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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1311426
審判番号 不服2014-13417  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-10 
確定日 2016-02-24 
事件の表示 特願2010-529063「2-((R)-2-メチルピロリジン-2-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド結晶型1」拒絶査定不服審判事件〔平成21年4月16日国際公開、WO2009/049111、平成23年1月6日国内公表、特表2011-500589〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2008年10月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年10月12日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年4月4日付けで拒絶理由が通知され、同年8月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月25日に拒絶理由が通知され、平成26年2月3日に意見書、手続補正書及び誤訳訂正書が提出されたが、同年3月7日付けで拒絶査定がされ、同年7月10日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書、誤訳訂正書及び物件提出書が提出されたものである。
なお、平成26年7月10日に、特願2014-142248号が分割出願されている。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成26年2月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「1.54178Åでの放射にて25℃で測定した場合に、個々の2θ値が9.9°、11.0°および11.8°である粉末回折パターンおよび個々の2θ値が14.6°、15.2°、18.2°、19.6°、20.3°、21.3°、22.5°、22.8°、24.7°、28.5°および29.1°である1以上の別のピークを有することを特徴とする2-((R)-2-メチルピロリジン-2-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド1型結晶。」
なお、この化合物の化学構造は、この出願の明細書(以下「本願明細書」という。平成26年2月3日付けの誤訳訂正書並びに同年7月10日付けの手続補正書及び誤訳訂正書により補正されている。)の段落【0091】に記載された以下のとおりである。

本願明細書の段落【0001】には、この化合物が「ABT-888」とも称されることが記載されている。

第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成25年9月25日付けの拒絶理由通知における理由1であり、概略、この出願の請求項1?10に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。その引用文献1は国際公開第2006/110816号(以下「刊行物1」という。)であり、引用文献2は岡野定舗編著,「新・薬剤学総論(改訂第3版)」,南江堂,1987年4月10日,p.26,111,256、257(以下「刊行物2」という。)であり、引用文献3はC. G. WERMUTH編,長瀬博監訳,「最新 創薬化学 下巻」,株式会社テクノミック,平成11年9月25日,p.452-453(以下「刊行物3」という。)である。本願発明は、拒絶理由で言及された請求項2に係る発明である。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:国際公開第2006/110816号
刊行物2:岡野定舗編著,「新・薬剤学総論(改訂第3版)」,南江堂,1987年4月10日,p.26,111,256、257
刊行物3:C. G. WERMUTH編,長瀬博監訳,「最新 創薬化学 下巻」,株式会社テクノミック,平成11年9月25日,p.452-453
刊行物4:日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第6版」,丸善,平成15年1月30日,p.178
刊行物5:長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五編,「岩波 理化学辞典 第5版」,第5版第8刷,2004年12月20日,岩波書店,p.504
刊行物6:緒方章,菰田太郎,新延信吉著,「化学実験操作法」,訂正第36版,昭和52年6月20日,南江堂,p.55-59,526-533
刊行物7:日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,第2刷,丸善,平成8年4月5日,p.184-186
刊行物8:平山令明編著,「有機結晶作製ハンドブック」,丸善,平成12年4月20日,p.109-113
刊行物4?8は、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。

2 刊行物に記載された事項

ア 刊行物1
訳文により示す。
(1a)「1.下記式(I)の化合物又はそれの治療上許容される塩

式中、
R_(1)、R_(2) 及びR_(3) は、独立に水素、アルケニル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキル、アルキニル、シアノ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトロ、NR_(A)R_(B) 及び(NR_(A)R_(B))カルボニルからなる群から選択され;
Aは、1又は2個の窒素原子及び場合により1個の硫黄又は酸素原子を含む非芳香族4、5、6、7、又は8員環であり;前記非芳香族環は、アルケニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニル、アルコキシカルボニルアルキル、アルキル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、シアノ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、複素環、複素環アルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトロ、NR_(C)R_(D)、(NR_(C)R_(D))アルキル、(NR_(C)R_(D))カルボニル、(NR_(C)R_(D))カルボニルアルキル、(NR_(C)R_(D))スルホニル及びオキソからなる群から選択される1、2、又は3個の置換基で置換されていても良く;
R_(A)、R_(B)、R_(C) 及びR_(D) は、独立に水素、アルキル及びアルキルカルボニルからなる群から選択される。
2.R_(1)、R _(2) 及びR_(3) が、独立に水素、アルケニル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキル、アルキニル、シアノ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトロ、NR_(A)R_(B) 及び(NR_(A)R_(B))カルボニルからなる群から選択され;
Aが、

からなる群から選択され;
R_(5) が、独立にアルケニル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキル、アルキニル、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、NR_(C)R_(D) 及び(NR_(C)R_(D))カルボニルからなる群から選択され;
nが0、1、2又は3であり;
R_(6) が、水素、アルケニル、アルコキシアルキル、アルコキシカルボニル、アルコキシカルボニルアルキル、アルキル、アルキニル、アリール、アリールアルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、複素環、複素環アルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、ヒドロキシアルキル、(NR_(C)R_(D))アルキル、(NR_(C)R_(D))カルボニル、(NR_(C)R_(D))カルボニルアルキル及び(NR_(C)R_(D))スルホニルからなる群から選択され;
R_(A) 及びR_(B) が、独立に水素、アルキル及びアルキルカルボニルからなる群から選択され;及び
R_(C) 及びR_(D) が、独立に水素及びアルキルからなる群から選択される
請求項1に記載の化合物。
・・・・・・・・・・・・・・・
5.Aが

からなる群から選択される請求項2に記載の化合物。
6.R_(1)、R_(2)、R_(3) 及びR_(5) が水素であり;
nが0であり;
R_(6) が、水素、アルキル、アリールアルキル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、複素環、ヘテロアリールアルキル及び(NR_(C)R_(D))スルホニルからなる群から選択され;及び
R_(C) 及びR_(D) が、独立に水素及びアルキルからなる群から選択される
請求項5に記載の化合物。
・・・・・・・・・・・・・・・
11.2-(2-メチルピロリジン-2-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド;
2-[(2R)-2-メチルピロリジン-2-イル]-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド;
2-[(2S)-2-メチルピロリジン-2-イル]-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド;
・・・・・・・・・・・・・・
からなる群から選択される化合物。
12.治療上許容される担体と組み合わせて式(I)の化合物又はそれの治療上許容される塩を含む医薬組成物。」(74?79頁、請求の範囲の請求項1、2、5、6、11、12)
(1b)「技術分野
本発明は、2位で4級炭素によって置換された1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド、その製造並びに医薬製造用の酵素ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼの阻害薬としてのその使用に関するものである。
背景技術
ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)又はポリ(ADP-リボース)シンターゼ(PARS)は、DNA修復促進、RNA転写の制御、細胞死への介在及び免疫応答調節において非常に重要な役割を有する。これらの作用により、PARP阻害薬は広範囲の障害に関する標的となっている。PARP阻害薬は、多くの疾患モデル、特には虚血再潅流傷害、炎症疾患、変性疾患、細胞傷害性化合物の有害効果からの保護及び細胞傷害性癌療法のモデルにおいて効力を示している。PARPは、レトロウィルス感染においても指摘されていることから、前記阻害薬は抗レトロウィルス療法での用途を有することができる。PARP阻害薬は、心筋梗塞、卒中、他の神経外傷、臓器移植、並びに眼球、腎臓、腸及び骨格筋の再潅流のモデルでの虚血再潅流傷害の予防において有効であった。阻害薬は、関節炎、痛風、炎症性腸疾患、MS及びアレルギー脳炎などのCNS炎症、敗血症、敗血症ショック、出血ショック、肺線維症及びブドウ膜炎などの炎症疾患において有効であった。PARP阻害薬は、糖尿病(並びに合併症)及びパーキンソン病などの変性疾患のいくつかのモデルにおいても効果を示している。PARP阻害薬は、アセトミノフェン過量投与後の肝臓毒性、ドキソルビシン及び白金系抗腫瘍薬からの心臓毒性及び腎臓毒性、並びにサルファ・マスタードに続発する皮膚損傷を改善することができる。各種の癌モデルにおいて、PARP阻害薬は、癌細胞のアポトーシスを増加させ、腫瘍増殖を制限し、転移を減少させ、腫瘍を有する動物の生存を延長させることで、放射線療法及び化学療法の効果を高めることが明らかになっている。
本発明は、2位で4級炭素によって置換された1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド類がPARP酵素に対するアフィニティを高めるという所見について説明するものである。本発明は、高いアフィニティを有し、強力なPARP阻害薬を構成する式(I)のベンズイミダゾール誘導体を説明するものである。」(1頁7行?2頁4行)
(1c)「本発明の化合物は、不斉若しくはキラル中心が存在する立体異性体として存在することができる。立体異性体は、キラル炭素原子周囲の置換基の配置に依存して(R)若しくは(S)と称される。本明細書中で用いられる(R)及び(S)という用語は、IUPAC(IUPAC 1974 Recommendations for Section E,Fundamental Stereochemistry,Pure Appl. Chem.,1976,45:13-30;参照によって本明細書に組み込まれる)において定義される配置である。本発明では様々な立体異性体及びそれらの混合物が想到され、それらは本発明の範囲に明確に含まれる。立体異性体にはエナンチオマー、ジアステレオマー並びにエナンチオマー若しくはジアステレオマーの混合物が含まれる。本発明の化合物の個々の立体異性体は、不斉中心若しくはキラル中心を含む市販の出発物質から合成的に製造することができるか、ラセミ混合物を製造し、続いて当業者にとって公知の分割を行うことにより製造できる。これらの分割方法には、(1)キラル助剤へのエナンチオマー混合物の付加、再結晶若しくはクロマトグラフィーによる得られたジアステレオマー混合物の分離、及び光学的に純粋な生成物の助剤からの遊離、又は(2)光学的エナンチオマー混合物のキラルクロマトグラフィーカラムでの直接分離が例として挙げられる。」(18頁31行?19頁14行)
(1d)「生物学的活性の測定
PARPの阻害
・・・・・・・・・・・・・・・
PARP1アッセイは、50mM Tris pH8.0、1mM DTT、4mM MgCl_(2) を含むPARPアッセイ緩衝液中で行った。PARP反応液は、1.5μMの[^(3)H]-NAD^(+)(1.6μCi/mmol)、200nMビオチン化ヒストンH1、200nM slDNA及び及び1nM PARP酵素を含むものであった。SPAビーズに基づく検出を用いる自動反応を、白色96ウェルプレートにおいて容量100μL で行った。2倍NAD^(+) 基質混合物50μL をPARP及びDNAを含む2倍酵素混合物50μL に加えることで反応を開始した。これらの反応は、1.5mMベンズアミド50μL(それのIC_(50) の約1000倍)を加えることで停止した。停止反応混合物170μL をストレプトアビジンフラッシュプレートに移し入れ、1時間インキュベートし、トップカウントマイクロプレートシンチレーションカウンタを用いてカウンティングした。各種基質濃度での阻害曲線からK_(i) データを求め、本発明の代表的化合物及び非4級化合物について表1に示した。表1のデータは、本発明の4級化合物が非4級化合物と比較してPARP酵素に対して高いアフィニティを有することを示している。・・・
表1
PARPの阻害

・・・・・・・・・・・・・・・」(19頁19行?26頁)
(1e)「ザイモサン負荷後の腹膜における炎症細胞流入及びIL-1レベルの低下パーセント
化合物を経口投与してから、ザイモサンの腹腔内注射(2mg/動物)を行った。ザイモサン注射から4時間後、腹腔を洗浄し、洗浄液について細胞流入及びIL-1レベルを測定した。表4には、本発明の代表的化合物及び非4級化合物である2-(1-プロピルピペリジン-4-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミドについての対照と比較した細胞流入及びIL-1レベルにおける低下パーセントを示してある。そのデータは、本発明の代表的化合物が炎症を軽減又は予防することを示している。
表4

*統計的有意差、p<0.05を示す。」(28頁6?末行)
(1f)「上記又は他の治療において使用する場合、治療上有効量の本発明の化合物の何れかを、両性イオンとして、又は製薬上許容される塩として用いることができる。・・・
“製薬上許容される塩”とは、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などを伴わずにヒト及び下等動物の組織と接触させて使用する上で好適であり、妥当な利益/リスク比を有する塩を意味する。製薬上許容される塩は、当業界において公知である。その塩は、本発明の化合物の最終単離及び精製中にイン・サイツで製造することができるか、別段階で本発明の化合物の遊離塩基を好適な酸と反応させることで製造することができる。代表的な酸には、酢酸、クエン酸、アスパラギン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、酪酸、フマル酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、乳酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、パモ酸、ペクチン酸、ピバリン酸、プロピオン酸、コハク酸、酒石酸、リン酸、グルタミン酸及びp-トルエンスルホン酸などがあるが、これらに限定されるものではない。」(29頁23行?30頁17行)
(1g)「実施例1
2-(2-メチルピロリジン-2-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド
実施例1A
2-メチルピロリジン-1,2-ジカルボン酸1-ベンジル2-メチル
ピロリジン-1,2-ジカルボン酸1-ベンジル2-メチル(15.0g、57mmol)及びヨウ化メチル(7.11mL、114mmol)のTHF(100mL)溶液を、-75℃で窒素下にNaN(TMS)_(2)(1.0M THF溶液、114mL、114mmol)で処理した。冷却浴の温度を、1時間以内で徐々に上昇させて-20℃とし、混合物を同じ温度でさらに3時間攪拌した。水で反応停止した後、混合物を2N HCl(約100mL)で酸性とし、水(400mL)とEtOAc(400mL)との間で分配した。有機相をブラインで洗浄し、濃縮した。残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、EtOAc/ヘキサン)によって精製して、実施例1Aを得た(15.15g、収率:96%)。MS(DCI/NH_(3))m/z278(M+H)^(+)。
実施例1B
1-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-2-メチルピロリジン-2-カルボン酸
実施例1A(15.15g、54.63mmol)のTHF(100mL)及び水(50mL)混合物中溶液をLiOH・H_(2)O(4.58g、109.26mmol)の水(50mL)溶液で処理した。透明溶液が形成されるまでメタノールを加えた(60mL)。この溶液を60℃で終夜にわたって加熱し、有機溶媒を真空下に除去した。残留水溶液を2N HClでpH2の酸性とし、酢酸エチルと水との間で分配した。有機相を水で洗浄し、脱水し(MgSO_(4))、濾過し、濃縮して、実施例1Bを白色固体として得た(13.72g、収率95.4%)。MS(DCI/NH_(3))m/z264(M+H)^(+)。
実施例1C
2-({[2-アミノ-3-(アミノカルボニル)フェニル]アミノ}カルボニル)-2-メチルピロリジン-1-カルボン酸ベンジル
実施例1B(13.7g、52mmol)のピリジン(60mL)及びDMF(60mL)混合物中溶液を、45℃にて2時間にわたって1,1′-カルボニルジイミダゾール(9.27g、57.2mmol)で処理した。既報の特許出願WO0026192に記載の方法に従って合成した2,3-ジアミノ-ベンズアミド・2塩酸塩(11.66g、52mmol)を加え、混合物を室温で終夜攪拌した。真空下に濃縮後、残留物を酢酸エチルと希重炭酸ナトリウム水溶液との間で分配した。やや黄色の固体を濾過によって回収し、水及び酢酸エチルで洗浄し、乾燥して、実施例1Cを得た(16.26g)。水相を酢酸エチルで抽出し、次に濃縮、濾過及び水-EtOAc洗浄を行って、実施例1Cの追加の1.03gを得た。合わせた収率:84%。MS(APCI)m/z397(M+H)^(+)。
実施例1D
2-[4-(アミノカルボニル)-1H-ベンズイミダゾール-2-イル]-2-メチルピロリジン-1-カルボン酸ベンジル
実施例1C(17.28g、43.6mmol)の酢酸(180mL)懸濁液を、還流下に2時間加熱した。冷却後、溶液を濃縮し、残留油状物を酢酸エチルと重炭酸ナトリウム水溶液との間で分配した。有機相を水で洗浄し、濃縮した。残留物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、3%から15%CH_(3)OH/2:1EtOAc/ヘキサン)によって精製して実施例1Dを得た(16.42g、収率:99%)。
MS(APCI)m/z379(M+H)^(+)。
実施例1E
2-(2-メチルピロリジン-2-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド
実施例1D(15.0g、40mmol)のメタノール(250mL)溶液を、約0.41MPa(60psi)の水素下に終夜にわたって10%Pd/C(2.8g)で処理した。固体を濾去し、濾過し、濾液を濃縮した。残留固体をメタノール中で再結晶して、実施例1E7.768gを遊離塩基として得た。温メタノールに遊離塩基を溶かし、2当量のHCl/エーテルで処理することでビスHCl塩を製造した(10.09g)。MS(APCI)m/z245(M+H)^(+);^(1)H NMR(500MHz、D_(2)O):δ1.92(s、3H)、2.00?2.09(m、1H)、2.21?2.29(m、1H)、2.35?2.41(m、1H)、2.52?2.57(m、1H)、3.54?3.65(m、2H)、7.31(t、J=7.93Hz、1H)、7.68(dd、J=8.24、0.92Hz、1H)、7.72(dd、J=7.63、0.92Hz、1H);元素分析;C_(13)H_(16)N_(4)O_(2)・HClの計算値:C、49.22;H、5.72;N、17.66。実測値:C、49.30;H、5.60;N、17.39。
実施例3
2-[(2R)-2-メチルピロリジン-2-イル]-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド
実施例3A
(2R)-2-[4-(アミノカルボニル)-1H-ベンズイミダゾール-2-イル]-2-メチルピロリジン-1-カルボン酸ベンジル
実施例1D(1.05g、2.8mmol)をキラルHPLC(キラルセルOD、80/10/10ヘキサン/EtOH/MeOH)で分割した。先に溶出したピークを回収し、濃縮して、実施例3Aを得た(99.4%e.e.、500mg)。MS(APCI)m/z379(M+H)^(+)。
実施例3B
2-[(2R)-2-メチルピロリジン-2-イル]-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド
実施例3A(500mg、1.32mmol)のメタノール(10mL)溶液を、水素下に終夜にわたって(風船)10%Pd/C(150mg)で処理した。固体を濾去し、濾液を濃縮した。残留固体をHPLC(ゾルバックス(Zorbax)C-18、CH_(3)CN/H_(2)O/0.1%TFA)によってさらに精製し、ビスHCl塩に変換することで、実施例4を白色固体として得た(254mg)。遊離塩基を1当量のL-酒石酸とメタノール中で共結晶化させることで、X線試験に好適な単結晶を得た。L-酒石酸でのX線構造は、R配置と割り付けられた。MS(APCI)m/z245(M+H)^(+);^(1)H NMR(500MHz、D_(2)O):δ2.00(s、3H)、2.10?2.19(m、1H)、2.30?2.39(m、1H)、2.45?2.51(m、1H)、2.61?2.66(m、1H)、3.64?3.73(m、2H)、7.40(t、J=7.95Hz、1H)、7.77(d、J=8.11Hz、1H)、7.80(d、J=7.49Hz、1H);元素分析;C_(13)H_(16)N_(4)O・2HClの計算値:C、49.22;H、5.72;N、17.66。実測値:C、49.10;H、5.52;N、17.61。
実施例4(A-861696)
2-[(2S)-2-メチルピロリジン-2-イル]-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド
実施例1Dのキラル分離とそれに続く水素化によって、実施例3と同様にして実施例4を製造した。MS(APCI)m/z245(M+H)^(+);^(1)H NMR(500MHz、D_(2)O):δ1.99(s、3H)、2.09?2.19(m、1H)、2.30?2.38(m、1H)、2.44?2.50(m、1H)、2.61?2.66(m、1H)、3.63?3.73(m、2H)、7.40(t、J=7.95Hz、1H)、7.77(dd、J=8.11、0.94Hz、1H)、7.81(dd、J=7.80、0.94Hz、1H);元素分析;C_(13)H_(16)N_(4)O_(2)・HClの計算値:C、49.22;H、5.72;N、17.66。実測値:C、49.27;H、5.60;N、17.61。」(32頁9行?35頁6行)

イ 刊行物2
(2a)「1.2.3 化学構造と溶解性
・・・・・・・・・・・・・・・
ix.結晶多形では準安定形(低融点)のものの方が安定形(高融点)のものより溶けやすい(例.インドメタシン).^(*)
x.同種薬品で無晶性のものは結晶より溶けやすい(例.novobiocin)^(**).」26頁10?27行
(2b)「多形polymorphism:同一化合物が異なる結晶構造,結晶形をもつ現象を多形という.多形の結晶はX線回折像,融点,屈折率,溶解度などが異なる.多くの化合物は多形で,医薬品でも,アスピリン,インドメタシン,カカオ脂,グリセリド,脂肪酸,スルホンアミド類,セファロリジン,バルビタール酸,chloramphenicol palmitate,ステロイドホルモン(プレドニゾロン,エストロンなど),リボフラビンなど多くのものについて結晶多形が報告されている.^(3)) プロゲステロンには5種の結晶形が知られている.
結晶多形によって溶解度が異なる事実は製剤学的に重要で,多くの場合,結晶の溶解度(または溶解速度)は消化管吸収を律速するが,溶解度の大きい方が吸収が速い.多形のうち安定性の低い結晶(準安定形meta-stable form)の方が安定形stable formより融点が低く,溶解度も大きい.Ostwaldによれば,溶液から結晶が析出するさいには,準安定形の方がさきに結晶化する(逐次転移の法則law of successive transformation).結晶形の移行は,再結溶媒,結晶化の速さ(冷却温度)および保存の温度条件,粉砕などによって起きる.たとえばアスピリンを95%エタノールから再結したものと,n-ヘキサンから再結したものは結晶形が異なるが,後者の方がはるかに速やかに水に溶解する.」(111頁3から18行)
(2c)「c)結晶形crystal form
すでに述べたように,多くの薬物は結晶多形^(*) を示し,多形のうち準安定形の方が安定形より溶解度が大きい.
Chloramphenicol palmitateの結晶には少なくともA,B2種の多形があり,B型の方が易溶性である.懸濁液を経口投与するとき,B型のC_(max) はA型の7倍であることが報告されている.^(5)) また,インドメタシンには3種の結晶多形があるが,このうちα,γ両型が実用される.坐剤にした場合,α型の溶出性はγ型の約2倍とすぐれており・・・血中濃度もα型の坐剤の方が高い・・・.
・・・・・・・・・・・・・・・
結晶多形のうち,溶解度の大きい準安定形は安定形より熱力学的に不安定で,時間がたつにつれて前者は後者に転移する.したがって準安定形の薬物を用いて製剤をつくる場合は,そのバイオアベイラビリティが保存中に低下することに留意する必要がある.
薬物の無晶形のものは溶解時に結晶の格子エネルギーに打ち勝つ必要がないので,結晶性のものに比べて溶解しやすい.インスリン-亜鉛錯体には結晶性のものと無晶性のものがあるが,後者の方が吸収が速やかである・・・.」(256頁下から3行?257頁下から8行)

ウ 刊行物3
(3a)「IV.メソモルフィック結晶(mesomorphic crystalline)^(〔訳註5〕) の取扱い□
ある種の物質は結晶となるときに複数の結晶状態をとりうることが知られている.その結晶状態に決定する要因には,結晶化溶媒の物性,結晶化するときの温度,不純物の有無などがある.このような性質を結晶多形または単に多形(polymorphism)という.可能な結晶状態のなかには準安定な結晶がある.準安定状態(metastable state)の結晶はより安定な状態に変化して異なる物理化学性質を示すことになる.この変化は2つのタイプに分けられる.可逆的転移である互変(enantiotropy)と不可逆的転移の単変(monotropy)である.前者は文字どおり多形のそれぞれの状態が相互変換可能な場合である.後者は,熱力学的に不安定な状態からより安定な状態へ変化する現象であり,一般的にはこの種の転移が多い.ある薬物が異なる結晶形を示すときに,それぞれの結晶形を識別する方法には,融点測定,溶解度測定,示差走査熱量測定,熱重量分析,赤外分光,X線回折,走査電子顕微鏡による形態観察などがある.
一般論として,準安定状態の物質には安定状態に比べてその溶解度および溶解速度が大きいという特徴がある.極端な場合,両状態の溶解度の差が4倍以上にもなることがあるが^(21,22),通常よく観察されるのは溶解度が50?100%程度上昇する現象である^(23).一例としてここではリボフラビン(riboflavin)を挙げる.この薬物には3種の多形があり,その溶解度はそれぞれ60mg/L,810mg/L,1200mg/Lと大きな開きがみられる^(24).また,準安定状態の結晶を溶媒と接触できるようにしておくと,この結晶は最も安定な状態に徐々に変化し,これに伴って溶解度が低下することがある.たとえば,ノボビオシン(novobiocin)は酸性のアモルファス固体(無定形または非晶質固体)であるが,溶解度の非常に低い結晶に変化しやすい^(25).このためにノボビオシンを懸濁液として投与することは困難である.薬物を噴霧乾燥(spray drying)によって溶解度の高いアモルファス固体とすることがある.この場合,純粋な薬物を噴霧しても良いが,実際には均質な分散薬物を得るために添加剤を加えることが多い^(26).
ある結晶状態が他の状態に変化する現象すなわち転移は,工業的な製造プロセスにおいても起こりうる.たとえば,クロロキン二リン酸(chloroquine diphosphate)の一水和物の結晶を高温で保存しておくと無水物となることがある.この脱水反応は薬物を粉砕する際にも起こりやすい.さらにクロロキン二リン酸無水物を湿度の高い状態で保存していると他の水和物に転移することもある.また,薬物の原末を圧縮する際にも結晶形の変化が起こりうる^(27).クロラムフェニコール(chloramphenicol)のステアリン酸塩の場合は,A結晶(form A)をコロイドシリカ(coloidal silica)の存在下で粉砕するとB結晶(form B)に変化することが知られている^(28).以上の事例から明らかなことではあるが,固体の薬物を製造する場合は,プロセスを標準化するのと同時に,品質管理の一環として固体薬物の結晶状態に関するより精密な検査を行うことが特に重要であることをここで強調しておきたい.」(452頁下から12行?453頁20行)

エ 刊行物4
(4a)「4.3.3 晶析
a.晶析とその役割
晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe_(2)O_(3))などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている.
1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている.
b.結晶特性
おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性(注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.
(i) 晶癖 ・・・
(ii) 粒径・粒径分布 ・・・
(iii) 純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる.
(iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Ostwald's step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある.
c.晶析操作
晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.・・・」(178頁左欄5行?右欄下から7行)

オ 刊行物5
(5a)「再結晶 [英 recrystallization・・・][1]結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう.そのためには,温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却するとか,溶媒を蒸発させて濃縮するとか,溶媒に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させるなどの方法が取られる.共存する不純物は多くの場合溶液中に残るので,精製の方法としてよく使われる.」(504頁右欄43?51行)

カ 刊行物6
(6a)「有機溶剤
・・・・・・・・・・・・・・・
メタノール(bp64.7°,水と混和する)
溶剤としての性質からいうと,メタノールは水とエタノールとの,ほぼ中間にあり,価も安く沸点もエタノールよりも低いので,用途はエタノール以上に広いといっても過言ではない.・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
エタノール(bp78.4°,水と混和する)
・・・・・・・・・・・・・・・
エタノールは,水と随意の比例で混和する点で,その溶剤としての価値は著しく高い.このエタノールの性質は,特に再結晶の際の溶剤として使うのに便利である.・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
プロパノール(bp97°,水と混和する),
イソプロパノール(bp82°,水と混和する)
プロパノール,イソプロパノールの溶剤としての性質は,エタノールと,ほとんど同じくらいに良い.その上,沸点が高いので,エタノールの代わりにこれを使うと,還流冷却器なしで加温できる場合もある.
エタノールに溶けるものは,プロパノール,イソプロパノールにも溶けるのが普通である.」(55頁17行?59頁31行)
(6b)「分別結晶(分別晶出)
2種あるいは,それ以上の物質の混合物を,分離精製するには,再結晶^(*)(Recrystallization・・・)なる仕方による.各物質の溶剤への,溶解度(Solubility・・・)は違っているので,その溶剤を適当に使った場合に,一方の物質は析出し,他方の物質は母液中に残る性質を利用するのである.
また2物質の,同一溶剤中から晶出する速度が,著しく異っているときにも,分別結晶の仕方によって,両物質を分離できる.」(526頁16?22行)
(6c)「飽和溶液を冷やして結晶させる仕方
この仕方は再結晶の一般的な仕方であって,普通に“再結晶を行なう”というときには,この仕方か,あるいはつぎに述べる仕方による.
再結晶を行なうには,溶質を加えた溶剤を沸点まで熱して,その中に溶質を溶けるだけ溶かし,熱時にこし分け,ろ液を冷やして結晶を析出させる.
溶剤の選び方 ・・・予試験を各種の溶剤について行ない,冷熱両時の溶解度の差の最大なものを採用する.しかし・・・結晶を母液からこし分けることが困難なものや,結晶の析出速度があまりに速いものは,操作が面倒であるから・・・他のものを選ぶ方がよい.・・・
物質の溶かし方 ・・・一般に溶剤は過量に使わないようにする.・・・
さて透明なろ液を得てから,冷やして結晶を析出させるのであるが,その冷やし方は,大きな結晶を作ろうとするのと,小さな結晶を作ろうとするのとで違ってくる・・・・大きな結晶を作る場合には・・・極ゆるゆると冷やす.また小さな結晶を作る場合には・・・急に冷やす.いずれの場合でも,液がある温度まで下がっても,すぐにその条件で析出し得る結晶が全部析出するものではないから,しばらくそのまま放置して,待たなければならない.このようにして常温で出た結晶をこし分ける.さらにその「ろ液」を冷やすと,なお多量の結晶を得る場合がある.」(527頁26行?529頁17行)
(6d)「溶液を濃縮して結晶させる仕方
物質の溶液を蒸発濃縮して,結晶を析出させることは,物質を精製する点からいえば,“飽和溶液を冷やして結晶させる仕方”(p.527)よりも好ましくはないが,溶液を冷やしただけでは,結晶の出る量が少ないから,通常は適当に濃縮して結晶を出す場合が多い.濃縮結晶を行なう場合は,
○1(注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同じ。) 溶剤を使いすぎたとき 誤って溶剤を多量に使いすぎたときは,無論のことであるが,物質が飽和溶液になる量の溶剤で溶かすことは,操作に時間がかかるから,物質を溶かしやすい程度に溶剤を幾分過量に加え,つぎに適当に濃縮して,結晶を出すことはよく行なっている.
○2 物質を熱して溶かすことができないとき 物質が熱のために,分解しやすくて,熱することができない場合には,まず物質を常温で溶剤に飽和させ,ろ過してから減圧,低温で溶剤の一部を留去する.
○3 冷熱両時の物質の溶解度に大差がないとき ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
第1回の結晶をこし分けた母液をそのまま放置するか,または適度の濃さまで蒸発または蒸留濃縮すると,第2回の結晶を得るが,実際には冷やして析出させる仕方と,濃縮して析出させる仕方とを,あわせて行なう場合が多い.」(531頁17行?532頁下から5行)
(6e)「溶液に他の液体を加えて結晶させる仕方
溶液を冷やすか,溶剤を蒸散または留去して,過飽和の状態に導く仕方以外に,溶液に他の液体を混ぜて,溶質の溶解度を減じ,結晶を析出させる仕方もある.
これに使う溶剤のおもな組合わせは,つぎの通りである.
・・・・・・・・・・・・・・・
この仕方のうち,最も多く使われるものは,水とエタノールとである.この二つは互に随意の比に混じるから,一方に溶けて他方に溶けない性質の物質は,この二つの溶剤を適当に使い分ければ,よく結晶する.」(533頁15?26行)

キ 刊行物7
(7a)「a.再結晶
物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる.
(i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のR_(f) 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない.
(ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい^(1)).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大)
さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値E_(T);ε,δ,E_(T) は数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある.
(iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい.
(iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない.
(v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの危機分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行?186頁末行)
(7b)「

」(186頁)

ク 刊行物8
(8a)「医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い.
結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.たとえば,結晶構造の異なる多形や晶癖の異なる結晶の溶解速度は一般的に異なるため,医薬品の生物学的有効性に相違が生じる.こうした相違は,散剤,錠剤,顆粒剤,カプセル剤などといった固体状態の医薬品を経口投与する場合においてとくに顕著に表れる.医薬品の作用部位への到達濃度を決定する要因の一つに投与部位からの吸収の効果があり,経口投与される医薬品では製剤から放出される主薬の溶解性が消化管での吸収に大きく影響するからである.
結晶多形の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や湿度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.しかし,一方で準安定形の溶解性が安定形と比較して優位に優れる場合があることから,あえて準安定形を開発の基本形として選択し,生物学的有効性に優れた製剤を設計することもある.
結晶中に溶媒が取り込まれた溶媒和物の結晶は,厳密な意味での結晶多形と区別するため疑似結晶多形と称される.・・・
医薬品は人体に直接作用するものである.疾病の治療や予防に有効であることはもとより,期待通りの薬効が発揮されるように一定の品質をもち,安全性が確保されることが強く要求されている.医薬品の結晶化は通常、溶液の冷却,溶媒の蒸散,低溶解性の溶媒の添加,塩の形成などの方法と,種結晶をかくはん下添加する方法などをさまざまに組み合わせることによって達成される.これらの結晶化条件にかかわる溶媒の特性,過飽和度,温度などのさまざまな因子が,結晶の特性を決定する.したがって,晶析条件と析出する結晶のさまざまな特性の相関を明確にし^(1,2)),医薬品の品質を保証することが重要である^(3)).本書では,そのような医薬品の品質設計の観点から結晶化を概説する.」(109頁3行?110頁23行)
(8b)「6.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相間はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある^(4,5)).
表6.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide[図6.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである^(4)).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせることにより温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.その結果,従来はI形とII形の2種の多形についてだけ報告されていたが,新たに多形1種(III形)と,N,N-ジメチルホルムアミドおよび1,4-ジオキサンを含有した2種の溶媒和物(IV形およびV形)が見いだされた.表6.1(1)の加温溶解し徐冷する方法においてはメタノールやエタノールのような低沸点の溶媒からI形が,ブタノールなどのより高沸点の溶媒からII形が析出する傾向がみられた.(3)の有機溶媒に加温溶解し水を添加する方法でも,また(4)のN,N-ジメチルホルムアミドに加温溶解し他の溶媒を添加する方法においても,同様の傾向がみられた.」(110頁25行?111頁16行)
(8c)「

」(111?112頁表6.1)
(8d)「

」(113頁図6.1)

3 刊行物に記載された発明

ア 刊行物1には、その特許請求の範囲の請求項1に、式(I)

の化合物(審決注:置換基の説明は省略する。)又はその治療上許容される塩の発明が記載されている(摘示(1a))。これは、塩基性の窒素を有する化合物である。摘示(1b)及び(1f)によれば、この化合物とその塩は、何れもポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬の候補である。

イ 刊行物1の請求項11には、
2-(2-メチルピロリジン-2-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド、
2-[(2R)-2-メチルピロリジン-2-イル]-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド、
2-[(2S)-2-メチルピロリジン-2-イル]-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド
が挙げられており(摘示(1a))、これらの化合物は、請求項2、5、6(摘示(1a))を参酌すると、請求項1に記載の化合物に該当している。これらの化合物は、原子の連結順序と結合の種類が等しいが原子の空間的な配列は異なる立体異性体の関係にあり、順に、ピロリジンの2位のキラル中心の配置が特定されていないもの、R配置であるもの、S配置であるものである。

ウ 上記イの化合物の合成については、実施例1、3、4に、まず遊離塩基として製造及び精製し、次いで塩酸塩を製造したことが記載されている(摘示(1g))。
具体的には、実施例1A?1Dにより、ピロリジン-1,2-ジカルボン酸1-ベンジル2-メチルから出発して2-[4-(アミノカルボニル)-1H-ベンズイミダゾール-2-イル]-2-メチルピロリジン-1-カルボン酸ベンジル(審決注:ピロリジンの1位がベンジルオキシカルボニル基で置換されている中間体である。目的化合物では、ピロリジンの1位が水素になる。)を製造し、実施例1Eでは、これを水素処理してベンジルオキシカルボニル基を脱離させ、固体を得て、メタノール中で再結晶して、精製した遊離塩基を得、これを塩酸塩に変換している。
実施例3では、上記実施例1Dの2-[4-(アミノカルボニル)-1H-ベンズイミダゾール-2-イル]-2-メチルピロリジン-1-カルボン酸ベンジルを、キラルHPLC(摘示(1c)も参照)に付して、ピロリジンの2位がR配置であるものを取得し、これを水素処理して遊離塩基の固体を得、HPLCで精製し、次に塩酸塩に変換している。なお、X線試験用に酒石酸塩も得ている。
実施例4では、同様に、S配置の遊離塩基、次いで塩酸塩を得ている。

エ 上記イの化合物の薬理活性については、PARP酵素に対するアフィニティが試験され、結果が表1に示されている(摘示(1d))。上記イの3つの化合物は、順に、表1の1番目、3番目、5番目に記載され、PARP阻害のK_(i) 値が、順に4.3nM、5.4nM、5.1nMであり、比較例として示された2番目(ピロリジン2位のメチル基の代わりに水素でありR配置のもの)と4番目(ピロリジン2位のメチル基の代わりに水素でありS配置のもの)のPARP阻害のK_(i) 値が8nM、28.4nMであるのと比べて、優れていることが示されている。

オ 上記ア?エによれば、上記イの化合物は、実施例では最終的に塩酸塩として製造しているものの、式(I)の化合物は遊離塩基と治療上許容される塩の何れもがPARP酵素阻害薬の候補として想定されていること、実施例では遊離塩基の固体を経由して塩酸塩としていることから遊離塩基を取得できることが明らかであること、薬理活性は遊離塩基として表に表示されていること(審決注:仮に塩酸塩で測定したものであるとした場合でも、遊離塩基も相応の活性を示すことは明らかである。)からすれば、刊行物1には、上記イの化合物が、遊離塩基として実質的に製造でき有用性があるものとして、記載されているといえる。
したがって、刊行物1には、その請求項11に係る発明としての
「2-(2-メチルピロリジン-2-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド」
の発明、
「2-[(2R)-2-メチルピロリジン-2-イル]-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド」
の発明(以下「引用発明」といい、その化合物を「引用化合物」という。)及び
「2-[(2S)-2-メチルピロリジン-2-イル]-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド」
の発明が記載されているということができる。

4 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用化合物は、本願発明の「2-((R)-2-メチルピロリジン-2-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド」と、ピロリジンの2位のキラル中心の配置も含め、同じ化学構造の化合物であり(以下、この化合物を「化合物A」という。)、また、固体として取得できるものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「化合物Aの固体」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明においては、化合物Aが、特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンを有する化合物Aの1型結晶であると特定されているのに対し、引用発明においてそのように特定されていない点

5 相違点についての検討
化合物Aを特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンを有する1型結晶とすることについて検討する。
この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討することは、文献を示すまでもなく、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。結晶化の条件により得られる結晶が異なることがあることも、よく知られている(摘示(2a)?(2c)、(3a))。
そうすると、化合物Aについても、当業者が結晶が得られる条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。
そして、本願明細書には、本願発明の化合物Aの1型結晶を製造するための方法については、「2-((R)-2-メチルピロリジン-2-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド」を「化合物A」と置き換えて表示すると、
段落【0010】に「化合物Aを製造する段階;化合物Aおよび溶媒を含む混合物を提供する段階であって、前記化合物Aが前記溶媒に完全に溶解している段階;化合物A結晶型1を、化合物A結晶型1が、単離され・・・存在するようにする段階;ならびに前記化合物A結晶型1を単離する段階を有する化合物A結晶型1の製造方法」と記載され、
同様に段落【0012】に「化合物Aを製造する段階; 約82℃で化合物Aおよび2-プロパノールを含む混合物を提供する段階であって、前記化合物Aが前記2-プロパノールに完全に溶解している段階;化合物A結晶型1を、それの温度を下げることで前記化合物A結晶型1が、単離し・・・存在するようにする段階;ならびに前記化合物A結晶型1を単離する段階を有する化合物A結晶型1の製造方法」、
同様に段落【0014】に「化合物Aの酸もしくは二酸塩および塩基を反応させる段階ならびに化合物A結晶型1への結晶化もしくは再結晶を含む化合物A結晶型1の製造方法で、本発明のさらに別の実施形態は、脱プロトン化反応からの1以上の溶媒と混合された固体、半固体、ロウ状物または油状物形態の化合物Aから化合物A結晶型1を結晶化もしくは再結晶する段階を有する」、
同様に段落【0016】に「化合物Aの二塩酸塩および重炭酸ナトリウムを水およびn-ブタノール中で反応させる段階ならびにそれに続いて化合物A結晶型1を2-プロパノールから結晶化させる段階を有する化合物A結晶型1の製造方法で、本発明のさらに別の実施形態は、水またはn-ブタノールと混合された固体、半固体、ロウ状物または油状物形態の化合物Aから化合物A結晶型1を結晶化させる段階を有する」、
と、それぞれ記載されている。段落【0089】の実施例1には、「ABT-888の結晶型1の製造」(審決注:ABT-888は化合物Aである。上記第2参照)と題して、
「ABT-888・2塩酸塩が完全に溶解するまで、ABT-888・2塩酸塩(10g)の混合物を飽和重炭酸カリウム(50mL)およびn-ブタノール(50mL)中で撹拌した。水層を第2のn-ブタノールで抽出し、廃棄した。抽出液を合わせ、15%塩化ナトリウム溶液(50mL)で洗浄し、濃縮した。濃縮物をヘプタン(50mL)で3回追い出し蒸留し、環流2-プロパノール(45mL)に溶かし、熱濾過した。濾液を、撹拌しながら18時間かけて冷却して室温とし、冷却して0から5℃とし、1時間撹拌し、濾過した。濾過物を2-プロパノールで洗浄し、軽い窒素パージを行いながら45から50℃の真空乾燥機で乾燥させた。」
と記載されている。
上記実施例1及び段落【0014】及び【0016】の製造方法は、化合物Aの塩酸塩から出発しているために、化合物Aを遊離塩基として得るために塩基で処理する操作を含んでいる。しかし、化合物Aの遊離塩基から出発すれば、実施例1の後段の「環流2-プロパノール(45mL)に溶かし、熱濾過した。濾液を、撹拌しながら18時間かけて冷却して室温とし、冷却して0から5℃とし、1時間撹拌し、濾過した。濾過物を2-プロパノールで洗浄し、軽い窒素パージを行いながら45から50℃の真空乾燥機で乾燥させた」の操作で十分なことは、明らかである。又は段落【0010】の「化合物Aを製造する段階;化合物Aおよび溶媒を含む混合物を提供する段階であって、前記化合物Aが前記溶媒に完全に溶解している段階;化合物A結晶型1を、化合物A結晶型1が、単離され・・・存在するようにする段階;ならびに前記化合物A結晶型1を単離する段階」という操作又は段落【0012】の「約82℃で化合物Aおよび2-プロパノールを含む混合物を提供する段階であって、前記化合物Aが前記2-プロパノールに完全に溶解している段階;化合物A結晶型1を、それの温度を下げることで前記化合物A結晶型1が、単離し、・・・を特徴とする混合物で存在するようにする段階;ならびに前記化合物A結晶型1を単離する段階」という操作で十分なことは、明らかである。
このような操作は、ごく一般的な、溶液の冷却による結晶化であって(摘示(4a)(5a)(6c)(7a)(8a)(8b))、溶媒の選択にしても、2-プロパノール(審決注:イソプロピルアルコール、イソプロパノールともいう。)のような、ありふれた、医薬化合物の結晶化に際して当業者が通常選択する溶媒が用いられるものであると認められる(摘示(6b)(7b)(8c))。
してみると、本願発明の化合物Aの1型結晶は、引用発明において、当業者が、通常行う再結晶の操作により得られるものであると認められる。
そして、相違点に係る、特定の2θピークの組を含むX線粉末回折パターンを有する結晶である点は、当業者が、結晶性が期待される医薬化合物の分析において通常用いるX線回折を行った場合に得られる結果を、提示しただけのことに過ぎない。
以上によれば、引用発明において、化合物Aの結晶を得ることを試み、その際に結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

6 効果について
本願発明の効果は、本願明細書の段落【0003】に「ABT-888の結晶性は、物理特性および機械的特性の中で特に、それの安定性、溶解度、溶解速度、硬さ、圧縮率および融点に影響を与え得る。ABT-888の製造および製剤の容易さは、これら特性の一部(全てではなくとも)によって決まることから、ABT-888の結晶型の確認ならびにそれを再現性良く製造する方法が、化学分野および治療法分野において現在も必要とされている」と記載され、段落【0027】に「25℃で最も熱力学的に安定なABT-888の結晶型」と記載されていることからみて、25℃で最も熱力学的に安定な結晶型としての、化合物Aの1型結晶を提供できたことであると認められる。
しかし、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成を備えた、化合物Aの1型結晶とすることは、当業者が容易に想到し得ることは、上記5で述べたとおりであり、その結晶は熱力学的に安定な結晶であるという特徴を当然に備えていると解されるから、上記の本願発明の効果は、格別のものであるとすることはできない。

7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-18 
結審通知日 2015-09-29 
審決日 2015-10-15 
出願番号 特願2010-529063(P2010-529063)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 保瀬下 浩一  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 辰己 雅夫
中田 とし子
発明の名称 2-((R)-2-メチルピロリジン-2-イル)-1H-ベンズイミダゾール-4-カルボキサミド結晶型1  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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