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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1310277
審判番号 不服2014-7262  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-18 
確定日 2016-01-22 
事件の表示 特願2011-541513「有機化合物の塩の形態」拒絶査定不服審判事件〔平成22年7月1日国際公開、WO2010/072776、平成24年6月7日国内公表、特表2012-512848〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2009年12月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年12月23日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成23年6月21日に手続補正書が提出され、平成25年5月8日付けで拒絶理由が通知され、同年11月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月12日付けで拒絶査定がされ、平成26年4月18日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年5月28日に審判請求書を補正する手続補正書が提出され、同年9月18日に上申書が提出されたものである。
なお、平成26年4月18日に特願2014-86403号が分割出願されている。

第2 平成26年4月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年4月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正
平成26年4月18日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項2である
「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンの塩酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸(そのD体またはL体)、アスパラギン酸(そのD体またはL体)、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ショウノウ酸(その(+)体または(-)体)、カンファー-10-スルホン酸(その(+)体または(-)体)、カプリン酸(デカン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、炭酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチシン酸、グルコヘプトン酸(そのD体またはL体)、グルコン酸(そのD体またはL体); グルクロン酸(そのD体またはL体)、グルタミン酸、グルタル酸、2-オキソグルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、イソ酪酸、乳酸(そのD体またはL体)、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸(そのD体またはL体)、マロン酸、マンデル酸(そのD体またはL体)、メタンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、オレイン酸、オロチン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸(エンボン酸)、プロピオン酸、ピログルタミン酸(そのD体またはL体)、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸(そのD体またはL体)、チオシアン酸、トルエンスルホン酸およびウンデシレン酸、またはその溶媒和物、水和物または混合物より選ばれる酸による酸付加固体塩であって、溶媒和物、有機溶媒和物、水和物、または混合水和物/有機溶媒和物の形態の前記塩。」
を、
「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンの塩酸、臭化水素酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、エタンスルホン酸、フマル酸、ゲンチシン酸、グリコール酸、マロン酸、メタンスルホン酸、サリチル酸、及びトルエンスルホン酸より選ばれる酸による結晶形態の酸付加固体塩であって、溶媒和物、有機溶媒和物、水和物、または混合水和物/有機溶媒和物の形態の前記塩。」
とする補正を含んでいる(審決注:補正箇所に下線を付した。)。

2 補正の適否

(1)補正の目的の適否
この補正は、請求項2に係る発明について、
「塩酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸(そのD体またはL体)、アスパラギン酸(そのD体またはL体)、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ショウノウ酸(その(+)体または(-)体)、カンファー-10-スルホン酸(その(+)体または(-)体)、カプリン酸(デカン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、炭酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチシン酸、グルコヘプトン酸(そのD体またはL体)、グルコン酸(そのD体またはL体); グルクロン酸(そのD体またはL体)、グルタミン酸、グルタル酸、2-オキソグルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、イソ酪酸、乳酸(そのD体またはL体)、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸(そのD体またはL体)、マロン酸、マンデル酸(そのD体またはL体)、メタンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、オレイン酸、オロチン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸(エンボン酸)、プロピオン酸、ピログルタミン酸(そのD体またはL体)、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸(そのD体またはL体)、チオシアン酸、トルエンスルホン酸およびウンデシレン酸、またはその溶媒和物、水和物または混合物より選ばれる酸」

「塩酸、臭化水素酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、エタンスルホン酸、フマル酸、ゲンチシン酸、グリコール酸、マロン酸、メタンスルホン酸、サリチル酸、及びトルエンスルホン酸より選ばれる酸」
に補正し、また、「酸付加固体塩」を「結晶形態の酸付加固体塩」に補正するものであり、酸の選択肢を削除すること及び結晶形態であることを特定することで酸の種類及び酸付加固体塩の状態を限定するものであるから、上記補正は、補正前の請求項2に記載された発明を特定するための事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)そこで、上記補正後の請求項2に記載された特許を受けようとする発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。
なお、本願補正発明の「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンの・・・酸付加固体塩」の、塩になっていない遊離塩基の形態の1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンの化学構造は、この出願の明細書(以下「本願明細書」という。補正はされていない。)の段落【0017】に示される以下のとおりである。


ア 刊行物
刊行物1:特表2006-503013号公報(原審における引用文献1)
刊行物2:Journal of Pharmaceutical Science,1977年,66(1),p.1-19(原審における引用文献3)
刊行物3:医薬審発第568号,平成13年5月1日
刊行物4:PHARMSTAGE,2007年,6(10),p.48-53
刊行物5:PHARMSTAGE,2007年,6(10),p.20-25
刊行物3?5は、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。

イ 刊行物の記載事項

(ア)刊行物1
(1a)「【請求項1】以下の一般式Iで表される化合物:

ここで、R^(1) は、ジメチルアミノカルボニル、ピロリジン-1-イルカルボニル、ピペリジン-1-イルカルボニル、t-ブチルカルボニルまたはシクロヘキシルカルボニル基で置換されたメチル基、
ナフチル、メチルナフチル、メトキシナフチル、ニトロナフチルまたは(ジメチルアミノ)-ナフチル基で置換されたメチル基、
2-フェニルエテニルまたはビフェニルイル基で置換されたメチル基、
フェニル-オキサジアゾリル、5-メチル-3-フェニル-イソキサゾリル、フェニル-ピリジニル、インドリル、ベンゾチオフェニル、キノリニル、イソキノリニル、メチルイソキノリニル、(メトキシカルボニルメチルアミノ)-イソキノリニル、シンノリニル、キナゾリニル、メチルキナゾリニル、1,2-ジヒドロ-1-メチル-2-オキソ-キノリニル、1,2-ジヒドロ-2-メチル-1-オキソ-イソキノリニル、3,4-ジヒドロ-4-オキソ-フタラジニル、3,4-ジヒドロ-3-メチル-4-オキソ-フタラジニル、3,4-ジヒドロ-4-オキソ-キナゾリニル、3,4-ジヒドロ-3-メチル-4-オキソ-キナゾリニルまたは2-オキソ-2H-クロメニル基で置換されたメチル基、
2-メトキシエチル、2-フェニルオキシエチルまたは2-シアノエチル基、
フェニルカルボニルメチルまたは1-(フェニルカルボニル)-エチル基、
フェニル部分がアミノ、シアノメチルアミノ、メチルカルボニルアミノ、エチルカルボニルアミノ、イソプロピルカルボニルアミノ、メトキシカルボニルアミノ、(エチルオキシカルボニルアミノ)-カルボニルアミノまたは2-オキソ-イミダゾリジン-1-イル基で置換されたフェニルカルボニルメチル基、
フェニル部分がカルボキシ、メトキシカルボニル、エチルオキシカルボニル、アミノカルボニル、メチルアミノカルボニル、ジメチルアミノカルボニルまたはモルホリン-4-イルカルボニル基で置換されたフェニルカルボニルメチル基、
フェニル部分がメチルスルファニル、メチルスルフィニルまたはメチルスルホニル基で置換されたフェニルカルボニルメチル基、
フェニル部分がカルボキシメトキシ、エチルオキシカルボニルメトキシ、イソプロピルオキシカルボニルメトキシ、アミノカルボニルメトキシ、メチルアミノカルボニルメトキシ、エチルアミノカルボニルメトキシ、イソプロピルアミノカルボニルメトキシ、ジメチルアミノカルボニルメトキシ、ピロリジン-1-イルカルボニルメトキシまたはモルホリン-4-イルカルボニルメトキシ基で置換されたフェニルカルボニルメチル基、
フェニル部分が1-(メトキシカルボニル)-エチルオキシまたは1-(アミノカルボニル)-エチルオキシ基で置換されたフェニルカルボニルメチル基、
フェニル部分がメチルスルフィニルメトキシ基で置換されたフェニルカルボニルメチル基、
フェニル部分が2つのメトキシ基で置換されたフェニルカルボニルメチル基、または
フェニル部分における2つの隣接する水素原子が、-O-CH_(2)-O、-O-CH_(2)-CH_(2)-O、または-N(CH_(3))-CO-O基で置換されている、フェニルカルボニルメチル基であり、
R^(2) は、メチル、イソプロピルまたはフェニル基を表し、かつ
R^(3) は、2-メチル-2-プロペン-1-イル、2-クロロ-2-プロペン-1-イルまたは3-ブロモ-2-プロペン-1-イル基;2-ブテン-1-イルまたは2,3-ジメチル-2-ブテン-1-イル基;2-ブチン-1-イル基;1-シクロペンテン-1-イルメチル基;または2-フラニルメチル基を表す、
並びに以下に列挙する化合物:
・・・・・・・・・・・・・・・
その互変異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、混合物、そのプロドラッグおよびその塩。
・・・・・・・・・・・・・・・
【請求項18】請求項1?17のいずれか1項に記載の化合物と、無機または有機酸または塩基との、生理的に許容される塩。」(2?5頁及び10頁、請求項1及び18)
(1b)「【0001】本発明は、以下の一般式Iで表される新規な置換されたキサンチン:
【0002】

【0003】その互変異性体、立体異性体、混合物、プロドラッグおよびその塩、特に無機または有機の酸または塩基との生理的に許容される塩に係り、これらは特に、酵素:ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)の活性に及ぼす阻害作用を含む、薬理的に有益な諸特性を持ち、またこれらの製造、高いDPP-IV活性と関連した、またはこのDPP-IV活性を減じることによって、予防もしくは軽減できる疾患または状態、特にタイプIまたはタイプII真性糖尿病を予防もしくは治療するためのその使用、一般式(I)の化合物またはその生理的に許容されるその塩を含む薬理組成物並びにその製法に関するものである。」
(1c)「【0027】・・・・・・・・
本発明によれば、一般式Iの化合物は、それ自体公知の方法、例えば以下に列挙する方法によって、得られる:
a)・・・・・・・・・・・・・・
【0029】・・・・・・・・・・・
b) 以下の一般式III:
【0030】

【0031】(ここで、R^(1)、R^(2) およびR^(3) は上記定義通りである)で表される化合物を脱保護する。
好ましくは、上記のt-ブチルオキシカルボニル基は、場合により塩化メチレン、酢酸エチル、ジオキサン、メタノール、イソプロパノールまたはジエチルエーテル等の溶媒を使用して、0?80℃なる範囲の温度にて、トリフルオロ酢酸または塩酸等の酸で処理することにより、あるいはブロモトリメチルシランまたはヨードトリメチルシランで処理することによって開裂する。
c) ・・・・・・・・・・・・・・」
(1d)「【0036】・・・・・・・・
更に、一般式Iの化合物は、その塩に、特に医薬用途に関しては、無機または有機酸との生理的に許容される塩に転化することができる。この目的のために使用できる酸は、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、フマール酸、琥珀酸、乳酸、クエン酸、酒石酸またはマレイン酸を含む。」
(1e)「【0037】・・・・・・・・
出発物質として使用する一般式II?IVの化合物は、文献において公知であるか、あるいは文献において公知の方法により得ることができる(例えば、実施例I?LXXIを参照)。
既に上で述べたように、本発明による一般式Iの化合物および生理的に許容されるその塩は、有益な薬理的諸特性、特に酵素DPP-IVに対する阻害作用を持つ。
これら新規化合物の生物学的特性は、以下のようにして検討した:
これら物質およびその対応する塩の、DPP-IV活性を阻害する能力は、ヒト結腸癌細胞系Caco-2の抽出液を、該DPP-IV源として使用する、設定されたテストによって立証できる。DPP-IV発現を誘発するために、該細胞の分化を、「腸管細胞系Caco-2の高められた発現(Increased expression of intestinal cell line Caco-2)」と題する、Reiher等の論文(Proc. Natl. Acad. Sci., 1993, 90:5757-5761)に記載されたように実施した。該細胞抽出液は、バッファー(10mM Tris-HCl、0.15mMのNaCl、0.04t.i.u.のアプロチニン、0.5%のノニデット(Nonidet)-P40、pH8.0)中に可溶化された細胞から、4℃にて30分間、35,000gにて遠心分離処理することにより得た。
このDPP-IVアッセイは、以下のようにして行った:
【0038】最終濃度100μMの、50μlの基質溶液(AFC;AFCは、アミド-4-トリフルオロメチルクマリンである)を、黒色のマイクロタイタープレートに入れた。20μlのアッセイバッファー(夫々最終濃度50mMのTris-HCl、pH7.8、50mMのNaCl、1%のDMSO)を、ピペットで秤取り、これに加えた。この反応は、30μlの可溶化したCaco-2タンパク(最終濃度:ウエル当たり、0.14μgのタンパク)を添加することにより開始させた。検討すべきテスト物質は、典型的には予め希釈して20μlとして添加したが、結果としてアッセイバッファーの体積を、それに応じて減らした。この反応は、周囲温度にて60分間インキュベートすることにより行った。次いで、蛍光を、ビクター1420マルチラベルカウンタ(Victor 1420 Multilabel Counter)を用いて、励起波長405nmおよび発光波長535nmにて測定した。ブランクの読み(活性0%に相当)を、如何なるCaco-2タンパクも含まない、混合物(所定体積をアッセイバッファーで置換)について得、コントロール値(活性100%に相当)は、物質を全く添加してない混合物について得た。IC_(50) 値で表した、問題とするテスト物質の能力は、各場合に対して11個の測定点からなる用量/活性曲線から算出した。
【0039】【表1】
化合物(実施例番号) DPP-IV阻害活性:
IC_(50)[nM]
・・・・・ ・・・・・
2(80) 1
・・・・・ ・・・・・
2(142) 1
・・・・・ ・・・・・
【0040】本発明によって製造される化合物は、例えば実施例2(80)の化合物10mg/kgを経口経路でラットに投与した場合に、この動物における如何なる挙動変化も検出されなかったことから、十分に許容性をもつものである。
これら化合物のDPP-IV活性を阻害する能力から、本発明による一般式Iの化合物および対応する製薬上許容されるその塩は、該DPP-IV活性の阻害によって影響される可能性のある全てのこれら状態または疾病を治療するのに適したものである。従って、本発明の化合物は、疾患または状態、例えばタイプIおよびタイプII真性糖尿病、糖尿病性合併症(例えば、網膜症、ネフロパシーまたはニューロパシー)、代謝性アシドーシスまたはケトーシス、反応性低血糖、インシュリン耐性、代謝性症候群(metabolic syndrome)、様々な器官の脂肪異常(dyslipidaemias)、関節炎、アテローム性動脈硬化症および関連疾患、肥満、同種移植片移植およびカルシトニン-誘発性オステオポローシスの予防並びに治療のために適したものであると予想される。」
(1f)「【0044】・・・・・・・・
実施例I:1,3-ジメチル-7-(2,6-ジシアノベンジル)-8-ブロモ-キサンチン
N,N-ジメチルホルムアミド9ml中に溶解した、555mgの8-ブロモテオフィリンと0.39mlのヒュニッヒ塩基との混合物を、600mgの2-ブロモメチルイソフタロニトリルと併合し、周囲温度にて一夜撹拌する。反応を完了させるために、この反応混合物を水に注ぎ込む。生成する沈殿を吸引濾過し、水洗し、かつ乾燥する。収量:686mg(理論値の83%);R_(f) 値:0.56(シリカゲル、塩化メチレン/メタノール=95:5);マススペクトル(ESI^(+)):m/z=399,401[M+H]^(+)
以下の化合物を、実施例Iと同様にして得る:
・・・・・・・・・・・・・・・
(7)3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-ブロモ-キサンチン:R_(f) 値:0.72(シリカゲル、酢酸エチル);マススペクトル(ESI^(+)):m/z=297/299[M+H]^(+)」
(1g)「【0052】・・・・・・・・
実施例III:1-[2-(2-ヒドロキシ-フェニル)-2-オキソ-エチル]-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-[3-(t-ブチルオキシカルボニルアミノ)-ピペリジン-1-イル]-キサンチン
1.30gの3-t-ブチルオキシカルボニルアミノ-ピペリジンを、8mlのジメチルスルホキシド中の、2.51gの1-[2-(2-ヒドロキシ-フェニル)-2-オキソ-エチル]-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-クロロ-キサンチンと、880mgの炭酸ナトリウムとの混合物に添加する。この反応混合物を、60℃にて18時間撹拌する。この反応を完了するために、該混合物を水と併合し、生成する沈殿を、吸引濾過する。この固体状の粗生成物を、酢酸エチルに溶解し、得られた溶液を硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶媒を蒸発させる。このフラスコ内の残渣を、シクロヘキサン/酢酸エチル(10:1?1:1)を溶離液として使用し、シリカゲルカラムを介して、クロマトグラフィー処理にかける。収量:2.56g(理論値の91%);マススペクトル(ESI^(+)):m/z=567[M+H]^(+)
【0053】以下の化合物を、実施例IIIと同様にして得る:
・・・・・・・・・・・・・・・
【0064】・・・・・・・・・・・
(74)1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-クロロ-ベンジル)-8-[(R)-3-(t-ブチルオキシカルボニルアミノ)-ピペリジン-1-イル]-キサンチン((4-メチル-キナゾリン-2-イル)-メチルクロリドと3-メチル-7-(2-クロロ-ベンジル)-8-ブロモ-キサンチンとを反応させ、次いで(R)-3-(t-ブチルオキシカルボニルアミノ)-ピペリジンと反応させることにより製造):マススペクトル(ESI^(+)):m/z=645,647[M+H]^(+)」
(1h)「【0130】・・・・・・・・
実施例XLI:2-クロロメチル-4-メチル-キナゾリン
2.95gの2-クロロメチル-4-メチル-キナゾリン-3-オキシドを、150mlのクロロホルム中で、6mlの三塩化リンで処理することにより製造。収量:1.75g(理論値の57%);R_(f) 値:0.81(シリカゲル、塩化メチレン/メタノール=95:5);マススペクトル(ESI^(+)):m/z=193,195[M+H]^(+)」
(1i)「【0152】実施例2:1-(2-{2-[(エトキシカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソ-エチル)-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-(3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン
1-(2-{2-[(エトキシカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソ-エチル)-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-[3-(t-ブチルオキシカルボニルアミノ)-ピペリジン-1-イル]-キサンチン(209mg)の塩化メチレン(4ml)溶液を、1mlのトリフルオロ酢酸と併合し、周囲温度にて半時間撹拌する。作業を完結するために、この反応混合物を塩化メチレンで希釈し、飽和炭酸カリウム溶液で洗浄する。得られる有機相を乾燥し、蒸発させ、塩化メチレン/メタノール(1:0?4:1)を溶離液として使用し、シリカゲルカラムを通したクロマトグラフィー処理に掛ける。収量:153mg(理論値の87%);マススペクトル(ESI^(+)):m/z=553[M+H]^(+)
以下の化合物を、実施例2と同様にして得る:
・・・・・・・・・・・・・・・
【0167】・・・・・・・・・・・
(80)1-[(キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(塩化メチレン中で、5-6Mのイソプロパノール性塩酸を用いて実施):マススペクトル(ESI^(+)):m/z =459[M+H]^(+)」
・・・・・・・・・・・・・・・
【0178】(142)1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(塩化メチレン中で、5-6Mのイソプロパノール性塩酸を使用して実施):融点:198-202℃;マススペクトル(ESI^(+)):m/z=473[M+H]^(+)」

(イ)刊行物2
訳文により示す。
(2a)「薬学的塩」(1頁、標題)
(2b)「医薬の化学的、生物学的、物理的及び経済的特徴は操作することができ、それ故、しばしば、塩の形態へと変換することによって、最適化されている。」(1頁左欄下から6?下から4行)
(2c)「表1-FDAに承認された市販の塩
アニオン パーセント^(a)
・・・・・ ・・・・・
塩酸塩 42.98
・・・・・ ・・・・・
硫酸塩 7.46
・・・・・ ・・・・・
^(a) パーセントは、1974年までに使用されたアニオン又はカチオン塩の総数に基づく。」(2頁表1)
(2d)「単純な入手容易性及び生理学的な理由により、1価の塩酸塩が、利用可能なアニオン塩形成ラジカルとして群を抜いてよく選ばれており、硫酸塩と比べて約6倍多い。」(2頁右欄8?12行)
(2e)「塩の形成は化学構造を変えずに医薬の物理的、化学的、生物学的性質を変化させる手段である。」(16頁左欄18?20行)

(ウ)刊行物3
(3a)「新医薬品の規格及び試験方法の設定について」(1枚目、標題)
(3b)「今般、日米EU医薬品規制調和国際会議における合意に基づき、別添のとおり、「新医薬品の規格及び試験方法の設定」(以下「本ガイドライン」という。)をとりまとめ、下記により取扱うこととした・・・。」(1枚目、前書き4?7行)
(3c)「3.3.原薬や製剤の各剤形の特性に応じて設定すべき試験方法と判定基準
・・・・・・・・・・・・・・・
3.3.1.新原薬
・・・・・・・・・・・・・・・
c)結晶多形(Polymorphic forms)
新原薬の中には、物理的性質の異なる2つ以上の結晶形で存在するものがある。結晶多形には、溶媒和物あるいは水和物(擬多形とも呼ばれる)や無晶形も含まれる。こうした固体状態の違いが、新製剤の品質や機能に影響を及ぼすことがある。そうした違いが、製剤機能、バイオアベイラビリティあるいは安定性に影響を及ぼすような場合には、新原薬の規格に適切な存在形を規定すべきである。」(16枚目7行?末行)
(3d)「新原薬(Newdrug substance)
これまである地域またはメンバーとなっている国で承認されたことがなく、新しく承認されるに当って適応症の定められた疾病治療用の物質で、new molecular entity あるいはnew chemical entity とも呼ばれる。すでに承認された原薬の錯体、エステル、塩である場合もある。」(31枚目6段落)

(エ)刊行物4
(4a)「結晶多形・擬多形の析出挙動と制御」(48頁、標題)
(4b)「ある化合物に構造が異なる結晶が複数存在する場合,結晶多形が存在するという。また,結晶に水などの溶媒が量論的に取り込まれることによって異なる構造の結晶となることもある。この場合,擬多形が存在するという。それぞれの多形結晶あるいは擬多形結晶はα形,β形,あるいはA形,B形などと名前をつけて区別される。結晶多形が異なれば結晶の大きさや形状(外観),密度,溶解度,溶解速度が異なるため,結果として,ろ過性,沈降性,嵩密度,流動性などの結晶のハンドリング性能が異なるとともに,不純物の取り込みの度合い(純度),化合物及び結晶の安定性,さらには医薬のバイオアベイラビリティ(BA:Bioavailability;生体利用度)などの重要な結晶特性が異なることとなる。」(48頁左欄1?13行)

(オ)刊行物5
(5a)「創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択」(20頁、標題)
(5b)「同一の医薬品化合物であってもその固体状態,すなわち原薬のForm毎にその物理化学的性質は異なる。原薬Formは,その構成分子と固体構造から定義される・・・。構成分子は,Free体,塩,Cocrystalは,固体構造は,結晶,アモルファスへ分類され,原薬Formはこれらの組み合わせからなる多様性を示す。
・・・・・・・・・・・・・・・
個々のFormは,異なる溶解性,吸収性,化学的安定性,物理的安定性,吸湿性,融点,製造適性等の物理化学的性質を有し,これらの性質は最終的に製剤の安全性,有効性及び品質を左右する^(1))。」(20頁左欄2行?下から9行)
(5c)「創薬後期に実施される原薬Formスクリーニング及び選択は、原薬Formの決定を目的とし、Formスクリーニング、Form選択、結晶多形スクリーニングの3つの段階に大きく分けられる。研究開発戦略にもよるが、原薬Form変更による安全性試験やBE試験等の追加を考慮すると、安全性試験の実施前までに決定しておくことが望ましいと思われる。
Formスクリーニングの目的は、原薬Formの候補となり得るFormを見出すこと、すなわち、非溶媒和結晶の熱力学的再安定形と、通常の温湿度環境で物理的に安定に存在しうる水和結晶とを、Free体、各塩及びCocrystalについて見出すことにある。事例は少ないがEthanol和結晶も原薬Formの候補となり得る。水和結晶及びEthanol和結晶以外の溶媒和結晶は、溶媒和した溶媒の安全性の観点から原薬Formとして選択することは難しい。」(21頁左欄10?24行)

ウ 刊行物に記載された発明
刊行物1は、その特許請求の範囲の請求項1に一般式Iで示される置換されたキサンチン化合物について記載した文献である(摘示(1a))。この一般式Iの化合物は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害作用を有し、糖尿病の予防又は治療に有望とされる(摘示(1b))。そして、請求項1の一般式Iに該当する化合物は、対応するtert-ブチルオキシカルボニル保護誘導体を脱保護することにより製造できることが記載され(摘示(1c))、その具体例が実施例2に記載され(摘示(1i))、実施例2の(142)の項には、それと同様の方法で1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを製造できることが記載され、融点(198-202℃)及びマススペクトルの測定結果が示されている(摘示(1i))。この化合物は、キサンチン骨格の、
1位に(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチルが、
3位にメチルが、
7位に2-ブチン-1-イルが、
8位に3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イルが、
それぞれ置換した化学構造を有しているものであるが、1位の置換基を導入するための中間体である2-クロロメチル-4-メチル-キナゾリンの合成が実施例XLIに記載され(摘示(1h))、キサンチン骨格の3位と7位に上記置換基を有し8位にハロゲン置換基を有する中間体である3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-ブロモ-キサンチンの合成が実施例Iの(7)に記載され(摘示(1f))、1位と3位と7位に置換し8位にハロゲン置換基を有するキサンチン骨格の8位に3-(t-ブチルオキシカルボニルアミノを導入するために3-t-ブチルオキシカルボニルアミノ-ピペリジンを反応させる手順が実施例IIIに記載されている(摘示(1g))。
また、上記実施例2の(142)の化合物の薬理活性が、DPP-IVアッセイにより調べられている(摘示(1e))。
以上によれば、刊行物1には、実施例2の(142)に係る化合物が、実際に実施できる程度に記載されているといえるから、以下の
「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンの固体」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

エ 対比・判断

(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンの固体」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明においては、塩酸を含む12種類の酸より選ばれる酸の酸付加塩であると特定されているのに対し、引用発明はそのように特定されていない点
(相違点2)
本願補正発明においては、物質の形態について、結晶形態の塩であって溶媒和物、有機溶媒和物、水和物、または混合水和物/有機溶媒和物の形態であると特定されているのに対し、引用発明はそのように特定されていない点

(イ)相違点についての検討

a 相違点1について
刊行物1において、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンは、請求項1記載の一般式Iで表される化合物に包含される(摘示(1a))。そして、一般式Iで表される化合物について、塩としてよいこと、具体的には塩酸のような酸の酸付加塩としてよいことが記載されている(摘示(1a)及び(1d))。
刊行物2は、医薬化合物の塩に関する総説的な文献であり、医薬化合物を塩へと変えることが、医薬の諸性質を操作するための通常とりうる手段であることが記載され(摘示(2b)及び(2e))、さらに、塩酸の酸付加塩が最も一般的な塩として使用されることが記載されている(摘示(2c)及び(2d))。
以上のことから、この出願の優先日当時、一般に医薬化合物を塩とすること、その際に塩酸の酸付加塩を選択して製造することは、当業者がごく普通に行うことであり、刊行物1において塩酸の酸付加塩とすることの動機付けが存在していると認められる。
したがって、引用発明において、1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチンを塩酸の酸付加塩とすることとして、相違点1に係る本願補正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

b 相違点2について
刊行物3?5の各摘示によれば、この出願の優先日当時、塩も含む医薬化合物全般について、多くの場合、水和物等の擬多形を含む結晶多形が複数存在し、安定性、純度、バイオアベイラビリティ等に影響することが医薬分野における技術常識であって、擬多形・結晶多形のスクリーニング・検討を行い医薬に適したものを選択することが当業者にとってごく一般的な事項であったと認められる。さらに、刊行物5には、医薬化合物の溶媒和物の形態として水和物が最も一般的であり、スクリーニングの目的の1つが安定な水和物の結晶形態を見出すことであると記載されている(摘示(5c))。
以上のことから、医薬化合物全般について、水和物の結晶形態とすることはこの出願の優先日当時に周知の事項であったと認められる。そうすると、医薬化合物に関する刊行物1において、上記aのとおり塩酸の酸付加塩を得ようとする動機付けの存在に加えて、さらに、水和物の結晶形態を得ようとすることについても十分な動機付けの存在を認めることができる。
そして、本願明細書の段落【0029】には、本願補正発明の結晶形態を得るための方法について、
「合成/調製
0.5gのBI 1356(審決注:1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチン(本願明細書の段落【0017】参照))の遊離塩基を、4 mlのEtOHに室温で懸濁する。懸濁液を透明な溶液が得られるまで典型的には数分後に得られるまで、加熱還流する。EtOHまたは水に溶解した1モル当量のそれぞれの酸(表1を参照のこと)(審決注:段落【0030】の表1には塩酸も挙げられている。)をBI 1356の熱溶液に添加する。その後、加熱を取り除き、この溶液を徐々に冷却し、一晩室温で保存する。沈殿が見られた場合には、得られた結晶をろ過によって除去し、その後周囲条件で一晩乾燥する。沈殿が見られない場合には、溶液は部分的に蒸発させ(約50%だけ)、次に、冷蔵庫(4℃)にもう一晩保存する。沈殿した結晶もろ過によって除去し、その後、周囲条件で一晩乾燥する。得られた結晶を偏光顕微鏡法、X線粉末回折および熱分析によって分析する。」
と記載されている。ここで使用されている溶媒は、エタノールや水というありふれた汎用溶媒であり、結晶化の条件及び操作も化合物溶液の冷却、濃縮及びろ過という、さしたる工夫のないごく一般的な手法と認められるから、本願補正発明の水和物の結晶形態は、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤で得られた結果物に過ぎないというべきである。
そうすると、本願補正発明は、引用発明において、当業者が刊行物1及び2の記載に従い酸付加塩とすることとした場合に、水和物の結晶形態を得ようとして当業者が通常の結晶化操作を試みた結果得られるものであると認められる。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)発明の効果について
本願補正発明の効果は、有効な特性を有する1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンの特定の酸による結晶形態の酸付加固体塩であって溶媒和物や水和物の形態であるものを提供したことであると認められるが、上記(イ)で検討した塩酸塩の水和物の結晶形態であるものについて、本願明細書の記載を検討しても、融点が175℃であることは示されているが、予想外の特性とまではいえず、他に具体的にどのような有効な特性を有するものであるかは示されていない。
したがって、本願補正発明が、当業者の予測を超える顕著な効果を奏するものであるとは認められない。

オ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
したがって、請求項2についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
平成26年4月18日付けの手続補正は上記第2に記載されたとおり却下されたので、この出願の発明は、平成25年11月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「1-[(4-メチルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノピペリジン-1-イル)キサンチンの塩酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸(そのD体またはL体)、アスパラギン酸(そのD体またはL体)、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、ショウノウ酸(その(+)体または(-)体)、カンファー-10-スルホン酸(その(+)体または(-)体)、カプリン酸(デカン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、炭酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチシン酸、グルコヘプトン酸(そのD体またはL体)、グルコン酸(そのD体またはL体); グルクロン酸(そのD体またはL体)、グルタミン酸、グルタル酸、2-オキソグルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、馬尿酸、イソ酪酸、乳酸(そのD体またはL体)、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸(そのD体またはL体)、マロン酸、マンデル酸(そのD体またはL体)、メタンスルホン酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、オレイン酸、オロチン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸(エンボン酸)、プロピオン酸、ピログルタミン酸(そのD体またはL体)、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸(そのD体またはL体)、チオシアン酸、トルエンスルホン酸およびウンデシレン酸、またはその溶媒和物、水和物または混合物より選ばれる酸による酸付加固体塩であって、溶媒和物、有機溶媒和物、水和物、または混合水和物/有機溶媒和物の形態の前記塩。」

第4 原査定の理由
原査定の理由である平成25年5月15日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由は、理由2であり、その概要は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に・・・頒布された下記の刊行物に記載された発明・・・に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものであり、その「下記の刊行物」には、引用文献1として特表2006-503013号公報(上記第2の2(2)アの刊行物1と同じ。以下「刊行物1」という。)及び引用文献3としてJournal of Pharmaceutical Science,1977年,66(1),p.1-19(上記第2の2(2)アの刊行物2と同じ。以下「刊行物2」という。)が含まれる。その「下記の請求項」は、請求項1?15である。
そして、拒絶査定は、本願発明が、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることを、その理由に含むものである。

第5 当審の判断

1 刊行物、刊行物の記載事項、刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、その記載事項及び刊行物1に記載された発明は、上記第2の2(2)ア、イ及びウに記載したとおりであり、刊行物2及びその記載事項は、上記第2の2(2)ア及びイに記載したとおりである。また、技術常識を示す刊行物3?5及びその記載事項は、上記第2の2(2)ア及びイに記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は、上記第2の2(1)で検討したとおり、上記第2の2(2)で検討した本願補正発明において、とり得る酸の選択肢が単に増えるとともに、「酸付加固体塩」の限定事項である「結晶形態」との構成を省いたものである。
そうすると、本願補正発明が上記2の2(2)に記載したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載の発明並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載の発明並びに技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 まとめ
したがって、本願発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-21 
結審通知日 2015-08-24 
審決日 2015-09-08 
出願番号 特願2011-541513(P2011-541513)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 裕之  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 齊藤 真由美
中田 とし子
発明の名称 有機化合物の塩の形態  
代理人 市川 さつき  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 山崎 一夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  
代理人 辻居 幸一  

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