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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23G 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23G |
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管理番号 | 1311741 |
審判番号 | 不服2014-5872 |
総通号数 | 196 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-04-01 |
確定日 | 2016-03-03 |
事件の表示 | 特願2010-546242号「改善された芳香含有菓子製品」拒絶査定不服審判事件〔2009年8月27日国際公開、WO2009/103428、平成23年4月21日国内公表、特表2011-512131号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年2月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年2月19日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年11月22日付けの拒絶理由通知に対して、平成25年3月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月25日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成26年4月1日に拒絶査定不服審判が請求された。その後、当審において平成27年5月8日付けで拒絶理由が通知され、同年8月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願に係る発明は、平成27年8月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?31に記載されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「イソマルト成分、ゲラニオール含有芳香成分および少なくとも1種の製品添加物を含む菓子製品であって、該菓子製品が1?99.8重量%のイソマルト成分、0.1?5.0重量%のゲラニオール含有芳香成分および0.1?98重量%の少なくとも1種の製品添加物を含み、ここで、それぞれ菓子製品の総重量を基準とし、すべての成分を合計すると菓子製品の乾燥物質の100%となり、そこにおいて、イソマルト成分が、1,1-GPS(1-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、1,1-GPM(1-O-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトール)、1,6-GPS(6-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、イソマルト変化型、イソマルト、イソマルトGSおよびイソマルトとマルチトールとの混合物からなる群より選択され、かつ、そこにおいて、ゲラニオール含有芳香成分が、油の総重量を基準として、5?90重量%のゲラニオールを含むゲラニオール含有油である、前記菓子製品。」 第3 当審で通知した拒絶理由の概要 当審において平成27年5月8日付けで通知した拒絶理由は、特許法36条4項1号、同条6項1号又は2号及び特許法29条2項を根拠とするものである。そのうち、本願発明に対する拒絶理由は、特許法36条4項1号、同条6項1号及び特許法29条2項を根拠とするものであり、以下のとおりである。 1 特許法36条4項1号 本願発明は「本発明は、イソマルト成分、ゲラニオール含有芳香成分および少なくとも1種の製品添加物を含む菓子製品ならびにそれらを得るための方法に関する」(【0001】)ものであり、「特に、改善された、特により一定で連続的な芳香、すなわちゲラニオールの放出を示し、かつ、好ましくは特に保存安定性を有する菓子製品を提供すること」(【0006】)を、本願発明が解決しようとする課題としている。 そして、本願明細書の発明の詳細な説明中に、「イソマルト成分とゲラニオール含有芳香成分との組合せは、驚くべきことに、菓子製品において、特にチューインガム、被覆チューインガム、ソフト・キャラメル、錠剤およびハード・キャラメルにおいて、非常に好ましい芳香放出プロファイル、特に連続的な、持続性の、および一定の、消費者の皮膚からの放出および発散をもたらし、さらに、それは製品の摂取の後、非常に迅速に開始する。さらに、イソマルト成分が菓子製品中の芳香成分の保存安定性を増大することも示された。」(【0008】)こと、及び「ゲラニオールの発散は、菓子製品の摂取の後に消費者の皮膚から放出される心地よいバラ様の匂いをもたらす。驚くべきことに、イソマルト成分とゲラニオール含有芳香成分との組合せが、イソマルト成分を含まないゲラニオール含有芳香成分単独の摂取と比較して、有利なことに、より高く、より一定で、かつ連続的な消費者の皮膚からのゲラニオールの発散をもたらすことが示された。いかなる理論にも拘束されないが、発散の増大は、イソマルトと組合せたことにより摂取後にゲラニオールがより効果的に取り込まれた結果であると推測される。この結果、消費者の皮膚からのゲラニオールの、早く開始する、増大した、持続性の、促進された放出がもたらされる。したがって、イソマルト成分は、香気放出促進剤として作用する。さらに、本発明の菓子製品中のイソマルト成分がゲラニオールの不快な味を遮蔽するという利点を有することも示されている。別の利点として、ゲラニオール含有芳香成分は、その水溶性の低さにも関わらず、イソマルト成分と組み合わせた場合に、特にハード・キャラメルに使用した場合に、均質な分散を呈することが示されている。チューインガムおよびソフト・キャンディーにおいては、改善された、特により長く持続する咀嚼性(chewability)が観察された。」(【0009】)ことが記載されている。 また、本願明細書の発明の詳細な説明中には、本願発明の実施例として、実施例1(錠剤)、実施例2(ハード・キャラメルの調製)、実施例3(チューインガム)、実施例4(被覆チューインガムの調製)及び実施例5(被覆チューインガムの調製)が記載され(【0066】?【0081】)、「心地よく、持続性の、連続的に放出されるバラ様の匂いを皮膚からの発散により与えた。」(実施例1?5)あるいは「コーティングは非常に優れた保存安定性を示した。」(実施例4、5)と記載されている。 しかしながら、上記実施例1?5のものについて、「心地よく、持続性の、連続的に放出されるバラ様の匂いを皮膚からの発散により与えた。」こと及び「コーティングは非常に優れた保存安定性を示した。」ことをどのように測定し、評価したのかは何ら記載されておらず、その確からしさを確認することができない。また、「イソマルト成分を含まないゲラニオール含有芳香成分単独の摂取と比較して、有利なことに、より高く、より一定で、かつ連続的な消費者の皮膚からのゲラニオールの発散をもたらすことが示された。」、「イソマルト成分がゲラニオールの不快な味を遮蔽するという利点を有することも示されている。」、「別の利点として、ゲラニオール含有芳香成分は、その水溶性の低さにも関わらず、イソマルト成分と組み合わせた場合に、特にハード・キャラメルに使用した場合に、均質な分散を呈することが示されている。」及び「チューインガムおよびソフト・キャンディーにおいては、改善された、特により長く持続する咀嚼性(chewability)が観察された。」等(【0008】?【0009】)の効果についても何ら確認がされていない。 加えて、実施例1?5のものは、「ゲラニオール油」が添加されていることの記載はあるが、当該ゲラニオール油は、ゲラニオールの含有量がどの程度のものであるのかは明らかにされていない。 そうしてみると、本願発明の実施例とされる実施例1?5は、本願発明の課題を解決するものであるかは不明である。 そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明がその課題を解決するものであることを開示しているとはいえず、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。 2 特許法36条6項1号 (1)請求項1に記載された「イソマルト成分が、1,1-GPS(1-0-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、1,1-GPM(1-0-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトール)、1,6-GPS(6-0-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、イソマルト変化型、イソマルト、イソマルトGSおよびイソマルトとマルチトールとの混合物からなる群より選択され」という事項について、発明の詳細な説明中の実施例には、イソマルトDC(実施例1)、イソマルトST(実施例2、3)、イソマルトGS(実施例4、5)がそれぞれ用いられていることが示されるのみである(【0015】?【0017】)。 そして、当該イソマルトDC、イソマルトST、イソマルトGSを用いた実施例についてさえ、本願発明の課題を解決するものであるか明らかにされていない上、その他のイソマルト成分が本願発明の課題を解決するものとして本願発明に用い得ることも明らにされていない。 よって、上記請求項1に記載された全てのイソマルト成分を含む請求項1に係る発明の範囲まで、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また、本願発明の課題を解決するものであるか確認されていない「イソマルト成分」が含まれている以上、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。 (2)請求項1中の「該菓子製品が1?99.8重量%のイソマルト成分、0.1?5.0重量%のゲラニオール含有芳香成分および0.1?98重量%の少なくとも1種の製品添加物を含み」という記載について、「イソマルト成分」に含まれるどのような物質についても上記の成分比において本願発明の課題が解決されるものであるのかは明らかにされていない。 また、当該数値範囲を満たす組合せの全てにおいて本願発明の課題を解決するものであるかも何ら確認されていない。 そうすると、発明の課題を解決するものであるか確認されていない事項を含む請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。 (3)請求項1中の「ゲラニオール含有芳香成分が、油の総重量を基準として、5?90重量%のゲラニオールを含むゲラニオール含有油」という記載について、発明の詳細な説明中の実施例1?5のものは、「ゲラニオール油」が添加されていることの記載はあるが、当該ゲラニオール油は、ゲラニオールの含有量がどの程度のものであるのかは明らかにされておらず、「油の総重量を基準として、5?90重量%のゲラニオールを含むゲラニオール含有油」が本願発明の課題を解決するものであるかは明らかでない。もちろん、当該数値範囲の全てにおいて本願発明の課題を解決するものであるかの確認もされておらず、(効果があるとしても)当該数値範囲の内外で差異が生じるものであるのかも不明である。 よって、請求項1に係る発明の上記記載の範囲まで、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また、本願発明の課題を解決するものであるか確認されていない数値範囲が記載されている以上、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。 3 特許法29条2項 [引用文献] 1.国際公開第2006/129876号 2.特表平11-507243号公報 3.特表2000-503543号公報 4.特表2006-528884号公報 5.国際公開第2006/040144号 引用文献1には、体臭改善物質を含有し、該物質を体表面から放出させることにより体臭を改善する体内摂取用体臭改善剤、それを用いた飲食品に関するものであって(明細書1頁4?6行)、体臭改善物質としてゲラニオールを含有させることが記載されている(明細書4頁10?24行)。そして、該体臭改善物質を飲食品に用い得ることが記載され、その具体例として菓子類(錠菓、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミ、ゼリー、チューインガム、チョコレート等)に用い得ること、チューインガム、ソフトキャンディは、長く口中に滞留して口腔内の粘膜から体臭改善剤中の極性化合物やテルペン類が効率よく吸収される点、極性化合物やテルペン類の放出持続性の点で好適であることが記載されている(明細書6頁14?24行)。 また、ゲラニオールを含有させるチューインガムやキャンディに使用する糖質甘味料として糖アルコールを用い得ることが記載されている(明細書6頁下から2行?7頁7行、19?25行)。そして、チューインガムやキャンディの糖質甘味料として糖アルコールの一種であるイソマルト成分を用いることは、例えば引用文献2?5にみられるように本願優先日前に周知の技術である。 そして、<芳香成分のスクリーニング>及び<スクリーニング用サンプルチューインガムの調製>の実施例において、チューインガム試料1として、ゲラニオールが、リナロール、シトロネロールとともにローズオットーの精油に含まれる成分としてチューインガムの調製時に混合されること、当該ローズオットーの精油の組成比が0.7重量%、糖質甘味料の組成比が64.3重量%(砂糖56.3重量%、水あめ5.0重量%、還元水あめ3.0重量%)であることが記載されている(明細書8頁15?最終行、表1)。同様に、ゲラニオールを含有させたチューインガム試料6及び8は、ゲラニオールを含む香料の組成比が2.2重量%、糖質甘味料の組成比が62.8重量%(砂糖54.8重量%、水あめ5.0重量%、還元水あめ3.0重量%)であることが記載されている(明細書10頁下から6行?11頁10行、表2)。 また、ローズオットーの精油としてゲラニオールをどの程度含有する精油を用いるかは、菓子類に含ませるゲラニオールの量に合わせて当業者が必要に応じて適宜に選択し得る事項にすぎない。 そして、引用文献1記載のゲラニオール含有菓子類は、喫食することによって、特にゲラニオールは手表面から顕著に放出され、その放出が継続する効果を奏する(明細書9頁下から7行?10頁下から7行、表2の体感試験の欄、明細書12頁下から8?3行)。また、引用文献3には、イソマルト成分である1,1GPSの存在のために、芳香物質の放出が促進されるという効果が記載されている(8頁下から6行?最終行)。 そうしてみると、本願の請求項1記載の発明は、引用文献1記載の発明及び本願優先日前に周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イソマルト成分を含まない場合のゲラニオールの摂取と比較した効果が何ら示されていない以上、本願の請求項1記載の発明が、引用文献1記載のものに比して当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するということはできない。) 第4 判断 1 特許法36条4項1号について (1)上記「第3 1」に示したとおり、本願発明は「本発明は、イソマルト成分、ゲラニオール含有芳香成分および少なくとも1種の製品添加物を含む菓子製品ならびにそれらを得るための方法に関する」(【0001】)ものであり、「特に、改善された、特により一定で連続的な芳香、すなわちゲラニオールの放出を示し、かつ、好ましくは特に保存安定性を有する菓子製品を提供すること」(【0006】)を、本願発明が解決しようとする課題としている。 そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明について、「イソマルト成分とゲラニオール含有芳香成分との組合せは、驚くべきことに、菓子製品において、特にチューインガム、被覆チューインガム、ソフト・キャラメル、錠剤およびハード・キャラメルにおいて、非常に好ましい芳香放出プロファイル、特に連続的な、持続性の、および一定の、消費者の皮膚からの放出および発散をもたらし、さらに、それは製品の摂取の後、非常に迅速に開始する。さらに、イソマルト成分が菓子製品中の芳香成分の保存安定性を増大することも示された。」(【0008】)こと、及び「ゲラニオールの発散は、菓子製品の摂取の後に消費者の皮膚から放出される心地よいバラ様の匂いをもたらす。驚くべきことに、イソマルト成分とゲラニオール含有芳香成分との組合せが、イソマルト成分を含まないゲラニオール含有芳香成分単独の摂取と比較して、有利なことに、より高く、より一定で、かつ連続的な消費者の皮膚からのゲラニオールの発散をもたらすことが示された。いかなる理論にも拘束されないが、発散の増大は、イソマルトと組合せたことにより摂取後にゲラニオールがより効果的に取り込まれた結果であると推測される。この結果、消費者の皮膚からのゲラニオールの、早く開始する、増大した、持続性の、促進された放出がもたらされる。したがって、イソマルト成分は、香気放出促進剤として作用する。さらに、本発明の菓子製品中のイソマルト成分がゲラニオールの不快な味を遮蔽するという利点を有することも示されている。別の利点として、ゲラニオール含有芳香成分は、その水溶性の低さにも関わらず、イソマルト成分と組み合わせた場合に、特にハード・キャラメルに使用した場合に、均質な分散を呈することが示されている。チューインガムおよびソフト・キャンディーにおいては、改善された、特により長く持続する咀嚼性(chewability)が観察された。」(【0009】)ことが記載されている。 (2)そこで、本願明細書の発明の詳細な説明に、本願発明の課題を解決し、本願明細書に記載のとおりの効果を奏するものとして当業者が認識できるような実施例の開示があるか検討する。 本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の実施例として、実施例1(錠剤)、実施例2(ハード・キャラメルの調製)、実施例3(チューインガム)、実施例4(被覆チューインガムの調製)及び実施例5(被覆チューインガムの調製)が記載されている(【0066】?【0081】)。そして、当該実施例1?5の奏する効果として、「好ましい感覚受容性および知覚特性を有する非常に保存安定性の高い錠剤が得られた。この錠剤は、心地よく、持続性の、連続的に放出されるバラ様の匂いを皮膚からの発散により与えた。」(実施例1【0067】)、「好ましい感覚受容性、高い透明度および改善された知覚特性を有するハード・キャラメルが得られた。これは心地よく、持続性の、連続的に放出されるバラ様の匂いを、皮膚からの発散により与えた。ハード・キャラメルは優れた保存安定性を示した。」(実施例2【0071】)、「長持ちする咀嚼性、好ましい感覚受容性および知覚特性を有する、非常に保存安定性の高いチューインガムが得られた。これは、心地よい、持続性の、連続的に放出されるバラ様の匂いを皮膚からの発散により与える。」(実施例3【0074】)、「好ましい感覚受容性および知覚特性を有する被覆チューインガムが得られた。これは一定で、連続的に放出される心地よいバラ様の匂いを皮膚からの発散により与える。コーティングは非常に優れた保存安定性を示した。」(実施例4【0078】)、「好ましい感覚受容性および知覚特性を有する被覆チューインガムが得られた。これは一定で、連続的に放出される心地よいバラ様の匂いを皮膚からの発散により与える。コーティングは非常に優れた保存安定性を示した。」(実施例5【0081】)ことが記載されている。 しかしながら、上記実施例1?5には、例えば「心地よく、持続性の、連続的に放出されるバラ様の匂いを皮膚からの発散により与えた。」ことや「保存安定性」について、どのように測定し、評価したのかは何ら記載されておらず、その確からしさを確認することができない。 また、「イソマルト成分を含まないゲラニオール含有芳香成分単独の摂取と比較して、有利なことに、より高く、より一定で、かつ連続的な消費者の皮膚からのゲラニオールの発散をもたらすことが示された。」、「イソマルト成分がゲラニオールの不快な味を遮蔽するという利点を有することも示されている。」、「別の利点として、ゲラニオール含有芳香成分は、その水溶性の低さにも関わらず、イソマルト成分と組み合わせた場合に、特にハード・キャラメルに使用した場合に、均質な分散を呈することが示されている。」及び「チューインガムおよびソフト・キャンディーにおいては、改善された、特により長く持続する咀嚼性(chewability)が観察された。」等(【0008】?【0009】)の効果について、実施例1?5においては、イソマルト成分の有無による対比等がされておらず、その効果を何ら確認することができない。 加えて、実施例1?5のものは、「ゲラニオール油」が添加されていることの記載はあるが、当該ゲラニオール油は、ゲラニオールの含有量がどの程度のものであるのかは明らかにされておらず、本願発明に規定された範囲の量であるかも不明である。 (3)そうすると、上記実施例1?5は、本願発明の課題を解決し、本願明細書に記載のとおりの効果を奏するものとして当業者が認識できるように開示したものとはいえない。 また、発明の詳細な説明のその余の記載にも、本願発明の課題を解決し、本願明細書に記載のとおりの効果を奏するものとして当業者が認識できるように開示する記載は見当たらない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明がその課題を解決するものであることを当業者が認識できるように開示しているとはいえず、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められない。 2 特許法36条6項1号について (1)請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断される場合は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが、実質的に対応しているとはいえず、請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないとされる。そこで、本願発明の発明特定事項に対する発明の詳細な説明の記載をみる。 (2)まず、請求項1中の「イソマルト成分が、1,1-GPS(1-0-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、1,1-GPM(1-0-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトール)、1,6-GPS(6-0-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、イソマルト変化型、イソマルト、イソマルトGSおよびイソマルトとマルチトールとの混合物からなる群より選択され」という記載に関して、発明の詳細な説明には、 「【0010】 本発明の文脈において、用語「イソマルト成分」は、好ましくはイソマルト、イソマルトST、イソマルトGS、イソマルト変化型(variant)またはその成分を包含する。 【0011】 本発明の好ましい実施形態において、イソマルト成分は、1,1-GPS(1-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、1,1-GPM(1-O-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトール)、1,6-GPS(6-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、イソマルト、イソマルトSTおよびイソマルトGSからなる群より選択される。 【0012】 本発明の文脈において、イソマルトは1,6-GPSと1,1-GPMとの混合物であり、一方、イソマルトSTは53?47%の1,6-GPSと47?53%の1,1-GPMとの混合物であり、イソマルトGSは71?79%の1,6-GPSと29?21%の1,1-GPMとの混合物、好ましくは75%の1,6-GPSと25%の1,1-GPMとの混合物である(値は乾燥物質の重量%で表す)。 【0013】 別の好ましい実施形態において、イソマルト変化型の使用が予測される。本発明の文脈において、イソマルト変化型は、例えば、10?50%の1,6-GPS、2?20%の1,1-GPSおよび30?70%の1,1-GPMの混合物、または5?10%の1,6-GPS、30?40%の1,1-GPSおよび45?60%の1,1-GPMの混合物である。イソマルト変化型は、1,6-GPSを多く含む混合物の形であってもよい。1,6-GPSを多く含む混合物は、58?99%の量の1,6-GPSおよび42?1%の量の1,1-GPMを含む。1,1-GPMを多く含む混合物は、1?42%の量の1,6-GPSおよび58?99%の量の1,1-GPMを含む。 【0014】 本発明の別の好ましい実施形態において、使用するイソマルト成分は、粉砕され、凝集したイソマルト、特に、粉砕されたイソマルト粒子が100μm未満、好ましくは50μm未満の直径を有する、粉砕され、凝集したイソマルトである。好ましくは、このような粉砕され、凝集したイソマルトはイソマルトDCである。 【0015】 本発明の好ましい実施形態において、菓子製品は粒子の形のイソマルト成分を含み、ここで、該粒子の90%が100μm未満、好ましくは50μm未満の直径を有する。 【0016】 本明細書において記載される粒径は、走査電子顕微鏡法(SEM)または他の光学もしくは走査技術により、例えばコールターカウンターを使用して測定する。 【0017】 本発明の好ましい実施形態において、イソマルト成分はイソマルトとマルチトールとの混合物、好ましくはイソマルトGSまたはイソマルトSTとマルチトールとの混合物、さらに好ましくはイソマルトとマルチトールシロップとの混合物またはイソマルトGSもしくはイソマルトSTとマルチトールシロップとの混合物である。好ましくは、混合物は60?80%、特に70%のイソマルト、特にイソマルトSTまたはGS、および40?20%、特に30%のマルチトールを含む(値は乾燥物質の重量%で表す)。」 との記載がある。 しかしながら、発明の詳細な説明に記載された実施例としては、上記イソマルト成分のうち、イソマルトDC(実施例1)、イソマルトST(実施例2、3)、イソマルトGS(実施例4)、イソマルトGS及びイソマルトST(実施例5)を用いたものがそれぞれ示されるのみである(【0066】?【0081】)。しかも、当該イソマルトDC、イソマルトST、イソマルトGS並びにイソマルトGS及びイソマルトSTを用いた各実施例についてさえ、上記「第4 1」に示したとおり、本願発明の課題を解決し、本願明細書に記載のとおりの効果を奏するものであるかを裏付けるものではない。 そして、請求項1に規定されているその他のイソマルト成分が本願発明の課題を解決するものとして本願発明に用い得ることは発明の詳細な説明には何ら明らかにされていない。 よって、上記請求項1に記載された全てのイソマルト成分を含む本願発明の範囲まで、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また、本願発明の課題を解決するものであるか確認されていないイソマルト成分が含まれている以上、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。 (3)次に、請求項1中の「該菓子製品が1?99.8重量%のイソマルト成分、0.1?5.0重量%のゲラニオール含有芳香成分および0.1?98重量%の少なくとも1種の製品添加物を含み」という記載についての発明の詳細な説明の記載をみると、同請求項1中の「1,1-GPS(1-0-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、1,1-GPM(1-0-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトール)、1,6-GPS(6-0-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、イソマルト変化型、イソマルト、イソマルトGSおよびイソマルトとマルチトールとの混合物からなる群より選択され」た「イソマルト成分」のすべてについて、上記の成分比において本願発明の課題が解決されるものであるかは、発明の詳細な説明の記載には明らかにされておらず、確認することができない。 また、当該数値範囲を満たすイソマルト成分の組合せすべてにおいて、本願発明の課題が解決されるものであるかも発明の詳細な説明の記載から確認することはできない。 そうすると、本願発明の課題を解決するものであるか確認されていないイソマルト成分及びその成分比を含む請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。 (4)そして、請求項1中の「ゲラニオール含有芳香成分が、油の総重量を基準として、5?90重量%のゲラニオールを含むゲラニオール含有油」という記載についての発明の詳細な説明の記載をみると、発明の詳細な説明に記載された実施例1?5のものは、「ゲラニオール油」が添加されていることの記載はあるが、当該ゲラニオール油は、ゲラニオールの含有量がどの程度のものであるのか明らかでない(【0066】?【0081】)。そうすると、「油の総重量を基準として、5?90重量%のゲラニオールを含むゲラニオール含有油」が本願発明の課題を解決するものであるかは、発明の詳細な説明の記載からは明らかとはいえない。 そして、発明の詳細な説明において、当該数値範囲のすべてにおいて本願発明の課題が解決されるものであるかの確認もされておらず、(効果があるとしても)当該数値範囲の内外で差異が生じるものであるのかも不明である。 よって、請求項1中の上記記載の範囲まで、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。また、本願発明の課題を解決するものであるか確認されていない数値範囲が記載されている以上、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。 (5)したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 3 特許法29条2項について (1)引用文献1に記載された発明 当審の拒絶理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(国際公開第2006/129876号)には、以下の事項が記載されている。(下線部は、当審にて付与した。) ア 「本発明は、体臭改善物質を含有し、該物質を体表面から放出させることにより体臭を改善する体内摂取用体臭改善剤、それを用いた飲食品及び体臭改善方法に関する。」(明細書1頁4?6行) イ 「本発明では、上記体臭改善物質として、極性化合物及びテルペン類の少なくとも一方を含有させることが本発明の効果を得る点で重要である。 上記極性化合物とは、アルコール類、フェノール類、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、エステル類、ラクトン類、エーテル類等が挙げられ、上記テルペン類とは、好ましくはテルペン系炭化水素、更に好ましくはアルケン類等が挙げられる。中でも芳香アルデヒド類やテルペン系アルコール類が、効率良く体表面から放出する点で好ましい。なお、極性化合物のうち、ケトン類は体表面からの放出効率が低い傾向にある。 具体的成分としては、好ましくは、ゲラニオール、リナロール、シトロネロール、バニリン、デカラクトン、リモネン、1,8-シネオール、テルピネン-4-オール、α-テルピネオール、オクタナール、デカナール、メントールであることが、更に好ましくはゲラニオール、テルピネン-4-オール、バニリン、リナロール、シトロネロール、デカラクトンであることが、より好ましくは、ゲラニオール、テルピネン-4-オール、バニリンが、効率良く体表面から放出する点で好適である。これらは、単独でも、複数組合せて用いてもよい。」(明細書4頁10?24行) ウ 「特に、上記体臭改善剤を飲食品に用いることにより、より手軽に体臭改善をすることができる点で好適である。 以下に、本発明の体臭改善剤を用いた飲食品について説明する。 上記飲食品とは、上記体臭改善剤を含有出来るものであれば特に限定するものではなく、例えば、飲料(スープ、コーヒー、茶類、ジュース、ココア、酒類等)や、冷菓や、菓子類(錠菓、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミ、ゼリー、チューインガム、チョコレート等)や、ベーカリー食品(パン、クッキー等)や、麺類を始めとする澱粉系食品や、粉末食品や、健康食品等が挙げられる。この中でもチューインガム、ソフトキャンディは、長く口中に滞留して口腔内の粘膜から体臭改善剤中の極性化合物やテルペン類が効率よく吸収される点、極性化合物やテルペン類の放出持続性の点で好適である。」(明細書6頁14?24行) エ 「次に、本発明の飲食品の一例として、例えば、チューインガムの製造例を開示する。 すなわち、ガムベース(弾性体、ワックス、油脂、乳化剤、タルク等の無機物、天然及び/又は合成樹脂等)、糖質甘味料(果糖、ブドウ糖、タガトース、アラビノース等の単糖類、乳糖、オリゴ糖、麦芽糖等の少糖類、粉末水あめ、デキストリン、トレハロース、糖アルコール等)、極性化合物及びテルペン類の少なくとも一方、及び必要に応じて副原料を適宜添加したものを、加熱混合して均質化し、冷却した後、押し出し成形等で適宜成形をすることにより、本発明の体臭改善チューインガムが得られる。」(明細書6頁下から2行?7頁7行) オ 「また、この他の例として、ソフトキャンディの製造例を開示する。 すなわち、糖質甘味料(果糖、ブドウ糖、タガトース、アラビノース等の単糖類、乳糖、オリゴ糖、麦芽糖等の少糖類、粉末水あめ、デキストリン、トレハロース、糖アルコール等)、ゼラチン、増粘多糖類、極性化合物及びテルペン類の少なくとも一方、及び必要に応じて副原料を混合し、加熱混合して均質化した後、適切な水分に調整し、押し出し成形等で適宜成形することにより、本発明の体臭改善ソフトキャンディが得られる。」(明細書7頁19?25行) カ 「 <芳香成分のスクリーニング> 芳香成分のうち、ローズオットーの精油に含まれるゲラニオール、リナロール、シトロネロール、ティーツリーの精油に含まれるテルピネン-4-オール、及び、食品香料で多用されるバニリン、デカラクトン、エチルマルトールの合計7成分について、体表面からの放出しやすさについて、スクリーニングを行った。 <スクリーニング用サンプルチューインガムの調製> スクリーニング用サンプルとして、上記7成分を含有するチューインガム試料1?5を表1の組成に従い、原料を加熱混合(40?50℃)し、均質化した後、縦20mm×横13.5mm×厚み10.5mm、1粒当り3.1gとなるように成形した。なお、ゲラニオール、リナロール、シトロネロール、テルピネン-4-オール、バニリン、デカラクトン、エチルマルトールは、ガムベース吸着分を考慮し、1/10を体内摂取量として添加量を設定した。また、体内摂取量は、体内に取り込まれた量を意味する。」(明細書8頁15?27行) キ 上記記載事項カと併せて(表1)を参照すると、(表1)には、チューインガム試料1として、ゲラニオールが、リナロール、シトロネロールとともにローズオットーの精油に含まれる芳香成分としてチューインガムの調製時に混合されること、当該ローズオットーの精油の組成比が0.7重量部、糖質甘味料の組成比が64.3重量部(砂糖56.3重量部、水あめ5.0重量部、還元水あめ3.0重量部)、その他すべての成分を合計して100重量部であることが記載されている。 ク 「 <芳香成分の測定> 上記ブランクを測定後、直ちに上記スクリーニング用サンプル試料1?5を、表1に記載の極性化合物の種類と体内摂取量となるよう喫食した。なお、被験者はサンプリング終了まで白湯しか喫食しなかった。 摂取後1時間目に、被験者の手を上水道水で良く濯いだ後、清浄な状態で自然乾燥させ、フッ素系樹脂製のテドラーバッグを手全体に装着し、脱気したところで窒素ガス150mlを封入し、そのまま約30分間保持して、手表面より放出する成分を捕捉し、テドラーバッグ内のガス100mlを採取して、GERSTEL社製TANAXTA tubeに吸着させ、GC/MSで、摂取後のピーク測定を行った。上記分析結果を、表1にあわせて示す。 その結果、上記7成分のうち、ゲラニオール、リナロール、シトロネロール、テルピネン-4-オール、バニリン、デカラクトンが放出されており、特にゲラニオール、バニリン及びテルピネン-4-オールで顕著に放出していた。 また、試料1に関しては、上記測定後、継続して1時間置きに上記測定及び分析を繰り返したところ、ゲラニオール、リナロール、シトロネロールの放出が継続することが確認できた。」(明細書10頁7?22行) ケ 「≪実施例1?4≫ 以上の結果より、特に顕著に放出されたゲラニオール、バニリン及びテルピネン-4-オールと、リナロールについて、ゲラニオール含有ローズ風味の体臭改善チューインガム試料6(実施例1)、バニリン含有バニラ風味の体臭改善チューインガム試料7(実施例2)、ゲラニオール及びリナロール含有ローズ風味の体臭改善チューインガム試料8(実施例3)、テルピネン-4-オール含有ミント風味の体臭改善チューインガム試料9(実施例4)を調製した。 <体臭改善チューインガムの調製> 表2の組成に従い、各原料を40?50℃以下に保ちながら、保温ニーダーで加熱混合して均質化し、冷却した後、エクストルーダーを用いて押し出し成形を行い、縦20mm×横13.5mm×厚み10.5mm、1粒当り3.1gの体臭改善チューインガム試料6(実施例1)?試料9(実施例4)、試料10(対照区)を得た。なお、ゲラニオール、リナロール、シトロネロール、テルピネン-4-オール、バニリン、デカラクトン、エチルマルトールは、ガムベース吸着分を考慮し、1/10を体内摂取量として添加量を設定した。また、体内摂取量は、体内に取り込まれる量を意味する。」(明細書10頁23行?11頁10行) コ 上記記載事項ケと併せて(表2)を参照すると、(表2)において、ゲラニオールを含有させたチューインガム試料6及び8は、ゲラニオールを含む香料の組成比が2.2重量部、糖質甘味料の組成比が62.8重量部(砂糖54.8重量部、水あめ5.0重量部、還元水あめ3.0重量部)、その他すべての成分を合計すると100重量部であることが記載されている。 サ 「<実施例3及び4の簡易体感試験> 実施例3及び4の体臭改善チューインガムについては、評価を点数化せず、絶対評価する他は、上記体感試験と同様に実施した。 その結果、試料8(実施例3)は、対照区(試料10)と比較すると、ほのかな薔薇様の芳香が漂い、また、試料9(実施例4)では、ほのかなミント様の爽やかな芳香が漂って、本発明の効果が確実に現れていた。 また、実施例1?4(試料6?9)全て、チューインガムとして美味しく、それぞれ違和感のない好ましいローズ風味、バニラ風味、ミント風味を楽しめる風味及び食感であった。」(明細書12頁下から8行?13頁1行) シ 上記記載事項ア?サを総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「体臭改善物質としてゲラニオールを含有させた菓子類であって、 該菓子類は、糖質甘味料、体臭改善物質及び適宜添加される副原料を含み、 糖質甘味料として糖アルコールを用い、 ゲラニオールは、ローズオットーの精油に含まれる芳香成分として混合される、菓子類。」 (2)本願発明との対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「菓子類」は、本願発明の「菓子製品」に相当する。 そして、イソマルトは、糖アルコールの一種であるから、引用発明の「糖アルコール」と本願発明の「イソマルト成分」は、「糖アルコール」との限りで一致する。 また、引用発明において、ローズオットーの精油は、ゲラニオールを芳香成分として含有するものであり、当該ローズオットーの精油を体臭改善物質として菓子類に含有させているところ、引用発明の「体臭改善物質」及び「ローズオットーの精油」は、本願発明の「ゲラニオール含有芳香成分」に相当する。また、引用発明の「ローズオットーの精油」は、ゲラニオールを芳香成分として含有する油であるから、本願発明の「ゲラニオール含有油」に相当する。 また、引用発明の「適宜添加される副原料」は、本願発明の「少なくとも1種の製品添加物」に相当する。 そうすると、本願発明は、引用発明とは 「糖アルコール、ゲラニオール含有芳香成分および少なくとも1種の製品添加物を含む菓子製品であって、 ゲラニオール含有芳香成分が、ゲラニオールを含むゲラニオール含有油である、前記菓子製品。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 菓子製品に含まれる糖アルコールについて、本願発明においては、イソマルト成分であって、1,1-GPS(1-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、1,1-GPM(1-O-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトール)、1,6-GPS(6-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、イソマルト変化型、イソマルト、イソマルトGSおよびイソマルトとマルチトールとの混合物からなる群より選択されたものであるのに対して、引用発明においては、糖アルコールの種類は特定されていない点。 (相違点2) 菓子製品の総重量を基準としたイソマルト成分、ゲラニオール含有芳香成分および少なくとも1種の製品添加物の成分比について、本願発明においては、1?99.8重量%のイソマルト成分、0.1?5.0重量%のゲラニオール含有芳香成分および0.1?98重量%の少なくとも1種の製品添加物を含み、すべての成分を合計すると菓子製品の乾燥物質の100%となるものであるのに対して、引用発明においては、成分比の特定はされていない点。 (相違点3) ゲラニオール含有芳香成分であるゲラニオール含有油について、本願発明においては、油の総重量を基準として、5?90重量%のゲラニオールを含むものであるのに対して、引用発明においては、ローズオットーの精油がゲラニオールをどの程度含有しているかは明らかでない点。 (3)判断 上記各相違点について検討する。 まず、上記相違点1について検討すると、チューインガムやキャンディ等の菓子類に用いられる糖質甘味料として、糖アルコールの一種であるイソマルト成分を用いること、その具体的なイソマルト成分が、1,1-GPS(1-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、1,1-GPM(1-O-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトール)、1,6-GPS(6-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール)、イソマルト変化型、イソマルト、イソマルトGSおよびイソマルトとマルチトールとの混合物からなる群より選択されたものであることは、例えば、当審の拒絶理由に引用した引用文献2[特表平11-507243号公報](20?24頁の実施例6?10に、1,6-GPSと1,1-GPMの混合物を配合したチューインガム、ソフト・キャラメル、ハード・キャラメルが記載されている。)、引用文献3[特表2000-503543号公報](4頁下から4行?5頁5行に、甘味料として1-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール(=1,1 GPS)を含有する糖菓剤、6-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール(=1,6 GPS)、1-O-α-D-グルコピラノシル-D-ソルビトール(=1,1 GPS)および1-O-α-D-グルコピラノシル-D-マンニトール(=1,1 GPM)の甘味料混合物を含有する糖菓剤が記載されている。)、引用文献4[特表2006-528884号公報](【0019】?【0021】に、1,6-GPS、1,1-GPS、1,1-GPMまたはその混合物を含むハードキャラメルが記載されている。)、引用文献5[国際公開第2006/040144号](明細書19頁「Example1」の欄に、チューインガムのコーティング材料として1,6-GPSと1,1-GPMの混合物であるイソマルトGS及びイソマルトSTが記載されている。)にみられるように本願優先日前の周知技術である。 そして、引用文献1には、引用発明の菓子類の具体例として、チューインガム及びソフトキャンディの製造例が記載され、当該製造例において糖質甘味料に糖アルコールを用い得ることも記載されているところ(上記記載事項エ及びオ)、引用発明の糖アルコールについて、チューインガムやキャンディ等の菓子類に用いられる糖質甘味料として周知であるイソマルト成分を選択する程度のことは、当業者が容易になし得ることである。 したがって、上記相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易になし得たものである。 次に、上記相違点2について検討する。 引用文献1には、引用発明の菓子類の具体例として、ゲラニオールが、リナロール、シトロネロールとともにローズオットーの精油に含まれる成分としてチューインガムの調製時に混合され、当該ローズオットーの精油の組成比が0.7重量部、糖質甘味料の組成比が64.3重量部(砂糖56.3重量部、水あめ5.0重量部、還元水あめ3.0重量部)、その他すべての成分を合計して100重量部であるチューインガム試料1(上記記載事項キ)、ゲラニオールを含む香料の組成比が2.2重量部、糖質甘味料の組成比が62.8重量部(砂糖54.8重量部、水あめ5.0重量部、還元水あめ3.0重量部)、その他すべての成分を合計すると100重量部であるチューインガム試料6及び8(上記記載事項コ)が記載されている。そして、これらチューインガム試料1、6及び8の糖質甘味料、ゲラニオール含有芳香成分及びその他の組成の配合比は、いずれも本願発明におけるイソマルト成分、ゲラニオール含有芳香成分および少なくとも1種の製品添加物の成分比の範囲内のものである。 そうしてみると、上記相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明の菓子類を具体的に調整するにあたり、当業者が適宜に決定し得る程度の成分比の範囲を規定したにすぎないものであって、格段の困難性を見出すことはできない。 したがって、上記相違点2に係る本願発明の構成は、引用発明に基いて、当業者が容易になし得たものである。 次に、上記相違点3について検討する。 引用発明が、体表面からゲラニオールを放出し体臭改善効果を発揮するためには、菓子類に含まれ、体内に摂取されるゲラニオールの量が問題となるところ、ゲラニオール含有油であるローズオットーの精油について、ゲラニオールをどの程度含有させたものを用いるかは、調整する菓子類におけるゲラニオール含有油の成分比を考慮しつつ、体臭改善効果を発揮するために必要とされるゲラニオールの量に合わせて、当業者が適宜に選択し得る事項である。 そうすると、引用発明において、油の総重量を基準として、5?90重量%のゲラニオールを含むローズオットーの精油を用いる程度のことは、当業者が適宜に選択し得ることであって、格段の困難性を見出すことはできない。 したがって、上記相違点3に係る本願発明の構成は、引用発明に基いて、当業者が容易になし得たものである。 そして、本願発明の効果について検討する。 引用発明のゲラニオール含有菓子類は、喫食することによって、特にゲラニオールは手表面から顕著に放出され、その放出が継続する効果を奏するものである(上記記載事項ク及びサ)。一方、本願発明の効果、特に、イソマルト成分を含むことによる効果は、上記「第4 1」に示したとおり、イソマルト成分を含まない場合のゲラニオールの摂取との比較試験等は何ら示されておらず、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できるように確認できたものではない。 よって、本願発明の効果は、引用発明に比して当業者が予測し得ない格別顕著なものであるということはできない。 (4)小括 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、同条6項1号に規定する要件を満たしていない。 また、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-09-30 |
結審通知日 | 2015-10-06 |
審決日 | 2015-10-19 |
出願番号 | 特願2010-546242(P2010-546242) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(A23G)
P 1 8・ 536- WZ (A23G) P 1 8・ 121- WZ (A23G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小倉 梢 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
千壽 哲郎 佐々木 正章 |
発明の名称 | 改善された芳香含有菓子製品 |
代理人 | 田中 夏夫 |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 新井 栄一 |
代理人 | 平木 祐輔 |