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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23K
管理番号 1312337
審判番号 不服2015-786  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-15 
確定日 2016-03-09 
事件の表示 特願2012- 4154「コンパニオン動物からの排出物の臭気を低減する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月24日出願公開、特開2012- 95661〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年11月24日(パリ条約による優先権主張2003年11月26日,米国)を国際出願日とする出願である特願2006-541695号(以下「原出願」という。)の一部を特許法第44条第1項の規定により平成24年1月12日に新たな特許出願としたものであって、手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
平成25年 10月11日 拒絶理由通知(同年10月16日発送)
平成26年 2月14日 意見書・補正書
平成26年 9月16日 拒絶査定(同年9月18日送達)
平成27年 1月15日 審判請求書・手続補正書
平成27年 2月26日 手続補正書(審判請求書)


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年1月15日付けの手続補正を却下する。

1 補正の内容・目的
平成27年1月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成26年2月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に請求項10及び請求項11を付加した次の補正を含むものである。
(補正前)
「【請求項1】
コンパニオン動物の排出物の臭気を低減する方法であって、排出物臭気低減有効量のショウガ科スパイスまたはその抽出物を含むフードを前記動物に摂取させることを含み、前記ショウガまたはその抽出物の量は、前記フード中に、前記フードの少なくとも0.5重量%のショウガ同等量で存在する、前記方法。
【請求項10】
コンパニオン動物の排出物の臭気を低減する請求項1記載の方法であって、排出物臭気低減有効量の繊維を第2の臭気低減剤と一緒に含むフードを前記動物に摂取させることを含み、前記ショウガまたはその抽出物の量は、前記フード中に、前記フードの少なくとも0.5重量%のショウガ同等量で存在する、前記方法。
【請求項11】
前記繊維は、前記フード中に0.1?20重量%の量で存在する、請求項10に記載の方法。」

(補正後)
「【請求項1】
コンパニオン動物の排出物の臭気を低減する方法であって、排出物臭気低減有効量のショウガ科スパイスまたはその抽出物、および、排出物臭気低減有効量の繊維を第2の臭気低減剤と一緒に含むフードを前記動物に摂取させることを含み、前記ショウガ科スパイスまたはその抽出物はショウガまたはその抽出物であり、前記ショウガまたはその抽出物の量は、前記フード中に、前記フードの少なくとも0.5重量%のショウガ同等量で存在し、前記繊維は、前記フード中に0.1?20重量%の量で存在する、前記方法。」

上記補正事項は、請求項1に請求項10及び請求項11を付加し、さらに請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「ショウガ科スパイスまたはその抽出物」について、「ショウガまたはその抽出物であり」と限定したものであり、かつ補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、少なくとも、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものであり、また、新規事項を追加するものではないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満たしている。

そこで、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反)
(1)刊行物
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平10-234312号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の記載がある(下線は審決で付した。)。

(ア) 「【請求項1】生姜を有効成分として配合してなることを特徴とする家畜用消臭剤。
【請求項2】2種以上のフラボノイドを含有する植物をさらに配合してなる請求項1に記載の家畜用消臭剤。
【請求項3】前記消臭剤の添加割合は、家畜用飼料に対して0.05?0.5重量%である請求項1又は2に記載の家畜用消臭剤。」

(イ) 「【0002】
【従来の技術】都市化の進行に伴い、畜産農家は、やむなく住宅地との隣接をせまられ、酪農、養豚、養鶏は必然的に悪臭による環境汚染をもたらし、これによる近隣とのトラブルは極限に達し、今や畜産経営を断念せざるを得ない状況にまで追いつめられ、片や一般家庭においては、愛玩動物である犬や猫との同居が増加し、排泄物の臭気は愛情を上回るものがあり、これら悪臭による問題を早急に解決することが望まれている。」

(ウ) 「【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究の結果、生姜など漢方薬に類する植物を調合したものを飼料に添加すると、添加物質は、僅かの添加で家畜の消化管内や排泄物中の悪臭物質を安全に消滅させる作用を有し、抗生物質や抗菌剤などの同時投与においても、消臭効果に影響がないばかりか、動物の健康増進につながるという相乗効果と、悪臭が衣類に付着し難いという特性をも併せもつことを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明の家畜用消臭剤は、生姜を有効成分として配合してなること、を特徴としている。この場合、2種以上のフラボノイドを含有する植物をさらに配合することが好ましい。また、前記消臭剤の添加割合は、家畜用飼料に対して0.05?0.5重量%の範囲とするのが好ましい。」

(エ) 「【0008】フラボノイドは、生姜のみでは消臭しきれない複合された悪臭成分を取り除くのに有効であるが、単一のフラボノイドのみでは消臭は不完全であり、複合された臭気を消滅させるためには、複数種類のフラボノイドを含有する植物の配合が有効である。ここで、複数種類のフラボノイドを含有するとは、配合する植物中に複数種類のフラボノイドが含まれていればよく、植物の種類は1種でも2種以上でもよい。ただ、多種類のフラボノイドを含有する方が消臭に有効なため、多種類の植物の配合が好ましい。このようなフラボノイドを含有する植物の一例として、蕎麦、柑橘類の果皮、ドクダミ、カリヤス(コブナ草)、ヤエナリ(種皮)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を適宜配合して用いる。・・・」

(オ) 「【0011】生姜は生のまま粉砕投与、乾燥粉砕投与、蒸留水にして成分抽出(蒸留釜に材料を投入して蒸留し水蒸気を冷却して有効成分を採取)するなど、有効成分の抽出方法は使用形態により適宜選択できる。使用形態としては、飼料に混合して用いる経口投与、水溶液にして室内に散布するなどがある。経口投与の場合は、生のまま又は乾燥して粉砕したものを用いるのが好ましく、水溶液の散布の場合は、蒸留水にして成分抽出したものを用いるのが好ましい。蕎麦その他の資材も乾燥粉末にしたり蒸留水にして成分抽出したり、その有効成分の抽出方法は適宜選択される。
【0012】これらの成分の配合割合は、家畜の種類や家畜の体調などにより適宜調整するが、生姜について生の場合は10?30重量%、乾燥粉末の場合は2?6重量%、ジンゲオール(生姜の蒸留物)の場合は1?3重量%、炭末1?3重量%、鉄化合物1?5重量%程度、フラボノイドを含有する植物については用いる植物(蕎麦や柑橘類など)によって賦形剤としての役割もある程度もたせることができるためその配合割合は一概には言えない。トマトについては0.5?5重量%程度がよい。ここで、生姜の添加割合が少ないと十分な消臭効果が得られず、一方多すぎても消臭効果は高まらない。・・・
【0013】経口投与の場合、飼料への消臭剤の添加量は飼料に対して0.05?0.5重量%、さらには0.05?0.2重量%程度の範囲が好ましい。余り添加量が少ないと消臭効果が十分でなく、一方添加量が多くても消臭効果はそれ程高まらず、コストも上がるので、上記範囲が適当である。」

(カ) これら(ア)ないし(オ)によると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。
「家畜の消化管内や排泄物中の悪臭物質を安全に消滅させる方法において、
生姜を有効成分として配合し、生姜のみでは消臭しきれない複合された悪臭成分を取り除き、消滅させるために2種以上のフラボノイドを含有する植物をさらに配合してなる家畜用消臭剤を、飼料に混合して経口投与するものであって、
成分の配合割合は、生姜について生の場合は10?30重量%、乾燥粉末の場合は2?6重量%、ジンゲオール(生姜の蒸留物)の場合は1?3重量%程度であって、飼料への消臭剤の添加量は飼料に対して0.05?0.5重量%である、方法。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2003-250464号公報(以下「刊行物2」という。)には、「麦若葉造粒物からなる動物用飼料」に関して、次の記載がある(下線は審決で付した。)。

(ア) 「【0005】近年、動物を室内で飼うケースが多くなり、動物にもアレルギー症状、肥満、糖尿病のような生活習慣病が見うけられるようになった。そしてこれに伴い、動物用飼料として様々な栄養補助食品、療法食が市販されている。一方、動物の体臭および糞便臭は不快臭や室内の悪臭の原因になることから、臭いを抑えるアイテムの需要も着実に伸びている。体臭や糞便臭に対する消臭効果をうたった商品としては、消臭スプレー、消臭マットなどがあるが、これは対症療法的な対応にすぎず、動物の整腸を促し、健康を維持することによる原因療法的な体臭や糞便臭の改善が望まれている。・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このような状況下、取り扱い性が良く、動物の体質を改善し、体臭や糞便臭を体の中から抑えるような動物用飼料が望まれている。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、取り扱い性が良く、動物の体質を改善し、体臭や糞便臭を体の中から抑える動物用飼料の開発を試みた結果、種々の機能性を有する麦若葉末を押出し造粒することにより上記のような飼料が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。」

(イ) 「【0039】このように、本発明の動物用飼料は、麦若葉末のみで構成されても良いが、他の天然物由来の素材を含んでいても良い。例えば、整腸作用を有する他の成分、または嗜好性の高い素材などを含んでいてもよい。
【0040】整腸作用を有する他の成分は、例えば、食物繊維、乳酸菌などが挙げられ、麦若葉末に含まれる食物繊維と相俟って、体臭や糞便臭を抑える効果を増強させる。食物繊維としては、小麦ふすま、ビートファイバー、コーンファイバー、アップルファイバー、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチン、キトサン、アルギン酸、ペクチン、グアーガム分解物、グルコマンナン、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、プルラン、アルギン酸、サイリウム、アラビアガムなどが挙げられ、不溶性であっても、水溶性であっても良い。・・・」

(2)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比する。
ア 刊行物1発明の「生」、「乾燥粉末」又は「ジンゲオール(生姜の蒸留物)」の場合の「生姜」は、補正発明の「ショウガ科スパイスまたはその抽出物」である「ショウガまたはその抽出物」に相当し、以下同様に、「飼料」は、「フード」に、「飼料に混合して経口投与する」ことは、「一緒に含むフードを動物に摂取させること」に、「2種以上のフラボノイドを含有する植物」のうちの1種の「フラボノイドを含有する植物」は、「第2の臭気低減剤」に、それぞれ相当する。

イ 刊行物1発明の「家畜」と、補正発明の「コンパニオン動物」とは、「飼育動物」である点で共通する。
また、刊行物1発明の「家畜の消化管内や排泄物中の悪臭物質を安全に消滅させる方法」と、補正発明の「コンパニオン動物の排出物の臭気を低減する方法」とは、「飼育動物の排出物の臭気を低減する方法」で共通する。

ウ 刊行物1発明の「成分の配合割合は、生姜について生の場合は10?30重量%、乾燥粉末の場合は2?6重量%、ジンゲオール(生姜の蒸留物)の場合は1?3重量%程度であって、飼料への消臭剤の添加量は飼料に対して0.05?0.5重量%であ」ることと、補正発明の「ショウガまたはその抽出物の量は、前記フード中に、前記フードの少なくとも0.5重量%のショウガ同等量で存在する」こととは、「ショウガまたはその抽出物の量は、フード中に、所定量で存在する」点で共通する。

エ 刊行物1発明において、「2種以上のフラボノイドを含有する植物」のうち、上記アに記載した1種の「フラボノイドを含有する植物」を除いた他の「フラボノイドを含有する植物」と、補正発明の「排出物臭気低減有効量の繊維」とは、「第2の臭気低減材」とは別の「他の臭気低減材」で共通する。

オ したがって、両者は、以下の点で一致している。
(一致点)
「飼育動物の排出物の臭気を低減する方法であって、所定量のショウガ科スパイスまたはその抽出物、および、他の臭気低減剤を第2の臭気低減剤と一緒に含むフードを前記飼育動物に摂取させることを含み、前記ショウガ科スパイスまたはその抽出物はショウガまたはその抽出物であり、前記ショウガまたはその抽出物の量は、前記フード中に、所定量で存在する、前記方法。」

カ そして、以下の点で相違している。
(相違点1)
飼育動物が、補正発明はコンパニオン動物であるのに対し、刊行物1発明は家畜である点。
(相違点2)
補正発明のショウガまたはその抽出物の所定量は、排出物臭気低減有効量であって、フードの少なくとも0.5重量%のショウガ同等量であるのに対し、
刊行物1発明の「生」、「乾燥粉末」又は「ジンゲオール(生姜の蒸留物)」の「生姜」の所定量は、飼料に対して0.05?0.5重量%である消臭剤の成分の、生の場合は10?30重量%、乾燥粉末の場合は2?6重量%、ジンゲオール(生姜の蒸留物)の場合は1?3重量%程度の配合割合である点。
(相違点3)
他の臭気低減材が、補正発明は、フード中に0.1?20重量%の量で存在する、排出物臭気低減有効量の繊維であるのに対し、
刊行物1発明は、他のフラボノイドを含有する植物である点。

(3)判断
ア 相違点1について
刊行物1の段落【0002】(上記2(1)ア(イ))に記載されている様に、引用文献1に記載の発明の悪臭物質を安全に消滅させることは、犬や猫の様な愛玩動物(補正発明の「コンパニオン動物」に相当。)においても望まれていることと認識出来る。
そして、刊行物1に記載の発明を、犬や猫の様な愛玩動物に用いることに困難性も存在しないことを考慮すると、刊行物1発明を用いる対象を、犬や猫等のコンパニオン動物として、相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
(ア)まず、刊行物1発明の「生姜を有効成分として配合し」てなる「家畜用消臭剤」は、生姜が有効成分として作用するものであり、刊行物1の段落【0012】(上記2(1)ア(オ))に「生姜の添加割合が少ないと十分な消臭効果が得られ」ないと記載されている様に、生姜は所望の消臭効果を得るために適当な量、すなわち排出物臭気低減有効量配合されるべきものであるので、刊行物1発明の「生姜を有効成分として配合し」てなる「家畜用消臭剤」も、実質的に生姜が排出物臭気低減有効量配合されるものと認められる。

(イ)さらに、引用発明の生姜の添加割合は、刊行物1の段落【0012】(上記2(1)ア(オ))に記載されている様に、「家畜の種類や家畜の体調などにより適宜調整する」ものであり、「生姜の添加割合が少ないと十分な消臭効果が得られ」ないものであるので、所望の消臭効果を得るために、対象となる動物を特定して、製品設計の一般的手設計法である実験等で適当な生姜の添加割合を決定することは、当業者が発明の具現化のために行う通常の設計行為である。

(ウ)そして、本願明細書において、【実施例】に「単に例示とし、いかなる点でも本開示を限定しない。」ものとして、「0.5重量%のショウガ根粉末を加えたかまたは加えない成犬用フードを使用して、実験を行った」時等に、「加えたショウガを有するフードを猫が摂取した期間からの大便試料は、ショウガを有しない対照フードを猫が摂取した期間からの大便試料よりも強度が低い(それぞれ平均強度1022対1123ppmのn-ブタノール)ことを見い出した。」こと等が記載されているものの、実験ではショウガの量を種々変更して「少なくとも0.5重量%」と、それ未満のショウガの量とで、顕著な効果の差を証明する等の「少なくとも0.5重量%」なる数値範囲の値に臨界的意義を認識出来ず、その他にも本願明細書から「少なくとも0.5重量%」なる数値範囲の値に臨界的意義を認識できるものでもないので、「0.5重量%」なる値に、実験等で適当な生姜の添加割合を決定するときに対象と出来ない様な、特別な技術的事情が存在するものではない。

(エ)そうすると、上記(ウ)からみて、「少なくとも0.5重量%」なる数値範囲の値が、(a)本願明細書から臨界的意義を認識できるものでなく、(b)それを採用出来ない特別な技術的事情が存在するものでもなく、(c)本願明細書から当業者が予期し難い格別顕著な効果を認識出来るものでもない以上、上記アにおいて、消臭剤を用いる対象を犬や猫等のコンパニオン動物とすることにともなって、犬や猫等のコンパニオン動物を対象として、適当な生姜の添加割合を決定する実験等を行って、相違点2に係る補正発明の構成とすることは、当業者にとって容易想到の範囲というべきである。

ウ 相違点3について
(ア)上記(1)イによると、刊行物2には、次の事項(以下「刊行物2技術事項」という。)が記載されている。
(a)室内で飼う動物(補正発明の「コンパニオン動物」に相当。)の糞便臭を体の中から抑える(補正発明の「排出物の臭気を低減する」に相当。)、動物用飼料(補正発明の「フード」に相当。)は、麦若葉末で構成され、整腸作用を有する他の成分を含んでいてもよく、
(b)整腸作用を有する他の成分は、例えば、小麦ふすま、セルロース、ヘミセルロース、ペクチンなどの食物繊維(補正発明の「繊維」に相当。)が挙げられ、麦若葉末に含まれる食物繊維と相俟って、糞便臭を抑える効果を増強させる。

刊行物1発明は家畜の消化管内や排泄物中の悪臭物質を安全に消滅させることを課題,効果とし、また刊行物2技術事項は動物の糞便臭を抑えることを課題,効果としていることからみて、両発明は共通の課題,効果を有しているので、上記刊行物2技術事項の食物繊維を、刊行物1発明の消臭剤に付加することにより、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得る程度のことである。

(イ)また、繊維のフード中の量に関しては、相違点2での検討事項と同様に、実施例では、2.4重量%と1重量%の実験しか行われておらず、「0.1?20重量%」なる数値範囲の値が、本願明細書から臨界的意義を認識できるものでなく、それを採用出来ない特別な技術的事情が存在するものでもなく、本願明細書から当業者が予期し難い格別顕著な効果を認識出来るものでもない以上、適宜決定しうる、当業者にとって容易想到の範囲というべきである。

(ウ)なお、請求人は審判請求書において、「加えた記載中における“繊維を第2の臭気低減剤と一緒に”の記載は、「繊維」と「第2の臭気低減剤」を別の物質であると理解させるものであるが、この記載は、「繊維」が「第2の臭気低減剤」であることを意味するところの「繊維を第2の臭気低減剤として一緒に」とすべき誤記である。というのは、この記載における「第2の臭気低減剤」なる語は本願明細書中に存在しないところ、段落[0017]に「追加の臭気低減剤」なる語があり、かつ、それがその段落で「ショウガまたはその抽出物と組み合わせて使用され」るものとされているので、段落[0017]の記載から「第2の臭気低減剤」は「追加の臭気低減剤」であると解され、しかも、その段落で「追加の臭気低減剤」の例として繊維が挙げられているから、補正後の請求項1における「繊維」は「第2の臭気低減剤」と別の物質ではなくて「第2の臭気低減剤」であると解すべきだからである。」と主張しており、明細書中には、ショウガまたはその抽出物と繊維と第2の臭気低減剤と一緒に含むフードを動物に摂取させることによる実施例はなく、その効果も不明である。

しかしながら、根拠としている段落【0017】には、「本発明によれば、単数または複数の追加の臭気低減剤は、ショウガまたはその抽出物と組み合わせて使用された場合、コンパニオン動物の例えば猫及び犬における排出物臭気を低減する際に有用であることができることが発見された。様々な具体例においては、このような追加の単数または複数の臭気低減剤は、繊維、ミネラル、亜鉛塩、例えば酢酸亜鉛、ハーブ及びスパイス、ハーブ及びスパイスの抽出物、プロバイオティックス、酵素及びタンパク質からなる群から選択される。」とあり、ショウガまたはその抽出物と組み合わせて、複数の追加の臭気低減剤を使用されることが記載されており、「繊維」と「第2の臭気低減剤」を別の物質であると理解する方が自然で、「繊維を第2の臭気低減剤として一緒に」とすべき誤記であると解すべきとの根拠とはなりえないし、例え、そのように解したとしても、上記検討事項と同様なことがいえる。

エ 小括
よって、補正発明は、当業者が刊行物1発明及び刊行物2に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明
1 本願発明
平成27年1月15日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1ないし13に係る発明は、平成26年2月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるところ、そのうち請求項11に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1」において、本件補正前の請求項11として示したとおりのものである。

2 判断
本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付したものが補正発明であるところ、補正発明が、前記「第2 2」において検討したとおり、当業者が刊行物1発明及び刊行物2に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであることに照らせば、本願発明が刊行物1発明及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは明らかである。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が刊行物1発明及び刊行物2に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-30 
結審通知日 2015-10-01 
審決日 2015-10-29 
出願番号 特願2012-4154(P2012-4154)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A23K)
P 1 8・ 121- Z (A23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 隆彦  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 住田 秀弘
門 良成
発明の名称 コンパニオン動物からの排出物の臭気を低減する方法  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 辻本 典子  
代理人 小林 泰  

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