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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1312523
審判番号 不服2014-11462  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-17 
確定日 2016-03-16 
事件の表示 特願2011-545335「高圧高温焼結による熱電性能指数(ZT)の影響」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月15日国際公開,WO2010/080153,平成24年 6月28日国内公表,特表2012-514867〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2009年1月9日を国際出願日とする出願であって,平成25年2月25日付けで拒絶理由の通知がされ,同年8月1日に意見書と手続補正書が提出され,同年9月2日付けで拒絶理由の通知がされ,同年12月9日に意見書と手続補正書が提出され,平成26年2月14日付けで拒絶査定がなされ,同年6月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年6月17日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理 由]
1 補正の内容
平成26年6月17日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1-17を補正して,補正後の請求項1-8とするものであって,補正前後の請求項は各々次のとおりである。

<補正前>
「【請求項1】
半導体化合物を反応セルに入れる工程,
該半導体化合物のZTを増大させるのに十分な時間にわたって該半導体化合物を1GPa?20GPaの圧力及び500℃?約2500℃の高温にさらす工程,並びに
ZTが増大した半導体を回収する工程
を含み,前記半導体化合物が,セレン化物,テルル化物,硫化物,ゲルマニウム化合物,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体のZTを増大させる方法。
【請求項2】
圧力が約2GPa?約10GPaである,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
圧力が約4GPa?約8GPaである,請求項1に記載の方法。
【請求項4】
温度が処理圧力での前記半導体のほぼ焼結温度からその融点よりも約500℃高い温度までの範囲である,請求項1に記載の方法。
【請求項5】
温度が処理圧力での前記半導体化合物の焼結温度から前記半導体のほぼ融点までの範囲である,請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記半導体化合物が,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記半導体がテルル化鉛を含む,請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記時間が約30秒?約24時間である,請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記半導体がドーパントをさらに含む,請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記時間が約5分?約30分である,請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記半導体が,約0.05mm?約4mmの平均粒径を有する半導体の出発粉末を含む,請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記半導体を高圧及び高温にさらす工程の前に,該半導体が粉末,多結晶の塊,1つ若しくは複数の別々の単結晶,又はそれらの組み合わせを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項13】
テルル化鉛化合物を反応セルに入れる工程,
反応セルを約4GPa?約8GPaの圧力及び約600℃?約1300℃の温度にテルル化鉛のZTを増大させるのに十分な時間さらす工程,並びに
ZTが増大したテルル化鉛を回収する工程を含む,テルル化鉛のZTを増大させる方法。
【請求項14】
前記時間が約5分?約24時間である,請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記テルル化鉛が,約0.05mm?約4mmの平均粒径を有するテルル化鉛の出発粉末を含む,請求項13に記載の方法。
【請求項16】
HPHT処理されていない同じ組成の半導体材料よりも高いZTを有する,HPHT処理された高純度の半導体化合物であって,セレン化物,テルル化物,硫化物,ゲルマニウム化合物,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体化合物。
【請求項17】
前記半導体材料が,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,請求項16に記載の半導体材料。」

<補正後>
「【請求項1】
半導体を反応セルに入れる工程,
該半導体のZTを増大させるのに十分な時間にわたって該半導体を約4GPa?8GPaの高圧及び約900℃から約2500℃までの高温であって,かつ処理圧力での前記半導体のほぼ融点までの高温にさらす工程,並びに
ZTが増大した半導体を回収する工程
を含み,前記半導体が,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体のZTを増大させる方法。
【請求項2】
前記半導体がテルル化鉛を含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記時間が約30秒?約24時間である,請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記半導体がドーパントをさらに含む,請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記時間が約5分?約30分である,請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記半導体が,約0.05mm?約4mmの平均粒径を有する半導体の出発粉末を含む,請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記半導体を高圧及び高温にさらす工程の前に,該半導体が粉末,多結晶の塊,1つ若しくは複数の別々の単結晶,又はそれらの組み合わせを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項8】
HPHT処理されていない同じ組成の半導体材料よりも高いZTを有する,HPHT処理された高純度の半導体材料であって,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体材料。」

2 補正事項の整理
本件補正の補正事項を整理すると次のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「半導体化合物を反応セルに入れる工程」を補正して,補正後の請求項1の「半導体を反応セルに入れる工程」とすること。

(2)補正事項2
補正前の請求項1の「該半導体化合物のZTを増大させるのに十分な時間にわたって該半導体化合物を1GPa?20GPaの圧力及び500℃?約2500℃の高温にさらす工程」を補正して,補正後の請求項1の「該半導体のZTを増大させるのに十分な時間にわたって該半導体を約4GPa?8GPaの高圧及び約900℃から約2500℃までの高温であって,かつ処理圧力での前記半導体のほぼ融点までの高温にさらす工程」とすること。

(3)補正事項3
補正前の請求項1の「前記半導体化合物が,セレン化物,テルル化物,硫化物,ゲルマニウム化合物,及びそれらの混合物からなる群より選択される」を補正して,補正後の請求項1の「前記半導体が,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択」されるとすること。

(4)補正事項4
補正前の請求項16の「HPHT処理された高純度の半導体化合物であって,セレン化物,テルル化物,硫化物,ゲルマニウム化合物,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体化合物」を補正して,補正後の請求項8の「HPHT処理された高純度の半導体材料であって,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体材料」とすること。

(5)補正事項5
補正前の請求項2-6,13-15及び17を削除して,補正前の請求項7-12をそれぞれ補正後の請求項2-7とすること。

3 新規事項追加の有無,発明の特別な技術的特徴の変更の有無,及び,補正の目的の適否についての検討
(1)補正事項1-5について
補正事項1-4により補正された部分は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。また,本願の願書に最初に添付した明細書を「当初明細書」という。)に記載されているものと認められるから,補正事項1-4は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
また,補正事項5が当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないことは明らかである。
したがって,補正事項1-5は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
また,補正事項1-5は,発明の特別な技術的特徴を変更するものではないと認められるから,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものといえる。
さらに,補正事項1は,特許法第17条の2第5項第4号に掲げる,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
補正事項2-4は,いずれも特許法第17条の2第5項第2号及び第4号に掲げる,特許請求の範囲の減縮,及び,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
補正事項5は,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる,請求項の削除を目的とするものに該当する。
したがって,補正事項1-5は,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たす。

(2)新規事項追加の有無,発明の特別な技術的特徴の変更の有無,及び,補正の目的の適否についてのむすび
以上検討したとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項,第4項,及び,第5項に規定する要件を満たす。

4 独立特許要件についての検討
本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むから,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定によって,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることを要する。
そこで,本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて,請求項1及び請求項8に係る発明について,更に検討を行う。

(1)補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1及び請求項8に係る発明(以下「本願補正発明1」及び「本願補正発明8」という。)は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1及び請求項8に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
以下,再掲する。

「【請求項1】
半導体を反応セルに入れる工程,
該半導体のZTを増大させるのに十分な時間にわたって該半導体を約4GPa?8GPaの高圧及び約900℃から約2500℃までの高温であって,かつ処理圧力での前記半導体のほぼ融点までの高温にさらす工程,並びに
ZTが増大した半導体を回収する工程
を含み,前記半導体が,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体のZTを増大させる方法。」

「【請求項8】
HPHT処理されていない同じ組成の半導体材料よりも高いZTを有する,HPHT処理された高純度の半導体材料であって,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体材料。」

(2)引用例とその記載事項,及び,引用発明
拒絶査定の理由で引用した,本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用例1には,図面とともに次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

ア 引用例1:国際公開第2008/002910号
(1a)「Claims
What is claimed is:
1. A method of increasing the Seebeck coefficient of a semiconductor, comprising:
exposing a semiconductor to elevated pressure and elevated temperature for a time sufficient to increase the Seebeck coefficient of the semiconductor; and
recovering the semiconductor with an increased Seebeek coefficient.
2. The method of claim 1, wherein the elevated pressure ranges from about 1 GPa to 20 GPa and the elevated temperature ranges from about 500℃ C to about 2500℃.
3. The method of claim 2, wherein the pressure ranges, from about 2 GPa to about 10 GPa.
4. The method of claim 2, wherein the pressure ranges from about 4 GPa to about 8 GPa.
5. The method of claim 2, wherein the temperature ranges from about a sintering temperature of the semiconductor to about 500℃ above a melting point of the semiconductor at process pressures.
6. The method of claim 2, wherein the temperature ranges from a sintering temperature of the semiconductor to about a melting point of the semiconductor at process pressures.
7. The method of claim 1, wherein the semiconductor is selected from the group consisting of selenides, antimonictes, tellurides, sulfides, germanium compounds, and mixtures thereof.
8. The method of claim 1, wherein the semiconductor is selected from the group consisting of lead selenide, lead sulfide, lead telluride, tin sulfide, tin telluride, and mixtures thereof.
9. The method of claim 1, wherein the semiconductor comprises lead telluride.
10. The method of claim 1, wherein the time is from about 30 seconds to about 24 hours.
11. The method of claim 1, wherein the semiconductor further comprises dopants.
12. The method of claim 1, wherein the time is about 5 minutes to about 30 minutes.
13. The method of claim 1, wherein the semiconductor comprises a semiconductor starting powder, wherein the semiconductor starting powder has an average particle size of about 0.5 mm to about 4 mm.
14. The method of claim 1, wherein prior to exposing the semiconductor to elevated pressure and elevated temperature, the semiconductor comprises a powder, a poiycrystalline mass, one or more discrete single crystals, or a combination thereof.」(引用例1に対応する日本語公報である特表2009-542034号に基づく日本語訳。以下同じ。:【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体のゼーベック係数を高める方法であって,
前記半導体のゼーベック係数を高めるために十分な時間の間,当該半導体を高圧および高温下に曝す工程と,
ゼーベック係数が高まった前記半導体を回収する工程と
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において,前記高圧の範囲は約1GPa?約20GPaで,前記高温の範囲は約500℃?約2500℃である。
【請求項3】
請求項2記載の方法において,前記圧力の範囲は約2GPa?約10GPaである。
【請求項4】
請求項2記載の方法において,前記圧力の範囲は約4GPa?約8GPaである。
【請求項5】
請求項2記載の方法において,前記温度の範囲は,前記半導体の焼結温度にほぼ等しい温度から処理圧力において当該半導体の融点を約500℃超える温度までの範囲である。
【請求項6】
請求項2記載の方法において,前記温度の範囲は,前記半導体の焼結温度から処理圧力において当該半導体の融点にほぼ等しい温度までの範囲である。
【請求項7】
請求項1記載の方法において,前記半導体は,セレン化物,アンチモン化物,テルル化物,硫化物,ゲルマニウム化合物,およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである。
【請求項8】
請求項1記載の方法において,前記半導体は,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,およびこれらの混合物からなる群から選択されるものである。
【請求項9】
請求項1記載の方法において,前記半導体はテルル化鉛を含有するものである。
【請求項10】
請求項1記載の方法において,前記時間は約30秒間?約24時間である。
【請求項11】
請求項1記載の方法において,前記半導体はドーパントをさらに有するものである。
【請求項12】
請求項1記載の方法において,前記時間は約5分間?約30分間である。
【請求項13】
請求項1記載の方法において,前記半導体は,平均粒径約0.5mm?約4mmの半導体出発粉末を含むものである。
【請求項14】
請求項1記載の方法において,前記半導体を高圧および高温下に曝す工程の前に,当該半導体は,粉末,多結晶塊,1若しくはそれ以上の不連続単結晶,またはこれらの組み合わせを含むものである。」

(1b)「[0004] Good thermoelectric materials should possess Seebeck coefficients with large absolute values, high electrical conductivity (σ, in units of Ω cm), and low thermal conductivity (λ, in units of W/cm K). A high electrical conductivity results in minimizing Jouie heating in the thermoelectric material while a low thermal conductivity helps to maintain large temperature gradients in the material.
[0005] The efficiency of a thermoelectric material is, therefore, described by the thermoelectric figure-of-merit (Z, in units of K^(-1)), which is calculated by the relationship:Z=α^(2)σ/λ. A useful dimensionless figure-of-merit is defined as ZT, where T is temperature (in K), and ZT=α^(2)σT/λ.
[0006] Metals and metal alloys received much interest in the early development of thermoelectric applications, but these materials have a high thermal conductivity. Furthermore, the Seebeck coefficient of most metals is on the order of 10μV/K, or less. Semiconductors were found with Seebeck coefficients greater than 100 μV/K. Generally, semiconductors also possess high electrical conductivity and low thermal conductivity, which further increases Z, and thus increases the efficiency of the thermoelectric material.
[0007] For instance, bismuth telluride(Bi_(2)Te_(3)) and lead telluridc (PbTe) are two commonly used semiconductor thermoelectric materials with optimized Seebeck coefficients greater than 200 μV/K.
[0008] Optimizing the Seebeck coefficient of a material generally involves synthetic methods by which the stoichtometry of the starting material is slightly altered with a dopant material. Often, this leads to a material with an entirely different composition. In addition, there is no easy way to predict the Seebeck coefficient of a specific material composition.
[0009] Accordingly, there remains a need for materials with Seebeck coefficients with large absolute values. In addition, there remains a need for a method to increase the Seebeck coefficient of a material that does not necessarily involve adding dopants to the material. Embodiments herein address these and other needs.」([0004] 良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきである。導電率が高いほど熱電材料のジュール加熱が最小化される一方,熱伝導率が低いほど当該材料中で大きな温度勾配を保つのに役立つ。
[0005] したがって,熱電材料の効率は,Z=α^(2)σ/λで計算される熱電性能指数(Ζ(K^(-1)単位))により記述される。有用な無次元性能指数はΖTと定義され,ここで,Tは温度(K),またZT=α^(2)σT/λである。
[0006] 熱電応用の開発が始まった初期,金属および金属合金は関心を集めたが,それらの材料の熱伝導率は高い。また,大半の金属のゼーベック係数は,10μV/K以下のオーダーである。その後,ゼーベック係数が100μV/Kを超える半導体が見つかった。また一般に,半導体は導電率が高く熱伝導率が低いためΖが高いことから,熱電材料の性能を向上させる。
[0007] 例えば,テルル化ビスマス(Bi_(2)Te_(3))およびテルル化鉛(PbTe)は,200μV/Kを超える最適化されたゼーベック係数を有するものとして一般に使用される半導体熱電材料の2つである。
[0008] 材料のゼーベック係数最適化には,一般に,出発物質の化学量論的作用をドーパント材料でわずかに修正した合成方法が伴う。多くの場合,これにより完全に組成の異なる材料が生まれる。また,特定の材料組成のゼーベック係数を予測する容易な方法もない。
[0009] そのため,ゼーベック係数の絶対値が大きい材料が依然として必要とされている。さらに,必ずしも材料へのドーパント追加を必要とせずに材料のゼーベック係数を向上させる方法も依然として必要とされている。本明細書の実施形態は,以上に述べた必要性等に応えるものである。)

(1c)「G. SUMMARY
[0010] A method of increasing the Seebeck coefficient of a semiconductor includes exposing a semiconductor to elevated pressure and elevated temperature for a time sufficient to increase the Seebeck coefficient of the semiconductor when measured at the pressure of use, and recovering the semiconductor.
[0011] In embodiments, the elevated pressure may range from about 1 GPa to 20 GPa and the elevated temperature may range from about the sintering temperature to about 500 ℃ above the melting point of the semiconductor at process pressures, for example, about 500 ℃ to about 2500 ℃. In still other embodiments, the pressure may range from about 2 GPa to about 10 GPa. In still other embodiments, the pressure may range from about 4 GPa to about 8 GPa, and preferably about 5 GPa,
[0012] In exemplary embodiments, the temperature may range from about the sintering temperature to about 500℃ above the melting point of the semiconductor at process pressures, In other embodiments, the temperature may range from about 900℃ to about the melting point of the semiconductor at the process pressures. Alternatively, the temperature may range from a sintering temperature to about the melting point of the semiconductor at process pressures. [0013] A semiconductor is a solid material having an electricai conductivity that is between that of a conductor and an insulator, and through which conduction usually takes place by means of holes and electrons. The properties of a semiconductor typically vary with temperature so that their conductivity rises as temperature decreases. In exemplary embodiments, the semiconductor may be selenides, antimonides. tellurides, sulfides, germanium compounds, and mixtures thereof. Dopants may be added and may include, for example, Br, Cl, I, Ga, In, Na, K, Ag, or other intentional impurities to change the electrical or thermal conductivity of the base material. In still other embodiments, the semiconductor may be lead selenide, lead sulfide, lead telluride, tin sulfide, tin telluride, and mixtures thereof. In an exemplary embodiment, the semiconductor is lead telluride.」(G.発明の概要
[0010] 半導体のゼーベック係数を高める方法には,半導体の使用圧力におけるゼーベック係数を高める上で十分な時間の間,当該半導体を高圧および高温下を曝す工程と,当該半導体を回収する工程とが含まれる。
[0011] 実施形態において,前記高圧の範囲は約1GPa?約20GPaであってよく,前記高温の範囲は,前記半導体の焼結温度にほぼ等しい温度から,処理圧力において当該半導体の融点を約500℃超える温度(例えば約500℃?約℃2500)までの範囲であってよい。さらに別の実施形態での圧力の範囲は約2GPa?約10GPaであってよい。さらに別の実施形態での圧力は,約4GPa?約8GPaの範囲であってよく,好ましくは約5GPaである。
[0012] 例示的な実施形態における温度範囲は,前記半導体の焼結温度にほぼ等しい温度から,処理圧力において当該半導体の融点を約500℃超える温度までであってよい。他の実施形態における温度範囲は,約900℃から,処理圧力において当該半導体の融点にほぼ等しい温度までであってよい。あるいは,温度範囲は,前記半導体の焼結温度にほぼ等しい温度から,処理圧力において当該半導体の融点にほぼ等しい温度までであってよい。
[0013] 半導体は,導電体と絶縁体の間の導電率を有した固体材料であり,その電気伝導は,通常,正孔および電子により起こる。半導体の特性は,一般に温度に応じて異なり,導電率は温度低下に伴い上昇する。例示的な実施形態における半導体は,セレン化物,アンチモン化物,テルル化物,硫化物,ゲルマニウム化合物,およびこれらの混合物のうち1若しくはそれ以上であってよい。ドーパントを加えてもよく,そのその例としてはBr,Cl,I,Ga,In,Na,K,Ag,または基材の導電率または熱伝導率を変化させることを目的とした他の不純物などがある。さらに他の実施形態において,前記半導体は,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,およびこれらの混合物とであってよい。例示的な実施形態において,前記半導体はテルル化鉛である。)

(1d)「[0031] The embodiments described herein relating to PbTe consider improving the Seebeck coefficient of already-created PbTe after HPHT conditions that may have created it have been removed, and not continued processing of elemental Pb and Te. The PbTe that is to be improved may be made by non-HPHT methods or HPHT methods. Exemplary methods of synthesizing PbTe for use in the embodiments described herein include mixing or combining elemental Pb and elemental Te in a processing device, and heating the mixture to approximately 900℃ to about 1000℃ under non-elevated pressure (i.e., a pressure that does not substantially vary from atmospheric pressure as compared to the HPHT conditions described above), so that the mixture melts and reacts to form PbTe, Other methods of forming PbTe are possible. The formed PbTe may then be cooled and subsequently subjected to the HPHT conditions described herein in order to improve its Seebeck coefficient.」([0031] PbTeに関して本明細書で説明する実施形態では,HPHT条件で作製済みのPbTeについて,前記HPHT条件解除後のゼーベック係数の改善を考慮しており,元素PbおよびTeの継続的な処理は行わない。改善すべきPbTeは,非HPHT方法またはHPHT方法のどちらで作製したものであってもよい。本明細書で説明する実施形態に使用するPbTeを合成する例示的な方法としては,元素Pbおよび元素Teを処理装置で混合し若しくは組み合わせ,その混合物を非高圧(上記のHPHT条件と比べて実質的に大気圧と変わらない圧力)下で,約900℃?約1000℃に加熱し,前記混合物を溶融および反応させPbTeを形成させる工程などがある。PbTeを形成するその他の方法も可能である。次に,形成したPbTeを冷却したのち,そのゼーベック係数を改善するため,本明細書で説明するHPHT条件を適用する。)

(1e)「EXAMPLE 1
[0039] Lead telluride (PbTe) (99.999% (w/w) purity, Alfa Aesar) was shaped into pellets and loaded into a high pressure cell inside a pressure transmitting medium. Samples were HPHT treated at approximately 6.5 GPa at either 900℃ or 1050℃ for a period of 5 to 15 minutes. The resulting PbTe pills were recovered and cut into ingots about 10 mm x 3 mm x 3 mm in dimension for Seebeck measurements. The Seebeck measurements were obtained at temperatures ranging from 75 K to 300 K.
[0040] Table 1 describes the HPHT treatments applied to the PbTe pills. The average grain size of the semiconductor starting powder from which the pills were pressed is given in the last column. In embodiments, the average particle size of the semiconductor starting powder ranges from about 2 mm to about 4 mm. For other embodiments, the average particle size of the semiconductor starting powder was less than about 0.1 mm, In some embodiments, the average particle size was between about 0.1 mm and 4 mm. The average particle size may be greater than 4 mm. The as received material was cut from a single chunk of PbTe. 」(実施例1
[0039] テルル化鉛(PbTe)(99.999%(w/w),Alfa Aesar社)をペレット形状にし,圧力伝達媒体内の高圧セルに充填した。試料のHPHT処理は,約6.5GPa,900℃または1050℃で,5?15分間行った。その結果得られたPbTeピル(丸剤形状)を回収し,ゼーベック測定用に寸法約10mm×3mm×3mmのインゴット(鋳塊)に切削した。75K?300Kの温度範囲でゼーベック測定値を取得した。
[0040] 表1は,前記PbTeピルに適用した前記HPHT処理について説明したものである。加圧形成したピルの原料である前記半導体出発粉末の平均結晶粒径は,最後の列に示している。諸実施形態における当該半導体出発粉末の平均粒径は,約2mm?約4mmの範囲である。他の実施形態において,この半導体出発粉末の平均粒径は,約0.1mm未満であった。一部の実施形態における平均粒径は,約0.1mm?4mmであった。平均粒径は,4mmより大きくてもよい。当該材料は,受け取られた時点で,PbTeの単一塊から切り出されたものであった。)


(1f)引用例1の第12ページの表1は,HPHT処理したPbTe試料の実験変数を示す表であって,同表の,
・「受取時の状態(As received)」の試料は,圧力,温度,時間は,いずれも「該当せず(N/A)」であって,300Kでのゼーベック係数が,-232μV/Kであり,
・「B」の試料は,6.5GPaの圧力,1050℃の温度で,15分間の処理を行ったものであって,300Kでのゼーベック係数が,-357μV/Kであることを示す記載から,同表から,
・PbTe試料は,「受取時の状態(As received)」から,6.5GPaの圧力,1050℃の温度で,15分間のHPHT処理を経ることによって,300Kでのゼーベック係数が,-232μV/Kから,-357μV/Kへと,高まることを読み取ることができる。

(1g)「EXAMPLE 2
[0042] Samples of lead telluride were synthesized from high purity lead and tellurium at atmospheric pressure, and then subjected to HPHT conditions. Pressures ranged from about 5 to about 7.5 GPa. The temperatures were either 1050℃ or 1200℃. A treatment time of 10 minutes was used for all samples, and the starting powder had an average particle size of about 0.05 mm to about 0.1 mm. Results for the Seebeck coefficient measured at 300 K are shown in Table 2. 」(実施例2
[0042]高純度の鉛およびテルルからテルル化鉛の試料を大気圧で合成したのち,これにHPHT条件を適用した。圧力範囲は,約5?約7.5GPaであった。温度は1050℃または1200℃であった。処理時間は,すべての試料について10分間で,出発粉末の平均粒径は約0.05mm?約0.1mmであった。300Kでのゼーベック係数の測定結果を,表2に示す。)

(1h)引用例1の第13ページの表2は,圧力増加がゼーベック係数の上昇に及ぼす効果を示す表であって,同表の,
・「合成時の状態(Synthesized)」の試料は,圧力,温度,時間は,いずれも「該当せず(N/A)」であって,300Kでのゼーベック係数が,-140μV/Kであり,
・「G」の試料は,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間の処理を行ったものであって,300Kでのゼーベック係数が,-272μV/Kであることを示す記載から,同表と,同表についての説明が記載されている,上記摘記(1g)の記載とから,
・高純度の鉛およびテルルからテルル化鉛の試料を大気圧で合成したのち,平均粒径が約0.05mm?約0.1mmの出発粉末に,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT条件による処理を行うことで,300Kでのゼーベック係数が,-272μV/Kとなり,「合成時の状態(Synthesized)」の300Kでのゼーベック係数である-140μV/Kと比べて高まることを読み取ることができる。

イ 引用発明
引用例1の上記摘記(1a)-(1h)の記載から,引用例1には,以下に記載する,【実施例1】に記載された,試料Bを作製する方法,及び,試料B,に係る発明(以下「引用発明1」,「引用発明2」という。),並びに,【実施例2】に記載された,試料Gを作製する方法,及び,試料G,に係る発明(以下「引用発明3」,「引用発明4」という。)が開示されていると認められる。

・引用発明1
「テルル化鉛(PbTe)の単一塊から切り出された,平均粒径が,約2mm?約4mmの範囲である半導体出発粉末を準備する工程と,
前記半導体出発粉末を,ペレット形状にし,圧力伝達媒体内の高圧セルに充填する工程と,
6.5GPaの圧力,1050℃の温度で,15分間のHPHT処理をする工程であって,前記HPHT処理によって,300Kでのゼーベック係数を,HPHT処理前の-232μV/Kから,HPHT処理後の-357μV/Kへと,絶対値において増大させる工程と,
を含む,テルル化鉛(PbTe)のゼーベック係数を増大させる方法。」

・引用発明2
「テルル化鉛(PbTe)(99.999%(w/w),Alfa Aesar社)をペレット形状にし,圧力伝達媒体内の高圧セルに充填した後に,6.5GPaの圧力,1050℃の温度で,15分間のHPHT処理を行った,300Kでのゼーベック係数が,-357μV/Kである,テルル化鉛であって,
前記HPHT処理を行ったテルル化鉛は,HPHT処理がされていない,300Kでのゼーベック係数が,-232μV/Kであるテルル化鉛よりも,絶対値において高いゼーベック係数を有するテルル化鉛。」

・引用発明3
「高純度の鉛およびテルルから,大気圧で合成した,出発粉末の平均粒径が,約0.05mm?約0.1mmのテルル化鉛の試料を準備する工程と,
前記試料に,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理をする工程であって,前記HPHT処理によって,300Kでのゼーベック係数を,HPHT処理前の-140μV/Kから,HPHT処理後の-272μV/Kへと,絶対値において増大させる工程と,
を含む,テルル化鉛のゼーベック係数を増大させる方法。」

・引用発明4
「高純度の鉛およびテルルから,大気圧で合成した,出発粉末の平均粒径が,約0.05mm?約0.1mmのテルル化鉛の試料を,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理を行った,300Kでのゼーベック係数が,-272μV/Kである,テルル化鉛であって,
前記HPHT処理を行ったテルル化鉛は,HPHT処理がされていない,300Kでのゼーベック係数が,-140μV/Kであるテルル化鉛よりも,絶対値において高いゼーベック係数を有するテルル化鉛。」

(3)新規性進歩性についての検討
ア 本願補正発明1の新規性進歩性について
(ア)本願補正発明1と引用発明1との対比
引用発明1の「半導体出発粉末を,ペレット形状にし,圧力伝達媒体内の高圧セルに充填する工程」は,本願補正発明1の「半導体を反応セルに入れる工程」に相当する。
また,引用発明1は,引用例1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例であるところ,引用例1の上記摘記(1a)の「【請求項1】半導体のゼーベック係数を高める方法であって,前記半導体のゼーベック係数を高めるために十分な時間の間,当該半導体を高圧および高温下に曝す工程と,ゼーベック係数が高まった前記半導体を回収する工程とを有する方法。」との記載に照らして,引用発明1は,「半導体を回収する工程」を備えることは明らかといえる。
したがって,引用発明1と本願補正発明1とは,「半導体を反応セルに入れる工程」及び「半導体を回収する工程」を,いずれも含む点で共通するといえる。

さらに,引用例1の上記摘記(1b)の記載から,引用発明1の「ゼーベック係数」と,本願補正発明1の「ZT」とは,いずれも,「良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値」であると理解される。
また,引用発明1の「6.5GPaの圧力」及び「1050℃の温度」は,それぞれ,本願補正発明1において特定する「約4GPa?8GPaの高圧」及び「約900℃から約2500℃までの高温であって,かつ処理圧力での前記半導体のほぼ融点までの高温」という範囲に含まれる値といえる。
そうすると,引用発明1と本願補正発明1とは,「『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』を増大させるのに十分な時間にわたって該半導体を約4GPa?8GPaの高圧及び約900℃から約2500℃までの高温であって,かつ処理圧力での前記半導体のほぼ融点までの高温にさらす工程」を含む点で共通するといえる。

したがって,上記の対応関係から,本願補正発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「半導体を反応セルに入れる工程,
『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』を増大させるのに十分な時間にわたって該半導体を約4GPa?8GPaの高圧及び約900℃から約2500℃までの高温であって,かつ処理圧力での前記半導体のほぼ融点までの高温にさらす工程,並びに
『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』が増大した半導体を回収する工程
を含み,前記半導体が,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体の『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』を増大させる方法。」

<相違点>
・相違点1:『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』が,本願補正発明1では,「ZT」であるのに対し,引用発明1では,「ゼーベック係数」である点。

(イ)本願補正発明1と引用発明1との相違点についての判断
・相違点1について
引用例1の上記摘記(1g)には,以下の記載がある。
「[0004] 良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきである。導電率が高いほど熱電材料のジュール加熱が最小化される一方,熱伝導率が低いほど当該材料中で大きな温度勾配を保つのに役立つ。[0005] したがって,熱電材料の効率は,Z=α^(2)σ/λで計算される熱電性能指数(Ζ(K^(-1)単位))により記述される。有用な無次元性能指数はΖTと定義され,ここで,Tは温度(K),またZT=α^(2)σT/λである。」,「また一般に,半導体は導電率が高く熱伝導率が低いためΖが高いことから,熱電材料の性能を向上させる」,及び,「本明細書の実施形態は,以上に述べた必要性等に応えるものである。」

すなわち,引用発明1は,半導体のゼーベック係数を増大させる方法に関する発明である。
そして,引用例1の前記記載を参酌すれば,引用発明1において,ゼーベック係数を増大させる目的は,良好な熱電材料を得るためであると理解することができる。
他方,良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきであり,かつ,有用な無次元性能指数として,ΖTが,ZT=α^(2)σT/λとして知られている。
そうすると,当業者であれば,引用例1の上記記載を参酌すれば,引用発明1において,ゼーベック係数を増大させるのは,前記ゼーベック係数を増大させることによって,ZTが増大された,良好な熱電材料を得ることを目的としているものと理解できるといえる。
してみれば,引用発明1に記載された,テルル化鉛(PbTe)の300Kでのゼーベック係数を,HPHT処理前の-232μV/Kから,HPHT処理後の-357μV/Kへと,絶対値において増大させる,6.5GPaの圧力,1050℃の温度で,15分間のHPHT処理を含む方法は,当該テルル化鉛(PbTe)のZTをも増大させるものといえるから,上記相違点1は実質的なものではない。

また,仮に,引用発明1において,テルル化鉛(PbTe)のZTが増大していることが明らかでなく,前記相違点が実質的なものであったとしても,引用発明1は,そもそも,良好な熱電材料を得ることを目的としていることが,引用例1の前記記載から明らかであるから,当業者であれば,ゼーベック係数の絶対値が,-232μV/Kから,-357μV/Kへと,1.54倍に大きく増大した引用発明1において,α^(2)σT/λによって定義されるZTの値を,前記HPHT処理後に増大せしめることは,当業者が容易になし得たことである。

(ウ)引用発明1を引用発明とした場合の新規性進歩性の検討のむすび
本願補正発明1は,引用例1に記載された発明であるから,本願補正発明1は,特許法第29条第1項第3号に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
仮に,本願補正発明1が,引用例1に記載された発明であるとまでは認めることができないとしても,本願補正発明1は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(エ)本願補正発明1と引用発明3との対比
引用発明1は,引用例1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例であるところ,引用例1の上記摘記(1a)の「【請求項1】半導体のゼーベック係数を高める方法であって,前記半導体のゼーベック係数を高めるために十分な時間の間,当該半導体を高圧および高温下に曝す工程と,ゼーベック係数が高まった前記半導体を回収する工程とを有する方法。」との記載に照らして,引用発明3の,「約0.05mm?約0.1mmのテルル化鉛の試料を準備する工程と, 前記試料に,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理をする工程」が,「半導体を反応セルに入れる工程」及び「半導体を回収する工程」を備えることは明らかといえる。
したがって,引用発明3と本願補正発明1とは,「半導体を反応セルに入れる工程」及び「半導体を回収する工程」を,いずれも含む点で共通するといえる。

さらに,引用例1の上記摘記(1b)の記載から,引用発明3の「ゼーベック係数」と,本願補正発明1の「ZT」とは,いずれも,「良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値」であると理解される。
また,引用発明3の「5.0GPaの圧力」及び「1050℃の温度」は,それぞれ,本願補正発明1において特定する「約4GPa?8GPaの高圧」及び「約900℃から約2500℃までの高温であって,かつ処理圧力での前記半導体のほぼ融点までの高温」という範囲に含まれる値といえる。
そうすると,引用発明3と本願補正発明1とは,「『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』を増大させるのに十分な時間にわたって該半導体を約4GPa?8GPaの高圧及び約900℃から約2500℃までの高温であって,かつ処理圧力での前記半導体のほぼ融点までの高温にさらす工程」を含む点で共通するといえる。

したがって,上記の対応関係から,本願補正発明1と引用発明3との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「半導体を反応セルに入れる工程,
『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』を増大させるのに十分な時間にわたって該半導体を約4GPa?8GPaの高圧及び約900℃から約2500℃までの高温であって,かつ処理圧力での前記半導体のほぼ融点までの高温にさらす工程,並びに
『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』が増大した半導体を回収する工程
を含み,前記半導体が,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体の『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』を増大させる方法。」

<相違点>
・相違点2:『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』が,本願補正発明1では,「ZT」であるのに対し,引用発明3では,「ゼーベック係数」である点。

(オ)本願補正発明1と引用発明3との相違点についての判断
・相違点2について
引用例1の上記摘記(1g)には,以下の記載がある。
「[0004] 良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきである。導電率が高いほど熱電材料のジュール加熱が最小化される一方,熱伝導率が低いほど当該材料中で大きな温度勾配を保つのに役立つ。[0005] したがって,熱電材料の効率は,Z=α^(2)σ/λで計算される熱電性能指数(Ζ(K^(-1)単位))により記述される。有用な無次元性能指数はΖTと定義され,ここで,Tは温度(K),またZT=α^(2)σT/λである。」,「また一般に,半導体は導電率が高く熱伝導率が低いためΖが高いことから,熱電材料の性能を向上させる」,及び,「本明細書の実施形態は,以上に述べた必要性等に応えるものである。」

すなわち,引用発明3は,半導体のゼーベック係数を増大させる方法に関する発明である。
そして,引用例1の前記記載を参酌すれば,引用発明3において,ゼーベック係数を増大させる目的は,良好な熱電材料を得るためであると理解することができる。
他方,良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきであり,かつ,有用な無次元性能指数として,ΖTが,ZT=α^(2)σT/λとして知られている。
そうすると,当業者であれば,引用例1の上記記載を参酌すれば,引用発明3において,ゼーベック係数を増大させるのは,前記ゼーベック係数を増大させることによって,ZTが増大された,良好な熱電材料を得ることを目的としているものと理解できるといえる。
してみれば,引用発明3に記載された,テルル化鉛(PbTe)の300Kでのゼーベック係数を,HPHT処理前の-140μV/Kから,HPHT処理後の-272μV/Kへと,絶対値において増大させる,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理を含む方法は,当該テルル化鉛(PbTe)のZTをも増大させるといえるから,上記相違点は実質的なものではない。

また,仮に,引用発明3において,テルル化鉛(PbTe)のZTが増大していることが明らかでなく,前記相違点が実質的なものであったとしても,引用発明3は,そもそも,良好な熱電材料を得ることを目的としていることが,引用例1の前記記載から明らかであるから,当業者であれば,ゼーベック係数の絶対値が,-140μV/Kから,-272μV/Kへと,1.94倍に大きく増大した引用発明3において,α^(2)σT/λによって定義されるZTの値を,前記HPHT処理後に増大せしめることは,当業者が容易になし得たことである。

(カ)引用発明3を引用発明とした場合の新規性進歩性の検討のむすび
本願補正発明1は,引用例1に記載された発明であるから,本願補正発明1は,特許法第29条第1項第3号に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
仮に,本願補正発明1が,引用例1に記載された発明であるとまでは認めることができないとしても,本願補正発明1は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

イ 本願補正発明8の新規性進歩性について
(ア)本願補正発明8と引用発明2との対比
「テルル化鉛(PbTe)」は,「半導体」の一種である。また,「99.999%(w/w)」は,「高純度」の範疇に含まれると解される。そうすると,引用発明2の「テルル化鉛(PbTe)(99.999%(w/w),Alfa Aesar社)をペレット形状にし,圧力伝達媒体内の高圧セルに充填した後に,6.5GPaの圧力,1050℃の温度で,15分間のHPHT処理を行った,300Kでのゼーベック係数が,-357μV/Kである,テルル化鉛」は,本願補正発明8の「HPHT処理された高純度の半導体材料」に相当する。

さらに,引用例1の上記摘記(1b)の記載から,引用発明2の「ゼーベック係数」と,本願補正発明8の「ZT」とは,いずれも,「良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値」であると理解される。

したがって,上記の対応関係から,本願補正発明8と引用発明2との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「HPHT処理されていない同じ組成の半導体材料よりも高い『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』を有する,HPHT処理された高純度の半導体材料であって,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体材料。」

<相違点>
・相違点3:『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』が,本願補正発明8では,「ZT」であるのに対し,引用発明2では,「ゼーベック係数」である点。

(イ)本願補正発明8と引用発明2との相違点についての判断
・相違点3について
引用例1の上記摘記(1g)には,以下の記載がある。
「[0004] 良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきである。導電率が高いほど熱電材料のジュール加熱が最小化される一方,熱伝導率が低いほど当該材料中で大きな温度勾配を保つのに役立つ。[0005] したがって,熱電材料の効率は,Z=α^(2)σ/λで計算される熱電性能指数(Ζ(K^(-1)単位))により記述される。有用な無次元性能指数はΖTと定義され,ここで,Tは温度(K),またZT=α^(2)σT/λである。」,「また一般に,半導体は導電率が高く熱伝導率が低いためΖが高いことから,熱電材料の性能を向上させる」,及び,「本明細書の実施形態は,以上に述べた必要性等に応えるものである。」

すなわち,引用発明2は,HPHT処理されていない同じ組成のテルル化鉛よりも高いゼーベック係数を有する,HPHT処理された高純度のテルル化鉛に関する発明である。
そして,引用例1の前記記載を参酌すれば,引用発明2において,ゼーベック係数を増大させる目的は,良好な熱電材料を得るためであると理解することができる。
他方,良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきであり,かつ,有用な無次元性能指数として,ΖTが,ZT=α^(2)σT/λとして知られている。
そうすると,当業者であれば,引用例1の上記記載を参酌すれば,引用発明2において,ゼーベック係数を増大させるのは,前記ゼーベック係数を増大させることによって,ZTが増大された,良好な熱電材料を得ることを目的としているものと理解できるといえる。
してみれば,引用発明2に記載された,テルル化鉛(PbTe)の300Kでのゼーベック係数を,HPHT処理前の-232μV/Kから,HPHT処理後の-357μV/Kへと,絶対値において増大させる,6.5GPaの圧力,1050℃の温度で,15分間のHPHT処理は,当該テルル化鉛(PbTe)のZTをも増大させるものといえるから,上記相違点は実質的なものではない。

また,仮に,引用発明2において,テルル化鉛(PbTe)のZTが増大していることが明らかでなく,前記相違点が実質的なものであったとしても,引用発明2は,そもそも,良好な熱電材料を得ることを目的としていることが,引用例1の前記記載から明らかであるから,当業者であれば,ゼーベック係数の絶対値が,-232μV/Kから,-357μV/Kへと,1.54倍に大きく増大した引用発明2において,α^(2)σT/λによって定義されるZTの値を,前記HPHT処理後に増大したものとすること,当業者が容易になし得たことである。

(ウ)引用発明2を引用発明とした場合の新規性進歩性の検討のむすび
本願補正発明8は,引用例1に記載された発明であるから,本願補正発明8は,特許法第29条第1項第3号に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
仮に,本願補正発明8が,引用例1に記載された発明であるとまでは認めることができないとしても,本願補正発明8は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(エ)本願補正発明8と引用発明4との対比
「テルル化鉛」は,「半導体」の一種である。また,「高純度の鉛およびテルルから,大気圧で合成した」「テルル化鉛」は,「高純度」の半導体材料ということができる。そうすると,引用発明4の「高純度の鉛およびテルルから,大気圧で合成した,出発粉末の平均粒径が,約0.05mm?約0.1mmのテルル化鉛の試料を,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理を行った,300Kでのゼーベック係数が,-272μV/Kである,テルル化鉛」は,本願補正発明8の「HPHT処理された高純度の半導体材料」に相当する。

さらに,引用例1の上記摘記(1b)の記載から,引用発明4の「ゼーベック係数」と,本願補正発明8の「ZT」とは,いずれも,「良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値」であると理解される。

したがって,上記の対応関係から,本願補正発明8と引用発明4との一致点及び相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「HPHT処理されていない同じ組成の半導体材料よりも高い『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』を有する,HPHT処理された高純度の半導体材料であって,セレン化鉛,硫化鉛,テルル化鉛,硫化スズ,テルル化スズ,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体材料。」

<相違点>
・相違点4:『良好な熱電材料を得るために高い値が望ましいとされる前記熱電材料の特性値』が,本願補正発明8では,「ZT」であるのに対し,引用発明4では,「ゼーベック係数」である点。

(オ)本願補正発明8と引用発明4との相違点についての判断
・相違点4について
引用例1の上記摘記(1g)には,以下の記載がある。
「[0004] 良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきである。導電率が高いほど熱電材料のジュール加熱が最小化される一方,熱伝導率が低いほど当該材料中で大きな温度勾配を保つのに役立つ。[0005] したがって,熱電材料の効率は,Z=α^(2)σ/λで計算される熱電性能指数(Ζ(K^(-1)単位))により記述される。有用な無次元性能指数はΖTと定義され,ここで,Tは温度(K),またZT=α^(2)σT/λである。」,「また一般に,半導体は導電率が高く熱伝導率が低いためΖが高いことから,熱電材料の性能を向上させる」,及び,「本明細書の実施形態は,以上に述べた必要性等に応えるものである。」

すなわち,引用発明4は,HPHT処理されていない同じ組成のテルル化鉛よりも高いゼーベック係数を有する,HPHT処理された高純度のテルル化鉛に関する発明である。
そして,引用例1の前記記載を参酌すれば,引用発明4において,ゼーベック係数を増大させる目的は,良好な熱電材料を得るためであると理解することができる。
他方,良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきであり,かつ,有用な無次元性能指数として,ΖTが,ZT=α^(2)σT/λとして知られている。
そうすると,当業者であれば,引用例1の上記記載を参酌すれば,引用発明4において,ゼーベック係数を増大させるのは,前記ゼーベック係数を増大させることによって,ZTが増大された,良好な熱電材料を得ることを目的としているものと理解できるといえる。
してみれば,引用発明4に記載された,テルル化鉛の300Kでのゼーベック係数を,HPHT処理前の-140μV/Kから,HPHT処理後の-272μV/Kへと,絶対値において増大させる,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理は,当該テルル化鉛のZTをも増大させるといえるから,上記相違点は実質的なものではない。

また,仮に,引用発明4において,テルル化鉛のZTが増大していることが明らかでなく,前記相違点が実質的なものであったとしても,引用発明4は,そもそも,良好な熱電材料を得ることを目的としていることが,引用例1の前記記載から明らかであるから,当業者であれば,ゼーベック係数の絶対値が,-140μV/Kから,-272μV/Kへと,1.94倍に大きく増大した引用発明4において,α^(2)σT/λによって定義されるZTの値を,前記HPHT処理後に増大したものとすること,当業者が容易になし得たことである。

(カ)引用発明4を引用発明とした場合の新規性進歩性の検討のむすび
本願補正発明8は,引用例1に記載された発明であるから,本願補正発明8は,特許法第29条第1項第3号に該当し特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
仮に,本願補正発明8が,引用例1に記載された発明であるとまでは認めることができないとしても,本願補正発明8は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(キ)審判請求人は,審判請求書の請求の理由において,次のように主張する。
「(3)理由1及び2(新規性及び進歩性欠如の拒絶理由)について
引用文献1及び2では,金属の組み合わせが高圧で焼結されることが教示されています。
また,引用文献3では,900℃よりも低い低温焼結が開示されています。
したがって,引用文献1?3では,本願発明における高圧高温(HPHT)下で化合物が焼結されることについては何ら教示も示唆もされていません。
よって,引用文献1?3は,本願発明を開示するものでないのみならず,引用文献1?3に基づいて本願発明に想到することも決して容易ではありません。」

そこで,審判請求人の前記主張について検討すると,引用例1(上記引用文献1)の上記摘記(1e)の記載に照らして,引用例1には,テルル化鉛(PbTe)の単一塊から切り出された,平均粒径が,約2mm?約4mmの範囲である半導体出発粉末を準備して,前記半導体出発粉末を,ペレット形状にし,圧力伝達媒体内の高圧セルに充填し,6.5GPaの圧力,1050℃の温度で,15分間のHPHT処理をする発明,すなわち,鉛とテルルとからなる化合物を焼成する発明が開示されているものと理解することができるから,審判請求人が主張する,引用文献1には,金属の組み合わせが高圧で焼結されることが教示されているだけであって,引用文献1には,高圧高温(HPHT)下で化合物が焼結されることについては何ら教示も示唆もされていませんとする主張は採用することはできない。

また,引用例1の上記(1g)の記載からも,引用例1には,高純度の鉛およびテルルから,大気圧で合成した,出発粉末の平均粒径が,約0.05mm?約0.1mmのテルル化鉛の試料を,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理するをする発明,すなわち,テルル化鉛という化合物を焼成する発明が開示されているものと理解することができるから,審判請求人が主張する,引用文献1には,金属の組み合わせが高圧で焼結されることが教示されているだけであって,引用文献1には,高圧高温(HPHT)下で化合物が焼結されることについては何ら教示も示唆もされていませんとする主張は採用することはできない。

(ク)さらに,出願人は,平成25年12月9日に提出した意見書において,次のように主張する。
「(3.2)引用文献1?3について
たとえ仮に引用文献1?3においてゼーベック係数を増加させる方法が開示されているとしても,熱電性能指数(ZT)の改善は熱電能(すなわちゼーベック係数)の改善から自明ではありません。このことは,導電率及び熱伝導率が熱電能と深く関係しており,したがって熱電能が改善されると,ほとんどの場合は導電率が低下するという事実によるものです。さらに言えば,より高い熱電能,より高い導電率及びより低い熱伝導率の間には本質的な矛盾があります。よって,これら3つのすべてを正しい方向に進めてZTを改善することはほとんど不可能です。したがって,熱電能がHPHT処理によって改善されたからといって,ZTも同様に改善されるであろうとは決して言えません。
実際,当業者は熱電能を改善し,しかしながら導電率を低下させそしてZTを低下させることができます。それゆえ,ZTを改善するためにHPHT処理をしようとすることは決して自明ではありません。
したがって,引用文献1?3は,本願発明を開示するものでないのみならず,引用文献1?3に基づいて本願発明に想到することも決して容易ではありません。」

そこで,前記主張について検討すると,引用例1の上記摘記(1b)の「[0004] 良好な熱電材料は,絶対値が大きいゼーベック係数と,高い導電率(σ(Ω cm単位))と,低い熱伝導率(λ(W/cm K単位))とを有すべきである。導電率が高いほど熱電材料のジュール加熱が最小化される一方,熱伝導率が低いほど当該材料中で大きな温度勾配を保つのに役立つ。[0005] したがって,熱電材料の効率は,Z=α^(2)σ/λで計算される熱電性能指数(Ζ(K^(-1)単位))により記述される。有用な無次元性能指数はΖTと定義され,ここで,Tは温度(K),またZT=α^(2)σT/λである。」との記載に照らして,ZTの値は,ゼーベック係数の二乗(α^(2))と,導電率/熱伝導率(σ/λ)との積に比例することが理解できる。
そして,引用発明1,3,及び,引用発明2,4においては,HPHT処理の前後において,ゼーベック係数(α)は,それぞれ,1.54倍,及び,1.94倍と増大しているのであるから,引用発明1,3,及び,引用発明2,4において,HPHT処理の前後において,ZTの値が増大しなかったというためには,導電率/熱伝導率(σ/λ)の値の変化が,HPHT処理の前後において,前記ゼーベック係数の増大分の二乗の逆数倍と等しいか,それを越える必要があることが明らかである。

しかしながら,材料に処理を加えた場合の,導電率と,熱伝導率の変化の方向が,通常は同じ方向になること(導電率を増大させる処理をすると,当該処理によって,熱伝導率が増大する傾向があること。)は,出願人が「より高い導電率及びより低い熱伝導率の間には本質的な矛盾があります。」と主張するように,当業者において周知の事項といえるから,仮に,出願人が,「したがって熱電能が改善されると,ほとんどの場合は導電率が低下するという事実によるものです。」と主張するように,ペレット形状にした,テルル化鉛の粉末に,6.5GPaの圧力,1050℃の温度で,15分間のHPHT処理をした場合,あるいは,出発粉末の平均粒径が,約0.05mm?約0.1mmのテルル化鉛の試料に,5.0GPaの圧力,1050℃の温度で,10分間のHPHT処理をした場合に,熱電能が改善されるのに併せて導電率が低下したとしても,前記導電率の低下と同時に,熱伝導率も低下する傾向を示すと考えられるから,結局,当該HPHT処理による,導電率/熱伝導率(σ/λ)の値の変化の程度は,前記ゼーベック係数の増大分の二乗,すなわち,(1.54)^(2),あるいは(1.94)^(2)に比べて十分に小さいものとなると認められる。
すなわち,引用発明1-引用発明4のHPHT処理によって,仮に,出願人が意見書で主張するように「熱伝導率が増大する傾向がある」としても,当該熱伝導率の増大によるZTの値への影響は,導電率の増大によって緩和されると共に,前記導電率の増大によって緩和された熱伝導率の増大によるZTの値への影響は,ゼーベック係数の増大による影響に比べて十分に小さいものと推認されるから,「引用文献1は,本願発明を開示するものでないのみならず,引用文献1に基づいて本願発明に想到することも決して容易ではありません」とする,出願人の前記主張は採用することはできない。

(ケ)さらに,本願の【0038】の表1には,「HPTP処理されたPbTe試料に関する実験変数及び結果」が示されており,同表から,
・圧力:N/A,温度:400℃,時間:12時間である「従来の試料」の300℃におけるZTが,1.18×10^(-2)であること,
・圧力:4.0GPa,温度:1045℃,時間:10分のHPHT処理された「試料2」の300℃におけるZTが1.01×10^(-1)であり,上記「通常の試料」よりも,ZTが増大していること,及び,
・圧力:5.5GPa,温度:1045℃,時間:10分のHPHT処理された「試料3」の300℃におけるZTが5.08×10^(-2)であり,上記「通常の試料」よりも,ZTが増大していること,
を,それぞれ読み取ることができる。

他方,上記引用発明3,引用発明4において用いられている半導体は,本願の【0038】の表1に記載された試料と同じ「PbTe」であり,上記引用発明3,引用発明4において用いられているHPHT処理の圧力は,本願の【0038】の表1に記載された「試料2」の「4.0GPa」と,「試料3」の「5.5GPa」の間の値である「5.0GPa」であり,HPHT処理の温度は,上記引用発明3,引用発明4の1050℃と比較して,本願の【0038】の表1に記載された「試料2」,「試料3」の1045℃は,ほぼ同じということができ,さらに,HPHT処理の時間は,いずれも同じ10分となっている。

そうすると,引用発明3,引用発明4は,そのHPHT処理によって,本願の【0038】の表1に記載された「試料2」,「試料3」の中間程度の特性を示すものと推認される。してみれば,引用発明3,引用発明4は,本願の【0038】の表1に記載された「試料2」,「試料3」と同様に,HPHT処理によってZTが増大するものと推認され,当該推認を妨げる特段の事情を見いだすこともできない。

したがって,出願人が主張するように,「熱電性能指数(ZT)の改善は熱電能(すなわちゼーベック係数)の改善から自明ではありません。」としても,引用例1に記載された各発明においては,ゼーベック係数の改善が,熱電性能指数(ZT)の改善に寄与するものと認められるから,出願人の前記主張は採用することはできない。

(4)むすび
相違点1-4については,以上のとおりであるから,本願補正発明1及び本願補正発明8は,いずれも引用例1に記載された発明である。
また,仮に,本願補正発明1及び本願補正発明8が,いずれも引用例1に記載された発明でないとしても,本願補正発明1及び本願補正発明8は,いずれも引用例1に記載された発明と周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本願補正発明1及び本願補正発明1は,特許法第29条第1項第3号に該当し,あるいは,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定のむすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるが,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年6月17日に提出された手続補正書による補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-17に係る発明は,平成25年12月9日に提出された手続補正書によって補正された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-17に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうち請求項1及び請求項16に係る発明に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明16」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
半導体化合物を反応セルに入れる工程,
該半導体化合物のZTを増大させるのに十分な時間にわたって該半導体化合物を1GPa?20GPaの圧力及び500℃?約2500℃の高温にさらす工程,並びに
ZTが増大した半導体を回収する工程
を含み,前記半導体化合物が,セレン化物,テルル化物,硫化物,ゲルマニウム化合物,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体のZTを増大させる方法。」

「【請求項16】
HPHT処理されていない同じ組成の半導体材料よりも高いZTを有する,HPHT処理された高純度の半導体化合物であって,セレン化物,テルル化物,硫化物,ゲルマニウム化合物,及びそれらの混合物からなる群より選択される,半導体化合物。」

2 新規性進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1に記載されている事項は,上記「第2 4 (2)引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明1及び本願発明16を限定したものである本願補正発明1及び本願補正発明8が,前記「第2 4 (3)新規性進歩性についての検討」で判断したとおり,引用例1に記載された発明であり,あるいは,引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと判断されることから,本願発明1及び本願発明16も同様に,引用例1に記載された発明であり,あるいは,引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1及び請求項16に係る発明は,引用例1に記載された発明であり,あるいは,引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,あるいは,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-14 
結審通知日 2015-10-20 
審決日 2015-11-04 
出願番号 特願2011-545335(P2011-545335)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐久 聖子  
特許庁審判長 小野田 誠
特許庁審判官 加藤 浩一
河口 雅英
発明の名称 高圧高温焼結による熱電性能指数(ZT)の影響  
代理人 胡田 尚則  
代理人 青木 篤  
代理人 関根 宣夫  
代理人 古賀 哲次  
代理人 出野 知  
代理人 木村 健治  
代理人 石田 敬  

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