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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1310611
審判番号 不服2014-18864  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-22 
確定日 2016-02-04 
事件の表示 特願2010-121139「樹脂、レジスト組成物及びパターン形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月 4日出願公開、特開2011-148967〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年5月27日(優先権主張 平成21年8月31日、平成21年12月21日)の出願であって,平成25年9月13日付けで拒絶理由が通知され,同年11月14日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成26年1月22日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年3月31日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,同年6月11日付けで補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定がなされ,これに対して,同年9月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたが、同年10月27日付けで前置報告がなされ、同年12月19日に上申書が提出され、同年12月22日に手続補足書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成26年9月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
式(I)で表される化合物に由来する構造単位、
酸と接触すると脱離基が開裂して、カルボキシル基又はヒドロキシル基を形成する基を有するモノマーに由来する構造単位及び
ラクトン環を有し、酸と接触しても脱離基が開裂してカルボキシル基又はヒドロキシル基を形成する基を有さないモノマーに由来する構造単位を含有する樹脂ならびに酸発生剤を含有するレジスト組成物。



[式(I)中、
R^(1)は、水素原子、ハロゲン原子又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1?6のアルキル基を表す。
X^(1)は、炭素数2?36の複素環を表し、該複素環に含まれる水素原子は、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1?24の炭化水素基、炭素数1?12のアルコキシ基、炭素数2?4のアシル基又は炭素数2?4のアシルオキシ基で置換されていてもよく、該複素環に含まれる-CH_(2)-は、-CO-又は-O-で置き換わっていてもよい。]」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
これに対して、原審において拒絶査定の理由とされた平成26年1月22日付けで通知された拒絶理由の概要は、本願発明は、刊行物1(特開2002-23371号公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないというもの、及び、本願発明は、先願明細書(特願2009-199026号)に記載された発明と同一であり、本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一ではなく、また、本願の出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないというものを含むものである。

なお、上記拒絶理由通知書中、「先願2」として、「特願2011-528869号(国際出願番号 PCT/JP2010/64604、国際公開第2011/24953号、優先日 2009年8月28日 特願2009-199026号)」が提示されているが、特願2011-528869号は本願の優先日及び出願日後の出願であることや、「優先日 2009年8月28日 特願2009-199026号」との記載からみて、上記拒絶理由通知書における先願が、本願優先日前の出願である特願2009-199026号を意図していたことは明らかである。

第4 当審の判断
1.理由1(特許法第29条第2項の違反について)
(1)刊行物及び刊行物の記載について
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-23371号公報(以下、「刊行物1」という(原審の平成26年1月22日付拒絶理由通知書における引用例1)。)には、以下の記載がされている(下線は当審によるものを含む。以下、同様)。

(ア)「【請求項1】 (A)下記式(1)で表される複素環構造の少なくとも1種を側鎖に有する樹脂、並びに(B)感放射線性酸発生剤を含有することを特徴とする感放射線性樹脂組成物。
【化1】


〔式(1)において、R^(1) は水素原子、炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシル基または炭素数2?7の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシカルボニル基を示す。〕
【請求項2】 (A)下記式(1)で表される複素環構造を有する繰返し単位と酸の存在下で解離する酸解離性基を有する繰返し単位とを含有するアルカリ不溶性またはアルカリ難溶性の樹脂であって、該複素環構造が、カルボニル結合、エステル結合あるいはエーテル結合を介して、該樹脂の主鎖骨格を構成する炭素原子に結合しており、かつ該酸解離性基が解離したときアルカリ可溶性となる共重合体、並びに(B)感放射線性酸発生剤を含有することを特徴とする感放射線性樹脂組成物。
【化2】


〔式(1)において、R^(1) は水素原子、炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシル基または炭素数2?7の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシカルボニル基を示す。〕
【請求項3】 (A)成分の樹脂における式(1)で表される複素環構造を有する繰返し単位が、下記式(2)で表される繰返し単位および/または下記式(3)で表される繰返し単位からなることを特徴とする請求項2記載の感放射線性樹脂組成物。
【化3】


〔式(2)において、R^(1) は水素原子、炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシル基または炭素数2?7の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシカルボニル基を示し、R^(2) は水素原子またはメチル基を示す。〕
【化4】


〔式(3)において、R^(1) は水素原子、炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシル基または炭素数2?7の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシカルボニル基を示し、R^(3) 、R^(4) およびR^(5) は相互に独立に水素原子、炭素数1?4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、1価の酸素原子含有極性基または1価の窒素原子含有極性基を示す。〕
【請求項4】 (A)成分の樹脂が、式(1)で表される複素環構造を有する繰返し単位以外の繰返し単位として、酸解離性であってもよい有橋式炭化水素骨格を有する繰返し単位を含有することを特徴とする請求項2または請求項3記載の感放射線性樹脂組成物。」(請求項1?4)

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、感放射線性樹脂組成物に関わり、さらに詳しくは、KrFエキシマレーザーあるいはArFエキシマレーザー等の遠紫外線、シンクロトロン放射線等のX線、電子線等の荷電粒子線の如き各種の放射線を使用する微細加工に有用な化学増幅型レジストとして好適に使用することができる感放射線性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】集積回路素子の製造に代表される微細加工の分野においては、より高い集積度を得るために、最近では0.20μm以下のレベルでの微細加工が可能なリソグラフィー技術が必要とされている。しかし、従来のリソグラフィープロセスでは、一般に放射線としてi線等の近紫外線が用いられているが、この近紫外線では、サブクオーターミクロンレベルの微細加工が極めて困難であると言われている。そこで、0.20μm以下のレベルでの微細加工を可能とするために、より波長の短い放射線の利用が検討されている。このような短波長の放射線としては、例えば、水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、X線、電子線等を挙げることができるが、これらのうち、特にKrFエキシマレーザー(波長248nm)あるいはArFエキシマレーザー(波長193nm)が注目されている。このようなエキシマレーザーによる照射に適した感放射線性樹脂組成物として、酸解離性官能基を有する成分と放射線の照射(以下、「露光」という。)により酸を発生する成分(以下、「酸発生剤」という。)とによる化学増幅効果を利用した組成物(以下、「化学増幅型感放射線性組成物」という。)が数多く提案されている。化学増幅型感放射線性組成物としては、例えば、特公平2-27660号公報には、カルボン酸のt-ブチルエステル基またはフェノールのt-ブチルカーボナート基を有する重合体と酸発生剤とを含有する組成物が提案されている。この組成物は、露光により発生した酸の作用により、重合体中に存在するt-ブチルエステル基あるいはt-ブチルカーボナート基が解離して、該重合体がカルボキシル基あるいはフェノール性水酸基からなる酸性基を有するようになり、その結果、レジスト被膜の露光領域がアルカリ現像液に易溶性となる現象を利用したものである。
」(段落【0001】、【0002】)

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、放射線に対する透明性が高く、しかも感度、解像度、パターン形状等のレジストとしての基本物性に優れるのみならず、微細加工時に現像欠陥を生じることがなく、半導体素子を高い歩留りで製造することができる新規な感放射線性樹脂組成物を提供することにある。」(段落【0005】)

(エ)「【0021】樹脂(A)における酸解離性基としては、例えば、酸の存在下で解離して酸性官能基、好ましくはカルボキシル基を生じる炭素数20以下の酸解離性有機基(以下、単に「酸解離性有機基」という。)を挙げることができる。酸解離性有機基としては、例えば、下記式(4)で表される基(以下、「酸解離性有機基(I)」という。)、下記式(5)で表される基(以下、「酸解離性有機基(II)」という。)等が好ましい。
【0022】
【化8】

〔式(4)において、各R^(6) は相互に独立に炭素数1?4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基または炭素数4?20の1価の脂環式炭化水素基もしくはその誘導体を示すか、あるいは何れか2つのR^(6) が相互に結合して、それぞれが結合している炭素原子と共に炭素数4?20の2価の脂環式炭化水素基もしくはその誘導体を形成し、残りのR^(6) が炭素数1?4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基または炭素数4?20の1価の脂環式炭化水素基もしくはその誘導体である。〕」(段落【0021】から【0022】)

(オ)「【0086】他の繰返し単位を与える前記以外の重合性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-メチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸シクロプロピル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキセニル、(メタ)アクリル酸4-メトキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-シクロプロピルオキシカルボニルエチル、(メタ)アクリル酸2-シクロペンチルオキシカルボニルエチル、(メタ)アクリル酸2-シクロヘキシルオキシカルボニルエチル、(メタ)アクリル酸2-シクロヘキセニルオキシカルボニルエチル、(メタ)アクリル酸2-(4’-メトキシシクロヘキシル)オキシカルボニルエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;
(中略)
【0090】α-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン、α-(メタ)アクリロイルオキシ-β-フルオロ-γ-ブチロラクトン、α-(メタ)アクリロイルオキシ-β-ヒドロキシ-γ-ブチロラクトン、α-(メタ)アクリロイルオキシ-β-メチル-γ-ブチロラクトン、α-(メタ)アクリロイルオキシ-β-エチル-γ-ブチロラクトン、α-(メタ)アクリロイルオキシ-β,β-ジメチル-γ-ブチロラクトン、α-(メタ)アクリロイルオキシ-β-メトキシ-γ-ブチロラクトン、β-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン、α-フルオロ-β-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン、α-ヒドロキシ-β-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン、α-メチル-β-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン、α-エチル-β-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン、α,α-ジメチル-β-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン、α-メトキシ-β-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン、α-(メタ)アクリロイルオキシ-δ-メバロノラクトン等の酸解離性基をもたない(メタ)アクリロイルオキシラクトン化合物;前記不飽和カルボン酸類あるいは前記不飽和カルボン酸のカルボキシル基含有エステル類のカルボキシル基を、酸解離性有機基(IV) に変換した化合物等の単官能性単量体や、
【0091】メチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ビス(2-ヒドロキシプロピル)ベンゼンジ(メタ)アクリレート、1,3-ビス(2-ヒドロキシプロピル)ベンゼンジ(メタ)アクリレート等の多官能性単量体等を挙げることができる。」(段落【0086】から【0091】)

(カ)「【0133】〈樹脂(A)の合成〉
合成例3
アクリロイル-2-オキサゾリディノン25g、2-メタクリロイルオキシ-2-メチルアダマンタン25g、3-メルカプトプロピオン酸1.0gを、テトラヒドロフラン50gに溶解して均一溶液としたのち、窒素を30分間吹き込み、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル3g加えて、65℃に加熱し、同温度に保って4時間攪拌した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、テトラヒドロフラン50g加えて希釈して、1,000ミリリットルのn-ヘキサン中に投入して樹脂を析出させたのち、ろ別して、樹脂を白色粉体として回収した。得られた樹脂は、下記式に示す繰返し単位(15-1) と繰返し単位(15-2) との共重合モル比が40:60、Mwが8,100の共重合体であった。この樹脂を、樹脂(A-1) とする。
【0134】
【化38】


【0135】合成例4
アクリロイル-2-オキサゾリディノン15g、2-メタクリロイルオキシ-2-メチルアダマンタン20g、1-メタクリロイルオキシ-3-ヒドロキシアダマンタン15g、3-メルカプトプロピオン酸1.0gを、テトラヒドロフラン50gに溶解して均一溶液としたのち、窒素を30分吹き込み、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル3g加えて、65℃に加熱し、同温度に保って4時間攪拌した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、テトラヒドロフラン50g加えて希釈して、1,000ミリリットルのn-ヘキサン中に投入して樹脂を析出させたのち、ろ別して、樹脂を白色粉体として回収した。得られた樹脂は、下記式に示す繰返し単位(16-1) と繰返し単位(16-2) と繰返し単位(16-3) との共重合モル比が25:45:30、Mwが7,500の共重合体であった。この樹脂を、樹脂(A-2) とする。
【0136】
【化39】


【0137】合成例5
アクリロイル-2-オキサゾリディノン25g、2-(2’-メタクリロイルオキシ-2’-プロピル)ノルボルナン25g、3-メルカプトプロピオン酸1.0gを、テトラヒドロフラン50gに溶解して均一溶液としたのち、窒素を30分吹き込み、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル3g加えて、65℃に加熱し、同温度に保って4時間攪拌した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、テトラヒドロフラン50g加えて希釈して、1,000ミリリットルのn-ヘキサン中に投入して樹脂を析出させたのち、ろ別して、樹脂を白色粉体として回収した。得られた樹脂は、下記式に示す繰返し単位(17-1) と繰返し単位(17-2) との共重合モル比が43:57、Mwが7,900の共重合体であった。この樹脂を、樹脂(A-3) とする。
【0138】
【化40】

【0139】合成例6
アクリロイル-2-オキサゾリディノン15g、2-(2’-メタクリロイルオキシ-2’-プロピル)ノルボルナン20g、1-メタクリロイルオキシ-3-ヒドロキシアダマンタン15g、3-メルカプトプロピオン酸1.0gを、テトラヒドロフラン50gに溶解して均一溶液としたのち、窒素を30分吹き込み、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル3g加えて、65℃に加熱し、同温度に保って4時間攪拌した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、テトラヒドロフラン50g加えて希釈して、1,000ミリリットルのn-ヘキサン中に投入して樹脂を析出させたのち、ろ別して、樹脂を白色粉体として回収した。得られた樹脂は、下記式に示す繰返し単位(18-1) と繰返し単位(18-2) と繰返し単位(18-3) との共重合モル比が28:45:32、Mwが8,900の共重合体であった。この樹脂を、樹脂(A-4) とする。
【0140】
【化41】


)(段落【0133】から段落【0140】)

(2)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、放射線に対する透明性が高く、しかも感度、解像度、パターン形状等のレジストとしての基本物性に優れるのみならず、微細加工時に現像欠陥を生じることがなく、半導体素子を高い歩留りで製造することができる新規な感放射線性樹脂組成物を提供すること(摘示(ウ))を解決しようとする課題として、(A)請求項1の式(1)で表される複素環構造の少なくとも1種を側鎖に有する樹脂、並びに(B)感放射線性酸発生剤を含有することを特徴とする感放射線性樹脂組成物が記載されている(摘示ア)。
そして、当該組成物はレジスト用途に用いられること(摘示(イ))、上記式(1)で表される環構造を有する繰返し単位が、請求項3の式(2)で表される繰返し単位からなること(請求項3)が記載されている。
これらの記載を総合すると、刊行物1には、
「(A)下記式(2)で表される複素環構造の少なくとも1種を側鎖に有する樹脂、並びに(B)感放射線性酸発生剤を含有することを特徴とするレジスト樹脂組成物。
【化3】


〔式(2)において、R^(1) は水素原子、炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素数1?6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシル基または炭素数2?7の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシカルボニル基を示し、R^(2) は水素原子またはメチル基を示す。〕」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比・判断
(3-1)本願発明と引用発明との対比
引用発明における「式(2)で表される繰り返し単位」は、本願発明における式(I)の複素環X^(1)に含まれる1つの「-CH_(2)-」が「-O-」で置き換わったものに相当するから、本願発明の「式(I)で表される構造単位」と重複・一致するものである。
また、引用発明における「感放射線性酸発生剤」は、本願発明における「酸発生剤」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「式(I)で表される化合物に由来する構造単位を含有する樹脂ならびに酸発生剤を含有するレジスト組成物。


[式(I)中、R^(1)は、水素原子又は炭素数1のアルキル基を表す。X^(1)は、

の中に記載される5員複素環を表し、該複素環に含まれる水素原子は、炭素数1?24の炭化水素基、炭素数1?12のアルコキシ基で置換されていてもよい。]」の点で一致し、次の相違点1で相違する。

○相違点1:本願発明にかかる樹脂は、式(I)で表される化合物に由来する構造単位を含有する他に、「酸と接触すると脱離基が開裂して、カルボキシル基又はヒドロキシル基を形成する基を有するモノマーに由来する構造単位」、及び、「ラクトン環を有し、酸と接触しても脱離基が開裂してカルボキシル基又はヒドロキシル基を形成する基を有さないモノマーに由来する構造単位」を含有すると特定するのに対し、引用発明にかかる樹脂は、式(2)で表される化合物に由来する構造単位を含有するものの、上記で特定される他の2つの構造単位を含有するとの特定はない点。

(3-2)相違点1についての検討
相違点1について検討する。
刊行物1は、KrFエキシマレーザーやArFエキシマレーザーによる化学増幅型レジストとして用いられる樹脂組成物の技術分野に関するものである(摘示イ)から、引用発明に係るレジスト組成物は、化学増幅型レジストとして用いられるものである。そして、一般的に、化学増幅型レジストは、酸解離性官能基を有する成分と、酸発生剤とによる化学増幅効果を利用したレジストである(摘示イ)。
そして、刊行物1には、(A)成分の樹脂が、式(1)で表される複素環構造を有する繰返し単位として、酸解離性であってもよい有橋式炭化水素骨格を有する繰返し単位を含有することが記載されるとともに(請求項4)、当該酸解離性有機基として、酸の存在下で解離してカルボキシル基を生じる炭素数20以下の酸解離性有機基が例示されており(摘示(エ))、当該酸解離性基は、本願発明における「樹脂が酸と接触すると脱離基が開裂して、カルボキシル基を形成する基を有するモノマー」に相当する。さらに、刊行物1には、当該酸解離性有機基の具体的な実施態様として、側鎖にアダマンチル基又はノルボルニル基を有する基を繰返し単位として含有する樹脂が記載されている(摘示(カ))。
そうすると、化学増幅型レジストとして用いられる引用発明にかかる樹脂の構成成分として、さらに酸と接触すると脱離基が開裂し、カルボキシル基を形成する基をモノマーに由来する構造単位を含有させることは、当業者が容易になし得たものである。

さらに、刊行物1は、KrFエキシマレーザーやArFエキシマレーザーによる化学増幅型レジストとして用いられる樹脂組成物の技術分野に関するものであり(摘示イ)、摘示(ウ)の記載からみて、その解決しようとする課題の1つは、解像度に優れる樹脂組成物を提供することである。
KrFエキシマレーザーやArFエキシマレーザーによる化学増幅型レジストとして用いられる樹脂組成物においては、従来より、レジストと基材との密着性の向上や、解像度を上げることは、周知の課題であったと認められ、当該課題を解決するための手段として、レジスト樹脂に、酸解離性基を持たない、α-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン等の(メタ)アクリロイルオキシラクトン化合物を繰り返し単位に含有させる技術も、周知の技術事項である(特開2006-8737号公報の段落【0002】、【0029】から【0035】、国際公開第2008/081822号の段落[0002]、[0010]、[0011]、特開2003-241385号公報の【0001】、【0002】、【0027】、【0034】、【0035】)。
また、刊行物1には、樹脂の他の繰返し単位を与える重合性不飽和単量体として、α-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン等に例示される、酸解離性基をもたない(メタ)アクリロイルオキシラクトン化合物が記載されている(摘示(オ))ことから、引用発明において、樹脂に、酸解離性基を有する単量体を含有させることに加え、発明の本質を損なわない限りにおいて、酸解離性基をもたない(メタ)アクリロイルオキシラクトン化合物に例示される単量体を樹脂の繰返し単量体として含有させることが可能であることが読み取れる。
そうすると、引用発明も、KrFエキシマレーザーやArFエキシマレーザーによる化学増幅型レジストとして用いられる樹脂組成物の技術分野に関するものであり、レジストと基材との密着性の向上という、当該技術分野における自明の課題や、解像度を上げるという、自明ないし刊行物1に明示された課題を解決するために、レジスト組成物を構成する樹脂に、さらにα-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン等の酸解離性基を持たないラクトン化合物である繰返し単位を含有させるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

さらに、引用発明が解決しようとする課題の一つは、パターン形状に優れるレジストを得ること(摘示(ウ))にあり、また、化学増幅型レジスト組成物において用いられる樹脂に、α-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン等の酸解離性基を持たないラクトン化合物である繰返し単位を含有させると、微細なパターン倒れの発生を抑制したり、パターン矩形性が改善することも周知の知見であると認められることから(特開2006-8737号公報の段落【0035】、国際公開第2008/081822号の段落[0010])、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術から予測できる範囲のものであり、格別予期しがたい効果が奏されているともいえない。

(4)まとめ
よって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

2.理由2(特許法第29条の2の違反について)
(1)先願明細書及び先願明細書に記載の事項
原査定の拒絶の理由で引用された特願2009-199026号(以下「先願」という。)は、本願の優先日前である平成21年8月28日の特許出願であり、先願を優先権主張の基礎とする日本語の国際特許出願PCT/JP2010/64604号、特願2011-528869号が、本願優先日及び出願日の後である2011(平成23)年3月3日に国際公開された(国際公開第2011/024953号)。

そして、先願の出願当初の明細書又は特許請求の範囲(以下、「先願明細書」という。)に記載されていると認められる発明については、特許法第184条の15第2項の規定により「又は出願公開」とあるのを「又は千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約第二十1条に規定する国際公開」とされた同法第41条第3項の規定により、上記の国際公開がされた時に先願について出願公開がされたものとみなして、同法第29条の2本文の規定を適用することとなる。
先願明細書には、次の事項が記載されている。(なお、以下の先願明細書にかかる摘示記載の記載個所は、国際公開第2011/024953号の対応する記載個所と共に表示した。)

(ア)「【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R^(1)は、水素原子、メチル基、またはトリフルオロメチル基を表す。Wは、炭素数1?10のアルキレン基または炭素数4?10のシクロアルキレン基を表す。nは、0または1を表す。
R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?5のアルキル基、炭素数3?10の環状炭化水素基、炭素数6?12の芳香族炭化水素基またはアシルオキシ基を表す。但し、
1)R^(2)とR^(3)、R^(4)とR^(5)は、連結して、任意の位置に酸素原子を有していてもよい置換もしくは無置換の環形成原子数3?10の環を形成してもよく、また、
2)R^(3)とR^(4)は、連結して、任意の位置に酸素原子を有していてもよい置換もしくは無置換の環形成原子数4?10の環を形成してもよい。)
で示されるN-アシル-β-ラクタム誘導体。」(請求項1)

(イ)「【0005】
近年のリソグラフィー技術の大きな課題の1つにラインウィドスラフネス(LWR)と呼ばれる、形成されたパターンの線幅変動を小さくすることがある。しかしながら、特許文献1?5に開示された高分子化合物を含有するフォトレジスト組成物ではLWRを十分に低減できないため、さらなる改良の余地がある。
そこで、本発明の目的は、LWRが改善されて高解像度のレジストパターンが形成されるフォトレジスト組成物を得ることができる新規化合物、該新規化合物を少なくとも原料の1つとして重合することにより得られる高分子化合物、および該高分子化合物を含有するフォトレジスト組成物を提供することにある。」(段落【0005】、国際公開の段落[0005])

(ウ)「【0041】
[高分子化合物]
本発明の高分子化合物は、前記N-アシル-β-ラクタム誘導体(1)を単独で重合してなるもの、またはN-アシル-β-ラクタム誘導体(1)と他の重合性化合物とを共重合してなるものである。本発明の高分子化合物は、N-アシル-β-ラクタム誘導体(1)に基づく構成単位[以下、構成単位(1’)と称する。]を、0モル%を超え100モル%含有し、LWRの低減の観点からは、好ましくは10?80モル%、より好ましくは20?70モル%含有する。
構成単位(1’)の具体例を以下に示すが、特にこれらに限定されるものではない。
【0042】
【化8】

(以下略)
」(段落【0041】、【0042】、国際公開の段落[0055]、[0056])

(エ)「【0046】
(構成単位(a1))
構成単位(a1)は、酸解離性溶解抑制基を有するアクリル酸エステルから誘導される構成単位である。酸解離性溶解抑制基とは、レジスト組成物としてレジストパターンを形成する際に、解離前は高分子化合物全体をアルカリ現像液に対して難溶とするアルカリ溶解抑制性を有するとともに、酸発生剤成分から露光により発生する酸により解離してこの高分子化合物全体のアルカリ現像液に対する溶解性を増大させるものである。
この様な構成単位(a1)としては、特に限定されるものではないが、例えば下記構造単位(a1-1)?(a1-49)が挙げられる。
【0047】
【化11】


【0048】
【化12】


【0049】
上記構成単位(a1-1)?(a1-49)中、R^(11)は、水素原子またはハロゲン化された若しくはされていない炭素数1?5のアルキル基を表し、R^(12)およびR^(13)は、それぞれ独立して炭素数1?10のアルキル基を表す。
R^(11)が示すハロゲン化された若しくはされていない炭素数1?5のアルキルとしては、例えばメチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、ペンタフルオロエチル基、各種プロピル基(「各種」は、直鎖およびあらゆる分岐鎖を含むことを示し、以下同様である。)、各種ブチル基などが挙げられる。なお、R^(11)としては、水素原子、メチル基が好ましい。
R^(12)およびR^(13)がそれぞれ独立して示す炭素数1?10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基などが挙げられる。これらの中でも、炭素数1?5のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
上記構成単位(a1-1)?(a1-49)の中でも、LWRの改善効果の観点からは、(a1-1)が好ましい。」(段落【0046】から【0049】、国際公開の段落[0065]から[0068])

(オ)「【0051】
(構成単位(a2))
構成単位(a2)は、ラクトン含有基を有するアクリル酸エステル類から誘導される構成単位である。ここで、ラクトン含有基とは、-O-C(O)-構造を含む1つのラクトン環を含有する基を示す。本明細書において、上記アクリル酸エステル類のエステル基について、環式化合物としてラクトン環のみを有するエステル基を「単環式基」と称し、さらに他の環式構造を有する場合は、その構造に関わらず「多環式基」と称する。
構成単位(a2)のラクトン含有基は、高分子化合物をレジスト膜の形成に用いた場合に、レジスト膜の基板への密着性を高めたり、水を含有する現像液との親和性を高めたりするうえで有効なものである。
構成単位(a2)としては、特に限定されることなく任意のものでよい。
ラクトン含有単環式基としては、例えばγ-ブチロラクトンから水素原子を1つ除いた基が挙げられる。ラクトン含有多環式基としては、例えばラクトン環を有するビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンから水素原子を1つ除いた基が挙げられる。
構成単位(a2)のより具体的な例として、下記構成単位(a2-1)?(a2-6)が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0052】
【化13】


【0053】
式中、R^(14)は、水素原子またはハロゲン化された若しくはされていない炭素数1?5のアルキル基を示す。R^(15)およびR^(16)は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1?5のアルキル基、炭素数1?5のアルコキシ基、または-COOR^(17)(R^(17)は炭素数1?3のアルキル基)を示す。Wは、炭素数1?10のアルキレン基、または炭素数3?10のシクロアルキレン基を示す。Aは、炭素数1?5のアルキレン基または酸素原子を示す。また、iは0または1を示す。
R^(14)が示すハロゲン化された若しくはされていない炭素数1?5のアルキル基としては、前記R^(11)の場合と同じのものが挙げられる。それらの中でも、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
R^(15)およびR^(16)がそれぞれ独立して示す炭素数1?5のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基などが挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基が好ましい。-COOR^(17)としては、-COOCH_(3)が好ましい。
なお、R^(15)およびR^(16)としては、工業上の入手容易性の観点から、いずれも水素原子である(つまり、上記構成単位において特別な置換基を有していない)ことが好ましい。
Wが示す炭素数1?10のアルキレン基は直鎖状若しくは分岐鎖状のいずれでもよい。該アルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基などが挙げられる。炭素数3?10のシクロアルキレン基としては、シクロペンタン-ジイル基、シクロヘキサン-ジイル基などが挙げられる。
Aが示す炭素数1?5のアルキレン基としては、例えばメチレン基、1,2-エチレン基、1,1-エチレン基、イソプロピレン基などが挙げられる。
以下に、上記構成単位(a2-1)?(a2-6)の具体例を順に示すが、特にこれらに限定されるものではない。
【0054】
【化14】


【0055】
【化15】

(中略)
【0060】
以上の様な構成単位(a2)は、1種のみからなっていてもよいし、2種以上からなっていてもよい。
構成単位(a2)としては、前記構成単位(a2-1)?(a2-6)からなる群から選択される少なくとも1種以上からなることが好ましく、一般式(a2-1)?(a2-3)から選択される少なくとも1種以上をからなることが好ましい。より具体的には、構成単位(a2)としては、構成単位(a2-1-1)、(a2-1-2)、(a2-2-1)、(a2-2-2)、(a2-3-1)、(a2-3-2)、(a2-3-9)および(a2-3-10)からなる群から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。
【0061】
高分子化合物が構成単位(a2)を有する場合、構成単位(a2)の割合は、本発明の高分子化合物を構成する全構成単位に対して、1?60モル%であることが好ましく、10?55モル%であることがより好ましく、20?55モル%であることがさらに好ましい。この範囲内であると、構成単位(a2)を含有させることによる効果が充分に得られ、且つ他の構成単位とのバランスをとることができる。」(段落【0051】から【0061】、国際公開の段落[0070]から[0080])

(カ)「【0083】
(共重合体)
前記の通り、本発明の高分子化合物は、構成単位(1’)のみからなる重合体でも構成単位(1’)と他の構成単位とからなる共重合体でもよい。
共重合体の好ましい構造としては、下記の共重合体(A1)?(A6)などが挙げられる。
共重合体(A1):少なくとも構成単位(1’)および(a1)を有する共重合体。
共重合体(A2):少なくとも構成単位(1’)および(a2)を有する共重合体。
共重合体(A3):少なくとも構成単位(1’)および(a3)を有する共重合体。
共重合体(A4):少なくとも構成単位(1’)および(a4)を有する共重合体。
共重合体(A5):少なくとも構成単位(1’)、(a1)および(a2)を有する共重合体。
共重合体(A6):少なくとも構成単位(1’)、(a1)および(a3)を有する共重合体。」(段落【0083】、国際公開の段落[0102])

(キ)「【0091】
[フォトレジスト組成物]
本発明のフォトレジスト組成物は、前記高分子化合物と共に、下記の光酸発生剤および溶剤、並びに必要に応じて塩基性化合物、界面活性剤およびその他の添加物を含有する。」(段落【0091】、国際公開の[0110])

(2)先願明細書に記載された発明
先願明細書には、LWRが改善されて高解像度のレジストパターンが形成されるフォトレジスト組成物を得ることができる新規化合物、該新規化合物を少なくとも原料の1つとして重合することにより得られる高分子化合物、および該高分子化合物を含有するフォトレジスト組成物を提供すること(摘示(イ))を課題として、請求項1の一般式(1)で示されるN-アシル-β-ラクタム誘導体が記載され(請求項1)、具体的に、一般式(1)のn=0で表される繰返し単位が挙げられ(摘示(ウ))、当該N-アシル-β-ラクタム誘導体(1)に基づく構成単位(1’)と他の重合性化合物とを共重合してなる高分子化合物(摘示(ウ))、前記高分子化合物と共に、光酸発生剤および溶剤を含有したフォトレジスト組成物(摘示(キ))が記載されている。
また、先願明細書には、N-アシル-β-ラクタム誘導体(1)に基づく構成単位(1’)と共に共重合され得る他の重合性化合物として、レジスト組成物としてレジストパターンを形成する際に、酸発生剤成分から露光により発生する酸により解離してこの高分子化合物全体のアルカリ現像液に対する溶解性を増大させる酸解離性溶解抑制基を有するアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a1)が記載されている(摘示(エ))。
さらに、先願明細書には、ラクトン含有基を有するアクリル酸エステル類から誘導される構成単位である構成単位(a2)が記載されている(摘示(オ))。
そして、刊行物1には、先願発明における高分子化合物の具体的な態様として、「共重合体(A5):少なくとも構成単位(1’)、(a1)および(a2)を有する共重合体」が記載されている(摘示(カ))。

これらの記載を総合すると、先願明細書には、
「少なくとも下記一般式(1)
【化1】

(式中、R^(1)は、水素原子、メチル基、またはトリフルオロメチル基を表す。Wは、炭素数1?10のアルキレン基または炭素数4?10のシクロアルキレン基を表す。nは、0を表す。
R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?5のアルキル基、炭素数3?10の環状炭化水素基、炭素数6?12の芳香族炭化水素基またはアシルオキシ基を表す。但し、1)R^(2)とR^(3)、R^(4)とR^(5)は、連結して、任意の位置に酸素原子を有していてもよい置換もしくは無置換の環形成原子数3?10の環を形成してもよく、また、2)R^(3)とR^(4)は、連結して、任意の位置に酸素原子を有していてもよい置換もしくは無置換の環形成原子数4?10の環を形成してもよい。)で示されるN-アシル-β-ラクタム誘導体に基づく構成単位(1’)、
酸解離性溶解抑制基を有するアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a1)、および、
ラクトン含有基を有するアクリル酸エステル類から誘導される構成単位である構成単位(a2)
を有する共重合体(A5)である高分子化合物、光酸発生剤および溶剤を含有するフォトレジスト組成物」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。


(3)対比・判断
先願発明における「一般式(1)の化合物」は、本願発明における式(I)で表される化合物と重複・一致するものである。
また、先願発明における「光酸発生剤」は、本願発明における「酸発生剤」に相当することは明らかである。
さらに、先願発明における「酸解離性溶解抑制基を有するアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a1)のモノマー」は、(a1))の具体例として挙げられた(a1-1)?(a1-49)の記載から、本願発明における「酸と接触すると脱離基が開裂して、カルボキシル基を形成する基を有するモノマー」に相当する。
そして、先願発明における「ラクトン含有基を有するアクリル酸エステル類から誘導される構成単位である構成単位(a2)」は、その具体例として挙げられた(a2-1)、(a2-2)の構造は、本願でラクトン環を有する酸安定モノマーとして挙げられたモノマー(本願明細書段落【0066】、【0067】)と重複することから、本願発明における、「ラクトン環を有し、酸と接触しても脱離基が開裂してカルボキシル基を形成する基を有さないモノマー」に相当する。

したがって、本願発明と先願発明とは、
「式(I)で表される化合物に由来する構造単位、
酸と接触すると脱離基が開裂して、カルボキシル基を形成する基を有するモノマーに由来する構造単位、
ラクトン環を有し、酸と接触しても脱離基が開裂してカルボキシル基を形成する基を有さないモノマーに由来する構造単位を含有する樹脂ならびに酸発生剤を含有するレジスト組成物。

[式中、R^(1)は、水素原子、メチル基、またはトリフルオロメチル基を表す。X^(1)を含む複素環は、式(1)


中に記載の、R^(2)?R^(5)を有するアゼチジノン環であり、
R^(2)、R^(3)、R^(4)、R^(5)は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1?5のアルキル基、炭素数3?10の環状炭化水素基またはアシルオキシ基を表す。但し、1)R^(2)とR^(3)、R^(4)とR^(5)は、連結して、任意の位置に酸素原子を有していてもよい置換もしくは無置換の環形成原子数3?10の環を形成してもよく、また、2)R^(3)とR^(4)は、連結して、任意の位置に酸素原子を有していてもよい置換もしくは無置換の環形成原子数4?10の環を形成してもよい。]
」の点で重複・一致し、相違点はない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、先願発明と同一であるといえる。そして、本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一ではなく、また、本願の出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないから、本願発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。


第5 審判請求人の主張について
審判請求人は、上申書において、追加実験を行い、本願発明は、特定の3種の構造単位を備える樹脂を含有するレジスト組成物が、刊行物1に記載された発明に比して、良好なパターン形状及びフォーカスマージンの点で、有利な作用効果を奏する旨を主張している。
しかしながら、本願明細書には、式(I)で表される化合物に由来する構造単位を含有する樹脂を含有するレジスト組成物を用いて、優れた形状及びフォーカスマージンを有するパターンを形成することができる旨の記載(段落【0005】?【0012】が記載されているのみであり、特定の3種の構造単位を含有させた樹脂を含有するレジスト組成物を用いることが、良好なパターン形状及びフォーカスマージンの点で、特に有利な作用効果を奏する旨の記載はない。
また、本願明細書の実施例において、特定の3種の構造単位を含有する樹脂を含有するレジスト組成物は記載されているものの、これらの実施例で使用されている樹脂は、上記特定の3種以外の構造単位以外の構造単位をも含有する樹脂であることから、これらの記載から直ちに、特定の3種の構造単位を含有させた樹脂を配合することが、良好なパターン形状及びフォーカスマージンの点で特に良好であるという作用効果を有することを、当業者が推論することが可能であったとはいえないから、上記追加実験による作用効果を参酌することができない。
さらに、仮に出願人の提示した追加実験を考慮したとしてもなお、上記第3.1.(3-2)で検討したように、本願発明は格別予期しがたい効果が奏されているとはいえない。
したがって、上記審判請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項及び同法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
そして、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-24 
結審通知日 2015-12-01 
審決日 2015-12-14 
出願番号 特願2010-121139(P2010-121139)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (C08F)
P 1 8・ 575- Z (C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 小野寺 務
堀 洋樹
発明の名称 樹脂、レジスト組成物及びパターン形成方法  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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