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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G |
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管理番号 | 1312350 |
審判番号 | 不服2014-13703 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-07-14 |
確定日 | 2016-03-24 |
事件の表示 | 特願2009-189373「低カリウム含有量葉菜およびその栽培方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月24日出願公開、特開2011- 36226〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年8月18日(特願2009-189373号)の出願であって、平成25年7月19日付けで手続補正がなされたが、平成26年3月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年7月14日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成26年7月14日付け手続補正についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成26年7月14日付けの手続補正を却下する。 〔理由〕 1 本件補正の内容 (1)平成26年7月14日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、本件補正前の請求項1乃至2(平成25年7月19日付け手続補正書)の、 「【請求項1】 水耕栽培法を用いてリーフレタス、サンチュ、コマツナなどの葉菜を栽培する方法において、栽培期間のうち、最初の期間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずカリウム(KNO_(3))を加えて栽培し、その後収穫までの7から10日間を、水耕液中のカリウム要素であるKNO_(3)の代わりに同濃度のNaNO_(3)を加え、かつ栽培期間を通じて水耕液のpHを、NaOHを用いて6.0-6.5に調節することを特徴とするカリウム含有量の少ない葉菜を栽培する方法。 【請求項2】 請求項1に記載のカリウム含有量の少ない葉菜を栽培する方法において得られる収穫時カリウム含有量を、従来の水耕栽培法で栽培したものの30%から40%に抑えた葉菜。」 とあったものを、 「【請求項1】 水耕栽培法を用いて、リーフレタス、サンチュ、又はコマツナを栽培する方法において、栽培期間のうち、最初の期間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずKNO_(3)を加えて栽培し、その後、収穫までの7から10日間を、水耕液中のカリウム要素であるKNO_(3)の代わりに同濃度のNaNO_(3)を加え、かつ栽培期間を通じて水耕液のpHを、NaOHを用いて6.0-6.5に調節することを特徴とするカリウム含有量の少ないリーフレタス、サンチュ、又はコマツナを栽培する方法。」と補正するものである。 (2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1を特定するために必要な事項である「リーフレタス、サンチュ、又はコマツナなどの葉菜を栽培する方法」を「リーフレタス、サンチュ、又はコマツナを栽培する方法」に限定するものである。 2 本件補正の目的及び新規事項の有無 本件補正後の請求項1に係る本件補正は、上記1(2)のとおり、本件補正前の請求項2を削除し、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるので、本件補正は特許法第17条の2第4項に掲げる請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件補正は新規事項を追加するものではない。 3 独立特許要件 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。 (1)引用例1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-61587号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。(下線は当審で付与した。) (a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 カリウム欠乏障害を起こすことなく,可食部の生長を維持しつつ,収穫時カリウム含有量を,従来の栽培方法で栽培したものの1/3から1/4である新鮮重1gあたり2300μgから1800μgに抑えたホウレンソウの栽培方法。 【請求項2】 水耕栽培法を用いてホウレンソウを栽培する。栽培期間5週間のうち,最初の2-3週間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずKNO_(3)を加えて栽培し,その後,水耕液中のカリウム要素であるKNO_(3)の代わりに同濃度のHNO_(3)またはNaNO_(3)を加える。栽培期間を通して水耕液のpHを,NaOHを用いて6.0-6.5に調節することにより,請求項1記載のホウレンソウを栽培する方法。」 (b)「【0001】 本発明は,葉菜類農産物,具体的にはホウレンソウにおけるカリウム含有量が低い栽培方法に関するものである。」 (c)「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 腎臓病患者はカリウムの摂取が制限されている。日常で私たちが食べている野菜にも多くのカリウムが含まれているため,腎臓病透析患者は,野菜を生食できずに,水にさらしたり茹でたりしてカリウムを除去することにより,摂取する必要がある。しかしながら,野菜を水にさらすまたは茹でる方法を用いると,新鮮重あたりのカリウム含有量を減少させることはできるが,カリウムを完全に溶脱できるわけではなく,一部のカリウムを除去できる程度である。さらに,カリウム以外の養分や栄養分が溶脱や分解してしまうことも考えられる。腎臓病透析患者の食生活を踏まえると,一定新鮮重に含まれるカリウム含有量のできる限り少ない野菜が望まれる。 【0007】 一般に農産物の機能性を変化させる手法としては,交雑育種や遺伝子組み換え技術が挙げられるが,市場では受け入れられていないのが現状である。 【0008】 本発明は,このような現状に鑑みてなされたものであり,栽培段階においてカリウム施肥量を調節することで,葉菜類の可食部の生育に影響を与えることなく,葉菜類の可食部のカリウム含有量を減少させることを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 発明者は,以上のことを解決するために鋭意研究を行い,葉菜類の中でカリウム含有量の高いホウレンソウをモデル植物とし,栽培期間中の培地のカリウム濃度を調節することにより,収穫時に従来の手法で栽培したホウレンソウと比較して,カリウム制限による生長障害は起こらないが,収穫時の可食部における単位新鮮重あたりのカリウム含有量が従来の栽培方法で栽培したものの1/3から1/4である新鮮重1gあたり2300μgから1800μgに抑えた栽培方法を確立するに至った。」 (d)「【0030】 (試験結果) 表5に,栽培期間の途中からカリウム施肥量を減らして生育させた場合の,収穫時の各処理区における新鮮重,葉数,含水率,葉緑素計値を示した。対照区と比較してカリウム施肥量を減らした各処理区では,新鮮重,葉数および葉緑素計値において,収穫時に有意差が認められなかった。含水率は5W0K区では94.27%で対照区と比較してわずかに増加したが,5W0K区以外の処理区では対照区と比較して有意な差は認められなかった。」 (e)「【0035】 (結果のまとめ) ホウレンソウは水耕法を用いて栽培し,『栽培期間を通してカリウム施肥量を減らして育てた栽培方法(実施例1)』と『栽培期間の途中からカリウム施肥量を減らして育てた栽培方法(実施例2)』の2処理区を設定した。カリウムの施肥量を減らすことで,両処理区において生育を維持しつつ(表3,表5),カリウム含有量が減少した(図1,図2)。実施例1では,栽培期間を通して水耕液中のカリウム濃度を対照区の1/8にした処理区(1/8K区)で,収穫時のカリウム含有量が対照区の68%まで減少していた。実施例2では,移植後4週目以降水耕液中のカリウム濃度を0にした処理区(4W0K区)で,収穫時のカリウム含有量が対照区の21%まで減少していた。これらの結果から,栽培期間中のカリウム施肥量を制限することにより,可食部の生育を維持しつつ,カリウム含有量の少ないホウレンソウを栽培することが可能であることが明らかになった。また,実施例2の方がより効率的に,収穫時における可食部のカリウム含有量を減少させることが可能であった。」 (f)上記(a)の「・・・栽培期間5週間のうち,最初の2-3週間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずKNO_(3)を加えて栽培し,その後,水耕液中のカリウム要素であるKNO_(3)の代わりに同濃度のHNO_(3)またはNaNO_(3)を加える・・・」の記載と、上記(d)の「・・・移植後4週目以降水耕液中のカリウム濃度を0にした処理区(4W0K区)で,収穫時のカリウム含有量が対照区の21%まで減少していた。・・・」の記載を併せ読むと、栽培期間5週間のうち,最初の2-3週間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずKNO_(3)を加えて栽培し,その後,収穫までの2週間を、水耕液中のカリウム要素であるKNO_(3)の代わりに同濃度のNaNO_(3)を加えることと解される。 (g)上記(a)ないし(f)から、引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されるものと認められる。 「水耕栽培法を用いてホウレンソウを栽培する方法において、栽培期間のうち,最初の2-3週間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずKNO_(3)を加えて栽培し,その後,収穫までの2週間を、水耕液中のカリウム要素であるKNO_(3)の代わりに同濃度のNaNO_(3)を加え、栽培期間を通して水耕液のpHを,NaOHを用いて6.0-6.5に調節する、カリウム含有量が低いホウレンソウの栽培方法」(以下、「引用発明」という。) (2)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 (a)引用発明の「ホウレンソウ」に関して、ホウレンソウ、リーフレタス、サンチュ、コマツナは葉菜類農産物である。 そうすると、引用発明の「水耕栽培法を用いてホウレンソウを栽培する方法」と、 本願補正発明の「水耕栽培法を用いて、リーフレタス、サンチュ、又はコマツナを栽培する方法」とは、「水耕栽培法を用いて、葉菜類農産物を栽培する方法」で共通する。 (b)引用発明の「栽培期間のうち,最初の2-3週間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずKNO_(3)を加えて栽培し」たことは、本願補正発明の「栽培期間のうち,最初の期間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずKNO_(3)を加えて栽培し」たことに相当する。 (c)引用発明の「その後,収穫までの2週間を、水耕液中のカリウム要素であるKNO_(3)の代わりに同濃度のNaNO_(3)を加え」たことと、本願補正発明の「その後,収穫までの7?10日間を、水耕液中のカリウム要素であるKNO_(3)の代わりに同濃度のNaNO_(3)を加え」たこととは、「その後,収穫までの期間を、水耕液中のカリウム要素であるKNO_(3)の代わりに同濃度のNaNO_(3)を加え」たことで共通する。 (d)引用発明の「カリウム含有量が低いホウレンソウの栽培方法」と、本願補正発明の「カリウム含有量の少ないリーフレタス、サンチュ、又はコマツナを栽培する方法」とは、「カリウム含有量の少ない葉菜類農産物を栽培する方法」で共通する。 (e)上記(a)ないし(d)からみて、本願補正発明と引用発明とは、 「水耕栽培法を用いて葉菜類農産物を栽培する方法において、栽培期間のうち,最初の期間は水耕液中のカリウム含有量を減らさずKNO_(3)を加えて栽培し,その後,収穫までの期間を、水耕液中のカリウム要素であるKNO_(3)の代わりに同濃度のNaNO_(3)を加え、かつ栽培期間を通じて水耕液のpHを,NaOHを用いて6.0-6.5に調節する、カリウム含有量の少ない葉菜類農産物を栽培する方法」の点で一致し、次の点で相違する。 相違点: 栽培対象の葉菜類農産物及びKNO_(3)の代わりに同濃度のNaNO_(3)を加える期間に関して、本願補正発明は「リーフレタス、サンチュ、又はコマツナ」及び「7から10日間」であるのに対し、引用発明は、ホウレンソウ及び2週間である点で相違する。 (3)当審の判断 上記相違点について検討する。 (a)相違点について 引用例1には「腎臓病透析患者の食生活を踏まえると,一定新鮮重に含まれるカリウム含有量のできる限り少ない野菜が望まれる。」(【0006】)「本発明は,このような現状に鑑みてなされたものであり,栽培段階においてカリウム施肥量を調節することで,葉菜類の可食部の生育に影響を与えることなく,葉菜類の可食部のカリウム含有量を減少させることを目的とする。」(【0008】)と記載されており、葉菜類農産物においてカリウム含有量の少ない葉菜類農産物が強く望まれている。 また、引用例1には「葉菜類の中でカリウム含有量の高いホウレンソウをモデル植物とし」(【0009】)て、「カリウム制限による生長障害は起こらないが,収穫時の可食部における単位新鮮重あたりのカリウム含有量が従来の栽培方法で栽培したものの1/3から1/4である新鮮重1gあたり2300μgから1800μgに抑えた栽培方法を確立」(【0009】)したものであるから、リーフレタス、サンチュ、又はコマツナ等の葉菜類農産物においてもカリウム含有量の少ないものが得られるかを試みることは当業者であれば容易に着想し得ることである。そしてその結果、引用発明のカリウム含有量の少ないホウレンソウが収穫できたことから予測されるとおり、「リーフレタス、サンチュ、又はコマツナ」においても、カリウム含有量が少ないものが得られることを確認したにすぎない。 よって、引用発明の「ホウレンソウ」を「リーフレタス、サンチュ、又はコマツナ」に代えることは当業者が容易に想到し得るものである。 また、ホウレンソウに代えてリーフレタス、サンチュ、又はコマツナを栽培する際に、KNO_(3)の代わりに同濃度のNaNO_(3)を加える期間を最適化することは当業者が適宜設定し得る事項にすぎず、「7から10日間」のように好適な期間となすことは当業者が容易になし得ることである。 したがって、引用発明により上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得ることである。 (b)本願補正発明は「・・・栽培期間中の培地のカリウム濃度を調節することにより,収穫時に従来の手法で栽培したものと比較して,カリウム制限による生長障害は起こらないが,収穫時の可食部における単位新鮮重あたりのカリウム含有量を30%から40%に抑えた・・・」(【0012】)効果を奏する。 しかし、引用例1には「葉菜類の可食部の生育に影響を与えることなく,葉菜類の可食部のカリウム含有量を減少させる」(【0008】)、「収穫時に従来の手法で栽培したホウレンソウと比較して,カリウム制限による生長障害は起こらないが,収穫時の可食部における単位新鮮重あたりのカリウム含有量が従来の栽培方法で栽培したものの1/3から1/4である」(【0009】)記載からすれば、引用発明において、ホウレンソウに代えて「リーフレタス、サンチュ、又はコマツナ」を栽培しても、収穫時に従来の手法で栽培したものと比較して,カリウム制限による生長障害は起きないことは、当業者が予測し得る範囲内の事項であり、また,収穫時の可食部における単位新鮮重あたりのカリウム含有量が「30%から40%」程度となることも、当業者が予測し得る範囲内の事項である。 (4)まとめ したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。 4 小括 以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成25年7月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項2に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年7月19日付けで補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 1 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項、およびこれから認定される引用発明は、上記「第2〔理由〕3(1)」に記載したとおりである。 2 対比、判断 本願補正発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明の発明特定事項を限定するものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕3(3)」に記載したとおり、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3 むすび 以上のとおり、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-03-27 |
結審通知日 | 2015-03-30 |
審決日 | 2015-04-10 |
出願番号 | 特願2009-189373(P2009-189373) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A01G)
P 1 8・ 575- Z (A01G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 木村 隆一 |
特許庁審判長 |
中川 真一 |
特許庁審判官 |
小野 忠悦 竹村 真一郎 |
発明の名称 | 低カリウム含有量葉菜およびその栽培方法 |
代理人 | 吉川 まゆみ |
代理人 | 藤木 博 |