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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23C
管理番号 1309988
審判番号 不服2014-14016  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-18 
確定日 2016-01-13 
事件の表示 特願2010-119913号「オキシドレダクターゼで処理した食品成分および食品生成物、ならびにこのような食品成分および食品生成物を調製するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月19日出願公開、特開2010-178761号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年7月7日を国際出願日とする特願2007-520472号の一部を2010年5月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年7月7日、米国、2005年7月6日、米国)に新たな特許出願としたものであって、平成24年11月12日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月14日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年3月7日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成25年7月11日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年7月11日の手続補正は平成26年3月19日付けの補正却下の決定により却下され、同日付けで拒絶査定がされた。これに対し、平成26年7月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年7月18日の手続補正の補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年7月18日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、平成25年2月14日の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の
「パスタフィラータ(pasta filata)チーズを作製する方法であって、
乳をチーズカードおよびホエーに変換することと、
該チーズカードを加熱、混練、および、延伸して、チーズ塊にすることと、
該チーズ塊にオキシドレダクターゼ酵素を加えることであって、ここで、該チーズ塊中の還元糖の少なくとも一部が該オキシドレダクターゼ酵素によってアルドビオネート生成物へと変換されることと、
該チーズ塊を該パスタフィラータチーズに形成することと
を包含する、方法。」を
「パスタフィラータ(pasta filata)チーズを作製する方法であって、
乳をチーズカードおよびホエーに変換することと、
該チーズカードを加熱、混練、および、延伸して、チーズ塊にすることと、
該チーズ塊に、オキシドレダクターゼ酵素およびカタラーゼ酵素を加えることであって、ここで、該チーズ塊中の還元糖の少なくとも一部が該オキシドレダクターゼ酵素によってアルドビオネート生成物および過酸化水素へと変換され、該カタラーゼ酵素が、該オキシドレダクターゼ酵素により生成された該過酸化水素を、分子状酸素と水とに変換し、そして、該カタラーゼ酵素により生成された該分子状酸素が、該還元糖のさらなる酸化において、該オキシドレダクターゼ酵素により使用されることと、
該チーズ塊を該パスタフィラータチーズに形成することと
を包含する、方法。」とする補正事項を含むものである。(下線は、補正された箇所を示す。)

そして、この補正事項は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「チーズ塊」に加える酵素として、「カタラーゼ酵素」をさらに加えることの限定を付加し、また、「該チーズ塊中の還元糖の少なくとも一部が該オキシドレダクターゼ酵素によって」「変換され」た「過酸化水素」に対する「カタラーゼ酵素」の機序について、「該カタラーゼ酵素が、該オキシドレダクターゼ酵素により生成された該過酸化水素を、分子状酸素と水とに変換し、そして、該カタラーゼ酵素により生成された該分子状酸素が、該還元糖のさらなる酸化において、該オキシドレダクターゼ酵素により使用されること」の限定を付加するものであり、この補正事項により、本件補正前の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかである。

よって、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮)を目的とするものである。

2 独立特許要件についての検討
(1)そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)引用例
ア 引用例
平成25年3月7日付けの最後の拒絶理由のB.理由3に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2004-513644号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
(i)タンパク質、ペプチドまたはアミノ酸および(ii)還元糖を含む食品におけるマイラード反応の予防ならびに/あるいは減少のためのプロセスであって、該プロセスは、該食品と糖の還元基を酸化する能力を有する酵素とを接触させる工程を包含する、プロセス。」

(イ)「【請求項4】
前記酵素が、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)である、請求項1、2または3に記載のプロセス。」

(ウ)「【請求項9】
前記食品がモッツァレッラチーズである、請求項1?8のいずれか1項に記載のプロセス」

(エ)「【請求項11】
前記酵素が、前記食品の生産の間に該食品と接触される、請求項1?10のいずれか1項に記載のプロセス。」

(オ)「【請求項15】
前記プロセスが、前記食品とカタラーゼとを接触させる工程をさらに含む、請求項1?14のいずれか1項に記載のプロセス。」

(カ)「【0006】
さらに、マイラード反応は、高温で調理される乳製品(特にチーズ)を含有する食品の製造において問題となり得る。ピッツァ製造の分野において、ピッツァの上に広げられたチーズからの明白なマイラード反応が存在する。本明細書および実際に当該分野において、パスタフィレッタ(fileta)は、モッツァレッラとして言及される。」

(キ)「【0026】
本発明者らは、タンパク質および還元糖を含有する食品、特に焼いた食品(food product)のマイラード反応によって引き起こされる過剰の褐変の問題が、食品を、糖の還元基を酸化し得る酵素と接触させることによって制御され得ることを見出した。これは、マイラード反応を回避するために、食品を、必要な酸化を実行し得る酵素と接触させることによって、還元糖が酸化されて、その結果、転換によって食品から還元糖を排除する、新規のアプローチである。
【0027】
本明細書において、用語「マイラード反応を防止および/または減少させる」は、マイラード反応の程度が減少すること、および/またはマイラード反応の完了に必要な時間を増大させることを意味する。
【0028】
いくつかの局面において、好ましくは酵素は、単糖の還元基および二糖の還元基を酸化し得る。
【0029】
いくつかの局面において、好ましくは酵素は、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)またはグルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4)である。非常に好ましい局面において、酵素は、ヘキソースオキシダーゼである。好ましくは、HOXは、WO 96/40935に従って獲得または調製される。」

(ク)「【0031】
ヘキソースオキシダーゼ(HOX)は、紅藻類Chrondrus crispusから元々得られた炭水化物オキシダーゼである。WO 96/39851に考察されるように、HOXは、酸素と炭水化物(例えば、グルコース、ガラクトース、ラクトースおよびマルトース)との間の反応を触媒する。他の酸化酵素(例えば、グルコースオキシダーゼ)と比較して、ヘキソースオキシダーゼは、単糖の酸化を触媒するだけでなく、二糖もまた酸化する(Biochemica et Biophysica Acta 309(1973)、11-22)。
【0032】
ヘキソースオキシダーゼとのグルコースの反応は、
D-グルコース+H_(2)O+O_(2) → δ-D-グルコノラクトン+H_(2)O_(2)
である。
【0033】
水性環境において、グルコノラクトンは、その後加水分解されてグルコン酸を形成する。
【0034】
【化1】

示されるように、HOXは、炭素1で還元末端にて炭水化物を酸化し、従って、炭水化物の可能なマイラード反応を排除する。」

(ケ)「【0040】
食品が、チーズである場合、本発明は、特に有利である。本発明の酵素(例えば、HOX)は、チーズ、例えば、細切れのチーズ中の還元糖を除去することができる。このように、チーズ中に残された残留ラクトースを有することは、もはやそんなに重大なことではない。それゆえ、チーズの製造中の、チーズカードの洗浄回数を減らすことが可能である。洗浄回数を減少させることによって、洗浄水の量もまた、減少され、そしてチーズの収量も増大する。」

(コ)「【0042】
この酵素は、食品の調製の間に食品と接触させられ得るか、または食品が調製された後であるが、食品が、所望でないマイラード反応を生じ得る条件に供される前に、食品と接触され得る。前者の局面において、この酵素は、食品中に取り込まれる。後者の局面において、この酵素は、食品の表面上に存在する。表面上に存在する場合、優勢なマイラード反応を受ける材料の表面が、乾燥および大気酸素に曝される場合に、マイラード反応は、なお防止される。
【0043】
食品の調製の間に食品と接触される場合、この酵素は、製造の間の任意の適切な段階で接触され得る。食品が乳製品製品である局面において、この酵素は、乳汁の酸性化および乳汁カードの沈殿の間に乳汁と接触され得る。このプロセスにおいて、酵素(例えば、HOX)は、酸性化および乳汁タンパク質の沈殿の間に生成される嫌気性条件の間には活性ではないが、好気性条件が生成される場合、乳製品(例えば、チーズ)においては活性である。一旦好気性条件になると、この酵素は、還元糖を酸化し、そしてマイラード反応への傾向を減少させる。」

(サ)「【0081】
(実施例9)
ピッツァチーズの褐変に対するHOXの効果を、カタラーゼと組み合わせて試験した。HOXと組み合わせてカタラーゼを添加する目的は、ラクトースおよびガラクトースの対応する酸への触媒的変換により形成される過酸化水素を排除させることである。なぜなら、過酸化水素はいくつかの望ましくない副反応に関与し得、例えば、脂質の酸化により風味(フレーバー)を打ち消すからである。
【0082】
カタラーゼは以下の反応を触媒する。
【0083】
カタラーゼ
2H_(2)O_(2) → 2H_(2)O+O_(2)
この実験において、60gのモッツァレッラチーズ(Karolina‘s Dansk Mozzarella、25%タンパク質、1g炭水化物、および21%脂肪)を、表7に示す酵素の量で処理した。
【0084】
【表6】

使用したカタラーゼは、Sigmaカタログ番号C3515である。
【0085】
手順:HOXおよびカタラーゼの酵素溶液を、モッツァレッラチーズに噴霧し、次いで室温にて2時間、貯蔵した。次いで、8グラムの酵素処置したチーズを、アルミニウムトレイ内の、16.7グラムのパン生地上に置き、275℃にて6分間焼いた。
【0086】
焼き実験の結果を、図8に示す。
【0087】
図8の結果から、0.5U HOX/g チーズの添加(試験2)が、マイラード反応を減少させ、チーズをほとんど褐変しないことを明らかにする。同じ効果がまた、0.5U HOX/gを、1Uカタラーゼ/gと混合した場合に観察される(試験4)。カタラーゼ単独では、マイラード反応における還元に寄与しない(試験3)。」

イ 引用例に記載された発明
請求項1を引用する請求項4を引用する請求項9を引用する請求項11を引用する請求項15を整理すると、請求項15には以下の発明が記載されているといえる。

「(i)タンパク質、ペプチドまたはアミノ酸および(ii)還元糖を含むモッツァレッラチーズにおけるマイラード反応の予防ならびに/あるいは減少のためのプロセスであって、該プロセスは、糖の還元基を酸化する能力を有するヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)を該モッツァレッラチーズの生産の間に該モッツァレッラチーズと接触させる工程を包含し、前記モッツァレッラチーズとカタラーゼとを接触させる工程をさらに含む、プロセス。」

そして、上記「プロセス」はマイラード反応の予防ならびに/あるいは減少のためのプロセスを有するモッツァレッラチーズを作製する方法であるといえ、上記摘記事項(ク)及び(サ)の反応式等を参酌すると、「ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)を」「該モッツァレッラチーズと接触させる」ことは、モッツァレッラチーズ中のガラクトースを、ヘキソースオキシダーゼによって、ガラクトン酸と過酸化水素へ変換することであり、「モッツァレッラチーズとカタラーゼとを接触させる」ことは、カタラーゼが過酸化水素を、分子状酸素と水とに変換することであるから、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「(i)タンパク質、ペプチドまたはアミノ酸および(ii)還元糖を含むモッツァレッラチーズにおけるマイラード反応の予防ならびに/あるいは減少のためのプロセスを有するモッツァレッラチーズを作製する方法であって、該プロセスは、糖の還元基を酸化する能力を有するヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)を該モッツァレッラチーズの生産の間に該モッツァレッラチーズと接触させる工程を包含し、該モッツァレッラチーズとカタラーゼとを接触させる工程をさらに含み、該プロセスにより、該モッツァレッラチーズ中のガラクトースを、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)によって、ガラクトン酸と過酸化水素へ変換し、カタラーゼが過酸化水素を、分子状酸素と水とに変換する、方法。」

(3)本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「モッツァレッラチーズ」は、上記摘記事項(カ)を参照すると本件補正発明の「パスタフィラータ(pasta filata)チーズ」に相当し、以下それぞれ、「ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)」は「オキシドレダクターゼ酵素」に、「カタラーゼ」は「カタラーゼ酵素」に、「ガラクトース」は「還元糖」に、「ガラクトン酸」は「アルドビオネート生成物」に相当する。

(イ)引用発明の「モッツァレッラチーズを作製する方法」は、モッツァレッラチーズを、乳をチーズカードおよびホエーに変換すること、該チーズカードを加熱、混練、および、延伸して、チーズ塊にすること、及び該チーズ塊をモッツァレッラチーズに形成して作製する方法であることは明らかであるから、本件補正発明の「パスタフィラータ(pasta filata)チーズを作製する方法であって、乳をチーズカードおよびホエーに変換することと、該チーズカードを加熱、混練、および、延伸して、チーズ塊にすることと、」「該チーズ塊を該パスタフィラータチーズに形成することとを包含する、方法。」に相当する。

(ウ)引用発明の「ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)」と「カタラーゼ」は、上記摘記事項(サ)を参照すると、同時に用いるものである。
また、上記摘記事項(コ)の「食品の調製の間に食品と接触される場合、この酵素は、製造の間の任意の適切な段階で接触され得る。」との記載を参酌すると、引用発明の「ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)」と「カタラーゼ」は、モッツァレッラチーズの製造の間の任意の適切な段階で接触されるものである。
そうすると、モッツァレッラチーズの製造方法は上記(イ)の各工程を有するから、引用発明の「ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)を該モッツァレッラチーズの生産の間に該モッツァレッラチーズと接触させる工程を包含」すること、及び「該モッツァレッラチーズとカタラーゼとを接触させる工程をさらに含」むことと、本件補正発明の「該チーズ塊に、オキシドレダクターゼ酵素およびカタラーゼ酵素を加えること」とは、「パスタフィラータ(pasta filata)チーズの製造の間に、オキシドレダクターゼ酵素およびカタラーゼ酵素を加えること」の限りで一致する。

(エ)引用発明の「該モッツァレッラチーズ中のガラクトースを、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)によって、ガラクトン酸と過酸化水素へ変換し、カタラーゼが過酸化水素を、分子状酸素と水とに変換する」ことは、ヘキソースオキシダーゼによりガラクトースをガラクトン酸と過酸化水素へ変換することと、カタラーゼにより過酸化水素を分子状酸素と水へ変換することが共に起きているから、カタラーゼによって変換された分子状酸素は、ヘキソースオキシダーゼによるガラクトースをガラクトン酸と過酸化水素へ変換する際に使用されることとなる。
したがって、引用発明の「該プロセスにより、該モッツァレッラチーズ中のガラクトースを、ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)によって、ガラクトン酸と過酸化水素へ変換し、カタラーゼが過酸化水素を、分子状酸素と水とに変換する」ことは、本件補正発明の「ここで、該チーズ塊中の還元糖の少なくとも一部が該オキシドレダクターゼ酵素によってアルドビオネート生成物および過酸化水素へと変換され、該カタラーゼ酵素が、該オキシドレダクターゼ酵素により生成された該過酸化水素を、分子状酸素と水とに変換し、そして、該カタラーゼ酵素により生成された該分子状酸素が、該還元糖のさらなる酸化において、該オキシドレダクターゼ酵素により使用されること」に相当する。

イ 一致点及び相違点
したがって、両者は、

「パスタフィラータ(pasta filata)チーズを作製する方法であって、
乳をチーズカードおよびホエーに変換することと、
該チーズカードを加熱、混練、および、延伸して、チーズ塊にすることと、
パスタフィラータ(pasta filata)チーズの製造の間に、オキシドレダクターゼ酵素およびカタラーゼ酵素を加えることであって、ここで、該チーズ塊中の還元糖の少なくとも一部が該オキシドレダクターゼ酵素によってアルドビオネート生成物および過酸化水素へと変換され、該カタラーゼ酵素が、該オキシドレダクターゼ酵素により生成された該過酸化水素を、分子状酸素と水とに変換し、そして、該カタラーゼ酵素により生成された該分子状酸素が、該還元糖のさらなる酸化において、該オキシドレダクターゼ酵素により使用されることと、
該チーズ塊を該パスタフィラータチーズに形成することと
を包含する、方法。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
パスタフィラータ(pasta filata)チーズの製造の間に、オキシドレダクターゼ酵素およびカタラーゼ酵素を加えることについて、本件補正発明では、チーズ塊に加えるのに対し、引用発明は、チーズの製造の間にモッツァレッラチーズと接触させているが、チーズ塊であるか不明な点(以下「相違点」という。)。

(4)当審の判断
ア 相違点の検討
上記相違点について以下検討する。
引用例には、オキシドレダクターゼ酵素を加えることについて、「この酵素は、食品の調製の間に食品と接触させられ得るか、または食品が調製された後であるが、食品が、所望でないマイラード反応を生じ得る条件に供される前に、食品と接触され得る。」(上記摘記事項(コ))、「食品の調製の間に食品と接触される場合、この酵素は、製造の間の任意の適切な段階で接触され得る。」(上記摘記事項(コ))と記載されており、具体的に、乳汁の酸性化および乳汁カードの沈殿の間や調整された食品に加えることが記載されている(上記摘記事項(コ)参照。)。そうすると、引用例には、原料である乳汁から作製される食品のいずれかの段階で酵素を添加することが記載されているといえ、モッツァレッラチーズの製造に当てはめると、乳をチーズカードおよびホエーに変換し、該チーズカードを加熱、混練、および、延伸して、チーズ塊にし、該チーズ塊をモッツァレッラチーズに形成するいずれかの段階において酵素を添加し得ることが示唆されているといえる。
また、引用発明は、モッツァレッラチーズの還元糖を酵素(ヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5))により酸化することにより転換し、還元糖を排除することでマイラード反応による褐色に変色することを防止するものであるから(上記摘記事項(カ)、(キ)参照。)、その製造工程のいずれの工程でヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)を加えても製造されたモッツァレッラチーズに含まれる還元糖が減少することは明らかである。また、上記マイラード反応の防止は、製品としてのチーズ中の還元糖さえ排除できればよいことから、ホエーを分離する工程以降にヘキソースオキシダーゼ(EC1.1.3.5)を加えればよいことも当業者が容易に想到し得ることである
したがって、引用発明のモッツァレッラチーズへオキシドレダクターゼ酵素およびカタラーゼ酵素を加えることについて、引用例に記載された上記示唆に従って、チーズ塊に加える程度のことは、当業者が容易になし得ることである。

イ 本件補正発明の奏する作用効果
引用発明におけるヘキソースオキシダーゼとカタラーゼとを用いる効果は、本件補正発明のオキシドレダクターゼ酵素およびカタラーゼ酵素とを用いる効果と同じであるから、本件補正発明のチーズ塊に加えることにより奏される効果についても、引用発明の記載から当業者が予測できる程度ものであって、格別なものとはいえない。
また、審判請求書において「この酵素は、チーズ乳に加えられると、酵素のほとんどは、チーズカードからホエーが分離されると消失する。この酵素はまた、分離したホエーにおいて活性のままであり、ホエー中に存在するラクトースに基づきラクトビオン酸を形成する。ラクトビオン酸はラクトースとともに結晶化することはないので、ホエー中ラクトースのラクトビオン酸への変換は、ホエー透過液から精製されるラクトースの収量を減少させる。酵素をチーズ塊に直接加えることにより、その活性は変換されるべき還元糖のみに向けられ、ホエー透過液から抽出される結晶化ラクトースなどの他の乳製品成分やプロセスに対する悪影響を伴うことがない。」と主張する。しかし、上記のとおり、引用例には、酵素をチーズ乳に加えることのみならず、作製される食品に酵素を加えること、及び製造の間に加えることが記載されており、またホエー透過液を他に利用することは、本件補正発明に基づかない主張であり、採用できない。さらに、ホエー透過液を他に利用することが特定されたとしても、引用例の上記摘記事項(ケ)には、洗浄液がラクトースを含有することが示唆されていること、及びホエー透過液がラクトースを含有していることが技術常識であることを考慮すれば、引用発明において酵素をチーズ塊に加えた際の作用は、当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5) 小括
したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年7月18日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年2月14日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成26年7月18日の手続補正の補正却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
平成25年3月7日付けの最後の拒絶理由のB.理由3に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成26年7月18日の手続補正の補正却下の決定」の「2 独立特許要件についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、チーズ塊に加える酵素として、「カタラーゼ酵素」をさらに加えることの限定、及び「該チーズ塊中の還元糖の少なくとも一部が該オキシドレダクターゼ酵素によって」「変換され」た「過酸化水素」に対する「カタラーゼ酵素」の機序について、「該チーズ塊中の還元糖の少なくとも一部が該オキシドレダクターゼ酵素によってアルドビオネート生成物および過酸化水素へと変換され、該カタラーゼ酵素が、該オキシドレダクターゼ酵素により生成された該過酸化水素を、分子状酸素と水とに変換し、そして、該カタラーゼ酵素により生成された該分子状酸素が、該還元糖のさらなる酸化において、該オキシドレダクターゼ酵素により使用されること」の限定を省いたものである。
そうすると、本願発明を特定するための事項をすべて含み、更に他の限定を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 平成26年7月18日の手続補正の補正却下の決定」の「2 独立特許要件についての検討」の「(3)本件補正発明と引用発明の対比」及び「(4)当審の判断」に記載したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおり、本願発明は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-06 
結審通知日 2015-08-11 
審決日 2015-08-28 
出願番号 特願2010-119913(P2010-119913)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 弘樹上條 肇▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 山崎 勝司
佐々木 正章
発明の名称 オキシドレダクターゼで処理した食品成分および食品生成物、ならびにこのような食品成分および食品生成物を調製するための方法  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 本田 淳  

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