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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1310412
審判番号 不服2014-6766  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-11 
確定日 2016-01-27 
事件の表示 特願2011-219630「インフルエンザワクチン接種」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月 5日出願公開、特開2012- 1565〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年11月3日(パリ条約による優先権主張 平成16年11月3日、米国)を国際出願日とする特願2007-540074号の一部を平成23年10月3日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成25年 4月25日付け 拒絶理由通知書
平成25年 7月31日 意見書及び手続補正書
平成25年12月 9日付け 拒絶査定
平成26年 4月11日 審判請求書及び手続補正書
平成26年 5月28日 手続補正書(方式)
平成27年 1月 5日付け 審尋

そして、平成27年1月5日付け審尋に対して回答書が提出されなかった。

第2 平成26年4月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年4月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】
患者をインフルエンザウイルスに対して免疫化するための、インフルエンザウイルス抗原を含む免疫原性組成物であって、該免疫原性組成物は、該患者のランゲルハンス細胞への送達によって該患者に投与されることを特徴とし、ここで、該患者は、0ヶ月?18ヶ月の間の年齢の小児であり、該抗原は不活性化HAである、免疫原性組成物。」
を、
「【請求項1】
患者をインフルエンザウイルスに対して免疫化するための、インフルエンザウイルス抗原を含む免疫原性組成物であって、該免疫原性組成物は、中実であり、かつ、ニードルの外側に抗原がコーティングされているマイクロニードルのアレイを用いて、該患者のランゲルハンス細胞への送達によって該患者に投与されることを特徴とし、ここで、該患者は、0ヶ月?18ヶ月の間の年齢の小児であり、該抗原は不活性化HAである、免疫原性組成物。」
(下線は補正箇所を示す。)とする補正を含むものである。

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「該患者のランゲルハンス細胞への送達」が「中実であり、かつ、ニードルの外側に抗原がコーティングされているマイクロニードルのアレイを用いて」なされることを限定するものであって、その補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか)について、以下に検討する。

2 引用刊行物とその記載事項
(1)刊行物1:特表2004-532830号公報
原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献1)には、以下の事項が記載されている。

(刊1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮内送達用の単回用量インフルエンザワクチンの製造における、三価非生インフルエンザ抗原調製物の使用。」(2頁1?4行 特許請求の範囲請求項1)

(刊1-2)「【0001】
本発明は、皮内送達用のインフルエンザワクチン製剤、その調製方法、および予防または治療におけるその使用に関する。より具体的には、本発明は、単回用量で皮内投与することにより法的規制を満たすのに十分な免疫応答を達成することが可能なインフルエンザワクチンの使用に関する。」(3頁12?16行)

(刊1-3)「【0004】
典型的なインフルエンザ流行病は、入院率または死亡率の増加により立証されるように、肺炎または下気道疾患の発生率の増加を引き起こす。高齢者または根源的慢性疾患を有する者は、そのような合併症にかなり罹患し易いと考えられるが、乳児もまた重篤な疾患にかかる可能性はある。したがって、これらの人々をとくに防御する必要がある。」(3頁29?33行)

(刊1-4)「【0010】
インフルエンザワクチンの代替投与法、とくに、痛みがないかまたは筋肉内注射よりも痛みが少なくかつ「針恐怖」に起因して患者のコンプライアンスにマイナスの影響を及ぼすことのない方法を提供することが望ましいであろう。また、たとえば、皮膚(とくに真皮)に存在する樹状細胞およびランゲルハンス細胞に抗原をターゲッティングすることにより、細胞媒介性免疫系を標的にすることも望ましいであろう。」(4頁19?24行)

(刊1-5)「【0033】
本明細書中で使用する場合、「皮内送達」という用語は、皮膚の真皮へのワクチンの送達を意味する。しかしながら、ワクチンは、必ずしも真皮だけに局在するわけではないであろう。真皮は、ヒト皮膚の表面から約1.0?約2.0mmの位置にある皮膚の層であるが、個体間でいくらか差異が見られ、身体の部位によっても異なる。一般的には、皮膚の表面下1.5mmの位置であれば、真皮に達すると予想することができる。真皮は、表面の角質層および表皮と、その下の皮下層との間に位置する。送達形態に依存して、ワクチンは、最終的に真皮内だけにもしくは主に真皮内に位置するか、または表皮内および真皮内に最終的に分布する可能性がある。」(7頁36?44行)

(刊1-6)「【0080】
本発明は、さらなる態様において、本明細書に記載されているように皮内投与デバイスとワクチン製剤とを含む医薬用キットを提供する。デバイスは、好ましくは、ワクチンがすでに充填された形で供給される。好ましくは、ワクチンは、本明細書に記載されているように、従来の筋肉内ワクチンの場合よりも小さい液体容量、とくに約0.05ml?0.2mlの容量である。好ましくは、デバイスは、真皮にワクチンを投与するための短針送達デバイスである。」(14頁22?28行)

(刊1-7)「【0121】
7.不活化
濾過された一価物質を22±2℃で長くとも84時間インキュベートする(ウイルス株に応じて、このインキュベーションの時間を短縮することが可能である)。次に、全タンパク質含有量を最大250μg/mlまで減少させるために、0.025%Tween80を含有するリン酸緩衝液を添加する。最終濃度が50μg/mlになるようにホルムアルデヒドを添加し、20℃±2℃で少なくとも72時間かけて不活化を行う。」(19頁24?30行)

(刊1-8)「【0125】
純度
クーマシー染色したポリアクリルアミドゲルをO.D.走査することにより、半定量的に純度を決定した。手作業でピークを決定した。サンプルの結果を表1に示す。」(19頁45?48行)

(刊1-9)「【0126】


」(表1)

3 周知技術
原査定及び審尋において周知技術として引用された刊行物には、以下の事項が記載されている。なお、摘記の後の日本語の訳文は当審が付した。

(中実のマイクロニードルアレイに係る周知技術)
刊行物A:MATRIANO, J.A. et al, Pharm Res, 2002, Vol.19, No.1, p.63-70(審尋の引用文献3)
刊行物B:Drug Delivery Technology, 2002, Vol.2, No.5. p.54-57(審尋の引用文献4)
刊行物C:CORMIER,M. et al, Drugs and the Pharmaceutical Sciences, 2003, Vol.126, p.589-598(審尋の引用文献5)

(1)刊行物A:MATRIANO, J.A. et al, Pharm Res, 2002, Vol.19, No.1, p.63-70
(刊A-1)「Methods. Macroflux^(R) microprojection array systems (330-μm microprojection length, 190 microprojections/cm^(2), 1- and 2-cm^(2) area) were coated with a model protein antigen, ovalbumin (OVA), to produce a dry-film coating.」(63頁左欄「Methods.」欄1?4行)
(方法。Macroflux^(R)微小突起アレイシステム(330-μm微小突起長、190微小突起/cm^(2)、1-及び2-cm^(2)面積)は、乾燥フィルムコーティングを作製するため、モデル蛋白抗原であるオボアルブミン(OVA)でコーティングされた。)

(刊A-2)「Conclusions. Macroflux^(R) skin patch technology provides rapid and reproducible intracutaneous administration of dry-coated antigen. The depth of skin penetration targets skin immune cells; the quantity of antigen delivered can be controlled by formulation, patch wearing time, and system size.」(63頁左欄「Conclusions.」欄1?5行)
(結論。Macroflux^(R)皮膚用パッチ技術は、速く、再現可能な、乾燥コーティングされた抗原の皮内投与を提供する。皮膚貫通の深さは皮膚免疫細胞を標的とする;送達される抗原の量は、処方、パッチ貼付時間、及びシステムサイズにより調節し得る。)

(刊A-3)「The skin is a major immunologic organ, with a dense network of potent antigen presenting cells, Langerhans cells (LCs), covering approximately 25% of the epidermal/dermal boundary (1-3). Foreign antigens that penetrate the skin's primary barrier (stratum corneum) are taken up by LCs, which migrate to draining lymph nodes, resulting in activation of antigen-specific immunity.」(63頁右欄5?11行)
(皮膚は、表皮/真皮境界の約25%を覆う、強力な抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞(LCs)の高密度ネットワークを有する、主要な免疫関連臓器である(1-3)。皮膚の第一の境界(角質層)を貫通した外部抗原はLCsに取り込まれ、それは流入領域リンパ節へと移行し、結果として抗原特異的免疫をもたらす。)

(刊A-4)「


」(図1B)

(刊A-5)「No indication of bleeding was observed, suggesting that the majority of the microprojections remained above the microcapillary bed, with minimal or no vascular damage. In addition, no signs of infection were observed.」(69頁左欄1?5行)
(出血の兆候は観察されず、これは微小突起の大部分は、最小限又は全くの血管損傷なしにマイクロキャピラリーベッドの上に位置していたことを示唆する。加えて、感染の兆候も観察されなかった。)

(2)刊行物B:Drug Delivery Technology, 2002, Vol.2, No.5. p.54-57
(刊B-1)「Macroflux^(R) transdermal patch technology has been developed to deliver biopharmaceutical drugs in a controlled, reproducible manner that optimizes bioavailability and efficacy without significant discomfort for the patient.」(54頁「INTRODUCTION」欄左欄11行?右欄3行)
(Macroflux^(R)の経皮的パッチ技術は、患者にとって重篤な不快なしに、バイオ医薬品の生物学的利用能及び有効性を最大化する、管理された、再現可能な方法で送達するために開発されてきた。)

(刊B-2)「


」(図4)

(刊B-3)「Scientists at ALZA have also demonstrated that intracutaneous Macroflux^(R) delivery of a 45-kDa protein antigen provided a better vaccine response than an equivalent dose delivered by intramuscular or subcutaneous injection in preclinical studies.」(56頁左欄6?11行)(ALZAの科学者たちは、45KDaのタンパク質抗原のMacroflux^(R)の皮内投与が同等の用量の筋肉内又は皮下注射と比べてより良いワクチン反応を提供したことも証明した。)

(3)刊行物C:CORMIER,M. et al, Drugs and the Pharmaceutical Sciences, 2003, Vol.126, p.589-598
(刊C-1)「Macroflux^(R) technology is a novel transdermal drug delivery method that ALZA Corporation is developing for use with several transdermal delivery systems that may increase the number of drugs that can be delivered across the skin at therapeutically useful rates. The systems incorporate a titanium microprojection array that creates superficial pathways through the skin barrier layer to allow transportation of therapeutic proteins and vaccines, or access to the interstitial fluids for sampling. The microprojection array can be coated with drug or vaccine for bolus or short-duration administration, or it may be used in combination with a drug reservoir for continuous passive or electrotransport applications. Macroflux^(R) systems have been designed for easy, convenient application that yields reproducible delivery of pharmacological agents. 」(589頁25行?590頁8行)
(Macroflux^(R)技術は、治療的に有用な割合で皮膚を介して送達し得る薬剤の数を増やし得る、幾つかの経皮的送達システムに使用するため、ALZA社が開発中の新規な経皮的薬剤送達方法である。このシステムはチタン製の微小突起のアレイを包含し、治療的タンパク質及びワクチンの輸送を持たせるため、又は、試料抽出にあたり間質液へアクセスするために皮膚障壁層を通した表面的な経路を与える。微小突起のアレイは、ボーラス又は短い期間の投与のため薬剤又はワクチンにより被覆され得、並びに、持続受動的又は電気輸送的投与のため、薬剤リザーバーとの併用により使用され得る。Macroflux^(R)システムは、薬剤学的抗原の再現可能な送達を生じさせる簡単で簡便な投与のために設計されてきた。)

(刊C-2)「


」(図3)

4 刊行物1記載の発明
(1)摘記(刊1-1)記載の事項
刊行物1の摘記(刊1-1)には、「皮内送達用の単回用量インフルエンザワクチン」が記載されている。

(2)抗原の送達部位について
摘記(刊1-5)に「皮内送達」について「ワクチンは、最終的に真皮内だけにもしくは主に真皮内に位置するか、または表皮内および真皮内に最終的に分布する」と記載され、摘記(刊1-4)に「たとえば、皮膚(とくに真皮)に存在する樹状細胞およびランゲルハンス細胞に抗原をターゲッティングすることにより、細胞媒介性免疫系を標的にすることも望ましいであろう。」と記載されているから、上記(刊1-1)記載の「皮内送達用の単回用量インフルエンザワクチン」は、皮膚内の「樹状細胞およびランゲルハンス細胞」に抗原を送達するものである。

(3)皮内送達に用いられるデバイスについて
摘記(刊1-6)に「デバイスは、好ましくは、ワクチンがすでに充填された形で供給される。好ましくは、ワクチンは、本明細書に記載されているように、従来の筋肉内ワクチンの場合よりも小さい液体容量、とくに約0.05ml?0.2mlの容量である。好ましくは、デバイスは、真皮にワクチンを投与するための短針送達デバイスである。」と記載されているから、上記(刊1-1)記載の「皮内送達用の単回用量インフルエンザワクチン」においては、短針送達デバイスが用いられると理解される。

(4)抗原について
摘記(刊1-7)に「最終濃度が50μg/mlになるようにホルムアルデヒドを添加し、20℃±2℃で少なくとも72時間かけて不活化を行う。」と記載されているから、上記(刊1-1)のインフルエンザワクチンに含まれる抗原は不活化されていると理解される。また、摘記(刊1-8)および(刊1-9)には、ウイルスタンパク質の一つとしてHAが挙げられていることから、上記(刊1-1)のインフルエンザワクチンに含まれる抗原の一部は、不活化されたHAであると理解される。

(5)小括
以上、摘記(刊1-1)記載の事項に、上記(2)?(4)記載の事項を加えて整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「皮内送達用の単回用量インフルエンザワクチンであって、該ワクチンは、短針送達デバイスにより、患者の皮膚内の樹状細胞およびランゲルハンス細胞へ送達されるものであり、該ワクチンに含まれる抗原の一部は、不活性化されたHAである、インフルエンザワクチン。」

5 対比
本願補正発明と刊行物1発明を対比する。

(1)免疫原性組成物について
刊行物1発明の「インフルエンザワクチン」は、インフルエンザウイルス抗原を含み、摘記(刊1-2)にも記載されているように、患者をインフルエンザウイルスに対して免疫応答を達成するためのものであるから、本願補正発明の「患者をインフルエンザウイルスに対して免疫化するための、インフルエンザウイルス抗原を含む免疫原性組成物」に相当する。

(2)送達される患者の部位について
刊行物1発明の「皮内送達用の単回用量インフルエンザワクチン」が送達される患者の「樹状細胞およびランゲルハンス細胞」は、本願補正発明の送達部位である「ランゲルハンス細胞」に相当する。

(3)組成物に含まれる抗原について
刊行物1発明のワクチンに含まれる抗原の一部は「不活性化されたHA」であり、これは本願補正発明の抗原である「不活性化HA」に相当する。

(4)小括
以上のことから、両発明の間には、次の(一致点)並びに(相違点1)?(相違点2)がある。
(一致点)
「患者をインフルエンザウイルスに対して免疫化するための、インフルエンザウイルス抗原を含む免疫原性組成物であって、該免疫原性組成物は、該患者のランゲルハンス細胞への送達によって該患者に投与されることを特徴とし、該抗原は不活性化HAである、免疫原性組成物。」

(相違点1)本願補正発明が「中実であり、かつ、ニードルの外側に抗原がコーティングされているマイクロニードルのアレイを用いて、」免疫原性組成物を患者に送達しているのに対して、刊行物1発明では、短針送達デバイスにより皮内送達されているが、該マイクロニードルのアレイを用いて送達されていない点。

(相違点2)本願補正発明の患者が「0ヶ月?18ヶ月の間の年齢の小児」であるのに対し、刊行物1発明では、患者の特定はなされていない点。

6 判断
(1)相違点1について
刊行物1の摘記(刊1-4)には、「インフルエンザワクチンの代替投与法、とくに、痛みがないかまたは筋肉内注射よりも痛みが少なくかつ「針恐怖」に起因して患者のコンプライアンスにマイナスの影響を及ぼすことのない方法を提供することが望ましいであろう。」と記載されており、また、摘記(刊1-6)には、「好ましくは、ワクチンは、本明細書に記載されているように、従来の筋肉内ワクチンの場合よりも小さい液体容量、とくに約0.05ml?0.2mlの容量である。好ましくは、デバイスは、真皮にワクチンを投与するための短針送達デバイスである。」と記載されている。
このことから、刊行物1には、インフルエンザワクチンの投与方法としては、筋肉注射よりも痛みが少なく、小さい液体容量である投与方法が好ましいとの教示がなされている。

刊行物A?Cにも記載されているMacroflux^(R)は、本願優先日当時の周知の皮内送達デバイスであり、刊行物Aの摘記(刊A-4)及び刊行物Bの摘記(刊B-2)から、中実のマイクロニードルのアレイであり、刊行物Aの摘記(刊A-1)及び刊行物Cの摘記(刊C-1)の記載から、ニードルの外側に抗原をコーティングして使用されるものであって、刊行物Aの摘記(刊A-2)の記載から皮膚免疫細胞に抗原を送達するために用いられる。
また、刊行物Aの摘記(刊A-5)、刊行物Bの摘記(刊B-1)、及び刊行物Cの摘記(刊C-1)の記載から、Macroflux^(R)は、適用に伴う出血がなく、また、患者にとって重篤な不快なく簡便で簡単に投与できるデバイスであることが理解される。
そして、刊行物Aの摘記(刊A-3)、刊行物Bの摘記(刊B-3)及び刊行物Cの摘記(刊C-2)にも記載されているように、結果として、同じ用量でより良い抗原特異的免疫をもたらすことが知られている。

したがって、刊行物1発明において、インフルエンザワクチンを送達するためのデバイスとして、より患者に負担の少ないMacroflux^(R)のような「中実であり、かつ、ニードルの外側に抗原がコーティングされているマイクロニードルのアレイ」を適用してみることは、当業者が容易になし得たことといえる。

(2)相違点2について
刊行物1の摘記(刊1-3)には、「高齢者または根源的慢性疾患を有する者は、そのような合併症にかなり罹患し易いと考えられるが、乳児もまた重篤な疾患にかかる可能性はある。したがって、これらの人々をとくに防御する必要がある。」と記載されていることから、刊行物1には、対象とする患者として、高齢者や乳児といった重篤な疾患にかかる可能性のある者を含むという教示がなされている。
そして、インフルエンザウイルスは、年齢問わず全ての者が罹患する可能性があることから、刊行物1発明において、患者を限定することなく、高齢者や乳児といった重篤な疾患にかかる可能性のある者も投与の対象としてみることは、当業者が適宜なし得ることである。

(3)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、刊行物1に記載された事項及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。

(4)小括
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年4月11日付けの手続補正は、上記のとおり却下されることになったので、本願の請求項1?14に係る発明は、平成25年7月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1は、次のとおりである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】
患者をインフルエンザウイルスに対して免疫化するための、インフルエンザウイルス抗原を含む免疫原性組成物であって、該免疫原性組成物は、該患者のランゲルハンス細胞への送達によって該患者に投与されることを特徴とし、ここで、該患者は、0ヶ月?18ヶ月の間の年齢の小児であり、該抗原は不活性化HAである、免疫原性組成物。」

2 引用刊行物の記載事項、周知技術及び刊行物1記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1の記載事項、中実のマイクロニードルアレイに係る周知技術及び刊行物1記載の発明は、前記「第2 2」、「第2 3」及び「第2 4」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の
「該患者のランゲルハンス細胞への送達」について「中実であり、かつ、ニードルの外側に抗原がコーティングされているマイクロニードルのアレイを用いて」なされるとの構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定発明事項を全て含んだ本願補正発明が、前記「第2」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-31 
結審通知日 2015-09-01 
審決日 2015-09-14 
出願番号 特願2011-219630(P2011-219630)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長岡 真  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 大久保 元浩
新留 素子
発明の名称 インフルエンザワクチン接種  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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