• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 特29条の2  C23C
管理番号 1311875
異議申立番号 異議2015-700348  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-25 
確定日 2016-03-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第5745788号「表面処理アルミニウム合金板およびその製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5745788号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5745788号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成22年6月29日に特許出願され、平成27年5月15日に特許の設定登録がされ、その後、請求項1に係る特許に対し、特許異議申立人田中正平により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件特許
特許第5745788号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、特願2011-520968号(国際公開第2011/002040号)(以下、「甲第1号証」という)を提出し、請求項1に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の「3.申立の理由」の「(5)むすび」において、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定の規定に違反してなされたものである旨を主張しているが、「(3)申立の根拠」に「条文 特許法第29条の2」と記載され、さらに、甲第1号証として特許出願の願番を記載していることから、「(5)むすび」に記載された「特許法第29条第2項」は「特許法第29条の2」の誤記と認められる。

4 申立理由の検討
甲第1号証の特許出願は、2010年6月30日、すなわち、平成22年6月30日を国際出願日とする出願であり、本件特許に係る特許出願の出願日である平成22年6月29日の後に出願されたものであるから、特許法第184条の13の規定により読み替えた同法第29条の2に規定された「当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願(第百八十4条の4第3項又は実用新案法第四十8条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされた第百八十4条の4第1項の外国語特許出願又は同法第四十8条の4第1項の外国語実用新案登録出願を除く。)」に該当しない。
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

5 甲第1号証の優先権基礎出願を先願とした場合の検討
(1)特許異議申立人が提出した甲第1号証の特許出願は、本件特許の出願日前に出願された「特願2009-157682号」を基礎出願として優先権を主張するものである。
そして、特許法第184条の15第3の規定により読み替えた同法第41条第3項の規定により、前記特許出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明のうち、前記基礎出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明は、前記特許出願について国際公開がされた時に、前記基礎出願について出願公開されたものとみなして、同法第29条の2の規定を適用することができることから、特許異議申立人の提出した証拠は、甲第1号証の特許出願の優先権主張の基礎出願である「特願2009-157682号」を示していると仮定して更に検討する。

(2)特願2009-157682号(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。そして、これらの記載事項は、先願を基礎として優先権主張した甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲にも記載されている。なお、下線は当審が付与した。

ア 「本発明は、金属基材、特に金属基材からなる構造体の表面に優れた耐食性と塗膜密着性を付与するための金属表面用化成処理液、金属表面処理方法、および、金属表面塗装方法に関するものである。本発明の化成処理液は、有害なフッ素および有害な6価クロムを含有しないにも拘わらず、金属構造体表面に耐食性と塗膜密着性に優れる化成処理皮膜を形成可能な環境負荷軽減製品である。」(段落0001)
イ 「近年、リン酸塩処理、クロメート化成処理に変わる金属材料表面の化成処理として、ジルコニウム化合物を含有する化成処理液(以後、ジルコニウム系化成処理液とも記す)による表面処理が、環境負荷を低減する表面処理として注目されている。・・・」(段落0005)
ウ 「本発明は、従来技術の有する前記問題点を解決することが目的であり、環境および人体に影響を及ぼすクロムおよびフッ素を含有しないにも拘わらず、一段と工業化に適した金属表面用化成処理液を提供することが目的である。・・・」(段落0017)
エ 「本発明の化成処理液には、さらにカチオン性水溶性樹脂(E)を含有させることもできる。・・・」(段落0043)
オ 「本発明の金属表面処理方法は、前記の化成処理液を金属基材または金属構造体に接触させて実施される。接触させる金属基材または金属構造体の表面は清浄でなければならない。油や汚れ、また金属粉(磨耗や成形などにより生じる)などは除去しなければならない。清浄にする方法は特に限定されるものではないが、工業的に一般的なアルカリ洗浄などを用いることができる。次いで水洗しアルカリ成分などをすすいだ金属基材または金属構造体の表面に本発明の化成処理液を接触させる。化成反応を行う温度は30℃?60℃が好ましい範囲である。また、化成反応時間は金属基材または金属構造体の基材の材質、化成処理液の濃度、化成処理温度にもよるが、一般的には、2秒?600秒の範囲である。自動車ボディーに代表される複雑構造体の場合には、袋構造内部の化成処理液の置換も必要なため、一般的に30秒?120秒間浸漬接触させる。化成処理液の置換が可能であればスプレーなどの化成処理方法によっても差支えない。」(段落0045)
カ 「本発明の金属表面処理方法により、耐食性能を大きく左右するチタンおよび/またはジルコニウムが合計で0.02mmol/m^(2)?2mmol/m^(2)の範囲で金属基材または金属構造物に付着していることが好ましい。0.02mmol/m^(2)未満では、付着量が少なく満足する耐食性能が得られない。また、2mmol/m^(2)を超えて付着している場合は、耐食性能に特に問題はないが、塗膜密着性が低下する場合があるので好ましくない。より好ましい範囲は0.1mmol/m^(2)?1.5mmol/m^(2)である。膜厚に換算すると前記付着量は2nm?200nmの範囲であり、より好ましい範囲は20nm?100nmである。なお、化成処理皮膜は、基本的には、チタンおよび/またはジルコニウムの酸化物、水酸化物で構成されているものと考えられる。
本発明の金属表面処理方法が施される金属基材は、必ずしも限定されるものではないが、実用上使用されている冷延鋼板、熱延酸洗鋼板、アルミニウムおよびアルミニウム合金板、亜鉛および亜鉛合金板、亜鉛めっき鋼板あるいは合金化亜鉛めっき鋼板を挙げることができる。めっき鋼板は必ずしも限定されず、溶融めっき、電気めっき、蒸着めっき等を挙げることができる。」(段落0048?0049)
キ 「以下、本発明に係る化成処理液および金属表面処理方法に関して実施例および比較例を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
・・・
<基材>
金属基材は、株式会社パルテック社製の冷延鋼板・・・、合金化溶融亜鉛めっき鋼板・・・、および、アルミニウム合金板:70×150×1.0mmのA5052P(JIS A 4000)の三種を用いた。以下、冷延鋼板をSPC、合金化溶融亜鉛めっき鋼板をGA、アルミニウム合金板をALと略記する。」(段落0051?0052)
ク 「(実施例1)
下記成分(A)?(B)をこの順に下記濃度となるように水に添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、45℃に加温し、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、化成処理液1を調製した。化成処理液1を用いて、表面処理条件1で、清浄化した金属基材の表面処理を行い、化成処理皮膜を形成した。その後、該金属基材の表面を水洗し、脱イオン水洗したが、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
(A):硫酸ジルコニウム:0.5mmol/L
(B):グリセリン:2.7mmol/L
(C)(D)(E):なし」(段落0060)

上記記載事項カによれば、先願明細書等には、アルミニウム合金板の表面に、ジルコニウムの酸化物、水酸化物で構成された化成処理皮膜を、ジルコニウム量として0.02mmol/m^(2)?2mmol/m^(2)の範囲で付着している表面処理アルミニウム合金板が記載されている。そして、前記化成処理皮膜は、上記記載事項ア?ウによれば、フッ素及びリンを含有していない化成処理皮膜といえる。また、上記記載事項エ及びクによれば、前記化成処理皮膜として、カチオン性水溶性樹脂を含有しない化成処理皮膜が記載されているといえるし、上記記載事項キによれば、アルミニウム合金板として、A5052P(JIS A 4000)を用いることも記載されている。
したがって、先願明細書等の上記記載事項を本件特許発明1に則して整理すると、先願明細書等には、「A5052Pのアルミニウム合金板と、この表面に形成されたジルコニウムの酸化物、水酸化物で構成された化成処理皮膜とを備える表面処理アルミニウム合金板であって、前記化成処理皮膜は、フッ素、リン及びカチオン性水溶性樹脂を含有せず、ジルコニウムが0.02mmol/m^(2)?2mmol/m^(2)の範囲で付着している表面処理アルミニウム合金板」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
本件特許発明1と先願発明とを対比すると、先願発明の「A5052Pのアルミニウム合金板」、「ジルコニウムの酸化物、水酸化物で構成された化成処理皮膜」は、本件特許発明1の「マグネシウムを含有するアルミニウム合金からなる基板」、「ジルコニウムを含有する表面処理皮膜」にそれぞれ相当する。また、先願発明の「ジルコニウムが0.02mmol/m^(2)?2mmol/m^(2)の範囲で付着している」ことは、付着量を二酸化ジルコニウム(MW=123.2)量で換算すると、2.464mg/m^(2)?246.4mg/m^(2)の範囲となることから、本件特許発明1の「付着量が二酸化ジルコニウム換算量で2.464?5mg/m^(2)である」ことに相当する。さらに、先願発明の「フッ素、リン及びカチオン性水溶性樹脂を含有せず」は、本件特許発明1の「ハロゲン、リンおよび水溶性樹脂を含有せず」に相当する。
したがって、本件特許発明1と先願発明とは、「マグネシウムを含有するアルミニウム合金からなる基板と、この基板の表面に形成されたジルコニウムを含有する表面処理皮膜とを備える表面処理アルミニウム合金板であって、前記表面処理皮膜は、ハロゲン、リンおよび水溶性樹脂を含有せず、前記酸化皮膜に対する付着量が二酸化ジルコニウム換算量で2.464?5mg/mm^(2)であることを特徴とする表面処理アルミニウム合金板。」である点で一致している。
しかしながら、先願発明は、アルミニウム合金板と化成処理皮膜との間に、酸化マグネシウムを含有する酸化皮膜を備えることや、前記酸化皮膜の膜厚が1?30nmであることが特定されておらず、また、先願明細書等にはこれら事項を示唆する記載もないことから、本件特許発明1と先願発明とは、実質的に相違している。
よって、本件特許発明1は、先願発明と同一の発明であるとはいえない。

(4)特許異議申立人の主張
ア 特許異議申立人は、アルミニウム合金板を化成処理しても、その表面のアルミニウム酸化皮膜を完全に除去することが困難であることは技術常識であるから、マグネシウムを含有するアルミニウム合金板を化成処理しても、その表面にマグネシウム酸化物を含有するアルミニウム酸化皮膜が存在することも技術常識であると主張している。
また、特許異議申立人は、アルミニウム合金板を化成処理しても、その表面のアルミニウム酸化皮膜を完全に除去することが困難であることは技術常識であり、その厚さは処理条件によって異なるものの、数百nm未満であることも技術常識であるから、酸化皮膜の膜厚を1?30nmとすることは、先願明細書等の記載と技術常識からの当業者の容易想到事項であると主張している。
しかしながら、マグネシウムを含有するアルミニウム合金板を化成処理したときに、アルミニウム合金板と化成処理皮膜との間にマグネシウム酸化物を含有するアルミニウム酸化皮膜が存在することや、この酸化皮膜の膜厚が数百nm未満であることが技術常識であることは、特許異議申立人の提出した証拠から直ちにはいえない。
また、これらの事項が技術常識であると仮定しても、先願発明のマグネシウムを含有するアルミニウム合金板と化成処理皮膜との間に、膜厚が数百nm未満の酸化マグネシウムを含有する酸化皮膜を備えることが先願明細書等に実質的に記載されているだけであり、膜厚が1?30nmの範囲である酸化皮膜が存在することまで、先願明細書等に実質的に記載されているとはいえない。
また、特許異議申立人の上記容易想到事項であるとの主張は、特許法第29条第2項に対する主張と認められるところ、申立ての根拠は同法第29条の2であるから、上記容易想到事項であるとの主張は妥当なものといえない。
したがって、特許異議申立人の主張は妥当なものといえない。

イ 特許異議申立人は、本件特許発明1と先願発明とは、マグネシウムを含有するアルミニウム合金板に対して、pH、硝酸ジルコニウム含有量及び温度が同等の化成処理液で化成処理を実施することで得られたものであるから、両者は、同等な構造の表面処理アルミニウム合金板である蓋然性が高い旨を主張している。
しかしながら、本件特許発明1は、400?580℃で加熱処理されたアルミニウム合金の基板を、常温の硝酸ジルコニウム水溶液を冷却液として用いて冷却させることで形成されたものであり(段落0038?0043)、一方、先願明細書等の記載事項オによれば、先願発明は、アルカリ洗浄したアルミニウム合金板を化成処理液で、30?60℃で化成反応することで形成されたものであり、両者の表面処理皮膜を形成する手段が異なっているから、同等な構造の表面処理アルミニウム合金板が形成されているとは直ちにはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張は妥当なものといえない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-01 
出願番号 特願2010-148274(P2010-148274)
審決分類 P 1 652・ 16- Y (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊藤 寿美  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 宮澤 尚之
小川 進
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5745788号(P5745788)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 表面処理アルミニウム合金板およびその製造方法  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 磯野 道造  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ