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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1311073
審判番号 不服2015-2944  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-16 
確定日 2016-02-08 
事件の表示 特願2012-515999「多重入出力システムでコードブックを用いた通信方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月23日国際公開、WO2010/147443、平成24年12月 6日国内公表、特表2012-531087〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2010年6月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年6月19日,2009年7月4日,2009年8月18日,2009年10月5日,2009年10月30日,2010年1月21日,2010年2月1日,いずれも大韓民国)を国際出願日とする出願であって,平成26年10月7日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成27年2月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年2月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
平成27年2月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成26年9月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された,

「多重入出力システムでコードブックを用いた送信方法であって,
複数のコードワードを複数のレイヤにマッピングするレイヤマッピングステップと,
前記コードワードが互いに異なるアンテナにマッピングされるように形成されたランク3コードブックのうち選択されたプリコーディングマトリックスを用いて,前記複数のレイヤを複数のアンテナにマッピングするアンテナマッピングステップと,
前記マッピングしたレイヤおよびアンテナを含む経路に前記コードワードを送信するステップと,を含み,
前記ランク3コードブックのプリコーディングマトリックスは,各アンテナ間の送信電力比が一定に設定されたマトリックスであり,前記ランク3コードブックは,少なくとも下の表1に含まれたプリコーディングマトリックスを含み,
前記ランク3コードブックは,12個のプリコーディングマトリックスを含むサイズを有することを特徴とする送信方法。
【表1】



という発明(以下「本願発明」という。)を,本件補正に係る手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された,

「多重入出力システムでコードブックを用いた送信方法であって,
複数のコードワードを複数のレイヤにマッピングするレイヤマッピングステップと,
前記コードワードが互いに異なるアンテナにマッピングされるように形成されたランク3コードブックのうち選択されたプリコーディングマトリックスを用いて,前記複数のレイヤを複数のアンテナにマッピングするアンテナマッピングステップと,
前記マッピングしたレイヤおよびアンテナを含む経路に前記コードワードを送信するステップと,を含み,
前記ランク3コードブックのプリコーディングマトリックスは,各アンテナ間の送信電力比が一定であり,各レイヤ間の送信電力比が2:1:1になるように設定されたマトリックスであり,
前記ランク3コードブックは,12個のプリコーディングマトリックスを含むサイズを有する表1のようなものであることを特徴とする送信方法。
【表1】



という発明(以下「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。
なお,下線は,請求人が手続補正書において補正箇所を示すものとして付加したものを援用したものである。

2.新規事項の有無,シフト補正の有無,補正の目的要件について
上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであるから,特許法第17条の2第3項(新規事項)の規定に適合している。また,特許法第17条の2第4項(シフト補正)の規定に適合していることも明らかである。
さらに,上記補正の結果,「ランク3コードブックのプリコーディングマトリックス」が「各レイヤ間の送信電力比が2:1:1になるように設定されたマトリックス」である点で限定されるとともに,「ランク3コードブック」が「12個のプリコーディングマトリックスを含むサイズを有する」ことに関し,補正前の「表1」において12個のプリコーディングマトリックスのうちの8個の要素が部分的に特定されていたところ,補正後の「表1」において12個の要素がすべて特定されている点で限定されているから,上記補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明及びその優先日について
補正後の発明は,上記「1.本願発明と補正後の発明」の項において,「補正後の発明」として認定したとおりである。
また,補正後の発明の発明特定事項のうち,その「表1」により特定される12個のプリコーディングマトリックスを含むサイズを有するランク3コードブックについて,優先権主張番号10-2010-0005781(優先日2010年1月21日)に係る出願の明細書には記載されているが,優先権主張番号10-2009-0104237(優先日2009年10月30日)に係る出願の明細書には記載されておらず,その他,優先権主張番号10-2009-0094390等,優先日がさらに前の優先権主張番号に係るいずれの出願の明細書にも記載されていないから,補正後の発明について,当該優先権主張番号10-2009-0104237,10-2009-0094390等による優先権主張の効果は認められない。
よって,補正後の発明の優先日は,平成22年(2010年)1月21日であると認める。

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2008/100213号(以下「引用例1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている(当審注:[当審仮訳]は,引用例1のパテントファミリーである特表2010-521078号公報の記載に基づく。)。

イ.「[0007] Precoding is a popular technique used in conjunction with multi-antenna transmission. The basic principle involved in precoding is to mix and distribute the modulation symbols over the antennas while potentially also taking the current channel conditions into account. Precoding can be implemented by, for example, multiplying the information carrying symbol vector containing modulation symbols by a matrix which is selected to match the channel. Sequences of symbol vectors thus form a set of parallel symbol streams and each such symbol stream is typically referred to as a "layer". Thus, depending on the choice of precoder in a particular implementation, a layer may directly correspond to a certain antenna or a layer may, via the precoder mapping, be distributed onto several antennas (also known as antenna ports). The mechanism by which codewords are assigned to particular layers in such systems is referred to as "mapping" or, more specifically, as "codeword to layer mapping".
[0008] In a multi-antenna system (often referred to as a MIMO system), it may be useful to transmit data from several HARQ processes at once, which overall process is also known as multi-codeword transmission. Since the codewords are mapped to layers, the process may alternatively be referred to as multi-layer transmission. Depending on the radio channel conditions, this process can substantially increase the data rates, since in favorable conditions the radio channel can roughly support as many layers as the minimum of the number of transmit and receive antennas. This means that the channel can at most support the simultaneous transmission of a certain number of codewords, and that particular number in turn depends on the codeword to layer mapping. In the simplest case, each codeword maps to a single layer and then the number of supportable layers obviously equals the number of supportable codewords. One of the most significant characteristics associated with the channel conditions in the field of high rate, multi- antenna transmission is the so-called channel rank. The channel rank can vary from one up to the minimum number of transmit and receive antennas. Taking a 4x2 system as an example, i.e., a system or device with four transmit antennas and two receive antennas, the maximum channel rank is two. The channel rank varies in time as the fast fading alters the channel coefficients. Roughly speaking, the channel rank also determines how many layers, and ultimately also how many codewords, can be successfully transmitted simultaneously. Hence, if for example the channel rank is one at the instant of transmission of two codewords which are mapped to two separate layers, then there is a strong likelihood that the two signals corresponding to the codewords will interfere so much that both of the codewords will be erroneously detected at the receiver. The number of layers per channel use (in e.g. LTE a channel use would correspond to a single resource element) that are simultaneously transmitted is sometimes referred to as the transmission rank. With pure spatial precoding schemes such as the spatial multiplexing mode in LTE, the transmission rank equals the number of layers.
[0009] In conjunction with precoding, adapting the transmission to the channel rank involves using as many layers as the channel rank. In the simplest of cases, each layer would correspond to a particular antenna. Taking, purely as an example, the current the four transmit antenna case in LTE systems, the maximum number of codewords is limited to two while up to four layers can be transmitted. For devices or systems which have only two transmit antennas, the mapping is relatively straightforward since the number of layers equals the number of codewords. However, for devices and systems having, for example, four or more transmit antennas, there are potentially fewer codewords than layers, so the codewords need to then be mapped to the layers in some predetermined way. The issue then arises regarding how to map the codewords to the layers. Various conventional mappings from codewords to layers have been proposed and will be described in more detail below. Although these conventional mappings work well when considering, for example, first time transmission performance, they may not be optimal under other circumstances, e.g., when considering the efficiency of HARQ operation for retransmissions.」(3頁12行?5頁15行)

([当審仮訳]:
[0007]プリコーディングは,複数アンテナ伝送と併せて用いられる一般的な技術である。プリコーディングに関わる基本原理は,場合によっては現在のチャネル状況を考慮に入れつつ,アンテナにわたって変調シンボルを混合し分配することである。プリコーディングは,例えば,変調シンボルを含む情報搬送シンボル・ベクトルを,チャネルに適合するように選択された行列で乗ずることによって,実装される。よって,シンボル・ベクトルの列は並行するシンボル・ストリームの集合を形成し,このようなシンボル・ストリームのそれぞれは一般的に「レイヤ」と呼ばれる。よって,特定の実装におけるプリコーダの選択に依存して,レイヤは直接的に特定のアンテナに対応してもよいし,またはレイヤはプリコーダ・マッピングを介して,(アンテナ・ポートとしても知られる)いくつかのアンテナに分配されてもよい。このようなシステムにおいて特定のレイヤにコードワードが割り当てられるメカニズムは「マッピング」又はより具体的に「コードワード対レイヤ・マッピング」と呼ばれる。
[0008](多くの場合にMIMOシステムと呼ばれる)複数アンテナのシステムにおいて,いくつかのHARQプロセスからのデータを一度に送信することが有効であるかも知れず,この全体的な処理は複数コードワード伝送としても知られる。コードワードはレイヤにマッピングされるため,これに代えて,当該プロセスは複数レイヤ伝送と呼ばれてもよい。無線チャネル状況に依存して,このプロセスは実質的にデータ・レートを増加できる。なぜなら,有利な状況では無線チャネルは,送信アンテナ数及び受信アンテナ数の最小値と同数のレイヤを大体はサポートできるからである。これが意味することは,チャネルは多くても所定の個数のコードワードの同時伝送をサポートでき,そして特定数はコードワード対レイヤ・マッピングに依存することである。最も単純な場合では,各コードワードは1個のレイヤにマッピングされ,そしてサポート可能なレイヤ数は明らかにサポート可能なコードワード数に等しい。高レートの分野におけるチャネル状況に関連する最も重要な特性の一つは,複数アンテナ伝送はいわゆるチャネル・ランクであるということである。チャネル・ランクは1から送信アンテナ数及び受信アンテナ数の最小値との間で変わり得る。4×2システムすなわち4個の送信アンテナ及び2個の受信アンテナを有するシステム又は装置を例としてあげると,最大チャネル・ランクは2である。ファスト・フェージングがチャネル係数を変えるにつれて,時間が経てばチャネル・ランクは変わる。大まかに言えば,チャネル・ランクはまた,何個のレイヤが首尾よく同時に送信できるか,及び結局のところ何個のコードワードが首尾よく同時に送信できるかを判定する。従って,例えば2個の別々のレイヤにマッピングされる2個のコードワードの伝送の瞬間においてチャネル・ランクが1である場合に,かなりの確率で,コードワードに対応する2個の信号は干渉されて,両方のコードワードは受信機においてエラーとして検出されるだろう。同時に送信されるチャネル使用ごとのレイヤ数は伝送ランクと呼ばれることもある(例えば,LTEでは,チャネル使用は一つのリソース・エレメントに対応する)。LTEの空間多重モードのような純粋な空間プリコーディング方式では,伝送ランクはレイヤ数に等しい。
[0009]プリコーディングと協働して,伝送をチャネル・ランクに適合することは,チャネル・ランクと同数のレイヤを用いることを必要とする。最も単純な場合では,各レイヤは特定のアンテナに対応する。純粋に例としてLTEシステムにおける現行の4個の送信アンテナの場合を挙げると,4個のレイヤまで送信され得るものの,コードワードの最大数は2個に制限される。2個の送信アンテナのみを有する装置又はシステムにとって,レイヤ数がコードワード数に等しいため,マッピングは比較的単純である。しかしながら,例えば4個以上の送信アンテナを有する装置又はシステムにとって,場合によってはレイヤよりもコードワードが少なく,その結果,何らかの事前に決められた方法でコードワードがレイヤにマッピングされる必要がある。そして,コードワードをレイヤにどのようにマッピングするかに関する課題が生じる。従来よりコードワードからレイヤへの様々なマッピングが提案されてきており,これらは以下で詳細に説明される。これらの従来のマッピングは例えば最初の時点の伝送性能を考慮する場合に良く動作するものの,例えば再送についてのHARQ動作の効率性を考慮する場合のような他の環境では最適でないかもしれない。)

ロ.「[0033] Of particular interest in the transmit processing for these exemplary embodiments is the antenna mapping step/block 312. The antenna mapping process can be further subdivided into mapping of the codewords output from the modulation block 310 into layers and precoding of the resulting symbol vectors to generate the antenna (or antenna port) mapped symbols, as shown in Figure 3. Therein an example is provided with two sets of codewords being mapped by layer mapping function 400 into three layers. Two symbol vectors vl and v2 associated with the three layers are illustrated in Figure 3. These symbol vectors are then precoded by applying one or more precoding matrices by precoding function 402, i.e., by matrix multiplication of the precoding matrix or matrices with the incoming symbol vectors. A detailed description of precoding is beyond the scope of this discussion. However, it will be appreciated that the illustration of mapping to three layers and four transmit antennas in Figure 3 is purely exemplary, and that these exemplary embodiments are applicable to other numbers of layers and/or transmit antennas. Selection of the number of layers will (i.e., the transmission rank), as described earlier, typically vary based upon the channel rank (among possibly other criteria) and the number of antennas may vary from system to system or even among transmit devices within systems.
[0034] For any given system, device or implementation, there will typically be a fixed number of transmit antennas and, therefore, one or more predetermined mappings between codewords and layers will typically be available for use in performing the codeword to layer mapping illustrated in, e.g., Figure 3. This mapping can change during operation of a particular transmitter or device as a function of the determined channel rank, i.e., codewords can be mapped to more or fewer layers during transmission to another device. Some conventional sets of codeword to layer mappings for systems or devices with four transmit antennas are illustrated in Figures 4 and 5. For example, Figures 4(a)-4(d) depict a first set of conventional codeword to layer mappings. Starting with Figure 4(a), if for example, the channel conditions are determined to correspond to a transmission rank 1 characteristic, then a single codeword 500 is mapped to a single layer 502. The layer 502 is input to a precoder 504, which precodes the symbols and distributes them across the four transmit antennas 506-512.
[0035] For a rank 2 channel, transmission rank 2 is suitable and the codeword to layer mapping can be performed, for example, as shown in Figure 4(b). Therein, two codewords 514 and 516 are mapped to two layers 518 and 520, respectively. These two layers 518 and 520 provide their respective symbol streams to the precoder 504, which in turn precodes the symbols and distributes them among the four transmit antennas 506- 512. For a rank 3 channel, transmission rank 3 may be used, which is illustrated in Figure 4(c) where a first codeword 522 is mapped to one layer 523, while a second codeword 524 is mapped to two layers 526 and 528 using a serial-to-parallel (S/P) converter 530. The three resulting layers are then precoded and their symbols distributed among the four transmit antennas 506-512. For a rank 4 channel, a transmitter can use the codeword to layer mapping illustrated in Figure 4(d). Therein, two codewords 532 and 534 are each mapped into two different layers, i.e., layers 536 and 538 for codeword 532 and layers 540 and 542 for codeword 534 via S/P converters 544 and 546, respectively. The resulting four layers are then precoded by unit 504 and their symbols distributed among the four transmit antennas 506-512.」(12頁13行?14頁7行)

([当審仮訳]:
[0033]これらの例示的な実施形態に対する送信処理において特に興味があるのは,アンテナ・マッピング・ステップ/ブロック312である。アンテナ・マッピング処理はさらに,図3に示すように,変調ブロック310から出力されたコードワードのレイヤへのマッピングと,アンテナ(又はアンテナ・ポート)にマッピングされたシンボルを生成するための結果として生じるシンボル・ベクトルのプリコーディングとに細分される。図3で,2組のコードワードがレイヤ・マッピング機能400により3個のレイヤにマッピングされている例が提供される。3個のレイヤに関連する2個のシンボル・ベクトルv1及びv2が図3に説明される。これらのシンボル・ベクトルはその後に,プリコーディング機能402によって,一つ以上のプリコーディング行列を適用することによって,すなわちプリコーディング行列又は行列群を入来シンボル・ベクトルに乗算するの行列乗算によって,プリコーディングされる。プリコーディングの詳細な説明は本議論の範囲外である。しかしながら,図3における3個のレイヤ及び4個の送信アンテナへのマッピングの説明は純粋に例示的であり,これらの例示的な実施形態は他の個数のレイヤと他の個数の送信アンテナとの少なくともいずれかに適用できることが理解されよう。レイヤ数(すなわち伝送ランク数)の選択は,前述のように,一般には(場合によってはその他の基準に中からの)チャネル・ランクに基づいて変わり,アンテナ数は,システムごとに変わってもよいし,システム内の送信装置においてでさえ変わってもよい。
[0034]任意の所与のシステム,装置,又は実装について,一般には固定数の送信アンテナがあり,したがってコードワード・レイヤ間の事前に決定された一つ以上のマッピングが,例えば図3に説明されるようなコードワード対レイヤ・マッピングを実行するのに用いることが出来るだろう。このマッピングは,決定されたチャネル・ランクに応じて,特定の送信機又は装置の動作の間に変わり得る。すなわち,コードワードは別の装置への伝送の間に,より多い又はより少ないレイヤにマッピングされ得る。4個の送信アンテナを有するシステム又は装置についての従来のコードワード対レイヤ・マッピングの集合が図4及び図5で説明される。例えば,図4A?図4Dは従来のコードワード対レイヤ・マッピングの第1の集合を表す。図4Aから始めて,例えば,伝送ランク1の特性に対応するとチャネル状況が判定された場合に,一つのコードワード500が一つのレイヤ502にマッピングされる。レイヤ502はプリコーダ504に入力され,プリコーダ504はシンボルをプリコーディングし,これらを4個の送信アンテナ506-512の間で分配する。
[0035]ランク2のチャネルについて,伝送ランク2が適当であり,コードワード対レイヤ・マッピングが例えば図4Bに示されるように実行され得る。図4Bでは,2個のコードワード514,516が2個のレイヤ518,520にそれぞれマッピングされる。これらの2個のレイヤ518,520は,それぞれのシンボル・ストリームをプリコーダ504に提供し,さらにプリコーダ504はシンボルをプリコーディングし,これらを4個の送信アンテナ506-512の間で分配する。ランク3のチャネルについて,伝送ランク3が用いられてもよく,これは図4Cで説明され,第1のコードワード522が1個のレイヤ523にマッピングされ,一方で第2のコードワード524が直並列(S/P)変換器530を用いて2個のレイヤ526,528にマッピングされる。結果として生じる3個のレイヤはその後にプリコーディングされ,これらのシンボルは4個の送信アンテナ506-512の間で分配される。ランク4のチャネルについて,送信機は図4Dに説明されるコードワード対レイヤ・マッピングを用いることが出来る。図4Dでは,2個のコードワード532,534はそれぞれ異なる2個のレイヤにマッピングされる。すなわち,S/P変換器544,546をそれぞれ介して,コードワード532についてはレイヤ536,538にマッピングされ,コードワード534についてはレイヤ540,542にマッピングされる。結果として生じる4個のレイヤはその後にユニット504によりプリコーディングされ,これらのシンボルは4個の送信アンテナ506-512の間で分配される。)

上記摘記事項イ.の段落[0008]の「(多くの場合にMIMOシステムと呼ばれる)複数アンテナのシステムにおいて,・・・」との記載によれば,上記摘記事項ロ.の段落[0034]において図4に関して記載された「4個の送信アンテナを有するシステム」には,MIMOシステムが含まれると解される。
上記摘記事項ロ.の段落[0033]の「3個のレイヤに関連する2個のシンボル・ベクトルv1及びv2が図3に説明される。これらのシンボル・ベクトルはその後に,プリコーディング機能402によって,一つ以上のプリコーディング行列を適用することによって,すなわちプリコーディング行列又は行列群を入来シンボル・ベクトルに乗算するの行列乗算によって,プリコーディングされる。」との記載,及び,同段落[0035]の図4Cについての「ランク3のチャネルについて,伝送ランク3が用いられてもよく,これは図4Cで説明され,第1のコードワード522が1個のレイヤ523にマッピングされ,一方で第2のコードワード524が直並列(S/P)変換器530を用いて2個のレイヤ526,528にマッピングされる。結果として生じる3個のレイヤはその後にプリコーディングされ,これらのシンボルは4個の送信アンテナ506-512の間で分配される。」との記載によれば,2個のコードワードを3個のレイヤにマッピングすること,ランク3のプリコーディング行列を用いて,前記3個のレイヤを4個の送信アンテナにマッピングすること,及び,前記マッピングしたレイヤおよびアンテナを含む経路に前記コードワードを送信することが,それぞれ行われることが理解される。

したがって,上記摘記事項イ.,ロ.の記載,図3,4及びこの分野における技術常識を考慮すると,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明1)
「MIMOシステムでの送信方法であって,
2個のコードワードを3個のレイヤにマッピングするレイヤマッピングステップと,
ランク3のプリコーディング行列を用いて,前記3個のレイヤを4個のアンテナにマッピングするアンテナマッピングステップと,
前記マッピングしたレイヤおよびアンテナを含む経路に前記コードワードを送信するステップと,を含む,
送信方法。」

また,同じく原査定の拒絶の理由に引用された,LG Electronics,Consideration on rank 3 codebook design for UL SU-MIMO in LTE-A([当審仮訳]:LTE-AにおけるUL SU-MIMO(アップリンクシングルユーザMIMO)のためのランク3コードブック設計についての考察)[online],3GPP TSG-RAN WG1#58 R1-093257,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_58/Docs/R1-093257.zip>,2009年 8月24日(以下「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。

ハ.「2. Properties all candidates
CMP only (LPU) [4]
For UL transmission, UE may experience power limited situation, thus it is necessary to design a codebook which can keep a low CM value. To preserve CM, single layer only needs to be transmitted in each antenna port even for higher rank transmission which implies that multiple layers should not be mixed in all antenna ports. Therefore, even though the precoding performance is not fully optimized due to limited precoding design freedom, the full CMP codebook is beneficial under power limited situation. Table 1 shows a rank 3 CMP (LPU) structure.

」(1?2頁)

([当審仮訳]:
2. 全候補の特性
・CMP(キュービックメトリック維持)のみ(LPU(レイヤ電力がアンバランスなもの))
UL(アップリンク)伝送のため,UE(ユーザ装置)は電力が制限された状況に置かれ得るため,低CM(キュービックメトリック)値を保持できるコードブックを設計することが必要である。CMを維持するため,高ランク伝送であっても,単一のレイヤのみが各アンテナポートから送信される必要があり,これは,全アンテナにおいて複数レイヤが混合されるべきでないことを意味する。それゆえ,プリコーディングの設計の自由度が制限されるためにプリコーディング性能が完全には最適化されないとしても,電力が制限された状況下では完全CMPコードブックが有益である。表1に,ランク3のCMP(LPU)構造を示す。

表1 CMP(LPU)構造)

ニ.「CM-preserving precoding is composed by '0', '1' and 'one complex value'. When row permutation of CM-preserving matrix is considered, six types of matrix are generated as shown in Table 1. If QPSK alphabet is employed for the sake of implementation complexity, possible candidate matrices can be totally 24 matrices.
The power imbalance ratio between physical antenna port and virtual antenna port (layer) depends on the number of non-zero elements in precoding matrix. So CMP (LPU) allows uniform power distribution for all physical antenna ports, whereas the power ratios across layers are different. In this case, performance degradation can be expected due to unbalanced channel estimation between layers and lower MCS selection because of it.」(2頁)

([当審仮訳]:
CM維持プリコーディングは,'0','1'及び'1つの複素数値'からなる。CM維持行列の行の順列を考慮すると,表1に示されるように6個のタイプの行列が生成される。実装の複雑さのため,QPSKアルファベットが使用されるならば,可能な候補となる行列は,全部で24個の行列であり得る。
物理アンテナポートと仮想アンテナポート(レイヤ)との間の電力不均衡の比は,プリコーディング行列内の非ゼロ要素の数に依存する。そのためCMP(LPU)は,複数レイヤをまたがった電力比が異なる一方で,全ての物理アンテナポートへの均一な電力分配を許容する。この場合,レイヤ間のアンバランスなチャネル推定と,それによる低いMCS(変調及び符号化スキーム)選択のため,性能劣化が予期される。)

引用例2の表題中の「UL SU-MIMO」との記載から,上記摘記事項ハ.の記載が参照する「表1」は,SU-MIMOのシステムでコードブックを用いた送信を行うためのコードブックであるといえる。
また,上記摘記事項ハ.によれば,「表1」の各行列は,複数のレイヤが互いに異なるアンテナにマッピングされるように形成されたランク3コードブックのプリコーディングマトリックスであり,当該ランク3コードブックから選択された特定のプリコーディングマトリックスを用いて,複数のレイヤが複数のアンテナにマッピングされることが理解される。
さらに,「表1」中,各行列の非ゼロの要素「a」が

であり,その余の非ゼロの要素が全て「1」であることから,各アンテナ間の送信電力比が一定であることが明らかであり,さらに,第1列に非ゼロ要素が2個,その他の列に1個存在することから,ある1つのレイヤは2本のアンテナから送信され,他の2つはそれぞれ1本のアンテナから送信される結果,各レイヤ間の送信電力比が2:1:1であることも明らかである。
したがって,上記摘記事項ハ.,ニ.の記載及びこの分野における技術常識を考慮すると,引用例2には,以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明2)
「SU-MIMOのシステムでコードブックを用いた送信方法であって,
複数のレイヤが互いに異なるアンテナにマッピングされるように形成されたランク3コードブックのうち選択されたプリコーディングマトリックスを用いて,前記複数のレイヤを複数のアンテナにマッピングするアンテナマッピングステップと,を含み,
前記ランク3コードブックのプリコーディングマトリックスは,各アンテナ間の送信電力比が一定であり,各レイヤ間の送信電力比が2:1:1になるように設定されたマトリックスであり,
前記ランク3コードブックは,24個のプリコーディングマトリックスを含むサイズを有する表1のようなものである送信方法。」

(3)対比
引用発明1の「MIMOシステム」,「2個のコードワード」,「3個のレイヤ」,「プリコーディング行列」,「4個のアンテナ」は,換言すれば,それぞれ,多重入出力システム,複数のコードワード,複数のレイヤ,プリコーディングマトリックス,複数のアンテナであるといえる。
したがって,補正後の発明と引用発明1とを対比すると,両者は以下の点で一致し,また,相違する。

(一致点)
「多重入出力システムでの送信方法であって,
複数のコードワードを複数のレイヤにマッピングするレイヤマッピングステップと,
ランク3のプリコーディングマトリックスを用いて,前記複数のレイヤを複数のアンテナにマッピングするアンテナマッピングステップと,
前記マッピングしたレイヤおよびアンテナを含む経路に前記コードワードを送信するステップと,を含む,
送信方法。」

(相違点)
補正後の発明では,「プリコーディングマトリックス」が,「コードワードが互いに異なるアンテナにマッピングされるように形成されたランク3コードブックのうち選択された」ものであるとともに「ランク3コードブックのプリコーディングマトリックス」であり,また,「各アンテナ間の送信電力比が一定であり,各レイヤ間の送信電力比が2:1:1になるように設定された」ものであって,さらに,「ランク3コードブック」が,「12個のプリコーディングマトリックスを含むサイズを有する表1のようなものである」のに対し,引用発明1では,「プリコーディングマトリックス」が単に「ランク3」のものであって,コードブックの存在についての限定がなく,プリコーディングマトリックスが設定する送信電力比についての限定もない点。また,それに伴い,「送信方法」が,補正後の発明では,「コードブックを用いた」送信方法であるのに対し,引用発明1ではそのような限定がない点。

(4)判断
そこで,上記相違点について検討する。
引用発明2の「SU-MIMOのシステム」は,換言すれば,多重入出力システムであるといえるから,引用発明1と引用発明2とは,多重入出力システムでの送信方法であって,アンテナマッピングステップにランク3のプリコーディングマトリックスを用いたものである点で共通している。また,引用発明1では,ランク3のプリコーディングマトリックスの具体化が必要であるといえる。
そうすると,引用発明1において,ランク3のプリコーディングマトリックスの具体的な内容として,引用発明2の,「複数のレイヤが互いに異なるアンテナにマッピングされるように形成されたランク3コードブックのうち選択されたプリコーディングマトリックス」であって,ここで,当該のランク3コードブックのプリコーディングマトリックスが「各アンテナ間の送信電力比が一定であり,各レイヤ間の送信電力比が2:1:1になるように設定されたマトリックス」であるものを適用すること,また,その結果として,当該のプリコーディングマトリックスが「コードワードが互いに異なるアンテナにマッピングされるように形成された」ものとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
ここで,引用発明2のランク3コードブックのサイズは「24個のプリコーディングマトリックスを含む」ものであるが,
a.引用例2の摘記事項ニ.の記載によれば,24個のプリコーディングマトリックスは,可能な候補となる行列を全部示したものであること,また,
b.例えば,原査定の拒絶の理由に引用された,Huawei,Precoding for UL 4Tx MIMO[online],3GPP TSG-RAN WG1#58 R1-093055,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_58/Docs/R1-093055.zip>,2009年 8月24日(3?4頁の「Table 5 size-12 BPSK CMP codebook」を参照)や,同じくSamsung,Further Discussion on Rank 3 Codebook Design for 4 TX UL SU-MIMO[online],3GPP TSG-RAN WG1#59 R1-094588,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_59/Docs/R1-094588.zip>,2009年11月12日(3頁の「Table 1. CMP(LPU) Codebooks」中の「Size-8 CMP」等参照)に示されているように,ランク3コードブックを,非ゼロの要素が「±1」のみのプリコーディングマトリックスで構成することは周知技術であり,その一方で,
c.例えば,当審で新たに引用する,InterDigital Communications, LLC,MU-MIMO Codebook Selection and Signaling Considerations for E-UTRA[online],3GPP TSG-RAN WG1#51 R1-074702,インターネット<URL:http://www.3gpp.org/ftp/tsg_ran/WG1_RL1/TSGR1_51/Docs/R1-074702.zip>,2007年11月 5日(6?7頁の「4. Analysis of the Codebook and Precoding Techniques」の図6に関する記載等を参照)や,同じく国際公開第2008/100038号(34頁10行?35頁14行参照)に示されているように,コードブックを部分集合として構成することも周知技術であること
を考慮すると,引用発明1に引用発明2を適用する際に,引用発明2のランク3コードブックが,非ゼロの要素が「±1」のみのプリコーディングマトリックスを部分集合として抽出した,12個のプリコーディングマトリックスを含むサイズを有する,補正後の発明の「表1」のようなものであるものとすることは,当業者が適宜なしうる設計変更の程度にすぎない。
また,補正後の発明が奏する効果は,当業者が引用発明1及び引用発明2から容易に予測できる範囲内のものである。

以上のとおり,補正後の発明は,引用発明1,引用発明2及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
補正後の発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項で準用する第126条第7項の規定に適合していない。
したがって,本件補正は,特許法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明及びその優先日について
平成27年2月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりのものである。
また,本願発明の発明特定事項のうち,ランク3コードブックが,少なくともその「表1」に含まれたプリコーディングマトリックスを含み,かつ,前記ランク3コードブックが,12個のプリコーディングマトリックスを含むサイズを有することについて,優先権主張番号10-2009-0104237に係る出願の明細書には記載されていないこと等から,上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の項中,「(1)補正後の発明及びその優先日について」の項で述べた補正後の発明と同様,本願発明について優先権主張番号10-2009-0104237,10-2009-0094390等による優先権主張の効果は認められない。
よって,本願発明の優先日は,補正後の発明と同じく平成22年(2010年)1月21日であると認める。

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は,上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」の項中,「(2)引用発明」の項及び「(4)判断」の項で,引用発明1,引用発明2,周知技術としてそれぞれ認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり,引用発明1,引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.結語
以上のとおり,本願発明は,引用発明1,引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-25 
結審通知日 2015-08-31 
審決日 2015-09-28 
出願番号 特願2012-515999(P2012-515999)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
P 1 8・ 575- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 羽岡 さやか  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 中野 浩昌
富澤 哲生
発明の名称 多重入出力システムでコードブックを用いた通信方法および装置  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 木内 敬二  
代理人 崔 允辰  

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