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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1310757
審判番号 不服2015-5702  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-26 
確定日 2016-02-05 
事件の表示 特願2012-532024「ダウンリンク参照信号の転送方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月 7日国際公開、WO2011/040797、平成25年 2月28日国内公表、特表2013-507033〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2010年10月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年10月2日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成26年12月22日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成27年3月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年3月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
平成27年3月26日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成26年10月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された,

「複数個のアンテナポートを用いて基地局においてダウンリンク信号を転送する方法であって,前記方法は,
ダウンリンクサブフレームのデータ領域内の参照信号パターンに基づいて前記複数個のアンテナポートに対する参照信号を多重化して転送することと,
前記ダウンリンクサブフレームの前記データ領域内の,前記複数個のアンテナポートに対するデータを転送することと
を含み,
前記複数個のアンテナポートに対する前記参照信号は,受信端が前記複数個のアンテナポートに対する前記データを復調するときに用いられる専用参照信号であり,
前記参照信号パターンは,リソース要素の第1のグループおよびリソース要素の第2のグループとして規定され,前記第1のグループおよび前記第2のグループは,同一のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)シンボルを占め,前記第1のグループおよび前記第2のグループは,異なる副搬送波を占め,
前記複数個のアンテナポートの個数が5である場合に,第1,第2および第5のアンテナポートに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,第3および第4のアンテナポートに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置され,
前記複数個のアンテナポートの個数が7である場合に,前記第1,前記第2,前記第5および第7のアンテナポートに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,前記第3,前記第4および第6のアンテナポートに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置される,方法。」

という発明(以下「本願発明」という。)を,本件補正に係る手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された,

「複数個のアンテナポートを用いて基地局においてダウンリンク信号を転送する方法であって,前記方法は,
ダウンリンクサブフレームのデータ領域内の参照信号パターンに基づいて前記複数個のアンテナポートに対する参照信号を多重化して転送することと,
前記ダウンリンクサブフレームの前記データ領域内の,前記複数個のアンテナポートに対するデータを転送することと
を含み,
前記複数個のアンテナポートに対する前記参照信号は,受信端が前記複数個のアンテナポートに対する前記データを復調するときに用いられる専用参照信号であり,
前記参照信号パターンは,リソース要素の第1のグループおよびリソース要素の第2のグループとして規定され,前記第1のグループおよび前記第2のグループは,同一のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)シンボルを占め,前記第1のグループおよび前記第2のグループは,異なる副搬送波を占め,
前記複数個のアンテナポートの個数が5である場合に,第1,第2および第5のアンテナポートに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,第3および第4のアンテナポートに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置され,
前記複数個のアンテナポートの個数が7である場合に,前記第1,前記第2,前記第5および第7のアンテナポートに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,前記第3,前記第4および第6のアンテナポートに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置され,
前記参照信号パターンは,前記参照信号がマッピングされている複数個のリソース要素が6個のサブグループにグループ化されるものとして規定され,
3個のサブグループが,前記リソース要素の前記第1のグループに含まれ,
別の3個のサブグループが,前記リソース要素の前記第2のグループに含まれ,
同一のサブグループ上に配置されている2個以上のアンテナポートに対する前記参照信号にコード分割多重化が適用され,
前記参照信号のコード分割多重化は,同一の周波数リソース上に異なる時間リソースにわたって直交コードを乗算する方式を用いる,方法。」

という発明(以下「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。
なお,下線は,請求人が手続補正書において補正箇所を示すものとして付加したものを援用したものである。

2.新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件について
上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであるから,特許法第17条の2第3項(新規事項)の規定に適合している。また,特許法第17条の2第4項(シフト補正)の規定に適合していることも明らかである。
さらに,上記補正の結果,本願発明の「参照信号パターン」が,「前記参照信号がマッピングされている複数個のリソース要素が6個のサブグループにグループ化されるものとして規定され,3個のサブグループが,前記リソース要素の前記第1のグループに含まれ,別の3個のサブグループが,前記リソース要素の前記第2のグループに含まれ,同一のサブグループ上に配置されている2個以上のアンテナポートに対する前記参照信号にコード分割多重化が適用され」るものである点で限定され,加えて,「参照信号」に関して,「コード分割多重化」が「同一の周波数リソース上に異なる時間リソースにわたって直交コードを乗算する方式を用いる」ものである点で限定されているから,上記補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項において,「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された,ZTE,Performance evaluation of downlink DMRS design[online],3GPP TSG-RAN WG1#58 R1-093194,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_58/Docs/R1-093194.zip>,2009年 8月24日(以下「引用例」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「1 Introduction
Some agreements [1] on downlink UE-specific demodulation reference signal (DMRS) have been made as following:
・RS overhead for evaluations (assuming normal CP)
・DM-RS
・Rank 1 transmission: 12 REs per RB (same overhead as Rel-8)
・Rank 2 transmission: 12 REs per RB to be confirmed
・Rank 3-8 transmissions: max 24 REs (total) per RB
・Strive for same REs per antenna port in each Rank
・Strive for same CSI RS and DM-RS patterns regardless of subframe type (DL Rel-8 or DL LTE-A subframes)
・DM-RS in support of up-to 8 transmission layers will need to be defined

Given the above numerical information, several additional guidelines for DMRS design are analyzed in [2] along with DMRS patterns based on these guidelines. In this contribution, simulation result comparison was provided based on designs in [2] ~[5].」(1頁)

([当審仮訳]:
1 はじめに
ダウンリンクUE固有参照信号(DMRS)に関して,次のとおり幾つかの合意[1]がなされた:
・評価のためのRSのオーバーヘッド(一般CPを仮定して)
・DM-RS
・ランク1伝送: RB(リソースブロック)当たり12RE(リソース要素)(Rel-8と同じオーバーヘッド)
・ランク2伝送: 承認されるべきRB当たり12RE
・ランク3-8伝送: RB当たり最大24RE(合計)
・アンテナポート当たりRE数が各ランクにおいて同じになるように努力する
・CSI RSとDM-RSのパターンが,サブフレームの型(ダウンリンクRel-8またはLTE-Aサブフレーム)にかかわらず同じになるように努力する
・8個までの伝送レイヤをサポートするDM-RSが定義されることが必要になるだろう
上記の数値情報を仮定して,幾つかのDMRS設計のための指針が,これらの指針に基づくDMRSパターンとともに,[2]において分析されている。この寄書では,[2] ?[5]の設計に基づくシミュレーション結果の比較が提供された。)

イ.「2. DMRS Patterns
In this contribution, three types of DMRS pattern as in Figure 1 are compared for high rank. For all these patterns, the DMRS densities are 24 RE/RB and the same set of DMRS RE is used for different rank cases (rank >2). Also in all of these three patterns, the low rank pattern is a subset of high rank pattern.
In pattern A, CDM-only multiplexing method is used and the CDM code lengths are 2, 4 and 8 respectively for rank <=2, 24 cases. Of course one can always use one unique but longer CDM code length which may result in more computation inside UE.

In pattern B and pattern C [2], hybrid CDM+FDM/TDM multiplexing is used on layers that are partitioned into two groups, where FDM/TDM is used for inter-group multiplexing and CDM is used for intra-group layer multiplexing. The differences between pattern B and pattern C include:
- the layer indices for the two groups are {0,1,4,6} and {2,3,5,7} for pattern B, and {0,2,4,6} and {1,3,5,7} for pattern C;
- The CDM code length in pattern B may vary based on the number of intra-group layers. If intra-group layer number <= 2, the code length is 2; otherwise the code length is 4. The CDM code length in pattern C is always 4 regardless of number of intra-group layers.
- The DMRS RE's are allocated in RB in such a way that the channel estimations over intra-RB area and inter-RB area could be symmetric.
The pros and cons of the above three patterns are listed in Table 1.

A CDM multiplexing

B FDM+CDM multiplexing

C FDM+CDM multiplexing with pattern rotation in neighboring PRBs
Figure 1 DMRS patterns for rank>=4」(1?2頁)

([当審仮訳]:
2 DMRSパターン
この寄書では,図1に示される3つのタイプのDMRSパターンが,より高いランクのために比較される。これらのパターンの全てにわたり,DMRS密度は24RE/RBであり,DMRSのREの同じセットが,異なるランクの場合(ランク>2)において用いられる。これらの3つのパターンの全てにおいても同様に,低いランクのパターンは高いランクのパターンの部分集合である。
パターンAでは,CDMのみの多重化法が用いられ,ランク<=2,2<ランク<=4,ランク>4のためのCDMコード長は,それぞれ2,4,8である。もちろん,特有であるがより長いCDMコード長を用いることができ,それはUEでの更なる計算量に帰する。
パターンBおよびC[2]では,ハイブリッドCDM+FDM/TDM多重化が,2つのグループに区分されるレイヤ群に対して用いられ,ここで,FDM/TDMはグループ間の多重化に用いられ,CDMは,グループ内のレイヤの多重化に用いられる。パターンBとパターンCとの違いは,次のものを含む:
-2つのグループのためのレイヤインデックスは,パターンBでは{0,1,4,6}および{2,3,5,7} であり,パターンCでは{0,2,4,6}および{1,3,5,7}である;
-パターンBではCDMコード長がグループ内レイヤの個数に基づいて変化し得る。もしグループ内レイヤ個数<=2ならば,コード長は2である;その他ではコード長は4である。パターンCでは,CDMコード長はグループ内レイヤ個数にかかわらず常に4である。
-DMRSのREが,RBにおいて,チャネル推定がRBエリア内およびRBエリア間にわたり対称となり得るような方法で割り当てられる。
以上の3つのパターンの利点,欠点が表1にまとめられている。
(図は省略)
A CDM 多重化
(図は省略)
B FDM+CDM 多重化
(図は省略)
C 隣接するPRB(物理リソースブロック)におけるパターン循環を伴うFDM+CDM 多重化
図1 ランク>=4のためのDMRSパターン)

ウ.「Equal PSD between DMRS and data RE is possible for any number of multiplexed layers」(当審注:2?3頁の表1中,パターンAの利点として挙げられている項目の1つ)

([当審仮訳]:
多重化されるレイヤがどのような個数であっても,DMRSとデータREとの間でPSD(電力スペクトラム密度)を等しくすることが可能)

エ.「3 Simulation result
Our simulation runs with SU-MIMO transmission scheme. 」(3頁)

([当審仮訳]:
3 シミュレーション結果
我々のシミュレーションはSU-MIMO(シングルユーザMIMO)の枠組みで実行する。)

上記摘記事項ア.の,ダウンリンクUE固有参照信号(DMRS)に関していつかの合意がなされた旨の記載を考慮すると,パターンBおよびCで,ハイブリッドCDM+FDM/TDM多重化が2つのグループに区分されるレイヤ群に対して用いられる旨の記載等を含む,上記摘記事項イ.の記載は,「複数個のレイヤを用いて基地局においてダウンリンク信号を転送する方法であって,前記方法は,参照信号パターンに基づいて前記複数個のレイヤに対する参照信号を多重化して転送すること」を含む,方法を示すものであるといえる。
また,上記摘記事項ウ.の記載も併せれば,参照信号のほかに,「複数個のレイヤに対するデータを転送すること」が明らかである。
上記摘記事項イ.の特に「パターンB」に関する記載,および,図1の「B FDM+CDM multiplexing」の「rank 8」の図示から読み取れる事項によれば,以下のa.?d.が理解される。
a.参照信号パターンは,{0,1,4,6}のレイヤが割り当てられるリソース要素のグループ(以下「第1のグループ」という。)および{2,3,5,7}のレイヤが割り当てられるリソース要素のグループ(以下「第2のグループ」という。)として規定されており,前記第1のグループおよび前記第2のグループは,時間軸上の位置が同一であり,前記第1のグループおよび前記第2のグループは,周波数軸上の位置が異なること
b.前記複数個のレイヤの個数は8以下であり,グループ内レイヤが{0,1,4,6}のうちの4個以下のレイヤに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,グループ内レイヤが{2,3,5,7}のうちの4個以下のレイヤ,すなわち,{0,1,4,6}とは別の4個以下のレイヤに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置されること
c.前記参照信号パターンは,前記参照信号がマッピングされている24個のリソース要素が,周波数軸上の位置が異なる6個のサブグループにグループ化されるものとして規定され,それらのうちの3個のサブグループが,前記第1のグループに含まれ,別の3個のサブグループが,前記第2のグループに含まれること
d.同一のサブグループ上に配置されている2個以上のレイヤに対する前記参照信号にコード分割多重化が適用され,前記参照信号のコード分割多重化は,同一の周波数リソース上に異なる時間リソースにわたってコードを適用する方式を用いること

したがって,引用例には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「複数個のレイヤを用いて基地局においてダウンリンク信号を転送する方法であって,前記方法は,
参照信号パターンに基づいて前記複数個のレイヤに対する参照信号を多重化して転送することと,
前記複数個のレイヤに対するデータを転送することと
を含み,
前記複数個のレイヤに対する前記参照信号は,UE固有参照信号であり,
前記参照信号パターンは,リソース要素の第1のグループおよびリソース要素の第2のグループとして規定され,前記第1のグループおよび前記第2のグループは,時間軸上の位置が同一であり,前記第1のグループおよび前記第2のグループは,周波数軸上の位置が異なり,
前記複数個のレイヤの個数が8以下であり,4個以下のレイヤに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,別の4個以下のレイヤに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置され,
前記参照信号パターンは,前記参照信号がマッピングされている24個のリソース要素が6個のサブグループにグループ化されるものとして規定され,
3個のサブグループが,前記リソース要素の前記第1のグループに含まれ,
別の3個のサブグループが,前記リソース要素の前記第2のグループに含まれ,
同一のサブグループ上に配置されている2個以上のレイヤに対する前記参照信号にコード分割多重化が適用され,
前記参照信号のコード分割多重化は,同一の周波数リソース上に異なる時間リソースにわたってコードを適用する方式を用いる,方法。」

(3)対比
補正後の発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「レイヤ」は,ダウンリンク信号の論理的な信号経路であり,補正後の発明の「アンテナポート」は,ダウンリンク信号の物理的または論理的な信号経路であるといえるから,両者は「信号経路」である点で共通する。
引用発明の「UE固有参照信号」は,個々のUEにとって専用のものであるから,補正後の発明の「専用参照信号」に相当する。
引用発明の「24個のリソース要素」は,換言すれば複数のリソース要素である。
引用発明の「コードを適用する」ことと,補正後の発明の「直交コードを乗算する」こととは,「コードを適用する」ことである点で一致する。
したがって,両者は以下の点で一致し,また,相違する。

(一致点)
「複数個の信号経路を用いて基地局においてダウンリンク信号を転送する方法であって,前記方法は,
参照信号パターンに基づいて前記複数個の信号経路に対する参照信号を多重化して転送することと,
前記複数個の信号経路に対するデータを転送することと
を含み,
前記複数個の信号経路に対する前記参照信号は,専用参照信号であり,
前記参照信号パターンは,リソース要素の第1のグループおよびリソース要素の第2のグループとして規定され,
前記参照信号パターンは,前記参照信号がマッピングされている複数個のリソース要素が6個のサブグループにグループ化されるものとして規定され,
3個のサブグループが,前記リソース要素の前記第1のグループに含まれ,
別の3個のサブグループが,前記リソース要素の前記第2のグループに含まれ,
同一のサブグループ上に配置されている2個以上の信号経路に対する前記参照信号にコード分割多重化が適用され,
前記参照信号のコード分割多重化は,同一の周波数リソース上に異なる時間リソースにわたってコードを適用する方式を用いる,方法。」
(相違点1)
一致点の「信号経路」が,補正後の発明では「アンテナポート」であるのに対し,引用発明では「レイヤ」である点。
(相違点2)
一致点の「参照信号パターン」,「データ」が,補正後の発明では,それぞれ,「ダウンリンクサブフレームのデータ領域内の」もの,「前記ダウンリンクサブフレームの前記データ領域内の」ものであるのに対し,引用発明ではそのような限定がない点。
(相違点3)
一致点の「参照信号」が,補正後の発明では,「受信端が前記複数個のアンテナポートに対する前記データを復調するときに用いられる」ものであるのに対し,引用発明ではそのような限定がない点。
(相違点4)
一致点の「第1のグループ」および「第2のグループ」が,補正後の発明では,「同一のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)シンボルを占め」るとともに,「異なる副搬送波を占め」るものであるのに対し,引用発明では,「時間軸上の位置が同一であり」,また,「周波数軸上の位置が異な」るものである点。
(相違点5)
補正後の発明は,「前記複数個のアンテナポートの個数が5である場合に,第1,第2および第5のアンテナポートに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,第3および第4のアンテナポートに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置され」,また,「前記複数個のアンテナポートの個数が7である場合に,前記第1,前記第2,前記第5および第7のアンテナポートに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,前記第3,前記第4および第6のアンテナポートに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置され」るものであるのに対し,引用発明は,単に「前記複数個のレイヤの個数が8以下であり,4個以下のレイヤに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,別の4個以下のレイヤに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置され」るものである点。
(相違点6)
一致点の「コードを適用する」方式が,補正後の発明では「直交コードを乗算する」方式であるのに対し,引用発明ではそのような限定がない点。

(4)判断
そこで,まず相違点1について検討する。
上記(2)の摘記事項エ.によれば,引用発明はMIMOを前提とするものであるところ,MIMOにおいて,送信に用いるアンテナポートの個数をレイヤの個数と同数に設定し得ることは,例えば,原査定の拒絶の理由に引用されたCMCC,Discussions on DM-RS Design for LTE-A[online],3GPP TSG-RAN WG1#57 R1-092189,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_57/Docs/R1-092189.zip>,2009年 5月 4日(以下,単に「R1-092189」という。「3.2. Rank Grouping Principles」の,8レイヤまでの高次のMIMO送信かつ2つのFDMサブセットを使用する場合では,DM-RSアンテナポートの0-3または4-7が,長さ4のカバーコードによって区別し得る旨の記載から,その点が読み取れる。),米国特許出願公開第2009/0147865号明細書(段落[0037]等参照)に示されているように技術常識である。そして,引用発明において,当該技術常識が示すように用いるアンテナポートの個数をレイヤの個数と同数に設定する場合は,引用発明の記載中,例えば「複数個のレイヤを用いて基地局においてダウンリンク信号を転送する」ことや,「複数個のレイヤの個数が8以下」であることは,「複数個のアンテナポートを用いて基地局においてダウンリンク信号を転送する」ことや「複数個のアンテナポートの個数が8以下」であることになり,このように,引用発明の「レイヤ」は,すべて「アンテナポート」で置き換えることができる。
よって,引用発明の「レイヤ」をすべて「アンテナポート」で置き換えた補正後の発明における相違点1に係る発明特定事項は,引用発明および技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

次に,相違点2ないし4について検討する。
上記(2)の摘記事項ア.によれば,引用発明の「参照信号」はLTE-A等のDM-RSであるところ,LTE-A等において,DM-RSおよびデータが,ダウンリンクサブフレームのデータ領域内に存在することや,DM-RSが受信端がデータを復調するときに用いられるものであること,また,OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)シンボルが時間軸上の位置であり,副搬送波が周波数軸上の位置であることは,例えば,R1-092189(「1. Introduction」に,LTE-AのDM-RSに関し,当該RSがPDSCHの復調を目的とするものである旨の記載があり,「3. 3. DM-RS Design with Rank Grouping」に,PDSCHがデータのリソース要素である旨の記載がある。),国際公開第2009/116769号(段落[49],[55]?[61]等参照)に示されているように,それぞれ技術常識であることからすると,相違点2ないし4はいずれも実質的なものではない。

次に,相違点5について検討する。
引用発明において,「レイヤの個数が8以下」に該当するレイヤの個数として「5」および「7」を設定すること,かつ,当該個数が5である場合,それぞれ「4個以下のレイヤ」,「別の4個以下のレイヤ」に該当する内訳として,一方を「3」,他方を「2」とし,同じく7である場合の内訳として,一方を「4」,他方を「3」とすることは,単に,引用発明が取り得る種々の状態のうちの2つを具体的に挙げたにすぎず,当該2つの状態を設定することは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。
ここで,上記相違点1について検討した事項を踏まえると,上記の2つの状態は,それぞれ,「前記複数個のアンテナポートの個数が5である場合に,3個のアンテナポートに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,別の2個のアンテナポートに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置され」た状態,「前記複数個のアンテナポートの個数が7である場合に,4個のアンテナポートに対する参照信号は,前記第1のグループ上に配置され,別の3個のアンテナポートに対する参照信号は,前記第2のグループ上に配置され」た状態であるといえるところ,アンテナポートの個数が5である場合の「3個のアンテナポート」,「別の2個のアンテナポート」の個々のアンテナポートがそれぞれ何番目のアンテナポートであるものとするかは,任意であって,前者が「第1,第2および第5のアンテナポート」,後者が「第3および第4のアンテナポート」であるものとすることも,当業者が適宜なし得ることである。そして,この点は,アンテナポートの個数が7である場合に「前記第1,前記第2,前記第5および第7のアンテナポート」,「前記第3,前記第4および第6のアンテナポート」であるものとすることについても同様である。

次に,相違点6について検討する。
コード分割多重化におけるコードを適用する方式として,直交コードを乗算する方式は,例えばR1-092189(「2. Considering orthogonal DM-RS structure」等参照)に示されているように周知技術であり,引用発明に当該周知技術を適用することは当業者が容易に想到し得ることである。

また,補正後の発明が奏する効果は,当業者が引用発明および周知技術から容易に予測できる範囲内のものである。

以上のとおり,補正後の発明は,引用発明および周知技術並びに技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張について
請求人は,引用文献2(当審注:「引用文献2」は引用例を指す。以下同様。)はアンテナポートを{0,1,4,6}アンテナポートと{2,3,5,7}アンテナポートとにグループ化することを開示しているが,同一のサブグループ上の参照信号に直交コードを用いたCDMが適用されることを開示していない旨を主張している(審判請求書の「 3.3 平成26年 7月30日付け拒絶理由通知書に記載の理由B(特許法第29条第2項の規定に基づく拒絶理由)について」の項。以下同様。)。
しかし,上記(2)のとおり,同一のサブグループ上の参照信号にCDMが適用されることについては引用例に記載されていると認められ,直交コードを用いたCDMについては,上記(4)で相違点6について検討したとおり当業者が容易に想到し得るものであるから,請求人の上記主張は採用できない。
また,請求人は,その他の主張として,引用文献4(当審注:「引用文献4」はR1-092189を指す。以下同様。)のFigure 1に示されるように,参照信号は4つのサブグループにグループ化されているが,それとは対照的に,補正後の独立請求項1に係る発明では,参照信号は,ランク4の構成で6個のサブグループにグループ化されるものであるから,引用文献4は,補正後の独立請求項1の参照信号グループの構成(特に,ランク3,4に対する構成)から遠ざかる教示をしているのであり,さらに,引用文献2は,ランク4構成で6個のサブグループにグループ化される参照信号を開示しているが,ランクに従って参照パターンを区別することにより生じる複雑さを考慮すると,当業者が引用文献2を引用文献4と組み合わせるようなことを容易になし得たとは思われない旨を主張している。加えて,引用文献2は直交コードを用いたCDMを開示しておらず,引用文献4は,アンテナ参照信号がランク4で6個のサブグループにグループ化されることを開示していない旨を主張している。
しかし,上記(2)のとおり,参照信号が6個のサブグループにグループ化されることについては引用例に記載されていると認められるから,上記その他の主張も採用できない。

4.結語
補正後の発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項で準用する第126条第7項の規定に適合していない。
したがって,本件補正は,特許法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成27年3月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりのものである。

2.引用発明
引用発明は,上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の項中,「(2)引用発明」の項で,引用発明として認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり,引用発明および周知技術並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.結語
以上のとおり,本願発明は,引用発明および周知技術並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-11 
結審通知日 2015-09-14 
審決日 2015-09-28 
出願番号 特願2012-532024(P2012-532024)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
P 1 8・ 575- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 羽岡 さやか  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 富澤 哲生
中野 浩昌
発明の名称 ダウンリンク参照信号の転送方法及び装置  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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