件弁駁書2?4頁)。
しかし,甲5の記載を総合すると,甲5発明はリン酸エステル系化合物(トリフェニルホスフェート)を必須成分として含有するものであるから,甲5発明からこのような必須成分を除いたものを前提とする請求人の主張は採用できない。しかも,甲10から,トリフェニルホスフェート(リン酸エステル系化合物)を含有させたものについては,複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の含有量の変更(減少)に起因して耐衝撃性が低下する事実が認められることを踏まえると,耐衝撃性の低下は複合ゴム系グラフト共重合体(C-3)の含有量の変更に起因するものではないとの請求人の上記主張は根拠がなく失当である。
ウ そうすると,本件訂正発明1は,甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2) 本件訂正発明2?7について
請求項2?7の記載は,請求項1を直接的又は間接的に引用するものである。そして,請求項1に係る本件訂正発明1が甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないのは上述のとおりであるから,請求項2?7に係る本件訂正発明2?7についても同様に,甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

(3) まとめ
以上のとおりであるから,請求人の主張に係る無効理由2Bには,理由がない。

第7 むすび
以上のとおり,請求人の主張する無効理由2A及び2Bにはいずれも理由がないから,本件特許1?7を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリカーボネート系難燃性樹脂組成物
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリカーボネート系難燃性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネート系樹脂は、優れた耐衝撃性、耐熱性、電気的特性などにより、電気・電子部品、OA機器、家庭用品あるいは建築材料として広く用いられている。ポリカーボネート系樹脂は、ポリスチレン系樹脂などに比べると高い難燃性を有しているが、電気・電子部品、OA機器などの分野を中心に、高い難燃性を要求される分野については、そのままでは難燃性が不十分で、各種難燃剤の添加により、その改善が図られている。例えば、有機ハロゲン系化合物や有機リン系化合物の添加が従来広く行なわれている。しかし、有機ハロゲン系化合物や有機リン系化合物の多くは毒性の面で問題があり、特に有機ハロゲン系化合物は、燃焼時に腐食性ガスを発生するという問題があった。このようなことから、近年、非ハロゲン・非リン系難燃剤による難燃化の要求が高まりつつある。
【0003】
非ハロゲン・非リン系難燃剤としては、ポリオルガノシロキサン系化合物(シリコーンともいう)の利用が提案されている。たとえば、特開昭54-36365号公報には、モノオルガノポリシロキサンからなるシリコーン樹脂をポリカーボネート系樹脂に混錬することで難燃性樹脂がえられることが記載されている。
【0004】
最近、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が、前記シリコーン樹脂などより高い難燃性付与効果があるとして、注目されている。たとえば、特開2000-17029号公報には、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとからなる複合ゴムにビニル系単量体をグラフト重合した複合ゴム系難燃剤をポリカーボネート系樹脂に配合することでポリカーボネート系難燃性樹脂組成物が得られることが記載されている。
【0005】
特開2000-226420号公報には、芳香族基を有するポリオルガノシロキサンとビニル系重合体との複合粒子にビニル系単量体をグラフトしたポリオルガノシロキサン系難燃剤をポリカーボネート系樹脂に配合することでポリカーボネート系難燃性樹脂組成物が得られることが記載されている。
【0006】
特開2000-264935号公報には、0.2μm以下のポリオルガノシロキサン粒子にビニル系単量体をグラフト重合したポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体をポリカーボネート系樹脂に配合することでポリカーボネート系難燃性樹脂組成物が得られることが記載されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら前記公報記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物では、ポリカーボネート系樹脂100重量部にポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を5重量部以上配合しないと高い難燃性が得られない。このため、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体を多量に使用することで難燃性組成物のコストが上昇するとともに、成形加工性なども悪くなるという問題があった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題について鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート系樹脂、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体、フッ素系樹脂および酸化防止剤からなる樹脂組成物において、該樹脂組成物中のケイ素含有量を特定量になるようにすれば、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体量が従来よりも少ない量で高い難燃性を発現し、コスト・成形加工性に有利なポリカーボネート系難燃性樹脂組成物がえられることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(A)ポリカーボネート系樹脂100重量部、(B)ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合してえられるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1?3重量部、(C)フッ素系樹脂0.05?1重量部および(D)酸化防止剤0?2重量部からなる樹脂組成物であって、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmであり、該樹脂組成物全量100重量%に対してケイ素含有量が0.7?1.5重量%であるポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項1)、
ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmであり、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)40?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)60?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項2)、
ポリオルガノシロキサン粒子の変動係数が10?70%である請求項1又は2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項3)、
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)60?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)40?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1または2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項4)、
ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)がラテックス状である請求項1、2または4記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項5)、
ビニル系単量体(b-2)が該ビニル系単量体の重合体の溶解度パラメータ9.15?10.15(cal/cm3)1/2である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項6)及び
ビニル系単量体(b-2)が芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基含有ビニル系単量体よりなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体である請求項1、2、4または5記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物(請求項7)に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート系樹脂100部(重量部、以下同様)、(B)ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合してえられるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1?4.5部、(C)フッ素系樹脂0.05?1部および(D)酸化防止剤0?2部からなる樹脂組成物であって、かつ該樹脂組成物全量100%(重量%、以下同様)に対してケイ素含有量が0.3?1.5%であるものである。
【0011】
本発明のポリカーボネート系樹脂(A)は、ポリカーボネートを50%以上、さらには70%以上含んだ混合樹脂組成物を含む
前記ポリカーボネート系樹脂(A)の好ましい具体例としては、経済的な面および難燃性-耐衝撃性バランスが良好な点から、ポリカーボネート、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート混合樹脂およびポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート混合樹脂などのポリカーボネート/ポリエステル混合樹脂、ポリカーボネート/アクリロニトリル-スチレン共重合体混合樹脂、ポリカーボネート/ブタジエンゴム-スチレン共重合体(HIPS樹脂)混合樹脂、ポリカーボネート/アクリロニトリル-ブタジエンゴム-スチレン共重合体(ABS樹脂)混合樹脂、ポリカーボネート/アクリロニトリル-ブタジエンゴム-α-メチルスチレン共重合体混合樹脂、ポリカーボネート/スチレン-ブタジエンゴム-アクリロニトリル-N-フェニルマレイミド共重合体混合樹脂、ポリカーボネート/アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)混合樹脂などを用いることができる。また、混合樹脂同士をさらに混合して使用してもよい。また、ポリカーボネート樹脂およびポリカーボネートを含んだ混合樹脂に使用されるポリカーボネートの粘度平均分子量は、10000?50000、さらには15000?25000のものが成形加工性の点から好ましい。
【0012】
前記ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(B)は、難燃剤として用いる成分であり、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合して得られる。
【0013】
前記ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(B)に使用される前記ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)は、難燃性の発現の点から、光散乱法または電子顕微鏡観察から求められる平均粒子径が0.008?0.6μm、さらには0.008?0.2μm、さらには0.01?0.15μm、とくには、0.01?0.1μmであることが好ましい。該平均粒子径が0.008μm未満のものをうることは困難な傾向にあり、0.6μmをこえるばあいには、難燃性が悪くなる傾向にある。該ポリオルガノシロキサン粒子の粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/平均粒子径)(%)は、本発明の難燃剤を配合した樹脂組成物の成形体表面外観が良好という点で、好ましくは10?70%、さらには好ましくは20?60%、とくに好ましくは20?50%に制御するのが望ましい。
【0014】
なお、本発明における、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)は、ポリオルガノシロキサンのみからなる粒子だけでなく、他の(共)重合体を5%以下を含んだ変性ポリオルガノシロキサンであってもよい。すなわち、ポリオルガノシロキサン粒子は、粒子中に、たとえば、ポリアクリル酸ブチル、アクリル酸ブチル-スチレン共重合体などを5%以下含有してもよい。
【0015】
前記ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の具体例としては、ポリジメチルシロキサン粒子、ポリメチルフェニルシロキサン粒子、ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサン共重合体粒子などがあげられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
前記ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)は、たとえば、オルガノシロキサンおよび(または)2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物、必要に応じて使用される3官能以上のシラン化合物などからなるポリオルガノシロキサン形成成分を重合することによりうることができる。
【0017】
前記オルガノシロキサンおよび(または)2官能シラン化合物は、ポリオルガノシロキサン鎖の主骨格を構成する成分であり、オルガノシロキサンの具体例としては、たとえばヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン(D7)、ヘキサデカメチルシクロオクタシロキサン(D8)など、2官能シラン化合物の具体例としては、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルメチルジメトキシシラン、トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメチルジメトキシシランなどがあげられる。これらのなかでは、経済性および難燃性が良好という点からD4またはD3?D7の混合物もしくはD3?D8の混合物を70?100%、さらには80?100%を含み、残りの成分としてはジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどを0?30%、さらには0?20%含むものが好ましく用いられる。
【0018】
前記ビニル系重合性基含有シラン化合物は、前記オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、3官能以上のシラン化合物などと共重合し、共重合体の側鎖または末端にビニル系重合性基を導入するための成分であり、このビニル系重合性基は後述するビニル系単量体(b-2)から形成されるビニル系(共)重合体と化学結合する際のグラフト活性点として作用する。さらには、ラジカル重合開始剤によってグラフト活性点間をラジカル反応させて架橋結合を形成させることができ架橋剤としても使用できる成分でもある。このときのラジカル重合開始剤は後述のグラフト重合において使用されうるものと同じものが使用できる。なお、ラジカル反応によって架橋させたばあいでも、一部はグラフト活性点として残るのでグラフトは可能である。
【0019】
前記ビニル系重合性基含有シラン化合物の具体例としては、たとえば、γ-メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、γ-アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどの(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン化合物、p-ビニルフェニルジメトキシメチルシラン、p-ビニルフェニルトリメトキシシランなどのビニルフェニル基含有シラン化合物、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有シラン化合物、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルジメトキシメチルシランなどのメルカプト基含有シラン化合物があげられる。これらのなかでは(メタ)アクリロイルオキシ基含有シラン化合物、ビニル基含有シラン化合物、メルカプト基含有シラン化合物が経済性の点から好ましく用いられる。
【0020】
なお、前記ビニル系重合性基含有シラン化合物がトリアルコキシシラン型であるばあいには、次に示す3官能以上のシラン化合物の役割も有する。
【0021】
前記3官能以上のシラン化合物は、前記オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物などと共重合することによりポリオルガノシロキサンに架橋構造を導入してゴム弾性を付与するための成分、すなわちポリオルガノシロキサンの架橋剤として用いられる。具体例としては、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシランなどの4官能、3官能のアルコキシシラン化合物などがあげられる。これらのなかではテトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシランが架橋効率の高さの点から好ましく用いられる。
【0022】
前記オルガノシロキサン、2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物、および3官能以上のシラン化合物の重合時の使用割合は、通常、オルガノシロキサンおよび/または2官能シラン化合物(オルガノシロキサンと2官能シラン化合物との割合は、通常重量比で100/0?0/100、さらには100/0?70/30)50?99.9%、さらには60?99%、ビニル系重合性基含有シラン化合物0?40%、さらには0.5?30%、3官能以上のシラン化合物0?50%、さらには0.5?39%であるのが好ましい。なお、ビニル系重合性基含有シラン化合物、3官能以上のシラン化合物は同時に0%になることはなく、いずれかは0.1%以上使用するのが好ましい。
【0023】
前記オルガノシロキサンおよび2官能シラン化合物の使用割合があまりにも少なすぎるばあいには、配合して得られた樹脂組成物が脆くなる傾向がある。また、あまりにも多いばあいは、ビニル系重合性基含有シラン化合物および3官能以上のシラン化合物の量が少なくなりすぎて、これらを使用する効果が発現されにくくなる傾向にある。また、前記ビニル系重合性基含有シラン化合物あるいは前記3官能以上のシラン化合物の割合があまりにも少ないばあいには、難燃性の発現効果が低くなり、また、あまりにも多いばあいには、配合して得られた樹脂組成物が脆くなる傾向がある。
【0024】
前記ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)は、たとえば、前記オルガノシロキサンおよび(または)2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物、必要に応じて使用される3官能以上のシラン化合物からなるポリオルガノシロキサン形成成分を乳化重合することにより製造することが好ましい。
【0025】
前記乳化重合は、たとえば、前記ポリオルガノシロキサン形成成分および水を乳化剤の存在下で機械的剪断により水中に乳化分散して酸性状態にすることで行なうことができる。このばあい、機械的剪断により数μm以上の乳化液滴を調製したばあい、重合後にえられるポリオルガノシロキサン粒子の平均粒子径は使用する乳化剤の量により0.02?0.6μmの範囲で制御することができる。また、えられる粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/平均粒子径)(%)は20?70%を得ることができる。
【0026】
また、0.1μm以下で粒子径分布の狭いポリオルガノシロキサン粒子を製造するばあい、多段階で重合することが好ましい。たとえば前記ポリオルガノシロキサン形成成分、水および乳化剤を機械的剪断により乳化してえられた、数μm以上の乳化液滴からなるエマルジョンの1?20%を先に酸性状態で乳化重合し、えられたポリオルガノシロキサン粒子をシードとしてその存在下で残りのエマルジョンを追加して重合する。このようにしてえられたポリオルガノシロキサン粒子は、乳化剤の量により平均粒子径が0.02?0.1μmで、かつ粒子径分布の変動係数が10?60%に制御可能である。さらに好ましい方法は、該多段重合において、ポリオルガノシロキサン粒子のシードの代わりに、後述するグラフト重合時に用いるビニル系単量体(例えばスチレン、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルなど)を通常の乳化重合法により(共)重合してなるビニル系(共)重合体を用いて同様の多段重合を行なうと、えられるポリオルガノシロキサン(変性ポリオルガノシロキサン)粒子の平均粒子径は乳化剤量により0.008?0.1μmでかつ粒子径分布の変動係数が10?50%に制御できる。
【0027】
なお、前記数μm以上の乳化液滴は、ホモミキサーなど高速撹拌機を使用することにより調製することができる。
【0028】
前記乳化重合では、酸性状態下で乳化能を失わない乳化剤が用いられる。具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸ナトリウム、(ジ)アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウムなどがあげられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかで、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸ナトリウム、(ジ)アルキルスルホコハク酸ナトリウムがエマルジョンの乳化安定性が比較的高いことから好ましい。さらに、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルスルホン酸はポリオルガノシロキサン形成成分の重合触媒としても作用するので特に好ましい。
【0029】
酸性状態は、系に硫酸や塩酸などの無機酸やアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸を添加することでえられ、pHは生産設備を腐食させないことや適度な重合速度がえられるという点で1?3に調整することが好ましく、さらに1.0?2.5に調整することがより好ましい。
【0030】
重合のための加熱は適度な重合速度がえられるという点で60?120℃が好ましく、70?100℃がより好ましい。
【0031】
なお、酸性状態下ではポリオルガノシロキサンの骨格を形成しているSi-O-Si結合は切断と生成の平衡状態にあり、この平衡は温度によって変化するので、ポリオルガノシロキサン鎖の安定化のために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液の添加により中和することが好ましい。さらには、該平衡は、低温になるほど生成側により、高分子量または高架橋度のものが生成しやすくなるので、高分子量または高架橋度のものをうるためには、ポリオルガノシロキサン形成成分の重合を60℃以上で行ったあと室温以下に冷却して5?100時間程度保持してから中和することが好ましい。
【0032】
かくして、えられるポリオルガノシロキサン粒子は、たとえば、オルガノシロキサンおよび(または)2官能シラン化合物、ビニル系重合性基含有シラン化合物から形成されたばあい、それらは通常ランダムに共重合してビニル系重合性基を有した重合体となる。また、3官能以上のシラン化合物を共重合したばあい、架橋された網目構造を有したものとなる。さらに、後述するグラフト重合時に用いられるようなラジカル重合開始剤によってビニル系重合性基間をラジカル反応により架橋させたばあい、ビニル系重合性基間が化学結合した架橋構造を有し、かつ一部未反応のビニル系重合性基が残存したものとなる。該ポリオルガノシロキサン粒子のトルエン不溶分量(該粒子0.5gをトルエン80mlに室温で24時間浸漬したばあいのトルエン不溶分量)は、難燃効果の点から、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。
【0033】
前記プロセスでえられたポリオルガノシロキサン粒子にビニル系単量体(b-2)をグラフト重合させることによりポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体からなる難燃剤がえられる。
【0034】
前記難燃剤は、前記ポリオルガノシロキサン粒子にビニル系単量体(b-2)がグラフトした構造のものであり、そのグラフト率は5?150%、さらには15?120%のものが、難燃性-耐衝撃性のバランスが良好な点から好ましい。
【0035】
前記ビニル系単量体(b-2)は、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体からなる難燃剤をうるために使用される成分であるが、さらには該難燃剤を熱可塑性樹脂に配合して難燃化を付与するばあいに、難燃剤と熱可塑性樹脂との相溶性を確保して熱可塑性樹脂に難燃剤を均一に分散させるために使用される成分でもある。このため、ビニル系単量体(b-2)としては、該ビニル系単量体の重合体の溶解度パラメーターが9.15?10.15((cal/cm^(3))^(1/2)、以下、単位省略)、さらには9.17?10.10、とくには9.20?10.05であるように選ばれることが好ましい。溶解度パラメーターが前記範囲から外れると難燃性が低下する傾向にある。
【0036】
なお、溶解度パラメーターは、John Wiley&Son社出版「ポリマーハンドブック」1999年、第4版、セクションVII第682?685頁)に記載のグループ寄与法でSmallのグループパラメーターを用いて算出した値である。たとえば、ポリメタクリル酸メチル(繰返単位分子量100g/mol、密度=1.19g/cm^(3)として(以下、単位省略))9.25、ポリアクリル酸ブチル(同128、1.06として)8.97、ポリメタクリル酸ブチル(同142、1.06として)9.47、ポリスチレン(同104、1.05として)9.03、ポリアクリロニトリル(同53、1.18として)12.71である。なお、各重合体の密度は、VCH社出版の「ウルマンズ エンサイクロペディア オブ インダストリアル ケミストリー(ULLMANN’S ENCYCLOPEDIA OF INDUSTRIAL CHEMISTRY)」1992年、、第A21巻、第169頁記載の値を用いた。また、共重合体の溶解度パラメーターδcは、重量分率5%未満の場合は主成分の値を用い、重量分率5%以上の場合では重量分率で加成性が成立するとした。すなわち、m種類のビニル系単量体からなる共重合体を構成する個々のビニル系単量体の単独重合体の溶解度パラメーターδnとその重量分率Wnとから式(1)により算出できる。
【0037】
【数1】

たとえば、スチレン75%とアクリロニトリル25%からなる共重合体の溶解度パラメーターは、ポリスチレンの溶解度パラメーター9.03、とポリアクリロニトリルの溶解度パラメーター12.71を用いて式(1)に代入して9.95の値がえられる。
【0038】
また、ビニル系単量体を2段階以上で、かつ各段階においてビニル系単量体の種類を変えて重合してえられるビニル系重合体の溶解度パラメーターδsは、最終的にえられたビニル系重合体の全重量を各段階でえられたビニル系重合体の重量で割った値、すなわち重量分率で加成性が成立するとした。すなわち、q段階で重合し、各段階でえられた重合体の溶解度パラメータδiとその重量分率Wiとから式(2)により算出できる。
【0039】
【数2】

たとえば、2段階で重合し、1段階目にスチレン75%とアクリロニトリル25%からなる共重合体が50部えられ、2段階目にメタクリル酸メチルの重合体が50部えられたとすると、この2段階の重合でえられた重合体の溶解度パラメーターは、スチレン(75%)-アクリロニトリル(25%)共重合体の溶解度パラメーター9.95とポリメタクリル酸メチルの溶解度パラメーター9.25を用いて式(2)に代入して9.60の値がえられる。
【0040】
ビニル系単量体(b-2)の使用量は、前記ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)40?90%、さらには50?80%、とくには50?75%に対して合計量が100%になるように、60?10%、さらには50?20%、とくには50?25%であることが好ましい。
【0041】
前記ビニル系単量体(b-2)の使用量が多すぎるばあい、少なすぎるばあい、いずれも、難燃性が十分発現しなくなる傾向にある。
【0042】
前記ビニル系単量体(b-2)としては、たとえばスチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、パラブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有ビニル系単量体などがあげられる。これらは、前述したように重合体の溶解度パラメーターが前記記載の範囲に入る限り、単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
前記グラフト重合は、通常のシード乳化重合が適用でき、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)のラテックス中で前記ビニル系単量体(b-2)のラジカル重合を行なえばよい。また、ビニル系単量体(b-2)は、1段階で重合させてもよく2段階以上で重合させてもよい。
【0044】
前記ラジカル重合としては、ラジカル重合開始剤を熱分解することにより反応を進行させる方法でも、また、還元剤を使用するレドックス系での反応などとくに限定なく行なうことができる。
【0045】
ラジカル重合開始剤の具体例としては、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシラウレイト、ラウロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、シクロヘキサンノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどの有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などがあげられる。このうち、反応性の高さから有機過酸化物または無機過酸化物が特に好ましい。
【0046】
また、前記レドックス系で使用される還元剤としては硫酸第一鉄/グルコース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/デキストロース/ピロリン酸ナトリウム、または硫酸第一鉄/ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート/エチレンジエアミン酢酸塩などの混合物などがあげられる。
【0047】
前記ラジカル重合開始剤の使用量は、用いられるポリオルガノシロキサン粒子(b-1)100部に対して、通常、0.005?20部、さらには0.01?10部であり、とくには0.03?5部であるのが好ましい。前記ラジカル重合開始剤の量が0.005部未満のばあいには反応速度が低く、生産効率がわるくなる傾向があり、20部をこえると反応中の発熱が大きくなり生産が難しくなる傾向がある。
【0048】
また、ラジカル重合の際に要すれば連鎖移動剤も使用できる。該連鎖移動剤は通常の乳化重合で用いられているものであればよく、とくに限定はされない。
【0049】
前記連鎖移動剤の具体例としては、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタンなどがあげられる。
【0050】
連鎖移動剤は任意成分であるが、使用するばあいの使用量は、ビニル系単量体(b-2)100部に対して0.01?5部であることが好ましい。前記連鎖移動剤の量が0.01部未満のばあいには用いた効果がえられず、5部をこえると重合速度が遅くなり生産効率が低くなる傾向がある。
【0051】
また、重合時の反応温度は、通常30?120℃であるのが好ましい。
【0052】
前記重合では、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)がビニル系重合性基を含有するばあいにはビニル系単量体(b-2)がラジカル重合開始剤によって重合する際に、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)のビニル系重合性基と反応することにより、グラフトが形成される。ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)にビニル重合性基が存在しないばあい、特定のラジカル開始剤、たとえばt-ブチルパーオキシラウレートなどを用いれば、ケイ素原子に結合したメチル基などの有機基から水素を引く抜き、生成したラジカルによってビニル系単量体(b-2)が重合しグラフトが形成される。
【0053】
また、ビニル系単量体(b-2)のうちの0.1?10%、好ましくは0.5?5%をビニル系重合性基含有シラン化合物を用いて重合し、pH5以下の酸性状態下で再分配反応させてもグラフトが生成する。これは、酸性状態ではポリオルガノシロキサンの主骨格のSi-O-Si結合は、切断と生成の平衡状態にあるので、この平衡状態でビニル系単量体とビニル系重合性基含有シラン化合物を共重合すると、重合によって生成中あるいは生成したビニル系共重合体の側鎖のシランがポリオルガノシロキサン鎖と反応してグラフトが生成するのである。該ビニル系重合性基含有シラン化合物は、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の製造時に必要あれば使用されるものと同じものでよく、該ビニル系重合性基含有シラン化合物の量が0.1%未満のばあいには、ビニル系単量体(b-2)のグラフトする割合が低下し、10%をこえるばあいには、ラテックスの安定性が低くなる傾向にある。
【0054】
なお、ポリオルガノシロキサン粒子の存在下でのビニル系単量体(b-2)の重合では、グラフト共重合体の枝にあたる部分(ここでは、ビニル系単量体(b-2)の重合体)が幹成分(ここではポリオルガノシロキサン粒子(b-1))にグラフトせずに枝成分だけで単独に重合してえられるいわゆるフリーポリマーも副生し、グラフト共重合体とフリーポリマーの混合物としてえられるが、本発明においてはこの両者を併せてグラフト共重合体という。
【0055】
乳化重合によってえられたグラフト共重合体からなる難燃剤は、ラテックスのまま使用してもよいが、適用範囲が広いことから、ラテックスからポリマーを分離して粉体として使用することが好ましい。ポリマーを分離する方法としては、通常の方法、たとえばラテックスに塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩を添加することによりラテックスを凝固、分離、水洗、脱水し、乾燥する方法があげられる。また、スプレー乾燥法も使用できる。
【0056】
かくして難燃剤として使用されるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(B)は得られる。
【0057】
前記フッ素系樹脂(C)は、フッ素原子を有する重合体樹脂であり、燃焼時の滴下防止剤として使用される成分である。滴下防止効果が大きい点で好ましい具体例としては、ポリモノフルオロエチレン、ポリジフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロエチレン共重合体などのフッ素化ポリオレフィン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂などをあげることができる。さらに、フッ素化ポリオレフィン樹脂が好ましく、とくに平均粒子径が700μm以下のフッ素化ポリオレフィン樹脂が好ましい。ここでいう平均粒子径とフッ素化ポリオレフィン樹脂の一次粒子が凝集して形成される二次粒子の平均粒子径をいう。さらにフッ素化ポリオレフィン樹脂で好ましくは、密度と嵩密度の比(密度/嵩密度)が6.0以下のフッ素化ポリオレフィン樹脂である。ここでいう密度と嵩密度とはJIS-K6891に記載されている方法にて測定したものである。フッ素系樹脂(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
前記酸化防止剤(D)は、本発明においては、成形時の樹脂の酸化分解を抑制することを目的とするだけでなく、難燃性を向上させることも目的とする成分である。酸化防止剤は、通常の成形時に使用されるものであれば、特に限定されない。具体例としては、トリス[N-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)]イソシアヌレート(旭電化株式会社製、アデカスタブAO-20など)、テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、イルガノックス1010など)、ブチリデン-1,1-ビス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチル-フェニル)(旭電化株式会社製、アデカスタブAO-40など)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン(吉冨ファインケミカル株式会社製、ヨシノックス930など)などのフェノール系酸化防止剤、ビス(2,6,ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト(旭電化株式会社製、アデカスタブPEP-36など)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(旭電化株式会社製、アデカスタブ2112など)、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト(旭電化株式会社製、アデカスタブHP-10など)などのリン系酸化防止剤、ジラウリル3,3’-チオ-ジプロピオネート(吉冨ファインケミカル株式会社製、ヨシノックスDLTP)、ジミリスチル3,3’-チオ-ジプロピオネート(吉冨ファインケミカル株式会社製、ヨシノックスDMTP)などのイオウ系酸化防止剤などがあげられる。
【0059】
本発明のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物は、前記ポリカーボネート系樹脂(A)100部に対して、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(B)1?4.5部、好ましくは2?3部、フッ素系樹脂(C)0.05?1部、好ましくは0.1?0.5部、酸化防止剤(D)0?2部、好ましくは0.1?1部を配合することにより得られる。但し、組成物全量100%に対して、ケイ素含有量が0.3?1.5%、好ましくは0.7?1.4%になるようにポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体の組成を調整する必要がある。ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(B)の使用量が少なすぎると、組成物中のケイ素含有量が少なくなりすぎ難燃性が低下する傾向にあり、また多すぎると組成物中のケイ素含有量が多くなりすぎ、成形加工性が悪くなる傾向にあるばかりでなく、コストアップにつながり市場での価値が低くなる傾向にある。なお、ケイ素含有量の分析的な確認は元素分析法により行なうことができる。また、フッ素系樹脂(C)の使用量が少なすぎると難燃性が低下する傾向にあり、多すぎると成形体の表面が荒れやすくなる傾向にある。また、酸化防止剤(D)の使用量が少なすぎると難燃性の向上作用が小さくなり、多すぎると成形性が低下する傾向にある。
【0060】
本発明のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物を製造するための方法は、特に限定はなく、通常の方法が使用できる。たとえば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ロール、押出機、ニーダーなどで混合する方法があげられる。
【0061】
このとき、通常使用される配合剤、すなわち可塑剤、安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、顔料、ガラス繊維、充填剤、高分子加工助剤、高分子滑剤、耐衝撃性改良剤などを配合することができる。高分子加工助剤の好ましい具体例は、メタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル共重合体などのメタクリレート系(共)重合体があげられ、耐衝撃性改良剤の好ましい具体例は、ブタジエンゴム系耐衝撃性改良剤(MBS樹脂)、アクリル酸ブチルゴム系耐衝撃性改良剤、アクリル酸ブチルゴム/シリコーンゴムの複合ゴム系耐衝撃性改良剤などがあげられる。また、他の難燃剤も併用してもよい。たとえば、併用する難燃剤の好ましい具体例は、トリフェニルホスフェート、縮合リン酸エステル、安定化赤リンなどのリン系化合物、シアヌル酸、シアヌル酸メラミンなどのトリアジン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛などのホウ素系化合物などがあげられる。これらの配合剤の好ましい使用量は、効果-コストのバランスの点から熱可塑性樹脂100部に対して、0.1?20部、さらには0.2?10部、とくには0.3?5部である。
【0062】
えられたポリカーボネート系難燃性樹脂組成物の成形法としては、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる成形法、すなわち、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法などを適用することができる。
【0063】
本発明のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物から得られる成形品の用途としては、特に限定されないが、たとえば、デスクトップ型コンピューター、ノート型コンピューター、タワー型コンピューター、サーバー型コンピューター、プリンター、コピー機、FAX機、携帯電話、PHS、TV、ビデオデッキ等の各種OA/情報/家電機器のハウジングおよびシャーシー部品、各種建材部材および各種自動車部材などの難燃性が必要となる用途があげられる。
【0064】
【実施例】
本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。
【0065】
なお、以下の実施例および比較例における測定および試験はつぎのように行った。
[重合転化率]
ラテックスを120℃の熱風乾燥器で1時間乾燥して固形成分量を求めて、100×固形成分量/仕込み単量体量(%)で算出した。
[トルエン不溶分量]
ラテックスから乾燥させてえられたポリオルガノシロキサン粒子の固体0.5gを室温にてトルエン80mlに24時間浸漬し、12000rpmにて60分間遠心分離してポリオルガノシロキサン粒子のトルエン不溶分の重量分率(%)を測定した。
[グラフト率]
グラフト共重合体1gを室温にてアセトン80mlに48時間浸漬し、12000rpmにて60分間遠心分離して求めたグラフト共重合体の不溶分量(w)を求め、次式によりグラフト率を算出した。
【0066】

[平均粒子径]
ポリオルガノシロキサン粒子およびグラフト共重合体の平均粒子径をラテックスの状態で測定した。測定装置として、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いて、光散乱法により数平均粒子径(μm)および粒子径分布の変動係数(100×標準偏差/数平均粒子径)(%)を測定した。
[ケイ素含有量]
仕込みおよび重合転化率から、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体中のケイ素含有量を求め、これと配合組成割合から、組成物中のケイ素含有量を求めた。
[耐衝撃性]
ASTM D-256に準じて、ノッチつき1/8インチバーを用いて23℃でのアイゾット試験により評価した。
[難燃性]
UL94 V試験に準拠した垂直燃焼試験法にて、5サンプルの総燃焼時間を測定して評価した。
[成形加工性]
メルトフローインデックスを260℃、5kg/cm^(2)荷重で測定し、次の基準で判定した。良い:○、少し悪い:△、悪い:×
(参考例1)ポリオルガノシロキサン粒子(S-1)の製造
次の成分からなる混合液をホモミキサーにより10000rpmで5分間撹拌してエマルジョンを調製した。
【0067】

このエマルジョンを撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに一括して仕込んだ。系を撹拌しながら、10%ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)水溶液1部(固形分)を添加し、80℃に約40分かけて昇温後、80℃で6時間反応させた。その後、25℃に冷却して、20時間放置後、系のpHを水酸化ナトリウムで6.8に戻して重合を終了し、ポリオルガノシロキサン粒子(S-1)を含むラテックスをえた。重合転化率、ポリオルガノシロキサン粒子のラテックスの平均粒子径およびトルエン不溶分量を測定し、結果を表1に示す。
【0068】
(参考例2)ポリオルガノシロキサン粒子(S-2)の製造
撹拌機、還流冷却器、チッ素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、

を仕込んだ。
つぎに、系をチッ素置換しながら70℃に昇温し、純水1部と過硫酸カリウム(KPS)0.02部からなる水溶液を添加してから、つづいて

からなる混合液を一括添加して、1時間撹拌して重合を完結させて、St-BMA共重合体のラテックスをえた。重合転化率は99%であった。えられたラテックスの固形分含有率は1.0%、平均粒子径0.01μmであった。また、このときの変動係数は38%であった。St-BMA共重合体の溶剤不溶分量は0%であった。
【0069】
別途、つぎの成分からなる混合物をホモミキサーで10000rpmで5分間撹拌してポリオルガノシロキサン形成成分のエマルジョンを調製した。
【0070】

つづいて、St-BMA共重合体を含むラテックスを80℃に保ち、系に10%DBSA水溶液2部(固形分)を添加したのち、上記ポリオルガノシロキサン形成成分のエマルジョンを一括で添加した後6時間撹拌を続けたのち、25℃に冷却して20時間放置した。その後、水酸化ナトリウムでpHを6.6にして重合を終了し、ポリオルガノシロキサン粒子(S-2)を含むラテックスをえた。重合転化率、ポリオルガノシロキサン粒子のラテックスの平均粒子径およびトルエン不溶分量を測定し、結果を表1に示す。該ポリオルガノシロキサン粒子を含むラテックス中のポリオルガノシロキサン粒子は仕込み量および転化率かポリオルガノシロキサン成分98%およびSt-BMA共重合体成分2%からなる。
【0071】
【表1】

(参考例3?7)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口および温度計を備えた5口フラスコに、純水300部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.2部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム(EDTA)0.01部、硫酸第一鉄0.0025部および表2に示されるポリオルガノシロキサン粒子を仕込み、系を撹拌しながら窒素気流下に60℃まで昇温させた。60℃到達後、表2に示される単量体とラジカル重合開始剤の混合物を、表2に示すように1段階または2段階で4時間かけて滴下添加したのち、60℃で1時間撹拌を続けることによってグラフト共重合体のラテックスをえた。
【0072】
つづいて、ラテックスを純水で希釈し、固形分濃度を15%にしたのち、10%塩化カルシウム水溶液2部(固形分)を添加して、凝固スラリーを得た。凝固凝固スラリーを80℃まで加熱したのち、50℃まで冷却して脱水後、乾燥させてポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(SG-1?SG-5)の粉体をえた。重合転化率、平均粒子径、グラフト率を表2に示す。
【0073】
なお、表2の中のMMAはメタクリル酸メチル、ANはアクリロニトリル(以上、単量体)、CHPはクメンハイドロパーオキサイド(ラジカル重合開始剤)、SPは明細書記載の方法で求めた溶解度パラメーターをそれぞれ示す。
【0074】
【表2】

(実施例1?6および比較例1?7)
ポリカーボネート樹脂の難燃化
ポリカーボネート樹脂(PC:出光石油化学株式会社製タフロンA-2200、粘度平均分子量22000)、参考例3?7で得られたポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(SG-1?SG-5)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン:ダイキン工業株式会社製ポリフロンFA-500)および酸化防止剤(AO-30:旭電化株式会社製アデカスタブAO-30、HP-10:旭電化製株式会社アデカスタブHP-10)を用いて表3に示す組成で配合した。
【0075】
えられた配合物を2軸押出機(日本製鋼所株式会社製 TEX44SS)で280℃にて溶融混錬し、ペレットを製造した。えられたペレットをシリンダー温度270℃に設定した株式会社ファナック(FANUC)製のFAS100B射出成形機で1/8インチのアイゾット試験片および1/16インチ難燃性評価用試験片を作成した。えられた試験片を用いて前記評価方法に従って評価した。
【0076】
結果を表3に示す。なお、実施例6は参考例である。
【0077】
【表3】

表3から、ポリカーボネート樹脂、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体、フッ素系樹脂、酸化防止剤を、全組成物中のケイ素含有量が特定量になるように配合することで難燃性-耐衝撃性-成形加工性バランスの優れたポリカーボネート系難燃性樹脂組成物が得られることがわかる。
【0078】
(実施例7および比較例8)
ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート混合樹脂の難燃化
PC、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET:鐘紡株式会社製ベルペットEFG-70)、参考例5で得られたポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体(SG-3)、PTFEおよび酸化防止剤(AO-30:旭電化株式会社製アデカスタブAO-30)を用いて表4に示す組成で配合した。
【0079】
えられた配合物を2軸押出機(日本製鋼所株式会社製 TEX44SS)で260℃にて溶融混錬し、ペレットを製造した。えられたペレットをシリンダー温度260℃に設定した株式会社ファナック(FANUC)製のFAS100B射出成形機で1/8インチのアイゾット試験片および1/12インチ難燃性評価用試験片を作成した。えられた試験片を用いて前記評価方法に従って評価した。
【0080】
結果を表4に示す。
【0081】
【表4】

表4から、ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート混合樹脂、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体、フッ素系樹脂、酸化防止剤を、全組成物中のケイ素含有量が特定量になるように配合することで難燃性-耐衝撃性-成形加工性バランスの優れたポリカーボネート系難燃性樹脂組成物が得られることがわかる。
【0082】
【発明の効果】
本発明により、非ハロゲンで、且つ、非リン系難燃剤を用いて、難燃性-耐衝撃性-成形加工性のバランスに優れたポリカーボネート系難燃性樹脂組成物をうることができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート系樹脂100重量部、(B)ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の存在下にビニル系単量体(b-2)を重合してえられるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体1?3重量部、(C)フッ素系樹脂0.05?1重量部および(D)酸化防止剤0?2重量部からなる樹脂組成物であって、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmであり、該樹脂組成物全量100重量%に対してケイ素含有量が0.7?1.5重量%であるポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)の平均粒子径が0.008?0.6μmであり、ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)40?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)60?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオルガノシロキサン粒子の変動係数が10?70%である請求項1又は2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体が、ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)60?90重量%の存在下にビニル系単量体(b-2)40?10重量%(合計100重量%)を重合してえられるグラフト共重合体である請求項1または2記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリオルガノシロキサン粒子(b-1)がラテックス状である請求項1、2または4記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
ビニル系単量体(b-2)が該ビニル系単量体の重合体の溶解度パラメータ9.15?10.15(cal/cm^(3))^(1/2)である請求項1記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
ビニル系単量体(b-2)が芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体およびカルボキシル基含有ビニル系単量体よりなる群から選ばれた少なくとも1種の単量体である請求項1、2、4または5記載のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-09-24 
結審通知日 2015-09-29 
審決日 2015-10-13 
出願番号 特願2001-194654(P2001-194654)
審決分類 P 1 113・ 113- YAA (C08L)
P 1 113・ 121- YAA (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 繁田 えい子  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 小野寺 務
須藤 康洋
登録日 2010-09-17 
登録番号 特許第4587606号(P4587606)
発明の名称 ポリカーボネート系難燃性樹脂組成物  
代理人 中川 正人  
代理人 佐竹 勝一  
代理人 森岡 則夫  
代理人 柳野 隆生  
代理人 富岡 英次  
代理人 山崎 一夫  
代理人 中川 正人  
代理人 関口 久由  
代理人 関口 久由  
代理人 柳野 嘉秀  
代理人 服部 博信  
代理人 柳野 隆生  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  
代理人 森岡 則夫  
代理人 柳野 嘉秀  

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