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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1311446
審判番号 不服2015-3262  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-20 
確定日 2016-02-24 
事件の表示 特願2013- 4092「通信ネットワークにおける変調された信号のスペクトルの管理」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月23日出願公開、特開2013-102502〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2006年7月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005年7月27日 米国,2005年8月2日 米国,2006年7月26 米国)を国際出願日とする特願2008-524255号の一部を平成25年1月11日に新たな特許出願として出願したものであって,平成25年12月27日付け拒絶理由通知に対して平成26年5月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが同年10月17日付けで拒絶査定がなされ,これに対して平成27年2月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書により補正がなされたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年2月20日に提出された手続補正書による手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本願発明と補正後の発明
本件補正は,平成26年5月2日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「複数のチャネルからなる一組のチャネルを用いて通信媒体を通じて情報を送信するべく通信局が動作する通信局の動作方法であって,前記複数のチャネルの各チャネルはそれぞれのキャリア周波数を有し,前記方法は,
前記キャリア周波数を通じた送信について,該送信を減少させる1つ以上のキャリア周波数からなるキャリア周波数の組を決定する工程と,
情報ビットを符号化し,符号化されたビットを得る工程であって,該符号化されたビットはデータビットとパリティビットとを含み,該符号化されたビットは冗長性を有する情報ビットを表す前記工程と,
前記符号化されたビットをインタリーブ化してインタリーブ化されたビットを得る工程と,
インタリーブ化されたビットからなるブロックを対応するキャリア周波数にマッピングする工程と,
前記キャリア周波数の組における1つ以上のキャリア周波数を減少させる工程であって,該減少は,1つ以上のキャリア周波数をその振幅が所定の振幅未満となるように変化させることを含む,前記工程と,
前記インタリーブ化されたビットを前記対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調する工程であって,前記キャリア周波数の組における1つ以上のキャリア周波数の振幅が減少されている,前記工程と,
通信媒体を通じて離散時間シンボル波形を送信する工程と,を備える方法。」
という発明(以下,「本願発明」という。)を,補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「複数のチャネルからなる一組のチャネルを用いて通信媒体を通じて情報を送信するべく通信局が動作する通信局の動作方法であって,前記複数のチャネルの各チャネルはそれぞれのキャリア周波数を有し,前記方法は,
前記キャリア周波数を通じた送信について,該送信を減少させる1つ以上のキャリア周波数からなるキャリア周波数の組を決定する工程と,
誤り訂正符号によって情報ビットを符号化し,符号化されたビットを得る工程であって,該符号化されたビットはデータビットとパリティビットとを含み,該符号化されたビットは冗長性を有する情報ビットを表す前記工程と,
前記符号化されたビットをインタリーブ化してインタリーブ化されたビットを得る工程と,
インタリーブ化されたビットからなるブロックを対応する複素数の組にマッピングする工程であって,前記複素数の組の各々は前記キャリア周波数の各々について1つの複素数を含む前記工程と,
前記キャリア周波数の組における1つ以上のキャリア周波数に対応する前記複素数の組における1つ以上の複素数を減少させることによって前記複素数の組の各々を変調する工程であって,該減少は,前記1つ以上のキャリア周波数に対応する前記1つ以上の複素数をその振幅が所定の振幅未満となるように変化させることを含む,前記工程と,
複数の時間領域サンプルからなる時間領域サンプルのシーケンスを取得するために,変調された複素数の組の各々について逆フーリエ変換を実行する工程と,
前記インタリーブ化されたビットを前記対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調する工程であって,前記キャリア周波数の組における1つ以上のキャリア周波数の振幅が減少されている,前記工程と,
前記時間領域サンプルのシーケンスに基づき通信媒体を通じて時間領域信号を送信する工程と,を備える方法。」
という発明(以下,「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2 新規事項の有無,補正の目的要件について
本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲若しくは図面に記載した事項の範囲内において,補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する以下の(1)?(6)の補正を含む。
(1)補正前の「情報ビットを符号化」することが,「誤り訂正符号によって」である点を付加して限定する補正。
(2)補正前の「マッピングする工程」が,「複素数の組に」マッピングする工程であって,「前記複素数の組の各々は前記キャリア周波数の各々について1つの複素数を含む」点を付加して限定する補正。
(3)補正前の「キャリア周波数を減少させる工程」を,「キャリア周波数に対応する前記複素数の組における1つ以上の複素数を減少させることによって前記複素数の組の各々を変調する工程」と限定する補正。
(4)上記(3)の工程において,補正前の,その振幅が所定の振幅未満となるように変化させる「キャリア周波数」を,「キャリア周波数に対応する前記1つ以上の複素数」と限定する補正。
(5)補正前の「離散時間シンボル波形として変調する工程」が,「複数の時間領域サンプルからなる時間領域サンプルのシーケンスを取得するために,変調された複素数の組の各々について逆フーリエ変換を実行する工程」でもある点を付加して限定する補正。
(6)補正前の「通信媒体を通じて離散時間シンボル波形を送信する工程」を「前記時間領域サンプルのシーケンスに基づき通信媒体を通じて時間領域信号を送信する工程」と限定する補正。
上記(1)?(6)の補正は,いずれも特許請求の範囲を限定的に減縮するものであって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

3 独立特許要件について
上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1 本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-129249号公報(以下,「引用例」という。)には,「無線送信装置,無線受信装置,および送信キャンセルサブキャリアの選択方法」(発明の名称)に関し,特に,(実施の形態1)に係る無線送信装置について,以下の事項が図面とともに記載されている。

ア 「【背景技術】
【0002】
近年,無線通信,特に移動体通信では,音声以外に画像やデータなどの様々な情報が伝送の対象になっている。今後は,多様なコンテンツの伝送に対する需要がますます高くなることが予想されるため,高信頼かつ高速な伝送に対する必要性がさらに高まるであろうと予想される。しかしながら,移動体通信において高速伝送を行う場合,マルチパスによる遅延波の影響が無視できなくなり,周波数選択性フェージングにより伝送特性が劣化する。」

イ 「【0011】
(実施の形態1)
図1は,本発明の実施の形態1に係る無線送信装置の構成を示すブロック図である。図1に示す無線送信装置は,符号化部12,パラレル/シリアル変換(P/S)部14,変調部16,シリアル/パラレル変換(S/P)部18,選択部20,キャンセルテーブル22,キャンセル部24,逆高速フーリエ変換(IFFT)部26,パラレル/シリアル変換(P/S)部28,ガードインターバル(GI)部30,送信RF部32を有し,マルチキャリア信号であるOFDMシンボルを構成する複数のサブキャリアのうち一部のサブキャリアを除いたOFDMシンボルを送信するものである。図1に示す無線送信装置は,例えば,移動体通信システムにおいて使用される基地局装置に搭載される。
【0012】
図1に示す無線送信装置において,符号化部12は,ターボ符号等の組織符号を用いて送信データ(ビット列)を誤り訂正符号化する。符号化部12は,送信ビット列を組織符号を用いて符号化することによって,送信ビットそのものであるシステマチックビットSと,冗長ビットであるパリティビットPとを作成する。ここでは符号化率R=1/3とするため,1つの送信ビットに対して,1つのシステマチックビットSと2つのパリティビットP_(1),P_(2)とが作成される。作成されたシステマチックビットSとパリティビットP_(1),P_(2)は,3つ並列にP/S部14に入力される。
【0013】
P/S部14は,並列に入力されたビット列を直列に変換して,S,P_(1),P_(2)の順で変調部16に入力する。
【0014】
変調部16は,入力されたシステマチックビットS,およびパリティビットP_(1),P_(2)をBPSK変調してシンボルを作成する。変調部16は,入力されたビットが‘0’であれば‘1’のシンボルに変調し,‘1’であれば‘-1’のシンボルに変調する。BPSK変調なので,1シンボルは1ビットからなる。変調後のシンボルはS/P部18および選択部20に入力される。
【0015】
S/P部18は,1OFDMシンボルを構成する複数のサブキャリア数分のシンボルが直列に入力される度に,それらのシンボルを並列に変換してキャンセル部24に入力する。ここでは,1OFDMシンボルを構成するサブキャリアの数をK=15本とする。
【0016】
選択部20は,変調部16から入力されたシンボルのうちパリティビットのみからなるシンボルがマッピングされるサブキャリアを判定する。本実施の形態では変調部16はBPSK変調を行い1シンボルは1ビットで構成されるため,選択部20は,つまり,パリティビットがマッピングされるサブキャリアを判定する。OFDMシンボル毎に,1OFDMシンボル内での各サブキャリアへのマッピング位置は予め既知であるため,選択部20は,パリティビットがマッピングされるサブキャリアを容易に判定することができる。例えば,1OFDMシンボルを構成するサブキャリアの数がK=15本で符号化率R=1/3の場合,サブキャリアf_(1)にはビットS,f_(2)にはビットP_(1),f_(3)にはビットP_(2),f_(4)にはビットS,f_(5)にはビットP_(1),f_(6)にはビットP_(2),…,f_(13)にはビットS,f_(14)にはビットP_(1),f_(15)にはビットP_(2)がマッピングされることが予め既知である。K=15本でR=1/3の場合には,すべてのOFDMシンボルにおいてS,P_(1),P_(2)のマッピングの位置関係は同じになる。なお,K=15本でR=1/4等,KがRで割り切れない場合には,各OFDMシンボル毎にマッピング位置は異なるが一定の規則性はあるため,この場合でも選択部20は,パリティビットがマッピングされるサブキャリアを容易に判定することができる。また,符号化されたビットがパンクチャやインタリーブされる場合でも,パンクチャパターンやインタリーブパターンが予め既知であるため,それらのパターンに基づいて,選択部20は,パリティビットがマッピングされるサブキャリアを容易に判定することができる。
【0017】
さらに,選択部20は,パリティビットがマッピングされると判定したサブキャリアL本のうちN本(L>N)を送信除外(送信キャンセル)対象として選択し,選択したサブキャリアをキャンセル部24に指示する。この際,選択部20は,OFMDシンボルのピーク電力を小さくするために,変調部16から入力されるシンボルの値に基づいてキャンセルテーブル22を参照して送信キャンセルするサブキャリアを選択する。キャンセルテーブル22の具体的な内容および送信キャンセルするサブキャリアの具体的な選択方法については後述する。
【0018】
ここで,システマチックビットがマッピングされるサブキャリアではなく,パリティビットがマッピングされるサブキャリアの送信をキャンセルするのは,以下の理由による。すなわち,組織符号を用いて誤り訂正符号化する場合,パリティビットはシステマチックビットよりも重要度が低いビットといえる。すなわち,OFDMシンボルを受信する無線受信装置においては,システマチックビットが失われると著しく誤り率特性が劣化するが,パリティビットのうちいくつかが失われても所要の誤り率特性を維持できるからである。これは,システマチックビットが送信ビットそのものであるのに対し,システマチックビットが冗長ビットであることに起因する。
【0019】
キャンセル部24は,キャンセル部24-1?24-Kで構成される。Kは,1OFDMシンボルに含まれる複数のサブキャリアの本数(ここではK=15)に一致し,キャンセル部24-1?24-Kの各々は,サブキャリアf_(1)?f_(K)の各々に対応する。キャンセル部24-1?24-Kは各々,図2に示す構成を有し,選択部20から指示されたサブキャリアに対応するキャンセル部が,スイッチをB側に接続する。例えば,選択部20がサブキャリアf_(2)を送信キャンセル対象として選択した場合は,キャンセル部24-2がスイッチをA側からB側に切り替える。スイッチがB側に接続されることによりサブキャリアf2については振幅値‘0’の信号がIFFT部26に入力されるため,IFFT部26ではサブキャリアf_(2)を含まないサンプル値が得られる。つまり,サブキャリアf_(2)の送信がキャンセルされることになる。
【0020】
IFFT部26は,キャンセル部24-1?24-Kから入力されるシンボルまたは振幅値‘0’の信号を逆高速フーリエ変換して周波数領域から時間領域に変換した後,時間領域のサンプル値をP/S部28へ入力する。選択部20によって選択されたサブキャリアに対応するキャンセル部からは上記のように振幅値‘0’の信号が入力され,それ以外のキャンセル部からはシンボル値‘-1’または‘1’の信号が入力されるため,IFFT部26では,選択部20によって選択されたサブキャリア以外のサブキャリア(K-N本)を用いてIFFTが行われる。IFFT部26で得られたサンプル値は,並列にP/S部28に入力される。P/S部28では,IFFT処理後の並列のサンプル値を直列に変換する。これにより,選択部20によって選択されたサブキャリアを含まないOFDMシンボルが作成される。
【0021】
OFDMシンボルは,GI部30でガードインターバルを付加された後,送信RF部32でアンプコンバート等の所定の無線処理が施され,アンテナ34から無線送信される。」

上記摘記事項及びこの分野における技術常識を勘案すると,引用例の無線送信装置の送信方法に関し,次の技術事項が読み取れる。

a 無線送信装置は15本のサブキャリアを用いたOFDM送信装置であり,各サブキャリアはそれぞれのキャリア周波数f_(1)?f_(15)を有している。
b 各サブキャリアにマッピングされるシンボル値と【図6】のキャンセルテーブルとを参照して,送信をキャンセルする5つのキャリア周波数を決定している。
c 符号化部12は送信データ(ビット列)を符号化率R=1/3で誤り訂正符号化し,システマティックビットSと冗長ビットであるパリティビットP_(1),P_(2)を作成している。
d 変調部16は入力されたシステマティックビットSとパリティビットP_(1),P_(2)をBPSK変調し,入力されたビットが‘0’であれば‘1’のシンボルに変調し,‘1’であれば‘-1’のシンボルに変調する。
e S/P部18は1OFDMシンボルを構成する15のサブキャリア分のシンボルが入力されるとそれらのシンボルを並列に変換してキャンセル部24-1?24-Kに入力するが,該キャンセル部24-1?24-Kの各々はサブキャリアf_(1)?f_(k)の各々に対応するから,キャリア周波数の各々について1つのシンボルを含むといえる。
f 上記キャンセル部24は,上記bのとおり決定された,送信をキャンセルする5つのキャリア周波数について振幅値‘0’の信号を出力する。
g IFFT26部が,複数の時間領域サンプルからなる時間領域サンプルのシーケンスを取得するために,変調されたシンボルの組の各々について逆フーリエ変換を実行することは明らかである。
h 上記a?gを参酌すれば,引用例の無線送信装置の送信方法は,符号化されたビットを対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調する工程であって,キャリア周波数の組における5つのキャリア周波数の振幅が減少されている工程,を含むものと言える。
i P/S部28は,IFFT処理後の並列のサンプル値を直列に変換してOFDMシンボルを作成し,該OFDMシンボルは所定の無線処理が施され,アンテナ34から無線送信されるから,時間領域サンプルのシーケンスに基づき無線で時間領域信号を送信する工程を含むことは明らかである。

上記技術事項及びこの分野における技術常識を総合勘案すると,上記引用例には次の発明が記載されていると認める。

「15本のサブキャリアを用いて無線で情報を送信するべく無線送信装置が動作する無線送信装置の送信方法であって,前記15本のサブキャリアの各サブキャリアはそれぞれのキャリア周波数を有し,前記方法は,
前記キャリア周波数を通じた送信について,該送信をキャンセルさせる5つのキャリア周波数からなるキャリア周波数の組を決定する工程と,
送信データ(ビット列)を誤り訂正符号化し,符号化されたビットを得る工程であって,該符号化されたビットはシステマティックビットとパリティビットとを含み,該符号化されたビットは冗長性を有する情報ビットを表す前記工程と,
符号化されたビットを対応する‘1’または‘-1’からなるシンボルの組にマッピングする工程であって,前記シンボルの組の各々は前記キャリア周波数の各々について1つのシンボルを含む前記工程と,
前記キャリア周波数の組における5つのキャリア周波数に対応する前記シンボルの組における5つのシンボルを減少させることによって前記シンボルの組の各々を変調する工程であって,該減少は,前記5つのキャリア周波数に対応する前記5つのシンボルをその振幅値が0となるように変化させることを含む,前記工程と,
複数の時間領域サンプルからなる時間領域サンプルのシーケンスを取得するために,変調されたシンボルの組の各々について逆フーリエ変換を実行する工程と,
符号化されたビットを前記対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調する工程であって,前記キャリア周波数の組における5つのキャリア周波数の振幅が減少されている,前記工程と,
前記時間領域サンプルのシーケンスに基づき無線で時間領域信号を送信する工程と,を備える方法。」
(以下,「引用発明」という。)

(3)対比
補正後の発明と引用発明とを,主たる構成要件毎に順次対比する。
a 引用発明の「サブキャリア」は補正後の発明の「チャネル」に相当し,引用発明の「無線」,「無線送信装置」はそれぞれ補正後の発明の「通信媒体」,「通信局」に含まれる。
b 補正後の発明の「送信を減少させる1つ以上のキャリア周波数」に関し,「該減少は,前記1つ以上のキャリア周波数に対応する前記1つ以上の複素数をその振幅が所定の振幅未満となるように変化させることを含む」ものであり,また,「前記所定の振幅は0である,請求項1に記載の方法。」(【請求項5】)の記載も参酌すれば,補正後の発明において(キャリア周波数の)「送信を減少させる」ことは当該キャリア周波数の振幅を0とすること,すなわち,当該キャリア周波数を用いた送信をキャンセルすることを含むものである。そうすると,
引用発明の「前記キャリア周波数を通じた送信について,該送信をキャンセルさせる5つのキャリア周波数からなるキャリア周波数の組を決定する工程」は,
補正後の発明の「前記キャリア周波数を通じた送信について,該送信を減少させる1つ以上のキャリア周波数からなるキャリア周波数の組を決定する工程」に含まれる。
c 引用発明の「送信データ(ビット列)」が「情報ビット」であることは明らかであり,また,引用発明の「システマティックビット」,「パリティビット」はそれぞれ補正後の発明の「データビット」,「パリティビット」に相当する。
d 引用発明の「‘1’」や「‘-1’」などの整数が「複素数」に含まれることは技術常識であって引用発明の「‘1’または‘-1’からなるシンボルの組」は補正後の発明の「複素数の組」に含まれることを踏まえれば,
引用発明の「符号化されたビットを対応する‘1’または‘-1’からなるシンボルの組にマッピングする工程であって,前記シンボルの組の各々は前記キャリア周波数の各々について1つのシンボルを含む前記工程」と,
補正後の発明の「インタリーブ化されたビットからなるブロックを対応する複素数の組にマッピングする工程であって,前記複素数の組の各々は前記キャリア周波数の各々について1つの複素数を含む前記工程」とは,
「符号化ビットを対応する複素数の組にマッピングする工程であって,前記複素数の組の各々は前記キャリア周波数の各々について1つの複素数を含む前記工程」の点で共通する。
e 上記b,dでの検討を踏まえれば,
引用発明の「前記キャリア周波数の組における5つのキャリア周波数に対応する前記シンボルの組における5つのシンボルを減少させることによって前記シンボルの組の各々を変調する工程であって,該減少は,前記5つのキャリア周波数に対応する前記5つのシンボルをその振幅値が0となるように変化させることを含む,前記工程」は,
補正後の発明の「前記キャリア周波数の組における1つ以上のキャリア周波数に対応する前記複素数の組における1つ以上の複素数を減少させることによって前記複素数の組の各々を変調する工程であって,該減少は,前記1つ以上のキャリア周波数に対応する前記1つ以上の複素数をその振幅が所定の振幅未満となるように変化させることを含む,前記工程」に相当する。
f 上記b,dでの検討を踏まえれば,
引用発明の「複数の時間領域サンプルからなる時間領域サンプルのシーケンスを取得するために,変調されたシンボルの組の各々について逆フーリエ変換を実行する工程」は,
補正後の発明の「複数の時間領域サンプルからなる時間領域サンプルのシーケンスを取得するために,変調された複素数の組の各々について逆フーリエ変換を実行する工程」に相当する。
g 上記bでの検討を踏まえれば,
引用発明の「符号化されたビットを前記対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調する工程であって,前記キャリア周波数の組における5つのキャリア周波数の振幅が減少されている」と,
補正後の発明の「前記インタリーブ化されたビットを前記対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調する工程であって,前記キャリア周波数の組における1つ以上のキャリア周波数の振幅が減少されている,前記工程」とは,
「符号化ビットを前記対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調する工程であって,前記キャリア周波数の組における1つ以上のキャリア周波数の振幅が減少されている,前記工程」の点で共通する。
h 上記aでの検討を踏まえれば,
引用発明の「前記時間領域サンプルのシーケンスに基づき無線で時間領域信号を送信する工程」は,
補正後の発明の「前記時間領域サンプルのシーケンスに基づき通信媒体を通じて時間領域信号を送信する工程」に相当する。

してみると,両者の一致点及び相違点は,以下のとおりある。

(一致点)
「複数のチャネルからなる一組のチャネルを用いて通信媒体を通じて情報を送信するべく通信局が動作する通信局の動作方法であって,前記複数のチャネルの各チャネルはそれぞれのキャリア周波数を有し,前記方法は,
前記キャリア周波数を通じた送信について,該送信を減少させる1つ以上のキャリア周波数からなるキャリア周波数の組を決定する工程と,
誤り訂正符号によって情報ビットを符号化し,符号化されたビットを得る工程であって,該符号化されたビットはデータビットとパリティビットとを含み,該符号化されたビットは冗長性を有する情報ビットを表す前記工程と,
符号化されたビットを対応する複素数の組にマッピングする工程であって,前記複素数の組の各々は前記キャリア周波数の各々について1つの複素数を含む前記工程と,
前記キャリア周波数の組における1つ以上のキャリア周波数に対応する前記複素数の組における1つ以上の複素数を減少させることによって前記複素数の組の各々を変調する工程であって,該減少は,前記1つ以上のキャリア周波数に対応する前記1つ以上の複素数をその振幅が所定の振幅未満となるように変化させることを含む,前記工程と,
複数の時間領域サンプルからなる時間領域サンプルのシーケンスを取得するために,変調された複素数の組の各々について逆フーリエ変換を実行する工程と,
符号化されたビットを前記対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調する工程であって,前記キャリア周波数の組における1つ以上のキャリア周波数の振幅が減少されている,前記工程と,
前記時間領域サンプルのシーケンスに基づき通信媒体を通じて時間領域信号を送信する工程と,を備える方法。」

(相違点)
補正後の発明が,「前記符号化されたビットをインタリーブ化してインタリーブ化されたビットを得る工程」を備え,「インタリーブ化されたビットからなるブロック」を対応する複素数の組にマッピングし,「インタリーブ化されたビット」を対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調するのに対し,
引用発明では,「前記符号化されたビットをインタリーブ化してインタリーブ化されたビットを得る工程」を備えておらず,単に「符号化されたビット」を対応する複素数(シンボル)の組にマッピングし,単に「符号化されたビット」を対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調する点。

(4)判断
上記相違点につき検討する。
OFDM送信装置において,周波数選択性フェージングの影響を低減するために,誤り訂正符号化ビットをインターリーブした後にOFDM記号でキャリア上で変調することは,例えば,原査定の拒絶の理由に引用された特表2003-533939号公報(特に,段落【0002】,【0023】参照)等にも記載されているように周知技術であり,また,インターリーブをデータブロック単位で行うことも技術常識である。
一方,引用例に「移動体通信において高速伝送を行う場合,マルチパスによる遅延波の影響が無視できなくなり,周波数選択性フェージングにより伝送特性が劣化する。」(段落【0002】)とあるように,引用発明の無線送信装置においても周波数選択性フェージングにより伝送特性が劣化することは明らかであり,さらに,「また,符号化されたビットがパンクチャやインタリーブされる場合でも,パンクチャパターンやインタリーブパターンが予め既知であるため,それらのパターンに基づいて,選択部20は,パリティビットがマッピングされるサブキャリアを容易に判定することができる。」(段落【0016】)とあるように,符号化されたビットをインタリーブ化することについての示唆がある。
そうすると,引用発明において周波数選択性フェージングによる伝送特性の劣化を低減する目的で上記周知技術を単に採用することにより,補正後の発明のように「前記符号化されたビットをインタリーブ化してインタリーブ化されたビットを得る工程」を備え,「インタリーブ化されたビットからなるブロック」を対応する複素数の組にマッピングし,「インタリーブ化されたビット」を対応するキャリア周波数を通じて離散時間シンボル波形として変調する構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。

また,補正後の発明の作用効果も,当業者が予測可能なものであって,格別なものではない。

(5)まとめ
以上のとおり,補正後の発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって,本件補正は,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願発明は,上記「第2 補正却下の決定 1 本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2 引用発明
引用発明は,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3 独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が,上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3 独立特許要件について」の項で検討したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから,本願発明も同様の理由により,容易に発明できたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-24 
結審通知日 2015-09-29 
審決日 2015-10-14 
出願番号 特願2013-4092(P2013-4092)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 洋  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
新川 圭二
発明の名称 通信ネットワークにおける変調された信号のスペクトルの管理  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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