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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1311171
審判番号 不服2014-24581  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-02 
確定日 2016-02-12 
事件の表示 特願2013- 61940「フィルム外装電池およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月27日出願公開、特開2013-127989〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願の出願日の認定
1.手続の経緯
本願は、平成18年 3月29日に出願した特願2006-090889号(以下「原出願」という。)の一部を平成25年 3月25日に新たな特許出願としたものであって、平成26年 5月14日付けの拒絶理由通知に対して、同年 7月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年 8月27日付けで拒絶査定がされ、この査定を不服として同年12月 2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。その後、当審において平成27年 8月12日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」ということがある。)が通知され、これに対して、同年10月19日に意見書及び手続補正書が提出された。

2. 本願の出願日について
平成26年 5月14日付けの拒絶理由通知において、請求項1、8に係る発明は、「積層構造体を封止する外装体フィルム」に関し「積層構造体の表面に密着するようにして前記積層構造体を減圧下にて封止する外装体フィルム」である点が特定されていないから、原出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面には記載されていない発明であり、したがって、この出願は、適法な分割出願であるとは認められないことが指摘された。
これに対して、平成26年 7月22日付けの手続補正書(以下「補正書1」という。)によって補正された請求項1においては、「前記積層構造体は減圧封止されている」点が限定されたが、補正書1による補正前の請求項8に対応する請求項6においては、積層構造体が減圧封止される点について限定されなかったため、拒絶査定において、「この出願は、適法な分割出願であるとは認められない。」と判断された。
その後、拒絶査定不服審判の請求と同時にした、平成26年12月 2日付けの手続補正書(以下「補正書2」という。)によって補正された、補正書2による補正前の請求項6に対応する請求項6において、積層構造体の封止を「減圧下にて」行うことが限定されたので、補正書2によって補正された特許請求の範囲の、請求項1及び請求項6は、いずれも積層構造体を減圧封止する点が限定されたものとなった。
そして、当審拒絶理由に対して提出された、平成27年10月19日付けの手続補正書(以下「補正書3」という。)によって補正された請求項1と、補正書3による補正前の請求項6に対応する請求項8には、いずれにも積層構造体を減圧封止する点が限定されているので、補正書3によって補正された特許請求の範囲の、請求項1及び該請求項1を引用する請求項2?7、並びに、請求項8及び該請求項8を引用する請求項9?13に係る発明は、いずれも、原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載された発明であるといえるから、本願は、適法な分割出願である。
よって、本願は、特許法第44条第2項の規定により、原出願の出願日である、平成18年 3月29日にしたものとみなす。

第2 本願の特許請求の範囲に記載された発明
本願の請求項1?13に係る発明は、平成27年10月19日付けの手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1については以下のとおりである(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)。

「【請求項1】
厚さが5?20μmの集電体と該集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する正極板と、セパレータと、厚さが5?20μmの集電体と該集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する負極板とが積層された積層構造体と、
つや消し面を備えた金属層を有する外装体フィルムと、
を有し、
前記外装体フィルムは、前記つや消し面を外側として前記積層構造体を減圧封止している、フィルム外装電気デバイス。」

第3 当審拒絶理由
当審は、平成27年 8月12日付けで拒絶理由を通知したが、その理由は要するに以下のとおりである。(なお、「・・・」は記載の省略を表す。)

「 理 由
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

・・・
ア はじめに、本願発明が解決しようとする課題について検討する。本願明細書には以下の事項が記載されている・・・。
1ア 「【0008】 ・・・
【0009】 ・・・」
1イ 「【0025】・・・」

イ 上記1ア?1イの記載事項から、本願明細書の記載によれば、本願発明が解決しようとする課題は、正極板、セパレータ及び負極板が積層された積層構造体内における、正極板又は負極板からの活物質組成物層の脱粒や、セパレータのしわの発生を検出することができるフィルム外装電気デバイスを提供することであると認められる。

ウ 一方、本願明細書には以下の事項が記載されている。
1ウ 「【0017】・・・
【0018】・・・
【0019】・・・
【0020】・・・」
1エ 「【0026】・・・
【0027】 ・・・
【0028】 ・・・
【0029】 ・・・」

エ 上記1ウ?1エの記載事項から、本願明細書には、
(ア) 厚み10μm?20μmの集電体に20μm?100μmの厚さの正極活物質組成物層を形成した正極板、厚み5μm?15μmの集電体に20μm?100μmの厚さの負極活物質組成物層を形成した負極板、及び、厚みが10μm?30μm程度のセパレータを用いることにより、電池要素の内部で活物質組成物層が脱粒を生じたときや、セパレータにしわが寄ったときに、正極板、セパレータ及び負極板に局部的に変形が生じ、この変形が、積層された他の正極板、負極板及びセパレータを次々に変形させていくことにより、最終的にはこの変形が電池要素の最上層あるいは最下層の正極板及び負極板の表面にまで及ぶこととなること、
(イ) ラミネートフィルムの厚みを260μm程度以下とすることにより、電池要素の最上層あるいは最下層の正極板及び負極板にまで及んだ変形箇所がラミネートフィルムの表面に突起として浮き出てくることとなり、その結果、当該突起を検出することで、電池要素の積層内部における脱粒やセパレータのしわの発生といった異常を検出すること、
がそれぞれ記載されていると認められる。

オ しかし、本願請求項1には、正極板の集電体及び活物質組成物層の厚み、負極板の集電体及び活物質組成物層の厚み、セパレータの厚み、及び外装体フィルムについての厚みについて特定されていないため、例えば、正極板の集電体及び活物質組成物層の厚み、負極板の集電体及び活物質組成物層の厚み、セパレータの厚み、及び外装体フィルムについての厚みが、積層体内部の異物やしわをラミネートフィルムの表面に浮かび上がらせる効果が得られないほど厚い場合も含まれるものとなっている。そして、その場合には、積層構造体内で脱粒やセパレータのしわが発生した場合であっても、それらをラミネートフィルムの表面で検出することができないこととなる。すると、上記イに記載した、本願発明が解決しようとする課題を解決することができない。

カ 以上から、本願請求項1に記載された発明は、発明の課題が解決されているとはいえない発明を含むものであるといえるから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっている。
また、本願請求項1を引用する本願請求項2-5、本願請求項6、及び本願請求項6を引用する請求項7-10についても同様の拒絶理由が存在する。

キ ・・・ 」

なお、本願発明1、すなわち、補正書3によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、当審拒絶理由で通知した、特許法第36条第6項第1号の拒絶理由の対象となった、補正書3による補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明において、正極板の集電体の厚みと、負極板の集電体の厚みを特定したものに相当する。

第4 当審の判断
上記第3に示した当審拒絶理由の通知に対して請求人から平成27年10月19日に提出された意見書及び手続補正書を勘案しても、当審は、上記第3に示した当審拒絶理由が依然として解消されていない、と判断する。

以下、その判断の理由につき詳述する。
1. 判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)から、以下、当該観点に立って検討する。

2. 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。)。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明はラミネートフィルムを用いたフィルム外装電池およびその製造方法に関する。」

(2)「【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器等の電源としての電池は、軽量化、薄型化が強く要求されている。そこで、電池の外装材に関しても、軽量化、薄型化に限界のある従来の金属缶に代わり、さらなる軽量化、薄型化が可能であり、金属缶に比べて自由な形状を採ることが可能な外装材として、金属薄膜フィルム、または金属薄膜と熱融着性樹脂フィルムとを積層したラミネートフィルムを用いたものが使用されるようになった。
【0003】
電池の外装材として用いられるラミネートフィルムの代表的な例としては、金属薄膜であるアルミニウム薄膜の片面にヒートシール層である熱融着性樹脂フィルムを積層するとともに、他方の面に保護フィルムを積層した3層ラミネートフィルムが挙げられる。
【0004】
外装材にラミネートフィルムを用いたフィルム外装電池においては、正極と負極とをセパレータを介して積層した電池要素を、熱融着性樹脂フィルムを互いに対向させてラミネートフィルムで包囲し、電池要素の周囲でラミネートフィルムを熱融着することによって電池要素を気密封止(以下、単に封止という)している。電池要素の正極および負極をラミネートフィルムの外部へ引き出すために、正極および負極にはそれぞれタブが突出して設けられており、これらタブに、リード端子をラミネートフィルムから突出させて接続している。また、セパレータとしては、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂を用いて形成した多孔性フィルムなどが用いられる。
【0005】
工業製品であるリチウムイオン二次電池は、品質管理の面から良品を選別する必要がある。リチウムイオン電池の製造工程において不良品が生じる原因として、不十分なガス除去や不完全な熱シールが挙げられる(特許文献1、特許文献2参照)。この他、リチウムイオン電池の製造工程において不良品が生じる原因には、以下のようなものがある。リチウムイオン電池では一般に粒子状の電極材料を含む電極合剤を金属箔に薄く塗布した電極が使われるが、電極積層体の内部の層で脱粒が起きる場合がある。また、リチウムイオン電池では10?数十ミクロンの厚さの樹脂製セパレータを正極と負極との間に挟み込んで形成されるが、自動機、あるいは作業者により電池要素を製造する際、セパレータを積層する際にセパレータにしわが寄った状態で積層されてしまう場合もある。脱粒やセパレータのしわが発生したものは不良品として除去されなければならない。 」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、脱粒やセパレータのしわの発生は、積層工程での発生をなくしたとしても電池要素が電解液に浸された積層工程後に発生することもあった。
【0008】
そこで本発明は、積層構造体内における脱粒やセパレータのしわの発生を検出することができるフィルム外装電気デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。」

(4)「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明のフィルム外装電気デバイスは、集電体と集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する正極板と、セパレータと、集電体と集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する負極板とが積層された積層構造体と、つや消し面を備えた金属層を有する外装体フィルムと、を有し、外装体フィルムは、つや消し面を外側として積層構造体を減圧封止している。一態様では、正極板の集電体の厚さが5?20μm、負極板の集電体の厚さが5?20μmであり、他の態様では、外装体フィルムの厚さが260μm以下であり、別の態様では、正極板の活物質組成物層の厚さが20?100μm、負極板の活物質組成物層の厚さが20?100μmであり、さらに別の態様では、正極板の集電体の厚さが5?20μm、正極板の活物質組成物層の厚さが20?100μm、セパレータの厚さが10?30μm、負極板の集電体の厚さが5?20μm、負極板の活物質組成物層の厚さが20?100μm、外装体フィルムの厚さが260μm以下である。また、本発明のフィルム外装電気デバイスの製造方法は、厚さが5?20μmの集電体と集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する正極板と、厚さが10?30μmのセパレータと、厚さが5?20μmの集電体と集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する負極板とが積層された積層構造体と、つや消し面を備えた金属層を有する、厚さが260μm以下の外装体フィルムと、を有するフィルム外装電気デバイスの製造方法であって、金属層のつや消し面を外側として、積層構造体を減圧下にて外装体フィルムにより封止する封止工程と、封止工程の後で、外装体フィルムの表面に光を照射する光照射工程と、光が照射された表面の少なくとも一部を観察し、表面の突起または窪みの有無を判断する表面判断工程と、を含んでいる。」

(5)「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、積層構造体内における脱粒やセパレータのしわの発生を検出することができるフィルム外装電気デバイスおよびその製造方法を提供することができる。」

(6)「【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に、本実施形態のフィルム外装電池の一例の分解斜視図を示す。また、図2に本実施形態のフィルム外装電池の一例の側断面図を示す。
【0013】
フィルム外装電池1は、複数の正極集電部3a、複数のセパレータ7、複数の負極集電部3bを交互に積層してなる電池要素2と、電池要素2を電解液とともに収納する、2枚のラミネートフィルム5、6からなる外装体と、正極集電部3aに接続された正極リード端子4aと、負極集電部3bに接続された負極リード端子4bとを有する。
【0014】
正極板2aおよび負極板2bはそれぞれ、集電体の表面に、活物質、導電剤、結着剤等を含む組成物の層(以下、活物質組成物層)を設けて構成される。
【0015】
正極活物質としては、Li-Mn系複合酸化物、Li-Ni系複合酸化物、Li-Co系複合酸化物などが挙げられる。正極活物質の結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-プロピレン-ジエン系ポリマー等を用いることができる。導電剤としては、例えば繊維状黒鉛、鱗片状黒鉛、球状黒鉛などの天然または人造の黒鉛類、導電性カーボンブラックなどを用いることができる。
【0016】
負極活物質としては、球状黒鉛、繊維状のメソフェーズ系黒鉛化炭素などの黒鉛類、アモルファスカーボン、難黒鉛化炭素などを用いることができ、負極活物質の結着剤としては、上記正極活物質の結着剤と同じものを用いることができる。
【0017】
集電体としては、導電性金属で形成された箔または穴あき箔などを用いることができ、その厚みを5μm?20μm程度とすれば良い。正極側の集電体の材料としては、厚みが10μm?20μm程度のアルミニウム、ステンレスなどが用いられ、負極側の集電体の材料としては、厚みが5μm?15μm程度の銅、ニッケル、銀、ステンレスなどが用いられる。
【0018】
セパレータ7としては、例えば、ポリエチレンフィルムからなるセパレータ、ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンフィルムの3層構造からなるセパレータ等が挙げられる。セパレータ7の厚みは10μm?30μm程度である。
【0019】
ラミネートフィルム5、6としては、電解液が漏洩しないように電池要素2を封止できるものであれば、この種のフィルム外装電池に用いられるフィルムを用いることができ、一般的には、金属薄膜層と熱融着性樹脂層とを積層したラミネートフィルムが用いられる
。この種のラミネートフィルムとしては、例えば、厚さ10μm?60μmの金属箔に厚さ3μm?200μmの熱融着性樹脂を貼りつけたものが使用できる。金属箔、すなわち、金属層の材質としては、Al、Ti、Ti系合金、Fe、ステンレス、Mg系合金などが使用できる。熱融着性樹脂、すなわち、熱融着性樹脂層としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、これらの酸変成物、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル等、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体などが使用できる。また、保護層としては、ポリエステル、ナイロン等が好適である。
【0020】
上述した各部材の厚さについては、例示した範囲を下回ると部材のそれぞれの機能が損なわれるおそれが生じ、上回ると本発明でねらいとしている、積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られにくくなる。
【0021】
以上の構成のフィルム外装電池1の製造工程について以下説明する。
【0022】
まず、電池要素2を作製する。正極板2aおよび負極板2bは、公知の方法に従って製造することができる。例えば、正極板2aは、正極活物質、結着剤および導電剤を混合加工し、N-メチルピロリドンなどの有機溶媒に分散させてペーストとし、集電体にこのペーストを塗布、乾燥させた後、加圧して適当な形状に切断して得ることができる。このようにして得られた正極板2aおよび負極板2bと、別途用意したセパレータ7を、正極板2a、セパレータ7、負極板2bの順で順次積層していく。続いて、正極板2a、セパレータ7、負極板2bが積層された積層領域から延出している延出部において、正極板の延出同士、および負極板の延出部同士をそれぞれ一括して超音波溶接することで中継部である正極集電部3aおよび負極集電部3bを形成する。これと同時に正極集電部3aへの正極リード端子4aの接続、および負極集電部3bへの負極リード端子4bの接続も超音波溶接によりなされる。以上のようにして電池要素2を得る。
【0023】
次に、ラミネートフィルム5、6により電池要素2を封止する。まず、2枚のラミネートフィルム5、6を、熱融着性樹脂層が内側となるように互いに対向させて、電池要素2を挟んで包囲する。その後、ラミネートフィルム5、6の周縁部においてラミネートフィルム5、6を熱融着ヘッド(不図示)によって加圧しつつ加熱し、電池要素2を封止することによって、フィルム外装電池1が製造される。封止に際しては、ラミネートフィルム5、6の3辺を先に熱融着して1辺が開放した袋状としておき、その袋状となったラミネートフィルム5、6の開放している残りの1辺から電解液を注入し、その後、残りの1辺を熱融着する。なお、残りの1辺を熱融着する際は減圧チャンバ内にて行う。減圧下にて電池要素2をラミネートフィルム5、6により封止した後、減圧チャンバ内の圧力を大気圧に戻すことでラミネートフィルム5、6が電池要素2の表面に密着する。
【0024】
次に、電池要素2の内部において不具合が発生していないかどうか検査する。すわなち、電池要素2の積層内部で脱粒(集電体に塗布した活物質が脱落する現象)が生じたり、あるいはセパレータ7にしわが寄ったりするという不具合が生じていないかを、ラミネートフィルム5、6の表面検査により確認する。このような検査を行うのは以下の理由によるものである。
【0025】
正極板2aあるいは負極板2bから活物質組成物層が脱粒してしまうと、脱粒してしまった部分は充放電に寄与しなくなる。また、セパレータ7にしわが寄ってしまうと、正極板2aと負極板2bとの間隔が拡がってしまい、これにより正極板2aと負極板2bとの間における均一性がなくなる。これらはいずれも電池特性および寿命に悪影響を及ぼすことが予測される。よって電池要素2内で脱粒やセパレータにしわが寄ってしまった電池は不良品として除去する必要がある。
【0026】
以下に、電池要素2内で発生した脱粒やセパレータのしわといった異常を、ラミネートフィルム5、6の表面を検査することで検出することができる、その原理について説明する。
【0027】
本実施形態では、セパレータ7にはポリエチレンあるいはポリプロピレンの多孔質膜、またはこれらの複合膜からなる総厚20μm?30μmのものが用いられており、このセパレータ7上に積層された正極板2aには厚み10μm?20μmのアルミニウム箔に20μm?100μmの厚さの正極活物質組成物層が両面形成されたものが用いられ、また、負極板2bには厚み5μm?15μmの銅箔に20μm?100μmの厚さの負極活物質組成物層が両面形成されたものが用いられている。つまり、本実施形態の電池要素2は薄く変形しやすい薄板を積層して形成したものである。
【0028】
このような構造の電池要素2の内部で活物質組成物層が脱粒40を生じると、図2に示すように、セパレータ7上に脱粒した活物質が溜まり、正極板2a、セパレータ7、負極板2bに局部的な応力を印加し、局部的に変形を生じさせる。また、セパレータ7にしわ41が寄ってしまった場合も、図3に示すように、しわ41の寄った箇所が隆起し、正極板2a、セパレータ7、負極板2bに局部的な応力を印加し、局部的に変形を生じさせる。このように、正極板2aあるいは負極板2bは極めて薄く変形しやすいため、脱粒40あるいはしわ41が発生してセパレータ7上に隆起部分が生じると、隆起部分が積層された正極板2a、セパレータ7、負極板2bに局部的な応力を印加し、局部的に変形を生じさせる。そして、この正極板2a、負極板2bおよびセパレータ7の変形が、積層された他の正極板2a、負極板2bおよびセパレータ7に次々に応力を印加していき、次々に変形させていく。最終的にはこの変形は電池要素2の最上層あるいは最下層の正極板2a、負極板2bの表面にまで及ぶこととなる。
【0029】
本実施形態のラミネートフィルム5、6は、正極板2aおよび負極板2bの表面に密着しているが、ラミネートフィルム5、6の厚みは260μm程度以下であるため、密着させた正極板2aおよび負極板2bの形状がラミネートフィルム5、6の表面に浮き出てくる。すなわち、積層内部で生じた隆起によって電池要素2の最上層あるいは最下層の正極板2a、負極板2bにまで及んだ変形箇所がラミネートフィルム5、6の表面に突起50として浮き出てくる。つまり、本実施形態の製造方法における電池要素2の内部検査は、フィルム外装電池1が極めて薄いことで変形しやすい正極板2a、負極板2b、セパレータ7、ラミネートフィルム5、6を積層してなるものであるという特徴を活かし、ラミネートフィルム5、6の表面に浮き出た突起50、場合によっては窪みを検出することで、電池要素2の積層内部における脱粒40やセパレータ7のしわ41の発生といった異常を検出するものである。
【0030】
次に、上述した表面検査を行うための表面検査装置の概略的な構成図を図4に示す。
【0031】
本実施形態の表面検査装置は照射光学系15、検出系16、駆動機構部17、走査系18と、演算処理部19とを有する。
【0032】
照射光学系15は検査光であるレーザ光線32を発する光源部12、光源部12からのレーザ光線32をフィルム外装電池1上に向けるミラー等の偏向光学部材23、24、レーザ光線32をフィルム外装電池1の表面に集光させるレンズ群25とを有する。
【0033】
検出系16はフィルム外装電池1の表面に照射されるレーザ光線32の光軸に交差する検出光軸を有する受光検出器26、27を具備している。受光検出器26は、電池表面で反射したレーザ光線32のうち直接反射した直接反射光を受光する。一方、受光検出器27は、電池表面で反射した際に生じた散乱光を受光する。
【0034】
駆動機構系17は、フィルム外装電池1を保持する電池保持部20と、電池保持部20を直線的に駆動させる駆動部10とを有する。
【0035】
走査系18は、駆動機構部17によるフィルム外装電池1の駆動方向に交差する方向に照射光学系15を往復走査させる。
【0036】
演算処理部19は、検出系16から送信されてきた信号の処理のほか、照射光学系15、駆動機構部17および走査系18の駆動制御を行う。
【0037】
次に、上記表面検査装置を用いての、本実施形態のフィルム外装電池の製造方法における表面検査工程について説明する。
【0038】
減圧封止されたフィルム外装電池1を電池保持部20に保持させる。次いで、駆動部10を駆動させて、照射光学系15により発せられたレーザ光線32を照射可能な照射領域へと、フィルム外装電池1を搬送する。フィルム外装電池1が照射領域へと搬送されると、駆動部10はフィルム外装電池1を直線的、かつ所定のピッチでステップ送りする。フィルム外装電池1の搬送方向と直交する方向に往復走査される照射光学系15から、フィルム外装電池1に対してレーザ光線32が発せられる。フィルム外装電池1の外装体であるラミネートフィルム5、6に照射されたレーザ光線32はラミネートフィルム5、6の表面で反射し、検出系16により受光される。ラミネートフィルム5、6の表面に何ら突起50がない場合は、ラミネートフィルム5、6の表面で反射したレーザ光線32は受光検出器26により受光される。一方、ラミネートフィルム5、6の表面に突起50が浮き出ている場合は、該突起50によりレーザ光線32の一部が散乱光を生じる。つまり、突起50で反射したレーザ光線32は、直接反射光が受光検出器26により検出される他、一部の散乱光が受光検出器27で受光される。
【0039】
演算処理部19は、受光検出器27から送信されてきた信号の処理を行い、散乱光の受光量が所定のしきい値を超えるとラミネートフィルム5、6の表面に突起50が形成されたと判断する。そして、さらに演算処理部19は、電池要素2内にて脱粒40、あるいはセパレータ7のしわ41といった不具合が発生したと判断し、当該フィルム外装電池1を不良品と判断する。
【0040】
なお、所定のしきい値を超える散乱光の受光量は、1個の突起50により生じたものを対象としてもよいし、あるいは複数の突起50のからの総量を対象とするものであってもよい。すわなち、大きな突起50が検出された場合に不良品と認定する他、小さな突起50が複数箇所検出された場合も不良品として認定するものであってもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、レーザ光線を用いてラミネートフィルム5、6の表面の突起50を検出する例を示したが、突起の検出方法はこれに限定されるものではない。例えば、突起を検出するための光はレーザ光線以外の光を用いてもよい。この場合、ラミネートフィルム5、6の主面に対して、ラミネートフィルム5、6の主面の法線方向以外の方向から光を照射し、観察判断装置が光が照射された状態の主面の少なくとも一部を観察し、その結果に基づき異常を判断するものであってもよい。
【0042】
ここで、ラミネートフィルム5、6の主面とは、特に電池要素2を収納した部分のラミネートフィルム5、6の表面を指す。また、ラミネートフィルム5、6の主面の法線方向とは、電池要素2を収納した部分のラミネートフィルム5、6の表面における法線を意味する。また、光の照射方向であるラミネートフィルム5、6の主面の法線方向以外の方向とは、主面に対して斜め方向あるいは主面に対して平行な方向を意味するものである。観
察判断装置は、光学カメラと、光学カメラによる撮像画像の画像情報を処理する画像情報処理部とを有するものであってもよい。
【0043】
突起50が形成されたラミネートフィルム5、6に上記方向から光を照射すると突起50による影ができる。光学カメラによりこの影を撮像し、画像情報処理部がラミネートフィルム5、6の平坦な部分よりも暗い部分、すわなち、影を検出する。画像情報処理部は、影を検出するとラミネートフィルム5、6の表面に突起50が生じている、すわなち、電池要素2の積層内部における脱粒40やセパレータ7のしわ41の発生といった異常が発生していると判断する。
【0044】
また、表面観察の方法としては、ラミネートフィルム5、6の主面に縞模様、格子模様などの周期的な模様の光を照射し、その反射光を周期的な模様のスリットを通して観察することによりラミネートフィルム5、6の表面の凹凸を検出する、いわゆるモアレトポグラフィによる方法でもよい。この場合も、光学カメラによる撮像画像の画像情報処理を行って凹凸の有無を判断しても良いし、あるいは目視による判断でもよい。
【0045】
本発明において、主面に光を照射して表面観察を行う場合、ラミネートフィルムの金属層の外側に向く面はつや消し面であることが好ましい。ラミネートフィルムの金属層によく使われるアルミ箔は、一方の面が光沢面(あるいは鏡面)、他方の面がつや消し面であることが多い。光沢面が外側に向くようにすると、鏡のように周囲の景色が写り込み、表面の突起50の判別がしにくくなる。一方、つや消し面が外側に向くようにすることで景色の写り込みは防止され、平坦な面ならば均一な散乱光を反射させることができ、突起50による影を光学カメラや目視によって捉えやすくなる。よって、表面観察の精度を上げるためにも金属層の外側に向く面はつや消し面とするのが好ましい。
【0046】
なお、上述のようなレーザ光線以外のを照射して、ラミネートフィルムの表面を検査する場合、主面の全面に対して光を照射し、全面に光が照射された状態の主面を一括して観察するのが好ましい。これによりスループットを向上させることができる。
【0047】
さらに、突起50の検出方法としては、光学的な方法以外の方法でもよく、例えば、ラミネートフィルム5、6の表面上をプローブやローラを走査させ、突起上を走査した際のプローブ、ローラの変位量を検出することで突起を検出するものであってもよい。」

3. 特許請求の範囲に記載された発明と発明の詳細な説明に記載された発明との対応関係の検討
上記1.に示した判断手法に従い、上記第2に示した本願発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する。
そこで、まず、本願発明1について、その発明が解決すべき課題(以下、「本願発明1の課題」という。)を確認し、次に、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明1の課題を解決できると認識できる発明の範囲(以下、「本願発明1の課題を解決できると認識できる発明の範囲」ということもある。)を整理した後、最終的に、本願発明1との対応関係の検討を行うこととする。

(1) 本願発明1の課題
ア. 上記2.(2)に示したように、発明の詳細な説明には、【背景技術】について、「この他、リチウムイオン電池の製造工程において不良品が生じる原因には、以下のようなものがある。リチウムイオン電池では一般に粒子状の電極材料を含む電極合剤を金属箔に薄く塗布した電極が使われるが、電極積層体の内部の層で脱粒が起きる場合がある。また、リチウムイオン電池では10?数十ミクロンの厚さの樹脂製セパレータを正極と負極との間に挟み込んで形成されるが、自動機、あるいは作業者により電池要素を製造する際、セパレータを積層する際にセパレータにしわが寄った状態で積層されてしまう場合もある。脱粒やセパレータのしわが発生したものは不良品として除去されなければならない。」(【0005】)との記載がある。なお、ここで、「セパレータ」と積層される「正極」及び「負極」が、それぞれ、「正極板」及び「負極板」を表すことは、例えば、段落【0022】の記載から明らかである。また、脱粒が起きる「電極積層体の内部の層」が具体的には「活物質組成物層」を表すことも、段落【0014】、【0025】の記載から明らかである。

イ. また、上記2.(3)に示したように、発明の詳細な説明には、【発明が解決しようとする課題】について、「しかしながら、脱粒やセパレータのしわの発生は、積層工程での発生をなくしたとしても電池要素が電解液に浸された積層工程後に発生することもあった。」(【0007】)との従来技術の問題点についての記載があり、「そこで本発明は、積層構造体内における脱粒やセパレータのしわの発生を検出することができるフィルム外装電気デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。」(【0008】)との記載がある。

ウ. 上記ア.及びイ.によれば、リチウムイオン電池では、一般に、粒子状の電極材料を含む電極合剤を金属箔に薄く塗布した電極が使われるため、電極積層体の内部の層である活物質組成物層において脱粒が起きる場合があり、また、樹脂製セパレータを正極板と負極板との間に挟み込んで形成するにあたり、セパレータを積層する際にセパレータにしわが寄った状態で積層されてしまう場合もあり、これら脱粒やセパレータのしわの発生は、積層工程での発生をなくしたとしても電池要素が電解液に浸された積層工程後に発生することもあるという問題があることを背景として、積層構造体内における脱粒やセパレータのしわの発生を検出することができるフィルム外装電気デバイスおよびその製造方法を提供することを、発明が解決しようとする課題としていると認められる。

エ. そうすると、本願発明1はフィルム外装電気デバイスについての発明であるから、本願発明1の課題とは、上記ウ.に記載した、発明が解決しようとする課題のうち、フィルム外装電気デバイスについての課題である、「正極板、セパレータ及び負極板が積層された積層構造体内における、正極板又は負極板からの活物質組成物層の脱粒や、セパレータのしわの発生を検出することができるフィルム外装電気デバイスを提供すること」であると認められる。
なお、ここで認定した、本願発明1の課題は、上記第3 当審拒絶理由 のイにおいて認定した発明が解決しようとする課題と同一である。

(2) 本願発明1の課題を解決できると認識できる発明の範囲
そこで、本願発明1の課題が解決できるのは、フィルム外装電気デバイスがどのようなものである場合かについて、すなわち、フィルム外装電気デバイスにおいて、積層構造体内における、正極板又は負極板からの活物質組成物層の脱粒や、セパレータのしわの発生を検出することができるのは、どのような場合かについて、【発明を実施するための形態】の記載に基づいて検討する。

(2-1)フィルム外装電気デバイスの各部材の厚さについて
ア. 上記2.(6)において摘記した、段落【0026】?【0029】の下線部の記載に基づけば、本願発明1において、電池要素内において発生した脱粒やセパレータのしわを検出することができるのは、次の原理による。すなわち、「フィルム外装電気デバイス」を構成する、「正極板の集電体」、「正極板の活物質組成物層」、「負極板の集電体」、「負極板の活物質組成物層」、「セパレータ」及び「外装体フィルム(ラミネートフィルム)」からなる各部材を、いずれも、「極めて薄く変形しやすい」ものとすることにより、積層構造体内に脱粒やセパレータのしわが発生して、セパレータ上に隆起部分が生じると、当該セパレータに積層された正極板、セパレータ、負極板に局部的に変形が生じ、この変形が、積層された他の正極板、セパレータ、負極板を次々に変形させていき、最終的に、電池要素の表面にまで及ぶ。そして、電池要素の表面にまで及んだ変形が、当該電池要素に密着した外装体フィルム(ラミネートフィルム)の表面に突起や窪みとして浮き出るので、この突起を検出することで、積層構造体内において発生した脱粒やセパレータのしわを検出することができる、というものである。

イ. そして、脱粒やセパレータのしわによって発生したセパレータ上の隆起部分によって、当該セパレータに積層された部材である、正極板、セパレータ、負極板に局部的に変形が生じ、この変形が、積層された他の部材を次々に変形させていくためには、上記各部材は「極めて薄く変形しやすい」ものである必要があるところ、当該「極めて薄く変形しやすい」厚さが、具体的にどの程度の厚さであるかについては、上記2.(6)において摘記した、段落【0017】?【0020】の下線部の記載によれば、集電体については5μm?20μm程度、セパレータについては10μm?30μm程度、ラミネートフィルムについては、厚さ10μm?60μmの金属箔に厚さ3μm?200μmの熱融着性樹脂を貼りつけたものと例示されている。また、同段落【0026】?【0027】と【0029】の下線部にも実施形態について同様の記載があり、セパレータ7は総厚20μm?30μm、正極板2aは厚み10μm?20μmのアルミニウム箔の両面に20μm?100μmの厚さの正極活物質組成物層が形成されたもの、負極板2bは厚み5μm?15μmの銅箔の両面に20μm?100μmの厚さの負極活物質組成物層が形成されたもの、ラミネートフィルム5、6の厚みは260μm程度以下、と例示されており、これら例示された厚さの範囲は、段落【0020】において、例示の範囲を「下回ると部材のそれぞれの機能が損なわれるおそれが生じ」、「上回ると本発明でねらいとしている、積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られ」るような厚さである、ということができる。

ウ. 上記イ.の検討から、「フィルム外装電気デバイス」を構成する各部材が備える厚さとは、「各部材のそれぞれの機能が損なわれるおそれが生じ」ず、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られ」るような、「極めて薄く変形しやすい」厚さである。そして、そのような「極めて薄く変形しやすい」厚さとして、集電体については5μm?20μm程度、集電体の両面に形成された活物質組成物層については20?100μm程度、セパレータについては10μm?30μm程度、ラミネートフィルムについては、金属箔の厚さが10μm?60μm程度、金属箔に貼り付けられる熱融着性樹脂の厚さが3μm?200μm程度で、総厚が260μm程度以下が例示される。

エ. そうすると、「フィルム外装電気デバイス」を構成する上記各部材の厚さが、いずれも、「各部材のそれぞれの機能が損なわれるおそれが生じ」ず、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られる」ような、「極めて薄く変形しやすい」厚さであれば、脱粒やセパレータのしわによってセパレータ上に生じた隆起部分が、積層された他の正極板、セパレータ、負極板と、外装体フィルム(ラミネートフィルム)を次々に変形させていくことにより、外装体フィルム(ラミネートフィルム)の表面に突起や窪みとして浮き出るので、本願発明1の課題を解決することができるということができる。

オ. しかしながら、「フィルム外装電気デバイス」を構成する各部材の中に、「各部材のそれぞれの機能が損なわれるおそれが生じ」ず、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られ」るような、「極めて薄く変形しやすい」厚さをはるかに上回る厚い部材が含まれる場合には、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られにくくなる」ので、本願発明1の課題を解決し得ないものになると考えられる。

カ. そこで、「フィルム外装電気デバイス」を構成する各部材のうち外装体フィルムに注目して、原出願の出願時における技術常識として、外装体フィルムにおいて採用される厚さとして、「極めて薄く変形しやすい」とされた厚さの範囲(金属箔の厚さが10μm?60μm程度、金属箔に貼り付けられる熱融着性樹脂の厚さが3μm?200μm程度で、総厚が260μm程度以下)をはるかに上回る厚さが採用される場合があるかについて検討する。

キ. 外装体フィルムとして採用される厚さについて、下記周知文献1?4を参照すると、外装体フィルムがあまり薄いと変形や破損してしまうことから、十分な強度を得るために、厚さの下限値として、0.05mm(周知文献1、周知文献3参照。)や、0.17mm(金属板0.1mm以上、外側樹脂層0.05mm以上、内側樹脂層0.02mm以上をあわせた厚さ。周知文献2参照。)や、通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上(周知文献4参照)とすることが好ましいとされており、また、外装体フィルムがあまり厚いと電池の重量あたりの容量や体積あたりの容量が低下することから、十分な容量を得るために、厚さの上限値として、0.5mm(周知文献1、周知文献3)や、1mm(周知文献2、周知文献4)が好ましいとされている。また、周知文献1?3のいずれにも、実施例として500μmの厚さの外装体フィルム(ラミネートフィルム)が記載されている。

(ア)周知文献1(特開2000-235868号公報)には、次の記載がある。
a.「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、高温で貯蔵した際のガス発生を抑制することにより、外装材が膨れるのを抑え、かつ大電流放電特性及び充放電サイクル特性を向上することが可能な非水電解液二次電池を提供しようとするものである。」
b.「【0062】6)外装材
この外装材には、樹脂層を含む厚さが0.5mm以下のシート製の第1の外装材か、厚さが0.3mm以下の第2の外装材が用いられる。この第1及び第2の外装材は、軽量であるために電池重量当たりのエネルギー密度を高くすることができるものの、可撓性(flexibility)を有するために電極群または非水電解液から発生するガスにより変形しやすい。
【0063】第1の外装材に含まれる樹脂層は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等から形成することができる。具体的には、前記第1の外装材は、金属層と、前記金属層の両面に配置された保護層とが一体化されたシートからなる。前記金属層は、水分を遮断する役割をなす。前記金属層は、例えば、アルミニウム、ステンレス、鉄、銅、ニッケル等を挙げることができる。中でも、軽量で、水分を遮断する機能が高いアルミニウムが好ましい。前記金属層は、1種類の金属から形成しても良いが、2種類以上の金属層を一体化させたものから形成しても良い。前記2つの保護層のうち、外部と接する保護層は前記金属層の損傷を防止する役割をなす。この外部保護層は、1種類の樹脂層、もしくは2種類以上の樹脂層から形成される。一方、内部保護層は、前記金属層が非水電解液により腐食されるのを防止する役割を担う。この内部保護層は、1種類の樹脂層、もしくは2種類以上の樹脂層から形成される。また、かかる内部保護層の表面に熱融着性樹脂を配することができる。
【0064】前記第1の外装材の厚さが0.5mmを超えると、電池の重量当たりの容量が低下する。第1の外装材の厚さは0.3mm以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.25mm以下で、最も好ましくは0.15mm以下である。また、厚さが0.05mmより薄いと、変形や破損し易くなる。このため、厚さの下限値は0.05mmにすることが好ましい。更に好ましい下限値は0.08mmで、最も好ましい範囲は0.1mmである。」
c.「【0263】(実施例25)外装材として、アルミ箔の両面をポリプロピレンで覆った厚さ500μmのラミネートフィルムを用い、電池寸法を厚さが4mm、幅が100mm、高さが280mmにすること以外は、前述した実施例1と同様にして非水電解液二次電池を製造した。
【0264】得られた実施例25の二次電池について、前述した実施例1で説明したのと同様にして容量、2C放電時の容量維持率、300サイクル後の容量維持率及び85℃で貯蔵後の膨れを測定した。その結果、実施例25の二次電池は、容量が6Ahで、2C放電時容量維持率が85%で、300サイクル後の容量維持率が90%で、85℃貯蔵後の膨れが3%であった。従って、50体積%より多く、95体積%以下のBLを含む非水溶媒を用いると、電気自動車のような大型の電池の外装材として厚さが0.5mmのラミネートフィルムを使用できることを確認できた。」
d.「【0299】(実施例48)外装材として、アルミ箔の両面をポリプロピレンで覆った厚さ500μmのラミネートフィルムを用い、電池寸法を厚さが4mm、幅が80mm、高さが220mmにすること以外は、前述した実施例26と同様にして非水電解液二次電池を製造した。
【0300】得られた実施例48の二次電池について、前述した実施例26で説明したのと同様にして容量、3C放電時の容量維持率、300サイクル後の容量維持率及び85℃で貯蔵後の膨れを測定した。その結果、実施例48の二次電池は、容量が3.2Ahで、3C放電時容量維持率が96%で、300サイクル後の容量維持率が90%で、85℃貯蔵後の膨れが3%であった。従って、正極活物質層の厚さを10?100μmにし、かつ40?95体積%のBLを含む非水溶媒を用いると、電気自動車のような大型の電池の外装材として厚さが0.5mmのラミネートフィルムを使用できることを確認できた。」

したがって、上記a.?d.によれば、周知文献1には、非水電解液二次電池の外装材の厚さとして、0.5mmを超えると電池の重量あたりの容量が低下するので好ましくなく、0.3mm以下が好ましく、0.25mm以下が更に好ましく、0.15mm以下が最も好ましいとされている。また、変形や破損しないために厚さの下限値を0.05mmにすることが好ましいと記載されている。そして、実施例25として、アルミ箔の両面をポリプロピレンで覆った、厚さ500μmのラミネートフィルムを用いることが記載されている。

(イ)周知文献2(特開2002-246068号公報)には、次の記載がある。
a.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、非水系二次電池に関し、特に、蓄電システム用非水系二次電池に関するものである。」
b.「【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、一般に電池容器は、物が衝突する等の外部からの衝撃に耐え、且つ、電池容器内に収納される電極を挟持し、これを押さえ込むという機能を奏するように、電池サイズ、電池形状、電池の使用環境等に応じて材質、形状等の選択が行われる。特に大型電池では、小型電池と異なり、電池の信頼性、安全性を確保するために電池容器の設計、つまり材質、形状等の決定が特に重要となる。例えば電池形状を角型にする場合には、円筒型の電池に比べて平板状部分の耐圧性が低いことから高強度の材料が必要となるため、電池容器の材質としてステンレス或いは鉄が一般的に用いられている。
【0009】しかしながら、上記のような厚さが12mm未満の大容量(30Wh以上)扁平形状の大型電池では、大きな面積の平板状部材が存し、角型、或いは円筒型電池に比べ、電池全体に対する電池容器材料の体積の占める割合が大きくなる。従って、このような扁平形状の電池において電池容器にステンレス或いは鉄を用いた場合には、電池の大きさの割りに電池全体の重量が大きくなるという問題があった。すなわち、従来の扁平形状の電池では、高い体積エネルギー密度を実現し得るにも関わらず、重量エネルギー密度が極度に低下するという問題を有していた。
【0010】本発明の目的は、厚さが12mm未満の扁平形状である非水系二次電池において、高容量、高体積エネルギー密度、高重量エネルギー密度を兼ね備えた非水系二次電池を提供することにある。」
c.「【0015】電池容器を構成する上蓋1及び底容器2は、例えば図3に示すような金属-樹脂ラミネート板で構成されている。同図に示すように、この金属-樹脂ラミネート板は、金属板53と、この金属板53の両面に接着層52a,52bにより接着された樹脂層51a,51bとから構成されている。
【0016】金属板53に用いられる金属は、特に限定されるものではないが、汎用性、コストの面から例えばステンレス、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金を用いるのが好ましい。また、樹脂層51a,51bに用いられる樹脂材料も、特に限定されるものではないが、汎用性、コストの面からPETに代表されるポリエステル、ナイロンあるいは、ポリエチレン、ポリプロピレン等ポリオレフィンが好ましく、電池内部側の樹脂層51bには耐電解液性の優れたポリエステル、ポリオレフィンが好ましい。さらに、後述するように熱融着により上蓋1と底容器2とを接合する場合には、ポリオレフィンを用いることが好ましい。なお、接着層52a,52bは、金属板53及び樹脂層51a,51bの材質に応じて適宜選択されるが、例えば、アクリル系接着剤、ゴム系接着剤等を用いることができる。また、樹脂層51a,51bは樹脂製フィルムを熱融着することにより形成することもでき、この場合は、接着層52a,52bは必ずしも必要ではない。
【0017】金属板53は、圧力や衝撃に対する十分な強度、また電池の製造工程での保形強度を得るために、0.1mm以上の厚さであることが好ましい。また、こうすることにより電池容器の補強が不要になるという利点もある。このような観点から、金属板53の厚さは0.15mm以上とするのがより好ましく、0.2mm以上とするのがさらに好ましい。また、外部からの衝撃的な接触に対する十分な強度が得られるように、電池外側の樹脂層51aの厚さを0.05mm以上とするのが好ましく、0.1mm以上とするのがより好ましい。一方、電池内側の樹脂層51bの厚さは電極間の絶縁性の観点から0.02mm以上とするのが好ましいが、長期間にわたる耐久性の観点からすれば、0.05mm以上とするのがより好ましい。
【0018】また、金属-樹脂ラミネート板全体の厚さは、1mm以下にするのが望ましい。この厚さが1mmを越えると、必要な強度が得られるものの、電池の内容積が減少し十分な容量が得られなくなることがあり、また、重量が重くなるという問題が発生する。この観点から、金属-樹脂ラミネート板の厚さは、0.7mm以下であることがより好ましい。なお、必ずしも、電池容器のすべての部分を金属-樹脂ラミネート板で構成する必要はなく、金属-樹脂ラミネート板からなる部分が主要構成部材として備えられていればよい。但し、後述する本発明の効果を十分に奏するためには、電池容器の80%以上、好ましくは90%以上を金属-樹脂ラミネート板で構成するのが望ましい。」
d.「【0039】
【実施例】以下、本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
・・・
【0043】(4)電池容器を構成する底容器2は、図6に示すように、厚さ0.5mmの金属-樹脂ラミネート板を絞り加工により深さ4.9mmのトレー状に作成し、上蓋1は厚さ0.5mmの金属-樹脂ラミネート板で平板状に作成した。ここで使用した金属-樹脂ラミネート板は図3に示される構造であり、金属板53として0.3mmのアルミニウムが用いられ、この金属板53における電池外側の面に接着層52aを介して2軸延伸ナイロンからなる樹脂層51aがラミネートされるとともに、電池内側の面に、接着層52bを介してポリプロピレンからなる樹脂層51bがラミネートされている。」

したがって、上記a.?d.によれば、周知文献2には、大型の非水系二次電池に使用される電池容器について、電池容器を構成する上蓋1及び底容器2を、金属板53と、この金属板53の両面に接着層52a,52bにより接着された樹脂層51a,51bとから構成すること、そして、金属板53は、圧力や衝撃に対する十分な強度、また電池の製造工程での保形強度を得るために、0.1mm以上の厚さが好ましく、0.2mm以上がさらに好ましいこと、また、電池外側の樹脂層51aは、外部からの衝撃的な接触に対する十分な強度が得られるように、厚さを0.05mm以上とするのが好ましく、0.1mm以上とするのがより好ましいこと、そして、電池内側の樹脂層51bは、電極間の絶縁性の観点から、厚さを0.02mm以上とするのが好ましいく、長期間にわたる耐久性の観点からすれば、0.05mm以上とするのがより好ましいことが記載されている。ただし、金属-樹脂ラミネート板全体は、電池の内容積が減少して十分な容量が得られなくなるので、厚さを1mm以下とすることが望ましく、0.7mm以下であるのがより好ましい。また、実施例として、上蓋1及び底容器2のいずれも厚さが0.5mmであるものが記載されている。

(ウ)周知文献3(特開2004-047479号公報)には、次の記載がある。
a.「【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関するものである。」
b.「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱的安定性が高められ、安全性が改善された二次電池を提供しようとするものである。
【0010】
また、本発明の目的は、軽量で、薄い外装材を備え、外部衝撃に対する耐性が改善された二次電池を提供しようとするものである。」
c.「【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る第1?第4の非水電解質二次電池を詳細に説明する。
【0021】
本発明に係る第1の非水電解質二次電池は、正極集電体及び前記正極集電体に担持される正極層を含む正極と、負極集電体及び前記負極集電体に担持される負極層を含む負極と、前記正極層及び前記負極層の間に配置されるセパレータとを含む電極群;
前記電極群に保持される非水電解質;及び
前記電極群が収納され、厚さが0.3mm以下の外装材Aか、もしくは樹脂層を含む厚さが0.5mm以下のシート製外装材B;
を具備する。」
d.「【0101】
(5-2)外装材B
この外装材Bは、樹脂層を含む厚さが0.5mm以下のシートである。
【0102】
外装材Bの樹脂層は、例えば、熱可塑性樹脂から形成することができる。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0103】
外装材Bとしては、例えば、金属層と、前記金属層の両面に形成された樹脂層とからなる多層シートを挙げることができる。前記金属層には、前述した外装材Aで説明したのと同様なものを挙げることができる。外装材の内面となる樹脂層は、ヒートシール面としての機能と、前記金属層が非水電解質により腐食されるのを防止する機能を有する。また、外装材の外面となる樹脂層は、金属層の損傷を防止する役割をなす。各樹脂層は、1種類の樹脂から形成されていても、あるいは2種類以上の樹脂から形成されていても良い。各樹脂層は、熱可塑性樹脂から形成されることが望ましい。外装材の内面となる樹脂層を形成する熱可塑性樹脂の融点は、120℃以上にすることが好ましく、更に望ましい範囲は140℃?250℃の範囲である。前記熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。特に、融点が150℃以上のポリプロピレンは、ヒートシール部の封止強度を向上することができるため、望ましい。
【0104】
前記外装材Bの厚さが0.5mmを超えると、電池の重量当たりの容量及び電池の体積当りの容量が低下する。外装材Bの厚さは0.3mm以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.25mm以下で、最も好ましくは0.2mm以下である。また、厚さが0.05mmより薄いと、変形や破損し易くなる。このため、厚さの下限値は0.05mmにすることが好ましい。」
e.「【0299】
(実施例22)
外装材であるラミネートフィルムの厚さを0.5mmにし、電池寸法が実施例3と同様(厚さが2.7mm,幅が32mm、高さが55mm)になるように電極群の厚さを薄くすること以外は、前述した実施例3と同様にして薄型非水電解質二次電池を製造した。得られた二次電池の容量は、60%(実施例3の二次電池の容量を100%とする)であった。」

したがって、上記a.?e.によれば、周知文献3には、非水電解質二次電池の外装材を、金属層と、前記金属層の両面に形成された樹脂層とからなる多層シートとし、その厚さは、電池の重量あたりの容量や電池の体積あたりの容量が低下するので、0.5mmを超えることは好ましくなく、0.3mm以下が好ましく、更に0.25mm以下が好ましく、0.2mm以下とすることが最も好ましく、また、変形や破損し易くなるため、0.05mmより薄いことは好ましくない、と記載されている。そして、実施例22として、厚さ0.5mmの外装材であるラミネートフィルムが記載されている。

(エ)周知文献4(特開2004-093208号公報)には、次の記載がある。
a.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、形状可変性包装体の漏れ検査方法、それを用いた電池の検査方法および電池の製造方法に関する。」
b.「【0002】
【従来の技術】
金属箔等からなるガスバリア層と高分子フィルム等からなる樹脂層(本明細書においては、このような樹脂層を、単に高分子フィルム層又は樹脂層と呼ぶ場合がある。)とのラミネートフィルムは、柔軟性、屈曲性を備え、さらに気密性の点で優れるために、真空包装用袋や真空パック等の形状可変性包装体として好適に使用されている。このようなラミネートフィルムにおいて、金属箔等からなるガスバリア層は、外部からのガスの侵入及び内部からのガスの放出を防ぎ、内部に収納される物質の劣化を防止している。また、高分子フィルムからなる樹脂層は、機械的強度の保持と接着層としての役目を果たしている。一般に、ガスバリア層にはアルミニウム箔が用いられ、このようなラミネートフィルムはアルミラミフィルムと呼ばれる。
【0003】
近年、このようなラミネートフィルムを用いた形状可変性包装体は、例えばパスタソースやスープ等の食品用途に止まらず、リチウム二次電池の真空包装用袋として用いられるようになってきた。このようなリチウム二次電池は、正極と負極及び電解質を有する電池要素が、上記のラミネートフィルムを用いた形状可変性包装体中に減圧封入された形態を有している。元々、リチウム二次電池は起電力が高く(例えば、4V)、さらにリチウムの原子量が小さいため、高エネルギー密度の二次電池を得られる特徴がある。このようなリチウム二次電池を真空包装用袋に封入することにより、製品の軽量化及びリチウム二次電池のエネルギー密度をさらに高めることができるため、実用化が進められている。」
c.「【0022】
図1(a)?(c)は、このようなラミネートフィルムの構成の例を説明するための断面図である。図1(a)は、二層構造のラミネートフィルムが示されており、ここでは金属箔等からなるガスバリア層10と高分子フィルムからなる樹脂層11とが積層されている。図1(b)は、三層構造のラミネートフィルムが示されており、金属箔等からなるガスバリア層10と、高分子フィルムからなる第1樹脂層12および第2樹脂層13とが積層されている。第1樹脂層12はガスバリア層10の外側面に設けられて外側保護層として機能する。第2樹脂層13はガスバリア層10の内側面に設けられて電解質による腐蝕や電池要素との接触を防止する等の内側保護層として機能する。この場合、第1樹脂層12に使用する樹脂は、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリオレフィン、アイオノマー、非晶性ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等、耐薬品性や機械的強度に優れた樹脂が望ましい。また、第2樹脂層13としては、耐薬品性を有する合成樹脂が用いられ、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリオレフィン、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体等を用いることができる。
【0023】
図1(c)は、多層構造のラミネートフィルムが示されており、ガスバリア層10、第1樹脂層12および第2樹脂層13、接着剤層14とが積層されている。第1樹脂層12はガスバリア層10の外側面に設けられ、第2樹脂層13はガスバリア層10の内側面に設けられ、さらに、接着剤層14は、ガスバリア層10と第1樹脂層12の間、および、ガスバリア層10と第2樹脂層13との間にそれぞれ設けられている。接着剤層14の材料としては、例えば、ポリウレタン系等の2液硬化型接着剤;ポリエチレン系、ポリプロピレン系、変性ポリオレフィン系等のポリオレフィン系接着剤が挙げられ、なかでも、ポリウレタン系接着剤が好ましい。
【0024】
・・・
【0025】
このようなラミネートフィルムの厚さは、通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上であり、通常1mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、最も好ましくは0.15mm以下とする。薄いほど電池がより小型・軽量化できるが、あまりに薄いと、高温保存時の包装体の内部圧力の上昇により破裂する危険性が大きくなるだけでなく、十分な剛性の付与ができなくなったり密閉性が低下する可能性もある。」

したがって、上記a.?c.によれば、周知文献4には、リチウム二次電池に使用されるラミネートフィルムの厚さとして、通常1mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、最も好ましくは0.15mm以下とすること、また、内部圧力の上昇によって破裂しやすくなるため、通常0.01μm以上とすることが記載されている。

ク. 以上、上記キ.の検討から、外装体フィルムの厚さについて、上限値は、電池の重量や体積あたりの容量の点から0.5mmから1mm程度であり、下限値は、強度の点から0.05から0.17mm程度(周知文献4のみ0.01μm)であるということができる。したがって、外装体フィルムが実際に取り得る最大の厚さは、500μから1mm程度であるものと認められ、このような厚さは、本願明細書において「極めて薄く変形しやすい」厚さとして例示された総厚の最大値260μmの2倍から4倍程度の厚さであるから、「極めて薄く変形しやすい」厚さをはるかに上回る厚さといえる。そして、厚さ500μmから1mmを有する、「極めて薄く変形しやすい」厚さをはるかに上回る厚さの外装体フィルムには、上記周知文献2の段落【0017】に記載されているように、圧力や衝撃に対する十分な強度を得るために好ましいとされる0.2mm以上の厚さの金属層を含み得るものであって、変形しにくい高い機械的強度を有するものであるから、たとえ、脱粒やしわによる変形が、電池要素の最上層あるいは最下層の表面にまで及んでいたとしても、当該表面における変形は、外装体フィルムの表面にまでは浮き出ないと考えられるので、このような場合には、本願発明1の課題を解決することができないということができる。

ケ.以上、上記ア.?ク.の厚さに関する検討をまとめると、次のとおりである。
「フィルム外装電気デバイス」を構成する「正極板」、「セパレータ」、「負極板」、及び「外装体フィルム」からなる各部材の厚さが、いずれも、「各部材のそれぞれの機能が損なわれるおそれが生じ」ず、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られ」るような、「極めて薄く変形しやすい」厚さの範囲内であれば、そのような「フィルム外装電気デバイス」は、本願発明1の課題を解決することができる。
しかしながら、「フィルム外装電気デバイス」を構成する上記各部材の中に、「各部材のそれぞれの機能が損なわれるおそれが生じ」ず、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られ」るような、「極めて薄く変形しやすい」厚さの範囲を上回る厚い部材がある場合には、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られにくくなる」ので、そのような「フィルム外装電気デバイス」は、必ずしも、本願発明1の課題を解決し得ないものとなる。特に、本願出願時の技術常識に照らせば、「外装体フィルム」が、「極めて薄く変形しやすい」厚さとして例示された総厚の最大値260μmをはるかに上回る、500μmや1mmという厚さを採用することがあるので、そのような場合には、外部の力に対して極めて変形し難いものとなり、「外装体フィルム」の表面に積層体内部の脱粒やしわによる変形が浮き出ないと考えられるから、本願発明1の課題を解決し得ないということができる。

(2-2)フィルム外装電気デバイスの封止状態について
ア.また、フィルム外装電気デバイスの封止状態について、本願明細書の【発明を実施するための形態】には次の記載がある。
a.「 次に、ラミネートフィルム5、6により電池要素2を封止する。まず、2枚のラミネートフィルム5、6を、熱融着性樹脂層が内側となるように互いに対向させて、電池要素2を挟んで包囲する。その後、ラミネートフィルム5、6の周縁部においてラミネートフィルム5、6を熱融着ヘッド(不図示)によって加圧しつつ加熱し、電池要素2を封止することによって、フィルム外装電池1が製造される。封止に際しては、ラミネートフィルム5、6の3辺を先に熱融着して1辺が開放した袋状としておき、その袋状となったラミネートフィルム5、6の開放している残りの1辺から電解液を注入し、その後、残りの1辺を熱融着する。なお、残りの1辺を熱融着する際は減圧チャンバ内にて行う。減圧下にて電池要素2をラミネートフィルム5、6により封止した後、減圧チャンバ内の圧力を大気圧に戻すことでラミネートフィルム5、6が電池要素2の表面に密着する。」(段落【0023】)

b.「本実施形態のラミネートフィルム5、6は、正極板2aおよび負極板2bの表面に密着している。」(段落【0029】)

イ.上記ア.のa.とb.の記載に基づけば、ラミネートフィルムにより電池要素を封止するにあたり、上記ラミネートフィルムの4辺のうち最後の1辺を熱融着する際には、減圧下にて行うことが記載されている。ラミネートフィルム内が減圧されると、電池要素とラミネートフィルムが大気圧によって密着することになるので、脱粒やしわによる変形が、電池要素の最上層あるいは最下層の表面にまで及んだときに、適切な厚さのラミネートフィルムであれば、その表面にも上記変形が浮き出ることになる。これは、逆に言えば、減圧下で封止しなければ、電池要素とラミネートフィルムは密着しないので、脱粒やしわによる変形が、電池要素の最上層あるいは最下層の表面にまで及び、ラミネートフィルムの厚さが適切なものであったとしても、その表面にまでは上記変形が浮き出ないということである。

(2-3)外装体フィルムのつや消し面について
ア.また、フィルム外装電気デバイスを構成する外装体フィルムについて、本願明細書の【発明を実施するための形態】には次の記載がある。
c.「 本発明において、主面に光を照射して表面観察を行う場合、ラミネートフィルムの金属層の外側に向く面はつや消し面であることが好ましい。ラミネートフィルムの金属層によく使われるアルミ箔は、一方の面が光沢面(あるいは鏡面)、他方の面がつや消し面であることが多い。光沢面が外側に向くようにすると、鏡のように周囲の景色が写り込み、表面の突起50の判別がしにくくなる。一方、つや消し面が外側に向くようにすることで景色の写り込みは防止され、平坦な面ならば均一な散乱光を反射させることができ、突起50による影を光学カメラや目視によって捉えやすくなる。よって、表面観察の精度を上げるためにも金属層の外側に向く面はつや消し面とするのが好ましい。」(段落【0045】)

イ.上記ア.のc.の記載に基づけば、外装体フィルムのつや消し面を、金属層の外側に向ければ、電池要素内において発生した脱粒やセパレータのしわの検出精度を高くすることができる。
なお、仮に、光沢面を金属層の外側に向けたとしても、しわの検出の精度が悪化するが、しわの検出が全くできなくなるとまでは言えないから、この点については、本願発明1の課題を解決するために必須の構成であるとまではいえない。

(2-4)まとめ
以上、上記(2-1)、(2-2)、(2-3)の検討を総合すれば、発明の詳細な説明の記載に基づき、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明1の課題を解決できると認識できる発明の範囲は、「フィルム外装電気デバイス」を構成する各部材である、「正極板」、「セパレータ」、「負極板」、及び「外装体フィルム」が、いずれも、その厚さが、「各部材のそれぞれの機能が損なわれるおそれが生じ」ず、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られ」るような、「極めて薄く変形しやすい」厚さの範囲内であり、「積層構造体」が「減圧封止」されており、「外装体フィルム」のつや消し面を外側に向けた、「フィルム外装電気デバイス」である。これは、換言すれば、「集電体と該集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する正極板と、セパレータと、集電体と該集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する負極板とが積層された積層構造体と、つや消し面を備えた金属層を有する外装体フィルムと、からなる部材を有し、外装体フィルムは、つや消し面を外側として積層構造体を減圧封止している外装電気デバイスであって、上記各部材のそれぞれの機能が損なわれおそれが生じず、上記積層構造体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られるような、極めて薄く変形しやすい厚さである、フィルム外装電気デバイス。」であるということができる。
そして、「フィルム外装電気デバイス」を構成する各部材について、「各部材のそれぞれの機能が損なわれるおそれが生じ」ず、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られ」るような、「極めて薄く変形しやすい」厚さとして、集電体については5μm?20μm程度、集電体の両面に形成された活物質組成物層については20?100μm程度、セパレータについては10μm?30μm程度、ラミネートフィルムについては、金属箔の厚さが10μm?60μm程度、金属箔に貼り付けられる熱融着性樹脂の厚さが3μm?200μm程度で、総厚が260μm程度以下が例示される。

(3) 特許請求の範囲に記載された発明との対応関係の検討
ア. 上記第2に示した本願発明1と、上記(2-4)に記載した、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明1の課題を解決できると認識できる発明の範囲との対応関係を検討する。

イ. 上記第2に示した本願発明1、すなわち、特許請求の範囲のうち請求項1に記載された発明を再掲すると、次のとおりものである。
「 【請求項1】
厚さが5?20μmの集電体と該集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する正極板と、セパレータと、厚さが5?20μmの集電体と該集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する負極板とが積層された積層構造体と、
つや消し面を備えた金属層を有する外装体フィルムと、
を有し、
前記外装体フィルムは、前記つや消し面を外側として前記積層構造体を減圧封止している、フィルム外装電気デバイス。 」

ウ. 上記イ.に再掲した本願発明1と、上記(2-4)に記載した本願発明1の課題を解決できると認識できる発明を対比すると、正極板および負極板の集電体の厚さが5?20μmの厚さであることは、集電体が、「各部材のそれぞれの機能が損なわれるおそれが生じ」ず、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られ」るような、「極めて薄く変形しやすい」厚さを有していることであるから、両者は、「集電体と該集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する正極板と、セパレータと、集電体と該集電体の表面に形成された活物質組成物層とを有する負極板とが積層された積層構造体と、つや消し面を備えた金属層を有する外装体フィルムと、を有し、外装体フィルムは、つや消し面を外側として積層構造体を減圧封止している外装電気デバイスであって、正極板および負極板の集電体の厚さが、その機能が損なわれるおそれが生じず、上記積層構造体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られるような、極めて薄く変形しやすい厚さであるフィルム外装電気デバイス。」の点で一致している。

エ.しかしながら、上記イ.に再掲した本願発明1は「フィルム外装電気デバイス」を構成する各部材のうち、正極板の活物質組成物層、セパレータ、負極板の活物質組成物層、外装体フィルムと、外装体フィルムを構成する金属層と熱融着性樹脂層については、いずれも、厚さの特定がなされていない。
つまり、本願発明1において、正極板の集電体と負極板の集電体の厚さは「5?20μm」であって、上記(2-1)ウ.において、集電体について
「極めて薄く変形しやすい」厚さとして例示された厚さとなっているものの、その他の部材については厚さが特定されておらず、したがって、当該その他の部材については、上記(2-1)ウ.に示された「極めて薄く変形しやすい」厚さの範囲を上回る場合を含んでいる。この場合には、本願明細書の段落【0020】に記載されているように、「積層体内部の異物やしわを表面に浮かび上がらせる効果が得られにくくなる」ので、そのような「フィルム外装電気デバイス」には、本願発明1の課題を解決し得ない場合が含まれることになる。
特に、「外装体フィルム」が、上記(2)エ.に示された「極めて薄く変形しやすい」厚さとして例示された総厚の最大値260μmをはるかに上回る、500μmや1mmという厚さである場合には、当該「外装体フィルム」が外部の力に対して極めて変形し難いものとなるから、たとえ、脱粒やしわによる変形が、電池要素の最上層あるいは最下層の表面にまで及んでいたとしても、当該表面における変形は、当該「「外装体フィルム」の表面にまでは浮き出ることがないと考えられるので、本願発明1の課題を解決し得ないものであるということができる。

オ. そうすると、本願発明1は、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものとはいえない。

カ. したがって、特許請求の範囲に記載された発明は、本願の発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、上記第3に示した当審拒絶理由は依然として解消されておらず、本願は拒絶されるべきものである
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-04 
結審通知日 2015-12-08 
審決日 2015-12-25 
出願番号 特願2013-61940(P2013-61940)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀧 恭子  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 小川 進
池渕 立
発明の名称 フィルム外装電池およびその製造方法  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 宮崎 昭夫  

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