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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H02G
審判 一部無効 特174条1項  H02G
審判 一部無効 2項進歩性  H02G
管理番号 1312301
審判番号 無効2015-800124  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-05-01 
確定日 2016-03-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第5485640号発明「螺旋ハンガー用クランプ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件に係る手続は以下のとおりである。
平成21年10月 5日 本件特許出願(特願2009-231503
号)の出願
平成25年11月26日 拒絶理由通知(発送日)
平成26年 1月20日 意見書及び手続補正書(受付日)
平成26年 2月 4日 特許査定(発送日)
平成26年 2月28日 本件特許の設定登録(特許第5485640
号)
平成27年 5月 7日 無効審判請求(受付日)
平成27年 7月17日 審判事件答弁書(受付日)
平成27年 9月 1日 審理事項通知(発送日)
平成27年10月 7日 口頭審理陳述要領書(請求人)(受付日)
平成27年10月 7日 口頭審理陳述要領書(被請求人)(受付日)
平成27年10月20日 口頭審理


第2 本件特許発明
本件特許第5485640号の請求項1ないし請求項2に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項2に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
所定のケーブルを電柱間に吊支するために、前記電柱間に渡した吊線に巻き付けて取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用クランプであって、
前記吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で挟持する第1プレート及び第2プレートと、
これら第1プレート及び第2プレートの各一端同士を緊締するボルト及びナットと、を備え、
前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔を形成するとともに、一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし、
前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに、他端同士を係合する係合部が設けられており、
前記係合部は、前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部とからなる、ことを特徴とする螺旋ハンガー用クランプ。」(以下「本件特許発明」という。)

「【請求項2】
前記第2プレートの他端を、前記切欠部から先端にかけて前記第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させたことを特徴とする請求項1記載の螺旋ハンガー用クランプ。」


第3 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第5485640号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており、請求人の主張する無効理由とその概要及び証拠方法は以下のとおりである。
(1)無効理由
A 無効理由1
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき、少なくとも、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきである。

B 無効理由2
本件特許は、その請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にされるべきである。

C 無効理由3
本件特許は、その請求項1に係る発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にされるべきである。

D 無効理由4
特許権者が平成26年1月20日に提出した手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内でするものではないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、本件特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効にされるべきである。

(2)証拠方法
請求人は、証拠方法として、審判請求書とともに、以下の甲第1号証ないし甲第8号証を、写しを原本として提出した。
また、平成27年10月6日付けで提出した口頭審理陳述要領書において、以下の甲第9号証を、写しを原本として提出した。

甲第1号証 特開2002-135954号公報
甲第2号証 特開平11-304052号公報
甲第3号証 実公平7-33024号公報
甲第4号証 特開2006-275076号公報
甲第5号証 特開2004-36706号公報
甲第6号証 「精選版 日本国語大辞典」、初版、第一巻、株式会社
小学館、2006年1月1日、第989頁
甲第7号証 被請求人(特許権者)が平成26年10月30日付けで
大阪地方裁判所に提出した訴状
甲第8号証 被請求人(特許権者)が平成27年3月13日付けで
大阪地方裁判所に提出した原告第3準備書面
甲第9号証 被請求人(特許権者)が平成27年9月10日付けで
大阪地方裁判所に提出した原告第6準備書面

被請求人は、甲第1号証ないし甲第9号証の成立を認めている。

(3)請求人の主張の要点
審判請求書、及び、請求人が平成27年10月6日付けで提出した口頭審理陳述要領書の内容からして、請求人の主張の要点は以下のとおりである。
A 無効理由1について
ア 本件特許発明の分節
本件特許発明は、下記の要件○1?○8(審決注:○1の記載は、1が丸付き数字であることを示す。以下、同様である。)に分節できる。
要件○1:所定のケーブルを電柱間に吊支するために、前記電柱間に渡した吊線に巻き付けて取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用クランプであって、
要件○2:前記吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で挟持する第1プレート及び第2プレートと、
要件○3:これら第1プレート及び第2プレートの各一端同士を緊締するボルト及びナットと、を備え、
要件○4:前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔を形成するとともに、一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし、
要件○5:前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに、他端同士を係合する係合部が設けられており、
要件○6:前記係合部は、前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、
要件○7:前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部とからなる、
要件○8:ことを特徴とする螺旋ハンガー用クランプ。

イ 引用発明
審判請求書の第3頁の「対比表」の記載からみて、甲第1号証に記載された発明であるとして請求人が主張するのは、甲第1号証の請求項5に記載され、審判請求書の第5?6頁で摘記された、次の発明(以下「引用発明」という)である。

「電柱間に架設された支持線及びケーブルが、連続的に架設された螺旋状支持具の螺旋内径側に収納された後、螺旋状支持具を支持線に固定するために使用される固定具において、
前記固定具は、長板幅斜め方向に斜溝部を設けて螺旋状支持具本体を納める第1板と、長板幅方向に直溝部を設けて支持線を納める第2板とによって、支持線及び螺旋状支持具本体を挟持可能とし、前記第1板と第2板の一端部が固定孔を有して、固定孔に挿通するボルト・ナットによって、支持線の挟持時に締付固定可能とし、他端部が両者の反対側部を立ち上げた立上部と、さらに直角状に折曲げ成形してストッパ部を連続して設け、ボルト・ナットが緩んだ時に立上部とストッパ部によって両板面間に取付空間を形成し、ボルト中心に第1板及び第2板を互いにずらせて広げられ、また、すぼめる際には、立上部にて制止させて重ね合わせできる構成であり、
螺旋状支持具を支持線に固定する際には、前もって第1板及び第2板の立上部及びストッパ部とで取付空間を生じさせる状態で、支持線と螺旋状支持具本体とを挟持できるようにボルト・ナットによって仮締付し、ボルトを中心にして第1板と第2板とを互いにずらせて支持線の固定位置において位置決めされ、この位置決め後にボルト・ナットを本締付することで固定することを特徴とする固定具。」

ウ 本件特許発明と甲第1号証に記載の発明との対比
「係合」という文言は、その字のとおり、一定の係わり合いがあることを意味すると解される。よって、甲第1号証の立上部(13)とストッパ部(14)は、本件特許発明にいう「係合部」である。
したがって、審判請求書の「(a) 本件特許発明と甲第1号証に記載の発明との対比」の記載からみて、請求人が主張する、本件特許発明と引用発明との一致点及び相違点は、それぞれ、
(一致点)
「所定のケーブルを電柱間に吊支するために、前記電柱間に渡した吊線に巻き付けて取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用クランプであって、
前記吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で挟持する第1プレート及び第2プレートと、
これら第1プレート及び第2プレートの各一端同士を緊締するボルト及びナットと、を備え、
前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔を形成するとともに、一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし、
前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに、他端同士を係合する係合部が設けられており、
前記係合部は、前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部とからなる、ことを特徴とする螺旋ハンガー用クランプ。」
(相違点)
本件特許発明の「係合部」は「前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」を備えるのに対して、引用発明は「前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」に相当する構成を有しない点、
である。(以上、審判請求書第19?23頁)

エ 甲第1号証に記載の発明に基づく進歩性の欠如
(ア)本件特許発明の「フック部」および「切欠部」の構成は、相互に接触し、ストッパとしての作用を有しておれば十分であり、締め込み後の抜けを防止する作用までは必要がないと解するほかはない。
そして、甲第1号証に記載の発明は、その技術分野、課題、ならびに、作用および機能が本件特許発明と同一である。また、甲第1号証の一方の板の立上部(13)およびストッパ部(14)を、切欠部に変更したところで、特段優れた作用効果を奏することもない。
したがって、甲第1号証の構成を本件特許発明の要件○7に変更することは、当業者が容易になしえることにすぎない。(以上、審判請求書第23?24頁)

(イ)甲第1号証の固定具は、一方の板の一部を他方の板の内部空間内に収容することによって、「回動方向のずれ」も、「上下方向のずれ」も防止することができる。してみると、本件特許発明の固定具と、甲第1号証の固定具とは、他の板を収容するための内部空間が立上部(13)およびストッパ部(14)で構成されているか、単なる切欠きであるかの違いがあるに過ぎない。
そして、甲第1号証の段落0003に記載の、螺旋ハンガーの固定具(クランプ)には、固定力が充分であり、支持線への取付作業の容易で安全であることが求められるという課題は、本件特許発明の課題と同一である。
従って、この課題を解決するために、甲第1号証において一方の板の端部を他方の板の端部に収容するための形状として採用される、立上部(13)およびストッパ部(14)を「切欠部」に変更することは、当業者が適宜なしうる設計変更に過ぎない。(以上、請求人提出の口頭審理陳述要領書第3?4頁)

オ 甲第1号証に記載の発明および周知技術に基づく進歩性の欠如
(ア)そもそも、フック部および切欠部の構成により係合を行うことは、あらゆる技術分野において周知の技術であるから、本件特許発明は、少なくとも、甲第1号証に記載の発明と周知技術を組み合わせることにより当業者が容易になしえる程度の発明である。(以上、審判請求書第25?26頁)

(イ)甲第2?5号証には、本件特許発明と極めて関連の強い技術分野に属し、かつ、本件特許発明と共通する課題および目的を備える発明(考案)が記載されている。よって、当業者であれば、甲第1号証に記載される発明の構成の一部に代えて甲第2?5号証に記載される周知技術を転用して、本発明を完成させることは容易になし得ることに過ぎない。(以上、請求人提出の口頭審理陳述要領書第4?7頁)

(ウ)被請求人の「第2 被請求人の主張」の「1 無効理由1について」の(2)要件○5?○7について」の(ア)?(エ)は、いずれも甲第1号証には「切欠部」が記載されていないということを、種々表現を変えて主張しているに過ぎない。また、被請求人は、「フック部を切欠部内に収容される形状」について述べていますが、この主張は、請求項1の記載に基づく主張ではない。さらに、被請求人は、「端部同士のずれ」に関して、回動方向のずれと上下方向のずれとが存在し、本件特許発明では、その双方のずれを確実に抑えることができるが、甲第1号証の固定具ではそれができない旨の主張しているが、甲第1号証の固定具は、一方の板の一部を他方の板の内部空間内に収容することによって、「回動方向のずれ」も、「上下方向のずれ」も防止することができる。
よって、無効理由1に関する被請求人の主張は、いずれも失当である。(以上、請求人提出の口頭審理陳述要領書第7?11頁)

B 無効理由2について
(ア)本件特許明細書の記載からも明らかなように、第1プレートにフック部があり、第2プレートに切欠部があるという構成と、第2プレートの他端を、第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させるという構成とは、一体不可分の構成である。
また、本件特許明細書および本件特許図面から把握されるクランプは、第2プレートの他端を、第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた構成のみである。さらに、「屈曲させた」という構成が、本発明において任意の付加的構成であることが自明であるということもできない。
したがって、「前記第2プレートの他端を、前記切欠部から先端にかけて前記第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた」構成が特定されていない請求項1に記載される発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。(以上、審判請求書第27?29頁)

(イ)本件特許明細書の段落0010には、「当該螺旋ハンガーの終端部を、吊線に対して極めて容易に、かつ確実に連結固定することができる。」と記載されていますので、本発明の作用効果は、「極めて容易に連結固定できる」ことと、「確実に連結固定できる」ことにある。しかしながら、本件特許明細書の段落0019および0020の記載を見ても、「確実に連結固定できる」という作用効果に関する説明があるのみで、「極めて容易に連結固定できる」という作用効果に関する説明はない。続いて、段落0021の記載、つまり、請求項2の構成に関する記載を見ると、「フック部12aと切欠部22aとを係合させ易くなる。」と初めて、「極めて容易に連結固定できる」という作用効果に関する説明が初めて出てくる。(以上、請求人提出の口頭審理陳述要領書第11?12頁)

C 無効理由3について
(ア)本件特許の特許請求の範囲の請求項1には「螺旋ハンガーの終端部」との記載があるが、「終端部」の範囲が明確にされていない。

(イ)本件特許の特許請求の範囲の請求項1には「一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし」及び「前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とする」と記載されているが、「閉塞端」及び「開放端」がどのような構成を意味するものであるのか明確ではない。

(ウ)本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし」とに記載において、「一端同士」がどのような状態であれば、請求項1にいう「閉塞端」となるのかが明確ではない。(以上、審判請求書第29?30頁)

D 無効理由4について
(ア)本件特許の願書に最初に添付した特許請求の範囲を本件特許の特許請求の範囲のように補正した平成26年1月20日に提出した手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものとも、同明細書に記載された事項から自明な事項の範囲内でするものとも言えない。(以上、審判請求書第30?31頁)

E 訴訟における権利無効の主張について
(ア)なお、請求人は、「請求人(訴訟被告)は、2015年5月15日に大阪地方裁判所に提出した被告準備書面(3)において、権利無効の主張をしました。権利無効の主張の内容は、2015年5月1日に提出の審判請求書と同様です。当該主張を立証するために提出した、乙第11号証?乙第15号証は、それぞれ、2015年5月1日に提出の審判請求書の甲第1号証?甲第5号証と同一です。」と述べている。(請求人提出の口頭審理陳述要領書第14頁)

2 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求める。」との審決を求めており、被求人の主張する答弁の理由及び証拠方法は以下のとおりである。
(1)答弁の理由の概要
本件特許は、特許法第29条第2項の要件を具備し、さらに、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第6項第2号並びに特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものであるから、特許を維持すべきものである。

(2)証拠方法
被請求人は、平成27年7月16日付けで提出した審判事件答弁書とともに、以下の乙第1号証ないし乙第3号証を、写しを原本として提出した。

乙第1号証 特開2002-325320号公報
乙第2号証 意匠登録第1435638号
乙第3号証 意匠登録第1435885号

請求人は乙第1号証ないし乙第3号証の成立を認めている。

(3)被請求人の主張の要点
被請求人が平成27年7月16日付けで提出した審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)、被請求人が平成27年10月6日付けで提出した口頭審理陳述要領書の内容からして、被請求人の主張の要点は、以下のとおりである。
A 無効理由1について
ア 序論
(ア)審判請求書「本件特許発明と甲第1号証に記載の発明との対比」のうち、相違点については認める。
しかしながら、一致点のうち、要件○5,○6に対する主張に対しては、否認乃至争い、その余の点については認める。(答弁書第4頁)

イ 要件○5?○7について
(ア)要件○5?○7の構成は、相互に関連した構成であるから、殊更分節して判断するものではなく、一体の構成として判断すべきものである。そうすると、甲第1号証の立上部(13)とストッパ部(14)は、本件特許発明にいう「係合部」に該当しない。
また、本件特許発明のいう「フック部」とは、本件特許の図面、図7を見れば明らかなように、切欠部内に収容される形状を指すものであるから、甲第1号証に記載の発明は明らかに「切欠部」を有していないことから、甲第1号証に記載の発明の構成は本件特許発明の「フック部」に該当しない。(以上、答弁書第4?5頁)

(イ)本件特許発明の「係合部」は、「第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と」「第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部と」を備えた構成であるところ、このような構成の係合部を用いて第1プレート及び第2プレートの他端を係合しようとするには、切欠部内にフック部を収容させるのが自然であり、その係合を開放しようとすれば、切欠部内にフック部を収容しないようにするのが自然である。(以上、被請求人提出の口頭審理陳述要領書第4頁)

(ウ)甲第1号証の発明にも、ストッパ部(14)があるため、一方の板(例えば、第1板(9))の立上部(13)を他方の板(例えば、第2板(10))にしっかりと当てて接触させ、且つ、他方の板(例えば、第2板(10))の立上部(13)を一方の板(例えば、第1板(9))にしっかりと当てて接触させておけば、ストッパ部(14)を超えては上下方向にずれることはない。しかし、この「接触」状態は「上下方向にずれる可能性が極めて高い」ものである。
甲第1号証の発明からは、「螺旋ハンガーの架線作業において、ボルト及びナットで締め込むときに、当該螺旋ハンガーの終端部を、吊線に対して確実に連結固定するようにして端部同士がずれてしまったりして逆に弛みが生じないようにし、螺旋ハンガーの架線作業性を著しく向上させることが可能になる」という本件特許発明の特有の作用効果を発揮させることは到底できない。(以上、答弁書第5?8頁)

(エ)本件特許発明は、フック部を切欠部内に収容させることで、上下方向(回動方向と垂直の方向)並びに前後方向のずれを確実に抑えることができているのである。
これに対して、甲第1号証発明は、問題点○1?○3を有していることにより、「螺旋ハンガーの架線作業において、ボルト及びナットで締め込むときに、当該螺旋ハンガーの終端部を、吊線に対して確実に連結固定するようにして端部同士がずれてしまったりして逆に弛みが生じないようにし、螺旋ハンガーの架線作業性を著しく向上させることが可能になる」という本件特許発明の特有の作用効果を発揮させることは到底できない。(以上、被請求人提出の口頭審理陳述要領書第5?14頁)

(オ)甲第2号証?甲第5号証と本件特許発明とは、明らかに、技術分野、課題、目的を異にするものであるから、甲第2号証?甲第5号証には、甲第1号証に、甲第2号証?甲第5号証を組み合わせるだけの示唆が何ら存在しない。
よって、甲第1号証に、甲第2号証?甲第5号証を組み合わせることは極めて困難である。(以上、答弁書第8?13頁)

B 無効理由2について
(ア)第1プレートにフック部があり、第2プレートに切欠部があるという構成と、第2プレートの他端を、第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させるという構成とは、一体不可分の構成であるとする請求人の主張は明らかな失当であると言わざるを得ない。
よって、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものであることは自明である。(以上、答弁書第15?18頁)

C 無効理由3について
(ア)「螺旋ハンガーの終端部」とは、螺旋ハンガーのうち、螺旋ハンガー用クランプで吊線に固定される部分を指すものであることは自明である。

(イ)本件特許発明の「閉塞端」とは、第1プレート及び第2プレートの各一端側に形成されたボルト挿通孔に挿通されたボルトにより一端同士が連結された部分を指し、「開放端」とは、第1プレート及び第2プレートのうち、前記「閉塞端」の各他端で、他端同士を係合する係合部が設けられた部分を指すものであることは自明である。(以上、答弁書第18?24頁)

D 無効理由4について
(ア)請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、平成26年1月20日に提出した手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内であることは明らかである。(以上、答弁書第24?25頁)


第4 当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、その段落【0003】に「その第1の目的とするところは、既設のケーブルの架線状態が悪くても、また各家庭等へ分岐する分岐線等があってもこれらを避けて一束化できるケーブルの一束化方法と、これに用いる先導具を提供することである。また、第2の目的は、上記目的に加えて、固定力が充分であり、支持線への取付作業の容易で安全な固定具と、この固定具を用いる一束化方法を提供することである。」と、前記「固定具」の発明は、特に「固定力が充分であり、支持線への取付作業の容易で安全な固定具」を提供することを課題とすることが記載されている。

そして、甲第1号証の特許請求の範囲における請求項5には、前記課題を有すると認められる「固定具」の発明として、以下に再掲する引用発明が記載されている。
「電柱間に架設された支持線及びケーブルが、連続的に架設された螺旋状支持具の螺旋内径側に収納された後、螺旋状支持具を支持線に固定するために使用される固定具において、
前記固定具は、長板幅斜め方向に斜溝部を設けて螺旋状支持具本体を納める第1板と、長板幅方向に直溝部を設けて支持線を納める第2板とによって、支持線及び螺旋状支持具本体を挟持可能とし、前記第1板と第2板の一端部が固定孔を有して、固定孔に挿通するボルト・ナットによって、支持線の挟持時に締付固定可能とし、他端部が両者の反対側部を立ち上げた立上部と、さらに直角状に折曲げ成形してストッパ部を連続して設け、ボルト・ナットが緩んだ時に立上部とストッパ部によって両板面間に取付空間を形成し、ボルト中心に第1板及び第2板を互いにずらせて広げられ、また、すぼめる際には、立上部にて制止させて重ね合わせできる構成であり、
螺旋状支持具を支持線に固定する際には、前もって第1板及び第2板の立上部及びストッパ部とで取付空間を生じさせる状態で、支持線と螺旋状支持具本体とを挟持できるようにボルト・ナットによって仮締付し、ボルトを中心にして第1板と第2板とを互いにずらせて支持線の固定位置において位置決めされ、この位置決め後にボルト・ナットを本締付することで固定することを特徴とする固定具。」

(2)本件特許発明と引用発明との対比
本件特許発明と引用発明とを対比する。
A 螺旋ハンガー用クランプの構成について
ア 引用発明の「ケーブル」が「電柱間に架設された」ことは、本件特許発明の「所定のケーブルを電柱間に吊支する」ことに相当する。また、引用発明の「支持線」及び「螺旋状支持具」は、本件特許発明の「吊線」及び「螺旋ハンガー」に相当する。
ここで、甲第1号証の図6を参照すると、螺旋状支持具2の右端と支持線31の両端は図示が省略されていることを示す波線で終わっているのに対して、螺旋状支持具2の左端はそのような波線はないから、甲第1号証の図6においては、固定具4によって、螺旋状支持具2の左端側の端部近傍を支持線31に固定していると解される。したがって、引用発明では、「螺旋状支持具」の端部近傍を「支持線に固定する」ものであると認められる。
ところで、本件特許発明は、「螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定する」ものであるが、ここで、一般に「しゅうたん【終端】」とは「ひとつながりのものの最終の部分」をいう[大辞林 第三版]。そうすると、本件特許発明の「螺旋ハンガーの終端部」とは、ひとつながりの「螺旋ハンガー」の最終の部分を指していることは明らかである。
そうすると、引用発明の「螺旋状支持具」の端部近傍も、「螺旋状支持具」という「ひとつながりのもの」の「最終の部分」であると認められるから、このことを踏まえれば、該端部近傍とは「螺旋状支持具」の終端部といい得るものである。

したがって、引用発明の「電柱間に架設された支持線及びケーブルが、連続的に架設された螺旋状支持具の螺旋内径側に収納された後、螺旋状支持具を支持線に固定するために使用される固定具」は、本件特許発明の「所定のケーブルを電柱間に吊支するために、前記電柱間に渡した吊線に巻き付けて取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用クランプ」に相当する。

B 第1プレート及び第2プレートの構成について
ア 引用発明の「支持線及び螺旋状支持具本体を挟持可能」とする「長板幅斜め方向に斜溝部を設けて螺旋状支持具本体を納める第1板と、長板幅方向に直溝部を設けて支持線を納める第2板」は、本件特許発明の「前記吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で挟持する第1プレート及び第2プレート」に相当する。

イ 引用発明の「前記第1板と第2板の一端部が固定孔を有して」、「支持線の挟持時に締付固定可能」とする前記「固定孔に挿通するボルト・ナット」は、本件特許発明の「これら第1プレート及び第2プレートの各一端同士を緊締するボルト及びナット」に相当する。

ウ 本件特許発明においては、「前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔を形成するとともに、一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし」ている。そうすると、本件特許発明でいう「閉塞端」とは、「前記ボルトにより連結」される「第1プレート及び第2プレートの各一端」同士を指していると認められる。
したがって、引用発明において「前記第1板と第2板の一端部が固定孔を有して、固定孔に挿通するボルト・ナットによって、支持線の挟持時に締付固定可能と」することは、本件特許発明において「前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔を形成するとともに、一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端と」することに相当する。

C 係合部の機能について
ア 本件特許発明の「前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに、他端同士を係合する係合部」との構成において、「開放端」とは、「前記ボルトにより連結」されていない「前記第1プレート及び第2プレートの各他端」を指していると認められる。
そして、本件特許発明の「係合部」は、「他端同士を係合する」ことで、「ボルト挿通孔」に挿通する「ボルト」を軸として「前記第1プレート及び第2プレート」の一方を他方に対して回動させるときに、前記一方の「他端」を制止して位置決めしていると解される。

イ 他方、引用発明の「前記第1板と第2板の一端部」は「ボルト・ナット」が「挿通」する「固定孔」を有し、当該「一端部」とは反対側の「前記第1板と第2板」の「他端部」は前記「ボルト・ナット」により連結されていないので、引用発明における前記「他端部」は本件特許発明の「開放端」に相当する。
そして、引用発明は、「前記第1板と第2板」の「他端部」には「両者の反対側部を立ち上げた立上部と、さらに直角状に折曲げ成形してストッパ部を連続して設け」られ、「ボルト中心に第1板及び第2板を互い」に「すぼめる際には、立上部にて制止させて重ね合わせできる構成」とすることで、「螺旋状支持具を支持線に固定する際には、前もって第1板及び第2板の立上部及びストッパ部とで取付空間を生じさせる状態で、支持線と螺旋状支持具本体とを挟持できるようにボルト・ナットによって仮締付し、ボルトを中心にして第1板と第2板とを互いにずらせて支持線の固定位置において位置決め」できるものである。したがって、引用発明の「前記第1板と第2板」の「他端部」のそれぞれに設けられた「反対側部を立ち上げた立上部と、さらに直角状に折曲げ成形」した「ストッパ部」は、「ボルト中心に第1板及び第2板を互い」に「すぼめる際」に「立上部にて制止させて重ね合わせ」ることで「支持線の固定位置において位置決め」するという、前記「第1板及び第2板」の「位置決め」部として機能していると認められる。

ウ よって、引用発明の「前記第1板と第2板」の「他端部」のそれぞれに設けられた「反対側部を立ち上げた立上部と、さらに直角状に折曲げ成形」した「ストッパ部」と、本件特許発明の「前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに、他端同士を係合する係合部」とは、「前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに、他端同士」を制止する位置決め部である点で共通する。

D 係合部の構成について
ア はじめに本件特許発明における「係合部」の構成について検討する。
本件特許発明の「他端同士を係合する係合部」は、「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」と「前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とを有する。
ここで、「鉤」とは、請求人が審判請求書第22頁で指摘するとおり、「先端が曲がった、金属製の細長い具。物をひっかけて、止めたり引いたりするのに用いる。またそれに似た形や物。」(審判請求書第22頁)を指し、「フック」とは、「○1鉤。ホック。…(以下、省略)」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]を指すと解される。
してみれば、上記のとおり、前記「第1プレート」の「フック部」と前記「第2プレート」の「切欠部」とで「他端同士を係合する係合部」を構成していることを考慮すれば、本件特許発明の前記「係合部」は、「第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」を「第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」に係合することで「他端同士を係合する」ものと認められる。

イ 次に、引用発明の「第1板及び第2板」の「他端部」の構成について検討する。
引用発明の前記「他端部」は、「他端部が両者の反対側部を立ち上げた立上部と、さらに直角状に折曲げ成形してストッパ部を連続して設け」た構成とされており、そのような構成の形成には、「両者の反対側部」を、最初に「直角状に折曲げ」て「ストッパ部」を「成形」した後に、「立ち上げ」て「立上部」を形成することも含まれ得るものであるところ、前記「直角状に折曲げ」て「ストッパ部」を「成形」することは「他端部」を「鉤形に形成する」ことであり、「立ち上げ」て「立上部」を形成することは他方の「板」側へ「折り返して起立状に形成」したものであるといえる。
したがって、引用発明の「第1板及び第2板」の「他端部」には、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」が設けられていると認められる。
一方、引用発明の前記「第1板及び第2板」の「他端部」には切欠部は設けられておらず、「前記第1板と第2板」の「他端部」同士を「制止」して「位置決め」する構成は、「立上部とストッパ部によって両板面間」に「形成」される「取付空間」内において、一方の「板」の「他端部」における「立上部」側でない「側部」を、他方の「板」の「他端部」における「立上部」に当接させることで「制止」して「位置決め」することから、上記アのとおり、本件特許発明の「第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」を「第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」に係合することで「他端同士を係合する」という位置決めの構成とは、位置決め機構としての技術思想が異なる。

ウ 以上から、引用発明の「前記第1板と第2板」の「他端部」のそれぞれに設けられた「反対側部を立ち上げた立上部と、さらに直角状に折曲げ成形してストッパ部」と、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「係合部」とは、「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」を有する前記位置決め部である点で共通する。
しかし、引用発明の「前記第1板と第2板」の「他端部」には切欠部が設けられておらず、前記「他端部」のそれぞれに設けられた「立上部」と「ストッパ部」は、切欠部と係合させるためのものではない。

E 一致点及び相違点
以上から、本件特許発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違している。
(一致点)
「所定のケーブルを電柱間に吊支するために、前記電柱間に渡した吊線に巻き付けて取付けた螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定するための螺旋ハンガー用クランプであって、
前記吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で挟持する第1プレート及び第2プレートと、
これら第1プレート及び第2プレートの各一端同士を緊締するボルト及びナットと、を備え、
前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔を形成するとともに、一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端とし、
前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに、他端同士を制止する位置決め部が設けられており、
前記位置決め部は、前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部を有する、ことを特徴とする螺旋ハンガー用クランプ。」

(相違点1)
本件特許発明は「第1プレート」及び「第2プレート」の「他端同士を係合する係合部」を有しているのに対して、引用発明は「第1板」及び「第2板」を「他端部」の「立上部にて制止させて重ね合わせ」ることで「支持線の固定位置において位置決め」する構成である点。

(相違点2)
一致点に係る「前記第1プレート及び第2プレートの各他端を開放端とするとともに、他端同士を制止する位置決め部」が、本件特許発明は「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」であるのに対して、引用発明は「第1板」及び「第2板」の「他端部」に設けられた「両者の反対側部を立ち上げた立上部と、さらに直角状に折曲げ成形し」た「ストッパ部」であり、切欠部を有していない点。

(3)相違点についての当審の判断
無効理由1は、「本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基づき、少なくとも、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基づき、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
したがって、まず、当事者間で争いがある一致点と相違点の認定について検討し、次に、「本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明」のみに基づき、当業者が「容易に発明をすることができたものである」か、及び、「本件特許発明」は「甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基づき」当業者が「容易に発明をすることができたものである」かについて検討する。

A 一致点と相違点の認定に関して
ア 請求人は、本件特許発明と引用発明とは、引用発明が「前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」に相当する構成を有しない点のみで相違すると主張し、これに対して、被請求人は、請求人が主張する一致点及び相違点に関し、相違点については認め、一致点のうち、要件○5、○6に対する主張に対しては否認乃至争うとしている。
この点につき、被請求人は、「第3 2(3)A イ(ア)」のとおり、
・甲第1号証の立上部(13)とストッパ部(14)は、「フック部」と「切欠部」とが一体となって構成される本件特許発明にいう「係合部」に該当しない、
・甲第1号証の立上部(13)とストッパ部(14)とからなる構成は、「切欠部」を有していないから、「切欠部」内に収容される形状を有する本件特許発明の「フック部」に該当しない、
という2点においても相違していると主張している。

イ これらの点については、「第4 1(2)D ア?ウ」のとおり、本件特許発明と引用発明とは、請求人が主張するように前記「切欠部」に相当する構成を有しない点で相違するだけでなく、本件特許発明の「係合部」は「第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」を「第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」に係合することで「他端同士を係合する」ものであるのに対して、引用発明は「立上部とストッパ部によって両板面間」に「形成」される「取付空間」内において、一方の「板」の「他端部」における「立上部」側でない「側部」を、他方の「板」の「他端部」における「立上部」に当接させることで「制止」して「位置決め」する点でも相違すると認められるから、請求人が主張する一致点及び相違点の認定は当を得ていない。

さて、相違点1ないし相違点2は、いずれも本件特許発明の「係合部」に関する相違点であり、互いに関連しているので、以下、まとめて判断する。

B 引用発明のみに基づく容易想到性について
ア 最初に、本件特許発明の「係合部」の「切欠部」構造の作用効果について検討する。
本件特許発明の前記「切欠部」には、「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」が係合する構成であるため、前記係合時には、前記「切欠部」内に「鉤形に形成」されて「前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」が部分的にせよ収まるものであると認められる。
そうすると、本件特許発明において、「一端同士を前記ボルトにより連結され」た「前記第1プレート及び第2プレート」の「他端同士を係合」した場合は、各「プレート」の前記「ボルト」を軸とする1方向の回動は前記「フック部」は前記「切欠部」の内壁面に当接することで制限され、各「プレート」の上下方向のズレは前記「鉤形」部分で制限されるとともに、各「プレート」の長手方向のズレ(「第3 2(3)A イ(エ)」において被請求人が主張した「前後方向のずれ」)は前記「フック部」に対する前記「切欠部」内の「開口」の幅で制限されると認められる。
これに対して、引用発明における「第1板」及び「第2板」のそれぞれに設けられた「立上部」と「ストッパ部」は、「ボルト中心に第1板及び第2板」を「すぼめる際」は「立上部にて制止させて重ね合わせ」ることで「支持線の固定位置において位置決め」するものであるから、本件特許発明における「フック部」とは、「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成した」との点で一致しても、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」とは異なるものである。
そして、引用発明において、上記の「立上部」と「ストッパ部」とによる「位置決め」の構成に代えて、本件特許発明のように、「フック部」と「切欠部」とからなる前記「係合部」の構成を採用することについては、甲1号証には記載も示唆もされていない。
してみれば、引用発明では、「ボルトを中心にして第1板と第2板とを互いにずらせて支持線の固定位置において位置決め」した状態では、各「板」の前記「ボルト」を中心とする1方向の回動は、「第1板及び第2板」の一方の「板」の「他端部」における「立上部」側でない「側部」を他方の「板」の「他端部」における「立上部」に当接させることで「制止」され、各「板」の上下方向のズレは、前記「ストッパ部」が存在することと「第1板及び第2板の立上部及びストッパ部」とで生じる「取付空間」内に「支持線と螺旋状支持具本体」とが「挟持」されることとにより、結果として制限されるものの、引用発明は前記「切欠部」に相当する構成を有していないから、各「板」の長手方向のズレが制限されるとは認められない。
したがって、引用発明の前記「位置決め」した状態は、前記長手方向のズレが制限されない分だけ、本件特許発明より不安定になると認められる。

イ 次に、本件特許発明の「係合部」を備えた「螺旋ハンガー用クランプ」の操作における作用効果について検討する。
甲第1号証の段落【0018】及び【0023】には、「第1板9を略直角方向にずらせて、第2板10の直溝部10aを支持線31に位置決めし」た後、「ボルト11中心に第1板9及び第2板10を互いずらせ」て「すぼめる際」に「立上部13にて制止させて両板9,10を重ね合わせる」ことが記載されている。
したがって、「すぼめる際には、立上部にて制止させて重ね合わせできる構成」を有し「螺旋状支持具を支持線に固定する際には、前もって第1板及び第2板の立上部及びストッパ部とで取付空間を生じさせる状態で、支持線と螺旋状支持具本体とを挟持できるようにボルト・ナットによって仮締付し、ボルトを中心にして第1板と第2板とを互いにずらせて支持線の固定位置において位置決め」する引用発明においては、「第1板」に「第2板」側の「支持線と螺旋状支持具本体」に向かって「立ち上げた立上部」と「ストッパ部」が設けられているため、「ボルトを中心にして」前記「第1板」を「第2板」に設けられた「立上部」で「制止」されるまで回動させるためには、前記「第1板」の「立上部」と「ストッパ部」が前記「挟持」された「支持線と螺旋状支持具本体」に引っかからないように前記「第1板」を持ち上げながら回動させる必要がある。
これに対して、本件特許発明の「第1プレート及び第2プレート」は、「吊線と前記螺旋ハンガーとを交差させた状態で挟持する」ものであるところ、本件の特許明細書の段落【0022】?【0025】には、「螺旋ハンガー9の終端部を吊線8に固定する手順」として、第1プレート1上に吊線8と螺旋ハンガー9を配置後に「第2プレート2をボルト4を中心に時計回りに回動して、第1プレート1のフック部12aと第2プレート2の切欠部22aとを係合させ、ナット5を回して緊締していく。」ことが記載されており、第2プレート2には吊線8及び螺旋ハンガー9に引っかかるような構成を有していないことから、本件特許発明は、「螺旋ハンガー」の架線作業において、引用発明のような煩雑な操作性を有していない。

ウ そうすると、本件特許発明は、「第1プレート」及び「第2プレート」の「他端同士を係合する係合部」を有し(相違点1に係る構成)、該「係合部」が、「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」と「前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」を有する(相違点2に係る構成)という構成により、上記ア及びイの作用効果を奏すると認められるところ、甲第1号証には相違点1及び相違点2に係る構成については記載も示唆もされておらず、また、相違点1及び相違点2に係る構成により、本件特許発明は、引用発明と比較して格別の作用効果を奏すると認められる。
したがって、相違点1及び相違点2に係る構成が、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものということはできない。

エ 以上のとおりであるから、本件特許発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

C 引用発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基づく容易想到性について
ア 本件特許発明は引用発明と、少なくとも、相違点2で相違する。すなわち、引用発明の「立上部」および「ストッパ部」は、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」とは異なる。

イ さて、引用発明は「螺旋状支持具を支持線に固定するために使用される固定具」の技術分野に属するものである。
これに対して、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された発明の技術分野は、配管パイプ等のパイプ部材という単一の部材を支持固定する支持部材の技術分野に属するものであり、引用発明と共通する技術分野に属するものではない。
また、「第1板と第2板」を固定する「ボルト・ナット」と、「第1板及び第2板の立上部及びストッパ部」を備えることで、「第4 1(1)」で指摘した「固定力が充分であり、支持線への取付作業の容易で安全な固定具」を提供するという甲第1号証に記載の課題を既に解決している引用発明において、あえて、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された発明の構成を採用しなければならない必要性が認められない。
したがって、引用発明に、技術分野の異なる甲第2号証ないし甲第5号証に記載された発明の構成を採用することは、その動機付けがあるとは認められず、また、甲第1号証には、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」の構成を採用することは記載も示唆もされていないから、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

ウ 次に、仮に引用発明に技術分野の異なる甲第2号証ないし甲第5号証に記載された発明の構成を採用することを当業者が容易に想到し得たとして、本件特許発明を構成することが容易であるかについて検討する。
(ア)甲第2号証の記載事項
甲第2号証は、「配管パイプを配管設置するに用いる配管バンドに関し,特に配管作業の作業性を向上しうるようにした分離一対の湾曲バンド片による配管バンドに関する」(段落【0001】)ものであり、この「分離一対の湾曲バンド片1,2を用い,その各取付片4をこれに挿通したボルト14によってタンバックル18に保持し,湾曲方向中間に位置する各連結部7を直接又は間接的に相互に連結した後,上記ボルト14にナット17を締着することによって配管パイプBを被嵌支持するように使用する」(段落【0006】)ことが記載されている。
そして、前記「連結部7」に関して、以下の記載がある。
「上記連結部7は,これを,それぞれ相互にはめ合い自在の幅方向に1/2深さの切り溝8を介して先端に設置した挿入片部9と,該挿入片部9の湾曲方向内方に外周方向に凹陥して上記挿入片部9を受入自在とする段差受入部10とを備えて形成し,上記配管パイプ押さえ用湾曲バンド片2の下向きの回動により,それぞれ挿入片部9を段差受入部10に挿入することによつて,これら一対の湾曲バンド片1,2を連結自在としたものとして」(段落【0013】)
「本例の連結部7は,それぞれ湾曲バンド片1,2の,例えば上記プレス成形時に,それぞれ切り溝8の切り欠き加工と挿入片部9,段差受入部10のプレス加工を行うことによって形成してあり,例えば先端に8ミリメートル幅にして先細りの挿入片部9をそれぞれ対向方向に突出するように,同じく対向方向に開口した,段差受入部10の傾斜部11に切り欠き加工した切り溝8を介して設置し,その湾曲方向内方に,例えば8.5ミリメートルにして両側に湾曲内方に拡開状の傾斜部11を備えることにより,挿入片部9の幅よりやや幅広にするとともに挿入片部9の肉厚に応じた凹陥深さの段差受入部10を形成したものとして」(段落【0014】)
すなわち、甲第2号証には、「分離一対の湾曲バンド片1,2」の一方の端部の「段差受入部10の傾斜部11に切り欠き加工した切り溝8」を介して「先端に設置した挿入片部9」を、前記「湾曲バンド片2の下向きの回動」によって、他方の端部に形成した「段差受入部10の傾斜部11に切り欠き加工した切り溝8」に挿入することで「相互にはめ合」わせることが記載されている。そして、前記「段差受入部10」は、「挿入片部9の肉厚に応じた凹陥深さ」を有するものであるから、挿入された前記「挿入片部9は前記「段差受入部10」内に収容されるものである。
そうすると、図1、図2及び図5からも明らかであるが、一方の「湾曲バンド片1,2」の端部の「段差受入部10の傾斜部11」は、当該端部の「先端に設置した挿入片部9」が収容される他方の「湾曲バンド片1,2」の端部の「段差受入部10」から遠ざかる側に折り返されるものであり、前記他方の「湾曲バンド片1,2」側へ折り返されるものではない。
したがって、甲第2号証の「分離一対の湾曲バンド片1,2」の一方の端部の「段差受入部10の傾斜部11に切り欠き加工した切り溝8」を介して「先端に設置した挿入片部9」は、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」とは構成が異なる。
よって、甲第2号証に、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」に対応する構成が記載されているとは認められない。

(イ)甲第3号証の記載事項
甲第3号証は、「パイプ等の被取付部材へ物品を支持させるとき介装されるものであって、被取付部材の周囲に巻回されて取付けられて使用されるブラケットに関する」(第1頁右欄第3?6行)ものである。
そして、甲第3号証には、以下の記載がある。
「一対のブラケット片5」は「左右対称の共通部材であり、全体としてパイプ1の周囲に沿う湾曲形状をなす帯状部材である。ブラケット片5の一端には係合溝6が幅方向、すなわち、ブラケット片5の長さ方向と直角に一辺側から切り込まれている。係合溝6の先端はさらにその先端方向へ屈曲して延びる横溝7をなし、係合溝6と屈曲部7により全体として略L字状の係合溝が形成されている。この係合溝6によって自由端側部分に係合部8が区画形成されている。係合部8は横溝7のため幅狭になった首部9と肥大部10からなり、首部9は肥大部10をブラケット片5の本体部と連結する部分であり、第3図(第1図A矢示方向)からも明らかなように、一般面より外方へ切り起し状に屈曲されている。肥大部10は屈曲し直してブラケット片5の本体部における一般面と略平行な段部をなしている。係合溝6と屈曲部7の変曲部に肥大部10の張り出し部11が設けられている。」(第2頁右欄第27?43行)
「まず(I)で示すように、左右のブラケット片5の各先端側を連結させる。このとき、一方のブラケット片5を他方に対して反転させて双方の係合溝6を組合せ、双方のブラケット片5を離反方向へ引くと、双方の首部9が互いに相手側の横溝7へ嵌合し、肥大部10同志が係合するので、首部9及び張り出し部11によって、周方向並びに軸方向のいずれへも抜け止めされた状態で連結されたブラケット2が組立てられる。……一方側をパイプ1の外周へ沿わせた後、他方のブラケット片5を一方側へ揃うようねじり直すと、こちらもパイプ1の外周に沿うことができ、ブラケット2がパイプ1の周囲へ巻回された(II)で示す状態になる。」(第3頁左欄第3?20行)
したがって、甲第3号証には、「左右対称の共通部材」である「一対のブラケット片5」のそれぞれの「一端」に、前記「ブラケット片5の長さ方向と直角に一辺側から切り込まれ」た「係合溝6」を含む「全体として略L字状の係合溝」を形成するとともに、「幅狭になった首部9」と「肥大部10」とからなる「係合部8」を形成することが記載されている。
しかしながら、「左右対称の共通部材」である各「ブラケット片5」の前記「首部9」は、いずれも、当該「ブラケット片5」の「一般面より外方へ切り起し状に屈曲され」たものであるから、甲第3号証の前記「首部9」と「肥大部10」とからなる「係合部8」は、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部」とは、構成が異なる。
よって、甲第3号証に、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」に対応する構成が記載されているとは認められない。

(ウ)甲第4号証の記載事項
甲第4号証は、「配管を天井などから吊り下げて固定するのに利用されるタイプの配管用吊りバンドに関する」(段落【0001】)ものである。
そして、甲第4号証の図3及び図11において、「短バンド50のバンド下端結合部52の端部」に設けられた「突起部56」は、当該「端部」から矩形状に突出形成された部位を「長バンド40」側へ折り返して起立状に形成したものにすぎず、前記「短バンド50」の「端部」を「鉤形に形成」した構成を備えていない。
また、甲第4号証の図7においても、「屈曲部57」の形状から見て、「短バンド50」の「端部」を「鉤形に形成」した構成を備えているとは認められない。
よって、甲第4号証に、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」に対応する構成が記載されているとは認められない。

(エ)甲第5号証の記載事項
甲第5号証は、「配管を床面或いは壁面などに固定するのに利用される配管支持金具に関する」(段落【0001】)ものである。
そして、甲第5号証の図1及び図3には、「上側支持板6」の端部であって、「下側支持板5」に設けた「凹部16」と対向する部分に形成した「凸部15」は、前記「凹部16」と係合するものの、円柱状の形状を有していると認められるにで、当該「凸部15」は前記「上側支持板6」の端部を鉤形に形成した構成を備えていない。
また、甲第5号証の図2、4、5及び9には、「上側支持板6」または「下側支持板5」の端部を折曲させて形成した「係止用突起17」は矩形状の形状を有していることが記載されていると認められるので、当該「係止用突起17」は、前記「上側支持板6」または「下側支持板5」の端部を鉤形に形成した構成を備えていない。
よって、甲第5号証に、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」に対応する構成が記載されているとは認められない。

(オ)組み合わせによる容易想到性についての検討
上記(ア)ないし(エ)より、甲第2号証ないし甲第5号証には、本件特許発明の「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」に対応する構成が記載されているとは認められない。
したがって、仮に引用発明に技術分野の異なる甲第2号証ないし甲第5号証に記載された発明の構成を採用することを想到し得たとしても、甲第2号証ないし甲第5号証には、本件特許発明の前記「フック部」と「切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」に対応する構成は記載されていないので、引用発明に甲第2号証ないし甲第5号証に記載された発明の構成を採用できたとしても、引用発明の「第1板と第2板」の「他端部」に、相違点2に係る「前記第1プレートの他端を鉤形に形成するとともに、前記第2プレート側へ折り返して起立状に形成したフック部と、前記第2プレートの他端に一側が開口するように形成した切欠部」とからなる「他端同士を係合する係合部」を形成することを、当業者が容易に想到し得たとは認められない。

(カ)検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明は、引用発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

(4)無効理由1についての小括
以上から、請求人の主張を採用することはできず、本件特許発明は、請求人が提出した証拠方法により、当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。
よって、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとする無効理由1には理由はない。

2 無効理由2について
請求人は、本件特許明細書の段落0010には、「当該螺旋ハンガーの終端部を、吊線に対して極めて容易に、かつ確実に連結固定することができる。」と記載されているが、請求項1に記載の発明は、「前記第2プレートの他端を、前記切欠部から先端にかけて前記第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた」構成が特定されておらず、前記「極めて容易に、かつ確実に連結固定することができる」という作用効果を奏するものではないから、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張する。(審判請求書第27?29頁、請求人提出の口頭審理陳述要領書第11頁)

そこで、請求人の上記の主張について、以下、検討する。

本件の特許明細書を見ると、【発明が解決しようとする課題】として、段落【0005】と段落【0006】で「従来の技術」とその問題点を記載した後で、段落【0007】に「本発明は、上記課題を解決し、簡単な操作で確実に吊線と螺旋ハンガーとを挟持できるようにした螺旋ハンガー用クランプを提供することを目的としている。」と記載されている。
してみると、本件の特許明細書において、少なくとも請求項1に係る発明の課題は、「簡単な操作で確実に吊線と螺旋ハンガーとを挟持できるようにした螺旋ハンガー用クランプを提供すること」である。
そして、【発明を実施するための形態】における、段落【0019】の「かかる構成により、第1プレート1に形成された前記吊線用溝部14に吊線8を這わせるとともに、この吊線8に対して所定の角度で螺旋ハンガー9を交差させ、さらに、この螺旋ハンガー9がハンガー用溝部24に収容されるように第2プレート2を位置させて第1プレート1のフック部12aと第2プレート2の切欠部22aとを係合させ、ボルト4及びナット5とでしっかりと緊締することで、螺旋ハンガー9の終端部を吊線8に固定することができる。」という記載により、段落【0021】の「第2プレート2の他端22を、第1プレート1のフック部12a側(図において上方)に所定の角度(例えば10?15度)で僅かに屈曲させている。」という構成を備えていなくとも、前記「第1プレート1のフック部12aと第2プレート2の切欠部22aとを係合させ、ボルト4及びナット5とでしっかりと緊締する」という操作で「確実に螺旋ハンガー9と吊線8とを連結固定することができる」との作用効果を奏することは明らかであると認められる。

したがって、本件特許発明は、本件の特許明細書の発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとは認められない。

以上のとおりであるから、本件特許発明は本件の特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められ、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
よって、無効理由2には理由はない。

3 無効理由3について
(1)本件特許発明の「螺旋ハンガーの終端部」の範囲について
「第4 1(2)A ア」で検討したように、本件特許発明の「螺旋ハンガーの終端部」とは、本件特許発明の「螺旋ハンガーの終端部」とは、ひとつながりの「螺旋ハンガー」の最終の部分を指していると認められる。
そして、本件特許発明において、「螺旋ハンガー用クランプ」で「螺旋ハンガーの終端部を前記吊線に固定する」とき、前記ひとつながりの「螺旋ハンガー」の最終の部分の先端を「吊線に固定する」と、ちょっとしたはずみで前記「クランプ」による「固定」が解除されてしまう虞があることから、通常は、前記ひとつながりの「螺旋ハンガー」の最終の部分の先端からある程度の余裕をもった位置で「吊線に固定する」ことは、当業者には自明と認められる。
また、本件特許発明において、前記ひとつながりの「螺旋ハンガー」の最終の部分の具体的にどの部分を「吊線に固定する」かも、「螺旋ハンガー」の材質、「吊線」から「螺旋ハンガー」に働く引っ張り力、作業効率等を考慮して、当業者が経験的に決定し得るものであることは自明と認められる。

そうすると、「螺旋ハンガー用クランプ」の技術分野における当業者にとっては、本件特許発明の「螺旋ハンガーの終端部」という記載で、当該「終端部」の範囲は明確であると認められる。

(2)本件特許発明の「閉塞端」及び「開放端」の意味について
本件の特許請求の範囲の請求項1の記載から、「第4 1(2)B ウ」で検討したように、本件特許発明でいう「閉塞端」とは、「前記ボルトにより連結」される「第1プレート及び第2プレートの各一端」同士を指しており、「第4 1(2)C ア」で検討したように、本件特許発明でいう「開放端」とは、「前記ボルトにより連結」されていない「前記第1プレート及び第2プレートの各他端」を指していることは、明らかである。

したがって、本件特許発明の「閉塞端」及び「開放端」の意味は明確である。

(3)どのような状態であれば「閉塞端」となるのかについて
本件の特許請求の範囲の請求項1の「前記第1プレート及び第2プレートの各一端側に前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔を形成するとともに、一端同士を前記ボルトにより連結される閉塞端と」するという記載から、「前記第1プレート及び第2プレートの各一端側」に形成された「前記ボルトを挿通させるボルト挿通孔」に「ボルトを挿通」することによって、前記「一端」同士が「前記ボルトにより連結される」状態になったときに、「閉塞端」が構成されることは明らかである。

したがって、どのような状態であれば「閉塞端」となるのかは、本件の請求項1の記載から明確である。

(4)無効理由3についての小括
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1に係る発明は明確であり、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
よって、無効理由3には理由はない。

4 無効理由4について
請求人は、本件特許の願書に最初に添付した明細書には、第2プレートの他端を、第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた構成(具体的には、請求項2に記載される「前記第2プレートの他端を、前記切欠部から先端にかけて前記第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた」構成)が、任意の付加的構成であることが明示されていない。」旨を主張する。(審判請求書第30頁)
すなわち、前記「前記第2プレートの他端を、前記切欠部から先端にかけて前記第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた」ことは、本件の願書に最初に添付された明細書に記載の課題を解決するうえで、必須の構成であるところ、この必須の構成を請求項1で特定しなかった平成26年1月20日に提出した手続補正書による補正により、当該請求項1には、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものが記載されることとなったので、前記手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものとも、同明細書に記載された事項から自明な事項の範囲内でするものとも言えない旨を、請求人は主張していると解される。

そこで、請求人の上記の主張について、以下、検討する。

平成26年1月20日に提出した手続補正書は、請求項1及び請求項2の記載を本件の特許請求の範囲のとおりに補正し、明細書の段落【0008】及び【0009】の記載を前記補正された請求項1及び請求項2の記載に整合するよう補正するとともに、補正前の明細書の段落【0020】及び【0027】における「他端12,22同士」の記載を「一端11,21同士」と補正するものである。
そして、前記段落【0020】及び【0027】における補正は、前記手続補正書と同日に提出した意見書において、「〔2〕補正の内容及びその適法性」の「(3)補正の根拠(特許請求の範囲以外について)」で出願人(被請求人)が主張するように、誤記の訂正であると認められる。
すなわち、平成26年1月20日に提出した手続補正書は、段落【0008】及び【0009】を除けば、明細書の記載を実質的に変更するものでない。したがって、本件特許明細書と、本件の願書に最初に添付した明細書とは、段落【0008】及び【0009】を除き、記載内容において相違はないといえる。

そうすると、無効理由2で検討したように(「第4 2」参照)、「前記第2プレートの他端を、前記切欠部から先端にかけて前記第1プレートのフック部側に所定の角度で屈曲させた」という構成を特定していない本件特許発明は、本件の特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められるから、本件の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明にも記載されていたとも認められる。

以上の通りであるから、本件の請求項1に係る発明を本件特許発明のとおりに補正した平成26年1月20日に提出した手続補正書による補正は、本件の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載された事項の範囲内でなされたものと認められるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
よって、無効理由4には理由はない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、本件特許発明に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできないので、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とされるべきものではない。
また、請求人の主張によっては、本件特許は、特許法第36条第6項第1号及び同法同条同項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできないので、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効にされるべきものではない。
そして、請求人の主張によっては、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとすることはできないので、特許法第123条第1項第1号に該当せず、無効にされるべきものではない。
また、他に本件特許発明に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。

本件審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-07 
結審通知日 2016-01-12 
審決日 2016-01-25 
出願番号 特願2009-231503(P2009-231503)
審決分類 P 1 123・ 537- Y (H02G)
P 1 123・ 121- Y (H02G)
P 1 123・ 55- Y (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南 正樹  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 河口 雅英
鈴木 匡明
登録日 2014-02-28 
登録番号 特許第5485640号(P5485640)
発明の名称 螺旋ハンガー用クランプ  
代理人 正木 裕士  
代理人 藤川 忠司  
代理人 藤川 義人  
代理人 特許業務法人ブライタス  
代理人 三上 祐子  

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