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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M |
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管理番号 | 1311747 |
審判番号 | 不服2014-13118 |
総通号数 | 196 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-07-07 |
確定日 | 2016-03-03 |
事件の表示 | 特願2010- 61197「冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月 6日出願公開、特開2011-195630〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成22年3月17日に出願された特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。 平成26年 1月 9日付け 拒絶理由通知 平成26年 3月13日 意見書 平成26年 4月 1日付け 拒絶査定 平成26年 7月 7日 本件審判請求 平成27年 6月18日付け 拒絶理由通知 平成27年 8月21日 意見書 第2 当審の拒絶理由通知の概要 当審は、概略、下記のとおりの拒絶理由を通知した。 「第3 拒絶理由 しかるに、本願は以下の拒絶理由を有するものである。 理由1:本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項の規定を満たしていない。 理由2:本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由3:本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 I.理由1について 以下、いわゆる「サポート要件」に係る適否につき検討する。 ・・(中略)・・ したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、たとえその技術常識に照らしても、本願の各請求項に記載された事項で特定される全ての場合について、上記本願発明の解決課題を解決することができるものと認識することができるとはいえない。 よって、本願請求項1及び2に記載された事項で特定される発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができない(平成17年(行ケ)10042号判決参照)から、本願の各請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではなく、本願は、同法同条同項(柱書)の規定を満たしていない。 II.理由2及び3について 引用刊行物: ・特開2002-129178号公報(新たに引用、本願明細書における「特許文献11」) (以下、上記文献を「引用例」という。) ・・(後略)」 第3 本願特許請求の範囲に記載された事項及び本願に係る発明 本願特許請求の範囲の請求項1及び2には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルであって、前記脂肪酸における2-メチルペンタン酸の割合が20モル%以上であるエステルを、冷凍機油全量基準で10質量%以上含有し、ジフルオロメタン冷媒と共に用いられることを特徴とする冷凍機油。 【請求項2】 請求項1に記載の冷凍機油と、ジフルオロメタン冷媒とを含有することを特徴とする冷凍機用作動流体組成物。」 (以下、請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。) 第4 当審の判断 当審は、上記第2で示した拒絶理由通知における理由1ないし3により、依然として、本願は拒絶すべきものと判断する。 I.理由1について 以下、いわゆる「サポート要件」に係る適否につき検討する。 1.前提 いわゆる「サポート要件」に係る適否につき検討するにあたり、 「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」であり、かつ 「発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開示せず,本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに,特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって,その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し,明細書のサポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである」(知的財産高等裁判所特別部平成17年(行ケ)10042号判決参照)から、当審は、当該見地に基づき検討を行う。 2.本願明細書の発明の詳細な説明の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の(a)ないし(h)の各事項が記載されている。 (a) 「【技術分野】 【0001】 本発明は冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物に関し、より詳しくは、ジフルオロメタン冷媒(HFC-32)とともに用いた場合に有用な冷凍機油、ならびにその冷凍機油を用いた冷凍機用作動流体組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 近年のオゾン層破壊の問題から、従来冷凍機器の冷媒として使用されてきたCFC(クロロフルオロカーボン)およびHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が規制の対象となり、これらに代わってHFC(ハイドロフルオロカーボン)が冷媒として使用されつつある。 【0003】 CFCやHCFCを冷媒とする場合は、冷凍機油として鉱油やアルキルベンゼンなどの炭化水素油が好適に使用されてきたが、冷媒が替わると共存下で使用される冷凍機油は、冷媒との相溶性、潤滑性、冷媒との溶解粘度、熱・化学的安定性など予想し得ない挙動を示すため、冷媒ごとに冷凍機油の開発が必要となる。そこで、HFC冷媒用冷凍機油として、例えば、ポリアルキレングリコール(特許文献1を参照)、エステル(特許文献2を参照)、炭酸エステル(特許文献3を参照)、ポリビニルエーテル(特許文献4を参照)などが開発されている。これらの冷凍機油の中でも、エステルは冷蔵庫やエアコン用などとして広く使用されている。 【0004】 HFC冷媒のうち、HFC-134a、R407C、R410Aは、カーエアコン用、冷蔵庫用またはルームエアコン用の冷媒として標準的に用いられている。しかし、これらのHFC冷媒は、オゾン破壊係数(ODP)がゼロであるものの地球温暖化係数(GWP)が高いため、規制の対象となりつつある。そこで、これらHFCに替わる冷媒の開発が急務となっている。 【0005】 このような背景の下、上記HFCに代わる冷媒として、ODPおよびGWPの双方が非常に小さく、不燃性であり、かつ、冷媒性能の尺度である熱力学的特性が上記HFCとほぼ同等である、フルオロプロペン類の冷媒の使用が提案されている。さらに、フルオロプロペンと飽和ハイドロフルオロカーボン、炭素数3?5の飽和炭化水素、ジメチルエーテル、二酸化炭素、ビス(トリフルオロメチル)サルファイドあるいは3フッ化ヨウ化メタンとの混合冷媒の使用も提案されている(特許文献5を参照)。また、ジフルオロメタン冷媒(HFC-32)はHFC冷媒の中でも地球温暖化係数が比較的低く冷凍効率が高く、注目されつつある。 【0006】 ところで、冷凍機器の冷媒循環サイクルにおいては、通常、冷媒圧縮機を潤滑する冷凍機油が冷媒とともにサイクル内を循環するため、冷凍機油には冷媒との相溶性が要求される。しかしながら、HFC冷媒用として従来使用されている冷凍機油をジフルオロメタン冷媒とともに用いると、冷媒と冷凍機油との十分な相溶性が得られず、冷媒圧縮機から吐出された冷凍機油がサイクル内に滞留しやすくなり、その結果、冷媒圧縮機内の冷凍機油量が低下して潤滑不良を起こしたり、キャピラリ等の膨張機構を閉塞したりするといった問題を生じる。 【0007】 そこで、かかる現象を回避すべく、ジフルオロメタン冷媒用冷凍機油の開発が進められており、例えば、特許文献6?12に開示されているようなエステル系冷凍機油が提案されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0008】 【特許文献1】特開平02-242888号公報 【特許文献2】特開平03-200895号公報 【特許文献3】特開平03-217495号公報 【特許文献4】特開平06-128578号公報 【特許文献5】国際公開WO2006/094303号パンフレット 【特許文献6】特開平6-17073号公報 【特許文献7】特開平10-298572号公報 【特許文献8】特開2002-060771号公報 【特許文献9】特開2002-105471号公報 【特許文献10】特開2002-129177号公報 【特許文献11】特開2002-129178号公報 【特許文献12】特開2002-129179号公報」 (b) 「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 しかしながら、上記従来のエステル系冷凍機油を用いた場合であっても、ジフルオロメタン冷媒との相溶性と、ジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性とを両立することは非常に困難である。例えば、従来のエステル系冷凍機油のうちジフルオロメタン冷媒に対して良好な相溶性を示すものは、ジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性が不十分となる傾向にある。なお、潤滑性の影響因子として粘性(動粘度等)が挙げられるが、ジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性において問題となるのは冷凍機油とジフルオロメタン冷媒との混合物(すなわち作動流体組成物)の粘性であり、その制御は必ずしも容易ではない。さらに、粘度制御の対象が冷凍機油または作動流体組成物のいずれであるかによらず、粘性を調整するだけでは潤滑性を十分に改善することができない。 【0010】 さらに、冷媒循環サイクル内における冷凍機油の使用環境は、高温から低温まで幅広い温度域にわたるものであり、また、冷凍機油とジフルオロメタン冷媒の存在比率は冷媒循環サイクルの位置によって大きく異なる。しかし、従来のエステル系冷凍機油は、このような使用環境に対する適合性が必ずしも十分とはいえない。特に、低温流動性が不十分なものが多く、この問題は特許文献10および11に開示されているエステルの場合に顕著である。 【0011】 本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ジフルオロメタン冷媒とともに用いた場合に、冷媒相溶性、潤滑性および低温流動性の全てを高水準で達成することが可能な冷凍機油、ならびにそれを用いた冷凍機用作動流体組成物を提供することを目的とする。」 (c) 「【課題を解決するための手段】 【0012】 上記課題を解決するために、本発明は、ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルであって、上記脂肪酸における2-メチルペンタン酸の割合が20モル%以上であるエステルを、冷凍機油全量基準で10質量%以上含有し、ジフルオロメタン冷媒と共に用いられることを特徴とする冷凍機油を提供する。 【0013】 また、本発明は、上記本発明の冷凍機油と、ジフルオロメタン冷媒とを含有することを特徴とする冷凍機用作動流体組成物を提供する。 【発明の効果】 【0014】 本発明によれば、ジフルオロメタン冷媒とともに用いた場合に、冷媒相溶性、潤滑性および低温流動性の全てを高水準で達成することが可能な冷凍機油、ならびにそれを用いた冷凍機用作動流体組成物が提供される。」 (d) 「【0017】 ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステル(以下、場合により「ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル」という)の含有量は、冷凍機油全量基準で10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上含有するものである。本実施形態に係るジフルオロメタン冷媒用冷凍機油は、後述するようにジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外の基油や添加剤を含有してもよいが、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有量が10質量%未満であると、ジフルオロメタン冷媒との相溶性、ジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性および低温流動性の全てを高水準で達成することができなくなり、特に相溶性と潤滑性とを両立することが非常に困難となる。」 (e) 「【0018】 なお、本実施形態に係るジペンタエリスリトール脂肪酸エステルには、ジペンタエリスリトールの全ての水酸基がエステル化された完全エステルと、ジペンタエリスリトールの水酸基の一部がエステル化せずに残っている部分エステルと、完全エステルと部分エステルとの混合物と、が包含されるが、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは完全エステルであることが好ましい。 【0019】 ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸において、2-メチルペンタン酸の割合は20モル%以上であり、好ましくは25モル%以上であり、より好ましくは30モル%以上である。2-メチルペンタン酸の割合が前記下限値未満であると、ジフルオロメタン冷媒との相溶性、ジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性および低温流動性の全てを高水準で達成することができなくなり、特に相溶性と潤滑性とを両立することが非常に困難となる。なお、本発明でいう2-メチルペンタン酸の割合とは、冷凍機油に含有されるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸全量を基準とした値である。 【0020】 本実施形態に係るジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、2-メチルペンタン酸を20モル%以上含有する限りにおいて、2-メチルペンタン酸以外の脂肪酸を構成酸成分として含有してもよい。 【0021】 2-メチルペンタン酸以外の脂肪酸としては、具体的には、・・(中略)・・ペンタン酸、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、2,2-ジメチルプロパン酸、ヘキサン酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、・・(中略)・・2-エチルブタン酸、ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、3-メチルヘキサン酸、4-メチルヘキサン酸、5-メチルヘキサン酸、・・(中略)・・等の炭素数2?9の脂肪酸;・・(中略)・・等が挙げられる。 【0022】 2-メチルペンタン酸とそれ以外の脂肪酸とを組み合わせる場合、2-メチルペンタン酸以外の脂肪酸としては、炭素数5?7の脂肪酸および/または炭素数8?9の分岐脂肪酸を用いることが好ましい。2-メチルペンタン酸と炭素数5?7の脂肪酸および/または炭素数8?9の分岐脂肪酸とを組み合わせて用いると、2-メチルペンタン酸と、炭素数5?7の脂肪酸および/または炭素数8?9の分岐脂肪酸以外の脂肪酸と、を組み合わせて用いた場合に比べてジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性とジフルオロメタン冷媒との相溶性との双方がより向上する傾向にある。また、2-メチルペンタン酸と炭素数5?7の脂肪酸および/または炭素数8?9の分岐脂肪酸とを組み合わせて用いる場合、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸における炭素数8?9の分岐脂肪酸の割合は80モル%以下であることが必要であり、75モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。炭素数8?9の分岐脂肪酸の割合が80モル%を超えるとジフルオロメタン冷媒との相溶性が不十分となる。 【0023】 また、炭素数5?7の脂肪酸および/または炭素数8?9の分岐脂肪酸に加えて、これらの脂肪酸以外の脂肪酸を使用する場合、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸における炭素数5?7の脂肪酸および/または炭素数8?9の分岐脂肪酸の割合が60モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。炭素数5?7の脂肪酸および/または炭素数8?9の分岐脂肪酸の割合が前記の範囲内であると、ジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性とジフルオロメタン冷媒との相溶性との双方がより高水準で両立される傾向にある。 【0024】 本実施形態に係るジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの中でも、酸構成成分が2-メチルペンタン酸のみからなるもの、ならびに2-メチルペンタン酸と炭素数5?7の脂肪酸とからなるものが、ジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性とジフルオロメタン冷媒との相溶性との両立の面で特に好ましい。 ・・(中略)・・ 【0028】 本発明にかかるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する酸構成成分の好ましい例としては、以下のものが挙げられる。 2-メチルペンタン酸; 2-メチルペンタン酸と、ペンタン酸、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、ヘキサン酸、2-エチルブタン酸、2-エチルペンタン酸および2-メチルヘキサン酸からなる群より選ばれる1?7種との組合せ; ・・(中略)・・の組み合わせ。」 (f) 「【0029】 本実施形態に係る冷凍機油において、上記ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは主として基油として用いられる。本実施形態に係る冷凍機油の基油としては、上記ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルのみを単独(すなわちジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有量が100質量%)で用いてもよい。あるいは、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルに加えて、その優れた性能を損なわない程度に、上記ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のポリオールエステルやコンプレックスエステル、脂環式ジカルボン酸エステル等のエステル、ポリグリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテル等の酸素を含有する合成油(以下、場合により「他の含酸素合成油」という)を併用してもよい。 【0030】 本実施形態に係るジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外の基油としては、鉱油、オレフィン重合体アルキルジフェニルアルカン、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等の炭化水素系油、ならびに本実施形態に係るジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のエステル系基油(モノエステル、構成脂肪酸として直鎖脂肪酸のみを含むポリオールエステル、アルキル芳香族エステル、脂環式カルポン酸エステル等)、ポリグリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテルなどの酸素を含有する合成油を併用して用いても良い。酸素を含有する合成油としては、上記の中でも本実施形態に係るジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のエステル、ポリグリコール、ポリビニルエーテルが好ましく、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のポリオールエステルが特に好ましい。 【0031】 ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと脂肪酸とのエステルが挙げられ、特に好ましいものは、ネオペンチルグリコールと脂肪酸とのエステルおよびペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルである。 【0032】 ネオペンチルグリコールエステルとしては、炭素数5?9の脂肪酸エステルであることが好ましい。このようなネオペンチルグリコールエステルとしては、具体的には・・(中略)・・等が挙げられる。 【0033】 ペンタエリスリトールエステルとしては、ペンタエリスリトールと炭素数5?7の脂肪酸のエステル、ペンタエリスリトールと炭素数5?7の脂肪酸および炭素数8?9の分岐脂肪酸のエステルが好ましい。このようなペンタエリスリトールエステルとしては、具体的には、ペンタエリスリトールと下記の脂肪酸とのエステルが挙げられる。 ・・(中略)・・ 【0035】 本実施形態において、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のポリオールエステルを配合する場合、冷凍機油全量基準で、90質量%以下であることが必要であり、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらにより好ましく、60質量%以下であることがさらにより一層好ましく、50質量%以下であることが最も好ましい。また、ポリオールエステル以外の含酸素合成油を配合する場合、冷凍機油全量基準で90質量%以下であることが必要であり、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のポリオールエステルや他の含酸素合成油の配合量が前記上限値を超えると、ジフルオロメタン冷媒との相溶性と潤滑性とが高水準で両立されにくくなる。 ・・(中略)・・ 【0038】 また、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のポリオールエステルは、1種の脂肪酸と1種の多価アルコールとのエステル、2種以上の脂肪酸と1種の多価アルコールとのエステル、1種の脂肪酸と2種以上の多価アルコールとのエステル、2種以上の脂肪酸と2種以上の多価アルコールとのエステルのいずれであってもよい。これらの中でも、混合脂肪酸を用いたポリオールエステル、特にエステル分子中に2種以上の脂肪酸を含んで構成されるポリオールエステルは、低温特性や冷媒との相溶性に優れる。」 (g) 「【0063】 本実施形態に係る冷凍機油の動粘度は特に限定されないが、40℃における動粘度は、好ましくは3?1000mm^(2)/s、より好ましくは4?500mm^(2)/s、最も好ましくは5?400mm^(2)/sとすることができる。また、100℃における動粘度は好ましくは1?100mm^(2)/s、より好ましくは2?50mm^(2)/sとすることができる。動粘度が前記下限値未満の場合には潤滑性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限値を超えるとジフルオロメタン冷媒との相溶性が不十分となる傾向にある。 【0064】 また、本実施形態に係る冷凍機油の体積抵抗率は特に限定されないが、好ましくは1.0×10^(12)Ω・cm以上、より好ましくは1.0×10^(13)Ω・cm以上、最も好ましくは1.0×10^(14)Ω・cm以上とすることができる。特に、密閉型の冷凍機用に用いる場合には高い電気絶縁性が必要となる傾向にある。なお、本発明において、体積抵抗率とは、JIS C2101「電気絶縁油試験方法」に準拠して測定した25℃での値を意味する。 【0065】 また、本実施形態に係る冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、冷凍機油全量基準で好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下とすることができる。特に密閉型の冷凍機用に用いる場合には、冷凍機油の熱・化学的安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。 【0066】 また、本実施形態に係る冷凍機油の酸価は特に限定されないが、冷凍機または配管に用いられている金属への腐食を防止するため、好ましくは0.1mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g以下とすることができる。なお、本発明において、酸価とは、JISK2501「石油製品および潤滑油一中和価試験方法」に準拠して測定した酸価を意味する。 ・・(中略)・・ 【0068】 本実施形態に係る冷凍機油は、ジフルオロメタン冷媒とともに用いた場合に十分に高い潤滑性と十分に高い相溶性とを示すものであり、ジフルオロメタン冷媒用冷凍機の冷凍機油として幅広く使用することができる。本実施形態に係る冷凍機油が使用される冷凍機としては、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン、冷蔵庫、自動車用エアコン、除湿機、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷却装置等が挙げられるが、中でも、密閉型圧縮機を有する冷凍機において特に好ましく用いられる。また、本実施形態に係る冷凍機油は、往復動式、回転式、遠心式等の何れの形式の圧縮機にも使用可能である。なお、これらの冷凍機において、本実施形態に係る冷凍機油は、後述するように、ジフルオロメタン冷媒と混合された冷凍機用作動流体組成物として用いられる。 ・・(中略)・・ 【0076】 本実施形態に係る冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物は、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するエアコン、冷蔵庫、あるいは開放型または密閉型のカーエアコンに好ましく用いられる。また、本実施形態に係る冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物は、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷却装置等に好ましく用いられる。さらに、本実施形態に係る冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物は、遠心式の圧縮機を有するものにも好ましく用いられる。」 (h) 「【実施例】 【0081】 以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。 【0082】 [実施例1?2および比較例1?9] 実施例1?2および比較例1?9においては、それぞれ以下に示す基油1?11を用いて試料油を調製した。得られた各試料油の性状(40℃および100℃における動粘度、全酸価)を表1?3に示す。 (基油) 基油1:ジペンタエリスリトールと2-メチルペンタン酸とのヘキサエステル 基油2:ジペンタエリスリトールと脂肪酸混合物(2-メチルペンタン酸50モル%、2-エチルブタン酸50モル%の混合物) 基油3:ペンタエリスリトールとn-ペンタン酸とのテトラエステル 基油4:ジペンタエリスリトールとn-ペンタン酸とのヘキサエステル 基油5:ネオペンチルグリコールと2-メチルペンタン酸とのジエステル 基油6:トリメチロールプロパンと2-メチルペンタン酸とのトリエステル 基油7:ペンタエリスリトールと2-メチルペンタン酸とのテトラエステル 基油8:ペンタエリスリトールと2-エチルブタン酸とのテトラエステル 基油9:ジペンタエリスリトールと2-エチルブタン酸とのヘキサエステル 基油10:ペンタエリスリトールとカルボン酸混合物(2-メチルヘキサン酸70モル%、2-エチルペンタン酸30モル%)とのテトラエステル 基油11:ペンタエリスリトールとカルボン酸混合物(2-エチルヘキサン酸50モル%、3,5,5-トリメチルヘキサン酸50モル%)とのテトラエステル 【0083】 次に、上記の各試料油について、以下に示す試験を行った。 【0084】 (冷媒との相溶性試験) JIS-K-2211「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して、ジフルオロメタン冷媒(HFC-32)18gと試料油2gとの混合物を30℃から-40℃まで徐々に冷却し、混合物が相分離または白濁した温度を測定した。得られた結果を表1?3に示す。なお、表1?3中、「<-40」とは、本試験の測定温度域において相分離および白濁が認められなかったことを表し、「分離」とは、30℃で既に相分離または白濁していたことを表す。 【0085】 (潤滑性試験) 密閉容器の内部に上側試験片にベーン(SKH-51)、下側試験片にディスク(FC250HRC40)を用いた摩擦試験機を装着した。摩擦試験部位に試料油を600g導入し、系内を真空脱気した後、HFC-32を導入して加熱した。系密閉容器内の温度を100℃、冷媒圧力を1.5Mpaとした後、荷重ステップ10kgf(ステップ時間2分)で段階的に荷重を100kgfまで上げた。各試料油について60分間の試験後のベーンの摩耗巾およびディスクの摩耗深さを計測した。 【0086】 (低温析出性試験) 試料油を試験管に入れ、ドライアイスを入れたエタノール浴(-70℃)に24時間浸漬し、白濁の有無を観察した。 【0087】 (安定性試験) 200mlのオートクレーブに水分を1000ppmに調整した試料油85g,HFC-32を15g封入し、175℃で500時間加熱した後の試料油の酸価を測定した。 【0088】 【表1】 【0089】 【表2】 【0090】 【表3】 」 3.本願発明に係る解決課題 本願明細書の発明の詳細な説明の記載(摘示(b)参照)からみて、本願発明の解決課題は、(従来技術に比して)「ジフルオロメタン冷媒とともに用いた場合に、冷媒相溶性、潤滑性および低温流動性の全てを高水準で達成することが可能な冷凍機油、ならびにそれを用いた冷凍機用作動流体組成物」の提供にあるものと認められる。 4.検討 (1)本願明細書の発明の詳細な説明の実施例に係る部分以外の記載(摘示(a)ないし(g)参照)を検討すると、本願発明の冷凍機油及びそれを含有する冷凍機用作動流体組成物により「ジフルオロメタン冷媒とともに用いた場合に、冷媒相溶性、潤滑性および低温流動性の全てを(従来技術に比して)高水準で達成する」ことができるであろうと当業者が客観的に認識することができるような作用機序(2-メチルペンタン酸の増減及びジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの増減によりいかなる特性変化を招くかなど)について記載するものではない。 なお、本願明細書の発明の詳細な説明には、 「ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸において、2-メチルペンタン酸の割合は20モル%以上であ・・る。2-メチルペンタン酸の割合が前記下限値未満であると、ジフルオロメタン冷媒との相溶性、ジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性および低温流動性の全てを高水準で達成することができなくなり、特に相溶性と潤滑性とを両立することが非常に困難となる。なお、本発明でいう2-メチルペンタン酸の割合とは、冷凍機油に含有されるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸全量を基準とした値である。」(摘示(e)【0019】参照) との記載が存するのに対して、本願発明の冷凍機油につき、「本実施形態において、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のポリオールエステルを配合する場合、冷凍機油全量基準で、90質量%以下であることが必要であり、・・ポリオールエステル以外の含酸素合成油を配合する場合、冷凍機油全量基準で90質量%以下であることが必要であり、・・ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のポリオールエステルや他の含酸素合成油の配合量が前記上限値を超えると、ジフルオロメタン冷媒との相溶性と潤滑性とが高水準で両立されにくくなる。」(摘示(f)【0035】参照) との記載も存するから、上記「ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルにおける2-メチルペンタン酸の割合」及び「冷凍機油におけるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの割合」のいずれかが上記量比範囲にない場合に、「ジフルオロメタン冷媒との相溶性」又は「(冷凍機用作動流体組成物とした場合の)潤滑性」のいずれかが「高水準」とはいえない程度に悪化するのであろうことは一応理解できるものの、冷凍機油全体に対して極小量の2-メチルペンタン酸のジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを含有する場合(例えば2-メチルペンタン酸の割合が20モル%であるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを10質量%含有する冷凍機油である場合)を含む本願発明の冷凍機油において、(従来技術に比して)「ジフルオロメタン冷媒との相溶性と潤滑性とが高水準で両立され」るか否かを、当業者が上記記載に基づき客観的に理解できるものとは認めることができない。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例に係る部分以外の記載では、本願発明が全ての場合につき、上記解決課題を解決できると当業者がその技術常識に照らして客観的に認識することができるように記載したものということができない。 (2)次に、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例(比較例)に係る部分の記載(摘示(h)参照)を検討すると、極めて限られた実施例及び比較例に係る記載のみであり、例えば、脂肪酸として、2-メチルペンタン酸を50モル%未満(20モル%以上)で使用した場合又は他の脂肪酸として2-エチルブタン酸以外の脂肪酸を使用した場合など及び本願発明に係る特定のエステル以外の潤滑油を冷凍機油の90質量%未満使用した場合などにつき実験例に係る記載がない。 そして、本願明細書における「実施例1」及び「実施例2」の場合、「比較例1」ないし「比較例6」の場合に比して、低温における冷媒相溶性(二層分離温度)につき明らかに劣るものであり、上記解決課題に則した冷媒相溶性の効果の発現につき、当業者が認識することができるとはいえないし、また、「比較例7」の場合、「低温析出性」の点を除き、「実施例1」及び「実施例2」の場合と「二層分離温度」、「潤滑性試験」及び「安定性試験」につき有意な効果上の差異が存するものとは認められないし、「低温析出性」の有無についても、格別な効果上の差異であるということはできない。 (なお、上記「低温析出性試験」については、上記拒絶理由通知の際、当審から審尋を付記し、当該試験を行う技術的意義につき確認したところ、請求人が提示した平成27年8月21日付け意見書において、当該試験は「主として、析出物により膨張機構が閉塞するおそれがあるかどうかの評価を目的とするもの」との回答を得たが、当該「析出物により膨張機構が閉塞するおそれ」は、冷媒及び潤滑剤を含む冷凍機用作動流体組成物として膨張機構を有する冷凍機で使用した場合の問題であり、冷凍機油(潤滑剤)のみで発生する問題ではなく、冷凍機油のみを-70℃なる寒冷環境で保管・取扱いなどを行うべき技術的要因などが存するものとも認められないから、上記回答は当を得ないものであり、採用することができない。) してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例(比較例)に係る部分の記載から、本願発明が、全ての場合において、上記解決課題に則した効果を発現し課題につき解決達成できるであろうと当業者が客観的に認識することができるということはできない。 (3)請求人は、本件審判請求書において、「基油12」として、ジペンタエリスリトールと脂肪酸混合物(2-メチルペンタン酸20モル%、2-エチルブタン酸80モル%の混合物)との混合エステル化物のみを用いた「[実施例3]」に係る追試結果を「念のため確認的に」提示し、もって、「本願明細書の記載及び技術常識を参酌した当業者においては、本願発明の構成により上記の優れた効果が奏されることを容易に理解できる」と主張している(審判請求書「(3)」の「(3-1)本願発明の説明」の欄)。 しかるに、上記1.で前提として示したとおり、「発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開示せず,本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに,特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって,その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し,明細書のサポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである」から、上記「[実施例3]」に係る追試結果の提示は、上記「発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足すること」に該当するものであって、当該主張を採用することができないものである。 また、仮に当該主張を採用したとしても、ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルであって、前記脂肪酸における2-メチルペンタン酸の割合が20モル%以上であるエステルを、冷凍機油全量基準で10質量%以上含有し、残部が他の冷凍機油である本願発明の場合につき、所期の効果を奏するか否か、すなわち、本願発明の上記解決課題を解決することができるか否かについては、依然として不明であるから、結局、上記主張は当を得ないものであり、採用することができない。 (なお、本願明細書における「実施例1」及び「実施例2」並びに本件審判請求書における「実施例3」の各結果を総合すると、2-メチルペンタン酸の含有量(割合)が減少すると、「(ディスク)摩耗深さ」については大きな変動はないものの、「(ベーン)摩耗幅」については増大する、すなわち潤滑性が低下する傾向にあることが看取できるから、本願発明において、冷凍機油全体に対する2-メチルペンタン酸の含有量(割合)が少ない場合、例えば「基油12」が10質量%、「基油9」が90質量%である冷凍機油は、上記解決課題を解決できない可能性が高いものとさえ推認することができる。) (4)したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、たとえその技術常識に照らしても、本願の各請求項に記載された事項で特定される全ての場合について、上記本願発明の解決課題を解決することができるものと認識することができるとはいえない。 よって、本願請求項1及び2に記載された事項で特定される発明が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができないから、本願の各請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。 5.まとめ 以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項(柱書)の規定を満たしているものではない。 II.理由2及び3について 引用刊行物: ・特開2002-129178号公報(本願明細書における「特許文献11」) (以下、上記文献を「引用例」という。) 1.引用例の記載事項 上記引用例には、以下の(ア)ないし(コ)の各事項が記載されている。 (ア) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルを冷凍機油全量基準で10質量%以上含有し、且つ前記エステルを構成する前記脂肪酸における炭素数5?7の脂肪酸の割合が20モル%以上であることを特徴とするジフルオロメタン冷媒用冷凍機油。 【請求項2】 請求項1に記載のジフルオロメタン冷媒用冷凍機油とジフルオロメタン冷媒とを含有することを特徴とする冷凍機用流体組成物。」 (イ) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は冷凍機油及び冷凍機用流体組成物に関するものであり、詳しくは、ジフルオロメタン冷媒(HFC-32)とともに用いた場合に有用な冷凍機油、並びにその冷凍機油を用いた冷凍機用流体組成物に関するものである。」 (ウ) 「【0006】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来のエステル系冷凍機油を用いた場合、ジフルオロメタン冷媒との相溶性は改善されるものの、ジフルオロメタン冷媒存在下において十分な潤滑性を得ることはできず、これらの冷凍機油は実用に供し得るものとしては未だ十分なものではなかった。 【0007】本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ジフルオロメタン冷媒とともに用いた場合であっても、十分に高い冷媒相溶性と十分に高い潤滑性とを有するジフルオロメタン冷媒用冷凍機油、並びにそれを用いた冷凍機用流体組成物を提供することを目的とする。」 (エ) 「【0011】 【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。 【0012】本発明のジフルオロメタン冷媒用冷凍機油は、ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステル(以下、場合により「ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル」という)を冷凍機油全量基準で10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上含有するものである。本発明のジフルオロメタン冷媒用冷凍機油は、後述するようにジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外の基油や添加剤を含有してもよいが、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルが10質量%未満であると、潤滑性と相溶性とを高水準で両立することができなくなる。なお、本発明にかかるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルとは、ジペンタエリスリトールの全ての水酸基がエステル化された完全エステルと、ジペンタエリスリトールの水酸基の一部がエステル化せずに残っている部分エステルと、完全エステルと部分エステルとの混合物と、を包含するものであるが、完全エステルであることが好ましい。 【0013】本発明においては、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸における炭素数5?7の脂肪酸の割合が20モル%以上であることが必要であり、好ましくは25モル%以上であり、より好ましくは30モル%以上である。炭素数5?7の脂肪酸の割合が前記下限値未満であると、ジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性とジフルオロメタン冷媒との相溶性とが高水準で両立されにくくなる。なお、本発明でいう炭素数5?7の脂肪酸の割合とは、冷凍機油に含有されるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸全量を基準とした値である。 【0014】本発明にかかる炭素数5?7の脂肪酸としては、直鎖又は分岐の飽和脂肪酸が好ましく用いられ、具体的には、ペンタン酸、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、2,2-ジメチルプロパン酸、ヘキサン酸、2-メチルペンタン酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、2,2-ジメチルブタン酸、2,3-ジメチルブタン酸、2-エチルブタン酸、ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、3-メチルヘキサン酸、4-メチルヘキサン酸、5-メチルヘキサン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、2,3-ジメチルペンタン酸、2,4-ジメチルペンタン酸、3,3-ジメチルペンタン酸、3,4-ジメチルペンタン酸、4,4-ジメチルペンタン酸、2-エチルペンタン酸、3-エチルペンタン酸、1,1,2-トリメチルブタン酸、1,2,2-トリメチルブタン酸、1-エチル-1メチルブタン酸、1-エチル-2-メチルブタン酸等が挙げられる。これらの中でも、ジフルオロメタン冷媒との相溶性の面から、炭素数5?6の直鎖脂肪酸及び/又は炭素数5?7の分岐脂肪酸が好ましく用いられる。また、潤滑性の面からは、炭素数5?6の直鎖脂肪酸が好ましく用いられ、加水分解安定性の面からは、炭素数5?7の分岐脂肪酸が好ましく用いられる。 【0015】本発明において、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、炭素数5?7の脂肪酸を20モル%以上含有する限りにおいて、炭素数5?7の脂肪酸以外の脂肪酸を構成酸成分として含有してもよい。」 (オ) 「【0020】本発明においては、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が上記の条件を満たす限りにおいて、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの分子構造が単一であってもよく、また、分子構造の異なるエステルの2種以上の混合物であってもよい。 【0021】ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの分子構造が単一である場合、すなわちジペンタエリスリトール脂肪酸エステルが1種のエステル分子のみによって構成される場合、当然のことながら当該エステル分子はその分子構造において上記の条件を満たしていなければならない。一方、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルが分子構造の異なるエステルの2種以上の混合物である場合には、個々の分子については必ずしも上記の条件を満たしている必要はなく、冷凍機油中に含まれるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸全体として上記条件(a)?(c)を満たしていればよい。 【0022】上記した通り、本発明にかかるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、炭素数5?7の脂肪酸を必須とし、必要に応じてその他の脂肪酸を構成成分として含むものである。すなわち、本発明にかかるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは1種のみの脂肪酸を酸構成成分としているものであっても、2種以上の構造の異なる脂肪酸を酸構成成分としているものであってもよいが、当該ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは、酸構成成分として、カルボニル炭素と隣接する炭素原子(α位炭素原子)が四級炭素でない脂肪酸のみを含有することが好ましい。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸中に、α位炭素原子が四級炭素である脂肪酸が含まれる場合には、ジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性が不十分となる傾向にある。 【0023】本発明にかかるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する酸構成成分の好ましい例としては、ペンタン酸;・・(中略)・・2-メチルペンタン酸;2-エチルブタン酸;・・(中略)・・ペンタン酸、2-メチルブタン酸、3-メチルブタン酸、ヘキサン酸、2-メチルペンタン酸、2-エチルブタン酸、2-エチルペンタン酸及び2-メチルヘキサン酸からなる群より選ばれる2種;・・(中略)・・2-メチルペンタン酸と3,5,5-トリメチルヘキサン酸;・・(中略)・・2-メチルペンタン酸と2-エチルヘキサン酸;・・(中略)・・2-メチルペンタン酸と2-エチルヘキサン酸と3,5,5-トリメチルヘキサン酸;・・(中略)・・ペンタン酸と2-メチルブタン酸と3-メチルブタン酸とヘキサン酸と2-メチルペンタン酸と2-エチルブタン酸と2-エチルペンタン酸と2-メチルヘキサン酸と3,5,5-トリメチルヘキサン酸;ペンタン酸と2-メチルブタン酸と3-メチルブタン酸とヘキサン酸と2-メチルペンタン酸と2-エチルブタン酸と2-エチルペンタン酸と2-メチルヘキサン酸と2-エチルヘキサン酸;ペンタン酸と2-メチルブタン酸と3-メチルブタン酸とヘキサン酸と2-メチルペンタン酸と2-エチルブタン酸と2-エチルペンタン酸と2-メチルヘキサン酸と3,5,5-トリメチルヘキサン酸と2-エチルヘキサン酸、等が挙げられる。」 (カ) 「【0024】本発明の冷凍機油において、上記ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルは主として基油として用いられる。本発明の冷凍機油の基油としては、上記ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルのみを単独(すなわち本発明にかかるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルの含有量が100質量%)で用いてもよいが、これに加えて、その優れた性能を損なわない程度に、上記ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外の他のポリオールエステルやコンプレックスエステル、脂環式ジカルボン酸エステル等のエステル、ポリグリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテル等の酸素を含有する合成油(以下、場合により「他の含酸素合成油」という)を併用してもよい。」 (キ) 「【0029】本発明において、他の含酸素合成油を配合する場合の配合量は、本発明の冷凍機油の優れた潤滑性と相溶性とを損なわない限りにおいて特に制限はないが、ジペンタエリスリトール以外のポリオールエステルを配合する場合、冷凍機油全量基準で、90質量%以下であることが必要であり、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらにより好ましく、60質量%以下であることがさらにより一層好ましく、50質量%以下であることが最も好ましく;ポリオールエステル以外の含酸素合成油を配合する場合、冷凍機油全量基準で50質量%以下であることが必要であり、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のポリオールエステルや他の含酸素合成油の配合量が前記上限値を超えると、ジフルオロメタン冷媒との相溶性と潤滑性とが高水準で両立されにくくなる。」 (ク) 「【0050】また、本発明の冷凍機油の体積抵抗率は特に限定されないが、好ましくは1.0×10^(11)Ω・cm以上、より好ましくは1.0×10^(12)Ω・cm以上、さらに好ましくは1.0×10^(13)Ω・cm以上である。特に、本発明の冷凍機油を密閉型冷媒圧縮機を備える冷凍機に用いる場合には高い電気絶縁性が必要となる傾向にある。なお、本発明において、体積抵抗率とは、JIS C 2101「電気絶縁油試験方法」に準拠して測定される25℃での値[Ω・cm]をいう。 【0051】さらに、本発明の冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、冷凍機油全量基準で好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である。特に、本発明の冷凍機油を密閉型冷媒圧縮機を備える冷凍機に用いる場合には、冷凍機油の熱・加水分解安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。 【0052】さらにまた、本発明の冷凍機油の全酸価は特に限定されないが、好ましくは0.1mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g以下である。全酸価が前記の範囲内であると、冷凍機又は配管に用いられている金属に対する腐食防止性が向上する傾向にある。なお、本発明において、全酸価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」に準拠して測定される全酸価の値を表す。 ・・(中略)・・ 【0054】さらにまた、本発明の冷凍機油の動粘度は特に限定されないが、40℃における動粘度が好ましくは20?400mm^(2)/s、より好ましくは25?350mm^(2)/s、最も好ましくは30?300mm^(2)/sである。動粘度が前記下限値未満の場合には潤滑性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限値を超えるとジフルオロメタン冷媒との相溶性が不十分となる傾向にある。 【0055】本発明のジフルオロメタン冷媒用冷凍機油は、ジフルオロメタン冷媒とともに用いた場合に十分に高い潤滑性と十分に高い相溶性とを示すものであり、ジフルオロメタン冷媒用冷凍機用の冷凍機油として幅広く使用することができる。本発明の冷凍機油が使用される冷凍機としては、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン、冷蔵庫、自動車用エアコン、除湿機、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷却装置等が挙げられるが、中でも、密閉型圧縮機を有する冷凍機において特に好ましく用いられる。また、本発明のジフルオロメタン冷媒用冷凍機油は、往復動式、回転式、遠心式等の何れの形式の圧縮機にも使用可能である。なお、これらの冷凍機において、本発明のジフルオロメタン冷媒用冷凍機油は、後述するように、ジフルオロメタン冷媒と混合された冷凍機用流体組成物として用いられる。 【0056】ずなわち、本発明の冷凍機用流体組成物は、上記本発明のジフルオロメタン冷媒用冷凍機油とジフルオロメタン冷媒とを含有することを特徴とするものである。ここで、本発明の冷凍機用流体組成物中の冷凍機油とジフルオロメタン冷媒との配合比は特に制限されないが、冷凍機油の配合量は、通常、ジフルオロメタン100重量部に対して1?1000重量部であり、好ましくは2?800重量部である。 【0057】なお、本発明の冷凍機用流体組成物においては、従来の冷凍機油を用いた場合には得られなかった十分に高い潤滑性と十分に高い相溶性とを両立することができるという点で、冷媒成分としてジフルオロメタン冷媒のみを含有する場合に最もその有用性が発揮されるが、ジフルオロメタン冷媒以外のHFC冷媒、、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ジメチルエーテル等の非フッ素含有エーテル系冷媒、二酸化炭素や炭化水素等の自然系冷媒を含有してもよい。」 (ケ) 「【0067】 【実施例】以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。 【0068】実施例1?9及び比較例1?11 実施例1?9及び比較例1?11においては、それぞれ以下に示す基油1?14及び添加剤1?4を表1又は表2に示す組成比となるように配合して試料油を調製した。得られた各試料油の性状(40℃及び100℃における動粘度、全酸価)を表1及び表2に示す。また、実施例1?9及び比較例10?11の試料油については、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸における炭素数5?7の脂肪酸の割合、並びに炭素数8?9の分岐脂肪酸の割合を併せて示す。 【0069】(基油) 基油1:ジペンタエリスリトールとn-ペンタン酸とのヘキサエステル 基油2:ジペンタエリスリトールと2-エチルブタン酸とのヘキサエステル 基油3:ジペンタエリスリトールとカルボン酸混合物(n-ペンタン酸60モル%、3,5,5-トリメチルヘキサン酸40モル%)とのヘキサエステル 基油4:ペンタエリスリトールとカルボン酸混合物(n-ペンタン酸60モル%、3,5,5-トリメチルヘキサン酸40モル%)とのテトラエステル 基油5:ネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸のジエステル 基油6:トリメチロールプロパンと3,5,5-トリメチルヘキサン酸とのトリエステル 基油7:ペンタエリスリトールとn-ペンタン酸とのテトラエステル 基油8:ペンタエリスリトールとカルボン酸混合物(2-エチルヘキサン酸50モル%、3,5,5-トリメチルヘキサン酸50モル%)とのテトラエステル 基油9:ペンタエリスリトールとカルボン酸混合物(2-メチルヘキサン酸70モル%、2-エチルペンタン酸30モル%)とのテトラエステル 基油10:ペンタエリスリトールとカルボン酸混合物(2-メチルヘキサン酸53モル%、2-エチルペンタン酸22モル%、2-エチルヘキサン酸25モル%)とのテトラエステル 基油11:ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とのテトラエステル 基油12:ペンタエリスリトールと3,5,5-トリメチルヘキサン酸とのテトラエステル 基油13:ジペンタエリスリトールとカルボン酸混合物(2-エチルヘキサン酸50モル%、3,5,5-トリメチルヘキサン酸50モル%)とのヘキサエステル 基油14:ジペンタエリスリトールと2-メチルプロパン酸とのヘキサエステル。 【0070】(添加剤) 添加剤1:トリクレジルホスフェート 添加剤2:トリフェニルホスフォロチオネート 添加剤3:グリシジル-2,2-ジメチルオクタノエート 添加剤4:p-t-ブチルフェニルグリシジルエーテル。 【0071】次に、上記の各試料油について、以下に示す試験を行った。 【0072】(冷媒との相溶性試験)JIS-K-2211「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して、ジフルオロメタン冷媒(HFC-32)18gと試料油2gとの混合物を30℃から-40℃まで徐々に冷却し、混合物が相分離又は白濁した温度を測定した。実施例1?9の試料油について得られた結果を表1、比較例1?11の試料油について得られた結果を表2にそれぞれ示す。なお、表1及び表2中、「<-40」とは、本試験の測定温度域において相分離及び白濁が認められなかったことを表す。また、表2中、「分離」とは、30℃で既に相分離又は白濁していたことを表す。 【0073】(潤滑性試験)密閉容器の内部に上側試験片にベーン(SKH-51)、下側試験片にディスク(FC250 HRC40)を用いた摩擦試験機を装着した。摩擦試験部位に試料油を600g導入し、系内を真空脱気した後、HFC-32を導入して加熱した。系の温度を100℃、冷媒圧力を1.5Mpaとした後、荷重ステップ10kgf(ステップ時間2分)で段階的に荷重を100kgfまで上げた。各試料油について60分間の試験後のベーンの摩耗巾及びディスクの摩耗深さを計測した。実施例1?9の試料油について得られた結果を表1、比較例1?11の試料油について得られた結果を表2にそれぞれ示す。 【0074】 【表1】 【0075】 【表2】 【0076】表1に示した結果から明らかなように、本発明の冷凍機油である実施例1?9の試料油は、ジフルオロメタン冷媒との相溶性及びジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性に優れるものであることが確認された。 【0077】これに対して、表2に示すように、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを含有しない比較例1?9の試料油は、ジフルオロメタン冷媒との相溶性又はジフルオロメタン冷媒存在下での潤滑性のいずれかが劣っていた。また、脂肪酸の比率が本発明の範囲外であるジペンタエリスリトール脂肪酸エステルを用いた比較例10、11の試料油は、ジフルオロメタン冷媒との相溶性が劣っていた。」 (コ) 「【0078】 【発明の効果】以上説明したとおり、本発明のジフルオロメタン冷媒用冷凍機油及び冷凍機用流体組成物によれば、ジフルオロメタン冷媒とともに用いた場合であっても、十分に高い冷媒相溶性と十分に高い潤滑性とを得ることが可能となる。」 2.引用例に記載された発明 上記引用例には、ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルを冷凍機油全量基準で10質量%以上含有し、且つ前記エステルを構成する前記脂肪酸における炭素数5?7の脂肪酸の割合が20モル%以上であることを特徴とするジフルオロメタン冷媒用冷凍機油及び当該ジフルオロメタン冷媒用冷凍機油とジフルオロメタン冷媒とを含有することを特徴とする冷凍機用流体組成物が記載され(摘示(ア)参照)、当該「炭素数5?7の脂肪酸」として、2-メチルペンタン酸が例示されており、加水分解安定性の点から、当該脂肪酸として炭素数5?7の分岐脂肪酸が好ましいことも記載されている(【0014】)。 してみると、上記引用例には、 「ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルを冷凍機油全量基準で10質量%以上含有し、且つ前記エステルを構成する前記脂肪酸における2-メチルペンタン酸などの炭素数5?7の分岐脂肪酸の割合が20モル%以上であることを特徴とするジフルオロメタン冷媒用冷凍機油」 に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 3.本願発明に係る対比・検討 (1)対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルを冷凍機油全量基準で10質量%以上含有」は、本願発明1における「ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステル・・を、冷凍機油全量基準で10質量%以上含有」に相当する。 そして、本願発明における「2-メチルペンタン酸」が炭素数6の分岐脂肪酸であることが明らかであるから、引用発明における「ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステル・・を構成する前記脂肪酸における2-メチルペンタン酸などの炭素数5?7の分岐脂肪酸の割合が20モル%以上である」は、本願発明における「ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルであって、前記脂肪酸における2-メチルペンタン酸の割合が20モル%以上であるエステル」を包含するものと認められるとともに、引用発明における「ジフルオロメタン冷媒用冷凍機油」は、本願発明における「ジフルオロメタン冷媒と共に用いられることを特徴とする冷凍機油」に相当するものと認められる。 してみると、本願発明と引用発明とは、 「ジペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルであって、前記脂肪酸における炭素数5?7の分岐脂肪酸の割合が20モル%以上であるエステルを、冷凍機油全量基準で10質量%以上含有し、ジフルオロメタン冷媒と共に用いられることを特徴とする冷凍機油」 である点で一致し、以下の点でのみ一応相違する。 相違点:本願発明では、「2-メチルペンタン酸の割合が20モル%以上である」のに対して、引用発明では、「2-メチルペンタン酸などの炭素数5?7の分岐脂肪酸の割合が20モル%以上である」点 (2)相違点に係る検討 2-メチルペンタン酸は、炭素数5?7の分岐脂肪酸の具体例として上記引用例において例示されているものであるから、引用発明には、2-メチルペンタン酸を20質量%以上含むエステルを10質量%以上含む冷凍機油である態様が含まれていることが自明である。 そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載(特に実施例(比較例)に係る記載)を検討しても、本願発明の実施例に係るものは低温の相溶性において比較例1ないし7に対し同等以下であって、本願発明の解決課題に係る「冷媒相溶性、潤滑性および低温流動性の全てを高水準で達成する」という点で格別な効果を奏しているものとも認められない。 (なお、本願発明に係る実施例2については、2-エチルブタン酸なる炭素数6の分岐脂肪酸を20質量%以上含むエステルであるから、引用発明に係る実施例であるものとも認められる。) してみると、本願発明が、先行技術(引用発明)に比して特段の所定の効果を奏しているものということはできず、上記相違点、すなわち、「2-メチルペンタン酸の割合が20モル%以上である」と規定した点でいわゆる選択発明が成立しているものとは認められないから、上記相違点は、実質的な相違点であるとはいえないか、仮に実質的相違点であったとしても、当業者が引用発明に基づき適宜なし得ることである。 (3)小括 したがって、本願発明と引用発明とは、実質的に同一であり、本願発明は、上記引用例に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.請求人の主張について 請求人は、上記平成27年8月21日付け意見書において、 『また、審判官殿は、「してみると、本願発明1が、先行技術(引用発明1)に比して特段の所定の効果を奏しているものということはできず、上記相違点1の点、すなわち、『2-メチルペンタン酸の割合が20モル%以上である』と規定した点でいわゆる選択発明が成立しているものとは認められない。」 とのご見解を示されています。 しかし、引用例の段落[0014]には、「ジフルオロメタン冷媒との相溶性の面から、炭素数5?6の直鎖脂肪酸及び/又は炭素数5?7の分岐脂肪酸が好ましく用いられる。また、潤滑性の面からは、炭素数5?6の直鎖脂肪酸が好ましく用いられ、」と記載されています。このような引用例の記載を参酌した当業者であれば、ジフルオロメタン冷媒存在下での相溶性と潤滑性の両立の観点から、「炭素数5?7の脂肪酸」として「炭素数5?6の直鎖脂肪酸」を選択するはずであり、さらには、「炭素数5?7の分岐脂肪酸」を用いた場合には「炭素数5?6の直鎖脂肪酸」を用いた場合よりも潤滑性に劣ると予測するはずです。 これに対して、本願発明では、「炭素数5?6の直鎖脂肪酸」とは異なる2-メチルペンタン酸を脂肪酸の必須成分とし、脂肪酸における2-メチルペンタン酸の割合を20モル%以上とすることによって、ジフルオロメタン冷媒存在下での相溶性と潤滑性の両立を可能としています。ここで、本願明細書には、実施例1および実施例2が、ジフルオロメタン冷媒に対して相溶性を示すこと、ならびに、比較例2(引用例の「炭素数5?6の直鎖脂肪酸」に該当するn-ペンタン酸を用いたもの)よりも潤滑性に優れるものであることが示されています(本願明細書の段落[0088](表1))。 以上より、脂肪酸における2-メチルペンタン酸の割合を20モル%以上とすることによってジフルオロメタン冷媒存在下での相溶性と潤滑性を両立できるという本願発明の効果は、当業者が引用例の記載に基づき予測し得る範囲を超えた有利な効果であると思料します。』(意見書「(c)理由2および3について」の欄、最終段落) と主張している。 しかるに、引用例には、【0014】(摘示(エ)参照)において、請求人が指摘するとおりの事項が記載されているのに対して、実施例に関する記載(摘示(ケ)参照)では、ジペンタエリスリトールと炭素数5の直鎖脂肪酸であるn-ペンタン酸とのヘキサエステルである「基油1」を使用した「実施例1」とジペンタエリスリトールと炭素数6の分岐脂肪酸である2-エチルブタン酸とのヘキサエステルである「基油2」を使用した「実施例2」との対比から、「実施例2」が「実施例1」に比して「ベーン摩耗幅」及び「ディスク摩耗深さ」が小さく、すなわち潤滑性に優れるものと認められ、「実施例2」の場合でもジフルオロメタンとの「相分離又は白濁温度」が-26℃であるという高い(低温)相溶性が達成されていることが開示されている(引用例【0074】【表1】参照)。 また、そもそも引用発明は、「ジフルオロメタン冷媒とともに用いた場合であっても、十分に高い冷媒相溶性と十分に高い潤滑性とを有するジフルオロメタン冷媒用冷凍機油」の提供を解決課題とするものである(摘示(ウ)参照)から、解決課題としても本願発明と引用発明との間に差異が存するものではない。 してみると、引用発明において、ジフルオロメタン冷媒とともに用いた場合であっても十分に高い冷媒相溶性と十分に高い潤滑性とを有するもの、すなわち冷媒相溶性及び潤滑性を高水準で両立させることを意図し、炭素数5?7の分岐脂肪酸を選択的に使用したジペンタエリスリトールエステルを使用することは、当業者が適宜なし得ることであり、引用例における請求人が指摘した上記記載(【0014】)事項が、上記選択使用を妨げる要因になるものともいえない。 さらに、上記I.でも説示したとおり、本願発明が、ジフルオロメタン冷媒存在下での相溶性と潤滑性を高水準で両立できるという効果につき、引用発明等の従来技術に比して特段の効果を奏するものとも認められない。 したがって、請求人の上記意見書における主張は、当を得ないものであり、上記3.の当審の検討結果を左右するものではない。 5.理由2及び3に係る検討のまとめ 以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではない。 III.当審の判断のまとめ 以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項(柱書)の規定を満たしているものではないから、同法第49条第4号に該当し、また、本願請求項1に係る発明が、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではないから、その他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、本願は、同法第49条第2号に該当するから、いずれにしても拒絶すべきものである。 第5 むすび 結局、本願は、その余につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号及び第4号に該当し、いずれにしても拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-12-25 |
結審通知日 | 2016-01-05 |
審決日 | 2016-01-18 |
出願番号 | 特願2010-61197(P2010-61197) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C10M)
P 1 8・ 113- WZ (C10M) P 1 8・ 537- WZ (C10M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 内藤 康彰 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 岩田 行剛 |
発明の名称 | 冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物 |
代理人 | 平野 裕之 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 黒木 義樹 |